アーク蒸着による金属酸化物層の製造方法
本発明は、PVD(物理的蒸着)によって、特に陰極アーク蒸着によって酸化物層を製造するための方法であって、粉末冶金ターゲットが蒸着され、その粉末冶金ターゲットは少なくとも2つの金属または半金属構成要素でできており、そのターゲットの金属または半金属構成要素の組成が、液相への転移における室温からの加熱の際に、少なくとも2つの金属または半金属成分の溶融混合物の状態図に関して純粋な固相のどの相境界もが横切られないように選択される方法に関する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、請求項1のプリアンブルに従って、アーク蒸着により金属酸化物層を製造するための方法に関する。
【0002】
具体的には、本発明は、いわゆる「合金ターゲット」、すなわち少なくとも2つの金属および/または半金属成分からなり、陰極アーク蒸着における蒸着源として働くターゲットの製造、選択および稼働に関する。
【背景技術】
【0003】
本発明は、大きく異なる溶融温度を有する金属を含む「合金ターゲット」のために特に重要である。したがって、本発明は特に、低温溶融金属成分としてアルミニウムを有するターゲットに関する。
【0004】
これらの合金ターゲットは、少なくとも2つの金属成分を有するものとして定義されるが、これらはまた、金属間化合物および/または混晶としても存在することができる。
【0005】
この場合の粉末冶金ターゲットは、金属の粉末、半金属、金属間化合物、混晶から製造されるターゲットであって、その製造工程の後(例えば、熱間等静圧圧縮成形(hot isostatic pressing)(HIP)工程において)でも、顕微鏡分解能内でその粉末粒子は依然として識別することができる。したがって、粉末冶金合金ターゲットは、金属および/または半金属粉末の混合物、金属間化合物の粉末、あるいは金属および/または半金属粉末および/または金属間化合物の混合物から製造することができる。これに対して、キャストボンディング法による(cast-bonded)冶金合金ターゲットは、主要金属または半金属が金属間相を形成するターゲットである。この特徴は、主要材料の粒子が、顕微鏡分解能の範囲内でもはや観察することができない、すなわち、それがもはや(粒子として)存在しないということである。
【0006】
さらに、いわゆるプラズマアーク溶射ターゲットがある。これは、プラズマアーク溶射によって製造されるターゲットである。このターゲットにおいて、主要材料の金属間化合物の部分的または完全な形成が起こる。しかし、一般に、プラズマアーク溶射ターゲットは、粒子と金属間相の両方を含むことができる。
【0007】
陰極アーク蒸着は、工具および構成要素のコーティングにおいて応用されており、それを用いて広範囲の金属層ならびに金属窒化物および金属窒化炭素を固着させる、長年にわたって確立されてきた方法である。これらすべての用途のために、このターゲットは、低電圧および大電流で稼働し、それを用いてターゲット(陰極)材料を蒸着させるスパーク放電の陰極である。直流電圧供給は、スパーク放電を稼働させるのに最も簡単で最も経済的な電力供給として使用される。
【0008】
より大きな問題点は、アーク蒸着による金属酸化物の製造である。酸化物層(oxidic layer)を例えば工具または構成要素上に固着させるために、酸素または酸素を含む雰囲気において直流スパーク放電を稼働させることは困難である。直流放電の両方の電極(一方は、陰極としてのターゲット、他方は、しばしば地電位で稼働させる陽極)が絶縁層で被覆される恐れがある。これは、供給源の設計(磁場、ガス投入口の位置およびタイプ)に応じて、ターゲット(陰極)上に導電性区域をもたらし、その区域上でスパークが発生し、小さくなり(constricting)、最終的にはスパーク放電の中断となる。
【0009】
T. D. シュメル、R. L. カニングハムおよびH. ランダワ、Thin Solid Films 181 (1989) 597は、Al2O3のための高速コーティング法を記載している。スパークをフィルタリングにかけた後、基板の近傍に酸素ガスを導入した。基板の近傍のフィルターの後に酸素を導入することは、ターゲットの酸化を低減させ、スパーク放電を安定化するのに重要であると述べている。
【0010】
酸化物層の製造は米国特許第5518597号にも記載されている。この特許は、高温での層の固着を含み、陽極も加熱され(800℃〜1200℃)、反応性ガスのターゲットへの直接導入はなされないという事実をもとにしている。高い陽極温度は、陽極を導電性に保持し、スパーク放電の安定的な稼働を可能にする。
【0011】
米国特許出願公開第2007/0000772A1号、WO2006/099760A2およびWO2008/009619A1には、酸素雰囲気中でのスパーク放電の稼働が詳細に記載されており、陰極で直流(DC)を導通させない絶縁層による完全なコーティングを避けることが可能な方法が提案されている。
【0012】
米国特許出願公開第2007/0000772A1号およびWO2006/099760A2は主として、非導通性酸化被膜が付かないように陰極表面を保持し、安定したスパーク放電を確実にするための必須要素としてのパルス電流によるスパーク光源の稼働を記載している。そのために特別な電力供給を必要とするスパーク電流のパルス稼働により、スパークは、ターゲットの新たな経路上を継続的に進み、好ましい区域にだけ移動するのが阻止され、残るターゲット領域は厚い酸化物でコーティングされる(「ステアードアーク法」の場合のように)。
【0013】
WO2008/009619A1では、酸素雰囲気におけるスパーク放電の稼働が記載されており、その陰極には、ターゲット表面に対して垂直な好ましくは弱い磁場がかけられている。これは、ターゲット表面にわたる定常的なスパーク経路を可能にし、直流非導通性のターゲットの厚い酸化集積物ができるのを防止する。
【0014】
これらの3つの先行技術文献に基づけば、高純度酸素雰囲気下で数時間にわたる安定したスパーク放電が確実に可能である。これらの方法は、元素ターゲットおよびボンドキャスト法で製造されたターゲットについて、安定で再現性のある形で機能する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】米国特許第5518597号明細書
【特許文献2】米国特許出願公開第2007/0000772号明細書
【特許文献3】国際公開第2006/099760号パンフレット
【特許文献4】国際公開第2008/009619号パンフレット
【非特許文献】
【0016】
【非特許文献1】T. D. シュメル、R. L. カニングハムおよびH. ランダワ、Thin Solid Films 181 (1989) 597
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
多種の金属酸化物のほとんどを製造するアーク蒸着の使用が増加してきているため、柔軟で費用効率の高いターゲットの製造が必要になってきている。多くのターゲットは、熱間等静圧圧縮成形(HIP)によって当業者に周知の方法で製造される。例えばAl−Crターゲットを製造する場合、元素(ここでは例えば非限定的な形で:AlおよびCr)からの所望の組成の粉末または粉末混合物を、粉末中の空気および水分を低減させるために真空下で高温にした容器中に封入する。次いで容器を密封し、高温高圧にかける。この方法は内部の空隙を減少させ、粉末のある種の結合をもたらす。得られる材料は、均一な粒度分布およびほぼ100%の密度を有する。
【0018】
本発明の目的は、それを用いて金属酸化物層を信頼性高く固着させることができ、かつ、可能な限り費用効果が高くなるように実行することができる、アーク蒸着により金属酸化物層を製造するための方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0019】
この目的は、請求項1に記載の特徴を有する方法で達成される。
【0020】
有利な他の展開は、上記請求項に従属する下位クレームに示されている。
【0021】
他の目的は、ターゲットの取り込みまたは早過ぎる劣化を伴うことなく、信頼性高く固着させることができ、かつ製造するのに費用効率の高い金属酸化物層を製造するためのターゲットを提案することである。
【0022】
この目的は、請求項8の特徴を有するターゲットによって達成される。
【0023】
有利な他の展開は、上記請求項に従属する下位クレームに示されている。
【0024】
他の目的は、所望の任意の組成物で費用効率および信頼性の高い固着が可能な金属酸化物層を提供することである。
【0025】
この目的は、請求項15の特徴を有する金属酸化物層によって達成される。
【0026】
有利な他の展開は、上記請求項に従属する下位クレームに示されている。
【0027】
本発明の方法は、ターゲットを用いてPVDにより酸化物層を作製するための方法であって、そのターゲットは、後で金属または半金属酸化被膜の金属または半金属を形成する少なくとも2つの金属または半金属元素からなり、そのターゲットの組成が、この組成での液相への転移における室温からの加熱の際に、元素の(溶融)混合物の状態図をもとにして、純粋な固相のどの相境界もが横切られないような仕方で選択される方法を提供する。この観点で理論化すると、利用できる不均一粉末冶金ターゲットは疑似溶融ターゲットとみなす。
【0028】
しかし、このPVD法を、特に粉末冶金で作製したターゲットを用いて使用する際に、状態図において、液相が、追加の相境界を横切ることなく1つの固相から他の純粋な固相へ単に直接達する、上記ターゲット組成によって決定される金属酸化物組成物に限定されることは望ましくないので、本発明によって、純粋な固相のどの相境界をも横切らない金属および半金属元素の組成物をまず選択し、次いでこれらから第1の成分を作製し、最後にこれらの第1の成分、および必要ならば純金属からそれぞれ所望の最終組成を有するターゲット混合物を作製することによって、所望の各金属酸化物組成物を作製することができる。
【0029】
例えば、2つの金属AおよびBを有し、これらの両方の金属が、開発しようとする金属酸化物において同じ割合で存在するように望む場合、状態図においてまず、それぞれ50%の金属濃度で、高温でのその金属の溶融混合物が他の固相に転移することなく液相へと直接進むかどうかを判断する。もしその通りである場合、本発明者が見出した欠点のリスクをもつことなく、金属Aと金属Bが同じ割合を有する粉末冶金ターゲットを製造することができる。
【0030】
これらの金属AおよびBについて、両方の金属の混合物が、さらなる固相なしで、液相へとA:B=75:25およびA:B=25:75で進む状態が見出された場合、金属間化合物の形態で75Aおよび25Bの組成を有する第1の成分Xをまず作製し、次いで、やはり金属間化合物の形態でA:B=25:75を有する第2の成分Yを作製する。続いて、これらの2つの成分XおよびYを粉砕して粉末にする。金属間化合物の代わりに、成分XまたはYの1つは純金属または半金属であってもよい。
【0031】
その後、粉末冶金ターゲットを、成分XおよびYが同じ割合で含まれる成分XおよびYから粉末冶金的に製造する。したがって、PVD法、特に陰極アーク蒸着法を実施した場合、加熱されると第2の固相を通る成分を蒸着させることなく対応する分布A:B=50:50が達成される。
【0032】
本発明はさらに、酸化被膜を作製するのに関して、特に飛散(splatter)の低減、高温安定性および結晶構造の関連でそうしたターゲットのかなり良好でより特異的な設計を可能にする。
【0033】
さらに、本発明に基づいて、高温で安定な二元、三元および四元酸化物ならびにより高次の組成物(五元、六元等)の混合酸化物を製造するために、低温溶融材料の融点の著しい増大をもたらす特定のターゲット組成物を規定することができる。
【0034】
その結果本発明により、温度形成、結晶構造、相組成および金属部分の自由度に関して、合成される層のほぼ完全な層設計が可能になる。
【0035】
特に、本発明をもとにして、コランダム構造の酸化アルミニウムを作製することができる。
【0036】
ターゲットを作製するための洞察は、反応性スパッター法、パルス型反応性スパッター法(反応性変調パルス型スパッタリングのため、反応性両極性スパッター(Twin Magスパッタリング)のためのいわゆる高出力パルス型スパッタリング)、特に反応性陰極アーク蒸着法のためのこれらのターゲットの使用にも適用される。
【0037】
本発明を以下の図面をもとにした例で説明することとする。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】Al−Cr合金ターゲットの表面の図である。
【図2】Al−Cr−O/Al−Cr−N多層コーティング横断面を示す図である。
【図3】ボンドキャスト法で作製したAl−Cr−ターゲットのターゲット表面を示す図である。
【図4】図1によるターゲットのアーク蒸着前の表面の図である。
【図5】図2による未使用ターゲットBの表面の図である。
【図6】アルミニウムおよびクロムの二元化合物の状態図である。
【図7】酸素雰囲気下、300sccmのガス流で1時間稼働したターゲットAの図である。
【図8】Al−Vターゲットの未使用ターゲット表面の図である。
【図9】他の組成を有する未使用Al−Vターゲットの表面の図である。
【図10】1時間稼働させた後のターゲット表面の図である。
【図11】Al−Vターゲットの図である。
【図12】Al−V状態図である。
【図13a】未使用ターゲット表面の図である。
【図13b】1000sccm酸素で1時間にわたって稼働した図13aによるターゲット表面の図である。
【図14a】未使用の状態で、63μmの極大分布を有するターゲットの図である。
【図14b】1000sccmで1時間にわたって酸素で稼働したターゲットの図である。
【発明を実施するための形態】
【0039】
本発明者は、アーク蒸着法によって、金属酸化物を作製するためにこれらのターゲットを使用する場合、熱間等静圧圧縮成形により作製された合金ターゲットについて上記先行技術に記載されている種類とは異なる、「ターゲット汚染」というこれまで知られていない新しいタイプの問題が一般に生じることを確認した。ターゲットのこの種の「汚染」(酸化ビルドアップ)はこれ自体、アーク蒸着の際に、時間とともに酸素分圧に応じて、ターゲット表面上に絶縁性島状部が形成されることを明示している。島状部の形成は、上記した制限に関して、スパーク放電の急速な中断をもたらさず、スパーク放電の明白な不安定化ももたらさないが、また、不安定でスパッターリッチなスパーク動作および著しく不規則なターゲットの腐食をもたらす。そのどちらも、層形成のためには望ましくない。
【0040】
米国特許出願公開第2007/0000772A1号およびWO2006/099760A2に記載されているように、この島状部の形成は、スパーク放電のパルス化動作の関連で特に望ましくない。パルス化動作は、ターゲット上での局所的なスパーク経路の連続的な変更を目的とするが、これは、厚い酸化物の蓄積から後者(ターゲット)を保護するためである。しかし、島状部がターゲット上で形成された場合、パルス化によりスパークの経路のこれらの領域が被覆されると直ちに、スパーク電流のパルス化により、そうした島状部がターゲットから飛散体として次第にほぐれてくる(loosened)ようになる。
【0041】
酸化物島状部の形成の影響は特に、溶融温度が大きく異なる材料、例えばAlとCrを含む「合金ターゲット」において見ることができる。図1に、70原子%のAlおよび30原子%のCrの組成を有するAl−Cr「合金ターゲット」(以下、ターゲットAと称する)の表面を示すが、これは、オーツェー・エリコン・バルザース・アー・ゲー社のInnova型の工具コーティング用の真空設備中で、高純度酸素雰囲気および酸素分圧(2.8Pa、酸素流量1000sccm)下で1時間稼働させたものである。異なる材料、その分布および粒子に関して、明るさの差から結論を容易に引き出せるようにするために、材料のコントラストを特に際立たせる後方散乱電子を用いて、その表面を走査型電子顕微鏡(SEM)で記録した。図1のターゲットAについて、3つの明るさのレベルをはっきり識別することができる。明るい区域はCr領域の特徴であり、平滑で少し暗い区域はAl領域の特徴である。隆起したように見える最も暗い区域については、エネルギー分散X線分光分析(EDX)を用いて材料分析を実施して、これらの島状部は酸化アルミニウムと同定された。
【0042】
これらの島状部は、様々な時間長さでターゲット上に留まり、スパーク経路を妨害する。それは、それらが絶縁性であり、直流が導通せず、したがって蒸着できないからである。すでに述べたように、絶縁性島状部は時間とともにその数とサイズが増大し、その間にターゲット上でスパークが動作し、アーク蒸着の間のより高い酸素分圧のためそれはさらに著しく成長する。島状部の成長は、ターゲット上のフリーのスパーク経路を妨害し、効率的に蒸着できるターゲット表面の縮小をもたらす。
【0043】
島状部の形成は、これらがターゲット表面からほぐされ、その表面上により大きなクレーターを残すリスクを増大させる。したがって、酸化物島状部の形成によって、ターゲット表面のある種の分離が起こる。これは一方で、特に、陰極電流をパルス化するかまたはガス流もしくはガスの種類を変えることによってソース動作を変えた場合、ターゲット上の酸化物島状部が、蒸着せずに残り、成長し、最後にはターゲットから制御されない形で自由に崩れる(注:しかし、大き過ぎるために層中に取り込まれることはない)ことを意味する。
【0044】
他方、より高温で溶融するターゲットの成分、この場合クロムが金属飛散体として蒸着し、層中に固着するのも観察される。図2は、そうした金属飛散体の層中での集積が見られる、Al−Cr−O/Al−Cr−N多層コーティングの横断面を示す。反応性ガスを連続的に変えることによって、すなわち、間断ないスパーク放電により酸素から窒素へ切り替えることによって多層構造が達成された。この反応性ガスの変更は、ターゲット上でのスパーク経路の変更をもたらし(ターゲットのパルス化動作と完全に類似している)、したがって、酸化物島状部のほぐれを増大させる。
【0045】
この過程を正確に理解しているわけではないが、金属飛散体の形成と酸化物島状部(すなわち、ある種の分離(segregation))の成長の間には相関があるようである。この「分離」は、陰極上でのスパーク動作を妨害し、層固着のためにも望ましくない。その理由は、飛散が、層に力学的に影響を及ぼし、高温で制御できない形で化学的に反応し、その高温特性を弱める可能性があるためである。
【0046】
陰極アーク蒸着による金属酸化物の合成によって粉末冶金的に製造されたターゲットを使用した場合、それによって以下の不具合が生じる:
1.HIP法による出発粉末が分離して存在すること、すなわち、単相ターゲットがない、粉末の密な結合がないこと;
2.ターゲットの2つの成分の1つまたはその混合物からなり、かつ、固着層中の金属飛散の集積をもたらす可能性がある、ターゲット上での酸化物島状部の形成;
3.スパーク電流がパルス化され、異なる反応性ガス間で切り替えられた場合の、酸化物島状部の爆発的なほぐれによる、ターゲット表面上での分離およびターゲットの激しい腐食の危険性。
【0047】
したがって、これらの不具合の関連で、二元、三元および四元またはより高次の金属酸化物の合成に対する限界もある:
1.特に、金属成分の融点が大きく異なる場合のアーク蒸着の際の粉末冶金ターゲットの酸化被膜における飛散体形成の増大;
2.合成された層で、酸素に関して化学量論をいくらか下まわるリスクに伴う酸素流に関係するある種のプロセスウィンドウの限界;
3.ターゲット上での無制御の島状部成長、したがって層内での金属飛散体の無制御の集積による、層の品質(硬さ、形態、構造)に対する不十分な制御。
【0048】
図3では、図1のターゲットAと同じスパーク電流を用い、同じ酸素流(1000sccm)下で1時間稼働したターゲット表面を示す。このターゲットもAl−Crターゲットであり、これは、ターゲットAと異なり、粉末冶金法ではなくボンドキャスト法で作製されている。さらに、このターゲットは、Al(98原子%(at%))/Cr(2原子%)の組成を有する(ターゲットBと称する)。ターゲットAとは異なり、ターゲットBは、酸化物島状部の形成を示していない。
【0049】
単一の結晶相で構成された酸化物製造のためのターゲットはCH00/688863号に記載されている。しかし、これは、酸化物島状部の形成の問題を対象としておらず、そうした単相ターゲットを、酸素含有雰囲気下で動作できる可能性を対象としているだけである。
【0050】
上記先行技術および我々自身の観察をもとにして、本発明によってここに、ターゲット製造法が、酸化物島状部の形成に影響を及ぼす可能性があることを見出した。この仮定は、SEM顕微鏡写真でアーク蒸着の前のターゲットの表面を比較すると実証される。図4に、アーク蒸着の前のターゲットA(やはり未使用)の表面を示す。SEM顕微鏡写真から、Crの明るい領域が少し暗いAlマトリクス中に埋め込まれているのが明らかに見られる。
【0051】
比較のため、未使用ターゲットBの表面を図5に示す。ターゲットAとは対照的に、主要材料AlとCrの分離された領域は見えないが、ボンドキャスト製造法は主要材料の均一な相または混晶をもたらすため、これも驚くべきことではない。
【0052】
HIP法は粉末の混和性の自由度を高めることができるが、合金ターゲットのボンドキャスト製造法は、特定の化合物においてのみ可能である。当業者に知られている二元金属化合物の状態図(2つの金属成分を含むターゲットのための)をもとにして、これらの混合比を概略評価することができる。
【0053】
図6に、AlとCrの二元の組合せについてのそのような状態図を示す。結果として、ボンドキャストターゲットは、約800℃でAl中に2原子%のCrで作製することができるはずである。Alの融点は約660℃である、すなわち、ターゲット中での所要Cr濃度を達成するためには、Alを融点超に加熱しなければならない。次いで、蒸気圧が異なるため、この濃度で「凍結し」、材料の分離が起こらないようにするために、可能な限り急速に冷却しなければならない。ターゲット製造温度が低温溶融成分の溶融温度より高い場合、これはいっそう重要である。
【0054】
ボンドキャスト法でターゲットAを作製しようとした場合、30原子%Cr比のために、Al−Cr混合物を1200℃超に加熱し、その組成を一定に保持し(この温度でAlがすでに高い蒸気圧をもつので、これは困難である)、次いで、化合物を「凍結する」ために、その混合物を可能な限り急速に冷却することが必要である。本発明によれば、同じターゲットのための複雑なボンドキャスト製造法より、粉末混合物を一緒に混合し、HIP法でそれを処理するほうがずっと簡単である。
【0055】
本発明のフレームにおいて、陰極アーク蒸着によって金属酸化物を合成するのにボンドキャスト法で作製したターゲットを用いると、以下の不具合が生じてくることを見出した:
1.組成選択の自由度がない(注:状態図にもとづく「禁止(interdict)」);
2.複雑で費用のかかる製造プロセス;
3.特定のターゲット組成物への製造プロセスの当てはめ(異なる蒸気圧を考慮した温度、冷却時間);
4.単相二元合金上での二元高温溶融酸化物の合成(すなわち、単相二元ターゲットからのコランダム構造のAl2O3製造)が不可能。
【0056】
ボンドキャスト法で作製したターゲットと比較して粉末冶金ターゲットのより自由度の高い混和性とより簡単な製造技術と、酸化の際の「単相」挙動およびボンドキャスト法で作製したターゲットの酸化物島状部の形成防止とを一緒にしたターゲットが必要である。
【0057】
本発明では、酸化物およびその相混合物の具体的な形成温度を決定するために、粉末冶金合金ターゲットのための二元合金についての状態図をもとにして、ターゲットの組成物のための指図を提供する。
【0058】
本発明は、酸化物島状部の形成を回避し、かつ、陰極アーク蒸着による酸化被膜の製造の際の飛散を低減させるという目的を有する。開発の過程で、その材料、その濃度および粉末粒子サイズに関して、異なる組成を有する数多くの様々なターゲットを検討した。
【0059】
まず、酸化物島状部の形成を特によく試験することができるプロセスウィンドウを決定した。これを説明するためには、再びターゲットAを観察しなければならない。図7では、ターゲットAは、高純度酸素下でガス流を300sccmだけにして1時間稼働したものである。1000sccmの純酸素流での稼働と比較して得られた表面(図1)は、より大きな酸素流の場合より、酸化物島状部の形成がかなり少ないことが示されている。
【0060】
同様の試験を、同じ材料系の他のターゲット組成物、例えばAl(50原子%)/Cr(50原子%)、Al(85原子%)/Cr(15原子%)およびAl(25原子%)/Cr(75原子%)でも実施した。これらすべてのターゲットについて、そのガス流での酸化物島状部の形成は認められないかまたは僅かしか認められない。これらの試行において合成した酸化被膜中の酸素含量を、ラザフォード後方散乱スペクトル法(RBS)で測定し、(Al,Cr)202.80〜(Al,Cr)202.05であった。その結果、この方法の精度を測るフレームにおいて、層の化学量論を結論づけることができる。しかし、その含量は常に酸素不足側にあった。この結果は、全体にわたって酸化されていない(図2を参照されたい)層内における金属飛散で説明することができる。1000sccmで固着させた層の化学量論については、同様の結果が得られた。
【0061】
さらに、異なる粒径の粉末冶金ターゲットも作製し、試験した。図13に、図1と同様に1000sccm酸素で1時間稼働した、未使用ターゲット表面(a)およびターゲット表面(b)を示す。ターゲット作製者は、粒径について、約100μmの分布最大を示している。図14(a)および図14(b)では、63μmの分布最大を有するターゲットを検討した。両方の場合、酸化物島状部の成長の影響が明らかに示されている。この経験は、10μm〜300μmの粉末粒径範囲を有するターゲットについてなされた。
【0062】
他の材料についても、酸化物島状部の形成のためのウィンドウを決定しなければならなかった。このため、TiAl、AlV、AlNb、AlHf、AlZr、AlZrY、AlTaなどの材料系ならびにIII、IV主族および第4、第5、第6B族で構成された一連の他のターゲット混合物を試験し、ほとんどの場合、300sccmでの稼働の間、酸化物島状部は全く認められないかまたは痕跡しか認められなかった。1000sccmでは、著しい島状部成長も、または驚くべきことに、島状部成長も認められなかった。
【0063】
大きな酸素流で稼働しても島状部の成長を回避できるという驚くべき結果は、結局は、金属酸化物についての特定のターゲット設計のための本発明による方法だけでなく、これらの洞察にもとづいて、これまで酸化物層の特定の合成についての未知の方法も可能にした。
【0064】
実験では、1000sccmでも島状部の成長が起こらない場合、酸素流をまず、ポンプシステムでの可能限界の1600sccmの酸素流(約5Paの圧力に相当する)に増加させた。全く予想外のことであったが、この条件下でも、これらのターゲットについて酸化物島状部の成長は達成されなかった。最後に、ターゲットを動作させる場合、すべての材料につて1000sccmの酸素流を用いた。
【0065】
上記したように、理解を可能にするきっかけは、1000sccmでも酸化物島状部が形成されないボンドキャストターゲットの挙動によってもたらされた。ターゲットの拡張した単相は、二元酸化物島状部固着、すなわち、低温溶融金属ターゲット成分の酸化物形成の防止のための可能性のある1つの解釈であった。図6のAl−Cr状態図をもとにすると、98原子%Al中に2原子%Crを放出するためには、温度は約800℃でなければならない。次いで、これらの2原子%Crを98原子%Al中に「凍結させる」ために、Al−Cr混合物を急速に冷却しなければならない。その理由は、熱平衡において冷却しても、そうした高いCr含量は達成されないからである。
【0066】
T. B. マサルスキ、ヒュー ベイカー、L. H. ベネットおよびジョアンL. マレイ、Binary Allow Phase Diagrams, American Society for Metals, ISBN0-87170-261-4の状態図は、熱力学的平衡において生じ、したがって、そうした急速冷却を説明するのに全く用いることができないか、または非常に限られた条件付きでしか用いることができない相(複数)と相の転換を記載している。
【0067】
粉末冶金で製造したターゲットの未使用の表面を観察してみると(ターゲットAについての図4)、その材料は単相ではなく、その粉末は依然として互いに著しく分かれていることが明瞭に観察される。
【0068】
これはAl−Cr系だけには当てはまらない。図8では、Al(65原子%)−V(35原子%)ターゲットの未使用ターゲット表面を、図9には、未使用のAl(85原子%)−V(15原子%)ターゲットの表面を示す。どちらの場合も、明るさの差をもとにして、両方の材料AlとVを明らかに確認することができる。これらのターゲットを1000sccm酸素で稼働させると、両方の場合で、ターゲット表面上での酸化物島状部の成長が起こることももちろん予想されよう。
【0069】
驚くべきことに、図10で示すように、酸化物島状部の成長はAl(65原子%)−V(35原子%)ターゲットにおいてのみ観察された。図11で示したAl(85原子%)−V(15原子%)ターゲットの表面上で、酸化物島状部は検出されなかった。
【0070】
この驚くべき結果を検証するために、他の一連の粉末冶金ターゲットを検討した。そこでは、材料および組成を様々に変えた。最後に、酸化物島状部の形成の性質を理解するために、一次粉末の粒径を変えた。
【0071】
アーク蒸着は、準静的平衡過程からは全く外れているが、状態図をもとにして説明の可能性を追求した。
【0072】
このために、Al−Cr材料系は、状態図をもとにして、通常の形で、すなわち溶融によりもたらされる、すなわち高温によりもたらされる形で観察されるはずである。約1300℃、30原子%Cr比で、ξ1−相および混晶からなる、液相および固相の共存区域に達する。低温で、それは固体E1、E2およびE3相の区域を横切る。
【0073】
状態図は、温度に関して、概ね非常に速い不均衡過程(疑似断熱的に起こる)を表現するためのものでもあると考えれば、材料を溶融させ、それを有用な速度で蒸着させる前に、急速な蒸着の間にこれらのすべての相を横切ることが必要である。
【0074】
異なる固相の区域の横断は、金属成分の様々な種類の分離、例えば好ましくは粒子境界でのアルミニウムの放出をもたらし、相または相混合物全体が溶融温度に達する前にでも、Alの急速な酸化をもたらす可能性がある。
【0075】
同じ議論は、Al(50原子%)/Cr(50原子%)の組成物に当てはまり、また、例えば、Al(27原子%)/Cr(73原子%)のターゲット組成物にも当てはまる。ここでも、酸化物島状部の成長が観察される。しかし、多分それは、クロムでの酸化物形成がもっと高い温度で起こるため、相転移においても自然に起こる金属Crの放出は、ターゲットのアーク動作およびその汚染には一般にそれほど決定的ではないので、その成長はあまり顕著ではない。
【0076】
本発明によれば、低温溶融金属成分の溶融温度より下から出発して、温度を上昇させながら、固相から液体成分を有する相へのただ1つの転移が起こるターゲットのための金属成分の濃度を求めることになる。
【0077】
そうした濃度は、特に、固体成分の溶解度が広い温度範囲で本質的に温度に依存しない場合に見出されるはずである。
【0078】
1000sccmの酸素でターゲットを5時間稼働させた後でも検出可能な島状部の成長のない区域の例は、15原子%および18原子%のCrターゲット割合を有していた。すなわち、状態図におけるこれらの区域では、相混合物の改変は、固体と液相が共存する区域においてだけ起こる。それは、完全な液相に到達するために、固液共存相から別の固液共存相への追加的な転移が交差しなければならないということとは無関係であった。
【0079】
状態図の他の区域のための試料は、上記したプロセス条件下で、酸化アルミニウムまたは酸化クロムからの容易に検出可能な島状部の成長をもたらした。
【0080】
75原子%超のCr比のための区域でも島状部の成長が存在しない。それは、この区域では、液相中の全経路にわたって温度軸と平行なCr中のAl溶解度が一定に保持されるためである。しかしながら、低温溶融金属成分の溶融温度以下から出発して温度を上昇させていくと、固相から液体成分を有する相へのただ1つの転移が起こることを確実にすることができる限り、これが他の区域でも機能するという洞察は、本発明の他の態様である。
【0081】
例えばAl−Nb系の状態図が示すように、そうした有用な区域は、Nb濃度で、本質的に>0.5原子%〜60原子%、および93原子%から本質的に<99.5原子%である。本発明によれば、融点に影響を及ぼすためには少なくとも2つの金属元素が得られなければならないので、純金属(Nb0原子%(Al100原子%に対応する)およびNb100原子%)は排除される。
【0082】
この仮説は、Al−V材料系(状態図12を参照されたい)についてやはり立証された。35原子%V比については、それは、次いで混晶とξ相からなる固体と液体が共存する区域に達するために、ε相とξ相の相混合物、さらにはξ相を通って進むことが必要である。これは、液相および固相の共存区域に達する前、したがって、仮説が正しければ、酸化物島状部を形成する分離が起こる前に、異なる固相の区域を横切ることが必要であることを意味する。
【0083】
15原子%V比では状況は異なる。既存のδおよびε相混合物から、混晶およびε相からなる液相および固相間の共存が直接達成される。このターゲットについて、酸化物島状部の成長はやはり観察されなかった。
【0084】
したがって、酸化物島状部の生成を避け、また、層内での金属飛散の集積の低減を望むなら、加熱の間の転移を、純粋な固相の相境界を超えて起こさせるべきではない。
【0085】
本発明により調製した複数のターゲットについて試行を繰り返したが、酸化物島状部の形成は全くなかった。
【0086】
例えば、この仮定は、例えばAl(80原子%)/Nb(20原子%)を有するAl−Nb材料系で立証され、それを確認することができた。
【0087】
Ti(20原子%)/Al(80原子%)ターゲット、
Al(86原子%)/Zr(14原子%)ターゲット、
Al(80原子%)/Hf(15原子%)ターゲット、
Al(80原子%)/Zr(20原子%)ターゲット、
Al(60原子%)/B(40原子%)ターゲット
についても目に見える酸化物島状部の形成は認められない結果となった。
【0088】
純酸素雰囲気下でスパーク放電を動作させると、固体と液相の共存区域を温度に関して変えることができ、多分、低温溶融金属の融点近くで相形成のための狭い温度区域を橋掛けすることができる。
【0089】
ターゲット上での酸化物島状部の形成の機構の経験的説明をもとにして、合成される酸化被膜(注:ターゲット上の島状部ではない)の形成に関係するアーク蒸着についてのさらに別の機構を説明することができる。
【0090】
それは、2つの金属成分を有する粉末冶金ターゲットからの二元金属酸化物の形成である。相転移による本質的な分離が起こらない限り、溶融温度、したがって対応する酸化物の形成温度をターゲットの組成によって設定することができる。これは、陰極スパークを説明するために状態図をなんとか描くことができることを示した上記検討によるものである。言い換えれば、粉末冶金ターゲットのアーク蒸着は、合成される金属酸化物、および対応する相または対応する相混合物の化学量論の決定を可能にする。明らかに、熱力学的な観点から、これらの酸化物は一般に通常温度で安定でないが、それらは、その形成温度、またたいていそれ以上の温度で安定である。
【0091】
例を用いて、Al−Cr材料系について再度検討してみよう。状態図をもとにして、Al(70原子%)/Cr(30原子%)の濃度で、約1300℃で対応する高い酸化傾向および蒸着傾向で溶融への転移が期待される。この酸化物がこの温度またはそれ以上で形成される場合、三元Al−Cr−Oについての状態図[9]によれば、コランダム構造を有しているはずである。X線写真をもとにして実証されているように、またW02008/009619A1に記載されているように、これは正しい。溶融物質の他の相は、ターゲット表面で目に見える分離が認められ、それが次いで融点の変更をもたらし、層の化学量論に反映される場合のみ可能である。他の相(注:金属飛散が見込まれる)は、X線回折法によっても、また走査電子(irradiant electron)顕微鏡での相当高感度の電子線回折法によっても見出すことはできなかった。
【0092】
しかし、Al−Cr状態図において、液相への転移が三元混晶酸化物の形成温度より下で起こる区域もある。次いで、相混合物が二元酸化物から形成されるはずである。
【0093】
この仮説を実証するために、層を、濃度Al(85原子%)/Cr(15原子%)を有するターゲットで作製した。状態図をもとにして、以下の状態が起こる。それは、βおよびγ相かまたはγ相だけの区域で見出され、次いで、液相と共存してδ相の区域で見出される。約1000℃での完全な酸化による液相への完全な転移が起こる。三元Al−Cr−Oの状態図[9]から、この温度で、二元酸化物は依然として別個の相で存在するということが分かる。約1000℃で形成されるAl2O3はコランダム構造を有しているはずである。これらの層内の晶子サイズは小さく、したがって、X線スペクトルでブラッグ反射が見られないことを付け加えておかねばならない。しかし、電子線回折では、酸化アルミニウムのコランダム構造を実証することができた。この結果は、Al(80原子%)/Cr(20原子%)ターゲットについても確認できるが、この場合、Al2O3のコランダム構造はさらに顕著である。どちらの場合も、ターゲット表面上に酸化物島状部は形成されなかったが、上記説明から、これは予測できたことである。元素アルミニウムターゲットでは、当然のことながら、コランダム構造はできなかった。その理由は、液相での転移が660℃(コランダム格子構造を形成するには低過ぎる)ですでに起こっているからである。
【0094】
Al2O3のコランダム構造を形成させるためのAlの融点のこの上昇は、他の材料系においても全く同様に起こり得る。例えば、約4原子%Nbを含む粉末冶金Alターゲット、または約4原子%Vもしくは2原子%Zrもしくは8原子%Hfを含む粉末冶金Alターゲットで、金属成分の二元状態図から容易に集めることができる。それぞれの二元酸化物が生成するかどうか、または、三元酸化物もしくは混合酸化物の形成が起こるかどうかは、状態図(三元系の金属酸化物と比較した二元系の金属)によることになり、これは、Al−Cr−Oについての例と全く同様に理解することができる。
【0095】
これらの状態図がまだ測定されていない場合、特定の構造を得るために、ターゲット組成を変えることによって実験的な仕方で選択することができる。
【0096】
まとめると、酸化物の合成のためのアーク蒸着の間、金属成分のターゲット組成によって、状態図に対応した可能な1つ以上の酸化物の形成温度を、高温でも二元酸化物の相が得られるように設定することができると言える。しかし、特定の濃度比については(複数の固相を通って固液共存相に至る転移が起こる場合)、ターゲット上での酸化物島状部の形成を防ぐことはできない。本説明では、状態図をもとにして、それが起こらないところをいかにして決定することができるか、すなわち、酸化物島状部の形成の問題を回避するために、いかにして、対応するターゲットを構築するかが開示されている。
【0097】
三元酸化物の合成、ならびに、高温で安定な二元酸化物の特定の合成の両方のために、ターゲット上での酸化物島状部の形成のリスクなしでターゲット組成を自由に選択することが望ましいので、粉末冶金ターゲットの全組成範囲についてのほとんどの場合にこれを可能にする方法をここに提案する。
【0098】
例として、ここでも、二元Al−Cr状態図を用いて、基本的なアプローチを説明するが、この具体的な応用例については、ある種の限界がある。
【0099】
その解は、一方で、アーク蒸着では、粉末冶金ターゲットの場合、金属成分の粒子は明らかに依然として互いに分離しているが、二元状態図によれば、酸化物が形成されるための成分混合物の融点には概ね達しているという洞察をもとにしている。他方では、単相の溶融への転移の際に酸化物島状部が形成されないことにもとづいている(ボンドキャストターゲットを参照されたい)。
【0100】
それぞれ50原子%の金属成分を有するAl−Cr−O層を作製しようとする場合、本発明によれば、このターゲットを、可能であり問題なく作製することができる混晶粉末、すなわち、例えば2原子%Crを含むAl(ボンドキャスト粉末)および10原子%Alを含むCr(ボンドキャスト粉末)、または、実際的にはどの二元系でも見出すことができる適切な比の他の可能な組成物の粉末と一緒に混合する。
【0101】
そうしたターゲットを作製するための他の方法は、プラズマ飛散法をもとにしている。その方法でも、特定の領域で粉末を自由に混合することができ、それでも、金属元素を混合し急速に固着させるために高温を達成することができる。
【0102】
本発明によれば、アーク蒸着は「かなり断熱的」に起こり、したがって、大まかな方向付けとして状態図を用いることができることが分かった。その層は、その中で通常我々が作業する基板温度範囲内で、ターゲットで実施されるか、またはその上で形成される。その基板温度は本質的には晶子サイズだけに影響を及ぼす。
【0103】
この洞察は、Alをベースとした層に適用されるだけでなく、二元酸化物だけについても適用される。当業者は理解されているように、上記の方法は、工具または構成要素(強誘電体、超電導体、触媒、担体、など)の分野とは全く異なる用途のための層設計を遂行できるようにする適切な手段を開示するものである。
【0104】
具体的には、本発明は以下の用途に使用することができる:
【0105】
1.工具:
− ミリング加工、旋盤加工または穿孔加工用の超硬合金、陶性合金、窒化ホウ素、窒化ケイ素または炭化ケイ素をベースとした使い捨てインサート
− ボールヘッド型カッターおよびエンドミルカッターなどのミリングカッター
− ねじミリングカッター
− ホブカッター
− ドリル
− ねじタップ
− 穴開け機
− 製版用工具
【0106】
2.成形および型打ち用工具:
− アルミニウムダイキャスト鋳造用の型枠
− プラスチックコーティング用の型枠
− 押し出しダイス
− シート成形用の工具
− 型打ち金属用の打ち抜き機(stamp)
− 特に熱間鍛造用のスミスジョー
− 熱圧着用の工具
【0107】
3.自動車、特に自動車産業における部品およびパーツ:
− バルブ
− キータペット
− ブッシングニードル
− バルブロッカー
− タペット
− ローラースピンドル
− ロッカーフィンガー
− カム従動子
− カム軸
− カム軸ベアリング
− バルブタペット
− 可傾式レバー
− ピストンリング
− ピストンピン
− インジェクターおよびインジェクターパーツ
− タービン翼
− ポンプパーツ
− 高圧ポンプ
− ギア
− ギアホイール
− スラストワッシャ
− 電気的制御および加速系の部品
− ABS系の部品
− ベアリング
− ボールベアリング
− ローラーベアリング
− カム軸ベアリング
【技術分野】
【0001】
本発明は、請求項1のプリアンブルに従って、アーク蒸着により金属酸化物層を製造するための方法に関する。
【0002】
具体的には、本発明は、いわゆる「合金ターゲット」、すなわち少なくとも2つの金属および/または半金属成分からなり、陰極アーク蒸着における蒸着源として働くターゲットの製造、選択および稼働に関する。
【背景技術】
【0003】
本発明は、大きく異なる溶融温度を有する金属を含む「合金ターゲット」のために特に重要である。したがって、本発明は特に、低温溶融金属成分としてアルミニウムを有するターゲットに関する。
【0004】
これらの合金ターゲットは、少なくとも2つの金属成分を有するものとして定義されるが、これらはまた、金属間化合物および/または混晶としても存在することができる。
【0005】
この場合の粉末冶金ターゲットは、金属の粉末、半金属、金属間化合物、混晶から製造されるターゲットであって、その製造工程の後(例えば、熱間等静圧圧縮成形(hot isostatic pressing)(HIP)工程において)でも、顕微鏡分解能内でその粉末粒子は依然として識別することができる。したがって、粉末冶金合金ターゲットは、金属および/または半金属粉末の混合物、金属間化合物の粉末、あるいは金属および/または半金属粉末および/または金属間化合物の混合物から製造することができる。これに対して、キャストボンディング法による(cast-bonded)冶金合金ターゲットは、主要金属または半金属が金属間相を形成するターゲットである。この特徴は、主要材料の粒子が、顕微鏡分解能の範囲内でもはや観察することができない、すなわち、それがもはや(粒子として)存在しないということである。
【0006】
さらに、いわゆるプラズマアーク溶射ターゲットがある。これは、プラズマアーク溶射によって製造されるターゲットである。このターゲットにおいて、主要材料の金属間化合物の部分的または完全な形成が起こる。しかし、一般に、プラズマアーク溶射ターゲットは、粒子と金属間相の両方を含むことができる。
【0007】
陰極アーク蒸着は、工具および構成要素のコーティングにおいて応用されており、それを用いて広範囲の金属層ならびに金属窒化物および金属窒化炭素を固着させる、長年にわたって確立されてきた方法である。これらすべての用途のために、このターゲットは、低電圧および大電流で稼働し、それを用いてターゲット(陰極)材料を蒸着させるスパーク放電の陰極である。直流電圧供給は、スパーク放電を稼働させるのに最も簡単で最も経済的な電力供給として使用される。
【0008】
より大きな問題点は、アーク蒸着による金属酸化物の製造である。酸化物層(oxidic layer)を例えば工具または構成要素上に固着させるために、酸素または酸素を含む雰囲気において直流スパーク放電を稼働させることは困難である。直流放電の両方の電極(一方は、陰極としてのターゲット、他方は、しばしば地電位で稼働させる陽極)が絶縁層で被覆される恐れがある。これは、供給源の設計(磁場、ガス投入口の位置およびタイプ)に応じて、ターゲット(陰極)上に導電性区域をもたらし、その区域上でスパークが発生し、小さくなり(constricting)、最終的にはスパーク放電の中断となる。
【0009】
T. D. シュメル、R. L. カニングハムおよびH. ランダワ、Thin Solid Films 181 (1989) 597は、Al2O3のための高速コーティング法を記載している。スパークをフィルタリングにかけた後、基板の近傍に酸素ガスを導入した。基板の近傍のフィルターの後に酸素を導入することは、ターゲットの酸化を低減させ、スパーク放電を安定化するのに重要であると述べている。
【0010】
酸化物層の製造は米国特許第5518597号にも記載されている。この特許は、高温での層の固着を含み、陽極も加熱され(800℃〜1200℃)、反応性ガスのターゲットへの直接導入はなされないという事実をもとにしている。高い陽極温度は、陽極を導電性に保持し、スパーク放電の安定的な稼働を可能にする。
【0011】
米国特許出願公開第2007/0000772A1号、WO2006/099760A2およびWO2008/009619A1には、酸素雰囲気中でのスパーク放電の稼働が詳細に記載されており、陰極で直流(DC)を導通させない絶縁層による完全なコーティングを避けることが可能な方法が提案されている。
【0012】
米国特許出願公開第2007/0000772A1号およびWO2006/099760A2は主として、非導通性酸化被膜が付かないように陰極表面を保持し、安定したスパーク放電を確実にするための必須要素としてのパルス電流によるスパーク光源の稼働を記載している。そのために特別な電力供給を必要とするスパーク電流のパルス稼働により、スパークは、ターゲットの新たな経路上を継続的に進み、好ましい区域にだけ移動するのが阻止され、残るターゲット領域は厚い酸化物でコーティングされる(「ステアードアーク法」の場合のように)。
【0013】
WO2008/009619A1では、酸素雰囲気におけるスパーク放電の稼働が記載されており、その陰極には、ターゲット表面に対して垂直な好ましくは弱い磁場がかけられている。これは、ターゲット表面にわたる定常的なスパーク経路を可能にし、直流非導通性のターゲットの厚い酸化集積物ができるのを防止する。
【0014】
これらの3つの先行技術文献に基づけば、高純度酸素雰囲気下で数時間にわたる安定したスパーク放電が確実に可能である。これらの方法は、元素ターゲットおよびボンドキャスト法で製造されたターゲットについて、安定で再現性のある形で機能する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】米国特許第5518597号明細書
【特許文献2】米国特許出願公開第2007/0000772号明細書
【特許文献3】国際公開第2006/099760号パンフレット
【特許文献4】国際公開第2008/009619号パンフレット
【非特許文献】
【0016】
【非特許文献1】T. D. シュメル、R. L. カニングハムおよびH. ランダワ、Thin Solid Films 181 (1989) 597
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
多種の金属酸化物のほとんどを製造するアーク蒸着の使用が増加してきているため、柔軟で費用効率の高いターゲットの製造が必要になってきている。多くのターゲットは、熱間等静圧圧縮成形(HIP)によって当業者に周知の方法で製造される。例えばAl−Crターゲットを製造する場合、元素(ここでは例えば非限定的な形で:AlおよびCr)からの所望の組成の粉末または粉末混合物を、粉末中の空気および水分を低減させるために真空下で高温にした容器中に封入する。次いで容器を密封し、高温高圧にかける。この方法は内部の空隙を減少させ、粉末のある種の結合をもたらす。得られる材料は、均一な粒度分布およびほぼ100%の密度を有する。
【0018】
本発明の目的は、それを用いて金属酸化物層を信頼性高く固着させることができ、かつ、可能な限り費用効果が高くなるように実行することができる、アーク蒸着により金属酸化物層を製造するための方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0019】
この目的は、請求項1に記載の特徴を有する方法で達成される。
【0020】
有利な他の展開は、上記請求項に従属する下位クレームに示されている。
【0021】
他の目的は、ターゲットの取り込みまたは早過ぎる劣化を伴うことなく、信頼性高く固着させることができ、かつ製造するのに費用効率の高い金属酸化物層を製造するためのターゲットを提案することである。
【0022】
この目的は、請求項8の特徴を有するターゲットによって達成される。
【0023】
有利な他の展開は、上記請求項に従属する下位クレームに示されている。
【0024】
他の目的は、所望の任意の組成物で費用効率および信頼性の高い固着が可能な金属酸化物層を提供することである。
【0025】
この目的は、請求項15の特徴を有する金属酸化物層によって達成される。
【0026】
有利な他の展開は、上記請求項に従属する下位クレームに示されている。
【0027】
本発明の方法は、ターゲットを用いてPVDにより酸化物層を作製するための方法であって、そのターゲットは、後で金属または半金属酸化被膜の金属または半金属を形成する少なくとも2つの金属または半金属元素からなり、そのターゲットの組成が、この組成での液相への転移における室温からの加熱の際に、元素の(溶融)混合物の状態図をもとにして、純粋な固相のどの相境界もが横切られないような仕方で選択される方法を提供する。この観点で理論化すると、利用できる不均一粉末冶金ターゲットは疑似溶融ターゲットとみなす。
【0028】
しかし、このPVD法を、特に粉末冶金で作製したターゲットを用いて使用する際に、状態図において、液相が、追加の相境界を横切ることなく1つの固相から他の純粋な固相へ単に直接達する、上記ターゲット組成によって決定される金属酸化物組成物に限定されることは望ましくないので、本発明によって、純粋な固相のどの相境界をも横切らない金属および半金属元素の組成物をまず選択し、次いでこれらから第1の成分を作製し、最後にこれらの第1の成分、および必要ならば純金属からそれぞれ所望の最終組成を有するターゲット混合物を作製することによって、所望の各金属酸化物組成物を作製することができる。
【0029】
例えば、2つの金属AおよびBを有し、これらの両方の金属が、開発しようとする金属酸化物において同じ割合で存在するように望む場合、状態図においてまず、それぞれ50%の金属濃度で、高温でのその金属の溶融混合物が他の固相に転移することなく液相へと直接進むかどうかを判断する。もしその通りである場合、本発明者が見出した欠点のリスクをもつことなく、金属Aと金属Bが同じ割合を有する粉末冶金ターゲットを製造することができる。
【0030】
これらの金属AおよびBについて、両方の金属の混合物が、さらなる固相なしで、液相へとA:B=75:25およびA:B=25:75で進む状態が見出された場合、金属間化合物の形態で75Aおよび25Bの組成を有する第1の成分Xをまず作製し、次いで、やはり金属間化合物の形態でA:B=25:75を有する第2の成分Yを作製する。続いて、これらの2つの成分XおよびYを粉砕して粉末にする。金属間化合物の代わりに、成分XまたはYの1つは純金属または半金属であってもよい。
【0031】
その後、粉末冶金ターゲットを、成分XおよびYが同じ割合で含まれる成分XおよびYから粉末冶金的に製造する。したがって、PVD法、特に陰極アーク蒸着法を実施した場合、加熱されると第2の固相を通る成分を蒸着させることなく対応する分布A:B=50:50が達成される。
【0032】
本発明はさらに、酸化被膜を作製するのに関して、特に飛散(splatter)の低減、高温安定性および結晶構造の関連でそうしたターゲットのかなり良好でより特異的な設計を可能にする。
【0033】
さらに、本発明に基づいて、高温で安定な二元、三元および四元酸化物ならびにより高次の組成物(五元、六元等)の混合酸化物を製造するために、低温溶融材料の融点の著しい増大をもたらす特定のターゲット組成物を規定することができる。
【0034】
その結果本発明により、温度形成、結晶構造、相組成および金属部分の自由度に関して、合成される層のほぼ完全な層設計が可能になる。
【0035】
特に、本発明をもとにして、コランダム構造の酸化アルミニウムを作製することができる。
【0036】
ターゲットを作製するための洞察は、反応性スパッター法、パルス型反応性スパッター法(反応性変調パルス型スパッタリングのため、反応性両極性スパッター(Twin Magスパッタリング)のためのいわゆる高出力パルス型スパッタリング)、特に反応性陰極アーク蒸着法のためのこれらのターゲットの使用にも適用される。
【0037】
本発明を以下の図面をもとにした例で説明することとする。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】Al−Cr合金ターゲットの表面の図である。
【図2】Al−Cr−O/Al−Cr−N多層コーティング横断面を示す図である。
【図3】ボンドキャスト法で作製したAl−Cr−ターゲットのターゲット表面を示す図である。
【図4】図1によるターゲットのアーク蒸着前の表面の図である。
【図5】図2による未使用ターゲットBの表面の図である。
【図6】アルミニウムおよびクロムの二元化合物の状態図である。
【図7】酸素雰囲気下、300sccmのガス流で1時間稼働したターゲットAの図である。
【図8】Al−Vターゲットの未使用ターゲット表面の図である。
【図9】他の組成を有する未使用Al−Vターゲットの表面の図である。
【図10】1時間稼働させた後のターゲット表面の図である。
【図11】Al−Vターゲットの図である。
【図12】Al−V状態図である。
【図13a】未使用ターゲット表面の図である。
【図13b】1000sccm酸素で1時間にわたって稼働した図13aによるターゲット表面の図である。
【図14a】未使用の状態で、63μmの極大分布を有するターゲットの図である。
【図14b】1000sccmで1時間にわたって酸素で稼働したターゲットの図である。
【発明を実施するための形態】
【0039】
本発明者は、アーク蒸着法によって、金属酸化物を作製するためにこれらのターゲットを使用する場合、熱間等静圧圧縮成形により作製された合金ターゲットについて上記先行技術に記載されている種類とは異なる、「ターゲット汚染」というこれまで知られていない新しいタイプの問題が一般に生じることを確認した。ターゲットのこの種の「汚染」(酸化ビルドアップ)はこれ自体、アーク蒸着の際に、時間とともに酸素分圧に応じて、ターゲット表面上に絶縁性島状部が形成されることを明示している。島状部の形成は、上記した制限に関して、スパーク放電の急速な中断をもたらさず、スパーク放電の明白な不安定化ももたらさないが、また、不安定でスパッターリッチなスパーク動作および著しく不規則なターゲットの腐食をもたらす。そのどちらも、層形成のためには望ましくない。
【0040】
米国特許出願公開第2007/0000772A1号およびWO2006/099760A2に記載されているように、この島状部の形成は、スパーク放電のパルス化動作の関連で特に望ましくない。パルス化動作は、ターゲット上での局所的なスパーク経路の連続的な変更を目的とするが、これは、厚い酸化物の蓄積から後者(ターゲット)を保護するためである。しかし、島状部がターゲット上で形成された場合、パルス化によりスパークの経路のこれらの領域が被覆されると直ちに、スパーク電流のパルス化により、そうした島状部がターゲットから飛散体として次第にほぐれてくる(loosened)ようになる。
【0041】
酸化物島状部の形成の影響は特に、溶融温度が大きく異なる材料、例えばAlとCrを含む「合金ターゲット」において見ることができる。図1に、70原子%のAlおよび30原子%のCrの組成を有するAl−Cr「合金ターゲット」(以下、ターゲットAと称する)の表面を示すが、これは、オーツェー・エリコン・バルザース・アー・ゲー社のInnova型の工具コーティング用の真空設備中で、高純度酸素雰囲気および酸素分圧(2.8Pa、酸素流量1000sccm)下で1時間稼働させたものである。異なる材料、その分布および粒子に関して、明るさの差から結論を容易に引き出せるようにするために、材料のコントラストを特に際立たせる後方散乱電子を用いて、その表面を走査型電子顕微鏡(SEM)で記録した。図1のターゲットAについて、3つの明るさのレベルをはっきり識別することができる。明るい区域はCr領域の特徴であり、平滑で少し暗い区域はAl領域の特徴である。隆起したように見える最も暗い区域については、エネルギー分散X線分光分析(EDX)を用いて材料分析を実施して、これらの島状部は酸化アルミニウムと同定された。
【0042】
これらの島状部は、様々な時間長さでターゲット上に留まり、スパーク経路を妨害する。それは、それらが絶縁性であり、直流が導通せず、したがって蒸着できないからである。すでに述べたように、絶縁性島状部は時間とともにその数とサイズが増大し、その間にターゲット上でスパークが動作し、アーク蒸着の間のより高い酸素分圧のためそれはさらに著しく成長する。島状部の成長は、ターゲット上のフリーのスパーク経路を妨害し、効率的に蒸着できるターゲット表面の縮小をもたらす。
【0043】
島状部の形成は、これらがターゲット表面からほぐされ、その表面上により大きなクレーターを残すリスクを増大させる。したがって、酸化物島状部の形成によって、ターゲット表面のある種の分離が起こる。これは一方で、特に、陰極電流をパルス化するかまたはガス流もしくはガスの種類を変えることによってソース動作を変えた場合、ターゲット上の酸化物島状部が、蒸着せずに残り、成長し、最後にはターゲットから制御されない形で自由に崩れる(注:しかし、大き過ぎるために層中に取り込まれることはない)ことを意味する。
【0044】
他方、より高温で溶融するターゲットの成分、この場合クロムが金属飛散体として蒸着し、層中に固着するのも観察される。図2は、そうした金属飛散体の層中での集積が見られる、Al−Cr−O/Al−Cr−N多層コーティングの横断面を示す。反応性ガスを連続的に変えることによって、すなわち、間断ないスパーク放電により酸素から窒素へ切り替えることによって多層構造が達成された。この反応性ガスの変更は、ターゲット上でのスパーク経路の変更をもたらし(ターゲットのパルス化動作と完全に類似している)、したがって、酸化物島状部のほぐれを増大させる。
【0045】
この過程を正確に理解しているわけではないが、金属飛散体の形成と酸化物島状部(すなわち、ある種の分離(segregation))の成長の間には相関があるようである。この「分離」は、陰極上でのスパーク動作を妨害し、層固着のためにも望ましくない。その理由は、飛散が、層に力学的に影響を及ぼし、高温で制御できない形で化学的に反応し、その高温特性を弱める可能性があるためである。
【0046】
陰極アーク蒸着による金属酸化物の合成によって粉末冶金的に製造されたターゲットを使用した場合、それによって以下の不具合が生じる:
1.HIP法による出発粉末が分離して存在すること、すなわち、単相ターゲットがない、粉末の密な結合がないこと;
2.ターゲットの2つの成分の1つまたはその混合物からなり、かつ、固着層中の金属飛散の集積をもたらす可能性がある、ターゲット上での酸化物島状部の形成;
3.スパーク電流がパルス化され、異なる反応性ガス間で切り替えられた場合の、酸化物島状部の爆発的なほぐれによる、ターゲット表面上での分離およびターゲットの激しい腐食の危険性。
【0047】
したがって、これらの不具合の関連で、二元、三元および四元またはより高次の金属酸化物の合成に対する限界もある:
1.特に、金属成分の融点が大きく異なる場合のアーク蒸着の際の粉末冶金ターゲットの酸化被膜における飛散体形成の増大;
2.合成された層で、酸素に関して化学量論をいくらか下まわるリスクに伴う酸素流に関係するある種のプロセスウィンドウの限界;
3.ターゲット上での無制御の島状部成長、したがって層内での金属飛散体の無制御の集積による、層の品質(硬さ、形態、構造)に対する不十分な制御。
【0048】
図3では、図1のターゲットAと同じスパーク電流を用い、同じ酸素流(1000sccm)下で1時間稼働したターゲット表面を示す。このターゲットもAl−Crターゲットであり、これは、ターゲットAと異なり、粉末冶金法ではなくボンドキャスト法で作製されている。さらに、このターゲットは、Al(98原子%(at%))/Cr(2原子%)の組成を有する(ターゲットBと称する)。ターゲットAとは異なり、ターゲットBは、酸化物島状部の形成を示していない。
【0049】
単一の結晶相で構成された酸化物製造のためのターゲットはCH00/688863号に記載されている。しかし、これは、酸化物島状部の形成の問題を対象としておらず、そうした単相ターゲットを、酸素含有雰囲気下で動作できる可能性を対象としているだけである。
【0050】
上記先行技術および我々自身の観察をもとにして、本発明によってここに、ターゲット製造法が、酸化物島状部の形成に影響を及ぼす可能性があることを見出した。この仮定は、SEM顕微鏡写真でアーク蒸着の前のターゲットの表面を比較すると実証される。図4に、アーク蒸着の前のターゲットA(やはり未使用)の表面を示す。SEM顕微鏡写真から、Crの明るい領域が少し暗いAlマトリクス中に埋め込まれているのが明らかに見られる。
【0051】
比較のため、未使用ターゲットBの表面を図5に示す。ターゲットAとは対照的に、主要材料AlとCrの分離された領域は見えないが、ボンドキャスト製造法は主要材料の均一な相または混晶をもたらすため、これも驚くべきことではない。
【0052】
HIP法は粉末の混和性の自由度を高めることができるが、合金ターゲットのボンドキャスト製造法は、特定の化合物においてのみ可能である。当業者に知られている二元金属化合物の状態図(2つの金属成分を含むターゲットのための)をもとにして、これらの混合比を概略評価することができる。
【0053】
図6に、AlとCrの二元の組合せについてのそのような状態図を示す。結果として、ボンドキャストターゲットは、約800℃でAl中に2原子%のCrで作製することができるはずである。Alの融点は約660℃である、すなわち、ターゲット中での所要Cr濃度を達成するためには、Alを融点超に加熱しなければならない。次いで、蒸気圧が異なるため、この濃度で「凍結し」、材料の分離が起こらないようにするために、可能な限り急速に冷却しなければならない。ターゲット製造温度が低温溶融成分の溶融温度より高い場合、これはいっそう重要である。
【0054】
ボンドキャスト法でターゲットAを作製しようとした場合、30原子%Cr比のために、Al−Cr混合物を1200℃超に加熱し、その組成を一定に保持し(この温度でAlがすでに高い蒸気圧をもつので、これは困難である)、次いで、化合物を「凍結する」ために、その混合物を可能な限り急速に冷却することが必要である。本発明によれば、同じターゲットのための複雑なボンドキャスト製造法より、粉末混合物を一緒に混合し、HIP法でそれを処理するほうがずっと簡単である。
【0055】
本発明のフレームにおいて、陰極アーク蒸着によって金属酸化物を合成するのにボンドキャスト法で作製したターゲットを用いると、以下の不具合が生じてくることを見出した:
1.組成選択の自由度がない(注:状態図にもとづく「禁止(interdict)」);
2.複雑で費用のかかる製造プロセス;
3.特定のターゲット組成物への製造プロセスの当てはめ(異なる蒸気圧を考慮した温度、冷却時間);
4.単相二元合金上での二元高温溶融酸化物の合成(すなわち、単相二元ターゲットからのコランダム構造のAl2O3製造)が不可能。
【0056】
ボンドキャスト法で作製したターゲットと比較して粉末冶金ターゲットのより自由度の高い混和性とより簡単な製造技術と、酸化の際の「単相」挙動およびボンドキャスト法で作製したターゲットの酸化物島状部の形成防止とを一緒にしたターゲットが必要である。
【0057】
本発明では、酸化物およびその相混合物の具体的な形成温度を決定するために、粉末冶金合金ターゲットのための二元合金についての状態図をもとにして、ターゲットの組成物のための指図を提供する。
【0058】
本発明は、酸化物島状部の形成を回避し、かつ、陰極アーク蒸着による酸化被膜の製造の際の飛散を低減させるという目的を有する。開発の過程で、その材料、その濃度および粉末粒子サイズに関して、異なる組成を有する数多くの様々なターゲットを検討した。
【0059】
まず、酸化物島状部の形成を特によく試験することができるプロセスウィンドウを決定した。これを説明するためには、再びターゲットAを観察しなければならない。図7では、ターゲットAは、高純度酸素下でガス流を300sccmだけにして1時間稼働したものである。1000sccmの純酸素流での稼働と比較して得られた表面(図1)は、より大きな酸素流の場合より、酸化物島状部の形成がかなり少ないことが示されている。
【0060】
同様の試験を、同じ材料系の他のターゲット組成物、例えばAl(50原子%)/Cr(50原子%)、Al(85原子%)/Cr(15原子%)およびAl(25原子%)/Cr(75原子%)でも実施した。これらすべてのターゲットについて、そのガス流での酸化物島状部の形成は認められないかまたは僅かしか認められない。これらの試行において合成した酸化被膜中の酸素含量を、ラザフォード後方散乱スペクトル法(RBS)で測定し、(Al,Cr)202.80〜(Al,Cr)202.05であった。その結果、この方法の精度を測るフレームにおいて、層の化学量論を結論づけることができる。しかし、その含量は常に酸素不足側にあった。この結果は、全体にわたって酸化されていない(図2を参照されたい)層内における金属飛散で説明することができる。1000sccmで固着させた層の化学量論については、同様の結果が得られた。
【0061】
さらに、異なる粒径の粉末冶金ターゲットも作製し、試験した。図13に、図1と同様に1000sccm酸素で1時間稼働した、未使用ターゲット表面(a)およびターゲット表面(b)を示す。ターゲット作製者は、粒径について、約100μmの分布最大を示している。図14(a)および図14(b)では、63μmの分布最大を有するターゲットを検討した。両方の場合、酸化物島状部の成長の影響が明らかに示されている。この経験は、10μm〜300μmの粉末粒径範囲を有するターゲットについてなされた。
【0062】
他の材料についても、酸化物島状部の形成のためのウィンドウを決定しなければならなかった。このため、TiAl、AlV、AlNb、AlHf、AlZr、AlZrY、AlTaなどの材料系ならびにIII、IV主族および第4、第5、第6B族で構成された一連の他のターゲット混合物を試験し、ほとんどの場合、300sccmでの稼働の間、酸化物島状部は全く認められないかまたは痕跡しか認められなかった。1000sccmでは、著しい島状部成長も、または驚くべきことに、島状部成長も認められなかった。
【0063】
大きな酸素流で稼働しても島状部の成長を回避できるという驚くべき結果は、結局は、金属酸化物についての特定のターゲット設計のための本発明による方法だけでなく、これらの洞察にもとづいて、これまで酸化物層の特定の合成についての未知の方法も可能にした。
【0064】
実験では、1000sccmでも島状部の成長が起こらない場合、酸素流をまず、ポンプシステムでの可能限界の1600sccmの酸素流(約5Paの圧力に相当する)に増加させた。全く予想外のことであったが、この条件下でも、これらのターゲットについて酸化物島状部の成長は達成されなかった。最後に、ターゲットを動作させる場合、すべての材料につて1000sccmの酸素流を用いた。
【0065】
上記したように、理解を可能にするきっかけは、1000sccmでも酸化物島状部が形成されないボンドキャストターゲットの挙動によってもたらされた。ターゲットの拡張した単相は、二元酸化物島状部固着、すなわち、低温溶融金属ターゲット成分の酸化物形成の防止のための可能性のある1つの解釈であった。図6のAl−Cr状態図をもとにすると、98原子%Al中に2原子%Crを放出するためには、温度は約800℃でなければならない。次いで、これらの2原子%Crを98原子%Al中に「凍結させる」ために、Al−Cr混合物を急速に冷却しなければならない。その理由は、熱平衡において冷却しても、そうした高いCr含量は達成されないからである。
【0066】
T. B. マサルスキ、ヒュー ベイカー、L. H. ベネットおよびジョアンL. マレイ、Binary Allow Phase Diagrams, American Society for Metals, ISBN0-87170-261-4の状態図は、熱力学的平衡において生じ、したがって、そうした急速冷却を説明するのに全く用いることができないか、または非常に限られた条件付きでしか用いることができない相(複数)と相の転換を記載している。
【0067】
粉末冶金で製造したターゲットの未使用の表面を観察してみると(ターゲットAについての図4)、その材料は単相ではなく、その粉末は依然として互いに著しく分かれていることが明瞭に観察される。
【0068】
これはAl−Cr系だけには当てはまらない。図8では、Al(65原子%)−V(35原子%)ターゲットの未使用ターゲット表面を、図9には、未使用のAl(85原子%)−V(15原子%)ターゲットの表面を示す。どちらの場合も、明るさの差をもとにして、両方の材料AlとVを明らかに確認することができる。これらのターゲットを1000sccm酸素で稼働させると、両方の場合で、ターゲット表面上での酸化物島状部の成長が起こることももちろん予想されよう。
【0069】
驚くべきことに、図10で示すように、酸化物島状部の成長はAl(65原子%)−V(35原子%)ターゲットにおいてのみ観察された。図11で示したAl(85原子%)−V(15原子%)ターゲットの表面上で、酸化物島状部は検出されなかった。
【0070】
この驚くべき結果を検証するために、他の一連の粉末冶金ターゲットを検討した。そこでは、材料および組成を様々に変えた。最後に、酸化物島状部の形成の性質を理解するために、一次粉末の粒径を変えた。
【0071】
アーク蒸着は、準静的平衡過程からは全く外れているが、状態図をもとにして説明の可能性を追求した。
【0072】
このために、Al−Cr材料系は、状態図をもとにして、通常の形で、すなわち溶融によりもたらされる、すなわち高温によりもたらされる形で観察されるはずである。約1300℃、30原子%Cr比で、ξ1−相および混晶からなる、液相および固相の共存区域に達する。低温で、それは固体E1、E2およびE3相の区域を横切る。
【0073】
状態図は、温度に関して、概ね非常に速い不均衡過程(疑似断熱的に起こる)を表現するためのものでもあると考えれば、材料を溶融させ、それを有用な速度で蒸着させる前に、急速な蒸着の間にこれらのすべての相を横切ることが必要である。
【0074】
異なる固相の区域の横断は、金属成分の様々な種類の分離、例えば好ましくは粒子境界でのアルミニウムの放出をもたらし、相または相混合物全体が溶融温度に達する前にでも、Alの急速な酸化をもたらす可能性がある。
【0075】
同じ議論は、Al(50原子%)/Cr(50原子%)の組成物に当てはまり、また、例えば、Al(27原子%)/Cr(73原子%)のターゲット組成物にも当てはまる。ここでも、酸化物島状部の成長が観察される。しかし、多分それは、クロムでの酸化物形成がもっと高い温度で起こるため、相転移においても自然に起こる金属Crの放出は、ターゲットのアーク動作およびその汚染には一般にそれほど決定的ではないので、その成長はあまり顕著ではない。
【0076】
本発明によれば、低温溶融金属成分の溶融温度より下から出発して、温度を上昇させながら、固相から液体成分を有する相へのただ1つの転移が起こるターゲットのための金属成分の濃度を求めることになる。
【0077】
そうした濃度は、特に、固体成分の溶解度が広い温度範囲で本質的に温度に依存しない場合に見出されるはずである。
【0078】
1000sccmの酸素でターゲットを5時間稼働させた後でも検出可能な島状部の成長のない区域の例は、15原子%および18原子%のCrターゲット割合を有していた。すなわち、状態図におけるこれらの区域では、相混合物の改変は、固体と液相が共存する区域においてだけ起こる。それは、完全な液相に到達するために、固液共存相から別の固液共存相への追加的な転移が交差しなければならないということとは無関係であった。
【0079】
状態図の他の区域のための試料は、上記したプロセス条件下で、酸化アルミニウムまたは酸化クロムからの容易に検出可能な島状部の成長をもたらした。
【0080】
75原子%超のCr比のための区域でも島状部の成長が存在しない。それは、この区域では、液相中の全経路にわたって温度軸と平行なCr中のAl溶解度が一定に保持されるためである。しかしながら、低温溶融金属成分の溶融温度以下から出発して温度を上昇させていくと、固相から液体成分を有する相へのただ1つの転移が起こることを確実にすることができる限り、これが他の区域でも機能するという洞察は、本発明の他の態様である。
【0081】
例えばAl−Nb系の状態図が示すように、そうした有用な区域は、Nb濃度で、本質的に>0.5原子%〜60原子%、および93原子%から本質的に<99.5原子%である。本発明によれば、融点に影響を及ぼすためには少なくとも2つの金属元素が得られなければならないので、純金属(Nb0原子%(Al100原子%に対応する)およびNb100原子%)は排除される。
【0082】
この仮説は、Al−V材料系(状態図12を参照されたい)についてやはり立証された。35原子%V比については、それは、次いで混晶とξ相からなる固体と液体が共存する区域に達するために、ε相とξ相の相混合物、さらにはξ相を通って進むことが必要である。これは、液相および固相の共存区域に達する前、したがって、仮説が正しければ、酸化物島状部を形成する分離が起こる前に、異なる固相の区域を横切ることが必要であることを意味する。
【0083】
15原子%V比では状況は異なる。既存のδおよびε相混合物から、混晶およびε相からなる液相および固相間の共存が直接達成される。このターゲットについて、酸化物島状部の成長はやはり観察されなかった。
【0084】
したがって、酸化物島状部の生成を避け、また、層内での金属飛散の集積の低減を望むなら、加熱の間の転移を、純粋な固相の相境界を超えて起こさせるべきではない。
【0085】
本発明により調製した複数のターゲットについて試行を繰り返したが、酸化物島状部の形成は全くなかった。
【0086】
例えば、この仮定は、例えばAl(80原子%)/Nb(20原子%)を有するAl−Nb材料系で立証され、それを確認することができた。
【0087】
Ti(20原子%)/Al(80原子%)ターゲット、
Al(86原子%)/Zr(14原子%)ターゲット、
Al(80原子%)/Hf(15原子%)ターゲット、
Al(80原子%)/Zr(20原子%)ターゲット、
Al(60原子%)/B(40原子%)ターゲット
についても目に見える酸化物島状部の形成は認められない結果となった。
【0088】
純酸素雰囲気下でスパーク放電を動作させると、固体と液相の共存区域を温度に関して変えることができ、多分、低温溶融金属の融点近くで相形成のための狭い温度区域を橋掛けすることができる。
【0089】
ターゲット上での酸化物島状部の形成の機構の経験的説明をもとにして、合成される酸化被膜(注:ターゲット上の島状部ではない)の形成に関係するアーク蒸着についてのさらに別の機構を説明することができる。
【0090】
それは、2つの金属成分を有する粉末冶金ターゲットからの二元金属酸化物の形成である。相転移による本質的な分離が起こらない限り、溶融温度、したがって対応する酸化物の形成温度をターゲットの組成によって設定することができる。これは、陰極スパークを説明するために状態図をなんとか描くことができることを示した上記検討によるものである。言い換えれば、粉末冶金ターゲットのアーク蒸着は、合成される金属酸化物、および対応する相または対応する相混合物の化学量論の決定を可能にする。明らかに、熱力学的な観点から、これらの酸化物は一般に通常温度で安定でないが、それらは、その形成温度、またたいていそれ以上の温度で安定である。
【0091】
例を用いて、Al−Cr材料系について再度検討してみよう。状態図をもとにして、Al(70原子%)/Cr(30原子%)の濃度で、約1300℃で対応する高い酸化傾向および蒸着傾向で溶融への転移が期待される。この酸化物がこの温度またはそれ以上で形成される場合、三元Al−Cr−Oについての状態図[9]によれば、コランダム構造を有しているはずである。X線写真をもとにして実証されているように、またW02008/009619A1に記載されているように、これは正しい。溶融物質の他の相は、ターゲット表面で目に見える分離が認められ、それが次いで融点の変更をもたらし、層の化学量論に反映される場合のみ可能である。他の相(注:金属飛散が見込まれる)は、X線回折法によっても、また走査電子(irradiant electron)顕微鏡での相当高感度の電子線回折法によっても見出すことはできなかった。
【0092】
しかし、Al−Cr状態図において、液相への転移が三元混晶酸化物の形成温度より下で起こる区域もある。次いで、相混合物が二元酸化物から形成されるはずである。
【0093】
この仮説を実証するために、層を、濃度Al(85原子%)/Cr(15原子%)を有するターゲットで作製した。状態図をもとにして、以下の状態が起こる。それは、βおよびγ相かまたはγ相だけの区域で見出され、次いで、液相と共存してδ相の区域で見出される。約1000℃での完全な酸化による液相への完全な転移が起こる。三元Al−Cr−Oの状態図[9]から、この温度で、二元酸化物は依然として別個の相で存在するということが分かる。約1000℃で形成されるAl2O3はコランダム構造を有しているはずである。これらの層内の晶子サイズは小さく、したがって、X線スペクトルでブラッグ反射が見られないことを付け加えておかねばならない。しかし、電子線回折では、酸化アルミニウムのコランダム構造を実証することができた。この結果は、Al(80原子%)/Cr(20原子%)ターゲットについても確認できるが、この場合、Al2O3のコランダム構造はさらに顕著である。どちらの場合も、ターゲット表面上に酸化物島状部は形成されなかったが、上記説明から、これは予測できたことである。元素アルミニウムターゲットでは、当然のことながら、コランダム構造はできなかった。その理由は、液相での転移が660℃(コランダム格子構造を形成するには低過ぎる)ですでに起こっているからである。
【0094】
Al2O3のコランダム構造を形成させるためのAlの融点のこの上昇は、他の材料系においても全く同様に起こり得る。例えば、約4原子%Nbを含む粉末冶金Alターゲット、または約4原子%Vもしくは2原子%Zrもしくは8原子%Hfを含む粉末冶金Alターゲットで、金属成分の二元状態図から容易に集めることができる。それぞれの二元酸化物が生成するかどうか、または、三元酸化物もしくは混合酸化物の形成が起こるかどうかは、状態図(三元系の金属酸化物と比較した二元系の金属)によることになり、これは、Al−Cr−Oについての例と全く同様に理解することができる。
【0095】
これらの状態図がまだ測定されていない場合、特定の構造を得るために、ターゲット組成を変えることによって実験的な仕方で選択することができる。
【0096】
まとめると、酸化物の合成のためのアーク蒸着の間、金属成分のターゲット組成によって、状態図に対応した可能な1つ以上の酸化物の形成温度を、高温でも二元酸化物の相が得られるように設定することができると言える。しかし、特定の濃度比については(複数の固相を通って固液共存相に至る転移が起こる場合)、ターゲット上での酸化物島状部の形成を防ぐことはできない。本説明では、状態図をもとにして、それが起こらないところをいかにして決定することができるか、すなわち、酸化物島状部の形成の問題を回避するために、いかにして、対応するターゲットを構築するかが開示されている。
【0097】
三元酸化物の合成、ならびに、高温で安定な二元酸化物の特定の合成の両方のために、ターゲット上での酸化物島状部の形成のリスクなしでターゲット組成を自由に選択することが望ましいので、粉末冶金ターゲットの全組成範囲についてのほとんどの場合にこれを可能にする方法をここに提案する。
【0098】
例として、ここでも、二元Al−Cr状態図を用いて、基本的なアプローチを説明するが、この具体的な応用例については、ある種の限界がある。
【0099】
その解は、一方で、アーク蒸着では、粉末冶金ターゲットの場合、金属成分の粒子は明らかに依然として互いに分離しているが、二元状態図によれば、酸化物が形成されるための成分混合物の融点には概ね達しているという洞察をもとにしている。他方では、単相の溶融への転移の際に酸化物島状部が形成されないことにもとづいている(ボンドキャストターゲットを参照されたい)。
【0100】
それぞれ50原子%の金属成分を有するAl−Cr−O層を作製しようとする場合、本発明によれば、このターゲットを、可能であり問題なく作製することができる混晶粉末、すなわち、例えば2原子%Crを含むAl(ボンドキャスト粉末)および10原子%Alを含むCr(ボンドキャスト粉末)、または、実際的にはどの二元系でも見出すことができる適切な比の他の可能な組成物の粉末と一緒に混合する。
【0101】
そうしたターゲットを作製するための他の方法は、プラズマ飛散法をもとにしている。その方法でも、特定の領域で粉末を自由に混合することができ、それでも、金属元素を混合し急速に固着させるために高温を達成することができる。
【0102】
本発明によれば、アーク蒸着は「かなり断熱的」に起こり、したがって、大まかな方向付けとして状態図を用いることができることが分かった。その層は、その中で通常我々が作業する基板温度範囲内で、ターゲットで実施されるか、またはその上で形成される。その基板温度は本質的には晶子サイズだけに影響を及ぼす。
【0103】
この洞察は、Alをベースとした層に適用されるだけでなく、二元酸化物だけについても適用される。当業者は理解されているように、上記の方法は、工具または構成要素(強誘電体、超電導体、触媒、担体、など)の分野とは全く異なる用途のための層設計を遂行できるようにする適切な手段を開示するものである。
【0104】
具体的には、本発明は以下の用途に使用することができる:
【0105】
1.工具:
− ミリング加工、旋盤加工または穿孔加工用の超硬合金、陶性合金、窒化ホウ素、窒化ケイ素または炭化ケイ素をベースとした使い捨てインサート
− ボールヘッド型カッターおよびエンドミルカッターなどのミリングカッター
− ねじミリングカッター
− ホブカッター
− ドリル
− ねじタップ
− 穴開け機
− 製版用工具
【0106】
2.成形および型打ち用工具:
− アルミニウムダイキャスト鋳造用の型枠
− プラスチックコーティング用の型枠
− 押し出しダイス
− シート成形用の工具
− 型打ち金属用の打ち抜き機(stamp)
− 特に熱間鍛造用のスミスジョー
− 熱圧着用の工具
【0107】
3.自動車、特に自動車産業における部品およびパーツ:
− バルブ
− キータペット
− ブッシングニードル
− バルブロッカー
− タペット
− ローラースピンドル
− ロッカーフィンガー
− カム従動子
− カム軸
− カム軸ベアリング
− バルブタペット
− 可傾式レバー
− ピストンリング
− ピストンピン
− インジェクターおよびインジェクターパーツ
− タービン翼
− ポンプパーツ
− 高圧ポンプ
− ギア
− ギアホイール
− スラストワッシャ
− 電気的制御および加速系の部品
− ABS系の部品
− ベアリング
− ボールベアリング
− ローラーベアリング
− カム軸ベアリング
【特許請求の範囲】
【請求項1】
PVD(物理的蒸着)、特に陰極アーク蒸着によって酸化物層を製造する方法であって、
粉末冶金ターゲットが蒸着され、粉末金属ターゲットは少なくとも2つの金属もしくは半金属元素で形成されており、前記ターゲットの金属もしくは半金属成分の組成は、液相への転移における室温からの加熱の際に、少なくとも2つの金属または半金属元素の溶融混合物の状態図をもとにして、純粋な固相のどの相境界もが横切られないような仕方で選択されることを特徴とする方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法において、
状態図をもとにして、液相への転移における室温からの加熱の際に、前記金属または半金属元素が純粋な固相のどの相境界をも横切らない組成の外側にある組成を有する酸化物層を固着させるために、前記粉末冶金ターゲットが少なくとも2つの成分で形成され、
第1の成分は金属および半金属元素の第1の組成を有し、状態図をもとにして、前記第1の組成での液相への転移における室温からの加熱の際に、純粋な固相のどの相境界もが横切られず、
少なくとも第2の成分は金属または半金属製であるか、あるいは金属および半金属元素の別の組成を有しており、状態図をもとにして、前記第2の組成での液相への転移における室温からの加熱の際に、純粋な固相のどの相境界もが横切られず、
前記第1の成分、前記第2の成分、および必要なら他の成分および/または主要金属もしくは主要半金属が、金属酸化物層の所望の組成が達成されるような仕方で混合されることを特徴とする方法。
【請求項3】
上記請求項のいずれか1項に記載の方法において、
前記酸化物層が、アルミニウムおよびさらなる金属または半金属元素からなる少なくとも1つの粉末冶金で製造されたターゲットを用いることによって、コランダム構造中に70原子%超の割合の酸化アルミニウムを有し、前記組成物が、1000℃〜12000℃で液相への転移を有することを特徴とする方法。
【請求項4】
請求項3に記載の方法において、
前記さらなる金属または半金属元素が、原子%で以下に示す次の元素:
Au:10〜50
B:3未満
Be:20〜30
C.3未満
Cr:10〜20
Fe:5〜15
Hf:5〜10
Ir:10〜15
La:10〜15
Mo:2〜5
Nb:1〜3
Ta:1〜3
Ti:2〜6
V:3〜8
W:5〜8
Y:12〜16
Zr:2〜4
の少なくとも1つから選択されることを特徴とする方法。
【請求項5】
上記請求項のいずれか1項に記載の方法において、
300μm未満、好ましくは200μm未満、より好ましくは100μm未満の粒径を有する、少なくとも2つの金属または半金属元素でできた粉末冶金ターゲットが使用されることを特徴とする方法。
【請求項6】
上記請求項のいずれか1項に記載の方法において、
少なくとも2つの金属または半金属元素合金ターゲットを用いてPVDによって、高温で安定な三元またはより高次の酸化物を製造するために、前記合金の組成が、状態図によって、液相への転移で、形成温度が本質的に決定されるように選択されることを特徴とする方法。
【請求項7】
上記請求項のいずれか1項に記載の方法において、
飛散を避けながら酸化被膜製造用の粉末冶金ターゲットを製造するために、相混合物からの一次粉末が、それぞれが、液相への転移における室温からの加熱の際に、純粋な固相のどの相境界もが横切られない、それ自体の組成を有するように使用されることを特徴とする方法。
【請求項8】
PVD(物理的蒸着)によって、特に陰極アーク蒸着によって酸化物層を製造するための粉末冶金ターゲットであって、
粉末冶金ターゲットが蒸着され、前記粉末冶金ターゲットは金属および/または半金属である少なくとも2つの元素でできており、前記ターゲットの金属もしくは半金属元素の組成は、少なくとも2つの金属または半金属元素の溶融混合物の状態図をもとにして、液相への転移における室温からの加熱の際に、純粋な固相のどの相境界もが横切られないような仕方で選択されることを特徴とする粉末冶金ターゲット。
【請求項9】
請求項8に記載の粉末冶金ターゲットにおいて、
液相への転移における室温からの加熱の際に、金属または半金属元素が純粋な固相のどの相境界をも横切らない、組成の外側にある組成で酸化物層を固着させるために、前記ターゲットが少なくとも2つの成分で形成され、
第1の粉末冶金成分は金属および/または半金属元素の第1の組成を有し、前記第1の組成での液相への転移における室温からの加熱の際に、純粋な固相のどの相境界もが横切られず、
少なくとも第2の成分は金属または半金属であるか、あるいは、第1の成分と異なる、金属および半金属元素の別の組成を有しており、前記第2の組成での液相への転移における室温からの加熱の際に、純粋な固相のどの相境界もが横切られず、
前記第1の成分、前記第2の成分、および必要なら他の成分および/または主要金属もしくは主要半金属が、金属酸化物層の所望組成が得られるような仕方で混合されることを特徴とする粉末冶金ターゲット。
【請求項10】
請求項8または9に記載のターゲットにおいて、
粉末冶金で製造されたターゲットを形成する成分および/または元素および/または金属または半金属が、300μm未満、好ましくは200μm未満、より好ましくは100μm未満の粒径を有することを特徴とするターゲット。
【請求項11】
請求項8から10のいずれか1項に記載のターゲットにおいて、
前記ターゲットがアルミニウムおよび少なくとも1つのさらなる金属または半金属元素からなり、前記組成物が、1000℃〜1200℃で液相への転移を有することを特徴とするターゲット。
【請求項12】
請求項11に記載のターゲットにおいて、
前記ターゲットが、ボンドキャスト法、粉末冶金法またはプラズマアーク溶射法で製造され、アルミニウムおよび少なくとも1つのさらなる金属または半金属元素からなり、前記さらなる金属または半金属元素が、原子%で以下に示す次の元素:
Au:10〜50
B:3未満
Be:20〜30
C.3未満
Cr:10〜20
Fe:5〜15
Hf:5〜10
Ir:10〜15
La:10〜15
Mo:2〜5
Nb:1〜3
Ta:1〜3
Ti:2〜6
V:3〜8
W:5〜8
Y:12〜16
Zr:2〜4
の少なくとも1つから選択されることを特徴とするターゲット。
【請求項13】
請求項8から12のいずれか1項に記載のターゲットにおいて、
前記元素が、少なくとも100℃〜500℃の融点の差で異なっていることを特徴とするターゲット。
【請求項14】
請求項8から13のいずれか1項に記載のターゲットにおいて、
前記一次粉末の少なくとも1つが、2つの相もしくは混晶、または、1つもしくは複数の相および1つもしくは複数の混晶から混合されることを特徴とするターゲット。
【請求項15】
請求項8から11のいずれか1項に記載のターゲットを用いて、請求項1から7のいずれか1項に記載の方法によって製造されることを特徴とする金属酸化物層。
【請求項16】
請求項15に記載の金属酸化物層において、
前記金属酸化物層がコランダム構造のアルミニウム酸化被膜であり、
前記層が、30原子%未満の割合の高温溶融金属または半金属成分の混合物を有することを特徴とする金属酸化物層。
【請求項17】
請求項16に記載の金属酸化物層において、
原子%で以下の元素:
Au:10〜50
B:3未満
Be:20〜30
C:3未満
Cr:10〜20
Fe:5〜15
Hf:5〜10
Ir:10〜15
La:10〜15
Mo:2〜5
Nb:1〜3
Ta:1〜3
Ti:2〜6
V:3〜8
W:5〜8
Y:12〜16
Zr:2〜4
の群からの1つまたは複数の混合物を含むことを特徴とする金属酸化物層。
【請求項18】
摩耗保護、構成要素、部品、障壁層、強誘電体、超電導体、燃料電池のために請求項8から14のいずれか1項に記載のターゲットを使用することによって、請求項1から7のいずれか1項に記載の特徴を有する方法で製造されることを特徴とする請求項15から17のいずれか1項に記載の金属酸化物層の使用。
【請求項1】
PVD(物理的蒸着)、特に陰極アーク蒸着によって酸化物層を製造する方法であって、
粉末冶金ターゲットが蒸着され、粉末金属ターゲットは少なくとも2つの金属もしくは半金属元素で形成されており、前記ターゲットの金属もしくは半金属成分の組成は、液相への転移における室温からの加熱の際に、少なくとも2つの金属または半金属元素の溶融混合物の状態図をもとにして、純粋な固相のどの相境界もが横切られないような仕方で選択されることを特徴とする方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法において、
状態図をもとにして、液相への転移における室温からの加熱の際に、前記金属または半金属元素が純粋な固相のどの相境界をも横切らない組成の外側にある組成を有する酸化物層を固着させるために、前記粉末冶金ターゲットが少なくとも2つの成分で形成され、
第1の成分は金属および半金属元素の第1の組成を有し、状態図をもとにして、前記第1の組成での液相への転移における室温からの加熱の際に、純粋な固相のどの相境界もが横切られず、
少なくとも第2の成分は金属または半金属製であるか、あるいは金属および半金属元素の別の組成を有しており、状態図をもとにして、前記第2の組成での液相への転移における室温からの加熱の際に、純粋な固相のどの相境界もが横切られず、
前記第1の成分、前記第2の成分、および必要なら他の成分および/または主要金属もしくは主要半金属が、金属酸化物層の所望の組成が達成されるような仕方で混合されることを特徴とする方法。
【請求項3】
上記請求項のいずれか1項に記載の方法において、
前記酸化物層が、アルミニウムおよびさらなる金属または半金属元素からなる少なくとも1つの粉末冶金で製造されたターゲットを用いることによって、コランダム構造中に70原子%超の割合の酸化アルミニウムを有し、前記組成物が、1000℃〜12000℃で液相への転移を有することを特徴とする方法。
【請求項4】
請求項3に記載の方法において、
前記さらなる金属または半金属元素が、原子%で以下に示す次の元素:
Au:10〜50
B:3未満
Be:20〜30
C.3未満
Cr:10〜20
Fe:5〜15
Hf:5〜10
Ir:10〜15
La:10〜15
Mo:2〜5
Nb:1〜3
Ta:1〜3
Ti:2〜6
V:3〜8
W:5〜8
Y:12〜16
Zr:2〜4
の少なくとも1つから選択されることを特徴とする方法。
【請求項5】
上記請求項のいずれか1項に記載の方法において、
300μm未満、好ましくは200μm未満、より好ましくは100μm未満の粒径を有する、少なくとも2つの金属または半金属元素でできた粉末冶金ターゲットが使用されることを特徴とする方法。
【請求項6】
上記請求項のいずれか1項に記載の方法において、
少なくとも2つの金属または半金属元素合金ターゲットを用いてPVDによって、高温で安定な三元またはより高次の酸化物を製造するために、前記合金の組成が、状態図によって、液相への転移で、形成温度が本質的に決定されるように選択されることを特徴とする方法。
【請求項7】
上記請求項のいずれか1項に記載の方法において、
飛散を避けながら酸化被膜製造用の粉末冶金ターゲットを製造するために、相混合物からの一次粉末が、それぞれが、液相への転移における室温からの加熱の際に、純粋な固相のどの相境界もが横切られない、それ自体の組成を有するように使用されることを特徴とする方法。
【請求項8】
PVD(物理的蒸着)によって、特に陰極アーク蒸着によって酸化物層を製造するための粉末冶金ターゲットであって、
粉末冶金ターゲットが蒸着され、前記粉末冶金ターゲットは金属および/または半金属である少なくとも2つの元素でできており、前記ターゲットの金属もしくは半金属元素の組成は、少なくとも2つの金属または半金属元素の溶融混合物の状態図をもとにして、液相への転移における室温からの加熱の際に、純粋な固相のどの相境界もが横切られないような仕方で選択されることを特徴とする粉末冶金ターゲット。
【請求項9】
請求項8に記載の粉末冶金ターゲットにおいて、
液相への転移における室温からの加熱の際に、金属または半金属元素が純粋な固相のどの相境界をも横切らない、組成の外側にある組成で酸化物層を固着させるために、前記ターゲットが少なくとも2つの成分で形成され、
第1の粉末冶金成分は金属および/または半金属元素の第1の組成を有し、前記第1の組成での液相への転移における室温からの加熱の際に、純粋な固相のどの相境界もが横切られず、
少なくとも第2の成分は金属または半金属であるか、あるいは、第1の成分と異なる、金属および半金属元素の別の組成を有しており、前記第2の組成での液相への転移における室温からの加熱の際に、純粋な固相のどの相境界もが横切られず、
前記第1の成分、前記第2の成分、および必要なら他の成分および/または主要金属もしくは主要半金属が、金属酸化物層の所望組成が得られるような仕方で混合されることを特徴とする粉末冶金ターゲット。
【請求項10】
請求項8または9に記載のターゲットにおいて、
粉末冶金で製造されたターゲットを形成する成分および/または元素および/または金属または半金属が、300μm未満、好ましくは200μm未満、より好ましくは100μm未満の粒径を有することを特徴とするターゲット。
【請求項11】
請求項8から10のいずれか1項に記載のターゲットにおいて、
前記ターゲットがアルミニウムおよび少なくとも1つのさらなる金属または半金属元素からなり、前記組成物が、1000℃〜1200℃で液相への転移を有することを特徴とするターゲット。
【請求項12】
請求項11に記載のターゲットにおいて、
前記ターゲットが、ボンドキャスト法、粉末冶金法またはプラズマアーク溶射法で製造され、アルミニウムおよび少なくとも1つのさらなる金属または半金属元素からなり、前記さらなる金属または半金属元素が、原子%で以下に示す次の元素:
Au:10〜50
B:3未満
Be:20〜30
C.3未満
Cr:10〜20
Fe:5〜15
Hf:5〜10
Ir:10〜15
La:10〜15
Mo:2〜5
Nb:1〜3
Ta:1〜3
Ti:2〜6
V:3〜8
W:5〜8
Y:12〜16
Zr:2〜4
の少なくとも1つから選択されることを特徴とするターゲット。
【請求項13】
請求項8から12のいずれか1項に記載のターゲットにおいて、
前記元素が、少なくとも100℃〜500℃の融点の差で異なっていることを特徴とするターゲット。
【請求項14】
請求項8から13のいずれか1項に記載のターゲットにおいて、
前記一次粉末の少なくとも1つが、2つの相もしくは混晶、または、1つもしくは複数の相および1つもしくは複数の混晶から混合されることを特徴とするターゲット。
【請求項15】
請求項8から11のいずれか1項に記載のターゲットを用いて、請求項1から7のいずれか1項に記載の方法によって製造されることを特徴とする金属酸化物層。
【請求項16】
請求項15に記載の金属酸化物層において、
前記金属酸化物層がコランダム構造のアルミニウム酸化被膜であり、
前記層が、30原子%未満の割合の高温溶融金属または半金属成分の混合物を有することを特徴とする金属酸化物層。
【請求項17】
請求項16に記載の金属酸化物層において、
原子%で以下の元素:
Au:10〜50
B:3未満
Be:20〜30
C:3未満
Cr:10〜20
Fe:5〜15
Hf:5〜10
Ir:10〜15
La:10〜15
Mo:2〜5
Nb:1〜3
Ta:1〜3
Ti:2〜6
V:3〜8
W:5〜8
Y:12〜16
Zr:2〜4
の群からの1つまたは複数の混合物を含むことを特徴とする金属酸化物層。
【請求項18】
摩耗保護、構成要素、部品、障壁層、強誘電体、超電導体、燃料電池のために請求項8から14のいずれか1項に記載のターゲットを使用することによって、請求項1から7のいずれか1項に記載の特徴を有する方法で製造されることを特徴とする請求項15から17のいずれか1項に記載の金属酸化物層の使用。
【図6】
【図12】
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図13a】
【図13b】
【図14a】
【図14b】
【図12】
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図13a】
【図13b】
【図14a】
【図14b】
【公表番号】特表2011−518949(P2011−518949A)
【公表日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−505376(P2011−505376)
【出願日】平成21年2月6日(2009.2.6)
【国際出願番号】PCT/EP2009/000851
【国際公開番号】WO2009/129879
【国際公開日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【出願人】(598051691)エリコン・トレーディング・アクチェンゲゼルシャフト,トリュープバッハ (44)
【氏名又は名称原語表記】Oerlikon Trading AG,Truebbach
【Fターム(参考)】
【公表日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年2月6日(2009.2.6)
【国際出願番号】PCT/EP2009/000851
【国際公開番号】WO2009/129879
【国際公開日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【出願人】(598051691)エリコン・トレーディング・アクチェンゲゼルシャフト,トリュープバッハ (44)
【氏名又は名称原語表記】Oerlikon Trading AG,Truebbach
【Fターム(参考)】
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