説明

ウレアーゼ阻害活性物質の生成方法およびウレアーゼ阻害活性物質

【課題】蒟蒻芋の産業廃棄物となる飛粉からウレアーゼ阻害活性物質を生成する。
【解決手段】蒟蒻芋の製粉時に発生して廃棄物とされる蒟蒻飛粉を、メタノール溶液に浸漬し、減圧濾過してメタノール抽出液を取得し、ついで、前記メタノール抽出液を減圧濃縮した後に加水し、このメタノール溶液を酢酸エチルで抽出して酢酸エチル抽出物を取得し、ついで、前記酢酸エチル抽出物をカラムクロマトグラフィーで分画して、ウレアーゼ阻害活性物質を取得する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はウレアーゼ阻害活性物質の生成方法および該方法で生成されたウレアーゼ阻害活性物質に関する。
【背景技術】
【0002】
ウレアーゼは尿素をアンモニアと二酸化炭素に分解する酵素であり、様々な細菌、菌類、および植物中など自然界の生物に広く分布している。本酵素は1926年にSumnerによりナタマメから初めて結晶化された酵素であり、その後、1975年には活性部位にニッケルを含んだ構造をしていることも明らかにされた。しかし、このような歴史のある酵素であり多くの研究がなされてきたにも関わらず、ウレアーゼの触媒様式はまだ分かっていない部分も多く、更なる研究が期待される酵素でもある。
植物はウレアーゼにより尿素を利用して成長のために必要な窒素源であるアンモニアを生育環境から得ると共に、植物体内においても窒素形態の変換の際に関わっていると推察されている。
【0003】
その一方で、ウレアーゼによって発生したアンモニアによって問題が起こる場合もある。ピロリ菌 (Helicobacter pylori) や腸内細菌科に属するProteus mirabilisのウレアーゼは人間の疾病にも関わっている。
前者のピロリ菌は慢性胃炎、消化性潰瘍と密接な関係があり、通常の細菌が生育できない胃内の強酸性の環境 (pH1〜2) で生育することができることが特徴である。これは菌体表面に存在するウレアーゼにより胃内の尿素をアンモニアに変換し、菌体付近の胃酸を中和し生育に適したpH環境にすることができるためである。
後者のProteus mirabilisは特に尿路感染症患者において認められる細菌である。本細菌の所有するウレアーゼは治療の際に使用される尿道カテーテルを覆う付着物の形成に関わっている。その形成プロセスはピロリ菌と同じくウレアーゼによって生成されるアンモニアが原因のpH変化によって起こる。尿路感染症患者の体内においてProteus mirabilisは治療のために留置されたカテーテルに付着し、バイオフィルムを形成している。菌由来のウレアーゼの作用により体内の尿素からアンモニアが発生し、尿およびバイオフィルムの急激なpH上昇が起こることによってバイオフィルム内のカルシウムおよびマグネシウムのリン酸塩の結晶の析出が起こる。カテーテル内の結晶の析出は、管の閉塞につながったり、腎孟腎炎といったさらなる疾病の原因となる可能性がある。
【0004】
また、農業において、窒素肥料を植物が利用できる窒素源であるアンモニアに変えるウレアーゼは重要であるが、あまりにも迅速に加水分解が起こり、過剰なアンモニアが発生してしまうと、土壌のアルカリ化を引き起こしたり、アンモニアによって植物に損害をあたえたりするといった問題が起こる。
既にウレアーゼ阻害物質として知られているものには、フルオロファミド、ヒドロキシウレア、ヒドロキサム酸、アセトヒドロキサム酸といった化合物が存在する。しかし、中には生体毒性や不安定性を示すものがあり、例えばアセトヒドロキサム酸はラットに対し、催奇性を示すことから実用化には至っていない。
【0005】
以上のことから、ウレアーゼ阻害活性物質は酵素への知見を深めるためにも重要であるだけでなく、医薬品としての利用あるいは農業のための利用といった幅広い応用を見込むことができる。
本発明者は以前から香辛料、糸状菌、食用植物のメタノール抽出物を対象としてナタマメ由来のウレアーゼを用いた酵素阻害試験によりウレアーゼ阻害活性物質を探索してきた。今まで単離されてきた化合物としてはsulfoquinovosyl diacylglycerol、5-geranyloxy-7-methoxycoumarin、5-geranyloxypsolarenなどがある。
【0006】
一方、特開2005−206493号公報(特許文献1)において、「芋類から有機溶媒及び/又は超臨界二酸化炭素により抽出される抽出物を有効成分とする抗ヘリコバクター・ピロリ剤、ヘリコバクター・ピロリ菌を原因とする胃又は十二指腸潰瘍に対する予防剤及び治療剤、ならびに予防用飲食品」が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2005−206493号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
前記特許文献1では、好ましい芋類の例として、蒟蒻芋が挙げられ、抽出溶媒として使用する有機溶媒として酢酸エチルが記載されているが、抽出物中の活性物質の単離および精製の具体的な方法等は開示されていない。
【0009】
本発明は、蒟蒻芋からウレアーゼ阻害活性物質を単離・精製する精製方法等を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を解決するため、第1の発明として、蒟蒻芋の製粉時に発生して廃棄物とされる蒟蒻飛粉を、メタノール溶液に浸漬し、減圧濾過してメタノール抽出液を取得し、
前記メタノール抽出液を減圧濃縮した後に加水し、このメタノール溶液を酢酸エチルで抽出して酢酸エチル抽出物を取得し、
前記酢酸エチル抽出物をカラムクロマトグラフィーで分画して、ウレアーゼ阻害活性物質を取得することを特徴とするウレアーゼ阻害活性物質の生成方法を提供している。
【0011】
前記蒟蒻飛粉は蒟蒻芋から蒟蒻が製造される際の副産物である。蒟蒻飛粉は蒟蒻芋の約40%を占めるが、特有のエグ味や臭いを有するため食用には適さず、産業廃棄物として処理されているのが現状である。
本発明では、スクリーニングの結果、活性が認められた蒟蒻飛粉を有効利用し、蒟蒻飛粉のメタノール抽出物からのウレアーゼ阻害活性物質の単離・精製およびNMRによる構造決定を行っている。
【0012】
前記酢酸エチル抽出物の取得工程では、前記メタノール溶液を分液漏斗を用いて等量の酢酸エチルで複数回抽出することが好ましい。
【0013】
前記カラムクロマトグラフィーでの分画工程では、酢酸エチル抽出物の半分量をワコーゲル C−200に吸着させた後、n-ヘキサンで懸濁させて充填しておいたカラムの上端に載せ、n-ヘキサン-酢酸エチル-メタノール混合溶媒によるステップワイズ法で溶出し、20〜30%の酢酸エチル溶出画分として取得し、
ついで、カラムクロマトグラフィーでの分画工程は、酢酸エチル抽出物の半分量をワコーゲル(Wakogel) C−200に吸着させた後、n-ヘキサンで懸濁させて充填しておいたカラムの上端に載せ、n-ヘキサン-アセトン混合溶媒によるステップワイズ法で溶出し、溶出した6〜15%アセトン溶出画分を前記ウレアーゼ阻害活性物質として取得している。
【0014】
また、第2の発明として、第1の発明の生成方法で取得するウレアーゼ阻害活性物質の炭素鎖長さを測定し、該炭素鎖長さが長くなるに従って強くなるウレアーゼ阻害活性度を測定しているウレアーゼ阻害活性測定方法を提供している。
【0015】
さらに、第3の発明として、第1の発明の生成方法で取得したウレアーゼ阻害活性物質を提供している。
【0016】
前記ウレアーゼ阻害活性物質は、炭素数18〜22の飽和または不飽和脂肪酸を含むものである。また、前記不飽和脂肪酸がドコセン酸であることが好ましい。
【0017】
さらに、本発明は、前記ウレアーゼ阻害活性物質を含む肥料、土壌改良剤を提供している。例えば、土壌改良剤はウレアーゼ阻害活性物質5〜15重量%、窒素0.5〜2%を含有するものとしている。
【0018】
さらに、本発明は前記ウレアーゼ阻害活性物質を含む尿道カテーテルを提供している。
例えば、ウレアーゼ阻害活性物質を脂肪酸のヘキサン溶液に加え、該溶液をカテーテルの表面に塗布し、または、風船カテーテルの形成素材と樹脂に練り込んでいる。
【発明の効果】
【0019】
本発明では、蒟蒻芋を製粉して蒟蒻製品を加工する際に発生する産業廃棄物となる蒟蒻飛粉を利用して、ウレアーゼ阻害活性物質を単離・精製することができ、該ウレアーゼ阻害活性物質は、肥料、土地改良剤、尿道カテーテル等と幅広く用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明のウレアーゼ阻害活性物質の生成方法を示す工程図である。
【図2】(A)(B)はウレアーゼ阻害活性物質のNMRスペクトルを示すグラフである。
【図3】(A)〜(D)はウレアーゼ阻害活性物質のガスクロマトグラフィー分析を示すグラフである。
【図4】リノール酸の阻害率を示すグラフである。
【図5】(A)〜(F)は脂肪酸類の濃度と阻害率との関係より阻害活性を示すグラフである。
【図6】ラインウイバー−バーク プロットのグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
〔ウレアーゼ阻害活性物質の単離・精製〕
図1に示す工程で、こんにゃく芋の飛粉からウレアーゼ阻害活性物質を精製している。
具体的には、蒟蒻飛粉10kgをメタノールに浸漬し、濃縮後、酢酸エチルで分液し、得られた酢酸エチル抽出物を各種混合溶媒系でワコーゲル C−200カラムクロマトグラフィーで精製を進め、ウレアーゼ阻害活性物質を180mg取得している。
以下に、各工程を詳述する。
【0022】
(第一工程#1のメタノール抽出工程)
蒟蒻芋の製粉時に発生して廃棄物とされる蒟蒻飛粉(10kg)を、メタノール溶液(15L)に7日間浸漬し、減圧濾過してメタノール抽出液(10L)を取得した。
【0023】
(第二工程#2の分配抽出工程 )
得られたメタノール抽出液約10Lを約100mlに減圧濃縮した後、水900mlを加え、これを分液漏斗を用いて等量の酢酸エチルで3回抽出した。
酢酸エチル相の阻害率は1000ppm(final)において32%であった。
【0024】
〔酢酸エチル抽出物に含まれる阻害活性物質の分離工程〕
(第三工程#3の濃縮工程)
抽出した酢酸エチルを減圧下濃縮し、酢酸エチル抽出物(15.6g)を取得した。
【0025】
(第四工程#4でワコーゲルC−200カラムクロマト工程)
第三工程で得られた酢酸エチル抽出物15.6gの半分量の7.8gをワコーゲル C−200(15.6g)に吸着させた後、あらかじめn-ヘキサンで懸濁させ充填しておいたカラム (78g)の上端にのせ、n−ヘキサン−酢酸エチル−メタノール混合溶媒系(100% n−ヘキサン、20%、30%、40%、0%、100% 酢酸エチル,90%、80%、50%メタノール) によるステップワイズ法で溶出した。
ウレアーゼ阻害活性試験を行い、活性物質を含む画分の確認を行った。その結果、20%〜30% 酢酸エチル溶出画分に活性が認められた。
【0026】
(第五工程#5でのワコーゲル C−200カラムクロマト工程)
前記第四工程で得られた20%〜30% 酢酸エチル溶出画分4gを前段階と同様にワコーゲル C−200 (6g) に吸着させた後、あらかじめn-ヘキサンで懸濁させ充填しておいたカラム (40g) の上端にのせ、n-ヘキサン-アセトン混合溶媒系による3%ステップワイズ法で溶出した。ウレアーゼ阻害活性試験を行い、活性物質を含む画分の確認を行ったところ、6〜15%アセトン溶出画分に強い阻害が認められた。
【0027】
(第六工程#6でのワコーゲル C−200カラムクロマト)
第五工程で得られた画分のうち最も量の多かった6%アセトン溶出画分について、前段階と同様にワコーゲルC−200(4.5g) に吸着させた後、あらかじめn-ヘキサンで懸濁させ充填しておいたカラム (30g) の上端にのせ、n-ヘキサン-アセトン混合溶媒系による1% ステップワイズ法で溶出した。ウレアーゼ阻害活性試験を行い、活性物質を含む画分の確認を行った。その結果7% アセトン溶出画分にて活性物質が180mg得られた。
【0028】
前記のように、蒟蒻飛粉10kgから得られたメタノール抽出物を溶媒分画したところ、酢酸エチル相に活性が認められた。酢酸エチル相を減圧濃縮後、ワコーゲルC−200カラムクロマトグラフィーで精製を進めた。その結果、ウレアーゼ阻害活性物質を180mg得た。精製には、ナタマメ由来のウレアーゼを用いた酵素阻害試験、TLCにおける紫外線吸収、および硫酸試薬による呈色を指標とした。
【0029】
〔ウレアーゼ阻害活性物質について構造解析および化合物の同定〕
前記工程で蒟蒻飛粉から取得したウレアーゼ阻害活性物質の構造解析および構造決定について以下に説明する。
【0030】
構造解析および構造決定を行う実験方法として、下記のNMRスペクトル解析とガスクロマトグラフィー分析方法とを採用した。
【0031】
(NMRスペクトル解析)
ウレアーゼ阻害活性物質を真空ポンプにて減圧乾燥させ溶媒を除去し、NMR測定用溶媒のCDClに溶解させた。これを日本電子製JNM−AL400を用いてH−NMRスペクトル、13C−NMRスペクトルを測定した。ケミカルシフト値はNMR測定溶媒のシグナルを内部標準とし、δで示した。
【0032】
(ガスクロマトグラフィー分析)
NMRスペクトルの結果から活性物質がリノール酸と強く示唆された。
そこで、ガスクロマトグラフィー分析を行い、脂肪酸の標品と比較することで活性物質の同定を行った。
活性物質約10mgをMeOH2mlに溶かし、メチル化剤Trimethyl silyl diazo methane 2.0 M Solution in hexaneを0.5ml加えた。
5分間スターラーバーで攪拌しながら反応させた後、H−NMRで反応が進んでいることを確認した。
活性物質の脂肪酸メチルエステルを6mg得た。この得られた脂肪酸メチルエステルをガスクロマトグラフィー[カラム:TC−FFAP(φ0.25×60 mm),キャリヤーガスN流量:1.18ml/min,カラム温度:昇温120→240℃(10℃/min),検出器:FID]で分析を行った。
【0033】
前記NMRスペクトル解析から、図2(A)に示す、13C−NMRスペクトルのδ180.4のシグナルからカルボキシル基、δ128.7〜130.2のシグナルから二重結合が二つ存在することがわかった。
また、図2(B)に示す、H−NMRスペクトルのδ0.87のシグナルからアルキル鎖末端メチルプロトンが3H分、δ1.30付近の重なったシグナルからメチレンプロトンが14H分、δ 1.60のシグナルからカルボキシル基β位のメチレンプロトンが2H分、δ 2.03のシグナルからアリル位のメチレンプロトンが4H分、δ 2.33のシグナルからカルボキシル基のα位のメチレンプロトンが2H分、δ 2.75のシグナルから二重結合にはさまれたメチレンプロトンが2H分、そしてδ 5.34のシグナルからオレフィンプロトンの存在することがわかった。
以上のスペクトルより、活性物質がリノール酸であることが示唆された。標品リノール酸のNMRの比較でもその可能性は強く示唆された。
【0034】
単離されたウレアーゼ阻害活性物質をメチル化した後、図3(A)〜(D)に示すように、ガスクロマトグラフィー分析に供し、脂肪酸標品の保持時間を比較した。
リノール酸標品の保持時間12.87minと活性物質の主成分の保持時間12.90minが一致したので、この活性物質をリノール酸であると同定した。
その他の混合物に関して、保持時間12.35minのピークはオレイン酸、保持時間13.56minのピークはリノレイン酸であると同定された。保持時間10.27minのピークを示す物質は同定できなかった。しかし、リノール酸と活性物質の活性が同程度であったため、活性の中心がリノール酸であることは確認された。
【0035】
単離されたウレアーゼ阻害活性物質のNMRスペクトルを以下に示す。
H−NMR(400MHz,CDCl)δ0.87(3H,t),1.30(14H,m),1.61(2H,quint),2.03(4H,q),2.33(2H,t),2.75(2H,m),5.34(4H,m)。
13C−NMR(100MHz,CDCl)δ14.0,22.6,24.6,25.6,27.2,27.2,29.0,29.0,29.1,29.3,29.6,31.5,34.0,127.8,128.0,130.0,130.2,180.0。
標品リノール酸のNMRスペクトルを以下に示す。
H−NMR(400MHz,CDCl)δ0.87(3H,t),1.30(14H,m),1.60(2H,quint),2.03(4H,q),2.33(2H,t),2.75(2H,t),5.34(4H,m)。
13C−NMR(100MHz,CDCl)δ14.1,22.6,24.6,25.6,27.2,27.2,29.0,29.1,29.1,29.3,29.6,31.5,34.1,127.9,128.1,130.0,130.2,180.4。
【0036】
〔活性物質のウレアーゼ阻害活性測定法〕
次に、前記蒟蒻飛粉から単離、精製した活性物質のウレアーゼ阻害活性測定方法について説明する。具体的には、前記単離されたリノール酸の活性の強度を測定している。
【0037】
以下の試薬を調製する。
(緩衝液の調製)
MES 5.331gをミリQ水250mlに溶かし、0.1 M NaOHを加えてpH6.0に調整した。
(酵素の調製)
Jack bean由来のurease(東洋紡製)を用いた。20mM KH2PO40.136gをミリQ水50mlに溶かしたものに、0.02M NaOHを加えてpH7.0に調整した。
以下の操作は氷冷しながら行った。それに0.5 M EDTA 1mlを加え、ミリQ水で100mlにfill upした(A)。
5%BSA 40μlに(A)を960μl加える(B)。
(A)49.5mlに(B)を500μl加えたものにurease7.5mgを溶かしたものをエッペンチューブに700μlずつ分注したものを冷蔵庫に保存しておき、使用する直前にこれを10倍希釈したものを酵素溶液とした。
(発色試薬の調製)
フェノール5gとニトロプルシドナトリウム25mgをミリQ水に溶解し、500mlにしたものを発色液Aとした。NaOH5gをミリQ水500mlに溶解し、使用する直前に、この溶液19.7mlに次亜塩素酸ナトリウム溶液0.3mlを加えたものを発色液Bとした。
(ureaの調整)
urea 12.0mgをミリQ水100mlに溶かしたのち、10倍希釈して0.2mMの溶液とした。
【0038】
(実験方法)
酵素反応には以下に示す試薬を用いた。
緩衝溶液に30mM(final) MES buffer(pH6.0)を用いた。
基質に0.20mM ureaを用いた。緩衝溶液1.2mlにメタノール(コントロール)あるいはサンプル0.1mlを加えたものに酵素0.2mlを加え、37℃で5分間プレインキュベートした。
次いで、基質0.5mlを加えて反応を開始し、37℃で20分間インキュベートした後、反応溶液に発色液A,Bをそれぞれ1mlずつ加え、37℃でさらに30分間インキュベートした。
そして、発生したアンモニアの量を640nmにおける吸光度により測定した。
即ち、この系に阻害剤を加えて、未添加のコントロールとの比較から阻害活性を求めた。阻害率の算出は下記の式を用いた。
なお、吸光度の測定には島津製作所のuv mini-1240 uv-vis spectrophotometerを用いた。
阻害率 (%) = { (Abs.640 control - Abs.640 sample)/ Abs.640 control }×100
【0039】
単離されたリノール酸についてウレアーゼ阻害活性試験を行った。
その結果を図4に示す。リノール酸のIC50は85.0μMであった。これに対し、ウレアーゼ阻害物質として知られているアセトヒドロキサム酸のIC50は20.0 μMであった。よって、今回単離されたリノール酸の活性は強いとは言えないものであった。
【0040】
〔ウレアーゼ阻害活性に対する脂肪酸の構造活性相関〕
前記単離された活性物質がリノール酸であったことから、脂肪酸の構造活性相関を調べた。
具体的には、異なる構造の脂肪酸について炭素鎖長さを測定し、該炭素鎖長さが長くなるに従って強くなるウレアーゼ阻害活性度を測定している。
【0041】
(実験方法)
炭素鎖の長さによる相関を調べるためにヘキサデセン酸 (16:1)オレイン酸 (18:1)、エイコセン酸 (20:1)、ドコセン酸 (22:1)のIC50を求めた。
二重結合の数による相関を調べるためにオレイン 酸 (18:1)、リノール酸 (18:2)、リノレイン酸 (18:3)のIC50を求めた。また、脂肪酸メチルエステルにも活性があるか調べるためにリノール酸メチルエステルのIC50を求めた。
【0042】
前記実験の結果を図5(A)〜(F)に示す。
比較すると、炭素鎖が長くなるにつれて活性が強くなっていることがわかる。一方で、二重結合の数の違いによる大きな活性の違いは見られなかった。
また、リノール酸メチルエステルにもリノール酸と同程度の活性が見られた。これらの結果から、脂肪酸のウレアーゼ阻害活性は炭素鎖の長さに影響を受けていることが示唆された。
脂肪酸は炭素鎖が長いほど活性が強く、特に図5(D)に示すドコセン酸はIC50が14μMであり、アセトヒドロキサム酸よりも活性が強い。炭素鎖が長くなるにつれて活性が強くなる原因として、脂肪酸のウレアーゼ阻害が疎水性相互作用によって影響を受けていることが考えられる。
前記結果より、ウレアーゼ阻害活性物質は、炭素数18〜22の飽和または不飽和脂肪酸を含むものであり、前記不飽和脂肪酸がドコセン酸であることが好ましいことが示唆された。
【0043】
〔リノール酸のウレアーゼに対する阻害様式の解析〕
(実験方法)
前記活性物質のウレアーゼ阻害活性測定法で用いた試薬を調製した。
酵素反応には以下に示す試薬を用いた。
緩衝溶液に30mM(final) MES buffer(pH6.0)を用いた。基質に0.20mM ureaを用いた。緩衝溶液1.2mlにメタノール(コントロール)を0.1ml加えたものに酵素0.2mlを加え、37℃で5分間プレインキュベートした。
次いで、基質0.5mlを加えて反応を開始し、37℃で0、5、15、20分間インキュベートした後、反応溶液に発色液A,Bをそれぞれ1mlずつ加え、37℃でさらに30分間インキュベートした。
そして、発生したアンモニアの量を640nmにおける吸光度により測定した。
アンモニア量の測定はあらかじめアンモニア量と吸光度Abs640nmの検量線を作成しておき、吸光度からアンモニア発生量を求めた。酵素反応時間とアンモニア発生量から初速度を求めた。
同様にして、基質であるureaの濃度を0.1、0.125、0.143、0.25、0.5mMとした場合の初速度を求めた。そして、横軸に基質の濃度分の1、縦軸に初速度分の1をプロットすることでラインウイバー−バーク プロットを作成した。
次に、この系にメタノールのかわりに終濃度70、140μMのリノール酸を加え同様にラインウイバー−バーク プロットを作成した。
【0044】
実験結果により作成したラインウイバー−バーク プロットを図6に示す。
図6に示すように、Kmは変化せず、Vmaxは減少していることがわかり、リノール酸のウレアーゼに対する阻害が非競合阻害であることが示された。
非競合阻害剤は酵素にも酵素基質複合体にも結合する。この型の阻害剤は基質アナログではなく、基質と同じ部位には結合しない。
このような非競合阻害はアロステリック酵素のなかに例が知られている。このような非競合阻害剤は酵素のコンホメーションを変化させ、基質は結合できるが、反応を触媒できない形に変えているのだと考えられている。
リノール酸を始め前記ウレアーゼ阻害活性がある脂肪酸は、基質である尿素とは構造は似ていない。このことからも脂肪酸がウレアーゼに対し、競合的ではなく非競合的に阻害を示していることを予想することができる。
【0045】
前記した本発明の前記蒟蒻飛粉から生成するウレアーゼ阻害活性物質は、肥料、土壌改良剤として好適に用いられる。例えば、土壌改良剤はウレアーゼ阻害活性物質5〜15重量%、窒素0.5〜2%を含有するものとしている。
【0046】
さらに、ヒトに対し尿路感染症を引き起こすProteus mirabilisはウレアーゼによって発生させたアンモニアによってpHを上昇させ、尿路感染症治療に用いられるカテーテルに付着物がついたり、チューブの塞栓が起こったりといった問題が引き起こされる。これはカテーテル付近に感染したProteus mirabilisによってpHが上昇すると、周辺に存在するカルシウムおよびマグネシウム酸塩の結晶化が起こるためである。
よって、蒟蒻飛粉から取得したウレアーゼ阻害活性物質を、脂肪酸のヘキサン溶液に加え、該溶液をカテーテルの表面に塗布し、または、風船カテーテルの形成素材と樹脂に練り込んで、カテーテルの構成要素として好適に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
蒟蒻芋の製粉時に発生して廃棄物とされる蒟蒻飛粉を、メタノール溶液に浸漬し、減圧濾過してメタノール抽出液を取得し、
前記メタノール抽出液を減圧濃縮した後に加水し、このメタノール溶液を酢酸エチルで抽出して酢酸エチル抽出物を取得し、
前記酢酸エチル抽出物をカラムクロマトグラフィーで分画して、ウレアーゼ阻害活性物質を取得することを特徴とするウレアーゼ阻害活性物質の生成方法。
【請求項2】
前記酢酸エチル抽出物の取得工程では、前記メタノール溶液を分液漏斗を用いて等量の酢酸エチルで複数回抽出している請求項1に記載のウレアーゼ阻害活性物質の生成方法。
【請求項3】
前記カラムクロマトグラフィーでの分画工程では、酢酸エチル抽出物の半分量をワコーゲル C−200に吸着させた後、n-ヘキサンで懸濁させて充填しておいたカラムの上端に載せ、n-ヘキサン-酢酸エチル-メタノール混合溶媒によるステップワイズ法で溶出し、20〜30%の酢酸エチル溶出画分として取得し、
ついで、カラムクロマトグラフィーでの分画工程は、酢酸エチル抽出物の半分量をワコーゲル C−200に吸着させた後、n-ヘキサンで懸濁させて充填しておいたカラムの上端に載せ、n-ヘキサン-アセトン混合溶媒によるステップワイズ法で溶出し、溶出した6%〜15%アセトン溶出画分を前記ウレアーゼ阻害活性物質として取得している請求項1または請求項2に記載のウレアーゼ阻害活性物質の生成方法。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の生成方法で取得するウレアーゼ阻害活性物質の炭素鎖長さを測定し、該炭素鎖長さが長くなるに従って強くなるウレアーゼ阻害活性度を測定しているウレアーゼ阻害活性測定方法。
【請求項5】
請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の生成方法で取得したウレアーゼ阻害活性物質。
【請求項6】
炭素数18〜22の飽和または不飽和脂肪酸を含む請求項5に記載のウレアーゼ阻害活性物質。
【請求項7】
前記脂肪酸がドコセン酸である請求項6に記載のウレアーゼ阻害活性物質。
【請求項8】
請求項5乃至請求項7のいずれか1項に記載のウレアーゼ阻害活性物質を含む肥料。
【請求項9】
請求項5乃至請求項7のいずれか1項に記載のウレアーゼ阻害活性物質を含む土壌改良剤。
【請求項10】
請求項5乃至請求項7のいずれか1項に記載のウレアーゼ阻害活性物質を含む尿道カテーテル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−63571(P2011−63571A)
【公開日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−218131(P2009−218131)
【出願日】平成21年9月18日(2009.9.18)
【出願人】(597030408)
【出願人】(593188431)株式会社オーカワ (5)
【Fターム(参考)】