説明

X線分析装置及びX線分析方法

【課題】 X線マッピングされた画像から特定元素に関して所定濃度以上の部位等を容易にかつ直接的に認識でき、特定することが可能なX線分析装置等を提供すること。
【解決手段】 試料S上に放射線を照射するX線管球2と、特性X線及び散乱X線を検出しそのエネルギー情報を含む信号を出力するX線検出器3と、信号を分析する分析器5と、予め設定されたマッピング領域M内で試料Sに対して照射ポイントを相対的に移動可能な試料ステージ1と、特定の元素に対応したX線強度を判別し、該X線強度に応じて色又は明度を変えた強度コントラストを決定して照射ポイントに対応した位置に画像表示するX線マッピング処理部6と、を備え、該X線マッピング処理部6が、予め組成元素及びその濃度が既知の標準物質7について判別したX線強度を基準にして、照射ポイントにおけるX線強度の強度コントラストを決定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蛍光X線分析等により試料表面のX線マッピング分析に好適なX線分析装置及びX線分析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
蛍光X線分析は、X線源から出射されたX線を試料に照射し、試料から放出される特性X線である蛍光X線をX線検出器で検出することで、そのエネルギーからスペクトルを取得し、試料の定性分析又は定量分析を行うものである。この蛍光X線分析は、試料を非破壊で迅速に分析可能なため、工程・品質管理などで広く用いられている。近年では、高精度化・高感度化が図られて微量測定が可能になり、特に材料や複合電子部品などに含まれる有害物質の検出を行う分析手法として普及が期待されている。
【0003】
この蛍光X線分析の分析手法としては、蛍光X線を分光結晶により分光し、X線の波長と強度を測定する波長分散方式や、分光せずに半導体検出素子で検出し、波高分析器でX線のエネルギーと強度とを測定するエネルギー分散方式などがある。
従来、例えば特許文献1には、試料にX線を照射するX線管と、X線照射された試料から生じた蛍光X線を検出するX線検出器と、X線検出器の出力に基づいて試料中に含まれる元素とその強度を判別するパルスプロセッサーと、このパルスプロセッサーからの信号を入力するコンピュータと、このコンピュータの出力を処理してX線強度の分布を二次元画像に表示する画像処理装置と、を備えたX線マッピング装置が提案されている。
【0004】
【特許文献1】特開平04−175647号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記従来の技術には、以下の課題が残されている。
すなわち、従来のX線マッピングを行う装置では、X線強度の強弱によって特定の元素分布が画像上の色やコントラストである程度判断できるが、元素濃度に関する基準がなく、画像から所定濃度以上の元素分布を直接的に認識することが難しいという不都合があった。
【0006】
本発明は、前述の課題に鑑みてなされたもので、X線マッピングされた画像から特定の元素に関して所定濃度以上の部位を容易にかつ直接的に認識でき、特定することが可能なX線分析装置及びX線分析方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、前記課題を解決するために以下の構成を採用した。すなわち、本発明のX線分析装置は、試料上の照射ポイントに放射線を照射する放射線源と、前記試料から放出される特性X線及び散乱X線を検出し該特性X線及び散乱X線のエネルギー情報を含む信号を出力するX線検出器と、前記信号を分析する分析器と、予め設定されたマッピング領域内で前記試料に対して前記照射ポイントを相対的に移動可能な移動機構と、前記分析器の分析結果から特定の元素に対応したX線強度を判別し、該X線強度に応じて色又は明度を変えた強度コントラストを決定して前記マッピング領域の前記照射ポイントに対応した位置に画像表示するX線マッピング処理部と、を備え、該X線マッピング処理部が、予め組成元素及びその濃度又はその膜厚が既知の標準物質について判別した前記X線強度を基準にして、前記照射ポイントにおけるX線強度の前記強度コントラストを決定することを特徴とする。
【0008】
また、本発明のX線分析方法は、放射線源から試料上の照射ポイントに放射線を照射し、X線検出器により前記試料から放出される特性X線及び散乱X線を検出し該特性X線及び散乱X線のエネルギー情報を含む信号を出力するX線検出方法であって、分析器により、前記信号を分析するステップと、移動機構により、予め設定されたマッピング領域内で前記試料に対して前記照射ポイントを相対的に移動するステップと、X線マッピング処理部により、前記分析器の分析結果から特定の元素に対応したX線強度を判別し、該X線強度に応じて色又は明度を変えた強度コントラストを決定して前記マッピング領域の前記照射ポイントに対応した位置に画像表示するステップと、を有し、前記画像表示するステップで、X線マッピング処理部が、予め組成元素及びその濃度又はその膜厚が既知の標準物質について判別した前記X線強度を基準にして、前記照射ポイントにおけるX線強度の前記強度コントラストを決定することを特徴とする。
【0009】
これらのX線分析装置及びX線分析方法では、X線マッピング処理部が、予め組成元素及びその濃度又はその膜厚が既知の標準物質について判別したX線強度を基準にして、照射ポイントにおけるX線強度の強度コントラストを決定するので、基準として既知である標準物質のX線強度と試料における照射ポイントのX線強度とを比較して二次元画像にマッピングすることで、基準よりも特定の元素濃度が高いか低いか又は膜厚が厚いか薄いかを視覚的に容易に認識することが可能である。
【0010】
また、本発明のX線分析装置は、前記標準物質が、前記マッピング領域内に設置され、前記X線マッピング処理部が、前記試料と共に前記標準物質のX線強度を判別して前記画像表示を行うことを特徴とする。
また、本発明のX線分析方法は、前記標準物質を、前記マッピング領域内に設置しておき、前記画像表示するステップで、前記X線マッピング処理部が、前記試料と共に前記標準物質のX線強度を判別して前記画像表示を行うことを特徴とする。
すなわち、これらのX線分析装置及びX線分析方法では、マッピング領域内に設置された標準物質について試料と共にX線強度を判別して画像表示するので、標準物質と試料とを同時にX線マッピングでき、標準物質のX線強度を別途測定する手間を省くことができる。また、標準物質と試料とで、X線強度を判別する際の分析条件(検出器との距離や雰囲気等)を互いに揃え易くなり、分析環境によるばらつきを抑えることができる。
【0011】
さらに、本発明のX線分析装置は、前記標準物質が、前記試料上に載置されていることを特徴とする。すなわち、このX線分析装置では、標準物質が試料上に載置されているので、試料上の部品や材料等と標準物質との高さがほぼ同じになり、X線検出器との距離が同じになってX線強度の高い検出精度が得られる。
【0012】
また、本発明のX線分析装置は、前記X線マッピング処理部が、前記標準物質の一定領域内におけるX線強度の平均値を前記基準とすることを特徴とする。標準物質内の一点のみで得られたX線強度を基準とする場合、標準物質中の元素分布等によってある程度、基準にばらつきが生じてしまうおそれがある。これに対して、本発明のX線分析装置では、X線マッピング処理部が、標準物質の一定領域内におけるX線強度の平均値を基準とするので、ある程度元素分布にばらつきがあってもX線強度の平均化によって、ばらつきの少ない高精度な基準値を得ることができる。
【0013】
また、本発明のX線分析装置は、前記X線マッピング処理部が、前記標準物質のX線強度を前記強度コントラストの上限値または下限値に設定して前記画像表示を行うことを特徴とする。すなわち、このX線分析装置では、X線マッピング処理部が、標準物質のX線強度を強度コントラストの上限値または下限値に設定して画像表示を行うので、基準を超える元素濃度又は膜厚が検出された部位のみを強度コントラストで明確に視認可能に表示することで、さらに視覚的に高濃度部位等を容易に特定することができる。例えば、標準物質のX線強度を強度コントラストの下限値に設定した場合、基準である標準物質のX線強度以下の元素濃度又は膜厚が検出された部位は全て黒く表示され、標準物質より高いX線強度であった部位は黒以外の色又は高い明度の強度コントラストで高い視認性をもって画像表示される。
【0014】
また、本発明のX線分析装置は、前記X線マッピング処理部が、前記X線強度の画像と前記試料の光学顕微鏡像又は二次電子像とを重ね合わせて表示可能であることを特徴とする。すなわち、このX線分析装置では、X線マッピング処理部が、X線強度の画像と試料の光学顕微鏡像又は二次電子像とを重ね合わせて表示可能であるので、各部位においてX線強度の情報だけでなく、試料の光学顕微鏡像又は二次電子像で得られる情報を同時に視覚的に認識することができ、問題部位の特定がさらに容易になる。
【0015】
また、本発明のX線分析装置は、前記試料が、前記放射線が透過可能な材質で形成された筐体に内蔵されているものであり、前記X線マッピング処理部が、前記筐体と同じ材質及び厚さのカバー部材で前記標準物質を覆った状態で測定した該標準物質のX線強度を基準とすることを特徴とする。
【0016】
また、本発明のX線分析方法は、前記試料が、前記放射線が透過可能な材質で形成された筐体に内蔵されているものであり、前記画像表示するステップで、前記筐体と同じ材質及び厚さのカバー部材で前記標準物質を覆った状態で測定した該標準物質のX線強度を基準とすることを特徴とする。
【0017】
これらのX線分析装置及びX線分析方法では、筐体と同じ材質及び厚さのカバー部材で標準物質を覆った状態で測定した該標準物質のX線強度を基準とするので、筐体と同じ材質及び厚さのカバー部材を介して試料と同様の環境で測定した標準物質のX線強度と筐体内部の試料のX線強度とを比較して二次元画像にマッピングすることで、分解することなく筐体に覆われたままの試料を分析することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、以下の効果を奏する。
すなわち、本発明に係るX線分析装置及びX線分析方法によれば、X線マッピング処理部が、予め組成元素及びその濃度又はその膜厚が既知の標準物質について判別したX線強度を基準にして、照射ポイントにおけるX線強度の強度コントラストを決定するので、基準の標準物質よりも特定の元素濃度が高いか低いか又は膜厚が厚いか薄いかを視覚的に容易に認識することが可能である。したがって、特定の元素が規定よりも高い濃度で含有される問題部位等を、視覚的に容易に特定することが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明に係るX線分析装置及びX線分析方法の一実施形態を、図1から図5を参照しながら説明する。なお、以下の説明に用いる各図面では、各部材を認識可能な大きさとするために必要に応じて縮尺を適宜変更している。
【0020】
本実施形態のX線分析装置は、例えばエネルギー分散型の蛍光X線分析装置であって、図1及び図2に示すように、試料Sを載置すると共に移動可能な試料ステージ(移動機構)1と、試料S上の任意の照射ポイントに1次X線(放射線)X1を照射するX線管球(放射線源)2と、試料Sから放出される特性X線及び散乱X線を検出し該特性X線及び散乱X線のエネルギー情報を含む信号を出力するX線検出器3と、図示しない照明手段で照明された試料Sの拡大された照明画像を画像データとして取得する光学顕微鏡4と、X線検出器3に接続され上記信号を分析する分析器5と、分析器5に接続され特定の元素に対応したX線強度を判別する解析処理を行うと共に求めたX線強度に応じて色又は明度を変えた強度コントラストを決定してディスプレイ部6a上の照射ポイントに対応した位置に画像表示するX線マッピング処理部6と、を備えている。
【0021】
上記X線管球2は、管球内のフィラメント(陽極)から発生した熱電子がフィラメント(陽極)とターゲット(陰極)との間に印加された電圧により加速されターゲットのW(タングステン)、Mo(モリブデン)、Cr(クロム)などに衝突して発生したX線を1次X線X1としてベリリウム箔などの窓から出射するものである。
【0022】
上記X線検出器3は、X線の入射窓に設置されている半導体検出素子(例えば、pin構造ダイオードであるSi(シリコン)素子)(図示略)を備え、X線光子1個が入射すると、このX線光子1個に対応する電流パルスが発生するものである。この電流パルスの瞬間的な電流値が、入射した特性X線のエネルギーに比例している。また、X線検出器3は、半導体検出素子で発生した電流パルスを電圧パルスに変換、増幅し、信号として出力するように設定されている。
【0023】
上記分析器5は、上記信号から電圧パルスの波高を得てエネルギースペクトルを生成する波高分析器(マルチチャンネルパルスハイトアナライザー)である。
【0024】
上記X線マッピング処理部6は、CPU等で構成され解析処理装置として機能するコンピュータであり、分析器5から送られるエネルギースペクトルから特定の元素に対応したX線強度を判別し、これに基づいてX線マッピングした二次元画像をディスプレイ部6aに表示する機能を有している。また、X線マッピング処理部6は、各上記構成に接続されこれらを制御する機能を有し、該制御に応じて種々の情報をディスプレイ部6aに表示可能である。
【0025】
このX線マッピング処理部6は、標準物質7の一定領域7a内におけるX線強度の平均値を基準とするように設定されている。また、X線マッピング処理部6は、標準物質7のX線強度を強度コントラストの上限値または下限値に設定して画像表示を行うように設定可能になっている。さらに、X線マッピング処理部6は、X線強度の画像と試料Sの光学顕微鏡像とを重ね合わせて表示するように設定可能である。
【0026】
これら試料ステージ1、X線管球2、X線検出器3及び光学顕微鏡4等は、減圧可能な試料室8に収納され、X線が大気中の雰囲気に吸収されないように測定時には、試料室8内が減圧されるようになっている。
また、上記試料ステージ1は、試料Sを固定した状態でステッピングモータ(図示略)等により上下左右の水平移動及び高さ調整可能なXYZステージであって、予め設定されたマッピング領域M内で試料Sに対して照射ポイントを相対的に移動させるように、X線マッピング処理部6により制御される。
【0027】
次に、本実施形態のX線分析装置を用いたX線分析方法について、図1から図5を参照して説明する。なお、試料Sとして、抵抗等の種々の電子部品Eが半田材Hで実装された電子回路基板を用い、半田材H等に含有される鉛(Pb)の含有濃度の分布をX線マッピングにより調べる。
【0028】
まず、試料ステージ1上に試料Sをセットすると共に、X線マッピングするマッピング領域MをX線マッピング処理部6に入力し、設定する。さらに、図2に示すように、マッピング領域M内であって試料S上で測定に影響のないスペースに標準物質7を載置する。
この状態で、試料室8内を所定の減圧状態とする。この標準物質7は、予め組成元素及びその濃度が既知のものであり、例えば鉛、カドミウム、クロム等のいずれかの元素を含むと共にその濃度がわかっているものである。なお、本実施形態では、X線マッピングにより鉛(Pb)の含有濃度の分布を調べるため、電子回路基板である試料S上に、Pbが1000ppmの半田材で円板状に形成された標準物質7を載置した。また、標準物質7の高さは、試料S上の分析対象である電子部品Eや半田材Hの高さに合わせておく。
【0029】
次に、試料ステージ1を駆動して試料Sを光学顕微鏡4の直下に移動させ、光学顕微鏡4によって標準物質7を載置した状態で試料Sのマッピング領域Mを撮影し、その光学顕微鏡像をX線マッピング処理部6へ送って記憶させる。なお、上記手順では、予めマッピング領域Mを設定してから、光学顕微鏡4で撮影しているが、試料S上の分析したい領域周辺を光学顕微鏡4で撮影し、その光学顕微鏡像を元に、マッピング領域Mを設定しても構わない。この場合も標準物質7がマッピング領域M内に含まれるように設定する。
【0030】
次に、蛍光X線分析を行うため、X線マッピング処理部6は、試料ステージ1を駆動して試料Sを移動し、マッピング領域M内の最初の照射ポイントをX線管球2から出射される1次X線X1の照射位置に設置する。この状態で、X線管球2から1次X線X1を試料Sに照射することにより、発生した特性X線及び散乱X線をX線検出器3で検出する。
【0031】
X線を検出したX線検出器3は、その信号を分析器5に送り、分析器5はその信号からエネルギースペクトルを取り出し、X線マッピング処理部6へ出力する。X線マッピング処理部6では、分析器5から送られたエネルギースペクトルから特定元素(本実施形態では、鉛)に対応するX線強度を判別し、これを上記照射ポイントの座標情報と共に記憶する。
さらに、照射ポイントをマッピング領域M内で所定距離間隔で順次移動させ、マトリクス状、すなわち二次元的に走査してマッピング領域M全体にわたって複数の照射ポイントにおいて上記検出を繰り返し、各照射ポイントの座標情報及び特定元素のX線強度を記憶する。すなわち、マッピング領域M内の試料Sと共に標準物質7についても同時にX線強度を判別し、記憶する。
【0032】
次に、X線マッピング処理部6は、一つの照射ポイントを一つの画素として、上記検出で求めたX線強度に応じて色又は明度を変えた強度コントラストを決定し、図3に示すように、ディスプレイ部6aにおいて照射ポイントに対応した位置に画像として二次元的に表示する。この際、X線マッピング処理部6は、試料S上の標準物質7で検出したX線強度を基準にして、各照射ポイントにおけるX線強度の強度コントラストを決定する。また、X線マッピング処理部6は、図2に示すように、標準物質7の一定領域7a内における複数の照射ポイントで得たX線強度の平均値を上記基準として、上記強度コントラストの設定を行う。なお、一定領域7aを設定する際、例えば円形又は四角形で一定領域7aの境界を決めてX線マッピング処理部6に入力する。
【0033】
例えば、図3に示すように、鉛について標準物質7のX線強度以下のX線強度が検出された照射ポイントについては、標準物質7のX線強度と同じ明度及び色の強度コントラスト9aで画像表示し、標準物質7のX線強度より高いX線強度が検出された照射ポイントについては、基準となる標準物質7のX線強度の場合よりも高い明度又は別の色の強度コントラスト9bで画像表示する。
【0034】
すなわち、本実施形態では、標準物質7に含有される鉛が1000ppmであるので、試料S上で鉛が1000ppm以下の低い濃度である部位は、標準物質7と同じ強度コントラスト9aで画像表示され、試料S上で鉛が1000ppmを超える高い濃度である部位は、標準物質7よりも明度の高い又は異なる色の強度コントラスト9bで視覚的に明確な差をもって画像表示される。
【0035】
次に、標準物質7を超える濃度の鉛を含有する部位のみを明確に表示するため、X線マッピング処理部6の画像処理の設定を変更し、標準物質7のX線強度を強度コントラストの上限値または下限値に設定して画像表示を行う。例えば、標準物質7のX線強度を強度コントラストの下限値に設定した場合、図4に示すように、基準である標準物質7のX線強度以下のX線強度が検出された部位は全て黒く表示され(図4中では、見易くするため黒い部分は図示せず白く表示している)、標準物質7より高いX線強度であった部位は黒以外の色(例えば、赤色)又は高い明度の強度コントラスト9bで高い視認性をもって画像表示される。すなわち、1000ppmを超える高濃度部位だけが目立つように表示されるため、高濃度部位を一目で特定することができる。
【0036】
なお、標準物質7のX線強度を強度コントラストの上限値に設定した場合、例えば、基準である標準物質7のX線強度以下のX線強度が検出された部位は全て白く表示され、標準物質7より高いX線強度であった部位は白以外の色又は黒等の低い明度の強度コントラスト(黒色等)で高い視認性をもって画像表示させても構わない。
【0037】
次に、X線強度の分布(鉛の濃度分布)と実際の試料S上の半田材Hや電子部品Eとの位置関係を把握するため、X線マッピング処理部6の画像処理の設定を変更し、図5に示すように、光学顕微鏡4で撮影した光学顕微鏡像を上記X線マッピングしたX線強度の画像と重ね合わせてディスプレイ部6aに表示する。これにより、X線マッピングによる鉛の濃度分布と電子回路基板上の半田材Hや電子部品Eの配置との関連性を、同じ画面上で容易に把握することが可能になる。
【0038】
このように、本実施形態のX線分析装置では、X線マッピング処理部6が、予め組成元素及びその濃度が既知の標準物質7について判別したX線強度を基準にして、照射ポイントにおけるX線強度の強度コントラストを決定するので、基準として既知である標準物質7のX線強度と試料Sにおける照射ポイントのX線強度とを比較して二次元画像にマッピングすることで、基準よりも特定の元素濃度が高いか低いかを視覚的に容易に認識することが可能である。
【0039】
また、マッピング領域M内に設置された標準物質7について試料Sと共にX線強度を判別して画像表示するので、標準物質7と試料Sとを同時にX線マッピングでき、標準物質7のX線強度を別途測定する手間を省くことができる。また、標準物質7と試料Sとで、X線強度を判別する際の分析条件(X線検出器3との距離や雰囲気等)を互いに揃え易くなり、分析環境によるばらつきを抑えることができる。特に、標準物質7が試料S上に載置されているので、試料S上の電子部品Eや半田材Hと標準物質7との高さがほぼ同じになり、X線検出器3との距離が同じになってX線強度の高い検出精度が得られる。
【0040】
また、X線マッピング処理部6が、標準物質7の一定領域7a内におけるX線強度の平均値を基準とするので、ある程度元素分布にばらつきがあってもX線強度の平均化によって、ばらつきの少ない高精度な基準値を得ることができる。
なお、試料S上に標準物質7を載置した状態でX線強度を検出してX線マッピングを行っているので、分析対象の試料S上の半田材H等と標準物質7との高さがほぼ同じになり、X線強度の高い検出精度が得られる。
【0041】
さらに、X線マッピング処理部6が、標準物質7のX線強度を強度コントラストの上限値または下限値に設定して画像表示を行うので、基準を超える元素濃度が検出された部位のみを強度コントラストで明確に視認可能に表示することで、さらに視覚的に高濃度部位を容易に特定することができる。
【0042】
また、X線マッピング処理部6が、X線強度の画像と試料Sの光学顕微鏡像とを重ね合わせて表示可能であるので、各部位においてX線強度(すなわち、元素濃度)の情報だけでなく、試料Sの光学顕微鏡像で得られる半田材Hや電子部品E等の配置情報を同時に視覚的に認識することができ、問題部位の特定がさらに容易になる。
【0043】
次に、本実施形態のX線分析装置を用いて、筐体に内蔵された試料を分析する方法について、図6及び図7を参照して説明する。
【0044】
この分析方法では、図6及び図7の(a)に示すように、例えば電子機器製品としてノート型パーソナルコンピュータPCの筐体K0に内蔵された回路基板等を試料Sとして分析する。
この分析を行う場合、試料ステージ1上にノート型パーソナルコンピュータPCと共に標準物質7を載置する。この際、標準物質7は、筐体K0と同じ材質及び厚さのカバー部材K1で覆った状態にして設置される。
【0045】
この状態で、X線マッピング処理部6は、カバー部材K1で覆った状態の標準物質7についてカバー部材K1を介して判別したX線強度を基準にして、図7の(b)に示すように、照射ポイントにおけるX線強度の強度コントラストを決定する。
【0046】
従来、ノート型パーソナルコンピュータPC等の電子機器製品は、プラスティックや薄いアルミニウム等の外装材で構成された筐体K0で覆われており、筐体K0に覆われたまま内部の回路基板等の試料Sを元素分析しても、対象元素からのX線は筐体K0で吸収されてしまい、その強度が非常に弱くなってしまう。このため、試料SからのX線強度マッピングをしても、吸収によるX線強度の減少が大きく、試料Sの元素濃度の把握をする事が難しかった。
【0047】
しかしながら、本実施形態では、1次X線が透過可能な材質で形成された筐体K0に内蔵されている試料Sのマッピング分析について、X線マッピング処理部6が、画像表示する際に、筐体K0と同じ材質及び厚さのカバー部材K1で標準物質7を覆った状態で測定した該標準物質7のX線強度を基準とするので、カバー部材K1を介して試料Sと同様の環境で測定した標準物質7のX線強度と筐体K0内部の試料SのX線強度とを比較して二次元画像にマッピングすることで、分解することなく筐体K0に覆われたままの試料Sを分析することができる。
【0048】
すなわち、カバー部材K1を通して測定した標準物質7のX線強度を基準とすることで、筐体K0のX線吸収を考慮することができ、筐体K0で覆われたままで内部の回路基板等の試料Sの元素分析が可能となる。例えば、本分析方法によれば、図7の(a)に示すノート型パーソナルコンピュータPCのカメラ画像に対し、図7の(b)に示すように、内部の試料Sにおける鉛(Pb)等の分析画像を表示することができる。
【0049】
この際、鉛についてカバー部材K1を通した標準物質7のX線強度以下のX線強度が検出された筐体K0内部の照射ポイントについては、標準物質7のX線強度と同じ明度及び色の強度コントラスト9aで画像表示され、カバー部材K1を通した標準物質7のX線強度より高いX線強度が検出された筐体K0内部の照射ポイントについては、基準となる標準物質7のX線強度の場合よりも高い明度又は別の色の強度コントラスト9bで画像表示される。
【0050】
このように、電子機器製品内部の有害元素の有無を検査する際に、電子機器製品内部に有害元素が存在するものを分解することなくスクリーニングすることができ、検査の大幅な省力化を図ることができる。
なお、検出する対象元素をX線のエネルギーの高いものに変更することで、内部の基板形状等を分析画像として得ることも可能である。
【0051】
なお、本発明の技術範囲は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
【0052】
例えば、上記実施形態は、エネルギー分散型の蛍光X線分析装置であるが、本発明を、他の分析方式、例えば波長分散型の蛍光X線分析装置や、照射する放射線として電子線を使用し、二次電子像も得ることができるSEM−EDS(走査型電子顕微鏡・エネルギー分散型X線分析)装置に適用しても構わない。
また、上記実施形態は、X線マッピング処理部6がX線強度の画像と試料Sの光学顕微鏡像とを重ね合わせて表示可能とされているが、SEM−EDS装置に本発明を採用した場合、X線強度の画像と二次電子像とを重ね合わせて表示可能にしても構わない。
【0053】
また、上記実施形態では、元素濃度が既知の標準物質を一つ使用したが、異なる元素濃度の別の標準物質も同時に試料上に載置して、これら2つの標準物質を基準にしてX線強度を検出し、X線マッピングを行っても構わない。この場合、2つの標準物質のX線強度をそれぞれ強度コントラストの上限値及び下限値に設定することで、特定の濃度範囲に限定した元素分布を画像表示することが可能になる。例えば、Sn、Ag、Cu等の元素について、濃度範囲を特定してその分布を容易に画像表示することができる。
【0054】
また、上記実施形態では、試料室内を減圧雰囲気にして分析を行っているが、真空(減圧)雰囲気でない状態で分析を行っても構わない。
さらに、上述したように、標準物質を試料上に載置してX線マッピングすることが好ましいが、標準物質をマッピング領域M内であるが試料の脇に載置して同時にX線マッピングしても構わない。
また、上記実施形態では、組成元素の濃度が既知の標準物質を用いて試料の元素濃度についてX線マッピングしたが、組成元素の膜厚が既知の標準物質を用い、この標準物質のX線強度を基準にして上記と同様の手法で、試料の膜厚についてX線マッピングしても構わない。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本発明に係るX線分析装置及びX線分析方法の一実施形態において、X線分析装置を示す概略的な全体構成図である。
【図2】本実施形態において、試料(電子回路基板)上の測定エリアに標準物質を載置した状態を示す模式的な平面図である。
【図3】本実施形態において、試料(電子回路基板)上の測定エリアをX線マッピングした際、X線強度の画像表示を示す模式図である。
【図4】本実施形態において、試料(電子回路基板)上の測定エリアをX線マッピングした際、標準物質のX線強度を強度コントラストの下限値に設定して画像表示した模式図である。
【図5】本実施形態において、試料(電子回路基板)上の測定エリアをX線マッピングした際、X線強度の画像と光学顕微鏡像とを重ね合わせて画像表示した模式図である。
【図6】本実施形態において、筐体に内蔵された試料を分析する際の試料及び標準物質の設置状態を示す試料ステージ上の断面図である。
【図7】本実施形態において、筐体に内蔵された試料を分析する際の例として、ノート型パーソナルコンピュータのカメラ画像及び内部の分析画像を模式的に示す図である。
【符号の説明】
【0056】
1…試料ステージ(移動機構)、2…X線管球(放射線源)、3…X線検出器、5…分析器、6…X線マッピング処理部、7…標準物質、9a,9b…強度コントラスト、K0…筐体、K1…カバー部材、M…マッピング領域、S…試料

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料上の照射ポイントに放射線を照射する放射線源と、
前記試料から放出される特性X線及び散乱X線を検出し該特性X線及び散乱X線のエネルギー情報を含む信号を出力するX線検出器と、
前記信号を分析する分析器と、
予め設定されたマッピング領域内で前記試料に対して前記照射ポイントを相対的に移動可能な移動機構と、
前記分析器の分析結果から特定の元素に対応したX線強度を判別し、該X線強度に応じて色又は明度を変えた強度コントラストを決定して前記マッピング領域の前記照射ポイントに対応した位置に画像表示するX線マッピング処理部と、を備え、
該X線マッピング処理部が、予め組成元素及びその濃度又はその膜厚が既知の標準物質について判別した前記X線強度を基準にして、前記照射ポイントにおけるX線強度の前記強度コントラストを決定することを特徴とするX線分析装置。
【請求項2】
請求項1に記載のX線分析装置において、
前記標準物質が、前記マッピング領域内に設置され、
前記X線マッピング処理部が、前記試料と共に前記標準物質のX線強度を判別して前記画像表示を行うことを特徴とするX線分析装置。
【請求項3】
請求項2に記載のX線分析装置において、
前記標準物質が、前記試料上に載置されていることを特徴とするX線分析装置。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか一項に記載のX線分析装置において、
前記X線マッピング処理部が、前記標準物質の一定領域内におけるX線強度の平均値を前記基準とすることを特徴とするX線分析装置。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか一項に記載のX線分析装置において、
前記X線マッピング処理部が、前記標準物質のX線強度を前記強度コントラストの上限値または下限値に設定して前記画像表示を行うことを特徴とするX線分析装置。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか一項に記載のX線分析装置において、
前記X線マッピング処理部が、前記X線強度の画像と前記試料の光学顕微鏡像又は二次電子像とを重ね合わせて表示可能であることを特徴とするX線分析装置。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか一項に記載のX線分析装置において、
前記試料が、前記放射線が透過可能な材質で形成された筐体に内蔵されているものであり、
前記X線マッピング処理部が、前記筐体と同じ材質及び厚さのカバー部材で前記標準物質を覆った状態で測定した該標準物質のX線強度を基準とすることを特徴とするX線分析装置。
【請求項8】
放射線源から試料上の照射ポイントに放射線を照射し、X線検出器により前記試料から放出される特性X線及び散乱X線を検出し該特性X線及び散乱X線のエネルギー情報を含む信号を出力するX線検出方法であって、
分析器により、前記信号を分析するステップと、
移動機構により、予め設定されたマッピング領域内で前記試料に対して前記照射ポイントを相対的に移動するステップと、
X線マッピング処理部により、前記分析器の分析結果から特定の元素に対応したX線強度を判別し、該X線強度に応じて色又は明度を変えた強度コントラストを決定して前記マッピング領域の前記照射ポイントに対応した位置に画像表示するステップと、を有し、
前記画像表示するステップで、X線マッピング処理部が、予め組成元素及びその濃度又はその膜厚が既知の標準物質について判別した前記X線強度を基準にして、前記照射ポイントにおけるX線強度の前記強度コントラストを決定することを特徴とするX線分析方法。
【請求項9】
請求項8に記載のX線分析方法において、
前記標準物質を、前記マッピング領域内に設置しておき、
前記画像表示するステップで、前記X線マッピング処理部が、前記試料と共に前記標準物質のX線強度を判別して前記画像表示を行うことを特徴とするX線分析方法。
【請求項10】
請求項8又は9に記載のX線分析方法において、
前記試料が、前記放射線が透過可能な材質で形成された筐体に内蔵されているものであり、
前記画像表示するステップで、前記筐体と同じ材質及び厚さのカバー部材で前記標準物質を覆った状態で測定した該標準物質のX線強度を基準とすることを特徴とするX線分析方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−32485(P2010−32485A)
【公開日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−277731(P2008−277731)
【出願日】平成20年10月29日(2008.10.29)
【出願人】(503460323)エスアイアイ・ナノテクノロジー株式会社 (330)
【Fターム(参考)】