説明

エアバッグ用基布、エアバッグ装置、及びエアバッグ装置の製造方法

【課題】製造時の作業効率を向上できるとともに、静電気の帯電防止を図る。
【解決手段】エアバッグ用基布221は、経糸222と緯糸223とが製織されて構成されており、かつ、経糸222の方向または前記緯糸223の方向の少なくとも一方向に織り込まれこれら経糸222及び緯糸223から識別されると共に導電性を有する識別導電繊維225を備えている。この識別導電繊維225としては例えばポリマー段階又は製糸段階で着色顔料及び炭化物を練り込み紡糸した繊維を含んでもよい。また識別導電繊維225に代えて識別制電繊維を用いてもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車等の衝突時に乗員の安全を確保するためのエアバッグに使用されるエアバッグ用基布、エアバッグ装置、及びエアバッグ製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、搭乗者及び同乗者の安全を確保するために、自動車のエアバッグ装置として、運転席用エアバッグ、助手席用エアバッグ、サイドエアバッグ、後席エアバッグ、ニーエアバッグ、カーテンエアバッグなど各種のエアバッグ装置が既に使用されている。
【0003】
このエアバッグ装置に使用されるエアバッグ用基布は、いずれも互いに交差する方向に延びる縦糸(経糸)と横糸(緯糸)とからなる単層の織布によって形成されている。エアバッグを製造する際には、通常、まず作図工程においてエアバッグ形状に合わせて基布上に機械的にパターンを作図した後、裁断工程でその作図したパターンに沿って基布を裁断する。その後、縫合工程で上記裁断された基布を組み合わせて縫合し、袋状のバッグを形成する(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
この従来技術では、上記の一例である運転者用エアバッグの製造時において、インフレータ側(エアバッグモジュール側)に取り付けられる略円形状のフロント側基布と、運転者に対向するように配置される略円形状のリヤ側基布とを縫合して袋状としている。そしてこの際に、フロント側基布の縦糸方向及び横糸方向と、リヤ側基布の縦糸方向および横糸方向とを、それぞれ互いに略45°の角度で交差するようにして縫合することにより、バッグの引き裂き強度を均一化させるよう図られている。
【0005】
【特許文献1】特許第3028524号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記従来技術では、縫合する基布の縦糸方向及び横糸方向を、互いに略45°の角度で交差するようにして縫合する必要がある。しかしながら、一旦裁断した後の基布の製織方向の判別は困難であり、そのままでは基布の製織方向を間違えて組み合わせて縫合するのを防止するために多大な労力が必要となり、製造時における作業効率が低下する。
【0007】
一方、上記エアバッグ装置は、そのほとんどが合成繊維、金属、及び合成樹脂の材料からできており、合成繊維のバッグは疎水性でかつ絶縁性であって、折り畳まれて収納されている。このため、自動車の運転時の振動や揺れによりバッグの折畳み部位や巻き込み部位において近接する合成繊維布帛間又は合成繊維同士に静電気をかなり発生させる。このようなバッグに帯電した静電気は自動車のエンジンを停止すれば徐々に放電していくが、自動車の運転時では、バッグに帯電する静電気が増加していき、エアバッグ装置内の不特定の部分で蓄積され、不測時に静電気放電が発生する虞がある。
【0008】
今日、自動車には電子制御機器が多く搭載されており、これら電子制御機器の例えば、作動電圧は除々に小さくなって、パッケージ内の素子に対する微弱な電磁波にも影響されやすくなっている。このため、バッグに帯電した静電気が放電すると、その電磁波ノイズにより自動運転制御システムのCPUに誤動作が生じて、プログラムエラーが生じたり、ナビゲーションシステム及びAV機器に誤動作が生じたり、オーディオシステムに電気的干渉すなわち雑音や画像歪みが生じて搭乗者に不快感を与える虞がある。また、バッグに蓄積された静電気の帯電圧が高いと、静電気放電により乗員に不快感を与える虞もある。また、静電気放電のスパークがインフレータの近傍で発生するのはエアバッグの円滑な作動の確保上、好ましくない。したがって、エアバッグに発生する静電気の帯電を防止する必要がある。
【0009】
本発明の目的は、製造時の作業効率を向上できるとともに、静電気の帯電防止を図れるエアバッグ用基布及びエアバッグ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、第1の発明は、経糸と緯糸とが製織されたエアバッグ用基布であって、前記経糸の方向または前記緯糸の方向の少なくとも一方向に織り込まれ、これら経糸及び緯糸から識別されると共に導電性を有する識別導電繊維を備えていることを特徴とする。
【0011】
本願第1の発明においては、一旦裁断した後のエアバッグ用基布の製織方向を、経糸方向又は緯糸方向の少なくとも一方に織り込まれた識別導電繊維により識別できるので、製造時における作業効率を向上できる。また、その識別導電繊維のコロナ放電により帯電した静電気を例えば逸散させる回路へと導くか若しくは接地手段等で連続的に安全な低レベルまで緩和できるので、エアバッグ用基布に発生する静電気の帯電が防止される。
【0012】
第2の発明は、上記第1の発明において、前記識別導電繊維はポリマー段階又は製糸段階で着色顔料及び炭化物を練り込み紡糸した繊維を含むことを特徴とする。
【0013】
ポリマー又は製糸段階で着色顔料を練り込むことにより、その着色の色で視覚的に識別することができる。また、炭化物により導電性が付与されることで合成繊維同士のコロナ放電効果により帯電した静電気を緩和することができる。
【0014】
第3の発明は、上記第1又は第2の発明において、JIS L 1094に規定された摩擦帯電圧測定法により測定した最大摩擦帯電圧が100V未満であることを特徴とする。第4の発明は、上記第3の発明において、前記最大摩擦帯電圧が50V以下であることを特徴とする。
【0015】
JIS規格での測定法で最大摩擦帯電圧を100V未満(好ましくは50V以下)とすれば、確実に良好な帯電防止効果を得ることができる。
【0016】
第5の発明は、上記第1の発明において、前記識別導電繊維に代えて、前記経糸の方向または前記緯糸の方向の一方向に織り込まれ、これら経糸及び前記緯糸から識別されると共に制電性を有する識別制電繊維を備えることを特徴とする。
【0017】
本願第5の発明においては、一旦裁断した後のエアバッグ用基布の製織方向を、経糸方向又は緯糸方向に織り込まれた識別導電繊維により識別できるので、製造時における作業効率を向上できる。また、その制電性繊維の制電効果により帯電した静電気を拡散、分散あるいは中和減衰できるので、エアバッグ用基布に発生する静電気の帯電が防止できる。
【0018】
第6の発明は、上記第1乃至第5の発明のいずれか1つにおいて、前記識別導電繊維又は識別制電繊維の両端のうち少なくとも一方側はアース回路に接続されていることを特徴とする。
【0019】
これにより、エアバッグ用基布に帯電した静電気をアース回路を介してグランドに流して、エアバッグ用基布の電圧をグランドレベルまで緩和することが可能となる。したがって、静電気の帯電を防止できる。
【0020】
第7の発明のエアバッグ装置は、経糸と緯糸とが製織されて構成されるとともに、前記経糸の方向または前記緯糸の方向の少なくとも一方向に織り込まれこれら経糸及び緯糸から識別されかつ導電性を有する識別導電繊維又は識別制電繊維を備えたエアバッグ用基布と、前記エアバッグ用基布を膨張展開させるための圧力流体を噴出するインフレータとを備えたことを特徴とする。
【0021】
インフレータからの圧力流体をエアバッグ用基布に供給して膨張展開させ、乗員又は同乗者の保護を図る。エアバッグ装置各部の合成繊維部分に静電気が発生しても、基布に織り込まれた識別導電繊維のコロナ放電又は識別制電繊維の制電効果により静電気の帯電が防止される。この結果、自動車の衝突時においてエアバッグの円滑な作動が確保でき、また乗員に不快感を与えることがない。また製造時において基布の製織方向が識別導電繊維又は識別制電繊維により識別できるので、作業効率を向上できる。
【0022】
第8の発明のエアバッグ装置の製造方法は、経糸と緯糸とが製織されて構成されるとともに、前記経糸の方向または前記緯糸の方向の少なくとも一方向に織り込まれこれら経糸及び緯糸から識別されかつ導電性を有する識別導電繊維又は識別制電繊維を備えたエアバッグ用基布に、エアバッグ形状に合わせた表側パターン及び裏側パターンを作図する作図工程と、前記エアバッグ用基布の前記表側パターン及び前記裏側パターンに沿って表側基布及び裏側基布を裁断する裁断工程と、前記表側基布と裏側基布に所定の加工を施す加工工程と、前記所定の加工が施された表側基布と裏側基布とを袋状のバッグに縫合する縫合工程と、前記バッグを所定の順序で展開可能なように折畳む折り畳み工程と、前記バッグを車両に取り付ける取り付け工程とを有し、前記裁断工程、加工工程、縫合工程、折り畳み工程、及び取り付け工程のうち少なくとも1つの工程の作業時に、前記識別導電繊維又は識別制電繊維を製織方向を示す基準線として用いることを特徴とする。
【0023】
本願第8の発明では、裁断、加工、縫合、折り畳み、及び取り付けの少なくとも1つの工程の作業時において、基布に織り込まれた識別導電繊維又は識別制電繊維を製織方向を示す基準線として用いて、製織方向を容易に識別できるので、当該工程の作業効率を向上できる。また、エアバッグ装置各部の合成繊維布帛間又は合成繊維同士に静電気が発生しても、上記識別導電繊維のコロナ放電又は識別制電繊維の制電効果により静電気の帯電が防止される。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、エアバッグ用基布の製織方向が容易に識別できるので、製造時における作業効率を向上できる。また、エアバッグ用基布に織り込まれた導電性あるいは制電性繊維により静電気の帯電が防止される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、本発明の一実施形態を図面を参照しつつ説明する。
【0026】
図1は本発明の一実施形態によるエアバッグ用基布を備えたカーテンエアバッグを有するカーテンエアバッグ装置を、自動車に取り付けた状態を説明する図である。
【0027】
図1において、自動車(車両)1の室内の天井部と側面部との交叉隅部に、カーテンエアバッグ装置が取り付けられている。このカーテンエアバッグ装置は、自動車のルーフサイドレール2に取り付けられ、乗員の頭部を自動車1の側面衝突時や横転時等に保護するエアバッグ20と、このエアバッグ20の後端部側よりエアバッグ20にガスを供給するインフレータ10と、衝突を検知してインフレータ10に点火信号を送る検知センサ(図示せず)と、上記インフレータ10とエアバッグ20の後端側とをCピラー13に固定するブラケット11及びボルト12とを有している。
【0028】
なお、カーテンエアバッグ20の取り付け箇所はルーフサイドレール2に限定されるものではなく、Aピラー15、Bピラー14、Cピラー13等であってもよい。
【0029】
図2(a)は、カーテンエアバッグの詳細構造を表す一部断面で表す斜視図であり、図2(b)はそのカーテンエアバッグ本体21を抽出して示す図である。
【0030】
これら図2(a)及び図2(b)において、カーテンエアバッグ20は、細長い略楕円柱形断面形状を呈するようにつづら折り状に折り畳まれたカーテンエアバッグ本体21と、該カーテンエアバッグ本体21を覆うカバー(被覆部材)22を有する。
【0031】
カーテンエアバッグ本体21からは、上方に耳状の取付部23が突設され、この取付部23にボルト等の留付具の挿通孔24が設けられている。この取付部23は、被覆部材22の上面部に設けられた細長いスロット(スリット状開放口)25を通って被覆部材22の上方に延出している。被覆部材22の一方の側面には、カーテンエアバッグ本体21の折り畳み体の長手方向に一列に所定間隔をあけて開口26が設けられており、この開口26を通して被覆部材22の外部からカーテンエアバッグ本体21を目視観察しうるようになっている。
【0032】
なお、カーテンエアバッグ本体21の一端側にはインフレータ10からのガスの導入口(図示略)が設けられるか、又はインフレータ10の挿入口(図示略)が設けられている。また、上記カーテンエアバッグ20は、通常は車両内装材によって覆われている(図示せず)が、この車両内装材はカーテンエアバッグ本体21が膨張するときに断裂したりあるいは車室側に開き出したりしてカーテンエアバッグ本体21が車室内に膨張することを許容するようになっている。
【0033】
図3(a)は、図2中III−III断面による横断面図である。
【0034】
図3(a)及び前述の図2(a)において、カーテンエアバッグ本体21の折り重ね面は略水平方向となっている。そのため、カーテンエアバッグ本体21の折り目や折り重ねにより生じる筋状部分がカーテンエアバッグ本体21の折り畳み体の側面に現われている。
【0035】
また、被覆部材22は、細長い帯状の基布を筒状とし、縫合糸22aによって長手方向の両縁部同士を結合したものである。筒状とされた被覆部材22内にカーテンエアバッグ本体21の折り畳み体が導入され、カーテンエアバッグ20とされる。
【0036】
図3(b)は、図3(a)に示す構造のエアバッグ作動時(詳細は後述)における膨張状態を表す図である。
【0037】
図3(b)において、カーテンエアバッグ本体21は、2枚のエアバッグ用基布221a,221bを重ね合わせ、周縁部を縫合糸221cによって縫合し結合することによりバッグ形状(袋状)としたものである。
【0038】
縫合糸221cは、カーテンエアバッグ本体21が膨張するときには断裂する強度のものとなっている。なお、この縫合糸221cによる縫合の代りに接着や融着などの結合手段を採用してもよい。また、膨張したときのカーテンエアバッグ本体21の厚みが過大とならないようにしたり、あるいはカーテンエアバッグ本体21内にガス通路又は小室を形成したりするために、基布221a,221bの周縁以外の中央側部分同士が縫合等により結合されてもよい。
【0039】
上記構成において、自動車1の衝突時に検知センサによりインフレータ10に点火されてインフレータ10が作動してガスがインフレータ10よりエアバッグ20のエアバッグ本体21に放出されると、エアバッグ本体21は図1中2点鎖線21’で示すように車両のドアに沿って膨張を開始し、被覆部材22を破って展開し、カーテンのように室内の窓などの側面部材に沿って下方に展開し、乗員の頭部や肩等の上半身を受け止める。
【0040】
図4は上記のように展開した状態のエアバッグ本体21′を表す図である。
【0041】
図4において、エアバッグ本体21′のエアバッグ用基布221は経糸222と緯糸223とが製織されており、着色された導電性を有する着色導電繊維225が所定間隔で織り込まれている。エアバッグ用基布221の上端にも着色導電繊維225が設けられており、この導電繊維225の片側(例えば図4中右側)はアース回路に接続されて、最終的に接地電位とされている。なお、経糸222と緯糸223の両方に着色導電繊維225を織り込むのではなく、いずれか一方にのみ織り込むようにしてもよい。
【0042】
以上説明した本実施形態のエアバッグ20のエアバッグ本体21を構成するエアバッグ用基布は、その第1の効果として、製造時における作業効率を向上することができる。以下、このことを詳細に説明する。
【0043】
上記エアバッグ用基布は、例えば以下の工程により製造される。
【0044】
エアバッグ用基布221に用いる合成繊維としては、通常に用いるナイロン66、ナイロン46、ナイロン6(共に420デニール)から選択する。そして、製糸工程において、ポリマーに微粒子(1マイクロメータ単位)に粉砕された炭化物(体積固有抵抗10−3Ω・cm程度)を5%まで練り込み紡糸して着色導電繊維225とし、複数の着色導電繊維225を通常の合成繊維(=着色も導電性加工もしていない合成繊維)と混紡する。
【0045】
次に、製織工程において、通常の合成繊維と着色導電繊維225を混用した経糸222と通常の合成繊維の緯糸223とをウオータージェット織機で製織する。このとき、着色導電繊維225の経糸222は基布221の幅方向に対して例えば1インチ(25mmピッチ)以上の間隔の密度で交織させる。
【0046】
次に、作図工程において、基布221にバッグ形状に合わせて表側パターンと裏側パターンを着色導電繊維225を製織方向の基準線として作図する。これにより、基布221に表側パターンと裏側パターンを製織方向を間違うことなく効率的に作図できる。
【0047】
次に、裁断工程において、基布221から表側パターン及び裏側パターンに沿って表側基布と裏側基布を裁断する。
【0048】
次に、加工工程において、裁断された表側基布と裏側基布のそれぞれのバイアス角度を付与した製織方向に基づいて所定の部材組み付け加工を施す。これにより、裁断された表側基布と裏側基布の製織方向を間違えることなく効率的に所定の加工を施せる。
【0049】
次に、縫合工程において、所定の加工が施された表側基布及び裏側基布のそれぞれの製織方向を合わせて袋状に縫合する。これにより、表側基布と裏側基布とを所定角度に縫製してバッグの脆弱部を生じないようにして、バッグ膨張時の耐破裂性を向上させ得る。
【0050】
次に、折り畳み工程において、バッグを所定の順序で展開できるように折り畳んで被覆部材22に収納して拘束又は形状保持する。なお被覆部材22を用いず、折りたたんだ状態のバッグを(全体を覆うことのない)例えばロープ等の部材で拘束又は形状保持してもよい。その後、取り付け工程において、被覆部材22に収納された状態のバッグ(上記ロープ等の場合は折りたたまれ拘束又は形状保持された状態のバッグ)を完成品のエアバッグ20として着色導電繊維225を基準線として用いてルーフサイドレール2側に所定の取り付け角度で取り付ける。これにより、正確な取り付け角度で効率的に取り付けを実施できる。
【0051】
以上のようにして、作図工程、裁断工程、縫合工程、折り畳み工程、及び取り付け工程等において着色導電繊維225を製織方向を示す基準線として用いることで、熟練者でなくても、製織方向を容易に間違わずに識別でき、各工程の作業効率を高めることができる。
【0052】
一方、本実施形態のエアバッグ用基布221はまた、その第2の効果として、着色導電繊維225によって帯電防止効果を得ることができる。この効果を確認するために、本願発明者等は、本発明のエアバッグ用基布と、対比用の従来のエアバッグ用基布とについて、帯電性試験を行った。以下、その試験内容について具体的に説明する。
【0053】
この帯電性試験は、JIS L 1094(織物及び編物の帯電性試験方法)に規定された摩擦帯電圧測定法に基づきロータリスタチックテスタ(福井工業技術センター所有、興亜商会株式会社製)で実施した。
【0054】
図5は、この試験で用いたロータリスタチックテスタの全体構造を表す図である。図5において、このロータリスタチックテスタは、試験片(供試体)127を取付ける回転ドラム(定速回転体)120と、回転ドラム120の回転駆動力を発生するモータ124と、この駆動力回転ドラム120に伝達するVベルト125と、一端が固定されるとともに他端にテンション負荷用の荷重121を加えた静電気発生用の摩擦布(木綿布)122と、静電気測定用の受電部(検出器)123とを有している。
【0055】
試験では、金属ホルダー126を介し試験片(詳細は後述)127を回転ドラム120に取り付け、この回転ドラム120を回転させながら摩擦布(木綿布)122によって60秒間摩擦し、試験片127に発生した静電気の帯電圧を受電部123で測定した。
【0056】
このときの試験室の測定温湿度状態は、原則として温度20℃、相対湿度(40±2)%RHとし、また、摩擦布122は、JIS L 0803(染色堅ろう度試験用添付白布)に規定された綿布を使用した。
【0057】
また試験片127としては、着色導電繊維225が織り込まれたエアバッグ用基布221により通常のエアバッグを作製して、縦糸方向及び緯糸方向の2水準で100×120mmに裁断し、さらに測定温湿度状態にて24時間エージングしたものを用いた。本発明の試験片127として、下記(実施例1)〜(実施例3)の3種類を用い、従来構造に相当するこれらの比較例の試験片127として、下記(比較例1)〜(比較例5)の5種類を用いた。
【0058】
(実施例1)
420d、72フィラメントの経糸222及び緯糸223をウオータージェット織機で製織し、その際、基布221の経糸222方向に着色導電繊維225を幅方向に亙り25mm毎に織り込み、通常の乾燥工程と200℃の熱収縮安定化処理をした基布221から試験片を作製した。
【0059】
(実施例2)
実施例1と同様にウオータージェット織機で製織し、シリコンベースエマルジョンをコンマコーター塗布し、200℃×15秒乾燥キュアした基布221から試験片を作製した。
【0060】
(実施例3)
実施例1で説明したウオータージェット織機で経糸222打ち込み時にウエイト調整により通常の3倍程度荷重を掛けて高密度に製織した後、2液混合タイプのシリコンベースエラストマーをバックロール上でナイフコーター塗布し、200℃×15秒乾燥キュアした基布221から試験片を作製した。
【0061】
(比較例1)
通常のナイロン66をウオータージェット織機で製織後、2液混合タイプのシリコンベースエラストマーをバックロール上でナイフコーター塗布し、200℃×15秒乾燥キュアした基布を裁断して試験片を作製した。
【0062】
(比較例2)
通常のナイロン66をウオータージェット製織法で製織した市販のノンコートエアバッグ基布を裁断して試験片を作製した。
【0063】
(比較例3)
通常のナイロン66をエアージェット製織法で製織した市販のノンコートエアバッグ基布を裁断して試験片を作製した。
【0064】
(比較例4)
通常のナイロン66をウオータージェット製織法で製織後、シリコンエマルジョンによるコートを行い200℃×15秒熱収縮安定化処理した市販の基布を裁断して試験片を作製した。
【0065】
(比較例5)
通常のナイロン66をラピエ製織法により製織した市販のノンコート基布を3回洗濯処理して自然乾燥してから、裁断して試験片を作製した。
【0066】
図6は、上記(実施例1)〜(実施例3)及び(比較例1)〜(比較例5)の合計8つの試験片について、上記ロータリスタチックテスタによる帯電性試験結果を示す表である。なお、エアバッグ本来の性能に悪影響がないことを確認する意味で、この種のものとしてよく知られている通気試験機(カトーテック社製、型番KES−F8−AP1詳細な図示及び説明は省略)による通気性試験結果を併せて示している。
【0067】
帯電性試験は、各試験片について5回実施し、その測定結果は最大値と最小値を除く3回の測定値の平均値を採用した。また各試験片の経糸222方向の最大帯電圧と緯糸223方向の最大帯電圧とをそれぞれ測定した。単位はボルト(V)である。測定結果が、100Vよりかなり小さい場合は◎で示した、100V以上の場合は×で示した。また通気特性試験は、通常の一般的な性能である0.01〜0.04cc/cm/secが得られた場合、これを図中○で表した。
【0068】
図6において、実施例1では、試験片の経糸222方向の最大帯電圧は24V、緯糸223方向の最大帯電圧は12Vである。実施例2では、同様に16V、8Vであって、実施例1に比べて経糸222方向の最大帯電圧及び緯糸223方向の最大帯電圧が共に小さくなっている。実施例3では経糸222方向の最大帯電圧及び緯糸223方向の最大帯電圧は共に5Vより小さく、実施例2に比べて経糸222方向の最大帯電圧及び緯糸223方向の最大帯電圧が共に小さくなっている。以上のように、実施例1〜3の経糸222方向の最大帯電圧及び緯糸223方向の最大帯電圧は、定常的に帯電防止の効果が得られる100Vよりもさらに小さい50Vも下回っていることが確認できた。
【0069】
一方、比較例1では試験片の経糸222方向の最大帯電圧は10000V以上、緯糸223方向の最大帯電圧は8000V、比較例2では、同様に4000V、5000V、比較例3では、同様に4900V、5500V、比較例4では、同様に7240V、6170V、比較例5では、同様に340V、590Vとなっており、実施例1〜3の経糸222方向及び緯糸223方向の最大帯電圧を大きく上回っていることが確認できた。このことは、一般的に、高絶縁である材料を用いたり、シリコン樹脂でより絶縁性を高めたりする手法が、静電気の発生及び帯電特性をより大きくする傾向となることが示唆されている。
【0070】
以上の結果より、エアバッグ用基布221に上記のように着色導電繊維225を設けることにより、経糸222方向の最大帯電圧及び緯糸223方向の最大帯電圧が小さくなることが確認された。なお、着色導電繊維225に含まれる微粒子炭化物の混合比率を調整すれば、基布221の経糸方向の最大帯電圧及び緯糸方向の最大帯電圧を調整することもできることもわかった。
【0071】
以上の説明より明らかなように、本実施形態のエアバッグ用基布221及びこれを用いたエアバッグ装置によれば、仮に、自動車1のエンジンの駆動により振動や揺れによりエアバッグ20が摩擦されて静電気が発生しても、エアバッグ本体21の着色導電繊維225の静電気放電(コロナ放電)によりエネルギーの消費及び静電気が緩和される。
【0072】
この結果、高電圧下の静電気放電の発生電磁波による自動運転制御システムのCPUやナビゲーションシステム及びAV機器の誤動作に与える影響因子を小さくでき、またオーディオシステムに電気的ノイズの発生も防止され、また高電圧下のスパークがインフレータ10の近傍で発生することも防止される。さらに、自動車の衝突時にエアバッグ20のエアバッグ本体21が膨張、展開して乗員に接触しても、エアバッグ20に帯電する静電気が原因で乗員に不快感を与えることがない。
【0073】
特にこの例では、エアバッグ20に帯電する静電気が着色導電繊維225からアース回路を介してグランドに漏洩されるため、特に上記の効果を確実に得ることができる。
【0074】
また本実施形態では、エアバッグ用基布221の製造時において、各工程において着色導電繊維225を製織方向を示す基準線として用いることで製織方向を容易に間違わずに識別できるので、作業効率を高めることができる。
【0075】
なお、上述の形態は本発明の好適な形態の一例ではあるがこれに限定されるものではなく本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々変形実施可能である。
【0076】
例えば、本実施形態では、導電性繊維はポリマー成形段階で微粒子炭化物を分散したポリマーを紡糸して通常の合成繊維と混紡するようにしたが、これに代えて、体積抵抗率(体積固有抵抗)が10Ω・cm程度より小さい導電性繊維、例えば、炭素繊維を通常の合成繊維に混紡、混繊することもできる。
【0077】
また、着色導電繊維に代えて、着色制電性繊維を使用することもできる。ここで、着色制電性繊維は、例えば、ポリマーまたは製糸段階にポリマーに着色顔料及び制電剤、界面活性剤及びポリアルキレングリコール系重合体とイオン性化合物を練り込む方法で製造することができる。この場合、基布の経糸方向または緯糸方向の一方向に織り込まれた着色制電性繊維が空気中の水分を吸湿して静電気を拡散、分散中和させて帯電を防止することができる。
【0078】
なお、上記実施形態は、本発明をカーテンエアバッグに適用したものであるが、これに限られず、運転席用エアバッグ、助手席用エアバッグ、サイドエアバッグ、ニーエアバッグ、後席用エアバッグなど各種のエアバッグ用基布及びエアバッグ装置の製造方法に適用することができる。また、エアバッグにも限られず、自動車以外の樹脂コート用基布及び樹脂コートなしの基布の製造方法にも適用できるとともに他の製織方法(例えば、エアージェット製織機、ラピエ製織機など)にも応用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0079】
【図1】本発明の一実施形態によるエアバッグ用基布を備えたカーテンエアバッグを有するカーテンエアバッグ装置を、自動車に取り付けた状態を説明する図である。
【図2】図1に示したカーテンエアバッグの詳細構造を表す一部断面で表す斜視図、及びそのカーテンエアバッグ本体を抽出して示す図である。
【図3】図2中III−III断面による横断面図、及びエアバッグ作動時(詳細は後述)における膨張状態を表す図である。
【図4】展開した状態のエアバッグ本体を表す図である。
【図5】帯電性試験で用いたロータリスタチックテスタの全体構造を表す図である。
【図6】各試験片について図5に示したロータリスタチックテスタによる帯電性試験の結果を示す表である。
【符号の説明】
【0080】
20 カーテンエアバッグ
21 エアバッグ本体
22 被覆部材
222 経糸
223 緯糸
221 エアバッグ用基布
225 着色導電繊維

【特許請求の範囲】
【請求項1】
経糸と緯糸とが製織されたエアバッグ用基布であって、
前記経糸の方向または前記緯糸の方向の少なくとも一方向に織り込まれ、これら経糸及び緯糸から識別されると共に導電性を有する識別導電繊維を備えていることを特徴とするエアバッグ用基布。
【請求項2】
請求項1記載のエアバッグ用基布において、
前記識別導電繊維はポリマー段階又は製糸段階で着色顔料及び炭化物を練り込み紡糸した繊維を含むことを特徴とするエアバッグ用基布。
【請求項3】
請求項1又は2記載のエアバッグ用基布において、
JIS L 1094に規定された摩擦帯電圧測定法により測定したエアバッグ用基布の最大摩擦帯電圧が100V未満であることを特徴とするエアバッグ用基布。
【請求項4】
請求項3記載のエアバッグ用基布において、
前記最大摩擦帯電圧が50V以下であることを特徴とするエアバッグ用基布。
【請求項5】
請求項1記載のエアバッグ用基布において、
前記識別導電繊維に代えて、前記経糸の方向または前記緯糸の方向の一方向に織り込まれ、これら経糸及び前記緯糸から識別されると共に制電性を有する識別制電繊維を備えることを特徴とするエアバッグ用基布。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか1項記載のエアバッグ用基布において、
前記識別導電繊維又は識別制電繊維の両端のうち少なくとも一方側はアース回路に接続されていることを特徴とするエアバッグ用基布。
【請求項7】
経糸と緯糸とが製織されて構成されるとともに、前記経糸の方向または前記緯糸の方向の少なくとも一方向に織り込まれこれら経糸及び緯糸から識別されかつ導電性を有する識別導電繊維又は識別制電繊維を備えたエアバッグ用基布と、
前記エアバッグ用基布を膨張展開させるための圧力流体を噴出するインフレータとを備えたことを特徴とするエアバッグ装置。
【請求項8】
経糸と緯糸とが製織されて構成されるとともに、前記経糸の方向または前記緯糸の方向の少なくとも一方向に織り込まれこれら経糸及び緯糸から識別されかつ導電性を有する識別導電繊維又は識別制電繊維を備えたエアバッグ用基布に、エアバッグ形状に合わせた表側パターン及び裏側パターンを作図する作図工程と、
前記エアバッグ用基布の前記表側パターン及び前記裏側パターンに沿って表側基布及び裏側基布を裁断する裁断工程と、
前記表側基布と裏側基布に所定の加工を施す加工工程と、
前記所定の加工が施された表側基布と裏側基布とを袋状のバッグに縫合する縫合工程と、
前記バッグを所定の順序で展開可能なように折畳む折り畳み工程と、
前記バッグを車両に取り付ける取り付け工程とを有し、
前記裁断工程、加工工程、縫合工程、折り畳み工程、及び取り付け工程のうち少なくとも1つの工程の作業時に、前記識別導電繊維又は識別制電繊維を製織方向を示す基準線として用いることを特徴とするエアバッグ装置の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−160095(P2006−160095A)
【公開日】平成18年6月22日(2006.6.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−354906(P2004−354906)
【出願日】平成16年12月8日(2004.12.8)
【出願人】(000108591)TKJ株式会社 (111)
【Fターム(参考)】