説明

アキシャルギャップ型モータ用のステータコア

【課題】放熱性に優れるアキシャルギャップ型モータ、このモータの構成部材に適したステータコア及びステータを提供する。
【解決手段】ステータコア10は、円環状のヨーク部11と、ヨーク部11の一面に突設される複数の柱状のティース12とを具える。各ティース12の外周には、巻線を巻回してなるコイルCが配置されてステータを構成する。ヨーク部11においてティース12の突出側面に冷媒溝14を具える。冷媒溝14により、コア10と冷媒との接触面積が増えることで、コア10を効果的に冷却することができるため、コア10は、放熱性に優れる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アキシャルギャップ型モータ、及びアキシャルギャップ型モータの構成部材に利用されるステータコア並びにステータに関するものである。特に、放熱性に優れるステータコアに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、鉄に代表される磁性材料からなるコアと、このコアに配置されるコイルとを具えるモータが知られている。上記コアは、円環状のヨーク部と、このヨーク部の周方向に並んで突設された複数のティースとを具え、各ティースにそれぞれコイルが外装される。
【0003】
モータの更なる小型化、高出力化を図るための対策の一つとして、モータ運転時に生じるコアやコイルからの発熱による損失を低減することが挙げられる。この損失の低減には、コイル及びコアを冷却することが効果的である。特許文献1,2は、アキシャルギャップ型モータの冷却方法として、コア及びコイルを収納するケース内に冷媒を導入し、この冷媒で直接冷却する方法を開示している。また、特許文献1は、ヨークにおいてティースの突出側面と反対側、即ち、ヨークにおいてコイルと接触しない箇所に冷媒流路(切欠き)を設けることを開示している。
【0004】
【特許文献1】特開2005-143268号公報
【特許文献2】特開2005-261083号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、モータの特性向上の要求が高まってきており、上記発熱による損失が増大する傾向にある。そのため、放熱性の更なる向上が望まれる。特に、コアは、コア自体の発熱に加えて、コイルと接触する箇所からコイルの熱も伝えられるため、十分な冷却が望まれる。しかし、ケース内に冷媒を供給したり、コアにおいてコイルと接触しない箇所に冷媒流路を設ける従来の技術では、コアにおけるコイルとの接触箇所及びその近傍を十分に冷却することが難しく、放熱性の向上に限界がある。
【0006】
そこで、本発明の目的の一つは、放熱性に優れるアキシャルギャップ型モータ用のステータコアを提供することにある。また、本発明の他の目的は、このステータコアを具えるアキシャルギャップ型モータ用のステータを提供することにある。更に、本発明の別の目的は、上記ステータを具えるアキシャルギャップ型モータを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明ステータコアは、主としてコイルとの接触箇所に、冷媒との接触面積を増やすための冷媒溝を設けて、冷媒との接触面積を増大することで、上記目的を達成する。具体的には、本発明ステータコアは、環状のヨーク部と、このヨーク部の周方向に並んで突設された複数のティースとを具えるアキシャルギャップ型モータに用いられるものであり、上記ヨーク部においてティースが突出している側の面(突出側面)に冷媒溝を具える。
【0008】
本発明コアを具えるステータやモータは、使用時に冷媒が順次供給され、この冷媒により発熱体であるコイル及びコアを直接冷却する。特に、本発明コアは、発熱体であるコア自体に冷媒溝を具えることで冷媒との接触面積が増大されるため、冷媒によって効果的に冷却される。また、冷媒により十分に冷却される本発明コアにコイルの熱が伝えられることで、コアによってコイルも効果的に冷却される。かつ、供給された冷媒が冷媒溝を流れることで、溝内の冷媒にコイルが直接接することもできることから、コイルも冷媒との接触面積が多くなり、冷媒によっても効果的に冷却される。従って、コイルとの非接触箇所に冷媒流路を具える従来のコアと比較して、本発明コアは、放熱効果が大きく、熱による損失を低減してモータ特性を向上することができ、モータの小型化、高性能化に寄与すると期待される。以下、本発明を詳細に説明する。
【0009】
ヨーク部は、中心部分にモータの回転軸が挿通される挿通孔を有する環状体、代表的には円環状体であり、一体成形された構成や複数の分割片を組み合わせて環状にする構成が挙げられる。このヨーク部は、その周方向に並列させた複数のティースを支持する。つまり、隣り合うティース間は、ヨーク部により連結される。
【0010】
各ティースにはそれぞれ、巻線を巻回してなるコイルが外装される。このようなティースは、柱状体、特にコイルの内周形状に沿った外周形状を有する柱状体が挙げられる。また、ティースは、ヨーク部との連結側と反対側の端部から突出する鍔部を具えていてもよい。鍔部を具えることで、モータの出力を向上できる他、コイルがティースから脱落することを防止できるといった効果が得られる。鍔部とティースの外周面とヨーク部とで囲まれる断面]状の空間は、コイルの収納部(スロット)に利用される。
【0011】
上記ヨーク部とティースとは、一体成形された構成でも、互いに分離可能で組み合わせて一体にする構成でもよい。上記一体成形された構成は、強度に優れる。上記分離可能な構成は、ティースの外周にコイルを配置した後でヨーク部にティースを装着できるため、コイルの配置作業が行い易い。ティースが鍔部を有する場合も、ティースとヨーク部とが分離可能であれば、同様にティースにコイルを簡単に配置できる。
【0012】
本発明コアは、ヨーク部においてティースの突出側面に冷媒溝を具えることを最大の特徴とする。冷媒溝は、一つのティースに対して一つでもよいが複数具えると、コアと冷媒との接触面積をより増やすことができ、冷却能力をより高められて好ましい。一つのティースに対して、複数の冷媒溝を設けるには、例えば、複数の板状片を離間して配置したり、複数の棒状片を離間して立設することが挙げられる。前者板状片を配置する形態は、コア(ヨーク部)の強度が低下し難く、強度に優れる。板状片間には、板状片に応じた形状の冷媒溝、例えば、直線形状の溝がつくられる。後者棒状片を立設する形態は、コアと冷媒との接触面積をより大きくして放熱性をより高められる。また、棒状片を立設する形態は、コアを構成する磁性材料を低減できるため、コアの軽量化も期待できる。複数の棒状片を立設することで、格子状の溝がつくられる。
【0013】
少なくとも一つの冷媒溝は、一方の端部がティースに至るように設けられていることが好ましい。この構成により、冷媒溝を流れる冷媒は、冷媒溝の一方の端部でティースと接触することができるため、ティースとの接触面積を増加できる。従って、この冷媒溝は、ティースをより効率よく冷却でき、このティースにより、その外周に存在するコイルの熱を奪い易くなり、結果として、コイルをも効率よく冷却可能である。他方の端部は、例えば、別のティースに至るように設けられていてもよいし、ヨーク部の周縁に至るように設けられていてもよい。
【0014】
冷媒溝の配置位置は、ヨーク部におけるティースとの突出側面の任意の位置が選択できるが、特に、ヨーク部の径方向においてティースを挟んだ内周側(モータの回転軸側)の領域(以下、内周側領域と呼ぶ)、及び外周側(ヨーク部の外周縁側)の領域(以下、外周側領域)の少なくとも一方の領域に含まれることが好ましい。ヨーク部は磁路に利用されるため、ヨーク部において隣り合うティース間で挟まれる領域(以下、ティース間領域と呼ぶ)、特にティース間領域においてティースとヨーク部とが連結される連結部分近傍は、磁気が集中し易い。従って、上記ティース間領域は、磁性材料を多く存在させて磁路面積を大きくすると、通過磁束量を増大できる。従って、磁気特性を考慮すると、冷媒溝は、上記ティース間領域を除く領域、即ち、環状の内周側領域や外周側領域に設けられていることが好ましい。
【0015】
冷媒溝がつくる空間が多いほど、コアと冷媒との接触面積を大きくできるため、冷却能力を高められる。従って、放熱性を考慮すると、内周側領域及び外周側領域の双方に冷媒溝を具えることが好ましく、それぞれの領域の全域に亘って冷媒溝を具えてもよい。放熱性に加えて、磁気特性や強度をも考慮すると、いずれか一方の領域に具えることが好ましい。また、冷媒溝は、環状の内周側領域の全周、或いは環状の外周側領域の全周に及んで設けられていてもよいが、内周側領域又は外周側領域においてティースが存在する範囲内のみに設けられていると、通過磁束量の低減が少なく、磁気特性に優れながら放熱性も高い。上記ティースが存在する範囲に設けられる冷媒溝は、そのヨーク部の周方向の長さを適宜選択することができ、例えば、上記範囲に実質的に等しくすることができる。
【0016】
冷媒溝は、任意の形状が選択でき、直線状でも曲線状でもよい。例えば、ヨーク部の周方向に実質的に沿った形状やヨーク部の径方向に実質的に沿った形状が挙げられる。前者周方向に沿った形状は、ヨーク部の周方向に概ね一致する湾曲形状(曲線形状)や、ヨーク部の周縁の接線方向(ヨーク部の径方向に直交する方向)に概ね平行な直線形状などが挙げられる。ここで、モータの回転により冷媒を流動させる場合、モータ駆動時において冷媒は、ヨーク部の周方向に沿って流れる。そのため、冷媒溝がヨーク部の周方向に沿って設けられていると、溝内に冷媒が流れ易くなり、冷却効果を向上できる。後者径方向に沿った形状は、ヨーク部の径方向に概ね一致する直線形状や、ヨーク部の径方向に非直交に交差する直線形状などが挙げられる。交差角度は、0度超90度未満の範囲で適宜選択することができる。ここで、冷媒溝は、ティースからヨーク部の周縁に至るように設けられているとき、即ち、一方の端部がティースに至り、他方の端部が内周縁又は外周縁に至るように設けられているとき、コイルをつくる巻線の端部(導入部分)をこの溝に配置させると、この導入部分とコイルをつくるターン部分との接触によりターン数が低減することを防止して、占積率を高められる。このようなティースからヨーク部の周縁に至る冷媒溝は、上記ヨーク部の径方向に沿った直線形状とすると、簡単に形成できる。
【0017】
ティースが鍔部を具える場合、鍔部におけるティースとの連結側面にも上述したような冷媒溝を具えると、冷媒との接触面積をより増大できる。ヨーク部に具える冷媒溝の形状や形成箇所、大きさなどと、鍔部に具える冷媒溝のそれらとは、同一でも異なっていてもよい。
【0018】
本発明コアは、鉄や鋼といった軟磁性材料などの磁性材料からなる板材を積層させた積層体、上記磁性材料の粉末や同粉末表面に絶縁被覆を形成した被覆粉末を用いた圧粉成形体、上記積層体と圧粉成形体とを組み合わせた組合物で構成することが挙げられる。特に、圧粉成形体は、冷媒溝を有するといった複雑な形状であっても簡単に製造できる上、磁気の方向性の自由度が大きい点で有利である。冷媒溝は、積層体の場合、積層体を適宜切削したり、所望の形状に打ち抜いた板材を積層させることで、圧粉成形体の場合、成形体を適宜切削したり、冷媒溝が形成可能な金型を用いることで形成できる。
【0019】
上記構成を具える本発明コアは、アキシャルギャップ型モータを構成するステータに利用される。本発明ステータは、本発明コアに具える各ティースにそれぞれコイルを挿通配置することで得られる。また、本発明ステータと、このステータと共通の回転軸が挿通されるロータとを具えることで、放熱性に優れる本発明アキシャルギャップ型モータが得られる。上記ステータは、内部に冷媒を導入可能なケースに収納し、ポンプなどにより冷媒をケース内に圧送することで冷媒を循環流通させる。
【発明の効果】
【0020】
本発明アキシャルギャップ型モータ用のコアによれば、放熱性に優れる本発明ステータ及び本発明モータが得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明の実施の形態を図に基づいて説明する。
[実施例1]
《ステータコア》
図1は、ヨーク部に冷媒溝を具えるアキシャルギャップ型モータ用のステータコアの一例を模式的に示し、(A)は、コアをモータの回転軸方向から見た上面図、(B)は、冷媒溝部分を拡大して示す部分斜視図である。ステータコア10は、円環状のヨーク部11と、ヨーク部11の一面(上面)に突設される複数の柱状のティース12とを具える磁性部材である。ティース12の外周には、巻線を巻回してなるコイルCが配置されてステータを構成する。コア10の特徴とするところは、ヨーク部11においてティース12の突出側面(ここでは上面)に冷媒溝14を具える点にある。以下、各構成を詳細に説明する。
【0022】
ヨーク部11は、中心部分にアキシャルギャップ型モータの回転軸(図示せず)が挿通される挿通孔13を具える円環状体である。このヨーク部11に具える複数のティース12は、ヨーク部11の周方向に並列され、挿通孔13(モータの回転軸)の中心から放射状に均等配置されている。各ティース12は、端面が台形状の四角柱状体であり、その外周形状とコイルCの内周形状とを相似形状としている。また、台形状の端面の短辺側が回転軸側(ヨーク部11の内周側)、同長辺側がヨーク部11の外周縁111側(ヨーク部11の外周側)となるように、より具体的には、各ティース12は、端面の中心線がヨーク部11の径方向に実質的に沿うようにヨーク部11に配置されている。更に、各ティース12は、ヨーク部11との連結側と反対側の端部から突出する鍔部15を具える。この例では、ティース12の全周に亘って鍔部15を具えるが、ティースの一部にのみ具えていてもよい。これらティース12及びヨーク部11は、コイルCを支持したり、磁束の通路に利用される。
【0023】
ヨーク部11とティース12とは一体成形された圧粉成形体である。コア10は、一体成形体であることで、強度に優れる。また、圧粉成形体とすることで、円環状のヨーク部11から複数の柱状のティース12が突出したり、一つのティース12対して複数の冷媒溝14が存在するといった複雑な立体形状のコア10を簡単に製造できる。
【0024】
ヨーク部11は、ティース12の突出側面の一部が切り欠かれており、この切欠き箇所が冷媒溝14である。この例では、ヨーク部11の径方向においてティース12よりも外周側の領域(外周側領域)、具体的には、ティース12の外周縁121を含む円とヨーク部11の外周縁111とで挟まれる円環状の領域に冷媒溝14を具える。特に、外周側領域において各ティース12が存在する領域AT内にそれぞれ、複数の冷媒溝14を具える。即ち、一つのティース12に対して複数の冷媒溝14からなる冷媒溝群が存在する。
【0025】
一つの領域ATに存在する冷媒溝群が形成されているヨーク部11の周方向の範囲は、ヨーク部11におけるティース12が設けられている範囲に実質的に等しい。一つの領域ATに存在する各冷媒溝14は、ヨーク部11の径方向に沿った直線形状及び径方向に非直交に交差する方向に沿った直線形状であり、ヨーク部11の周方向に並列するように、複数の板状片140を等間隔に離間して平行に並べることで構成されている。また、各冷媒溝14は、領域ATにおいてヨーク部11の外周縁111からティース12の外周縁121に至る全域に亘って設けられている。即ち、各冷媒溝14は、一方の端部がティース12に至り、他方の端部がヨーク部11の外周縁111に至って開口している。
【0026】
各冷媒溝14の深さd(ヨーク部11の厚さ方向の大きさ)は、突出側面からその対向面に至らない範囲としている。深さdが大きいほど、コア10と冷媒との接触面積を大きくでき、所望の特性に応じて深さdを適宜選択するとよい。また、各冷媒溝14の深さdは、領域ATの全域に亘って均一的にしているが、段階的或いは連続的に異ならせてもよい。その他、各冷媒溝14においてヨーク部11の周方向の幅W1は、適宜選択することができる。
【0027】
上記構成を具えるコア10は、冷媒溝14を具えることで冷媒との接触面積が増大して、冷媒により効率よく冷却される。特に、コア10では、冷媒溝14の一方の端部がティース12に至ることで、溝14を流れる冷媒がティース12に接触することができ、ティース12をより効果的に冷却できる。また、ティース12が十分に冷却されることで、ティース12に配されるコイルCをも効果的に冷却できる。更に、冷媒溝14を流れる冷媒にコイルCも接触することができ、この冷媒によってもコイルCを冷却することができる。加えて、コア10は、各領域AT内のみに冷媒溝14を具えることで、溝形成に伴う磁気特性の低下を低減できる。
【0028】
更に、コア10に具える冷媒溝14はいずれも、ヨーク部11の外周縁111からティース12に至るように連続して開口しているため、任意の溝14にコイルCの導入部分を配置可能である。特に、一つの冷媒溝群に属する溝14において、ヨーク部11の周方向の端部に位置する溝にコイルCの導入部分を配置すると、導入部分とコイルCのターン部分との接触を回避し易い。このように冷媒溝14をコイルCの導入部分の配置箇所として利用することで、コイルCのターンを増やすことができ、占積率を高められる。
【0029】
<変形例1>
上記実施例1では、各冷媒溝群に属する全ての冷媒溝14の深さdが均一的であるが、各溝の底面が傾斜していたり、階段状であってもよい。特に、コイルCの導入部分の配置にも利用する溝は、ティース側に向かって高くなるように(深さdが小さくなるように)底面が設けられていると、導入部分をティース12側に滑らかに引き出せて、巻線に過度な曲げを与え難い。この導入部分を配置させる溝は、巻線の大きさや数に応じて深さdや幅W1を選択する。
【0030】
<変形例2>
上記実施例1では、各冷媒溝群に属する全ての冷媒溝14が、ティース12の外周縁121からヨーク部11の外周縁111に至るように設けられているが、ヨーク部11の外周縁111に至らない溝があってもよい。このとき、外周縁111の近傍に磁性材料が存在するため、ヨーク部の強度を高められる。
【0031】
<変形例3>
上記実施例1では、ヨーク部11とティース12とが一体成形された構成を説明したが、互いに分離可能な構成でもよい。この場合、例えば、ヨーク部とティースとに互いに係合する係合部を設けたり、ボルトなどの締結部材や接着剤を用いて一体にする。ヨーク部とティースとが分離できることで、別途形成したコイルをティースに予め挿通させておき、コイルを具えた状態のティースをヨーク部に装着できるため、コイルの配置を簡単に行える。なお、この構成の場合、樹脂などでティースとヨーク部とを固着すると、強度を高められる。
【0032】
<変形例4>
上記実施例1では、ヨーク部11が一体の円環状体である構成を説明したが、複数の分割片を組み合わせて一体となる構成でもよい。各分割片は、円弧状片とし、互いに係合する係合部を設けておく。また、各分割片は、それぞれ一つのティースを具えるようにする。ヨーク部が分割可能であることで、例えば、ティースに直接巻線を巻回してコイルを形成する場合、ヨーク部を一体に組み立てる前に分割片の状態でコイルを形成できる。コイル形成時に隣り合うティースが存在しないため、巻線を巻回するティースの外周空間が十分に広く、巻線の巻回作業が行い易い。
【0033】
<変形例5>
上記実施例1では、ヨーク部11にのみ冷媒溝14を具える構成を説明したが、図2に示すように鍔部15にも冷媒溝145を具える構成としてもよい。冷媒溝145は、上述したコア10の冷媒溝14と同様の構成が適用できる。ここでは、冷媒溝14と同様に、鍔部15においてティース12との連結側面であって、各ティース12よりも外周側の領域にそれぞれ、複数の溝145からなる群が設けられている。各群は、複数の板状片150を等間隔に離間して平行に並べることで構成されている。各冷媒溝145は、一方の端部がティース12に至り、他方の端部が鍔部15の外周縁に至って開口している。このように冷媒溝を多くすることで、放熱性をより高められる。
【0034】
<変形例6>
上記実施例1では、ヨーク部11の外周側領域にのみ冷媒溝14を具える構成を説明したが、ヨーク部11の径方向においてティース12よりも内周側の領域(内周側領域)、具体的には、ティース12の内周縁122を含む円とヨーク部11の内周縁112とで挟まれる円環状の領域に冷媒溝を具える構成としてもよい。また、図3に示すコア20のように外周側領域及び内周側領域の双方に冷媒溝24(ここではいずれも冷媒溝群)を具える構成、即ち、一つのティース22に付き、二箇所に冷媒溝24i,24oを具える構成とすると、コア20と冷媒との接触面積をより増大して、ティース22をより効果的に冷却できる。一方の端部がティース22の外周縁221に至り、他方の端部がヨーク部21の外周縁211に至って開口する外周側領域の冷媒溝24oと同様に、内周側領域の少なくとも一つの冷媒溝24iは、一方の端部がティース22の内周縁222に至り、他方の端部がヨーク部21の内周縁212に至って開口した構成とすると、この溝をコイルCの導入部分の配置に利用できる。
【0035】
なお、図3に示すコア20は、基本的構成は実施例1のコア10と同様であり、詳細な説明は省略する。また、コア20は、ティース22に鍔部を具えていない例を示すが、実施例1のコア10のように鍔部を具えていてもよい。鍔部を具える場合、鍔部の径方向においてティースを挟んだ内周側の領域及び外周側の領域の双方にも冷媒溝を具える、即ち、一つのティースに付き合計四箇所に冷媒溝(冷媒溝群)を具える構成とすると、冷却能力をより高められる。
【0036】
<変形例7>
上記実施例1では、ヨーク部11の外周側領域において、ティース12が存在する領域AT内にのみ冷媒溝14を具える構成を説明したが、外周側領域の全周に亘って冷媒溝を設けてもよい。即ち、環状に冷媒溝を設けてもよい。このように冷媒溝を大きくすることで、コアと冷媒との接触面積をより増大して、放熱性をより高められる。図3に示すコア20も、ヨーク部21の内周側領域及び外周側領域においてティース22が存在する領域だけでなく、内周側領域の全周に亘って、或いは外周側領域の全周に亘って冷媒溝を設けてもよい。
【0037】
[実施例2]
図4は、ヨーク部の周方向に沿った形状の冷媒溝を具えるアキシャルギャップ型モータ用のステータコアの一例であって、冷媒溝部分を拡大して示す部分斜視図であり、(A)は、巻線の導入部分を配置可能な切欠きが無い例、(B)は、同切欠きを有する例を示す。図4に示すコア30,40の基本的構成は図1に示すコア10と同様であり、異なる点は、冷媒溝の形状にある。以下、この点を中心に説明し、その他の点の説明は省略する。
【0038】
コア30は、ヨーク部31の外周側領域(ティース32の外周縁を含む円とヨーク部31の外周縁311とで挟まれる円環状の領域)において、各ティース32が存在する領域内にそれぞれ、複数の冷媒溝34を具える。一つの冷媒溝群が形成されているヨーク部31の周方向の範囲は、ヨーク部31におけるティース32が設けられている範囲に実質的に等しい。各冷媒溝34は、ヨーク部31の外周縁311の接線方向に平行な直線形状であり、ヨーク部31の径方向に並列するように、複数の板状片340を等間隔に離間して平行に並べることで構成されている。なお、冷媒溝34は、周方向に概ね一致する曲線状(円弧状)とすることもできる。
【0039】
冷媒溝34は、外周側領域においてヨーク部31の外周縁311からティース32の外周縁に至る全域に亘って設けられている。この例では、各冷媒溝群を構成する複数の板状片のうち、一つの板状片340とティース32との間に一つの冷媒溝34が設けられるように板状片340を配置させている。この構成により、ティース32と冷媒との接触面積を増大することができ、ティース32を効果的に冷却できる。
【0040】
冷媒溝34の深さ(ヨーク部31の厚さ方向の大きさ)は、ヨーク部31においてティース32が突出する突出側面(図4において上面)からその対向面に至らない範囲とし、ここでは、溝全体に亘って均一的である。その他、各冷媒溝34におけるヨーク部31の径方向の幅W3は、適宜選択することができる。
【0041】
このように冷媒溝は、ヨーク部の周方向に沿って設けることもできる。このような冷媒溝34を具えるコア30は、モータの回転に伴って冷媒がヨーク部の周方向に沿って流れると、溝34内に冷媒が流れ易くなり、冷却効果をより高められる。
【0042】
更に、図4(B)に示すコア40のように、冷媒溝44を構成する板状片440の一部を切り欠いてもよい。コア40は、上記コア30と基本的構成は同様であり、異なる点は、各板状片440に切欠き部45を具える点にある。切欠き部45は、ヨーク部41の外周縁411からティース42に向かって連続的な空間が設けられるように、各板状片440をそれぞれ切り欠いて構成される。このような切欠き部45を具えるコア40は、放熱性の向上だけでなく、この切欠き部45をコイルの導入部分の配置に利用して占積率の向上をも成し得る。なお、この例に示す切欠き部45は、ヨーク部41の径方向内周側の板状片に設けられた切り欠きと、同外周側の板状片に設けられた切り欠きとが周方向に位置がずれた構成としているが、実施例1のコア10の冷媒溝14のように、ヨーク部の径方向に沿った形状としてもよい。
【0043】
上述した実施例1の各変形例1〜7に示す構成は、実施例2にも適用することができる。例えば、ヨーク部の内周側領域及び外周側領域の双方に冷媒溝を具える場合、双方の冷媒溝の形状を等しくしてもよいし、一方の冷媒溝を実施例1の形状、他方の冷媒溝を実施例2の形状と言うように異ならせてもよい。また、鍔部を具えるコアの場合、ヨーク部と鍔部との双方の冷媒溝の形状を等しくしてもよいし、一方の冷媒溝を実施例1の形状、他方の冷媒溝を実施例2の形状と言うように異ならせてもよい。
【0044】
また、例えば、図5に示すコア50のようにヨーク部51の外周側領域(ティース52の外周縁を含む円とヨーク部51の外周縁511とで挟まれる円環状の領域)の全周に亘って冷媒溝54を設けることができる。冷媒溝54は、円筒状の板状片540を離間して同心円状に立設することで設けられている。ヨーク部51の周方向の全周に亘って連続するように冷媒溝54が設けられることで、上述のようにモータ回転時、溝54内に冷媒が流れ易く、この冷媒が周方向に連続して行き渡るため、コア50全体を効果的に冷却できる。
【0045】
[実施例3]
図6は、ティース間に冷媒溝を具えるアキシャルギャップ型モータ用のステータコアの一例であって、冷媒溝部分を拡大して示す部分斜視図である。図6に示すコア60の基本的構成は、図5に示すコア50と同様であり、異なる点は、冷媒溝の配置位置にある。以下、この点を中心に説明し、その他の点の説明は、省略する。
【0046】
コア60は、ヨーク部61において隣り合うティース62間の領域に複数の冷媒溝64を具える。冷媒溝64は、図5に示すコア50と同様に同心円状に設けられており、内周側に位置する溝は、両端部が隣り合うティース62に至るように設けられ、外周側に位置する溝は、コア50の冷媒溝54と同様にヨーク部61の全周に亘って環状に設けられている。即ち、内周側に位置する溝は、周方向に隣り合う溝間にティース62が存在し、外周側に位置する溝は、ティース62の下方でヨーク部61の内部を貫通するように存在する。なお、図6では、真ん中のティースにのみ、外周側に位置する溝を破線で示す。
【0047】
ヨーク部61において隣り合うティース62間の領域は、コイル(図1参照)が密に配置されるため、高温になり易い。従って、この領域に冷媒溝64を設けることで、放熱性を効果的に高められる。特に、この例に示すコア60は、ヨーク部61の周方向に連続する冷媒溝(外周側に存在する溝)を具えることで、上述のようにモータ回転時、冷媒の流動性に優れ、コア60を効率よく冷却できる。かつ、ティース62とヨーク部61との連結部分において内周側の領域は、冷媒溝が貫通しておらず、磁性材料が存在するため、磁気特性にも優れる。なお、この例では、ヨーク部の周方向の全周に及ぶ冷媒溝を具える例を示したが、全ての冷媒溝が隣り合うティース間にのみ設けられた構成とすると、磁気特性を高められる。
【0048】
《ステータ》
図7は、図1に示すコアとコイルとを具えるアキシャルギャップ型モータ用のステータを具えるアキシャルギャップ型モータの一例を模式的に示す部分断面図である。上述の実施例及び変形例で示したコア(図7ではコア10)の各ティース(同ティース12)にそれぞれコイルCを挿通配置することで、図7に示すようなアキシャルギャップ型モータ用のステータ70を構築することができる。
【0049】
各コイルCは、ヨーク部10におけるティース12の配置に倣って、モータの回転軸72に対して放射状に均等配置される。また、各コイルCは、その端面がヨーク部11の一面(冷媒溝14を具える面)に接している。
【0050】
コイルCをつくる巻線は、断面円形状の金属導体と、導体の外周に絶縁被覆を具える丸線が挙げられる。巻線は、導体と絶縁被覆とを具える種々の形状、例えば、断面矩形状、断面六角形状のものなどが利用できる。コイルCは、ティース12の外周に配置すると共に、一つの冷媒溝14に巻線の導入部分を配置してコア10の外部に引き出し、ヨーク部11上、或いはヨーク部11の外周側で適宜結線処理を行う。
【0051】
なお、コア10とコイルCとをより確実に絶縁するために、コア10において巻線との接触箇所には、PPS(Poly Phenylene Sulfide)、LCP(Liquid Crystal Polymer)などの樹脂といった絶縁材料で構成されたインシュレータを配置することができる。
【0052】
《アキシャルギャップ型モータ》
図7に示すように、上記ステータ70と、別途用意したロータ71とに共通の回転軸72を挿通配置することで、ステータ70とロータ71間に回転軸方向の隙間(ギャップ)を有するアキシャルギャップ型モータを構築することができる。
【0053】
ロータ71は、上記ステータ70と同程度の外径を有する円環状体であって、中央部分に回転軸72が挿入固定される。ロータ71においてステータ70と対向する面には、磁石711を配置する。磁石711は、例えば、永久磁石や電磁石が利用できる。
【0054】
この例では、上記ステータ70及びロータ71を一つのケース73に収納させている。ケース73は、有底筒状であり、中心部分に回転軸72が挿入配置される。また、ケース73の側面には、油や水といった液体状の冷媒を導入する導入口73i及び冷媒を排出する排出口73oを具えており、冷媒を導入口73iからケース73内部に供給して、コア10やコイルCにより温められた冷媒を排出口73oから排出する。冷媒の導入及び排出は、ポンプ(図示せず)を用いて冷媒を圧送することで、循環流通させる構成としている。ケース73に導入された冷媒は、モータの回転に伴って、ヨーク部11の周方向に流れることができる。ポンプと導入口73i及び排出口73oとの間には適宜配管を配置する。導入する冷媒は、温度調整機構を別途具えて温度調整を行ってもよいし、自然放冷により冷却されたものを利用してもよい。
【0055】
なお、上述した実施形態は、本発明の要旨を逸脱することなく、適宜変更することが可能であり、上述した構成に限定されるものではない。例えば、圧粉成形体に代えて、磁性材料からなる板材の積層体や圧粉成形体と積層体との組合物とすることができる。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明アキシャルギャップ型モータ用のステータコア及びステータは、アキシャルギャップ型モータの構成部材に好適に利用することができる。このコアやステータを具える本発明アキシャルギャップ型モータは、例えば、電気自動車やハイブリッド自動車などのモータに好適に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】ヨーク部の外周側領域に冷媒溝を具えるアキシャルギャップ型モータ用のステータコアであって、(A)は上面図、(B)は冷媒溝部分の部分拡大斜視図である。
【図2】ヨーク部及び鍔部に冷媒溝を具えるアキシャルギャップ型モータ用のステータコアであって冷媒溝部分の部分拡大斜視図であり、(A)は、鍔部が上方となるように配置した状態、(B)は、鍔部が下方となるように(A)の状態からひっくり返して配置した状態を示す。
【図3】ヨーク部の内周側領域及び外周側領域の双方に冷媒溝を具えるアキシャルギャップ型モータ用のステータコアの一例を模式的に示す上面図である。
【図4】ヨーク部の外周側領域に冷媒溝を具えるアキシャルギャップ型モータ用のステータコアの別の例を示す冷媒溝部分の部分拡大斜視図であり、(A)は、巻線導入用の切欠きが無い例、(B)は、巻線導入用の切欠きを有する例を示す。
【図5】ヨーク部の外周側領域の全周に亘って冷媒溝を具えるアキシャルギャップ型モータ用のステータコアの一例であって、冷媒溝部分を拡大して示す部分斜視図である。
【図6】ヨーク部において隣り合うティース間の領域に冷媒溝を具えるアキシャルギャップ型モータ用のステータコアの一例であって、冷媒溝部分を拡大して示す部分斜視図である。
【図7】アキシャルギャップ型モータ用のステータを具えるアキシャルギャップ型モータの一例を模式的に示す部分断面図である。
【符号の説明】
【0058】
10,20,30,40,50,60 ステータコア 11,21,31,41,51,61 ヨーク部
12,22,32,42,52,62 ティース 13 挿通孔 14,24,34,44,54,64,145 冷媒溝
15 鍔部 24i 内周側領域の冷媒溝 24o 外周側領域の冷媒溝
45 切欠き部
70 ステータ 71 ロータ 72 回転軸 73 ケース 73i 導入口
73o 排出口
111,211,311,411,511 ヨーク部の外周縁 112,212 ヨーク部の内周縁
121,221 ティースの外周縁 122,222 ティースの内周縁
140,150,340,440,540 板状片 711 磁石
C コイル AT ヨーク部におけるティースが存在する領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
環状のヨーク部と、このヨーク部の周方向に並んで突設された複数のティースとを具えるアキシャルギャップ型モータ用のステータコアであって、
前記ヨーク部においてティースの突出側面に冷媒溝を具えることを特徴とするステータコア。
【請求項2】
前記冷媒溝は、一方の端部がティースに至るように設けられていることを特徴とする請求項1に記載のステータコア。
【請求項3】
前記冷媒溝は、ヨーク部の径方向においてティースを挟んだ内周側領域及び外周側領域の少なくとも一方に具えることを特徴とする請求項1又は2に記載のステータコア。
【請求項4】
前記冷媒溝が形成されているヨーク部の周方向の範囲は、ヨーク部におけるティースが設けられている範囲内のみであることを特徴とする請求項3に記載のステータコア。
【請求項5】
前記冷媒溝は、一方の端部がティースに至り、他方の端部がヨーク部の周縁に至るように設けられていることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のステータコア。
【請求項6】
前記冷媒溝は、ヨーク部の周方向に沿って設けられていることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のステータコア。
【請求項7】
前記ティースは、ヨーク部との連結側と反対側の端部から突出する鍔部を具えており、
前記鍔部においてティースとの連結側面にも冷媒溝を具えることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載のステータコア。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項に記載のステータコアと、このコアに具えるティースに挿通配置されるコイルとを具えることを特徴とするアキシャルギャップ型モータ用ステータ。
【請求項9】
請求項8に記載のステータと、このステータと共通するモータの回転軸が挿通されるロータとを具えることを特徴とするアキシャルギャップ型モータ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−142095(P2009−142095A)
【公開日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−316856(P2007−316856)
【出願日】平成19年12月7日(2007.12.7)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】