説明

アジマス推進器

【課題】ラダー付きのアジマス推進器において、大きな舵角を取った場合等に発生するアジマス推進器全体の振動を抑制すること。
【解決手段】船内に設置した原動機5の動力を機械的に伝達し、ラダー形状部を含むストラットを介して船体に取り付けられたポッド2のプロペラ3を駆動するとともに、ストラットと一体にポッド2が回動するように構成されたアジマス推進器1Aにおいて、ストラットの内部に固有振動数を変化させる制振機構の錘20が設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アジマス推進器に係り、特に、アジマス推進器の振動抑制に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、舶用推進装置として、アジマス推進器の使用が増加する傾向にある。アジマス推進器は、水平方向に360度回転するポッドにプロペラを装備した構成のため、固定軸プロペラと舵とによる推進と異なり、船舶を任意の方向に移動させることや、現在位置を正確に維持することができる。
このようなアジマス推進器には、船内に設置した原動機の動力を機械的な伝達してプロペラを駆動する方式と、ポッド内に設置した電動機に船内で発電した電力を供給してプロペラを駆動する方式とがある。
【0003】
また、上述したアジマス推進器には、ポッドと一体に回転するラダー(舵)を備えたものもある。
図6に示すように、アジマス推進器1は、たとえば船舶Sの船尾等に取り付けて使用される。このアジマス推進器1は、図7に示すように、ポッド2と、プロペラ3と、ラダー4とを備えている。
【0004】
この場合のラダー4は、水平断面をラダー形状とし、船舶Sとの連結軸部を含む上部ストラット4aと、ポッド2の下方へ延在して同様のラダー断面形状を有する下部ストラット4bとにより構成されている。上部ストラット4aより下方の部分は、すなわちラダー4及びプロペラ3を備えたポッド2は、図示しない旋回装置により、船舶Sに対して一体に回動可能(図中の矢印R参照)となっている。
また、船舶Sの船内には原動機5が設置されており、原動機5の動力は、2組の傘歯歯車ユニット6,7を介してプロペラ3に伝達される。
【0005】
この場合、原動機5の動力は、船内に配設された傘歯歯車ユニット6で水平方向の駆動力が垂直方向に変換され、さらに、ポッド2の内部に配設された傘歯歯車ユニット7で垂直方向の駆動力が水平方向に変換されてプロペラ3に伝達される。なお、図中の符号8は船内水平駆動軸、9は垂直駆動軸、10はポッド内水平駆動軸である。
【0006】
このように、ラダー4を備えたアジマス推進器1は、大きな舵角を取った場合、プロペラ3から発生する力の変動が大きくなるので、これに起因する機器全体の振動が問題となっている。
このような振動に関する状来技術としては、たとえば下記の特許文献1に開示されているように、マグナス効果により横方向の揚力を得ることで、小舵角でも所要の舵力を得るようにして振動を抑制する技術が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2004−106566号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述したように、ラダー付きのアジマス推進器は、大きな舵角を取った場合にプロペラから発生する力の変動が大きくなるので、この影響を受けてアジマス推進器の機器全体が振動する。このようなアジマス推進器全体の振動は、不快な船体振動を生じることや、関連機器が故障する原因となるため好ましくない。
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、ラダー付きのアジマス推進器において、大きな舵角を取った場合等に発生するアジマス推進器全体の振動を抑制することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記の課題を解決するため、下記の手段を採用した。
本発明に係るアジマス推進器は、船内に設置した原動機の動力を機械的に伝達し、ラダー形状部を含むストラットを介して船体に取り付けられたポッドのプロペラを駆動するとともに、前記ストラットと一体に前記ポッドが回動するように構成されたアジマス推進器において、前記ストラットの内部に固有振動数を変化させる制振機構が設けられていることを特徴とするものである。
【0010】
このような本発明のアジマス推進器によれば、ストラットの内部に固有振動数を変化させる制振機構が設けられているので、アジマス推進器自体の固有振動数を変化させてずらすことで、振動を抑制することができる。
【0011】
上記の制振機構は、前記ストラット内に配設されて前記原動機の動力を伝達する垂直駆動軸に沿って上下動する錘であることが好ましい。
また、上記の制振機構は、前記ストラット内の下部に配設され、バネ及び減衰器を介して前記ストラットに締結された錘であることが好ましい。
【0012】
また、上記の制振機構は、前記ストラット内に配設されて動力により回転する偏心錘であることが好ましい。
また、上記の制振機構は、前記ストラット内に複数配設した液体タンクの液面調整であることが好ましく、この場合に好適な液体タンクの充填液体としては、原動機の動力を機械的に伝達する機構の潤滑油や海水がある。
【0013】
また、上記の制振機構は、前記ストラット及び/または前記ポッドの内部に設置した振動情報検出部と、該振動情報検出部から入力を受けた振動情報に基づいて振動制御信号を出力する制御部とを備えていることが好ましく、これにより、振動情報に基づく振動制御信号を出力して制振機構を動作させる自動制振が可能になる。
【発明の効果】
【0014】
上述した本発明によれば、大きな舵角を取った場合にプロペラから発生する力の変動が大きくなるラダー付きのアジマス推進器において、制振機構によりアジマス推進器全体の振動を抑制することが可能になり、この結果、不快な船体振動や関連機器の故障を防止または低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明に係るアジマス推進器の一実施形態を示す概略構成図である。
【図2】図1に示すアジマス推進器が自動制御により制振するための構成例を示す概略構成図である。
【図3】本発明に係るアジマス推進器の第1変形例を示す図であり、(a)は概略構成図、(b)は(a)のA−A断面図である。
【図4】本発明に係るアジマス推進器の第2変形例を示す図であり、(a)は概略構成図、(b)は(a)のB−B断面図である。
【図5】本発明に係るアジマス推進器の第3変形例を示す図であり、(a)は概略構成図、(b)は(a)のC−C断面図である。
【図6】ラダー付きのアジマス推進器を船尾に取り付けた船舶を示す図である。
【図7】ラダー付きのアジマス推進器に関する従来例を示す概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明に係るアジマス推進器の一実施形態を図面に基づいて説明する。
図1に示す実施形態のアジマス推進器1Aは、船舶Sの船尾等に取り付けて使用される舶用推進装置の一種である。このアジマス推進器1Aは、船舶Sの船内に設置した原動機5の動力を機械的に伝達し、ラダー4として機能するラダー形状部を包含するストラットを介して船体に取り付けられたポッド2のプロペラ3を駆動するとともに、船舶Sに対して、ラダー4として機能するストラットと一体にポッド2が回動する。
【0017】
この場合のストラットは、水平断面をラダー形状とする領域を設けたことでラダー4を兼ねている。すなわち、ラダー4は、ラダー形状の水平断面を有し、船舶Sとの連結軸部を含む上部ストラット4aと、ポッド2の下方へ延在して同様のラダー断面形状を有する下部ストラット4bとにより構成されている。そして、上部ストラット4aより下方の部分であるラダー4及びプロペラ3を備えたポッド2は、図示しない旋回装置により、船舶Sに対して一体に回動するようになっている。
【0018】
原動機5の動力は、2組の傘歯歯車ユニット6,7を介してプロペラ3に伝達される。この場合、船内に配設された傘歯歯車ユニット6では、原動機5に連結された船内水平駆動軸8の他端に固定された傘歯歯車6aと、垂直駆動軸9の上端部に固定された傘歯歯車6bとの噛合により、水平方向の駆動力が垂直方向に変換される。
さらに、ポッド2の内部に配設された傘歯歯車ユニット7では、垂直駆動軸9の下端部に固定された傘歯歯車7aと、一端にプロペラ3を取り付けたポッド内水平駆動軸10の他端に固定された傘歯歯車7bとの噛合により、垂直方向の駆動力が水平方向に変換されてプロペラ3に伝達される。
【0019】
上述した構成のアジマス推進器1Aには、ストラットの内部に、この場合はラダー4の内部に、固有振動数を変化させて減衰させる制振機構が設けられている。この場合の制振機構は、ラダー4の内部空間に配設されて原動機5の動力を伝達する垂直駆動軸9を利用したものであり、この垂直駆動軸9に沿って上下動する錘20である。なお、錘4の上下動は、たとえば図示省略の電動機及び駆動機構を用いて行うことができる。
このような錘20を用いた制振機構は、錘20を上下に移動させるとアジマス推進器1Aの重心位置や慣性モーメントが変化する。このため、アジマス推進器1Aの固有振動数も変化するので、ラダー4を備えたアジマス推進器1Aが大きな舵角を取った場合において、プロペラ3から発生する大きな力の変動に起因して生じる振動の共振点からずらすことができ、この結果、振動の減衰が可能となる。
【0020】
また、上述した制振機構の錘20は、ラダー4を兼ねるストラット及び/またはポッド2の内部に設置した振動情報検出部30と、振動情報検出部30から入力を受けた振動情報に基づいて振動制御信号を出力する制御部40とを備えている。
振動情報検出部30は、たとえばラダー4の内部に配置して振動を感知する変位計であり、この振動情報検出部30で得られた振動情報は、有線もしくは無線により船内適所に設置された別置きの制御部40に送られる。
【0021】
制御部40は、振動情報検出部30から入力を受けた振動情報に基づいて振動制御信号を出力する情報処理装置であり、たとえば変位計で得られた振動情報(位置情報)をフーリエ解析し、振幅の大きな振動成分について振幅、周波数及び位相を抽出する。そして、この振動成分と共振しないように錘20を上下動させてアジマス推進器1Aの固有振動数を変化させれば、振幅の大きな振動成分を減衰させたり増幅を防いだりすることにより自動的に振動を低減する自動制振が可能になる。
【0022】
また、この場合の振動検出部30は、上述した変位計により直接的に振動情報を得る他にも、たとえば速度計や加速度計を用いて得られる速度や加速度との相関関係から、間接的に振動情報を得ることも可能である。
【0023】
上述した制振機構は、錘20の上下動に限定されることはなく、下記の変形例が可能である。なお、以下に説明する各変形例において、上述した実施形態と同様の部分には同じ符号を付し、その詳細な説明は省略する。
図3に示す第1変形例の制振機構は、錘21を使用する点では上述した実施形態と同様である。しかし、この変形例では、ラダー4内の下部に配設された錘21の両端が、バネ22及び減衰器23を介してラダー4に締結された構造となっている。
【0024】
このように構成された制振機構は、動吸振器の原理により、アジマス推進器1Bの横揺れを吸収することができる。
また、バネ22の剛性や減衰器23の減衰性能を可変にすれば、振動の状態に応じて制振機構の制振性を適宜調整可能となる。
【0025】
図4に示す第2変形例の制振機構は、ラダー4の内部(図示の例では下部)に配設されて動力により回転する偏心錘24である。この偏心錘24は、電動機24aに締結されて回転することで加振を行うものである。
この場合、アジマス推進器1Cの振動に対して、偏心錘24が180度位相のずれた力加振を行うことにより、カウンターを当てて振動を抑制することができる。
【0026】
図5に示す第3変形例の制振機構は、ラダー4の内部に複数の液体タンク25を配設しておき、各液面タンク25の液面調整を行うものである。
図示の構成例では、ラダー4の内部において、合計4つの液体タンク25が上下左右に分散配置されているので、各液面タンク25の液面(液体充填量)調整により重量配分も変化する。従って、アジマス推進器1Dの重心位置も変化するので、図1に示した錘20の上下動と同様に、特別な錘を使用しなくても、液面位置の調整により制振することができる。
【0027】
この液面タンク25に使用する充填液体としては、アジマス推進器1Dに原動機5の動力を機械的に伝達する機構の潤滑油や海水がある。
潤滑油は、2組の傘歯歯車ユニット6,7や図示しない軸受等の潤滑に使用されるものであり、潤滑油タンクから充填用のポンプを用いて各液体タンク25に必要量が供給される。また、各液体タンク25には、それぞれに開閉弁を設けた液体充填配管や液体排出配管が接続されている。なお、液体タンク25の代わりに、潤滑油タンクを複数に分割して分散配置する構造としてもよい。
【0028】
充填液体として海水を使用する場合には、海洋を航行するという船舶の特性から、使用できる海水量に制限がない。また、潤滑油を使用する場合と異なり、タンク内にスラッジ等が沈殿することもない。なお、海水を使用する場合においても、海水ポンプ、海水充填配管及び海水排出配管等が必要となる。
なお、このような制振機構に関する各変形例は、上述した振動情報検出部30や制御部40との組合せにより、自動制振を行うことも可能である。
【0029】
このように、上述した本実施形態によれば、大きな舵角を取った場合にプロペラ3から発生する力の変動が大きくなるラダー付きのアジマス推進器に制振機構を設けたので、制振機構によりアジマス推進器全体の振動を抑制することが可能になる。この結果、ラダー付きのアジマス推進器を備えた船舶は、制振機構により不快な船体振動が低減されるとともに、関連機器類の故障も防止または低減される。
なお、本発明は上述した実施形態に限定されることはなく、その要旨を逸脱しない範囲内において適宜変更することができる。
【符号の説明】
【0030】
1A〜1D アジマス推進器
2 ポッド
3 プロペラ
4 ラダー
5 原動機
6,7 傘歯歯車ユニット
8 船内水平駆動軸
9 垂直駆動軸
10 ポッド内水平駆動軸
20,21 錘
22 バネ
23 減衰器
24 偏心錘
25 液体タンク
30 振動情報検出部
40 制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
船内に設置した原動機の動力を機械的に伝達し、ラダー形状部を含むストラットを介して船体に取り付けられたポッドのプロペラを駆動するとともに、前記ストラットと一体に前記ポッドが回動するように構成されたアジマス推進器において、
前記ストラットの内部に固有振動数を変化させる制振機構が設けられていることを特徴とするアジマス推進器。
【請求項2】
前記制振機構は、前記ストラット内に配設されて前記原動機の動力を伝達する垂直駆動軸に沿って上下動する錘であることを特徴とする請求項1に記載のアジマス推進器。
【請求項3】
前記制振機構は、前記ストラット内の下部に配設され、バネ及び減衰器を介して前記ストラットに締結された錘であることを特徴とする請求項1に記載のアジマス推進器。
【請求項4】
前記制振機構は、前記ストラット内に配設されて動力により回転する偏心錘であることを特徴とする請求項1に記載のアジマス推進器。
【請求項5】
前記制振機構は、前記ストラット内に複数配設した液体タンクの液面調整であることを特徴とする請求項1に記載のアジマス推進器。
【請求項6】
前記制振機構は、前記ストラット及び/または前記ポッドの内部に設置した振動情報検出部と、該振動情報検出部から入力を受けた振動情報に基づいて振動制御信号を出力する制御部とを備えていることを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載のアジマス推進器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−61937(P2012−61937A)
【公開日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−207105(P2010−207105)
【出願日】平成22年9月15日(2010.9.15)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】