説明

インクジェットヘッド再生方法及びインクジェットヘッド再生装置

【課題】ノズル穴のスペーサの固着により吐出不良や吐出不能を生じたインクジェットヘッドを、新たなインクジェットヘッドに交換することなく再生可能にする技術を提供する。
【解決手段】本発明は、スペーサを含有するスペーサ液を吐出するノズル穴50を複数有するインクジェットヘッド5を再生させる方法である。インクジェットヘッド5の複数のノズル穴50A〜50Dに対し、例えばマスクを介して個々にレーザー光20を照射することにより、例えばノズル穴50B内に固着した固着スペーサ15を剥離する。レーザー光20を照射した後は、ノズル穴50B内から剥離された固着スペーサ15を洗浄液によって洗い流して回収することもできる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェットヘッド再生方法及び再生装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、液晶パネルに要求される応答特性、コントラスト、視野角は、液晶層の厚さに依存するところが大きい。このため、液晶材料が封入される一対の基板間の間隙にスペーサを介在させて液晶層の厚さを一定に保つよう制御している。
従来、このようなスペーサの形成方法としては、上記一対の基板のうち一方の基板上に、柱状のスペーサを形成する方法や球状のスペーサを散布する方法等が知られている。
【0003】
しかし、スペーサを柱状に形成する方法は、フォトリソグラフィによる膜の形成およびエッチング等の工程が必要となり、工程数が多くコストと手間がかかるという問題がある。
また、球状のスペーサを基板上に散布する方法としては、スプレー噴霧する湿式散布方法と、圧搾ドライ窒素などの気流で粉体状スペーサを基板上に直接散布する乾式散布方法とがあるが、何れも画素領域にもスペーサが散布され、輝度の低下や輝度のむらが発生したり、基板上におけるスペーサ分布が不均一になり、基板間ギャップが不均一になる場合がある。
【0004】
そこで、近年、カラーフィルタの非画素領域であるブラックマトリクスに局所的にインクジェット法で簡便にスペーサを形成する技術が提案されている(例えば特許文献1参照)。
この方法は、溶媒に球状のスペーサを分散させたスペーサ含有インクを、インクジェットヘッドのノズルから基板のブラックマトリクス上に滴下した後、インク中の溶媒を蒸発させることにより、ブラックマトリクス上にスペーサを残存させるものである。
【0005】
インクジェット法によるスペーサ形成方法において、インクジェット記録装置から吐出される液滴中には、複数のスペーサが含有されており、スペーサ部を形成する各領域に一滴ずつスペーサ部形成用塗工液が塗布されてスペーサ部が形成される。
通常、この種のスペーサは、基板上に固着させるためスペーサ表面に接着層が設けられているが、長期間使用をしていると、ノズル内にスペーサが固着し、吐出不良、吐出不能を引き起こす場合がある。
【0006】
インクジェットヘッドのノズルは、微細であるため、吐出不良のノズルのみを補修することは困難であり、従来は新品の物に交換しなければならなかった。
インクジェットヘッドは高精度に製作されており、非常に高価であるが上述したように消耗品であるため、長く使用できる方法が検討されてきた。
なお、本発明に関連する先行技術文献としては、上述したものの他、例えば以下のようなものがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平11−24083号公報
【特許文献2】特開2008−233624号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、このような従来の技術の課題に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、ノズル穴のスペーサの固着により吐出不良や吐出不能を生じたインクジェットヘッドを、新たなインクジェットヘッドに交換することなく再生可能にする技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するためになされた本発明は、スペーサを含有するスペーサ液を吐出するノズル穴を複数有するインクジェットヘッドを再生させる方法であって、前記インクジェットヘッドの複数のノズル穴に対し、個々にレーザー光を照射することにより、前記ノズル穴内に固着したスペーサを剥離する工程を有するインクジェットヘッド再生方法である。
本発明では、前記レーザー光を通過させるための透光部を有するマスクを介して当該レーザー光を照射する場合にも効果的である。
本発明では、前記インクジェットヘッドのノズル穴の径に対応して前記マスクの透光部の径を変更する工程を有する場合にも効果的である。
本発明では、前記インクジェットヘッドのノズル穴の画像を取り込んで所定の画像解析処理を行い、その結果に基づいて、前記スペーサが固着しているノズル穴のみに対してレーザー光を照射することも効果的である。
本発明では、前記マスクの透光部の径が、前記インクジェットヘッドのノズル穴の径より小さいマスクを用い、スポット径が前記マスクの透光部の径より大きいレーザー光を前記インクジェットヘッドのノズル穴に対してそれぞれ照射する工程を有する場合にも効果的である。
本発明では、前記レーザー光を照射した後、前記ノズル穴内から剥離されたスペーサを洗浄液によって洗い流して回収する洗浄回収工程を有することも効果的である。
本発明では、前記洗浄回収工程は、前記インクジェットヘッドのノズル穴から前記洗浄液を加圧吐出させる工程を有することも効果的である。
本発明では、前記洗浄工程は、前記レーザー光を照射した後の当該インクジェットヘッドを前記洗浄液に浸漬し、前記ノズル穴から前記洗浄液を吸引させる工程を有することも効果的である。
本発明は、スペーサを含有するスペーサ液を吐出するノズル穴を複数有するインクジェットヘッドを再生させるインクジェットヘッド再生装置であって、前記インクジェットヘッドを位置決め固定する支持台と、前記インクジェットヘッドのノズル穴に対してレーザー光を照射するレーザー光照射手段と、前記支持台と前記レーザー光照射手段との相対的な位置合わせを行う位置合わせ手段とを有するものである。
本発明では、前記インクジェットヘッドと前記レーザー照射手段との間に、前記レーザー光を通過させるための透光部を有するマスクが設けられている場合にも効果的である。
本発明では、前記マスクには、径の異なる複数の透光部が設けられ、前記レーザー光照射手段からのレーザー光を、当該複数の透光部のうち所望の透光部を通過させるように構成されている場合にも効果的である。
本発明では、前記支持台上に固定された前記インクジェットヘッドのノズル穴の画像を取り込む撮像手段と、当該撮像手段によって取り込まれた画像データを解析処理するための制御手段とを有し、当該制御手段にて得られた結果に基づいて前記レーザー光照射手段及び前記位置合わせ手段の動作を制御するように構成されている場合にも効果的である。
【0010】
本発明方法の場合、例えば吐出不良の生じたインクジェットヘッドのノズル穴に対し、個々にレーザー光を照射してノズル穴内に固着したスペーサを剥離するようにしたことから、吐出不良や吐出不能を生じたインクジェットヘッドを、新たなインクジェットヘッドに交換することなく再生可能にすることができる。
【0011】
本発明において、レーザー光を通過させるための透光部を有するマスクを介して当該レーザー光を照射するようにすれば、照射するレーザー光のスポット径を容易に調整することができる。その結果、例えば、照射するレーザー光のスポット径をインクジェットヘッドのノズル穴の径より小さくすることによって、インクジェットヘッド表面に撥液性膜が設けられている場合に、この撥液性膜に対するレーザー光の照射を回避することができ、撥液性膜の撥液性の低下を防止することができる。
【0012】
この場合、インクジェットヘッドのノズル穴の径に対応してマスクの透光部の径を変更するようにすれば、種々の径のノズル穴を有するインクジェットヘッドに対し、確実且つ容易に、当該ノズル穴の径より小さいスポット径のレーザー光を照射することができるので、汎用性を広げることができる。
【0013】
本発明において、インクジェットヘッドのノズル穴の画像を取り込んで所定の画像解析処理を行い、その結果に基づいて、スペーサが固着しているノズル穴のみに対してレーザー光を照射するようにすれば、ノズル穴に固着したスペーサの除去工程を簡素化することができ、これによりスペーサの除去工程を迅速且つ確実に行うことができる。
【0014】
本発明において、マスクの透光部の径が、インクジェットヘッドのノズル穴の径より小さいマスクを用い、スポット径がマスクの透光部の径より大きいレーザー光をインクジェットヘッドのノズル穴に対してそれぞれ照射するようにすれば、ノズル穴に対する画像取り込みや画像解析処理等の複雑な処理を行う必要がなく、スペーサの除去工程を迅速且つ確実に行うことができるとともに、インクジェットヘッド再生装置の構成を簡素にすることができる。
【0015】
本発明において、インクジェットヘッドのノズル穴に対してレーザー光を照射した後、このノズル穴内から剥離されたスペーサを洗浄液によって洗い流して回収するようにすれば、インクジェットヘッドのノズル穴に残ったスペーサを確実に除去することができる。加えて、スペーサを回収することにより、スペーサを再利用してその使用量を減らすことができる。
【0016】
この場合、洗浄回収工程としては、インクジェットヘッドのノズル穴から洗浄液を加圧吐出させる工程、又は、レーザー光を照射した後のインクジェットヘッドを洗浄液に浸漬し、そのノズル穴から洗浄液を吸引させる工程のいずれをも採用することができる。また、これらの工程を併用することもできる。
一方、本発明装置によれば、上述したインクジェットヘッド再生方法を効率良く自動的に行うインクジェットヘッド再生装置を提供することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、ノズル穴のスペーサの固着により吐出不良や吐出不能を生じたインクジェットヘッドを、新たなインクジェットヘッドに交換することなく再生可能にする技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】(a):本発明方法の一例を模式的に示す説明図(b):図1(a)に示すインクジェットヘッドの縦断面図
【図2】本発明を実施するためのインクジェットヘッド再生装置の一例を示す斜視図
【図3】(a)(b):本実施の形態におけるマスクを用いたレーザー光の照射工程を示す断面図
【図4】(a)(b):複数の透光部を有するマスクの例を示す平面図
【図5】(a):複数の透光部を有するマスクの他の例を示す平面図(b):図5(a)のマスクの縦断面図
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の好ましい実施の形態を図面を参照して詳細に説明する。
図1(a)は、本発明方法の一例を模式的に示す説明図、図1(b)は、図1(a)に示すインクジェットヘッドの縦断面図である。
また、図2は、本発明を実施するためのインクジェットヘッド再生装置の一例を示す斜視図である。
図3(a)(b)は、本実施の形態におけるマスクを用いたレーザー光の照射工程を示す断面図である。
【0020】
図2に示すように、本実施の形態のインクジェットヘッド再生装置1は、ステージ2上において、水平XY方向に移動可能な支持台3を有するXYステージ4を備えている。
XYステージ4の支持台3上には、インクジェットヘッド5が、複数のノズル穴50(本実施の形態では、四つのノズル穴50A、50B、50C、50D)を上方に向けて位置決め固定されるようになっている。
【0021】
支持台3の上方には、例えばインクジェットヘッド5の直上の位置に、レーザー光照射手段6と、板状の透光反射部材7が設けられている。そして、レーザー光照射手段6の照射部6aから透光反射部材7を通過してインクジェットヘッド5に対してレーザー光20が照射するように光学系10が構成されている。
【0022】
また、この光学系10は、インクジェットヘッド5からの光21が透光反射部材7によって反射されて撮像手段8に入射するように構成されている。
撮像手段8は、マイクロコンピュータやメモリ等を有する制御手段11に電気的に接続されている。この制御手段11は、撮像手段8によって取り込まれた画像データを解析する機能を有している。
【0023】
また、制御手段11は、XYステージ4の制御部(図示せず)に電気的に接続され、撮像手段8によって取り込まれ解析された情報に基づいて、又は予め定められたシーケンスに基づいて支持台3を移動させるように構成されている。
このような構成を有する本実施の形態において、インクジェットヘッド5の再生を行う場合には、インクジェット印刷装置(図示せず)から取り外したインクジェットヘッド5を、図2に示すように、XYステージ4の支持台3上に位置決め固定する。
【0024】
そして、XYステージ4を移動して、撮像手段8によってインクジェットヘッド5の各ノズル穴50A〜50Dの画像を取り込み、制御手段11において各画像を解析することにより、ノズル穴50A〜50Dの内壁51にスペーサが固着しているか否を判断し、吐出不良が生じているものを特定する。
この場合、各ノズル穴50A〜50Dについて実際に吐出を行い、そのプリント結果に基づいて、ノズル穴50A〜50Dのうち、吐出不良が生じているものを特定することもできる。
【0025】
本実施の形態では、例えば、図1(a)(b)に示すように、四つのノズル穴50A〜50Dのうち、図中左から二つ目のノズル穴50Bの内壁5bにスペーサが固着しているものとする(以下「固着スペーサ15」という。)。
そして、このノズル穴50Bに対してレーザー光照射手段6からレーザー光20を照射する。なお、各ノズル穴50A〜50Dの内部には、スペーサ液30が充填されている場合があるが、本発明においては、このスペーサ液30を排出した状態でレーザー光20を照射することが好ましい。
【0026】
スペーサ液30がインクジェットヘッド5に充填された状態でレーザー光20を照射すると、レーザー光20が固着スペーサ15ではなく、スペーサ液30に吸収されるため、固着スペーサ15の除去能力をより向上させる観点からは、スペーサ液30が充填されていない状態で照射することが好ましい。
本発明の場合、特に限定されることはないが、固着スペーサ15の除去能力をより向上させる観点からは、ノズル穴50に対して直上の位置から、即ちノズル穴50に対して垂直にレーザー光20を照射することが好ましい。
【0027】
また、本発明の場合、照射するレーザー光20の波長は特に限定されることはないが、固着スペーサ15の除去能力をより向上させる観点からは、固着スペーサ15の構成材料に対する吸収されやすい波長のレーザー光20を用いることが好ましい。
具体的には、例えば無機系のシリカ微粒子又は有機高分子系の微粒子からなるスペーサを使用する場合において、波長が266nm以上355nm以下のレーザー光20を照射するように設定することが好ましい。
【0028】
また、本発明の場合、照射するレーザー光20の光エネルギーは特に限定されることはないが、1回の照射で固着スペーサ15を剥離可能な照射強度で、かつ、インクジェットヘッド5表面のノズル穴50内部に損傷を与えない照射強度とすることが好ましい。
この場合、レーザー光20の照射回数は、1回でも複数回に分けて行ってもよい。
【0029】
また、本発明の場合、照射するレーザー光20のスポット径は特に限定されることはないが、インクジェットヘッド5のノズル穴50側表面の撥液性膜5aを保護する観点からは、レーザー光20のスポット径がノズル穴50の径より小さくなるようにすることが好ましい。
すなわち、インクジェットヘッド5のノズル穴50側の表面には、例えば、図3(a)(b)に示すように、例えばフッ素樹脂膜からなる撥液性膜5aが形成されている場合があり、その場合、この撥液性膜5aにレーザー光20が照射されると、撥液性膜5aの撥液性が低下するためである。
【0030】
そして、照射するレーザー光20のスポット径をノズル穴50の径より小さくなるようにすれば、インクジェットヘッド5の撥液性膜5aに対するレーザー光20の照射を回避することができ、これにより撥液性膜5aの撥液性の低下を防止することができる。
この場合、照射するレーザー光20のスポット径を調整する手段としては、以下に説明するように、例えば、レーザー光20を通過させるための透光部25を有するマスク22を好適に用いることができる。このようなマスク22は、例えばレーザー光照射手段6と一体的に設けることができる。
【0031】
図3(a)に示すように、本実施の形態に用いるマスク22は、例えば平板状の石英ガラス基板23上に、例えばクロム(Cr)からなる遮光膜24が形成されて構成されている。
ここで、石英ガラス基板23は、透光性を有している。また、石英ガラス基板23上に形成された遮光膜24には、インクジェットヘッド5に設けられたノズル穴50に対応する孔部分が形成され、これにより透光部25が構成されている。
【0032】
本発明の場合、マスク22の遮光膜24に設けられた透光部25の大きさは特に限定されることはないが、上述したように照射するレーザー光20のスポット径をノズル穴50の径より小さくする観点からは、マスク22の透光部25の大きさ(径)をインクジェットヘッド5のノズル穴50の大きさ(径)より小さくすることが好ましい。
【0033】
このような構成を有する本実施の形態において、インクジェットヘッド5のノズル穴50に対してレーザー光20を照射する場合には、図3(a)に示すように、インクジェットヘッド5と、上述したレーザー光照射手段6との間にマスク22を配置し、XYステージ4を動作させて、インクジェットヘッド5のノズル穴50(ここではノズル穴50B)とマスク22の透光部25との位置合わせを行う。
そして、図3(b)に示すように、レーザー光照射手段6からレーザー光20を照射する。
【0034】
本実施の形態では、照射されるレーザー光20のスポット径がマスク22の透光部25(あるいはインクジェットヘッド5のノズル穴)より大きい場合であっても、マスク22の透光部25の大きさ(径)が、インクジェットヘッド5のノズル穴50Bの大きさ(径)より小さいことから、インクジェットヘッド5表面の撥液性膜5aにはレーザー光20が照射されることがなく、レーザー光20はインクジェットヘッド5のノズル穴50B内に確実に入射する。
また、レーザー光20の口径がマスク22の透光部25より小さい場合は、レーザー光20をスキャンしてもよい。この場合は、マスク22を設けることで、スキャンの動きを細かく制御する必要がなく、撥液性膜5aにはレーザー光20が照射されない。
【0035】
以上の結果、レーザー光20が照射された固着スペーサ15は、レーザー光20を吸収して、温度が上昇して膨張することにより、ノズル穴50Bの内壁51から固着スペーサ15が剥離する(吹き飛ばされる)。
【0036】
この場合、剥離した固着スペーサ15は、全てノズル穴50Bの外に排出されるとは限らず、また、他のノズル穴50A、50C、50Dに入り込むことも考えられるので、以下のような洗浄回収工程を行うことによって固着スペーサ15を完全に除去することがより好ましい。加えて、固着スペーサ15を回収することにより、スペーサを再利用してその使用量を減らすことができる。
【0037】
まず、第1の洗浄回収工程としては、インクジェットヘッド再生装置1からインクジェットヘッド5を取り外し、図示しないインクジェット記録装置にインクジェットヘッド5を装着し、加圧によるインクの吐出動作を行うものである。
これにより、吐出されるインクと共に固着スペーサ15がノズル穴50から排出される。この場合、インクを収容可能な容器(図示せず)に対してインクを吐出することにより、固着スペーサ15を回収することができる。
この方法は、固着スペーサ15がインクジェットヘッド5内部を通過しないので、固着スペーサ15がインクジェットヘッド5内部に残存することがない点でメリットがある。
【0038】
次に、第2の洗浄回収工程としては、インクジェットヘッド再生装置1からインクジェットヘッド5を取り外し、図示しないインクジェット記録装置にインクジェットヘッド5を装着し、このインクジェットヘッド5を、例えばスペーサ液からなる洗浄液に浸漬する。
【0039】
そして、この状態で、インクジェット記録装置を吸引動作させ、例えば廃液回収部(図示せず)にインクを送り込むことにより、固着スペーサ15を回収することができる。
この方法は、固着スペーサ15がノズル穴50を通過しないので、複数の固着スペーサ15が堆積してノズル穴50を詰まらせることがない点でメリットがある。
【0040】
なお、上述した第1の洗浄回収工程と第2の洗浄回収工程を併用することも可能である。
そして、洗浄回収工程の終了後には、公知の吐出検査装置を用いて吐出確認工程(カメラによる吐出状態観察、テストプリント等)を行う。
【0041】
ここで、吐出不良のノズル穴50から正常にスペーサ液が吐出された場合には、このインクジェットヘッド5を再度インクジェット記録装置に装着する。また、その状態を維持する雰囲気下でインクジェットヘッド5を保管する。
吐出不良のノズル穴50から正常にスペーサ液が吐出されなかった場合には、再度上述した再生を行う。
【0042】
以上述べたように本実施の形態によれば、吐出不良の生じたインクジェットヘッド5のノズル穴50Bに対し、個々にレーザー光20を照射してノズル穴50B内に固着した固着スペーサ15を剥離するようにしたことから、吐出不良や吐出不能を生じたインクジェットヘッド5を、新たなインクジェットヘッドに交換することなく再生可能にすることができる。
【0043】
また、本実施の形態では、インクジェットヘッド5のノズル穴50の画像を取り込んで所定の画像解析処理を行い、その結果に基づいて、固着スペーサ15が存在するノズル穴50Bのみに対してレーザー光20を照射することにより、ノズル穴50B内の固着スペーサ15の除去工程を簡素化することができ、これにより固着スペーサ15の除去工程を迅速且つ確実に行うことができる。
【0044】
一方、本実施の形態によれば、上述したインクジェットヘッド再生方法を効率良く自動的に行うインクジェットヘッド再生装置1を提供することができる。
なお、本発明は上述の実施の形態に限られることなく、種々の変更を行うことができる。
【0045】
例えば、上述の実施の形態においては、マスクに一つの透光部を設けた場合を例にとって説明したが、マスクに複数の透光部を設けることもできる。
図4(a)(b)は、複数の透光部を有するマスクの例を示す平面図である。
この場合、例えば、図4(a)に示すマスク30は、長方形状の石英ガラス基板30aに、上述した遮光膜24を加工することにより、複数の透光部、本例では、六つの円形の透光部31〜36が、マスク30の長手方向に一列に設けられている。
【0046】
ここで、各透光部31〜36は、それぞれ異なる径を有するように、すなわち、透光部31から透光部36に向って徐々に径が小さくなるように構成されている。
本例のマスク30は、例えばレーザー光照射手段6の照射部6aに取り付けることができ、その取付状態でマスク30の長手方向に移動できるように構成されている。そして、各透光部31〜36が、レーザー光照射手段6から照射されるレーザー光20の光路上に位置するように配置されている。
【0047】
このような構成によれば、マスク30をその長手方向に移動させることにより、レーザー光照射手段6から照射されるレーザー光20のスポット径を容易に変化させることができ、種々の径のノズル穴を有するインクジェットヘッドに対し、確実且つ容易に、当該ノズル穴径より小さいスポット径のレーザー光を照射することができる。また、これにより、汎用性を広げることができる。
【0048】
一方、図4(b)に示す例においては、真円形状の石英ガラス基板40aに、上述した遮光膜を加工することにより、複数の透光部、本例では、六つの円形の透光部41〜46が、マスク40の円周方向において同心円上に一列に設けられている。
ここで、各透光部41〜46は、それぞれ異なる径を有するように、すなわち、透光部41から透光部46に向って徐々に径が小さくなるように構成されている。
【0049】
本例のマスク40は、例えばレーザー光照射手段6の照射部6aに取り付けることができ、その取付状態でマスク40の円周方向に回転可能に構成されている。そして、各透光部41〜46が、レーザー光照射手段6から照射されるレーザー光20の光路上に位置するように配置されている。
【0050】
このような構成によれば、マスク40を円周方向に回転させることにより、レーザー光照射手段6から照射されるレーザー光20のスポット径を容易に変化させることができ、種々の径のノズル穴を有するインクジェットヘッドに対し、確実且つ容易に、当該ノズル穴径より小さいスポット径のレーザー光を照射することができる。また、これにより、汎用性を広げることができる。
【0051】
図5(a)は、複数の透光部を有するマスクの他の例を示す平面図、図5(b)は、図5(a)のマスクの縦断面図である。
図5(a)(b)に示すように、本例に示すマスク60は、上述した長方形状の石英ガラス基板23上に、遮光膜24を加工することにより、複数の透光部、本例では、六つの円形の透光部61〜66が、マスク60の長手方向に一列に設けられている。
【0052】
ここで、各透光部61〜66は、再生対象であるインクジェットヘッド5Aのノズル穴51〜56より小さい同一径に形成されている。
また、マスク60の各透光部61〜66のピッチは、再生対象であるインクジェットヘッド5Aのノズル穴51〜56のピッチと同等となるように構成されている。
【0053】
さらに、本例のマスク60は、図5(b)に示すように、再生対象であるインクジェットヘッド5Aのノズル穴51〜56側の表面に、各ノズル穴51〜56に対してマスク60の透光部61〜66を位置合わせした状態で装着されるように構成されている。
そして、このマスク60は、上述したXYステージ4上においてインクジェットヘッド5Aとともに固定され、XYステージ4の動作によってインクジェットヘッド5Aと共に水平(XY)方向に移動するようになっている。
【0054】
本実施の形態において、インクジェットヘッド5Aのノズル穴51〜56に対してレーザー光20を照射する場合には、XYステージ4に位置決め固定したインクジェットヘッド5Aのノズル穴51〜56側の表面60aに、各ノズル穴51〜56に対して透光部61〜66を位置合わせした状態でマスク60を装着する。
【0055】
そして、XYステージ4を移動して、撮像手段8によってインクジェットヘッド5Aの各ノズル穴51〜56の画像を取り込み、制御手段11において各画像を解析することにより、ノズル穴51〜56の内壁にスペーサが固着しているか否を判断し、吐出不良が生じているノズル穴を特定する。
【0056】
本実施の形態では、例えば、図5(b)に示すように、六つのノズル穴51〜56のうち、図中左から二つ目のノズル穴52と右から二つ目のノズル穴55に固着スペーサ15が存在するものとする。
そして、これらのノズル穴52、55に対し、マスク60の透光部62、65を介して、スポット径がマスク60の透光部62、65の径より大きいレーザー光20をそれぞれ照射する。
【0057】
本実施の形態では、上述したように、マスク60の透光部61〜66の径が、インクジェットヘッド5Aのノズル穴52、55の径より小さいことから、インクジェットヘッド5A表面の撥液性膜(図示せず)にはレーザー光20が照射されることがなく、レーザー光20はインクジェットヘッド5Aのノズル穴52、55内に確実に入射する。
【0058】
その結果、レーザー光20が照射された固着スペーサ15は、上述したようにレーザー光20を吸収することによって、ノズル穴52、55の内壁から固着スペーサ15が剥離する。
その後、上述した洗浄回収工程を行うことによって、インクジェットヘッド5Aのノズル穴51〜56から固着スペーサ15を完全に除去することができる。また、固着スペーサ15を回収することにより、スペーサを再利用してその使用量を減らすことができる。
【0059】
なお、本例の場合、マスク60を用い、スポット径がマスク60の透光部61〜66の径より大きいレーザー光20をインクジェットヘッド5Aのノズル穴51〜56に対してそれぞれ照射することもできる。
また、このマスク60を用い、スポット径がマスク60の透光部61〜66の径より小さいレーザー光20を使用して、レーザー光20をスキャンしながら照射しても良い。
【0060】
さらに、上記実施の形態においては、レーザー光照射手段を固定し、XYステージによってインクジェットヘッドをレーザー光照射手段に対して移動させるようにしたが、本発明はこれに限られず、インクジェットヘッドを固定し、レーザー光照射手段をインクジェットヘッドに対して移動させることもできるものである。
【符号の説明】
【0061】
1…インクジェットヘッド再生装置、2…ステージ、3…支持台、4…XYステージ、5…インクジェットヘッド、6…レーザー光照射手段、7…透光反射部材、8…撮像手段、10…光学系、11…制御手段、15…固着スペーサ、20…レーザー光、22…マスク、23…石英ガラス基板、24…遮光膜、25…透光部、50(50A〜50D)…ノズル穴

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スペーサを含有するスペーサ液を吐出するノズル穴を複数有するインクジェットヘッドを再生させる方法であって、
前記インクジェットヘッドの複数のノズル穴に対し、個々にレーザー光を照射することにより、前記ノズル穴内に固着したスペーサを剥離する工程を有するインクジェットヘッド再生方法。
【請求項2】
前記レーザー光を通過させるための透光部を有するマスクを介して当該レーザー光を照射する請求項1記載のインクジェットヘッド再生方法。
【請求項3】
前記インクジェットヘッドのノズル穴の径に対応して前記マスクの透光部の径を変更する工程を有する請求項2記載のインクジェットヘッド再生方法。
【請求項4】
前記インクジェットヘッドのノズル穴の画像を取り込んで所定の画像解析処理を行い、その結果に基づいて、前記スペーサが固着しているノズル穴のみに対してレーザー光を照射する請求項1乃至3のいずれか1項記載のインクジェットヘッド再生方法。
【請求項5】
前記マスクの透光部の径が、前記インクジェットヘッドのノズル穴の径より小さいマスクを用い、スポット径が前記マスクの透光部の径より大きいレーザー光を前記インクジェットヘッドのノズル穴に対してそれぞれ照射する工程を有する請求項1乃至3のいずれか1項記載のインクジェットヘッド再生方法。
【請求項6】
前記レーザー光を照射した後、前記ノズル穴内から剥離されたスペーサを洗浄液によって洗い流して回収する洗浄回収工程を有する請求項1乃至5のいずれか1項記載のインクジェットヘッド再生方法。
【請求項7】
前記洗浄回収工程は、前記インクジェットヘッドのノズル穴から前記洗浄液を加圧吐出させる工程を有する請求項6記載のインクジェットヘッド再生方法。
【請求項8】
前記洗浄工程は、前記レーザー光を照射した後の当該インクジェットヘッドを前記洗浄液に浸漬し、前記ノズル穴から前記洗浄液を吸引させる工程を有する請求項6又は7のいずれか1項記載のインクジェットヘッド再生方法。
【請求項9】
スペーサを含有するスペーサ液を吐出するノズル穴を複数有するインクジェットヘッドを再生させるインクジェットヘッド再生装置であって、
前記インクジェットヘッドを位置決め固定する支持台と、
前記インクジェットヘッドのノズル穴に対してレーザー光を照射するレーザー光照射手段と、
前記支持台と前記レーザー光照射手段との相対的な位置合わせを行う位置合わせ手段とを有するインクジェットヘッド再生装置。
【請求項10】
前記インクジェットヘッドと前記レーザー照射手段との間に、前記レーザー光を通過させるための透光部を有するマスクが設けられている請求項9記載のインクジェットヘッド再生装置。
【請求項11】
前記マスクには、径の異なる複数の透光部が設けられ、前記レーザー光照射手段からのレーザー光を、当該複数の透光部のうち所望の透光部を通過させるように構成されている請求項10記載のインクジェットヘッド再生装置。
【請求項12】
前記支持台上に固定された前記インクジェットヘッドのノズル穴の画像を取り込む撮像手段と、当該撮像手段によって取り込まれた画像データを解析処理するための制御手段とを有し、当該制御手段にて得られた結果に基づいて前記レーザー光照射手段及び前記位置合わせ手段の動作を制御するように構成されている請求項9乃至11のいずれか1項記載のインクジェットヘッド再生装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−276988(P2010−276988A)
【公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−131238(P2009−131238)
【出願日】平成21年5月29日(2009.5.29)
【出願人】(000231464)株式会社アルバック (1,740)
【Fターム(参考)】