説明

インプリント用モールドの製造方法

【課題】インプリント用モールドの製造において微細なモールドパターンを高いパターン精度で形成することができ、しかも基板をエッチング加工するために形成した薄膜パターンを最終的にモールドパターンにダメージを与えないように除去できるインプリント用モールドの製造方法を提供する。
【解決手段】透光性基板1上に、ハフニウムおよびジルコニウムのうちの少なくとも一方の元素を含有する材料で形成された下層3と、該下層の酸化を抑制する材料で形成された上層4の積層膜からなる薄膜を有するマスクブランクを用いて、前記薄膜をエッチング加工して薄膜のパターンを形成する工程と、該薄膜のパターンをマスクとして透光性基板1をエッチング加工してモールドパターンを形成する工程と、該モールドパターンを形成した後、薄膜の下層を、塩素、臭素、ヨウ素、およびキセノンのうちいずれかの元素とフッ素との化合物を含む非励起状態の物質に接触させて除去する工程とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体等の集積回路や微細パターンにより光学的機能を付加した光学部品作製、磁気ディスク上の微細パターン形成に使用するインプリント用モールド(スタンパ)の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、半導体装置の製造工程では、フォトリソグラフィー法を用いて微細パターンの形成が行われている。また、この微細パターンの形成には通常何枚ものフォトマスクと呼ばれている基板が使用される。このフォトマスクは、一般に透光性のガラス基板上に、金属薄膜等からなる遮光性の微細パターンを設けたものであり、このフォトマスクの製造においてもフォトリソグラフィー法が用いられている。
【0003】
このフォトマスクや、インプリント用モールドは同じ微細パターンを大量に転写するための原版となる。フォトマスク上に形成されたパターンの寸法精度は、作製される微細パターンの寸法精度に直接影響する。また、インプリント用モールドは転写対象物上に塗布されたレジスト膜に直接押し付けてパターンを転写する方式のため、さらにパターンの断面形状も作製される微細パターンの形状に大きく影響する。半導体回路の集積度が向上するにつれ、パターンの寸法は小さくなり、フォトマスクやインプリント用モールドの精度もより高いものが要求される。とくに、インプリント用モールドは、前記のとおり直接押し付ける転写方式であり、等倍でのパターン転写となるため、半導体回路パターンと要求される精度が同じになるため、インプリント用モールドの方がフォトマスクよりも高精度のものが要求される。
【0004】
従来のインプリント用モールドの作製においては、石英ガラスなどの透光性基板上にクロム等の薄膜を形成したマスクブランクが用いられ、このマスクブランク上にレジストを塗布した後、電子線露光などを用いてレジストパターンを形成し、このレジストパターンをマスクとして薄膜をエッチング加工することにより薄膜パターン(マスクパターン)を形成している。
【0005】
さらに、光硬化型樹脂が塗布された転写対象物に対して使用するインプリント用モールドでは転写時に光を照射する目的で、薄膜パターンをマスクとして透光性基板をエッチング加工して段差パターンを作製するが、この場合にも、透光性基板のパターン寸法、精度は薄膜パターンの寸法、精度に直接影響を受ける。したがって、最終的に高精度の微細パターンが形成されたインプリント用モールドを作製するためには、マスクブランクにおける上記薄膜パターンを高いパターン精度で形成する必要がある。
【0006】
例えばクロム等を含む薄膜をエッチングする手段としては、硝酸第二アンモニウムセリウムを用いたウェットエッチング、もしくは塩素系と酸素の混合ガスを用いたドライエッチングが通常用いられている。
従来、クロム膜のエッチング幅や深さの不均一性を改善するための、多段のエッチングを用いて複数の層からなる薄膜パターンを形成する方法(下記特許文献1)や、レジストの薄膜化を可能とするための、レジストパターンをマスクとして薄膜のパターンを形成し、さらに形成した薄膜パターンをマスクとして第2層以降の薄膜パターンを形成する方法(下記特許文献2)などが知られている。
【0007】
ところで、ハードディスクドライブ(HDD)等の磁気記録装置に搭載される磁気ディスクにおいては、磁気ヘッド幅を極小化し、情報が記録されるデータトラック間を狭めて高密度化を図るという手法が従来より用いられてきていた。しかし、従来手法では高密度化に限界がきており、隣接トラック間の磁気的影響や熱揺らぎ現象が無視できなくなってきている。最近、磁気ディスクのデータトラックを磁気的に分離して形成するディスクリートトラック型メディア(Discrete Track Recording Medium;以下、DTRメディアという。)という、新しいタイプのメディアが提案されている。
【0008】
このDTRメディアとは、記録に不要な部分の磁性材料を除去(溝加工)して信号品質を改善しようとするものである。さらに、溝加工した後に、その溝を非磁性材料で充填して、磁気ディスクドライブに要求されるオングストロームレベルの表面平坦性を実現したものである。そして、この微細な幅の溝加工を行う手法の1つとしてインプリント技術が用いられている。
【0009】
また、DTRメディアをさらに高密度化して発展させた、パターンドメディア(信号をドットパターンとして記録するメディア)という新しいタイプのメディアも提唱されてきており、このパターンドメディアのパターン形成においてもインプリント技術が有望視されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特表2005−530338号公報
【特許文献2】特開2006−78825号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
半導体回路の集積度が向上するにつれ、パターンの寸法はより一層の微細化が要求されており、上述の磁気ディスクにおいても、DTRメディアやパターンドメディアに用いるインプリント用モールド(スタンパ)では、パターンの寸法に対する微細化の要求は強い。パターンの寸法が微細化した場合、例えばウェットエッチング方法を用いた場合、クロムパターンのエッチングには問題が生じることが知られている。すなわち、上記硝酸第二アンモニウムセリウムを用いたウェットエッチングでは、レジストの後退や消失といった問題があまり発生しない利点がある一方で、クロムパターンの断面形状が垂直にならない、レジストパターンに対してクロム膜がパターン断面横方向にエッチングされるエッチングバイアスの発生等の問題がある。
【0012】
一方、例えば塩素と酸素の混合ガスを用いたドライエッチングでは、レジストの後退や消失といった問題があるものの、ウェットエッチングと比較して垂直なクロムパターンの断面形状が得られるため、微細パターンの形成には有利である。
【0013】
また、パターンの寸法が微細化した場合には、レジスト膜厚にも制約が生じる。つまり、レジストの膜厚がおおむねパターン幅の3倍以上になると、レジスト露光時の解像性低下やレジストパターン形成後のパターン倒壊やレジストの剥離等の問題が発生するので、微細パターンを形成するためには、レジスト膜厚を薄くすることが望ましい。ところが、例えばドライエッチングによりクロムパターンを形成する場合、レジストがエッチングにより徐々に消失するため、レジスト膜厚をあまり薄くすると、クロムパターン形成完了前にレジストが消失し、エッチングを行うべきではないクロム部分もエッチングされてしまい、結果的に微細パターンを形成できなくなってしまう。
【0014】
なお、クロム膜のエッチング幅や深さの不均一性を解決する方法として、前記特許文献1に開示されたような、多段のエッチングを用いて複数の層からなる薄膜パターンを形成する方法が知られている。この方法ではエッチングストッパーによりエッチング深さの不均一性は改善されるが、エッチング幅の不均一性をもたらすレジスト幅の後退を防止する方法や、微細パターンを形成する上で必要なレジストの薄膜化を可能にする方法等についての開示はなく、微細パターンを実現する上での従来技術の問題を十分に解決するに到っていない。
【0015】
また、レジストの薄膜化を可能とする方法としては、前記特許文献2に開示されたような、レジストパターンをマスクとして薄膜のパターンを形成し、さらに形成した薄膜パターンをマスクとして第2層以降の薄膜パターンを形成する方法が知られている。この方法では、レジストパターンをマスクとして薄膜をエッチングする際に用いるエッチングガスに、酸素含有の塩素系ガスを用いているが、ドライエッチング中にレジストの厚み方向のみでなく断面横方向にもエッチングが進行してレジストパターンが後退するため、結果的にあまり良好なパターン精度が得られない場合がある。
【0016】
また、インプリント用モールドの製造における課題は、一般のフォトマスクの場合とは異なり、上述したような微細パターンを形成することだけではない。すなわち、光硬化型樹脂に対してパターンを転写するインプリント用モールドとして機能させるためには、ガラス基板をエッチング加工するために形成した薄膜パターン(マスクパターン)を最終的には除去する必要がある。したがって、このような薄膜パターンを除去するのにドライ処理を用いるにしても、あるいはウェット処理を用いるにしても、除去後のガラスパターンにダメージを与えないように薄膜パターンを除去する必要がある。そのためには、インプリント用モールド製造に用いるマスクブランクにおけるガラス基板上の薄膜材料は、最終的にガラスパターンには何らダメージを与えないようにウェット処理またはドライ処理により容易に除去(ないしは剥離)できるという観点からも検討される必要がある。
【0017】
そこで、本発明は、このような従来の事情に鑑みなされたものであり、その目的とするところは、インプリント用モールドの製造において微細モールドパターンを高いパターン精度で形成することができ、しかも基板をエッチング加工するために形成した薄膜パターンを最終的にモールドパターン(ガラスパターン)にダメージを与えないように除去できるインプリント用モールドの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0018】
すなわち、上記課題を解決するため、本発明は以下の構成を有する。
(構成1)
透光性基板上にパターンを形成するための薄膜を有するマスクブランクを用いるインプリント用モールドの製造方法であって、前記薄膜は、前記透光性基板の表面に接して形成されており、少なくとも上層および下層の積層膜からなり、前記下層は、ハフニウム(Hf)およびジルコニウム(Zr)のうちの少なくとも一方の元素を含有する材料で形成され、前記上層は、前記下層の酸化を抑制する材料で形成され、前記薄膜をエッチング加工して前記薄膜のパターンを形成する工程と、該薄膜のパターンをマスクとして前記透光性基板をエッチング加工してモールドパターンを形成する工程と、該モールドパターンを形成した後、前記薄膜の下層を、塩素(Cl)、臭素(Br)、ヨウ素(I)、およびキセノン(Xe)のうちいずれかの元素とフッ素(F)との化合物を含む非励起状態の物質に接触させて除去する工程と、を有することを特徴とするインプリント用モールドの製造方法である。
【0019】
(構成2)
前記薄膜の上層は、クロム(Cr)を含有する材料で形成されていることを特徴とする構成1に記載のインプリント用モールドの製造方法である。
(構成3)
前記薄膜の上層を形成する材料は、さらに窒素を含有することを特徴とする構成2に記載のインプリント用モールドの製造方法である。
【0020】
(構成4)
前記薄膜の下層を形成する材料は、さらにタンタルを含有することを特徴とする構成1乃至3のいずれかに記載のインプリント用モールドの製造方法である。
(構成5)
前記薄膜の下層を形成する材料は、酸素を実質的に含有しないことを特徴とする構成1乃至4のいずれかに記載のインプリント用モールドの製造方法である。
【0021】
(構成6)
前記薄膜の上層の膜厚は、1.5nm以上3nm以下の範囲であることを特徴とする構成1乃至5のいずれかに記載のインプリント用モールドの製造方法である。
(構成7)
前記薄膜の下層の膜厚は、3nm以上10nm以下の範囲であることを特徴とする構成1乃至6のいずれかに記載のインプリント用モールドの製造方法である。
【0022】
(構成8)
前記薄膜のパターンを形成する工程は、酸素を実質的に含有しない塩素系ガスを用いたドライエッチングにより、前記薄膜をエッチング加工することを特徴とする構成1乃至7のいずれかに記載のインプリント用モールドの製造方法である。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、インプリント用モールドの製造において微細なモールドパターンを高いパターン精度で形成することができ、しかも基板をエッチング加工するために形成した薄膜パターンを最終的にモールドパターン(ガラスパターン)にダメージを与えないように除去できるインプリント用モールドの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明に使用するマスクブランクの断面概略図である。
【図2】本発明のインプリント用モールドの製造工程を説明するための断面概略図である。
【図3】本発明のインプリント用モールドの製造における薄膜の除去工程に用いる処理装置の概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明を実施するための形態について適宜図面を参照しながら詳述する。
本発明に係るインプリント用モールドの製造方法において使用するマスクブランクは、透光性基板上に、パターンを形成するための薄膜を有するマスクブランクであって、前記薄膜は、前記透光性基板の表面に接して形成されており、少なくとも上層および下層の積層膜からなり、前記下層は、ハフニウム(Hf)およびジルコニウム(Zr)のうちの少なくとも一方の元素を含有する材料で形成され、前記上層は、前記下層の酸化を抑制する材料で形成されている。
【0026】
図1は、このような本発明に使用するマスクブランクの一実施の形態を示す断面概略図である。
図1に示す実施の形態においては、本発明に使用するマスクブランク10は、透光性基板1上に、パターンを形成するための薄膜2を有しており、前記薄膜2は、前記透光性基板1の表面に接して形成されており、上層4および下層3の積層膜からなっている。
【0027】
ここで、本発明に使用するマスクブランク10における透光性基板1としては、石英ガラスやSiO−TiO系低膨張ガラス等のガラス基板が一般的である。これらのガラス基板は、平坦度及び平滑度に優れるため、本発明により得られるインプリント用モールドを使用してパターン転写を行う場合、転写パターンの歪み等が生じないで高精度のパターン転写を行える。
【0028】
本発明に使用するマスクブランク10は、ドライエッチング処理により、前記薄膜2及び透光性基板1をパターニングしてインプリント用モールドを製造するのに用いるドライエッチング処理用のマスクブランクとして好適である。
微細なパターン、例えばハーフピッチ32nm未満のパターンを精度よく形成するためには、レジストを薄膜化する、レジストパターン断面縦方向(レジストパターンの厚み方向)のエッチング進行(レジストの後退)を抑制する、薄膜パターン断面横方向のエッチング進行(エッチングの等方性)を抑制する、といった課題があるが、薄膜パターンをウェットエッチングで形成した場合には、薄膜パターン断面横方向のエッチング進行が本質的に発生するため、微細パターンの形成にはドライエッチングが好適である。
【0029】
ドライエッチングで薄膜パターンを形成する場合に、レジストを薄膜化するためには、レジストのエッチング速度を小さくする、レジストパターンをマスクとしてパターニングする薄膜のエッチング時間を短縮する、といった方法がある。
【0030】
従来、クロムを主成分とする単層の薄膜を有するマスクブランクをドライエッチング加工してインプリント用モールドを作製する場合においては、エッチングガスとして、塩素と酸素の混合ガスが一般的に用いられている。しかし、一般にレジストは酸素を含有するエッチングガスへのドライエッチング耐性が非常に低く、問題となっていた。これに対し、酸素を実質的に含まないエッチングガスによるドライエッチングでは、レジストパターン断面縦方向及び横方向へのエッチング進行が酸素を含む塩素系ガスによるドライエッチングと比較して小さくエッチング時のレジストの断面方向の消費量を抑制でき、かつレジストの寸法変化を抑制することができるため、本発明においては、マスクブランク10における前記薄膜2の上層4及び下層3のドライエッチングとしては、酸素を実質的に含まないエッチングガスを用いたドライエッチングが好適である。なお、エッチングガスにおいて酸素を実質的に含まないとは、酸素を全く含まない場合の他、エッチング装置内で発生する酸素を含む場合であってもその含有量が5体積%以下であることをいうものとする。
【0031】
また、透光性基板1上の薄膜2のエッチング時間を短縮するためには、パターンを形成する薄膜のドライエッチング速度を大きくする方法と、パターンを形成する薄膜の厚みを小さくする方法がある。インプリント用モールド製造においては、上記薄膜は透光性基板1に微細パターンを形成するエッチングを行う際にハードマスク層(エッチングマスク層)として機能させる必要がある。このため、薄膜は一定以上の膜厚が必要であり、薄膜の厚みを小さくするといっても限界がある。
【0032】
そこで、薄膜2のエッチング時間を短縮するためには、本発明に好適な酸素を実質的に含まないエッチングガスでのドライエッチング速度の大きい材料を薄膜2(パターン形成層)の下層3に少なくとも選択する必要がある。本発明に使用するマスクブランク10においては、透光性基板1上の前記薄膜2は、上層4および下層3の積層膜からなるが、この薄膜2のうち上記上層4は、主に上記下層3の酸化を抑制する保護膜としての機能を有する。このような上層を設けない場合、成膜後の大気放置等、特に、レジスト塗布前の大気中でのベーク処理や、レジスト塗布後のベーク処理により、下層全体に酸化が進行してしまう。下層全体に酸化が進行すると、酸素を実質的に含まないエッチングガスによるエッチング速度を大きく減少させ、エッチング進行を妨げるので、上層を設けることで下層の酸化を抑制する必要がある。
【0033】
また、上記薄膜2のうち下層3は、フッ素系ガスを用いて透光性基板1(ガラス基板)をドライエッチング加工する際のハードマスク層(エッチングマスク)としての機能を有するため、このフッ素系ガスを用いたドライエッチングに対しては耐性を持つ必要がある。また下層3は、上記のとおり酸素を実質的に含まない例えば塩素系ガスエッチングで大きなドライエッチング速度が得られ、しかも洗浄に対して十分な耐性を有することが好ましい。さらに、下層3は、ハードマスク層としての機能のほかに、レジストパターン形成の際の電子線描画時にチャージアップを防止するため、および後述の走査型電子顕微鏡(SEM)による基板パターン(モールドパターン)検査が可能となるように、必要な導電性を確保する機能を持たせることが好適である。
【0034】
このような観点から、本発明では、かかる薄膜2の下層3は、ハフニウム(Hf)およびジルコニウム(Zr)のうちの少なくとも一方の元素を含有する材料で形成されている。また下層3を形成する材料は、酸素を実質的に含まない例えば塩素系エッチングガスに対するドライエッチング速度の低下を抑制する観点から、酸素を実質的に含有しないことが好ましい。ここで、酸素を実質的に含有しないとは、酸素を全く含まない場合の他、酸素を含む場合であってもその含有量が5原子%以下であることをいうものとする(以下同様)。
例えば、下層3の材料として、ハフニウム(Hf)およびジルコニウム(Zr)の少なくとも一方の元素又はその化合物(例えばHfZrなど)を選択することができ、さらにこれらの材料をベース材料として、例えばTa,B,Ge,Nb,Si,C等の副材料を加えた材料を選択することもできる。これらの材料は、酸素を実質的に含有しない塩素系ガスに対するドライエッチング速度が速く、かつフッ素系ガスに対するエッチング耐性が高いという優れた特性を有する。しかし、これらの材料は、酸化が進行してしまうと、フッ素系ガスに対するドライエッチングが困難なだけでなく、酸素を実質的に含有しない塩素系ガスに対するドライエッチング速度が大幅に低下してエッチングが難しくなるという特性も有する。このため、下層2の酸化が進行することから保護する保護膜としての上層4が必要となる。
【0035】
本発明においては、下層3の材料として、ハフニウムおよびジルコニウムのうちの少なくとも一方を含有し、さらにタンタルを含有する材料(例えばTaHf,TaZr,TaHfZrなど)が特に好適である。ハフニウムやジルコニウムにさらにタンタルを含有させると、酸化安定性がより向上する。また、かかる薄膜2の下層3は、透光性基板1(ガラス基板)をエッチング加工してモールドパターン(ガラスパターン)を形成した後は、最後に除去する必要があるため、ガラスパターンにはダメージを与えずに除去できることが肝要であるが、上記の下層3の材料は、塩素(Cl)、臭素(Br)、ヨウ素(I)、およびキセノン(Xe)のうちいずれかの元素とフッ素(F)との化合物を含む非励起状態の物質に接触させることで、ガラスパターンにダメージを与えずに容易に除去することが可能である。
【0036】
上記下層3は、主に透光性基板1をドライエッチング加工する際のエッチングマスク層としての機能を持たせる観点から、本発明においては、透光性基板1の掘り込み深さにもよるが、下層3の膜厚は、3nm以上10nm以下の範囲であることが好適である。かかる下層3の膜厚が3nm未満であると、下層のパターンをマスクとして透光性基板1をエッチング加工するときに、加工が終わる前に下層のパターンがエッチングされて消失してしまう恐れがある。一方、下層3の膜厚が10nmよりも厚くなると、微細パターン形成の観点から好ましくない。
【0037】
また、本発明では、上記薄膜2のうち上層4は、主に上記下層3の酸化を抑制する保護膜としての機能を持たせるため、このような下層3の酸化を抑制する材料で形成されている。また、上記上層4は、酸素を実質的に含まない例えば塩素系ガスエッチングで大きなドライエッチング速度が得られ、しかも洗浄に対して十分な耐性を有することが好ましい。このような観点から、例えば上層4の材料としては、クロム(Cr)を含有する材料(Cr、CrN、CrO、CrC、CrCN、CrON、CrOCN等)等が好ましく挙げられる。
本発明では、これら上層4のクロムを含有する材料の中でも、窒素を含有する材料が好適である。窒素を含有することにより、膜応力を低減することができ、下層との密着性も向上する。窒素を含有する場合、窒素の含有量は、30原子%〜70原子%の範囲であることが好ましい。
【0038】
上記上層4は、成膜後の大気放置、レジスト塗布工程におけるベーク処理(レジスト塗布前の大気中でのベーク処理、レジスト塗布後のベーク処理)、レジスト膜への露光処理後のベーク処理等により、酸化されるため、例えば上記クロムと窒素を含む材料で形成された上層は、酸素を実質的に含まない例えば塩素系ガスエッチングで大きなドライエッチング速度が得られ、しかも洗浄に対して十分な耐性を有する。
また、上層4は、後述の透光性基板1(ガラス基板)のパターニングに用いるフッ素系ガスによるドライエッチングに対してはとくに耐性を持たせる必要はないため、この観点からの材料選択を考慮しなくてもよい。
【0039】
また、上記の薄膜2の構成は、レジストパターンをマスクとし、上層4および下層3を同じ酸素を実質的に含有しない塩素系ガスによるドライエッチングで連続的にドライエッチング加工可能な材料構成である。但し、本発明はこのような構成に限られるわけではなく、薄膜2の上層4の材料として、たとえば塩素系ガスでもフッ素系ガスでもドライエッチング可能な材料を選択した場合、レジストパターンをマスクとし、上層4をフッ素系ガスでドライエッチング加工し、下層3を塩素系ガスでドライエッチング加工する構成としてもよい。
【0040】
上記薄膜2の上層4は、主に下層3の酸化を抑制する保護膜としての機能を持たせ、また微細パターン形成の観点から、本発明においては、膜厚が、1.5nm以上3nm以下の範囲であることが好適である。かかる上層4の膜厚が1.5nm未満であると、上述の下層3を酸化から保護する保護膜としての機能が十分に発揮されない恐れがあるため好ましくない。一方、上層4の膜厚が3nmよりも厚くなると、レジストパターンをマスクとして、上層4と下層3を同じエッチングガスでドライエッチング加工する場合、レジスト膜の必要膜厚が大きくなるので、微細パターン形成が困難になり好ましくない。また、上層4が例えばCrN膜の場合、膜厚が3nmよりも厚くなると、成膜後の大気放置等による酸化が全体的にまで進行せず、酸素を実質的に含まない塩素系ガスエッチングの進行し難いCrN層の領域が残るため好ましくない。
【0041】
透光性基板1上に上層4と下層3の積層膜からなる薄膜2を形成する方法は特に制約される必要はないが、なかでもスパッタリング成膜法が好ましく挙げられる。スパッタリング成膜法によると、均一で膜厚の一定な膜を形成することが出来るので好適である。
また、本発明に使用するマスクブランク10は、上記薄膜2の上に、レジスト膜を形成した形態であっても構わない。
【0042】
本発明は、上述のマスクブランク10を用いたインプリント用モールドの製造方法を提供するものである。
すなわち、本発明に使用するマスクブランクにおける前記薄膜をエッチング加工して前記薄膜のパターンを形成する工程と、該薄膜のパターンをマスクとして前記透光性基板をエッチング加工してモールドパターンを形成する工程と、該モールドパターンを形成した後、前記薄膜の下層を、塩素(Cl)、臭素(Br)、ヨウ素(I)、およびキセノン(Xe)のうちいずれかの元素とフッ素(F)との化合物を含む非励起状態の物質に接触させて除去する工程と、を有することを特徴とするインプリント用モールドの製造方法である。
【0043】
図2は、本発明のインプリント用モールドの製造工程を説明するための断面概略図である。
本発明に使用するマスクブランク10(図1)の上面に、例えば電子線描画用のレジストを所定の厚みに塗布し、所定のベーク処理を行って、マスクブランク10上にレジスト膜を形成する。例えばハーフピッチ32nm未満の微細パターンを形成する観点からは、レジスト膜の膜厚を100nm以下とすることが好ましく、特に40〜80nmの範囲とすることが好適である。
【0044】
次に、電子線描画機を用いて、上記マスクブランク10のレジスト膜に対して所望のデバイスパターンを描画した後、レジスト膜を現像してレジストパターン5を形成する(図2(a)参照)。
次に、レジストパターン5を形成したマスクブランク10を、ドライエッチング装置に導入し、実質的に酸素を含まないエッチングガス(例えば塩素系ガス)を用いたドライエッチングを行うことにより、上記レジストパターン5をマスクとして薄膜の上層4及び下層3をエッチング加工して、図2(b)に示すように上層パターン7及び下層パターン6の積層膜パターンを形成する。
【0045】
続いて、同じドライエッチング装置内で、フッ素系(例えばCHF)ガスを用いたドライエッチングを行うことにより、上記上層パターン7及び下層パターン6の積層膜パターンをマスクとして透光性基板(ガラス基板)1をエッチング加工して、図2(c)に示すようにガラスパターン(モールドパターン)8を形成する。
なお、この時点で、上記レジストパターン5及び上層パターン7は残存していてもよいが(図2(c)参照)、後でこれらのパターンを除去する工程を省く観点からは、このフッ素系ガスを用いたドライエッチングによって、上記レジストパターン5及び上層パターン7も同時にエッチング除去されるように(図2(d)参照)、上層4の材料や、レジスト及び上層4の膜厚などを予め選択することも好適である。
【0046】
上記本発明のドライエッチングにおいて、適用されるフッ素系ガスとしては、たとえば、SF、CF、C、CH、CHF等、あるいはこれらとHe、H、N、Ar、C、O等との混合ガスが挙げられる。これらの中でも、ガラス基板のドライエッチング速度が速いCHF(あるいはこれと上記He、Ar等との混合ガス)が好適である。また、上記本発明のドライエッチングにおいて、適用される塩素系ガスとしては、たとえば、Cl、CHCl、SiCl等が挙げられる。
【0047】
次に、上記レジストパターン5が残存している場合はこれを除去した上で、上記ガラスパターン8を形成したマスクブランク上にフォトレジストを塗布し、露光と現像を行い、図2(e)に示すような台座構造用であり、ガラスパターン(モールドパターン)8の領域を保護するレジストパターン11を形成する。
次に、上記レジストパターン11を形成したマスクブランクについて、例えばドライエッチングにより、レジストパターン11で保護されている部分以外の下層パターン6(図2(e)、(f)では下層パターン6のみを示しているが、下層パターン6上に上層パターン7が残存している場合は上層パターン7および下層パターン6)を除去し、続いて透光性基板1にウェットエッチングを行い、さらにレジストパターン11を除去することで、図2(f)に示すような台座構造12を作製する。
さらに上記ガラスパターン8上の下層パターン6を本発明の方法によって除去する(下層パターン6上に上層パターン7が残存している場合は、まず上層パターン7を適当なエッチング手段により除去してから、下層パターン6を除去する)ことにより、図2(g)に示すような構造のモールドパターン(ガラスパターン8)が形成されたインプリント用モールド20が得られる。
【0048】
なお、図2(c)に示すようにガラスパターン(モールドパターン)8を形成した後、マスクブランク上のレジストパターン5、上層パターン7および下層パターン6をすべて除去してから、上述の台座構造を作製するようにしてもよい。
本発明においては、いずれの製造工程を経るにしても、ガラスパターンを形成した後、前記薄膜の下層(パターン)を、塩素(Cl)、臭素(Br)、ヨウ素(I)、およびキセノン(Xe)のうちいずれかの元素とフッ素(F)との化合物を含む非励起状態の物質に接触させることで除去することが好適である。本発明に使用するマスクブランクでは、下層は、ハフニウム(Hf)およびジルコニウム(Zr)のうちの少なくとも一方の元素を含有する材料で形成されている。ガラスパターン(モールドパターン)8を形成後に残存する下層(パターン)は、上層(パターン)が除去された時点で酸化が進行しやすい。酸化が進行した下層(パターン)は、塩素系ガスによるドライエッチングでの除去は容易ではないが、従来技術では、ガラスパターン8とのエッチング選択性があまり高くない状況で、塩素系ガスによるドライエッチングで下層(パターン)を除去することになってしまう。この場合、ガラスパターン(モールドパターン)8の表面粗さの悪化やダメージ、パターンエッジの丸まり等が生じる恐れがある。これに対して、本発明では、酸化が進行した下層(パターン)であっても、塩素、臭素、ヨウ素、およびキセノンのうちいずれかの元素とフッ素との化合物を含む非励起状態の物質に接触させることで、すでに形成されているガラスパターンの表面粗さの悪化を抑制しつつ、ダメージを与えることなく除去することが可能である。そのため、通常、上述のガラスパターン8を形成した時点(図2(c)工程の後、少なくともレジストパターン5を除去した時点)でパターン検査を実施するが、この際のパターン検査結果は、最終的に得られたインプリント用モールドのモールドパターンと良好な一致性を有する。
【0049】
次に、この下層パターンの除去工程について説明する。
本発明においては、上述のガラスパターン8の形成後、ガラスパターン上に残存する下層パターン6を除去するために、塩素(Cl)、臭素(Br)、ヨウ素(I)、およびキセノン(Xe)のうちいずれかの元素とフッ素(F)との化合物(以下、単に本発明のフッ素系化合物と呼ぶ。)を含む非励起状態の物質を適用することが特徴である。
上記ハフニウム(Hf)およびジルコニウム(Zr)のうちの少なくとも一方の元素を含有した下層パターン6は、酸化が進行した状態であっても、非励起状態の本発明のフッ素系化合物の物質に対して良好なエッチング特性を有するのに対し、透光性基板1として用いるガラス基板は、ドライエッチングで用いられる励起状態であるフッ素系ガスのプラズマにはエッチングされやすいが、非励起状態の本発明のフッ素系化合物の物質に対してはエッチングされにくい特性を有している。従って、非励起状態の本発明のフッ素系化合物の物質に対しては、ガラス基板と下層パターン6との間で高いエッチング選択性を得ることができる。
【0050】
上記本発明のフッ素系化合物としては、例えば、ClF、ClF、BrF、BrF、IF、IF、またはXeF等の化合物を好ましく用いることができるが、この中でも、本発明においては特にClFを好ましく用いることができる。
この非励起状態の本発明のフッ素系化合物の物質は、流体の状態で接触させるとよく、特にガス状態で接触させることが好ましい。
【0051】
上記下層パターン6を除去する工程において、下層パターン6を本発明のフッ素系化合物を含む非励起状態の物質に接触させる方法としては、例えばチャンバー内に処理基板(つまり、図2(d)、(e)、あるいは(f)に示す状態の基板を説明の便宜上、「処理基板」と呼ぶことにする。)を設置し、該チャンバー内に本発明のフッ素系化合物を含む物質をガス状態で導入してチャンバー内を該ガスで置換する方法が好ましく挙げられる。
【0052】
本発明において、本発明のフッ素系化合物を含む物質をガス状態で使用する場合、本発明の化合物と窒素ガス、あるいはアルゴン(Ar)、ヘリウム(He)、ネオン(Ne)、クリプトン(Kr)、キセノン(Xe)、ラドン(Rn)等(以下、単にアルゴン等という。)の希ガスとの混合ガスを好ましく用いることができる。
本発明のフッ素系化合物を含む非励起のガス状態の物質を上記下層パターン6に接触させる場合の処理条件、例えばガス流量、ガス圧力、温度、処理時間については特に制約する必要はないが、本発明の作用を好ましく得る観点からは、下層(パターン)を形成する材料や膜厚によって適宜選定するのが望ましい。
【0053】
ガス流量については、例えば本発明のフッ素系化合物とアルゴン等との混合ガスを用いる場合、本発明のフッ素系化合物が流量比で1%以上混合されていることが好ましい。本発明のフッ素系化合物の流量が上記流量比よりも少ないと、下層パターン6のエッチングの進行が遅くなり、結果として処理時間が長くなる。
【0054】
また、ガス圧力については、例えば、100〜760Torrの範囲で適宜選定することが好ましい。ガス圧力が上記範囲よりも低いと、チャンバー内の本発明のフッ素系化合物のガス量自体が少なすぎて下層パターン6のエッチングの進行が遅くなり、結果として処理時間が長くなる。一方、ガス圧力が上記範囲よりも高い(大気圧以上である)と、ガスがチャンバーの外に流出する恐れがあり、好ましくない。
【0055】
また、処理基板の温度については、例えば、50〜250℃の範囲で適宜選定することが好ましい。温度が上記範囲よりも低いと、下層パターン6のエッチングの進行が遅くなり、結果として処理時間が長くなる。一方、温度が上記範囲よりも高いと、エッチングが早く進行し、処理時間は短縮できるものの、下層パターンとガラス基板との選択性が得られにくくなり、基板ダメージがやや大きくなる恐れがある。
【0056】
さらに、処理時間については、基本的には下層パターン6のエッチング(除去)が完了するのに十分な時間であればよい。本発明の場合、上述のガス流量、ガス圧力、温度によっても、或いは下層パターンの材料、膜厚によっても多少異なるが、概ね5〜300秒の範囲で本発明の作用が好ましく得られる。
【0057】
図3は、以上の下層パターンの除去工程で好適に用いられる処理装置の概略構成図である。
この処理装置では、ガス充填容器33,34、流量制御器35,36、噴出ノズル37およびこれらの接続配管で、非励起ガス供給機が構成されている。処理基板31は、処理装置のチャンバー30内のステージ32上に設置される。例えば2種類のガス充填容器33,34内のガスがそれぞれ流量制御器35,36で流量が調節された後、混合され、噴出ノズル37から噴出されチャンバー30内に導入される。また、チャンバー30内のガスは、排気管38を通って排気ガス処理装置39で除害処理後、適宜排気される。
上記2種類のガスは、本発明のフッ素系化合物を含む物質をガス状態で使用する場合、一方が本発明のフッ素系化合物、他方が窒素ガス、あるいはアルゴン等の希ガスである。
【0058】
以上説明したように、本発明のインプリント用モールドの製造方法によれば、インプリント用モールドの製造において微細なモールドパターンを高いパターン精度で形成することができ、しかも基板をエッチング加工するために形成した薄膜パターンを最終的にモールドパターン(ガラスパターン)にダメージを与えないように除去することができる。
【実施例】
【0059】
以下、本発明を実施例により具体的に説明する。
(実施例1)
本実施例に使用するマスクブランクは、図1に示すような、透光性基板(ガラス基板)1上に、上層4と下層3の積層膜よりなる薄膜2を有する構造のものである。このマスクブランクは、以下のようにして作製される。
【0060】
ガラス基板として合成石英基板(大きさ約152mm×152mm×厚み6.35mm)をスパッタリング装置に導入し、タンタルとハフニウムの合金(Ta:Hf=80:20 原子%比)からなるターゲットをアルゴンガスでスパッタリングし、TaHf膜からなる下層3を7nmの厚みで成膜した。続いて、大気放置は行わず、クロムターゲットをアルゴンと窒素の混合ガスでスパッタリングし、CrN(Cr:N=35:65 原子%比)膜からなる上層4を2.5nmの厚みで成膜した。
こうして石英基板上にTaHf膜とCrN膜の積層膜を形成したマスクブランク10の上面に、電子線描画用のレジスト(PRL009:富士フィルムエレクトリニクスマテリアルズ社製)を50nmの厚みに塗布し、所定のベーク処理を行って、マスクブランク上にレジスト膜を形成した。
【0061】
次に、電子線描画機を用いて、上記マスクブランクのレジスト膜にハーフピッチ22nmのラインアンドスペースパターンを描画した後、レジスト膜を現像してレジストパターンを形成した。
次に、上記レジストパターンを形成したマスクブランクを、ドライエッチング装置に導入し、酸素を含まない塩素ガスを用いたドライエッチングを行うことにより、上記レジストパターンをマスクとして上層のCrN膜及び下層のTaHf膜を同時にエッチング加工して、前述の図2(b)に示すような上層パターンと下層パターンの積層膜パターンを形成した。この時のエッチング終点は、反射光学式の終点検出器を用いることで判別した。
【0062】
続いて、同じドライエッチング装置内で、フッ素系(CHF)ガスを用いたドライエッチングを行うことにより、上記積層膜パターンをマスクとしてガラス基板をエッチング加工することにより、所定のガラスパターンを形成した。この時、ガラスパターンの深さが70nmになるようエッチング時間を調整した。なお、このフッ素系ガスを用いたドライエッチングによって、上記レジストパターンは消失し、上層のCrNパターンが露出していたが、CrNパターンの膜厚はエッチング前よりも減少していた。
ここで、走査型電子顕微鏡(SEM)によるパターン検査を行ったところ、ガラスパターンの幅、深さの寸法、精度において良好なパターンが形成されていることを確認した。
【0063】
次に、上記ガラスパターンを形成したマスクブランク上にフォトレジスト(東京応化社製 iP3500)を460nmの厚さに塗布し、紫外光による露光と現像を行い、台座構造用のレジストパターンを形成した。
次に、上記台座構造用のレジストパターンを形成したマスクブランクについて、酸素を含まない塩素ガスを用いたドライエッチングにより、台座構造用のレジストパターンで保護されている部分以外のCrN上層膜およびTaHf下層膜を除去し、フッ化水素酸とフッ化アンモニウムの混合液(HF濃度4.6wt%、NHF濃度36.4wt%)でガラス基板にウェットエッチングを行い、さらに硫酸過水により台座構造用レジストパターンを除去することで、前述の図2(f)に示すような深さが例えば15μm程度の台座構造を作製した。
【0064】
次に、上述のガラスパターン上に残存する上層のCrN膜パターンを塩素ガスを用いたドライエッチングにより除去し、次いで、下層のTaHf膜パターンを除去するため、前述の図3に示す処理装置を用いた。すなわち、チャンバー内に上記台座構造を作製した状態の基板を設置し、該チャンバー内に、ClFとArの混合ガス(流量比 ClF:Ar=0.2:1.8(SLM))を導入してチャンバー内を該ガスで置換することにより、上述のガラスパターン上に残存する下層パターンを非励起状態の上記混合ガスに接触させるようにした。この時のガス圧力は488〜502Torr、処理基板の温度は195〜202℃に調節し、処理時間(エッチング時間)は60秒とした。
このようにして、ガラスパターン上に残った下層パターンの除去を行い、前述の図2(g)に示すような構造のインプリント用モールドを得た。
【0065】
得られたインプリント用モールドは、上記薄膜の上層のパターン及び下層のパターンのいずれも断面形状が垂直形状となり良好であり、且つこれらのパターンのパターン精度も良好であったため、ガラスパターンについても寸法、精度の良好なパターンが得られた。また、最後に下層パターンを除去した後のガラスパターンのダメージも発生しなかった。
【0066】
(実施例2)
本実施例は、本発明をDTRメディアの磁性材料を溝加工で除去するプロセスや、パターンドメディアの磁性パターン加工プロセスで使用するインプリントモールド(スタンパ)に適用する場合の実施例である。
本実施例におけるインプリントモールドでは、これに使用するマスクブランクとしては、透光性基板に直径150mm,厚み6.35mmの円板状の合成石英基板を適用した以外は前述の図1に示す実施例1で使用したものと同一の構造のマスクブランクを使用する。
【0067】
以下、2.5インチ(inch)のDTRメディアの溝加工プロセスで使用するインプリントモールドの作製手順について示す。
上記マスクブランク上に実施例1と同様のレジスト膜を形成し、外径65mm、内径20mmの同心円に囲まれたエリアを溝パターン形成エリアとし、外径65mmの円の外側エリア、および内径20mmの円の内側エリアにおける上記レジスト膜を電子線描画機で全面露光した。次に、溝パターン形成エリア内に、ライン幅40nm、スペース幅80nmの溝パターンを電子線描画機で露光した。次に露光したレジスト膜を現像処理およびリンス洗浄して、溝パターンを有するレジストパターンを形成した。なお、ここで作製するインプリントモールドは、DTRメディア上のレジスト膜に直接転写する転写プロセスで使用するタイプであり、最終的にDTRメディア上に形成される磁性記録面のパターンは、磁性層幅が80nm、溝幅(溝に非磁性体で埋める場合は非磁性層幅)が40nmであるピッチが120nmのトラックが形成されることになる。
【0068】
次に、上記レジストパターンを形成したマスクブランクを、ドライエッチング装置に導入し、酸素を含まない塩素ガスエッチングを行うことにより、上層のCrN膜及び下層のTaHf膜の積層膜からなるパターンを形成した。この時のエッチング終点は、反射光学式の終点検出器を用いることで判別した。
【0069】
続いて、同じドライエッチング装置内で、フッ素系(CHF)ガスを用いたドライエッチングを行うことにより、上記積層膜のパターンをマスクとして石英ガラス基板をエッチング加工して、石英ガラスパターンを形成した。この時、ガラスパターンの深さが100nmになるようエッチング時間を調整した。ここでパターンの断面形状を確認するため、上記と同様に作製した評価用のブランクを破断し、走査型電子顕微鏡によるパターン断面の観察を行ったところ、レジストパターンが消失し、積層膜パターンのうちの上層のCrN膜の表面が露出していた。そして、形成されたガラスパターンの幅が、上層のCrN膜と下層のTaHf膜の積層膜パターンの幅とほとんど同じであること、およびガラスパターンの深さが均一であることを確認した。
【0070】
次に、上記ガラスパターンを形成したブランク上に、実施例1と同様にしてフォトレジスト(東京応化社製 iP3500)を460nmの厚さに塗布し、外径65mmの円の外側エリアに対して紫外光による露光と現像を行い、台座構造用のレジストパターンを形成した。
次に、上記台座構造用レジストパターンを形成したブランクについて、酸素を含まない塩素ガスを用いたドライエッチングにより、台座構造用のレジストパターンで保護されている部分以外のCrN上層膜およびTaHf下層膜を除去し、フッ化水素酸とフッ化アンモニウムの混合液(HF濃度4.6wt%、NHF濃度36.4wt%)でガラス基板にウェットエッチングを行い、さらに硫酸過水により台座構造用レジストパターンを除去することで、深さが例えば15μm程度の台座構造を作製した。
【0071】
次に、上述のガラスパターン上に残存する上層のCrN膜パターンをドライエッチングによって除去した後、下層のTaHf膜パターンを除去するため、実施例1と同様、前述の図3に示す処理装置を用いた。すなわち、チャンバー内に上記台座構造を作製した状態の基板を設置し、該チャンバー内に、ClFとArの混合ガス(流量比 ClF:Ar=0.2:1.8(SLM))を導入した。この時のガス圧力、温度、処理時間については実施例1と同様に設定した。
このようにして、ガラスパターン上に残った下層パターンの除去を行い、DTRメディアの溝加工プロセスで使用するインプリント用モールドを得た。
【0072】
得られたインプリント用モールドは、上記薄膜の上層のパターン及び下層のパターンのいずれも断面形状が垂直形状となり良好であり、且つこれらのパターンのパターン精度も良好であったため、ガラスパターンについても寸法、精度の良好なパターンが得られた。また、最後に下層パターンを除去した後のガラスパターンのダメージも発生しなかった。また、このインプリント用モールドを、DTRメディア製造時の溝加工プロセスで適用したところ、溝加工されたDTRメディアはいずれも高い精度で溝が転写されており、非常に良好であった。
【0073】
また、同様の作製プロセスで、トラックピッチ83nmのDTRメディアを作製するためのインプリント用モールド(モールドのライン幅:25nm,溝幅:58nm)、トラックピッチ33nmのDTRメディアを作製するためのインプリント用モールド(モールドのライン幅:23nm,溝幅:10nm)を作製したところ、寸法、精度とも良好なパターンであった。さらに、このインプリント用モールドを、DTRメディア製造時のパターン加工プロセスで適用したところ、溝加工されたDTRメディアはいずれも高い精度で溝が転写されており、非常に良好であった。
【0074】
なお、同様の作製プロセスで、トラックピッチ25nmのパターンドメディアを作製するためのインプリント用モールド(モールドのライン幅:18nm,溝幅:7nm)、トラックピッチ33nmのパターンドメディアを作製するためのインプリント用モールド(モールドのライン幅:20nm,溝幅:6nm)を作製したところ、寸法、精度とも良好なパターンであった。また、このインプリント用モールドを、パターンドメディア製造時のパターン加工プロセスで適用したところ、溝加工されたパターンドメディアはいずれも高い精度で溝が転写されており、非常に良好であった。
【符号の説明】
【0075】
1 透光性基板
2 薄膜
3 下層
4 上層
5 レジストパターン
6 下層パターン
7 上層パターン
8 ガラスパターン(モールドパターン)
10 マスクブランク
11 レジストパターン
12 台座構造
20 インプリント用モールド
30 チャンバー
31 処理基板
32 ステージ
33,34 ガス充填容器
35,36 流量制御器
37 噴出ノズル
38 排気管
39 排気ガス処理装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透光性基板上にパターンを形成するための薄膜を有するマスクブランクを用いるインプリント用モールドの製造方法であって、
前記薄膜は、前記透光性基板の表面に接して形成されており、少なくとも上層および下層の積層膜からなり、
前記下層は、ハフニウム(Hf)およびジルコニウム(Zr)のうちの少なくとも一方の元素を含有する材料で形成され、
前記上層は、前記下層の酸化を抑制する材料で形成され、
前記薄膜をエッチング加工して前記薄膜のパターンを形成する工程と、
該薄膜のパターンをマスクとして前記透光性基板をエッチング加工してモールドパターンを形成する工程と、
該モールドパターンを形成した後、前記薄膜の下層を、塩素(Cl)、臭素(Br)、ヨウ素(I)、およびキセノン(Xe)のうちいずれかの元素とフッ素(F)との化合物を含む非励起状態の物質に接触させて除去する工程と、
を有することを特徴とするインプリント用モールドの製造方法。
【請求項2】
前記薄膜の上層は、クロム(Cr)を含有する材料で形成されていることを特徴とする請求項1に記載のインプリント用モールドの製造方法。
【請求項3】
前記薄膜の上層を形成する材料は、さらに窒素を含有することを特徴とする請求項2に記載のインプリント用モールドの製造方法。
【請求項4】
前記薄膜の下層を形成する材料は、さらにタンタルを含有することを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載のインプリント用モールドの製造方法。
【請求項5】
前記薄膜の下層を形成する材料は、酸素を実質的に含有しないことを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載のインプリント用モールドの製造方法。
【請求項6】
前記薄膜の上層の膜厚は、1.5nm以上3nm以下の範囲であることを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載のインプリント用モールドの製造方法。
【請求項7】
前記薄膜の下層の膜厚は、3nm以上10nm以下の範囲であることを特徴とする請求項1乃至6のいずれかに記載のインプリント用モールドの製造方法。
【請求項8】
前記薄膜のパターンを形成する工程は、酸素を実質的に含有しない塩素系ガスを用いたドライエッチングにより、前記薄膜をエッチング加工することを特徴とする請求項1乃至7のいずれかに記載のインプリント用モールドの製造方法。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−93455(P2012−93455A)
【公開日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−239064(P2010−239064)
【出願日】平成22年10月25日(2010.10.25)
【出願人】(000113263)HOYA株式会社 (3,820)
【Fターム(参考)】