説明

X線源および蛍光X線分析装置

【課題】高効率で特性X線29を放出させることができ、放出する特性X線29へのノイズ成分の混入を抑え、シートビーム形状の特性X線29を容易に得られるX線源11を提供する。
【解決手段】真空容器12内に区画する区画部23を設ける。区画部23内には、電子銃14から電子ビーム15が入射して連続X線28を放出する1次ターゲット26を設け、1次ターゲット26から放出された連続X線28が入射して特性X線29を放出する2次ターゲット27を設ける。2次ターゲット27には、ボックス形で、電子ビーム15が通過する電子ビーム通過孔30を設け、電子ビーム通過孔30を設けた面に対して交差する面に特性X線29をシートビーム形状に規制して放出するX線通過孔31を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特性X線を放出するX線源、およびこのX線源を用いた蛍光X線分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的なX線源では、高電圧で加速した電子を陽極であるターゲットに入射することにより、制動X線とターゲット特有の特性X線とが放出される(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
制動X線は、連続的なエネルギスペクトルであって白色で構成され、そのスペクトル分布は入射する電子エネルギによって変化するのに対し、特性X線は、電子エネルギに依存せず、ターゲット固有の単一的なエネルギ分布の単色である。蛍光X線分析は、特性X線を試料に入射したときに放出される蛍光X線の信号のエネルギ分布を測定し、試料中の元素の種類、量を同定するものであるが、分析性能を高めるべく工夫された様々のX線源が利用されている。
【0004】
蛍光X線分析装置においては、既知のスペクトルを持つ特性X線を利用して試料を励起することによって、蛍光X線の信号と入射X線の散乱であるノイズ成分とを分別しやすくなり、高S/N比での元素分析が可能となることから、X線源から放出されるX線スペクトルを単色に近いものにする試みが試行され、その一部が実用に至っている。
【0005】
図11は、上述の特性X線を利用する高分解能の蛍光X線分析装置の一般的な構成例を示したものである。ここでは、一般的なX線源1を用いて、そのX線源1から放出させた連続エネルギスペクトルの1次X線である連続X線2を2次ターゲット3に入射し、特性X線4を放出させて外部に設置したコリメータ5を通して試料6に照射し、試料6の表面の元素を励起して発する蛍光X線7をX線検出器8で検出する構成としている。
【0006】
この構成における特性X線4の放出方式では、X線源1と2次ターゲット3とを離して設置しなければならない。連続X線2は全周方向である4π方向に放出され、その強度は距離の2乗に反比例して減少するため、従来の構成ではX線源1から放出される連続X線2で2次ターゲット3を照射する効率が低く、2次ターゲット3から放出される特性X線4の強度を高めるには、大出力のX線源1を備える必要が生じ、これにより高分解能の蛍光X線分析装置が大形化、電力消費量の増大、X線遮蔽規模の増加、さらに結果的にコスト増加を招き、普及に対する制約を強める要因となっている。例えば、非特許文献1参照。)。
【0007】
また、図12は、近年、試料6としての半導体ウェハの表面汚染検査を目的としての利用が著しい全反射蛍光X線分析(TXRF)を示したものであるが、特性X線4は、半導体ウェハ表面に対してできるだけ一定角度で、しかも0.1°以下の非常に浅い角度で入射する必要があるため、例えば扇状のファンビームのようなものも含むシートビーム形状が適している。
【特許文献1】特開2004−28845号公報(第4−5頁、図1−2)
【非特許文献1】蛍光X線分析の現状と展望 中井泉 応用物理 第74巻 第4号(2005年) 第455頁〜第456頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
高分解能の蛍光X線分析装置においては、特性X線を効率良く発生できることに加えて、放出されるX線スペクトル中に不要なノイズの成分を極力含まないこと、さらに分析対象に合わせて複数の特性X線を選べるようなX線源を提供することが最も重要な課題となっている。
【0009】
とりわけ、半導体分野で普及の著しい高分解能の全反射蛍光X線分析で要求される低ノイズつまり高単色性、シート状X線ビームが得られるX線源が求められている。
【0010】
本発明は、このような点に鑑みなされたもので、高効率で特性X線を放出させることができ、放出する特性X線へのノイズ成分の混入が抑えられ、かつ、例えば全反射蛍光X線分析に適するようなシートビーム形状の特性X線を容易に得られるX線源および蛍光X線分析装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明のX線源は、真空容器と、前記真空容器内で電子ビームを発生する電子銃と、前記真空容器内を区画する壁部、およびこの壁部に設けられ前記電子銃が発生する電子ビームが通過する電子ビーム通過孔を有する区画部と、前記区画部内に設けられ、前記電子ビーム通過孔を通過した電子ビームが入射してX線を放出する1次ターゲットと、前記区画部内に設けられ、前記1次ターゲットから放出されたX線が入射して特性X線を放出する2次ターゲットと、前記区画部に臨んで真空容器に設けられ、前記2次ターゲットから放出される特性X線を外部に放出するX線透過窓とを具備しているものである。
【0012】
また、本発明の蛍光X線分析装置は、特性X線を試料に照射する請求項1ないし7いずれか記載のX線源と、前記特性X線の照射にて試料の表面の元素が励起して発する蛍光X線を検出するX線検出器とを具備しているものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、真空容器内に1次ターゲットおよび2次ターゲットを内蔵して高効率で特性X線を放出させることができるX線源であり、放出する特性X線へのノイズ成分の混入が抑えられ、かつ、例えば全反射蛍光X線分析に適するようなシートビーム形状の特性X線を容易に得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照して説明する。
【0015】
図1ないし図3に第1の実施の形態を示す。
【0016】
X線源11は、内部が真空保持される真空容器12を有し、この真空容器12の一端側の側面にX線を外部に放出するX線透過窓13が配設されている。
【0017】
真空容器12の他端には電子銃14が配設され、真空容器12内に位置する電子銃14の端部に、真空容器12内の一端側へ向けて電子ビーム15を放出するエミッタであるフィラメント16が設けられている。フィラメント16は、ライン状に形成され、細長いライン形状の電子ビーム15を放出することができる。電子銃14は、駆動電源17によって電子ビーム15を発生、加速する。
【0018】
真空容器12内の一端側には、ボックス形のX線発生部21が区画されて形成されている。このX線発生部21には、真空容器12内を区画する壁部22によって区画部23が形成されている。壁部22の電子銃14に対向する面には、電子銃14が発生するライン状の電子ビーム15の形状に対応させてその電子ビーム15が容易に通過可能とするスリット状の電子ビーム通過孔24が形成されている。区画部23の電子ビーム通過孔24が設けられた面に対して交差する面にX線透過窓13が配設されている。
【0019】
区画部23内の電子ビーム通過孔24に対向する内面には1次ターゲット26が設けられ、区画部23内の内面で1次ターゲット26を除く大部分の内面にボックス形の2次ターゲット27が設けられている。
【0020】
1次ターゲット26は、電子ビーム通過孔24を通過した電子ビーム15が入射してX線である1次X線としての連続X線28を2次ターゲット27へ向けて放出する。
【0021】
2次ターゲット27は、1次ターゲット26から放出された連続X線28が入射して2次X線であるK線としての特性X線29を放出する。2次ターゲット27には、電子銃14が発生するライン状の電子ビーム15の形状に対応させてその電子ビーム15が容易に通過可能とするスリット状の電子ビーム通過孔30が形成され、この電子ビーム通過孔30が形成された面に対して交差する面であってX線透過窓13に対向する面に特性X線29を放出するX線通過孔31が形成されている。X線通過孔31は、連続X線28が混入せず、シートビーム形状の特性X線29を取り出せるように、細長いスリット状の孔形状に形成する。
【0022】
2次ターゲット27は、電子ビーム15の通過方向であって1次ターゲット26と2次ターゲット27との対向方向の間隔の狭い形状として、電子ビーム通過孔30から1次ターゲット26までの距離を短いものとする。この構成によって、1次ターゲット26から放出される連続X線28を広い角度で2次ターゲット27に入射させることが可能になり、2次ターゲット27の励起効率を高めることができる。
【0023】
2次ターゲット27の電子ビーム通過孔30を通過する電子ビーム15の形状に合わせて1次ターゲット26も細長いライン形状とし、高い強度の電子ビーム入射を行う場合には、水冷ジャケット32を備えたカソード構造物に1次ターゲット26を取り付けて除熱できる構成とする。
【0024】
そして、電子銃14に駆動電源17から電圧を印加することによって放出された電子ビーム15は、ボックス状の2次ターゲット27の電子ビーム通過孔30を通過し、それに対向して設置された1次ターゲット26に入射する。このとき、1次ターゲット26から放出された連続X線28が対向する2次ターゲット27を照射することによって、2次ターゲット27が励起されて特性X線29を放出する。2次ターゲット27の表面から浅い角度で放出される特性X線29の成分だけをX線通過孔31を通過するとともにX線透過窓13を通して外部に放出する。
【0025】
このように、利用しようとする特性X線29以外のノイズ成分の混入が抑制されたシートビーム形状の特性X線29が得られるX線源11を提供できる。
【0026】
なお、ボックス状の2次ターゲット27は、全ての構成材を2次ターゲット材とする必要は無く、例えば、ステンレスのような一般的な材料を主構成材として、連続X線28が入射する内表面部分だけに2次ターゲット材の箔を貼り付けたものやコーティングしたもので対応することができる。
【0027】
次に、図4に第2の実施の形態を示す。
【0028】
この実施の形態で、第1の実施の形態のX線源11において、1次ターゲット26a,26b,26cに複数の材質(元素)を用いて構成し、同時に連続X線28の照射を受ける対向する2次ターゲット27a,27b,27cに複数の材質(原子)を用いたものとする。
【0029】
X線による励起を利用する場合、2次ターゲット27を励起する連続X線28を放出する1次ターゲット26a〜26cは、2次ターゲット27a〜27cよりも原子番号で2程度大きな元素を用いて、それにより放出される特性X線29を利用することが最も効率良く、2次ターゲット27を励起することを可能とする。
【0030】
そのため、目的とする特性X線29を得るため、複数の2次ターゲット27a〜27cを用いる場合には、それぞれの元素を励起するのに最適な元素の1次ターゲット26a〜26cを選定する必要がある。
【0031】
一例として2次ターゲット27a〜27cとしてチタン(Ti:特性X線Kαエネルギ4.5keV)に対する1次ターゲット26a〜26cとしてはクロム(Cr:特性X線Kαエネルギ5.4keV)、2次ターゲットとしてモリブデン(Mo:特性X線Kαエネルギ17.5keV)に対する1次ターゲット26a〜26cとしてはロジウム(Rh:特性X線Kαエネルギ20.2keV)、2次ターゲット27a〜27cとしてガドリニウム(Gd:特性X線Kαエネルギ43keV)の対する1次ターゲット26a〜26cとしてはタンタル(Ta:特性X線Kαエネルギ57.5keV)などの組合せを採ることができ、これにより、Cr、Mo、Gdの3本の特性X線(4.5keV、17.5keV、43keV)29を同時に含んだX線ビームを放出させることができる。
【0032】
これにより、蛍光X線分析において、単一エネルギのX線によって励起する場合には、それによって励起できる元素の種類は限られてしまうことになるが、低エネルギから高エネルギの領域までカバーした複数の単色エネルギ成分を含むX線を使用することができ、元素分析の領域を広く採ることが可能となる。
【0033】
このように、ノイズ成分が少なく、かつ複数のエネルギの特性X線スペクトルを含んだ特性X線29を放出できるX線源11を提供できる。
【0034】
次に、図5に第3の実施の形態を示す。
【0035】
この実施の形態では、第2の実施の形態のX線源11において、複数の1次ターゲット26a〜26cと複数の2次ターゲット27a〜27cとの組み合せを含んだ構成のX線源11の動作方法についてのものである。
【0036】
1次ターゲット26a〜26cから放出される連続X線28が組合せとして選んだ2次ターゲット27a〜27cを最も効率良く励起しようとした場合、1次ターゲット26a〜26cを照射する電子ビーム15は、1次ターゲット26a〜26cから連続X線28が十分放出されるのに十分なエネルギを有したものであることが重要となる。
【0037】
一般的には、1次ターゲット26a〜26cのK線エネルギの2ないし3倍のエネルギの電子ビーム15で励起した場合、最も効率良く1次ターゲット26a〜26cの連続X線28を放出させることができ、これによって2次ターゲット27a〜27cの特性X線29も最も効率良く放出されることになる。
【0038】
また、反対に、1次ターゲット26a〜26cからの連続X線28が2次ターゲット27a〜27cのK殻吸収端エネルギに達しない場合には、2次ターゲット27a〜27cから特性X線29は放出できなくなる。
【0039】
このような特徴を利用し、選択する特性X線29のエネルギに合わせて電子ビーム15の加速電圧つまり電子ビーム15のエネルギを調整するような動作方法が可能となる。
【0040】
図5(a)(b)(c)(d)は、放出する特性X線29のスペクトル分布の制御方法を示したものである。電源電圧を高くし、高エネルギの電子ビーム15で励起した場合、ターゲットDなどに示すように、高原子番号の1次ターゲット26a〜26cの励起が最も効率良く行われ、それによる2次ターゲット27a〜27cから放出される特性X線29の強度を高くすることができ、逆に、ターゲットAなどに示すように、低原子番号の1次ターゲット26a〜26cからの放出される連続X線28は強度が低くなるので、組み合わせた2次ターゲット27a〜27cからの特性X線29の強度は低くなる。
【0041】
電源電圧を減少させていくことにより、今度は、ターゲットDやCなどに示すように、高エネルギ側の特性X線29のスペクトル強度が低下し、ターゲットCやBに示すように、低エネルギ側の特性X線29のスペクトル強度が増加してくる。さらに、電源電圧を低下し続けていくと、ターゲットDおよびCに示すように、やがて高エネルギ側のスペクトルが消え、ターゲットBやAに示すように、低エネルギ側だけのX線スペクトルを放出させることができる。
【0042】
蛍光X線分析においては、このようなX線スペクトルの分布を制御ですることによって、低原子番号の元素から高原子番号の元素までを含む試料からの蛍光X線の信号を判別し、正確な分析結果を得るのに有効となる。
【0043】
このように、ノイズ成分が少なく、かつ複数のエネルギの特性X線スペクトルを含んだ特性X線29を放出できるX線源11を用いて、放出する特性X線29のスペクトル分布を調整できるX線源11を提供できる。
【0044】
次に、図6および図7に第4の実施の形態を示す。
【0045】
第2の実施の形態のX線源11では、複数の1次ターゲット26a〜26cおよび2次ターゲット27a〜27cからの特性X線29を同時に放出させることが可能であるが、電子ビーム15は、設置した数の1次ターゲット26a〜26cに分散して照射されるため、それぞれの特性X線29の強度を大きくする上では不利となる。
【0046】
この第4の実施の形態では、1次ターゲット26a〜26dと2次ターゲット27a〜27dを組み合わせた複数組のユニットである複数のX線発生部21a〜21dを用い、それらを回転機構41によって回転するターンテーブル42の同一円周上に設置する。回転機構41により、任意のX線発生部21a〜21dを選択して電子ビーム15が入射する電子ビーム入射位置に対して移動させることにより、放出する特性X線29を変えることを可能としたものである。
【0047】
また、真空容器12には、X線発生部21a〜21dを交換可能とするターゲット交換口43が設けられているとともに、真空容器12内を排気する真空ポンプ44が配設されている。そのため、必要とするX線エネルギが変わった場合にも、X線発生部21a〜21dを交換して使用することができる。
【0048】
この構成を採ることによって、放出される特性X線29を選んで順番に利用することが可能となる。蛍光X線分析において、このように特性X線29を1つずつ照射して分析を行うことは、試料中の元素の同定を正確に行う上で効果的なものとなる。
【0049】
このように、ノイズ成分が少なく、強度の高い複数の特性X線29を、任意に選択して取り出すことができるX線源11を提供できる。
【0050】
次に、図8に第5の実施の形態を示す。
【0051】
この実施の形態では、第2の実施の形態のX線源11において、アノードである区画部23の壁部22の電子ビーム通過孔24および2次ターゲット27a〜27cの電子ビーム通過孔30の電子ビーム通過方向の上流部に、電子ビーム偏向手段51の偏向磁石52を設置した構成とする。
【0052】
この構成において、偏向磁石52として電磁石を適用した場合には、磁場強度を制御することにより電子ビーム15の軌道を、電子ビーム15a、電子ビーム15b、電子ビーム15cのように変えることができ、それぞれ異なる1次ターゲット26a〜26cを照射することが可能となる。
【0053】
また、偏向磁石52として永久磁石を適用した場合には、通過する電子ビーム15のエネルギを変更することによって、同様に電子ビーム15a〜15cのように軌道を変えることが可能となる。
【0054】
駆動電源17の電圧を下げ、低エネルギの電子ビーム15を利用するとき、同じ磁場強度では、電子ビーム15cのように大きく曲がる軌道となり、その終端に目的の1次ターゲット26cを設置する。同様に、高いエネルギの電子ビーム15に対しては、電子ビーム15b、電子ビーム15aのように軌道の偏向度は小さくなり、それぞれの終端に1次ターゲット26b,26aを設置する。このような構成を採ることによって、駆動電源17の電圧に応じて、電子ビームが異なる1次ターゲットを照射できるので、数種類の1次ターゲットに同時に電子ビームを照射する実施例2の構成よりも強度の高い連続X線28を放出することが可能となる。したがって、第3の実施の形態で示した電圧を制御して得られるX線スペクトルの分布を、さらに強弱を強調して行えることが可能となる。
【0055】
このように、ノイズ成分が少なく、電圧によって複数の特性X線29を含むスペクトル分布を制御しながら取り出すことを可能とするX線源11を提供できる。
【0056】
次に、図9に第6の実施の形態を示す。
【0057】
この実施の形態では、第5の実施の形態のX線源11の構成において、さらに1次ターゲット26a〜26cおよび2次ターゲット27a〜27cを1つずつ独立したユニットであるX線発生部21a〜21cに別けた構成とする。電子ビーム15は、偏向磁石52によって軌道を曲げられ、任意のX線発生部21a〜21cの1次ターゲット26a〜26cに入射する。
【0058】
例えば、X線発生部21aの1次ターゲット26aに電子ビーム15aが入射するように、電子ビーム15aのエネルギと偏向磁石52の磁場強度とが設定された場合、X線発生部21aの1次ターゲット26aに入射した連続X線28は独立したボックス状の2次ターゲット27aを励起し、他のX線発生部21b,21cの2次ターゲット27b,27cに入射・励起しない構成とする。これにより、それぞれのX線発生部21a〜21cのいずれか1つから特性X線29を放出させているときには、他の特性X線29が放出されることはなく、単一の特性X線29だけを利用することが可能となる。
【0059】
したがって、蛍光X線分析において、低エネルギから高エネルギまでの特性X線29を、順をおって試料に照射、励起することができるため、試料中の元素の判別が容易となる。
【0060】
このように、ノイズ成分が少なく、電圧と磁場強度の制御によって複数の特性X線29を、任意に1つずつ取り出すことを可能とするX線源11を提供できる。
【0061】
次に、図10に上記各実施の形態のX線源11を用いた蛍光X線分析装置61を示す。
【0062】
蛍光X線分析装置61は、X線源11から放出されるシートビーム形状の特性X線29を試料62に照射し、この試料62の表面の元素が励起されて発する蛍光X線63をX線検出器65でとらえ、元素分析を行う構成である。
【0063】
試料62としての半導体ウェハの表面汚染検査を目的とする場合には、特性X線29は、半導体ウェハ表面に対してできるだけ一定角度で、しかも0.1°以下の非常に浅い角度で入射する必要があるため、例えば扇状のファンビームのようなものも含むシートビーム形状としている。
【0064】
そして、蛍光X線分析装置61に適用するX線源11は、そのエネルギスペクトルが、2次ターゲット27,27a〜27dの特性X線29が主成分となっており、それによって試料62の表面の元素が励起されて発する蛍光X線63をとらえ、元素組成を分析することができる。
【0065】
このとき、励起する特性X線29のスペクトルを予め分析機器に記憶させておき、それによって得られる蛍光信号/励起強度の関係をとらえておけば、蛍光信号強度から、試料62の表面の元素の定量分析を精度良く行うことができる。
【0066】
このように、シートビーム形状の特性X線29を効率良く放出できるX線源11により、高分解能の蛍光X線分析装置61を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】本発明の第1の実施の形態を示すX線源の説明図である。
【図2】同上X線源の電子銃とX線発生部との関係を説明する説明図である。
【図3】同上X線源の図2に対して90°異なる方向から見て電子銃とX線発生部との関係を説明する説明図である。
【図4】本発明の第2の実施の形態を示すX線源の説明図である。
【図5】本発明の第3の実施の形態であって、電子ビームのエネルギと強度との関係を(a)〜(d)に示す説明図である。
【図6】本発明の第4の実施の形態を示すX線源の説明図である。
【図7】同上X線源のターゲットの説明図である。
【図8】本発明の第5の実施の形態を示すX線源の説明図である。
【図9】本発明の第6の実施の形態を示すX線源の説明図である。
【図10】本発明のX線源を用いた蛍光X線分析装置の説明図である。
【図11】従来の蛍光X線分析装置の説明図である。
【図12】従来の全反射蛍光X線分析方法の説明図である。
【符号の説明】
【0068】
11 X線源
12 真空容器
13 X線透過窓
14 電子銃
15,15a〜15d 電子ビーム
21a〜21d X線発生部
22 壁部
23 区画部
24 電子ビーム通過孔
26,26a〜26d 1次ターゲット
27,27a〜27d 2次ターゲット
28 X線としての連続X線
29 特性X線
30 電子ビーム通過孔
31 X線通過孔
51 電子ビーム偏向手段
61 蛍光X線分析装置
62 試料

【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空容器と、
前記真空容器内で電子ビームを発生する電子銃と、
前記真空容器内を区画する壁部、およびこの壁部に設けられ前記電子銃が発生する電子ビームが通過する電子ビーム通過孔を有する区画部と、
前記区画部内に設けられ、前記電子ビーム通過孔を通過した電子ビームが入射してX線を放出する1次ターゲットと、
前記区画部内に設けられ、前記1次ターゲットから放出されたX線が入射して特性X線を放出する2次ターゲットと、
前記区画部に臨んで真空容器に設けられ、前記2次ターゲットから放出される特性X線を外部に放出するX線透過窓と
を具備していることを特徴とするX線源。
【請求項2】
2次ターゲットは、ボックス形で、電子ビームが通過する電子ビーム通過孔が設けられるとともに、特性X線をシートビーム形状に規制して放出するX線通過孔が設けられた
ことを特徴とする請求項1記載のX線源。
【請求項3】
1次ターゲットおよび2次ターゲットは、複数のスペクトル分布の特性X線を放出可能とするように異なる種類の材料を使用して複数設けられた
ことを特徴とする請求項1または2記載のX線源。
【請求項4】
電子銃が発生する電子ビームの加速電圧を調整して2次ターゲットから放出する特性X線のスペクトル分布を制御する
ことを特徴とする請求項3記載のX線源。
【請求項5】
異なる種類の材料を使用した複数の1次ターゲットと複数の2次ターゲットとを組み合せた複数のX線発生部を備え、これら複数のX線発生部を前記電子銃から電子ビームが入射する電子ビーム入射位置に対して移動可能とし、その電子ビーム入射位置に配置されたX線発生部から特性X線を放出させる
ことを特徴とする請求項1ないし3いずれか記載のX線源。
【請求項6】
電子銃が発生する電子ビームを偏向させて複数の1次ターゲットのうちの任意の1次ターゲットに対して入射させる電子ビーム偏向手段を具備している
ことを特徴とする請求項3記載のX線源。
【請求項7】
異なる種類の材料を使用した複数の1次ターゲットと複数の2次ターゲットとを組み合せた複数のX線発生部を備え、
電子銃が発生する電子ビームを偏向させて複数のX線発生部のうちの任意のX線発生部に対して入射させる電子ビーム偏向手段を具備している
ことを特徴とする請求項3記載のX線源。
【請求項8】
特性X線を試料に照射する請求項1ないし7いずれか記載のX線源と、
前記特性X線の照射にて試料の表面の元素が励起して発する蛍光X線を検出するX線検出器と
を具備していることを特徴とする蛍光X線分析装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2007−207548(P2007−207548A)
【公開日】平成19年8月16日(2007.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−24261(P2006−24261)
【出願日】平成18年2月1日(2006.2.1)
【出願人】(503382542)東芝電子管デバイス株式会社 (369)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】