説明

アディポネクチン産生促進剤

【課題】小型化脂肪細胞を増大し、アディポネクチンの産生を促進、増強する作用を持つ化合物を提供する。
【解決手段】ナツメグの実から抽出される化合物又はその誘導体の少なくとも1つを有効成分として含むことを特徴とするアディポネクチン産生促進剤、及びアディポネクチン産生促進剤を含む組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アディポネクチン産生促進剤に関する。具体的には、本発明は、ナツメグの実から抽出された化合物を有効性成分とするアディポネクチン産生促進剤に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、わが国では食生活の欧米化、飽食化により、カロリー摂取過剰、運動不足等が起因して、肥満あるいは糖尿病が急激に増加している。さらに、肥満は合併症としてメタボリックシンドローム、いわゆる糖尿病、高脂血症や動脈硬化症をもたらすことが知られている。肥満は脂肪組織が過剰に蓄積した状態であり、脂肪組織は中性脂質として余剰のエネルギーを蓄積するだけの組織であると考えられてきた。
【0003】
しかしながら、近年、脂肪組織はアディポネクチン、TNF-α、レプチン、遊離脂肪酸等の多種多様なホルモンやサイトカインを分泌し、生体内で重要な働きをしている内分泌臓器であることが分かってきた。肥大脂肪細胞では、TNF-αの分泌抑制作用、血糖降下作用を有し、生活習慣病にとって非常に重要であるアディポネクチンの分泌が減少する。そのため、TNF-αの過剰分泌、インスリン分泌の減少、インスリン抵抗性の増大により、糖尿病、高血圧、高脂血症、動脈硬化等の生活習慣病につながると考えられている。
【0004】
従って、糖尿病、高脂血症等の生活習慣病を予防するためには、肥大脂肪細胞ではなく小型化脂肪細胞を増加させること、及び小型化脂肪細胞からアディポネクチンの分泌を増大することが重要であると考えられる。脂肪細胞の分化は、核内受容体型転写因子とよばれるPPARγによって主に制御されており、アディポネクチンの分泌が増大すると、PPARγ受容体が増加して、前駆脂肪細胞から脂肪細胞の分化が促進されると考えられる。糖尿病治療薬に用いられているチアゾリジン系薬剤であるチアゾリジンジオン類(TZD)は強力なPPARγアゴニスト(作用薬)であり、小型化脂肪細胞への分化と共に肥満した脂肪細胞をアポトーシスにより減らす作用もあるといわれる。また、研究レベルで細胞分化誘導促進物質としては、c-AMP分解阻害剤であるイソブチルキサンチン(非特許文献1)、非ステロイド系抗炎症剤のインドメタシン(非特許文献2)などが知られている。
【0005】
従来から生活習慣病の予防、改善剤の開発が行われ、例えば、米糠のγ−オリザノールのアディポネクチン分泌促進剤(特許文献1)、ショウガの細胞分化促進剤(特許文献2)が知られている。ナツメグの薬理作用が記載されている文献としては、ナツメグを配合し、水溶性ガラクトマンナンを主成分とする肥満防止剤(特許文献3)、ナツメグから有機溶媒を用いて抽出された抽出物もしくはその分画物(主成分、ミリスチン)を、肝障害抑制剤の有効成分とする新規肝障害抑制剤(特許文献4)がある。しかし、ナツメグの脂肪細胞分化誘導を増強し、アディポネクチンの産生を促進、増強する作用を持つ化合物は知られていない。
【0006】
上で述べたように、細胞から放出され生体の働きを制御するサイトカインの一つであるアディポネクチン(タンパク質性因子)の不足が、2型糖尿病や動脈硬化症等の生活習慣病の発症に密接に関連していることが明らかになっている。そして、アディポネクチンの直接的な注射投与や当該遺伝子を組み込んだアデノウイルスベクターの導入・発現で血中アディポネクチン濃度を増加させることにより、糖尿病モデルマウスの血糖値を低下させること、動脈硬化につながる血管病変の形成を抑制できることなどが実験的に証明されている(非特許文献3〜5)。実際の応用でも、肥満の改善剤(特許文献5)、抗炎症、単球系細胞の増殖抑制剤(特許文献6)等として、アディポネクチンを使用する方法が開発されている。このように、体外で生産されたアディポネクチンの投与も有効であるが、体内におけるそのアディポネクチン産生不良を改善し、さらなる増強を図ることは、長期にわたる生活習慣病の予防と治療にとって非常に重要であると考えられる。
【0007】
【特許文献1】特開2005-68132
【特許文献2】特開2005-75749
【特許文献3】特開2005-126405
【特許文献4】特開2003-091379
【特許文献5】米国出願公開2002/0132773号明細書
【特許文献6】特開2000-256208
【非特許文献1】A.K.G. Loeffer, Horm. Metab. Res., 32,548-554 (2000)
【非特許文献2】H. Yeら, Biohcem. J.,330,803-809 (1998)
【非特許文献3】下村伊一郎他, 実験医学, Vol.20, No.12, 1762-1767 (2002)
【非特許文献4】A.H.Bergら,Nature Medicine, 7, 947-953 (2001)
【非特許文献5】Y.Okamoto, Circulation, 106, 2767-2770 (2002)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
このように、小型化脂肪細胞を増加させ、アディポネクチン量を上昇させる医薬品はすでに知られているが、TZDは肝毒性が強く、インドメタシンは本来別の強い薬理活性を持っており、安全性や副作用の点で問題がある。従って、糖尿病や動脈硬化等の生活習慣病が急増し、その対策が社会問題になってきている現在、このような生活習慣病の予防、治療に手軽に使用できる薬剤として、小型化脂肪細胞を増大し、アディポネクチンの産生を促進、増強する作用を持つ化合物の開発が求められている。さらに、生活習慣病を予防、治療するためには小型化脂肪細胞を増加させ、アディポネクチン量を上昇させる物質を、日々食事により安全な食品として摂取することが重要と考えられる。
【0009】
本発明の目的は、ナツメグからの脂肪細胞分化促進作用及びアディポネクチン産生増強作用を有する物質、すなわちアディポネクチン産生促進剤、を提供することである。
【0010】
本発明の別の目的は、アディポネクチン産生促進剤を含む生活習慣病又は肥満を予防、改善又は治療するための組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
かかる状況において、本発明者らは、小型化脂肪細胞を増加させ、アディポネクチン産生を増強する植物を検討した結果、ナツメグの抽出エキスから得られた化合物が前駆脂肪細胞から脂肪細胞への分化を促進し、アディポネクチン産生を増強することを見出した。このような知見に基づき、本発明を完成するに至った。
【0012】
(発明の概要)
すなわち、本発明は、要約すると、以下の特徴を含む。
【0013】
本発明は、下記の式1から式9:
【化1】

【0014】
【化2】

【0015】
【化3】

【0016】
【化4】

【0017】
【化5】

【0018】
【化6】

【0019】
【化7】

【0020】
【化8】

【0021】
【化9】

によって表される化合物又はその誘導体の少なくとも1つを有効成分として含むことを特徴とする、アディポネクチン産生促進剤を提供する。
その実施形態において、上記の有効成分がナツメグの実の抽出物又は処理物である。
【0022】
本発明はまた、上記のアディポネクチン産生促進剤を含む、2型糖尿病、高脂血症、高血圧及び動脈硬化から選択される生活習慣病又は肥満の予防、改善又は治療のための組成物を提供する。
その実施形態において、本発明の組成物が医薬品又は食品である。
【0023】
(定義)
本明細書で使用する「アディポネクチン産生促進剤」とは、前駆脂肪細胞から脂肪細胞への分化を促進し、かつ小型化脂肪細胞からのアディポネクチンの産生・分泌を増大、増強又は促進する作用を有する物質を意味する。本発明では、アディポネクチン産生促進剤はナツメグの実に含まれる上記の化合物又はその誘導体を有効成分として含む。
【0024】
本明細書中では、「アディポネクチン産生促進剤」及び「アディポネクチン産生増強作用物質」なる用語を同義で互換的に使用する。
【発明の効果】
【0025】
本発明のアディポネクチン産生促進剤は、上記定義のとおり、動物の前駆脂肪細胞から脂肪細胞への分化促進剤としてナツメグの実から得られる成分を有効成分とし、該細胞分化の促進により、小型化脂肪細胞を増加させるとともに、アディポネクチン量を上昇させる物質である。この物質はアディポネクチン量を有意に高める作用を有するため、本発明のアディポネクチン産生促進剤は、特に糖尿病、高脂血症、高血圧、動脈硬化等の生活習慣病又は肥満を予防、改善又は治療するために有効であり、そのような作用効果を発揮する食品、食品添加物、医薬品等の製造のために使用しうる。
【0026】
アディポネクチンの産生増強物質として知られている公知のTZDやインドメタシン等の化合物は安全性、副作用の問題を抱えているのに対して、本発明の化合物は、長年食されてきたナツメグに由来するものであるため、安全であり、日々摂取して利用するために非常に優れている。
【0027】
さらに、上記したように、アディポネクチンは、過剰な働きによる膵臓からのインスリン分泌の減少、あるいはインスリンが産生されているにも関わらず血糖値が低下しないいわゆる生活習慣病の2型糖尿病を予防、治療する効果を有するとともに、動脈硬化につながる血管病変の抑制、肥満改善、抗炎症、単球系細胞の増殖抑制、肝繊維化抑制等多くの重要な生理作用を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
アディポネクチン産生促進剤は、ナツメグの実に含まれる物質を有効成分として含む。上記のとおり、このような物質は、式1から式9によって表される化合物(図1)であり、本発明では、同様のアディポネクチン産生促進効果を有する限り、上記化合物の誘導体も有効成分として使用可能である。
【0029】
本発明の化合物はいずれもアディポネクチンの産生を有意に増加させる活性を有しているため、そのいずれか1つ又はそれらの任意の混合物を、アディポネクチン産生促進剤の有効成分とすることができる。そのような混合物には、ナツメグの実の抽出物又は処理物も包含される。ここで、抽出物は、溶媒による有効成分の抽出分離によって得られた物質であって、溶媒抽出液、その濃縮液及びその乾燥物を含む。処理物は、抽出物をさらなる精製工程にかけて完全に又は部分的に精製された1又は複数の有効成分を含む物質、ナツメグの実の搾汁液などの実の処理物などを含む。
以下に、ナツメグからの本発明の化合物の抽出及び精製について説明する。
【0030】
(抽出と精製)
ナツメグから製取する場合、不都合な夾雑物がない限り、粗抽出物や部分精製品としても本発明の用途に用いることができる。本発明の細胞分化促進、アディポネクチン産生増強作用物質は、ナツメグの実から抽出される成分を有効成分としている。ナツメグの実としては、乾燥品を用いることができ、さらに、この乾燥品を粉砕して用いることもできる。
【0031】
抽出工程は、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノールなどのアルコール、アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン、酢酸エチルなどのエステル等の極性有機溶媒を用いて行うことができ、好ましくはエタノール又はメタノール、より好ましくはエタノールを用いて抽出を行うことができる。また、抽出は、上記の有機溶媒の他に、水や超臨界二酸化炭素を用い公知の抽出方法で容易に行うことができる。
【0032】
溶媒の体積は、ナツメグの実の乾燥重量の約2〜約4倍でよい。抽出は、通常、室温で約1日放置するか、或いは時間を短縮するために加温(例えば約40℃〜約80℃)することによって行うことができる。また、抽出は、1回だけでもよいが、複数回、例えば2〜3回、上記と同様の条件で行うこともできる。
【0033】
抽出液はついで、定圧又は減圧下で溶媒を除去する工程にかけられる。除去は、通常、加温下での蒸発又は留去である。溶媒の除去により得られた油状残渣を、精製工程にかける。
【0034】
精製は、水/有機溶媒二相系での分配や活性炭処理、あるいは各種のクロマトグラフィー操作等の公知の精製方法で行うことができる。好ましい方法は、後述の実施例1に記載のように、シリカゲルカラムを用いるクロマトグラフィーである。ヘキサンなどの非極性溶媒で平衡化したシリカゲルに油状残渣を吸着させたのち、連続的に又は段階的に、極性溶媒の容量を増加させることによって、本発明の化合物を溶出することができる。溶出は、例えば100%ヘキサンから約80%アセトン/約20%ヘキサンまでのグラジエントで行うことができる。さらに分離が必要であれば、高速液体クロマトグラフィーを使用することができる。クロマト条件は、例えばシリカゲルカラム(市販品)、流速3.5ml/分、検出UV270nm、溶媒0.1%蟻酸を含む60%、70%、80%メタノールである。
【0035】
本発明の化合物は、シリカゲル薄層クロマトグラフィー(ヘキサン:アセトン=3:1の混合液)で展開し、FeCl3-K3[Fe(CN)6]混液の噴霧により濃青色を呈することで検出される。
【0036】
(化合物の同定)
精製された化合物を、UV吸収、マススペクトル、1H-NMR、13C-NMR等の分析にかけて同定した結果、図1に示す化合物(N1からN9;それぞれ式1から式9の化合物)として構造決定された。
【0037】
同定された化合物の構造的特徴として、1又は2個のフェニル基を有し、フェニル基上に0又は1個のヒドロキシ基、0、1又は2個のメトキシ基、0又は1個のメチレンジオキシ基などの基を有し、1個のフェニル基上に0又は1個の1-プロペニル基又は2−プロペニル基を有し、フェニル基とフェニル基が、置換基(例えばヒドロキシ、アセチル、メチルなど)を有してもよい環状エーテル又は脂肪族エーテル基を介して結合されている。
【0038】
(誘導体)
本発明の有効成分として、上記の式1から式9によって表される化合物の誘導体が含まれる。このような誘導体は、アディポネクチン産生の促進又は増強作用を有するものであり、基本的には上記の構造的特徴及び骨格を維持しながら、例えばプロペニル基の二重結合の位置が1位から2位、又は2位から1位、に変換された誘導体、フェニル基以外の基のヒドロキシがメトキシに変換された誘導体、プロペニル基を有するフェニル基上のメトキシ基1個が除去された誘導体などを含むことができる。
【0039】
さらに、本発明の誘導体には、式1から式9によって表される化合物の光学活性化合物、幾何異性体、又はそれに類する化合物も包含されるものとする。
【0040】
(活性測定)
本発明の有効成分は、アディポネクチン分泌・産生促進活性を有することを特徴とする。
前駆脂肪細胞から脂肪細胞への分化誘導活性は、実施例2に記載の方法に準じて、脂肪細胞の指標となる細胞内脂肪の蓄積量を測定することによって決定することができる。簡単に説明すると、細胞内脂肪の蓄積量は、oil Red O(ORO)溶液を用いて細胞内脂肪滴を染色し、ORO色素を抽出し、及び吸光度(A510)を測定することによって決定することができる。
【0041】
アディポネクチンの産生量は、実施例3に記載の方法に準じて、本発明の化合物の存在する培地中で培養されたマウス前駆脂肪細胞株(例えば3T3-L1)の培養上清中に分泌されたアディポネクチンの量を酵素免疫測定(ELISA)法で測定することによって決定することができる。例えば、大塚製薬社製の「マウス/ラットアディポネクチンELISAキット」を用いて、上清の500倍希釈液についてキット付属の使用説明書に記載されている測定に従って行うことができる。450nmにおける吸光度を、アディポネクチンの量に換算する。
【0042】
(組成物)
本発明のアディポネクチン産生促進剤は、前駆脂肪細胞から脂肪細胞への分化を促進し、アディポネクチン産生を増強することが可能であることから、肥大化脂肪細胞の増加に伴い引き起こされる糖尿病、高脂血症、高血圧、動脈硬化等の生活習慣病又は肥満に対して予防、改善又は治療効果を示すことができる。
【0043】
具体的には、アディポネクチンは、単球の血管内皮細胞への接着の抑制、マクロファージの脂質蓄積、泡沫化の抑制、平滑筋細胞の増殖、遊走の抑制等の作用を示すことから、アディポネクチン分泌・産生量を増加させることにより、抗動脈硬化作用を有すると考えられる。また、アディポネクチンは、脂肪細胞のインスリン感受性を高め、しかも、脂肪燃焼を促進する作用を有することから、アディポネクチンの分泌・産生量を増加させることにより、抗糖尿病作用及び抗肥満作用を有すると考えられる。
【0044】
したがって、本発明はさらに、本発明のアディポネクチン産生促進剤を含む、2型糖尿病、高脂血症、高血圧及び動脈硬化から選択される生活習慣病又は肥満の予防、改善又は治療のための組成物を提供する。
本発明の実施形態により、上記組成物は、医薬品又は食品である。
【0045】
(医薬組成物)
本発明の医薬組成物は、アディポネクチン産生促進剤を含み、1投与単位あたりの、その有効成分の用量は、脂肪細胞への分化を促進するために有効な量であるが、式1から式9の各化合物の量として約1μg〜約2g、或いは抽出物の量として約10mg〜約10g、好ましくは約50mg〜約1gであるが、この範囲に限定されないものとする。或いは、体重1kgあたり約0.01μg〜約100mgの有効成分量であるが、この範囲に限定されないものとする。
【0046】
投与経路は、経口投与、又は非経口経路、例えば静脈内投与、筋肉内投与、座剤投与、皮膚投与などである。
【0047】
製剤は、特に限定されないが、錠剤、丸薬、ペレット、粉末剤、顆粒剤、溶液剤、懸濁剤、乳濁剤、カプセル剤、軟膏などの形態を含む。また、必要に応じて、腸溶性製剤、遅延放出製剤、持続放出製剤などの形態に製剤化することも可能である。このような製剤は、製薬業界で慣用の技術を用いて作製することができる。例えば、混合、溶解、顆粒化、糖衣剤化、磨砕、乳化、カプセル化、閉じ込め、凍結乾燥などを用いて製造することができる。
【0048】
医薬組成物は、本発明のアディポネクチン産生促進剤の他に、製薬上許容可能な担体、賦形剤、添加剤などを含むことができる。
【0049】
液体製剤や半固体製剤では、担体は、例えば生理食塩水、石油、動物油または植物油、例えばラッカセイ油、鉱油、ダイズ油、ゴマ油、合成油などを含むことができる。また、このような製剤には、デキストロースなどのサッカライド、エチレングリコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコールなどのグリコール類、グリセロールを含むことができる。特に、注射液の場合、等張液、例えば塩化ナトリウム注射液、リンガー注射液、デキストロース注射液、デキストロース/塩化ナトリウム注射液、又は乳酸添加リンゲル注射液などを含むことができる。組成物にはさらに、安定剤、防腐剤、緩衝剤、酸化防止剤、界面活性剤、アルコール、pH調整剤、増粘剤、色素、香料などの当業界で周知の他の添加剤を適宜含むことができる。
【0050】
固体製剤では、担体は、例えば乳糖、マンニトール、デキストロース、サッカロース、セルロース、トウモロコシ澱粉、ジャガイモ澱粉、ブドウ糖、ヒドロキシプロピルセルロース、微結晶性セルロース、ポリビニルピロリドン、メタケイ酸アルミン酸マグネシウムなどを含むことができる。またこのような製剤には、シリカ、タルク、ステアリン酸、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム及びポリエチレングリコール等の滑沢剤、デンプン、アラビアゴム、ゼラチン、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルピロリジンなどの結合剤、デンプン、アルギン酸、アルギン酸塩、グリコール酸デンプンナトリウム、繊維素グリコール酸カルシウムなどの崩壊剤、甘味剤、風味剤、レシチン、ポリソルベート、ラウリル硫酸塩などの湿潤剤、グルタミン酸又はアスパラギン酸などの溶解補助剤などの当業界で周知の添加剤を含むことができる。錠剤又は丸剤は、必要によりショ糖、ゼラチン、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレートなどの糖衣や胃溶性又は腸溶性物質のフィルムで被覆してもよいし、2つ以上の層で被覆してもよい。さらに、カプセル剤は、ゼラチンのような吸収されうる物質を含むことができる。
【0051】
製剤化に関しては、例えばRemington: The Science and Practice of Pharmacy (1995年), 9版, Mack Publishing Company, Pennsylvania, USAに具体的に記載されており、その記載は本発明の医薬組成物の製剤化のために利用しうる。
【0052】
本発明の医薬組成物は、1日1回又は数回に分けて被験者に投与することができる。また、例えば1日から3日毎に投与することもできる。
【0053】
(食品)
本発明の食品は、医薬組成物の項で記載したような含有量の有効成分を含むことができる。食品は、非限定的に、固形食品、飲料、ゲル状食品、半固体食品、機能性食品、健康食品などを含む。或いは、食品添加物の形態であってもよく、この場合、任意の食品に添加することができる。任意の食品には、麺類などの穀物加工食品、油、油脂などの油脂加工品、大豆加工品、食肉加工品、水産加工品、乳製品、ジャムなどの果実加工品、菓子類、調理加工品などが含まれる(食品加工技術ハンドブック(昭和57年)建ぱく社)。
【0054】
飲料の種類、形態、製法等は、例えば「最新・ソフトドリンクス」、最新ソフトドリンクス編集委員会(編集)、光琳(2003年10月)に記載されており、本発明の飲料組成物の製造のために利用しうる。
【0055】
以下に、実施例により本発明をさらに説明するが、本発明の範囲は、これらの実施例によって限定されないものとする。
【実施例1】
【0056】
ナツメグ(Myristica fragrans)の実220gをミキサーで粉砕し、450mlのエタノールに浸漬し室温に1日放置した。エタノールを回収し、同量のエタノールを加え、1日放置した。エタノール溶液を合わせロータリーエバポレーターで濃縮し、油状残渣25.6gを得た。本油状残渣をヘキサンで充填したシリカゲルカラム(WakogelC-300、直径4.5cm、高さ20cm)に吸着させ、100mlのヘキサンを流し、次いで10%、20%、25%、33%、50%、77%のアセトンを含むヘキサンを各300mlで順次溶出した。溶出液は20〜50mlづつ分画した。分画溶液はシリカゲルの薄層クロマトグラフィー(ヘキサン:アセトン=3:1の混合液)で展開し、FeCl3-K3[Fe(CN)6]混液の噴霧により濃青色を呈する分画2.3gを得た。この分画を高速液体クロマトグラフィー(カラムCAPCELLPAKC18、直径2cm、長さ25cm、流速3.5ml/分、検出UV270nm、溶媒0.1%蟻酸を含む60%、70%,80%メタノール)で精製し、化合物N1(127mg)、N2(11mg)、N3(7mg)、N4(52mg)、N5(35mg)、N6(74mg)、N7(6mg)、N8(13mg)、N9(11mg)を精製した。
【0057】
精製物N1からN9の性質は次のとおりである。
N1:ミリステシン(Myristecin) 無色油状物, UV(MeOH):λmax=232
HR-EI-MS: C11H12O3の計算値:m/z192.2145, 測定値:m/z192.2162
N2:無色油状物, [α]D:+7.0(c=1.145, MeOH), UV(MeOH):λmax=232
HR-EI-MS: C21H22O5の計算値:m/z354.4027,測定値:m/z354.4031
N3:無色油状物, [α]D:+35.8(c=1.16, MeOH), UV(MeOH):λmax=232
HR-EI-MS: C20H19O4の計算値:m/z323.2684, 測定値:m/z323.2652
N4:無色油状物, [α]D:+2(c=0.53, MeOH), UV(MeOH):λmax=232
HR-EI-MS: C21H26O6の計算値:m/z374.1730, 測定値:m/z374.1746
N5:無色油状物, [α]D:+3(c=0.34, MeOH), UV(MeOH):λmax=232
HR-EI-MS: C23H28O7の計算値:m/z416.4711, 測定値:m/z416.1798
N6:無色油状物, [α]D:+2 (c=0.80, MeOH), UV(MeOH):λmax=232
HR-EI-MS: C20H22O4の計算値:m/z326.3922, 測定値:m/z326.1484
N7:無色油状物, [α]D:+1(c=1.77, MeOH), UV(MeOH):λmax=232
HR-EI-MS: C21H26O5の計算値:m/z358.1779, 測定値:m/z358.1779
N8:白色粉末, [α]D:+25(c=0.88, MeOH), UV(MeOH):λmax=232
HR-EI-MS: C20H24O5の計算値: m/z344.3806, 測定値:m/z 344.1626([M]+
N9:白色粉末, [α]D:0(c=0.84, MeOH), UV(MeOH):λmax=232
HR-EI-MS: C20H24O5の計算値:m/z344.3806, 測定値:m/z344.1631
【0058】
これらの化合物の1H-NMRと13C-NMRの測定結果は、表1及び表2に示した。
以上の結果を解析し、また文献「A.C.Herreraら, Phytochemistry, 23, 9, 2025-2028(1984), M. Hattoriら, Chem. Pharm. Bull., 35, 2, 668-674(1987), N.Nakataniら, Phytochemistry, 27, 10, 3127-3129(1988), H.M.T.B.Herathら, Phytochemistry, 44, 4, 699-703(1997), F. Filleurら, Natural Product Letters, 16, 1, 1-7(2001), H.Shimomuraら, Phytochemisrty, 6, 5, 1513-1515(1987), X.A.Domiguezら, Phytochemistry, 29, 8, 2651-2653(1990), S.Hadaら, Phytochemistry, 27, 2, 563-568(1988)」に記載された物理化学的性質とスペクトルを比較した結果、化合物N1からN9は、図1に示すような構造と同定した。
【0059】
【表1】

【0060】
【表2】


【実施例2】
【0061】
マウス前駆脂肪細胞株3T3-L1(大日本製薬株式会社より購入)を、10%牛胎仔血清を含ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM培地)で、37℃、5%CO2存在下、3日間前培養後、上記の3T3細胞をEDTA−トリプシン溶液で剥がし、回収して、1000rpm、4分間遠心分離を行った。24ウエルマルチプレートに4×104cells/mlになるように細胞を分注し、37℃、5%CO2存在下、3日間前培養、培地を除去し、新たに培地1mlを加えた。次いで、サンプルN1〜N9を終濃度30μMになるように培地に添加し、37℃、5%CO2存在下、14日間前培養した。
【0062】
マウス前駆脂肪細胞の細胞内脂肪の蓄積量を調べるために、上記の24ウエルマルチプレートの培地をアスピレーターで吸引除去し、Oil Red O(ORO)溶液(Ramirez-Zacarias et al., Histochemistry, 97, 493-497(1992))を入れ細胞内脂肪滴を染色した。1時間室温で放置後、色素液をアスピレーターで除去し、50%イソプロパノール水溶液で洗浄後、溶液をアスピレーターで除去し、100%イソプロパノールを0.2ml/wellで添加し、細胞内脂肪滴に取り込まれたORO色素を抽出し、プレートリーダー(波長510nm)を用いて吸光度を測定した。
【0063】
その結果を図2に示す。図2に示すように、インスリンを添加しない培養でも、N1〜N9の化合物について脂肪細胞化の指標となる細胞内脂肪の蓄積は、コントロールより促進されていることが明らかである。
【実施例3】
【0064】
上記で培養した3T3-L1細胞の培養上清中に分泌されたアディポネクチンの量を酵素免疫測定(ELISA)法で測定した。この定量には、大塚製薬社製の「マウス/ラットアディポネクチンELISAキット」を用いて、上清の500倍希釈液についてキット付属の使用説明書に記載されている測定に従って行った。上記で測定した450nmにおける吸光度を、アディポネクチンの量に換算したグラフを図3に示す。
【0065】
図3に示すように、インスリンを添加しない培養でも、化合物N1〜N9は、マウス前駆脂肪細胞が脂肪細胞へと分化誘導し、アディポネクチン産生量は、コントロールよりも高い値を示した。
【実施例4】
【0066】
マウス前駆脂肪細胞株3T3-L1(大日本製薬株式会社より購入)を、10%牛胎仔血清を含ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM培地)で、37℃、5%CO2存在下、3日間前培養後、上記の3T3細胞をEDTA−トリプシン溶液で剥がし、回収して、1000rpm、4分間遠心分離を行った。24ウエルマルチプレートに4×104cells/mlになるように細胞を分注し、37℃、5%CO2存在下、3日間前培養、培地を除去し、新たにインスリンを添加した培地1ml(インスリンの最終濃度10μg/ml培地)を加えた。次いで、サンプルN1〜N9を終濃度30μMになるように培地に添加し、37℃、5%CO2存在下、14日間前培養した。培養上清中に分泌されたアディポネクチンの量を酵素免疫測定(ELISA)法で測定した。この定量には、大塚製薬社製の「マウス/ラットアディポネクチンELISAキット」を用いて、上清の500倍希釈液についてキット付属の使用説明書に記載されている測定に従って行った。上記で測定した450nmにおける吸光度を、アディポネクチンの量に換算したグラフを図4に示す。
【0067】
図4から、化合物N3、N7およびN9は、従来からアディポネクチン分泌を促進することが知られているインドメタシンよりも優れたアディポネクチン分泌促進能を有していた。
【実施例5】
【0068】
正常ヒト前駆脂肪細胞(三光純薬製)を10%のFBSと2mMグルタミンを添加したPBM培地(PBM増殖培地、PBMは三光純薬製)で4日間培養後、細胞をEDTA−トリプシン液で回収し、PBM増殖培地に4×104cells/mlの割合で懸濁し、あらかじめコラーゲンでコートした96−wellプレートに0.2mlづつ植え込んだ。5%のCO2存在下、37℃で3日間培養後、培地をPBM分化培地[PBM増殖培地にインスリン(10μg/ml)とデキサメタゾン(0.1μM)を添加した培地]に交換した(0.2ml/well)。この培養液にサンプルN1〜N9を終濃度15μMになるように添加した。コントロールには2μlのエタノールのみを添加した。14日間前培養した後、培養上清中に分泌されたアディポネクチンの量を酵素免疫測定(ELISA)法で測定した。この定量には、大塚製薬社製の「ヒトアディポネクチンELISAキット」を用いて、上清の6倍希釈液についてキット付属の使用説明書に記載されている測定に従って行った。上記で測定した450nmにおける吸光度を、アディポネクチンの量に換算したグラフを図5に示す。
【0069】
図5に示すように、化合物N1〜N9は、ヒト前駆脂肪細胞を脂肪細胞へと分化誘導し、アディポネクチン産生量が、コントロールよりも高い値を示した。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明のアディポネクチン産生促進剤は、動物の前駆脂肪細胞から脂肪細胞への分化誘導を促進することにより小型化脂肪細胞を増加させるとともに、アディポネクチン量を上昇させる活性を有する。このアディポネクチン量を有意に高める効果のために、本発明のアディポネクチン産生促進剤は、特に糖尿病、高脂血症、高血圧、動脈硬化等の生活習慣病又は肥満を予防、改善又は治療するために有効であり、産業上の利用価値が高い。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】本発明の式1〜式9の化合物を示す。
【図2】N1〜N9の化合物について、マウス前駆脂肪細胞が脂肪細胞へと分化誘導されたときの、脂肪細胞化の指標となる細胞内脂肪の蓄積量を、インスリン非存在下で評価したグラフである(実施例2参照)。
【図3】化合物N1〜N9の化合物について、マウス前駆脂肪細胞が脂肪細胞へと分化誘導されたときのアディポネクチン産生量を、インスリン非存在下で評価したグラフである(実施例3参照)。
【図4】化合物N1〜N9の化合物について、マウス前駆脂肪細胞が脂肪細胞へと分化誘導されたときのアディポネクチン産生量を、インスリン存在下で評価したグラフである(実施例4参照)。図中、conは、ネガティブコントロールとしてのEtOH(エタノール)であり、Indoは、ポジティブコントロールとしてのインドメタシンである。
【図5】化合物N1〜N9の化合物について、ヒト前駆脂肪細胞が脂肪細胞へと分化誘導されたときのアディポネクチン産生量を評価したグラフである(実施例5参照)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の式1から式9:
【化1】

【化2】

【化3】

【化4】

【化5】

【化6】

【化7】

【化8】

【化9】

によって表される化合物又はその誘導体の少なくとも1つを有効成分として含むことを特徴とする、アディポネクチン産生促進剤。
【請求項2】
前記有効成分がナツメグの実の抽出物又は処理物である、請求項1に記載のアディポネクチン産生促進剤。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のアディポネクチン産生促進剤を含む、2型糖尿病、高脂血症、高血圧及び動脈硬化から選択される生活習慣病又は肥満の予防、改善又は治療のための組成物。
【請求項4】
医薬品又は食品である、請求項3に記載の組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−261993(P2007−261993A)
【公開日】平成19年10月11日(2007.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−88975(P2006−88975)
【出願日】平成18年3月28日(2006.3.28)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】