説明

アルミニウム管の製造方法

【課題】連続引抜により、高寸法精度と高表面品質を維持しながら効率良くアルミニウム管を製造する。
【解決手段】押出素管(W)に対してNパスの連続引抜加工を行ってアルミニウム管を製造するに際し、(N−1)パス後の引抜管(10)の最高温度部と最低温度部との表面温度差が10℃以下となるように冷却した後に、Nパス目の引抜加工を行う。冷却は、例えば(N−1)パス目の引抜加工装置(31)において、引抜用工具(1)(6)の出側に冷却装置(21)(22)を配置して引抜管(10)冷却媒体を供給することにより行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば複写機、レーザービームプリンタ、ファクシミリ等の電子写真装置におけるOPC感光ドラム用基体として好適に用いられる、寸法精度に優れたアルミニウム管の製造方法に関する。
なお、この明細書および特許請求の範囲において、「アルミニウム」の語はアルミニウムおよびアルミニウム合金を含む意味で用いる。また、「Nパス」「(N−1)パス」「N台」の「N」は2以上の整数の意味で用いる。
【背景技術】
【0002】
複写機、レーザービームプリンタ、ファクシミリ等の電子写真装置におけるOPC感光ドラム用基体は、均一なOPC塗膜を塗工するための基体という性質上、比較的鏡面に近い表面状態であることが望まれる。従来は、アルミニウム管を切削することにより鏡面仕上げされていたが、切削用刃具の調整や管理が容易でなく、しかも作業に熟練を要することから大量生産に不向きであるという問題があった。
【0003】
そこで、近年では、アルミニウム圧延板をしごき加工したDI管や、アルミニウム押出素管をしごき加工したEI管、アルミニウム押出素管を引抜加工したED管などの無切削管が、感光ドラム用基体として多用される様になってきている。中でも、ED管は他の無切削管と異なり、10本以上の製品管を1回の引抜工で生産できるため大量生産に向いており、市場拡大に伴う大量消費に応える製法として注目されている。
【0004】
このED管は、まずアルミニウム製のビレットを押出してアルミニウム押出素管を得、該押出素管を所定長さに切断した後、引抜加工を行って、所定形状(外径、内径、肉厚)に規定されたアルミニウム管を得、切断、端部の面取り加工、洗浄を行い、寸法と外観を検査することによって製造されている。
【0005】
かかる感光ドラム用基体用アルミニウム管の引抜加工においては、高度の表面平滑性と寸法精度を得るための引抜加工装置が提案されている(特許文献1、2)。特許文献1に記載の引抜用金型は、高度の表面平滑性を達成するために、ダイスのアプローチ角とベアリング長さを規定したものである。また、特許文献2に記載の引き抜き加工機は、素管を洗浄して表面付着物を除去するとともに管の外径を計測し、計測した外径に基づいて引抜速度を制御することにより管径管理を精度良く行うようにしたものである。
【特許文献1】特開昭63−188422号公報
【特許文献2】特開2004−283864号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年、電子写真装置の出力画像に求められる画像品質は図、写真の多用とともに高まっており、感光ドラム用基体の表面品質はもとより、なお一層高い寸法精度が要求されようになっている。
【0007】
しかしながら、上述したように長い製造工程を経て作られるED管は、ビレットの成分、押出素管の外径・肉厚・硬度等の多くのバラツキ要素を含んでいるため、容易に寸法精度を高めることができなかった。
【0008】
管の寸法精度を高めるための方法として複数回の引抜を行うことも行われているが、それでもなお寸法精度の良いアルミニウム管を安定して製造することは困難であった。
【0009】
また、Nパスの引抜を行う場合、(N−1)パス後の半製品は台上に積み上げて保管し、その間に引抜ダイスやプラグを交換し、その後Nパスの引抜に投入するという作業手順が一般的であるが、Nパス前の保管時および搬送時に管の変形や損傷、汚れが生じることがあった。さらに、アルミニウム管を大量生産する場合は、(N−1)パス後の半製品を保管することは現実的ではなく、(N−1)パスとNパスを連続して引抜くことも行われている。連続引抜を行うと、保管時の変形等の問題は低減した。しかし、それでもなお先端部(引き始めの部分)よりも後端部(引き終わりの部分)の外径が小さくなって寸法精度が低下することがあり、高水準で要求される外径寸法規格を満足できないことがあった。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上述した背景技術に鑑み、表面温度が寸法精度に影響を及ぼしていることを見出し、高寸法精度と高表面品質を維持しながら、効率良くアルミニウム管を製造できるアルミニウム管の製造方法の提供を目的とする。
【0011】
即ち、本発明のアルミニウム管の製造方法およびこの製造方法を実施するためのアルミニウム管の製造装置は下記[1]〜[15]に記載の構成を有する。
【0012】
[1]押出素管に対してNパスの連続引抜加工を行ってアルミニウム管を製造するに際し、
(N−1)パス後の引抜管の最高温度部と最低温度部との表面温度差が10℃以下となるように冷却した後に、Nパス目の引抜加工を行うことを特徴とするアルミニウム管の製造方法。
【0013】
[2](N−1)パス後の引抜管の最高温度部の表面温度が50℃以下となるように冷却する前項1に記載のアルミニウム管の製造方法。
【0014】
[3](N−1)パス後の冷却された引抜管において、最高温度部は引抜方向の後端部であり、最低温度は引抜方向の先端部である前項1または2に記載のアルミニウム管の製造方法。
【0015】
[4](N−1)パス目の引抜加工を、引抜管の後端部の表面温度が90℃以下となる条件で行う前項1〜3のいずれかに記載のアルミニウム管の製造方法。
【0016】
[5](N−1)パス目の引抜加工において、引抜管の断面積減少率が40%未満であり、かつ引抜速度が60m/分未満である前項4に記載のアルミニウム管の製造方法。
【0017】
[6]前記引抜管に冷却媒体を供給することにより冷却する前項1〜5のいずれかに記載のアルミニウム管の製造方法。
【0018】
[7](N−1)パス目の引抜加工において、引抜用工具の出側で引抜きながら引抜管を冷却する前項6に記載のアルミニウム管の製造方法。
【0019】
[8](N−1)パス目の引抜加工が完了した後、その引抜管を冷却する前項6または7に記載のアルミニウム管の製造方法。
【0020】
[9]前記冷却媒体を引抜管の周方向の全体から供給する前項6〜8のいずれかに記載のアルミニウム管の製造方法。
【0021】
[10]前記冷却媒体を引抜管の後端から先端に向けて供給する前項8に記載のアルミニウム管の製造方法。
【0022】
[11]前記冷却媒体が、アルミニウムに対して非酸化性かつ非腐食性の液体または気体である前項6〜10のいずれかに記載のアルミニウム管の製造方法。
【0023】
[12]前記冷却媒体が、引抜油、エアー、窒素ガスのうちの少なくとも1種である前項11に記載のアルミニウム管の製造方法。
【0024】
[13]前記アルミニウム管は感光ドラム用基体である前項1〜12のいずれかに記載のアルミニウム管の製造方法。
【0025】
[14]前記アルミニウム管は、Al−Mn系合金、Al−Mg系合金、Al−Mg−Si系合金、純アルミニウムのいずれかからなる前項1〜13のいずれかに記載のアルミニウム合金の製造方法。
【0026】
[15]N台の引抜加工装置を並設し、Nパスの連続引抜加工を行うアルミニウム管の製造装置であって、
(N−1)パス目の引抜加工装置において、引抜用工具の出側に冷却媒体を噴出させる冷却装置が設けられ、引抜中の引抜管に冷却媒体を供給するものとなされていることを特徴とするアルミニウム管の製造装置。
【発明の効果】
【0027】
上記[1]に記載のアルミニウム管の製造方法は、(N−1)パス後の引抜管の温度差が10℃以下になるように冷却した後、最終パスであるNパス目の引抜きを連続的に行うものであるから、最終的に製造される引抜管の寸法精度を向上させ、寸法精度の良い引抜管を効率良く製造することができる。従って、連続引抜加工による高表面品質を維持しつつ、寸法精度の高いアルミニウム管を効率良く製造することができる。
【0028】
上記[2]に記載のアルミニウム管の製造方法によれば、最終的に製造される引抜管の寸法精度をさらに向上させることができる。
【0029】
上記[3]に記載のアルミニウム管の製造方法によれば、(N−1)パス後の引抜管の温度管理を容易に行うことができる。
【0030】
上記[4][5]に記載のアルミニウム管の製造方法によれば、最終のNパス目の引抜きにおける焼き付きを抑制して表面品質の良いアルミニウム管を製造できる。
【0031】
上記[6]に記載のアルミニウム管の製造方法によれば、引抜管の冷却が容易である。
【0032】
上記[7]に記載のアルミニウム管の製造方法によれば、冷却のための時間を別途設けることなく引抜中に冷却することができるので、連続引抜加工に要する時間を短縮して効率良く引抜管を製造することができる。
【0033】
上記[8]に記載のアルミニウム管の製造方法によれば、引抜中の冷却よりも冷却装置の配置や冷却方法の制限が少なくなる。
【0034】
上記[9][10]に記載のアルミニウム管の製造方法によれば、効率良く引抜管を冷却できる。
【0035】
上記[11][12]に記載のアルミニウム管の製造方法によれば、冷却によって引抜管の表面品質を低下させることがない。
【0036】
上記[13]に記載のアルミニウム管の製造方法によれば、外径寸法精度の良い感光ドラム用基体を効率良く製造できる。
【0037】
上記[14]に記載のアルミニウム管の製造方法によれば、記載された合金からなるアルミニウム管を製造できる。
【0038】
上記[15]に記載のアルミニウム管の製造装置によれば、上述した本発明にかかるアルミニウム管の製造方法を実施することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0039】
図1は引抜加工を行うための引抜用工具の一例であり、引抜ダイス(1)とプラグ(6)とから構成されている。前記引抜ダイス(1)は、ダイスケース(2)内に嵌合されたダイス本体(3)を備え、前記ダイス本体(3)は中央のダイス孔の周囲にアプローチ部(4)とこれに続くベアリング部(5)とを有している。前記プラグ(6)はロッド棒(7)の先端に取り付けられ、アプローチ部(8)とこれに続くベアリング部(9)を有している。そして、前記引抜ダイス(1)およびプラグ(6)で管を引き抜くことにより、管の外周面がダイス本体(3)のベアリング部(5)によって成形されるとともに、内周面がプラグ(6)のベアリング部(9)によって成形され、引抜管(10)が製作される。前記引抜管(10)の先端側は縮径されてチャッキング用の口付け部(11)が形成されている(図2参照)。
【0040】
上述した管の引抜加工において、ベアリング部(5)(9)との接触部分で生じる加工熱によって引抜管(10)の温度が徐々に上昇し、引抜方向の先端部(引抜き開始端部)(12)と後端部(引抜き終端部)(13)とでは温度差が生じる。本発明は、複数のNパスの連続引抜加工で製造されたアルミニウム管の寸法精度が低下する原因の一つが、(N−1)パス後の引抜管が引抜方向において大きい温度差を持った状態で最終パスの引抜加工に供されることにあるに着目し、(N−1)パス後の引抜管(10)における温度差が一定以下となるように冷却した後に最終のNパス目の引抜加工を行うようにしたものである。
【0041】
図3は、押出素管(W)に対して2パス(Nパス)の連続引抜加工を行うための装置構成を模式的に示したものである。
【0042】
図3において、(31)は1パス目((N−1)パス目)の引抜加工を行う第1引抜加工装置であり、その側方には引抜管(10)を移載して2パス目(Nパス目)の引抜加工を行う第2引抜加工装置(32)に搬送するための搬送コンベア(33)が配設されている。また、第2引抜加工装置(32)の側方にも引抜管(14)を移載して次工程に搬送するための搬送コンベア(34)が配置されている。
【0043】
前記第1および第2引抜加工装置(31)(32)は図1の引抜ダイス(1)およびプラグ(6)に例示されるような引抜用工具を備え、引抜管(10)(14)の口付け部(11)を把持するチャック(35)が油圧シリンダ(36)によって進退自在に配置されている。さらに、第1引抜加工装置(31)は図4および図5の冷却媒体用ノズル(20)(22)に例示されるような冷却装置を備えている。
【0044】
そして、第1引抜加工装置(31)において(N−1)パス目の引抜加工で成形された引抜管(10)は、順次搬送コンベア(33)に移載され、第2引抜加工装置(32)に搬送されてNパス目の引抜加工に供される。第2引抜加工装置(32)の引抜加工で成形された引抜管(14)は、順次搬送コンベア(36)に移載され、切断等の次工程に搬送される。
【0045】
なお、本発明は引抜加工のパス数を図示例の2パスに限定するものではなく、3パス以上の引抜加工を行う場合も含まれる。パス数に応じて引抜加工装置および搬送コンベアを増設すれば良い。
【0046】
本発明においては、最終パスであるNパス目の引抜加工に供する(N−1)パス後の引抜管(10)を、最高温度部と最低温度部との表面温度差が10℃以下となるように冷却する。前記表面温度差が小さくなるほどNパス後の引抜管(14)の寸法精度が向上して好ましいが、10℃以下であれば感光ドラム用基体として満足できる寸法精度を得ることができる。特に好ましい表面温度差は5℃以下であり、さらに寸法精度の高い引抜管(14)を製造することができる。
【0047】
また、(N−1)パス後の引抜管(10)は、最高温度部の表面温度が50℃以下になるまで冷却した後にNパス目の引抜加工を行うことが好ましい。50℃以下に冷却することにより、Nパス後の引抜管(14)の寸法精度を向上させることができる。Nパス目に供する引抜管(10)の特に好ましい最高温度部の表面温度は40℃以下である。
【0048】
前記引抜管(10)の温度管理は、引抜方向における後端部(13)および先端部(12)の温度を監視することによって容易に行うことができる。上述したように、引抜管(10)は加工熱によって先端部(12)から後端部(13)へと温度が上昇し、積極的に冷却しない限り、先端部(12)の温度が最も低く、後端部(13)の温度が最も高くなる。このような温度勾配を持つ引抜管(10)を引抜方向において同一条件で冷却すると、冷却後においても後端部(13)が最高温度部、先端部(12)が最低温度部となる。従って、引抜管(10)の先端部(12)と後端部(13)の温度を測定すれば実質的に管の最高温度と最低温度を知ることができる。そして、2箇所の温度を監視することで効率の良い温度管理が可能となり、引抜管(10)を速やかにNパス目の引抜加工に供して効率良く連続引抜加工を行うことができる。しかも、2箇所の温度を監視すれば良いから温度測定装置も簡略化できる。勿論、引抜管(10)の先端部(12)および後端部(13)に加えて、中間部の1箇所または複数箇所の温度を測定し、これらの温度に基づいて温度管理を行う場合も本発明に含まれる。
【0049】
なお、前記引抜管(10)の先端部(12)とは、口付け部(11)を除いて所定の管径に成形された部分のうちの先端部分である。
〔冷却方法および冷却装置〕
引抜管の冷却は、(N−1)パス目の引抜加工において、引抜用工具の出側で引抜きながら引抜管を冷却しても良いし、(N−1)パス目の引抜加工が完了した後、その引抜管を冷却しても良い。
【0050】
引抜きながら冷却する場合、図5に示すように、冷却装置(ノズル(22))を引抜ダイス(1)に隣接して配置すれば引抜直後に冷却することができ、また図4に示すように、冷却装置(ノズル(20))を引抜ダイス(1)から離して配置しても良い。いずれの場合も引抜きダイス(1)を出てから5秒以内に引抜管(10)を速やかに冷却することができる。このように、引抜後速やかに冷却することにより、パス間の待機時間を短縮し、ひいては連続引抜加工に要する時間を短縮することができる。
【0051】
引抜管の冷却は、冷却装置が簡略である点で引抜管に冷却媒体を供給する方法を推奨できる。
【0052】
図4は、引抜ダイス(1)の出側に冷却媒体(C)を噴出させるノズル(20)を設置し、引抜直後の移動しつつある管(10)に冷却媒体(C)を供給するようにしたものである。前記ノズル(20)において、冷却媒体(C)の吐出口(21)は1つだけでも良いし、引抜方向または周方向に複数個を並べて設けても良い。かかる構成により、引抜加工時の管の移動を利用し、ノズル(20)を固定したままで引抜管(10)の先端部(12)から後端部(13)に至るまで冷却媒体(C)を供給することができる。また、冷却媒体(C)が液体である場合は、冷却媒体(C)を引抜管(10)の上方から供給すれば、冷却媒体(C)が管の外周面を伝って下部側に回り込んで管(10)の全周に供給される。
【0053】
引抜管(10)の周方向においてさらに均一に冷却媒体(C)を供給するには、図5に示すように、周方向の複数箇所に吐出口(21)を有するリング形のノズル(22)を用い、孔内に引抜管(10)を挿入するように配置すれば、冷却媒体(C)の種類にかかわらず均一に供給することができる。なお。冷却媒体(C)の吐出口は、図示例のような独立した吐出口(21)を複数個の並べても良いし、全周にスリット状の吐出口を形成しても良い。また、独立した複数個のノズルを周方向に配置することによっても引抜管(10)の全周で均一に供給することができる。
【0054】
前記冷却媒体(C)は、引抜管(10)の引抜方向において均一に供給しても良いが、高温になる後端部(13)と先端部(12)との温度差を可及的に小さくするために、後方にいくほど冷却能力が大きくなるように供給しても良い。例えば、冷却媒体(C)の供給量を後方に向かって増量する、供給する冷却媒体(C)の温度を後方に向かって低下させる等の方法で冷却能力を変化させることができる。また、引抜管(10)の先端部(12)側には冷却媒体(C)を供給せず、途中から供給を開始しても良い。
【0055】
一方、(N−1)パス目の引抜きが完了した後に冷却する場合は、上記ノズル(20)(22)に例示されるような冷却装置を用い、冷却装置と引抜管(10)とを相対的に移動させれば引抜管(10)外周面に冷却媒体(C)を供給することができる。この場合も後方にいくほど冷却能力が大きくなるように供給することもできる。
【0056】
引抜加工が完了した後に冷却する場合は、冷却装置の配置や冷却方法の制限が少なくなる。引抜きが完了して引抜管(10)を引抜用工具から取り出せば、引抜管(10)の外周面に冷却媒体(C)を吹き付けるだけでなく、管の長さ方向に沿って冷却媒体(C)を吹き付けて冷却することができる。また、開口する一方の管端から冷却媒体(C)を吹き付けると、冷却媒体(C)は管内にも供給されて他方の管端に抜け、内外両面から引抜管(10)を冷却することができる。管端から冷却媒体(C)を供給する場合は、図2に示すように、引抜管(10)の後端部(13)側から先端部(12)側に向けて吹き付けることが好ましい。この場合、冷却媒体(C)は後端部(13)で最も高い冷却能力を示し、管壁から奪った熱で温度が上昇して冷却能力が低下していくが、もとより先端部(12)の方が管の温度が低いので先端部(12)と後端部(13)との温度差を効率良く小さくできるからである。
【0057】
さらに、引抜中に冷却した上で、引抜完了後にも冷却することができる。
【0058】
前記冷却媒体(C)の種類は限定されず、液体でも気体でも用いることができ、水、引抜油、エアー、窒素ガスを例示できる。いずれの場合も管の材料に対して非酸化性かつ非腐食性で、変色等の引抜管(10)の表面品質を低下させない媒体が好ましく、特に引抜油、エアー、窒素ガスを推奨できる。冷却媒体として引抜の潤滑剤として用いる引抜油を用いれば冷却時に油切れを起こすこともなく引抜きから冷却までを円滑に行うことができる。冷却媒体は1種を単独で使用しても複数種を併用しても良い。また、図2のように、引抜管(10)の内部に冷却媒体(C)を供給する場合は、気体の冷却媒体を用いることが好ましい。
【0059】
さらに、(N−1)パス目の引抜加工においては、引抜き直後、即ち冷却を受けるまでの引抜管(10)の後端部(13)の表面温度が90℃以下、好ましくは80℃以下となるように引抜条件を設定することが好ましい。(N−1)パス目の引抜加工時に引抜管(10)が高温になると、周囲の湿気によって表面に酸化皮膜が形成されやすくなり、最終のNパス目の引抜加工時に焼き付きを発生するおそれがある。このため、焼き付きを確実に回避するためには管温度が過度に上昇しないように引抜くことが望ましい。また、周囲の湿気による酸化皮膜の形成を可及的に抑制するために、冷却媒体として引抜油や窒素ガスを用いることも好ましい。引抜き時の加工熱に関係する引抜条件は、下記式で表される断面積減少率および引抜速度であり、これらはいずれも高くなるほど加工熱が発生して引抜管(10)が高温になる。
【0060】
断面積減少率(%)={(引抜前の断面積−引抜後の断面積)/引抜前の断面積}×100
【0061】
従って、断面積減少率および引抜速度のいずれか、あるいは両方を制御することによって引抜管(10)の表面温度を90℃以下にすることができる。具体的には、断面積減少率を40%未満、引抜速度を60m/分未満に設定することが好ましく、さらに断面積減少率を35%未満、引抜速度を50m/分未満に設定することが好ましい。
【0062】
また、前記引抜管(10)は後端部(13)が最も高温になるため、後端部(13)の表面温度を監視して90℃以下となるように引抜けば、管全体が90℃以下であると見なすことができる。
【0063】
前記アルミニウム管の材料は限定されないが、Al−Mn系合金、Al−Mg系合金、Al−Mg−Si系合金、純アルミニウムを例示できる。
【0064】
上述したように、本発明における連続引抜きとは、(N−1)パス目の引抜加工、冷却(引抜中の冷却を含む)、Nパス目の引抜加工を一連の工程として連続して行う引抜きである。(N−1)パス後の引抜管は積極的に冷却しなくても時間経過とともに温度が低下し、後端部と先端部の温度差は徐々に小さくなって最終的に管全体が室温に収束する。しかし、長時間の放冷により管の温度差が10℃以下になっても工程が中断されるので本発明における連続引抜加工には該当しない。本発明は、(N−1)パスからNパスまでを中断することなく連続して行う引抜である。本発明は(N−1)パスとNパスとのパス間の時間を規定するものではないが、(N−1)パス目の引抜加工装置からの引抜管の取出し、Nパス目の引抜加工装置への引抜管の装填、パス間の搬送等の1パス目から2パス目への受け渡しに要する時間を除外すると、パス間の遅延時間は冷却時間のみとなる。しかも、引抜ながら冷却する場合は冷却時間が遅延時間にもならない。引抜完了後に冷却する場合でも、冷却に要する時間は、長さ4mの引抜管で50〜60秒程度である。パス間の受け渡し時間は通常15〜20秒程度であり、従ってこの受け渡し時間を加えても、本発明においては、80秒以下のパス間時間で連続引抜加工することができる。
【0065】
引抜管の放冷実験として、後述する実施例と同一のアルミニウム押出素管(外径32mm、肉厚1.5mm、長さ2.2m)を、引抜速度:30m/分、外径減少率:13%、断面積減少率:36%で引抜き、その引抜管を25℃の室温中で放冷し、時間経過とともに引抜管の後端部と先端部の表面温度を測定した。放冷実験は5本の引抜管について行った。表1に、測定温度、5本の引抜管の平均温度、後端部と先端部の平均温度差を示す。
【0066】
【表1】

【0067】
表1に示すように、引抜き直後は後端部と先端部とで20℃近い温度差があるが、時間の経過とともに温度差は縮小し、1時間後には管の全体が室温に収束する。この放冷過程において、約120秒で本発明で規定する10℃以下の温度差となるが、この時間はパス間の受け渡し時間と上述した本発明における冷却時間の合計よりも長い。このため、放冷によって温度差を10℃以下にしようとすれば一連の工程は中断されてしまい、本発明のような効率の良い連続引抜加工を行うことはできない。
【0068】
本発明のアルミニウム管の製造方法は、引抜方向の温度差が一定以下になるように冷却した状態で最終のNパスを行うものであるから、複数パスによって得られる表面平滑性を確保しつつ、外径寸法精度の良い引抜管を製造できる。また、Nパスは連続引抜加工であるから生産性、量産性に優れ、パス間の保管時に引抜管にキズがつくこともない。製造されたアルミニウム管は、高水準の寸法精度および表面平滑性が要求される用途に好適であり、特に感光ドラム用基体として推奨でき、優れた表面平滑性が得られるので無切削管として用いることができる。また表面を切削して感光ドラム用基体として使用する場合でも切削代を小さくできるので、切削時間やバイトの摩耗を低減できる。
【実施例】
【0069】
アルミニウム合金(Mn:1.12質量%、Si:0.11質量%、Fe:0.39質量%、Cu:0.16質量%、Zn:0.01質量%,Mg:0.02質量%を含み、残部アルミニウム及び不可避不純物)からなるビレットを、押出温度:520℃、押出速度5m/分の条件で、外径32mm、肉厚1.5mmの円筒管を押出し、長さ2.2mに切断したものを引抜用の素管(W)とした。
【0070】
引抜はいずれも2パス行うものとし、図3に示した第1および第2引抜加工装置(31)(32)および搬送コンベア(33)(34)を用いて連続引抜加工を行った。
【0071】
前記各引抜加工装置(31)(32)は、図1に示す引抜ダイス(1)とプラグ(6)を組み合わせた引抜用工具を備えている。前記引抜ダイス(1)のダイス本体(3)においてアプローチ部(4)のアプローチ角は15°であり、ベアリング部(5)のベアリング長さは15mmである。また、前記プラグ(6)において、アプローチ部(8)のアプローチ角は7°であり、ベアリング部(9)のベアリング長さは2mmである。また、潤滑用の引抜油として、共栄油化株式会社製ストロールES150(粘度:1.4×10−4/s)を用いた。
【0072】
実施例1〜6および比較例1、2において、2回のパスをそれぞれ引抜速度:30m/分、外径減少率:13%、断面積減少率:36%で引抜き、外径24mm、肉厚0.8mmの引抜管(14)を得た。
【0073】
上記連続引抜加工において、実施例1〜6は以下の方法により2パス目に供する引抜管(10)の冷却を行った。一方、比較例1、2は冷却することなく2パスの連続引抜を行った。また、各例において、1パス後の引抜管(10)の引抜直後(冷却前)の後端部(13)の表面温度を接触式温度計により測定した。
【0074】
〔実施例1〕
第1引抜加工装置(31)において、図3に参照されるように、引抜ダイス(1)の出側上方に冷却媒体用ノズル(20)を配置し、引抜直後の引抜管(10)を冷却した。前記ノズル(20)は引抜方向に沿って3つの吐出口(21)を有し、外部から導入される冷却媒体(C)を吐出口(21)から噴出させ、引抜管(10)上に吹き付けて下方に流下させるものである。前記冷却媒体(C)として15℃の水を用い、引抜開始から引抜完了に至るまで5l/分の割合で供給した。そして、冷却された引抜管(10)が搬送コンベア(33)に移載された時点で先端部(12)および後端部(13)の表面温度を測定し、測定後2パス目の引抜を行って最終製品である引抜管(14)を得た。
【0075】
〔実施例2〕
第1引抜加工装置(31)において、実施例1と同じノズル(20)を用い、冷却媒体(C)として20℃の引抜油(潤滑用引抜油と同じ)を用い、引抜開始から引抜完了に至るまで5l/分の割合で供給した。そして、実施例1と同じく引抜管(10)の先端部(12)と後端部(13)の表面温度を測定した後、2パス目の引抜を行った。
【0076】
〔実施例3〕
第1引抜加工装置(31)において、図4に参照されるように、引抜ダイス(1)の出側にリング状の冷却媒体用ノズル(22)を配置し、引抜直後の引抜管(10)を冷却した。前記ノズル(22)は周方向に等間隔で配置された8個の吐出口(21)を有し、外部から導入される冷却媒体(C)を吐出口(21)から噴出させ、引抜管(10)の全周から吹き付けるものである。前記冷却媒体(C)として20℃のエアーを用い、引抜開始から引抜完了に至るまで2kg/cmの割合で供給した。そして、実施例1と同じく引抜管(10)の先端部(12)と後端部(13)の表面温度を測定した後、2パス目の引抜を行った。
【0077】
〔実施例4〕
第1引抜加工装置(31)において、実施例3と同じリング状のノズル(22)を用い、前記冷却媒体(C)として20℃の窒素ガスを用い、引抜開始から引抜完了に至るまで2kg/cmの割合で供給した。そして、実施例1と同じく引抜管(10)の先端部(12)と後端部(13)の表面温度を測定した後、2パス目の引抜を行った。
【0078】
〔実施例5〕
第1引抜加工装置(31)において、実施例3と同じリング状ノズル(22)を用い、前記冷却媒体(C)としてエアーによりミスト状にした20℃の前記引抜油を用い、引抜開始から引抜完了に至るまで2kg/cmの割合で供給した。そして、実施例1と同じく引抜管(10)の先端部(12)と後端部(13)の表面温度を測定した後、2パス目の引抜を行った。
【0079】
〔実施例6〕
第1引抜加工装置(31)で引抜中に冷却することなく1パス目の引抜を行い、引抜管(10)を搬送コンベア(33)に移載した後に、引抜管(10)の後端部の開口から管内に20℃のエアーを2kg/cmの割合で50秒間供給して冷却した(図2参照)。そして、引抜管(10)の表面温度を測定した後に第2引抜加工装置(32)に搬送して2パス目の引抜きを行った。
【0080】
〔比較例1〕
第1引抜加工装置(31)で引抜いた引抜管(10)は、冷却を行うことなく直ちに搬送コンベア(33)に移載し、引抜管(10)の先端部(12)と後端部(13)の表面温度を測定した後、第2引抜加工装置(32)に搬送して2パス目の引抜を行った。
【0081】
〔比較例2〕
第1引抜加工装置(31)で引抜いた引抜管(10)は、冷却を行うことなく直ちに搬送コンベア(33)に移載し、室温で1時間放冷して引抜管(10)の先端部(12)と後端部(13)の表面温度を測定した後、第2引抜加工装置(32)に搬送して2パス目の引抜を行った。
【0082】
2パスの連続引抜加工で得た各引抜管について、先端部および後端部の外径寸法を測定し、その差を求めた。また、2パス目の引抜加工における焼き付き状況を調べた。
【0083】
表2に、各例における工程の概略とともに、1パス直後(冷却前)の引抜管(10)の後端部の表面温度、2パス目に供する1パス後(冷却後)の引抜管(10)の後端部(13)の表面温度および先端部(12)との温度差、2パス後の引抜管(14)の後端部(13)と先端部(12)の外径の差、1パス目の引抜き完了から2パス目の引抜を開始するまでに要した時間(パス間の時間)、2パス目の引抜加工における焼付き状況を示す。
【0084】
なお、図3に示した構成の連続引抜加工装置においては、1パス目から2パス目への引抜管(10)の受け渡し、即ち第1引抜加工装置(31)からの引抜管(10)の取り出し、搬送コンベア(33)への移載、第2引抜加工装置(32)への搬送、第2引抜加工装置(32)への引抜管(10)の装填には15秒を要する。この受け渡し時間は各例で共通であるから、表2のパス間の時間はこの受け渡し時間を差し引いた時間で示す。
【0085】
【表2】

【0086】
次に、1パス目の引抜条件を表3に示すように変化させ、実施例2と同じ条件で冷却を行い、1パス直後(冷却前)の引抜管(10)の後端部の表面温度、2パス目に供する1パス後(冷却後)の引抜管(10)の後端部(13)の表面温度および先端部(12)との温度差、2パス後の引抜管(14)の後端部(13)と先端部(12)の外径の差を調べた。また、2パス目の引抜加工における焼き付き状況を調べた。これらの結果を表3に示す。
【0087】
【表3】

【0088】
表2および表3より、(N−1)パス中または(N−1)パス後に引抜管を冷却し、管の表面温度差を小さくした状態で最終のNパスの引抜きを行うことにより、引抜き方向における外径寸法精度を高めることができた。また、(N−1)パスにおける引抜速度および断面積減少率を規定することにより、1パス目における引抜直後(冷却前)の管の温度を確実に90℃以下に抑制することができ、ひいては2パス目の引抜きにおける焼き付きを確実に回避することができた。
【産業上の利用可能性】
【0089】
本発明によれば連続引抜加工により寸法精度の良いアルミニウム管を効率良く製造できるから、感光ドラム用基体として用いる無切削管の大量生産に適している。
【図面の簡単な説明】
【0090】
【図1】引抜用工具の断面図である。
【図2】本発明において、引抜管の冷却方法の一例を示す斜視図である。
【図3】本発明のアルミニウム管の製造方法を実施するための装置構成の一例を示す平面図である。
【図4】引抜管の冷却方法の他の例を示す断面図である。
【図5】引抜管の冷却方法のさらに他の例を示す断面図である。
【符号の説明】
【0091】
1…引抜ダイス(引抜用工具)
6…プラグ(引抜用工具)
10…引抜管((N−1)パス後の引抜管)
12…先端部(最低温度部)
13…後端部(最高温度部)
14…引抜管(Nパス後の引抜管)
20,22…ノズル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
押出素管に対してNパスの連続引抜加工を行ってアルミニウム管を製造するに際し、
(N−1)パス後の引抜管の最高温度部と最低温度部との表面温度差が10℃以下となるように冷却した後に、Nパス目の引抜加工を行うことを特徴とするアルミニウム管の製造方法。
【請求項2】
(N−1)パス後の引抜管の最高温度部の表面温度が50℃以下となるように冷却する請求項1に記載のアルミニウム管の製造方法。
【請求項3】
(N−1)パス後の冷却された引抜管において、最高温度部は引抜方向の後端部であり、最低温度は引抜方向の先端部である請求項1または2に記載のアルミニウム管の製造方法。
【請求項4】
(N−1)パス目の引抜加工を、引抜管の後端部の表面温度が90℃以下となる条件で行う請求項1〜3のいずれかに記載のアルミニウム管の製造方法。
【請求項5】
(N−1)パス目の引抜加工において、引抜管の断面積減少率が40%未満であり、かつ引抜速度が60m/分未満である請求項4に記載のアルミニウム管の製造方法。
【請求項6】
前記引抜管に冷却媒体を供給することにより冷却する請求項1〜5のいずれかに記載のアルミニウム管の製造方法。
【請求項7】
(N−1)パス目の引抜加工において、引抜用工具の出側で引抜きながら引抜管を冷却する請求項6に記載のアルミニウム管の製造方法。
【請求項8】
(N−1)パス目の引抜加工が完了した後、その引抜管を冷却する請求項6または7に記載のアルミニウム管の製造方法。
【請求項9】
前記冷却媒体を引抜管の周方向の全体から供給する請求項6〜8のいずれかに記載のアルミニウム管の製造方法。
【請求項10】
前記冷却媒体を引抜管の後端から先端に向けて供給する請求項8に記載のアルミニウム管の製造方法。
【請求項11】
前記冷却媒体が、アルミニウムに対して非酸化性かつ非腐食性の液体または気体である請求項6〜10のいずれかに記載のアルミニウム管の製造方法。
【請求項12】
前記冷却媒体が、引抜油、エアー、窒素ガスのうちの少なくとも1種である請求項11に記載のアルミニウム管の製造方法。
【請求項13】
前記アルミニウム管は感光ドラム用基体である請求項1〜12のいずれかに記載のアルミニウム管の製造方法。
【請求項14】
前記アルミニウム管は、Al−Mn系合金、Al−Mg系合金、Al−Mg−Si系合金、純アルミニウムのいずれかからなる請求項1〜13のいずれかに記載のアルミニウム合金の製造方法。
【請求項15】
N台の引抜加工装置を並設し、Nパスの連続引抜加工を行うアルミニウム管の製造装置であって、
(N−1)パス目の引抜加工装置において、引抜用工具の出側に冷却媒体を噴出させる冷却装置が設けられ、引抜中の引抜管に冷却媒体を供給するものとなされていることを特徴とするアルミニウム管の製造装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−296271(P2008−296271A)
【公開日】平成20年12月11日(2008.12.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−147755(P2007−147755)
【出願日】平成19年6月4日(2007.6.4)
【出願人】(000002004)昭和電工株式会社 (3,251)
【Fターム(参考)】