説明

インクジェットシステム及びインクジェットノズル内の気泡除去方法

【課題】インク中に分散した気泡のインクに対する溶解度を高めることで、インクジェットノズル内の気泡の除去を図る。
【解決手段】複数のインク供給路空間86が設けられたインクジェット本体81と、インクジェット本体81の端部に接合し複数のノズル開口部82a〜82fが離間して設けられたノズルプレート82と、ノズルプレート82のノズル開口部82a〜82fを覆うキャップ9と、を備え、ノズルプレート82をインクジェット本体81に取付けた際にノズル開口部82a〜82fと複数のインク供給路空間86につながる第1インク流路空間85が形成され、キャップ9の凹部とノズルプレート82の表面の間に第2インク流路空間95が形成され、第2インク流路空間95と第1インク流路空間85はノズル開口部82を介して互いにつながる気泡除去ユニット30を備えるインクジェットシステム1。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェットシステム及びインクジェットノズル内の気泡除去方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェットとは、インクを微滴化し被印字媒体に対し直接に吹き付けて印刷を行う方法のことである。簡単な機構でありながらインクを被印字媒体に吹き付けることができるため種々の分野での利用が期待されている。例えば半導体分野においては、液晶表面にパターンを形成する際の技術として注目されている。
【0003】
液晶表面にレジスト法を用いてパターンを形成する場合、液晶上にキャップを配置しその後エッチングを行う等の複数の工程が必要となる。ところが、インクジェット装置を用いてインクを塗布すれば、キャップの配置工程やエッチング工程を経ることなく、直接液晶基板にパターンを形成することができる。そのため、工程の簡略化と有機溶媒の使用量を減少させることができる点でインクジェット装置を用いたインクの塗布方法が半導体分野で注目されている。
【0004】
この場合、高密度のパターンを形成するためには、ファインピッチでインクを塗布する必要がある。しかし、インクジェット装置のノズルプレートのノズル側面に気泡が付着するとインクの直進性が損なわれるため、インクをファインピッチで塗布することが困難であった。
【0005】
かかる問題を解決する手段としては、ノズル内にガスが入りこむことを阻止するために、インクを使用する前にインクが収められたインク供給タンク中にガスを送り込んで脱気する等の手段が取られていた。しかし、インク中のガスが気泡としてノズルに入り込むことを完全に防止することができなかった。そのため、インクジェット装置を分解して、ノズルプレートのノズル内部を洗浄し気泡を洗い流していた。そのため、作業の頻雑化と装置の連続作業性の低下が問題となっていた。
【0006】
以上より、インクジェットノズル内の気泡の除去方法が求められていた。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、インク中に分散した気泡のインクに対する溶解度を高めることで、インクジェットノズル内の気泡の除去を図ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第1の特徴は、複数のインク供給路空間が設けられたインクジェット本体と、インクジェット本体の端部に接合し複数のノズル開口部が離間して設けられたノズルプレートと、ノズルプレートのノズル開口部を覆うキャップと、を備え、ノズルプレートをインクジェット本体に取付けた際にノズル開口部と複数のインク供給路空間につながる第1インク流路空間が形成され、キャップの凹部とノズルプレートの表面の間に第2インク流路空間が形成され、第2インク流路空間と第1インク流路空間はノズル開口部を介して互いにつながる気泡除去ユニットを備えるインクジェットシステムを要旨とする。
【0009】
本発明の第2の特徴は、複数のインク供給路空間が設けられたインクジェット本体と、インクジェット本体の端部に接合し複数のノズル開口部が離間して設けられたノズルプレートと、ノズルプレートのノズル開口部を覆うキャップと、を備え、ノズルプレートをインクジェット本体に取付けた際にノズル開口部につながる第1インク流路空間が形成され、キャップの凹部とノズルプレートの表面の間に第2インク流路空間が形成され、第2インク流路空間と第1インク流路空間はノズル開口部を介して互いにつながる気泡除去ユニットを備えるインクジェットシステムのインクジェットノズル内の気泡除去方法であって、第1インク流路空間と第2インク流路空間にインクを充填する工程と、インクにインク圧力をかけヘンリーの法則により気泡をインク中に溶解させる工程と、を含むインクジェットノズル内の気泡除去方法を要旨とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、インク中に分散した気泡のインクに対する溶解度を高めることで、インクジェットノズル内の気泡の除去を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下に、実施形態を挙げて本発明の説明を行うが、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。尚、図中同一の機能又は類似の機能を有するものについては、同一又は類似の符号を付して説明を省略する。
【0012】
(第1の実施形態)
(インクジェットシステム)
図1に示す第1の実施形態に用いられるインクジェットシステム1は、インク4を備えるインク供給タンク2と、プランジャーポンプ20と、プランジャーポンプ20内のインク4に不活性ガスを供給する不活性ガスユニット6と、気泡除去ユニット30と、インク回収タンク10と、を有する。インク供給タンク2とプランジャーポンプ20は配管11aにより接続され、プランジャーポンプ20とインクジェット8は配管11bにより接続されている。インクジェット8とインク回収タンク10は、配管11dを介して接続されている。キャップ9は配管11cを介して接続されている。インク回収タンク10に回収されたインクは配管11eを介してインク供給タンク2に適宜戻すことができる。
【0013】
図2に示す気泡除去ユニット30は、複数のインク供給路空間86a、86bが設けられたインクジェット本体81と、インクジェット本体81の端部に接合し複数のノズル開口部部82a,82b,82c,82d,82e,82fが離間して設けられたノズルプレート82と、ノズルプレート82のノズル開口部82a〜82fを覆うキャップ9と、を備え、
ノズルプレート82をインクジェット本体81に取付けた際にノズル開口部82a〜82fと複数のインク供給路空間86a、86bにつながる第1インク流路空間85が形成され、キャップ9の凹部とノズルプレート82の表面の間に第2インク流路空間95が形成され、第2インク流路空間95と第1インク流路空間85はノズル開口部82a〜82fを介して互いにつながるように構成されている。キャップ9はノズルプレート82のノズル開口部82a〜82fを覆うようにパッキン12a、12bを介してノズルプレート82の表面に取付けられている。
【0014】
プランジャーポンプ20は、吸引タンク3と、上下動可能なピストン31と、弁5a5bと、不活性ガスユニット6と、を備える。弁5aを開放した後にピストン31を図4(b)に示す下死点に向かって移動させることでインク4を吸引することができる。そして5bを開放しピストン31を図6(b)に示す上死点に向かって移動させることでインク4をインクジェット8に供給することができる。プランジャーポンプ20によればインク4の量を正確に量ることができる。ピストン31の移動によりインク4に圧力をかけることができる。不活性ガスユニット6を作動させてインク4に不活性ガスを送り込みインク4を脱気することが好ましい。インク4中の気泡を予め取り除いておくことで図7のノゾル側面82anwにに付着する気泡の数を大幅に減少させることができるからである。気泡の数を大幅に減少させてもなおかつインク4中に残存した気泡については実施形態にかかる気泡除去ユニット30を作動することで除去することができる。
【0015】
尚、図2はインクジェット8にキャップ9が装着された状態を示しているが、キャップ9を取り外した後、ノズル開口部82a〜82fにそれぞれ対応してインクジェット本体81に離間して設けられた空気噴出口83a,83b,83c,83d,83e,83fを作動させることで、第1インク流路空間85に充填されたインク4が噴出される。
【0016】
(インクジェットノズル内の気泡除去方法)
(イ) 図1に示すようなインクジェットシステム1を用意する。
【0017】
(ロ)ノズル開口部82a〜82fを介して互いにつながる第1インク流路空間85と第2インク流路空間95を閉鎖系とする。具体的には図1の弁5cを閉じてインクジェット8、キャップ9、配管11c、11dにより閉鎖系を形成する。ここでは図3(b)に示すようにプランジャーポンプ20は作動していない。
【0018】
(ハ)第1インク流路空間85と第2インク流路空間95にインクを充填する。具体的には図4(b)に示すように、プランジャーポンプ20を作動させる。そして図1に示すインク供給タンク2から配管11aを介してインク4を吸引する。不活性ガスユニット6を作動させてインク4に脱気処理を行うことが好ましい。ここでは図4(a)に示すように第1インク流路空間85,第2インク流路空間95にインクはまだ充填されていない。そして図5(b)に示すようにプランジャーポンプ20のピストン31を移動させて、図5(a)に示すように予め脱気処理されたインク4を第1インク流路空間85,第2インク流路空間95に充填する。
【0019】
(ニ)インク4に圧力をかけヘンリーの法則により気泡をインク4中に溶解させる。具体的には第1インク流路空間85及び第2インク流路空間95のいずれか一方内のインク4にインク圧力をかける。ここでは図6(b)に示すようにプランジャーポンプ20のピストン31を移動させて、図5(a)に示すように第1インク流路空間85内のインク4にインク圧力をかける。即ちノズルプレート82の裏面側から第1インク流路空間85のインク4にインク圧力をかける。インク圧力は150KPa〜2MPaとすることが好ましい。インク圧力が下限値よりも低いと気泡をインク4に溶解させることが困難であり、上限値よりも高いと得られる効果に変化が見られなくなるからである。
【0020】
(ホ)インク圧力を1KPa/分〜100KPa/分で緩やかに下げる。インク圧力を急激に変化させるとになるからである。尚、第1インク流路空間85のインク4にインク圧力をかけることで、閉鎖された空間内におけるインク4のインク圧力はどこでも均一になる。
【0021】
(ヘ)インク圧力が98KPa以下となったときにキャップ9をはずす。以上によりインクジェット8内の気泡が除去される。
【0022】
「ヘンリーの法則」によれば、溶解度が小さく溶媒と反応しない気体の場合、一定温度で一定量の溶媒に溶ける気体の質量は、溶媒に接しているその気体の圧力に比例する。インク4中に存在する気泡は、インク4に対する溶解度が小さくインク4とは反応しない。よって、気泡はヘンリーの法則によりインク4にかかる圧力に比例して溶解する。その結果、インク4中の気泡がインク4中に溶解することで、図7のインクジェット8内のノズル開放部82aの拡大図で示されるノゾル82anのノゾル側面82anwに付着した気泡が除去される。
【0023】
気泡を強制混合したインクを用意し、60個のインクジェットについて第1の実施形態にかかる気泡除去方法を60秒間実施したところ、全てのインクジェットについてノズル内の気泡を除去することができた。一方、単にインクに脱気処理のみを行った場合では60個のインクジェットのうち3個しかノズル内の気泡を取り除くことができなかった。
【0024】
(第2の実施形態)
(インクジェットシステム)
第1の実施形態との相違点を中心に説明する。図8に示す第2の実施形態に用いられるインクジェットシステム51は、インク4を備えるインク供給タンク2と、インクジェット8に対向して配置されたキャップ9と、インクジェット8と、インク回収タンク10と、を有する。インク供給タンク2とキャップ9は配管11f、11gにより接続され、インクジェット8とインク回収タンク10は、配管11h、11iを介して接続されている。
【0025】
図8のインクジェットノズル内のインクジェットシステム51を用いた第2の実施形態に係るインクジェットノズル内の気泡除去方法によれば、ノズルプレート82の表面側から第2インク流路空間95,第1インク流路空間85のインク4に圧力をかける。圧力のかけ方等は第1の実施形態に係るインクジェットノズル内の気泡除去方法と同様である。第2の実施形態によれば、第1の実施形態と同様にインクジェットノズル内の気泡を除去することができる。第1の実施形態と第2の実施形態を組み合わせて用いても構わない。
【0026】
(その他の実施形態)
上記のように、本発明は実施形態によって記載したが、この開示の一部をなす論述及び図面はこの発明を限定するものであると理解すべきではない。この開示から当業者には様々な代替実施の形態、実施例及び運用技術が明らかとなろう。例えば、実施形態においては、インク4を第1インク流路空間85,第2インク流路空間95に送り込んでインク圧力を上げたが、不活性ガスを第1インク流路空間85,第2インク流路空間95に送り込むことによりインク4に圧力をかけてもよい。
【0027】
このように、本発明はここでは記載していない様々な実施の形態等を含むことは勿論である。したがって、本発明の技術的範囲は上記の説明から妥当な特許請求の範囲に係る発明特定事項によってのみ定められるものである。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】第1の実施形態に用いられるインクジェットノズル内のインクジェットシステムの概略図を示す。
【図2】インクジェットとキャップからなる気泡除去ユニットの断面図を示す。
【図3】(a)はインクジェットとキャップの使用状態を示し、(b)はプランジャーポンプの使用状態を示す。
【図4】(a)はインクジェットとキャップの使用状態を示し、(b)はプランジャーポンプの使用状態を示す。
【図5】(a)はインクジェットとキャップの使用状態を示し、(b)はプランジャーポンプの使用状態を示す。
【図6】(a)はインクジェットとキャップの使用状態を示し、(b)はプランジャーポンプの使用状態を示す。
【図7】インクジェットとキャップからなる気泡除去ユニットの一部拡大断面図を示す。
【図8】第2の実施形態に用いられるインクジェットノズル内のインクジェットシステムの概略図を示す。
【符号の説明】
【0029】
1:インクジェットシステム、2:インク供給タンク、4:インク、6:不活性ガスユニット、8:インクジェット、82:ノズルプレート、82a〜82f:ノズル開口部、9:キャップ、20:プランジャーポンプ、30:気泡除去ユニット、85:第1インク流路空間、95:第2インク流路空間、86a、86b:インク供給路空間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のインク供給路空間が設けられたインクジェット本体と、
前記インクジェット本体の端部に接合し複数のノズル開口部が離間して設けられたノズルプレートと、
前記ノズルプレートの前記ノズル開口部を覆うキャップと、を備え、
前記ノズルプレートを前記インクジェット本体に取付けた際に前記ノズル開口部と前記複数のインク供給路空間につながる第1インク流路空間が形成され、
前記キャップの凹部と前記ノズルプレートの表面の間に第2インク流路空間が形成され、前記第2インク流路空間と前記第1インク流路空間はノズル開口部を介して互いにつながる気泡除去ユニット
を備えることを特徴とするインクジェットシステム。
【請求項2】
前記第1インク流路空間に接続されたプランジャーポンプをさらに備えることを特徴とする請求項1記載のインクジェットシステム。
【請求項3】
前記第1インク流路空間に接続された不活性ガスユニットをさらに備えることを特徴とする請求項2記載のインクジェットシステム。
【請求項4】
複数のインク供給路空間が設けられたインクジェット本体と、前記インクジェット本体の端部に接合し複数のノズル開口部が離間して設けられたノズルプレートと、前記ノズルプレートの前記ノズル開口部を覆うキャップと、を備え、
前記ノズルプレートを前記インクジェット本体に取付けた際に前記ノズル開口部につながる第1インク流路空間が形成され、前記キャップの凹部と前記ノズルプレートの表面の間に第2インク流路空間が形成され、前記第2インク流路空間と前記第1インク流路空間はノズル開口部を介して互いにつながる気泡除去ユニットを備えるインクジェットシステムのインクジェットノズル内の気泡除去方法であって、
前記第1インク流路空間と前記第2インク流路空間にインクを充填する工程と、
前記インクにインク圧力をかけヘンリーの法則により前記気泡を前記インク中に溶解させる工程と、
を含むことを特徴とするインクジェットノズル内の気泡除去方法。
【請求項5】
第1インク流路空間内のインクにインク圧力をかけることを特徴とする請求項4記載のインクジェットノズル内の気泡除去方法。
【請求項6】
第2インク流路空間内のインクにインク圧力をかけることを特徴とする請求項5記載のインクジェットノズル内の気泡除去方法。
【請求項7】
前記第1インク流路空間と前記第2インク流路空間にインクを充填する工程の後に、不活性ガスを前記第1インク流路空間、前記第2インク流路空間に送り込むことにより前記インクにインク圧力をかけることを特徴とする請求項4〜6のいずれか1項に記載のインクジェットノズル内の気泡除去方法。
【請求項8】
前記インクが予め脱気処理されたものであることを特徴とする請求項4〜6のいずれか1項に記載のインクジェットノズル内の気泡除去方法。
【請求項9】
インク圧力を150KPa〜2MPaとすることを特徴とする請求項4〜7のいずれか1項に記載のインクジェットノズル内の気泡除去方法。
【請求項10】
前記インクにインク圧力をかける工程の後、インク圧力を1KPa/分〜100KPa/分で緩やかに下げる工程と、
インク圧力が98KPa以下になったときに前記キャップをはずす工程と、をさらに含むことを特徴とする請求項4〜8のいずれか1項に記載のインクジェットノズル内の気泡除去方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−186811(P2009−186811A)
【公開日】平成21年8月20日(2009.8.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−27526(P2008−27526)
【出願日】平成20年2月7日(2008.2.7)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】