説明

WDM光伝送システムおよび波長分散補償方法

【課題】自装置内で分散補償制御に不具合が発生したときでも、運用中の回線サービスに影響を与えることのないWDM光伝送システムおよび波長分散補償方法を提供する。
【解決手段】WDMネットワークを介して接続される2つの光伝送装置の間で互いの分散補償制御情報を送受信して共有しておき、自装置内で分散補償制御に不具合が発生した場合に、他の光伝送装置内のCPUにより分散補償制御プログラムを実行して分散補償量の制御値を演算し、該他の光伝送装置から伝達される前記制御値に従って、自装置内の可変分散補償器を最適化する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、波長分割多重(Wavelength Division Multiplexing:WDM)方式を用いた光伝送システムにおける波長分散補償技術に関する。
【背景技術】
【0002】
通信容量の大容量化に伴い普及が進められている毎秒10ギガビット以上の高密度WDM光伝送システムでは、光信号の波長分散補償が不十分な場合、信号波形の劣化が発生するため、該光信号を正確に受信することが困難になる。波長分散とは、複数の波長帯域の光信号を一本の光ファイバで長距離伝送する場合に、光ファイバの光伝搬特性や形状等に依存して光信号のパルス幅が広がる現象である。この波長分散による信号波形の劣化を低減させるために、WDM光伝送装置の受信側では、WDM光の全ての波長帯域についての正確な波長分散補償が要求される。
【0003】
従来の毎秒10ギガビット以上のWDM光伝送システムでは、例えば、分散補償ファイバ(Dispersion Compensating Fiber:DCF)を用いて波長分散補償が行われる。DCFは、通常、固定の波長分散値を有する分散補償デバイスとして使用される。しかし、光信号の波長分散は、伝送路に用いられている光ファイバの種類や長さ、温度等の環境変化に応じて変動する。このため、近年では、波長分散値を精緻に調整できる可変分散補償器を光伝送装置に搭載し、環境変化に応じて可変分散補償器における分散補償量を制御する方式が、波長分散補償の主流となっている。
【0004】
例えば、特許文献1には、送信側装置との往復伝播時間を計測して基準分散補償値を求めておき、該基準分散補償値を用いて可変分散補償器を制御することにより、波長分散による波形劣化だけでなく、光ファイバの撓み等、波長分散以外の外的要因による波形劣化の影響を少なくする技術が開示されている。また、特許文献2には、現状の波長分散の補償状態に関する情報をメモリに一時的に蓄積し、該メモリから出力される以前の情報と現在の情報とを比較した結果に応じて、分散補償装置の分散量を制御する技術が開示されている。さらに、特許文献3には、受信側で観測されるビット誤り訂正数が最小になるように可変分散補償器の分散量を最適化する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−141683号公報
【特許文献2】特開2008−236480号公報
【特許文献3】特開2007−259281号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、高い回線品質が求められるWDM光伝送システムに対しては、運用サービスのバージョンアップ等により、光伝送装置内の可変分散補償器を含む各種ハードウェアを制御するファームウェアをアップグレードするような場合にも、回線サービスに影響を与えない無瞬断によるソフトウェアアップグレード(以下、「SWUG」と略記する)の実現が要求される。また、中央処理装置(Central Processing Unit:CPU)の高負荷状態若しくは故障等により、ファームウェアに従った制御が正常に行われなくなった場合でも、回線サービスに影響を与えないことが要求される。しかしながら、前述したような波長分散補償に関する従来技術については、上記のようなSWUGやCPUの異常に対応した要求に応えることが困難という課題がある。
【0007】
上記の課題について具体的に説明すると、例えば、可変分散補償器の初期設定完了後の運用中にSWUGが実施されるような場合、従来の分散補償制御アルゴリズムに従ってCPUが管理している分散補償量の設定値は、通常、該CPUの管理下にある揮発性メモリに保持される。しかし、この揮発性メモリの保持内容は、SWUGにおいてファームウェアが再起動する際に消去される。再起動後には、分散補償制御アルゴリズムに従った処理が最初から実行されるため、分散補償量の設定値が初期化されることになり、運用中の回線サービスに影響を与えてしまう。
【0008】
また、SWUGの実施中においては、分散補償制御アルゴリズムに従った処理を実行することができない。このため、光ファイバの曲折や回線障害等により波長分散の発生状態が変化した場合に、該変化に応じて分散補償量を最適化することができず、回線サービスに影響を与えてしまうことになる。さらに、CPUの高負荷状態若しくは故障等により、分散補償制御を正常に行うことが困難になった場合にも、可変分散補償器に対して適切な波長分散値を設定することができず、回線サービスに影響を与えてしまう。
【0009】
本発明は上記の点に着目してなされたもので、自装置内で分散補償制御に不具合が発生したときでも、運用中の回線サービスに影響を与えることのないWDM光伝送システムおよび波長分散補償方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
発明の一観点によれば、WDMネットワークを介して互いに接続された複数の光伝送装置を含むWDM光伝送システムが提供される。このWDM光伝送システムの一態様において、前記複数の光伝送装置は、それぞれ、可変の波長分散値を有し、前記WDMネットワークを伝送された光信号の波長分散を補償する可変分散補償器と、前記可変分散補償器で分散補償された光信号の受信特性を検出する検出回路と、前記検出回路で検出された受信特性に応じて、自装置内の前記可変分散補償器における分散補償量を制御するための第1分散補償制御プログラムを記憶する第1メモリと、前記第1分散補償制御プログラムを実行可能なプロセッサと、自装置内の前記可変分散補償器における分散補償量の設定値および該設定値に対応した前記検出回路の検出結果を示す制御情報を含む状態通知フレームを生成し、該状態通知フレームを他の光伝送装置に伝達する状態通知フレーム伝達回路と、前記他の光伝送装置から伝達される前記状態通知フレームに含まれる制御情報を記憶する第2メモリと、前記第2メモリに記憶された制御情報を用いて、前記他の光伝送装置内の前記可変分散補償器における分散補償量の制御値を演算するための第2分散補償制御プログラムを記憶する第3メモリと、前記第2分散補償制御プログラムに従って演算される分散補償量の制御値を含む補償量制御フレームを生成し、該補償量制御フレームを他の光伝送装置に伝達する補償量制御フレーム伝達回路と、を備える。さらに、前記プロセッサは、前記他の光伝送装置内における分散補償制御に不具合が発生しているときに、前記第2分散補償制御プログラムを実行すると共に、自装置内における分散補償制御に不具合が発生しているときに、前記他の光伝送装置から伝達される前記補償量制御フレームが示す制御値に従って、自装置内の前記可変分散補償器における分散補償量を制御する。
【0011】
また、発明の別の一観点によれば、WDMネットワークを介して互いに接続された第1光伝送装置および第2光伝送装置を含むWDM光伝送システムにおける波長分散補償方法が提供される。この波長分散補償方法の一態様において、(A)前記第1光伝送装置は、可変の波長分散値を有する可変分散補償器を用いて、前記WDMネットワークを伝送された光信号の波長分散を補償し、該分散補償された光信号の受信特性を検出し、該検出された受信特性に応じて、自装置内の前記可変分散補償器における分散補償量を制御するための第1分散補償制御プログラムをプロセッサにより実行した後、自装置内の前記可変分散補償器における分散補償量の設定値および該設定値に対応した前記受信特性を示す制御情報を含む状態通知フレームを生成し、該状態通知フレームを前記第2光伝送装置に伝達する。(B)前記第2光伝送装置は、前記第1光伝送装置から伝達される前記状態通知フレームに含まれる制御情報をメモリに記憶すると共に、前記第1光伝送装置における分散補償制御に不具合が発生しているときに、前記メモリに記憶された制御情報を用いて、前記第1光伝送装置内の前記可変分散補償器における分散補償量の制御値を演算するための第2分散補償制御プログラムをプロセッサにより実行した後、該第2分散補償制御プログラムに従って演算される分散補償量の制御値を含む補償量制御フレームを生成し、該補償量制御フレームを前記第1光伝送装置に伝達する。(C)前記第1光伝送装置は、自装置内における分散補償制御に不具合が発生しているときに、前記第2光伝送装置から伝達される前記補償量制御フレームが示す制御値に従って、自装置内の前記可変分散補償器における分散補償量を制御する。
【発明の効果】
【0012】
上述の観点によれば、自装置内で分散補償制御に不具合が発生したときでも、運用中の回線サービスに影響を与えることのないWDM光伝送システムおよび波長分散補償方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】WDM光伝送システムの一実施形態における全体構成を示すブロック図である。
【図2】上記実施形態における光伝送装置の具体的な構成例を示すブロック図である。
【図3】上記実施形態における状態通知フレームおよび補償量制御フレームを説明する図である。
【図4】上記実施形態における初期設定時の分散補償制御アルゴリズムの一例を示すフローチャートである。
【図5】初期設定時にメモリに記憶されるFEC値と分散補償量の設定値との関係を示す図である。
【図6】上記実施形態における運用中の分散補償制御アルゴリズムの一例を示すフローチャートである。
【図7】上記実施形態におけるSWUG中の動作を説明するための概念図である。
【図8】上記実施形態におけるSWUG中の各光伝送装置での処理の流れを示すフローチャートである。
【図9】上記実施形態に関連した他のネットワーク構成の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態について添付図面を参照しながら詳細に説明する。
図1は、WDM光伝送システムの一実施形態における全体構成を示すブロック図である。このWDM光伝送システムは、例えば、WDM光が互いに異なる方向に伝送される一対のWDM伝送路4,4’により対向して接続された1組のWDM装置A,Bを備える。各WDM伝送路4,4’上には、伝送されるWDM光を増幅する光中継装置5,5’がそれぞれ配置されている。ただし、光中継装置5,5’は、WDM伝送路4,4’の伝送特性や距離等に応じて適宜に設けられ、省略することも可能である。
【0015】
各WDM装置A,Bは、互いに異なる波長に対応した複数の光伝送装置1、光合波器2および光分波器3をそれぞれ具備する。また、各光伝送装置1は、送信ユニット10および受信ユニット30をそれぞれ含む。
【0016】
送信ユニット10は、クライアント(CL)側から受けた光信号を、WDMネットワーク(NW)側に送信可能なフレーム構造に対応させてマッピングして生成した光信号を光合波器2に出力する。光合波器2は、各光伝送装置1の送信ユニット10から出力される各波長の光信号を合波してWDM伝送路4(または4’)に送信する。光分波器3は、WDM伝送路4’(または4)を伝送されてきたWDM光を各波長の光信号に分波して各光伝送装置1の受信ユニット30に与える。受信ユニット30は、光分波器3からの光信号の波長分散補償を行った後、該光信号をデマッピングして生成した光信号をクライアント側に送る。
【0017】
図2は、上記光伝送装置1の具体的な構成例を示すブロック図である。
図2において、光伝送装置1は、クライアント側(図2中の右下側)から送られてくる光信号が与えられる光入力ポートINCLにO/E変換器11が接続されている。O/E変換器11は、クライアント側からの光信号を電気信号に変換し、該電気信号をフレーム変換回路12に出力する。
【0018】
フレーム変換回路12は、O/E変換器11から出力される電気信号を、OTN(Optical Transport Network)等のフレーム構造に対応させてマッピング処理してフレーム化した後、該フレーム信号にFEC(Forward Error Correction)符号を付加する。このフレーム変換回路12で処理された電気信号は、後述するフレーム挿入回路54を介してE/O変換器13に送られる。
【0019】
E/O変換器13は、フレーム挿入回路54を通った電気信号を狭帯域波長の光信号に変換し、該光信号を光ポストアンプ14に出力する。光ポストアンプ14は、E/O変換器13からの光信号を所要パワーに増幅し、該増幅光をWDMネットワーク側(図2中の左下側)の光出力ポートOUTNEに出力する。光出力ポートOUTNEには、図1に示した光合波器2が接続されている。
【0020】
また、光伝送装置1は、WDMネットワーク側の光入力ポートINNEに光プリアンプ31が接続されている。光入力ポートINNEには、WDMネットワーク側から送られてくるWDM光を光分波器3(図1)で分波して得た単一波長の光信号が与えられる。光プリアンプ31は、光入力ポートINNEからの光信号を所要パワーに増幅し、該増幅光を可変分散補償器32に出力する。
【0021】
可変分散補償器32は、波長分散値を所要の範囲に亘って変化させることが可能であり、該波長分散値が駆動回路33から出力される駆動信号に従って設定される。この可変分散補償器32は、光プリアンプ31から出力される光信号の波長分散補償を行い、該分散補償後の光信号をO/E変換器34に出力する。
【0022】
O/E変換器34は、可変分散補償器32からの光信号を電気信号に変換し、該電気信号をFEC回路35に出力する。FEC回路35は、O/E変換器34からの出力信号のビット誤りを訂正する処理を行い、該訂正後の信号を後述するフレーム抽出回路55を介してフレーム変換回路36に出力する。また、FEC回路35は、ビット誤りの訂正数(以下、「FEC値」とする)を後述するCPU41および状態通知フレーム生成回路52に伝える。
【0023】
フレーム変換回路36は、FEC回路35からの出力信号をデマッピング処理してE/O変換器37に出力する。E/O変換器37は、フレーム変換回路36からの出力信号を光に変換し、該光信号を出力ポートOUTCLよりクライアント側に送る。
【0024】
さらに、光伝送装置1は、WDMネットワーク側からの光信号の受信特性、すなわちビット誤りの訂正数に応じて、可変分散補償器32における分散補償量を最適化するための制御構成として、中央処理装置(CPU)41、自装置用の第1分散補償制御プログラムを記憶するメモリ42(第1メモリ)および自装置用の制御情報を記憶するメモリ43(第4メモリ)、対向装置用の第2分散補償制御プログラムを記憶するメモリ44(第3メモリ)および対向装置用の制御情報を記憶するメモリ45(第2メモリ)、並びに、SWUG/CPU監視回路51、状態通知フレーム生成回路52、補償量制御フレーム生成回路53、フレーム挿入回路54、フレーム抽出回路55および種別判定回路56を具備する。
【0025】
CPU41は、プロセッサの一例である。CPU41は、自装置内で行われる波長分散補償を最適化するため、すなわち、同じ光伝送装置1内に搭載された可変分散補償器32における分散補償量を最適な状態に制御するために、メモリ42に記憶された第1分散補償制御プログラムを実行する。また、CPU41は、WDMネットワーク上で自装置に対向する装置においてSWUGが実施されているか、または、CPU41に異常が発生している期間に、該対向装置内で行われる波長分散補償を遠隔で最適化するために、メモリ44に記憶された第2分散補償制御プログラムを実行する。なお、CPU41は、波長分散補償を最適化する制御の他にも、自装置内の各構成要素をファームウェアに従って制御する機能を持つ。
【0026】
上記対向装置とは、図1に示したシステム構成において、例えば、自装置がWDM装置A内の一波長λに対応する光伝送装置1であるとすると、該自装置にWDMネットワークを介して接続されるWDM装置B内の波長λに対応する光伝送装置1が対向装置に該当する。また例えば、自装置がWDM装置B内の一波長λ’に対応する光伝送装置1であるとすると、該自装置にWDMネットワークを介して接続されるWDM装置A内の波長λ’に対応する光伝送装置1が対向装置に該当する。
【0027】
メモリ42に記憶された第1分散補償制御プログラムは、自装置内におけるWDMネットワーク側からの光信号の受信特性に応じて、自装置内の可変分散補償器32における分散補償量を最適化するための制御アルゴリズムを定義する。ここでは、第1分散補償制御プログラムがCPU41により実行されることで、後で詳しく説明するように、自装置内のFEC回路35からCPU41に伝えられるFEC値を用い、該FEC値が最小になるように可変分散補償器32のフィードバック制御が行われる。この分散補償制御の過程で自装置内の可変分散補償器32に設定される波長分散値と、該波長分散値に対応したFEC値とが自装置用制御情報としてメモリ43に記憶されると共に、該制御情報が状態通知フレーム生成回路52に伝えらえる。
【0028】
メモリ44に記憶された第2分散補償制御プログラムは、上記第1分散補償制御プログラムと基本的に同様な分散補償制御アルゴリズムを定義する。ただし、第2分散補償制御プログラムは、自装置内のFEC回路35で検出されるFEC値を用いる代わりに、自装置内のメモリ45に記憶された対向装置用制御情報を用いて、最適な波長分散の補償量を演算する。メモリ45の対向装置用制御情報は、対向装置においてSWUGが実施されておらず、かつ、CPU41が正常に動作している期間に、該対向装置から自装置に伝達される、対向装置での波長分散値およびFEC値を記憶させておいたものである。上記第2分散補償制御プログラムは、対向装置においてSWUGが実施されているか若しくはCPU41に異常が発生している期間に、自装置内のCPU41により実行され、該CPU41で演算される分散補償量の値が、補償量制御フレーム生成回路53に伝えられる。
【0029】
SWUG/CPU監視回路51は、自装置内のCPU41により実行されるファームウェアのアップグレード(SWUG)が実施されているか否かを監視すると共に、自装置内のCPU41に高負荷状態若しくは故障等の異常が発生しているか否かを監視し、該監視結果を状態通知フレーム生成回路52に伝える。
【0030】
状態通知フレーム生成回路52は、自装置内のFEC回路35から伝えられるFEC値と、該FEC値を用いてCPU41により演算され可変分散補償器32の駆動回路33に伝えられる分散補償量の設定値と、SWUG/CPU監視回路51から伝えられる監視結果とを用いて、自装置における波長分散補償の状態を対向装置に通知するための状態通知フレームを生成し、該状態通知フレームをフレーム挿入回路54に出力する。状態通知フレームは、例えば図3の左側に示すように、CPUの状態、分散補償量の設定値およびFEC値をそれぞれ表すデータが格納される領域を含む。CPUの状態としては、ここでは、SWUGが実施されておらず、かつ、CPU41が正常に動作している状態を表す「正常」と、SWUGが実施されている状態を表す「SWUG中」と、高負荷若しくは故障等によりCPU41に異常が発生している状態を表す「CPU異常」とが選択的に設定される。
【0031】
補償量制御フレーム生成回路53は、自装置内のCPU41が第2分散補償制御プログラムを実行することで演算される分散補償量の制御値を用いて、対向装置内の可変分散補償器32を遠隔制御するための補償量制御フレームを生成し、該補償量制御フレームをフレーム挿入回路54に出力する。補償量制御フレームは、例えば図3の右側に示すように、分散補償量の制御値を表すデータが格納される領域を含む。
【0032】
フレーム挿入回路54は、送信ユニット10側のフレーム変換回路12およびE/O変換器13の間を接続する信号線路上に配置される。このフレーム挿入回路54は、フレーム変換回路12でフレーム化された電気信号の所定領域(例えば、オーバーヘッド内の未定義領域など)に対して、状態通知フレーム生成回路52で生成される状態通知フレーム、および、補償量制御フレーム生成回路53で生成される補償量制御フレームを挿入する。
【0033】
フレーム抽出回路55は、受信ユニット30側のFEC回路35およびフレーム変換回路36の間を接続する信号線路上に配置される。このフレーム抽出回路55は、FEC回路35で処理された電気信号の所定領域に含まれる状態通知フレームおよび補償量制御フレームを抽出して種別判定回路56に出力する。
【0034】
種別判定回路56は、フレーム抽出回路55で抽出されたフレームが、状態通知フレームおよび補償量制御フレームのいずれであるかを判定する。判定の結果が状態通知フレームの場合、種別判定回路56は、該状態通知フレームを自装置内のCPU41に伝える。種別判定回路56からの状態通知フレームを受けたCPU41は、該状態通知フレームが示す対向装置のCPUの状態に応じて、第2分散補償制御プログラムを実行するか否かを判断すると共に、状態通知フレームが示す分散補償量の設定値およびFEC値を対向装置用のメモリ45に記憶させる。一方、判定の結果が補償量制御フレームの場合、種別判定回路56は、該補償量制御フレームを自装置内の駆動回路33に伝える。種別判定回路56からの補償量制御フレームを受けた駆動回路33では、該補償量制御フレームが示す分散補償量の制御値に従って、可変分散補償器32における分散補償量が設定される。
【0035】
次に、本実施形態のWDM光伝送システムにおける動作について説明する。
上記のような構成のWDM光伝送システムでは、システムを立ち上げる際に、各WDM装置A,B内の各々の光伝送装置1において、ファームウェアに従いCPU41が第1分散補償制御プログラムを実行することにより、自装置内の可変分散補償器32における分散補償量が初期設定される。
【0036】
ここで、各光伝送装置1で実行される初期設定時の分散補償制御アルゴリズムの一例を、図4に示すフローチャートを参照しながら詳しく説明する。まず、各光伝送装置1では、自装置内の可変分散補償器32における分散補償量が予め定めた初期値(例えば、−1200ps/nm)に設定されるように、CPU41が駆動回路33に指示を出す。CPU41からの指示を受けた駆動回路33では、可変分散補償器32を上記初期値で駆動するための信号が生成され、該駆動信号が可変分散補償器32に与えられる。これにより、可変分散補償器32の分散補償量が初期値に設定される(図4中のS100)。
【0037】
続いて、対向装置の送信ユニット10からWDMネットワークにテスト光が送信され、WDMネットワークを伝送されたテスト光が自装置内の光プリアンプ31で受信される。光プリアンプ31で増幅されたテスト光は可変分散補償器32に与えられ、該可変分散補償器32に設定された分散補償量の初期値に従ってテスト光の波長分散補償が行われる。そして、可変分散補償器32により分散補償されたテスト光は、O/E変換器34で電気信号に変換された後、FEC回路35でビット誤りの訂正処理が行われ、該FEC回路35で検出されるFEC値がCPU41および状態通知フレーム生成回路52に通知される。FEC値の通知を受けたCPU41は、該FEC値および現在の可変分散補償器32の設定値を自装置用制御情報としてメモリ43に記憶させる(S110)。
【0038】
続いて、CPU41は、自装置内の可変分散補償器32における波長分散量を初期値から一定分散幅(例えば、+50ps/nm)で順次変化させながら、上記S110の処理と同様にして、対向装置からのテスト光の受信信号についてのFEC値の検出とメモリ43への記憶を繰り返し行う(S120)。これにより、メモリ43には、例えば図5に示すような分散補償量の設定値に対するFEC値の関係が記憶されるようになる。
【0039】
なお、上記S120における繰り返し処理は、少なくとも、FEC値が予め定めた第1閾値TH1(例えば、2×10−6)未満となるような分散補償量の設定値が2回連続で出現し、かつ、該2回の設定値のうちの後の設定値に対応したFEC値が前の設定値に対応したFEC値よりも大きくなる、つまり、2回の設定値の間でFEC値の変化が減少から増加に転じるポイントが見つかるまで実施されるものとする。
【0040】
上記繰り返し処理が実施されている間、自装置内の状態通知フレーム生成回路52では、SWUG/CPU監視回路51におけるCPU41の監視結果、現在の可変分散補償器32における分散補償量の設定値、および、FEC回路35で検出されるFEC値を表す、状態通知フレームが逐次生成され、該状態通知フレームがフレーム挿入回路54に与えられる。フレーム挿入回路54では、自装置から対向装置に向けて送信するテスト信号の所定領域に対して、状態通知フレーム生成回路52からの状態通知フレームが挿入される。これにより、状態通知フレームを含んだテスト光が自装置からWDMネットワークを介して対向装置に送られる。状態通知フレームを含んだテスト光を受信した対向装置では、フレーム抽出回路55により状態通知フレームが抽出され、種別判定回路56により状態通知フレームが示すCPUの状態が「正常」であることが判定されると、状態通知フレームが示す分散補償量の設定値およびFEC値が対向装置用制御情報としてメモリ45に記憶される。つまり、各光伝送装置1は、自装置内の可変分散補償器32の初期設定を実施しながら当該制御情報を対向装置に通知すると共に、対向装置で実施された初期設定の制御情報を自装置内のメモリ45に記憶する(図4中のS130)。
【0041】
続いて、CPU41は、メモリ43に記憶されたFEC値と分散補償量の設定値との関係を基に、最小のFEC値が得られる分散補償量の設定値を判断する(S140)。そして、CPU41は、判断した設定値を分散補償量の最適値として自装置内の可変分散補償器32に初期設定する(S150)。これにより、自装置内の可変分散補償器32の初期設定が完了し、当該光伝送装置1の運用が開始される。
【0042】
次に、運用中の分散補償制御アルゴリズムの一例を図6に示すフローチャートを参照しながら詳しく説明する。
初期設定完了後の運用中、各光伝送装置1では、CPU41が自装置内のFEC回路35で検出される受信信号のFEC値を所定周期で監視する(図6中のS200)。
【0043】
上記FEC値の監視が行われている間、現在の可変分散補償器32における分散補償量の設定値およびそれに対応するFEC値が自装置用制御情報としてメモリ43に記憶される(S210)。
【0044】
また、状態通知フレーム生成回路52において、SWUG/CPU監視回路51でのCPU41の監視結果、現在の可変分散補償器32における分散補償量の設定値、および、FEC回路35で検出されるFEC値を表す、状態通知フレームが逐次生成され、該状態通知フレームが、フレーム挿入回路54により自装置から対向装置に向けて送る信号の所定領域に挿入される。これにより、状態通知フレームを含んだ光信号が自装置からWDMネットワークを介して対向装置に送られる(S220)。
【0045】
次に、CPU41は、監視中のFEC値が前述した第1閾値TH1よりも低い第2閾値TH2(例えば、2×10−7)を超えるか否かを判定する(S230)。FEC値が第2閾値TH2以下の場合、CPU41は、可変分散補償器32における分散補償量を現状の設定値に維持したままFEC値の監視を継続する。
【0046】
一方、FEC値が第2閾値TH2を超えた場合、CPU41は、可変分散補償器32における分散補償量を初期設定値からマイナス方向に一定分散幅(例えば、−50ps/nm)ずつ調整し、FEC値が第1閾値TH1を超えるようになる分散補償量の設定値DC1を探索する(S240)。
【0047】
続いて、CPU41は、可変分散補償器32における分散補償量を初期設定値からプラス方向に一定分散幅(例えば、+50ps/nm)ずつ調整し、FEC値が第1閾値TH1を超えるようになる分散補償量の設定値DC2を探索する(S250)。なお、上記マイナス方向およびプラス方向への各探索処理における、分散補償量の各設定値およびそれに対応したFEC値についても、上記S210,S220の処理と同様にして、自装置用制御情報としてメモリ43に記憶されると共に、状態通知フレームにより対向装置に通知される。
【0048】
そして、上記2つの分散補償量の設定値DC1,DC2が特定されると、CPU41は、各設定値DC1,DC2の中間点((DC1+DC2)/2)を求め、それを分散補償量の最適値として可変分散補償器32に設定する(S260)。運用中、各光伝送装置1において上記S200〜S260の一連の処理が繰り返し実行されることにより、WDMネットワーク側から送られてくる光信号の波長分散が温度等の環境変化により変動したとしても、該変動に応じて各光伝送装置1の受信側における分散補償量が最適化されるようになる。
【0049】
上述したような初期設定時および運用中における各光伝送装置1での分散補償制御(自装置内の可変分散補償器32における分散補償量の最適化)は、自装置内でSWUGが実施されていたり、高負荷若しくは故障等によりCPU41に異常が発生したりすると、分散補償制御アルゴリズムに従った一連の処理を自装置単独で正常に行うことが困難になる。
【0050】
そこで、本実施形態では、各光伝送装置1が、自装置内でSWUGが実施されておらず、かつ、CPU41が正常に動作しているときに、自装置における分散補償の制御情報を状態通知フレームを使用して対向装置に通知することにより、自装置および対向装置の間で互いの制御情報が共有されるようにしておく。そして、自装置がSWUG実施中またはCPU異常の状態になった場合には、その状態を状態通知フレームにより対向装置に伝えることで、正常処理が困難になった自装置内のCPU41に代えて対向装置内のCPU41により第2分散補償制御プログラムを実行する。対向装置での第2分散補償制御プログラムの実行結果は補償量制御フレームを使用して自装置に伝達され、該補償量制御フレームが示す分散補償量の制御値に従って、自装置内の可変分散補償器32における分散補償量の最適化が行われる。つまり、各光伝送装置1は、自装置でのSWUG実施中またはCPU異常時に、自装置内の可変分散補償器32が対向装置内のCPU41により遠隔制御される。
【0051】
具体的に、例えば図7の概念図に示すように、WDM装置A内のある波長λに対応する光伝送装置1Aと、WDM装置B内の上記波長λに対応する光伝送装置1Bとの間において、運用中に光伝送装置1AでSWUGが開始され、該光伝送装置1A内のCPU41によるファームウェアに従った処理が実行できなくなった場合(図7下段)を想定し、この場合の各光伝送装置1A,1Bの動作を図8のフローチャートを参照しながら詳しく説明する。ただし、光伝送装置1AにおけるSWUGの実施中、光伝送装置1BのCPU41は正常に動作するものとする。
【0052】
光伝送装置1AでSWUGが開始される前の通常運用時(図7上段)には、上述したように光伝送装置1Aにおける波長分散補償の制御情報が、状態通知フレームを使用して光伝送装置1Bに通知され、光伝送装置1B内のメモリ45に光伝送装置1Aの制御情報が記憶される。
【0053】
光伝送装置1AでSWUGが開始されると、光伝送装置1A内のSWUG/CPU監視回路51でSWUGの開始が検出されて状態通知フレーム生成回路52に伝えられる(図8中のS300)。状態通知フレーム生成回路52では、CPUの状態を示す項目を「正常」から「SWUG中」に切り替えた状態通知フレームが生成される。該状態通知フレームは、フレーム挿入回路54により光伝送装置1Bへ向けて送信する信号の所定領域に挿入される。これにより、光伝送装置1AがSWUGの実施中であることを示す状態通知フレームを含んだ光信号が光伝送装置1AからWDMネットワークを介して光伝送装置1Bに送られる(S310)。
【0054】
上記状態通知フレームを含んだ光信号を受信した光伝送装置1Bでは、フレーム抽出回路55により状態通知フレームが抽出されて種別判定回路56に出力される。種別判定回路56では、フレーム抽出回路55からの状態通知フレームが示すCPUの状態が「SWUG中」であることが判定され、該状態通知フレームがCPU41に出力される。CPU41は、種別判定回路56からの状態通知フレームを基に光伝送装置1AがSWUGの実施中であることを判断して、第2分散補償制御プログラムを実行する(S320)。
【0055】
上記第2分散補償制御プログラムでは、上述した運用中の分散補償制御アルゴリズム(図6)と基本的に同様な一連の処理が、光伝送装置1B内のFEC回路35におけるFEC値を用いる代わりに、メモリ45に記憶された光伝送装置1Aの制御情報を用いて行われ、光伝送装置1A内の可変分散補償器32における分散補償量が光伝送装置1B内のCPU41により遠隔制御される(S330)。
【0056】
上記S330の処理を具体的に説明すると、光伝送装置1B内のCPU41は、SWUGの実施中にある光伝送装置1Aからの状態通知フレームにより、光伝送装置1Aにおける現状の分散補償量の設定値およびそれに対応するFEC値が分かるので、該FEC値が第2閾値TH2を超えるか否かを判定する(図6のS230に対応)。FEC値が第2閾値TH2を超える場合には、光伝送装置1Aにおける現状の分散補償量をマイナス方向に一定分散幅ずつ調整するための制御値を演算する。この分散補償量の制御値は、補償量制御フレーム生成回路53に伝えられ、該制御値を示す補償量制御フレームが生成される。この補償量制御フレームは、フレーム挿入回路54により光伝送装置1Aへ向けて送信する信号の所定領域に挿入される。これにより、補償量制御フレームを含んだ光信号が光伝送装置1BからWDMネットワークを介して光伝送装置1Aに送られる。
【0057】
上記補償量制御フレームを含んだ光信号を受信した光伝送装置1Aでは、フレーム抽出回路55により補償量制御フレームが抽出されて種別判定回路56に出力される。種別判定回路56では、フレーム抽出回路55からの出力フレームが補償量制御フレームであることが判定され、該補償量制御フレームが示す分散補償量の制御値が駆動回路33に伝えられる。これにより、光伝送装置1A内の可変分散補償器32における分散補償量が現在の設定値からマイナス方向に調整され、該調整後の設定値に対応したFEC値がFEC回路35で検出されるようになる。光伝送装置1Aにおける調整後の分散補償量の設定値およびFEC値は、状態通知フレームにより光伝送装置1Bに伝達されて、光伝送装置1B内のメモリ45に記憶される。
【0058】
上記のような各光伝送装置1A,1Bでの処理が繰り返されることで、光伝送装置1Aにおける分散補償量のマイナス方向への探索処理(図6のS240対応)およびプラス方向への探索処理(S250に対応)が行われる。そして、光伝送装置1BのCPU41は、メモリ45に記憶された光伝送装置1Aの制御情報を用いて、FEC値が第1閾値TH1を超えるようになる2つの分散補償量の設定値DC1,DC2を特定した後、該各設定値DC1,DC2の中間点を演算し、それを光伝送装置1Aにおける分散補償量の最適値とする。
【0059】
上記のようにして光伝送装置1BのCPU41により演算された分散補償量の最適値は、補償量制御フレームにより光伝送装置1Aに伝達される。これにより、光伝送装置1A内の可変分散補償器32における分散補償量が光伝送装置1Bで演算された最適値に設定される(図8のS340)。そして、光伝送装置1A内のSWUG/CPU監視回路51でSWUGの終了が検出されるようになるまで、上述したS310〜S340の一連の処理が繰り返し行わる(S350)。SWUGの終了が検出されると、光伝送装置1BのCPU41は、第2分散補償制御プログラムの実行を終了し、第1分散補償制御プログラムを継続して実行する(S360)。
【0060】
なお、上述の図7および図8に示した具体例では、運用中に光伝送装置1AでSWUGが実施される場合の制御動作について説明したが、高負荷若しくは故障等により光伝送装置1A内のCPU41に異常が発生した場合には、状態通知フレームにおけるCPUの状態を示す項目を「SWUG中」に代えて「CPU異常」とすることにより、上述したSWUGの実施中と同様の制御動作によって、光伝送装置1A内の可変分散補償器32における分散補償量を最適化することが可能である。
【0061】
また、運用中ではなく、システム立ち上げ時における初期設定の処理中に、光伝送装置1AでSWUGが実施されたり、CPUの異常が発生したりする可能性があるが、このような場合にも、光伝送装置1B内のCPU41が、上述の図4に示した初期設定時の分散補償制御アルゴリズムと基本的に同様な一連の処理を、メモリ45に記憶された光伝送装置1Aの制御情報を用いて行うことで、光伝送装置1A内の可変分散補償器32における分散補償量を初期設定することができる。
【0062】
以上説明したように本実施形態のWDM光伝送システムによれば、WDMネットワークを介して対向接続される2つの光伝送装置1の間で互いの分散補償制御情報を共有し、自装置内でのSWUGの実施またはCPUの異常により分散補償制御に不具合が発生したときに、自装置内のCPU41に代えて対向装置内のCPU41により第2分散補償制御プログラムを実行して、自装置内の可変分散補償器32を対向装置内のCPU41により遠隔制御するようにしたことによって、WDMネットワーク側から送られてくる光信号の波長分散が温度等の環境変化により変動しても、自装置内の可変分散補償器32における分散補償量をリアルタイムで最適化することができる。これにより、自装置における分散補償制御に不具合が発生した場合でも、運用中の回線サービスに影響を与えることなく、良好な回線品質を保持してサービスを継続することができ、回線サービスの信頼性を向上させることが可能になる。また、対向する2つの光伝送装置により互いの分散補償制御を補完する構成であるため、個々の光伝送装置を二重化してCPUの異常等に対処する常套手段に比べて、構成の複雑化を回避しコストの上昇を抑えることができる。
【0063】
なお、上述した実施形態では、FEC回路で検出されるFEC値により波長分散の補償状態を判断して、可変分散補償器における分散補償量の最適化を行うようにした構成例を示したが、波長分散の補償状態を判断するための指標は、FEC値に限定されるものではなく、例えば、受信信号のQ値などを監視して波長分散の補償状態を判断するようにしてもよい。
【0064】
また、状態通知フレームおよび補償量制御フレームが、対向する2つの光伝送装置の間で双方向に送受信される光信号を利用して伝送される場合を説明したが、例えば図9に示すように、WDMネットワーク上の各光ノードに配置されるWDM装置A〜Fがネットワーク管理装置(Network Management System:NMS)により一括管理されるようなネットワーク構成の場合、各WDM装置A〜FとNMSとの間でそれぞれ送受信される管理信号を利用して、状態通知フレームおよび補償量制御フレームの伝送を行うようにしてもよい。この場合、WDMネットワーク上の任意の光ノードに配置された2つのWDM装置について、各々に搭載された波長の対応する光伝送装置の間で互いの分散補償制御を補完することが可能になるため、複雑なネットワーク構成に柔軟に対応することができる。
【0065】
以上説明した実施形態に関して、さらに以下の付記を開示する。
(付記1) WDMネットワークを介して互いに接続された複数の光伝送装置を含むWDM光伝送システムであって、
前記複数の光伝送装置は、それぞれ、
可変の波長分散値を有し、前記WDMネットワークを伝送された光信号の波長分散を補償する可変分散補償器と、
前記可変分散補償器により分散補償された光信号の受信特性を検出する検出回路と、
前記検出回路で検出された受信特性に応じて、自装置内の前記可変分散補償器における分散補償量を制御するための第1分散補償制御プログラムを記憶する第1メモリと、
前記第1分散補償制御プログラムを実行可能なプロセッサと、
自装置内の前記可変分散補償器における分散補償量の設定値および該設定値に対応した前記検出回路の検出結果を示す制御情報を含む状態通知フレームを生成し、該状態通知フレームを他の光伝送装置に伝達する状態通知フレーム伝達回路と、
前記他の光伝送装置から伝達される前記状態通知フレームに含まれる制御情報を記憶する第2メモリと、
前記第2メモリに記憶された制御情報を用いて、前記他の光伝送装置内の前記可変分散補償器における分散補償量の制御値を演算するための第2分散補償制御プログラムを記憶する第3メモリと、
前記第2分散補償制御プログラムに従って演算される分散補償量の制御値を含む補償量制御フレームを生成し、該補償量制御フレームを他の光伝送装置に伝達する補償量制御フレーム伝達回路と、を備え、
前記プロセッサは、前記他の光伝送装置内における分散補償制御に不具合が発生しているときに、前記第2分散補償制御プログラムを実行すると共に、自装置内における分散補償制御に不具合が発生しているときに、前記他の光伝送装置から伝達される前記補償量制御フレームが示す制御値に従って、自装置内の前記可変分散補償器における分散補償量を制御することを特徴とするWDM光伝送システム。
【0066】
(付記2) 付記1に記載のWDM光伝送システムであって、
前記状態通知フレームは、自装置内の前記プロセッサの動作状態を示す情報を含み、
前記プロセッサは、前記他の光伝送装置から伝達される前記状態通知フレームに基づいて、前記他の光伝送装置内における分散補償制御に不具合が発生しているか否かを判断することを特徴とするWDM光伝送システム。
【0067】
(付記3) 付記1または2に記載のWDM光伝送システムであって、
前記複数の光伝送装置は、光信号が互いに異なる方向に伝送される一対のWDM伝送路により対向して接続された1組の光伝送装置を含み、
前記状態通知フレーム伝達回路および前記補償量制御フレーム伝達回路は、自装置から前記WDM伝送路に送信する光信号を利用して、前記状態通知フレームおよび前記補償量制御フレームを、自装置に対向する他の光伝送装置に伝達することを特徴とするWDM光伝送システム。
【0068】
(付記4) 付記1または2に記載のWDM光伝送システムであって、
前記WDMネットワーク上に配置された前記各光伝送装置を一括管理するネットワーク管理装置を備え、
前記状態通知フレーム伝達回路および前記補償量制御フレーム伝達回路は、自装置から前記ネットワーク管理装置に送信する管理信号を利用して、前記状態通知フレームおよび前記補償量制御フレームを、前記ネットワーク管理装置を経由して他の光伝送装置に伝達することを特徴とするWDM光伝送システム。
【0069】
(付記5) 付記1〜4のいずれか1つに記載のWDM光伝送システムであって、
前記プロセッサは、前記他の光伝送装置内でソフトウェアアップグレードが実施されているときに、前記第2分散補償制御プログラムを実行すると共に、自装置内でソフトウェアアップグレードが実施されているときに、前記他の光伝送装置から伝達される前記補償量制御フレームが示す制御値に従って、自装置内の前記可変分散補償器における分散補償量を制御することを特徴とするWDM光伝送システム。
【0070】
(付記6) 付記1〜4のいずれか1つに記載のWDM光伝送システムであって、
前記プロセッサは、前記他の光伝送装置内における前記プロセッサに異常が発生しているときに、前記第2分散補償制御プログラムを実行すると共に、自らの動作に異常が発生しているときに、前記他の光伝送装置から伝達される前記補償量制御フレームが示す制御値に従って、自装置内の前記可変分散補償器における分散補償量を制御することを特徴とするWDM光伝送システム。
【0071】
(付記7) 付記1〜6のいずれか1つに記載のWDM光伝送システムであって、
前記検出回路は、前記可変分散補償器で分散補償された光信号についてのビット誤りの訂正数を検出することを特徴とするWDM光伝送システム。
【0072】
(付記8) 付記1〜6のいずれか1つに記載のWDM光伝送システムであって、
前記検出回路は、前記可変分散補償器で分散補償された光信号についてのQ値を検出することを特徴とするWDM光伝送システム。
【0073】
(付記9) 付記1〜8のいずれか1つに記載のWDM光伝送システムであって、
前記複数の光伝送装置は、それぞれ、自装置内の前記可変分散補償器における分散補償量の設定値および該設定値に対応した前記検出回路の検出結果を示す制御情報を記憶する第4メモリを備えることを特徴とするWDM光伝送システム。
【0074】
(付記10) WDMネットワークを介して互いに接続された第1光伝送装置および第2光伝送装置を含むWDM光伝送システムにおける波長分散補償方法であって、
前記第1光伝送装置は、可変の波長分散値を有する可変分散補償器を用いて、前記WDMネットワークを伝送された光信号の波長分散を補償し、該分散補償された光信号の受信特性を検出し、該検出された受信特性に応じて、自装置内の前記可変分散補償器における分散補償量を制御するための第1分散補償制御プログラムをプロセッサにより実行した後、自装置内の前記可変分散補償器における分散補償量の設定値および該設定値に対応した前記受信特性を示す制御情報を含む状態通知フレームを生成し、該状態通知フレームを前記第2光伝送装置に伝達し、
前記第2光伝送装置は、前記第1光伝送装置から伝達される前記状態通知フレームに含まれる制御情報をメモリに記憶すると共に、前記第1光伝送装置における分散補償制御に不具合が発生しているときに、前記メモリに記憶された制御情報を用いて、前記第1光伝送装置内の前記可変分散補償器における分散補償量の制御値を演算するための第2分散補償制御プログラムをプロセッサにより実行した後、該第2分散補償制御プログラムに従って演算される分散補償量の制御値を含む補償量制御フレームを生成し、該補償量制御フレームを前記第1光伝送装置に伝達し、
前記第1光伝送装置は、自装置内における分散補償制御に不具合が発生しているときに、前記第2光伝送装置から伝達される前記補償量制御フレームが示す制御値に従って、自装置内の前記可変分散補償器における分散補償量を制御することを特徴とする波長分散補償方法。
【0075】
(付記11) 付記10に記載の波長分散補償方法であって、
前記第1光伝送装置は、自装置内の前記プロセッサの動作状態を示す情報を含む前記状態通知フレームを前記第2光伝送装置に伝達し、
前記第2光伝送装置は、前記第1光伝送装置から伝達される前記状態通知フレームに基づいて、前記第1光伝送装置内における分散補償制御に不具合が発生しているか否かを判断することを特徴とする波長分散補償方法。
【0076】
(付記12) 付記10または11に記載の波長分散補償方法であって、
前記第1および第2光伝送装置は、光信号が互いに異なる方向に伝送される一対のWDM伝送路により対向して接続されており、
前記第1光伝送装置は、自装置から前記WDM伝送路に送信する光信号を利用して、前記状態通知フレームを前記第2光伝送装置に伝達し、
前記第2光伝送装置は、自装置から前記WDM伝送路に送信する光信号を利用して、前記補償量制御フレームを前記第1光伝送装置に伝達することを特徴とする波長分散補償方法。
【0077】
(付記13) 付記10または11に記載の波長分散補償方法であって、
前記WDM光伝送システムは、前記WDMネットワーク上に配置された複数の光伝送装置を一括管理するネットワーク管理装置を備えており、
前記第1光伝送装置は、自装置から前記ネットワーク管理装置に送信する管理信号を利用して、前記状態通知フレームを、前記ネットワーク管理装置を経由して前記第2光伝送装置に伝達し、
前記第2光伝送装置は、自装置から前記ネットワーク管理装置に送信する管理信号を利用して、前記補償量制御フレームを、前記ネットワーク管理装置を経由して前記第1光伝送装置に伝達することを特徴とする波長分散補償方法。
【符号の説明】
【0078】
1,1A,1B…光伝送装置
2…光合波器
3…光分波器
4,4’…WDM伝送路
5,5’…光中継装置
10…送信ユニット
11,34…O/E変換器
12,36…フレーム変換回路
13,37…E/O変換器
14…光ポストアンプ
30…受信ユニット
31…光プリアンプ
32…可変分散補償器
33…駆動回路
35…FEC回路
41…中央処理装置(CPU)
42〜45…メモリ
51…SWUG/CPU監視回路
52…状態通知フレーム生成回路
53…補償量制御フレーム生成回路
54…フレーム挿入回路
55…フレーム抽出回路
56…種別判定回路
A〜F…WDM装置
CL…クライアント
NW…WDMネットワーク
NMS…ネットワーク管理装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
WDMネットワークを介して互いに接続された複数の光伝送装置を含むWDM光伝送システムであって、
前記複数の光伝送装置は、それぞれ、
可変の波長分散値を有し、前記WDMネットワークを伝送された光信号の波長分散を補償する可変分散補償器と、
前記可変分散補償器により分散補償された光信号の受信特性を検出する検出回路と、
前記検出回路で検出された受信特性に応じて、自装置内の前記可変分散補償器における分散補償量を制御するための第1分散補償制御プログラムを記憶する第1メモリと、
前記第1分散補償制御プログラムを実行可能なプロセッサと、
自装置内の前記可変分散補償器における分散補償量の設定値および該設定値に対応した前記検出回路の検出結果を示す制御情報を含む状態通知フレームを生成し、該状態通知フレームを他の光伝送装置に伝達する状態通知フレーム伝達回路と、
前記他の光伝送装置から伝達される前記状態通知フレームに含まれる制御情報を記憶する第2メモリと、
前記第2メモリに記憶された制御情報を用いて、前記他の光伝送装置内の前記可変分散補償器における分散補償量の制御値を演算するための第2分散補償制御プログラムを記憶する第3メモリと、
前記第2分散補償制御プログラムに従って演算される分散補償量の制御値を含む補償量制御フレームを生成し、該補償量制御フレームを他の光伝送装置に伝達する補償量制御フレーム伝達回路と、を備え、
前記プロセッサは、前記他の光伝送装置内における分散補償制御に不具合が発生しているときに、前記第2分散補償制御プログラムを実行すると共に、自装置内における分散補償制御に不具合が発生しているときに、前記他の光伝送装置から伝達される前記補償量制御フレームが示す制御値に従って、自装置内の前記可変分散補償器における分散補償量を制御することを特徴とするWDM光伝送システム。
【請求項2】
請求項1に記載のWDM光伝送システムであって、
前記状態通知フレームは、自装置内の前記プロセッサの動作状態を示す情報を含み、
前記プロセッサは、前記他の光伝送装置から伝達される前記状態通知フレームに基づいて、前記他の光伝送装置内における分散補償制御に不具合が発生しているか否かを判断することを特徴とするWDM光伝送システム。
【請求項3】
請求項1または2に記載のWDM光伝送システムであって、
前記複数の光伝送装置は、光信号が互いに異なる方向に伝送される一対のWDM伝送路により対向して接続された1組の光伝送装置を含み、
前記状態通知フレーム伝達回路および前記補償量制御フレーム伝達回路は、自装置から前記WDM伝送路に送信する光信号を利用して、前記状態通知フレームおよび前記補償量制御フレームを、自装置に対向する他の光伝送装置に伝達することを特徴とするWDM光伝送システム。
【請求項4】
請求項1または2に記載のWDM光伝送システムであって、
前記WDMネットワーク上に配置された前記各光伝送装置を一括管理するネットワーク管理装置を備え、
前記状態通知フレーム伝達回路および前記補償量制御フレーム伝達回路は、自装置から前記ネットワーク管理装置に送信する管理信号を利用して、前記状態通知フレームおよび前記補償量制御フレームを、前記ネットワーク管理装置を経由して他の光伝送装置に伝達することを特徴とするWDM光伝送システム。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1つに記載のWDM光伝送システムであって、
前記プロセッサは、前記他の光伝送装置内でソフトウェアアップグレードが実施されているときに、前記第2分散補償制御プログラムを実行すると共に、自装置内でソフトウェアアップグレードが実施されているときに、前記他の光伝送装置から伝達される前記補償量制御フレームが示す制御値に従って、自装置内の前記可変分散補償器における分散補償量を制御することを特徴とするWDM光伝送システム。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれか1つに記載のWDM光伝送システムであって、
前記プロセッサは、前記他の光伝送装置内における前記プロセッサに異常が発生しているときに、前記第2分散補償制御プログラムを実行すると共に、自らの動作に異常が発生しているときに、前記他の光伝送装置から伝達される前記補償量制御フレームが示す制御値に従って、自装置内の前記可変分散補償器における分散補償量を制御することを特徴とするWDM光伝送システム。
【請求項7】
WDMネットワークを介して互いに接続された第1光伝送装置および第2光伝送装置を含むWDM光伝送システムにおける波長分散補償方法であって、
前記第1光伝送装置は、可変の波長分散値を有する可変分散補償器を用いて、前記WDMネットワークを伝送された光信号の波長分散を補償し、該分散補償された光信号の受信特性を検出し、該検出された受信特性に応じて、自装置内の前記可変分散補償器における分散補償量を制御するための第1分散補償制御プログラムをプロセッサにより実行した後、自装置内の前記可変分散補償器における分散補償量の設定値および該設定値に対応した前記受信特性を示す制御情報を含む状態通知フレームを生成し、該状態通知フレームを前記第2光伝送装置に伝達し、
前記第2光伝送装置は、前記第1光伝送装置から伝達される前記状態通知フレームに含まれる制御情報をメモリに記憶すると共に、前記第1光伝送装置における分散補償制御に不具合が発生しているときに、前記メモリに記憶された制御情報を用いて、前記第1光伝送装置内の前記可変分散補償器における分散補償量の制御値を演算するための第2分散補償制御プログラムをプロセッサにより実行した後、該第2分散補償制御プログラムに従って演算される分散補償量の制御値を含む補償量制御フレームを生成し、該補償量制御フレームを前記第1光伝送装置に伝達し、
前記第1光伝送装置は、自装置内における分散補償制御に不具合が発生しているときに、前記第2光伝送装置から伝達される前記補償量制御フレームが示す制御値に従って、自装置内の前記可変分散補償器における分散補償量を制御することを特徴とする波長分散補償方法。
【請求項8】
請求項7に記載の波長分散補償方法であって、
前記第1光伝送装置は、自装置内の前記プロセッサの動作状態を示す情報を含む前記状態通知フレームを前記第2光伝送装置に伝達し、
前記第2光伝送装置は、前記第1光伝送装置から伝達される前記状態通知フレームに基づいて、前記第1光伝送装置内における分散補償制御に不具合が発生しているか否かを判断することを特徴とする波長分散補償方法。
【請求項9】
請求項7または8に記載の波長分散補償方法であって、
前記第1および第2光伝送装置は、光信号が互いに異なる方向に伝送される一対のWDM伝送路により対向して接続されており、
前記第1光伝送装置は、自装置から前記WDM伝送路に送信する光信号を利用して、前記状態通知フレームを前記第2光伝送装置に伝達し、
前記第2光伝送装置は、自装置から前記WDM伝送路に送信する光信号を利用して、前記補償量制御フレームを前記第1光伝送装置に伝達することを特徴とする波長分散補償方法。
【請求項10】
請求項7または8に記載の波長分散補償方法であって、
前記WDM光伝送システムは、前記WDMネットワーク上に配置された複数の光伝送装置を一括管理するネットワーク管理装置を備えており、
前記第1光伝送装置は、自装置から前記ネットワーク管理装置に送信する管理信号を利用して、前記状態通知フレームを、前記ネットワーク管理装置を経由して前記第2光伝送装置に伝達し、
前記第2光伝送装置は、自装置から前記ネットワーク管理装置に送信する管理信号を利用して、前記補償量制御フレームを、前記ネットワーク管理装置を経由して前記第1光伝送装置に伝達することを特徴とする波長分散補償方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2012−239054(P2012−239054A)
【公開日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−107066(P2011−107066)
【出願日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【Fターム(参考)】