説明

X線分析装置

【課題】温度変化を伴って所定角度範囲のX線測定を繰り返して行う場合に、X線測定の中断をできる限り抑えることができ、しかも、得られた測定結果の分析を正確且つ迅速に行えるX線分析装置を提供する。
【解決手段】試料にX線を照射したときにその試料から出たX線をX線検出器によって検出するX線分析装置である。温度変化曲線39に従って試料温度を変化させながら、X線回折測定を行って2θ=5°から2θ=40°の間で複数の回折線プロファイル35を縦軸に沿って間隔をおいて複数描く。5°〜40°の間で角度が増加する順方向移動時のX線強度データ35(→)を角度座標軸(座標表示36の横軸)上の5°から40°へ向かって画面上で表示させ、角度が減少する逆方向移動時のX線強度データ35(←)を同じ角度座標軸上の40°から5°へ向かって画面上で表示させる。順・逆表示をスイッチアイコン43によって切替えて表示できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料にX線を照射したときに該試料から出たX線をX線検出器によって検出するX線分析装置に関する。特に、検出結果を画面上に画像として表示するようにしたX線分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
X線分析装置は、試料へX線を照射したときに該試料から出る2次X線、例えば回折線、散乱線、蛍光X線等の状態に基づいて、試料の結晶構造、分子構造等を分析する装置である。このようなX線分析装置として、例えば、試料から発生する回折線の回折角度及び回折線強度を測定するX線回折装置、試料から発生する散乱線の角度及び強度を測定するX線散乱装置、試料から発生する蛍光X線を測定する蛍光X線装置、等が知られている。
【0003】
上記のX線分析装置において、試料に対する環境を変化させながら、測定を行うようにした装置が知られている。例えば、試料の温度を変化させながらX線測定を行ったり、試料の湿度を変化させながらX線測定を行ったり、試料に加わる圧力を変化させながらX線測定を行ったりする。また、それらの環境変化を組み合わせた状態でX線測定を行う場合もある。
【0004】
従来、温度を変化させながらX線測定を行うようにしたX線分析装置が特許文献1に開示されている。この装置においては、試料の周囲の温度を所定の条件で変化させながら、X線検出器の試料軸線に対するX線取込角度(一般に、2θ角度又は2θ回折角度と呼ばれている)を第1角度と第2角度との間で変化させる動作(測角動作)を繰り返して行い、温度変化する試料からどの角度でどの大きさの2次X線が出るかを測定している。
【0005】
なお、試料に入射するX線、すなわち入射X線、の中心軸線を入射側のX線光軸といい、X線検出器のX線取込口の中心が試料の中心を見込む線を受光側のX線光軸というとき、前記2θ角度は、受光側のX線光軸が入射側のX線光軸に対して成す角度である。
【0006】
この装置では、第1角度から第2角度への測角動作を常に1つの方向、例えば小さい角度から大きい角度へ角度が増加する方向、で行っていた。つまり、第1角度から第2角度への測角動作が終わると、次の測角動作のためにX線検出器は第2角度位置から第1角度位置へと戻り移動していた。この戻り移動時には測角は行われない。
【0007】
従来、第1角度から第2角度への測角動作を1つの方向だけでなく、両方向で連続的に行うようにしたX線回折装置が特許文献2に開示されている。この装置では、試料の温度を変化させながら、X線検出器の角度を第1角度と第2角度との間で順方向(角度が増加する方向)と逆方向(角度が減少する方向)とで連続して繰り返して回転移動させて、X線検出器によるX線検出を行っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平11−295244号公報(第2〜4頁、図1)
【特許文献2】特公昭36−003348号公報(第1〜2頁、第2,3,4図)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1に開示されたX線回折装置では、X線検出器を第2角度から第1角度へ戻り移動させる間、X線測定ができなかった。それにも関わらずこの戻り時間においても試料温度は変化していたので、この戻り時間における試料温度変化に関してはX線測定結果の情報採取が中断されていた。例えば、この戻り時間における温度変化の最中に試料の結晶構造に変化が生じた場合には、その構造変化をX線測定によって捕えることができなかった。
【0010】
特許文献2に開示されたX線回折装置では、X線検出器の測角が順方向と逆方向とで交互に連続して行われ、順方向と逆方向とのX線測定の結果である回折線図形を1つの用紙上に連続して描画していた。この描画方法では、順方向における回折ピークと逆方向における回折ピークとの関係を把握することが非常に難しく、正確な分析を迅速に行うことが難しかった。
【0011】
本発明は、上記の問題点を解消するために成されたものであって、温度変化等といった環境変化を伴って所定角度範囲のX線測定を繰り返して行う場合に、X線測定の中断をできる限り抑えることができ、しかも、得られた測定結果の分析を正確且つ迅速に行うことができるX線回折装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明に係るX線分析装置は、試料軸線上に置かれた試料にX線を照射したときに該試料から出たX線をX線検出器によって検出するX線分析装置において、前記試料に対する環境を変化させる環境変化手段と、前記X線検出器を前記試料軸線を中心として回転移動させる検出器回転装置と、前記X線検出器の出力信号に基づいてX線強度を演算する強度演算手段と、前記強度演算手段の出力データを画面上に画像として表示させる画像表示手段と、前記検出器回転装置、前記強度演算手段及び前記画像表示手段の動作を制御する制御手段とを有し、前記制御手段は、前記検出器回転装置によって前記X線検出器を小さい第1角度と大きい第2角度との間で角度が増加する順方向及び角度が減少する逆方向へ交互に連続させて測角しながら回転移動させ、前記強度演算手段によってX線強度を順方向時及び逆方向時の両方で演算させ、順方向移動時のX線強度データを角度座標軸上の前記第1角度から前記第2角度へ向かって画面上で表示させ、逆方向移動時のX線強度データを同じ角度座標軸上の前記第2角度から前記第1角度へ向かって画面上で表示させることを特徴とする。
【0013】
環境変化手段は、例えば温度を変化させる手段、湿度を変化させる手段、圧力を変化させる手段である。検出器回転装置は、一般的なX線回折装置において用いられるゴニオメータによって実現できる。強度演算手段は、例えばコンピュータの構成要素であるCPUと演算用プログラムソフトとの組合せによって構成できる。画像表示手段は、例えばCPUと画像形成用プログラムソフトと画像表示ドライバとの組合せによって構成できる。制御手段は、例えばCPUとプログラムソフトとの組合せによって構成できる。
【0014】
X線検出器の2θ回折角度に関して順方向だけの測定を複数回行うことにした従来のX線分析装置では、各測定間でX線検出器を開始角度位置まで戻り移動させていた。X線検出器が戻り移動するときにはX線回折測定を中断せざるを得ず、その温度変化間のX線回折測定データが得られなかった。これに対し、本実施形態によれば、順方向測定と逆方向測定とを交互に連続して繰り返して行うので、X線検出器を初期位置へ戻すための戻り時間が不要となり、X線回折測定を中断させるのは測定方向を順方向から逆方向へ反転させるための短時間だけである。従って、X線測定の中断をできる限り抑えることが可能となった。
【0015】
さらに、本発明のX線分析装置では、順方向データと逆方向データとが共通の角度座標軸上に表示されるので、それらのデータの分析を正確且つ迅速に行うことができる。
【0016】
ところで、本発明のX線分析装置では、温度、湿度等といった環境を変化させながらX線検出器を順方向移動及び逆方向移動させ、それらの両方向の移動に際してX線回折測定を行う。そして、順方向移動時のX線強度データと逆方向移動時のX線強度データとを共通の角度座標軸上に表示する。この場合、X線強度データの2θ角度に関する強度データに関しては順方向でも逆方向でも同じ特性で表示されるが、X線強度データの環境値、例えば温度に関する特性は順方向移動時の場合と逆方向移動時の場合とで異なってしまう。
【0017】
例えば、図11(a)において、角度座標軸2θを横軸とする座標上に、順方向移動時のX線強度データ35a,35c,35e及び逆方向移動時のX線強度データ35b,35dが表示されている。各X線強度データにおいて同じ2θ角度のところにピーク値が生じている。試料が同じである限り、各X線強度データにおいて同じ角度位置にピークが生じるのは当然のことである。
【0018】
ここで、全てのX線強度データが順方向移動に由来するものであるならば、各X線強度データについての温度変化傾向は同じである。例えば、温度が一定の勾配で上昇するように制御されていれば、順方向移動のX線強度データについての温度勾配は全て一定で、例えば右上がりの温度上昇勾配となる。この場合には、各X線強度データにおけるピーク発生時の温度の差は一定値になるはずである。
【0019】
ところが、本発明の場合のように、X線検出器に関して順方向移動と逆方向移動とを連続して繰り返して行う場合には、図11(a)の座標において左端から書き始められる順方向データ35a,35c,35eと、右端から書き始められる逆方向データ35b,35dとで、温度の上昇傾向が逆向きとなり、順方向移動時の場合と逆方向移動時の場合とで温度変化特性上での性質が異なってしまう。
【0020】
例えば、試料温度の温度勾配が一定に制御される場合であれば、順方向データにおけるピーク発生時温度(例えば図11(a)の106℃)から次の逆方向データにおけるピーク発生時温度(112℃)に至るまでの温度変化(6℃)と、逆方向データにおけるピーク発生時温度(112℃)から次の順方向データにおけるピーク発生温度(126℃)までの温度変化(14℃)とが一定でなくなる。
【0021】
この現象は、一般的な分析においては大きな問題にはならないが、学術的で厳密な分析を行いたい場合には、判断を惑わす要因になりかねない。そこで本発明の好ましい実施態様では、順方向表示と逆方向表示とを切り換えるための表示切替手段をさらに有し、前記制御手段は、前記表示切替手段によって順方向表示が選択された場合は順方向移動時のX線強度データを画面上に表示させ、逆方向移動のX線強度データは表示せず、前記表示切替手段によって逆方向表示が選択された場合は逆方向移動のX線強度データを画面上に表示させ、順方向移動のX線強度データは表示しないこと、としている。
【0022】
この実施態様によれば、表示切替手段の操作により順方向表示だけ又は逆方向表示だけを見ることができる。順方向表示と逆方向表示とが混在する場合には、各表示間で環境変化特性、例えば温度変化特性が異なることがあるが、順方向表示だけの場合に表示される複数のX線強度データや、逆方向表示だけの場合に表示される複数のX線強度データに関しては、全て同じ環境変化特性に基づいている。従って、学術的で厳密な分析を行いたい場合には、順方向表示だけ又は逆方向表示だけの表示を選択的に行うことにより、目的を達成できる。
【0023】
本発明のX線分析装置のさらに他の実施態様は、順方向表示だけを行わせるための順方向表示指示手段と、逆方向表示だけを行わせるための逆方向表示指示手段と、順方向及び逆方向の両方の表示を行わせるための両方向表示指示手段とを有する。そして前記制御手段は、(1)両方向表示指示手段が選択された場合には、順方向移動時及び逆方向移動時のX線強度データを画面上に表示させ、(2)順方向表示指示手段が選択された場合には、順方向移動時のX線強度データを画面上に表示させ、逆方向移動のX線強度データは表示せず、(3)逆方向表示指示手段が選択された場合には、逆方向移動時のX線強度データを画面上に表示させ、順方向移動のX線強度データは表示しない。
【0024】
順方向表示指示手段、逆方向表示指示手段、及び両方向表示指示手段は、キーボード、マウス、その他の専用の入力装置であっても良いし、ディスプレイ画面上に表示されるアイコン表示であっても良い。本実施態様によれば、順方向表示、逆方向表示、及び両方向表示を手軽に選択して画面表示できるので、迅速な分析を行うことが可能と成る。
【0025】
本発明の好ましい実施態様においては、前記検出器回転装置はサーボモータを動力源として有しており、前記サーボモータは自身の出力軸の回転速度を検出して信号を出力するエンコーダを有しており、前記サーボモータは前記エンコーダの出力が一定となるように前記出力軸の回転を制御するモータである。
【0026】
各種の機構を動かす動力源であって、自身の出力軸の回転数又は回転角度を制御できるものとして、上記のサーボモータ以外にパルスモータが考えられる。パルスモータは、ステータに供給するパルス電流を制御することにより、出力軸と一体なロータの回転数又は回線角度を制御するモータである。本発明のようにX線検出器を順方向と逆方向との両方向へ回転させながら、その両方向において測角及びX線回折測定を行う場合には、順方向と正方向とで正確な角度決めが行われなければならない。
【0027】
パルスモータを用いる場合には、パルスモータに内蔵される機構のバックラッシュ等のために、ステータに一定のパルス電流が供給された場合でも順方向回転と逆方向回転とで出力軸の回転角度が異なってしまうことがある。これに対し、サーボモータを用いた場合には、その出力軸の角度決めを順方向回転と逆方向回転とで正確に一致させることができる。従って、本発明の場合には、動力源としてサーボモータを用いることが望ましい。
【0028】
本発明の好ましい実施態様においては、前記環境変化手段は、前記試料軸線を含む空間の温度を変化させる温度制御手段、前記試料軸線を含む空間の湿度を変化させる湿度制御手段、及び前記試料軸線を含む空間の圧力を変化させる圧力制御手段の少なくとも1つである。
【0029】
この構成により、温度変化、湿度変化、及び圧力変化にさらされる試料に関して、順方向及び逆方向の両方向の2θ回転によるX線測定を連続して行うことにより、それらの環境変化中で中断の少ないデータを得ることができる。
【0030】
本発明の好ましい実施態様においては、前記画像表示手段は前記環境変化手段によって行われる環境変化を画面上に画像として表示し、前記制御手段は前記強度演算手段の出力データの画像表示と前記環境変化の画像表示とを互いに関連付けて表示させる。環境変化とは、例えば温度変化、湿度変化、圧力変化等である。これらの環境変化がX線強度データと同時に表示されれば、X線強度データを多様な観点から正確に分析できる。
【発明の効果】
【0031】
本発明に係るX線分析装置によれば、順方向測定と逆方向測定とを交互に連続して繰り返して行うので、X線検出器を初期位置へ戻すための戻り時間が不要となり、X線回折測定を中断させるのは測定方向を順方向と逆方向との間で反転させるための短時間だけであり、それ故、温度変化等といった環境変化を伴ったX線測定の中断をできる限り抑えることが可能となった。
さらに、本発明のX線分析装置では、順方向データと逆方向データとが共通の角度座標軸上に表示されるので、それらのデータの分析を正確且つ迅速に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明に係るX線分析装置の一実施形態の構造の概略を示す図である。
【図2】図1のX線分析装置の制御系を示すブロック図である。
【図3】図2の制御系によって実行される制御の流れを示すフローチャートである。
【図4】図2の制御系で用いられるメモリ内のデータ記憶例を示す図である。
【図5】図2の制御系で用いられるディスプレイの表示例を示す図である。
【図6】図5の表示例に引き続く表示例を示す図である。
【図7】図6の表示例に引き続く表示例を示す図である。
【図8】順方向及び逆方向の両方向表示を行った表示例を示す図である。
【図9】順方向表示だけを行った表示例を示す図である。
【図10】逆方向表示だけを行った表示例を示す図である。
【図11】順方向表示と逆方向表示との切り替え状況を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
(第1実施形態)
図1に示す本実施形態のX線分析装置1は、X線分析と熱分析との両方を同時に行う装置である。本実施形態では、X線分析としてX線回折を利用した分析を行い、熱分析としてDSC(Differential Scanning Calorimetry)分析を行うものとする。なお、本発明との関係では、DSC測定を行うことは必須の要件ではない。そして、DSC測定に伴って試料に加えられる温度変化及び湿度変化が本発明における環境変化に相当する。
【0034】
X線分析装置1は、隔壁によって内部が外部から隔てられている試料室2を有している。試料室2は、その内部を外部から気密及び液密に隔てていることが望ましい。試料室2は、例えばステンレス鋼等といった金属製の隔壁によって形成されている。試料室2の周囲には、検出器回転装置としてのθ−θゴニオメータ(θ−θ測角器)3が設けられている。
【0035】
試料室2の外部の一方にX線源6が設けられ、反対側の外部にX線検出器7が設けられている。X線源6は、ゴニオメータ3に設置されているアームに支持されている。X線検出器7は、ゴニオメータ3に設置されている他のアームに支持されている。X線検出器7は、例えばSC(Scintillation Counter)等のような位置分解能を持たない0次元カウンタや、X線受光素子を2θ角度走査方向に沿って直線的に並べて成る半導体センサ等が用いられる。
【0036】
θ−θゴニオメータ3は分析の対象である試料4を試料軸線ω上に回転しない状態で、すなわち固定状態で支持している。試料4を置く面は水平状態となっている。試料軸線ωは試料4のX線照射面を通る仮想線であり、図1において紙面を貫通する方向(通常は水平方向)に延びる仮想直線である。X線源6の中心と試料4の中心とを結ぶ直線が入射側のX線光軸である。試料4の中心とX線検出器7のX線取込み領域の中心とを結ぶ直線が受光側のX線光軸である。
【0037】
θ−θゴニオメータ3は、X線源6とX線検出器7とを試料軸線ωを中心として基準0°位置(通常は、水平方向)から互いに逆方向へ同じ角度θだけ回転させる。これらの回転により、試料4へ入射するX線の入射角度θを測角(すなわち、角度の位置決めを)すると共に、X線検出器7のX線取込口が試料4の中心を見込む線が入射側X線光軸の延長線となす角度2θを測角する。角度2θはX線入射角度θの2倍の角度である。
【0038】
試料軸線ωを中心とするX線検出器7の回転は、X線源6の回転に対して、回転方向が逆で回転角度が同じ回転である。よって、X線源6が角度θだけ回転するときX線検出器は逆方向へ同じ角度θだけ回転する。この場合、X線検出器7の回転は試料4から回折角度2θで発生する回折線をX線検出器7のX線取込口によって検出するための回転であるので、本明細書ではこのX線検出器7の回転を2θ回転ということにする。
【0039】
本実施形態において2次X線は回折線であるが、仮に、X線分析がX線散乱を利用する分析であれば2次X線は散乱線であり、X線分析が蛍光X線を利用する分析であれば2次X線は蛍光X線である。
【0040】
ゴニオメータ3は、制御手段としての主制御装置12からの指令に従って角度θ及び角度2θを測角する。X線検出器7は試料4から出た回折線を検出して、その回折線の強度を表す電気信号であるX線強度信号S0を出力する。X線強度信号S0そのものがX線強度を示す信号であっても良いし、後述するCPUが後述する測定制御プログラムに従って動作してX線強度信号S0に基づいてX線強度を演算する構成であっても良い。
【0041】
ゴニオメータ3は、例えば、動力源としてのサーボモータと、サーボモータの回転動力をX線源6のθ回転へ変換する動力伝達手段と、サーボモータの回転動力をX線検出器7の2θ回転へ変換する動力伝達手段とを有している。動力伝達手段としては、例えば、ウオームとウオームホイールとから成る機構を用いることができる。
【0042】
サーボモータは、周知の通り、出力軸の回転角度又は回転速度をエンコーダ等によって検出し、その検出結果を入力電流にフィードバックして所望の出力を得るモータである。出力軸の回転角度等を制御できるモータとしてサーボモータ以外にパルスモータが知られている。このパルスモータは、パルス状の電流をモータへ供給することによって出力軸の回転角度等を制御するモータである。
【0043】
サーボモータもパルスモータも出力軸を正回転及び逆回転させることができるが、パルスモータは内部機構のバックラッシュ等のために正回転時の出力軸角度と逆回転時の出力軸角度とがずれる可能性がある。一方、サーボモータは正・逆回転時の出力角度ずれが生じない。後述のように、本実施形態では、X線検出器7に関する2θ回転を正逆両方向で行うものであり、従って、それらの両方向で正確な角度決めを行うことができるサーボモータは有利である。
【0044】
試料室2を構成している隔壁のうち、入射X線及び2次X線の進行経路と交わる部分には、X線の進行を許容し、内部の気密状態及び液密状態を維持できる材質及び構造のX線透過窓が予め設けられている。
【0045】
試料4に隣接して標準物質8が置かれている。試料4が周囲の温度変化に応じて特性が変化(例えば、溶解による特性変化)する物質であるのに対し、標準物質8は温度変化に対して特性が変化しない物質である。
【0046】
試料室2の内部に、温度センサ9及び湿度センサ11が設けられている。温度センサ9は試料4及び標準物質8の温度を検出して電気信号である温度信号S1として出力する。湿度センサ11は試料4及び標準物質8の周囲の湿度を検出して電気信号である湿度信号S2として出力する。温度信号S1及び湿度信号S2は主制御装置12へ伝送される。
【0047】
試料室2には、DSC測定回路14、温度制御装置16、及び湿度制御装置17が付設されている。DSC測定回路14は、試料4及び標準物質8のそれぞれの近傍に配置された熱量検出素子(例えば、熱電対の測温点)を有している。DSC測定回路14は、これらの検出素子を用いて試料4と標準物質8とのそれぞれへ流入する熱量(すなわち、熱流量)の差を検出する。DSC測定回路14はこの熱流量を電気信号である熱量信号S3として主制御装置12へ伝送する。
【0048】
温度制御装置16は、主制御装置12からの指令に従って作動して、試料室2の内部の温度(すなわち、試料4及び標準物質8の周囲の温度)を制御する。温度制御装置16は、例えば通電によって発熱するヒータや、冷却器等を用いて構成されている。冷却器が用いられない場合もある。湿度制御装置17は、主制御装置12からの指令に従って作動して、試料室2の内部の湿度(すなわち、試料4及び標準物質8の周囲の湿度)を制御する。主制御装置12の出力ポートには画像表示装置としてのディスプレイ23が接続されている。ディスプレイ23は、例えば液晶表示装置によって構成されている。
【0049】
主制御装置12は、例えば図2に示すように、CPU(Central Processing Unit:中央処理装置)18、ROM(Read Only Memory)19、RAM(Random Access Memory)21、及びメモリ22を有するコンピュータによって構成されている。図2と図1とにおいて同じ機器は同じ符号を用いて示されている。メモリ22は、半導体メモリや、CD(Compact Disk)等といった機械式メモリ、その他任意の構成の記憶媒体によって構成されている。1種類の記憶媒体に限られず、複数種類の記憶媒体によってメモリを構成しても良い。
【0050】
メモリ22内には、図1のX線分析装置1の動作を規定する測定制御プログラム24や、ディスプレイ23の画面上に画像を表示させるための画像信号を生成する画像表示プログラム26が格納されている。また、メモリ22内には、測定データ記憶ファイル28、解析データ記憶ファイル29等の各種ファイル領域が設けられている。
【0051】
測定データ記憶ファイル28は、X線分析測定及び熱分析測定によって得られたデータであって二次的な処理を受けていないデータ(以下、生データということがある)を記憶するためのファイルである。解析データ記憶ファイル29は、生データに解析処理が加えられた後のデータ(以下、解析データということがある)を記憶するためのファイルである。解析処理は、例えば、回折プロファイルのピーク処理、回折プロファイルのバックグラウンド処理等である。
【0052】
X線分析測定の測定条件としては、(1)図1における回折角度2θの測定開始角度及び測定終了角度、(2)開始角度から終了角度までのX線検出器7の走査移動の移動速度、(3)X線検出器7によって1つの2θ角度に対してX線を蓄積させる時間であるサンプリング時間等がある。
【0053】
熱分析測定の測定条件としては、例えば、目標温度の設定と温度上昇速度の設定がある。また、その他の測定条件としては、例えば、目標湿度の設定と湿度上昇速度の設定がある。
【0054】
X線分析測定は、例えば、以下のような手順で行われる。すなわち、図1において、温度制御装置16を作動させて、試料4の周囲の温度を所望の状態で経時的に変化させる。他方、湿度制御装置17を作動させて、試料4の周囲の湿度を所望の湿度に設定する。これにより、試料4を所望の温度下及び湿度下に置く。
【0055】
次に、X線源6から発生したX線をスリット、モノクロメータ等といったX線光学要素を介して試料4へ照射する。X線入射角度θ及びX線検出器7による回折線取込み角度2θを、所定の走査移動速度で開始角度から終了角度まで走査移動させる。そのX線検出器7の走査移動の間、決められたサンプリング時間ごとに回折線の強度I(2θ)を検出する。回折線強度I(2θ)は、回折角度2θの開始角度から終了角度までの各回折角度値ごとの強度値である。この回折線強度I(2θ)がX線検出器7からX線強度信号S0として出力される。
【0056】
熱分析測定は、例えば、以下のような手順で行われる。図1において、試料4及び標準物質8が所望の温度下及び湿度下に置かれた状態において、試料4に流入する熱量と標準物質8に流入する熱量との差をDSC測定回路14によって経時的に検出する。つまり、熱流入量の差を時間の経過に対応して検出する。この熱流入量の差がDSC測定回路14から熱量信号S3として出力される。
【0057】
以下、図2の測定制御プログラム24及び画像表示プログラム26によって実現される測定を、図3のフローチャートを用いて説明する。
まず、ステップS1において、装置の初期化を行う。初期化の条件は、例えば図2のメモリ22内の所定領域やROM19内に記憶されている。次に、ステップS2において、必要に応じて測定者の指示に従って条件設定を行う。初期値のままで良い場合は条件設定工程S2において条件の変更を行わない。
【0058】
なお、本実施形態では、次の条件で測定を行うものとする。
(1)試料室2内の温度を温度制御装置16によって所定の条件で変化させる。
(2)試料室2内の湿度を湿度制御装置17によって所定の条件で変化させる。
(3)X線検出器7のX線取込み角度2θを第1角度2θ=5°から第2角度2θ=40°の間で所定の角速度又は所定のステップ角度で変化させる。角度が増加する方向を順方向といい、角度が減少する方向を逆方向といい、5°と40°との間の順方向の走査回転と逆方向の走査回転とを(すなわち往復の走査回転を)連続して繰り返して行う。
【0059】
測定条件が設定された後、測定者によって測定開始の指示があったかどうかがステップS3において判定され、あった場合(ステップS3でYES)には、ステップS4において測定開始の指令を発生する。
【0060】
すると、図1において、温度制御装置16の作用により試料室2の内部領域が所定の条件通りに温度制御され、湿度制御装置17の作用により試料室2の内部領域が所定の条件通りに湿度制御される。さらに、ゴニオメータ3の作用により、試料4へのX線入射角度θ及びX線検出器7による試料4からの回折線の取込み角度2θが所定の条件通りに角度制御される。これらの制御の結果、X線検出器7から回折線強度データS0=I(2θ)が得られ、DSC測定回路14から熱流量データ(DSCデータ)S3が得られる。
【0061】
得られたこれらのデータはステップS5において図2の測定データ記憶ファイル28へ記憶される。なお、図4に示すように、これらのI(2θ)データ及びDSCデータは測定開始からの経時時間tとの関連で記憶される。経時時間tは試料の温度変化T及び回折角度2θの変化と関連しているので、回折線強度データI(2θ)は回折角度2θの変化及び試料温度Tの変化と関連している。また、DSC熱量データは試料温度Tの変化と関連している。さらに、測定された湿度データHも経過時間tとの関連で記憶される。
【0062】
なお、各データは、X線検出器7が順方向移動する場合と逆方向移動する場合との両方で得られるが、測定データ記憶ファイル28は、各データを順方向と逆方向とに区別して記憶する。図4では、順方向時のデータを「順」で示し、逆方向時のデータを「逆」で示している。
【0063】
測定者によってデータを表示する旨の指示があった場合(ステップS6でYES)には、測定によって得られたデータを図1のディスプレイ23の画面上に表示する。具体的には、順方向測定時のデータ及び逆方向測定時のデータの両方を同時に表示することと、順方向測定時のデータだけを表示することと、逆方向測定時のデータだけを表示すること、との3種類の表示態様のいずれかを選択して表示を行う。この選択を可能とするため、図5に示す測定結果画面34の所定位置、実施形態では画面上部の中央よりやや右側の位置、に表示選択用アイコン43を画像表示している。
【0064】
なお、測定結果画面34において、左側の部分36はX線測定の結果を表示する領域であり、右側の部分37はDSC測定の結果を表示する領域である。X線測定結果表示36には、横軸に回折角度2θをとり、縦軸に回折線強度Iをとった座標が表示されており、この座標上にX線測定の結果である回折線プロファイル35が表示される。回折線プロファイル35は横軸目盛りの第1角度2θ=5°から第2角度2θ=40°の2θ角度走査領域にわたって横方向へ延びている。
【0065】
DSC測定結果表示37には、横軸に熱量(Heat Flow/mW)、温度(Temperature/℃)、及び湿度(%)のそれぞれをとり、縦軸に経過時間(min)をとった座標が表示されており、この座標上にDSC測定の結果であるDSC曲線38が表示され、さらにDSC測定及びX線測定の試料温度条件である温度変化曲線39が表示されている。
【0066】
表示選択用アイコン43は、順方向表示指示手段としての順方向表示アイコン43a、逆方向表示指示手段としての逆方向表示アイコン43b、及び両方向表示指示手段としての両方向表示アイコン43cを含んでいる。これらのアイコンは入力装置であるマウスによって操作されるポインタ表示によって選択できる。初期状態においてはいずれかのアイコン、例えば両方向表示アイコン43cが選択されるものとする。
【0067】
図3のステップS7及びS8の一連の処理、S9及びS10の一連の処理、あるいはS11及びS12の一連の処理のように、アイコン43a,43b,43cのいずれかが選択されることにより、それぞれに対応する順方向データ、逆方向データ又は両方向データの画像データが生成され、さらに、ステップS13においてそれらのデータに基づいて画面上に画像が表示される。
【0068】
本実施形態では、ステップS8,S10,S12に示すように、CPU18は、測定データが得られる毎に、そのデータを画像表示するための画像データを生成し、その画像データをステップS13において画像表示ドライバへ伝送する。従って、本実施形態では、測定によって得られたデータが図1のディスプレイ23の画面上に直ぐに、すなわちリアルタイムに表示される。
【0069】
例えば、今、両方向表示アイコン43cが選択された状態で、2θ=5°から2θ=40°への順方向のX線回折測定と、2θ=40°から2θ=5°への逆方向のX線回折測定とが交互に連続して繰り返して行われると、図3のステップS11、S12、S13の工程が行われ、まず、図5に示すように順方向の第1回目の回折線プロファイル35a、DSC曲線38及び温度変化曲線39が測定と同時に表示されてゆき、次に、図6に示すように逆方向の第1回目の回折線プロファイル35b、DSC曲線38及び温度変化曲線39が測定と同時に表示されてゆき、さらに、図7に示すように順方向の第2回目の回折線プロファイル35c、DSC曲線38及び温度変化曲線39が表示されてゆく。
【0070】
以上のような測定が繰り返して行われた後、測定終了条件に達した時点で(例えば、試料温度が所定の温度に到達した時点で)(図3のステップS16でYES)、測定終了の指令が発生され(ステップS17)、X線回折測定及び熱分析測定が終了する。こうして、全ての測定が終了すると、測定結果画面34には図8に示すように、測定によって得られた全ての測定データが測定結果画面34上に表示される。
【0071】
なお、測定者がデータの解析、例えばバックグランド軽減処理やピークサーチ処理、を希望する場合(ステップS18でYES)には、得られたデータに対して希望された解析を行い、さらに解析によって得られたデータ、すなわち解析データを図2の解析データ記憶ファイル29へ記憶する(ステップS19)。図3のフローチャートには示されていないが、得られた解析データは測定者からの指示に従って図8と同様の表示形態で表示される。
【0072】
表示選択用アイコン43のうちの両方向表示アイコン43cを選択することに替えて、順方向表示アイコン43aを選択すると、図3のステップS7、S8、S13の工程が実行され、図9に示すように、X線測定結果表示36内に順方向の測定データだけが選択的に表示され、逆方向の測定データの表示が省略される。DSC曲線38及び温度変化曲線39はそれらの全領域が表示される。
【0073】
他方、表示選択用アイコン43のうちの逆方向表示アイコン43bが選択されると、図3のステップS9、S10、S13の工程が実行され、図10に示すように、X線測定結果表示36内に逆方向の測定データだけが選択的に表示され、順方向の測定データの表示が省略される。DSC曲線38及び温度変化曲線39はそれらの全領域が表示される。
【0074】
次に、図5から図10に示した測定結果画面34の性質について図8を用いて説明する。図1において、回折角度2θの第1角度2θ=5°と第2角度2θ=40°との間の順方向及び逆方向のX線回折測定が連続して繰り返して行われる。これにより、図8のX線測定結果表示36内に1回ごとの回折線プロファイル35が縦軸方向で間隔を空けて互いに平行に描かれる。
【0075】
各回のX線回折測定が繰り返して行われる間、すなわち図8において各回折線プロファイル35が順々に描画されて行く間、試料4の周囲温度は、DSC測定結果表示37の温度変化曲線39のように変化している。従って、温度変化曲線39が垂直(同じ温度を維持する状態)でない場合は、各回のX線回折測定は異なった温度条件の下で行われたことになる。
【0076】
本実施形態では、各回折線プロファイル35と、そのプロファイルが得られたときの温度範囲と、その温度範囲に対応したDSC測定結果との各要素が、互いに関連付けて表示されている。具体的には、各回折線プロファイル35は、その回折線プロファイル35が測定されたときの温度変化曲線39上における試料温度範囲に対してグラフの横軸に沿った方向における横位置に表示されている。
【0077】
より具体的には、DSC測定結果表示37の縦軸(時間軸)上の時刻は、DSC曲線38及び温度変化曲線39の時刻データを示している。そして、各回折線プロファイル35のベースラインが順方向及び逆方向の各1回ごとの測定の測定開始時刻に一致している。つまり、各回折線プロファイル35のベースラインを破線で示すように右方向へ延長したとき、その延長線がDSC測定結果表示37の縦軸(時間軸)と交わる時刻が各回折線プロファイル35の測定開始時刻を示している。
【0078】
DSC曲線38及び温度変化曲線39は、いずれも、DSC測定結果表示37の縦軸(時間軸)に基づいて表示されているので、各回折線プロファイル35のベースラインがDSC測定結果表示37の縦軸上の時刻に一致しているということは、各回折線プロファイル35の開始時刻における温度が、回折線プロファイル35のベースラインと温度変化曲線39との交点で示される温度であるということである。また、各回折線プロファイル35の開始時刻におけるDSC測定データが、回折線プロファイル35のベースラインとDSC曲線38との交点で示される値であるということである。
【0079】
そして、各回折線プロファイル35の開始(順方向測定であれば2θ=5°、逆方向測定であれば2θ=40°)から終了までの温度変化は、各回折線プロファイル35のベースラインと温度変化曲線39との交点から当該回折線プロファイル35の終了までの時間分の温度変化曲線39の一部分ということになる。また、各回折線プロファイル35の開始から終了までのDSC特性は、各回折線プロファイル35のベースラインとDSC曲線38との交点から当該回折線プロファイル35の終了までの時間分のDSC曲線38の一部分ということになる。
【0080】
例えば、図8の矢印Aで示す下から8番目の1つの回折線プロファイル35を考えた場合、そのベースラインと温度変化曲線39とが交わる点から始る所定部分Cが、当該回折線プロファイル35に対応した温度変化部分である。また、回折線プロファイル35のベースラインとDSC曲線38とが交わる点から始る所定部分Dが、当該回折線プロファイル35に対応したDSC変化部分である。
【0081】
仮に、各回折線プロファイル35の2θ=5°〜40°の間の各角度位置を時間軸に正確に一致させることにすると、各回折線プロファイル35は、順方向プロファイルの場合は右上がりのプロファイル(すなわち、2θの増加に従って時間経過分だけ上方へ上がるプロファイル)になり、逆方向プロファイルの場合は左上がりのプロファイル(すなわち、2θの減少に従って時間経過分だけ上方へ上がるプロファイル)になるはずである。しかしながら、本実施形態の表示方法では、各回折線プロファイル35の測定開始点だけを時間軸上の時刻に一致させ、各回折線プロファイル35のベースラインは横軸(2θ角度軸)と平行に表示している。これにより、X線測定結果表示36が見易くなっている。
【0082】
なお、各回折線プロファイル35においてDSC測定結果表示37の縦軸の時刻と一致させる点は、測定開始点に限られず、中央点又は任意の中間点であっても良く、あるいは測定終了点であっても良い。
【0083】
以上の説明から明らかなように、DSC測定結果表示37においてDSC曲線38及び温度変化曲線39は縦軸(時間軸)に従っており、X線測定結果表示36において各回折線プロファイル35の縦軸方向の位置もDSC測定結果表示37の縦軸(時間軸)に従っている。従って、各回折線プロファイル35は、とりもなおさず、各プロファイルを右横方向へ水平に延長させたときの温度変化曲線39及びDSC曲線38との交点又は交差領域と対応関係にある。
【0084】
従って、例えば、一番下の回折線プロファイル35aが温度22.0℃〜23.0℃の温度範囲内で作成され、下から2番目の回折線プロファイル35bが温度23.0℃〜24.0℃の温度範囲内で作成されたものであるならば、一番下の回折線プロファイル35aは温度変化曲線39のうちの22.0℃〜23.0℃の部分の横方向に描かれ、下から2番目の回折線プロファイル35bは温度変化曲線39のうちの23.0℃〜24.0℃の部分の横方向に描かれる。
【0085】
以上から理解されるように、X線測定結果表示36において、縦軸に目盛られたX線強度(Intensity)の数値は、それらの数値の横に描かれている個々の回折線プロファイル35の各ピークの強度値を直接的に示しているのではなく、各回折線プロファイル35のピークの高さがX線強度のいくつの大きさに相当するのかを間接的に示している。本実施形態では、個々の回折プロファイル35における個々のピーク強度の厳密な大きさを知ることが重要なのではなく、各回折線プロファイル35間でのピーク発生位置の違いや、大体のピーク強度の違いが分かれば十分であるので、本実施形態のX線測定結果表示36のような表示の仕方は測定者にとって非常に便宜的である。
【0086】
次に、本実施形態では、測定結果を測定者が正確に把握できるようにするために、測定者が測定結果画面34に対して所定の画面処理を行う旨の指示をした場合(図3のステップS14でYES)、ステップS15へ進んで所定の画面処理プログラムが実行されるようになっている。具体的には、任意の回折線プロファイル35、例えば図8の矢印Aで示す回折線プロファイル35を測定者がポインタで指示して、さらに入力装置であるマウスのボタンをクリック(選択)すると、その回折線プロファイル35が他の回折線プロファイル35よりも太線(又は異なる色)で表示される。
【0087】
そして、選択された回折線プロファイル35の右横には、その回折線プロファイル35が得られたときの温度範囲が、例えば「108.0−110.2」のように数値表示(矢印B)され、同時に、温度変化曲線39の対応温度範囲部分C及びDSC曲線38の対応DSC部分Dも太線(又は異なる色)で表示される。さらに、もう一度クリックを行うと、選択は解除され、太線は解消されて通常の太さに戻る。
【0088】
また、逆に、温度変化曲線39の一部分C又はDSC曲線38の一部分Dをクリックすると、それらの部分が選択されたものとみなされて太線(又は異なる色)で表示され、同時に、対応する回折線プロファイル35が太線(又は異なる色)で表示される。そしてさらに、その選択表示された回折線プロファイルの右横に温度範囲が数値で表示される。
【0089】
以上のように、回折線プロファイル35と温度変化曲線39とDSC曲線38とが視覚上で関連付けて表示されていることと、対応関係を知りたいと思っている部分をクリック指示することにより、太線表示や数値表示によって各曲線間の対応関係が容易、迅速、明確に認識できることにより、試料4の結晶構造や特性を容易且つ正確に判定できる。
【0090】
本実施形態では、図8に示す両方向表示と、図9に示す順方向表示と、図10に示す逆方向表示とを、表示選択用アイコン43を用いたスイッチの切り替え操作により切り替えられるようにしている。以下、この表示切替処理について説明する。
【0091】
図11(a)は両方向表示が行われた場合を模式的に分かり易く示している。この例では、回折角度2θ=αのところに回折ピークが生じる試料が測定に供されている。そして、温度変化が100℃から148℃まで一定の温度上昇勾配で行われ、その温度変化の間に順方向でのX線回折測定が3回行われ(プロファイル35a,35c,35e)、逆方向でのX線回折測定が2回行われている(プロファイル35b,35d)。順方向と逆方向とで反転が行われる際、その反転に要する時間で温度が2℃上昇するものと仮定している。
【0092】
以上の条件の下、第1回目の順方向測定が100℃〜108℃の温度変化の間に行われ、その後、温度が108℃から110℃まで上昇した時点で第1回目の逆方向測定が連続的に開始される。その逆方向測定が110℃〜118℃の温度変化の間に行われ、その後、温度が118℃から120℃まで上昇した時点で第2回目の順方向測定が連続的に開始される。
【0093】
その順方向測定が120℃〜128℃の温度変化の間に行われ、その後、温度が128℃から130℃まで上昇した時点で第2回目の逆方向測定が連続的に開始される。その逆方向測定が130℃〜138℃の温度変化の間に行われ、その後、温度が138℃から140℃まで上昇した時点で第3回目の順方向測定が連続的に開始される。その順方向測定は140℃〜148℃の温度変化の間に行われる。
【0094】
従来のように順方向だけの測定を行い、各測定間でX線検出器を開始角度位置まで戻り移動させるようにした測定方法では、X線検出器が戻り移動するときにはX線回折測定を中断せざるを得ず、その温度変化間のX線回折測定データが得られなかった。これに対し、本実施形態によれば、順方向測定と逆方向測定とを交互に連続して繰り返して行うので、X線検出器を初期位置へ戻すための戻り時間が不要となり、X線回折測定を中断させるのは測定方向を順方向から逆方向へ反転させるための短時間だけである。従って、X線測定の中断をできる限り抑えることが可能となった。
【0095】
ところで、既に説明したように、各回折線プロファイル35a〜35eのベースラインは測定開始時点の温度の位置に合わされている。すなわち、順方向第1回目のプロファイル35aの開始点(左端点)は100℃を示す位置に表されている。逆方向第1回目のプロファイル35bの開始点(右端点)は110℃を示す位置に表されている。
【0096】
順方向第2回目のプロファイル35cの開始点(左端点)は120℃を示す位置に表されている。逆方向第2回目のプロファイル35dの開始点(右端点)は130℃を示す位置に表されている。そして、順方向第3回目のプロファイル35eの開始点(左端点)は140℃を示す位置に表されている。
【0097】
プロファイルの右端位置における順方向測定の終了から逆方向測定の開始までの間、及びプロファイルの左端位置における逆方向測定の終了から順方向測定の開始までの間の温度上昇は2℃と設定しているが、2θ角の走査方向の折り返しに要する時間を短く設定すれば、その折り返し時の温度上昇をより小さくすることができる。
【0098】
順方向測定時に現れる回折線ピークと逆方向測定時に現れる回折線ピークとの2θ角度位置は試料が同じであるので、当然に同じ角度位置である。しかしながら、順方向測定と逆方向測定とを反転させながら連続して行うと、それらの測定において回折線ピークが現れる時点での温度条件は変化している。
【0099】
具体的には、順方向1回目のプロファイル35aにおいてピークが発生したときの温度は106℃であり、逆方向1回目のプロファイル35bにおいてピークが発生したときの温度は112℃であり、順方向2回目のプロファイル35cにおいてピークが発生したときの温度は126℃であり、逆方向2回目のプロファイル35dにおいてピークが発生したときの温度は132℃であり、そして順方向3回目のプロファイル35eにおいてピークが発生したときの温度は146℃である。
【0100】
従って、両方向表示において、順方向時のピークが出てから逆方向時のピークが出るまでの温度差は6℃であり、他方、逆方向時のピークが出てから順方向時のピークが出るまでの温度差は14℃である。このように、複数の回折線プロファイル35においてピークが発生する温度が互いに隣接するプロファイル間で異なっているということは、通常の一般的な分析においては問題にはならないが、温度変化に対する試料の構造変化を学術的に厳密に分析したい場合には、最良のデータとは言い難い。
【0101】
そのように厳密な分析を行う場合には、例えば、図11(b)のように順方向表示アイコン43aを選択してクリックすることにより、順方向プロファイル35a,35c,35eだけを画像表示し、逆方向プロファイル35b,35dを削除する。あるいは、例えば、図11(c)のように逆方向表示アイコン43bを選択してクリックすることにより、逆方向プロファイル35b,35dだけを画像表示し、順方向プロファイル35a,35c,35eを削除する。
【0102】
図11(b)や図11(c)のグラフを見れば、各プロファイルのピーク発生時の温度の差はいずれの場合でも20℃の均等になるので、各ピークの発生角度と温度環境との関係を厳密に分析することが可能となる。すなわち、得られた測定結果の分析を正確且つ迅速に行うことが可能となる。
【0103】
(その他の実施形態)
以上、好ましい実施形態を挙げて本発明を説明したが、本発明はその実施形態に限定されるものでなく、請求の範囲に記載した発明の範囲内で種々に改変できる。
【0104】
例えば、上記実施形態では、環境変化手段として温度制御装置16について説明した。しかしながら、図1の湿度制御装置17を環境変化手段と考え、湿度変化に対する試料の構造変化をX線回折測定によって分析することもできる。さらには、試料室2内の圧力を変化させる圧力制御装置を試料室2に付設して、圧力変化に対する試料の構造変化をX線回折測定によって分析することもできる。さらには、温度変化、湿度変化、及び圧力変化の組合せの環境変化に対する試料の構造変化をX線回折測定によって分析することもできる。
【0105】
上記実施形態では、X線源6を含む入射側光学系とX線検出器7を含む受光側光学系とを試料軸線ωを中心として互いに逆方向へ同じ角度θだけ回転移動させながら試料4からの回折線をX線検出器7によって検出する構成であるゴニオメータ、すなわちθ−θゴニオメータを例示した。これに代えて、X線源6を含む入射側光学系を回転しないように固定し、試料4を試料軸線ωを中心としてθ回転させ、X線検出器7を含む受光側光学系を試料軸線ωを中心としてθ回転と同じ方向へ2倍の角速度で回転させながら、試料4からの回折線をX線検出器7によって検出する構成であるゴニオメータ、すなわちθ−2θゴニオメータを用いることもできる。
【符号の説明】
【0106】
1.X線分析装置、 2.試料室、 3.ゴニオメータ(検出器回転装置)、 4.試料、 6.X線源、 7.X線検出器、 8.標準物質、 9.温度センサ、 11.湿度センサ、 12.主制御装置(制御手段)、 14.DSC測定回路、 16.温度制御装置、 17.湿度制御装置、 18.CPU、 19.ROM、 21.RAM、 22.メモリ、 23.ディスプレイ(画像表示装置)、 24.測定制御プログラム、 26.画像表示プログラム、 28.測定データ記憶ファイル、 29.解析データ記憶ファイル、 34.測定結果画面、 35.回折線プロファイル、 36.X線測定結果表示、 37.DSC測定結果表示、 38.DSC曲線、 39.温度変化曲線、 43.表示選択用アイコン、 43a.順方向表示アイコン、 43b.逆方向表示アイコン、 43c.両方向表示アイコン、 ω.試料軸線、 S0.X線強度信号、 S1.温度信号、 S2.湿度信号、 S3.熱量信号

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料軸線上に置かれた試料にX線を照射したときに該試料から出たX線をX線検出器によって検出するX線分析装置において、
前記試料に対する環境を変化させる環境変化手段と、
前記X線検出器を前記試料軸線を中心として回転移動させる検出器回転装置と、
前記X線検出器の出力信号に基づいてX線強度を演算する強度演算手段と、
前記強度演算手段の出力データを画面上に画像として表示させる画像表示手段と、
前記検出器回転装置、前記強度演算手段及び前記画像表示手段の動作を制御する制御手段と、を有し、
前記制御手段は、
前記検出器回転装置によって前記X線検出器を小さい第1角度と大きい第2角度との間で角度が増加する順方向及び角度が減少する逆方向へ交互に連続させて測角しながら回転移動させ、
前記強度演算手段によってX線強度を順方向時及び逆方向時の両方で演算させ、
順方向移動時のX線強度データを角度座標軸上の前記第1角度から前記第2角度へ向かって画面上で表示させ、逆方向移動時のX線強度データを同じ角度座標軸上の前記第2角度から前記第1角度へ向かって画面上で表示させる
ことを特徴とするX線分析装置。
【請求項2】
順方向表示と逆方向表示とを切り換えるための表示切替手段をさらに有し、
前記制御手段は、
前記表示切替手段によって順方向表示が選択された場合は順方向移動時のX線強度データを画面上に表示させ、逆方向移動のX線強度データは表示せず、
前記表示切替手段によって逆方向表示が選択された場合は逆方向移動のX線強度データを画面上に表示させ、順方向移動のX線強度データは表示しない
ことを特徴とする請求項1記載のX線分析装置。
【請求項3】
順方向表示だけを行わせるための順方向表示指示手段と、逆方向表示だけを行わせるための逆方向表示指示手段と、順方向及び逆方向の両方の表示を行わせるための両方向表示指示手段とを有し、
前記制御手段は、
両方向表示指示手段が選択された場合には、順方向移動時及び逆方向移動時のX線強度データを画面上に表示させ、
順方向表示指示手段が選択された場合には、順方向移動時のX線強度データを画面上に表示させ、逆方向移動のX線強度データは表示せず、
逆方向表示指示手段が選択された場合には、逆方向移動時のX線強度データを画面上に表示させ、順方向移動のX線強度データは表示しない
ことを特徴とする請求項1記載のX線分析装置。
【請求項4】
前記検出器回転装置はサーボモータを動力源として有しており、該サーボモータは自身の出力軸の回転速度を検出して信号を出力するエンコーダを有しており、前記サーボモータはエンコーダの出力が一定となるように前記出力軸の回転を制御するモータである
ことを特徴とする請求項1から請求項3記載のX線分析装置。
【請求項5】
前記環境変化手段は、
前記試料軸線を含む空間の温度を変化させる温度制御手段、
前記試料軸線を含む空間の湿度を変化させる湿度制御手段、及び
前記試料軸線を含む空間の圧力を変化させる圧力制御手段の少なくとも1つである
ことを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1つに記載のX線分析装置。
【請求項6】
前記画像表示手段は、前記環境変化手段によって行われる環境変化を画面上に画像として表示し、
前記制御手段は、前記強度演算手段の出力データの画像表示と前記環境変化の画像表示とを互いに関連付けて表示させる
ことを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか1つに記載のX線分析装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate


【公開番号】特開2010−203842(P2010−203842A)
【公開日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−48070(P2009−48070)
【出願日】平成21年3月2日(2009.3.2)
【出願人】(000250339)株式会社リガク (206)
【Fターム(参考)】