説明

アクリル系高分子ビーズ及びこれを含むアクリルゾル組成物

【課題】自動車アンダーボディフロア、ホイールハウス、燃料タンク、車体パネル接合部及びボンネット、ドアなどのような部位に水密、防塵、防錆などを目的でPVCゾルを代替して有用に使用可能なアクリルゾル製造に使用されるアクリル系高分子ビーズ及びこれを含むアクリルゾル組成物を提供すること。
【解決手段】コア/シェル/最外殻層構造のアクリル系高分子ビーズは、単独重合体のガラス転移温度(Tg)が50℃以下の単量体を50〜90質量%含有するコア形成単量体の乳化重合により形成されるコアと、単独重合体のガラス転移温度が50℃以上の単量体を60〜90質量%以上含有するシェル形成単量体の乳化重合により形成されるシェルと、前記コア形成単量体及び前記シェル形成単量体からなる群から選択される一つ以上の単量体及びアクリル酸の乳化重合により形成される最外殻層と、を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車アンダーボディフロア、ホイールハウス、燃料タンク、車体パネル接合部及びボンネット、ドアなどのような部位に水密、防塵、防錆などを目的でPVCゾルを代替して有用に使用可能なアクリルゾル製造に使用されるアクリル系高分子ビーズ及びこれを含むアクリルゾル組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリ塩化ビニル(PVC)は5大汎用樹脂のうち一つでプラスチック、フィルム、接着剤などの広範囲な分野に適用されており、その主な適用分野のうち一つがプラスチックゾル分野である。現在工業的に幅広く使用されているプラスチックゾルでは、PVCパウダーと充填剤を可塑剤に分散させて得られるPVCゾルの使用量が最も多く、その用途に従い顔料、熱安定剤、発泡剤、希釈剤などを含む。
【0003】
このようなプラスチックゾルは自動車用、カーペット用、壁紙用、コーティング用などの用途で広く使用されている。特に、自動車の場合、アンダーボディフロア、ホイールハウス、燃料タンクなどの部位には水密、防塵、及び防錆などを目的で、また、車体パネル接合部及びフード、ドアなどの部位には水密、防錆の目的でPVCゾルが広範囲に使用されている。
【0004】
しかし、PVCゾルの場合、その主成分のPVCが焼却の時に塩化水素ガスを発生させてオゾン層の破壊、酸性雨の原因となるだけでなく、焼却炉に損傷を加え、且つダイオキシンを発生させるなどの問題のため、その使用規制が強化されており、これを代替しようとする多くの努力がなされている。
【0005】
これと関連して、特許文献1〜3などはアクリル系高分子及びこれを利用したアクリルゾルを製造する技術を開示している。これらの技術によると、ゾル用アクリル系高分子は複層または多層を有するコア/シェル構造を有し、コア層は可塑剤との相溶性に優れた高分子から、シェルは可塑剤との相溶性が低い高分子からなっている。従って、このようなコア/シェル構造のアクリル系高分子粒子は、貯蔵温度ではシェルのため可塑剤によるゲル化進行が遅くなって貯蔵安定性を有し、ゲル化温度では相溶性に優れたコアの高分子のため塗膜を形成する。
【特許文献1】特開平7−102147号公報
【特許文献2】特開平8−3411号公報
【特許文献3】特開平8−73601号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、このように得られたアクリル系高分子は、コアとシェルの組成及びアクリル系高分子粒子の大きさによって塗膜特性が異なり、貯蔵安定性にも相当な影響を受ける。従って、優れた塗膜特性とともに高い貯蔵安定性を有する多層構造のアクリル系高分子ビーズを製造するのが求められる。
【0007】
そこで、本出願人らはコア/シェル構造を有するように乳化重合を通じてアクリル系高分子ビーズを製造し、コアの形成時にコア形成単量体中の一部を利用してシード重合を行った後に残量の単量体としてコアを形成させ、適正量のシェルを順次形成させたコア/シェル構造のアクリル系高分子ビーズを製造し、この粒径分布が0.2〜0.5μmと狭いことを確認し、これを特許出願している(特許出願第2003−48971号、2003年7月18日付で出願)。ここで得られたアクリル系高分子ビーズを含むアクリルゾルを製造した結果、ゲル化のときに生成された塗膜の特性は優れている。しかし、貯蔵安定性の側面からは改善の余地があった。
【0008】
そこで、本発明者らは従来のコア/シェル構造を有するアクリル系高分子ビーズの製造の際にアクリルゾルの貯蔵安定性が劣り、ゲル化時に塗膜特性が劣るとの問題点を解決するために研究努力したところ、シェルを形成した後に追加的にアクリル酸を含む単量体と乳化剤の混合溶液を滴加し、開始剤の存在下でさらに反応させて最外殼層を形成させた結果、アクリルゾルの貯蔵安定性がさらに向上されることを見出し、本発明を完成するに至った。また、本発明者らは、噴霧乾燥または塩析の後に得られたアクリル系ビーズを含むアクリルゾルの塗膜特性及び貯蔵安定性が、得られた高分子エマルジョンの粒径に大きく影響を受けることを発見した。
【0009】
本発明の目的は、優れた塗膜特性と貯蔵安定性を有するコア/シェル/最外殼層の構造のアクリル系高分子ビーズ及びその製造方法を提供することにある。
【0010】
本発明の他の目的は、このようなアクリル系高分子ビーズに可塑剤、充填剤、接着増進剤、顔料、染料などを混合して、貯蔵安定性及びゲル化後の塗膜特性に優れた自動車アンダーボディコーティング用アクリルゾル組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
このような目的を達成するため、本発明に係る自動車用アクリル系高分子ビーズの製造方法は、シード重合を利用する乳化重合により、イオン交換水、コア形成単量体5〜60質量%、及び乳化剤をリアクタに添加して昇温し、水溶性開始剤を投入して1〜4時間重合させてシードを形成する第1段階と、残量のコア形成単量体を滴加し、1〜6時間反応をさらに進行させてコア層を形成する第2段階と、単独重合体のガラス転移温度が50℃以上の単量体を60〜90質量%以上含有するシェル形成単量体を滴加し、2〜4時間反応をさらに進行させてシェル層を形成する第3段階と、を含み、前記第3段階の後、前記コア形成単量体及び前記シェル形成単量体からなる群から選択される一つ以上の単量体、アクリル酸、及び乳化剤を含む混合溶液を滴加し、開始剤を加え2〜4時間反応をさらに進行させて最外殻層を形成する第4段階をさらに含んで、アクリル系高分子ビーズを含むエマルジョンを製造し、エマルジョンを噴霧乾燥あるいは塩析を通じてアクリル系高分子ビーズを得る。
【0012】
本発明の自動車用アクリルゾル組成物は、上記のような方法を通じて得られたコア/シェル/最外殼層の構造を有するアクリル系高分子ビーズを含む。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、シード重合を利用してコア形成単量体のうち一部を用いてシードを形成させ、残量の単量体を重合してコアを形成した後、シェルを順次形成させてコア/シェル構造を有するようにし、追加的にアクリル酸を含む単量体及び添加剤を滴加しさらに反応させて得られたコア/シェル/最外殼層の構造を有するアクリル系高分子ビーズは、自動車アンダーボディコーティング用アクリルゾル製造に使用される際に、アクリルゾルの貯蔵安定性とゲル化後の塗膜特性に優れ、且つ優秀な貯蔵安定性を示した。従って、このように得られたアクリルゾル組成物は自動車アンダーボディフロア、ホイールハウス、燃料タンク、車体パネル接合部及びボンネット、ドアなどの部位に水密、防塵、防錆などの目的で、PVCゾルの代替として有用に使用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、このような本発明を詳しく説明する。
【0015】
本発明によるコア/シェル/最外殼層の構造を有するアクリル系高分子ビーズの製造方法を詳しく説明すると、第1段階において、窒素気流下、適正量のイオン交換水及び架橋剤とともに、乳化剤及び5〜60質量%のコア形成単量体をリアクタに入れ、内部温度を60〜90℃に昇温し、水溶性開始剤を投入して1〜4時間重合させてシードを形成させる。
【0016】
第2段階では、残量のコア形成単量体40〜95質量%と乳化剤をリアクタに加え、重合を行ってコアを形成させる。
【0017】
第3段階では、リアクタ内部の温度を一定に維持しながら、適正量の架橋剤とともにシェル形成単量体と乳化剤を投入して重合させ、開始剤をさらに添加して重合を完了させて、平均粒径が0.2〜0.7μmで、粒径の標準偏差が平均粒径対比1〜12%のコア/シェル構造を有するアクリル高分子ビーズを含むエマルジョンを得る。
【0018】
次いで、ここにアクリル酸を含む単量体及び乳化剤を含む混合溶液を滴加し、開始剤の存在下に2〜4時間反応をさらに進行させて最外殼層を形成することにより、コア/シェル/最外殼層の構造を有するアクリル高分子ビーズを含むエマルジョンを得る。シェルに加えてこのように最外殼層を形成すると、可塑剤との相溶性を低下させて可塑剤の浸透に起因するゲル化反応を遅延させることにより、アクリル系高分子を含むアクリルゾルの貯蔵安定性が向上する。
【0019】
上記のような一連の過程を通じてアクリル系高分子ビーズを含むエマルジョンを得た後、これを噴霧乾燥又は塩析すると、目的のアクリル系高分子ビーズが得られる。
【0020】
このとき、アクリル系高分子ビーズを含むエマルジョンの平均粒径が0.4〜0.7μmで維持されることが、噴霧乾燥または塩析の後の塗膜特性及び貯蔵安定性の側面から好ましい。これにより、アクリル系高分子ビーズを含むエマルジョンの平均粒径が0.7μmより大きくなると重合が容易でなく、0.4μmより小さいと噴霧乾燥を使用してビーズを製造した場合に塗膜特性が顕著に劣るといった問題を解消できる。特に、アクリル系高分子ビーズを含むエマルジョンの平均粒径が0.5〜0.7μmであることが、噴霧乾燥または塩析の間に最良の塗膜特性及び貯蔵安定性を示す点で好ましい。
【0021】
このような平均粒径を有するアクリル系高分子ビーズを含むエマルジョンを噴霧乾燥または塩析して得られたアクリル系高分子ビーズの平均粒径は10〜100μm程度である。アクリル系高分子ビーズの平均粒径が10μmより小さいと、外観及び塗膜特性は好ましいが噴霧乾燥のときに歩留りが大きく劣り、微細粉末のため作業の際に散るなど、作業性が悪くなる。また、平均粒径が100μmより大きくなると、塗膜を形成した場合に外観が粗く、塗膜の強度低下のため特性が劣るおそれがある。
【0022】
本発明のアクリル系高分子ビーズを製造するにあたって、コア形成単量体は単独重合体のガラス転移温度(Tg)が50℃以下の単量体を50〜90質量%含み、好ましくはメチルアクリレート、エチルアクリレート、プロピルアクリレート、n−ブチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレートなどのような炭素数1−8のアルキル基を有するアクリル酸エステル、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート及びn−ブチルメタクリレート、イソ−ブチルメタクリレートなどの炭素数1〜4のアルキル基を有するメタクリル酸エステル、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル、メタクリル酸ヒドロキシプロピルなどのメタクリル酸ヒドロキシアルキルエステルからなる群より選択される1種以上を、目的及び用途に従い適切に選択することができる。特に、コアのガラス転移温度調節と電着板の接着性の向上のためにn−ブチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレートなどのアクリル酸エステル、n−ブチルメタクリレート及びイソ−ブチルメタクリレートなどのメタクリル酸エステルの1種以上を使用するのが好ましい。
【0023】
また、シェル形成単量体は単独重合体のガラス転移温度が50℃以上の単量体を60〜90質量%以上含み、好ましくは、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート及びn−ブチルメタクリレート、イソ−ブチルメタクリレートなどの炭素数1−4のアルキル基を有するメタクリル酸エステル、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル、メタクリル酸ヒドロキシプロピルなどのメタクリル酸ヒドロキシアルキルエステルからなる群より選択される1種以上を、目的及び用途に従い適切に選択することができる。特に、ゾルの貯蔵安定性のためにはメチルメタクリレートなどのメタクリル酸エステルを使用するのが好ましい。
【0024】
ここで、単独重合体のガラス転移温度(Tg)は、本願に援用されるPolymer Handbook 2nd Edition, J. Wiley & Sons, New York(1975)を参照して使用することができる。
【0025】
最外殻層形成単量体としては、コア及びシェルに使用された単量体に加えて、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸などのエチレン系不飽和カーボン酸が使用でき、これらのモノマーの1種以上を混合して使用してもよい。より詳しくは、アクリル酸を含むべきである。最外殻層単量体中でのアクリル酸の含量は5〜20質量%を満たすべきである。アクリル酸の含量が最外殻層単量体中で5質量%未満であれば目的の貯蔵安定性が得られなく、20質量%を超過すると水分吸収率が高くなるおそれがある。
【0026】
コア/シェル/最外殻層の単量体比は50〜80:10〜40:10〜20質量%を満たすのが好ましい。最外殻層単量体が全体アクリル系高分子ビーズ単量体組成中で10質量%未満であればコア全体に最外殻層を形成することができず、20質量%超過であれば塗膜の特性を低下し得る。
【0027】
本発明のアクリル系高分子ビーズの重合に使用される開始剤としては、アクリル系高分子の乳化重合に一般的に使用される開始剤、例えば、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウムなどの過硫酸塩系、パースルホキシレート/有機過酸化物、過硫酸塩/亜硫酸塩などのレドックス系開始剤が挙げられるが、これらに制限されるのではない。開始剤の含量は各層単量体に対して0.005〜0.5質量部である。また、本発明のアクリル系高分子ビーズの重合に使用される乳化剤としては、ドデシルスルフェート、ジオクチルパースルホサクシネート、ジヘキシルスルホサクシネート、ドデシルベンゼンスルフェートなどの炭素数4〜30のアルキルスルフェートのナトリウム、アンモニウムまたはカリウム塩などの陰イオン系乳化剤、アルキルフェノキシポリエチレングリコールアクリレート、酸性リン酸メタアクリル酸エステル、アルキルアリールフェノキシポリエチレングリコール、ナトリウム−ω−アクリロイルオキシアルキル(トリアルキル)アンモニウム−パラトルエンスルホネート、ナトリウム−ポリスチレンフェニルエーテルスルフェート、ポリオキシエチレン−1−(アリールオキシメチル)アルキルエーテル硫酸エステルアンモニウム塩などの反応性乳化剤、及びラウリルジメチルアミンオキシドなどの両親性乳化剤が挙げられ、その含量は各層単量体に対して0.1〜40質量部である。
【0028】
乳化重合において単量体、開始剤、乳化剤などは、目的とする段階の重合反応に応じて、一括、分割、連続添加などの公知の任意の方法により添加できる。
【0029】
本発明のアクリル系高分子ビーズの重合に使用されるイオン交換水は、一般的な工業用水が使用できるが、アクリル系高分子ビーズの純度を高めるためにはイオン交換機を経て生成され窒素気流下で抵抗値が5MΩ以上の純水を使用するのがより好ましい。イオン交換水は全単量体に対し80〜800質量部で使用される。
【0030】
本発明の最終アクリル系高分子ビーズの重量平均分子量(Mw)は、用途に応じて適宜選択できる。ゾルの貯蔵安定性と成形される皮膜の強度のためには、50,000〜3,000,000g/molが好ましく、100,000〜2,000,000g/molがより好ましい。重量平均分子量が50,000以下になると、ゾルの貯蔵安定性と皮膜特性が低下し、重量平均分子量が2,000,000以上になると生産性が低くなり得る。
【0031】
このようなコア/シェル/最外殻層構造のアクリル系高分子ビーズを使用して自動車アンダーボディコーティングなどに使用されるアクリルゾルを製造でき、その組成の非制限的な例としては、上述のように得られたアクリル系高分子ビーズ100質量部に対し、可塑剤100〜200質量部、充填剤110〜180質量部、接着増進剤10〜30質量部、染料及び顔料0〜10質量部及びプラスチックゾルに通常使用されるその他の添加剤が挙げられる。
【0032】
本発明のアクリルゾル組成中で可塑剤としては、ジメチルフタレート、ジエチルフタレート、ジブチルフタレート、ジヘキシルフタレート、ジ−2−エチルヘキシルフタレート、ジイソデシルフタレート、ジオクチルフタレート、ジイソノニルフタレート、ジメトキシエチルフタレート、ジウンデシルフタレート、ブチルベンジルフタレート、ビス(メトキシエチル)フタレート、ビス(エトキシエチル)フタレート、ビス(ブトキシエチル)フタレートなどのフタル酸エステル系可塑剤、ジフェニルオクチルホスフェート、トリブチルホスフェート、トリメチルホスフェート、トリクレジルホスフェート、トリフェニルホスフェート、トリ−2−エチルヘキシルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、トリアリールホスフェートなどのリン酸エステル系可塑剤、ジオクチルアジペート、ジイソデシルアジペートなどのアジピン酸エステル系可塑剤からなる群より選ばれる1種以上が使用できるが、特にフタル酸エステル系が好ましい。
【0033】
その含量はアクリル系高分子ビーズ100質量部に対し100〜200質量部である。可塑剤の含量がアクリル系高分子ビーズ100質量部に対し100質量部未満になると、ゾルの粘度が高すぎてスプレー塗装などの方法による適用が難しく、ゲル化後の塗膜の衝撃強度が低く、200質量部超になると、粘度が低すぎて塗布後のゲル化による塗膜形成の前に流失したり、ゲル化後に可塑剤が流失したりし得る。また、アクリルゾル組成中で充填剤としては炭酸カルシウム、タルク、クレー、シリカ、雲母、カオリン、水酸化アルミニウム、ベントナイト、酸化アルミニウムからなる群より選択される1種以上が使用できる。その含量はアクリル系高分子ビーズ100質量部に対し110〜180質量部である。その含量が110質量部未満になると特性補強の効果が少なく、180質量部超になるとゾルの粘度が高すぎてゲル化後の塗膜の特性が低下する。
【0034】
一方、接着増進剤は、本発明のアクリルゾル組成物を自動車アンダーボディコーティングに使用する場合に車体下部に塗布され、電着板との接着力を与えるために使用することができる。即ち、自動車下部の車体に適用されたアクリルゾルが水密、防塵、及び防錆の機能を維持するためには自動車が運行される期間の間に接着力を継続維持すべきであり、このために接着増進剤の添加が必要である。
【0035】
接着増進剤の具体例としては、ビスフェノールA型エポキシ、テトラブロモビスフェノールA型エポキシ、ウレタン改質エポキシ、ゴム改質エポキシ、三官能性エポキシ、四官能性エポキシ、多官能性ビスフェノールA型エポキシ、フェノールノボラック型エポキシ、クレゾルノボラック型エポキシ、ビスフェノールAノボラック型エポキシなどのエポキシ系、ブロックイソシアネート系、シラン系、アルミ系またはチタン系カップリング剤からなる群より選ばれる1種以上が使用できる。その含量は、アクリル系高分子ビーズ100質量部に対し10〜30質量部であるのが好ましい。その含量が10質量部より少ないと電着板との密着力が低下し、30質量部より多くなるとゾルの貯蔵安定性が悪くなり得る。
【0036】
また、プラスチックゾル分野で一般的に着色剤として使用される染料及び顔料、例えばアゾ系顔料、フタロシアニン系顔料、塩基性染料系顔料、キナクリドン系顔料、ジオキシジン系顔料、縮合アゾ系顔料、カーボンブラック、酸化チタン、クロム酸塩、フェロシアン化物、硫酸塩、ケイ酸塩、炭酸塩、リン酸塩などの金属粉末からなる群より選ばれる1種以上を含むことができるが、これに制限されるのではない。
【0037】
その含量はアクリル系高分子ビーズ100質量部に対し10質量部以下であることが好ましい。
【0038】
そのほかにプラスチックゾル分野に一般的に使用される別の添加剤、例えば、発泡剤、酸化防止剤、水分吸水剤、UV安定剤、流れ調節剤、粘度調節剤などを適宜含むことができるし、その種類及び含量はプラスチックゾルの使用目的に従い当業者が選択可能である。
【実施例】
【0039】
以下、本発明を実施例に基づき詳しく説明するが、実施例により本発明が限定されるものではない。
【0040】
<実施例1>
第1段階として、イオン交換水700gを3Lフラスコに投入して窒素気流下で内部温度を70℃まで加熱した。コア形成単量体のイソブチルメタクリレート及びメチルメタクリレートの混合物240g、及びナトリウムジオクチルパースルホサクシネート2gの混合溶液を調製した。この混合溶液30質量%のみをリアクタに加え、15分間200rpmで撹拌した。その後、過硫酸カリウム溶液15mLを加え、60分間撹拌しながら重合を行ってシードを形成させた。
【0041】
重合がほとんど完了した後、第2段階として、混合溶液中の残りを30分間かけてリアクタに滴加し、4時間さらに反応を進行させてコアを形成させた。
【0042】
過硫酸カリウム溶液7mLを加えた後に30分間撹拌し、第3段階として、メチルメタクリレート及びイソブチルメタクリレートの混合物80g、及びナトリウムジオクチルパースルホサクシネート2gの混合溶液を、40分間かけてリアクタに滴加し、過硫酸カリウム溶液15mLを加えて2時間重合を行った。
【0043】
第4段階として、メチルメタクリレート及びアクリル酸の混合物80g(アクリル酸4g)、及びナトリウムジオクチルパースルホサクシネート2gの混合溶液を30分間滴加し、過硫酸カリウム溶液15mLを再度加えて2時間さらに重合させることにより、重合を完了した。
【0044】
このように製造されたアクリル系高分子ビーズを含むエマルジョン内でのアクリル系高分子エマルジョン粒径及び分布を、測定機器「Submicron Particle Sizer」(NICOMP社, Autodilute Model 370)の測定セルを用い、懸濁液の吸光測定にて測定した。
【0045】
また、製造されたエマルジョン状態のビーズを、噴霧乾燥機の入口温度220℃、出口温度88℃、フィード量2kg/hrの条件下で粉体化して乾燥し、乾燥されたビーズの大きさを走査電子顕微鏡(Scanning Electron Microscopy, SEM)で測定した。また、製造された粒子の重量平均分子量(Mw)は、試料をテトラヒドロフラン(THF)に添加して室温で24時間溶解した後に、ポリスチレン粒子を標準試料として測定機器GPCを用いて測定した。
【0046】
<実施例2〜3>
最外殻層の単量体組成を表1のように変更した点を除き、実施例1と同様な方法によりコア/シェル/最外殻層構造のアクリル系高分子ビーズを製造した。
【0047】
<実施例4〜5>
最外殻層の単量体組成を表1のように変更した点を除き、実施例1と同様な方法によりコア/シェル/最外殻層の構造のアクリル系高分子ビーズを製造した。
【0048】
<実施例6>
コアの単量体組成中でイソブチルメタクリレートに代わってn−ブチルメタクリレートを使用した点を除き、実施例1と同様な方法によりコア/シェル/最外殻層構造のアクリル系高分子ビーズを製造した。
【0049】
(比較例1)
第1段階として、イオン交換水700gを3Lフラスコに投入して窒素気流下で内部温度を70℃まで加熱し、コア形成単量体であるイソブチルメタクリレート及びメチルメタクリレートの混合物240g、及びナトリウムジオクチルパースルホサクシネート2gの混合溶液を調製した。この混合溶液30質量%のみをリアクタに加え、15分間200rpmで撹拌した。その後、過硫酸カリウム溶液15mLを加え60分間撹拌しながら重合を行ってシードを形成させた。
【0050】
重合がほとんど完了した後、第2段階として、混合溶液中の残りを30分間かけてリアクタに滴加し、4時間さらに反応を進行させてコアを形成させた。
【0051】
過硫酸カリウム溶液7mLを加えた後に30分間撹拌し、第3段階として、メチルメタクリレート及びイソブチルメタクリレートの混合物160g、及びナトリウムジオクチルパースルホサクシネート2gの混合溶液を、40分間かけてリアクタに滴加完了した後、過硫酸カリウム溶液15mLを加えて2時間にわたり重合を行った。
【0052】
このように製造されたエマルジョン内でのアクリル系高分子エマルジョン粒径と分布、及び乾燥されたビーズの大きさを実施例1のように測定した。
【0053】
(比較例2〜3)
最外殻層の単量体組成を表1のように変更した点を除き、実施例1のような方法によりアクリル系高分子ビーズを製造した。
【0054】
実施例及び比較例を通じて乾燥したアクリル系高分子ビーズ25質量部、充填剤として炭酸カルシウム35質量部、及びブロックイソシアネート系接着付与剤(U−401、製造会社:ハンベ物産)3質量部を、可塑剤のジオクチルフタレート35質量部、カーボンブラック2質量部に分散することで、アクリルゾルを製造した。
【0055】
製造されたゾルの初期粘度を、20℃及び回転数20rpmでブルックフィールド粘度計No.7スピンドルを使用して測定し、その後に40℃で14日間保管した後、同様な方法にて測定することにより、初期粘度での粘度変化率で評価した。
【0056】
また、製造されたゾルをエアレススプレーして2mm厚さで塗布した後、130℃で20分間ゲル化して塗膜の特性を評価した。引っ張り強度、伸率及びモジュラスといった特性を、ASTM D638に基づきInstron(model 1170)テスト機によって測定し、得られた結果を表2に表示した。
【0057】
【表1】










【0058】
【表2】

【0059】
表1の結果から、実施例1〜6のようにコア/シェルを形成し、ここにアクリル酸を含む単量体を滴加した後にさらに反応させて最外殻層を形成したアクリル系高分子ビーズを含むアクリルゾルの組成は、粘度の変化率が50%未満であった。これに対し、比較例1のようにコア/シェル構造を有するアクリル系高分子ビーズを含むアクリルゾル組成では粘度の変化率が450%であった。よって、最外殻層の形成により、貯蔵安定性がより向上されることが分かった。
【0060】
また、比較例2のようにコア/シェル/最外殻層構造を有していても最外殻層形成単量体中にアクリル酸が含まれていない場合には、貯蔵安定性が劣ることが分かり、比較例3のようにコア/シェル/最外殻層構造において最外殻層形成単量体中にアクリル酸が30質量%以上含まれる場合には、塗膜の伸率が低下することが分かった。
【0061】
実施例を参考にして本発明を説明してきたが、これは例示的なものに過ぎず、本技術分野の当業者であれば、これらから多様な変形、及び他の均等な例を見出すことができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コア/シェル/最外殻層構造のアクリル系高分子ビーズであって、
単独重合体のガラス転移温度(Tg)が50℃以下の単量体を50〜90質量%含有するコア形成単量体の乳化重合により形成されるコアと、
単独重合体のガラス転移温度が50℃以上の単量体を60〜90質量%以上含有するシェル形成単量体の乳化重合により形成されるシェルと、
前記コア形成単量体及び前記シェル形成単量体からなる群から選択される一つ以上の単量体及びアクリル酸の乳化重合により形成される最外殻層と、を含むアクリル系高分子ビーズ。
【請求項2】
コア/シェル/最外殻層の単量体の含量比は50〜80:10〜40:10〜20質量%である請求項1に記載のアクリル系高分子ビーズ。
【請求項3】
平均粒径は10〜100μmである請求項1に記載のアクリル系高分子ビーズ。
【請求項4】
アクリル酸の含量は最外殻層を形成する単量体を基準に5〜20質量%である請求項1に記載のアクリル系高分子ビーズ。
【請求項5】
重量平均分子量(Mw)が100,000〜2,000,000g/molの範囲内である請求項1に記載のアクリル系高分子ビーズ。
【請求項6】
コア形成単量体は、炭素数1〜8のアルキル基を有するアクリル酸エステル、炭素数1〜4のアルキル基を有するメタクリル酸エステル、及びメタクリル酸ヒドロキシアルキルエステルからなる群より選択される1種以上である請求項1に記載のアクリル系高分子ビーズ。
【請求項7】
シェル形成単量体は、炭素数1〜4のアルキル基を有するメタクリル酸エステル及びメタクリル酸ヒドロキシアルキルエステルからなる群より選択される1種以上である請求項1に記載のアクリル系高分子ビーズ。
【請求項8】
乳化重合により得られるアクリル系高分子ビーズを有するエマルジョンを噴霧乾燥してアクリル系高分子ビーズを製造する方法であって、
イオン交換水、単独重合体のガラス転移温度(Tg)が50℃以下の単量体を50〜90質量%含有するコア形成単量体5〜60質量、及び乳化剤をリアクタに添加して昇温し、水溶性開始剤を投入して1〜4時間重合させてシードを形成する第1段階と、
残量のコア形成単量体を滴加し、1〜6時間反応をさらに進行させてコア層を形成する第2段階と、
単独重合体のガラス転移温度が50℃以上の単量体を60〜90質量%以上含有するシェル形成単量体を滴加し、2〜4時間反応をさらに進行させてシェル層を形成する第3段階と、を含み、
前記第3段階の後、前記コア形成単量体及び前記シェル形成単量体からなる群から選択される一つ以上の単量体、アクリル酸、及び乳化剤を含む混合溶液を滴加し、開始剤を加え2〜4時間反応をさらに進行させて最外殻層を形成する第4段階をさらに含むアクリル系高分子ビーズの製造方法。
【請求項9】
第4段階の後、アクリル系高分子ビーズを含むエマルジョンの平均粒径は0.4〜0.7μmである請求項8に記載のアクリル系高分子ビーズの製造方法。
【請求項10】
アクリル酸の含量は最外殻層を形成する単量体を基準に5〜20質量%である請求項8に記載のアクリル系高分子ビーズの製造方法。
【請求項11】
請求項8記載の方法で得られるコア/シェル/最外殻層構造のアクリル系高分子ビーズ。
【請求項12】
請求項1または請求項11のアクリル系高分子ビーズ、充填剤、可塑剤、接着増進剤、顔料及び染料を含む自動車アンダーボディコーティング用アクリルゾル組成物。
【請求項13】
アクリル系高分子ビーズ100質量部を基準に、可塑剤100〜200質量部、充填剤110〜180質量部、接着増進剤10〜30質量部、顔料0〜10質量部を含む請求項12に記載の自動車アンダーボディコーティング用アクリルゾル組成物。
【請求項14】
ブルックフィールド粘度計No.7スピンドルを用いて20℃、20rpmの条件で測定した初期粘度が30,000〜80,000cpsである請求項12に記載の自動車アンダーボディコーティング用アクリルゾル組成物。
【請求項15】
40℃、95%恒温恒湿機に14日間保管した後に20℃、20rpmの条件でブルックフィールド粘度計NO.7スピンドルを用いて測定した粘度の増加率が初期粘度対比50%未満である請求項12に記載の自動車アンダーボディコーティング用アクリルゾル組成物。

【公表番号】特表2009−513811(P2009−513811A)
【公表日】平成21年4月2日(2009.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−538831(P2008−538831)
【出願日】平成18年11月14日(2006.11.14)
【国際出願番号】PCT/KR2006/004771
【国際公開番号】WO2007/055550
【国際公開日】平成19年5月18日(2007.5.18)
【出願人】(597114649)コーロン インダストリーズ インク (99)
【Fターム(参考)】