説明

アルミニウム合金製構造部材および異材構造部材

【課題】アルミニウム合金製構造部材を他の鋼製構造部材と接合した異材構造部材とするに際して、組み合わされるアルミニウム合金材と鋼材との異材接合部分を有さないか、あるいは異材接合部分が少ない、アルミニウム合金製構造部材および異材構造部材を提供することを目的とする。
【解決手段】鋼製構造部材のアウタパネル1とインナパネル5との間に補強部材として介在させられるアルミニウム合金製構造部材10であって、構造部材としての必要形状に成形されたアルミニウム合金材の外縁部に、鋼板製のカラー14が予め一体に接合されており、このアルミニウム合金製構造部材10は、前記鋼製構造部材に対して組み付けられた上で、鋼板製のカラー14を介して、前記鋼製構造部材のアウタパネル1とインナパネル5のいずれか、あるいは両方と接合されて、異材構造部材とされることとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、異材構造部材用のアルミニウム合金製構造部材およびアルミニウム合金材と鋼材とを組み合わせた異材構造部材に関するものである。本発明の異材構造部材用のアルミニウム合金製構造部材および異材構造部材は、組み合わされるアルミニウム合金材と鋼材との異材接合部分を有さないか、あるいは異材接合部分が少ない。このため、自動車、鉄道車両などの輸送分野、機械部品、建築構造物等の、アルミニウム合金材と鋼材とが組み合わせられる可能性が高い構造部材に好適である。
【背景技術】
【0002】
アルミニウム合金材を自動車などの鋼材を用いた構造部材(鋼製構造部材)に組み合わせて適用することができれば、構造部材を軽量化でき、車体全体の軽量化に著しく寄与することができる。ここでアルミニウム合金材とは、純アルミニウムおよびアルミニウム合金を総称し、圧延板、押出形材、鍛造材、鋳造材などを含む。また、鋼材とは、鋼板、鋼型材、条鋼などの総称である。
【0003】
また、自動車の車体側面側に設置される鋼製パネル構造体には、基本的な特性である剛性や強度とともに、車室内の乗員を保護するために、近年、より基準が厳しくなった側面衝突やオフセット前面衝突に対する、耐変形性や耐座屈性が求められるようになっている。これらの鋼製パネル構造体としては、サイドシル(ロッカー)、ピラー、ドアなどがあり、アウタパネルとインナパネルとのパネル構造体からなる。
【0004】
このような新衝突基準に対して、圧壊や座屈あるいは変形の抑制のための強度確保という耐衝突性を確保するためには、パネル構造体などの鋼製構造部材に対して、アルミニウム合金材を補強部材として用いることが有利である。例えば、鋼製構造部材を構成するアウタパネルとインナパネルとの間に、アルミニウム合金材を補強部材として介在させれば、前記側面衝突などに対する耐変形性や耐座屈性を有利に向上させることができる。
【0005】
アルミニウム合金製補強部材は、軽量であるゆえに、肉厚を厚くすることによる厚肉化の補強効果が発揮できる。この点では、強度が高いハイテン(高強度薄鋼板)製の補強部材よりも、アルミニウム合金製補強部材の方が極めて有利である。ハイテンで厚肉化の補強効果を同様に発揮させようとすると、ハイテン自身の厚肉化には限界があるため、ハイテンを幾重にも(複数枚)重ね合わせる必要が生じ、部品点数が増すとともに、多大な重量増加となる。即ち、アルミニウム合金製補強部材は、同等の効果を発揮し得る鋼製補強部材に比して、これら補強部材の追加による重量増加も最小限に抑えることができる。また、部品点数も増さず、逆に、組み立て部材数の低減が可能になる。
【0006】
このため、従来から、自動車車体におけるアルミニウム合金材と鋼材とを組み合わせた異材構造部材として、例えば、以下の例が知られ、また採用されている。
(1)ドアビーム(アルミニウム合金中空形材製補強材)と鋼製ドアパネル。
(2)鋼製センターピラーやサイドシルなどの鋼製パネル構造体内へのアルミニウム合金中空形材を入れた補強。
(3)鋼製バンパやサイドメンバとアルミニウム合金中空形材製バンパステイやクラッシャブルボックス。
【0007】
ただ、これら自動車車体における、アルミニウム合金材と鋼材とを組み合わせた異材構造部材では、鋼材とアルミニウム材とを溶接接合する必要がある場合が多い。しかし、鋼材とアルミニウム材とを溶接接合する場合、接合部に脆い金属間化合物が生成しやすいために、信頼性のある、高強度化された接合部(接合強度)を得ることは非常に困難であった。
【0008】
これに対して、これら異材接合体の接合には、従来から、ボルトやリベット等、あるいは接着剤を併用した接合がなされている。しかし、アルミニウム合金材は、従来互いに溶接接合されていた鋼材同士の、一方の鋼材側の代替となる場合が多い。このため、溶接接合による生産工程として確率されている自動車車体の製造工程において、鋼材とアルミニウム材とを、従来から使用されている溶接接合ではなく、上記異なる接合方法を採用すると、車体構造物の組立工程の効率が著しく低下する。
【0009】
これが自動車車体の軽量化のためのアルミニウム合金材の大幅な適用拡大を阻んでいる大きな原因となっている。これに対して、これらアルミニウム合金材と鋼材とを、例えばスポット溶接できれば、自動車用車体などの組立工程の際に、鋼材のみを使用した自動車用車体のスポット溶接工程がそのまま使用できる、大きな利点がある。特に、大きな異材接合面積(長い異材接合長さ)を有する異材接合体、例えば、アルミニウム合金板を成形したパネルと、鋼板を成形したパネルとの異材接合体(異材接合パネル)を、スポット溶接できれば、この利点が大きい。
【0010】
そこで、従来より、これら異材接合体のスポット溶接法について多くの検討がなされてきている。例えば、高価なクラッド材またはインサート材を用いることなく、異種材料を確実にかつ高強度に接合できるスポット溶接方法として、鋼板同士の間にアルミニウム板を挟み込んで、三層あるいは四層、六層など多層に重ねることが開示されている(特許文献1、2、3参照)。
【0011】
この技術では、これら多層の重ね部を一対の電極で挟持し、電極間に大電流を短時間流して、スポット溶接域からアルミニウム板の溶融部を排除してしまう。この結果、溶接部としては、アルミニウム板を介さずに、鋼板同士を直接的に接合させ、接合界面に金属間化合物が生成するのを抑えるものである。そして、この実施の形態として、鋼板の端縁部をヘミング加工により曲げ返すと同時に、この曲げ返し片と鋼板との間にアルミ板を挟み込み、この三層の重ね部をスポット溶接する例などが開示されている。
【特許文献1】特開平7−328774号公報
【特許文献2】特開平9−155561号公報
【特許文献3】特開2003−236673号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
確かに、これら従来技術でも、スポット溶接による継手の接合強度の向上効果は認められる。しかし、これら鋼材とアルミニウム材とを溶接接合した異材接合体(あるいは異材溶接継手)を自動車などの構造部材に適用することを考えると、自動車の衝突時などに負荷される大荷重(応力)に対する継手強度が必要である。これに対する十分な継手強度あるいは接合強度を、これら従来技術では、未だ得られていない。この結果、鋼材とアルミニウム材とのスポット溶接は、自動車などの構造部材に、未だ実用化されていない。
【0013】
この十分な継手強度あるいは接合強度が得られない傾向は、鋼板表面に電気亜鉛めっきや溶融亜鉛合金化めっきが施されている、亜鉛めっき鋼板(亜鉛めっき鋼材)の場合に著しい。そして、自動車車体用には、この種亜鉛めっき鋼板が周知の通り汎用されている。したがって、この点も、前記した、鋼材とアルミニウム材とのスポット溶接が、自動車などの構造部材で未だ実用化されていない大きな要因となっていた。
【0014】
このため、本発明は、アルミニウム合金製構造部材を他の鋼製構造部材と接合した異材構造部材とするに際して、組み合わされるアルミニウム合金材と鋼材との異材接合部分を有さないか、あるいは異材接合部分が少ない、アルミニウム合金製構造部材および異材構造部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記目的を達成するための、本発明アルミニウム合金製構造部材の要旨は、鋼製構造部材のアウタパネルとインナパネルとの間に補強部材として介在させられるアルミニウム合金製構造部材であって、構造部材としての必要形状に成形されたアルミニウム合金材の外縁部に、鋼板製のカラーが予め一体に接合されており、このアルミニウム合金製構造部材は、前記鋼製構造部材に対して組み付けられた上で、前記鋼板製のカラーを介して、前記鋼製構造部材のアウタパネルとインナパネルのいずれか、あるいは両方と接合されて、異材構造部材とされることである。
【0016】
前記アルミニウム合金製構造部材と前記他の鋼製構造部材とが、互いに前記鋼板製のカラーの部分のみで接合されている態様であれば、前記アルミニウム合金製構造部材と前記他の鋼製構造部材とが直接接合されたアルミニウム合金と鋼との異材接合部分を有さずに、好ましい。前記アルミニウム合金材の具体的な態様としては、パネル、押出形材が好ましい。また、押出形材は補強材として中空形材であることが好ましい。前記アルミニウム合金材の肉厚は、補強材として3mm以上であることが好ましい。
【0017】
また、上記目的を達成するための、本発明異材構造部材の要旨は、上記したいずれかの態様のアルミニウム合金製構造部材が鋼製構造部材と接合された異材構造部材であって、このアルミニウム合金製構造部材は、鋼製構造部材を構成するアウタパネルとインナパネルとの間に、補強部材として介在させられるとともに、このアルミニウム合金製構造部材は、構造部材としての必要形状に成形されたアルミニウム合金材の外縁部に、鋼板製のカラーが予め一体に接合されており、このアルミニウム合金製構造部材が、前記鋼製構造部材に対して組み付けられた上で、前記鋼板製のカラーを介して、前記鋼製構造部材のアウタパネルとインナパネルのいずれか、あるいは両方と接合されていることである。
【0018】
前記異材構造部材がピラー、サイドシル、ルーフサイドレールから選択されることが好ましい。
【0019】
また、前記アルミニウム合金製構造部材が自動車車体組み立て工程とは別の工程で予め製造されており、このアルミニウム合金製構造部材が自動車車体組み立て工程の中で、前記鋼板製のカラーを介して、前記鋼製構造部材のアウタパネルとインナパネルのいずれか、あるいは両方と接合されたものであることが好ましい。
【発明の効果】
【0020】
本発明では、アルミニウム合金製構造部材の外縁部に、鋼板製のカラー(襟、張出片の意味)を、通常の自動車車体組み立て工程とは別の工程で(通常の自動車車体組み立て工程の外で)、予め一体に接合して、本発明アルミニウム合金製構造部材を組み付け、製造しておく。そして、この本発明アルミニウム合金製構造部材を、通常の自動車車体組み立て工程の中で、前記鋼板製のカラーを介して、前記鋼製構造部材のアウタパネルとインナパネルのいずれか、あるいは両方と接合する。
【0021】
これによって、自動車車体組み立て工程などの接合手段や接合条件、工程条件などの様々の制約を受けずに、前記鋼板製のカラーとアルミニウム合金製構造部材との異材接合の接合手段の自由度が保証される。このため、異材接合部分を接合するための、後述する様々な接合手段の選択と組み合わせが可能であり、これによって、異材接合であっても、接合強度を保証することが可能となる。また、予め一体とされた鋼板製のカラーとアルミニウム合金製構造部材とは一個のユニット乃至モジュールとして、通常の自動車車体組み立て工程において鋼製構造部材に組み付けることができる。
【0022】
そして、この組み付けの上で、前記鋼板製のカラー14、14を介して、前記鋼製構造部材のアウタパネルとインナパネルのいずれか、あるいは両方と接合できる。この場合、前記鋼板製のカラーによって、互いの構造部材におけるアルミニウム合金と鋼との、アルミニウム合金製構造部材と鋼製構造部材とが直接接合された異材接合部分を有さないか、あるいは、この異材接合部分を少なくできる。そして、異材構造部材の接合部を、鋼材同士の接合部のみか、実質的に鋼材同士の接合部を主体とできる。
【0023】
したがって、通常の鋼材同士に用いられるスポット溶接などの接合手段と接合条件とを用いることができ、通常の鋼材同士と同様な接合方法と装置とを用いることが可能であり、アルミニウム合金製構造部材を使用する際にも、自動車車体の生産工程(ライン)を効率的にできる。通常、アルミニウム合金製構造部材を使用する際には、互いの接合性などの問題から、鋼製自動車車体の生産工程の大がかりなライン変更が必要となりやすいが、本発明アルミニウム合金製構造部材には、このような必要が無い。言い換えると、アルミニウム合金製構造部材との異材構造部材としても、工程変更や生産効率を落とさずに、通常の鋼材同士の構造部材と同程度の効率が確保できる。
【0024】
また、本発明アルミニウム合金製構造部材は、通常の自動車車体組み立て工程とは別の(外の)専用工程で製造できるために、生産効率を問題にせずとも、逆に、異材構造部材の接合強度の調整や、管理あるいは工程変更が行いやすい。これによって、鋼材同士の構造部材の接合強度や強度並に近づけるための、特別な接合方法、接合条件、あるいは熱処理を行うことも可能となる。
【0025】
これによって、3mm以上の肉厚が大きなアルミニウム合金製構造部材を、鋼製構造部材の補強部材として組み付けることが可能となり、鋼製構造部材の構造強度、特に、自動車の車体構造部材として、衝突に対応する構造強度を確保することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下に、本発明の実施態様を具体的に説明する。図1、2に、本発明アルミニウム合金製構造部材と、本発明アルミニウム合金製構造部材を鋼製構造部材に接合した異材構造部材の一態様を各々斜視図と横方向の断面図とで示す。図3に、図1の本発明アルミニウム合金製構造部材の他の態様を斜視図で示す。更に、図4、5に、本発明アルミニウム合金製構造部材と、本発明アルミニウム合金製構造部材を鋼製構造部材に接合した異材構造部材の別の態様を各々斜視図と横方向の断面図とで示す。
【0027】
(アルミニウム合金製構造部材)
図1、2の本発明アルミニウム合金製構造部材は、特に、自動車の車体側面側に設置される鋼製パネル構造体としてのセンタ−ピラー(Bピラー)の補強を意図した態様である。
【0028】
図1、2において、アルミニウム合金製構造部材10は、センタ−ピラー(鋼製構造部材)を構成するアウタパネル1とインナパネル5との間に、補強部材として介在させられる。このことを前提に、アルミニウム合金製構造部材10は、センタ−ピラーの構造、形状に対応した、構造部材としての必要形状である断面が略HAT(帽子)型をしている。
【0029】
アルミニウム合金製構造部材10のHAT型断面は、平坦な頂部11と、この頂部11の側縁から縦方向(図の後ろ方向)に各々張り出す両側の縦壁12、12と、縦壁12、12から横方向(図の左右方向)に各々張り出す両側のフランジ13、13とによって形成されている。
【0030】
そして、このHAT型断面形状は、組み込まれるセンタ−ピラーの構造、形状に対応して、その長手方向におなじではなく、下手に行くに従い、HAT型が横方向(図の左右方向)に拡がる末広がり形状に成形されている。このような形状は、アルミニウム合金圧延板か平板状押出材をプレス成形することによって、簡便に得られる。
【0031】
(鋼板製のカラー)
このようなアルミニウム合金製構造部材10の外縁部を形成する、縦壁12、12やフランジ13、13に対して、鋼板製のカラー14、14(襟、張出片)が、フランジ13、13の側方(図の左右方向)に各々張り出す形で、各々一体に取り付けられている。この鋼板製のカラー14、14は、アルミニウム合金製構造部材10に取り付けやすいように、その一端は、HAT型断面の縦壁12やフランジ13に対応した断面乃至平面形状を有している。また、その他端は、センタ−ピラーを構成するアウタパネル1とインナパネル5と接合しやすいように、HAT型断面のフランジ13よりも横方向(図の左右方向)に張り出すとともに、これらアウタパネル1やインナパネル5に対応した断面乃至平面形状を有している。
【0032】
図1、2の態様では、鋼板製のカラー14、14は、アルミニウム合金製構造部材10側の外縁部を形成する縦壁12、12やフランジ13、13が形成する外縁形状に対応して、全体が略L字状の断面形状を有している。また、センタ−ピラーを構成するアウタパネル1とインナパネル5側に対して張り出し、これらパネルと接合される側は平板状のフランジ形状をしている。
【0033】
なお、鋼板製のカラー14、14は、以上の形状とともに、アルミニウム合金製構造部材10への設け方も、センタ−ピラーを構成するアウタパネル1とインナパネル5と接合しやすいように設けられる。即ち、図1の態様では、鋼板製のカラー14、14は、アルミニウム合金製構造部材10の長手方向の長さに略等しく、アルミニウム合金製構造部材10の長手方向に亙って設けられている。これに対して、例えば、図3の鋼板製のカラー17、17の態様に示すように、鋼板製のカラーを、アルミニウム合金製構造部材10の長手方向に亙って、部分的、断片的に、間隔を開けて、複数枚設けても良い。
【0034】
(鋼板製カラーの異材接合)
これら鋼板製のカラー14、14は、アルミニウム合金製構造部材10の鋼製構造部材への組み付け前に、予めアルミニウム合金製構造部材10に、一体に接合しておく。鋼板製のカラー14、14とアルミニウム合金製構造部材10との接合は異材接合であり、これを鋼製構造部材への組み付け前に、自動車車体組み立て工程とは別の工程にて、予め完了しておくことが、本発明の要点である。
【0035】
これによって、自動車車体組み立て工程などの接合手段や接合条件、工程条件などの様々の制約を受けずに、鋼板製のカラー14、14とアルミニウム合金製構造部材10との異材接合を別途に、あるいは独自に行なうことができる。言い換えると、鋼板製のカラー14、14とアルミニウム合金製構造部材10との異材接合の接合手段の自由度や接合強度などが保証される。
【0036】
このため、図1、2において、×印15で例示する、鋼板製のカラー14、14とアルミニウム合金製構造部材10との異材接合部分を、スポット溶接、FSWなどの溶接接合や、接着剤による接着、セルフピアシングリベットや通常のボルト、ナットなどの様々な接合手段の選択と組み合わせとが可能となる。この点、補強対象となる鋼製構造部材の耐衝突性(耐変形性や耐座屈性)などの要求補強特性に応じた、補強材としての必要接合強度に応じて、接合手段の選択と組み合わせを行う。これによって、異材接合であっても、接合強度を保証することが可能となる。なお、図1、2の態様では、×印15で例示する異材接合部分を、横方向では、鋼板製のカラー14の14a側の二箇所(アルミニウム合金製構造部材10の縦壁12とフランジ13の二箇所)とし、縦方向では、鋼板製のカラー14の長手方向に亙った複数箇所としている。この異材接合部分は、上記した補強材としての必要接合強度と選択された接合手段に応じて、位置や個数を選択する。
【0037】
以上の態様によって、予め一体とされた鋼板製のカラー14、14とアルミニウム合金製構造部材10とは、一個のユニット乃至モジュールとして、通常の自動車車体組み立て工程において、センタ−ピラーなどの鋼製構造部材に組み付けることができる。この組み付けによって、前記鋼板製のカラー14、14を介して、前記鋼製構造部材のアウタパネルとインナパネルのいずれか、あるいは両方と接合できる。
【0038】
このため、異材構造部材の異材接合部分を有さないか、あるいは、この異材接合部分を少なくでき、異材構造部材の接合部を、鋼材同士の接合部のみか、実質的に鋼材同士の接合部を主体とできる。したがって、通常の鋼材同士に用いられる、効率的で低コストなスポット溶接などの接合手段と接合条件とを用いることができ、大がかりな接合手段と接合条件との変更が不要で、通常の鋼材同士と同様に、自動車車体の生産工程が効率的となる。また、異材構造部材の接合強度も、前記した通り、アルミニウム合金製構造部材が自動車車体の生産工程とは別工程で製造できるために、鋼材同士の構造部材の接合強度並に近づけることができる。
【0039】
ここで、鋼板製のカラー14、14とアルミニウム合金製構造部材10との異材接合に際しては、溶接による接合に支障が無い厚みで、両者の間に樹脂(層)を介在させて絶縁することが好ましい。これにより、電食と称せられる、異種金属同士の界面に生じやすい腐食を確実に防止できる。この樹脂層の介在がないと、自動車車体としての塗装が施されるものの、アルミニウム合金と鋼との異種金属同士の接触による電食が生じる可能性がある。この種の樹脂としては、金属の絶縁用あるいは防食用に、汎用乃至市販されている種々の樹脂が使用できる。また、樹脂層の必要な厚みも、これら汎用乃至市販されている樹脂の使用マニアルに従うが、1μm〜500μmのごく薄い厚みで良い。
【0040】
(アルミニウム合金材)
アルミニウム合金製構造部材10は、補強材用途の構造部材としての必要形状に成形されたアルミニウム合金材からなる。図1、2、3のアルミニウム合金製構造部材10は、前記した通り、アルミニウム合金材であるアルミニウム合金圧延板か平板状押出材をプレス成形したものである。
【0041】
アルミニウム合金材は、補強材用途の構造部材としての必要形状や、その形状への成形性、あるいは必要肉厚などに応じて、板、板を成形したパネル、押出形材、押出形材の内の中空形材などが、適宜選択される。例えば、圧延板であれば広幅や成形しやすい構造部材形状、あるいは図1、3に示したセンターピラーの末拡がりなどの長手方向に断面形状が変化する場合に適する。また、押出形材であれば、複雑形状や厚肉化による補強効果を増すために、アルミニウム合金材の肉厚を3mm以上に厚肉化したり、必要部分のみを厚肉化する差厚化が可能である。
【0042】
なお、図1〜3のアルミニウム合金製構造部材10は、単板(1枚)のアルミニウム合金板からなる態様を示している。しかし、補強材用途の構造部材としての必要強度や板厚によって、単板のみではなく、アルミニウム合金板を二重(2枚)、三重(3枚)に重ね、互いを接合して一体化して使用しても良い。
【0043】
(アルミニウム合金)
アルミニウム合金材に使用するアルミニウム合金は、自動車車体などとして、軽量化と高強度化、あるいは高成形性、溶接性などの要求特性が特に求められる場合には、このような特性に優れたアルミニウム合金を選択する。例えば、強度の優れたAl−Zn−Mg−Cu系やAl−Zn−Mg系(7000系)合金、成形性や溶接性の良いAl−Mg系(5000系)合金、合金元素が少なくリサイクル性に優れ、時効硬化性を有するAl−Mg−Si系(6000系)合金などが例示される。
【0044】
(鋼材)
本発明で鋼板製のカラー14、14に使用する鋼材は、組み付け乃至接合される、鋼製構造部材のアウタパネルやインナパネルと、必ずしも同一とする必要は無いが、同じ種類であるなど、これに対応した鋼材が選択される。補強材として接合される相手の鋼製構造部材への組み付けや接合のしやすさを考慮して、鋼板を成形したパネル形状が最も汎用的であるが、その他、型鋼や鋼管などであっても良い。また、熱間圧延鋼板、冷間圧延鋼板(SPCC鋼板)などの軟鋼あるいは高張力鋼の板や条鋼(条、線、棒、管など)、これに亜鉛メッキなどの表面処理を施した鋼板、またはステンレス鋼板などが適宜使用できる。要は、抵抗スポット溶接などの汎用される溶接接合が可能な鋼材であるならばいずれでもよい。ただ、軽量化と高強度化の両方が求められる場合には、高張力鋼を用いることが好ましい。
【0045】
(異材構造部材)
図2に、上記図1の、本発明アルミニウム合金製構造部材10を鋼製構造部材に接合した異材構造部材の横断面を示す。図2において、1は例えばセンタ−ピラーの鋼製アウタパネル、5は例えばセンタ−ピラーの鋼製インナパネルである。
【0046】
図2において、アルミニウム合金製構造部材10は、センタ−ピラーとしての鋼製構造部材を構成するアウタパネル1とインナパネル5との間の空間に、補強部材として介在させられている。ここで、センタ−ピラーに限らず、鋼製構造部材(アウタパネル1とインナパネル5)側の構造や形状は、自動車車体製作側の設計によって定まるものであり、本発明では何ら制約は無い。
【0047】
ただ、センタ−ピラーなどのパネル構造材に共通する構造として、アウタパネル1は、構造部材としての必要形状である断面がHAT(帽子)型をし、車体側面側(図の上側)に張り出す平坦な頂部2と、この頂部2の側縁から縦方向(図の下側)に各々張り出す両側の縦壁3、3と、縦壁3、3から横方向(図の左右方向)に各々張り出す両側のフランジ4、4とによって形成されている。
【0048】
また、インナパネル5も、構造部材としての必要形状として、アウタパネル1と同様、断面がHAT(帽子)型をしている。そして、車体内部側(図の下側)に張り出す平坦な頂部6と、この頂部6の側縁から縦方向(図の上下方向)に各々張り出す両側の縦壁7、7と、縦壁7、7から横方向(図の左右側)に各々張り出す両側のフランジ8、8によって形成されている態様を示している。
【0049】
図2において、○印16で示す接合部分が、アルミニウム合金製構造部材10における鋼板製のカラー14と、インナパネル鋼板5のフランジ8、8との、鋼材同士の同種の接合部分である。また、×印15で示す接合部分が図1で説明した鋼板製のカラー14とアルミニウム合金製構造部材10の縦壁12とフランジ13との二箇所の異材接合部分である。
【0050】
この○印16で示す同種接合部分は、スポット溶接などの、通常の鋼材同士の汎用接合手段が使用でき、アルミニウム合金製構造部材10を使用するにもかかわらず、接合効率と接合強度が確保できることが大きな利点である。この同種接合部分は、上記した補強材としての必要接合強度や互いの設計形状に応じて、インナパネル鋼板5との接合箇所、位置、接合個数は適宜選択される。また、場合によっては、図4のサイドシルの態様に示すように、鋼板製のカラー14を、インナパネル鋼板5とともに、アウタパネル鋼板1とも接合しても良い。なお、本態様では、鋼板製のカラー14を介して、○印16で示す同種接合部分のみで、アルミニウム合金製構造部材10と、インナパネル鋼板5やアウタパネル鋼板1とを接合する態様を示している。この態様以外に、場合によっては、鋼板製のカラー14を介さずに、アルミニウム合金製構造部材10とインナパネル鋼板5やアウタパネル鋼板1などとを、直接異材接合しても良いが、その必要性自体は薄い。
【0051】
(この他の態様)
図4、5は、本発明異材接合体の前記センターピラーなど以外の他の態様として、サイドシルあるいはルーフサイドレールなどの補強の態様を示している。
【0052】
図4において、アルミニウム合金製構造部材10は、前記図1〜3のパネル形状とは違い、アルミニウム合金押出中空形材から構成されている。即ち、断面形状が略田の字状をした中空部18と、これから側方(図の上下方向)に各々張り出したフランジ19、19とから構成される。
【0053】
アルミニウム合金製構造部材10を、このように押出中空形材とすることによって、複雑形状とでき、また肉厚を3mm以上に厚肉化できて補強効果を増すことができる。また、押出中空形材の必要部分のみを厚肉化して、他の部分は薄肉化し、軽量化を図ることもできる。
【0054】
この図4の態様でも、前記した図1の態様と同様に、鋼板製のカラー20、20は、アルミニウム合金製構造部材10のフランジ19、19の形状に対応し、アウタパネルとインナパネルと接合しやすいような略L字状の断面乃至平面形状を有している。なお、この鋼板製のカラー20、20をフランジ19、19と同じく平板状としても良い。
【0055】
また、鋼板製のカラー20、20は、アルミニウム合金製構造部材10の長手方向に亙って設けられているが、勿論、前記図3に示したように、アルミニウム合金製構造部材10の長手方向に亙って、部分的に、あるいは断片的に間隔を開けて、複数枚設けても良い。
【0056】
図5において、アルミニウム合金製構造部材10は、鋼製構造部材を構成するアウタパネル1とインナパネル5との間の空間に、補強部材として介在させられている点は図1〜3のパネル形状と同じである。
【0057】
図5あるいは前記図4において、×印15で示す接合部分が、鋼板製のカラー20、20と、アルミニウム合金製構造部材10のフランジ19、19との、予め接合される異材接合部分である。また、図5において、○印16で示す接合部分が、アルミニウム合金製構造部材10における鋼板製のカラー20と、インナパネル鋼板5のフランジ8、アウタパネル鋼板1のフランジ4の、各フランジ部との、鋼材同士の同種の接合部分である。
【0058】
なお、図5におけるアウタパネル1やインナパネル5が、サイドシルあるいはルーフサイドレールなどの必要断面形状として、頂部と、この頂部の側縁から各々張り出す両側の縦壁と、この縦壁から各々張り出した両側のフランジによって形成されているHAT型断面を有している点は、前記図1〜3と同様である。
【0059】
以上説明した態様において、鋼製構造部材を構成するアウタパネル1とインナパネル5とが両方とも鋼板製の場合について説明した。これに対して、この他の態様として、鋼製構造部材の軽量化のために、この内のアウタパネル1か、インナパネル5かの、いずれかをアルミニウム合金板製パネルとしても良い。この場合には、アルミニウム合金製構造部材10における鋼板製のカラー14、17、20は、同種同士の接合となる、鋼板製である側のアウタパネル1かインナパネル5かの、いずれかのみと接合することとなる。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明によれば、アルミニウム合金製構造部材を他の鋼製構造部材と接合した異材構造部材とするに際して、組み合わされるアルミニウム合金材と鋼材との異材接合部分を有さないか、あるいは異材接合部分が少ない、アルミニウム合金製構造部材および異材構造部材を提供できる。したがって、鋼材とアルミニウム材との複合材化を簡便に可能にし、自動車車体などでの異材構造部材化を拡大できる。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】本発明アルミニウム合金製構造部材を接合した本発明異材構造部材の態様を例示する斜視図である。
【図2】図1の断面図である。
【図3】本発明アルミニウム合金製構造部材を接合した本発明異材構造部材の他の態様を例示する斜視図である。
【図4】本発明アルミニウム合金製構造部材の他の態様を例示する斜視図である。
【図5】図4のアルミニウム合金製構造部材を接合した本発明異材構造部材の態様を 例示する断面図である。
【符号の説明】
【0062】
1:アウタパネル、2:頂部、3:縦壁、4:フランジ、5:インナパネル、
6:頂部、7:縦壁、8:フランジ、10:アルミニウム合金製構造部材、
11:頂部、12:縦壁、13:フランジ、
14、17、20:鋼板製のカラー、15:異材接合部、16:同種接合部、
18:中空部、19:フランジ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼製パネル構造部材のアウタパネルとインナパネルとの間に補強部材として介在させられるアルミニウム合金製構造部材であって、構造部材としての必要形状に成形されたアルミニウム合金材の外縁部に、鋼板製のカラーが予め一体に接合されており、このアルミニウム合金製構造部材は、前記鋼製構造部材に対して組み付けられた上で、前記鋼板製のカラーを介して、前記鋼製構造部材のアウタパネルとインナパネルのいずれか、あるいは両方と接合されて、異材構造部材とされることを特徴とするアルミニウム合金製構造部材。
【請求項2】
前記アルミニウム合金製構造部材と前記他の鋼製構造部材とが、互いに前記鋼板製のカラーの部分のみで接合されており、前記アルミニウム合金製構造部材と前記他の鋼製構造部材とが直接接合されたアルミニウム合金と鋼との異材接合部分を有さない、請求項1に記載のアルミニウム合金製構造部材。
【請求項3】
前記アルミニウム合金材が板材である請求項1または2に記載のアルミニウム合金製構造部材。
【請求項4】
前記アルミニウム合金材が押出形材である請求項1または2に記載のアルミニウム合金製構造部材。
【請求項5】
前記アルミニウム合金材が中空形材である請求項4に記載のアルミニウム合金製構造部材。
【請求項6】
前記アルミニウム合金材の肉厚が3mm以上である請求項1乃至5のいずれか1項に記載のアルミニウム合金製構造部材。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載のアルミニウム合金製構造部材が鋼製構造部材と接合された異材構造部材であって、このアルミニウム合金製構造部材は、鋼製構造部材を構成するアウタパネルとインナパネルとの間に、補強部材として介在させられるとともに、このアルミニウム合金製構造部材は、構造部材としての必要形状に成形されたアルミニウム合金材の外縁部に、鋼板製のカラーが予め一体に接合されており、このアルミニウム合金製構造部材が前記鋼製構造部材に対して組み付けられた上で、前記鋼板製のカラーを介して、前記鋼製構造部材のアウタパネルとインナパネルのいずれか、あるいは両方と接合されていることを特徴とする異材構造部材。
【請求項8】
前記異材構造部材がピラー、サイドシル、ルーフサイドレールから選択される請求項7に記載の異材構造部材。
【請求項9】
前記アルミニウム合金製構造部材が自動車車体組み立て工程とは別の工程で予め製造され、このアルミニウム合金製構造部材が自動車車体組み立て工程の中で、前記鋼板製のカラーを介して、前記鋼製構造部材のアウタパネルとインナパネルのいずれか、あるいは両方と接合された請求項7または8に記載の異材構造部材。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2008−240969(P2008−240969A)
【公開日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−85311(P2007−85311)
【出願日】平成19年3月28日(2007.3.28)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願〔平成18年度 経済産業省 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)からの委託研究、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受けるもの〕
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】