説明

Zn−Sn−O系酸化物焼結体とその製造方法

【課題】スパッタリングターゲットや蒸着用タブレットとして利用され、成膜中にクラック等が発生し難いZn−Sn−O系酸化物焼結体とその製法を提供する。
【解決手段】上記酸化物焼結体は、錫がSn/(Zn+Sn)の原子数比として0.01〜0.6含有され、焼結体中における平均結晶粒径が4.5μm以下で、CuKα線を使用したX線回折によるZnSnO相における(222)面、(400)面の積分強度をそれぞれI(222)、I(400)としたとき、I(222)/[I(222)+I(400)]で表される配向度が0.52以上であることを特徴とする。この酸化物焼結体は機械的強度が改善されているため、焼結体を加工する際に破損が起こり難く、スパッタリングターゲット若しくは蒸着用タブレットとして使用された際においても透明導電膜の成膜中に焼結体の破損やクラック発生が起こり難い。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、太陽電池、液晶表面素子、タッチパネル等に適用される透明導電膜を、直流スパッタリング、高周波スパッタリングといったスパッタリング法若しくはイオンプレーティング等の蒸着法で製造する際、透明導電膜の原料であるスパッタリングターゲット若しくは蒸着用タブレットとして使用されるZn−Sn−O系酸化物焼結体に係り、特に、この酸化物焼結体がスパッタリングターゲット若しくは蒸着用タブレットとして使用された際に、透明導電膜の製造工程において酸化物焼結体の破損やクラック発生が起こり難く、しかも、透明導電膜の成膜性や膜特性双方に対して安定性を有するZn−Sn−O系酸化物焼結体とその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
透明導電膜は、高い導電性と可視光領域での高い透過率を有するため、太陽電池や液晶表示素子、有機エレクトロルミネッセンスおよび無機エレクトロルミネッセンス等の表面素子や、タッチパネル用電極等に利用される他、自動車窓や建築用の熱線反射膜、帯電防止膜、冷凍ショーケース等の各種の防曇用透明発熱体としても利用されている。
【0003】
そして、上記透明導電膜として、例えば、酸化錫(SnO)系の薄膜、酸化亜鉛(ZnO)系の薄膜、酸化インジウム(In)系の薄膜等が知られている。
【0004】
上記酸化錫系では、アンチモンをドーパントとして含むもの(ATO)やフッ素をドーパントとして含むもの(FTO)がよく利用されている。また、酸化亜鉛系では、アルミニウムをドーパントとして含むもの(AZO)やガリウムをドーパントとして含むもの(GZO)がよく利用されている。そして、最も工業的に利用されている透明導電膜は、酸化インジウム系のものである。その中でも錫をドーパントとして含む酸化インジウム膜、すなわちIn−Sn−O系膜はITO(Indium tin oxide)膜と称され、特に、低抵抗の透明導電膜が容易に得られることから広く用いられている。
【0005】
これ等の透明導電膜の製造方法としては、直流スパッタリング、高周波スパッタリングといったスパッタリング法が良く用いられている。スパッタリング法は、蒸気圧の低い材料を成膜する際や、精密な膜厚制御を必要とする際に有効な手法であり、操作が非常に簡便であるため工業的に広範に利用されている。
【0006】
このスパッタリング法は、薄膜の原料としてターゲットを用いる。ターゲットは成膜したい薄膜を構成している金属元素を含む固体であり、金属、金属酸化物、金属窒化物、金属炭化物等の焼結体や、場合によっては単結晶が使用される。スパッタリング法では、一般にその内部に基板とターゲットを配置できるようになった真空チャンバーを有する装置を用いる。そして、基板とターゲットを配置した後、真空チャンバーを高真空にし、その後アルゴン等の希ガスを導入し、真空チャンバー内を約10Pa以下のガス圧とする。そして、基板を陽極とし、ターゲットを陰極とし、両者の間にグロー放電を起こしてアルゴンプラズマを発生させ、プラズマ中のアルゴン陽イオンを陰極のターゲットに衝突させ、これによってはじきとばされるターゲットの成分粒子を基板上に堆積させて膜を形成するものである。
【0007】
他方、これ等の透明導電膜について、イオンプレーティング法を用いて製造することも検討されている。しかし、イオンプレーティング法で形成されるITO膜は抵抗値が低く、例えば、抵抗式タッチパネル用の透明電極に用いる場合、約10nm程度の膜厚で制御する必要があることから成膜が非常に困難であり、またパネルサイズが大きくなることで膜厚のばらつきを制御することも困難となっている。
【0008】
ところで、透明導電膜を製造するために、上述したようにITO等の酸化インジウム系の材料が広範囲に用いられているが、インジウム金属は地球上で希少金属であることと、毒性を有している点から環境や人体に対しての悪影響が懸念されていること等から、非インジウム系の材料が求められている。そして、非インジウム系の材料としては、上述したようにGZOやAZO等の酸化亜鉛系材料、FTOやATO等の酸化錫系材料が知られている。GZOやAZO等酸化亜鉛系材料の透明導電膜は、スパッタリング法で工業的に製造されているが、耐薬品性(耐アルカリ性、耐酸性)に乏しい等の欠点を有している。他方、FTOやATO等酸化錫系材料の透明導電膜は、耐薬品性に優れているものの、高密度で耐久性のある酸化錫系焼結体ターゲットの製造が難しいため、上記透明導電膜をスパッタリング法で製造することが困難な欠点を有する。
【0009】
そこで、上記欠点を改善する材料として、Zn−Sn−O系の透明導電膜が提案されている。このZn−Sn−O系の透明導電膜は、酸化亜鉛系透明導電膜の欠点を克服した耐薬品性に優れた材料である。そして、Zn−Sn−O系の薄膜として、例えば、亜鉛と錫との金属酸化物から成る透明膜と、窒化クロムの反射膜とをガラス基板上に順次積層した構造の膜が提案されている(特許文献1参照)。しかし、特許文献1においては、亜鉛と錫との金属酸化物から成る透明膜を、Zn−Sn系の合金ターゲットを用いた反応性スパッタリング法で成膜していることから、成膜された透明膜の膜特性に再現性が乏しい。また、特許文献1には、使用した合金ターゲットの組成(Zn/Sn比)のみが記されており、合金ターゲットの組織に関する記載はない。一般に、金属ターゲットを用いた反応性スパッタリングによる金属酸化物の薄膜製法では、膜組成と膜特性の変動が顕著になり、歩留まりの低下を招き易い。投入電力密度が2.0W/cm以上もの高い直流投入電力では、特に、膜特性のバラつきが顕著となり、生産性が悪化する。
【0010】
また、Zn−Sn−O系の酸化物焼結体ターゲットを用いて、高周波スパッタリング法で成膜する方法が提案されている(特許文献2参照)。特許文献2では、ZnSnO相の結晶粒径が1〜10μmの範囲であれば、成膜中のターゲット破損が少ないとされている。しかし、スパッタリングターゲットの量産製造においては、結晶粒径が10μm程度まで粗大化した焼結体を扱う場合、加工研削のような工程で、非常に高い確率でクラックや割れが発生してしまうため量産製造上好ましくない。また、特許文献2の提案では、仮焼粉末のみを原料粉として用いており、加圧成形時に仮焼粉末の硬い粒子同士がうまくつぶれないことから、得られる成形体の強度が低くなり、成形体の運搬時等において高い確率で成形体が割れてしまうことから量産性に不向きである。また特許文献2の提案においては、得られる酸化物焼結体中にSnO結晶相が存在しているが、後述する特許文献3に記載されている通り、酸化物焼結体中にSnO結晶相が存在している場合、高い直流電力投入下(投入電力密度で1.764W/cm以上)条件で成膜する際にアーキングが多発することが分かっている。そして、高い投入電力でアーキングが発生すると、良好な特性を有する透明導電膜が安定して得られないだけでなく、アーキングを抑制するために投入電力値を下げざるを得ないことから、生産性を大きく損なってしまうため好ましくない。
【0011】
このような技術的背景の下、本出願人は、Zn−Sn−O系の薄膜を高速で成膜するためのスパッタリングターゲット若しくはイオンプレーティング等の蒸着用タブレットとして使用できるZn−Sn−O系酸化物焼結体を提案している(特許文献3参照)。
【0012】
すなわち、このZn−Sn−O系酸化物焼結体は、酸化錫の結晶相または亜鉛が固溶した酸化錫の結晶相を含有せず、酸化亜鉛相と錫酸亜鉛化合物相とで構成されるか、錫酸亜鉛化合物相で構成されることを特徴とするものであった。
【0013】
但し、特許文献3においては、Zn−Sn−O系酸化物焼結体の熱衝撃等に対する耐性について記載されておらず、この耐性を無視してZn−Sn−O系酸化物焼結体がスパッタリングターゲット若しくは蒸着用タブレットとして使用された場合、スパッタリング若しくはイオンプレーティング成膜中に上記Zn−Sn−O系酸化物焼結体にクラックが発生してしまうことがあった。
【0014】
そして、スパッタリングターゲット若しくは蒸着用タブレットとしてのZn−Sn−O系酸化物焼結体にクラックが発生した場合、製造された透明導電膜の膜特性が劣化し、膜特性の安定性を欠くだけでなく、成膜の中断を余儀なくされ、結果的に生産性が大きく損なわれる可能性が存在した。
【0015】
そこで、焼結体の加工中において焼結体の破損が起こり難く、かつ、焼結体がスパッタリングターゲット若しくは蒸着用タブレットとして使用された際においても透明導電膜の製造(成膜)中に焼結体の破損やクラック発生が起こり難く、更に、膜特性にバラツキのない透明導電膜を高速でかつ安定して量産可能なZn−Sn−O系酸化物焼結体が要請されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】特許第2604474号公報(実施例参照)
【特許文献2】特開2010−037161号公報(請求項1、請求項14参照)
【特許文献3】特許第4552950号公報(請求項1、請求項12参照)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
本発明は上述したような要請に着目してなされたもので、その課題とするところは、焼結体の加工中において焼結体の破損が起こり難く、かつ、焼結体がスパッタリングターゲット若しくは蒸着用タブレットとして使用された際においても透明導電膜の製造(成膜)中に焼結体の破損やクラック発生が起こり難く、更に、透明導電膜の成膜性や膜特性双方に対して安定性を有するZn−Sn−O系酸化物焼結体とその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
そこで、上記課題を解決するため本発明者等が鋭意研究を行ったところ以下の技術的知見を得るに至った。
【0019】
すなわち、Zn−Sn−O系酸化物焼結体を焼成する焼成炉内において、最高焼成温度での保持が終了してから冷却を行う冷却プロセスで、Arガス等の不活性ガス雰囲気にすることにより結晶粒子の粒成長が抑制されて焼結体の機械的強度を向上させることができ、かつ、ZnSnO相における従来の優先配向に対し偏りを持たせることにより、焼結体の製造時における破損だけでなく透明導電膜の成膜時に発生するクラックを抑制できることを見出すに至った。具体的に説明すると、Zn−Sn−O系酸化物焼結体を得る焼成工程で、得られる焼結体の組織についてその平均結晶粒径が4.5μm以下に抑えられるようにするため、最高焼成温度での保持が終了してから冷却を行うプロセスにおいて、Arガス等の不活性ガス雰囲気とする。これにより必要以上な粒成長が抑制されるため、焼結体の機械的強度が向上する。更に、上述した冷却プロセスにより、焼結体中におけるZnSnO相の優先配向にも偏りが生じ、これによりCuKα線を使用したX線回折によるZnSnO相における(222)面、(400)面の積分強度を、それぞれI(222)、I(400)としたとき、I(222)/[I(222)+I(400)]で表される配向度が、標準(0.44)よりも大きい0.52以上となり、a軸配向に関与する面の成長が制御されたこの特性も、成膜中におけるクラック発生の抑制に寄与するとの知見を得るに至った。本発明はこのような技術的発見により完成されている。
【0020】
すなわち、請求項1に係る発明は、
スパッタリング法若しくは蒸着法により透明導電膜を製造する際に、スパッタリングターゲット若しくは蒸着用タブレットとして使用されるZn−Sn−O系酸化物焼結体を前提とし、
錫がSn/(Zn+Sn)の原子数比として0.01〜0.6含有され、焼結体中における平均結晶粒径が4.5μm以下で、CuKα線を使用したX線回折によるZnSnO相における(222)面、(400)面の積分強度を、それぞれI(222)、I(400)としたとき、I(222)/[I(222)+I(400)]で表される配向度が0.52以上であることを特徴とし、
請求項2に係る発明は、
請求項1に記載の発明に係るZn−Sn−O系酸化物焼結体を前提とし、
ガリウム、アルミニウム、チタン、ニオブ、タンタル、タングステン、モリブデン、または、アンチモンから選ばれる少なくとも1種の元素を添加元素として更に含有し、かつ、その添加元素(M)が全金属元素の総量に対する原子数比M/(Zn+Sn+M)として0.01以下の割合で含有されていることを特徴とする。
【0021】
次に、請求項3に係る発明は、
請求項1または2に記載のZn−Sn−O系酸化物焼結体の製造方法を前提とし、
酸化亜鉛粉末および酸化錫粉末を、純水、有機バインダー、分散剤と混合して得られるスラリーを乾燥しかつ造粒する造粒粉製造工程と、
得られた造粒粉を加圧成形して成形体を得る成形体製造工程と、
得られた成形体を焼成して焼結体を得る焼結体製造工程を具備し、
上記焼結体製造工程が、焼成炉内に酸素を含む雰囲気中において800℃〜1400℃の条件で成形体を焼成する工程と、最高焼成温度での保持が終了してから焼成炉内を不活性雰囲気にして冷却し焼結体を得る工程とで構成されることを特徴とする。
【0022】
更に、請求項4に係る発明は、
請求項3に記載の発明に係るZn−Sn−O系酸化物焼結体の製造方法を前提とし、
上記造粒粉製造工程において、酸化亜鉛粉末および酸化錫粉末、純水、有機バインダー、分散剤を、原料粉末の濃度が50〜80wt%となるように混合し、かつ、原料粉末の平均粒径が0.5μm以下となるまで湿式粉砕した後、30分以上混合攪拌してスラリーを得ていることを特徴とし、
請求項5に係る発明は、
請求項3に記載の発明に係るZn−Sn−O系酸化物焼結体の製造方法を前提とし、
上記造粒粉製造工程において、酸化亜鉛粉末と酸化錫粉末、酸化亜鉛粉末と酸化錫粉末を混合し仮焼して得た仮焼粉末、および、純水、有機バインダー、分散剤を、原料粉末である酸化亜鉛粉末、酸化錫粉末および仮焼粉末の合計濃度が50〜80wt%となるように混合し、30分以上混合攪拌してスラリーを得ていることを特徴とし、
また、請求項6に係る発明は、
請求項5に記載の発明に係るZn−Sn−O系酸化物焼結体の製造方法を前提とし、
酸化亜鉛粉末と酸化錫粉末を混合し800℃〜1400℃の条件で仮焼して上記仮焼粉末が得られていることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0023】
本発明に係るZn−Sn−O系酸化物焼結体は、
錫がSn/(Zn+Sn)の原子数比として0.01〜0.6含有され、焼結体中における平均結晶粒径が4.5μm以下で、CuKα線を使用したX線回折によるZnSnO相における(222)面、(400)面の積分強度を、それぞれI(222)、I(400)としたとき、I(222)/[I(222)+I(400)]で表される配向度が0.52以上であることを特徴としている。
【0024】
そして、本発明に係るZn−Sn−O系酸化物焼結体は機械的強度が改善されているため、焼結体を加工する際に破損が起こり難く、かつ、スパッタリングターゲット若しくは蒸着用タブレットとして使用された際においても透明導電膜の製造(成膜)中に焼結体の破損やクラック発生が起こり難く、更に、製造される透明導電膜の成膜性や膜特性双方に対して安定性を有する顕著な効果を有している。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0026】
まず、本発明者等の実験により、スパッタリングターゲット若しくは蒸着用タブレットとして使用されるZn−Sn−O系酸化物焼結体の機械的強度に関しては、焼結体における結晶粒の過度な成長を抑制することで向上させることができ、更に、スパッタリングターゲット若しくは蒸着用タブレットとして使用した際の成膜中におけるクラックの発生し易さに関しては、Zn−Sn−O系酸化物焼結体の配向性を調整することで低減できる技術的知見が得られている。すなわち、焼結体を得る焼成炉内において、最高焼成温度での保持が終了してから冷却を行うプロセスで、Arガス等の不活性ガス雰囲気にすることにより、焼結体における結晶粒の成長が抑制されて焼結体の機械的強度を高めることができ、更に、上述した冷却プロセスにより、焼結体中のZnSnO相における従来の優先配向に対し偏りが生じて、製造時だけでなく成膜時に発生するクラックを抑制できるに至った。
【0027】
すなわち、本発明に係るZn−Sn−O系酸化物焼結体は、亜鉛と錫を含む酸化物焼結体であり、錫がSn/(Zn+Sn)の原子数比として0.01〜0.6含有され、焼結体中における平均結晶粒径が4.5μm以下で、CuKα線を使用したX線回折によるZnSnO相における(222)面、(400)面の積分強度を、それぞれI(222)、I(400)としたとき、I(222)/[I(222)+I(400)]で表される配向度が0.52以上であることを特徴とするものである。尚、上記Zn−Sn−O系酸化物焼結体においては、実質的に亜鉛、錫および酸素からなっていればよく、不可避不純物等の混入を制限するものではない。
【0028】
本発明に係るZn−Sn−O系酸化物焼結体は、スパッタリングターゲット若しくは蒸着用タブレットとして用いられるものである。上述したように本発明に係るZn−Sn−O系酸化物焼結体は、錫がSn/(Zn+Sn)の原子数比として0.01〜0.6含有されており、Zn−Sn−O系酸化物焼結体の組織を構成している結晶粒子の平均結晶粒径が4.5μm以下であると共に、CuKα線を使用したX線回折によるZnSnO相における(222)面、(400)面の積分強度を、それぞれI(222)、I(400)としたとき、I(222)/[I(222)+I(400)]で表される配向度が0.52以上であることを特徴としている。このような構成とすることで、成膜中に高電力が投入された場合でもクラックの発生を抑制することが可能となる。また、Zn−Sn−O系酸化物焼結体中における錫の含有量が、Sn/(Zn+Sn)の原子数比で0.01〜0.6の範囲に特定されている理由は、この範囲を逸脱すると、得られる焼結体の抵抗値が増大してしまい、成膜時における生産性の悪化を招くだけでなく、得られる透明導電膜の特性劣化を招く可能性があるからである。
【0029】
次に、本発明において、ガリウム、アルミニウム、チタン、ニオブ、タンタル、タングステン、モリブデン、アンチモンから選ばれる少なくとも1種の元素(M)を、第三成分として焼結助剤あるいは低抵抗化の目的で、原子数比M/(Zn+Sn+M)が0.01以下の割合で添加されていても支障はない。更に、添加された元素が、亜鉛サイト若しくは化合物サイトに固溶していてもよい。尚、酸化亜鉛は、通常、ウルツ鉱型構造をとる。
【0030】
次に、上記Zn−Sn−O系酸化物焼結体の製造方法について説明する。
【0031】
まず、Zn−Sn−O系酸化物焼結体の製造方法は、上記焼結体の構成元素である酸化亜鉛粉末および酸化錫粉末を、純水、有機バインダー、分散剤と混合して得られるスラリーを乾燥しかつ造粒する「造粒粉製造工程」と、得られた造粒粉を加圧成形して成形体を得る「成形体製造工程」と、得られた成形体を焼成して焼結体を得る「焼結体製造工程」とで構成されている。
【0032】
(造粒粉製造工程)
上記造粒粉は、以下に示す2通りの方法で製造することができる。
【0033】
第一の方法は、構成元素である酸化亜鉛粉末および酸化錫粉末、純水、有機バインダーおよび分散剤を、原料粉末の濃度が50〜80wt%、好ましくは60wt%となるように混合し、かつ、原料粉末の平均粒径が0.5μm以下となるまで湿式粉砕する。原料粉末の平均粒径が0.5μm以下に微細化されることにより、酸化亜鉛粉末および酸化錫粉末の凝集を確実に取り除くことができる。次に、上記粉砕後、30分以上混合攪拌してスラリーを得、得られたスラリーを乾燥しかつ造粒して造粒粉を製造する。
【0034】
第二の方法は、酸化亜鉛粉末と酸化錫粉末、および、酸化亜鉛粉末と酸化錫粉末を混合し仮焼して得た仮焼粉末を原料粉末とする。尚、上記仮焼粉末の製造は、800℃〜1400℃、好ましくは900℃〜1200℃で仮焼する。
【0035】
そして、酸化亜鉛粉末、酸化錫粉末および仮焼粉末、純水、有機バインダー、分散剤を、原料粉末である酸化亜鉛粉末、酸化錫粉末および仮焼粉末の合計濃度が50〜80wt%、好ましくは70wt%となるように混合し、30分以上混合攪拌してスラリーを得、得られたスラリーを乾燥しかつ造粒して造粒粉を製造する。
【0036】
(成形体製造工程)
上記成形体は、焼結体がスパッタリングターゲットとして使用される場合と蒸着用タブレットとして使用される場合とでその製造条件が相違する。
【0037】
まず、スパッタリングターゲットとして成形する場合は、上記造粒粉を、98MPa(1.0ton/cm)以上の圧力で加圧成形して成形体を得る。98MPa未満で成形を行うと、造粒粉の粒子間に存在する空孔を除去することが困難となり、焼結体の密度低下をもたらす。更に、得られた成形体の強度も低くなるため、安定した製造が困難となる。尚、加圧成形は、高圧力が得られる冷間静水圧プレスCIP(Cold Isostatic Press)を用いて行なうことが望ましい。
【0038】
また、蒸着用タブレットとして成形する場合は、上記造粒粉を、例えば金型中で加圧する機械プレス法等により加圧成形して成形体を得る。この場合、上記造粒粉を、49MPa(0.5ton/cm)〜147MPa(1.5ton/cm)の圧力で成形すると、所望の相対密度を有する焼結体が得られ易いため望ましい。また、プレス成形での金型は、エッジ部分をC面取りの形状とし、成形体にC面取りを施すことが好ましい。C面取りが施された場合、成形体を取り扱う際、および、成形体を焼成させて得られた焼結体を取り扱う際の欠け等を防止できるからである。
【0039】
(焼結体製造工程)
焼成炉内に酸素が含まれた雰囲気、例えば常圧条件下で上記成形体を焼成することにより、Zn−Sn−O系酸化物焼結体を得ることができる。
【0040】
焼成温度は800〜1400℃、好ましくは1000℃〜1300℃である。焼結温度が800℃未満の場合、必要な焼結収縮が得られず、機械的強度の弱い焼結体となってしまう。更に、焼結収縮が十分進んでいないため、得られる焼結体の密度や寸法のバラつきが大きくなってしまう。他方、焼結温度が1400℃を超えた場合、構成元素である酸化亜鉛が揮発し、所定の酸化亜鉛組成からずれてしまうことになる。
【0041】
また、焼成プロセス中、最高焼成温度での保持が終了してから冷却を行うプロセスでは、焼成炉内の雰囲気をArガス、窒素ガス等の不活性ガス雰囲気とする。この場合、例えば酸素ガスを焼成炉内に導入して活性化させてしまうと、ZnSnOスピネル化合物粒子が粗大化して焼結体の強度が不足するため、成膜時にクラック発生の原因となる。
【0042】
そして、不活性ガス雰囲気での上記冷却プロセスにより、焼結体における必要以上の結晶粒の成長が抑制され、かつ、焼結体中におけるZnSnO相の優先配向にも偏りが生じるため、得られたZn−Sn−O系酸化物焼結体をスパッタリングターゲット若しくは蒸着用タブレットとして使用した際、透明導電膜の製造(成膜)中に焼結体の破損やクラックの発生が起こり難く、製造される透明導電膜の成膜性や膜特性双方に対して高安定性を実現できる。
【0043】
尚、得られた焼結体は、必要に応じて所定の形状、所定の寸法に加工され、かつ、スパッタリングとして使用する場合は、所定のバッキングプレートにボンディングし、ターゲットとして適用される。
【実施例】
【0044】
以下、実施例と比較例を挙げて本発明を具体的に説明するが、実施例の内容により本発明の技術的事項が限定されるものではない。
【0045】
[実施例1]
平均粒径が共に1μm以下のZnO粉末およびSnO粉末を原料粉末とし、Sn/(Zn+Sn)原子数比が0.2となる割合で調合した後、調合された原料粉末と、純水、有機バインダー、および、分散剤を、混合タンクにて原料粉末の濃度が60wt%となるように混合した。
【0046】
次に、硬質ZrOボールが投入されたビーズミル装置(アシザワ・ファインテック株式会社製、LMZ型)を用いて、原料粉末の平均粒径が0.5μm以下となるまで1時間湿式粉砕を行った後、混合タンクにて30分以上混合攪拌してスラリーを得た。
【0047】
尚、原料粉末の平均粒径の測定には、レーザ回折式粒度分布測定装置(島津製作所製、SALD−2200)を用いた。
【0048】
次に、得られたスラリーを、スプレードライヤー装置(大川原化工機株式会社製、ODL−20型)にて噴霧および乾燥し、造粒粉を得た。
【0049】
次に、得られた造粒粉に対し冷間静水圧プレスで294MPa(3ton/cm)の圧力を掛けて成形し、直径約200mmの成形体を得た後、この成形体を大気圧焼成炉にて焼成した。尚、上記焼成炉内には酸素ガスを導入し、焼成温度を1300℃とし、かつ、20時間焼成した後、最高焼成温度(1300℃)での保持が終了してから冷却を行うプロセスにおいて焼成炉内にArガスを導入し、炉内雰囲気を「Arガス雰囲気」にして冷却を行ない、実施例1に係るZn−Sn−O系酸化物焼結体を得た。
【0050】
そして、得られた焼結体について一部を切断し、かつ、切断面を鏡面研磨した後、熱腐食処理を施して結晶粒界を析出させ、SEM観察による平均結晶粒径の測定を実施したところ、3.7μmであった。
【0051】
また、得られた実施例1のZn−Sn−O系酸化物焼結体から、CuKα線を使用したX線回折によるZnSnO相の配向性を確認したところ、(222)面、(400)面の積分強度を、それぞれI(222)、I(400)としたとき、I(222)/[I(222)+I(400)]で表される配向度が0.54であった。
【0052】
次に、得られた実施例1のZn−Sn−O系酸化物焼結体を、直径が152.4mm(6インチ)で、厚みが5mmとなるように加工してスパッタリングターゲットを得た。
【0053】
そして、得られたスパッタリングターゲットを、スパッタ装置(トッキ製、SPF−530K)に装着した後、積算電力量5kWhとなるまでスパッタリング法による成膜に使用し、ターゲットの状態を確認した。
【0054】
尚、スパッタリング条件は、基板とターゲットとの距離を46mmとし、到達真空度を2.0×10-4Pa以下、ガス圧を0.3Paとした。
【0055】
その結果、ターゲットにはクラックが発生しておらず、成膜初期から積算電力量5kWhまで異常放電等も発生しなかった。
【0056】
[比較例1、2]
冷却を行う上記プロセスにおいて、実施例1の「Arガス雰囲気」に代えてOガスを導入した「Oガス雰囲気」とした以外は、実施例1と同様の条件にて比較例1に係るZn−Sn−O系酸化物焼結体を得、また、冷却を行う上記プロセスにおいて、実施例1の「Arガス雰囲気」に代えて「常圧の大気中」とした以外は、実施例1と同様の条件にて比較例2に係るZn−Sn−O系酸化物焼結体を得た。
【0057】
そして、実施例1と同様に得られた各Zn−Sn−O系酸化物焼結体について、SEM観察による平均結晶粒径の測定を実施したところ、5.1μm(比較例1)、4.0μm(比較例2)であった。
【0058】
また、実施例1と同様、I(222)/[I(222)+I(400)]で表される配向度を測定したところ、0.44(比較例1)、0.51(比較例2)であった。
【0059】
次に、比較例1と比較例2に係る各Zn−Sn−O系酸化物焼結体を、直径が152.4mm(6インチ)で、厚みが5mmとなるようにそれぞれ加工して、比較例1と比較例2に係るスパッタリングターゲットを得た。
【0060】
そして、得られた比較例1と比較例2に係るスパッタリングターゲットを、スパッタ装置(トッキ製、SPF−530K)に装着した後、実施例1と同様の条件にてスパッタリング法による成膜に使用し、ターゲットの状態を確認した。
【0061】
その結果、比較例1と比較例2においては、ターゲットにクラックが発生しており、このクラックの影響か、異常放電が積算電力量2kWh当たりから増加し、積算電力量5kWhの時点で20回/分〜30回/分発生していた。
【0062】
[実施例2、3、比較例3、4]
実施例1の焼成温度「1300℃」に代えて、焼成温度が1400℃(実施例2)、焼成温度が800℃(実施例3)、焼成温度が1500℃(比較例3)、および、焼成温度が700℃(比較例4)とした以外は、実施例1と同様の条件にてZn−Sn−O系酸化物焼結体を得た。
【0063】
そして、実施例1と同様に得られた各Zn−Sn−O系酸化物焼結体について、SEM観察による平均結晶粒径の測定を実施したところ、4.4μm(実施例2)、2.4μm(実施例3)、5.1μm(比較例3)、および、1.9μm(比較例4)であった。
【0064】
また、実施例1と同様、I(222)/[I(222)+I(400)]で表される配向度を測定したところ、0.53(実施例2)、0.55(実施例3)、0.43(比較例3)、および、0.41(比較例4)であった。
【0065】
次に、各Zn−Sn−O系酸化物焼結体を、直径が152.4mm(6インチ)で、厚みが5mmとなるようにそれぞれ加工して、実施例2、実施例3、比較例3、および、比較例4に係るスパッタリングターゲットを得た。
【0066】
そして、比較例4のスパッタリングターゲットを除き、実施例2、実施例3、比較例3の各スパッタリングターゲットをスパッタ装置(トッキ製、SPF−530K)に装着した後、実施例1と同様の条件にてスパッタリング法による成膜に使用し、ターゲットの状態を確認した。
【0067】
その結果、実施例2と実施例3のターゲットには共にクラックが発生しておらず、成膜初期から積算電力量5kWhまで異常放電等も発生しなかった。
【0068】
他方、比較例3においては、ターゲットにクラックが発生しており、このクラックの影響か、異常放電が積算電力量2kWh当たりから増加し、積算電力量5kWhの時点で20回/分〜30回/分発生していた。また、比較例3に係る酸化物焼結体では、結晶粒が粗大化していることから焼結体強度が低く、ターゲットの加工中に20枚中4枚で割れが発生していた。
【0069】
また、比較例4においては焼成温度が低い(700℃)ことから焼結が進行しておらず、ターゲットの加工中に20枚中12枚で割れが発生したため、上記スパッタ装置(トッキ製、SPF−530K)を用いた成膜試験を実施していない。
【0070】
比較例3と比較例4に係る上記酸化物焼結体では、高い生産性が要請される量産製造の用途には利用できないことが確認された。
【0071】
[実施例4、5、6、比較例5、6]
平均粒径が共に1μm以下のZnO粉末およびSnO粉末を原料粉末とし、実施例1のSn/(Zn+Sn)原子数比が「0.2」に代えて、上記原子数比が0.01(実施例4)、上記原子数比が0.4(実施例5)、上記原子数比が0.6(実施例6)、上記原子数比が0.0(比較例5)、および、上記原子数比が0.7(比較例6)とした以外は、実施例1と同様の条件にてZn−Sn−O系酸化物焼結体を得た。
【0072】
そして、実施例1と同様に得られた各Zn−Sn−O系酸化物焼結体について、SEM観察による平均結晶粒径の測定を実施したところ、4.0μm(実施例4)、3.9μm(実施例5)、3.6μm(実施例6)、4.0μm(比較例5)、および、3.5μm(比較例6)であった。
【0073】
また、実施例1と同様、I(222)/[I(222)+I(400)]で表される配向度を測定したところ、0.52(実施例4)、0.55(実施例5)、0.58(実施例6)、0.45(比較例5)、および、0.58(比較例6)であった。
【0074】
次に、各Zn−Sn−O系酸化物焼結体を、直径が152.4mm(6インチ)で、厚みが5mmとなるようにそれぞれ加工して、実施例4、実施例5、実施例6、比較例5、および、比較例6に係るスパッタリングターゲットを得た。
【0075】
そして、各スパッタリングターゲットをスパッタ装置(トッキ製、SPF−530K)に装着した後、実施例1と同様の条件にてスパッタリング法による成膜に使用し、ターゲットの状態を確認した。
【0076】
その結果、実施例4、実施例5および実施例6のターゲットには共にクラックが発生しておらず、成膜初期から積算電力量5kWhまで異常放電等も発生しなかった。
【0077】
他方、比較例5と比較例6においては、ターゲットの抵抗値が高いことによる影響からか、ターゲット表面でノジュールが多数発生しており、これにより異常放電が積算電力量2kWh当たりから増加し、積算電力量5kWhの時点で20回/分〜30回/分発生していた。
【0078】
また、これに伴い、比較例5と比較例6のターゲットにも微細クラックが多数発生しており、比較例5と比較例6に係る酸化物焼結体では、高い生産性が要請される量産製造の用途には利用できないことが確認された。
【0079】
[実施例7〜14]
平均粒径が共に1μm以下のZnO粉末、SnO粉末および第三金属元素の酸化物粉末を原料粉末とし、第三金属元素をMとして、M/(Zn+Sn+M)原子数比が0.01であり、その第三金属元素がガリウム(実施例7)、アルミニウム(実施例8)、チタン(実施例9)、ニオブ(実施例10)、タンタル(実施例11)、タングステン(実施例12)、モリブデン(実施例13)、アンチモン(実施例14)とした以外は、実施例1と同様の条件にてZn−Sn−O系酸化物焼結体を得た。
【0080】
そして、実施例1と同様に得られた各Zn−Sn−O系酸化物焼結体について、SEM観察による平均結晶粒径の測定を実施したところ、3.9μm(実施例7)、3.8μm(実施例8)、4.1μm(実施例9)、3.8μm(実施例10)、3.9μm(実施例11)、4.0μm(実施例12)、4.0μm(実施例13)、および、3.8μm(実施例14)であった。
【0081】
また、実施例1と同様、I(222)/[I(222)+I(400)]で表される配向度を測定したところ、0.55(実施例7)、0.54(実施例8)、0.55(実施例9)、0.53(実施例10)、0.53(実施例11)、0.54(実施例12)、0.56(実施例13)、0.55(実施例14)であった。
【0082】
次に、各Zn−Sn−O系酸化物焼結体を、直径が152.4mm(6インチ)で、厚みが5mmとなるようにそれぞれ加工して、実施例7〜実施例14に係るスパッタリングターゲットを得た。
【0083】
そして、各スパッタリングターゲットをスパッタ装置(トッキ製、SPF−530K)に装着した後、実施例1と同様の条件にてスパッタリング法による成膜に使用し、ターゲットの状態を確認した。
【0084】
その結果、実施例7〜実施例14のターゲットには全てクラックが発生しておらず、成膜初期から積算電力量5kWhまで異常放電等も発生しなかった。
【0085】
[実施例15]
平均粒径が共に1μm以下のZnO粉末およびSnO粉末を原料粉末とし、かつ、Sn/(Zn+Sn)原子数比が0.2となるようにそれぞれ秤量した。
【0086】
次に、ZnO粉末とSnO粉末をそれぞれ60wt%ずつと、純水、有機分散剤を、原料粉末の濃度が60wt%のスラリーとなるように調合し、混合タンクにてスラリーを作製した。
【0087】
次に、得られたスラリーを、スプレードライヤー装置(大川原化工機株式会社製、ODL−20型)にて噴霧および乾燥し、粒径が300μm以下である混合粉末を得た。
【0088】
得られた混合粉末を、大気圧焼成炉にて、1200℃、20時間焼成し、かつ、焼成後粉砕することで粒径が300μm以下の仮焼粉末を得た。
【0089】
そして、得られた仮焼粉末と、上記秤量した残りのZnO粉末およびSnO粉末と、純水、有機バインダー、分散剤を、原料粉末の濃度が70wt%のスラリーとなるように調合し、混合タンクにて30分以上混合攪拌スラリーを作製し、かつ、上記スプレードライヤー装置にて噴霧および乾燥し、粒径が300μmである造粒粉を得た。
【0090】
得られた造粒粉を、金型中でプレス機(三庄インダストリー製、ウエーブ成形プレス機)により加圧成形して、直径30mm、高さ40mmの円柱形成形体を200個得た。
【0091】
次に、得られた円柱形成形体を、大気圧焼成炉にて焼成した。尚、焼成炉内には酸素ガスを導入し、焼成温度を1100℃とし、かつ、20時間焼成した後、最高焼成温度(1100℃)での保持が終了してから、冷却を行うプロセスにおいて焼成炉内にArガスを導入し、炉内雰囲気を「Arガス雰囲気」にして冷却を行ない、実施例15に係る円柱形状のZn−Sn−O系酸化物焼結体を得た。
【0092】
そして、得られた各Zn−Sn−O系酸化物焼結体について、実施例1と同様にSEM観察による平均結晶粒径の測定を実施したところ、3.1μmであった。
【0093】
また、実施例1と同様、I(222)/[I(222)+I(400)]で表される配向度を測定したところ、0.52であった。
【0094】
次に、円柱形状を有する実施例15に係るZn−Sn−O系酸化物焼結体を蒸着用タブレットとして使用し、この蒸着用タブレットを真空蒸着装置内に設置して電子ビームを照射し、蒸着を行ったところ、実施例15では全てのタブレットにおいて自動運搬時による欠け、クラックの発生が無く、安定して成膜が可能であることが確認された。
【0095】
[比較例7、8]
冷却を行う上記プロセスにおいて、実施例15の「Arガス雰囲気」に代えてOガスを導入した「Oガス雰囲気」とした以外は、実施例15と同様の条件にて比較例7に係る円柱形状のZn−Sn−O系酸化物焼結体を得、また、冷却を行う上記プロセスにおいて、実施例15の「Arガス雰囲気」に代えて「常圧の大気中」とした以外は、実施例15と同様の条件にて比較例8に係る円柱形状のZn−Sn−O系酸化物焼結体を得た。
【0096】
そして、得られた各Zn−Sn−O系酸化物焼結体について、実施例1と同様にSEM観察による平均結晶粒径の測定を実施したところ、4.6μm(比較例7)、3.3μm(比較例8)であった。
【0097】
また、実施例1と同様、I(222)/[I(222)+I(400)]で表される配向度を測定したところ、0.44(比較例7)、0.47(比較例8)であった。
【0098】
次に、円柱形状を有する比較例7と比較例8に係るZn−Sn−O系酸化物焼結体を蒸着用タブレットとして使用し、この蒸着用タブレットを真空蒸着装置内に設置して電子ビームを照射し、蒸着を行ったところ、比較例7と比較例8においては、使用したタブレット50個のうち3個にクラックが発生していた。
【0099】
[実施例16、17、比較例9、10]
実施例15の焼成温度「1100℃」に代えて、焼成温度が1400℃(実施例16)、焼成温度が800℃(実施例17)、焼成温度が1500℃(比較例9)、および、焼成温度が700℃(比較例10)とした以外は、実施例15と同様の条件にて円柱形状を有するZn−Sn−O系酸化物焼結体を得た。
【0100】
そして、得られた各Zn−Sn−O系酸化物焼結体について、実施例1と同様にSEM観察による平均結晶粒径の測定を実施したところ、3.6μm(実施例16)、2.0μm(実施例17)、5.0μm(比較例9)、および、1.7μm(比較例10)であった。
【0101】
また、実施例1と同様、I(222)/[I(222)+I(400)]で表される配向度を測定したところ、0.54(実施例16)、0.52(実施例17)、0.44(比較例9)、および、0.44(比較例10)であった。
【0102】
次に、円柱形状を有する実施例16、実施例17、比較例9、および、比較例10の各Zn−Sn−O系酸化物焼結体を蒸着用タブレットとして使用し、これ等蒸着用タブレットを真空蒸着装置内に設置して電子ビームを照射し、蒸着を行ったところ、実施例16と実施例17では全てのタブレットにおいて自動運搬時による欠け、クラックの発生が無く、安定して成膜が可能であることが確認された。
【0103】
他方、比較例9においては使用したタブレット50個のうち3個にクラックが発生しており、また、比較例10においてはタブレットの焼結が進行しておらず、自動運搬時にタブレット50個のうち9個にクラックが発生した。更に、自動運搬中にクラックが発生しなかったタブレット41個のうち2個については成膜中にクラックが発生していた。
【0104】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0105】
本発明に係るZn−Sn−O系酸化物焼結体は、機械的強度が改善されているため焼結体を加工する際に破損が起こり難く、スパッタリングターゲット若しくは蒸着用タブレットとして使用された際においても透明導電膜の製造中に焼結体の破損やクラック発生が起こり難く、更に、製造される透明導電膜の成膜性や膜特性双方に対して安定性を有する。従って、太陽電池やタッチパネル等の透明電極を形成するためのスパッタリングターゲット若しくは蒸着用タブレットとして利用される産業上の利用可能性を有している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スパッタリング法若しくは蒸着法により透明導電膜を製造する際に、スパッタリングターゲット若しくは蒸着用タブレットとして使用されるZn−Sn−O系酸化物焼結体において、
錫がSn/(Zn+Sn)の原子数比として0.01〜0.6含有され、焼結体中における平均結晶粒径が4.5μm以下で、CuKα線を使用したX線回折によるZnSnO相における(222)面、(400)面の積分強度を、それぞれI(222)、I(400)としたとき、I(222)/[I(222)+I(400)]で表される配向度が0.52以上であることを特徴とするZn−Sn−O系酸化物焼結体。
【請求項2】
ガリウム、アルミニウム、チタン、ニオブ、タンタル、タングステン、モリブデン、または、アンチモンから選ばれる少なくとも1種の元素を添加元素として更に含有し、かつ、その添加元素(M)が全金属元素の総量に対する原子数比M/(Zn+Sn+M)として0.01以下の割合で含有されていることを特徴とする請求項1に記載のZn−Sn−O系酸化物焼結体。
【請求項3】
酸化亜鉛粉末および酸化錫粉末を、純水、有機バインダー、分散剤と混合して得られるスラリーを乾燥しかつ造粒する造粒粉製造工程と、
得られた造粒粉を加圧成形して成形体を得る成形体製造工程と、
得られた成形体を焼成して焼結体を得る焼結体製造工程を具備し、
上記焼結体製造工程が、焼成炉内に酸素を含む雰囲気中において800℃〜1400℃の条件で成形体を焼成する工程と、最高焼成温度での保持が終了してから焼成炉内を不活性雰囲気にして冷却し焼結体を得る工程とで構成されることを特徴とする請求項1または2に記載のZn−Sn−O系酸化物焼結体の製造方法。
【請求項4】
上記造粒粉製造工程において、酸化亜鉛粉末および酸化錫粉末、純水、有機バインダー、分散剤を、原料粉末の濃度が50〜80wt%となるように混合し、かつ、原料粉末の平均粒径が0.5μm以下となるまで湿式粉砕した後、30分以上混合攪拌してスラリーを得ることを特徴とする請求項3に記載のZn−Sn−O系酸化物焼結体の製造方法。
【請求項5】
上記造粒粉製造工程において、酸化亜鉛粉末と酸化錫粉末、酸化亜鉛粉末と酸化錫粉末を混合し仮焼して得た仮焼粉末、および、純水、有機バインダー、分散剤を、原料粉末である酸化亜鉛粉末、酸化錫粉末および仮焼粉末の合計濃度が50〜80wt%となるように混合し、30分以上混合攪拌してスラリーを得ることを特徴とする請求項3に記載のZn−Sn−O系酸化物焼結体の製造方法。
【請求項6】
酸化亜鉛粉末と酸化錫粉末を混合し800℃〜1400℃の条件で仮焼して上記仮焼粉末が得られていることを特徴とする請求項5に記載のZn−Sn−O系酸化物焼結体の製造方法。

【公開番号】特開2013−36073(P2013−36073A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−171707(P2011−171707)
【出願日】平成23年8月5日(2011.8.5)
【出願人】(000183303)住友金属鉱山株式会社 (2,015)
【Fターム(参考)】