説明

ウェット処理装置

【課題】 薬液の使用を必要とせず、設備費用、環境負荷などが少なく、被洗浄物の電気的特性が限定されず、被洗浄物に付着する除去対象物質を除去する能力、すなわち洗浄性能および洗浄速度の高いウェット処理装置を提供する。
【解決手段】 洗浄活性種を含む洗浄液を基板4の被洗浄面4aに吐出するノズル2と基板4を矢符25の方向に搬送する搬送手段3とを含むウェット処理装置1において、純水受入れ口から供給される純水を電気分解して洗浄活性種を生成させる電界印加手段をノズル2内に設け、該電界印加手段により、陽極で生成する洗浄活性種を含む陽極洗浄液と、陰極で生成する洗浄活性種を含む陰極洗浄水とを調製し、ノズル2の下面に設けられる複数の開口部から別々に被洗浄面4aに向けて吐出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウェット処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、半導体用シリコン基板、液晶用ガラス基板などの洗浄には、RCA洗浄法が採用される。RCA洗浄法は、ベースになる、過酸化水素の高濃度水溶液中に、さらに硫酸、塩酸などの酸またはアンモニアなどのアルカリを高濃度で添加溶解し、高温に加熱した濃厚薬液に基板を浸漬することにより、基板に付着するパーティクル、有機物、金属、酸化膜などの除去対象物質を除去する方法である。この方法では、除去対象物質の除去後に、基板に付着する薬液を洗い流すために用いるリンス水の排水が発生する。この排水の中には、薬液中に含まれる酸、アルカリ、基板表面から除去される汚染物などが含まれる。また、RCA洗浄法を実行する洗浄装置中では、揮発成分、酸性ガスなどが発生する。これらはそのまま外部環境に廃棄できないので、これらを処理するための設備が必要になる。さらに、リンス水の排水は大量に発生するので、処理設備は大規模なものになる。このような設備は、排水などの処理および保守点検に費用を要する。
【0003】
最近では、半導体ウェハおよび液晶パネルのマザー基板の大型化が進み、それにともなってリンス水の排水の発生量が著しく増加し、これに関わる処理費用の高騰および環境負荷の増大が問題となっている。その一方で、半導体および液晶における回路のデザインルールは微細化の一途をたどり、半導体においては0.1μm以下のレベル、液晶においてもサブミクロンレベルまで実用化がなされている。回路のデザインルールが微細化されている半導体および液晶において、その歩留りを向上させるには、洗浄工程における洗浄力の向上が必要とされる。
【0004】
さらに、高圧の水を基板の被洗浄面に吐出し、物理的な力によって被洗浄面に付着する種々の除去対象物質を除去することも実施される。しかしながら、その洗浄力は充分満足できるものではなく、さらなる向上が望まれる。
【0005】
このような従来技術の問題点を解決する手段として、水分子を構成する酸素原子および水素原子から導かれる洗浄活性種を用いる方法が挙げられる。この方法は、洗浄水中で洗浄活性種を発生させ、洗浄活性種を含む洗浄水を基板の被洗浄面に吐出して、基板の洗浄を実施するものである。酸素原子および水素原子から導かれる洗浄活性種としては、水素ラジカル、酸素ラジカル(原子状酸素)、水酸基ラジカル、スーパーオキサイドラジカルなどが挙げられる。これらのラジカルの特徴は、反応性が非常に高いことである。すなわち、ラジカル同士が瞬時に反応し、水、水素、酸素などに変化するため、環境への負荷がほとんどない。また、反応性が非常に高いことから、10ppm程度の濃度でも充分な洗浄力を有する。さらに、このようなラジカルは、主に、水を電気分解することによって得られるので、薬液を使用する必要がなく、特別な処理を要する排水および有害ガスが発生せず、これらを処理する設備を要しない。したがって、洗浄活性種を用いる方法は、全般的に、クリーンでかつコストが低いという利点を有する。
【0006】
酸素原子および水素原子から導かれるラジカル種を利用する洗浄技術は、種々提案されている(たとえば、特許文献1参照)。図7は、特許文献1の基板洗浄装置100の構成を概略的に示す断面図である。洗浄装置100は、円筒体101と、円筒体101の内部に設けられる電解イオン発生部102および超音波印加手段103と、洗浄液吐出手段104とを含んで構成される。電解イオン発生部102は、純水中にラジカルおよびイオンを含む洗浄水を生成させるものであり、電解イオン発生部102を2つの区画、すなわち第1空間106と第2空間107とに2分するHイオン交換膜105と、純水を貯留する第1、第2空間106,107と、Hイオン交換膜105の第1空間106側の面に密着するように設けられる第1電極108と、Hイオン交換膜105の第2空間107側の面に密着するように設けられる第2電極109と、円筒体101の外部から円筒体101の上部101aを貫いて第1、第2空間106,107に接続され、純水を供給する送液管110と、円筒体101の外部から円筒体101の側部101bを貫いて第1空間106に接続され、電気分解後の純水を円筒体101の外部に排出する排液管111と、第1電極108に電気的に接続され、正の電圧を印加するプラス電極112と、第2電極109に電気的に接続され、負の電圧を印加するマイナス電極113とを含んで形成される。超音波印加手段103は、電解イオン発生部102において得られる、ラジカルおよび/またはイオンを含む洗浄水に超音波を印加してラジカル濃度を増加させる超音波発生手段103と、円筒体101の外部から超音波発生手段103に電気的に接続され、超音波発生手段103に電圧を印加する給電ケーブル115とを含んで構成される。洗浄液吐出手段104は、円筒体101の内部から外方に向けて突出するように形成され、洗浄液116を外方へ向けて吐出するノズル117を含んで構成される。
【0007】
洗浄装置100によれば、まず、送液管110から第1、第2空間106,107に純水が供給され、それとともに、第1電極108にはプラス電極112から正の電圧が、第2電極109にはマイナス電極113から負の電圧がそれぞれ印加され、第1、第2空間106,107において電気分解が起こる。第1空間106では不図示の水酸基ラジカルが発生し、第2空間107では不図示の水素ラジカルが発生する。水素ラジカルは非常に反応性に富み、純水中で他の水素ラジカルと反応して安定な水素ガスとなって純水中に溶存するので、水素水が得られる。第2空間107で生成する水素水は矢符118の方向に流過し、超音波印加手段103から超音波の印加を受ける。水素水中の水素は超音波の印加により再び水素ラジカルとなり、ノズル117から吐出される。その一方で、第1空間106で生成する、水酸基ラジカルを含む純水は排液管111から外部に排出される。
【0008】
しかしながら、超音波により水素ラジカルに変換されるのは、水素水の水素濃度が1.2ppmである場合、水素濃度の1/10程度に過ぎない。この水素ラジカル濃度では、充分な洗浄能力を有しない。さらに、大気圧下での水に対する水素の飽和溶解濃度は1.6ppm程度であること、水素水中の水素濃度を高くすると、超音波の伝播効率が悪くなり、水素ラジカル濃度が低下することなどを加味すると、水素水に超音波を印加して用いる洗浄方法では、洗浄能力に限界がある。
【0009】
さらに、特許文献1においては、基板洗浄装置100を、そのノズル117が基板の被洗浄面に対して鉛直方向の真上から洗浄液を吐出するように配置する。その結果、吐出される洗浄液は被洗浄面に滞留し、被洗浄面から除去できないので、新たに供給される、水素ラジカルを多く含む洗浄液が被洗浄面に付着する汚染物に直に接する割合が減少し、洗浄効率が低下する。
【0010】
また、純水から水素および酸素を発生させる水電解セルにおいて、陰極側給電体にシリコン基板を用い、純水の電気分解の際に発生する水素ラジカルにより基板の被洗浄面を水素終端化(不活性化)し、被洗浄面に自然酸化膜が形成されるのを防止する方法が提案される(たとえば、特許文献2参照)。図8は、特許文献2において用いる水電解セル120の構成を概略的に示す側面図である。水電解セル120は、水電解セル120を陽極122と陰極123とに分離する隔膜である固体電解質膜121と、固体電解質膜121の一方の面に接するように設けられる陽極側電極124、陽極側電極124に接するように設けられる陽極側給電体125および純水の供給を受ける陽極室126からなる陽極122と、固体電解質膜121の他方の面に接するように設けられる陰極側電極127、陰極側電極127に接するように設けられる陰極側給電体であるシリコン基板128および陰極室129からなる陰極123とを含んで構成される。このうち、固体電解質膜121、陽極側電極124および陰極側電極127はいずれも通水性材料によって構成される。この3部材は、純水のイオン解離を促進する通水性の触媒部材130として作用する。また、陽極側給電体125および陰極側給電体128は電気的に接続され、それぞれ、正の電圧および負の電圧が印加される。この水電解セル120では、陽極室126に純水を供給しながら、陽極側給電体125および陰極側給電体128に正および負の電圧を印加すると、触媒部材130内に純水の流れが生じ、陽極側電極124の表面では酸素と水素イオンとが発生し、水素イオンは触媒部材130内を流過して陰極側電極127とシリコン基板128との界面に達して電子の授受をうけ、陰極側電極127とシリコン基板128との隙間127aから水素ガスが発生する。そして、水素イオンが電子を与えられる際に、水素ガスとともに水素ラジカルが生成し、この水素ラジカルの作用により、シリコン基板128の表面が終端化される。
【0011】
この方法は、シリコン基板128表面を不活性化することを目的とするものであり、各種基板の洗浄を行おうとするものではないけれども、基板の洗浄に用いると仮定すると、特許文献1の方法に比べて100倍以上の洗浄能力を有すると考えられる。なぜならば、この方法では、水中での溶解性が水素よりも100倍以上高い水素イオンを原料として水素ラジカルを発生させるので、特許文献1の方法のように水素水から水素ラジカルを発生させる場合に比べて、理論上、水素ラジカルを100倍以上の濃度で生成させることができるからである。しかしながら、この方法においては、給電体の一方が被洗浄物で構成されるため、被洗浄物が金属の場合には有用であるけれども、被洗浄物が半導体基板、液晶パネルなどの場合には、被洗浄物が電気的に破壊されてしまうといった問題がある。
【0012】
また、この方法では、被洗浄物が導電体かまたは半導体であることが必要であるけれども、基板の被洗浄面に付着するパーティクル、レジスト残渣などの有機物の中には非導電性のものがあり、半導体および液晶パネルの製造工程における基板は必ずしも導電体または半導体ではなく、さらには、半導体基板の電極部分には、フォトリソグラフィーにより金属、半導体、絶縁体などが複雑に入り混じったパターンが形成されるので、これらを洗浄するのは困難である。
【0013】
さらに、気相中で生成させるラジカルなどの洗浄活性種を、基板などの被洗浄面に供給して被洗浄面のエッチング、被洗浄面に付着する有機物除去などを行うエッチング装置が開示される(たとえば、特許文献3参照)。この装置は、気相として酸素、窒素、ヘリウム、ネオンなどのエッチングガスを使用し、エッチングガスをプラズマ室に充填し、これに直流、交流またはパルス状電界を印加してアーク放電、グロー放電などを起こし、プラズマ状態を現出させ、プラズマ状態のエッチングガス中での電子と原子の衝突などにより発生するラジカル化またはイオン化した活性な原子を用いて、金属膜、絶縁膜などのエッチング、これらの膜の表面に付着する有機物の除去などを行うものである。しかしながら、ラジカルなどの洗浄活性種の発生過程が、特許文献1および2の電気化学反応とは大きく異なるので、洗浄活性種の挙動にも大きな違いがあり、同様の作用を示すわけではない。
【0014】
また、エッチングを行うと、レジストと反応して不揮発油分が生成し、レジスト剥離、アッシングなどを行うと不揮発油分が残留する。このため、半導体基板の洗浄工程として許容される水準まで洗浄を行うには、別途、洗浄液を用いるウェット処理を行う必要がある。また、この装置では、洗浄活性種を含むエッチングガスを被洗浄物に吹き付けることによりエッチングなどを行うけれども、このようなエッチングガスの密度は液体に比べて著しく低いため、直径100μm以下の比較的小さな微粒子を除去できない。したがって、この装置を用いてプラズマエッチングまたはプラズマ洗浄を行う場合は、ウェット処理による洗浄、剥離工程などが必要である。一方、純水をプラズマ媒体とする場合には、純水に数百ボルト以上の高電圧を印加しなければ電気化学反応は起こらない。加えて、この装置のように、気相中でプラズマを生成させる装置では、電界を印加するためのノズルの電極表面に絶縁処理を施されるので、印加電圧を高めても電気化学反応が起こらない。
【0015】
【特許文献1】特開平10−128249号公報
【特許文献2】特開平9−186133号公報
【特許文献3】特開昭59−151428号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明の目的は、設備費用、環境負荷などを低減することができ、被洗浄物の電気的特性が限定されず、被洗浄物に付着する除去対象物質を剥離除去する能力の高いウェット処理装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明は、被洗浄物の被洗浄面に対向して配置されるノズルから洗浄液を供給して被洗浄面を洗浄するウェット処理装置において、
被洗浄面に向けて洗浄液を吐出する少なくとも2つの開口部を有するノズルと、
ノズル内部の流体流路内に配置され、流体を電気分解して洗浄活性種を発生させる電界印加手段とを含み、
電界印加手段が、
少なくとも一対の陽極と陰極とからなる電極と、
前記陽極と陰極との間に配置され、流体の電気分解を促進する触媒層と
触媒層の内部に配置され、触媒層の陽極側と陰極側とを絶縁する絶縁体層とを含み、
電極に電圧を印加することにより、陽極および陰極と触媒層との間を流過する流体を電気分解して洗浄活性種を生成させ、陽極と触媒層との間で生成する洗浄活性種を含む流体である陽極洗浄液と、陰極と触媒層との間で生成する洗浄活性種を含む流体である陰極洗浄液とを、異なる開口部からそれぞれ吐出することを特徴とするウェット処理装置である。
【0018】
また本発明のウェット処理装置は、電界印加手段が、
少なくとも一対の陽極と陰極とからなる電極と、
前記陽極と陰極との間に配置され、流体の電気分解を促進する触媒層と
触媒層の内部に配置され、参照電極として機能する導電体層とを含むことを特徴とする。
【0019】
さらに本発明のウェット処理装置は、被洗浄物を搬送する搬送手段を含むことを特徴とする。
【0020】
さらに本発明のウェット処理装置は、開口部から吐出される洗浄液の軌跡と、被洗浄物の被洗浄面とが成す角の角度が90°未満であることを特徴とする。
【0021】
さらに本発明のウェット処理装置は、一方の開口部から吐出される陽極洗浄水の軌跡と被洗浄面との成す角の角度と、他方の開口部から吐出される陰極洗浄水の軌跡と被洗浄面との成す角の角度とが異なることを特徴とする。
【0022】
さらに本発明のウェット処理装置は、流体が水を含むことを特徴とする。
さらに本発明のウェット処理装置は、洗浄活性種が水素および/または酸素を含むラジカルであることを特徴とする。
【0023】
さらに本発明のウェット処理装置は、触媒層が酸性カチオン交換能または塩基性アニオン交換能を有するイオン交換物質を含むことを特徴とする。
【0024】
さらに本発明のウェット処理装置は、陽極および陰極が金、白金、炭素、チタン、パラジウムおよびニッケルから選ばれる1種または2種以上の材料を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、被洗浄物の被洗浄面に対向して配置され、少なくとも2つの開口部を有し、該開口部から洗浄液を吐出して被洗浄物を洗浄するノズルを含むウェット処理装置において、陽極と陰極とからなる電極と、陽極と陰極との間に配置される触媒層と、触媒層の内部に配置される絶縁体層とを含み、流体を電気分解して洗浄活性種を生成させる電界印加手段をノズル内部の流体流路に設け、陽極−触媒層間および陰極−触媒層間で流体から洗浄活性種を生成させ、陽極−触媒層間で生成する洗浄活性種を含む流体である陽極洗浄液と、陰極−触媒層間で生成する洗浄活性種を含む流体である陰極洗浄液とを、それぞれ別個の、異なる開口部から吐出する構成を採るウェット処理装置が提供される。
【0026】
本発明のウェット処理装置は、ノズル内に洗浄活性種を生成させるための電界印加手段を設けかつノズルの開口部を被洗浄面近傍に位置させることができるので、洗浄活性種の生成から被洗浄面への供給までが瞬時に行われる。また、陽極洗浄液および陰極洗浄液を混合することなく、異なる開口部から噴射するので、陽極および陰極で生成する洗浄活性種が互いに反応して消失するのを防止できる。したがって、本発明のウェット処理装置から供給される洗浄液は、微粒子由来のパーティクル、レジスト残渣などの有機物といった除去対象物質の除去に有効な洗浄活性種を高濃度で含有するので、高い洗浄能力および洗浄速度が得られる。
【0027】
本発明のウェット処理装置において、流体として水、好ましくは純水を用いる場合には、水を電気分解することにより洗浄活性種を含む洗浄液を調製するので、特別な薬液を使用する必要がない。したがって、薬液に掛かるコスト、洗浄後の排液、排ガスを処理する設備などを必要とせず、環境負荷も非常に小さい。さらに、本発明のウェット処理装置は、被洗浄物の電気的特性を問わず、被洗浄物が導電体、半導体または絶縁体のいずれであっても、電気的に破壊することがない。
【0028】
また本発明によれば、電界印加手段において、絶縁体層に代えて導電体層を設け、導電体層に電圧を印加して参照電極として用いることによって、より低い電圧で流体の電気分解を実施することが可能になり、消費電力の低減化を図り得る。
【0029】
また本発明によれば、本発明のウェット処理装置において、被洗浄物を搬送する搬送手段を設けることによって、被洗浄物を枚葉方式により連続的に洗浄することができ、被洗浄物が、たとえば、1辺1mまたはそれ以上の大型物(大型基板など)であっても、速やかに効率良く洗浄を実施できる。
【0030】
また本発明によれば、開口部から吐出される洗浄液の軌跡と被洗浄面とのなす角の角度θ1を90°未満にすることによって、洗浄液が被洗浄面上で滞留するのを防止する。したがって、除去対象物質との反応によって洗浄活性種が消失した洗浄液は、被洗浄面に滞留することなく、被洗浄面の外に排出されるので、洗浄効率がさらに向上する。なお、角度θ1は、詳しくは、被洗浄物の搬送方向の下流側から上流側に向かって延びる洗浄液の軌跡と、被洗浄面とのなす角である。
【0031】
また本発明によれば、一方の開口部から吐出される陽極洗浄水の軌跡と被洗浄面との成す角の角度と、他方の開口部から吐出される陰極洗浄水の軌跡と被洗浄面との成す角の角度とが異なるように設定することによって、被洗浄面上での洗浄液の滞留が一層防止される。特に、被洗浄物の搬送方向における下流側の洗浄液の軌跡と被洗浄面との成す角を、上流側の洗浄液の軌跡と被洗浄面とが成す角よりも、大きくすることによって、洗浄液の滞留をさらに防止できる。
【0032】
また本発明によれば、流体として、水または水を含む流体を用いることによって、除去対象物質の除去に有効な洗浄活性種を高濃度で含む洗浄液を得ることができる。
【0033】
また本発明によれば、洗浄活性種としては、水素および/または酸素を含むラジカルが除去対象物質の除去能力が高いので好ましい。
【0034】
また本発明によれば、触媒層を構成する材料として、酸性カチオン交換能または塩基性アニオン交換能を有するイオン交換物質を用いることによって、洗浄活性種の生成量を一層増加させ、洗浄能力および洗浄速度を一層高めることができる。
【0035】
また本発明によれば、陽極および陰極を構成する材料として、金、白金、炭素、チタン、パラジウムおよびニッケルから選ばれる1種または2種以上を用いることによって、流体、特に純水の電気分解率が向上し、洗浄活性種の生成量を増加させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0036】
図1は、本発明の実施の第1形態であるウェット処理装置1の構成を模式的に示す斜視図である。図2(a)は、図1に示すウェット処理装置1におけるノズル2の構成を概略的に示す、矢符26の方向から見た断面図である。図2(b)は、図1に示すウェット処理装置1におけるノズル2の構成を概略的に示す、切断面線X−Xの方向から見た断面図である。
【0037】
ウェット処理装置1は、枚葉方式で基板4を洗浄する装置であり、洗浄活性種を含む洗浄液24a,24bを基板4の被洗浄面4aに吐出するノズル2と、基板4を載置し、矢符25の方向に搬送する搬送手段3とを含んで構成される。
【0038】
すなわちウェット処理装置1は、純水受入れ口21からノズル2内に供給される純水を、ノズル2内に設けられるラジカル生成手段である電界印加手段7により、図示しない水素ラジカル、水酸基ラジカル、酸素ラジカルなどの洗浄活性種を含む純水である洗浄液24a,24bを調製し、この洗浄液24a,24bをそれぞれ開口部18a,18bから、矢符25の方向への搬送下にある被洗浄物(基板4)の被洗浄面4aに吐出し、被洗浄面4a上の除去対象物質を洗浄液により取り除いて洗浄を行う装置である。なお、電界印加手段は図に示す構成に限定されず、洗浄活性種を生成させ得るものであればよく、たとえば、洗浄活性種を生成させ得る単一の物体または2種以上の物体からなる複合体を包含する。
【0039】
本発明において洗浄対象になる被洗浄物は、図1において基板4として示される。被洗浄物の表面の一部または全面には、除去対象物質が付着、被覆、固着または堆積する。すなわち、本発明では、特許文献2のような、被洗浄物を給電体として用いる従来技術ではなし得ない、非導電体の洗浄をも行うことができ、しかも被洗浄物が導電体であっても、洗浄中に電気的破壊が生じることなく、効率的かつ安定的に短時間で洗浄を実施できる。被洗浄物の具体例としては、たとえば、半導体用シリコン基板、液晶用ガラス基板などが挙げられる。なお、被洗浄物は、本発明のウェット処理装置1において、ノズル2に対向してラジカル供給が可能な位置に配置される。ラジカル供給が可能な位置とは、洗浄に有効な洗浄活性種量を含む洗浄液を、洗浄に有効な供給速度で、ノズル2から被洗浄物への洗浄液の供給または送達が可能になるような、ノズル2および被洗浄物の位置である。
【0040】
洗浄とは、洗浄液などの流体中において、基板4の被洗浄面4a上に存在する除去対象物質を除去または溶解あるいは剥離または分解し、被洗浄面4aを清浄化することである。また、流体中において被洗浄面4a上の除去対象物質の1つである微粒子(パーティクル)を除去することをも包含する。
【0041】
流体とは、液状物または液体と気体とが共存する形態のものである。本発明で用いられる流体は、それ自体がラジカル発生種であるか、またはラジカル発生種を含む。流体としては純水が好ましく、超純水がさらに好ましい。本発明で使用する純水および超純水は、紫外線照射で微生物類を滅菌し、メンブランフィルタで有機物および無機物を極限まで除去することにより得られる精製水である。そして、比抵抗値が10MΩ・cm以下の精製水を純水、比抵抗値が10MΩ・cmを超え、18.3MΩ・cmまでの精製水を超純水という。純水または超純水を用いることにより、液晶パネル、半導体の製造工程などの、清浄な環境を必要とする精密洗浄分野において、特に効果を発揮する。なお、純水純度が低下すると、ラジカルなどの洗浄活性種の生成効率が低下するので、純水純度の指標になる比抵抗値が1MΩ・cm以上の精製水が純水として好ましい。
【0042】
また、除去対象物質とは、従来から半導体用シリコン基板、液晶用ガラス基板の洗浄の分野で除去対象になる有機物および無機物であって、純水中に生成する洗浄活性種によって除去または溶解あるいは剥離または分解が可能な物質である。また、除去対象物質は、液体、ゲル状物、粘着物、固形物などのいずれの形態であってもよい。有機物の具体例としては、たとえば、レジスト残渣、その他の有機物由来の付着汚染物などが挙げられる。無機物の具体例としては、たとえば、金属、金属酸化物、その他の無機物を含む微粒子(パーティクル)などが挙げられる。
【0043】
次に、ウェット処理装置1を構成する各部位について具体的に説明する。
ノズル2は、洗浄活性種を含む流体である洗浄液24a,24bを生成させるノズル本体5と、洗浄液24a,24bを基板4の被洗浄面4aに吐出する開口部18a,18bを有するノズル蓋6とを含んで構成される。ノズル2は、その開口部18aまたは開口部18bと基板4の被洗浄面4aとの距離が一定になるように設置されるのが好ましい。これによって、被洗浄面4aの全面にわたって均一に洗浄を実施することができる。
【0044】
ノズル本体5は、図示しない純水供給手段から供給される純水を受け入れるための純水受入れ口21と、純水受入れ口21の直下に位置するように設けられ、ノズル本体5内部で純水の流路を2分する断面が三角形状(好ましくは二等辺三角形状)の分流器17と、分流器17に対向して純水流路の下流側に設けられる電界印加手段7と、ノズル本体5の外部側壁において、純水受入れ口21近傍に設けられる端子19,20とを含んで構成される。
【0045】
純水受入れ口21に接続して設けられる図示しない純水供給手段は、たとえば、純水受入れ口に接続される第1の耐圧配管と、第1の耐圧配管に接続されて純水を加圧する加圧ポンプと、純水を貯留する純水貯留槽と、加圧ポンプと純水貯留槽とを接続する第2の耐圧配管とを含んで構成される。純水貯留槽内の純水は、第2の耐圧配管を流過して加圧ポンプ内に流入し、ここで加圧された後、第1の耐圧配管を流過して純水受入れ口21からノズル2内に流入する。
【0046】
分流器17は、ノズル2内に流入する純水を複数の流過路に分流する。分流器17により分流される純水は、電界印加手段7内を流過して電気分解を受ける。
【0047】
電界印加手段7は、ノズル2の短手方向における一方の内側面に配置される陰極8と、ノズル2の短手方向における他方の内側面に配置される陽極11と、断面が逆U字型であって、ノズル蓋6に臨む面が開放される触媒層14と、触媒層14の内部に内包されるように設けられる絶縁体層15とを含んで構成される。陰極8および陽極11と触媒層14とは互いに離隔するように設けられ、陰極8と触媒層14との間および陽極11と触媒層14との間を、分流器17によって分流される純水が流過し、その際に、陰極8および陽極11に印加される電圧によって電気分解を受け、洗浄活性種が発生する。なお、陰極8、陽極11、触媒層14および絶縁体層15はいずれもノズル2の長手方向に延びる。また、触媒層14は、逆U字型の頂部が分流器17を臨み、一方の側部が陰極8および他方の側部が陽極11をそれぞれ臨むように配置される。
【0048】
図3は、陰極8の構成を模式的に示す斜視図である。図中、矢符28の方向が、分流器17によって分流される純水の流過方向である。図4は、電界印加手段7における、陰極8、触媒層14および絶縁体層15の位置関係を示す、分流器17の方向から見た上面図である。図中、紙面に対して上から下への垂直方向が純水の流過方向である。
【0049】
陰極8の触媒層14に対向する面には、凸部9と凹部10とが交互に規則的に形成される。純水は、主に、凹部10内を矢符28の方向に流過し、電気分解を受ける。凸部9の表面9aおよび凹部の表面10aには絶縁膜が形成され、凹部10の表面10a以外の表面10bでは、陰極8が露出状態にある。このように、陰極8のうち、洗浄液24a,24bを吐出する開口部18a,18bひいては被洗浄物である基板4に最も近い位置にある表面10bのみで電極部分を露出させることによって、電気分解から洗浄液24a,24bが基板4の被洗浄面4aに到達するまでの時間を短縮し、電気分解により生成する洗浄活性種の消失を防止し、洗浄活性種を高濃度で含有する洗浄液24a,24bを得ることができる。さらに、洗浄活性種が生成しても基板4に達するまでに消失する可能性が高い表面9a,10aを絶縁することによって、余分な電気分解反応の生起を避け、電力消費量を低減化し、効率的である。
【0050】
陰極8の表面10bは、電圧印加時に、反応性の高い洗浄活性種に晒される。したがって、陰極8を構成する材料は、電圧の印加によって発生する化学的酸化還元反応に対して高い耐久性を有する導電性材料であることが好ましく、金、白金、炭素、チタン、パラジウムおよびニッケルから選ばれる1種または2種以上であることがさらに好ましく、電気化学的安定性および触媒能の高さから、白金が特に好ましい。また、絶縁膜も電圧印加時に反応性の高い洗浄活性種に晒されるので、化学的酸化還元反応に対して高い耐久性を有する材料が好ましい。このような材料の具体例としては、たとえば、テフロン(商標名、デュポン社製)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、パーフルオロアルコキシ樹脂(PFA、テトラフルオロエチレンとパーフルオロアルキルビニルエーテルとの共重合体)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、バイトン(商標名、デュポン社製)などのフッ素樹脂、さらには熱硬化性ポリイミドなどが挙げられる。絶縁膜の材料は1種を単独で使用でき、または2種以上を併用できる。
【0051】
陽極11は、陰極8と同一の形状を有する。すなわち、陽極11の触媒層14に対向する面には、凸部12および凹部13が形成される。凸部12および凹部13の表面には、陰極8の凸部9および凹部10と同様に、絶縁膜が形成され、消費電力の低減による効率化が図られる。また、陽極11を構成する材料は、陰極8を構成する材料と全く同じでよい。
【0052】
触媒層14は、純水中でのイオン交換反応を促進し、純水のイオン積を増大させる機能を有する。触媒層14を構成する材料としては、純水中でのイオン交換反応を促進し、純水のイオン積を増大させる機能を有し、それ自体はイオン交換反応の前後で同じ状態で存在する、いわゆる触媒として知られる物質であれば特に制限されず使用できる。その中でも、たとえば、イオン交換樹脂が好ましい。イオン交換樹脂は、イオン交換できる酸性基または塩基性基を持つ水不溶性の合成樹脂である。イオン交換樹脂は、カチオン交換樹脂、アニオン交換樹脂および両性交換樹脂の3種に大別される。このようなイオン交換樹脂の中でも、純水のイオン積を増加させる機能が大きい酸性カチオン基または塩基性アニオン基を導入してなる樹脂が好ましく、スルホン酸基導入樹脂、四級アンモニウム基導入樹脂などがさらに好ましく、流体のイオン積Kwを14≧−logKwの範囲で増大させるイオン交換樹脂などが特に好ましい。この特に好ましいイオン交換樹脂を含む触媒層14を設け、たとえば、比抵抗値18.2MΩ・cmの純水中で1×10V/mの電界を印加すると、水酸基イオンおよび水素イオンの濃度が増加し、10mA/cm程度の電流値が得られる。これに対し、触媒層14を設けないこと以外は同じ条件の場合は、10−2mA/cm程度の電流値しか観測されない。すなわち、触媒層14を設けることによって、触媒層14を設けない場合に比べて、10倍の電流値が得られる。さらに、この電流値は、純水中における洗浄活性種の生成量に直接影響するので、純水を触媒層14なしで電気分解する場合に比べて、10倍の洗浄活性種を生成させることができ、高い洗浄能力を得ることができる。
【0053】
触媒層14を構成する部材としては、イオン交換能を有する材料を含むものであれば特に制限されないけれども、純水との接触面積を増やし、一層高いイオン積増加効果を得るために、イオン交換能を付与してなる不織布またはネット、イオン交換樹脂からなる繊維から作製される不織布またはネットであることが好ましい。不織布にイオン交換能を付与してなる触媒層14は、たとえば、放射線グラフト重合法により製造できる。さらに具体的には、適当な空隙率を有する不織布に、イオン交換基およびγ線の照射によりグラフト重合可能な基を有するイオン交換樹脂を含む溶液を塗布し、これにγ線を照射して、不織布に含まれる樹脂に該イオン交換樹脂をグラフト重合させることにより、イオン交換能を有する不織布が得られる。ここで、イオン交換基の種類または量を適宜変更することによって、洗浄活性種の生成濃度を制御できる。
【0054】
絶縁体層15は、陰極8に印加されるマイナス電圧によって生じる電界と、陽極11に印加されるプラス電圧によって生じる電界とを隔絶し、それぞれの電界において、別個の洗浄活性種生成反応を生起させ、異なる洗浄活性種を発生させる機能を有する。絶縁体層15を構成する材料としては、陰極8および陽極11の凸部9,12および凹部10,13の表面に形成される絶縁膜を構成する材料と同様のもの、すなわち、各種フッ素樹脂、熱硬化性ポリイミドなどが使用できる。
【0055】
端子19,20は、図示しないけれども、ノズル本体5内でそれぞれ陰極8および陽極11に電気的に接続される。また、端子19,20には、図示しない直流電源装置が接続される。したがって、陰極8および陽極11には、端子19,20を介して、直流電源装置から電圧が印加される。この電圧の大きさは特に制限はないけれども、好ましくは、電界強度1×10〜10V/m程度の直流電界である。たとえば、陰極8と陽極11との間の間隔が10mmである場合は、印加する直流電圧は100Vが好ましい。また、このときに流れる電流値は実際に生成するラジカル濃度に影響を与える。ノズル2から被洗浄面4aに供給される洗浄液流量をQ(リットル/分)、陰極8・陽極11間を流れる電流値をI(A)、洗浄液中のラジカル濃度をC(モル/リットル)とすると、
C=60I/96500Q
の関係が成立する。たとえば、洗浄液流量Qが10リットル/分で、電流値Iが200Aである場合、洗浄液24a,24b中には、それぞれ6.2×10−3モル/リットルの濃度の洗浄活性種が含まれる。
【0056】
ノズル蓋6に形成される開口部18aは、純水が陰極8と触媒層14との間における電気分解により生成する洗浄液24aをノズル2外に吐出するのに適する位置に形成されるのと同様に、開口部18bは、純水が陽極11と触媒層14との間における電気分解により生成する洗浄液24bをノズル2外に吐出するのに適する位置に形成される。開口部18a,18bは、本実施の形態では、それぞれ複数の噴射孔が一定の間隔を空けて一直線上に並んだ状態に形成されるけれども、スリット状に形成することもできる。また、開口部18a,18bは、本実施の形態では、ほぼ平行に形成されるけれども、それに限定されない。
【0057】
開口部18aから吐出される洗浄液24aの軌跡と、基板4の被洗浄面4aとが成す角θ1の角度が90°未満であるように配置されるのが好ましい。ここで、角度θ1は、基板4の搬送方向(矢符25の方向)の下流側から上流側に向かって延びる洗浄液24aの軌跡と、被洗浄面4aとが成す角である。以下同様とする。この場合、洗浄液24aの軌跡と、洗浄液24bの軌跡とがほぼ平行であるとする。なお、図1においては、便宜上、洗浄液24aの軌跡に平行な一点破線A、および被洗浄面4aに平行な一点破線Bを示し、洗浄液24aの軌跡と被洗浄面4aとが成す角θ1を示した。
【0058】
角θ1は、前述のように、その角度が90°未満であることが好ましく、30°を超え、80°以下であることがさらに好ましい。角θ1の角度を前記の範囲内から選択することによって、基板4の被洗浄面4aに対する清浄化効果が一層高くなる。洗浄液を使用した後の排液には、たとえば、被洗浄面4aから除去された微粒子、有機物残渣などの除去対象物質が含まれる。このような排液が洗浄終了後の被洗浄面4aに行き渡ると、除去対象物質の被洗浄面4aへの再付着が生じる。ところが、角θ1を前記の範囲にすることによって、排液が未洗浄の被洗浄面4aまたは被洗浄面4a外に押し流されるので、排液が洗浄終了後の被洗浄面4aに行き渡るのを防止できる。したがって、角θ1が90°である場合に比べて、基板4の被洗浄面4aを清浄に保つことができる。
【0059】
本実施の形態では、洗浄液24aと被洗浄面4aとが成す角θ1a(不図示)と、洗浄液24bと被洗浄面4aとが成す角θ1b(不図示)とを異なる角度に調整することもできる。この場合、角θ1aの角度を、角θ1bの角度よりも小さくするのが好ましい。それによって、洗浄液24a,24bの被洗浄面4a上での滞留がさらに少なくなり、洗浄性能のさらなる向上を図ることができる。具体的には、洗浄液24aの流れにより、洗浄液24aと洗浄液24bとの間が陰圧になり、洗浄液24bを誘導して洗浄液24bが被洗浄面4a上で滞留するのが防止される。これによって、ノズル2から吐出された直後の、洗浄活性種を高濃度で含む洗浄液24a,24bが、被洗浄面4aに滞留する洗浄液24a,24bによって邪魔されることなく、被洗浄面4aに直接供給される。その結果、洗浄活性種の被洗浄面4aへの到達時間を短縮化でき、角θ1が90°である場合に比べて、被洗浄面4a上での活性種濃度を増加させ、洗浄性能を向上させることができる。
【0060】
図5は、電界印加手段7におけるイオン生成機構を示す断面図である。図6(a)は、陰極8におけるラジカル生成機構を示す断面図である。図6(b)および図6(c)は、陽極11におけるラジカル生成機構を示す断面図である。
【0061】
電界印加手段7により、ラジカルである洗浄活性種を生成させるに当たっては、第1段階として、水素イオン30および水酸基イオン31を生成させる。まず、陰極8と触媒層14との間を矢符28の方向に流過する純水は、陰極8に印加される電圧により発生する電界において電気分解を受けて、水素イオン30と水酸基イオン31とに分解される。水素イオン30は、電気的引力により、陰極8近傍に引き寄せられ、水酸基イオン31は触媒層14内を流過して陽極11に引き寄せられる。一方、陽極11と触媒層14との間を矢符28の方向に流過する純水は、陽極11に印加される電圧により発生する電界において電気分解を受け、水素イオン30と水酸基イオン31とに分解され、水素イオン30は触媒層14内を流過して陰極8に引き寄せられ、水酸基イオン31は陽極11近傍に引き寄せられる。なお、触媒層14は、イオン積を増加させる材料を含んで構成されるので、純水中での水素イオン30および水酸基イオン31のイオン積が増加し、陰極8と触媒層14との間では、水素イオン30濃度の高い洗浄液が生成し、陽極11と触媒層14との間では、水酸基イオン31濃度の高い洗浄液が生成する。
【0062】
次に、図6(a)に示すように、陰極8近傍に引き寄せられる水素イオン30は、陰極8から電子32を受け取って還元され、水素ラジカル(・H)33が生成する。この水素ラジカル33を含む純水である洗浄液24bは、さらにノズル2内を流下し、開口部18bから吐出され、基板4の被洗浄面4aに供給される。
【0063】
一方、図6(b)に示すように、陽極11近傍に引き寄せられる水酸基イオン31は、陽極11によって電子32を奪われて酸化され、水酸基ラジカル(・OH)34が生成する。この水酸基ラジカル34を含む純水である洗浄液24aが、開口部18aから吐出され、基板4の被洗浄面4aに供給される。また、陽極11の近傍では、図6(c)に示すように、水酸基ラジカル34同士が反応して水35と酸素ラジカル36とが反応する。したがって、洗浄液24aには、水酸基ラジカル34とともに酸素ラジカル36が含まれる。
【0064】
下記化1は、電界印加手段7における洗浄活性種の生成機構および洗浄活性種と溶媒である水(純水)との反応機構を示す化学反応式である。式(1)は、ラジカル生成機構の第1段階である、水素イオン30および水酸基イオン31の生成機構を示す。式(2)は、電極酸化による水酸基ラジカル34の生成機構を示す。式(3)は、電極還元による水素ラジカル33の生成機構を示す。式(4)〜(7)は、水素ラジカル33、水酸基ラジカル34および酸素ラジカル36といった洗浄活性種同士または該洗浄活性種と水との反応機構を示す。
【0065】
なお、式(8)に示すように、水素ラジカル33と水とが反応した場合、あるいは式(9)に示すように水素ラジカル33同士が反応した場合、水素ガスが発生し、発火の危険性を伴う。一方、式(10)に示すように、水素ラジカル33と水酸基ラジカル34とが反応すると、水が生成するだけであり、この反応は安全性が高い。水素ラジカル33は、水酸基ラジカル34の存在下では、水よりも水酸基ラジカル34と優先的に反応する。
【0066】
本発明のウェット洗浄装置1では、水素ラジカル33を含む洗浄液24bとともに、水酸基ラジカル34を含む洗浄液24aが被洗浄面4aに供給されるので、水素ラジカル33が洗浄に寄与せずに残留したとしても、やはり洗浄に寄与せず残留する水酸基ラジカル34と反応するので、発火の危険性がない。したがって、ウェット洗浄装置1は、洗浄活性種を利用して洗浄を行うにもかかわらず、非常に安全である。
O ⇔OH+H …(1)
OH ⇔・OH+e …(2)
+e ⇔・H …(3)
・OH+・O ⇔・O+H …(4)
・OH+・OH ⇔H …(5)
⇔HO+・O …(6)
O+・O ⇔2・OH+・H …(7)
O+・H ⇔H+・OH …(8)
・H+・H ⇒H …(9)
・OH+・H ⇒H …(10)
【0067】
純水から生成する洗浄活性種は、反応性が高いので、たとえば、微粒子表面とシリコン基板またはガラス基板とにより形成されるシラノール結合を切断することができ、また、シリコン基板などにおける微粒子結合活性サイトであるダングリングボンドを不活性化し、それによって微粒子と基板との付着力を低減化するので、微粒子の除去を円滑に実施できる。また、有機物中に存在する炭素−炭素結合、炭素−水素結合などの結合力の強い共有結合を切断し、切断残渣をさらに酸化して最終的に二酸化炭素と水とに分解するので、レジスト残渣といった有機成分由来の除去対象物質の除去にも有効である。
【0068】
電界印加手段7によれば、分流器17によって分流される純水の水流が、陰極8と触媒層14との間および陽極11と触媒層14との間を流過する際に、陰極8および陽極11に電圧が印加されて生じる電界によって電気分解を受け、それぞれ異なる洗浄活性種を含む純水である洗浄水24a,24bが得られる。この洗浄水24a,24bは、電界印加手段7からノズル2内をさらに流下し、それぞれ開口部18a,18bから吐出される。
【0069】
ノズル2では、純水受入れ口21からその内部に供給される純水を、電界印加手段7により電気分解し、洗浄活性種を含む洗浄液24a,24bを生成させ、開口部18a,18bから基板4の被洗浄面4aに供給し、被洗浄面4aを洗浄する。
【0070】
本実施の形態においては、陰極8と触媒層14との間で生成する洗浄液24bを吐出する開口部18bを、開口部18aよりも被洗浄面4aに近接させるようにノズル2を傾斜させて配置する。これによって、洗浄液24a中に含まれる水素ラジカル33を、優先的に被洗浄面4aに作用させることができ、水素ラジカル33により除去されやすい除去対象物質が付着する被洗浄物の洗浄に適する。また、それに限定されず、電極8を陽極および電極11を陰極とし、水酸基ラジカル34を優先的に被洗浄面4aに作用させることもできる。これによって、水酸基ラジカル34により除去されやすい除去対象物質が付着する被洗浄物の洗浄に対応できる。このように、被洗浄物の種類に対応して洗浄を実施できる。
【0071】
本実施の形態においては、陰極8の凸部9および凹部10ならびに陽極11の凸部12および凹部13は、部分的に絶縁膜で被覆されるけれども、絶縁膜で被覆しなくてもよい。
【0072】
本実施の形態においては、触媒層14の内部に絶縁体層15が設けられるけれども、絶縁体層15に代えて、主に参照電極として作用する導電体層を設けることもできる。陰極8または陽極11と触媒層14との間を流過する純水を電気分解するに際し、導電体層に電圧を印加することによって、純水の電気分解をより低い電圧下に実施でき、消費電力を低減化できる。この場合には、図示しないが導電体15とノズル蓋6の間に電気的な絶縁層を配置するとともに、該導電体15に給電する。
【0073】
図1に戻り、搬送手段3は、図示しない駆動手段により軸線回り(時計回り)に回転駆動可能に設けられる複数の搬送ローラ23を含んで構成される。複数の搬送ローラ23は、それぞれの軸線が同一平面上に位置するように、一列に配置される。また、複数の搬送ローラ23の一部は、駆動手段を持たない従動ローラであってもよい。搬送ローラ23の回転駆動により、搬送ローラ23上に載置される基板4は、矢符25の方向に搬送される。これによって、枚葉方式の洗浄が可能になる。
【0074】
ウェット処理装置1によれば、基板4の被洗浄面4aに、ノズル2によって洗浄活性種を含む洗浄液24a,24bが供給されるとともに、搬送手段3によって、基板4が矢符25の方向に搬送される。これにより、基板4の被洗浄面4aに、搬送方向の上流側から下流側に順次洗浄液24a,24bが供給され、被洗浄面4a上の除去対象物質が除去、分離、剥離または分解され、被洗浄面4aが均一に洗浄される。
【図面の簡単な説明】
【0075】
【図1】本発明の実施の第1形態であるウェット処理装置の構成を模式的に示す斜視図である。
【図2】図2(a)および図2(b)は、図1に示すウェット処理装置におけるノズルの構成を概略的に示す断面図である。
【図3】電界印加手段における陰極の構成を模式的に示す斜視図である。
【図4】電界印加手段における陰極、触媒層および絶縁体層の配置を示す上面図である。
【図5】電界印加手段におけるイオン生成機構を示す断面図である。
【図6】図6(a)は陰極におけるラジカル生成機構を示す断面図である。図6(b)および図6(c)は陽極におけるラジカル生成機構を示す断面図である。
【図7】従来技術の基板洗浄装置の構成を概略的に示す断面図である。
【図8】従来技術の水電解セルの構成を概略的に示す側面図である。
【符号の説明】
【0076】
1 ウェット処理装置
2 ノズル
3 搬送手段
4 基板
4a 被洗浄面
5 ノズル本体
6 ノズル蓋
7 電界印加手段
8 陰極
9,12 凸部
9a 凸部表面
10,13 凹部
10a,10b 凹部表面
11 陽極
14 触媒層
15 絶縁体層
17 分流器
18a,18b 開口部
19,20 端子
21 純水受入れ口
24a,24b 洗浄液
25,26,27,28 矢符
30 水素イオン
31 水酸基イオン
32 電子
33 水素ラジカル
34 水酸基ラジカル
35 水
36 酸素ラジカル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被洗浄物の被洗浄面に対向して配置されるノズルから洗浄液を供給して被洗浄面を洗浄するウェット処理装置において、
被洗浄面に向けて洗浄液を吐出する少なくとも2つの開口部を有するノズルと、
ノズル内部の流体流路内に配置され、流体を電気分解して洗浄活性種を発生させる電界印加手段とを含み、
電界印加手段が、
少なくとも一対の陽極と陰極とからなる電極と、
前記陽極と陰極との間に配置され、流体の電気分解を促進する触媒層と
触媒層の内部に配置され、触媒層の陽極側と陰極側とを絶縁する絶縁体層とを含み、
電極に電圧を印加することにより、陽極および陰極と触媒層との間を流過する流体を電気分解して洗浄活性種を生成させ、陽極と触媒層との間で生成する洗浄活性種を含む流体である陽極洗浄液と、陰極と触媒層との間で生成する洗浄活性種を含む流体である陰極洗浄液とを、異なる開口部からそれぞれ吐出することを特徴とするウェット処理装置。
【請求項2】
電界印加手段が、
少なくとも一対の陽極と陰極とからなる電極と、
前記陽極と陰極との間に配置され、流体の電気分解を促進する触媒層と
触媒層の内部に配置され、参照電極として機能する導電体層とを含むことを特徴とする請求項1記載のウェット処理装置。
【請求項3】
さらに、被洗浄物を搬送する搬送手段を含むことを特徴とする請求項1または2記載のウェット処理装置。
【請求項4】
開口部から吐出される洗浄液の軌跡と、被洗浄物の被洗浄面とが成す角の角度が90°未満であることを特徴とする請求項1〜3のうちのいずれか1つに記載のウェット処理装置。
【請求項5】
一方の開口部から吐出される陽極洗浄水の軌跡と被洗浄面との成す角の角度と、他方の開口部から吐出される陰極洗浄水の軌跡と被洗浄面との成す角の角度とが異なることを特徴とする請求項1〜4のうちのいずれか1つに記載のウェット処理装置。
【請求項6】
流体が水を含むことを特徴とする請求項1〜5のうちのいずれか1つに記載のウェット処理装置。
【請求項7】
洗浄活性種が水素および/または酸素を含むラジカルであることを特徴とする請求項1〜6のうちのいずれか1つに記載のウェット処理装置。
【請求項8】
触媒層が酸性カチオン交換能または塩基性アニオン交換能を有するイオン交換物質を含むことを特徴とする請求項1〜7のうちのいずれか1つに記載のウェット処理装置。
【請求項9】
陽極および陰極が金、白金、炭素、チタン、パラジウムおよびニッケルから選ばれる1種または2種以上の材料を含むことを特徴とする請求項1〜8のうちのいずれか1つに記載のウェット処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−167629(P2006−167629A)
【公開日】平成18年6月29日(2006.6.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−364736(P2004−364736)
【出願日】平成16年12月16日(2004.12.16)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【出願人】(596041995)
【Fターム(参考)】