説明

インペラ加工機

【課題】直交3軸と回転1軸を有する工作機械を用いてインペラを加工するインペラ加工機を提供すること。
【解決手段】符号32は縦型工作機械の主軸頭である。この縦型工作機械はX軸,Y軸として表される水平2軸とX軸,Y軸に垂直なZ軸の直線3軸の可動軸を有する。載置台36には傾斜台34が取り付けられており、回転テーブル20は傾斜台34に固定されている。回転テーブル20には、回転軸中心28を中心軸として回転する円盤22を備えている。回転軸中心28は水平軸であるX軸に対して傾斜している。円盤22にはワーク3を取り付けるアダプタ26がボルト24によって取り付けられている。そして、アダプタ26にはワーク3が取り付けられる。ワーク3は工具30によって切削されインペラが作成される。工具30としてはエンドミルカッタを用いることで、インペラのブレードの加工が可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、傾斜して固定された回転軸を有する4軸構成のインペラ加工機に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ターボ機器などに用いられるインペラは、高効率・高性能化が進み、形状の複雑化・多様化が進み、インペラのブレード(翼)の形状は三次元的にねじれた構造となっている。また、隣接するブレードが覆いかぶさっている。
【0003】
インペラ(羽根車)において、例えば、図1に図示されるメインブレードとスプリッタブレードを有するインペラ(以下、「第1インペラ」という)1と、図2に図示されるスプリッタブレードが無くメインブレードのみを有するインペラ2(以下、「第2インペラ」という)がある。第1インペラ1や第2インペラ2は、一体削り出し構造として成形される。そして、第1インペラ1のメインブレードやスプリッタブレード、第2インペラ2のメインブレードは、中心軸直角断面のいずれにおいても同一形状をなすように設計され、ハブ面10に等間隔で各ブレードが配置されている。
【0004】
第1インペラ1は、スプリッタブレード先端の前進角がα、メインブレードのすくい角がβである形状を有しており、第2インペラ2は、スプリッタブレード先端の前進角がαの形状を有している(図3〜図5参照)。図3は、メインブレード12のすくい角を説明する図である。すくい角βは、メインブレード12の腹の延長線17と基部平面16のなす角度である。図4は、スプリッタブレード先端の前進角とメインブレードのすくい角を説明する図である。図4(a)に示されるように、スプリッタブレード先端の前進角αは、スプリッタブレード14の先端の延長線18と基部平面16とのなす角度である。図4(b)は図3と同様にメインブレード12のすくい角βを説明する図である。図5は、スプリッタブレード先端の前進角αが、α≦0の場合を説明する図である。
【0005】
第1インペラ1や第2インペラ2を3軸加工機で加工しようとした場合、1方向からだけでは刃物の刃先が届かないアンダーカットの部分が存在する。このような形状のインペラを加工するには、刃先が届いて加工できる向きになるようにワークを傾けて加工する必要がある。例えば、スプリッタブレード先端を加工する際は、インペラを水平位置から角度α以上持ち上げる必要があり、またメインブレードのすくい面を加工するためには水平位置から角度β以上持ち上げ過ぎないようにワークを傾ける必要がある。このようなインペラを加工するには、従来はXYZ軸の直交3軸に加え、ワークを傾けるための回転軸(例えばC軸)及び傾斜軸(例えばB軸)を有する5軸加工機を使用している。
【0006】
5軸加工機は高価であり、これを使用することによって製品価格の上昇をまねき、あるいは、5軸加工機を有しない場合には3次元羽根の加工ができない。そこで、特許文献1に記載されている3軸制御マシニングセンタによる2面加工方法は、3軸制御マシニングセンタを用いて、ワークテーブル装置に取り付けられたワークの側面と正面の2面を加工する方法であって、前記ワークが取り付けられた第2テーブルを割出し回動させて、前記ワークの側面を順次加工する側面加工工程と、前記ワークテーブル装置が固定配置された第1テーブルをほぼ90°回動させて、前記ワークの正面を加工する正面加工工程とを含んでいる。このため、ワークを、第2テーブルに取り付けたまま、その側面と正面の2面を加工することが可能な加工技術が開示されている。
【0007】
また、特許文献2には、平面に対して羽根車の主板材料を任意の角度だけ傾けて、その方向を中心として回転割出し可能な治具に載置して工作機テーブル上に固定し、左右、前後、上下方向の3軸の位置を3軸制御装置によって制御して羽根車の主板または側板と羽根とを切削工具により削り出し一体成形する羽根車の加工技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2003−94264号公報
【特許文献2】特開昭61−109608号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
5軸加工機は高価であり設備投資及び加工製品価格が高くなる。また、前記特許文献1に開示される技術は、インデックステーブルを回転および傾斜させるための回転軸を2軸備える3軸制御マシニングセンタによる2面加工装置であり、装置の構成が複雑である。また、特許文献2に開示される技術は、回転割り出しが可能な治具を用いてテーブルを固定することによってX、Y、Z方向の3軸の位置を制御することのみにより羽根の加工を行うものであり、4軸制御によりインペラを加工するものではない。
そこで、本発明の目的は、直交3軸と回転1軸を有する工作機械を用いてインペラを加工するインペラ加工機を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本願の請求項1に係る発明は、直交3軸とワークを載置したテーブルを回転させる回転1軸を有し、該直交3軸と該回転軸1軸を駆動制御する数値制御装置とを有する加工機であって、該回転軸が前記直交3軸の水平軸に対し0度より大きく90度より小さい任意の角度θに傾斜して固定し、前記直交3軸と前記回転軸1軸を前記数値制御装置によって制御することによりインペラを加工することを特徴とするインペラ加工機である。
【0011】
請求項2に係る発明は、前記インペラ加工機で加工するインペラがメインブレードのみを有し、前記メインブレードのすくい角をβとした場合に、前記インペラ加工機の回転軸を傾斜して固定する角度θを0<θ≦βとすることを特徴とする請求項1に記載のインペラ加工機である。
【0012】
請求項3に係る発明は、前記インペラ加工機で加工するインペラがメインブレードとスプリッタブレードとを有し、前記スプリッタブレード先端の前進角をα、前記メインブレードのすくい角をβとした時に、αがβと同じ方向の角度(α>0)で、かつ、α≦βである場合に、前記インペラ加工機の回転軸を傾斜して固定する角度θをα≦θ≦βとすることを特徴とする請求項1に記載のインペラ加工機である。
請求項4に係る発明は、前記インペラ加工機で加工するインペラがメインブレードとスプリッタブレードとを有し、前記スプリッタブレード先端の前進角をα、前記メインブレードのすくい角をβとした時にα=0あるいはβとは反対方向の角度(α<0)である場合に、前記インペラ加工機の回転軸を傾斜して固定する角度θを0<θ≦βとすることを特徴とする請求項1に記載のインペラ加工機である。
【発明の効果】
【0013】
本発明により、直交3軸とワークを回転させる回転軸のみを有した4軸加工機によって、インペラを加工することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】メインブレードとスプリッタブレードとを有するインペラの例である。
【図2】スプリッタブレードが無くメインブレードのみ有するインペラの例である。
【図3】メインブレードのすくい角βを説明する図である。
【図4】スプリッタブレード先端の前進角αとメインブレードのすくい角βを説明する図である。
【図5】スプリッタブレード先端の前進角αが、α≦0の場合を説明する図である。
【図6】インペラ加工機の要部外観図である。
【図7】回転軸が傾斜して固定された状態と傾斜角θを説明する図である。
【図8】4軸加工機用数値制御装置の概略構成図である。
【図9】スプリッタブレードの加工を説明する図である。
【図10】メインブレードの加工を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態を図面と共に説明する。
図6は本発明であるインペラ加工機の実施形態の要部外観図である。この実施形態では、縦型工作機械を用いている。符号32は縦型工作機械の主軸頭である。この縦型工作機械はX軸,Y軸として表される水平2軸とX軸,Y軸に垂直なZ軸の直線3軸の可動軸を有する。載置台36には傾斜台34が取り付けられており、回転テーブル20は傾斜台34に固定されている。回転テーブル20には、回転軸中心28を中心軸として回転する円盤22を備えている。回転軸中心28は水平軸であるX軸に対して傾斜している。円盤22にはワーク3を取り付けるアダプタ26がボルト24によって取り付けられている。そして、アダプタ24にはワーク3が取り付けられる。ワーク3は工具30によって切削され第1,第2インペラ1,2が作成される。工具30としてはエンドミルカッタを用いることで、インペラのブレードの加工が可能である。なお、縦型工作機械に替えて横型工作機械を用いてインペラ加工機を構成してもよい。
【0016】
図7は図6で説明した実施形態の側面図であり、回転軸が傾斜して固定された状態と傾斜角θを説明する図である。回転テーブル20は傾斜台34に固定されている。回転テーブル20の円盤22の回転軸中心28は、水平軸の1つであるX軸に対して傾斜角θだけ傾斜している。アダプタ26が取り付けられた円盤22は回転軸中心28を中心軸として回転する。アダプタ26の一端部にはワーク3が取り付けられる。
【0017】
図8は、4軸加工機用数値制御装置の概略構成図である。CPU41は数値制御装置100を全体的に制御するプロセッサである。CPU41は、メモリ42のROM領域に格納されたシステムプログラムをバス58を介して読み出し、該システムプログラムに従って数値制御装置全体を制御する。メモリ42のRAM領域には一時的な計算データや表示データ及び表示器/MDIユニット59を介してオペレータが入力した各種データが格納される。また、メモリ42のSRAMなどで構成される不揮発性メモリ領域には、インタフェース43を介して読み込まれた加工プログラムや表示器/MDIユニット59を介して入力された加工プログラム等が記憶される。
【0018】
インタフェース43は、数値制御装置100とアダプタ等の外部機器(図示せず)との接続を可能とするものである。図示しない外部機器からは加工プログラムや各種パラメータ等が読み込まれる。また、数値制御装置100内で編集した加工プログラムは、外部機器(図示せず)を介して外部記憶手段に記憶させることができる。PMC(プログラマブル・マシン・コントローラ)44は、数値制御装置100に内蔵されたシーケンスプログラムで工作機械の補助装置にI/Oユニットを介して信号を出力し制御する。また、工作機械本体に配備された操作盤の各種スイッチ等の信号を受け、必要な信号処理をした後、CPU41に渡す。
【0019】
表示器/MDIユニット59はディスプレイやキーボード等を備えた手動データ入力装置であり、インタフェース46は表示器/MDIユニット59のキーボードからの指令、データを受けてCPU41に渡す。インタフェース47は手動パルス発生器等を備えた操作盤60に接続されている。
【0020】
各軸の軸制御回路48,50,52,54はCPU41からの各軸の移動指令量を受けて、各軸の指令をサーボアンプ49,51,53,55に出力する。サーボアンプ49,51,53,55はこの指令を受けて、各軸のサーボモータ61〜64を駆動する。各軸は位置・速度のフィードバック制御を行う(図8ではこの構成は省略している)。
【0021】
サーボモータ61〜64は、工作機械のX,Y,Z,C軸を駆動するもので、図6に示した4軸加工機械を駆動制御するものである。また、スピンドル制御回路56は主軸回転指令を受け、スピンドルアンプ57にスピンドル速度信号を出力する。スピンドルアンプ57はスピンドル速度信号を受けて、主軸モータ65を指令された回転速度で回転させる。
4軸加工機用数値制御装置100は、工具である刃物をX、Y、Zの3軸移動させると同時に、回転軸でワーク3を回転させ、4軸制御によりインペラの翼面全体を加工する。加工プログラムは、4軸指令のプログラムを用いる。
【0022】
図9は、スプリッタブレードの加工を説明する図である。回転軸の持ち上げ角度がα以下であるとスプリッタブレード先端にアンダーカットができ加工できない部分が生じるが、回転軸をα以上持ち上げると(α≦θ)スプリッタブレード先端を加工できる。
インペラには図4に示されるように、スプリッタブレード先端の前進角αよりもメインブレードのすくい角βが大きい(α≦β)インペラが存在する。この場合、インペラを水平位置からα≦θ≦βとなる角度θだけ持ち上げて固定しても、スプリッタブレード先端及びメインブレードのすくい面のどちらも加工することができる。
【0023】
また図3のメインブレードのみを有するインペラや、図5のようにスプリッタブレード先端の前進角αが0またはαがメインブレードのすくい角βとは反対方向の角度(α)のインペラの場合、インペラを水平位置から0<θ≦βとなる角度θだけ持ち上げて固定しても、スプリッタブレード先端及びメインブレードのすくい面のどちらも加工することができる。
【0024】
なお、図10は、メインブレードの加工を説明する図である。回転軸の持ち上げ角度がβ以下(θ≦β)でメインブレードの翼面を加工できるが、βより大きく持ち上げるとアンダーカットとなり加工できない部分が生じる。
【符号の説明】
【0025】
1 第1インペラ
2 第2インペラ
3 ワーク
10 ハブ面
12 メインブレード
14 スプリッタブレード
16 基部平面
17 延長線
18 延長線
19 インペラ中心軸
20 回転テーブル
22 円盤
24 ボルト
26 アダプタ
28 回転軸中心
30 工具
32 主軸頭
34 傾斜台
36 載置台
100 4軸加工機用数値制御装置
α 前進角
β すくい角
θ 傾斜角

【特許請求の範囲】
【請求項1】
直交3軸とワークを載置したテーブルを回転させる回転1軸を有し、該直交3軸と該回転軸1軸を駆動制御する数値制御装置とを有する加工機であって、
該回転軸を前記直交3軸の水平軸に対し0度より大きく90度より小さい任意の角度θに傾斜して固定し、
前記直交3軸と前記回転軸1軸を前記数値制御装置によって制御することによりインペラを加工することを特徴とするインペラ加工機。
【請求項2】
前記インペラ加工機で加工するインペラがメインブレードのみを有し、前記メインブレードのすくい角をβとした場合に、前記インペラ加工機の回転軸を傾斜して固定する角度θを0<θ≦βとすることを特徴とする請求項1に記載のインペラ加工機。
【請求項3】
前記インペラ加工機で加工するインペラがメインブレードとスプリッタブレードとを有し、前記スプリッタブレード先端の前進角をα、前記メインブレードのすくい角をβとした時に、αがβと同じ方向の角度(α>0)で、かつ、α≦βである場合に、前記インペラ加工機の回転軸を傾斜して固定する角度θをα≦θ≦βとすることを特徴とする請求項1に記載のインペラ加工機。
【請求項4】
前記インペラ加工機で加工するインペラがメインブレードとスプリッタブレードとを有し、前記スプリッタブレード先端の前進角をα、前記メインブレードのすくい角をβとした時にα=0あるいはβとは反対方向の角度(α<0)である場合に、前記インペラ加工機の回転軸を傾斜して固定する角度θを0<θ≦βとすることを特徴とする請求項1に記載のインペラ加工機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−269417(P2010−269417A)
【公開日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−124169(P2009−124169)
【出願日】平成21年5月22日(2009.5.22)
【出願人】(390008235)ファナック株式会社 (1,110)
【Fターム(参考)】