説明

ウェーハ面取り装置、および面取り用砥石の表面状態または面取り用砥石によるウェーハの加工状態の検出方法

【課題】回転砥石側のAEセンサの検出信号を非接触で固定側に誘起し、誘起信号の信号処理により、接触状態や砥石の表面状態を判定可能にしたウェーハ面取り装置の実現。
【解決手段】ウェーハWを保持して回転するウェーハテーブル10と、面取り用砥石20を保持して回転する砥石回転機構と、を有するウェーハ面取り装置であって、砥石回転機構は、回転ユニットと、固定ユニットと、を有し、回転ユニットは、AEセンサ34と送信手段31と、を有し、固定ユニットは、送信手段と通信する受信手段41と信号処理回路65と、を有し、送信手段はAEセンサの信号を検出し、信号処理回路は、アンプ63と、AD変換器64と、デジタル処理回路と、を有し、低周波数成分を除去するフィルタリング処理を行い、さらに回転ユニットの回転周期に対応した信号変化を抽出する処理を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウェーハ面取り装置、および面取り用砥石の表面状態または面取り用砥石によるウェーハの加工状態の検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体装置や電子部品等の素材となるシリコン(Si)等のウェーハは、結晶インゴットの状態から、内周刃やワイヤーソー等のスライサで板状にスライスされた後、その周縁(エッジ)の割れや欠け等を防止するために外周部に面取り加工が施される。
【0003】
特許文献1に記載されるように、面取り加工に使用されるウェーハ面取り装置は、ウェーハ外周部を研削する外周部用砥石や、方位の基準位置となるV字状のノッチ部を研削するノッチ部用砥石等の各種砥石が複数取り付けられ、これらの砥石をスピンドルにより高速に回転させて加工を行なう。加工の際には、ウェーハをウェーハテーブル上に吸着載置して回転する。ウェーハテーブルまたは砥石は、移動機構によりXYZの3軸方向に相対的に移動可能であり、砥石に形成された面取り用の溝へウェーハ外周部を当てることにより面取り加工を行う。
【0004】
電子部品の素材となるウェーハの材料は、シリコン(Si)のほか、ガリウム窒素(GaN)やガリウム砒素(GaAs)等の化合物半導体用ウェーハ、ニオブ酸リチウム(LN)やタンタル酸リチウム等の酸化物単結晶ウェーハ、またはLED用差ファイヤウェーハ等多岐に渡っている。ウェーハ面取り装置は、材料が異なるごとに、ツール回転数、ワーク送り速度、砥石粒度等の研削条件を設定する必要がある。材料に応じた研削条件の設定は、カット&トライで実施しており、テスト加工で多くのウェーハを消費していた。
【0005】
砥石は、研削前に、砥石の表面を良好な研削が行なえる状態にする目立て処理(ドレッシング)を行なう必要がある。また、研削により表面が目詰まりすると、良好な研削が行なえなくなるので、随時ドレッシングを行なう必要があり、例えば、ワークの加工数量が、あらかじめ取得した統計データ等に基づいて決定した量に達した時にドレッシングを行なうようにしている。
【0006】
ドレッシングは、これまで作業員が手に保持したドレス材の棒(ドレス砥石)を砥石の溝に突き当てて実施していた。しかし、この手法では、ドレス砥石の、砥石の溝への押しつけ力、接触位置を正確に制御できない。さらに、砥石の表面が研削を行なうのに適した状態であるかの判定は、実際にテスト用ウェーハを研削して判定しており、テスト用ウェーハの使用量が大きく、作業が煩雑である。また、ドレス砥石の使用量も多く、十分な管理が難しい。そこで、ドレス材で作られた円板状のドレス砥石をウェーハテーブルに保持して、ドレス砥石を、砥石に接触させてドレッシングを行なうことが考えられる。
【0007】
さらに、特許文献2および3に記載されるように、ウェーハの面取り加工では、ウェーハのエッジを所定の形状にするため、所定の形状の溝を有する砥石を使用する必要があり、作業員が手に保持したツルアーを砥石の溝に突き当てて、砥石に所定形状の溝を形成するツルーイングが行なわれる。この場合も、作業員が手作業で行なったのでは、ツルアーの、砥石の溝への押しつけ力、接触位置を正確に制御できず、偏当たりや過度の当たりが生じ、または当たり不良により正確なツルーイングが困難であった。
【0008】
ウェーハテーブルに保持した円板状のドレス砥石およびツルアーを使用することにより、砥石の接触位置等は正確に制御可能になるが、接触圧を正確に制御することは難しく、砥石の表面状態を把握することもできない。
【0009】
そこで、例えば砥石を回転するスピンドルモータの電流を検出することにより、砥石に掛かる負荷を検出することが行なわれる。しかし、スピンドルモータの電流検出のみでは、砥石とドレス砥石またはツルアーとの接触状態を十分に把握できない。
【0010】
AEセンサは、100kHz以上の高周波数の音響信号を検出する素子で、ワーク(ウェーハ)と砥石の接触点で発生する高周波数の破砕音信号を検出することができる。AEセンサを砥石の回転機構の固定部に配置して、破砕音信号を検出することが行なわれている。しかし、この構成でAEセンサが検出するのは回転部の軸受け部(ベアリング)を介して伝播した破砕音信号であり、軸受け部で発生するノイズに比べて破砕音信号の検出レベルが低く、接触状態や砥石の表面状態を判定可能なレベルのAE信号を得ることが難しかった。
【0011】
特許文献4は、AEセンサおよびAEセンサと共振回路を形成する第1インダクタンス要素(コイル)を砥石(回転側)に内蔵し、第1インダクタンス要素と電磁結合する第2インダクタンス要素(コイル)を固定側に設け、AEセンサの出力変化により共振回路に発生する信号変化を、電磁結合を介して固定側の第2インダクタンス要素の信号に誘起し、その信号を検出することを、記載している。しかし、第2インダクタンス要素に生じる信号は、雑音が大きく、接触状態や砥石の表面状態を判定できるほど十分にS/N比が高くないという問題があった。
【0012】
特許文献5は、AEセンサ、AEセンサの信号をデジタル信号に変換して無線信号として出力する信号処理回路および電源を内蔵した砥石を記載している。このような砥石であれば、AEセンサで破砕音信号を直接検出し、それをデジタル信号に変換して送信するので、S/N比の高いAE信号を得ることができ、接触状態や砥石の表面状態を判定することが可能であると考えられる。しかし、AEセンサ、信号処理回路および電源を砥石に内蔵する必要があり、大型の砥石であれば適用可能であるが、小型の砥石には適用できない上、消耗品である砥石のコストが大幅に増加するという問題がある。
【0013】
特許文献6は、AEセンサおよびAEセンサの信号を増幅する増幅器を砥石に設け、増幅器への電源供給および増幅器の出力の固定側への送信は電磁カップリングを介して行なうことを記載している。特許文献6に記載された構成は、特許文献5に記載された構成に比べて、電源を内蔵しない分だけ砥石に設ける部分を小型化できるが、AEセンサおよび増幅器を砥石に内蔵する必要があり、砥石に設ける部分を十分に小型化するのは難しい。また、電源供給と信号送信の2つの電磁カップリングを設ける必要があり、電磁カップリングが複雑になる。そのため、特許文献5と同様に、大型の砥石であれば内蔵可能であるが、小型の砥石には適用できない上、消耗品である砥石のコストが大幅に増加するという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開2009−78326号公報
【特許文献2】特開2005−153085号公報
【特許文献3】特開平7−58065号公報
【特許文献4】特開2009−47449号公報
【特許文献5】特開平11−10535号公報
【特許文献6】特表2005−519265号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
特許文献5および6に記載された砥石を使用すれば、S/N比の高いAE信号を得ることができるが、小型の砥石には適用できない上、消耗品である砥石のコストが大幅に増加するという問題がある。
【0016】
一方、特許文献4に記載されたAEセンサは、小型の砥石にも適用可能で、比較的低コストであるが、十分にS/N比が高い信号が得られないという問題がある。
【0017】
本発明は、ウェーハのエッジに高速回転する砥石が接触することにより発生する破砕音信号の発生メカニズムと、雑音発生の主要因に着目して、回転側のAEセンサの検出信号を非接触で固定側に誘起し、誘起した信号の信号処理により、接触状態や砥石の表面状態を判定可能にすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明は、上記課題を解決するため、面取り用砥石を保持して回転する砥石回転ユニットに設けられたAEセンサの信号を送信手段が出力し、送信手段が出力する電気信号を受信手段が検出し、受信手段の電気信号をデジタル信号に変換し、デジタル電気信号に対して、低周波数成分を除去するフィルタリング処理と、回転ユニットの回転周期に対応した信号変化を抽出する処理と、をデジタル処理で行なう。送信手段および受信手段は、例えば、回転ユニットと固定ユニットに対向して設けられる第1および第2インダクタンス要素(コイル)で実現できるが、AEセンサの信号を非接触で送信できる関係にあれば、どのようなものでもよい。
【0019】
すなわち、本発明の第1の態様のウェーハ面取り装置は、ウェーハを保持して回転するウェーハテーブルと、ウェーハのエッジに接触する面取り用砥石を保持して回転する砥石回転機構と、を備えるウェーハ面取り装置であって、砥石回転機構は、面取り用砥石を含む回転ユニットと、固定ユニットと、を備え、回転ユニットは、AEセンサと、AEセンサに接続された送信手段と、を備え、固定ユニットは、回転ユニットに対向して設けられ、送信手段と通信する受信手段と、受信手段の電気信号を処理する信号処理回路と、を備え、信号処理回路は、受信手段の電気信号を増幅するアンプと、アンプの出力するアナログ信号をデジタル信号に変換するAD変換器と、デジタル信号を処理するデジタル処理回路と、を備え、デジタル処理回路は、低周波数成分を除去するフィルタリング処理を行い、さらに回転ユニットの回転周期に対応した信号変化を抽出する処理を行うことを特徴とする。
【0020】
また、本発明の第2の態様の方法は、ウェーハのエッジの面取りを行なうために、回転状態でウェーハのエッジに接触する面取り用砥石の表面状態または面取り用砥石によるウェーハの加工状態の検出方法であって、回転状態の面取り用砥石に、ウェーハまたはドレス材を接触させ、面取り用砥石を保持して回転する砥石回転ユニットに設けられた送信手段が出力するAEセンサの電気信号を、送信手段と通信する固定の受信手段の電気信号として検出し、受信手段の電気信号をデジタル信号に変換し、受信手段のデジタル電気信号に対して、低周波数成分を除去するフィルタリング処理と、回転ユニットの回転周期に対応した信号変化を抽出する処理と、をデジタル処理で行ない、デジタル処理結果に基づいて、面取り用砥石の表面状態または面取り用砥石によるウェーハの加工状態を判定することを特徴とする。
【0021】
特許文献4に記載されたように、面取り用砥石を保持して回転する砥石回転ユニットに設けられたAEセンサおよび第1インダクタンス要素が形成する共振回路の電気信号を、第1インダクタンス要素と電磁結合する固定の第2インダクタンス要素の電気信号として検出することが可能である。しかし、このような電気信号は、雑音が大きく、S/N比が不十分であった。
【0022】
高周波数の音響信号は、伝播距離に応じて減衰する。雑音は主として回転部の軸受け部で発生することに着目して、AEセンサは回転するが、回転中心に対して常時一定距離に位置するため、軸受け部で発生した雑音は、AEセンサには、常時一定のレベルで影響すると考えられる。これに対して、破砕音信号はワークと砥石の接触部で発生し、AEセンサは回転するために接触部との距離が、砥石の回転周期を1周期として変化するため、この周期で変化する。そこで、本発明では、受信手段の電気信号から低周波数成分、例えば、砥石の回転周期の2倍より長い周期に対応する周波数より低周波数の成分を除去することにより、軸受け部で発生する雑音を除去する。その後、砥石の回転周期を周期として変化する信号変化を抽出する。そして、抽出した信号の強度レベルの変化で、面取り用砥石の表面状態または面取り用砥石によるウェーハの加工状態を判定する。このような処理をアナログ信号に対して行うのは難しいため、受信手段の電気信号をデジタル信号に変換した後、デジタル処理で上記の処理を行なう。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、消耗品である砥石のコスト増加を抑制して、砥石の接触状態や砥石の表面状態が判定可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】図1は、第1実施形態のウェーハ面取り装置における各部の配置を示す図である。
【図2】図2は、砥石回転機構の面取り用砥石の保持部分を示す一部断面図である。
【図3】図3は、フランジおよびAEセンサ固定部の溝が形成される表面および断面を示す図である。
【図4】図4は、AEセンサ、および対向する円形コイルにより形成される検出回路の構成を示す図である。
【図5】図5は、第1実施形態におけるAE信号検出システムの全体構成を示す図である。
【図6】図6は、アンプの出力する信号処理前のAE信号の例を示す図である。
【図7】図7は、面取り用砥石がワーク等と接触することにより発生する破砕音のAE信号と、スピンドルモータの軸受け部で発生するAE信号のAEセンサに対する影響の違いを説明する図である。
【図8】図8は、第1実施形態の信号処理部が行う信号処理を説明する図である。
【図9】図9は、バンドパスフィルタ処理を行った後、回転周期で変化している信号成分を抽出した信号の時間に応じた信号強度の変化例を示す図である。
【図10】図10は、バンドパスフィルタ処理を行った後、回転周期で変化している信号成分を抽出した信号の時間に応じた信号強度の別の変化例を示す図である。
【図11】図11は、第2実施形態におけるフランジのAEセンサ固定部に対向する表面および円形コイルと2個のAEセンサとの配線を示す図である。
【図12】図12は、第2実施形態において、2個のAEセンサ、および対向する円形コイルにより形成される検出回路の構成を示す図である。
【図13】図13は、第3実施形態におけるフランジのAEセンサ固定部に対向する表面を示す図である。
【図14】図14は、第3実施形態におけるAE信号検出システムの全体構成を示す図である。
【図15】図15は、第4実施形態におけるフランジのAEセンサ固定部に対向する表面を示す図である。
【図16】図16は、第4実施形態において、4個のAE、および対向する円形コイルにより形成される検出回路の構成を示す図である。
【図17】図17は、第4実施形態におけるAE信号検出システムの全体構成を示す図である。
【図18】図18は、N個の周波数特性の異なるAEセンサを使用した場合の、AE信号検出システムの周波数に対する合成感度を示す図である。
【図19】図19は、AEセンサおよび回転側の円形コイルを砥石に設けた変形例の砥石回転機構の面取り用砥石の保持部分を示す一部断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
第1実施形態のウェーハ面取り装置は、ウェーハWを保持して回転するウェーハテーブル10と、ウェーハWのエッジに接触する面取り用砥石20を保持して回転する砥石回転機構と、ノッチ部を研削するノッチ部用砥石11を保持して回転するノッチ部用砥石回転機構と、ウェーハテーブル10との間で面取りするウェーハWを供給/排出するロード/アンロード部12と、を有する。
【0026】
図1は、第1実施形態のウェーハ面取り装置における各部の配置を示す図である。未処理のウェーハWは、図示していない搬送アームにより、ロード/アンロード部12からウェーハテーブル10上に載置(ロード)される。ウェーハテーブル10は、載置された未処理のウェーハWを真空吸着等により保持する。ウェーハテーブル10は、図示していないXYZ移動機構により、3軸方向に移動可能に支持されると共に、テーブル回転機構により所定の速度で回転する。未処理のウェーハWを保持したウェーハテーブル10は、回転した状態で移動し、スピンドルモータ等の砥石回転機構により高速回転する面取り用砥石20に接触する。これによりウェーハWのエッジの面取りが行なわれる。面取りが終了した後、ウェーハテーブル10は面取り用砥石20から離れて所定の回転位置で停止し、高速回転するノッチ部用砥石11に接触するように移動する。これにより、ウェーハWの所定位置にノッチが形成される。面取り処理の終了したウェーハWは、搬送アームにより、ウェーハテーブル10からロード/アンロード部12に移動(アンロード)される。ここでは、ウェーハテーブル10が3軸方向に移動可能であるが、面取り用砥石20およびノッチ部用砥石11をそれぞれ移動可能にすることも可能である。
【0027】
ウェーハ面取り装置については、例えば特許文献1等に記載されており、広く知られているので、これ以上の説明は省略する。
【0028】
図2は、砥石回転機構の面取り用砥石20の保持部分を示す一部断面図である。
【0029】
スピンドルモータ23は、筐体21に固定される。スピンドルモータ23は、端部に回転体24を有し、回転体24には主軸部26が設けられている。回転体24とエアー軸受け部の隙間は、エアー軸受け部に供給される空気が噴出するスピンドルエアパージ噴出口25である。主軸部26は、テーパ状の先端部を有し、ネジ穴が形成されている。フランジ30は、主軸部26の先端部26のねじに、ワッシャ27を介してねじ28を締結することにより、主軸部26に取り付けられる。
【0030】
面取り用砥石20は、主軸部26の外周部のねじに、ナット29を締結することにより取り付けられる。面取り用砥石20は、複数の溝を有する層型砥石である。複数の溝は、例えば、粗研用溝および精研用溝を含み、面取りの粗研および精研が同一の面取り用砥石20で行なえるようにしても、粗研用溝および/または精研用溝を複数含み、砥石の交換頻度を低減するようにしてもよい。
【0031】
筐体21には、支持部材22が取り付けられ、支持部材22にAEセンサ固定部40が取り付けられる。支持部材22およびAEセンサ固定部40は、スピンドルモータ23の回転体24をカバーする形状を有し、AEセンサ固定部40と主軸部26の間には狭いギャプが形成される。また、AEセンサ固定部40の表面およびフランジ30の表面は、回転軸に垂直な平面で、AEセンサ固定部40の表面とフランジ30の表面の間には狭いギャップが形成される。
【0032】
支持部材22上のAEセンサ固定部40の周囲には、クーラントガード51が設けられ、加工時に面取り用砥石20に供給されるクーラントが、AEセンサ固定部40の表面とフランジ30の表面の間に侵入するのを防止する。さらに、AEセンサ固定部40の表面の周辺部に、クーラントガード51を通り抜けて進入したクーラントを排出するための排出口54が設けられている。また、支持部材22の側面には、複数箇所に、パージエアー排出口52、53が設けられる。AEセンサ固定部40と主軸部26の間のギャプは、支持部材22に設けられたパージエアー排出口52、53より十分に狭く、スピンドルエアパージ噴出口25から噴出したパージエアーは、大部分がパージエアー排出口52、53から排出され、AEセンサ固定部40の表面とフランジ30の表面の間には侵入しない。なお、パージエアー排出口53は、パージエアー排出口52より開口面積が大きく、パージエアー排出口52と53の開口面積比は、例えば、2:8である。
【0033】
フランジ30のAEセンサ固定部40と対向する表面には、主軸部26を中心とする円環状の溝が形成され、内部に導線が配置され、主軸部26を中心とする円形コイル31を形成する。同様に、AEセンサ固定部40のフランジ30と対向する表面には、主軸部26を中心とする円環状の溝が形成され、内部に導線が配置され、主軸部26を中心とする円形コイル41を形成する。
【0034】
図3は、フランジ30およびAEセンサ固定部40の溝が形成される表面および断面を示す図であり、(A)がフランジ30の表面および断面を、(B)がAEセンサ固定部40の表面および断面を、それぞれ示す。
【0035】
フランジ30の表面に形成される円環状の溝32およびAEセンサ固定部40の表面に形成される円環状の溝は、同一の直径で形成され、対向して配置される。フランジ30の表面には、さらに円環状の溝32に隣接して1個の穴33が形成される。
【0036】
フランジ30の円環状の溝32には絶縁した導線が複数巻き固定され、円形コイル31が形成される。フランジ30の穴33にはAEセンサが固定され、円形コイル31に接続される。円環状の溝32内の導線(円形コイル31)および穴33内のAEセンサは、樹脂により封止される。
【0037】
AEセンサ固定部40の円環状の溝42には、フランジ30と同様に、絶縁した導線が複数巻き固定され、円形コイル41が形成される。
【0038】
円形コイル31および円形コイル41は、対向して配置されており、一方のコイルに発生した電気信号の変化が他方のコイルの電気信号の変化を誘起する電磁結合関係にある。
【0039】
図4は、AEセンサ34、円形コイル31および円形コイル41により形成される検出回路の構成を示す図である。
【0040】
AEセンサ34は、絶縁体を介してフランジ30に固定しても、絶縁体を設けず、AEセンサ34の面を直接フランジ30に固定することも可能である。図4の(A)は、AEセンサ34を絶縁体を介してフランジ30に固定した場合の回路を、図4の(B)は、AEセンサ34の面を直接フランジ30に固定した場合の回路を、それぞれ示す。
【0041】
図4の(A)に示すように、回転するフランジ30に設けられたAEセンサ34および円形コイル31は、送信側回路60を形成する。AEセンサ34は、回路的には容量と等価であり、円形コイル31はインダクタンス要素であり、AEセンサ34および円形コイル31はLC共振回路を形成する。AEセンサ34は、フランジ30の本体側に固定される面から入力する高周波数の音響信号を受けるので、フランジ30側の面が検出面であり、フランジ30側の面から入力する高周波数の音響信号に応じて電荷を生成する。AEセンサ34に入力する音響信号には、面取り用砥石20がワーク等を研削する時に発生する破砕音信号の他に各種の雑音が含まれる。
【0042】
AEセンサ固定部40に設けられた円形コイル41は、図示していない増幅器(アンプ)63と受信側回路61を形成する。円形コイル41は円形コイル31と電磁結合関係にあり、円形コイル41は、円形コイル41の固定のインダクタンス値に、送信側回路60に形成される共振回路の電気的特性を合わせた電気的特性を示す。
【0043】
以上のように、第1実施形態では、円形コイル31が送信手段を、円形コイル41が受信手段を形成する。しかし、送信手段および受信手段は、AEセンサの信号を非接触で送信できる関係にあれば、どのようなものでもよい。
【0044】
図5は、第1実施形態におけるAE信号検出システムの全体構成を示す図である。
【0045】
図5に示すように、AE信号検出システムは、AEセンサ34、送信手段38、受信手段62、増幅器(アンプ)63、AD変換器64および信号処理部65を有する。送信手段38および受信手段62は、電磁結合された円形コイル31および41により実現され、非接触で信号を伝達する。AEセンサ34および送信手段38は、回転する回転体(フランジ30)に設けられ、受信手段62、増幅器(アンプ)63、AD変換器64および信号処理部65は、非回転体に設けられる。受信手段62である円形コイル41は、AEセンサ固定部40に設けられる。それ以外の部分は、どこに設けてもよいが、アンプ63は、円形コイル41の近傍に設けることが望ましい。信号処理部65は、コンピュータやDSPで実現される。
【0046】
AE信号検出システムでは、AEセンサ34で検出した高周波音響信号(AE信号)を、送信手段38および受信手段62を介してアンプ63に伝達し、アンプ63がAE信号を増幅して出力する。AD変換器64は、アンプ63の出力するアナログAE信号をデジタルデータに変換する。信号処理部65は、デジタルデータに対してフィルタ処理等を行う。
【0047】
図6は、アンプ63の出力する信号処理前のAE信号の例を示す図であり、横軸が時間(ms単位)であり、縦軸が信号強度である。図6のAE信号は、図2において、クーラントガード51を設けず、AEセンサ固定部40と主軸部26に広い隙間が形成され、パージエアー排出口52、53等は設けない状態で検出した信号である。言い換えれば、フランジ30とAEセンサ固定部40の間に、クーラントおよびパージエアーが侵入する状態で検出した信号である。
【0048】
図6において、Pで示す部分が、面取り用砥石20がワーク等を研削する研削状態の波形を示し、それ以外の部分は、面取り用砥石20が他の部分に接触せずに回転している定常状態の波形を示す。図6から、研削状態と定常状態の違いは識別可能であるが、研削状態における細部の差は、ノイズが大きく識別できない。
【0049】
図6の定常状態は、定常状態のノイズ強度と研削状態のノイズ強度の差が小さいことが分かる。これにはパージエアーおよびクーラントにより生じるノイズが大きく影響していると考えられる。そこで、第1実施形態では、前述のように、クーラントガード51を設け、AEセンサ固定部40と主軸部26の間のギャップを狭くし、パージエアー排出口52および53を設けて、フランジ30とAEセンサ固定部40の間に、クーラントおよびパージエアーが侵入しない構成とした。
【0050】
さらに、実験の結果、ノイズの多くがスピンドルモータ23の軸受け部から発生することが判明した。
【0051】
図7は、面取り用砥石20がワークW等と接触することにより発生する破砕音のAE信号と、スピンドルモータ23の軸受け部で発生するAE信号のAEセンサ34に対する影響の違いを説明する図である。
【0052】
破砕音のAE信号は、面取り用砥石20とワークWが接触するポイントAで発生し、軸受け部で発生するAE信号は、面取り用砥石20の回転中心Bで発生する。AEセンサ34は、回転中心Bを中心として面取り用砥石20の回転周期Tで回転する。例えば、面取り用砥石20が30000rpmで回転する場合には、AEセンサ34も30000rpmで回転し、回転周期は2msであり、回転周波数は500Hzである。AEセンサ34は、回転中心Bを中心として回転しており、回転位置にかかわらず、AEセンサ34と回転中心Bの距離は半径rで一定ある。AE信号は、伝播距離に応じて減衰するが、AEセンサ34と回転中心Bの距離は一定であるから、軸受け部で常時同じ強度のAE信号が発生すると仮定すると、回転位置にかかわらず、AEセンサ34に入力する軸受け部で発生するAE信号は一定強度である。言い換えれば、軸受け部で発生しAEセンサ34に入力するAE信号は、一定である。
【0053】
これに対して、面取り用砥石20とワークWの接触ポイントAからAEセンサ34までの距離は、回転位置により異なる。図7に示すように、ポイントAからAEセンサ34までの距離は、AEセンサ34が34Aで示す位置にある時にはLA、34Bで示す位置にある時にはLBであり、回転周期Tに応じて変化する。例えば、ポイントAと回転中心Bとの距離をLとし、ポイントAと回転中心Bを結ぶ方向をθ=0とすると、ポイントAからAEセンサ34までの距離LRは、次の式で表される。
【0054】
LR=(L−rcosθ)+(rsinθ)
したがって、距離LRは、回転周期Tを1周期として変化する。
【0055】
AE信号は、伝播距離に応じて、例えば、伝播距離の2乗に比例して減衰するので、AEセンサ34に入る面取り用砥石20がワークWを研削することにより発生する破砕音のAE信号は、回転周期Tを1周期として変化すると考えられる。
【0056】
図8は、第1実施形態の信号処理部65が行う信号処理を説明する図である。
【0057】
図8の(A)は、信号処理部65が1ステップ目に行うフィルタ処理のゲイン(透過率)を示す図である。面取り用砥石20がワークW等を研削する場合に発生する破砕音は、高周波数のAE信号である。これに対して、クーラントおよびパージエアーなどが散乱する際に発生するAE信号は比較的低周波数のAE信号である。そこで、信号処理部65は、1ステップ目で、低周波数のAE信号を除去するハイパスフィルタ処理を行う。なお、破砕音の高調波成分も除去することが望ましいので、同時に非常に高い周波数成分も除去する。言い換えれば、信号処理部65は、1ステップ目でバンドパスフィルタ処理を行う。バンドパスの周波数の下限と上限は、例えば、AEセンサの検出する中心周波数を270kHzで、下限が100kHz、上限が400kHzである。
【0058】
図8の(B)は、図8の(A)のバンドパスフィルタ処理を行った後のAE信号の時間に応じた信号強度の変化例を示す図である。図7で説明したように、AEセンサ34に入る破砕音のAE信号は、回転周期Tを1周期として変化すると考えられる。図8の(B)において、周期Tで変化している信号が破砕音に起因する成分と考えられる。そこで、信号処理部65は、2ステップ目で図8の(B)において、周期Tで変化している信号成分を抽出する。
【0059】
図9は、バンドパスフィルタ処理を行った後周期Tで変化している信号成分を抽出した信号の時間に応じた信号強度の変化例を示す図である。図6の信号と比較して、ノイズが除去されている。
【0060】
図9において、Rで示す信号部分は、表面状態が研削に適した切れ味の良好な状態の面取り用砥石20がワークWに接触した状態のAE信号を示す。Sで示す信号部分は、表面状態が研削に適さない切れ味の悪い状態の面取り用砥石20がワークWに接触した状態のAE信号を示す。このような状態では、面取り用砥石20がワークWを研削せずにすべりが生じるので、ドレッシングが必要である。Tで示す信号部分は、面取り用砥石20がワークWに接触していない定常状態のAE信号を示す。
【0061】
図10は、バンドパスフィルタ処理を行った後周期Tで変化している信号成分を抽出した信号の時間に応じた信号強度の別の変化例を示す図である。Uは、面取り用砥石20の表面で目詰まりが生じ、表面状態が研削に適さなくなる状態の面取り用砥石20がワークWに接触した状態のAE信号を示す。Vは、上記の表面状態が研削に適さなくなる状態の面取り用砥石20をドレッシング処理した後に、ワークWに接触した状態のAE信号を示す。ドレッシング処理により、信号強度の平均レベルがWだけ向上する。
【0062】
以上説明したように、第1実施形態では、図9および図10に示した状態の識別が可能である。
【0063】
次に、第2実施形態のウェーハ面取り装置について説明する。第2実施形態のウェーハ面取り装置は、フランジ30にAEセンサを2個設けることのみが第1実施形態と異なり、他の構成は第1実施形態のウェーハ面取り装置と同じである。
【0064】
図11は、第2実施形態におけるフランジ30のAEセンサ固定部40に対向する表面を示す図である。
【0065】
図11に示すように、第2実施形態におけるフランジ30の表面には、円環状の溝32と、2個の穴33Aおよび33Bと、が形成される。言い換えれば、図3の第1実施形態におけるフランジ30の表面に、1個の穴を加えた構成を有する。2個の穴33Aおよび33Bは、フランジ30の回転中心に対して対称に、円環状の溝32に隣接して設けられる。2個の穴33Aおよび33Bには、2個のAEセンサが、絶縁体を介してフランジ30の表面に固定され、円環状の溝32には絶縁した導線が複数巻き固定される。
【0066】
2個のAEセンサは、一方の上面が他方の下面に、一方の下面が他方の上面に接続されるように、導線により形成される円形コイル31に接続される。円環状の溝32および2個の穴33Aおよび33Bは、図4に示したのと同様に、樹脂により封止される。
【0067】
AEセンサ固定部40の円環状の溝42には、第1実施形態と同様に、絶縁した導線が複数巻き固定されて円形コイル41を形成しており、円形コイル31と円形コイル41は電磁結合関係にある。
【0068】
図12は、第2実施形態において、2個のAEセンサ34Aおよび34B、円形コイル31および円形コイル41により形成される検出回路の構成を示す図である。第1実施形態と異なるのは、送信側回路60において、2個のAEセンサ34Aおよび34Bが並列に接続されていることである。前述のように、AEセンサ34は、フランジ30側の面が検出面であり、2個のAEセンサ34Aおよび34Bは、検出面が逆になるように接続されている。
【0069】
2個のAEセンサ34Aおよび34Bは、回転中心に対して対称に配置されており、軸受け部で発生するAE信号は、2個のAEセンサ34Aおよび34Bに、同時に同じ強度で検出面に入ると考えられる。図12の送信側回路60において、2個のAEセンサ34Aおよび34Bは、検出面が逆になるように接続されているので、軸受け部で発生するAE信号による2個のAEセンサ34Aおよび34Bの生成電荷は、互いに相殺すると考えられる。言い換えれば、第2実施形態で、送信側回路60は、軸受け部で発生するAE信号を検出しないと考えられる。
【0070】
図13は、第3実施形態におけるフランジ30のAEセンサ固定部40に対向する表面を示す図である。図13に示すように、フランジ30の表面には、2個の円環状の溝32Aおよび32Bと、2個の穴33Cおよび33Dと、が形成されている。2個の円環状の溝32Aおよび32Bは、回転中心を中心とした同心円である。2個の穴33Cおよび33Dは、フランジ30の回転中心に対して反対側に、それぞれ円環状の溝32Aおよび32Bに隣接して設けられる。2個の円環状の溝32Aおよび32Bには、それぞれ絶縁した導線が複数巻き固定され、2個の穴33Cおよび33Dには、2個のAEセンサが固定され、第1実施形態と同様に接続される。なお、2個のAEセンサは、第1実施形態同様に、フランジ30に、絶縁体を介して固定されても、絶縁体を設けずに固定されてもよい。2個の円環状の溝32Aおよび32Bと、2個の穴33Aおよび33Bは、図4に示したのと同様に、樹脂により封止される。
【0071】
図14は、第3実施形態におけるAE信号検出システムの全体構成を示す図である。
【0072】
図14に示すように、第3実施形態におけるAE信号検出システムは、図5の第1実施形態のAE信号検出システムを2系統有し、信号処理部が共通化されている構成を有する。信号処理部は、2系統のデジタルAE信号に対して、図8の(A)のバンドパスフィルタ処理および図8の(B)の回転周期Tの成分を抽出する処理を行い、面取り用砥石20がワークWに接触することにより発生する破砕音に対応するAE信号を検出する処理を行う。例えば、第3実施形態では、2個のAEセンサは、回転中心に対して反対側に設けられるが、回転中心からの距離が異なるので、2個のAEセンサに入る軸受けで発生する雑音の強度が異なるので、その分の補正を行う。また、面取り用砥石20がワークWに接触するポイントからの距離も異なるので、その分の補正も行う。
【0073】
図15は、第4実施形態におけるフランジ30のAEセンサ固定部40に対向する表面を示す図である。図15に示すように、第4実施形態におけるフランジ30の表面には、円環状の溝32と、4個の穴33E−33Hと、が形成される。4個の穴33E−33Hは、フランジ30の回転中心にから等距離に、円環状の溝32に隣接して設けられる。4個の穴33E−33Hには、4個のAEセンサが配置され、円環状の溝32には絶縁した導線37が複数巻き固定され円形コイルを形成する。複数巻きの導線37の両側の一方が4個のAEセンサの上面に、他方が4個のAEセンサの下面に、接続される。円環状の溝32および4個の穴33E−33Hは、図4に示したのと同様に、樹脂により封止される。
【0074】
図16は、第4実施形態において、4個のAEセンサ34E−33H、円形コイル31および円形コイル41により形成される検出回路の構成を示す図である。第4実施形態は、送信側回路60において、4個のAEセンサ34E−33Hが並列に接続されていることが、第1実施形態と異なる。
【0075】
AEセンサは、周波数特性を有し、検出感度が最大になる中心周波数を有する。そこで、検出対象に応じた中心周波数を有するAEセンサを選択して使用することが望ましい。第4実施形態では、中心周波数の異なる複数のAEセンサを用いて周波数範囲を拡大する。
【0076】
図17は、第4実施形態におけるAE信号検出システムの全体構成を示す図である。
【0077】
図17に示すように、第4実施形態におけるAE信号検出システムでは、送信側回路60において、4個のAEセンサ34E−33Hが並列に接続されており、4個のAEセンサ34E−33Hの検出信号が加算器39で加算されて、送信手段38に入力される。これ以外の部分は、第1実施形態と同じである。
【0078】
第4実施形態では、4個のAEセンサ34E−33Hを用いたが、個数は特に制限されず、AEセンサの周波数特性および対称とするAE信号の周波数に応じて適宜決定すればよい。
【0079】
図18は、N個の周波数特性の異なるAEセンサを使用した場合の、AE信号検出システムの周波数に対する合成感度を示す図である。図18に示すように、システムの感度は、各AEセンサの感度を合成した感度であり、検出する周波数範囲が広がる。
【0080】
第1から第4実施形態は、AEセンサおよび回転側の円形コイルをフランジ30に設けたが、砥石20にAEセンサおよび回転側の円形コイルを設けることも可能である。
【0081】
図19は、AEセンサおよび回転側の円形コイルを砥石20に設けた変形例の砥石回転機構の面取り用砥石20の保持部分を示す一部断面図である。
【0082】
スピンドルモータ23は、筐体21に固定される。スピンドルモータ23は、端部に回転体24を有し、回転体24には主軸部26が設けられている。回転体24とエアー軸受け部の隙間は、エアー軸受け部に供給される空気が噴出するスピンドルエアパージ噴出口25である。主軸部26は、テーパ状の先端部を有し、その外周部の先端にネジが形成されている。面取り用砥石20は、主軸部26の先端部26のねじに、ナット29を締結することにより、主軸部26に取り付けられる。
【0083】
筐体21には、支持部材22が取り付けられ、支持部材22にAEセンサ固定部40が取り付けられる。支持部材22およびAEセンサ固定部40は、スピンドルモータ23の回転体24をカバーする形状を有し、AEセンサ固定部40と主軸部26の間には狭いギャプが形成される。また、AEセンサ固定部40の表面および面取り用砥石20の表面は、回転軸に垂直な平面で、AEセンサ固定部40の表面と面取り用砥石20の表面の間には狭いギャップが形成される。
【0084】
支持部材22上のAEセンサ固定部40の周囲には、クーラントガード51が設けられ、加工時に面取り用砥石20に供給されるクーラントが、AEセンサ固定部40の表面と面取り用砥石20の表面の間に侵入するのを防止する。また、支持部材22の側面には、複数箇所に、パージエアー排出口52、53が設けられる。
【0085】
面取り用砥石20のAEセンサ固定部40と対向する表面には、主軸部26を中心とする円環状の溝が形成され、内部に導線が配置され、主軸部26を中心とする円形コイル31を形成する。同様に、AEセンサ固定部40のフランジ30と対向する表面には、主軸部26を中心とする円環状の溝が形成され、内部に導線が配置され、主軸部26を中心とする円形コイル41を形成する。AEセンサは、第1から第4実施形態と同様に設けられる。
【0086】
以上説明した第1から第4実施形態および変形例のウェーハ面取り装置では、高速回転する面取り用砥石20がウェーハ等に接触することにより発生する研削の破砕音のAE信号を、高いS/N比で検出することができる。このような高いS/N比のAE信号を利用することにより、以下に説明するような応用が可能である。
【0087】
(1)面取り加工を適切に効率よく行うには、加工条件や砥石の表面状態を適切に管理する必要がある。例えば、図11でUで示したように、砥石の表面に目詰まりが生じている場合には、ウェーハは研削されず、すべりが発生する。これは、ウェーハの押し当て力が、研削能力よりも大きい場合も同様である。この時、ウェーハの破砕が進行しないので、AE信号強度は低下する。研削条件は、スピンドルモータの回転数。ウェーハの送り速度、切り込み量を個別にまたは同時に可変し、上記のようにして得られるAE信号の強度が一定レベルになる条件をウェーハ面取り装置が診断することで最適なレシピを作り出すことが可能である。
【0088】
これまで、研削条件のレシピは、多量のテストウェーハを使用して、作製してきた。これに対して、実施形態のウェーハ面取り装置では、上記のように、多量のテストウェーハを使用すること無しに、研削条件のレシピの作成が可能になる。これに応じて、テストによる砥石の負荷も軽減されるので、砥石の寿命(ライフ)も向上する。さらに、スピンドルモータやウェーハテーブルの移動機構への負荷も抑制されるので、機械的な構成部品の故障リスクが軽減される。
【0089】
さらに、砥石との接触点と加工終了点を、AE信号を監視することにより一層正確に見極めることが可能になるので、ウェーハの進入速度、逃げ速度を端出する制御が可能になり、加工のスループットが向上し、生産性が向上する。
【0090】
特許文献3に記載されるように、面取り加工の面幅調整のため、砥石溝に対してウェーハを微小量切り込み、上下移動させる。その際、AE信号が均一になるポイントを検出することで、溝中心を割り出することができ、調整によるダウンタイムを軽減できる。
【0091】
さらに、面取りを行なうウェーハの直径方向の加工量(取り代)が多い場合には、これまで複数回のパスで研削を行っているが、センタリング誤差により取り代が大きくなることによる問題はこれまで軽減できなかった。実施形態のAE信号を使用すれば、接触点を正確に検出し、測定値との誤差を割り出すことにより、パス数や切り込み量を自動補正し、ウェーハダメージを軽減できる。
【0092】
(2)切れ味の限界点(レベル)を設定しておき、AE信号の変化点を監視して限界点以下になった場合には、自動的にドレッシングが必要と判断することができる。ドレッシングのタイミングを正確に判定すれば、溝の形状が変形する前にドレッシングを実行できるため、砥石のライフが向上する。
【0093】
ドレッシング処理で、一番制御が難しいとされているのは砥石の回転数の制御であるが、これを、AE信号を監視しながら、負荷が一定になるように回転速度制御を行なうことが可能になる。さらに、砥石の切れ味の復活具合に応じて、砥石の回転数を変化させる制御を行なうことも可能である。ドレッシング処理が進むと、砥石の切れ味が上昇するので、AE信号は使用前の砥石のAE信号強度に近い値まで戻る。この数値に達したことを確認してドレッシング処理を終了とする。このように、砥石の切れ味の状態を正確に見極められるので、ドレッシングの時間を短縮でき、ドレッシング砥石の使用量を低減してランニングコストを低減できる。
【0094】
なお、ドレッシング砥石は、一般的にはスティック型が使用され、作業者が手で保持して行なわれるが、ウェーハと同じ形状の円板型のドレッシング砥石を使用し、ウェーハと同じロード/アンロード経路を使用して、ドレッシング砥石をウェーハテーブルに保持してドレッシングを行なうことも可能である。これにより、ドレッシング時期の判定を含めて、すべて自動で行なうことも可能になる。
【0095】
(3)また、面取り用砥石20の溝を所望の形状にするツルーイングでは、AE信号によりツルーイングの負荷ポイントを正確に検出し、ツルアーが最適な当たりとなるように位置制御の座標データにフィードバックすることができる。さらに、AE信号を監視し、溝形成の進展具合に応じて、AE信号が低下もしくは無くなったところでツルーイングの終了ポイントとして判定することができる。これにより、ツルーイングに要する時間の短縮、およびツルアーのライフの向上および砥石のライフの向上が図れる。
【0096】
以上、本発明の実施例を説明したが、各所の変形例が可能であるのはいうまでもない。
【符号の説明】
【0097】
10 ウェーハテーブル
20 面取り用砥石
23 スピンドルモータ
26 主軸部
30 フランジ
31 円形コイル(送信手段)
34 AEセンサ
40 AEセンサ固定部
41 円形コイル(受信手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウェーハを保持して回転するウェーハテーブルと、前記ウェーハのエッジに接触する面取り用砥石を保持して回転する砥石回転機構と、を備えるウェーハ面取り装置であって、
前記砥石回転機構は、前記面取り用砥石を含む回転ユニットと、固定ユニットと、を備え、
前記回転ユニットは、AEセンサと、前記AEセンサに接続された送信手段と、を備え、
前記固定ユニットは、前記回転ユニットに対向して設けられ、前記送信手段と通信する受信手段と、前記受信手段の電気信号を処理する信号処理回路と、を備え、
前記信号処理回路は、前記受信手段の電気信号を増幅するアンプと、前記アンプの出力するアナログ信号をデジタル信号に変換するAD変換器と、前記デジタル信号を処理するデジタル処理回路と、を備え、
前記デジタル処理回路は、低周波数成分を除去するフィルタリング処理を行い、さらに前記回転ユニットの回転周期に対応した信号変化を抽出する処理を行うことを特徴とするウェーハ面取り装置。
【請求項2】
前記回転ユニットは、回転軸に固定され、前記面取り用砥石が取り付けられるフランジを備え、
前記AEセンサおよび前記送信手段は、前記フランジに設けられる請求項1記載のウェーハ面取り装置。
【請求項3】
前記面取り用砥石は、前記回転ユニットの回転軸に固定され、
前記AEセンサおよび前記送信手段は、前記面取り用砥石に設けられる請求項1記載のウェーハ面取り装置。
【請求項4】
前記送信手段および前記受信手段は、前記回転ユニットの回転軸に対して同心円状に設けられたコイルである請求項1から3のいずれか1項記載のウェーハ面取り装置。
【請求項5】
前記送信手段および前記受信手段のぞれぞれは、前記回転ユニットの回転軸に対して同心円状に設けられた2個のコイルを備え、
前記回転ユニットは、前記送信手段の前記2個のコイルにそれぞれ近接して配置され、且つ前記回転ユニットの回転軸を通る直線上の前記回転軸に対して反対側の配置された2個の前記AEセンサを備える請求項4記載のウェーハ面取り装置。
【請求項6】
前記回転ユニットは、前記コイルに近接して配置された周波数特性の異なる複数個の前記AEセンサを備え、
前記複数個のAEセンサは、前記送信手段に並列に接続される請求項4記載のウェーハ面取り装置。
【請求項7】
前記信号処理回路は、前記受信手段の前記2個のコイルに発生する電気信号をそれぞれ増幅する2個のアンプと、前記2個のアンプの出力するアナログ信号をそれぞれデジタル信号に変換する2個のAD変換器と、を備え、
前記デジタル処理回路は、前記2組のデジタル信号の直流雑音成分を除去するフィルタリング処理、前記2組のデジタル信号の前記2個のAEセンサの前記回転軸に対する半径位置の差を補正する処理、および前記2個のAEセンサの回転に伴う前記関係を行う前記ウェーハと前記面取り用砥石の接触位置に対する変化による差を抽出する処理を行う請求項5記載のウェーハ面取り装置。
【請求項8】
前記信号処理回路の処理結果に基づいて、前記面取り用砥石の表面状態または前記面取り用砥石による前記ウェーハの加工状態を判定する判定回路をさらに備える請求項1から7のいずれか1項記載のウェーハ面取り装置。
【請求項9】
ウェーハを保持して回転するウェーハテーブルと、前記ウェーハのエッジに接触する面取り用砥石を保持して回転する砥石回転機構と、を備えるウェーハ面取り装置であって、
前記砥石回転機構は、前記面取り用砥石を含む回転ユニットと、固定ユニットと、を備え、
前記回転ユニットは、AEセンサと、前記AEセンサに接続された送信手段と、を備え、
前記固定ユニットは、前記回転ユニットに対向して設けられ、前記送信手段と通信する受信手段と、前記受信手段の電気信号を処理する信号処理回路と、を備え、
前記回転ユニットは、前記回転ユニットの回転軸に対して対称に配置されるように、前記回転ユニットに固定された2個の前記AEセンサを備え、
前記2個のAEセンサは、前記通信手段に並列に接続され、
前記信号処理回路は、前記受信手段の電気信号を増幅するアンプと、前記アンプの出力するアナログ信号をデジタル信号に変換するAD変換器と、前記デジタル信号を処理するデジタル処理回路と、を備え、
前記デジタル処理回路は、低周波数成分を除去するフィルタリング処理を行うことを特徴とするウェーハ面取り装置。
【請求項10】
ウェーハのエッジの面取りを行なうために、回転状態で前記ウェーハのエッジに接触する面取り用砥石の表面状態または前記面取り用砥石による前記ウェーハの加工状態の検出方法であって、
回転状態の前記面取り用砥石に、前記ウェーハまたはドレス材を接触させ、
前記面取り用砥石を保持して回転する砥石回転ユニットに設けられた送信手段が出力するAEセンサの電気信号を、前記送信手段と通信する固定の受信手段の電気信号として検出し、
前記受信手段の電気信号をデジタル信号に変換し、
前記受信手段のデジタル電気信号に対して、低周波数成分を除去するフィルタリング処理と、前記回転ユニットの回転周期に対応した信号変化を抽出する処理と、をデジタル処理で行ない、
前記デジタル処理結果に基づいて、前記面取り用砥石の表面状態または前記面取り用砥石による前記ウェーハの加工状態を判定することを特徴とする方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【公開番号】特開2013−84795(P2013−84795A)
【公開日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−223970(P2011−223970)
【出願日】平成23年10月11日(2011.10.11)
【出願人】(000151494)株式会社東京精密 (592)
【Fターム(参考)】