説明

ばね用Niめっき鋼線およびその製造方法

【課題】耐熱性を向上させ、かつ、耐食性を付与した鋼線、特にばね用鋼線、およびその製造方法を提供する。
【解決手段】ばね用Niめっき鋼線は、重量%で、C:0.5〜0.8%、Si:1.2〜2.5%、Mn:0.5〜1.5%、Cr:0.05〜1.5%を含み、残部がFeおよび不可避的不純物からなり、表面に、厚さが2μm以上であるNiめっき層が形成されている。ばね用Niめっき鋼線は、さらにVおよびNiの一方もしくは両方を含んでもよく、その場合、これらの含有量はそれぞれ、V:0.05〜0.25%およびNi:0.05〜1.5%である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ばね用Niめっき鋼線およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
JIS G 3521に記載される硬鋼線およびJIS G 3522に記載されるピアノ線は、ばね用の鋼線として用いられており、冷間で引き抜き加工を行うことにより、優れた引張強さを示す。しかしながら、硬鋼線およびピアノ線は、高温環境では経時的に機械的強度を失う場合があり、そのため、耐熱性の面で信頼性が低い。また、腐食環境下では錆びが発生するため、耐食性の面で信頼性が低い。
【0003】
硬鋼線およびピアノ線よりも耐熱性を高めたばね用鋼線として、例えば特許文献1のものが知られている。特許文献1の鋼線は、Siの含有量を0.5〜1.5重量%の範囲で増加させることで耐熱性を高めている。これにより、200℃前後の高温環境では強度を維持できる。
【特許文献1】特許第3539875号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1の鋼線は、例えば300℃を超える高温環境では強度が低下するため、十分な耐熱性を有しているとはいえない。また、耐食性に関しては従来品と変わらない。
【0005】
そこで、本発明は、上記事情に鑑み、耐熱性を向上させ、かつ、耐食性を付与した鋼線、特にばね用鋼線、およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明に係るばね用Niめっき鋼線は、重量%で、C:0.5〜0.8%、Si:1.2〜2.5%、Mn:0.5〜1.5%、Cr:0.05〜1.5%を含み、残部がFeおよび不可避的不純物からなり、表面に、厚さが2μm以上であるNiめっき層が形成されている。
【0007】
本発明に係るばね用Niめっき鋼線は、上記含有量のC、SiおよびMnに加え、Crを含み、その含有量が0.05〜1.5重量%に設定されているので、Crを含有しないばね用鋼線と比較して耐熱性を向上させることが可能である。また、本発明に係るばね用Niめっき鋼線は、表面に厚さ2μm以上のNiめっき層が形成されているので、裸のばね用鋼線と比較して耐食性を向上させることが可能である。このように、本発明に係るばね用Niめっき鋼線は、耐熱性および耐食性を備えたものである。
【0008】
本発明の好ましい実施形態では、ばね用Niめっき鋼線は、VおよびNiの一方もしくは両方を含み、これらの含有量がそれぞれ、V:0.05〜0.25%およびNi:0.05〜1.5%である。
【0009】
この構成によれば、ばね用Niめっき鋼線は、上記含有量のVおよびNiのうちの一方または両方を含んでいるので、耐熱性をさらに向上させることが可能である。
【0010】
また、本発明に係るばね用Niめっき鋼線を製造する方法は、重量%で、C:0.5〜0.8%、Si:1.2〜2.5%、Mn:0.5〜1.5%、Cr:0.05〜1.5%を含み、残部がFeおよび不可避的不純物からなる鋼を熱間圧延して製造された線材にパテンティング処理を施すステップと、前記パテンティング処理された前記線材に対して必要に応じて予備伸線加工を行った後、その表面にNiめっき処理を施すステップと、前記Niめっき処理された前記線材に仕上げ伸線加工を施して鋼線を製造するステップとを含み、前記伸線加工では、前記線材のNiめっき処理後における減面率が10%以上に設定され、前記Niめっきの層厚は、前記伸線加工後に2μm以上となるように設定されている。
【0011】
本発明に係るばね用Niめっき鋼線の製造方法によれば、線材のNiめっき処理後における減面率を10%以上に設定し、また、Niめっき層の伸線加工後の層厚を2μm以上となるように設定することで、ばね用鋼線に、耐食性および光沢性を付与することが可能である。また、上記のように、上記含有率の組成成分により鋼線に耐熱性を付与することが可能である。さらに、含有量が0.05〜0.25%のVおよび0.05〜1.5%のNiの一方もしくは両方が必要に応じて用いられる。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係るばね用Niめっき鋼線およびその製造方法によれば、耐熱性、耐食性および光沢性を備えたばね用鋼線を提供することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態に係る鋼線について詳細に説明する。
【0014】
本実施形態の鋼線は、ばね用鋼線であり、主要な組成成分として、C、Si、MnおよびCrを含み、残部がFeおよび不可避的不純物からなる。また、ばね用鋼線は、表面に電気Niめっき層を有する。以下に、C、Si、MnおよびCrの各含有率を重量%で示す。
C :0.5〜0.8%
Si:1.2〜2.5%
Mn:0.5〜1.5%
Cr:0.05〜1.5%
【0015】
ばね用鋼線は、上記の組成成分に加え、必要に応じて、VおよびNiのうちの一方または両方を含む。以下に、VおよびNiの各含有率を重量%で示す。
V :0.05〜0.25%
Ni:0.05〜1.5%
【0016】
次に、各組成成分の含有率(重量%)を上記の範囲に規定した理由を示す。
【0017】
C:0.5〜0.8%
Cは、ばね用鋼線として求められる強度を確保するために必須の元素であり、その強度確保のために、少なくとも0.5%以上必要である。一方、0.8%を超えると、パテンティング時に初析セメンタイトが生成しやすくなり、靭性、延性を低下させる。
【0018】
Si:1.2〜2.5%
Siは、製鋼時の脱酸剤として用いられる元素であり、また、パーライト中のフェライトに固溶して耐熱性を上げる効果を有するため、本実施形態のばね用鋼線では必須の元素である。耐熱性を上げるためには少なくとも1.2%以上添加することが必要である。一方、2.5%を超えると、靭性、延性が低下する。また、Siの過剰な添加は、パテンティング時に鋼線表層の脱炭を促進するため、ばねの疲労強度を低下させる。
【0019】
Mn:0.5〜1.5%
Mnは、製鋼時の脱酸剤として用いられる元素であり、また、焼入れ性と強度を向上させる効果を有するため、本実施形態のばね用鋼線では必須の元素である。前記効果を得るためには少なくとも0.5%以上添加することが必要である。一方、1.5%を超えると、焼入れ性を必要以上に上げてしまうため、長時間のパテンティングが必要となり、また、ベイナイト等の過冷組織が生成され易くなるため、伸線加工性が低下する。
【0020】
Cr:0.05〜1.5%
Crは、パーライト中のフェライトに炭化物や炭窒化物として析出することで耐熱性を上げ、また、パーライトのラメラ間隔を小さくすることで強度を上げる効果を有するため、本実施形態のばね用鋼線では必須の元素である。前記効果を得るためには少なくとも0.05%以上添加することが必要である。一方、1.5%を超えると、焼入れ性を必要以上に上げてしまうため、長時間のパテンティングが必要となり、また、ベイナイト等の過冷組織が生成され易くなるため、伸線加工性が低下する。
【0021】
V:0.05〜0.25%
Vは、パーライト中のフェライトに炭化物や炭窒化物として析出することで耐熱性を上げる効果を有する元素である。前記効果を得るためには少なくとも0.05%以上添加することが必要である。一方、0.25%を超えると、パテンティング時に過冷組織が生成され易くなるため、伸線加工性が低下する。
【0022】
Ni:0.05〜1.5%
Niは、焼入れ性を向上させる効果を有する元素である。前記効果を得るためには少なくとも0.05%以上添加することが必要である。一方、1.5%を超えると、パテンティング時に過冷組織が生成され易くなるため、伸線加工性が低下する。
【0023】
本実施形態では、ばね用鋼線は、主に上記含有率のSiおよびCrの添加によって耐熱性が付与されると共に、電気Niめっき層によって耐食性および外観の光沢性が付与されている。
【0024】
次に、ばね用Niめっき鋼線の製造工程について説明する。ばね用Niめっき鋼線は、以下の製造工程(A)または(B)によって製造される。
・製造工程(A)
鋼の溶製→熱間圧延→パテンティング処理→電気Niめっき処理→伸線加工
→ばね用鋼線の製造
・製造工程(B)
鋼の溶製→熱間圧延→パテンティング処理→予備伸線加工→電気Niめっき処理
→仕上げ伸線加工→ばね用鋼線の製造
【0025】
製造工程(A)では、まず、上記含有率のC、Si、MnおよびCrを含む鋼を溶製し、その鋼を熱間圧延して所定の直径を有する線材を製造する。次に、線材に対してパテンティング処理を施し、その後、電気Niめっき処理を施す。この電気Niめっき処理により、線材の表面にNiめっき層が形成される。そして、Niめっき層を有する線材に対して伸線処理を施して所定の直径を有するばね用鋼線を製造する。伸線処理は、ばね用鋼線として求められる強度に応じた適切な伸線加工度で行われる。
【0026】
伸線加工度の大きさによっては、伸線加工後の鋼線のNiめっき層が薄くなり、耐食性を確保することが困難となる場合がある。このような場合に製造工程(B)が適用される。製造工程(B)は、電気Niめっき処理の前に予備伸線加工を行う点で製造工程(A)と異なる。予備伸線加工は、電気Niめっき処理前に所定の加工度で伸線処理を予め行う加工であり、予備伸線加工を行った分、電気Niめっき処理後の仕上げ伸線加工の加工度を小さくできるので、Niめっき層の層厚が薄くなりすぎることを防止できる。
【0027】
このように、ばね用Niめっき鋼線は、製造工程(A)または(B)によって製造されるが、製造工程(A)および(B)は、例えばNiめっき層の層厚、ばね用鋼線として求められる強度に応じて選択される。
【0028】
また、伸線加工(仕上げ伸線加工)は、製造工程(A)および(B)のどちらの場合であっても、電気Niめっき処理後に少なくとも1パス以上行うことが必要である。電気Niめっき処理を行っただけでは、Niめっき層の表面は粗いため、Niめっき層の層厚の精度は低く、耐食性を低下させる要因となる。また、Niめっき層に光沢性をもたせることは難しい。そこで、本実施形態では、Niめっき層の表面を平滑化することにより、耐食性および光沢性を確保している。Niめっき層の平滑化は、具体的には、伸線加工を、10%以上の減面率で行うことにより行われる。つまり、伸線加工を、伸線処理前の線材の断面積が伸線処理後の線材の断面積と比較して10%以上小さくなる断面減少率で行う。このように伸線加工された後のNiめっき層は、平滑化されて耐食性および光沢性を備えたものとなる。Niめっき層の層厚は、本実施形態では2μm以上となるように設定されている。
【0029】
次に、本実施形態に係るばね用Niめっき鋼線の耐熱性を評価するために行った実験およびその結果について、表1および図1を参照しながら説明する。
【0030】
(耐熱性評価実験1)
この実験で用いた実施例1〜4および比較例1〜3の各組成成分を表1に示す。実施例1〜4および比較例1〜3のそれぞれは、製造工程(A)によって製造した。具体的には、表1に示す組成成分の鋼を溶製し、直径5.5mmの線材を熱間圧延により製造した。次に、各線材にパテンティング処理を施した。パテンティング処理では、オーステナイト化加熱温度を930℃とし、パーライト変態浴温度は、ベイナイトが生成されないように組成成分に応じて530〜650℃の範囲から選択した。パテンティング処理の後、各線材に電気Niめっき処理を施して、各線材の表面に厚さ約15μmのNiめっき層を形成した。この後、各線材に伸線加工を施して、直径1.8mmのばね用鋼線(実施例1〜4および比較例1〜3)を製造した。伸線加工では、通常の連続伸線機と超硬合金製のダイスを使用した。また、伸線加工は、伸線加工後のNiめっき層の層厚が3μmとなるように施された。
【0031】
【表1】

【0032】
伸線加工後の実施例1〜4および比較例1〜3に対して引張試験を実施した。線材をパテンティングした後の強度が実施例によって異なるため、伸線加工後の引張強さにも表1に示すような違いがみられた。
【0033】
この耐熱性評価実験では、耐熱性を評価するために、実施例1〜4および比較例1〜3に対して、250〜500℃の範囲内で20分間のテンパー処理を行った後に引張試験を実施し、引張強さを比較した。その結果を図1に示す。
【0034】
図1は、横軸がテンパー温度を示し、縦軸が引張強さを示すものである。図1から明らかなように、実施例1〜4は、350℃でテンパー処理されても処理前の引張強さと略同等またはそれ以上の引張強さを維持した。これにより、実施例1〜4は、ばね用鋼線として求められる耐熱性が期待できる。したがって、ばね用鋼線を二次加工して製造されるばねの耐へたり性の向上が期待できる。
【0035】
また、実施例1〜4は、350℃を超える温度でテンパー処理されても、引張強さの低下は緩やかであった。テンパー処理後の引張強さは、実施例4、実施例3、実施例2、実施例1の順に低かった。実施例2および3は、実施例1の組成成分から見てVを添加した分、実施例4は、実施例1の組成成分から見てVおよびNiを添加した分、実施例1よりも引張強さが高く、耐熱性が向上していることが確認された。
【0036】
これに対し、比較例1〜3のテンパー処理後の引張強さの低下は著しい。比較例1は、Siの含有率が本実施形態で規定される含有率よりも低く、Crを含んでいないため、テンパー処理後の引張強さの低下が最も著しい。比較例2は、比較例1よりもSiの含有率が高いが、Crを含んでいないため、テンパー処理後の引張強さの低下が著しい。比較例3は、Crの含有率が本実施形態で規定される範囲(0.05〜1.5%)内にあるが、Siの含有率が小さいため、テンパー処理後の引張強さの低下が著しい。このような結果から明らかなように、比較例1〜3は実施例1〜5と比較して耐熱性が低い。この実験結果に基づき、本実施形態に係るばね用鋼線は、耐熱性の向上を図るために、Crを含有し、SiおよびCrの各含有率が上記範囲に設定されている。
【0037】
次に、本実施形態に係るばね用Niめっき鋼線の耐熱性を評価するために行った他の実験およびその結果について、図2を参照しながら説明する。
【0038】
(耐熱性評価試験2)
耐熱性評価試験2で用いた実施例5〜7は、表1に示す実施例2と同一の組成成分を有し、直径5.5mmの線材を伸線加工して製造した鋼線であり、実施例5は伸線加工度が52%に設定され、実施例6は伸線加工度が81%に設定され、実施例7は伸線加工度が90%に設定された。実施例5〜7に対し、250〜500℃の範囲内で20分間のテンパー処理を行った後に引張試験を実施し、引張強さを比較した。その結果を図2に示す。
【0039】
図2に示すように、250℃のテンパー処理によってもたらされるひずみ時効による強度増加は、伸線加工度の大きい実施例7が最も大きく、伸線加工度の小さい実施例5が最も小さくなった。また、300℃以上のテンパーによる強度減少は、伸線加工度の大きい実施例7が最も大きく、伸線加工度の小さい実施例5が最も小さくなった。結果的に、実施例5〜7は、いずれも350℃でテンパー処理された後も、処理前の引張強さと略同等またはそれ以上の引張強さを維持した。これにより、実施例5〜7は、製造工程における伸線加工度の大小によらず、ばね用鋼線として求められる耐熱性が期待できる。したがって、ばね用鋼線を二次加工して製造されるばねの耐へたり性の向上が期待できる。
【0040】
次に、本実施形態に係るばね用Niめっき鋼線の耐食性を評価するために行った実験I,IIおよびその結果について、表2,3および図3,4を参照しながら説明する。
【0041】
(耐食性評価実験I)
この実験Iでは、表2に示すように、電気Niめっき層の層厚を互いに異ならせた実施例8〜11を用い、それらの実施例8〜11に対して塩水噴霧試験を行って耐食性を比較した。実施例8〜11は、表1に示す実施例1と同一の組成成分を有し、直径5.5mmの線材を伸線加工して製造した直径1.8mmの鋼線である。実施例8は、製造工程(A)により製造され、Niめっき層の層厚が2μmに設定され、実施例9は、製造工程(B)により製造され、Niめっき層の層厚が5μmに設定され、実施例10は、Niめっき層を有しておらず、実施例11は、製造工程(A)により製造され、Niめっき層の層厚が1μmに設定された。
【0042】
【表2】

【0043】
図3は、塩水噴霧試験の結果を示すものであり、横軸が試験時間を表し、縦軸が赤錆発生面積率を表す。図3から明らかなように、本実施形態において規定される2μm以上のNiめっき層厚を有する実施例8および9は、優れた防錆効果を発揮した。特に、5μmのNiめっき層厚を有する実施例9は、防錆効果が高い。これに対し、本実施形態において規定される層厚に満たない1μmのNiめっき層厚を有する実施例11は、2μmのNiめっき層厚を有する実施例8よりも著しく防錆効果が低く、また、Niめっき層を有していない実施例10と同程度に防錆効果が低いことが確認された。
【0044】
この耐食性評価実験Iの結果に基づき、本実施形態のばね用Niめっき鋼線では、Niめっき層の層厚は、上記のように2μm以上に設定され、好ましくは5μm以上に設定されている。
【0045】
(耐食性評価実験II)
この実験IIでは、表3に示すように、製造工程(B)の仕上げ伸線加工度、つまり減面率を互いに異ならせた実施例12〜15を用い、それらの実施例12〜15に対して塩水噴霧試験を行って耐食性を比較した。実施例12〜15は、表1に示す実施例1と同一の組成成分を有し、製造工程(B)に従って直径5.5mmの線材から製造した直径1.8mmの鋼線であり、実施例12は、電気Niめっき処理後の仕上げ伸線加工度が10%に設定され、実施例13は、電気Niめっき処理後の仕上げ伸線加工度が20%に設定され、実施例14は、電気Niめっき処理後の仕上げ伸線加工度が5%に設定された。また、実施例15は、電気Niめっき処理後に仕上げ伸線加工を行ったものではなく、伸線加工後に電気Niめっき処理を行った鋼線である。なお、実施例12〜15のNiめっきの層厚は2μmに設定された。
【0046】
【表3】

【0047】
図4は、塩水噴霧試験の結果を示すものであり、横軸が試験時間を表し、縦軸が赤錆発生面積率を表す。また、図4は、比較のため、表2の実施例8のデータも示している。図4に示すように、実施例12,13は、製造工程(A)に従って製造された実施例8と同程度の耐食性を有することが確認された。一方、実施例14,15は、実施例12,13よりも著しく耐食性が劣ることが確認された。
【0048】
この耐食性評価試験IIの結果に基づき、本実施形態のばね用Niめっき鋼線では、仕上げ伸線加工度(減面率)は、10%以上に設定される。
【0049】
以上の説明から明らかな通り、本実施形態に係るばね用Niめっき鋼線は、Crを含み、Crの含有率を0.05〜1.5%に設定し、Siの含有率を1.2〜2.5%に設定することで、十分な耐熱性を獲得し、また、Niめっき層の層厚を2μm以上に設定することで耐食性および光沢性を獲得した鋼線である。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本実施形態に係るばね用Niめっき鋼線のテンパー処理後の引張強さを示す図である。
【図2】伸線加工度を異ならせたばね用Niめっき鋼線のテンパー処理後の引張強さを示す図である。
【図3】電気Niめっき層の層厚を互いに異ならせたばね用鋼線の耐食性を示す図である。
【図4】仕上げ伸線加工度を互いに異ならせたばね用鋼線の耐食性を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量%で、C:0.5〜0.8%、Si:1.2〜2.5%、Mn:0.5〜1.5%、Cr:0.05〜1.5%を含み、残部がFeおよび不可避的不純物からなり、表面に、厚さが2μm以上であるNiめっき層が形成されたことを特徴とするばね用Niめっき鋼線。
【請求項2】
請求項1に記載のばね用Niめっき鋼線において、VおよびNiの一方もしくは両方を含み、これらの含有量がそれぞれ、V:0.05〜0.25%およびNi:0.05〜1.5%であることを特徴とするばね用Niめっき鋼線。
【請求項3】
ばね用Niめっき鋼線を製造する方法であって、
重量%で、C:0.5〜0.8%、Si:1.2〜2.5%、Mn:0.5〜1.5%、Cr:0.05〜1.5%を含み、残部がFeおよび不可避的不純物からなる鋼を熱間圧延して製造された線材にパテンティング処理を施すステップと、
前記パテンティング処理された前記線材に対して必要に応じて予備伸線加工を行った後、その表面にNiめっき処理を施すステップと、
前記Niめっき処理された前記線材に仕上げ伸線加工を施して鋼線を製造するステップと、
を含み、
前記伸線加工では、前記線材のNiめっき処理後における減面率が10%以上に設定され、
前記Niめっきの層厚は、前記伸線加工後に2μm以上となるように設定されていることを特徴とするばね用Niめっき鋼線の製造方法。
【請求項4】
請求項3に記載のばね用Niめっき鋼線の製造方法において、前記鋼は、VおよびNiの一方もしくは両方を含み、これらの含有量がそれぞれ、V:0.05〜0.25%およびNi:0.05〜1.5%であることを特徴とするばね用Niめっき鋼線の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−138456(P2010−138456A)
【公開日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−316327(P2008−316327)
【出願日】平成20年12月12日(2008.12.12)
【出願人】(000192626)神鋼鋼線工業株式会社 (44)
【Fターム(参考)】