説明

アスベスト含有廃材の無害化処理方法及びピストン式ポンプ

【課題】アスベスト含有廃材を安全かつ大量に、しかも確実に無害化処理すると共に、その無害化処理したアスベスト含有廃材を資源としてそのまま利用するアスベスト含有廃材の無害化処理方法を提供すること。
【解決手段】アスベスト含有廃材をセメント焼成用のロータリーキルン内に窯前から投入してアスベストを無害化するアスベスト含有廃材の無害化処理方法であって、アスベスト含有廃材をスラリー化材と混合してスラリー状とした後、該スラリー状のアスベスト含有廃材をピストン式ポンプによってロータリーキルンの窯前から連続的に投入することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アスベスト含有廃材をセメント焼成用のロータリーキルンに投入してアスベストを無害化するアスベスト含有廃材の無害化処理方法及び該方法に好適に用いられるピストン式ポンプに関するものである。
【背景技術】
【0002】
アスベスト(石綿)は、天然の鉱物繊維で、種類としては蛇紋岩系のクリソタイル〔白石綿、Mg6 Si4 10(OH)8 〕や角閃石系のアモサイト(茶石綿、(Fe、Mg)7 Si 8 22(OH)2 〕などがある。
これらのアスベストは、耐熱性、耐薬品性、絶縁性などの諸特性に優れているため、建設資材、電気製品、自動車および家庭用品などの分野で幅広く利用されていた。
【0003】
しかし、近年、周知のように人体への毒性が指摘されている。すなわち、アスベストは、太さが人間の髪の毛の1/5000という非常に微細な繊維状物質であり、アスベストの粉塵を人が吸い込むと、いわゆる「ミクロの針」が肺細胞に刺さる。このような事態が続くことにより、石綿肺、肺癌、悪性中皮腫などの重大な疾病が引き起こされる。
そこで、現在では、アスベストの使用が完全に禁止されていることは勿論、過去において使用されたアスベストを無公害的に取り除き、無害化処理することが国を挙げての大きな懸案となっている。
【0004】
これに応じて、アスベスト含有廃材の無害化処理方法が種々提案されている。例えば、特許文献1乃至4などに記載されているように、焼成炉などを用いてアスベスト含有廃材を溶融し、アスベストを針状繊維で無くすることが提案されている。
【0005】
【特許文献1】特開平8−141537号公報
【特許文献2】特開平8−187482号公報
【特許文献3】特開平9−206726号公報
【特許文献4】特開平9−86982号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、先ず上記特許文献1乃至3などに記載された技術のように、専らアスベスト含有廃材を無害化するため、専用の焼成炉などを用いてアスベスト含有廃材を溶融させる技術にあっては、アスベスト含有廃材を溶融させるための多大な設備コストと多量のエネルギーコストを独自に必要とし、無害化のための処理費用が高騰すると言う課題があった。 また、上記特許文献1乃至3には、無害化した後の溶融固結物を、コンクリート骨材、建材用レンガ、タイルなどにリサイクル利用することも記載されているが、これらのものに利用するためには、溶融固結物の粉砕、混合、成形、焼結などの新たな過程を必要とし、更にその処理費用が高騰していた。
【0007】
一方、特許文献4には、セメント焼成用のロータリーキルンを用いて、アスベスト含有廃材を無害化すると共に、無害化したものをそのままセメントの原料として使用する技術が開示されている。かかる技術においては、セメントの製造に使用する熱をアスベストの無害化に利用でき、また他に何らの処理を施すことなくその無害化したものを資源として利用できるため、上記した特許文献1乃至3などに記載された技術に比して、アスベスト含有廃材の処理費用を低減できるものではあったが、該特許文献4に記載された技術にあっては、ロータリーキルンの窯前に設けた燃焼手段の近傍から、或いは燃焼手段から燃料と共に、最大粒径が10mm程度に破砕されたアスベスト含有廃材をロータリーキルン内に空気圧送することとしているため、そのアスベスト含有廃材の供給方法から、処理できるアスベスト含有廃材の量は少なく、また、窯前から遠くまでアスベスト含有廃材を確実に飛ばすことができないため、十分な熱処理を受けないまま窯前からセメントクリンカと共に無害化されていないアスベストが排出される憂いがあった。また、該特許文献4に記載された技術にあっては、アスベスト含有廃材を空気圧送することとしているため、アスベスト含有廃材は破砕されると共に乾燥状態とされるため、ロータリーキルンへの投入前の取扱い時におけるアスベスト含有粉塵の飛散が懸念されるものであった。
【0008】
本発明は、上述した背景技術が有する課題に鑑みなされたものであって、その目的は、アスベスト含有廃材を安全かつ大量に、しかも確実に無害化処理すると共に、その無害化処理したアスベスト含有廃材を資源としてそのまま利用するアスベスト含有廃材の無害化処理方法、及び該方法を実現するためのピストン式ポンプを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記した目的を達成するため、本発明に係るアスベスト含有廃材の無害化処理方法は、アスベスト含有廃材をセメント焼成用のロータリーキルン内に窯前から投入してアスベストを無害化するアスベスト含有廃材の無害化処理方法であって、アスベスト含有廃材をスラリー化材と混合してスラリー状とした後、該スラリー状のアスベスト含有廃材をピストン式ポンプによってロータリーキルンの窯前から連続的に投入することを特徴とする。
【0010】
ここで、上記本発明において、上記スラリー状のアスベスト含有廃材の粘度(25℃)が100〜10000cPであること、また、上記スラリー化材が油、有機汚泥のいずれかであることは、いずれも好ましい実施の形態である。
【0011】
また、上記した目的を達成するため、本発明に係るピストン式ポンプは、スラリー状のアスベスト含有廃材をセメント焼成用のロータリーキルン内に投入するためのピストン式ポンプであって、一端に遮断部材を有し、中間部にスラリータンクと連通するスラリー導入孔を有し、該スラリー導入孔を挟んで上記遮断部材と反対側で摺動するピストンを有するN本(Nは3以上の整数)のシリンダと、上記各シリンダのピストンを駆動するピストン駆動システムを備え、吸入工程においては、上記遮断部材を閉じた状態で上記ピストンを上記遮断部材から遠ざかるように動かしてスラリー状のアスベスト含有廃材を上記シリンダ内に吸引し、吐出工程においては、上記遮断部材を開いた状態で上記ピストンを上記遮断部材に近ずけるように動かしてスラリー状のアスベスト含有廃材を吐出させることと、上記N本のシリンダのピストンの位相が略2π/Nだけ互いにずれていることと、上記N本のシリンダの出力側が一本の筒に接続され、その筒の先端の吐出口からスラリー状のアスベスト含有廃材が連続的に吐出されることを特徴とする。
【0012】
ここで、上記本発明において、上記筒に補助シリンダが設けられ、上記複数のシリンダでスラリー状のアスベスト含有廃材をロータリーキルンの中に連続的に投入することを開始する時、該補助シリンダもスラリー状のアスベスト含有廃材を該筒に吐出して該吐出口からの吐出力を増強し、上記複数のシリンダでスラリー状のアスベスト含有廃材をロータリーキルンの中に連続的に投入することを停止する時、該補助シリンダはスラリー状のアスベスト含有廃材を該筒から吸引して該吐出口からの吐出を瞬時に停止させること、また、上記筒は、吐出口に向かって先細りに形成されており、吐出口の開口面積S1が筒の細める前の内部断面積S2の1/n倍(nは5〜10)であること、更には、上記筒は、少なくとも先端の吐出口の部分では中心軸が上方に向いて傾斜しており、該先端部分の切り口は略水平で上方に吐出口が開口していることは、いずれも好ましい実施の形態である。
【発明の効果】
【0013】
上記した本発明に係るアスベスト含有廃材の無害化処理方法によれば、アスベスト含有廃材をスラリー化材と混合してスラリー状とした後、該スラリー状のアスベスト含有廃材をピストン式ポンプによってロータリーキルンの窯前から連続的に投入することとしたため、大量のアスベスト含有廃材を、窯前からロータリーキルン内の十分に遠くまで無理なく確実に投入することができ、投入されたアスベスト含有廃材は、長時間にわたってセメント原料と共に転がりながら高温に曝されるため、確実に無害化処理され、粉状になってセメントクリンカの一部となり、資源として有効に利用されることとなる。また、アスベスト含有廃材をスラリー状とするため、取扱い時におけるアスベスト含有粉塵の飛散がなく、安全である。
【0014】
また、上記した本発明に係るピストン式ポンプによれば、ピストンの位相が略2π/Nだけ互いにずれているN本(Nは3以上の整数)のシリンダの出力側が一本の筒に接続され、その筒の先端に設けられた吐出口からスラリー状のアスベスト含有廃材を連続的に吐出させる構成としたため、各シリンダのピストンの移動方向が変わるときの吐出力の変動、すなわち脈動が相殺されて少ないものとなり、大量のアスベスト含有廃材を、窯前からロータリーキルン内の十分に遠くまで無理なく確実に投入することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明に係るアスベスト含有廃材の無害化処理方法及び該方法に好適に用いられる本発明に係るピストン式ポンプの実施の形態を、図面などを示して詳細に説明する。
【0016】
本発明に係るアスベスト含有廃材の無害化処理方法は、アスベスト含有廃材をスラリー化材と混合してスラリー状とした後、該スラリー状のアスベスト含有廃材をピストン式ポンプによってロータリーキルンの窯前から連続的に投入するものである。
【0017】
上記本発明において言うアスベスト含有廃材としては、建築物への吹き付け用アスベスト材、アスベストを強度改善の目的で所定量添加した石綿スレート、石綿セメント板、屋根瓦、樹脂製水道管、自動車のブレーキパイプ、アセチレンボンベのマトリックス、更には、アスベストを断熱性、絶縁性の付与の目的で含有したガスケット、シーリング材などのアスベスト含有製品の廃棄物が挙げられるが、中でも、今後大量の発生が見込まれる吹き付け用アスベスト材、石綿スレート、石綿セメント板などのアスベスト含有建材の廃棄物の処理に、本発明は好適に用いられる。
【0018】
本発明においては、前処理段階として、上記アスベスト含有廃材は破砕される。この破砕過程には、例えば建築物に貼られた石綿スレート、石綿セメント板などの建材を解体剥離する際、金槌、手などで小割りにする場合も含まれ、また、ジョークラッシャ、コーンクラッシャ、インパクトクラッシャ、ハンマークラッシャ、ロッドミル、ボールミルなどの破砕機によって、解体剥離した石綿スレート、石綿セメント板などのアスベスト含有廃材を破砕する場合も含まれる。このアスベスト含有廃材の破砕に際しては、密閉式の破砕機を使用する、或いは飛散防止剤を噴霧しながら或いは浸透させた状態で行う等の方策を採用することにより、アスベスト含有粉塵の飛散を防止することが好ましい。なお、この破砕過程は、吹き付け用アスベスト材の如く、破砕する必要のないアスベスト含有廃材にあっては当然省略することができる。
【0019】
次の過程で、上記破砕されたアスベスト含有廃材は、油、汚泥、或いは水等のスラリー化材と混合され、流動性をもったスラリー状とされる。このスラリー化過程において使用される油としては、A重油、B重油、C重油、廃潤滑油、重油スラッジ、植物油 廃塗料、原油スラッジなど、揮発し難い成分を含む油類が好適であり、中でも、B重油、廃潤滑油などの油類は、適度な粘性と高い引火点を有するため、混合したアスベスト含有廃材の沈降分離防止、また混合時の安全確保の観点から好ましい。また、汚泥としては、下水汚泥、ヘドロなどの有機汚泥が、該有機汚泥中の粘性に富んだ有機質やコロイド粘土などの存在により、混合時におけるアスベスト含有粉塵の飛散を効果的に防止できると共に、混合したアスベスト含有廃材の沈降分離を防止できるために好ましい。
【0020】
上記アスベスト含有廃材の破砕過程とスラリー化過程とは、同時に行ってもよく、この場合には、先ずアスベスト含有廃材と油、汚泥などのスラリー化材とを、ジョークラッシャ、コーンクラッシャ、インパクトクラッシャ、ハンマークラッシャなどの粗砕機に投入し、アスベスト含有廃材を粗砕すると共にスラリー化材と混合し、得られた混合物を更に、ロッドミル、ボールミルなどの粉砕機に投入し、アスベスト含有廃材を目標粒径まで破砕すると共にスラリー化材と十分に混合する方法を採用することができる。この場合には、油、汚泥などのスラリー化材が混合破砕時における粉塵飛散を防止する作用を果たし、別途、飛散防止剤を添加する必要がなくなり、また混合と同時に大径のアスベスト含有廃材の破砕を行うことにより、アスベスト含有廃材の分散性が向上し、より均質な粘性と流動性を持ったスラリー状のアスベスト含有廃材が得られる。
【0021】
上記アスベスト含有廃材の破砕過程、或いはアスベスト含有廃材とスラリー化材との破砕兼スラリー化過程におけるアスベスト含有廃材の目標破砕粒径は、最大粒径が15mm以下となるように破砕することが好ましく、更には最大粒径が5mm以下となるように破砕することが好ましい。また、アスベスト含有廃材と油、汚泥などのスラリー化材とを混合することにより得られたスラリー状のアスベスト含有廃材の性状としては、流動性の観点から、粘度(25℃)が100〜10000cPであることが好ましく、更には2000〜5000cPであることが好ましい。なお、この粘度の測定は、回転式粘度計によって測定した値である。
【0022】
上記油、汚泥などのスラリー化材と混合されて適度な粘性と流動性を付与されたスラリー状のアスベスト含有廃材は、ピストン式ポンプによってセメント焼成用のロータリーキルンの窯前から連続的に投入され、セメント原料と共に熱処理されて無害化される。
【0023】
ここで、セメント焼成用のロータリーキルンの中では、セメント原料がゆっくりと(例えば40m程度を40分程度かけて) 加熱されながら移動する。このときセメント原料が投入される側のキルンの入口を窯尻と呼び、製造されたセメントクリンカが排出される側のキルンの出口を窯前と呼ぶ。燃料及び燃焼用空気は窯前からキルン内に吹き込まれ、キルン内にはセメント原料の進行方向とは逆の窯前から窯尻に向かう燃焼排ガスの流れが形成され、セメント原料はこの燃焼排ガスによって予熱され、火炎近傍の焼成帯域付近において焼成される。
【0024】
アスベスト含有廃材を無害化するためにセメント焼成用のロータリーキルンに投入する場合、上記セメント原料と同様にキルンの窯尻より投入することとすると、どうしてもアスベストを含む粉塵が上記燃焼排ガスの流れに乗って無害化されないまま直ちにキルン外に排出されてしまう憂いがある。そのため、ロータリーキルンの窯前から投入することが安全性の観点から有利となるが、この場合には、アスベスト含有廃材を窯前から十分に遠く(例えば、窯前から5m程度奥)まで飛ばされなければ、アスベスト含有廃材を熱処理することはできず、また一部でもタレた状態で窯前付近に落ちてしまった場合には、アスベスト含有廃材はなんら熱処理を受けることなく製造されたセメントクリンカと共に窯前から直ちに排出されてしまうこととなる。
【0025】
そこで、本発明に係るアスベスト含有廃材の無害化処理方法は、アスベスト含有廃材をスラリー化材と混合してスラリー状とした後、該スラリー状のアスベスト含有廃材をピストン式ポンプによってロータリーキルンの窯前から連続的に投入することとした。
このスラリー状のアスベスト含有廃材のロータリーキルンへの投入に好適に用いられる本発明に係るピストン式ポンプには種々の形態がある。
【0026】
図1は、本発明に係るピストン式ポンプの一例を示した概念図である。
このピストン式ポンプ1においては、スラリー状のアスベスト含有廃材Aは、スラリータンク2に貯蔵されている。そして、このスラリータンク2は、スラリー導入パイプ3を介して複数(N本)のシリンダ4のスラリー導入孔5にそれぞれ接続されている。図1に示したポンプ1においてはN=3で、3本のシリンダ4a,4b,4cが、スラリータンク2の下方に配置されている。各シリンダ4a,4b,4cの中には、それぞれピストン6a,6b,6cが摺動可能に配設され、それぞれピストン駆動装置7a,7b,7cによって駆動される。
【0027】
上記スラリー導入孔5を挟んで、各ピストン6と反対側に遮断部材8a,8b,8cがそれぞれ配置されている。この遮断部材8の構造は、従来技術による各種ポンプの技術を援用して種々の形式で実現できる。例えば、遮断部材8をバルブで実現したり、穴があけられた板を摺動させたり、回転させたりして実現したり、蝶番で回動可能な蝶形弁として実現したりすることができる。この遮断部材8の開閉は、遮断部材制御装置9により制御される。
【0028】
それぞれのシリンダ4は、吸入工程においては、上記遮断部材8を閉じた状態で上記ピストン6を上記遮断部材8から遠ざかるようにピストン駆動装置7により動かし、スラリー状のアスベスト含有廃材Aをスラリータンク2からスラリー導入パイプ3を介して上記シリンダ4内に吸引し、吐出工程においては、上記遮断部材8を開いた状態で上記ピストン6を上記遮断部材8に近づけるように動かし、スラリー状のアスベスト含有廃材Aをシリンダ4内から吐出させる。N本のシリンダ4の出力側は一本の筒10に接続され、単一の吐出口11からスラリー状のアスベスト含有廃材Aが連続的に吐出される。
【0029】
この実施の形態においては、各シリンダ4のピストン6の動きの位相を略2π/Nだけ互いにずらしている。この図では、ピストン6bは図の右方向への運動から左方向へ切り替わる静止点にあり、ピストン6aは左方向に運動し、ピストン6cは右方向に運動している状態を示す。遮断部材8aは閉じられ、遮断部材8cは開かれ、遮断部材8bは開かれている状態からまさに閉じられようとしている状態である。この図では閉じられている遮断部材8には斜線ハッチが付され、開いている遮断部材8は白地のままである。
【0030】
上記ピストン式ポンプ1においては、各シリンダ4のピストン6の動きの位相が略2π/Nだけ互いにずれているので、吐出力の脈動が相殺されて少い。従って、連続運転中の吐出口11でのスラリー状のアスベスト含有廃材Aの液ダレがなく、大量のアスベスト含有廃材Aを、窯前からロータリーキルン内の十分に遠くまで無理なく確実に投入することができる。
【0031】
図2は、本発明に係るピストン式ポンプの他の例を示した概念図である。
このピストン式ポンプ20においては、上記図1に示したピストン式ポンプ1に補助シリンダ21を設けたもので、主要部は同一である。これ故、対応する部材には同じ参照番号を付して、それらの動作や機能の説明は省略する。
【0032】
このピストン式ポンプ20には、その筒10に補助シリンダ21の出力側が接続されている。補助シリンダ21の構造は上記した他のシリンダ4の構造とはほぼ同じである。すなわち、スラリータンク2は、スラリー導入パイプ22を介して補助シリンダ21のスラリー導入孔23に接続されている。補助シリンダ21の中にはピストン24が摺動可能に配設され、該ピストン24はピストン駆動装置25によって駆動される。上記スラリー導入孔23を挟んでピストン24と反対側に遮断部材26が配置されている。
【0033】
上記補助シリンダ21は、他のシリンダ4a,4b,4cが連続運転を開始するときと、終了するときの液ダレを防止するものである。他のシリンダ4a,4b,4cが連続運転を開始するとき、補助シリンダ21はそのシリンダ内に吸引しておいたスラリー状のアスベスト含有廃材Aを筒10に吐出し、筒10からのスラリー状のアスベスト含有廃材Aの吐出力を増強して最初から大きな吐出力として液ダレを防止する。また他のシリンダ4a,4b,4cが連続運転を終了するとき、補助シリンダ21は筒10からスラリー状のアスベスト含有廃材Aを吸入し、吐出口11からの吐出を瞬時に停止して、液ダレを防止する。
【0034】
図3は、上記図1、図2に示した筒10の形状についての好ましい実施の形態を示した概念図である。
この筒10は、吐出口11に向かって先細りに形成されており、吐出口11の開口面積S1が筒10の細める前の内部断面積S2の1/n倍(nは5〜10)と小さくして、筒10をノズル状に形成したものである。これにより、流体に関するベルヌーイの定理により、スラリー状のアスベスト含有廃材Aの吐出口11からの吐出速度が大きくなり、飛距離が大きくなる。この結果、脈動などにより吐出力が多少落ちた場合でもある程度飛距離が確保でき、液ダレが防止される。
【0035】
図4は、さらに上記図1、図2の筒10と吐出口11の形状についての好ましい実施の形態を示した概念図である。
この筒10の先端の吐出口11の部分では、中心軸が上方に向いて傾斜しており、先端部分の切り口は略水平で上方に吐出口11が開口している。上方に向いて傾斜した上記中心軸の傾斜角θは、5〜30度程度である。この実施の形態の場合、筒10の先端部分にスラリー溜まりが形成され、連続的な吐出の開始時、また終了時における液ダレを更に防止することができる。
【0036】
上記したような本発明に係るピストン式ポンプによって、セメント焼成用のロータリーキルンの窯前から連続的に投入されたスラリー状のアスベスト含有廃材Aは、窯前から十分に遠くまで飛ばされるため、流下してくるセメント原料と共に長時間にわたって転がりながら高温に曝されるため十分な熱処理を受けることができる。その結果、スラリー状のアスベスト含有廃材A中に含まれるアスベストは針状結晶構造から無毒な構造に変化し、確実に無害化されると共に、無害化されたアスベストなどの残渣は、セメントクリンカの一部として資源化される。
【0037】
本発明に係る方法の場合、上記したようにアスベスト含有廃材をスラリー化材と混合してスラリー状とした後、該スラリー状のアスベスト含有廃材をピストン式ポンプによってロータリーキルンの窯前から連続的に投入するため、大量のアスベスト含有廃材を窯前からロータリーキルン内の十分に遠くまで無理なく投入することができるものであるが、ロータリーキルン内に投入されるアスベスト含有廃材の総量は、該ロータリーキルン内に投入されるセメント原料の5重量%以下であることが好ましい。アスベストには、酸化マグネシウムが約40重量%含まれており、該アスベストを強度改善の目的で添加した石綿スレート、石綿セメント板などのアスベスト含有廃材にも、少なからず酸化マグネシウムが含有されている。一方、JISに規定されたセメントの品質規格では、酸化マグネシウムの含有量は5重量%以下と規定されている。そのため、アスベスト含有廃材の投入量は、JIS規格品のセメントを製造する観点から、5重量%以下であることが好ましい。
【0038】
以上、本発明に係るアスベスト含有廃材の無害化処理方法及び該方法に好適に用いられる本発明に係るピストン式ポンプの実施の形態を説明したが、本発明は、何ら既述の実施の形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載した本発明の技術的思想の範囲内において、更に種々の変形、変更を加えたものとすることができることは当然である。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明に係るピストン式ポンプの一例を示した概念図である。
【図2】本発明に係るピストン式ポンプの他の例を示した概念図である。
【図3】本発明に係るピストン式ポンプの筒の形状についての好ましい実施の形態を示した概念図である。
【図4】本発明に係るピストン式ポンプの筒と吐出口の形状についての好ましい実施の形態を示した概念図である。
【符号の説明】
【0040】
1,20 ; ピストン式ポンプ
2 ; スラリータンク
21 ; 補助シリンダ
3,3a,3b,3c,22 ; スラリー導入パイプ
4,4a,4b,4c ; シリンダ
5,5a,5b,5c,23 ; スラリー導入孔
6,6a,6b,6c,24 ; ピストン
7,7a,7b,7c,25 ; ピストン駆動装置;
8,8a,8b,8c,26 ; 遮断部材
9 ; 遮断部材制御装置
10 ; 筒
11 ; 吐出口。
A ; スラリー状のアスベスト含有廃材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アスベスト含有廃材をセメント焼成用のロータリーキルン内に窯前から投入してアスベストを無害化するアスベスト含有廃材の無害化処理方法であって、アスベスト含有廃材をスラリー化材と混合してスラリー状とした後、該スラリー状のアスベスト含有廃材をピストン式ポンプによってロータリーキルンの窯前から連続的に投入することを特徴とする、アスベスト含有廃材の無害化処理方法。
【請求項2】
上記スラリー状のアスベスト含有廃材の粘度(25℃)が、100〜10000cPであることを特徴とする、請求項1に記載のアスベスト含有廃材の無害化処理方法。
【請求項3】
上記スラリー化材が、油、有機汚泥のいずれかであることを特徴とする、請求項1又は2に記載のアスベスト含有廃材の無害化処理方法。
【請求項4】
スラリー状のアスベスト含有廃材をセメント焼成用のロータリーキルン内に投入するためのピストン式ポンプであって、一端に遮断部材を有し、中間部にスラリータンクと連通するスラリー導入孔を有し、該スラリー導入孔を挟んで上記遮断部材と反対側で摺動するピストンを有するN本(Nは3以上の整数)のシリンダと、上記各シリンダのピストンを駆動するピストン駆動システムを備え、吸入工程においては、上記遮断部材を閉じた状態で上記ピストンを上記遮断部材から遠ざかるように動かしてスラリー状のアスベスト含有廃材を上記シリンダ内に吸引し、吐出工程においては、上記遮断部材を開いた状態で上記ピストンを上記遮断部材に近ずけるように動かしてスラリー状のアスベスト含有廃材を吐出させることと、上記N本のシリンダのピストンの位相が略2π/Nだけ互いにずれていることと、上記N本のシリンダの出力側が一本の筒に接続され、その筒の先端の吐出口からスラリー状のアスベスト含有廃材が連続的に吐出されることを特徴とする、ピストン式ポンプ。
【請求項5】
上記筒に補助シリンダが設けられ、上記複数のシリンダでスラリー状のアスベスト含有廃材をロータリーキルンの中に連続的に投入することを開始する時、該補助シリンダもスラリー状のアスベスト含有廃材を該筒に吐出して該吐出口からの吐出力を増強し、上記複数のシリンダでスラリー状のアスベスト含有廃材をロータリーキルンの中に連続的に投入することを停止する時、該補助シリンダはスラリー状のアスベスト含有廃材を該筒から吸引して該吐出口からの吐出を瞬時に停止させることを特徴とする、請求項4に記載のピストン式ポンプ。
【請求項6】
上記筒は、吐出口に向かって先細りに形成されており、吐出口の開口面積S1が筒の細める前の内部断面積S2の1/n倍(nは5〜10)であることを特徴とする、請求項4又は5に記載のピストン式ポンプ。
【請求項7】
上記筒は、少なくとも先端の吐出口の部分では中心軸が上方に向いて傾斜しており、該先端部分の切り口は略水平で上方に吐出口が開口していることを特徴とする、請求項4乃至6のいずれかに記載のピストン式ポンプ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−272546(P2008−272546A)
【公開日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−217725(P2006−217725)
【出願日】平成18年8月10日(2006.8.10)
【出願人】(000000240)太平洋セメント株式会社 (1,449)
【Fターム(参考)】