アップコンバージョン用フッ化物バルク単結晶材料
【課題】 面内の組成が均一で、極めて低温ではない温度領域(0℃以上)にて、高い発光効率を有するアップコンバージョン材料をフッ化物バルク単結晶で実現すること。
【解決手段】 MxYbyCa(1−x−y)F2+x+yで表されることを特徴とするアップコンバージョン用フッ化物バルク単結晶材料。ただし、結晶中の酸素濃度が1000重量ppm以下であり、さらに0.0100<x<0.3000、0.0005<y<0.3000。(MはEr,Pr,Cr,Ni,Co,Mnから選ばれた1種又は2種以上の希土類元素、あるいは遷移金属)
【解決手段】 MxYbyCa(1−x−y)F2+x+yで表されることを特徴とするアップコンバージョン用フッ化物バルク単結晶材料。ただし、結晶中の酸素濃度が1000重量ppm以下であり、さらに0.0100<x<0.3000、0.0005<y<0.3000。(MはEr,Pr,Cr,Ni,Co,Mnから選ばれた1種又は2種以上の希土類元素、あるいは遷移金属)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フッ化物バルク単結晶材料及びアップバージョンレーザーに係る。より詳細には、レーザー光とりわけ可視レーザー光を利用する光メモリー、光計測、光情報処理分野に於いて使用され、励起波長より短波長のレーザー光を得ることが可能なフッ化物バルク単結晶材料及びアップバージョンレーザーに関する。
【背景技術】
【0002】
【特許文献1】特開平3−295828号公報
【特許文献2】特開平4−12035号公報
【特許文献3】特開平4−328191号公報
【特許文献4】特開2001−295049号公報
【特許文献5】特開平5−90693号公報
【非特許文献1】D. M. Baney, G. Rankin, and Kok Wai Chang, Appl. Phys. Lett. 69 (12), 1662(1996)
【非特許文献2】G. Huber, E. Heumann, T. Sandrock, and K. Petermann, J.Lumin. 72−74(1997)
【非特許文献3】E. Osiaca,E. Heumann,G. Huber,S. Kuck,E. Sani, A.Toncelli, and M. Tonelli, Appl. Phys. Lett., Vol. 82, No.22, 3832(2003)
【非特許文献4】S. Kuck, K.Sebald, A. Diening, E. Heumann, E. Mix, G.Huber, OSA TOPS Vol. 26, Advanced Solid−State Lasers,658−663(1999)
【非特許文献5】L.F.Johnson,et al.,Appl.Phys.Lett.19,44(1971)
【非特許文献6】A.J.Silversmith,etal.,Appl.Phys.Lett.51,1977(1987)
【非特許文献7】F.Tong,etal.,Electron.Lett.25,1389(1989)
【非特許文献8】R.M.Macfarlane et al.,Appl.Phys.Lett.52,1300(1988)
【0003】
短波長のレーザー光を得る第1の方法として、紫外光半導体レーザーの開発があげられる。近年の半導体レーザーの開発は目覚ましく高出力化、短波長化が進められているが室温での高出力連続発振、実用化にはまだ問題点が残されている。
【0004】
第2の方法として非線形光学効果を利用する方法があげられる。Nd:YAG、Nd:YVO4結晶などを半導体レーザーで励起し、発生した1.06または0.94μmのレーザー光をKTPなどの非線形結晶を利用して高調波変換を行う方法は、入出力変換効率も高く、レーザーのコヒーレンス特性のよい出力光を得ることができるが、変換効率向上のためには、位相整合を行う必要がある。
【0005】
一方、第3の方法であるアップコンバージョン現象を利用するものについては位相整合を行う必要がなく、簡便である。アップコンバージョンは結晶あるいはガラス中にドープされた希土類イオンのエネルギー準位を利用して、近赤外励起光を可視あるいは紫外光に変換するというものである。
【0006】
アップコンバージョンレーザーでは、近赤外の励起光(光子)を多光子吸収過程により可視域でレーザー発振可能な高いエネルギー順位に効率よく励起でき、効率の良い可視域レーザー発振が可能となる。
【0007】
応用分野としては、1)レーザー走査型顕微鏡、バイオ、医療等の分野では細胞の特殊な部位をマーキングするために蛍光色素が用いられる。これらの色素をレーザー励起することにより、バイオ用サンプルの高速で効率のよい自動分析が可能となる。アップコンバージョンファイバーレーザーは488nm、514nmのArイオンレーザーや543nmのHe−Neレーザーの様なガスレーザーと置き換えることが出来る。さらに、2)写真の現像・印刷用として、青・緑・赤の三つのレーザー波長が写真の印画紙・フィルムもしくは印刷板を露光するデジタルプリントシステム用レーザー光源として使うことが可能となる。業務用のカラープリンター用レーザー光源としても用いることが出来る。さらに、3)レーザープロジェクター・カラーディスプレイ等、カラー表示可能な大画面レーザープロジェクターやカラーディスプレイ用のレーザー光源としても用いられる。4)また、ファイバ中の希土類元素の種類を変えたり、ファイバの両端に取り付ける反射ミラーの特性を変えることで、緑色、青色のレーザー発振も可能となり、ファイバーレーザーの組み合わせにより、高輝度の白色光源を作ることもできる。このような光源は液晶パネルのバックライトなどに応用可能となる。5)その他アップコンバージョンファイバーレーザーは度量衡、計測標準など多様な用途が考えられる。
【0008】
アップコンバージョン蛍光を示す透明材料としてはセラミック材料・ガラス材料・単結晶等、種々提案されている。
【0009】
Yb3+−Er3+系のアップコンバージョン蛍光体の場合、レーザー光が照射されると、ガラス内部で一部可視光に変換され、緑色に観察される。この発光過程は、レーザー光の一部がYb3+イオンによって吸収され、4f電子が基底準位(2F7/2)から励起準位(2F5/2)に励起されることから始まる。このYb3+イオンのエネルギー準位(2F7/2−2F5/2)と、Er3+イオンのエネルギー準位(4I15/2−4I11/2)が非常に近いために、励起されたYb3+イオンから、隣接するEr3+イオンにエネルギー伝達が起こり、Er3+イオンが中間の励起準位(4I11/2)に励起される。更に、この中間励起準位(4I11/2)で同様のエネルギー伝達が起こり、より上の励起準位(4F7/2)に励起され、非輻射遷移等を経て適当な発光準位から各準位に相当する発光を示す。その発光特性は、Yb3+イオンとEr3+イオンの濃度、母体の種類等に大きく依存する。
【0010】
Nd:YAGレーザーは、溶接・切断など金属加工に使用されている高出力レーザーであるが、近赤外光のため直接目視することができない。
Yb3+−Er3+系のアップコンバージョン蛍光体は、既に市販されているが、ほとんどがフッ化物系のセラミック材料で、実際に使用する上で以下のような問題がある。
a)母体材料がレーザー波長域で大きな吸収係数を持つため、発熱による蛍光体の損傷が起きやすい。
b)レーザー光の蛍光体表面での散乱によって、実際のビーム径が確認できない。
c)光軸調整に使用する場合、作業に時間がかかる。
【0011】
これらは、蛍光体の不透明性に起因する問題であり、ガラス等の透明材料では大幅に改善が期待され、ガラス材料による検討も様々行われた。
【0012】
ガラス材料としては、例えば特許文献1(特開平3−295828号公報)には、重金属酸化物あるいは希土類元素酸化物を含有する酸化物ガラスが記載されている。
また、特許文献2(特開平4−12035号公報)には、ジルコニウムおよびバリウムのフッ化物を主成分として、ランタン、アルミニウム、ナトリウム、インジウムならびにエルビウムおよびイッテルビウムの各フッ化物を含有する希土類含有フッ化物ガラスが、さらに、特許文献3(特開平4−328191号公報)には、アルカリ金属、リチウムおよびジルコニウムの各フッ化物を主成分として、エルビウム、ツリウムおよびホルミウムのいずれかならびにイッテルビウムのフッ化物を含有する希土類含有フッ化物ガラスが、それぞれ提案されている。
【0013】
ところが、これまでに報告されているガラス材料・単結晶材料はいずれも発光源であるEr3+やPr3+などの希土類イオンの濃度を高めることが本質的に難しい(いずれも1重量%以下)ために光路長の短いコンパクトな発光素子を得ることができない。加えて酸化物ガラスは発光効率が低く実用性に欠ける。またフッ化物ガラスは一般に発光効率は高いが、熱膨張が大きく脆い性質を持っている。さらに、これらはいずれもガラス材料であり、溶融原料を急冷して製造するものであるために多成分ガラスに共通する問題点として均質な組成を得るのが難しく、酸化物の場合においても、ガラス中の異物に当たると、熱衝撃で瞬時に破損するなど品質によるばらつきが大きく、製品化には向かないなど、非常に大きな問題を抱えている。
【0014】
一方、酸化物、フッ化物、塩化物の単結晶についても種々検討報告されている。例えば、過去、Yb−Pr共ドープ材料においては,赤外光を励起源として多段励起することにより,Prを可視光で発振させたという報告が、フッ化物ファイバ〔D. M. Baney, G. Rankin, and Kok Wai Chang, Appl. Phys. Lett. 69 (12), 1662(1996)〕(非特許文献1)、LiYF4結晶〔G. Huber, E. Heumann, T. Sandrock, and K. Petermann, J.Lumin. 72−74(1997) 〕(非特許文献2)、BaY2F8結晶〔E. Osiaca,E. Heumann,G. Huber,S. Kuck,E. Sani, A.Toncelli, and M. Tonelli, Appl. Phys. Lett., Vol. 82, No.22, 3832(2003) 〕(非特許文献3)等で報告されている。その励起過程は,まずYbを基底準位から2F5/2まで励起、そしてPrの1G4レベルにエネルギー移乗させ、さらにそこからPrの3P2レベルまで励起するというものである。
【0015】
しかし、LiYF4結晶,BaY2F8結晶等においては、Ybの基底準位と2F5/2のエネルギー差と、Prの1G4と3P2のエネルギー差がわずかにずれているため、単一波長で励起するのであれば、どちらかの吸収効率を犠牲にしなければならないという問題がある。また,Yb3+−Pr3+共ドープYAlO3結晶中では、Prの励起状態からの吸収(1G4→3Pj)とYbの基底状態からの吸収(2F5/2→2F5/2)のスペクトルが重なり合っているために、アップコンバージョンされにくいという問題がある〔S. Kuck, K.Sebald, A. Diening, E. Heumann, E. Mix, G.Huber, OSA TOPS Vol. 26, Advanced Solid−State Lasers,658−663(1999)〕(非特許文献4)。
【0016】
また、Yb3+/Er3+:BaY2F8結晶を用い、キセノンランプ励起により77Kの極めて低い温度にて緑色(550nm)のレーザー発振が得られた例〔L.F.Johnson,et al.,Appl.Phys.Lett.19,44(1971)〕(非特許文献5)、Er3+:YAlO3結晶を用い、77Kの極めて低い温度にて緑色(550nm)のレーザー発振が得られた例〔A.J.Silversmith,etal.,Appl.Phys.Lett.51,1977(1987)〕(非特許文献6)、Er3+:LiYF4結晶を用い、半導体レーザー励起により低い40Kの温度で緑色(551nm)のレーザー発振が得られた例〔F.Tong,etal.,Electron.Lett.25,1389(1989)〕(非特許文献7)、Nd3+:LaF3結晶を用い、半導体レーザーを励起光源として90K以下(極めて低い)の温度で、紫外(380nm)域のレーザー発振が得られた例〔R.M.Macfarlane et al.,Appl.Phys.Lett.52,1300(1988)〕(非特許文献8)等が報告されている。しかし、これらバルク結晶のレーザー活性媒質を用いた場合、いずれも室温よりはるかに低温(ほとんどの例では130K以下)の温度でしか発振しないとされ、又、変換効率も数%以下で低いという問題点がある。
【0017】
また、アップコンバージョンレーザー材料においては希土類元素イオン同士の相互作用による濃度消光の影響を避ける必要があり、高濃度で希土類元素イオンを添加できないことから、励起光を効率良く吸収させるために、励起光照射領域が少なくとも数cm以上の均一な結晶を必要とするという制約がある。
【0018】
さらに、Nd:LaF3結晶を用いて380nmの紫色発光を得た報告や、ErないしTmを添加したYLiF4およびBaY2F8を用いて450nm〜600nmの青色ないし緑色発光を得た報告などが多数知られているが、いずれも発光効率などが低く実用化されていない。
【0019】
短波長のアップコンバージョンレーザーを実用化するには、安価で扱い易い半導体レーザーを励起源として用いることができ、かつ発光効率の良い材料をレーザー媒体とすることが望まれる。
ところが、Ndイオンを発光イオンとする従来の蛍光体では励起源として590nmや750nmの光を利用しており、半導体レーザーを励起源として利用することができない。
また、従来のアップコンバージョンレーザーは、レーザー媒体として結晶を用いたものは大部分が室温よりかなり低い130K以下でしか発振しないと云う問題もある。
【0020】
また、フッ化物薄膜については、希土類と遷移金属の組み合わせによるアップコンバージョンの報告がある特許文献4(特開2001−295049号公報)。しかし、特許文献4には、最適な希土類と遷移金属の組み合わせは明記されていない。さらに気化させる薄膜法で合成出来るサンプルが、必ずしもバルク単結晶で合成出来るわけではない。つまり、使用する原料(希土類・遷移金属フッ化物)の融点・沸点が低い場合、融液からのバルク単結晶育成が出来ないため、薄膜と単結晶では大きく異なる。
【0021】
さらに、フッ化物(BaF2、CaF2)等の微小球(50〜2000μm)結晶材料も提案されている特許文献5(特開平5−90693号公報)が、バルク単結晶とは大きく異なり、実用的ではない。さらに希土類の添加量は5000重量ppm以下であるため、十分な発光量を得ることが出来ない。またこれらを組み込んだガラス材料であっても、ガラス特有の問題を抱えているため、製品化は非常に難しい。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0022】
本発明は前記のような問題点を解決するために提案されたものである。
本発明は、面内の組成が均一で、0℃以上の温度においても、高い発光効率を有するフッ化物バルク単結晶材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0023】
上述の課題を解決するための本発明は、MxYbyCa(1−x−y)F2+x+yで表され、結晶中の酸素濃度が1000重量ppm以下であることを特徴とするフッ化物バルク単結晶材料である。
ただし、0.0100<x<0.3000、0.0005<y<0.3000
MはEr,Pr,Cr,Ni,Co,Mnから選ばれた1種又は2種以上の元素
【0024】
本発明者等が鋭意研究を行なったところ、MxYbyCa(1−x−y)F2+x+y(0.0100<x<0.3000、0.0005<y<0.3000)で表されるアップコンバージョン用フッ化物バルク単結晶材料を用い、さらに材料中の残存酸素を低減させる(結晶中の酸素濃度が1000重量ppm以下)ことによって、赤外光により励起した時、可視領域(発光強度における最大のピークを示す波長が540〜690nm)にアップコンバージョン蛍光を発することを知見した。本発明はかかる知見に基づき為されたものである。
酸素濃度は1000重量ppmを境として、1000重量ppm未満の場合、可視領域における発光強度が著しく大きくなる。
さらに本発明のフッ化物バルク単結晶材料は、赤外光により励起した時、可視領域で高い発光効率であることが確認された。
【発明の効果】
【0025】
以上説明したように、これまで極低温でしか発光しなかった単結晶材料においても、本発明によれば、ある特定のバルク単結晶を選定し、単結晶中の酸素濃度をコントロールすることで、0℃以上の温度領域において高効率なアップコンバージョンレーザー光を容易に得ることができる。さらに上記単結晶材料はフッ化物であるが、非吸湿性であり、取り扱いも容易である。
さらに単結晶育成においても低融点(〜1500℃)であるため、結晶の製造にかかる電力量、冷却水量等のコスト減少が期待される。また、坩堝材として、PtやIrも使用可能であるが、それらに比して安価なカーボン坩堝も使用可能であり、この点も製造コストの低減に繋がる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
本発明においては、MxYbyCa(1−x−y)F2+x+y(0.0100<x<0.3000、0.0005<y<0.3000)で表されるアップコンバージョン用フッ化物バルク単結晶材料を用いる。
【0027】
但し、MはEr,Pr,Cr,Ni,Co,Mnから選ばれた1種又は2種以上の希土類元素、あるいは遷移金属であるが、その中でも特にErが好ましい。
【0028】
本発明のアップコンバージョン用フッ化物バルク単結晶材料として具体的には、以下のように表される。
Er0.015Yb0.001Ca0.984F2.016、Er0.02Yb0.01Ca0.97F2.03、Er0.10Yb0.10Ca0.80F2.20、Er0.20Yb0.20Ca0.60F2.40、Er0.28Yb0.28Ca0.43F2.56、Er0.015Yb0.200Ca0.785F2.215、Er0.20Yb0.015Ca0.785F2.215、Pr0.015Yb0.001Ca0.984F2.016、Pr0.02Yb0.01Ca0.97F2.03、Pr0.10Yb0.10Ca0.80F2.20、Pr0.20Yb0.20Ca0.60F2.40、Pr0.28Yb0.28Ca0.43F2.56、Pr0.015Yb0.200Ca0.785F2.215、Pr0.20Yb0.015Ca0.785F2.215、Cr0.015Yb0.001Ca0.984F2.016、Cr0.02Yb0.01Ca0.97F2.03、Cr0.10Yb0.10Ca0.80F2.20、Cr0.20Yb0.20Ca0.60F2.40、Cr0.28Yb0.28Ca0.43F2.56、Cr0.015Yb0.200Ca0.785F2.215、Cr0.20Yb0.015Ca0.785F2.215、Ni0.015Yb0.001Ca0.984F2.001、Ni0.02Yb0.01Ca0.97F2.01、Ni0.10Yb0.10Ca0.80F2.10、Ni0.20Yb0.20Ca0.60F2.20、Ni0.28Yb0.28Ca0.43F2.28、Ni0.015Yb0.200Ca0.785F2.200、Ni0.20Yb0.015Ca0.785F2.015、Co0.015Yb0.001Ca0.984F2.001、Co0.02Yb0.01Ca0.97F2.01、Co0.10Yb0.10Ca0.80F2.10、Co0.20Yb0.20Ca0.60F2.20、Co0.28Yb0.28Ca0.43F2.28、Co0.015Yb0.200Ca0.785F2.200、Co0.20Yb0.015Ca0.785F2.015、Mn0.015Yb0.001Ca0.984F2.001、Mn0.02Yb0.01Ca0.97F2.01、Mn0.10Yb0.10Ca0.80F2.10などが挙げられる。
【0029】
また、MxYbyCa(1−x−y)F2+x+yさらに特に好ましくはErxYbyCa(1−x−y)F2+x+yで表されるアップコンバージョン用フッ化物バルク単結晶材料の組成は、0.0100<x<0.3000、0.0005<y<0.3000が好ましい。その理由として、x<0.0100については極低温(約73K)でしか発光しない。
またxの濃度が高くなると濃度消光となるため、x<0.3000が好ましい。さらに濃度消光を考えれば0.0100<x<0.1500が好ましく、発光効率を高めるために特に好ましくは0.0300<x<0.1500である。またYbに関しては、アップコンバージョン作用のため、ある程度の濃度が必要であり、y>0.0005が好ましい。またYbについても上記同様、yの濃度が高くなると濃度消光となるため、y<0.3000が好ましい。さらに濃度消光を考えれば0.0100<x<0.1500が好ましく、発光効率を高めるために特に好ましくは0.0300<x<0.1500である。xを0.15以下とすることにより濃度消失の無い結晶が得られる。
【0030】
一方、フッ化物出発原料としては、一般的なフッ化物原料が使用可能であるが、レーザー材料用単結晶として使用する場合、99.9重量%以上(3N以上)の高純度フッ化物原料を用いることが特に好ましく、これらの出発原料を目的組成となるように秤量、混合したものを用いる。さらにこれらの原料中には、特に目的とする組成以外の不純物が極力少ない(例えば1重量ppm以下)ものが特に好ましい。また使用する原料の酸素濃度は、より低いものが好ましい。しかし、酸素濃度が高い原料を使用する場合は、フッ素化合物ガス雰囲気下で前処理を行う、もしくはフッ素化合物をスカベンジャーとして10重量%以下添加することにより、低酸素状態のメルトにすることが必要である。
【0031】
さらに結晶製造過程において、真空雰囲気下、不活性ガス雰囲気下、極低酸素雰囲気下に加え、フッ素化合物を含むガス雰囲気下での製造が好ましい。また単結晶製造工程に加えて、原料の溶融操作などの前工程・アニールなどの後工程においても同様である。ここで、フッ素化合物を含むガスとしては、一般的に使用されているCF4が特に好ましいが、F2ガス、HFガス、BF3ガス等も使用することが出来る。さらにこれらのガスは、不活性ガス(例えば、Ar、N2、He等)で希釈されたものを使用しても構わない。
すなわち、通常の不活性ガスで高温にすると、例えばCaF2+H2O→CaO+2HFの反応が起こり原料中の水分の1/3程度が結晶中に混入する。しかし、CF4などのフッ素ガス雰囲気で溶融もしくは結晶育成を行うことで、上記の反応式よりもCF4+H2O→4HF+CO2の反応の方が起こりやすくなる。その分結晶中の酸素濃度を低下させることが可能になる。従って、原料中の酸素濃度(水分濃度)を極力低下させ、さらに溶融及び育成時の酸素濃度を極力低下させる両方の操作を行うことで、成長後における結晶中の酸素濃度を容易にppmのオーダーで制御することが可能となる。なお、全工程において材料を大気に晒さないようにすることが好ましい。
【0032】
MxYbyCa(1−x−y)F2+x+yさらに特に好ましくはErxYbyCa(1−x−y)F2+x+yで表されるアップコンバージョン用フッ化物バルク単結晶材料は、微量の酸素が残存していると、希土類化合物は、容易にオキシフロライドになる。
【0033】
本発明者等が研究を行なったところ、レーザー材料中の残存酸素成分(含オキシフロライド)は、発光量の低下に繋がることを発見した。その結果、該フッ化物レーザー材料中の残存酸素濃度が1000重量ppm以下、さらに好ましくは100重量ppm未満、さらに特に好ましくは50重量ppm未満に抑えることによって、高発光量を維持できることが判明した。
【0034】
MxYbyCa(1−x−y)F2+x+yさらに特に好ましくはErxYbyCa(1−x−y)F2+x+yで表されるアップコンバージョン用フッ化物バルク単結晶材料の育成方法として、マイクロ引き下げ法、チョコラルスキー法、ブリッジマン法、ゾーンメルト法、又はEFG法等、特に制限なく、使用可能である。歩留まりを向上させ、相対的には加工ロスを軽減させる目的で、大型単結晶を得るためには、チョコラルスキー法又はブリッジマン法が好ましい。一方、小型の単結晶のみを使用するのであれば、後加工の必要が無いあるいは少ないことから、ゾーンメルト法、EFG法、マイクロ引き下げ法が好ましいが、坩堝との濡れ性などの理由から、マイクロ引き下げ法、ゾーンメルト法が特に好ましい。さらにその中でもErxYbyCa(1−x−y)F2+x+yで表される組成の融液から、マイクロ引き下げ法により単結晶を育成することが特に好ましい。これらの方法により単結晶を育成すれば組成が面内においても極めて均一である単結晶を得ることができる。
【0035】
またPrxYbyCa(1−x−y)F2+x+yで表される組成の融液から、マイクロ引き下げ法により単結晶を育成することが特に好ましい。さらにCrxYbyCa(1−x−y)F2+x+yで表される組成の融液から、マイクロ引き下げ法により単結晶を育成することが特に好ましい。加えてMnxYbyCa(1−x−y)F2+x+yで表される組成の融液から、マイクロ引き下げ法により単結晶を育成することが特に好ましい。
【0036】
また、使用するフッ化物原料の融点はいずれも1500℃未満であるため、マイクロ引き下げ法、チョコラルスキー法、ブリッジマン法、ゾーンメルト法、又はEFG法等のいずれの結晶育成操作においても、使用する温度は1500℃未満で十分である。従って、高周波発振機の出力も酸化物に比して有意に低減されるため、製造コストの低減に繋がる。さらに高周波発振機のみならず抵抗加熱法の使用も可能である。また、使用する坩堝・アフターヒータは、白金、イリジウム、ロジウム、レニウム、またはこれらの合金を使用することも可能であるが、酸化物の結晶作成工程には適していないカーボンを使用することが可能となるため、さらに製造コストの低減に繋がる。
【0037】
以下に本発明の発光材料について、マイクロ引下げ法を用いた単結晶製造法を一例として示すが、これに限定されたものではない。
【0038】
マイクロ引下げ法については、高周波誘導加熱による精密雰囲気制御型マイクロ引下げ装置を用いて行う。マイクロ引下げ装置は、坩堝と、坩堝底部に設けた細孔から流出する融液に接触させる種を保持する種保持具と、種保持具を下方に移動させる移動機構と、該移動機構の移動速度制御装置と、坩堝を加熱する誘導加熱手段とを具備した一方向凝固結晶成長装置である。
【0039】
該坩堝はカーボン、白金、イリジウム、ロジウム、レニウム、またはこれらの合金であり、坩堝底部外周にカーボン、白金、イリジウム、ロジウム、レニウム、またはこれらの合金からなる発熱体であるアフターヒータを配置する。坩堝及びアフターヒータは、誘導加熱手段の出力調整により、発熱量の調整を可能とすることによって、坩堝底部に設けた細孔から引き出される融液の固液境界領域の温度およびその分布の制御を可能としている。
【0040】
また、この精密雰囲気制御型マイクロ引き下げ装置は、アップコンバージョン用フッ化物バルク単結晶材料の結晶成長を可能にするため、チャンバー内の雰囲気を精密に制御できる。チャンバーの材質にはSUS、窓材にはCaF2を採用し、フッ化物結晶育成で最も重要である高真空排気を可能にするため、既設のローターリポンプにディフュージョンポンプあるいはターボ分子ポンプを付随し、真空度が1×10−3Pa以下にすることを可能にした装置である。また、チャンバーへは付随するガスフローメータにより精密に調整された流量でCF4、Ar、N2、H2ガス等を導入できるものである。
【0041】
この装置を用いて、上述の方法にて準備した原料を坩堝に入れ、炉内を高真空排気した後、表面に吸着している水分を除去するために、ベーキングを行い、その後、高純度Arガス(6N品)や高純度CF4ガス(6N品)を炉内に導入することにより、炉内を不活性ガスあるいはフッ素化合物ガス雰囲気とし、高周波誘導加熱コイルに高周波電力を徐々に印加することにより坩堝を加熱して、坩堝内の原料を完全に融解する。
【0042】
続いて、次のような手順で結晶を成長させる。種結晶を所定の速度で徐々に上昇させて、その先端を坩堝下端の細孔に接触させて充分になじませたら、融液温度を調整しつつ、引下げ軸を下降させることで結晶を成長させる。種結晶としては、結晶成長対象物と同等ないしは、構造・組成ともに近いものを使用することが好ましいがこれに限定されたものではない。また種結晶として方位の明確なものを使用することが好ましい。準備した材料が全て結晶化し、融液が無くなった時点で結晶成長終了となる。一方、組成を均一に保つ目的および長尺化の目的で、原料の連続チャージ用機器を取り入れても構わない。
【0043】
このようにして得られたMxYbyCa(1−x−y)F2+x+yさらに特に好ましくはErxYbyCa(1−x−y)F2+x+yで表されるフッ化物バルク単結晶材料をアップコンバージョンレーザー結晶として使用することにより、これまでにない発光量を得ることが可能となる。さらにアップコンバージョン結晶は、非線形光学結晶を使用する必要がないため、低コスト化が可能となる。現在、論文などで報告されているもの、あるいは市販されているアップコンバージョン用単結晶・セラミックス・ガラス材料は、M(MはEr,Pr,Cr,Ni,Co,Mnから選ばれた1種又は2種以上の希土類元素、あるいは遷移金属)の濃度が1重量%以下と低濃度であるが故に、アップコンバージョンレーザーの発光効率が極めて低い。しかし、本発明のMxYbyCa(1−x−y)F2+x+yさらに特に好ましくはErxYbyCa(1−x−y)F2+x+yで表されるアップコンバージョン用フッ化物バルク単結晶材料は、M(MはEr,Pr,Cr,Ni,Co,Mnから選ばれた1種又は2種以上の希土類元素、あるいは遷移金属)の濃度を1重量%より高くすることが可能である。そのため、現行材料(濃度1重量%以下のもの)の発光量に対し、2.0000倍以上(2.0000倍〜20.0000倍)の発光強度とすることが可能である。その中でも工業的な観点から好ましくは3.0000倍以上、特に好ましくは5.0000倍以上である。
【0044】
さらに、非特許文献1〜8の論文などでは、室温よりはるかに低温(ほとんどの例では70K以下)の温度でしか発振しないとされ、又、変換効率も数%以下と低いという問題点がある。これに対し本発明のMxYbyCa(1−x−y)F2+x+yさらに特に好ましくはErxYbyCa(1−x−y)F2+x+yで表されるアップコンバージョン用フッ化物バルク単結晶材料は、育成時の酸素濃度をコントロールし、単結晶中の酸素濃度が極めて低い(1000重量ppm以下、さらに好ましくは100重量ppm未満、さらに特に好ましくは50重量ppm未満)ことによって、極低温でなくとも発光する。つまり温度0℃以上、さらに好ましくは温度25℃以上で発光することを特徴としている。これにより、発振装置を極低温に冷却する必要がなくなるため、装置の小型化、低コスト化が実現され、汎用性が期待される。
【0045】
また、本発明のMxYbyCa(1−x−y)F2+x+yさらに特に好ましくはErxYbyCa(1−x−y)F2+x+yで表されるアップコンバージョン用フッ化物バルク単結晶材料は、赤外光により励起した時、該結晶が可視領域にアップコンバージョン蛍光を発するものであって、該発光の強度における最大のピークを示す波長が375〜700nm、好ましくは420〜700nm、さらに特に好ましくは540〜690nm、その中でも特に好ましくは630〜660nmの赤色発光である。これにより、高価な可視光励起源を利用する必要がなく、安価で扱い易いレーザーを励起源として用いることができ、かつ発光効率の良い材料をレーザー媒体とすることが可能となる。さらに非線形光学結晶を使用しないため、位相整合を行う必要がなく、簡便であり、コスト低減に繋がる。
【実施例】
【0046】
以下、本発明の具体例について、図面を参照して詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるわけではない。なお酸素濃度はLECO−300酸素濃度分析装置により測定を行った。
【0047】
(実施例1)
酸素濃度を低下させた溶融原料を使用し、フッ素ガス雰囲気下、マイクロ引下げ法により、MxYbyCa(1−x−y)F2+x+yで表されるアップコンバージョン用フッ化物バルク単結晶育成を行った。
得られた結晶写真を図1〜図4に示したが、図1〜3は桃色透明結晶、図4は緑色透明結晶が得られた。図1はEr0.010Yb0.100Ca0.885F2.110単結晶であり、図2はEr0.015Yb0.10Ca0.885F2.115単結晶であり、図3はEr0.050Yb0.100Ca0.850F2.150単結晶である。また図4はPr0.015Yb0.100Ca0.885F2.115単結晶である。さらに結晶中の酸素濃度はいずれも50重量ppm未満であった。
【0048】
(実施例2)
また酸素濃度を低下させた溶融原料を使用し、フッ素ガス雰囲気下、ブリッジマン法により、ErxYb0.100Ca(0.900−x)F2.100+xで表されるアップコンバージョン用フッ化物バルク単結晶育成を行った。
得られた結晶を約2mm厚にカットし、表面を研磨後の断面写真を図5に示す(12.6mmΦ x 1.9mmt)。左からEr濃度 x=0.020,0.050,0.100,0.200である。
同様の方法により、Er0.030YbyCa(0.970−y)F2.030+yで表されるアップコンバージョン用フッ化物バルク単結晶育成を行った。得られた結晶を約2mm厚にカットし、表面を研磨後の断面写真を図6に示す(12.6mmΦ x 1.9mmt)。左からYb濃度 y=0.010,0.050,0.100である。いずれの濃度においても桃色透明結晶得られた。さらに結晶中の酸素濃度はいずれも50重量ppm未満であった。
【0049】
(実施例3)
酸素濃度を低下させた溶融原料を使用し、フッ素ガス雰囲気下、チョコラルスキー法により、M0.015Yb0.100Ca0.885F2.115で表されるアップコンバージョン用フッ化物バルク単結晶育成を行った。得られた結晶を約2mm厚にカットし、表面を研磨後の断面写真を図7に示す(12.6mmΦ x 1.9mmt)。左からM=Er,Pr,Cr,Co,Niである。Erの場合は淡い桃色透明結晶、Pr,Crの場合は緑色透明結晶、Coの場合は紫色透明結晶、Niの場合は淡い黄色透明結晶が得られた。さらに結晶中の酸素濃度はいずれも50重量ppm未満であった。
【0050】
上記原料(仕込み)濃度と単結晶中の濃度をEPMAにより測定を行った。結果を表1に示す。
この結果から、仕込み時の組成と単結晶中の組成がほぼ同じであることが分かる。
【0051】
(実施例4)
同様に酸素濃度を低下させた溶融原料を使用し、フッ素ガス雰囲気下、Mn0.015Yb0.100Ca0.885F2.115で表されるアップコンバージョン用フッ化物バルク単結晶育成を行った。得られた結晶を約2mm厚にカットし、表面を研磨後の断面写真を図8に示す(12.6mmΦ x 1.9mmt)。無色透明結晶が得られ、結晶中の濃度も仕込みと同様であった。さらに結晶中の酸素濃度はいずれも50重量ppm未満であった。
【0052】
【表1】
原料(仕込み)濃度と単結晶中の濃度
【0053】
(比較例1)
さらに水分濃度が異なる原料を使用し、育成時の窒素ガス/CF4ガス比を、(1)10/90、(2)40/60、(3)25/75、(4)100/0変化させてブリッジマン法により、Er0.015Yb0.100Ca0.885F2.115で表されるアップコンバージョン用フッ化物バルク単結晶育成を行った。得られた結晶を約2mm厚にカットし、表面を研磨後の断面写真を図9に示す(12.6mmΦ x 1.9mmt)。さらに結晶中の酸素濃度は(1)450重量ppm、(2)900重量ppm、(3)1550重量ppm、(4)2000重量ppmであった。また(4)の結晶は若干白濁した結晶であった。
【0054】
図10に本発明の実施例による、Er0.01Yb0.05Ca0.94F2.06の発光スペクトルの時間分解発光スペクトルを示す。
【0055】
図11に本発明の実施例によるMxYbyCa1−x−yF2+x+yで表されるアップコンバージョンの内、例として、M=ErおよびPrのエネルギーダイアグラムを示す。(励起は980nm)
図11(a)は、ErxYbyCa1−x−yF2+x+yにおけるYb3+からEr3+へのエネルギー遷移(励起:980nm)を示す。
図11(b)は、 PrxYbyCa1−x−yF2+x+yにおけるYb3+からPr3+へのエネルギー遷移(励起:980nm)を示す。
【0056】
(実施例5)
図1、図2、図3で得られた単結晶(ErxYb0.100Ca(0.900−x)F2.100+x(x=0.010,0.015,0.050))及び、図6で得られた単結晶(Er0.030YbyCa(0.970−x)F2.030+y(y=0.01,0.03,0.05))のEmission測定を25℃で行った。LiYF4或いはBaY2F8の場合は、低温で緑色発光が観測されるが(室温では極めて弱い発光)、CaF2をホストとした場合は室温で赤色発光が観測された。その650nmの発光強度を比較した結果を表2に示す。
【0057】
【表2】
Emission測定による650nm発光の強度比較
(組成を変化させた場合)
【0058】
(比較例2)
単結晶中の酸素濃度が異なる図2および図9−1、9−2、9−3、9−4で得られた単結晶(Er0,015Yb0.100Ca0.885F2.110)のEmission測定を25℃で行った。
【0059】
【表3】
Emission測定による650nm発光の強度比較
(結晶中の酸素濃度を変化させた場合)
【0060】
これらの結果からもわかる通り、本発明におけるMxYbyCa(1−x−y)F2+x+y、好ましくはErxYbyCa(1−x−y)F2+x+yで表されるアップコンバージョン用フッ化物バルク単結晶材料は、0.0100<x<0.3000、0.0005<y<0.3000、好ましくは、0.0300<x<0.1500、0.0300<y<0.1500、結晶中の酸素濃度を1000重量ppm以下、好ましくは100重量ppm未満、特に好ましくは50重量ppm未満に抑えることで、可視領域の発光を強めることが可能となる。
【0061】
つまり、これまでのYb3+−Er3+等のアップコンバージョン蛍光体の場合に発光強度が弱かった要因として、(1)セラミックスの不透明性に起因するため、(2)ガラスのように透明体であってもEr濃度が1重量%以上に添加することが出来ないため、(3)単結晶であっても使用原料・雰囲気制御等が十分でなく結晶中に多量の酸素成分(オキシフロライド等)が存在すること起因することが判明した。
従って、本発明における組成で且つ低酸素濃度の単結晶とすることで、非常に大きな発光量であるYb3+−Mn+系(MはEr,Pr,Cr,Ni,Co,Mnから選ばれた1種又は2種以上の希土類元素、あるいは遷移金属)のアップコンバージョン蛍光体とすることが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0062】
1)レーザー走査型顕微鏡、バイオ、医療等の分野では細胞の特殊な部位をマーキングするために蛍光色素が用いられる。これらの色素をレーザー励起することにより、バイオ用サンプルの高速で効率のよい自動分析が可能となる。アップコンバージョンファイバーレーザーは488nm、514nmのArイオンレーザーや543nmのHe−Neレーザーの様なガスレーザーと置き換えることが出来る。
2)さらに、写真の現像・印刷用として、青・緑・赤の三つのレーザー波長が写真の印画紙・フィルムもしくは印刷板を露光するデジタルプリントシステム用レーザー光源として使うことが可能となる。業務用のカラープリンター用レーザー光源としても用いることが出来る。
3)さらに、レーザープロジェクター・カラーディスプレイ等、カラー表示可能な大画面レーザープロジェクターやカラーディスプレイ用のレーザー光源としても用いられる。
4)また、ファイバ中の希土類元素の種類を変えたり、ファイバの両端に取り付ける反射ミラーの特性を変えることで、緑色、青色のレーザー発振も可能となり、ファイバーレーザーの組み合わせにより、高輝度の白色光源を作ることもできる。このような光源は液晶パネルのバックライトなどに応用可能となる。
5)その他アップコンバージョンファイバーレーザーは度量衡、計測標準など多様な用途が考えられる。
6)コヒーレント光を利用する光メモリ、光応用計測、光医療、光プロセッシングの分野において使用される。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】本発明による、マイクロ引下げ法にて作成した、Er0.010Yb0.100Ca0.885F2.110の結晶写真の一例である。(結晶中の酸素濃度<50重量ppm)
【図2】本発明による、マイクロ引下げ法にて作成した、Er0.015Yb0.10Ca0.885F2.115の結晶写真の一例である。(結晶中の酸素濃度<50重量ppm)
【図3】本発明による、マイクロ引下げ法にて作成した、Er0.050Yb0.100Ca0.850F2.150の結晶写真の一例である。(結晶中の酸素濃度<50重量ppm)
【図4】本発明による、マイクロ引下げ法にて作成した、Pr0.015Yb0.100Ca0.885F2.115の結晶写真の一例である。(結晶中の酸素濃度<50重量ppm)
【図5】本発明による、ブリッジマン法にて作成した、ErxYb0.100Ca(0.900−x)F2.100+x(x=0.020,0.050,0.100,0.200)の結晶写真の一例である。(結晶中の酸素濃度<50重量ppm)
【図6】本発明による、ブリッジマン法にて作成した、Er0.030YbyCa(0.970−y)F2.030+y(y=0.010,0.050,0.100)の結晶写真の一例である。(結晶中の酸素濃度<50重量ppm)
【図7】本発明による、チョコラルスキー法にて作成した、M0.015Yb0.100Ca0.885F2.115(M=Er,Pr,Cr,Co,Ni)の結晶写真の一例である。(結晶中の酸素濃度<50重量ppm)
【図8】本発明による、Mn0.015Yb0.100Ca0.885F2.115の結晶写真の一例である。(結晶中の酸素濃度<50重量ppm)
【図9】本発明による、結晶中の酸素濃度が450重量ppm、900重量ppm、1550重量ppm、2000重量ppmであるEr0.015Yb0.100Ca0.885F2.115の結晶写真の一例である。
【図10】本発明による、結晶中の酸素濃度が50重量ppm未満であるEr0.01Yb0.05Ca0.94F2.06の発光スペクトルの時間分解発光スペクトルである。
【図11】本発明による、MxYbyCa1−x−yF2+x+yで表されることを特徴とするアップコンバージョンの内、例として、(a)はM=Erの場合、(b)はPrの場合のエネルギーダイアグラムを示す。(励起は980nm)
【技術分野】
【0001】
本発明は、フッ化物バルク単結晶材料及びアップバージョンレーザーに係る。より詳細には、レーザー光とりわけ可視レーザー光を利用する光メモリー、光計測、光情報処理分野に於いて使用され、励起波長より短波長のレーザー光を得ることが可能なフッ化物バルク単結晶材料及びアップバージョンレーザーに関する。
【背景技術】
【0002】
【特許文献1】特開平3−295828号公報
【特許文献2】特開平4−12035号公報
【特許文献3】特開平4−328191号公報
【特許文献4】特開2001−295049号公報
【特許文献5】特開平5−90693号公報
【非特許文献1】D. M. Baney, G. Rankin, and Kok Wai Chang, Appl. Phys. Lett. 69 (12), 1662(1996)
【非特許文献2】G. Huber, E. Heumann, T. Sandrock, and K. Petermann, J.Lumin. 72−74(1997)
【非特許文献3】E. Osiaca,E. Heumann,G. Huber,S. Kuck,E. Sani, A.Toncelli, and M. Tonelli, Appl. Phys. Lett., Vol. 82, No.22, 3832(2003)
【非特許文献4】S. Kuck, K.Sebald, A. Diening, E. Heumann, E. Mix, G.Huber, OSA TOPS Vol. 26, Advanced Solid−State Lasers,658−663(1999)
【非特許文献5】L.F.Johnson,et al.,Appl.Phys.Lett.19,44(1971)
【非特許文献6】A.J.Silversmith,etal.,Appl.Phys.Lett.51,1977(1987)
【非特許文献7】F.Tong,etal.,Electron.Lett.25,1389(1989)
【非特許文献8】R.M.Macfarlane et al.,Appl.Phys.Lett.52,1300(1988)
【0003】
短波長のレーザー光を得る第1の方法として、紫外光半導体レーザーの開発があげられる。近年の半導体レーザーの開発は目覚ましく高出力化、短波長化が進められているが室温での高出力連続発振、実用化にはまだ問題点が残されている。
【0004】
第2の方法として非線形光学効果を利用する方法があげられる。Nd:YAG、Nd:YVO4結晶などを半導体レーザーで励起し、発生した1.06または0.94μmのレーザー光をKTPなどの非線形結晶を利用して高調波変換を行う方法は、入出力変換効率も高く、レーザーのコヒーレンス特性のよい出力光を得ることができるが、変換効率向上のためには、位相整合を行う必要がある。
【0005】
一方、第3の方法であるアップコンバージョン現象を利用するものについては位相整合を行う必要がなく、簡便である。アップコンバージョンは結晶あるいはガラス中にドープされた希土類イオンのエネルギー準位を利用して、近赤外励起光を可視あるいは紫外光に変換するというものである。
【0006】
アップコンバージョンレーザーでは、近赤外の励起光(光子)を多光子吸収過程により可視域でレーザー発振可能な高いエネルギー順位に効率よく励起でき、効率の良い可視域レーザー発振が可能となる。
【0007】
応用分野としては、1)レーザー走査型顕微鏡、バイオ、医療等の分野では細胞の特殊な部位をマーキングするために蛍光色素が用いられる。これらの色素をレーザー励起することにより、バイオ用サンプルの高速で効率のよい自動分析が可能となる。アップコンバージョンファイバーレーザーは488nm、514nmのArイオンレーザーや543nmのHe−Neレーザーの様なガスレーザーと置き換えることが出来る。さらに、2)写真の現像・印刷用として、青・緑・赤の三つのレーザー波長が写真の印画紙・フィルムもしくは印刷板を露光するデジタルプリントシステム用レーザー光源として使うことが可能となる。業務用のカラープリンター用レーザー光源としても用いることが出来る。さらに、3)レーザープロジェクター・カラーディスプレイ等、カラー表示可能な大画面レーザープロジェクターやカラーディスプレイ用のレーザー光源としても用いられる。4)また、ファイバ中の希土類元素の種類を変えたり、ファイバの両端に取り付ける反射ミラーの特性を変えることで、緑色、青色のレーザー発振も可能となり、ファイバーレーザーの組み合わせにより、高輝度の白色光源を作ることもできる。このような光源は液晶パネルのバックライトなどに応用可能となる。5)その他アップコンバージョンファイバーレーザーは度量衡、計測標準など多様な用途が考えられる。
【0008】
アップコンバージョン蛍光を示す透明材料としてはセラミック材料・ガラス材料・単結晶等、種々提案されている。
【0009】
Yb3+−Er3+系のアップコンバージョン蛍光体の場合、レーザー光が照射されると、ガラス内部で一部可視光に変換され、緑色に観察される。この発光過程は、レーザー光の一部がYb3+イオンによって吸収され、4f電子が基底準位(2F7/2)から励起準位(2F5/2)に励起されることから始まる。このYb3+イオンのエネルギー準位(2F7/2−2F5/2)と、Er3+イオンのエネルギー準位(4I15/2−4I11/2)が非常に近いために、励起されたYb3+イオンから、隣接するEr3+イオンにエネルギー伝達が起こり、Er3+イオンが中間の励起準位(4I11/2)に励起される。更に、この中間励起準位(4I11/2)で同様のエネルギー伝達が起こり、より上の励起準位(4F7/2)に励起され、非輻射遷移等を経て適当な発光準位から各準位に相当する発光を示す。その発光特性は、Yb3+イオンとEr3+イオンの濃度、母体の種類等に大きく依存する。
【0010】
Nd:YAGレーザーは、溶接・切断など金属加工に使用されている高出力レーザーであるが、近赤外光のため直接目視することができない。
Yb3+−Er3+系のアップコンバージョン蛍光体は、既に市販されているが、ほとんどがフッ化物系のセラミック材料で、実際に使用する上で以下のような問題がある。
a)母体材料がレーザー波長域で大きな吸収係数を持つため、発熱による蛍光体の損傷が起きやすい。
b)レーザー光の蛍光体表面での散乱によって、実際のビーム径が確認できない。
c)光軸調整に使用する場合、作業に時間がかかる。
【0011】
これらは、蛍光体の不透明性に起因する問題であり、ガラス等の透明材料では大幅に改善が期待され、ガラス材料による検討も様々行われた。
【0012】
ガラス材料としては、例えば特許文献1(特開平3−295828号公報)には、重金属酸化物あるいは希土類元素酸化物を含有する酸化物ガラスが記載されている。
また、特許文献2(特開平4−12035号公報)には、ジルコニウムおよびバリウムのフッ化物を主成分として、ランタン、アルミニウム、ナトリウム、インジウムならびにエルビウムおよびイッテルビウムの各フッ化物を含有する希土類含有フッ化物ガラスが、さらに、特許文献3(特開平4−328191号公報)には、アルカリ金属、リチウムおよびジルコニウムの各フッ化物を主成分として、エルビウム、ツリウムおよびホルミウムのいずれかならびにイッテルビウムのフッ化物を含有する希土類含有フッ化物ガラスが、それぞれ提案されている。
【0013】
ところが、これまでに報告されているガラス材料・単結晶材料はいずれも発光源であるEr3+やPr3+などの希土類イオンの濃度を高めることが本質的に難しい(いずれも1重量%以下)ために光路長の短いコンパクトな発光素子を得ることができない。加えて酸化物ガラスは発光効率が低く実用性に欠ける。またフッ化物ガラスは一般に発光効率は高いが、熱膨張が大きく脆い性質を持っている。さらに、これらはいずれもガラス材料であり、溶融原料を急冷して製造するものであるために多成分ガラスに共通する問題点として均質な組成を得るのが難しく、酸化物の場合においても、ガラス中の異物に当たると、熱衝撃で瞬時に破損するなど品質によるばらつきが大きく、製品化には向かないなど、非常に大きな問題を抱えている。
【0014】
一方、酸化物、フッ化物、塩化物の単結晶についても種々検討報告されている。例えば、過去、Yb−Pr共ドープ材料においては,赤外光を励起源として多段励起することにより,Prを可視光で発振させたという報告が、フッ化物ファイバ〔D. M. Baney, G. Rankin, and Kok Wai Chang, Appl. Phys. Lett. 69 (12), 1662(1996)〕(非特許文献1)、LiYF4結晶〔G. Huber, E. Heumann, T. Sandrock, and K. Petermann, J.Lumin. 72−74(1997) 〕(非特許文献2)、BaY2F8結晶〔E. Osiaca,E. Heumann,G. Huber,S. Kuck,E. Sani, A.Toncelli, and M. Tonelli, Appl. Phys. Lett., Vol. 82, No.22, 3832(2003) 〕(非特許文献3)等で報告されている。その励起過程は,まずYbを基底準位から2F5/2まで励起、そしてPrの1G4レベルにエネルギー移乗させ、さらにそこからPrの3P2レベルまで励起するというものである。
【0015】
しかし、LiYF4結晶,BaY2F8結晶等においては、Ybの基底準位と2F5/2のエネルギー差と、Prの1G4と3P2のエネルギー差がわずかにずれているため、単一波長で励起するのであれば、どちらかの吸収効率を犠牲にしなければならないという問題がある。また,Yb3+−Pr3+共ドープYAlO3結晶中では、Prの励起状態からの吸収(1G4→3Pj)とYbの基底状態からの吸収(2F5/2→2F5/2)のスペクトルが重なり合っているために、アップコンバージョンされにくいという問題がある〔S. Kuck, K.Sebald, A. Diening, E. Heumann, E. Mix, G.Huber, OSA TOPS Vol. 26, Advanced Solid−State Lasers,658−663(1999)〕(非特許文献4)。
【0016】
また、Yb3+/Er3+:BaY2F8結晶を用い、キセノンランプ励起により77Kの極めて低い温度にて緑色(550nm)のレーザー発振が得られた例〔L.F.Johnson,et al.,Appl.Phys.Lett.19,44(1971)〕(非特許文献5)、Er3+:YAlO3結晶を用い、77Kの極めて低い温度にて緑色(550nm)のレーザー発振が得られた例〔A.J.Silversmith,etal.,Appl.Phys.Lett.51,1977(1987)〕(非特許文献6)、Er3+:LiYF4結晶を用い、半導体レーザー励起により低い40Kの温度で緑色(551nm)のレーザー発振が得られた例〔F.Tong,etal.,Electron.Lett.25,1389(1989)〕(非特許文献7)、Nd3+:LaF3結晶を用い、半導体レーザーを励起光源として90K以下(極めて低い)の温度で、紫外(380nm)域のレーザー発振が得られた例〔R.M.Macfarlane et al.,Appl.Phys.Lett.52,1300(1988)〕(非特許文献8)等が報告されている。しかし、これらバルク結晶のレーザー活性媒質を用いた場合、いずれも室温よりはるかに低温(ほとんどの例では130K以下)の温度でしか発振しないとされ、又、変換効率も数%以下で低いという問題点がある。
【0017】
また、アップコンバージョンレーザー材料においては希土類元素イオン同士の相互作用による濃度消光の影響を避ける必要があり、高濃度で希土類元素イオンを添加できないことから、励起光を効率良く吸収させるために、励起光照射領域が少なくとも数cm以上の均一な結晶を必要とするという制約がある。
【0018】
さらに、Nd:LaF3結晶を用いて380nmの紫色発光を得た報告や、ErないしTmを添加したYLiF4およびBaY2F8を用いて450nm〜600nmの青色ないし緑色発光を得た報告などが多数知られているが、いずれも発光効率などが低く実用化されていない。
【0019】
短波長のアップコンバージョンレーザーを実用化するには、安価で扱い易い半導体レーザーを励起源として用いることができ、かつ発光効率の良い材料をレーザー媒体とすることが望まれる。
ところが、Ndイオンを発光イオンとする従来の蛍光体では励起源として590nmや750nmの光を利用しており、半導体レーザーを励起源として利用することができない。
また、従来のアップコンバージョンレーザーは、レーザー媒体として結晶を用いたものは大部分が室温よりかなり低い130K以下でしか発振しないと云う問題もある。
【0020】
また、フッ化物薄膜については、希土類と遷移金属の組み合わせによるアップコンバージョンの報告がある特許文献4(特開2001−295049号公報)。しかし、特許文献4には、最適な希土類と遷移金属の組み合わせは明記されていない。さらに気化させる薄膜法で合成出来るサンプルが、必ずしもバルク単結晶で合成出来るわけではない。つまり、使用する原料(希土類・遷移金属フッ化物)の融点・沸点が低い場合、融液からのバルク単結晶育成が出来ないため、薄膜と単結晶では大きく異なる。
【0021】
さらに、フッ化物(BaF2、CaF2)等の微小球(50〜2000μm)結晶材料も提案されている特許文献5(特開平5−90693号公報)が、バルク単結晶とは大きく異なり、実用的ではない。さらに希土類の添加量は5000重量ppm以下であるため、十分な発光量を得ることが出来ない。またこれらを組み込んだガラス材料であっても、ガラス特有の問題を抱えているため、製品化は非常に難しい。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0022】
本発明は前記のような問題点を解決するために提案されたものである。
本発明は、面内の組成が均一で、0℃以上の温度においても、高い発光効率を有するフッ化物バルク単結晶材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0023】
上述の課題を解決するための本発明は、MxYbyCa(1−x−y)F2+x+yで表され、結晶中の酸素濃度が1000重量ppm以下であることを特徴とするフッ化物バルク単結晶材料である。
ただし、0.0100<x<0.3000、0.0005<y<0.3000
MはEr,Pr,Cr,Ni,Co,Mnから選ばれた1種又は2種以上の元素
【0024】
本発明者等が鋭意研究を行なったところ、MxYbyCa(1−x−y)F2+x+y(0.0100<x<0.3000、0.0005<y<0.3000)で表されるアップコンバージョン用フッ化物バルク単結晶材料を用い、さらに材料中の残存酸素を低減させる(結晶中の酸素濃度が1000重量ppm以下)ことによって、赤外光により励起した時、可視領域(発光強度における最大のピークを示す波長が540〜690nm)にアップコンバージョン蛍光を発することを知見した。本発明はかかる知見に基づき為されたものである。
酸素濃度は1000重量ppmを境として、1000重量ppm未満の場合、可視領域における発光強度が著しく大きくなる。
さらに本発明のフッ化物バルク単結晶材料は、赤外光により励起した時、可視領域で高い発光効率であることが確認された。
【発明の効果】
【0025】
以上説明したように、これまで極低温でしか発光しなかった単結晶材料においても、本発明によれば、ある特定のバルク単結晶を選定し、単結晶中の酸素濃度をコントロールすることで、0℃以上の温度領域において高効率なアップコンバージョンレーザー光を容易に得ることができる。さらに上記単結晶材料はフッ化物であるが、非吸湿性であり、取り扱いも容易である。
さらに単結晶育成においても低融点(〜1500℃)であるため、結晶の製造にかかる電力量、冷却水量等のコスト減少が期待される。また、坩堝材として、PtやIrも使用可能であるが、それらに比して安価なカーボン坩堝も使用可能であり、この点も製造コストの低減に繋がる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
本発明においては、MxYbyCa(1−x−y)F2+x+y(0.0100<x<0.3000、0.0005<y<0.3000)で表されるアップコンバージョン用フッ化物バルク単結晶材料を用いる。
【0027】
但し、MはEr,Pr,Cr,Ni,Co,Mnから選ばれた1種又は2種以上の希土類元素、あるいは遷移金属であるが、その中でも特にErが好ましい。
【0028】
本発明のアップコンバージョン用フッ化物バルク単結晶材料として具体的には、以下のように表される。
Er0.015Yb0.001Ca0.984F2.016、Er0.02Yb0.01Ca0.97F2.03、Er0.10Yb0.10Ca0.80F2.20、Er0.20Yb0.20Ca0.60F2.40、Er0.28Yb0.28Ca0.43F2.56、Er0.015Yb0.200Ca0.785F2.215、Er0.20Yb0.015Ca0.785F2.215、Pr0.015Yb0.001Ca0.984F2.016、Pr0.02Yb0.01Ca0.97F2.03、Pr0.10Yb0.10Ca0.80F2.20、Pr0.20Yb0.20Ca0.60F2.40、Pr0.28Yb0.28Ca0.43F2.56、Pr0.015Yb0.200Ca0.785F2.215、Pr0.20Yb0.015Ca0.785F2.215、Cr0.015Yb0.001Ca0.984F2.016、Cr0.02Yb0.01Ca0.97F2.03、Cr0.10Yb0.10Ca0.80F2.20、Cr0.20Yb0.20Ca0.60F2.40、Cr0.28Yb0.28Ca0.43F2.56、Cr0.015Yb0.200Ca0.785F2.215、Cr0.20Yb0.015Ca0.785F2.215、Ni0.015Yb0.001Ca0.984F2.001、Ni0.02Yb0.01Ca0.97F2.01、Ni0.10Yb0.10Ca0.80F2.10、Ni0.20Yb0.20Ca0.60F2.20、Ni0.28Yb0.28Ca0.43F2.28、Ni0.015Yb0.200Ca0.785F2.200、Ni0.20Yb0.015Ca0.785F2.015、Co0.015Yb0.001Ca0.984F2.001、Co0.02Yb0.01Ca0.97F2.01、Co0.10Yb0.10Ca0.80F2.10、Co0.20Yb0.20Ca0.60F2.20、Co0.28Yb0.28Ca0.43F2.28、Co0.015Yb0.200Ca0.785F2.200、Co0.20Yb0.015Ca0.785F2.015、Mn0.015Yb0.001Ca0.984F2.001、Mn0.02Yb0.01Ca0.97F2.01、Mn0.10Yb0.10Ca0.80F2.10などが挙げられる。
【0029】
また、MxYbyCa(1−x−y)F2+x+yさらに特に好ましくはErxYbyCa(1−x−y)F2+x+yで表されるアップコンバージョン用フッ化物バルク単結晶材料の組成は、0.0100<x<0.3000、0.0005<y<0.3000が好ましい。その理由として、x<0.0100については極低温(約73K)でしか発光しない。
またxの濃度が高くなると濃度消光となるため、x<0.3000が好ましい。さらに濃度消光を考えれば0.0100<x<0.1500が好ましく、発光効率を高めるために特に好ましくは0.0300<x<0.1500である。またYbに関しては、アップコンバージョン作用のため、ある程度の濃度が必要であり、y>0.0005が好ましい。またYbについても上記同様、yの濃度が高くなると濃度消光となるため、y<0.3000が好ましい。さらに濃度消光を考えれば0.0100<x<0.1500が好ましく、発光効率を高めるために特に好ましくは0.0300<x<0.1500である。xを0.15以下とすることにより濃度消失の無い結晶が得られる。
【0030】
一方、フッ化物出発原料としては、一般的なフッ化物原料が使用可能であるが、レーザー材料用単結晶として使用する場合、99.9重量%以上(3N以上)の高純度フッ化物原料を用いることが特に好ましく、これらの出発原料を目的組成となるように秤量、混合したものを用いる。さらにこれらの原料中には、特に目的とする組成以外の不純物が極力少ない(例えば1重量ppm以下)ものが特に好ましい。また使用する原料の酸素濃度は、より低いものが好ましい。しかし、酸素濃度が高い原料を使用する場合は、フッ素化合物ガス雰囲気下で前処理を行う、もしくはフッ素化合物をスカベンジャーとして10重量%以下添加することにより、低酸素状態のメルトにすることが必要である。
【0031】
さらに結晶製造過程において、真空雰囲気下、不活性ガス雰囲気下、極低酸素雰囲気下に加え、フッ素化合物を含むガス雰囲気下での製造が好ましい。また単結晶製造工程に加えて、原料の溶融操作などの前工程・アニールなどの後工程においても同様である。ここで、フッ素化合物を含むガスとしては、一般的に使用されているCF4が特に好ましいが、F2ガス、HFガス、BF3ガス等も使用することが出来る。さらにこれらのガスは、不活性ガス(例えば、Ar、N2、He等)で希釈されたものを使用しても構わない。
すなわち、通常の不活性ガスで高温にすると、例えばCaF2+H2O→CaO+2HFの反応が起こり原料中の水分の1/3程度が結晶中に混入する。しかし、CF4などのフッ素ガス雰囲気で溶融もしくは結晶育成を行うことで、上記の反応式よりもCF4+H2O→4HF+CO2の反応の方が起こりやすくなる。その分結晶中の酸素濃度を低下させることが可能になる。従って、原料中の酸素濃度(水分濃度)を極力低下させ、さらに溶融及び育成時の酸素濃度を極力低下させる両方の操作を行うことで、成長後における結晶中の酸素濃度を容易にppmのオーダーで制御することが可能となる。なお、全工程において材料を大気に晒さないようにすることが好ましい。
【0032】
MxYbyCa(1−x−y)F2+x+yさらに特に好ましくはErxYbyCa(1−x−y)F2+x+yで表されるアップコンバージョン用フッ化物バルク単結晶材料は、微量の酸素が残存していると、希土類化合物は、容易にオキシフロライドになる。
【0033】
本発明者等が研究を行なったところ、レーザー材料中の残存酸素成分(含オキシフロライド)は、発光量の低下に繋がることを発見した。その結果、該フッ化物レーザー材料中の残存酸素濃度が1000重量ppm以下、さらに好ましくは100重量ppm未満、さらに特に好ましくは50重量ppm未満に抑えることによって、高発光量を維持できることが判明した。
【0034】
MxYbyCa(1−x−y)F2+x+yさらに特に好ましくはErxYbyCa(1−x−y)F2+x+yで表されるアップコンバージョン用フッ化物バルク単結晶材料の育成方法として、マイクロ引き下げ法、チョコラルスキー法、ブリッジマン法、ゾーンメルト法、又はEFG法等、特に制限なく、使用可能である。歩留まりを向上させ、相対的には加工ロスを軽減させる目的で、大型単結晶を得るためには、チョコラルスキー法又はブリッジマン法が好ましい。一方、小型の単結晶のみを使用するのであれば、後加工の必要が無いあるいは少ないことから、ゾーンメルト法、EFG法、マイクロ引き下げ法が好ましいが、坩堝との濡れ性などの理由から、マイクロ引き下げ法、ゾーンメルト法が特に好ましい。さらにその中でもErxYbyCa(1−x−y)F2+x+yで表される組成の融液から、マイクロ引き下げ法により単結晶を育成することが特に好ましい。これらの方法により単結晶を育成すれば組成が面内においても極めて均一である単結晶を得ることができる。
【0035】
またPrxYbyCa(1−x−y)F2+x+yで表される組成の融液から、マイクロ引き下げ法により単結晶を育成することが特に好ましい。さらにCrxYbyCa(1−x−y)F2+x+yで表される組成の融液から、マイクロ引き下げ法により単結晶を育成することが特に好ましい。加えてMnxYbyCa(1−x−y)F2+x+yで表される組成の融液から、マイクロ引き下げ法により単結晶を育成することが特に好ましい。
【0036】
また、使用するフッ化物原料の融点はいずれも1500℃未満であるため、マイクロ引き下げ法、チョコラルスキー法、ブリッジマン法、ゾーンメルト法、又はEFG法等のいずれの結晶育成操作においても、使用する温度は1500℃未満で十分である。従って、高周波発振機の出力も酸化物に比して有意に低減されるため、製造コストの低減に繋がる。さらに高周波発振機のみならず抵抗加熱法の使用も可能である。また、使用する坩堝・アフターヒータは、白金、イリジウム、ロジウム、レニウム、またはこれらの合金を使用することも可能であるが、酸化物の結晶作成工程には適していないカーボンを使用することが可能となるため、さらに製造コストの低減に繋がる。
【0037】
以下に本発明の発光材料について、マイクロ引下げ法を用いた単結晶製造法を一例として示すが、これに限定されたものではない。
【0038】
マイクロ引下げ法については、高周波誘導加熱による精密雰囲気制御型マイクロ引下げ装置を用いて行う。マイクロ引下げ装置は、坩堝と、坩堝底部に設けた細孔から流出する融液に接触させる種を保持する種保持具と、種保持具を下方に移動させる移動機構と、該移動機構の移動速度制御装置と、坩堝を加熱する誘導加熱手段とを具備した一方向凝固結晶成長装置である。
【0039】
該坩堝はカーボン、白金、イリジウム、ロジウム、レニウム、またはこれらの合金であり、坩堝底部外周にカーボン、白金、イリジウム、ロジウム、レニウム、またはこれらの合金からなる発熱体であるアフターヒータを配置する。坩堝及びアフターヒータは、誘導加熱手段の出力調整により、発熱量の調整を可能とすることによって、坩堝底部に設けた細孔から引き出される融液の固液境界領域の温度およびその分布の制御を可能としている。
【0040】
また、この精密雰囲気制御型マイクロ引き下げ装置は、アップコンバージョン用フッ化物バルク単結晶材料の結晶成長を可能にするため、チャンバー内の雰囲気を精密に制御できる。チャンバーの材質にはSUS、窓材にはCaF2を採用し、フッ化物結晶育成で最も重要である高真空排気を可能にするため、既設のローターリポンプにディフュージョンポンプあるいはターボ分子ポンプを付随し、真空度が1×10−3Pa以下にすることを可能にした装置である。また、チャンバーへは付随するガスフローメータにより精密に調整された流量でCF4、Ar、N2、H2ガス等を導入できるものである。
【0041】
この装置を用いて、上述の方法にて準備した原料を坩堝に入れ、炉内を高真空排気した後、表面に吸着している水分を除去するために、ベーキングを行い、その後、高純度Arガス(6N品)や高純度CF4ガス(6N品)を炉内に導入することにより、炉内を不活性ガスあるいはフッ素化合物ガス雰囲気とし、高周波誘導加熱コイルに高周波電力を徐々に印加することにより坩堝を加熱して、坩堝内の原料を完全に融解する。
【0042】
続いて、次のような手順で結晶を成長させる。種結晶を所定の速度で徐々に上昇させて、その先端を坩堝下端の細孔に接触させて充分になじませたら、融液温度を調整しつつ、引下げ軸を下降させることで結晶を成長させる。種結晶としては、結晶成長対象物と同等ないしは、構造・組成ともに近いものを使用することが好ましいがこれに限定されたものではない。また種結晶として方位の明確なものを使用することが好ましい。準備した材料が全て結晶化し、融液が無くなった時点で結晶成長終了となる。一方、組成を均一に保つ目的および長尺化の目的で、原料の連続チャージ用機器を取り入れても構わない。
【0043】
このようにして得られたMxYbyCa(1−x−y)F2+x+yさらに特に好ましくはErxYbyCa(1−x−y)F2+x+yで表されるフッ化物バルク単結晶材料をアップコンバージョンレーザー結晶として使用することにより、これまでにない発光量を得ることが可能となる。さらにアップコンバージョン結晶は、非線形光学結晶を使用する必要がないため、低コスト化が可能となる。現在、論文などで報告されているもの、あるいは市販されているアップコンバージョン用単結晶・セラミックス・ガラス材料は、M(MはEr,Pr,Cr,Ni,Co,Mnから選ばれた1種又は2種以上の希土類元素、あるいは遷移金属)の濃度が1重量%以下と低濃度であるが故に、アップコンバージョンレーザーの発光効率が極めて低い。しかし、本発明のMxYbyCa(1−x−y)F2+x+yさらに特に好ましくはErxYbyCa(1−x−y)F2+x+yで表されるアップコンバージョン用フッ化物バルク単結晶材料は、M(MはEr,Pr,Cr,Ni,Co,Mnから選ばれた1種又は2種以上の希土類元素、あるいは遷移金属)の濃度を1重量%より高くすることが可能である。そのため、現行材料(濃度1重量%以下のもの)の発光量に対し、2.0000倍以上(2.0000倍〜20.0000倍)の発光強度とすることが可能である。その中でも工業的な観点から好ましくは3.0000倍以上、特に好ましくは5.0000倍以上である。
【0044】
さらに、非特許文献1〜8の論文などでは、室温よりはるかに低温(ほとんどの例では70K以下)の温度でしか発振しないとされ、又、変換効率も数%以下と低いという問題点がある。これに対し本発明のMxYbyCa(1−x−y)F2+x+yさらに特に好ましくはErxYbyCa(1−x−y)F2+x+yで表されるアップコンバージョン用フッ化物バルク単結晶材料は、育成時の酸素濃度をコントロールし、単結晶中の酸素濃度が極めて低い(1000重量ppm以下、さらに好ましくは100重量ppm未満、さらに特に好ましくは50重量ppm未満)ことによって、極低温でなくとも発光する。つまり温度0℃以上、さらに好ましくは温度25℃以上で発光することを特徴としている。これにより、発振装置を極低温に冷却する必要がなくなるため、装置の小型化、低コスト化が実現され、汎用性が期待される。
【0045】
また、本発明のMxYbyCa(1−x−y)F2+x+yさらに特に好ましくはErxYbyCa(1−x−y)F2+x+yで表されるアップコンバージョン用フッ化物バルク単結晶材料は、赤外光により励起した時、該結晶が可視領域にアップコンバージョン蛍光を発するものであって、該発光の強度における最大のピークを示す波長が375〜700nm、好ましくは420〜700nm、さらに特に好ましくは540〜690nm、その中でも特に好ましくは630〜660nmの赤色発光である。これにより、高価な可視光励起源を利用する必要がなく、安価で扱い易いレーザーを励起源として用いることができ、かつ発光効率の良い材料をレーザー媒体とすることが可能となる。さらに非線形光学結晶を使用しないため、位相整合を行う必要がなく、簡便であり、コスト低減に繋がる。
【実施例】
【0046】
以下、本発明の具体例について、図面を参照して詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるわけではない。なお酸素濃度はLECO−300酸素濃度分析装置により測定を行った。
【0047】
(実施例1)
酸素濃度を低下させた溶融原料を使用し、フッ素ガス雰囲気下、マイクロ引下げ法により、MxYbyCa(1−x−y)F2+x+yで表されるアップコンバージョン用フッ化物バルク単結晶育成を行った。
得られた結晶写真を図1〜図4に示したが、図1〜3は桃色透明結晶、図4は緑色透明結晶が得られた。図1はEr0.010Yb0.100Ca0.885F2.110単結晶であり、図2はEr0.015Yb0.10Ca0.885F2.115単結晶であり、図3はEr0.050Yb0.100Ca0.850F2.150単結晶である。また図4はPr0.015Yb0.100Ca0.885F2.115単結晶である。さらに結晶中の酸素濃度はいずれも50重量ppm未満であった。
【0048】
(実施例2)
また酸素濃度を低下させた溶融原料を使用し、フッ素ガス雰囲気下、ブリッジマン法により、ErxYb0.100Ca(0.900−x)F2.100+xで表されるアップコンバージョン用フッ化物バルク単結晶育成を行った。
得られた結晶を約2mm厚にカットし、表面を研磨後の断面写真を図5に示す(12.6mmΦ x 1.9mmt)。左からEr濃度 x=0.020,0.050,0.100,0.200である。
同様の方法により、Er0.030YbyCa(0.970−y)F2.030+yで表されるアップコンバージョン用フッ化物バルク単結晶育成を行った。得られた結晶を約2mm厚にカットし、表面を研磨後の断面写真を図6に示す(12.6mmΦ x 1.9mmt)。左からYb濃度 y=0.010,0.050,0.100である。いずれの濃度においても桃色透明結晶得られた。さらに結晶中の酸素濃度はいずれも50重量ppm未満であった。
【0049】
(実施例3)
酸素濃度を低下させた溶融原料を使用し、フッ素ガス雰囲気下、チョコラルスキー法により、M0.015Yb0.100Ca0.885F2.115で表されるアップコンバージョン用フッ化物バルク単結晶育成を行った。得られた結晶を約2mm厚にカットし、表面を研磨後の断面写真を図7に示す(12.6mmΦ x 1.9mmt)。左からM=Er,Pr,Cr,Co,Niである。Erの場合は淡い桃色透明結晶、Pr,Crの場合は緑色透明結晶、Coの場合は紫色透明結晶、Niの場合は淡い黄色透明結晶が得られた。さらに結晶中の酸素濃度はいずれも50重量ppm未満であった。
【0050】
上記原料(仕込み)濃度と単結晶中の濃度をEPMAにより測定を行った。結果を表1に示す。
この結果から、仕込み時の組成と単結晶中の組成がほぼ同じであることが分かる。
【0051】
(実施例4)
同様に酸素濃度を低下させた溶融原料を使用し、フッ素ガス雰囲気下、Mn0.015Yb0.100Ca0.885F2.115で表されるアップコンバージョン用フッ化物バルク単結晶育成を行った。得られた結晶を約2mm厚にカットし、表面を研磨後の断面写真を図8に示す(12.6mmΦ x 1.9mmt)。無色透明結晶が得られ、結晶中の濃度も仕込みと同様であった。さらに結晶中の酸素濃度はいずれも50重量ppm未満であった。
【0052】
【表1】
原料(仕込み)濃度と単結晶中の濃度
【0053】
(比較例1)
さらに水分濃度が異なる原料を使用し、育成時の窒素ガス/CF4ガス比を、(1)10/90、(2)40/60、(3)25/75、(4)100/0変化させてブリッジマン法により、Er0.015Yb0.100Ca0.885F2.115で表されるアップコンバージョン用フッ化物バルク単結晶育成を行った。得られた結晶を約2mm厚にカットし、表面を研磨後の断面写真を図9に示す(12.6mmΦ x 1.9mmt)。さらに結晶中の酸素濃度は(1)450重量ppm、(2)900重量ppm、(3)1550重量ppm、(4)2000重量ppmであった。また(4)の結晶は若干白濁した結晶であった。
【0054】
図10に本発明の実施例による、Er0.01Yb0.05Ca0.94F2.06の発光スペクトルの時間分解発光スペクトルを示す。
【0055】
図11に本発明の実施例によるMxYbyCa1−x−yF2+x+yで表されるアップコンバージョンの内、例として、M=ErおよびPrのエネルギーダイアグラムを示す。(励起は980nm)
図11(a)は、ErxYbyCa1−x−yF2+x+yにおけるYb3+からEr3+へのエネルギー遷移(励起:980nm)を示す。
図11(b)は、 PrxYbyCa1−x−yF2+x+yにおけるYb3+からPr3+へのエネルギー遷移(励起:980nm)を示す。
【0056】
(実施例5)
図1、図2、図3で得られた単結晶(ErxYb0.100Ca(0.900−x)F2.100+x(x=0.010,0.015,0.050))及び、図6で得られた単結晶(Er0.030YbyCa(0.970−x)F2.030+y(y=0.01,0.03,0.05))のEmission測定を25℃で行った。LiYF4或いはBaY2F8の場合は、低温で緑色発光が観測されるが(室温では極めて弱い発光)、CaF2をホストとした場合は室温で赤色発光が観測された。その650nmの発光強度を比較した結果を表2に示す。
【0057】
【表2】
Emission測定による650nm発光の強度比較
(組成を変化させた場合)
【0058】
(比較例2)
単結晶中の酸素濃度が異なる図2および図9−1、9−2、9−3、9−4で得られた単結晶(Er0,015Yb0.100Ca0.885F2.110)のEmission測定を25℃で行った。
【0059】
【表3】
Emission測定による650nm発光の強度比較
(結晶中の酸素濃度を変化させた場合)
【0060】
これらの結果からもわかる通り、本発明におけるMxYbyCa(1−x−y)F2+x+y、好ましくはErxYbyCa(1−x−y)F2+x+yで表されるアップコンバージョン用フッ化物バルク単結晶材料は、0.0100<x<0.3000、0.0005<y<0.3000、好ましくは、0.0300<x<0.1500、0.0300<y<0.1500、結晶中の酸素濃度を1000重量ppm以下、好ましくは100重量ppm未満、特に好ましくは50重量ppm未満に抑えることで、可視領域の発光を強めることが可能となる。
【0061】
つまり、これまでのYb3+−Er3+等のアップコンバージョン蛍光体の場合に発光強度が弱かった要因として、(1)セラミックスの不透明性に起因するため、(2)ガラスのように透明体であってもEr濃度が1重量%以上に添加することが出来ないため、(3)単結晶であっても使用原料・雰囲気制御等が十分でなく結晶中に多量の酸素成分(オキシフロライド等)が存在すること起因することが判明した。
従って、本発明における組成で且つ低酸素濃度の単結晶とすることで、非常に大きな発光量であるYb3+−Mn+系(MはEr,Pr,Cr,Ni,Co,Mnから選ばれた1種又は2種以上の希土類元素、あるいは遷移金属)のアップコンバージョン蛍光体とすることが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0062】
1)レーザー走査型顕微鏡、バイオ、医療等の分野では細胞の特殊な部位をマーキングするために蛍光色素が用いられる。これらの色素をレーザー励起することにより、バイオ用サンプルの高速で効率のよい自動分析が可能となる。アップコンバージョンファイバーレーザーは488nm、514nmのArイオンレーザーや543nmのHe−Neレーザーの様なガスレーザーと置き換えることが出来る。
2)さらに、写真の現像・印刷用として、青・緑・赤の三つのレーザー波長が写真の印画紙・フィルムもしくは印刷板を露光するデジタルプリントシステム用レーザー光源として使うことが可能となる。業務用のカラープリンター用レーザー光源としても用いることが出来る。
3)さらに、レーザープロジェクター・カラーディスプレイ等、カラー表示可能な大画面レーザープロジェクターやカラーディスプレイ用のレーザー光源としても用いられる。
4)また、ファイバ中の希土類元素の種類を変えたり、ファイバの両端に取り付ける反射ミラーの特性を変えることで、緑色、青色のレーザー発振も可能となり、ファイバーレーザーの組み合わせにより、高輝度の白色光源を作ることもできる。このような光源は液晶パネルのバックライトなどに応用可能となる。
5)その他アップコンバージョンファイバーレーザーは度量衡、計測標準など多様な用途が考えられる。
6)コヒーレント光を利用する光メモリ、光応用計測、光医療、光プロセッシングの分野において使用される。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】本発明による、マイクロ引下げ法にて作成した、Er0.010Yb0.100Ca0.885F2.110の結晶写真の一例である。(結晶中の酸素濃度<50重量ppm)
【図2】本発明による、マイクロ引下げ法にて作成した、Er0.015Yb0.10Ca0.885F2.115の結晶写真の一例である。(結晶中の酸素濃度<50重量ppm)
【図3】本発明による、マイクロ引下げ法にて作成した、Er0.050Yb0.100Ca0.850F2.150の結晶写真の一例である。(結晶中の酸素濃度<50重量ppm)
【図4】本発明による、マイクロ引下げ法にて作成した、Pr0.015Yb0.100Ca0.885F2.115の結晶写真の一例である。(結晶中の酸素濃度<50重量ppm)
【図5】本発明による、ブリッジマン法にて作成した、ErxYb0.100Ca(0.900−x)F2.100+x(x=0.020,0.050,0.100,0.200)の結晶写真の一例である。(結晶中の酸素濃度<50重量ppm)
【図6】本発明による、ブリッジマン法にて作成した、Er0.030YbyCa(0.970−y)F2.030+y(y=0.010,0.050,0.100)の結晶写真の一例である。(結晶中の酸素濃度<50重量ppm)
【図7】本発明による、チョコラルスキー法にて作成した、M0.015Yb0.100Ca0.885F2.115(M=Er,Pr,Cr,Co,Ni)の結晶写真の一例である。(結晶中の酸素濃度<50重量ppm)
【図8】本発明による、Mn0.015Yb0.100Ca0.885F2.115の結晶写真の一例である。(結晶中の酸素濃度<50重量ppm)
【図9】本発明による、結晶中の酸素濃度が450重量ppm、900重量ppm、1550重量ppm、2000重量ppmであるEr0.015Yb0.100Ca0.885F2.115の結晶写真の一例である。
【図10】本発明による、結晶中の酸素濃度が50重量ppm未満であるEr0.01Yb0.05Ca0.94F2.06の発光スペクトルの時間分解発光スペクトルである。
【図11】本発明による、MxYbyCa1−x−yF2+x+yで表されることを特徴とするアップコンバージョンの内、例として、(a)はM=Erの場合、(b)はPrの場合のエネルギーダイアグラムを示す。(励起は980nm)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
MxYbyCa(1−x−y)F2+x+yで表され、結晶中の酸素濃度が1000重量ppm以下であることを特徴とするフッ化物バルク単結晶材料。
ただし、0.0100<x<0.3000、0.0005<y<0.3000
MはEr,Pr,Cr,Ni,Co,Mnから選ばれた1種又は2種以上の元素
【請求項2】
MはErであることを特徴とする請求項1記載のフッ化物バルク単結晶材料。
【請求項3】
0.0300<x<0.1500、0.0300<y<0.1500であることを特徴とする請求項1又は請求項2記載のフッ化物バルク単結晶材料。
【請求項4】
前記酸素濃度が100重量ppm未満であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項記載のフッ化物バルク単結晶材料。
【請求項5】
前記酸素濃度が50重量ppm未満であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項記載のフッ化物バルク単結晶材料。
【請求項6】
前記結晶は、マイクロ引き下げ法、チョコラルスキー法、ブリッジマン法、帯溶融法(ゾーンメルト法)、縁部限定薄膜供給結晶成長(EFG法)のいずれかにより育成されたものであることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項記載のフッ化物バルク単結晶材料。
【請求項7】
前記結晶は、ErxYbyCa(1−x−y)F2+x+yで表される組成の融液から、マイクロ引き下げ法により育成された結晶であることを特徴とする1乃至6のいずれか1項記載のフッ化物バルク単結晶材料。
【請求項8】
前記結晶は、PrxYbyCa(1−x−y)F2+x+yで表される組成の融液から、マイクロ引き下げ法により育成された結晶であることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項記載のフッ化物バルク単結晶材料。
【請求項9】
前記結晶は、CrxYbyCa(1−x−y)F2+x+yで表される組成の融液から、マイクロ引き下げ法により育成された結晶であることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項記載のフッ化物バルク単結晶材料。
【請求項10】
前記結晶は、MnxYbyCa(1−x−y)F2+x+yで表される組成の融液から、マイクロ引き下げ法により育成された結晶であることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項記載のフッ化物バルク単結晶材料。
【請求項11】
温度0℃以上で発光することを特徴とする請求項1乃至10のいずれか1項記載のフッ化物バルク単結晶材料。
【請求項12】
温度25℃以上で発光することを特徴とする請求項1乃至11のいずれか1項記載のフッ化物バルク単結晶材料。
【請求項13】
赤外光により励起した時、可視領域にアップコンバージョン蛍光を発光する結晶であって、該発光の強度における最大のピークを示す波長が540〜690nmである事を特徴とするフッ化物バルク単結晶材料。
【請求項14】
赤外光により励起した時、可視領域にアップコンバージョン蛍光を発光する結晶であって、該発光の強度における最大のピークを示す波長が630〜660nmの赤色発光であることを特徴とするフッ化物バルク単結晶材料。
【請求項15】
赤外光により励起した時、可視領域にアップコンバージョン蛍光を発光する結晶であって、該発光の強度における最大のピークを示す波長が540〜690nmである事を特徴とする請求項1乃至12のいずれか1項記載のフッ化物バルク単結晶材料。
【請求項16】
赤外光により励起した時、可視領域にアップコンバージョン蛍光を発光する結晶であって、該発光の強度における最大のピークを示す波長が630〜660nmの赤色発光であることを特徴とする請求項1乃至12のいずれか1項記載のフッ化物バルク単結晶材料。
【請求項17】
請求項1乃至16のいずれか1項記載の材料をレーザー媒質としたことを特徴とするアップバージョンレーザー。
【請求項1】
MxYbyCa(1−x−y)F2+x+yで表され、結晶中の酸素濃度が1000重量ppm以下であることを特徴とするフッ化物バルク単結晶材料。
ただし、0.0100<x<0.3000、0.0005<y<0.3000
MはEr,Pr,Cr,Ni,Co,Mnから選ばれた1種又は2種以上の元素
【請求項2】
MはErであることを特徴とする請求項1記載のフッ化物バルク単結晶材料。
【請求項3】
0.0300<x<0.1500、0.0300<y<0.1500であることを特徴とする請求項1又は請求項2記載のフッ化物バルク単結晶材料。
【請求項4】
前記酸素濃度が100重量ppm未満であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項記載のフッ化物バルク単結晶材料。
【請求項5】
前記酸素濃度が50重量ppm未満であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項記載のフッ化物バルク単結晶材料。
【請求項6】
前記結晶は、マイクロ引き下げ法、チョコラルスキー法、ブリッジマン法、帯溶融法(ゾーンメルト法)、縁部限定薄膜供給結晶成長(EFG法)のいずれかにより育成されたものであることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項記載のフッ化物バルク単結晶材料。
【請求項7】
前記結晶は、ErxYbyCa(1−x−y)F2+x+yで表される組成の融液から、マイクロ引き下げ法により育成された結晶であることを特徴とする1乃至6のいずれか1項記載のフッ化物バルク単結晶材料。
【請求項8】
前記結晶は、PrxYbyCa(1−x−y)F2+x+yで表される組成の融液から、マイクロ引き下げ法により育成された結晶であることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項記載のフッ化物バルク単結晶材料。
【請求項9】
前記結晶は、CrxYbyCa(1−x−y)F2+x+yで表される組成の融液から、マイクロ引き下げ法により育成された結晶であることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項記載のフッ化物バルク単結晶材料。
【請求項10】
前記結晶は、MnxYbyCa(1−x−y)F2+x+yで表される組成の融液から、マイクロ引き下げ法により育成された結晶であることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項記載のフッ化物バルク単結晶材料。
【請求項11】
温度0℃以上で発光することを特徴とする請求項1乃至10のいずれか1項記載のフッ化物バルク単結晶材料。
【請求項12】
温度25℃以上で発光することを特徴とする請求項1乃至11のいずれか1項記載のフッ化物バルク単結晶材料。
【請求項13】
赤外光により励起した時、可視領域にアップコンバージョン蛍光を発光する結晶であって、該発光の強度における最大のピークを示す波長が540〜690nmである事を特徴とするフッ化物バルク単結晶材料。
【請求項14】
赤外光により励起した時、可視領域にアップコンバージョン蛍光を発光する結晶であって、該発光の強度における最大のピークを示す波長が630〜660nmの赤色発光であることを特徴とするフッ化物バルク単結晶材料。
【請求項15】
赤外光により励起した時、可視領域にアップコンバージョン蛍光を発光する結晶であって、該発光の強度における最大のピークを示す波長が540〜690nmである事を特徴とする請求項1乃至12のいずれか1項記載のフッ化物バルク単結晶材料。
【請求項16】
赤外光により励起した時、可視領域にアップコンバージョン蛍光を発光する結晶であって、該発光の強度における最大のピークを示す波長が630〜660nmの赤色発光であることを特徴とする請求項1乃至12のいずれか1項記載のフッ化物バルク単結晶材料。
【請求項17】
請求項1乃至16のいずれか1項記載の材料をレーザー媒質としたことを特徴とするアップバージョンレーザー。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2008−169065(P2008−169065A)
【公開日】平成20年7月24日(2008.7.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−2688(P2007−2688)
【出願日】平成19年1月10日(2007.1.10)
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【出願人】(000162847)ステラケミファ株式会社 (81)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年7月24日(2008.7.24)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年1月10日(2007.1.10)
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【出願人】(000162847)ステラケミファ株式会社 (81)
【Fターム(参考)】
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