説明

ころ軸受

【課題】 変動荷重を吸収、減衰させることができて、振動や騒音の少ないころ軸受を提供する。
【解決手段】 ころ軸受は、軸5が内周に挿通される内輪2と、この内輪2の外周面に転接する複数のころ3とを備える。このころ軸受において、前記内輪2と軸5との間に隙間6を設けて、この隙間6に油膜を形成する。前記内輪2は、可撓性を有するものとする。内輪2と軸5との間に形成された油膜により、軸5からの変動荷重を吸収、減衰させ、振動および騒音を低減させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、特に自動車用エンジンのクランク軸やカムシャフトの支持部、あるいはコンロッドとクランク軸およびピストンとの連結部等のような変動荷重を受ける箇所に使用するに適したころ軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
図4は自動車用エンジンのクランク軸およびコンロッドを示している。クランク軸10は、回転中心軸10aと、バランスウェイト10bと、クランクピン10cとで構成され、回転中心軸10aが軸受12により回転自在に支持されている。コンロッド11は、両端の大径端部11aおよび小径端部11bにそれぞれピン挿入穴11cが形成されており、大径端部11aのピン挿入穴11cには前記クランクピン10cがコンロッド11に対して軸受13を介して回転自在に挿入され、小径端部11bのピン挿入穴11cにはピストンピン(図示せず)が軸受(図示せず)を介してコンロッド11に対して回転自在に挿入されている。
【0003】
上記クランク軸10の支持部に用いられる軸受12や、コンロッド11とクランク軸10の連結部に用いられる軸受13は、ピストンの爆発的な往復運動に伴う変動荷重を受ける。このため、上記軸受としてころ軸受または針状ころ軸受が使用される場合、振動や騒音が大きいという問題がある。この問題は、カムシャフトを支持する軸受についても言える。
【0004】
この問題に対する従来技術として、転がり軸受のアウターレースの外周面とシャフト穴内周面との間にオイルフィルム部を形成して騒音の防止を図ったものがある(特許文献1)。
【0005】
また、クランク軸の主支承装置の製造および組立を容易にするために、クランク軸支持用軸受を、外輪に当たるハーフシェルが分割され、それがスリットの設けられた弾性的リングで取り囲んだ構造とした従来技術がある(特許文献2)。
【特許文献1】特開平6−229415号公報
【特許文献2】特表2002−525533号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載の軸受は、アウターレースの外周面とシャフト穴内周面との間に均一間隔の間隙を形成し、その間隙に潤滑油を充填してオイルフィルムとしたものである。この構成は、オイルフィルムのクッション作用は得られるものの、クランクシャフトが転動体に直接接触するため、クランクシャフトの変動荷重の影響を軸受全体が受けやすい。このため、クランク軸の支持部や、コンロッドとクランク軸の連結部等のように、軸からの変動荷重を受ける箇所に使用した場合、振動や騒音の低減を十分に達成することはできない。
【0007】
この発明の目的は、変動荷重を吸収、減衰させることができて、振動や騒音の少ないころ軸受を提供することである。
この発明の他の目的は、軸受の組立の容易化を図ることである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明のころ軸受は、軸が内周に挿通される内輪と、この内輪の外周面に転接する複数のころとを備えるころ軸受において、前記内輪と軸との間に油膜を形成したことを特徴とする。
この構成とすると、内輪と軸との間に形成された油膜によるスクイズフィルムダンパの作用が生じて、軸からの変動荷重を吸収、減衰させることができ、ころと内輪との接触部、ならびに外輪を有する場合はころと外輪との接触部で生じる振動を軽減し、軸受の騒音を抑えることができる。
【0009】
この発明において、前記内輪が可撓性を有するものであるのが好ましい。内輪に可撓性を持たせるため、例えば、前記内輪を、鉄鋼よりも弾性係数の小さい材料からなるものとすることができる。
内輪が可撓性を有すると、油膜の保持機能が高められるため、振動および騒音の低減がより一層効果的に行なわれる。
【0010】
前記複数のころを保持するリング状の保持器、および外輪を有する場合には、前記内輪、保持器、および外輪を、円周方向に並ぶ2個の分割体に分割することができる。
内輪、保持器、および外輪を2個の分割体に分割すると、軸受の組立が容易になる。
【発明の効果】
【0011】
この発明のころ軸受は、軸が内周に挿通される内輪と、この内輪の外周面に転接する複数のころとを備えるころ軸受において、前記内輪と軸との間に油膜を形成したため、変動荷重を吸収、減衰して、振動や騒音を少なくできる。
また、前記複数のころを保持するリング状の保持器、および外輪を有する場合、前記内輪、保持器、および外輪を、円周方向に並ぶ2個の分割体に分割することにより、軸受の組立の容易化を図れる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
この発明の実施形態を図1および図2と共に説明する。このころ軸受は、外輪1と、内輪2と、外輪1の内周面および内輪2の外周面に転接する複数のころ3と、ころ3を保持するリング状の保持器4とを有する。保持器4は円周方向に並ぶ複数のポケット4aを有し、各ポケット4aにころ3が保持されている。
【0013】
内輪2は薄肉に成形されて、可撓性を有するものとされている。鉄鋼よりも弾性係数が小さい材料で内輪2を成形すると、好ましい可撓性を得やすい。
【0014】
図2はこのころ軸受を軸に組み込んだ状態を示すものであり、内輪2の内周に軸5が挿通される。内輪2の内周面と軸5の外周面との間には、10〜100mμ程度の隙間6が設けられ、この隙間6に流体性潤滑油からなる油膜が形成されている。
【0015】
このころ軸受は、例えば図4に示すクランク軸10支持用の軸受12や、コンロッド11とクランク軸10の連結部の軸受13に適用される。軸受12に適用する場合、軸5はクランク軸10の回転中心軸10aである。また、軸受13に適用する場合、軸5はクランク軸10のクランクピン10cであり、外輪1はコンロッド11の大径端部11aである。このころ軸受は、上記軸受12,13の他に、コンロッド11の小径端部11bとピストンピン(図示せず)との連結部の軸受や、カムシャフト支持部の軸受にも適用することもできる。さらに、これら以外の変動荷重を受ける箇所の軸受として適用することができる。
【0016】
上記構成のころ軸受は、内輪2の内周面と軸5の外周面との間の隙間6に形成された油膜のスクイズフィルムダンパ作用により、軸5からの変動荷重が吸収、減衰させられる。このため、ころ3と内輪2との接触部、およびころ2と外輪1との接触部で生じる振動を軽減し、騒音を抑えることができる。また、内輪2が可撓性を有するため、油膜の保持機能が高められ、振動および騒音の低減がより一層効果的に行なわれる。
【0017】
図3は異なる実施形態を示す。この実施形態は、外輪1、内輪2、および保持器4を、それぞれ円周方向に並ぶ2個の外輪分割体1,1、内輪分割体2,2、および保持器分割体4,4に2分割したものである。このように外輪1,内輪2、および保持器4を2分割することで、軸受の組立性を向上させることができ、例えば自動車用エンジンにおけるクランク軸支持用の軸受や、コンロッドとクランク軸の連結部の軸受に用いるのに適したものとなる。
【0018】
上記各実施形態では、外輪1を有するころ軸受を例示しているが、この発明のころ軸受は、外輪が無く、ころ3が軸受使用機器の内周面に直接に転接する構成であっても良く、その場合も上記各実施形態と同様な作用効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】この発明の実施形態にかかるころ軸受の一部を省略した正面図である。
【図2】(A)は同ころ軸受の断面図、(B)はそのIIB−IIB断面図である。
【図3】(A)この発明の異なる実施形態にかかるころ軸受の一部を断面で表示した正面図、(B)はその側面図であり、(A)の断面部分は(B)のIIIA−IIIA断面図である。
【図4】自動車用エンジンのクランク軸およびコンロッドを示す説明図である。
【符号の説明】
【0020】
1…外輪
,1…外輪分割体
2…内輪
,2…内輪分割体
3…ころ
4…保持器
,4…保持器分割体
5…軸
6…隙間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸が内周に挿通される内輪と、この内輪の外周面に転接する複数のころとを備えるころ軸受において、前記内輪と軸との間に油膜を形成したことを特徴とするころ軸受。
【請求項2】
請求項1において、前記内輪が可撓性を有するものであるころ軸受。
【請求項3】
請求項2において、前記内輪が、鉄鋼よりも弾性係数の小さい材料からなるころ軸受。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれか1項において、前記複数のころを保持するリング状の保持器、および外輪を有し、前記内輪、保持器、および外輪を、円周方向に並ぶ2個の分割体に分割したころ軸受。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2007−303617(P2007−303617A)
【公開日】平成19年11月22日(2007.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−134640(P2006−134640)
【出願日】平成18年5月15日(2006.5.15)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】