説明

RFID用磁性部材及びRFIDデバイス

【課題】 基材上に物理蒸着法にて磁性膜を成膜する構造に係り、特に、従来に比べて、通信感度を効果的に向上させることができるRFID用磁性部材及びRFIDデバイスを提供することを目的としている。
【解決手段】 従来では基材上に磁性膜を単層で成膜したが、本実施形態では、磁性膜7,8を複数層に絶縁膜6bを介して分断して物理蒸着法にて積層した。各磁性膜7,8の膜厚は、0.5μm以上で3μm以下であることが好ましい。また、前記磁性膜の積層数は、2〜8の範囲内にでき、特に、積層数は、2であることが好適である。磁性膜7,8は例えば、Fe−M−O膜、Fe−M−N膜、絶縁膜6a,6b,6cは例えばSiO2膜で形成できる。本実施形態のRFID用磁性部材4を用いることで、従来に比べて、RFIDデバイスの通信感度を効果的に向上させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、RFIDタグと金属部材間に挿入されるRFID用磁性部材に関する。
【背景技術】
【0002】
RFID(Radio Frequency ID)タグの需要は、非接触ICカードの普及や携帯電話等への搭載により拡大している。
【0003】
前記RFIDタグは、情報を記録するICチップと、金属製のアンテナを備え、リーダライタとの間で無線通信を可能としている。
【0004】
しかしながら前記RFIDタグの近傍に金属部材がある場合、前記リーダライタからの磁界により前記金属に渦電流が生じ、前記渦電流による反磁界が、無線通信に必要な磁界をキャンセルしてしまう問題があった。
【特許文献1】特開2006−81140号公報
【特許文献2】特開2006−191041号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記した問題を解決すべく、磁性部材を、前記金属部材と、前記RFIDタグとの間に挿入すると、磁性部材が前記リーダライタからの磁束をRFIDタグ側に引き寄せて、リーダライタのアンテナとRFIDタグのアンテナ間に磁束を貫通させることができ、前記RFIDタグのアンテナにて受信した信号出力の減衰量を小さくできRFID特性の向上を図ることができる。
【0006】
しかしながら、例えば、磁性粉末とバインダー樹脂からなるRFID用の磁性シートやフェライト材では、シート厚が数百μmと非常に厚くなり、このため、RFIDタグを搭載した通信機器の薄型化に伴い、機器内にて前記磁性シートやフェライト材に対する設置空間を確保できない場合があった。
【0007】
また、基材上に高抵抗軟磁性膜を物理蒸着法により成膜したRFID用磁性部材では、上記した磁性シートやフェライト材よりも磁性膜の薄膜化を実現できるが、前記磁性シートやフェライト材に比べて通信感度が同程度以下になりやすい等、通信感度を効果的に向上させることができなかった。
【0008】
また特許文献2には、多層構造を有する磁性膜にて渦電流損失を低減させる発明が開示されている。
【0009】
しかしながら特許文献2に記載された発明では、RFID用として使用されるものでなく上記したRFID用磁性部材における従来課題を解決するものではない。また特許文献2に記載された発明では磁性膜の具体的な組成等が不明であり、また磁性膜の膜厚も最大で数百μmと非常に厚い膜厚となっている。
【0010】
そこで本発明は上記従来の課題を解決するためのものであり、基材上に物理蒸着法にて磁性膜を成膜する構造に係り、特に、従来に比べて、通信感度を効果的に向上させることができるRFID用磁性部材及びRFIDデバイスを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明におけるRFID用磁性部材は、基材上に、積層された磁性膜と、各磁性膜間に介在する絶縁膜とを有して構成され、各磁性膜は、主成分の元素T(元素TはFeまたはCoまたはその混合物を表す)と、元素M(元素Mは、Hf、Ti、Zr、V、Nb、Ta、Mo、W、Al、Mg、Zn、Ca、Ce、Yのうち少なくともいずれか一種を表す)と、元素X(OまたはNのうち少なくともいずれか1種を表す)とを有し、膜構造が、元素Mと元素Xの化合物を含むアモルファス相と、前記アモルファス相中に点在する元素Tを主体とした微結晶相とを有してなることを特徴とするものである。
【0012】
そして、本発明におけるRFIDデバイスは、RFIDタグと金属部材間に本発明のRFID用磁性部材が介在してなることを特徴とするものである。
【0013】
本発明によれば、従来のように、磁性膜の単層構造をRFID用磁性部材としてRFIDタグと金属部材間に介在させた場合に比べて、通信感度を効果的に向上させることができる。
【0014】
本発明では、各磁性膜の膜厚は、0.5μm以上で3.0μm以下であることが好ましい。このように膜厚の薄い磁性膜と絶縁膜とを積層する構成としたことで、通信感度を効果的に向上させることができるが、各磁性膜の膜厚を薄くしすぎても、十分な通信感度の向上を図ることができない。そのため、各磁性膜の膜厚の下限値を0.5μmと設定した。
【0015】
本発明のように磁性膜を複数層に分断し、そして上記した各磁性膜の膜厚に規制することで、例えば、磁性膜の総厚を従来の磁性膜の単層構造と同等にして対比すると、従来の磁性膜の単層構造に比べて、効果的に、通信感度を向上させることができ、また、前記総厚を従来の磁性膜の単層構造より薄くしても、従来と同等以上の通信感度が得られるように調整できる。
【0016】
また本発明では、各磁性膜の膜厚の合計膜厚(総厚)は、1μm以上で12μm以下の範囲内であることが好ましい。
【0017】
本発明では、前記磁性膜は,Fe−M−Nにて形成されることが好ましい。このように磁性膜をFe−M−Nとすることで、各磁性膜の膜厚及び複数の磁性膜の総厚をより薄く形成しても、従来と同等以上の通信感度を得ることが可能である。
【0018】
本発明では、Nの組成比は、13at%以上で18at%以下であることが好ましい。さらに具体的には、13at%以上で16at%以下の範囲内であることが好ましい。かかる場合、Fe−M−NをRFコンベンショナルスパッタ法で形成することが好適である。これにより、複素比透磁率の実数部μ´(13.56MHz)を約2000以上にできる。あるいは、Nの組成比は、15at%以上で18at%以下の範囲内であることが好ましい。かかる場合、Fe−M−NをDC対向ターゲットスパッタ法で形成することが好適である。これにより、複素比透磁率の実数部μ´(13.56MHz)を約1400以上にできる。
【0019】
本発明では、Fe−M−Nからなる各磁性膜の膜厚を、0.5μm以上で1.2μm以下に薄く形成できる。後述する実験によれば、各磁性膜の膜厚を1μm以下にし、複数の磁性膜の総厚を薄くしても、高い通信出力が得られ、効果的に通信距離を延ばすことができるとわかった。
【0020】
あるいは本発明では、前記磁性膜は、Fe−M−Oにて形成されることが好ましい。かかる場合、各磁性膜の膜厚は、0.7μm以上で2.8μm以下であることが好ましい。
【0021】
また本発明では、前記磁性膜の積層数は、2〜8の範囲内であることが好ましい。特に、前記磁性膜の積層数は、2であることがより好ましい。これにより、磁性膜の総厚を薄く且つ、効果的に通信感度を向上させることができる。
【0022】
また本発明では、前記絶縁膜は、SiO2膜であることが好ましい。
また本発明では、前記磁性膜を前記基材に直接、あるいは絶縁膜を介して形成することが可能である。すなわち基材/磁性膜/絶縁膜/磁性膜・・・、基材/絶縁膜/磁性膜/絶縁膜/磁性膜・・・にて形成できる。
【0023】
また本発明では、前記基材は、可撓性の樹脂シートであり、前記磁性膜の膜構造は、熱処理することなく形成されたものであることが好ましい。これにより、樹脂シートを熱に曝すことがなくなり、寸法精度に優れた磁性部材を形成できるとともに、樹脂シートの材質の選択性を広げることができる。
【0024】
また本発明では、前記基材は、金属で形成されていてもよい。すなわち金属/絶縁膜/磁性膜/絶縁膜/磁性膜・・・、金属/磁性膜/絶縁膜/磁性膜・・・とすることが可能である。
【0025】
そして本発明におけるRFIDデバイスでは、RFIDタグと金属部材間に、磁性膜が前記金属部材を基材として形成されている構成にすることも可能である。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、従来に比べて、通信感度を効果的に向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】RFIDデバイス及びリーダライタの模式図、
【図2】本発明の実施形態の磁性部材の部分断面図、
【図3】Fe−M−O膜の膜構造の模式図、
【図4】図2と異なる本発明の実施形態の磁性部材の部分断面図、
【図5】実験に使用した各磁性部材の磁性膜の膜厚(磁性膜が複数層ある場合は総厚)と、13.56MHzにおけるRFIDデバイスの信号強度との関係を示すグラフ、
【図6】FeAlN(RFコンベンショナルスパッタ法で成膜)の積層膜を用いた実施例1、及び比較例1〜5における周波数と信号出力との関係を示すグラフ、
【図7】実施例1の磁性部材における周波数と、複素比透磁率の実数部μ´及び虚数部μ″との関係を示すグラフ、
【図8】FeAlN(DC対向ターゲットスパッタ法で成膜)の積層膜を用いた実施例2、及び比較例1、2における周波数と信号出力との関係を示すグラフ、
【図9】実施例2の磁性部材における周波数と、複素比透磁率の実数部μ´及び虚数部μ″との関係を示すグラフ、
【図10】各磁性膜の膜厚と最大通信距離との関係を示すグラフ。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
図1は、RFIDデバイス及びリーダライタの模式図、図2は本発明の実施形態のRFID用磁性部材の部分断面図(膜厚方向に沿って切断した際の部分断面図)、図3は本実施形態の磁性膜の膜構造の模式図である。
【0029】
図1に示すようにRFID(Radio Frequency ID)デバイス1は、アンテナ及びICチップを備えるRFIDタグ2と、金属部材3と、前記RFIDタグ2と前記金属部材3との間に介在するRFID用磁性部材4とを有して構成される。RFIDは、13.56MHzでの電磁誘導を利用した通信システムとして知られている。
【0030】
前記RFIDタグ2は、基板上に前記アンテナ及びICチップが形成された形態である。
【0031】
前記金属部材3は例えば筐体の一部を成しており、Al、Ti、Cr等で形成される。前記金属部材3の厚さは、0.05〜0.5mm程度である。
【0032】
図1に示すように、RFID用磁性部材4をRFIDタグ2と金属部材3との間に挿入することで、リーダライタ11からの磁束BがRFID用磁性部材4内を通り、RFIDデバイス1とリーダライタ11との間で還流磁束が形成される。この結果、RFIDタグ2のアンテナにて受信した信号出力の減衰量を小さくでき、13.56MHzでの通信感度の向上を効果的に図ることができる。
【0033】
前記RFIDタグ2と前記金属部材3との間に挿入されるRFID用磁性部材4は、図2に示すように基材5上に絶縁膜6a,6b,6cと磁性膜7,8が交互に積層された形態である。磁性膜7,8及び絶縁膜6a,6b,6cは、物理蒸着法により成膜されたものであることが好適である。
【0034】
磁性膜7,8は、T−M−X(ただし、TはFeまたはCoまたはその混合物を表し、元素Mは、Hf、Ti、Zr、V、Nb、Ta、Mo、W、Al、Mg、Zn、Ca、Ce、Yのうち少なくともいずれか一種を表し、元素Xは、OまたはNのうち少なくともいずれか1種を表す)から成る。
【0035】
磁性膜7,8は、基材5上の全面に成膜される形態のほかに、部分的に、例えば、基材5の縁部を残して、基材5の中央部分のみに形成されてもよい。ただし、図1のようにRFID用磁性部材4とRFIDタグ2とを重ねたときに、磁性膜7,8がRFIDタグ2の全面と完全に対向する程度の大きさで形成されることが好適である。
【0036】
磁性膜7,8は、成膜中、あるいは成膜後に熱処理を施すことなく形成されたものであり、このように非熱処理においても、図3に示すように、元素Mと元素Xの化合物を含むアモルファス相9と、前記アモルファス相9中に点在する元素Tを主体とした微結晶相10とを有する混相構造で形成されている。微結晶相10の平均粒径を30nm以下にできる。
【0037】
本実施形態の磁性膜7,8は、高抵抗軟磁性膜であり、軟磁気特性に優れる。例えば、複素比透磁率の実数部μ´(13.56MHz)を200以上、好ましくは300以上、好ましくは800以上、より好ましくは1400以上、更に好ましくは2000以上にでき、また比抵抗ρを100(μΩ・cm)以上、好ましくは150(μΩ・cm)以上、より好ましくは200(μΩ・cm)以上、更に好ましくは300(μΩ・cm)以上に設定できる。
【0038】
本実施形態の磁性膜7,8は、Fe−M−Nで形成されることが好ましく、そのときのNの組成比は13at%以上で18at%以下であると良い。より具体的には、Nの組成比は、13at%以上で16at%以下の範囲内であることが好ましい。また残りのFeとMの組成比(at%)は、[M/(Fe+M)]×100(%)が16〜20%の範囲内となるように調整することが好適である。かかる場合、Fe−M−NをRFコンベンショナルスパッタ法で形成することが好適である。これにより、複素比透磁率の実数部μ´(13.56MHz)を約2000以上にできる。
【0039】
あるいは、Nの組成比は、15at%以上で18at%以下の範囲内であることが好ましい。また残りのFeとMの組成比(at%)は、[M/(Fe+M)]×100(%)が17〜19%の範囲内となるように調整することが好適である。かかる場合、Fe−M−NをDC対向ターゲットスパッタ法で形成することが好適である。これにより、複素比透磁率の実数部μ´(13.56MHz)を約1400以上にできる。
【0040】
または、本実施形態の磁性膜7,8は、組成式がTabcで示され、元素TにはFeを、元素XにはOを選択することが可能である。このとき、元素MがZrで、Zrの組成比bが、7.95〜8.36at%の範囲内、Oの組成比cが、8.11〜9.27at%の範囲内であることが好適である。そして、組成比a+b+cの合計が100at%である。
【0041】
あるいは、本実施形態の磁性膜7,8は、組成式がTabcで示され、元素TがFeで、元素MがAlで、元素XがOであり、Alの組成比bが、9.79〜21.38at%の範囲内、Oの組成比cが、6.99〜16.75at%の範囲内であることが好適である。また組成比a+b+cの合計が100at%である。
【0042】
Fe−M−Oからなる磁性膜では、Fe−M−Nからなる磁性膜よりも複素比透磁率の実数部μ´(13.56MHz)が小さくなりやすいものの、上記のように組成比の調整により、約800以上、好ましくは約1000以上の複素比透磁率の実数部μ´(13.56MHz)を得ることが可能である。
【0043】
磁性膜7,8における上記の膜構造は、ナノグラニュラー合金とは異なる。ナノグラニュラーは、強磁性微粒子と強磁性微粒子間に絶縁物等の粒界物質が介在する構成である。一方、磁性膜7,8におけるアモルファス相9は、微結晶相10間の粒界に限らず、その周囲を囲むように存在する。上記したように磁性膜7,8は、アモルファス相9中に微結晶相10が点在した混相構造となっている。
【0044】
磁性膜7,8中に含まれるアモルファス相9は体積比率で20〜80%程度であることが好適である。
【0045】
磁性膜7,8と交互に積層される絶縁膜6a,6b,6cは、磁性膜7,8間を電気的に絶縁する膜である。本実施形態では、少なくとも磁性膜7,8の間に介在する絶縁膜6bを有することが必要である。また図2に示すように、各磁性膜7,8の上下に絶縁膜を備えることが好ましい。図2に示す最下層の絶縁膜6aは下地膜として作用し、最上層の絶縁膜6cは環境変化等の外的要因に対する保護膜として作用している。
【0046】
あるいは図4に示すように磁性膜7が、基材5上に直接成膜されたものであってもよい。かかる場合、絶縁層の数を減らすことができ、RFID磁性部材4全体の膜厚を薄くできるとともに、生産コストを低減できる。
【0047】
絶縁膜6a,6b,6cには、酸化絶縁膜、窒化絶縁膜、炭化絶縁膜等を提示できるが、酸化絶縁膜であることが好ましい。また、絶縁膜6a,6b,6cにはSiO2膜、Al23膜、Fe23膜、Ta23膜、TiO2膜、Mo23膜のうち1種以上を選択できる。また、絶縁膜6a,6b,6cは、磁性膜7,8と同じT−M−O膜であるがOの組成比が高く(具体的には30at%以上)絶縁性のT−M−O膜とすることも出来る。この場合、絶縁膜6a,6b,6cの成膜と、磁性膜7,8の成膜に同じターゲットを使用できるメリットがある。このT−M−O膜は全て酸化物の結晶相からなるか、または、アモルファス相と酸化物の結晶相からなる非磁性膜であり、磁性膜5、7、8の結晶構造と異なるものである。
【0048】
本実施形態では図2に示すように、各磁性膜7,8の膜厚がT1である。ここで各磁性膜7,8を同じ膜厚あるいは異なる膜厚にすることも出来る。各磁性膜7,8の膜厚は0.5μm以上で3μm以下であることが好ましい。
【0049】
本実施形態における磁性膜7,8がFe−M−Nで形成されるとき、各磁性膜7,8の膜厚を0.5μm以上で1.2μm以下に設定することができる。このように、各磁性膜の膜厚を1.2μm以下にし、複数の磁性膜の総厚を薄くしても、高い通信出力が得られ、効果的に通信距離を延ばすことができる。
【0050】
また本実施形態における磁性膜7,8がFe−M−Oで形成されるとき、各磁性膜7,8の膜厚を0.7μm以上で2.8μm以下とすることができる。また、各磁性膜7,8の膜厚を1.5μm以上で2.8μm以下とすることがさらに好ましい。これにより、高い通信出力が得られ、効果的に通信距離を延ばすことができる。
【0051】
磁性膜7,8を複素比透磁率の実数部μ´(13.56MHz)が高いFe−M−Nで形成することで、Fe−M−Oに比べて各磁性膜7,8の膜厚及び複数の磁性膜7,8の総厚を薄くしても、高い通信出力が得られ、効果的に通信距離を延ばすことが可能になる。
【0052】
ただし、各磁性膜7,8(Fe−M−O、Fe−M−Nに係り無く)の膜厚を薄くしすぎても、十分な通信感度の向上を図ることができない。そのため、各磁性膜の膜厚の下限値を0.5μmと設定した。
【0053】
従来では基材上に磁性膜を単層で成膜したが、本実施形態では、磁性膜7,8を複数層に絶縁膜を介して分断して積層した。その際、上記したように各磁性膜7,8の膜厚T1を所定範囲内に規制することで、各磁性膜の渦電流損失の低減等の要因により、例えば、磁性膜7,8の総厚を従来の磁性膜の単層構造と同等としたときに、従来の磁性膜の単層構造に比べて、効果的に、図1のRFIDデバイス1の通信感度を向上させることができ、また、前記総厚を従来の磁性膜の単層構造より薄くしても、従来と同等以上の通信感度が得られるように調整できる。
【0054】
また本実施形態では、上記した磁性膜7,8の膜厚T1の条件と合わせて、磁性膜7,8の積層数を2〜8程度にすることができ、積層数を2〜4程度とすることが好ましく、積層数を2とすることがより好適である。本実施形態では、磁性膜を極端に細分化せず、各磁性膜7,8を上記したように、ある程度の厚みにて形成し(具体的には0.5μm以上)、且つ積層数を少なくすることで、磁性膜7,8の総厚を薄くでき、しかも効果的に通信感度を向上させることができる。
【0055】
また各磁性膜7,8の膜厚T1の総厚は、1μm以上で12μm以下であることが好ましい。また、前記総厚を、8μm以下、あるいは6μm以下にすることも出来る。更に磁性膜7,8にFe−M−Nを用いた場合には、総厚を2.4μm以下に設定することも可能になる。総厚は、各磁性膜7,8の膜厚T1と積層数から算出できる。本実施形態では、磁性膜7,8の総厚を磁性膜の単層構造の従来に比べて薄くすることができ、係る場合において、従来と同等以上の通信感度を得ることが出来る。
【0056】
各絶縁膜6a,6b,6cの膜厚は、10nm〜500nm程度とすることが好ましく、100nm以下とすることがより好ましい。
【0057】
図1に示すRFIDデバイス1では、図2、図4に示す基材5として可撓性の樹脂シートやガラス基板等を用いることができる。このとき、基材5として樹脂シートを用いると、RFID用磁性部材4を湾曲させるような場合でも適切にRFID用磁性部材4を湾曲でき、また磁性膜7,8はアモルファス相9を備えるため、磁性膜7,8を樹脂シートである基材5とともに平面状から変形させたときでも磁性膜7,8は割れ等の損傷を受けにくい。
【0058】
また磁性膜7,8に対して熱処理を施さないため、磁性膜7,8を支持する基材5の材質を特に限定しなくてもよい。すなわち基材5の材質の選択性を広げることができる。また基材5に対する熱的影響がないためRFID用磁性部材4の寸法安定性を従来よりも高精度に得ることが可能である。前記基材5には、熱可塑性樹脂を使用でき、その中でも耐熱性に優れたPEN(ポリエチレンナフタレート)、PPS(ポリフェニレンスルフィド)の使用が好適であるものの、PET(ポリエチレンテレフタレート)やアミラード(全芳香族系ポリアミド)、ポリイミド、ガラスエポキシ(FR4)等の使用も可能である。また、レジスト等の保護絶縁層を表面コーティングしたシートでも良い。
【0059】
本実施形態では、基材5の厚さを、10〜100μm程度に出来る。
また図2に示すRFID用磁性部材4を、図1の金属部材3とRFIDタグ2との間に挿入する際、RFID用磁性部材4の基材5が金属部材3側と対向するように挿入しても、前記基材5がRFIDタグ2側と対向するように挿入してどちらでもよい。なお、図1に示す、RFIDタグ2とRFID用磁性部材4との間、及び、RFID用磁性部材4と金属部材3との間には粘着層を有する。なお、RFID用磁性部材4はRFIDタグ2の表面に直接成膜しても良い。
【0060】
あるいは基材5は金属で形成されたものであってもよい。すなわち、図2の形態であれば、金属で形成された基材5/絶縁膜6a/磁性膜7/絶縁膜6b/磁性膜8/絶縁膜6cとすることができ、図4に示す形態であれば、金属で形成された基材5/磁性膜7/絶縁膜6b/磁性膜8/絶縁膜6cとすることができる。
【0061】
また基材5が図1に示す金属部材3であってもよい。すなわち、RFIDデバイス1は、金属部材3/絶縁膜6a/磁性膜7/絶縁膜6b/磁性膜8/絶縁膜6c/粘着層/RFIDタグ2とすることができ、あるいは、金属部材3/磁性膜7/絶縁膜6b/磁性膜8/絶縁膜6c/粘着層/RFIDタグ2とすることができる。これにより、より効果的に、RFIDデバイス1を薄く形成することが可能になり、また生産コストを低減できる。また、図1、図2のいずれの場合であっても積層体の最表面はSiO2等の保護膜を形成することが好ましい。
【0062】
本実施形態の磁性膜7,8及び絶縁膜6a,6b,6cは、物理蒸着法により成膜されるが、物理蒸着法としては、RFまたはDC平行平板マグネトロンスパッタ法(MT法)、DC対向ターゲットスパッタ法(FTS法)、RF対向ターゲットスパッタ法、RFコンベンショナルスパッタ法、蒸着法、反応性プラズマ蒸着法等を提示できる。
【実施例】
【0063】
(FeZrO単層構造を備える磁性部材を用いた実験)
基材上にFeZrO単層構造を成膜した従来例の磁性部材を作製した。基材にはホウケイ酸ガラス基板を用いた。ガラス基板の厚さは0.55mmであった。
【0064】
そしてホウケイ酸ガラス基板上に、FeZrO膜をスパッタ成膜した。ターゲットにはFe−Zr合金を用いた。スパッタ装置には、キヤノンアネルバ製のSPF−730 マグネトロンスパッタ装置を用いた。またスパッタ条件としてArガス流量を63sccm、Ar+5%O2ガス流量を12sccm、RF電力を600W、ガス圧を3mTorr、基板間接冷却なしとした。
また実験で使用したFeZrO膜は、Fe83.58at%Zr8.31at%8.11at%であった。
【0065】
上記により作製された磁性部材を、受信アンテナと金属板の間に挿入し、スペクトラムアナライザ(アンリツ(株)製、型式:MS2601B)を用いて、13.56MHzにおける受信アンテナからの受信信号の出力値を測定した(通信強度の測定)。なお送信アンテナと受信アンテナとの間の通信距離を28mmとした。また前記送信アンテナと受信アンテナを、平面の大きさが55mm×85mm、厚さが0.55mmの基板上に形成した。また、送信アンテナと受信アンテナを、最大外縁寸法を30mm×30mm、及び3ターンとした平面パターンで形成した。
【0066】
また、金属板を、平面の大きさが55mm×85mm、厚さが2mmのAlで形成した。
【0067】
実験は、FeZrO単層膜の膜厚が異なる複数の磁性部材を用いて行った。
また、磁性部材を、受信アンテナと金属板の間に介在させるとき、磁性部材の基材を金属板側に対向させて介在させた場合と、磁性部材の基材を受信アンテナ側に対向させて介在させた場合の双方について実験を行った。
【0068】
(SiO2/FeZrO・・・の積層構造を備える磁性部材の実験)
基材、FeZrOのスパッタ条件、組成比、通信強度の測定条件については上記と同じである。
【0069】
SiO2膜を、SiO2ターゲットを用いて成膜した。スパッタ装置には、キヤノンアネルバ製のSPF−730 マグネトロンスパッタ装置を用いた。またスパッタ条件としてArガス流量を75sccm、RF電力を300W、ガス圧を3mTorr、基板間接冷却なしとした。なお、各SiO2膜の膜厚を0.1μmに統一した。
【0070】
SiO2膜はFeZrO膜間の間のみならず、図2のように、基材上及び最上層のFeZrO膜の表面層にも設けた。
【0071】
実験では、FeZrO膜の膜厚を0.25μmとしたとき、FeZrO膜の積層数を、4、12とし、FeZrO膜の膜厚を0.5μmとしたとき、FeZrO膜の積層数を、6、7、8とし、FeZrO膜の膜厚を2.8μmとしたとき、FeZrO膜の積層数を、3、4とした。
【0072】
また、実験では、FeZrO膜の積層数を2とし、そのときのFeZrO膜の膜厚を、0.7μm、1μm、1.5μm、2.8μmとした。
【0073】
また、磁性部材を、受信アンテナと金属板の間に介在させるとき、磁性部材の基材を金属板側に対向させて介在させた場合と、磁性部材の基材を受信アンテナ側に対向させて介在させた場合の双方について実験を行った。
【0074】
図5に通信強度の実験結果を示す。図5での通信強度は絶対値が小さいほど通信感度が優れることを意味する。また図5には、金属板及び磁性部材を設けない構成(図5に示す「金属なし」)や、受信アンテナ/基材/金属板の構成の場合(図5に示す「基材/金属(磁性部材なし)」)についての通信強度の実験結果も合わせて掲載した。また、図5に示す「磁性膜/基材/金属 絶縁膜なし」や「基材/磁性膜/金属 絶縁膜なし」のプロットが上記の従来例における通信強度の実験結果である。
【0075】
また図5に示す横軸は、複数のFeZrO膜の間にSiO2膜を介在させた磁性部材にあっては、各FeZrO膜の総厚である。
【0076】
またFeZrO膜の積層数を2とした磁性部材の実験結果において、各FeZrO膜の膜厚をグラフ上に記載した。
【0077】
図5に示すように、複数のFeZrO膜の間にSiO2膜を介在させた磁性部材のうち、各FeZrO膜の膜厚を0.5μmとした磁性部材での通信強度は、FeZrO膜を単層構造とした従来例での通信強度ラインよりもややグラフ上方に位置し、各FeZrO膜の膜厚を0.5μm以上とすることで、従来に比べて通信感度を向上できることがわかった。
【0078】
また図5に示すように、複数のFeZrO膜の間にSiO2膜を介在させた磁性部材のうち、各FeZrO膜の膜厚を0.7μm以上とすれば、各FeZrO膜の総厚を、FeZrO膜の単層構造の膜厚と同等の場合と比較してみると、より効果的に通信感度を向上させることができるとわかった。この実験結果により、各FeZrO膜の膜厚を0.7μm以上2.8μm以下とした範囲を好ましい範囲とした。また、各FeZrO膜の膜厚を1.5μm以上2.8μm以下とした範囲をさらに好ましい範囲とした。
【0079】
また、FeZrO膜の積層数は2〜8程度とし、好ましくは2〜4であり、特に積層数を2とすることで、磁性膜の総厚を薄くできるとともに、優れた通信感度を得ることができるとわかった。
【0080】
図5に示すように、例えば2層の各磁性膜の膜厚を2.8μmとして総厚を5.6μmとしたとき、同じく単層構造の磁性膜の膜厚を5.6μmとした従来例に比べて、あるいは、単層構造の磁性膜の膜厚が5.6μmより厚い従来例に対しても、十分に通信感度を高めることができるとわかった。
【0081】
(FeAlN/SiO2/FeAlNの積層構造を備える磁性部材の実験)
実験では、SUS基板上に、FeAlN(0.9)/SiO2(0.1)/FeAlN(0.9)をRFコンベンショナルスパッタ法により成膜した。なお括弧内の数値は膜厚を示し単位はμmである。
【0082】
スパッタ装置には、キャノンアネルバ製SPF−730を使用した。また実験に使用したFeAlN膜は、Fe69.75at%Al16.04at%14.21at%であった。
【0083】
上記により作製された磁性膜が、受信アンテナ(タグ)と磁性膜を成膜する際の基材であるSUS基板(SUS304)の間に位置するように配置し、周波数と信号出力との関係について調べた。周波数及び信号出力はネットワークアナライザー(アジレント製)を用いて測定した。なお、送信アンテナと受信アンテナとの間の通信距離を15mmとした。
【0084】
また、受信アンテナ(タグ)と金属板(SUS304)の間に磁性部材を挿入しない比較例1、受信アンテナ(タグ)と金属板(SUS304)の間に、アルプス電気(株)製のRFID用磁性シート(80R50)を挿入した比較例2、受信アンテナ(タグ)と金属板(SUS304)の間に、膜厚1μmの単層のFeAlN膜を介在させた比較例3、受信アンテナ(タグ)と金属板(SUS304)の間に、膜厚2μmの単層のFeAlN膜を介在させた比較例4、受信アンテナ(タグ)と金属板(SUS304)の間に、膜厚3μmの単層のFeAlN膜を介在させた磁性部材を挿入した比較例5についても同様の実験を行った。
【0085】
その実験結果が図6に示されている。図6に示す信号出力は絶対値で大きいほど通信感度に優れていることを示している。図6に示すように、単層のFeAlN膜を用いた比較例3〜5は、FeAlN膜の膜厚を増加させるほど信号出力が増加し、共振周波数も13.56MHzに近づけることができるが比較例2に比べて信号出力(絶対値)が小さく、十分な通信距離を得ることができないとわかった。
【0086】
比較例2は、共振周波数がほぼ13.56MHzでしかも信号出力(絶対値)を大きくできる。比較例2は、本実施例に対する指標である。比較例2は、バインダー樹脂と磁性粉末を有してなる磁性膜をシート化したものであるが、膜厚が約50μm〜200μm程度となっている。本実施例は、比較例2と同等のRFID特性を有しながら膜厚をより一層薄くすることを目指したものである。
【0087】
実験で使用した実施例1は、FeAlN/SiO2/FeAlNの積層構造を備える。各FeAlN膜は膜厚が0.9μmと非常に薄く、2層のFeAlN膜を合わせても総厚が1.8μmである。比較例2に比べて非常に薄い膜厚となるが、このように磁性膜の総厚を薄く形成しても、実施例1では、比較例2とほぼ同等の信号出力(絶対値)を得ることができるとわかった。
【0088】
また、図5の実験で使用したFeZrO膜の場合、2層構造で良好な実験結果は、各FeZrO膜を2.8μmの膜厚で形成した場合であり、総厚が5.6μmであった。このように、FeAlN膜で形成した実施例1では、FeZrO膜を用いた場合よりも、磁性膜の総厚を薄くできるとともに、図6に示す比較例2とほぼ同等の信号出力(絶対値)を得ることができるとわかった。
【0089】
図6の実験で使用した実施例1の磁性部材を用いて、周波数と複素比透磁率の実数部μ´及び虚数部μ″との関係について測定した。複素比透磁率の実数部μ´及び虚数部μ″を、ネットワークアナライザー(アジレント製)を用いて測定した。その実験結果が図7に示されている。
【0090】
図7に示すように13.56MHzの周波数で複素比透磁率の実数部μ´を約2000にできることがわかった。
【0091】
次に、実験では、SUS基板上に、FeAlN(0.9)/SiO2(0.1)/FeAlN(0.9)をDC対向ターゲットスパッタ法により成膜した。なお括弧内の数値は膜厚を示し単位はμmである。
また実験に使用したFeAlN膜は、Fe67.62at%Al15.04at%17.34at%であった。
【0092】
そして図6、図7と同様の実験を行った。図8には、図6にも示した比較例1及び比較例2の実験結果を掲載した。図8に示す実施例2は、上記したFeAlN膜をDC対向ターゲットスパッタ法により形成した磁性部材を用いた実験結果である。
【0093】
図8に示すように、磁性膜の総厚が非常に薄い(総厚が1.8μm)実施例2を用いた場合、比較例2とほぼ同等の共振周波数及び信号出力(絶対値)を得ることができるとわかった。
【0094】
図9は、実施例2の磁性部材における周波数と複素比透磁率の実数部μ´及び虚数部μ″との関係を示している。図9に示すように、13.56MHzの周波数で複素比透磁率の実数部μ´を約1800にできることがわかった。
【0095】
(最大通信距離の実験)
続いて、図6の比較例1〜5、実施例1及び実施例2における最大通信距離を測定した。最大通信距離は、送信アンテナと受信アンテナ間を徐々に離していき、通信不可となった時点を「最大通信距離」と規定した。
【0096】
なお通信距離は、タカヤ株式会社製のTAKAYA−TR3を用いて測定した。またタグにはTI製のRI−I02−112B−03(55×85サイズ)を用いた。
実験結果は下記の表1に示されている。
【0097】
【表1】

【0098】
表1に示すように、実施例1,2は比較例2とほぼ同等の最大通信距離を得ることができるとわかった。
【0099】
(磁性膜の厚さと通信距離の関係に関する実験)
SUS基板上に、FeAlN(X)/SiO2(0.1)/FeAlN(X)(X=0.6、0.7、0.8、0.9、1.0、1.2μm)をRFコンベンショナルスパッタ法により成膜した。実験に使用したFeAlN膜は、Fe69.75at%Al16.04at%14.21at%であった。これら試料を表1と同様に各膜厚Xにおける最大通信距離を測定した。測定した結果を図10に示す。なお、図10には実施例2のプロットと、比較例2の最大通信距離の値のラインも併せて掲載した。
【0100】
図10に示す通り、各磁性膜の膜厚Xの値が0.6μm以上、1.2μm以下、より好ましくは0.7μm以上、1.0μm以下で最大通信距離が大きくなっていることが分かった。
【0101】
(磁性膜の膜組成と複素比透磁率の実数部μ´等との関係に関する実験)
RFマグネトロンスパッタ法にて各基材上に、FeZrO(0.2μm)磁性膜を成膜し、このとき、各基材上に成膜された各FeZrOの組成比を夫々、下記の表2に示す値で成膜した。
【0102】
次に、RFコンベンショナルスパッタ法にて各基材上に、FeAlN(0.2μm)磁性膜を成膜し、このとき、各基材上に成膜された各FeAlNの組成比を夫々、下記の表2に示す値で成膜した。
【0103】
次に、DC対向ターゲットスパッタ法にて各基材上に、FeAlN(0.2μm)磁性膜を成膜し、このとき、各基材上に成膜された各FeAlNの組成比を夫々、下記の表2に示す値で成膜した。
【0104】
なお、各磁性膜の組成比は、EDS(エネルギー分散型蛍光X線分光法)あるいはAES(オージェ電子分光法)により測定した。
【0105】
【表2】

【0106】
表2に示すように磁性膜としてFeMO膜を使用した場合、Oの組成比を8.11〜9.27at%の範囲内とすると複素比透磁率の実数部μ´(13.56MHz)を800以上、好ましくは1000以上にできることがわかった。また複素比透磁率の虚数部μ″(13.56MHz)を50〜70程度に小さくできることがわかった。また、FeとMとの組成比を、[M/(Fe+M)]×100(%)が8.8〜9.1%の範囲内となるように調整することが好適であるとわかった。
【0107】
次に、RFコンベンショナルスパッタ法にて成膜されたFeMN膜を使用した場合、Nの組成比を、13at%以上で16at%以下の範囲内とすると、複素比透磁率の実数部μ´(13.56MHz)を約2000以上にできることがわかった。また、複素比透磁率の虚数部μ″(13.56MHz)を約100〜300程度に小さくできることがわかった。また残りのFeとMの組成比(at%)を、[M/(Fe+M)]×100(%)が16〜20%の範囲内となるように調整することが好適であるとわかった。
【0108】
次に、DC対向ターゲットスパッタ法にて成膜されたFeMN膜を使用した場合、Nの組成比を、15at%以上で18at%以下の範囲内とすると、複素比透磁率の実数部μ´(13.56MHz)を約1400以上にできることがわかった。また、複素比透磁率の虚数部μ″(13.56MHz)を約100〜200程度に小さくできることがわかった。また残りのFeとMの組成比(at%)を、[M/(Fe+M)]×100(%)が、17〜19%の範囲内となるように調整することが好ましいとわかった。またNの組成比を、15at%〜17.4at%程度とすると、複素比透磁率の実数部μ´(13.56MHz)を約1700以上にできより好ましいことがわかった。
【符号の説明】
【0109】
1 RFIDデバイス
2 RFIDタグ
3 金属部材
4 RFID用磁性部材
5 基材
6a、6b、6c 絶縁膜
7、8 磁性膜
9 アモルファス相
10 微結晶相
11 リーダライタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材上に、積層された磁性膜と、各磁性膜間に介在する絶縁膜とを有して構成され、各磁性膜は、主成分の元素T(元素TはFeまたはCoまたはその混合物を表す)と、元素M(元素Mは、Hf、Ti、Zr、V、Nb、Ta、Mo、W、Al、Mg、Zn、Ca、Ce、Yのうち少なくともいずれか一種を表す)と、元素X(OまたはNのうち少なくともいずれか1種を表す)とを有し、膜構造が、元素Mと元素Xの化合物を含むアモルファス相と、前記アモルファス相中に点在する元素Tを主体とした微結晶相とを有してなることを特徴とするRFID用磁性部材。
【請求項2】
各磁性膜の膜厚は、0.5μm以上で3μm以下である請求項2記載のRFID用磁性部材。
【請求項3】
各磁性膜の膜厚の合計膜厚は、1μm以上で12μm以下の範囲内である請求項2記載のRFID用磁性部材。
【請求項4】
前記磁性膜は,Fe−M−Nにて形成される請求項1ないし3のいずれか1項に記載のRFID用磁性部材。
【請求項5】
Nの組成比は、13at%以上で18at%以下の範囲内である請求項4記載のRFID用磁性部材。
【請求項6】
各磁性膜の膜厚は、0.5μm以上で1.2μm以下である請求項4又は5のいずれか1項に記載のRFID用磁性部材。
【請求項7】
前記磁性膜は、Fe−M−Oにて形成される請求項1ないし3のいずれか1項に記載のRFID用磁性部材。
【請求項8】
各磁性膜の膜厚は、0.7μm以上で2.8μm以下である請求項7記載のRFID用磁性部材。
【請求項9】
前記磁性膜の積層数は、2〜8の範囲内である請求項2、3、6又は8のいずれか1項に記載のRFID用磁性部材。
【請求項10】
前記磁性膜の積層数は、2である請求項9記載のRFID用磁性部材。
【請求項11】
前記絶縁膜は、SiO2膜である請求項1ないし10のいずれか1項に記載のRFID用磁性部材。
【請求項12】
前記磁性膜が前記基材に直接、あるいは絶縁膜を介して形成されている請求項1ないし11のいずれか1項に記載のRFID用磁性部材。
【請求項13】
前記基材は、可撓性の樹脂シートであり、前記磁性膜は、熱処理することなく形成されたものである請求項1ないし12のいずれか1項に記載のRFID用磁性部材。
【請求項14】
前記基材は、金属で形成されている請求項1ないし13のいずれか1項に記載のRFID用磁性部材。
【請求項15】
RFIDタグと金属部材間に請求項1ないし14のいずれか1項に記載されたRFID用磁性部材が介在してなることを特徴とするRFIDデバイス。
【請求項16】
RFIDタグと金属部材間に請求項14に記載の磁性膜が前記金属部材を基材として形成されていることを特徴とするRFIDデバイス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−283333(P2010−283333A)
【公開日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−56368(P2010−56368)
【出願日】平成22年3月12日(2010.3.12)
【出願人】(000010098)アルプス電気株式会社 (4,263)
【Fターム(参考)】