説明

アミノペプチダーゼPのチオ含有インヒビター、その組成物および使用法

本発明は、天然の基質がブラジキニンであるアミノペプチダーゼP(mAPPまたはAPP)を阻害するチオ含有化合物を対象とする。本化合物は、ブラジキニンに、心臓血管系に対する有益な効果を発揮させ、腎機能を改善させ、また、耐糖能およびインスリン感受性を向上させるようにする。また、本発明は、本発明に係るmAPPインヒビターおよび医薬上許容される担体を含む薬学的組成物も対象とする。別の態様において、本発明は、治療上有効な量の本発明に係るチオ含有化合物を患者に投与することを含む、治療を必要とする哺乳動物患者、好ましくはヒトにおいて、ブラジキニンの分解を阻害する方法を対象とする。また、本発明に係る方法は、治療を必要とする哺乳動物患者に治療上有効な量のアンジオテンシン変換酵素(ACE)を投与するさらなる工程も想定している。

【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
(発明の背景)
本発明は、天然の基質がブラジキニンである酵素の膜アミノペプチダーゼP(mAPPまたはAPP)を阻害する能力をもつチオ含有化合物を対象とする。本化合物は、医薬品として有用である。なぜなら、ブラジキニンの分解を阻害することによって、本化合物は、ブラジキニンが、心臓血管系に対して有益な効果(血圧低下、冠状動脈の拡張、心筋虚血/灌流傷害中の心臓に対する保護効果、および新生血管形成の促進など)を発揮し、腎機能を改善させ、また、耐糖能およびインスリン感受性を向上させることができるようにする。また、本発明は、本発明に係るmAPPインヒビターを含む薬学的組成物、および哺乳動物患者、特にヒト患者において、ブラジキニンの分解を阻害する方法も対象とする。
【0002】
循環器系疾患は、米国における全死因の38%を占める。もっとも一般的な循環器系疾患は高血圧であり、現在、5000万人の人々を苦しめている。自らの症状を自覚して治療を受けている高血圧の人の割合は改善してきたが、治療を受けている人々の半数(全高血圧患者の僅か31%)しか、実際には自分の血圧を調節していない。高血圧を治療する難しさは、血圧を調節するために、高血圧患者の3分の2以上が2種類以上の薬を必要とするという事実によっても証明されている。そのため、新しい種類の薬を開発すれば、高血圧とその続発症の負担を軽減できる別の治療上の選択肢を提供できる。
【0003】
さらに、米国では、100万人以上の人々が毎年心臓発作を起し、その結果、50万人を超える死者が出ている。急性の心筋梗塞を予防および治療することができる新たな薬剤が必要とされている。
【0004】
循環器系疾患を治療するための一つの選択肢は、ホルモンであるブラジキニンの体内濃度を高めることである。ブラジキニンは、血圧を低下させ、心臓を虚血性障害から保護することが知られている。しかし、このホルモンは、アミノペプチダーゼPおよびアンジオテンシン変換酵素(ACE)により速やかに分解されるため、限られた薬効しか持たない。ACEインヒビター薬は、ブラジキニンの分解を阻害することによって、その薬効を高めることができる。ACEインヒビターの血圧低下作用の一部および急性心臓保護作用の殆どは、このメカニズムによるものである。アンジオテンシンII受容体拮抗薬も、AT受容体の活性化を高めて、内皮細胞からのブラジキニン放出を促進するため、部分的にブラジキニンを介して作用する。
【0005】
ブラジキニン量を増加させる、すなわち、アミノペプチダーゼPを阻害するための新規の別法が考案された(特許文献1;発明者:William H.Simmons、Ph.D.;譲受人:Loyola University Chicago)。アミノペプチダーゼPインヒビターのプロトタイプであるアプスタチン(apstatin)(式I)は、単離された灌流ラット心臓および肺においてブラジキニンの分解を抑制することが示された。
【0006】
【化7】

アプスタチンは、静脈内投与されたブラジキニンの血圧低下作用を促進した。重症高血圧のラットモデルにおいて、アプスタチンは、ACEインヒビターと協働的に作用して血圧を正常になるまで低下させた。[非特許文献1]。アプスタチンによるmAPP阻害は、心臓保護作用も示した。すなわち、単離した灌流心臓を用いた心臓発作モデルにおいて、アプスタチンは、心臓障害を74%低下させた。[非特許文献2]。これは、再灌流によって誘導された心室細動を同様量低下させた。別の研究室における後続の研究は、アプスタチンを投与してmAPPを阻害すると、局所的心虚血に供された無処理ラットの心筋梗塞サイズが実質的に減少することを明らかにした。[非特許文献3;非特許文献4]
アプスタチンは、優れた薬理学的特性をもち、適度な効力を示し(マイクロモル)、また、良好な特異的および代謝的安定性をもつが、経口薬としての有用性を制限する化学的性質を有する。アプスタチンおよび関連化合物は、注射薬としての可能性をもつが、経口投与した後に効力をもつには、おそらく、その効力および予想される腸吸収率が低すぎる。したがって、本発明の目的は、アプスタチンよりも強い効力をもつ(すなわち、IC50がより低い)mAPPインヒビターを発見して、それらを注射薬として低用量で投与できるようにすること、および/または、それらの効力および化学構造のため、経口で許容される形態にして投与することができるようにすることである。
【特許文献1】米国特許第5,656,603号明細書
【非特許文献1】Kitamuraら、「Effects of aminopeptidase P inhibition on kinin−mediated vasodepressor responses」、Am.J.Physiol.(1999)276,H1664−H1671
【非特許文献2】Ersahinら、「Cardioprotective effects of the aminopeptidase P inhibitor apstatin:studies on ischemia/reperfusion injury in the isolated rat heart」、J.Cardiovasc.Pharmacol.(1999)34,604−611
【非特許文献3】Wolfrumら、「Apstatin,a selective inhibitor of aminopeptidase P, reduces myocardial infarct size by a kinin−dependent pathway」、Br.J.Pharmacol.(2001)134,370−374
【非特許文献4】Veeravalliら、「Infarct size limiting effect of apstatin alone and in combination with enalapril, lisinopril and ramiprilat in rats with experimental myocardial infarction」、Pharmacol.Res.(2003)48,557−563
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0007】
(発明の要旨)
本出願人は、非常に促進されたmAPP阻害を示す新規化合物を発見した。したがって、第1の態様において、本発明は、以下の式III:
【0008】
【化8】

式中、
は、S体またはR体の立体配置をもち、
は、水素、メチル、または
【0009】
【化9】

であり、
Aは、水素、1個から8個の炭素原子をもつ直鎖状もしくは分岐鎖状の低級アルキル、2個から8個の炭素原子をもつ直鎖状もしくは分岐鎖状の低級アルケニルもしくは低級アルキニル、4個から8個の炭素原子をもつ環状アルキルもしくは環状アルケニル、フェニル、またはベンジルであり、
Xは、(L)−プロリル、3,4−デヒドロ−(L)−プロリル、(2S,3R)−3−メチルピロリジン−2−カルボニル、(2S,5R)−5−メチルピロリジン−2−カルボニル、(S)−ピペリジン−2−カルボニル、または(R)−チアゾリジン−4−カルボニルであり、
Yはアミノ酸またはジペプチドであり、このジペプチドにおいて、1番目の(N末端側)アミノ酸が、(L)−プロリル、3,4−デヒドロ−(L)−プロリル、(2S,3R)−3−メチルピロリジン−2−カルボニル、(2S,3S)−3−メチルピロリジン−2−カルボニル、(2S,4R)−4−メチルピロリジン−2−カルボニル、(2S,4S)−4−メチルピロリジン−2−カルボニル、(2S,5R)−5−メチルピロリジン−2−カルボニル、(2S,4R)−4−ヒドロキシピロリジン−2−カルボニル、(2S,4S)−4−ヒドロキシピロリジン−2−カルボニル、(S)−ピペリジン−2−カルボニル、または(R)−チアゾリジン−4−カルボニルであり、かつ、2番目(C末端)のアミノ酸が、(L)−アラニル、(L)−プロリル、サルコシル、疎水性側鎖をもつ(SまたはR)N−メチルアミノ酸、β−アラニン、もしくは疎水性側鎖をもつ他のβ−アミノ酸、または疎水性側鎖をもつD−アミノ酸であり、なおかつ、Yは、さらに、そのカルボキシル末端にカルボキシル部分、カルボキシアミド部分、または−COOR部分をもち、
は、1個から6個の炭素原子をもつアルキルもしくは置換アルキル、2個から6個の炭素原子をもつアルケニルもしくは置換アルケニル、または4個から12個の炭素原子をもつシクロアルキル−(CH−、アリール−(CH−、置換アリール−(CH−、もしくはヘテロアリール−(CH−であり、かつ、
aは、0または1から6までの整数である;
の化合物を対象とする。典型的には、aは1または2である。より典型的には、aは1である。
【0010】
好ましくは、本発明は、以下の式III:
【0011】
【化10】

式中、
は、S体またはR体の立体配置であり、
は、水素、またはRCO−であり、
Aは、水素、1個から6個の炭素原子をもつ直鎖状もしくは分岐鎖状のアルキル、または4個から8個の炭素原子をもつ環状アルキルもしくは環状アルケニルであり、
Xは、(L)プロリルであり、
Yはジペプチドであって、1番目の(N末端側)アミノ酸が、(L)−プロリル、かつ、2番目(C末端)のアミノ酸が、(L)−アラニルまたはβ−アラニル、またはその1個から6個の炭素原子をもつアルキルエステルもしくはアリールエステル、または(L)−アラニルアミドまたはβ−アラニルアミドであり、
は、1個から6個の炭素原子をもつアルキルもしくは置換アルキル、または4個から12個の炭素原子をもつシクロアルキル−(CH−、アリール−(CH−、置換アリール−(CH−、もしくはヘテロアリール−(CH−であり、かつ、
aは、0または1から2までの整数である;
の化合物を対象とする。
【0012】
より好ましくは、本発明は、以下の式III:
【0013】
【化11】

式中、
は、S体またはR体の立体配置であり、
は、水素、またはRCO−であり、
Aは、1個から6個の炭素原子をもつ直鎖状または分岐鎖状のアルキルであり、
Xは、(L)プロリルであり、
Yはジペプチドであって、1番目(すなわちN末端側)のアミノ酸が、(L)−プロリル、かつ、2番目(すなわちC末端側)のアミノ酸が、(L)−アラニルまたはβ−アラニル、または(L)−アラニルアミドまたはβ−アラニルアミドであり、
は、1個から6個の炭素原子をもつアルキルもしくは置換アルキルである;
の化合物を対象とする。
【0014】
最も好ましくは、本発明は、以下の式VIII:
【0015】
【化12】

の化合物を対象とする。
【0016】
その第2の態様において、本発明は、本明細書に規定されているような、治療上有効な量の本発明の活性型APPインヒビター(化合物)と医薬上許容される担体とを組み合わせたものを含む薬学的組成物を対象とする。
【0017】
その第3の態様において、治療を必要とする哺乳動物患者、好ましくはヒト患者において、ブラジキニンの分解を阻害する方法であって、第1の薬学的に有効な担体中の治療上有効な量の本発明の活性型APPインヒビター(化合物)を患者に投与することを含む方法を対象とする。
【0018】
別の態様において、本発明は、治療を必要とする哺乳動物患者、好ましくはヒト患者における高血圧を治療する方法であって、第1の薬学的に有効な担体中の治療上有効な量の本発明の化合物を投与することを含む方法を対象とする。
【0019】
さらに別の態様において、本発明は、治療を必要とする哺乳動物患者、好ましくはヒト患者において冠状動脈を拡張する方法であって、第1の薬学的に許容される担体中の治療上有効な量の本発明の化合物を投与することを含む方法を対象とする。
【0020】
さらに別の態様において、本発明は、治療を必要とする哺乳動物患者、好ましくはヒト患者における腎機能を増強する方法であって、第1の薬学的に許容される担体中の治療上有効な量の本発明の化合物を投与することを含む方法を対象とる。
【0021】
上記各方法の第2の実施態様において、本方法は、第2の薬学的に許容される担体中の、治療上有効な量のアンジオテンシン変換酵素インヒビターを該患者に投与する工程を含む。本発明の化合物(APPインヒビター)に対する第1の薬学的に許容される担体と、ACEのインヒビターに対する第2の薬学的に許容される担体は同一であっても、異なっていてもよい。
【0022】
ACEのインヒビターは、典型的には、カプトプリル、エナラプリル、エナラプリラト、リシノプリル、キナプリル、ベナゼプリル、フォシノプリル、ラミプリル、およびラミプリラトからなるACEインヒビターの群から選択される1つ以上のメンバーである。好ましくは、ACEインヒビターは、ラミプリル、およびラミプリラトからなるACEインヒビターの群から選択される1つ以上のメンバーである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
(発明の詳細な説明)
本発明は多数の実施態様を有する。その第1の実施態様において、本発明は、以下の式III:
【0024】
【化13】

式中、
は、S体またはR体の立体配置をもち、
は、水素、メチル、または
【0025】
【化14】

であり、
Aは、水素、1個から8個の炭素原子をもつ直鎖状もしくは分岐鎖状の低級アルキル、2個から8個の炭素原子をもつ直鎖状もしくは分岐鎖状の低級アルケニルもしくは低級アルキニル、3個から8個の炭素原子をもつ環状アルキルもしくは環状アルケニル、フェニル、またはベンジルであり、
Xは、(L)−プロリル、3,4−デヒドロ−(L)−プロリル、(2S,3R)−3−メチルピロリジン−2−カルボニル、(2S,5R)−5−メチルピロリジン−2−カルボニル、(S)−ピペリジン−2−カルボニル、または(R)−チアゾリジン−4−カルボニルであり、
Yはアミノ酸またはジペプチドであり、このジペプチドにおいて、1番目のN末端側アミノ酸が、(L)−プロリル、3,4−デヒドロ−(L)−プロリル、(2S,3R)−3−メチルピロリジン−2−カルボニル、(2S,3S)−3−メチルピロリジン−2−カルボニル、(2S,4R)−4−メチルピロリジン−2−カルボニル、(2S,4S)−4−メチルピロリジン−2−カルボニル、(2S,5R)−5−メチルピロリジン−2−カルボニル、(2S,4R)−4−ヒドロキシピロリジン−2−カルボニル、(2S,4S)−4−ヒドロキシピロリジン−2−カルボニル、(S)−ピペリジン−2−カルボニル、または(R)−チアゾリジン−4−カルボニルであり、かつ、2番目のアミノ酸が、(L)−アラニル、(L)−プロリル、サルコシル、疎水性側鎖をもつ(SまたはR)N−メチルアミノ酸、β−アラニン、もしくは疎水性側鎖をもつ他のβ−アミノ酸、または疎水性側鎖をもつD−アミノ酸であり、なおかつ、Yは、さらに、そのカルボキシル末端にカルボキシル部分、カルボキシアミド部分、または−COOR部分をもち、
は、1個から6個の炭素原子をもつアルキルもしくは置換アルキル、2個から6個の炭素原子をもつアルケニルもしくは置換アルケニル、シクロアルキル−(CH−、アリール−(CH−、置換アリール−(CH−、またはヘテロアリール−(CH−であり、かつ、
aは、0または1から6までの整数である;
の化合物を対象とする。典型的には、aは1または2である。より典型的には、aは1である。
【0026】
本明細書において、用語「アルキル」または「低級アルキル」は、約1個から約8個の炭素原子、およびより好ましくは、約1個から約6個の炭素原子をもつ、直鎖状または分岐鎖状の炭化水素ラジカルを意味する。そのようなアルキルラジカルの例は、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、イソブチル、sec−ブチル、t−ブチル、ペンチル、ネオペンチル、ヘキシル、イソへキシルなどである。
【0027】
本明細書において、用語「アルケニル」または「低級アルケニル」は、少なくとも1つの二重結合、および2個から約6個の炭素原子を含む不飽和非環式炭化水素ラジカルを意味する。ただし、その炭素−炭素二重結合は、その二重結合炭素上で置換されている基に対して、アルケニル部分内でシスまたはトランス形態のいずれを有していてもよい。そのようなラジカル(基)の例は、エテニル、プロペニル、ブテニル、イソブテニル、ペンテニル、イソペンテニル、ヘキセニルなどである。
【0028】
本明細書において、用語「アルキニル」または「低級アルキニル」は、1つ以上の三重結合、および2個から約6個の炭素原子を含む非環式炭化水素ラジカルを意味する。そのようなラジカル(基)の例は、エチニル、プロピニル、ブチニル、ペンチニル、ヘキシニルなどである。
【0029】
本明細書において、用語「シクロアルキル」は、3個から約8個の炭素原子、およびより好ましくは、4個から約6個の炭素原子を含む、飽和または部分不飽和の環状炭素ラジカルを意味する。そのようなシクロアルキルラジカル(基)の例には、シクロプロピル、シクロプロペニル、シクロブチル、1−シクロブタン−1−イル、シクロペンチル、シクロヘキシル、2−シクロヘキサン−1−イルなどが含まれる。
【0030】
本明細書において、用語「アリール」は、1個以上の芳香環からなる芳香環系を意味する。好適なアリール基は、1個、2個、または3個の芳香環からなるものである。より好ましくは、アリール基は単環を有する。用語「アリール」は、フェニル、ピリジル、チオフェン、フラン、ビフェニルなどの芳香環ラジカルを包含する。
【0031】
本明細書において、用語「疎水性側鎖」は、1〜10個の炭素原子の脂肪族または芳香族の側鎖を意味する。脂肪族側鎖は、直鎖状、分岐鎖状、または環状であり、かつ、アルキル、アルケニル、またはアルキニルである。好ましくは、疎水性側鎖は非置換であり、かつ、ヒドロキシ基またはアミノ基をもたない。用語「芳香族側鎖」は、純粋な芳香族化合物、およびアルキル置換芳香族化合物を含む。
【0032】
本明細書において、用語「置換アルキル」は、1個から8個の炭素原子、好ましくは1個から6個の炭素原子をもち、ヒドロキシ、アミノ、フルオロ、クロロ、ブロモ、ヨード、−COOH、および−COOZ(ただし、Zは薬学的に許容されるカチオン)からなる群から選択された1つ以上のメンバーで置換されている直鎖状または分岐鎖状の低級アルキルを意味する。
【0033】
用語「置換アリール」は、ヒドロキシ、アミノ、フルオロ、クロロ、ブロモ、ヨード、−COOH、および−COOZ(ただし、Zは、本明細書において既述されたような薬学的に許容されるカチオン)からなる群から選択された1つ以上のメンバーで置換されている上記「アリール」を意味する。
【0034】
用語「ヘテロアリール」は、1〜2個のヘテロ原子、すなわち、N、O、またはSなど、1〜2個の炭素以外の原子をもつアリールを意味する。2個のヘテロ原子が存在するとき、それらは同一であっても異なっていてもよい。
【0035】
本明細書において、用語「ヒドロキシ」および「ヒドロキシル」は同義語であり、式:−OHをもつラジカルを表している。
【0036】
好ましくは、本発明は、以下の式III:
【0037】
【化15】

式中、
は、S体またはR体の立体配置であり、
は、水素、またはRCO−であり、
Aは、水素、1個から6個の炭素原子をもつ直鎖状もしくは分岐鎖状のアルキル、または4個から8個の炭素原子をもつ環状アルキルもしくは環状アルケニルであり、
Xは、(L)プロリルであり、
Yはジペプチドであって、1番目の(N末端側)アミノ酸が、(L)−プロリル、かつ、2番目の(C末端側)アミノ酸が、(L)−アラニルまたはβ−アラニル、またはその1個から6個の炭素原子をもつアルキルエステルもしくはアリールエステル、または(L)−アラニルアミドまたはβ−アラニルアミドであり、
は、1個から6個の炭素原子をもつアルキルもしくは置換アルキル、またはRは、4個から12個の炭素原子をもつシクロアルキル−(CH−、アリール−(CH−、置換アリール−(CH−、もしくはヘテロアリール−(CH−であり、かつ、
aは、0、または1から6までの整数である;
の化合物を対象とする。
【0038】
より好ましくは、本発明は、以下の式III:
【0039】
【化16】

式中、
は、S体またはR体の立体配置であり、
は、水素、またはRCO−であり、
Aは、1個から6個の炭素原子をもつ直鎖状または分岐鎖状のアルキルであり、
Xは、(L)プロリルであり、
Yはジペプチドであって、1番目の(N末端側)アミノ酸が、(L)−プロリル、かつ、2番目の(C末端側)アミノ酸が、(L)−アラニルまたはβ−アラニル、または(L)−アラニルアミドまたはβ−アラニルアミドであり、
は、1個から6個の炭素原子をもつアルキルもしくは置換アルキルである;
の化合物を対象とする。
【0040】
本発明の代表的な化合物には、以下の式IV〜VIIIをもつ化合物などがある。本発明の好適な化合物は、以下の式V〜VIII:
【0041】
【化17】

【0042】
【化18】

の化合物などである。
【0043】
式IV〜VIIIの化合物のそれぞれを調製する方法は、本明細書の実施例に開示されている。
【0044】
もっとも好ましくは、本発明は、以下の式VIII:
【0045】
【化19】

の化合物を対象とする。
【0046】
化合物IV〜VIIIのそれぞれのIC50は、Arg−Pro−Pro(0.5mM)を基質として用いて、ラット膜アミノペプチダーゼPを50%阻害するのに必要なナノモル/リットル(nM)濃度として決定された。ラットmAPPは、ヒト、サル、およびウシのmAPPの許容される代替物であり、これら他のmAPP、特にヒトAPPと統計的に有意な相関関係をもつことが明らかになっている。Maggioraら、「アミノペプチダーゼPのアプスタチン類似化合物インヒビターであるブラジキニン分解酵素(Apstatin Analogue Inhibitors of Aminopeptidase P,a Bradykinin Degrading Enzyme)」、J.Med.Chem.,42,2394−2402(1999)の表1〜3、およびその考察、ならびにErsahinら、「ラットおよびマウスの膜アミノペプチダーゼP:構造解析と組織分布(Rat and Mouse Membrane Aminopeptidase P:Structure Analysis and Tissue Distribution)」、Arch.Biochem.Biophys.,417:131−140(2003)の図3、および、その考察であってMaggioraらのラット−ヒト相関を分析した部分を参照のこと。これらの文献は、参照により本明細書に組み入れられる。特に、さまざまなmAPPインヒビターに対する相対的な効力は、いかなる哺乳動物に由来するAPPであってもかなり一定しているように見える。同文献。さらに、ラットmAPPは、サルAPPの相対的予測可能性に近似する。同文献。
【0047】
【表1】

Arg−Pro−Pro(0.5mM)を基質として用いて、精製されたラット膜アミノペプチダーゼPを50%阻害するのに必要な濃度(nモル/リットル)。
【0048】
本明細書の表1に示されているとおり、式V〜VIIIの化合物は、α位の炭素原子上にスルフヒドリル(チオ)置換基を含む第2の置換基をもたない式IVの化合物と比較して実質的に優れた(より低い)IC50を有する。特に、式IVのα炭素原子の化合物に(第2の)疎水性置換基を付加したところ、予想外にも、IC50が20倍から340倍改善し、すなわち、3400nMのIC50から170nMから10nMの範囲のIC50になった。なお、α炭素原子上にある第2の置換基をn−ブチル(式V)からイソブチル(式VIII)に変えたところ、13倍低いIC50がもたらされた。したがって、予想外にも、式VIIIの化合物は、その異性体である式Vの類縁化合物よりも13倍強力なAPPインヒビターである。また、化合物Vおよび化合物VIIIは、α炭素原子にR立体化学およびS立体化学をもつ点で異なっていることを指摘しておくべきであろう。
【0049】
その第2の態様において、本発明は、本明細書で定義されているように、治療上有効な量の本発明の活性化合物と薬学的に許容される担体とを合わせて含む薬学的組成物を対象とする。一つの実施態様において、本発明は、薬学的に許容される担体と、治療上許容される量の以下の式III:
【0050】
【化20】

式中、
は、S体またはR体の立体配置をもち、
は、水素、メチル、または
【0051】
【化21】

であり、
Aは、水素、1個から8個の炭素原子をもつ直鎖状もしくは分岐鎖状の低級アルキル、2個から8個の炭素原子をもつ直鎖状もしくは分岐鎖状の低級アルケニルもしくは低級アルキニル、4個から8個の炭素原子をもつ環状アルキルもしくは環状アルケニル、フェニル、またはベンジルであり、
Xは、(L)−プロリル、3,4−デヒドロ−(L)−プロリル、(2S,3R)−3−メチルピロリジン−2−カルボニル、(2S,5R)−5−メチルピロリジン−2−カルボニル、(S)−ピペリジン−2−カルボニル、または(R)−チアゾリジン−4−カルボニルであり、
Yはアミノ酸またはジペプチドであり、このジペプチドにおいて、1番目のN末端側アミノ酸が、(L)−プロリル、3,4−デヒドロ−(L)−プロリル、(2S,3R)−3−メチルピロリジン−2−カルボニル、(2S,3S)−3−メチルピロリジン−2−カルボニル、(2S,4R)−4−メチルピロリジン−2−カルボニル、(2S,4S)−4−メチルピロリジン−2−カルボニル、(2S,5R)−5−メチルピロリジン−2−カルボニル、(2S,4R)−4−ヒドロキシピロリジン−2−カルボニル、(2S,4S)−4−ヒドロキシピロリジン−2−カルボニル、(S)−ピペリジン−2−カルボニル、または(R)−チアゾリジン−4−カルボニルであり、かつ、2番目のアミノ酸が、(L)−アラニル、(L)−プロリル、サルコシル、疎水性側鎖をもつ(SまたはR)N−メチルアミノ酸、β−アラニン、もしくは疎水性側鎖をもつ他のβ−アミノ酸、または疎水性側鎖をもつD−アミノ酸であり、なおかつ、Yは、さらに、そのカルボキシル末端にカルボキシル部分、カルボキシアミド部分、または−COOR部分をもち、
は、1個から6個の炭素原子をもつアルキルもしくは置換アルキル、2個から6個の炭素原子をもつアルケニルもしくは置換アルケニル、シクロアルキル−(CH−、アリール−(CH−、置換アリール−(CH−、またはヘテロアリール−(CH−であり、かつ、
aは、0または1から6までの整数である;
の化合物とを合わせて含む薬学的組成物を対象とする。典型的には、aは1または2である。より典型的には、aは1である。
【0052】
別の実施態様において、本発明は、薬学的に許容される担体と、治療上有効な量の以下の式III:
【0053】
【化22】

式中、
は、S体またはR体の立体配置であり、
は、水素、またはRCO−であり、
Aは、1個から6個の炭素原子をもつ直鎖状または分岐鎖状の低級アルキルであり、
Xは、(L)プロリルであり、
Yはジペプチドであって、1番目の(N末端側)アミノ酸が、(L)−プロリル、かつ、2番目の(C末端側)アミノ酸が、(L)−アラニルまたはβ−アラニル、またはその1個から6個の炭素原子をもつアルキルエステルもしくはアリールエステル、または(L)−アラニルアミドまたはβ−アラニルアミドであり、
は、1個から6個の炭素原子をもつアルキルもしくは置換アルキル、または4個から12個の炭素原子をもつシクロアルキル−(CH−、アリール−(CH−、置換アリール−(CH−、もしくはヘテロアリール−(CH−であり、かつ、
aは、0または1から2までの整数である;
の化合物とを合わせて含む薬学的組成物を対象とする。
【0054】
さらに別の実施態様において、本発明は、薬学的に許容される担体と、治療上有効な量の以下の式III:
【0055】
【化23】

式中、
は、S体またはR体の立体配置であり、
は、水素、またはRCO−であり、
Aは、1個から6個の炭素原子をもつ直鎖状または分岐鎖状のアルキルであり、
Xは、(L)プロリルであり、
Yはジペプチドであって、1番目の(N末端側)アミノ酸が、(L)−プロリル、かつ、2番目の(C末端側)アミノ酸が、(L)−アラニルまたはβ−アラニル、または(L)−アラニルアミドまたはβ−アラニルアミドであり、
は、1個から6個の炭素原子をもつアルキルもしくは置換アルキルである;
の化合物とを組み合わせて含む薬学的組成物を対象とする。
【0056】
より好適な実施態様において、本発明は、薬学的に許容される担体中に、治療上有効な量の式V、式VI、式VII、または式VIIIの化合物を組み合わせて含む薬学的組成物を対象とする。
【0057】
さらにより好適な実施態様において、本発明は、薬学的に許容される担体中に、治療上有効な量の以下の式VIII:
【0058】
【化24】

の化合物を組み合わせて含む薬学的組成物を対象とする。
【0059】
本明細書において、用語「治療上有効な量」は、研究者または臨床医によって探求されている、組織、系、または動物の生物学的または医学的な応答を誘発する、薬または医薬剤の量を意味する。有効であるが毒性のない量の化合物を治療に用いる。本発明の化合物によって症状を予防または治療するための用量は、哺乳動物の種類、年齢、体重、性別、および病状、症状の重篤性、使用する具体的な化合物の投与経路など、さまざまな要因によって選択される。通常の技術を有する医師または獣医師は、病状の進行を阻害または停止させるために薬剤を投与する経路に基づいて、容易に有効な量を決定し処方することができる。そのように進める場合、医師または獣医師は、最初は比較的低用量を用い、その後、最大の応答が得られるまで容量を増加させる。
【0060】
ラットでは、0.08〜0.8mg/kgを静脈内に1時間にわたって投与したとき、アプスタチンによるブラジキニンの増強作用が観察されている。より強力な本発明のインヒビターは、5倍から10倍低い用量で効力を示すはずである。例えば、表1参照。効き目の低いインヒビターほど、同じ治療結果をもたらすために、より多い用量を必要とする。本発明の化合物の典型的な治療上有効な用量は、静脈内投与する場合には約0.008〜8.0mg/kgである。
【0061】
選択した投与経路がどのようなものであっても、非毒性であるが治療上有効な量の一つ以上の本発明の化合物を、任意の治療に用いる。高血圧症状を予防または治療するため、または、本発明の化合物によって心筋虚血/灌流傷害を治療するためには、投薬量を、患者の種類、年齢、体重、性別、病状、その病状の重篤性、投与経路、および治療に用いる具体的化合物など、さまざまな要因に応じて選択する。通常の技術を有する医師または獣医師は、病状の進行を阻害または停止させるために必要な薬の有効量を容易に決定し処方することができる。そのように進める場合、医師または獣医師は、最初は比較的低用量を用い、その後、最大の応答が得られるまで容量を増加させることができよう。本発明の化合物の一日分の投与量は、本発明の化合物のIC50によって変わる。しかし、経口投与量は、通常、約0.1mg/kgから約200mg/kgまでの範囲内(好ましくは、約2.0から84.0mg/kg(経口)の範囲)である。
【0062】
本明細書において、用語「薬学的に許容される担体」は、本発明の化合物などの化学剤の運搬または輸送に関与する、薬学的に許容される物質、組成物、または媒体、例えば、液体または固体の充てん剤、希釈剤、賦形剤、溶媒、またはカプセル封入材を意味する。
【0063】
薬学的に許容される担体と組み合わせる場合、本発明の化合物は、錠剤、カプセル、ソフトゲル、ピル、粉末剤、顆粒剤、エリキシル剤、またはシロップ剤として経口投薬形態にして投与するのに適している。また、本化合物は、医薬技術分野において知られており、下記に記載するような液体担体形態を用いて血管内、腹腔内、皮下、筋肉内、または局所的に投与することもできる。あるいは、本発明の薬学的組成物は、坐薬またはブージー剤(bougies)などの形で直腸内または膣内に投与することもできる。概して、薬学的組成物の好適な形態は経口投与用または静脈内投与用に、好ましくは、経口投与用に製剤されている。
【0064】
本発明の経口投与薬学的組成物および方法に関しては、本明細書記載の前記活性化合物を、典型的には、目的とする投与方式および投与形態により適当に選択された、適当な薬学的な希釈剤、賦形剤、または担体(本明細書において、「担体」と総称される)との混合剤、すなわち、経口用の錠剤、カプセル、ソフトゲル、エリキシル、シロップ、点滴剤などにして、周知された製薬慣行に合うよう提供する。
【0065】
例えば、錠剤またはカプセルの形態で経口投与するには、治療上有効な量の本発明の化合物を1つ以上、任意の経口用の毒性のない、薬学的に許容される不活性担体、例えば、ラクトース、デンプン、ショ糖、セルロース、ステアリン酸マグネシウム、第2リン酸カルシウム、硫酸カルシウムマンニトールなど、またはこれらをさまざまなに組み合わせたものと混合する。ソフトゲル、エリキシル、シロップ、点滴剤など、液体状にして経口投与するには、治療上有効な量の活性薬物成分を、任意の経口用の毒性のない、薬学的に許容される不活性担体、例えば、水、生理食塩水、エタノール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、トウモロコシ油、綿実油、ラッカセイ油、ゴマ油、ベンジルアルコール、多種多様な緩衝液など、またはこれらを組み合わせたものと混合する。所望または必要であれば、適当な結合剤、潤滑剤、崩壊剤、および着色剤を、この混合液に入れることもできる。適当な結合剤は、デンプン、ゼラチン、天然糖類、コーンシロップ、アラビアゴムなどの天然または合成ゴム、アルギン酸ナトリウム、カルボキシメチルセルロース、ポリエチレングリコール、およびワックスなど、またはこれらを組み合わせたものなどである。これらの投薬形態で使用するための潤滑剤は、ホウ酸、安息香酸ナトリウム、塩酸ナトリウムなど、またはこれらを組み合わせたものなどである。崩壊剤に制限はないが、デンプン、メチルセルロース、寒天、ベントナイト、グアーガムなど、またはそれらを組み合わせたものなどである。甘味剤および着香剤および保存剤も、適宜含ませることができる。
【0066】
血管内、腹腔内、皮下、または筋肉内に投与するには、1つ以上の本発明の化合物を、水、生理食塩水、水溶性デキストロースなど、適当な担体と混合する。局所投与用には、1つ以上の本発明の化合物を、薬学的に許容されるクリーム、オイル、ワックス、ゲルなどと混合することができる。選択された投与経路が何れであっても、本発明の化合物を、当技術分野において既知の常法によって、医薬上許容される投薬形態に製剤する。また、この化合物は、薬理学的に許容される塩基付加塩類(base addition salts)を用いて製剤することもできる。さらに、本化合物、またはそれらの塩類を、適当な水和物の形態で使用することもできる。
【0067】
mAPPアンタゴニストとしての活性をもつため、式IIIの化合物は、ブラジキニン(Bk)の分解を阻害するのに役立ち、そのことで、血圧を低下させ、冠状動脈を拡張し、心筋虚血/灌流傷害を軽減し、新生血管形成を促進し、また腎臓の血流量および機能を高めるという有益な効果を示す。その結果、本発明の化合物は、哺乳動物患者、好ましくはヒト患者で、ブラジキニンの分解を阻害したり、高血圧を治療したり、心筋虚血/灌流傷害を治療したり、腎機能を促進したりするための薬学的組成物中の活性薬剤として有用である。通常の技術を有する医師または獣医師は、患者が、高血圧、心筋虚血、または腎機能低下を示すか否かを容易に判定することができる。好ましい実用性は、心筋虚血/灌流傷害の軽減に関連している。
【0068】
したがって、その第3の態様において、本発明は、治療を必要とする哺乳動物患者、好ましくはヒト患者において、ブラジキニンの分解を阻害する方法であって、第1の薬学的に有効な担体中の治療上有効な量の本発明のAPPインヒビター(化合物)を患者に投与することを含む方法を対象とする。
【0069】
別の態様において、本発明は、治療を必要とする哺乳動物患者、好ましくはヒト患者における高血圧を治療する方法であって、第1の薬学的に有効な担体中の治療上有効な量の本発明の化合物を該患者に投与することを含む方法を対象とする。
【0070】
さらに別の態様において、本発明は、治療を必要とする哺乳動物患者、好ましくはヒト患者において冠状動脈を拡張する方法であって、第1の薬学的に許容される担体中の治療上有効な量の本発明の化合物を該患者に投与することを含む方法を対象とする。
【0071】
さらに別の態様において、本発明は、治療を必要とする哺乳動物患者、好ましくはヒト患者において心筋虚血/灌流傷害を治療する方法であって、第1の薬学的に許容される担体中の治療上有効な量の本発明の化合物を該患者に投与することを含む方法を対象とする。
【0072】
さらに別の態様において、本発明は、治療を必要とする哺乳動物患者、好ましくはヒト患者における腎機能を増強する方法であって、第1の薬学的に許容される担体中の治療上有効な量の本発明の化合物を該患者に投与することを含む方法を対象とする。
【0073】
上記各方法の第2の実施態様において、本方法は、第2の薬学的に許容される担体中の、治療上有効な量のアンジオテンシン変換酵素インヒビターを該患者に投与する工程を含む。本発明の化合物(APPインヒビター)に対する第1の薬学的に許容される担体と、ACEのインヒビターに対する第2の薬学的に許容される担体とは、同一であっても異なっていてもよい。
【0074】
本明細書において、用語「同時投与」は、本発明のアミノペプチダーゼPインヒビター、およびACEインヒビターが、両方とも、治療上有効な量で同時に患者の血流内に存在することを意味する。
【0075】
したがって、両化合物を1個の錠剤にして投与するか、2種類の錠剤として実質的に同時に投与することは本発明の範囲内にあり、または、別の場合、例えば、インヒビターの一つがインビボにおいて長い半減期をもつ場合には、2種類の化合物を同じ48時間以内に投与すれば十分であろう。好ましくは、本発明の薬学的組成物は、単位投薬形態で投与される。しかし、APPおよびACEに対するインヒビターがどのようにして、または何時投与されるとしても、本発明の方法は、それらを投与して、治療を必要とする患者が、その組み合わせた化合物の治療上有効な量の各メンバーを、ある一定の時に血流中に有するようにすることを対象とする。
【0076】
いずれの治療においても、本発明の化合物の有効であるが毒性のない量が用いられる。本発明の化合物によってブラジキニン(Bk)の分解を阻害するための用量は、哺乳動物の種類、年齢、体重、性別、および病状、症状の重篤性、使用する具体的な化合物の投与経路など、さまざまな要因に従って選択される。通常の技術を有する医師または獣医師は、病状の進行を阻害または停止させるために薬剤を投与する経路に基づいて、容易に治療上有効な量を決定し処方することができる。そのように進める際、医師または獣医師は、最初は比較的低用量を用い、その後、最大の応答が得られるまで容量を増加させることになろう。本発明の化合物は腎臓を通って排出されるため、腎機能が低下した患者には、正常な腎機能をもつ患者よりも少ない用量が投与されることであろう。医師は、患者の血清クレアチンを測定して、その患者の腎機能を評価することであろう。血清中クレアチン濃度が1.0mg/dlよりも高いのは、腎機能の低下を反映している。したがって、本明細書において、用語「治療上有効な量」は、それぞれの酵素の実質的な阻害を引き起こして、その組合せにより、患者の体内で生成された内生Bkの半減期を実質的に増加させる化合物の量を意味する。
【0077】
ACEのインヒビターは当技術分野において周知されており、インビボにおけるアンジオテンシンIからアンジオテンシンIIへの変換を阻害するのに利用されている。ACEの典型的なインヒビターは、カプトプリル、エナラプリル、エナラプリラト、リシノプリル、キナプリル、ベナゼプリル、フォシノプリル、ラミプリル、およびラミプリラトなどである。これらACEインヒビターの各々について、投与方法および投薬量が当技術分野において周知されており、1995年版医師用製薬事典(Physician’s Desk Reference)に記載されている。
【0078】
本発明のこの方法では、医師または獣医師が、上記した投薬量で本発明のACEインヒビター成分を同時投与して、患者の体重、健康状態、年齢、および腎臓の状態による変動に対応することができる。例えば、血清中クレアチン濃度が1.0mg/dlよりも高いのは、腎機能の低下と、本発明の方法で使用するインヒビターを排出する能力が低下していることとを反映している。しかし、各場合に、患者には、治療上有効な量、すなわち、ACEによるBkの切断を実質的に阻害し、また、既に前記したようなアミノペプチダーゼPのインヒビターとともに投与された場合にインビボにおいてBkの切断を実質的に阻害するのに十分な量が投与される。
【0079】
上記した方法の第2の実施態様において、ACEのインヒビターは、典型的には、カプトプリル、エナラプリル、エナラプリラト、リシノプリル、キナプリル、ベナゼプリル、フォシノプリル、ラミプリル、およびラミプリラトからなるACEインヒビターの群から選択される1つ以上のメンバーである。好ましくは、ACEのインヒビターは、ラミプリル、およびラミプリラトからなるACEインヒビターの群から選択される1つ以上のメンバーである。
【0080】
これらACEインヒビターの各々について、投与方法および投薬量が当技術分野において周知されており、1995年版医師用製薬事典に記載されている。
【0081】
カプトプリルは、1−[(2S)−3−メルカプト−2−メチルプロピオニル]−L−プロリンとしても知られており、150mg/日を目標に、一般的には、18.75mgから150mg/日、しかし、決して450mg/日を超えることのない量を錠剤にしてヒトに投与する。エナラプリルは、(S)−1−[N−[1−(エトキシカルボニル)−3−フェニルプロピル)]−L−アラニル]−L−プロリン、(Z)マレイン酸(1:1)としても知られており、一般的には、10mg/日から25mg/日であるが、50mg/日を超えない量を錠剤にしてヒト患者に投与する。エナラプリルは、インビボで、酸性型エナラプリルであるエナラプリラトに変換される。エナラプリラトは、式:(S)−1−[N−(1−カルボキシ−3−フェニルプロリル)−L−アラニル]−L−プロリン二水和物;をもち、典型的には静脈内に投与される。リシノプリルは、(S)−1−[N−(1−カルボキシ−3−フェニルプロピル)−L−]−L−プロリン二水和物としても知られており、典型的には、20mg/日から40mg/日の用量で錠剤としてヒト患者に投与される。ラミプリルは、(2S,3aS,6aS)−I[(S)−N−[(S)−1−カルボキシ−3−フェニルプロピル]アラニル]オクタヒドロシクロペンタ[b]ピロール−2−カルボン酸、1−エチルエステルとしても知られており、インビボで、そのアリアシド(aliacid)型ラミプリラトに変換される。ラミプリルは、ヒト患者に対する典型的な用量である2.5mg/日から20mg/日の錠剤として投与される。
【実施例】
【0082】
実施例1
N−メルカプトアセチル−Pro−Pro−Ala−NHの調製
標準的な自動Nα−(9−フルオレニル)メチルオキシカルボニル(Fmoc)−固相ペプチド合成法(Chan,W.C.およびWhite,P.D.編、Fmoc固相ペプチド合成法:実践的方法(Fmoc Solid Phase Peptide Synthesis: A Practical Approach)、Oxford University Press,New York,New York(2000)参照)によって、Fmoc−L−Ala−Rinkアミド−4−メチルベンズヒドリルアミン樹脂から出発して、メルカプトアセチル−L−プロリル−L−プロリル−L−アラニンアミド(別の実施例の用語ではN−メルカプトアセチル−Pro−Pro−Ala−NHとしても知られている)を合成する。以下の順序で実施される連続的な脱保護/カップリングサイクルによって、この樹脂に残基を付加する。Fmoc−L−Pro、Fmoc−L−Pro、S−トリチルメルカプト酢酸(Peptides International,Louisville,KY,カタログ番号:ASX−5048−PI)。この樹脂を95%のトリフルオロ酢酸/スカベンジャーで処理して、樹脂からのペプチドアミドの最終切断とトリチル基の除去とを同時に行う。得られた産物であるメルカプトアセチル−L−プロリル−L−プロリル−L−アラニンアミドをHPLCにより精製する。
【0083】
実施例2
N−[(R)−2−メルカプトヘキサノイル]−Pro−Pro−Ala−NHの調製
式Vの化合物であるN−[(R)−2−メルカプトヘキサノイル−Pro−Pro−Ala−NHを、契約合成業者であるAnaSpec社(AnaSpec Inc.,San Jose,USA)によって商業的に調製した。合成方法は後述する。
【0084】
A.(S)−2−ブロモヘキサン酸の調製
(S)−2−アミノヘキサン酸(FW 131.2、L−ノルロイシンとしても知られている)(1g、7.62mmol)は、Sigmaaldrich.comにおいて、シグマケミカル社(Sigma Chemical Co)から市販されているものを、HBr 48%(7.0mL、61mmol)とHO(10mL)との混合液に溶解させる。0℃で、HO(5mL)中のNaNO(1.7g、24mmol)の溶液を30分間にわたって加える。この反応液を2時間撹拌し、反応混合液を真空下で脱気し、EtOAc(2×20mL)で抽出する。抽出物を水(15mL)で洗浄し、乾燥させ(NaSO)、濾過し、蒸発させて、(S)−2−ブロモヘキサン酸を得る。
【0085】
B.(R)−2−アセチルチオヘキサン酸の調製
実施例2Aの(S)−2−ブロモヘキサン酸(FW 195、1.15g、5.9mmol)をジメチルホルムアミド(DMF)(20mL)に溶解し、DMF(10mL)に溶かしたCHCOSK溶液(1.01g、8.85mmol)を窒素雰囲気下0℃で加える。この反応混合液を2時間撹拌してから蒸発させる。残留物をEtOAc(35mL)に再溶解させて、5%硫酸水素カリウム(15mL)および水(15mL)および1N HCl(15mL)および食塩水(15mL)で洗浄して乾燥させ、(R)−2−アセチルチオヘキサン酸を得る。
【0086】
C.N−[(R)−2−アセチルチオヘキサノイル−Pro−Pro−Ala−NHの調製
ジメチルホルムアミド(DMF)(40mL)と一緒に反応用容器に入れたH−Pro−Pro−Ala−Rinkアミド樹脂(2.5mmol、AnaSpec社、San Jose,USAから入手可能)に、実施例2Bの(R)−2−アセチルチオヘキサン酸(FW 190、1.06g、5.6mmol)、ジイソプロピルカルボジイミド(DIC)(880μL、5.6mmol)、1−ヒドロキシベンゾトリアゾール(HOBt)(756mg、5.6mmol)、およびジイソプロピルエチルアミン(DIEA)(974μL、5.6mmol)を加える。室温にて一晩振とうした後、ニンヒドリン試験によってカップリングが完了したことを示す。樹脂をDMF(3×30mL)およびジクロロメタン(DCM)(3×30mL)で洗浄してから、トリフルオロ酢酸(TFA)(50mL)で室温にて2時間切断する。減圧下で濾過により樹脂を取り除き、TFAで洗浄する(2×10mL)。濾液を合わせて、30℃以下で回転式蒸発装置により濃縮してガラス状フィルムにする。冷ジエチルエーテル(20mL)を加えてペプチドを沈殿させる。このペプチドを濾過して回収し、冷エーテル(2×5mL)で洗浄する。乾燥後、未精製の標題のペプチドを得る。
【0087】
D.N−[(R)−2−メルカプトヘキサノイル]−Pro−Pro−Ala−NHの調製
未精製のN−[(R)−2−アセチルチオヘキサノイル]−Pro−Pro−Ala−NHを、脱気したTHF(50mL)に溶かして、N雰囲気下、0℃で1N NaOH(10mL)を加える。この反応混合液を室温にて4時間撹拌する。2N HClでpH4に酸性化した後、溶媒を蒸発させる。残留物を、C−18カラムによる分取逆相HPLCを用いて精製し、水(0.1%TFAを含有する)−アセトニトリル勾配により溶出させる。このとき、勾配は、60分間かけて15%〜55%アセトニトリルで行う。カラム分画を分析HPLCによって解析し、生成物(純度>95%)を含む画分をプールし凍結乾燥させて、標題のペプチドを得る。
【0088】
実施例3
N−[(R)−2−メルカプトヘキサノイル]−Pro−MePro−Ala−NHの調製
上記標題の、式VIの化合物であるN−[(R)−2−メルカプトヘキサノイル]−Pro−[(2S,5RS)−5−メチルピロリジン−2−カルボニル]−Ala−NHを、契約合成業者であるAnaSpec社、San Jose,USAに商業的に調製させた。合成方法は以下の通りである。
【0089】
A.(S)−2−ブロモヘキサン酸の調製
(S)−2−アミノヘキサン酸(FW 131.2、L−ノルロイシンとしても知られている)(1g、7.62mmol)は、Sigmaaldrich.comにおいて、シグマケミカル社(Sigma Chemical Co)から市販されているものを、HBr 48%(7.0mL、61mmol)とHO(10mL)との混合液に溶解させる。0℃で、HO(5mL)中のNaNO(1.7g、24mmol)の溶液を30分間にわたって加える。この反応液を2時間撹拌し、反応混合液を真空下で脱気し、EtOAc(2×20mL)で抽出する。抽出物を水(15mL)で洗浄し、乾燥させ(NaSO)、濾過し、蒸発させて、(S)−2−ブロモヘキサン酸を得る。
【0090】
B.(R)−2−アセチルチオヘキサン酸の調製
実施例3Aの(S)−2−ブロモヘキサン酸(FW 195、1.15g、5.9mmol)をDMF(20mL)に溶解し、DMF(10mL)に溶かしたCHCOSK溶液(1.01g、8.85mmol)を窒素雰囲気下0℃で加える。この反応混合液を2時間撹拌してから蒸発させる。残留物をEtOAc(35mL)に再溶解させて、5%硫酸水素カリウム(15mL)および水(15mL)および1N HCl(15mL)および食塩水(15mL)で洗浄してから、乾燥させ(NaSO)、さらに蒸発させて(R)−2−アセチルチオヘキサン酸を得る。
【0091】
C.N−[(R)−2−アセチルチオヘキサノイル−Pro−MePro−Ala−NHの調製
ジメチルホルムアミド(DMF)(40mL)と一緒に反応用容器に入れたH−Pro−MePro−Ala−Rinkアミド樹脂(2.5mmol、AnaSpec社、San Jose,USAから入手可能)に、実施例3Bの(R)−2−アセチルチオヘキサン酸(FW 190、1.06g、5.6mmol)、ジイソプロピルカルボジイミドDIC(880μL、5.6mmol)、1−ヒドロキシベンゾトリアゾール(756mg、5.6mmol)、およびジイソプロピルエチルアミン(974μL、5.6mmol)を加える。室温にて一晩振とうした後、ニンヒドリン試験によってカップリングが完了したことを示す。樹脂をDMF(3×30mL)およびジクロロメタン(3×30mL)で洗浄してから、トリフルオロ酢酸(50mL)で室温にて2時間切断する。減圧下で濾過により樹脂を取り除き、TFAで洗浄する(2×10mL)。濾液を合わせて、30℃以下で回転式蒸発装置により濃縮してガラス状フィルムにする。冷ジエチルエーテル(20mL)を加えてペプチドを沈殿させる。このペプチドを濾過して回収し、冷エーテル(2×5mL)で洗浄する。乾燥後、未精製の標題のペプチドを得る。
【0092】
D.N−[(R)−2−メルカプトヘキサノイル]−Pro−MePro−Ala−NHの調製
未精製のN−[(R)−2−アセチルチオヘキサノイル]−Pro−MePro−Ala−NHを、脱気したTHF(50mL)に溶かして、N雰囲気下、0℃で1N NaOH(10mL)を加える。この反応混合液を室温にて4時間撹拌する。2N HClでpH4に酸性化した後、溶媒を蒸発させる。残留物を、C−18カラムによる分取逆相HPLCを用いて精製し、水(0.1%TFAを含有する)−アセトニトリル勾配により溶出させる。このとき、勾配は、60分間かけて15%〜55%アセトニトリルで行う。カラム分画を分析HPLCによって解析し、生成物(純度>95%)を含む画分をプールし凍結乾燥させて、標題のペプチドを得る。
【0093】
実施例4
N−[(S)−2−メルカプト−2−シクロヘキシルアセチル]−Pro−Pro−β−Ala−OHの調製
式VIIの化合物であるN−[(S)−2−メルカプト−2−シクロヘキシルアセチル]−Pro−Pro−β−Ala−OHを以下のようにして調製した。
【0094】
A.(R)−2−ブロモ−2−シクロヘキシル酢酸の調製
(R)−2−アミノ−2−シクロヘキシル酢酸(H−シクロヘキシル−D−Gly−OH、1g、6.36mmol)は、Bachem California社(Bachem California Inc.,Torrance, CA90505)から市販されているものを、HBr 48%(5.8mL、50.9mmol)とHO(20mL)との混合液に溶解させた。0℃で、HO(10mL)中のNaNO(1.4g、20.4mmol)の溶液を30分間にわたって加えた。この反応液を2時間撹拌し、反応混合液を真空下で脱気し、EtOAc(2×20mL)で抽出した。抽出物を水(15mL)で洗浄し、乾燥させ(NaSO)、濾過し、蒸発させて、1.3g(收率92%)の(R)−2−ブロモ−2−シクロヘキシル酢酸を白色の固体として得た。
【0095】
B.(S)−2−アセチルチオ−2−シクロヘキシル酢酸の調製
実施例4Aの(R)−2−ブロモ−2−シクロヘキシル酢酸(1.3g、5.9mmol)をDMF(20mL)に溶解し、DMF(10mL)に溶かしたCHCOSK溶液(1.01g、8.85mmol)を窒素雰囲気下0℃で加えた。この反応混合液を2時間撹拌してから蒸発させた。残留物をEtOAc(35mL)に再溶解し、5%硫酸水素カリウム(15mL)および水(15mL)および1N HCl(15mL)および食塩水(15mL)で洗浄してから、乾燥させ(NaSO)、さらに蒸発させて、1.2gの(S)−2−アセチルチオ−2−シクロヘキシル酢酸を黄色のオイルとして得た。
【0096】
C.N−[(S)−2−アセチルチオ−2−シクロヘキシルアセチル]−Pro−Pro−β−Ala−OHの調製
ジメチルホルムアミド(40mL)と一緒に反応用容器に入れたH−Pro−Pro−β−Ala−HMPアミド樹脂(2.5mmol、AnaSpec社、San Jose,USAから入手した)に、実施例4Bの(S)−2−アセチルチオ−2−シクロヘキシル酢酸(1.2g、5.6mmol)、ジイソプロピルカルボジイミド(880μL、5.6mmol)、1−ヒドロキシベンゾトリアゾール(756mg、5.6mmol)、およびジイソプロピルエチルアミン(DIEA)(974μL、5.6mmol)を加えた。室温にて一晩振とうした後、ニンヒドリン試験によってカップリングが完了したことを示した。樹脂をDMF(3×30mL)およびジクロロメタン(3×30mL)で洗浄してから、トリフルオロ酢酸(TFA)(50mL)で室温にて2時間切断した。減圧下で濾過により樹脂を取り除き、TFAで洗浄した(2×10mL)。濾液を合わせて、30℃以下で回転式蒸発装置により濃縮してガラス状フィルムにした。冷ジエチルエーテル(20mL)を加えてペプチドを沈殿させた。このペプチドを濾過して回収し、冷エーテル(2×5mL)で洗浄した。乾燥後、710mgの未精製の標題のペプチドを得た。
【0097】
D.N−[(S)−2−メルカプト−2−シクロヘキシルアセチル]−Pro−Pro−β−Ala−OHの調製
未精製のN−[(S)−2−アセチルチオ−2−シクロヘキシルアセチル]−Pro−Pro−β−Ala−OH(710mg)を、脱気したTHF(50mL)に溶かして、N雰囲気下、0℃で1N NaOH(10mL)を加えた。この反応混合液を室温にて4時間撹拌した。2N HClでpH4に酸性化した後、溶媒を蒸発させた。残留物(620mg)を、C−18カラムによる分取逆相HPLCを用いて精製し、水(0.1%TFAを含有する)−アセトニトリル勾配により溶出させた。このとき、勾配は、60分間かけて15%〜55%アセトニトリルで行った。カラム分画を分析HPLCによって解析し、生成物(純度>95%)を含む画分をプールし、凍結乾燥させた後、138mgの標題のペプチドを得た。このペプチドを質量スペクトル解析したところ、440.5にM+Hのピーク、および462.7にM+Naのピークがあることが明らかになった。
【0098】
実施例5
N−[(2S,3S)−2−メルカプト−3−メチルペンタノイル]−Pro−Pro−Ala−NHの調製
式VIIIの化合物であるN−[(2S,3S)−2−メルカプト−3−メチルペンタノイル]−Pro−Pro−Ala−NHを以下のようにして調製した。
【0099】
A.(2R,3S)−2−ブロモ−3−メチルペンタン酸の調製
(2R,3S)−2−アミノ−3−メチルペンタン酸(D−アロ−イソロイシン、1g、7.62mmol)を、HBr 48%(6.95mL、61mmol)とHO(10.5mL)との混合液に溶解させた。0℃で、HO(5mL)中のNaNO(1.68g、24.4mmol)の溶液を30分間にわたって加えた。この反応液を2時間撹拌した。反応混合液を真空下で脱気して、EtOAc(2×20mL)で抽出した。抽出物を水(15mL)で洗浄し、乾燥させ(NaSO)、濾過し、蒸発させて、1.3g(收率87%)の(2R,3S)−2−ブロモ−3−メチルペンタン酸を淡黄色のオイルとして得た。
【0100】
B.(2S,3S)−2−アセチルチオ−3−メチルペンタン酸の調製
(2R,3S)−2−ブロモ−3−メチルペンタン酸(650mg、3.33mmol)をジメチルホルムアミド(DMF)(10mL)に溶解し、DMF(5mL)に溶かしたCHCOSK溶液(571mg、5mmol)を窒素雰囲気下0℃で加えた。この反応混合液を2時間撹拌してから蒸発させた。残留物をEtOAc(25mL)に再溶解し、5%硫酸水素カリウム(10mL)および水(10mL)および1N HCl(10mL)および食塩水(10mL)で洗浄してから、乾燥させ(NaSO)、さらに蒸発させて、600mgの(2S,3S)−2−アセチルチオ−3−メチルペンタン酸をオイルとして得た。
【0101】
C.N−[(2S,3S)−2−アセチルチオ−3−メチルペンタノイル]−Pro−Pro−Ala−NHの調製
DMF(20mL)と一緒に反応用容器に入れたH−Pro−Pro−Ala−Rinkアミド樹脂(1.5mmol、AnaSpec社、San Jose,USAから入手した)に、(2S,3S)−2−アセチルチオ−3−メチルペンタン酸(600mg、3.3mmol)、ジイソプロピルカルボジイミド(DIC)(518μL、3.3mmol)、1−ヒドロキシベンゾトリアゾール(443mg、3.3mmol)、およびジイソプロピルエチルアミン(DIEA)(574μL、3.3mmol)を加えた。室温にて一晩振とうした後、ニンヒドリン試験によってカップリングが完了したことを示した。樹脂をDMF(3×20mL)およびジクロロメタン(3×20mL)で洗浄してから、TFA(30mL)で室温にて2時間切断した。減圧下で濾過により樹脂を取り除き、TFAで洗浄した(2×10mL)。濾液を合わせて、30℃以下で回転式蒸発装置により濃縮してガラス状フィルムにした。冷エーテル(20mL)を加えてペプチドを沈殿させた。このペプチドを濾過して回収し、冷エーテル(2×5mL)で洗浄した。乾燥後、未精製の標題のペプチド(450mg)を得た。
【0102】
D.N−[(2S,3S)−2−メルカプト−3−メチルペンタノイル]−Pro−Pro−Ala−NHの調製
未精製のN−[(2S,3S)−2−アセチルチオ−3−メチルペンタノイル]−Pro−Pro−Ala−NH(450mg、約1mmol)を、脱気したTHFに溶かして、N雰囲気下、0℃で1N NaOH(7mL)を加えた。この反応混合液を室温にて4時間撹拌した。2N HClでpH4に酸性化した後、溶媒を蒸発させた。残留物を、C−18カラムによる分取逆相HPLCを用いて精製し、水(0.1%TFAを含有する)−アセトニトリル勾配により溶出させた。このとき、勾配は、60分間かけて10%〜35%アセトニトリルで行った。カラム分画を分析HPLCによって解析し、生成物(純度>95%)を含む画分をプールし、凍結乾燥させた後、133mgの標題のペプチドを得た。このペプチドを質量スペクトル解析したところ、413.5にM+Hのピーク、および435.6にM+Naのピークがあることが明らかになった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式III:
【化1】

の化合物であって、式中、
は、S体またはR体の立体配置をもち、
は、水素、メチル、または
【化2】

であり、
Aは、水素、1個から8個の炭素原子をもつ直鎖状もしくは分岐鎖状の低級アルキル、2個から8個の炭素原子をもつ直鎖状もしくは分岐鎖状の低級アルケニルもしくは低級アルキニル、4個から8個の炭素原子をもつ環状アルキルもしくは環状アルケニル、フェニル、またはベンジルであり、
Xは、(L)−プロリル、3,4−デヒドロ−(L)−プロリル、(2S,3R)−3−メチルピロリジン−2−カルボニル、(2S,5R)−5−メチルピロリジン−2−カルボニル、(S)−ピペリジン−2−カルボニル、または(R)−チアゾリジン−4−カルボニルであり、
Yはアミノ酸またはジペプチドであり、該ジペプチドにおいて、1番目の(N末端側)アミノ酸が、(L)−プロリル、3,4−デヒドロ−(L)−プロリル、(2S,3R)−3−メチルピロリジン−2−カルボニル、(2S,3S)−3−メチルピロリジン−2−カルボニル、(2S,4R)−4−メチルピロリジン−2−カルボニル、(2S,4S)−4−メチルピロリジン−2−カルボニル、(2S,5R)−5−メチルピロリジン−2−カルボニル、(2S,4R)−4−ヒドロキシピロリジン−2−カルボニル、(2S,4S)−4−ヒドロキシピロリジン−2−カルボニル、(S)−ピペリジン−2−カルボニル、または(R)−チアゾリジン−4−カルボニルであり、かつ、2番目の(C末端側)アミノ酸が、(L)−アラニル、(L)−プロリル、サルコシル、疎水性側鎖をもつ(SまたはR)N−メチルアミノ酸、β−アラニン、もしくは疎水性側鎖をもつ他のβ−アミノ酸、または疎水性側鎖をもつD−アミノ酸であり、なおかつ、Yは、さらに、そのカルボキシル末端にカルボキシル部分、カルボキシアミド部分、または−COOR部分をもち、
は、1個から6個の炭素原子をもつアルキルもしくは置換アルキル、または4個から12個の炭素原子をもつシクロアルキル−(CH−、アリール−(CH−、置換アリール−(CH−、もしくはヘテロアリール−(CH−であり、かつ、
aは、0または1から6までの整数である;
化合物。
【請求項2】
請求項1記載の化合物であって、
式中、
は、S体またはR体の立体配置であり、
は、水素、またはRCO−であり、
Aは、1個から6個の炭素原子をもつ直鎖状もしくは分岐鎖状のアルキル、または4個から8個の炭素原子をもつ環状アルキルもしくは環状アルケニルであり、
Xは、(L)プロリルであり、
Yはジペプチドであって、1番目の(N末端側)アミノ酸が、(L)−プロリルであり、かつ、2番目の(C末端側)アミノ酸が、(L)−アラニルまたはβ−アラニル、またはその1個から6個の炭素のアルキルエステルもしくはアリールエステル、または(L)−アラニルアミドまたはβ−アラニルアミドであり、
は、1個から6個の炭素原子をもつアルキルもしくは置換アルキル、または4個から12個の炭素原子をもつシクロアルキル−(CH−、アリール−(CH−、置換アリール−(CH−、もしくはヘテロアリール−(CH−であり、かつ、
aは、0または1から6までの整数である化合物。
【請求項3】
請求項2記載の化合物であって、
式中、
は、S体またはR体の立体配置であり、
は、水素、またはRCO−であり、
Aは、1個から6個の炭素原子をもつ直鎖状または分岐鎖状のアルキルであり、
Xは、(L)プロリルであり、
Yはジペプチドであって、1番目(すなわちN末端側)のアミノ酸が、(L)−プロリルであり、かつ、2番目(すなわちC末端側)のアミノ酸が、(L)−アラニルまたはβ−アラニル、または(L)−アラニルアミドまたはβ−アラニルアミドであり、
は、1個から6個の炭素原子をもつアルキルもしくは置換アルキルである、化合物。
【請求項4】
以下:
【化3】

からなる群から選択される、請求項1記載の化合物。
【請求項5】
式VIIIの化合物である、請求項4記載の化合物。
【請求項6】
治療上有効な量の式III:
【化4】

の化合物と薬学的に許容される担体とを組み合わせて含む薬学的組成物であって、
式中、
は、S体またはR体の立体配置をもち、
は、水素、メチル、または
【化5】

であり、
Aは、水素、1個から8個の炭素原子をもつ直鎖状もしくは分岐鎖状の低級アルキル、2個から8個の炭素原子をもつ直鎖状もしくは分岐鎖状の低級アルケニルもしくは低級アルキニル、4個から8個の炭素原子をもつ環状アルキルもしくは環状アルケニル、フェニル、またはベンジルであり、
Xは、(L)−プロリル、3,4−デヒドロ−(L)−プロリル、(2S,3R)−3−メチルピロリジン−2−カルボニル、(2S,5R)−5−メチルピロリジン−2−カルボニル、(S)−ピペリジン−2−カルボニル、または(R)−チアゾリジン−4−カルボニルであり、
Yはアミノ酸またはジペプチドであり、該ジペプチドにおいて、1番目の(N末端側)アミノ酸が、(L)−プロリル、3,4−デヒドロ−(L)−プロリル、(2S,3R)−3−メチルピロリジン−2−カルボニル、(2S,3S)−3−メチルピロリジン−2−カルボニル、(2S,4R)−4−メチルピロリジン−2−カルボニル、(2S,4S)−4−メチルピロリジン−2−カルボニル、(2S,5R)−5−メチルピロリジン−2−カルボニル、(2S,4R)−4−ヒドロキシピロリジン−2−カルボニル、(2S,4S)−4−ヒドロキシピロリジン−2−カルボニル、(S)−ピペリジン−2−カルボニル、または(R)−チアゾリジン−4−カルボニルであり、かつ、2番目の(C末端側)アミノ酸が、(L)−アラニル、(L)−プロリル、サルコシル、疎水性側鎖をもつ(SまたはR)N−メチルアミノ酸、β−アラニン、もしくは疎水性側鎖をもつ他のβ−アミノ酸、または疎水性側鎖をもつD−アミノ酸であり、なおかつ、Yは、さらに、そのカルボキシル末端にカルボキシル部分、カルボキシアミド部分、または−COOR部分をもち、
は、1個から6個の炭素原子をもつアルキルもしくは置換アルキル、または4個から12個の炭素原子をもつシクロアルキル−(CH−、アリール−(CH−、置換アリール−(CH−、もしくはヘテロアリール−(CH−であり、かつ、
aは、0または1から6までの整数である;
薬学的組成物。
【請求項7】
請求項6記載の薬学的組成物であって、
式中、
は、S体またはR体の立体配置であり、
は、水素、またはRCO−であり、
Aは、1個から6個の炭素原子をもつ直鎖状または分岐鎖状のアルキル、または4個から8個の炭素原子をもつ環状アルキルもしくは環状アルケニルであり、
Xは、(L)プロリルであり、
Yはジペプチドであって、1番目の(N末端側)アミノ酸が、(L)−プロリルであり、かつ、2番目の(C末端側)アミノ酸が、(L)−アラニルもしくはβ−アラニル、または1個から6個の炭素のそのアルキルエステルもしくはアリールエステル、または(L)−アラニルアミドもしくはβ−アラニルアミドであり、
は、1個から6個の炭素原子をもつアルキルもしくは置換アルキル、または4個から12個の炭素原子をもつシクロアルキル−(CH−、アリール−(CH−、置換アリール−(CH−、もしくはヘテロアリール−(CH−であり、かつ、
aは、0から6までの整数である、組成物。
【請求項8】
請求項7記載の薬学的組成物であって、
式中、
は、S体またはR体の立体配置であり、
は、水素、またはRCO−であり、
Aは、1個から6個の炭素原子をもつ直鎖状または分岐鎖状のアルキルであり、
Xは、(L)プロリルであり、
Yはジペプチドであって、1番目(すなわちN末端側)のアミノ酸が、(L)−プロリルであり、かつ、2番目(すなわちC末端側)のアミノ酸が、(L)−アラニルもしくはβ−アラニル、または(L)−アラニルアミドもしくはβ−アラニルアミドであり、かつ
は、1個から6個の炭素原子をもつアルキルもしくは置換アルキルである、組成物。
【請求項9】
前記化合物が式:
【化6】

からなる群から選択される請求項6記載の薬学的組成物。
【請求項10】
前記化合物が式VIIIのものである、請求項9記載の薬学的組成物。
【請求項11】
錠剤の形態である、請求項6記載の薬学的組成物。
【請求項12】
前記錠剤がソフトゲル錠剤である、請求項11記載の薬学的組成物。
【請求項13】
錠剤の形態である、請求項8記載の薬学的組成物。
【請求項14】
前記錠剤がソフトゲル錠剤である、請求項13記載の薬学的組成物。
【請求項15】
錠剤の形態である、請求項10記載の薬学的組成物。
【請求項16】
前記錠剤がソフトゲル錠剤である、請求項15記載の薬学的組成物。
【請求項17】
静脈内溶液の形態である、請求項6記載の薬学的組成物。
【請求項18】
静脈内溶液の形態である、請求項8記載の薬学的組成物。
【請求項19】
静脈内溶液の形態である、請求項10記載の薬学的組成物。
【請求項20】
さらに、治療上有効な量のアンジオテンシン変換酵素(ACE)のインヒビターを含む、請求項6記載の薬学的組成物。
【請求項21】
さらに、治療上有効な量のアンジオテンシン変換酵素(ACE)のインヒビターを含む、請求項8記載の薬学的組成物。
【請求項22】
前記アンジオテンシン変換酵素のインヒビターが、カプトプリル、エナラプリル、エナラプリラト、リシノプリル、キナプリル、ベナゼプリル、フォシノプリル、ラミプリル、およびラミプリラトからなる群から選択されたメンバーである、請求項21記載の薬学的組成物。
【請求項23】
前記アンジオテンシン変換酵素のインヒビターがカプトプリルである、請求項22記載の薬学的組成物。
【請求項24】
前記アンジオテンシン変換酵素のインヒビターがエナラプリルである、請求項22記載の薬学的組成物。
【請求項25】
前記アンジオテンシン変換酵素のインヒビターがエナラプリラトである、請求項22記載の薬学的組成物。
【請求項26】
前記アンジオテンシン変換酵素のインヒビターがリシノプリルである、請求項22記載の薬学的組成物。
【請求項27】
前記アンジオテンシン変換酵素のインヒビターが、ラミプリルおよびラミプリラトからなる群から選択されたメンバーである、請求項22記載の薬学的組成物。
【請求項28】
治療を必要とする哺乳動物患者において、ブラジキニンの分解を阻害する方法であって、第1の薬学的に有効な担体中の、治療上有効な量の請求項1記載のAPPインヒビターを該患者に投与することを含む方法。
【請求項29】
治療を必要とする哺乳動物患者において、心筋虚血/再灌流傷害を治療する方法であって、第1の薬学的に許容される担体中の、治療上有効な量の請求項1記載の化合物を該患者に投与することを含む方法。

【公表番号】特表2009−507917(P2009−507917A)
【公表日】平成21年2月26日(2009.2.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−531140(P2008−531140)
【出願日】平成18年8月28日(2006.8.28)
【国際出願番号】PCT/US2006/033398
【国際公開番号】WO2007/032887
【国際公開日】平成19年3月22日(2007.3.22)
【出願人】(508076509)
【Fターム(参考)】