説明

アトピー性皮膚炎改善用食品

【課題】優れた生理活性を有し、しかも安全性の高いアトピー性皮膚炎改善用食品を提供する。
【解決手段】酸性キシロオリゴ糖と、ビタミン類及び/又は多価不飽和脂肪酸類を含有するアトピー性皮膚炎改善用食品。前記ビタミン類が、ビタミンA、ビタミンB1、ビタミンB2、、パントテン酸、ビタミンB6、ビオチン、ナイアシン、葉酸、ビタミンB12、ビタミンC、ビタミンD、ビタミンK、ビタミンP、ビタミンQから選ばれる物質であり、前記多価不飽和脂肪酸が、α−リノレン酸、γ−リノレン酸、ドコサヘキサエン酸、エイコサペンタエン酸、ステアリドン酸、イワシ酸から選ばれる物質である前記アトピー性皮膚炎改善用食品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食品、機能性食品及び医薬品分野に於いて使用されるアトピー性皮膚炎改善用食品に関する。より詳細には、優れた生理活性を有し、しかも安全性の高いアトピー性皮膚炎改善用食品に関する。
【背景技術】
【0002】
アトピー性皮膚炎とは、顔面や四肢屈側、腹胸部等に強い痒みを伴う湿疹が慢性・再発性に継続する皮膚疾患である。臨床経過は、乳児期に発症し2歳未満で軽快するもの、乳児期に発症して徐々に軽快するもの、乳児期に一旦軽快した皮膚炎が思春期以降に再発するもの、5歳以降に初発するものなど、個人によって多様である。尚、2000〜2002年に行われた厚生労働省研究班によるアトピー性皮膚炎の検診調査の結果では、アトピー性皮膚炎の有症率は4ヶ月児;12.8%、1歳半児;9.8%、3歳児;13.2%、小学1年生児;10.6%、小学6年生児;10.6%、大学生;8.2%であり、全体の20%程度が重症・最重症患者である(非特許文献1参照)。特に、10年ほど前から成人におけるアトピー性皮膚炎が増加してきている。成人における重症例では、掻痒による肉体的苦痛だけでなく、発疹により美容が損なわれることによる精神的なストレスも大きな問題となっている。
【0003】
アトピー性皮膚炎の病態は、アレルギー、バリア障害及び炎症の側面から説明されている。アトピー性皮膚炎では、アレルギー反応に関与するリンパ球であるTh2細胞の活性化と高IgE血症を伴うことが多い。また、多くの症例において血中IL−4、IL−5、IL−13等のTh2サイトカインの高値が見られることからも、アレルギー性炎症としての側面を持つことを示している。また、アトピー性皮膚炎患者の湿疹部では、皮膚のバリア機能の維持に重要なセラミドが減少している。痒みにより皮膚を掻破することは、バリア機能の更なる崩壊を引き起こす。このようにアレルギーやバリア機能の崩壊によって皮膚に慢性の炎症が生じる。実際に皮膚炎患部では白血球の浸潤が観察される(非特許文献2参照)。
【0004】
上記のようにアトピー性皮膚炎が多因子性の疾患である為、対症療法による症状緩和が唯一の治療手段である。薬物治療としては、ステロイド外用剤の塗布と抗アレルギー薬の内服が一般的である。しかし、顔面の湿疹にはステロイド外用剤を用いることは推奨されていない。使用する場合でも可能な限り弱いものを短期間にとどめなければならない。また、ステロイド外用剤による毛細血管拡張や皮膚萎縮などの副作用は試用期間が長くなるにつれて起こりやすい。更には、長期間使用後のリバウンド現象を避ける為に、急激な使用の中止を避ける必要がある。抗アレルギー剤はステロイド外用の補助的効果を期待して使用するものであり、アトピー性皮膚炎の病態を単独で抑制するものではない(非特許文献2参照)。多くの抗アレルギー薬は、抗ヒスタミン作用を主体とするものである。これらの多くは副作用として眠気や全身倦怠感などの中枢神経抑制作用が現われる可能性が高い。
【0005】
薬物治療によって症状が寛解することはあるものの、完治させることは困難である。アトピー性皮膚炎患者の多くは、寛解状態を維持することや副作用のある薬剤の使用量を減らすために、外用のスキンケア用品や、皮膚の健康に良いとされるサプリメント等を単独もしくは複数使用している。外用のスキンケア用品としては、皮膚のバリア機能を補うための保湿クリーム等が利用されている。皮膚の健康によいサプリメントとしては、主にビタミン類、多価不飽和脂肪酸類、ミネラル類、ヒアルロン酸、コラーゲンなどを単独もしくは複数配合したものが利用されている。一部のビタミン及びミネラルについては、「○○は皮膚や粘膜の健康維持を助ける栄養素です」といった栄養機能表示が可能である(非特許文献3参照)ことから、一般的に認知度が高い。しかし、これらのサプリメントはアトピー性皮膚炎患者を対象に設計されたものではない為、十分な症状緩和作用は期待できない。また、ヒアルロン酸やコラーゲン等を経口摂取した場合、皮膚に届いて効果を発揮するという科学的根拠は見あたらない(非特許文献4及び5参照)。従って、アトピー性皮膚炎に対する改善効果があり、安全性に問題がなく、日常的且つ簡易に使用可能なアトピー性皮膚炎改善用食品が求められている。
【0006】
アトピー性皮膚炎改善作用を有する天然物として、甜菜由来のオリゴ糖であるラフィノース(特許文献1参照)、ブドウ属植物及びイタドリ科植物からなる組成物(特許文献2参照)、おたね人参水抽出物と牡蠣殻を含有する組成物(特許文献3参照)等の内服用途での提案がなされている。しかし、ラフィノースは耐酸性が低い為、経口摂取に於ける十分な効果は期待できず、また、他の組成物は価格及び安定供給の面で問題がある。
【0007】
ビタミン類は、食物の成分のうち炭水化物、脂肪、タンパク質以外の有機化合物を指し、ヒトが健康維持のために必要な生理機能を正常に維持する上で必須の成分である。12種類のビタミンについては、栄養機能に関する科学的根拠が明らかであることから、栄養機能表示が認められている。特に、ビオチン、ナイアシン、パントテン酸、ビタミンA、ビタミンB1、ビタミンB6、ビタミンCは、「皮膚や粘膜の健康維持を助ける栄養素です。」との表示が可能である。特にビオチンは、アトピー性皮膚炎と関連の深いビタミンとして知られている(非特許文献3参照)。
【0008】
多価不飽和脂肪酸類のうち、n−3系のα−リノレン酸、ドコサヘキサエン酸、エイコサペンタエン酸、及び、n−6系のγ−リノレン酸は、アレルギー症状の改善作用が報告されている。特に、γ−リノレン酸はアトピー性皮膚炎患者のステロイド外用剤を減少させる効果が報告されている(非特許文献6参照)。
しかし、これらのビタミン類や多価不飽和脂肪酸類は一般向けの健康食品として利用されているに過ぎず、アトピー性皮膚炎患者向けの食品として利用されている例は見あたらない。したがって、既存の機能性成分以上の効果を期待できるアトピー性皮膚炎改善用食品が望まれていた。
【0009】
ところで、リグノセルロースから酵素処理及びNF膜濃縮により製造される酸性キシロオリゴ糖(特許文献4及び5参照)は、内服及び外用におけるアトピー性皮膚炎改善剤(特許文献6及び7参照)としての提案がなされている。その作用機序としては、従来のオリゴ糖に見られるプレバイオティクス作用に加え、摂取した酸性キシロオリゴ糖の一部が腸管から吸収され、末梢血に入って体内を循環することによる薬理作用が示唆されている(非特許文献7参照)。しかしながら、アトピー性皮膚炎患者を対象に臨床的に使用するためには、さらなる機能の向上が望まれていた。
【0010】
【特許文献1】特開平11−255656号公報
【特許文献2】特開2002−047193号公報
【特許文献3】特開2002−173434号公報
【特許文献4】特許登録第2643368号公報
【特許文献5】特開2000−333692号公報
【特許文献6】特開2004−210664号公報
【特許文献7】特開2004−210666号公報
【非特許文献1】皮膚アレルギーフロンティア、1巻2号、2003
【非特許文献2】新しい診断と治療のABC(16) アトピー性皮膚炎、竹原和彦 編(最新医学社)
【非特許文献3】「トクホ」のことがよくわかる 保健機能食品・サプリメント 基礎と活用〈2007〉、城西大学薬学部医療栄養学科 著
【非特許文献4】健康食品の安全性・有効性情報 ヒアルロン酸、独立行政法人・国立栄養・健康研究所、http://hfnet.nih.go.jp/
【非特許文献5】健康食品の安全性・有効性情報 コラーゲン、独立行政法人・国立栄養・健康研究所、http://hfnet.nih.go.jp/
【非特許文献6】Journal of International Medical Research 第25巻 第5号 p266−74 1997年
【非特許文献7】Journal of Applied Glycoscience Vol.52 Suppl、p37、2005年
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の課題は、優れた生理活性を有し、しかも安全性の高いアトピー性皮膚炎改善用食品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは前記課題を解決する為、鋭意研究した結果、ウロン酸残基が付加した酸性キシロオリゴ糖とビタミン類及び/又は多価不飽和脂肪酸類を併用することにより、優れたアトピー性皮膚炎改善効果を有し、しかも安全性の高いアトピー性皮膚炎改善用食品が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
本発明は以下の構成を採用する。
即ち、本発明の第1は、酸性キシロオリゴ糖と、ビタミン類及び/又は多価不飽和脂肪酸類を含有するアトピー性皮膚炎改善用食品である。
【0014】
本発明の第2は、前記ビタミン類が、ビタミンA、ビタミンB1、ビタミンB2、パントテン酸、ビタミンB6、ビオチン、ナイアシン、葉酸、ビタミンB12、ビタミンC、ビタミンD、ビタミンK、ビタミンP、ビタミンQから選ばれる1又は2以上の物質である、本発明の第1記載のアトピー性皮膚炎改善用食品である。
【0015】
本発明の第3は、前記多価不飽和脂肪酸が、α−リノレン酸、γ−リノレン酸、ドコサヘキサエン酸、エイコサペンタエン酸、ステアリドン酸、イワシ酸から選ばれる1又は2以上の物質である、本発明の第1〜2のいずれかに記載のアトピー性皮膚炎改善用食品である。
【発明の効果】
【0016】
本発明により、優れた生理活性を有し、しかも安全性の高いアトピー性皮膚炎改善用食品が提供される。
【0017】
以下、本発明の構成について詳述するが、本発明はこれにより限定されるものではない。
本発明のアトピー性皮膚炎改善用食品は、酸性キシロオリゴ糖を含有する。
キシロオリゴ糖とは、キシロースの2量体であるキシロビオース、3量体であるキシロトリオース、あるいは4量体〜20量体程度のキシロースの重合体である。本発明で使用する酸性キシロオリゴ糖とは、該キシロオリゴ糖1分子中に、少なくとも1つ以上のウロン酸残基を有するものを言う。
ウロン酸は、天然では、ペクチン、ペクチン酸、アルギン酸、ヒアルロン酸、ヘパリン、コンドロイチン硫酸、デルタマン硫酸等の種々の生理活性を持つ多糖の構成成分として知られている。本発明の酸性キシロオリゴ糖のウロン酸残基としては、特に限定されないが、グルクロン酸もしくは4−O−メチル−グルクロン酸が好ましい。
なお、酸性キシロオリゴ糖は、他のオリゴ糖やキシロオリゴ糖と比較して、長鎖であっても耐酸性、耐熱性及び水溶性が非常に高いという特徴がある。
【0018】
なお、本発明で使用する酸性キシロオリゴ糖は、異なる重合度を有する複数の酸性キシロオリゴ糖の混合組成物も含むものとする。酸性キシロオリゴ糖は、天然物由来であるから実際にはこのような混合組成物として得られることが多い。
以下、酸性キシロオリゴ糖の混合組成物について説明する。
該組成物の平均重合度は、正規分布をとる酸性キシロオリゴ糖のキシロース鎖長の平均値で示され、2.0〜15.0が好ましく、5.0〜15.0がより好ましい。
また、キシロース鎖長の上限と下限との差は30以下が好ましく、20以下がより好ましい。
【0019】
酸性キシロオリゴ糖の製造方法としては、(1)木材からキシランを抽出し、それを酵素的に分解する方法と、(2)リグノセルロース材料を酵素的及び/又は物理化学的に処理してキシロオリゴ糖成分とリグニン成分の複合体を得、次いで該複合体を酸加水分解処理してキシロオリゴ糖混合物を得、得られるキシロオリゴ糖混合物から、1分子中に少なくとも1つ以上のウロン酸残基を側鎖として有するキシロオリゴ糖を分離する方法が挙げられる。本発明で使用する酸性キシロオリゴ糖の製造方法については、特に限定するものではないが、(2)の製造方法が、5〜15量体のように比較的高い重合度のものを大量に安価に製造することが可能である点で特に好ましい。以下にその概要を示す。
【0020】
酸性キシロオリゴ糖は、化学パルプ由来のリグノセルロース材料を原料とし、加水分解工程、濃縮工程、希酸処理工程、精製工程を経て得ることができる。加水分解工程では、希酸処理、高温高圧の水蒸気(蒸煮・爆砕)処理もしくは、ヘミセルラーゼによってリグノセルロース中のキシランを選択的に加水分解し、キシロオリゴ糖とリグニンからなる高分子量の複合体を中間体として得る。濃縮工程では逆浸透膜等により、キシロオリゴ糖−リグニン様物質複合体が濃縮され、低重合度のオリゴ糖や低分子の夾雑物などを除去することができる。濃縮工程は逆浸透膜を用いることが好ましいが、限外濾過膜、塩析、透析などでも可能である。得られた濃縮液の希酸処理工程により、複合体からリグニン様物質が遊離し、酸性キシロオリゴ糖と中性キシロオリゴ糖を含む希酸処理液を得ることができる。この時、複合体から切り離されたリグニン様物質は酸性下で縮合し沈殿するのでセラミックフィルターや濾紙などを用いたろ過等により除去することができる。希酸処理工程では、酸による加水分解を用いることが好ましいが、リグニン分解酵素などを用いた酵素分解などでも可能である。
【0021】
精製工程は、限外濾過工程、脱色工程、吸着工程からなる。一部のリグニン様物質は可溶性高分子として溶液中に残存するが、限外濾過工程で除去され、着色物質等の夾雑物は活性炭を用いた脱色工程によってそのほとんどが取り除かれる。限外濾過工程は限外濾過膜を用いることが好ましいが、逆浸透膜、塩析、透析などでも可能である。こうして得られた糖液中には酸性キシロオリゴ糖と中性キシロオリゴ糖が溶解している。イオン交換樹脂を用いた吸着工程により、この糖液から酸性キシロオリゴ糖のみを取り出すことができる。糖液をまず強陽イオン交換樹脂にて処理し、糖液中の金属イオンを除去する。ついで強陰イオン交換樹脂を用いて糖液中の硫酸イオンなどを除去する。この工程では、硫酸イオンの除去と同時に弱酸である有機酸の一部と着色成分の除去も同時に行っている。強陰イオン交換樹脂で処理された糖液はもう一度強陽イオン交換樹脂で処理し更に金属イオンを除去する。最後に弱陰イオン交換樹脂で処理し、酸性キシロオリゴ糖を樹脂に吸着させる。
【0022】
樹脂に吸着した酸性オリゴ糖を、低濃度の塩(NaCl、CaCl、KCl、MgClなど)によって溶出させることにより、夾雑物を含まない酸性キシロオリゴ糖溶液を得ることができる。この溶液から、スプレードライや凍結乾燥処理等により、白色の酸性キシロオリゴ糖組成物の粉末を得ることができる。
【0023】
化学パルプ由来のリグノセルロースを原料とし、キシロオリゴ糖とリグニンからなる高分子量の複合体を中間体とした酸性キシロオリゴ糖組成物の上記製造法のメリットは、経済性とキシロースの平均重合度の高い酸性キシロオリゴ糖組成物が容易に得られる点にある。平均重合度は、例えば、希酸処理条件を調節するか、再度ヘミセルラーゼで処理することによって変えることが可能である。また、弱陰イオン交換樹脂溶出時に用いる溶出液の塩濃度を変化させることによって、1分子あたりに結合するウロン酸残基の数が異なる酸性キシロオリゴ糖組成物を得ることもできる。さらに、適当なキシラナーゼ、ヘミセルラーゼを作用させることによってウロン酸結合部位が末端に限定された酸性キシロオリゴ糖組成物を得ることも可能である。
【0024】
本発明において使用するビタミン類は、本発明において使用するビタミン類は、ビタミンA、ビタミンB1、ビタミンB2、、パントテン酸、ビタミンB6、ビオチン、ナイアシン、葉酸、ビタミンB12、ビタミンC、ビタミンD、ビタミンK、ビタミンP、ビタミンQから選ばれる1又は2以上の物質が好適である。その中でも、ビタミンB1、パントテン酸、ビタミンB6、ビオチンから選ばれる1又は2以上の物質がより好ましい。これらを前述の酸性キシロオリゴ糖と併用することで、アトピー性皮膚炎の改善に優れた効果を発揮する。
前記ビタミン類の形態は、一般的に市販されている粉末や液状等、当該食品に添加できるものであれば特に限定されない。例えば、DSMニュートリションジャパン、田辺製薬などにより、含有量1〜100%の各種ビタミン類が市販されており、任意に選択して使用可能である。また、精製されたものではなく、ビタミン類を豊富に含有する果汁等の原料をビタミン源としてそのまま使用してもよい。
【0025】
本発明において使用する多価不飽和脂肪酸類は、α−リノレン酸、γ−リノレン酸、ドコサヘキサエン酸、エイコサペンタエン酸、ステアリドン酸、イワシ酸から選ばれる1又は2以上の物質が好適である。その中でも、α−リノレン酸、γ−リノレン酸がより好ましい。これらを前述の酸性キシロオリゴ糖と併用することで、アトピー性皮膚炎の改善に優れた効果を発揮する。
前記多価不飽和脂肪酸類の形態は、当該食品に添加できる形状であれば、一般的に市販されている液状、固形状、粉末状等のいずれであってもよく、特に限定されない。
また、これらは遊離の脂肪酸として、あるいは脂肪酸エステルとして添加することができる。脂肪酸エステルとしては、グリセリンエステルの他、グリセロリン脂質やスフィンゴリン脂質のような形態でもよい。
また、精製されたものではなく、魚油やハーブオイルなど、上記多価不飽和脂肪酸を比較的多く含む油脂を原料としてそのまま使用してもよい。
【0026】
前述の酸性キシロオリゴ糖と、上記ビタミン類及び/又は上記多価不飽和脂肪酸類を任意の組み合わせで含有する組成物が、本発明のアトピー性皮膚炎改善用食品である。
前記食品中の酸性キシロオリゴ糖の含有量は、含有させる食品の形態にもよるが、0.01%以上が好ましく、1%以上がさらに好ましく、10%以上が最も好ましい。
前記食品中の上記ビタミン類の含有量は、ビタミンの種類や形態にもよるが、各種ビタミンを各々1.0×10−7%以上含むことが好ましく、1.0×10−6%以上がさらに好ましい。
本発明で使用される上記ビタミン類の種類とその組み合わせ、各々の含有量については、その目的とする食品の用途もしくは形態によって適宜選択可能である。
前記食品中の多価不飽和脂肪酸類の含有量は、多価不飽和脂肪酸類の種類や形態にもよるが、1.0×10−3%以上が好ましく、1.0×10−2%以上がさらに好ましい。
本発明で使用される上記多価不飽和脂肪酸類の種類とその組み合わせ、各々の含有量については、その目的とする食品の用途もしくは形態によって適宜選択可能である。
【0027】
本発明のアトピー性皮膚炎改善用食品は、粉末状、顆粒状、液状等のいずれの形態でもよく、また、打錠により錠剤化してもよい。また水溶性カプセル等に封入されたカプセル状としても良い。
更には、飲料を含む一般食品の形態とすることもできる。例えば、麺類、パン、キャンディー、ゼリー、クッキー、スープ、健康飲料等の形態とすることができる。
このような食品、飲料には酸性キシロオリゴ糖、ビタミン類及び/又は多価不飽和脂肪酸類の他に、必要に応じて他の成分、例えば、鉄、カルシウム等の無機成分、セルロース、難消化性デキストリン、キトサン等の食物繊維、大豆抽出物等のタンパク質、レシチンなどの脂質、ショ糖、乳糖等の糖類などを、本発明の効果を損なわない範囲で加えることができる。また、食品添加物を用いて味や風味を改善してもよい。
【0028】
以下、本発明を実施例により詳細に説明する。
【0029】
以下、本発明でのアトピー性皮膚炎改善用食品の有効成分である酸性キシロオリゴ糖の調製方法について示す。
<酸性キシロオリゴ糖の調製>
混合広葉樹チップ(国内産広葉樹70%、ユーカリ30%)を原料として、クラフト蒸解及び酸素脱リグニン工程により、酸素脱リグニンパルプスラリー(カッパー価9.6、パルプ粘度25.1cps)を得た。スラリーからパルプを濾別、洗浄した後、パルプ濃度10%、pH8に調製したパルプスラリーを用いて以下のキシラナーゼによる酵素処理を行った。
バチルスsp.S−2113株(独立行政法人産業技術総合研究所特許微生物寄託センター、寄託菌株FERM BP−5264)の生産するキシラナーゼを1単位/パルプgとなるように添加した後、60℃で120分間処理した。その後、濾過によりパルプ残渣を除去し、酵素処理液1050Lを得た。
次に、得られた酵素処理液を濃縮工程、希酸処理工程、精製工程の順に供した。濃縮工程では、逆浸透膜(日東電工(株)製、RO NTR−7410)を用いて濃縮液(40倍濃縮)を調製した。希酸処理工程では、得られた濃縮液のpHを3.5に調製した後、121℃で60分間加熱処理し、リグニン等の高分子夾雑物の沈殿を形成させた。さらに、この沈殿をセラミックフィルター濾過で取り除くことにより、希酸処理溶液を得た。
精製工程では、限外濾過・脱色工程、吸着工程の順に供した。限外濾過・脱色工程では、希酸処理溶液を限外濾過膜(オスモニクス社製、分画分子量8000)に通過させた後、活性炭(和光純薬(株)製)770gの添加及びセラミックフィルター濾過により脱色処理液を得た。吸着工程では、脱色処理液を強陽イオン交換樹脂(三菱化学(株)製PK218)、強陰イオン交換樹脂(三菱化学(株)製PA408)、強陽イオン交換樹脂(三菱化学(株)製PK218)各100kgを充填したカラムに順次通過させた後、弱陰イオン交換樹脂(三菱化学(株)製WA30)100kgを充填したカラムに供した。この弱陰イオン交換樹脂充填カラムから75mM NaCl溶液によって溶出した溶液をスプレードライ処理することによって、酸性キシロオリゴ糖の粉末(全糖量353g、回収率13.1%)を得た。
【0030】
上記で得た酸性キシロオリゴ糖は、UX10は平均重合度10.3、キシロース鎖長の上限と下限との差は20、酸性キシロオリゴ糖1分子あたりウロン酸残基を1.2個含むものであった。なお、測定方法は以下の通りである。
【0031】
(1) 全糖量の定量:
全糖量は検量線をD−キシロース(和光純薬工業(株)製)を用いて作製し、フェノール硫酸法(還元糖の定量法、学会出版センター発行)にて定量した。
【0032】
(2) 還元糖量の定量:
還元糖量は検量線をD−キシロース(和光純薬工業(株)製)を用いて作製、ソモジ−ネルソン法(還元糖の定量法、学会出版センター発行)にて定量した。
【0033】
(3) ウロン酸量の定量:
ウロン酸は検量線をD−グルクロン酸(和光純薬工業(株)製)を用いて作製、カルバゾール硫酸法(還元糖の定量法、学会出版センター発行)にて定量した。
【0034】
(4) 平均重合度の決定法:
サンプル糖液を50℃に保ち15000rpmにて15分遠心分離し不溶物を除去し上清液の全糖量を還元糖量(共にキシロース換算)で割って平均重合度を求めた。
【0035】
(5) 酸性キシロオリゴ糖の分析方法:
オリゴ糖鎖の分布はイオンクロマトグラフ(ダイオネクス社製、分析用カラム:Carbo Pac PA−10)を用いて分析した。分離溶媒には100mM NaOH溶液を用い、溶出溶媒には前述の分離溶媒に酢酸ナトリウムを500mMとなるように添加し、溶液比で、分離溶媒:溶出溶媒=10:0〜4:6となるような直線勾配を組み分離した。得られたクロマトグラムより、キシロース鎖長の上限と下限との差を求めた。
【0036】
(6) オリゴ糖1分子あたりのウロン酸残基数の決定法
サンプル糖液を50℃に保ち15000rpmにて15分遠心分離し不溶物を除去し上清液のウロン酸量(D−グルクロン酸換算)を還元糖量(キシロース換算)で割ってオリゴ糖1分子あたりのウロン酸残基数を求めた。
【0037】
(7) 酵素力価の定義:
酵素として用いたキシラナーゼの活性測定にはカバキシラン(シグマ社製)を用いた。酵素力価の定義はキシラナーゼがキシランを分解することで得られる還元糖の還元力をDNS法(還元糖の定量法、学会出版センター発行)を用いて測定し、1分間に1マイクロモルのキシロースに相当する還元力を生成させる酵素量を1ユニットとした。
【0038】
前述で得られた酸性キシロオリゴ糖を使用した動物実験により、本発明のアトピー性皮膚炎改善用食品の評価を行なった。その方法を以下に示す。
【0039】
<動物実験>
1)日本チャールズリバー社より購入したNC/Ngaマウス(雄、5週齢、SPFグレード)を、表1に示すAIN−93粉末標準飼料(含有ミネラルの組成は表2、ビタミンの組成は表3に記載:オリエンタル酵母製)を与え、飲水として水道水を自由摂取させて予備飼育を行なった。
2)1週間の予備飼育後、マウスの腹部を毛刈りし、5%濃度となるようにアセトン/エタノール溶液(1:4)に溶解した2,4,6−トリニトロクロロベンゼン(以下PiCl)を塗布した(試験開始第1日目とする)。
試験開始1日目から第1週間後から試験終了日まで1週間ごとに、マウスの背部を毛刈りし、0.8%濃度となるようにオリーブ油に溶解したPiClを塗布し、アトピー性皮膚炎症状を誘発させた。
試験開始第6週目に、マウス背皮の皮膚炎のスコアを文献(日薬理誌vol.124,271,2004)に記載されている方法で5項目((1)掻痒症、(2)発赤・出血の症状、(3)耳介の浮腫、(4)擦傷・組織欠損の症状、(5)痂皮形成・乾燥の症状)について4段階で測定し、合計のスコアを算出した。又、マウスの尾静脈より採血し血清中のIgE濃度を測定した。なお、この間の飼料と飲水については予備飼育時と同様とする。
上記の皮膚炎スコアとIgE濃度について、各試験区間で値が均一になるようにマウスを6群(n=7)に群分けした。
3)上記群分けした、各群マウスに、表4に示す実施例1〜2、および比較例1〜4の組成の飼料(含有ビタミン類組成は表5に記載,なお比較例1の飼料は前記標準飼料と同一組成)の飼料を与えてアトピー性皮膚炎改善用食品の評価のための飼育を開始した。なお、実施例1の組成の飼料を与えた群を実施例1群とも称し、他も同様とする。
飼育開始後、各群のマウスについて、1週間毎に皮膚炎スコアを測定した。また、2週間毎に各群のマウスの血清IgE濃度を測定した。このようにして各群マウスを6週間飼育し、試験を終了した。
測定した各群(実施例1〜2、比較例1〜4)の皮膚炎スコアを図1〜2に、血清中のIgE濃度を図3〜4に示す。
尚、群間の有意差検定は、Kruskal Wallisの多重比較検定法を用いた。
【0040】
<実験結果の評価>
1)酸性キシロオリゴ糖とビタミン類の併用効果について
実施例1群(酸性キシロオリゴ糖含有、ビタミン高含量飼料)は、比較例1群(標準飼料)、及び、比較例3群(酸性キシロオリゴ糖無し、ビタミン高含量飼料)と比較すると、皮膚炎スコアが有意に低下した。
また、実施例1群は、比較例2群(酸性キシロオリゴ糖含有、ビタミン標準含量飼料)と比較すると、有意差は認められなかったものの、実施例1群の方が低値を推移する傾向が見られた(図1)。
また、実施例1群は、比較例1群と比較すると、血清IgEが有意に低下した。また、比較例2群および比較例3群と比較しても低下傾向を示した(図2)。
【0041】
2)酸性キシロオリゴ糖と多価不飽和脂肪酸類の併用効果について
実施例2群(酸性キシロオリゴ糖含有、多価不飽和脂肪酸類高含量飼料)は、比較例1群(標準飼料)、比較例4群(酸性キシロオリゴ等無し、多価不飽和脂肪酸類高含量飼料)と比較して皮膚炎スコアが有意に低下した。
また、実施例2群は、比較例2群(酸性キシロオリゴ糖含有、ビタミン標準含量飼料)と比較して、有意差は認められなかったものの、実施例2群の方が低値を推移する傾向が見られた(図3)。
また、実施例2群は、比較例1群と比較して血清IgEが有意に低下した。また、比較例2および比較例4群と比較しても低下傾向を示した(図4)。
【0042】
なお、これらの実験結果より、酸性キシロオリゴ糖を含有し、さらにビタミン高含量かつ多価不飽和脂肪酸高含量である飼料によって、酸性キシロオリゴ糖のアトピー性皮膚炎改善効果を増強できることが容易に推測可能である。
以上により、酸性キシロオリゴ糖を、特定のビタミン類及び/又は特定の多価不飽和脂肪酸類を併用することで、酸性キシロオリゴ糖のアトピー性皮膚炎改善効果を得られることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明により、優れた生理活性を有し、しかも安全性の高いアトピー性皮膚炎改善用食品が提供される。
【0044】
【表1】

【0045】
【表2】

【0046】
【表3】

【0047】
【表4】

【0048】
【表5】

【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】皮膚炎スコアの推移を表すグラフである。
【図2】IgE濃度の推移を表すグラフである。
【図3】皮膚炎スコアの推移を表すグラフである。
【図4】IgE濃度の推移を表すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸性キシロオリゴ糖と、ビタミン類及び/又は多価不飽和脂肪酸類を含有することを特徴とするアトピー性皮膚炎改善用食品。
【請求項2】
前記ビタミン類が、ビタミンA、ビタミンB1、ビタミンB2、パントテン酸、ビタミンB6、ビオチン、ナイアシン、葉酸、ビタミンB12、ビタミンC、ビタミンD、ビタミンK、ビタミンP、ビタミンQから選ばれる1又は2以上の物質であることを特徴とする請求項1記載のアトピー性皮膚炎改善用食品
【請求項3】
前記多価不飽和脂肪酸が、α−リノレン酸、γ−リノレン酸、ドコサヘキサエン酸、エイコサペンタエン酸、ステアリドン酸、イワシ酸から選ばれる1又は2以上の物質であることを特徴とする請求項1〜2のいずれかに記載のアトピー性皮膚炎改善用食品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−301780(P2008−301780A)
【公開日】平成20年12月18日(2008.12.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−153230(P2007−153230)
【出願日】平成19年6月8日(2007.6.8)
【出願人】(000122298)王子製紙株式会社 (2,055)
【Fターム(参考)】