説明

イオン伝導性固体電解質

【課題】室温において、電極に対して垂直方向に高いイオン伝導率を示す固体電解質を提供する。
【解決手段】電解質塩と下記(化1)で示される分子(ただし、Rは炭素数が2以上10以下の直鎖アルキル基)とを含むイオン伝導性固体電解質とする。電解質塩の含有率は1〜20重量%、液晶化合物の含有率は80〜99重量%が好適である。
【化1】

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イオン伝導性固体電解質に関する。具体的には、リチウムおよびリチウムイオン電池、キャパシタ、光電気化学電池、イオンセンサおよびフォトクロミック素子等の各種デバイスに適した特性を有するイオン伝導性固体電解質に関する。
【背景技術】
【0002】
固体状態でイオン伝導性を有する固体電解質、特に高分子固体電解質は、近年、次世代リチウム二次電池用の電解質等として注目を集めている。高分子固体電解質は、液漏れのおそれがなく、不揮発性であり、しかも形状の自由度が大きい。
【0003】
高分子固体電解質は、液系電解質に比べてイオン伝導率が低い。このため、高分子固体電解質の改良は、イオン伝導率の向上を目的として為されることが多い。従来、この目的を達成するために、液晶材料の配向性を利用した様々な高分子固体電解質が提案されている(例えば特許文献1〜6)。
【0004】
【特許文献1】特開平4−19903号
【特許文献2】特開平4−323260号
【特許文献3】特開平11−86629号
【特許文献4】特開2001−338527号
【特許文献5】特開2001−351683号
【特許文献6】特開2002−105033号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
固体電解質が実用に供される条件を考慮すると、電極間に配置される固体電解質は電極間の方向に相対的に高い伝導率を示すことが望まれる。本発明の目的は、電極に垂直方向に相対的に高いイオン伝導率を示す固体電解質を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、電解質塩と、下記式(化1)もしくは式(化2)で示される分子またはこの分子の重合体とを含むイオン伝導性固体電解質を提供する。
【0007】
【化1】

【0008】
【化2】

【0009】
上記重合体は、式(化1)で示される分子の重合体、式(化2)で示される分子の重合体、これら分子の共重合体のいずれであってもよい。
【発明の効果】
【0010】
上記の式で示される液晶性分子またはその重合体は、電極に対して垂直に配列する傾向を有する。このため、この分子等を含む固体電解質では、イオンの流路が電極間の方向に規制されるため、この方向について相対的に高いイオン伝導率が得られやすい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
上記で説明した液晶性分子等の特性により、本発明の固体電解質は、透明導電膜付きガラス電極間に狭持して測定した23℃におけるイオン伝導率が、上記電極間と直交する方向の23℃におけるイオン伝導率よりも高いことが好ましい。
【0012】
本発明の固体電解質では、電解質塩の含有率は1〜20重量%、特に5〜80重量%、が好ましく、上記分子または重合体の含有率は80〜99重量%、特に80〜95重量%、が好ましい。電解質塩が1重量%未満となると伝導性の発現に必要なイオンが不足し、電解質塩が20重量%を超える程度に増量してもイオン伝導率は向上せず、液晶性分子の垂直配向性が低下するのみである。
【0013】
液晶性分子の(共)重合体は、−(CH2−CHR’)−を繰り返し単位とする。R’は、(化1)で示される分子をモノマーとする場合には、−COO−C64−C≡C−C64−C511となる。
【0014】
式(化1)および/または式(化2)で示される分子は、従来から知られている方法、具体的には活性エネルギー線の照射や加熱を伴う方法、により重合できる。
【0015】
活性エネルギー線としては、紫外線、電子線、α線、β線、γ線等の電離放射線、可視光線、赤外光線、マイクロ波、高周波等が用いられるが、特に紫外線が好ましい。
【0016】
紫外線を発生する装置としては、例えば、超高圧水銀ランプ、高圧水銀ランプ、低圧水銀ランプ、メタルハライドランプ、ケミカルランプ、ブラックライトランプ、水銀−キセノンランプ、ショートアーク灯等が挙げられ、ラジカル性活性種を発生させる化合物の吸収波長を考慮して適宜選択すればよい。
【0017】
紫外線を照射する場合には、光重合開始剤を添加することにより重合に伴う硬化反応を迅速に進行させることができる。
【0018】
光重合開始剤は、特に限定されないが、例えば、ラジカル重合用光重合開始剤、カチオン重合用光重合開始剤等が挙げられる。
【0019】
ラジカル重合用光重合開始剤の具体例としては、ジエトキシアセトフェノン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、ベンジルジメチルケタール、1−(4−イソプロピルフェニル)−2−ヒドロキシ−2−メチルプロパン−1−オン、2−メチル−2−モルホリノ(4−チオメチルフェニル)プロパン−1−オン、2−ベンジルー2−ジメチルアミノ−1−(4−モルホリノフェニル)−ブタノン等のアセトフェノン系光重合開始剤、ベンゾイン、ベンゾインイソブチルエーテル等のベンゾイン系光重合開始剤、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド等のアシルホスフィンオキサイド系光重合開始剤、ベンゾフェノン、o−ベンゾイル安息香酸メチル、4−フェニルベンゾフェノン、4,4’−ジクロロベンゾフェノン、4−ベンゾイル−4’−メチル−ジフェニルサルファイド、アクリル化ベンゾフェノン、3,3’,4,4’−テトラ(t−ブチルパーオキシカルボニル)ベンゾフェノン、3,3’−ジメチル−4−メトキシベンゾフェノン等のベンゾフェノン系光重合開始剤、2−イソプロピルチオキサントン、2,4−ジメチルチオキサントン、2,4−ジエチルチオキサントン、4,4’−ジエチルアミノベンゾフェノン等のアミノベンゾフェノン系光重合開始剤、10−ブチル−2−クロロアクリドン、2−エチルアンスラキノン、9,10−フェナンスレンキノン、カンファーキノン等が挙げられる。
【0020】
熱重合開始剤としても公知のものを特に制限なく用いることができ、例えば、ベンゾイルパーオキサイド、2,4−ジクロロベンゾイルパーオキサイド、1,1−ジ(t−ブチルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、4,4−ジ(t−ブチルパーオキシ)ブチルバレレート、ジクミルパーオキサイド等の過酸化物類、アゾビスイソブチロニトリル等のアゾ化合物類、テトラメチルチウラムジスルフィド等が挙げられる。
【0021】
電解質塩としては、アルカリ金属塩、特にリチウム塩が好適であり、具体的には、LiPF6、LiBF4、LiN(C25SO22、LiAsF6、LiSbF6、LiAlF4、LiGaF4、LiInF4、LiClO4、LiN(CF3SO22、LiCF3SO3、LiSiF6、LiN(CF3SO2)(C49SO2)等を用いることができる。
【0022】
電解質塩はデバイスに応じて適宜選択するとよい。リチウム塩以外の電解質塩としては、LiI、NaI、KI、CsI、CaI等の金属ヨウ化物、4級イミダゾリウム化合物のヨウ素塩、テトラアルキルアンモニウム化合物のヨウ素塩、LiBr、NaBr、KBr、CsBr、CaBr2等の金属臭化物を例示できる。
【0023】
本発明の固体電解質は、上記液晶分子、電解質塩以外に、ゲル化剤、ポリエチレンオキサイド等の汎用の高分子電解質その他成分を含んでいてもよいが、その他成分の含有率は、20重量%以下とすることが好ましい。
【0024】
本発明の固体電解質は、リチウムイオン電池に代表される各種デバイスへの適用が可能である。例えば色素増感型太陽電池では不揮発性の電解質が求められているが、本発明の固体電解質は十分に要求特性を満たす。
【0025】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明する。まず、イオン伝導率の測定方法について説明する。
【0026】
(垂直方向イオン伝導率の測定方法)
図1に、垂直方向イオン伝導率の測定に用いたセルを示す。このセルを作製するために、まず、アルゴングローブボックス内にて、予めITO(indium tin oxide)膜3を形成した縦25mm、横20mmのガラス板(ITO膜付きガラス電極)4に、電解質充填部1として直径15mmの円を打ち抜いた厚み42μmの粘着剤付きポリイミドフィルム(図2参照)をスペーサー2として貼り付けた。次いで、電解質充填部1に、測定対象とする高分子固体電解質を予め加熱して等方性液体状態としてから充填し、その後、もう1枚のITO膜付きガラス電極4をITO膜3が固体電解質側となるように配置した。
【0027】
こうして得た伝導率測定用セルは、一旦、室温(23℃)まで自然冷却し、室温で、インピーダンス測定装置(Princeton Applied Research製263Aポテンショスタットと5210 Rock in amplifier)を用いた複素インピーダンス法により、高周波数側の円弧と低周波数側の直線との交点の実数成分インピーダンスを求め、以下の式に基づいて伝導率σ(S/cm)を算出した。
σv=d/(R×A)
d:スペーサー厚み(cm)、R:実数成分インピーダンス(Ω)、A:極板面積(cm2
【0028】
(水平方向イオン伝導率の測定方法)
図3に、水平方向イオン伝導率の測定に用いた櫛型電極を示す。この櫛型電極11は、ガラス板上に、ITOを厚み30nmとなるように蒸着し、さらにAgとAuとからなる合金を総厚みが0.8mmとなるように蒸着することにより形成した。互いに対向するように配置した櫛型電極11は、それぞれ3つの櫛部12を有し、各櫛部12の幅Wは2mm、櫛部12の間隔Dは3mm、対向する櫛部の重複幅Vは7mmとした。この櫛型電極11の櫛部12の間に、測定対象とする電解質を等方性状態となるように加熱してから塗布し、この電解質を覆う領域に縦10mm、横25mmのガラス板を重ねてこの領域(測定領域13)でのみ電解質を保持した。その後、垂直方向イオン伝導率の測定と同様にして伝導率σpを求めた。
【0029】
(実施例1)
アルカリ金属塩LiN(CF3SO22(キシダ化学製、以下「LiTFSI」)5重量部、化1と化2の混合物(重量比1:1)に相当するトラン系液晶モノマー「UCL001」(大日本インキ製)95重量部を80℃に加熱し、LiTFSIを液晶モノマー中に溶解させた。こうして得た電解質について、イオン伝導率を測定した。
【0030】
(実施例2)
アルカリ金属塩LiTFSI(キシダ化学製)1重量部、上記トラン系液晶モノマー「UCL001」98重量部、紫外線重合開始剤「イルガギュア184」(チバガイギー製)1重量部を80℃に加熱し、均一な溶液を得た。こうして得た電解質について、イオン伝導率を測定した。ただし、測定に際しては、測定用セルを室温まで冷却し、このセルに高圧水銀ランプ(アイグラフィック製)を用いて1500mJ/cm2の紫外線を3分間照射して硬化させた。
【0031】
(比較例1)
LiTFSI0.01gを4−ヒドロキシベンゼン酸−4−オクチルフェニルエステル(東京化成製、融点70℃)0.99gに溶解させた電解質を用いた以外は、上記実施例と同様にして各特性を測定した。この電解質では、電極に対する垂直配向性は確認できなかった。
【0032】
イオン伝導率の測定結果を表1に示す。
【0033】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明の固体電解質は、不揮発性であって、室温で電極に対して垂直方向に高いイオン伝導率を提供できる。本発明の固体電解質は、リチウムイオン電池、光電気化学電池に代表される各種デバイスの材料として大きな利用価値を有する。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明の実施例で用いた垂直方向イオン伝導率測定用セルの断面図である。
【図2】図1のセルに用いたスペーサーの平面図である。
【図3】本発明の実施例で用いた水平方向イオン伝導率測定用セルにおける櫛型電極を示す平面図である。
【符号の説明】
【0036】
1 電解質充填部
2 スペーサー
3 ITO膜
4 ITO膜付きガラス電極
11 櫛型電極
12 櫛部
13 測定領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解質塩と、下記式(化1)もしくは式(化2)で示される分子または前記分子の重合体とを含むイオン伝導性固体電解質。
【化1】

【化2】

【請求項2】
透明導電膜付きガラス電極間に狭持して測定した23℃におけるイオン伝導率が、前記電極間と直交する方向の23℃におけるイオン伝導率よりも高い請求項1に記載のイオン伝導性固体電解質。
【請求項3】
前記電解質塩の含有率が1〜20重量%であり、前記分子または重合体の含有率が80〜99重量%である請求項1または2に記載のイオン伝導性固体電解質。
【請求項4】
前記電解質塩がアルカリ金属塩である請求項1〜3のいずれか1項に記載のイオン伝導性固体電解質。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−73356(P2006−73356A)
【公開日】平成18年3月16日(2006.3.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−255433(P2004−255433)
【出願日】平成16年9月2日(2004.9.2)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【Fターム(参考)】