説明

アルコール系燃料エンジン用潤滑油の性能維持方法および装置

【課題】アルコール燃料専用の潤滑油を用いることなく、汎用のエンジン用潤滑油を使用して、水分の混入による潤滑油の磨耗性能劣化を抑制すること。
【解決手段】エンジン制御信号に基づいて燃料の種類を判断するステップと、前記判断により、アルコール系燃料を使用していると判断した場合、計測したエンジン冷却水の温度と所定の温度とを比較するステップを設け、前記所定の温度以下であると判断した場合に、エタノールをエンジンオイルに添加するステップに進む、アルコール系燃料を使用するエンジンの潤滑油の性能を維持する方法および装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エタノール等のアルコール系燃料を使用する自動車用エンジンにおいて、燃料中の水分による潤滑油の性能劣化を防止する方法および装置に関する。
【背景技術】
【0002】
アルコール燃料の燃焼により生成する多量の水により、エンジンオイルの磨耗防止性能が低下する問題が知られており、その対策として、例えば、特許文献1は、鉱油及び/又は合成油基油に対して、(i)チオりん酸亜鉛系磨耗防止剤、(ii)無灰型防錆剤、を配合してなることを特徴とするアルコールエンジン用潤滑油組成物、を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平5−70786号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1が提案するようなアルコール燃料専用の潤滑油を用いるのではなく、汎用のエンジン用潤滑油の使用を前提とする新たな解決策が課題となっており、本発明は、この課題を解決しようとしてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の課題を解決するため、本発明のアルコール系燃料を使用するエンジンの潤滑油の性能を維持する方法は、エンジン制御信号に基づいて燃料の種類を判断する燃料判断ステップと、前記判断により、アルコール系燃料を使用していると判断した場合、エタノールをエンジンオイルに添加するエタノール添加ステップを備えたことを特徴とする。
【0006】
また、本発明のアルコール系燃料を使用するエンジンの潤滑油の性能を維持する方法は、上記燃料判断ステップの後に、計測した水温(冷却水温度)と所定の温度とを比較するステップを設け、前記所定の温度以下であると判断した場合にのみ前記エタノール添加ステップに進むことを特徴とする。
【0007】
また、本発明のアルコール系燃料を使用するエンジンの潤滑油の性能を維持する方法は、前記燃料判断ステップにより、100%のエタノール燃料を使用していると判断した場合、該燃料をエンジンオイルに添加するエタノール添加ステップにおいて、前記燃料を添加することを特徴とする。
【0008】
本発明のアルコール系燃料を使用するエンジンの潤滑油の性能を維持する装置は、上記の方法を使用することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明のアルコール系燃料を使用するエンジンの潤滑油の性能を維持する方法および装置によれば、アルコール系燃料の燃焼により生成された水がエンジンオイルに混入しても、エタノールの潤滑作用により、エンジンオイルの磨耗性能が低下することを防止できるので、アルコール系燃料のエンジン用の専用のエンジンオイルを用いる必要がなく、コスト的に有利である。
【0010】
また、エンジン冷却水の温度を計測することにより、エンジンオイルに水分の混入がよく起る低温時を特定して、エタノールを添加するので、エタノール添加の上記効果を維持しつつ、エタノールの使用量を節減することができる。
【0011】
また、100%のエタノール燃料を使用している場合には、エタノール燃料を直接、エンジンオイルに添加することができるので、効率的に上記効果を奏することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】エンジンオイル中のエタノールと水の混合条件と磨耗痕径の関係を示す。
【図2】本発明のアルコール系燃料を使用するエンジンの潤滑油の性能を維持する方法のフローチャートを示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
表1は、エンジンオイルにエタノールおよび水を混合して、エンジンオイルの磨耗防止性能の変化を、シェル4球式耐磨耗試験により評価した結果を示す。シェル4球式耐磨耗試験は、潤滑油中に置いた1個の回転球に三点接触するように3個の固定球を配置して、磨耗痕径を測定するものであり、ここでは、油温80℃、荷重30kgf、回転速度1200rpm、試験時間90min、という条件で行われた試験結果である。
【0014】
表1において、丸数字4、5、6は、いずれもオイルの割合は90%であり、希釈率としては10%となるが、水のみである丸数字5が最も高い磨耗痕径を示し、オイルの耐摩耗性が最も悪化している。また、丸数字6は、水がないものであるが、最も低い磨耗痕径を示し、オイルの耐摩耗性が最も良好である。
【0015】
さらに、丸数字2と5を比較してみると、丸数字2はより多くの水を含むにもかかわらず、磨耗痕径は低い数値を示している。これは、エタノールに潤滑作用があることの影響であると考えられる。
【0016】
【表1】

【0017】
以上のとおり、エンジンオイルに水の混入があると、耐摩耗性が悪化するが、エタノールの混入によりそれを抑制できることが示されている。
【実施例1】
【0018】
本発明の実施例1は、図2のフローチャートに示された方法と、その方法を用いた装置である。
エンジンコントロールユニットからのECU信号を読み取り、該ECU信号に基づいて、使用されている燃料が100%のエタノール燃料(E100)であるか否かを判断する。この判断結果がNOの場合には、通常制御に向かう。
【0019】
一方、この判断結果がYESの場合、すなわち使用燃料がE100の場合には、次のエンジン冷却水の温度を計測し、該計測温度が所定の温度以下であるか否かを判断する。この判断結果がNOの場合には、通常制御に向かう。
【0020】
これに対し、この判断結果がYESの場合、すなわちエンジン冷却水の計測温度が所定の温度以下である場合に、潤滑油中にエタノール燃料(E100)を噴射する。
【0021】
上記のエンジンオイル中の水分および添加されたエタノールは、エンジンオイルの温度が上昇すると蒸発するので、エタノール・水含有量が低下し、オイル性状が元に戻る結果となる。
【実施例2】
【0022】
本発明の実施例2は、次のステップから成る方法と、その方法を用いた装置である。
エンジンコントロールユニットからのECU信号を読み取り、該ECU信号に基づいて、使用されている燃料がアルコール系燃料であるか否かを判断する。この判断結果がNOの場合には、通常制御に向かう。
【0023】
一方、この判断結果がYESの場合、すなわち使用燃料がアルコール系燃料である場合には、次にエンジン冷却水の温度を計測し、該計測温度が所定の温度以下であるか否かを判断する。この判断結果がNOの場合には、通常制御に向かう。
【0024】
これに対し、この判断結果がYESの場合、すなわちエンジン冷却水の計測温度が所定の温度以下である場合に、潤滑油中にエタノール燃料を噴射する。
【0025】
なお、上記のステップのうち、エンジン冷却水の温度を計測し、該計測温度が所定の温度以下であるか否かを判断するステップは省略してもよい。
【0026】
以上のとおり、エタノール燃料(E100)は、燃料の相分離を起こさないために、水分を除去しておらず数%の水分を含むので、エタノールと共に水がエンジンオイル中に混入し、エンジンオイルが特に低温の時に、水の存在がエンジンオイルの磨耗悪化の原因となるが、エタノールの添加によりエタノール濃度を上昇させることにより、磨耗悪化を抑制するのである。
【0027】
100%のエタノール燃料(E100)以外のアルコール系燃料を使用する場合、ガソリンを含んでいるので、燃料をそのまま添加すると潤滑油の劣化促進が懸念されるため、エタノールを添加するのが好ましい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジン制御信号に基づいて燃料の種類を判断する燃料判断ステップと、
前記判断により、アルコール系燃料を使用していると判断した場合、エタノールをエンジンオイルに添加するエタノール添加ステップに進む、アルコール系燃料を使用するエンジンの潤滑油の性能を維持する方法。
【請求項2】
請求項1に記載された方法において、
前記燃料判断ステップの後に、計測したエンジン冷却水の温度と所定の温度とを比較するステップを設け、前記所定の温度以下であると判断した場合にのみ前記エタノール添加ステップに進む、アルコール系燃料を使用するエンジンの潤滑油の性能を維持する方法。
【請求項3】
請求項1に記載された方法において、
前記燃料判断ステップにより、100%のエタノール燃料を使用していると判断した場合、前記エタノール添加ステップにおいて、前記燃料をエンジンオイルに添加する、アルコール系燃料を使用するエンジンの潤滑油の性能を維持する方法。
【請求項4】
請求項1〜3に記載された方法を使用する、アルコール系燃料を使用するエンジンの潤滑油の性能を維持する装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−242644(P2010−242644A)
【公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−93209(P2009−93209)
【出願日】平成21年4月7日(2009.4.7)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】