説明

エアバッグ

【課題】 簡易な工程で縫合部の特性を損なうことなく、気密性を向上させたエアバッグ、特に側部用エアバッグの提供。
【解決手段】 複数の本体パネルが縫合されてなるエアバッグ、特に側部用エアバッグであって、該縫合部が、縫い糸と易溶融性材料とから縫合されており、好ましくは縫い糸(A)と融点が200℃以下である易溶融性材料(B)との重量比が(A):(B)=1:5〜5:1の範囲にあり、縫合部が、強度6cN/dtex以上の縫い糸により運針数2〜10針/cmで縫合されていることを特徴とするエアバッグ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車輌の衝突時、乗員を保護するためのエアバッグに係り、特に、気密性に優れ、側部衝突保護用に好適なエアバッグに関するものである。
【背景技術】
【0002】
車輌の乗員保護用安全装置としてエアバッグシステムが普及し、運転席用から助手席用、側突保護用、後部座席用と装着部位も増えてきており、乗員に対する保護機能が高まっている。特に、側面衝突時の衝撃から乗員を保護するエアバッグ、即ち側面衝突保護用エアバッグ(以下、側部用エアバッグと記す)は、乗員に対する安全性を高める手段として実用されている。この背景には、車高が高く、機動性に優れたレジャ−性の強い、多目的用途の車が好まれ、事故により横転するケースがある。車の横転事故、すなわちロールオーバーの際には、数秒間もの長い時間に亘り乗員を保護することが必要になり、エアバッグの高い気密性が必要となる。
【0003】
この為、ロールオーバー対応のエアバッグでは、本体パネルには気密性を付与する為の被覆層が施され、縫合部には縫い目からのガス漏れを防ぐ手段も講じられている。
例えば、特許文献1(特開平4−197848号公報)には、エアバッグの外周部縫合部の上面側から、目止め用のシール材を塗布することが開示されている。
また、特許文献2(特開平10−102029号公報)には、反応性のポリウレタン系ホットメルト接着剤による接合部が縫合により補強されており、ホッメルト接着剤を再溶融させることにより、縫合により接合部に生じた空隙を密封する方法が提示されている。
【0004】
これらの方法は、いずれも接着性に優れる化合物を縫合部に使用して縫い目を塞ぐものであるが、縫合と接着性化合物の付与が別工程になり、工程が煩雑になるだけでなく、化合物の塗布装置を必要とし、総合的なコストが高くなる。
さらに、特許文献3(特開平10−166978号公報)には、本体布の外縁部を縫合して袋状としたエアバッグにおいて、外縁部の縫合部にシート状物を共縫いする方法が提案されている。この方法によれば、シート材の適用は、外周部の縫合と同時に出来るため新たな工程は要らないものの、外周部に沿い易いシート材を選定する必要があり、シ−ト材の材質、形状、使用量によっては外周縫合部全体の剛性が増し、エアバッグの折畳み容積が増える傾向がある。
【特許文献1】特開平4−197848号公報
【特許文献2】特開平10−102029号公報
【特許文献3】特開平10−166978号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、これらの先行技術では不可能であった、簡易な工程で縫合部の気密性を高めることができる画期的な技術により、縫合部の特性を損なうことなく、合理的に気密性の高いエアバッグ、特に側部用のエアバッグにおいて、衝突時、車輌がロールオーバーした場合においても長時間に亘り気密性を保持することの出来るエアバッグを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、エアバッグ本体の縫合に当り、縫い糸と共に易溶融性材料を併用して縫合し、縫合後に易溶融性材料を溶融させることにより縫い目を塞ぎ、エアバッグの気密性を高める方法に関するものである。
すなわち、本発明は、
【0007】
(1)複数の本体パネルが縫合されてなるエアバッグであって、該縫合部が、縫い糸と易溶融性材料とにより縫合されており、縫合後に易溶融性材料を溶融させて縫い目がシールされていることを特徴とするエアバッグ、
(2)縫い糸(A)と易溶融性材料(B)との重量比が、(A):(B)=1:5〜5:1の範囲にあることを特徴とする前記(1)に記載のエアバッグ、
(3)易溶融性材料の融点が200℃以下であることを特徴とする前記(1)または(2)に記載のエアバッグ、
(4)縫合部が、強度が6cN/dtex以上である縫い糸により、運針数2〜10針/cmで縫合されていることを特徴とする前記(1)〜(3)に記載のエアバッグ、
(5)エアバッグが車輌の窓部周辺に装着する側部保護用エアバッグであることを特徴とする前記(1)〜(4)に記載のエアバッグ、
に関するものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明により、煩雑な工程によることなく、また縫合部の特性を損なうことなく、エアバッグに気密性を付与することが出来、特に長時間に亘る気密性を保持する必要のあるロールオーバー対応を満足する側部用エアバッグを短い工程で提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明のエアバッグは、複数のパネルが縫合されているエアバッグで、該縫合部は縫い糸と易溶融性材料とが併用された形で縫合されていることが肝要である。縫合部の縫い目強さを縫い糸が負担し、易溶融材料が溶融することにより縫い目を塞ぐことができ、縫合工程のみで、本体パネルの接合強力と高気密性を確保することができる。
【0010】
縫い糸と易溶融性材料との併用形態は、本体パネルの縫合時に供給することができればどのような形態でも良く、例えば、1)糸条、テープ状、スリットヤーン状の易溶融性材料を縫い糸と混繊、交撚、捲回、引き揃え、などにより一体化する、2)縫い糸の表面に易溶融性材料の溶融液、水分散液、粉末、などを被覆加工する、3)シート状、フィルム状、不織布状、ネット状の易溶融性材料で縫い糸を巻き付ける、などの方法により得られるものを用いれば良い。
【0011】
縫い糸と易溶融性材料との縫合により得られる気密性を更に高めたい場合には、縫合時に同時に行える方法、例えば、縫合直前に本体パネル間に易溶融性材料を挟み込む方法、縫い糸により本体パネル上面に易溶融性材料縫いこむ方法、縫合部上面に易溶融性材料を被覆する方法、などを併用しても良い。
【0012】
本発明で用いる易溶融性材料は、縫い糸と併用して縫合が可能で、縫合後の加熱により縫い目を塞ぐことが出来れば良く、好ましくは融点が200℃以下、更に好ましくは120〜200℃、最も好ましくは150〜200℃の範囲にある熱可塑性材料を用いる。融点が200℃を超える場合は、加熱処理時に縫い糸や本体パネルに物理的な損傷を与える可能性がある。また、易溶融性材料は、本体パネル、本体パネルの被覆材、縫い糸などとの密着性に優れるものが良く、使用するそれぞれの材質に適したものを選定すればよいが、例えば、ナイロン6/66、6/10、6/12、6/66/12、などのポリアミド系共重合樹脂(変性ポリアミド樹脂を含む)、脂肪族/芳香族の共重合系ポリエステル樹脂、ポリウレタン系樹脂(ハロゲン変性樹脂、再溶融固化型の反応性ホットメルト樹脂を含む)、ポリオレフィン系樹脂(アイオノマー樹脂なども含む)、エチレン/酢酸ビニル系共重合樹脂、などの中から1種または2種以上を用いればよいが、これらに限定するものではない。
【0013】
本発明では、易溶融性材料と縫い糸により形成された縫合を加熱して、易溶融性材料を溶融することにより、縫い目を塞ぎ、高い気密性を得ることができる。易溶融性材料を溶融させる手段としては、縫い糸および縫合部周辺の本体基布の特性を損なうことなく効率よく該材料を溶融することが出来ればよく、例えば、1)熱風、熱プレスなどによる外部加熱、2)高周波加熱、3)超音波、マイクロ波などの誘電加熱、4)抵抗加熱、赤外線などの誘導加熱、5)レーザー加熱、6)摩擦溶融、などによればよい。また、加熱条件も、使用した易溶融性材料の融点、材料の形態(厚さ、形状)などに応じて選定すればよく、例えば、外部加熱の場合、120〜200℃×0.5〜2分程度とすればよく、加熱プレスによれば更に溶融効率が向上する。
また、本発明では、加熱により発泡する発泡剤や熱膨張性のマイクロカプセルなどを易溶融性材料に混合、併用することにより、易溶融性材料が溶融して縫い目を塞ぐ遮蔽効果に加え、発泡または膨張することによる物理的な充填効果を得ることができる。すなわち、易溶融性材料の見掛けの使用量を増やし、縫い目の孔を少ない量で有効に遮蔽することができる。加熱により発泡を誘引する材料としては、アゾジカルボンアミド、アゾビスイソブチロニトリルなどのアゾ系化合物、p−トルエンスルフォニルヒドラジド、p、p−オキシビスベンゼンスルフォニルヒドラジドなどのヒドラジド系化合物、p−トルエンスルフォンアジドなどのアジド系化合物に代表される有機系化合物、さらに、炭酸アンモン、重曹、亜硝酸アンモンなどに代表される無機系発泡剤などから選定された1種又は2種以上を、易溶融性材料の発泡性、融点などを勘案しながら用いればよい。
【0014】
本発明では、縫い糸(A)と易溶融性材料(B)との重量比、(A):(B)が1:5〜5:1、好ましくは1:3〜3:1の範囲とすることで本発明の効果、すなわち縫合部の特性を損なうことなく、エアバッグの気密性を一層向上することができる。(A):(B)の比率は、エアバッグ仕様、縫合部位、インフレーター仕様などに応じて選定すればよく、基布仕様などにより縫い目が大きくなる場合は(B)の比率を高め、緻密な基布を使用した場合や気密性を付与する被覆材が施されている場合には、(B)の比率を低くすれば良い。
【0015】
本発明の縫合に用いる縫い糸の強度は、6cN/dtex好ましくは7cN/detxであることは、縫合部の強さを確保する上で好ましい。本発明では、縫い糸と易溶融性材料とを併用して縫合するため、使用する複合糸は見掛けの太さが大きくなる傾向にある為、縫合部強力を支える縫い糸の強度は高いほうが好ましい。また、縫合部の縫い糸の運針数は、2〜10針/cm、好ましくは4〜10針/cmの範囲とし、縫い目ずれにより発生する縫い目穴の大きさを小さくする縫い仕様にしておくことは望ましい。
【0016】
本発明の縫合部における縫い仕様は、本縫い、二重環縫いなど通常のエアバッグに適用されている縫い目により行えば良い。また、縫い糸の太さは700デシテックス(20番手相当)〜2800デシテックス(0番手相当)とすれば良い。複数列の縫い目線が必要な場合は、縫い目間の距離は2〜8mm程度として、多針型ミシンを用いれば良いが、1本針ミシンで複数回縫合しても良い。
【0017】
本発明で用いる縫合糸は、通常の縫い糸と易溶解性材料から構成され、全体の太さが太くなる為、番手の大きい、即ち、太いミシン針を用いることが好ましく、できれば針穴の大きなミシン針を用いるようにすると良い。また、針穴などの表面をクロム、チタンなどの金属コーティングやテフロン(登録商標)処理などにより平滑性を付与したり、前記複合糸が針穴やミシンのガイドなどを通過し易いように潤滑性の処理剤を付与させながら縫合することは、本発明をより実施し易くする上で好ましく、複合糸が摩擦により粘着することのないように、針穴などを冷却させるなどの方法を用いてもよい。さらに、引き揃え、捲回、挟み込みなどして、縫合直前で縫い糸と易溶融性材料を一体化するために、バインダー、ホルダー、ラッパなどの縫製治具を用いてもよい。
【0018】
縫合に使用する縫い糸は、一般に化合繊縫い糸と呼ばれるものや、工業用縫い糸として使用されているものの中から適宜選定すればよく、例えば、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン46、ナイロン6T、ナイロン9T、ポリエステル、ビニロン、アラミド、カーボン、ガラスなどがあり、紡績糸、フィラメント合撚糸、フィラメント樹脂加工糸のいずれかでもよい。
【0019】
本発明でエアバッグ本体基布に用いるパネルには耐熱性、気密性、などを付与するために通常エアバッグに用いられている被覆材、例えば、シリコーン樹脂またはゴム、ポリウレタン樹脂またはゴム(シリコーン変性、フッ素変性などを含む)、クロロプレンゴムやハイパロンゴムなどの含塩素系ゴム、フッ素系ゴム、ポリエステル系樹脂またはゴム、ポリアミド系樹脂またはゴム、などから選定された1種または2種以上を用いれば良い。
【0020】
これらの被覆材を本体基布に付与する方法は、1)コーティング法(ナイフ、キス、リバース、コンマなど)、2)浸漬法、3)印捺法(スクリーン、ロール、ロータリーなど)、4)ラミネート法、5)噴霧法、などの加工法によればよい。被覆材の性状は、溶剤系、無溶剤系、エマルジョン系、水溶液系あるいはこれらの混合溶液、微粉末状、フィルム状またはシート状など、いずれでも良い。
【0021】
また、被覆材には、加工性、接着性、耐久性、耐候性などを改良するために通常使用される各種の添加剤、例えば、架橋剤、反応促進剤、反応遅延剤、耐熱安定剤、酸化防止剤、耐光安定剤、老化防止剤、潤滑剤、平滑剤、粘着防止剤、顔料、撥水剤、撥油剤、酸化チタンなどの隠蔽剤、光沢付与剤、難燃剤、可塑剤、などの一種または二種以上を選択し、混合して使用してもよい。
【0022】
本体パネル用基布への被覆材の付与は、同一または異なる二種以上の被覆材を重ねて積層してもよい。また、エアバッグが側部窓に沿って展開し易いように、トップ層としてガラスなどとの摩擦に対して平滑性に優れる第二の被覆材、例えば、マグネシウム塩、カルシウム塩などの無機充填材を含む被覆材を、アンダーコート層としての第一の被覆材の上に重ねた二層構造の被覆層を形成させてもよい。被覆材は、本体基布の少なくとも一方の表面、基布の間隙部あるいは繊維糸条の間隙など、いずれに介在させてもよい。
【0023】
また、被覆材には前記の各種添加剤の他、基布との密着性を向上するための各種前処理剤、接着向上剤などを添加してもよいし、予め基布表面にプライマー処理などの前処理を施してもよい。更に、該被覆剤に耐熱性、老化防止性、耐酸化性などを付与するため、被覆剤を織物に付与した後、乾燥、架橋、加硫などを熱風処理、接触熱処理、高エネルギー処理(高周波、電子線、紫外線)などを行っても良い。
【0024】
また、本発明の本体パネルに用いる基布は、展開時の瞬間的な衝撃力、袋体としての気密性および耐圧性、折畳み容積、などを満足するものであればよいが、例えば、200〜500デシテックスの糸条から構成された緻密な構造をもつ基布を用いると良い。基布の緻密さは、発生する縫い目ずれの多少に影響し、例えば、カバーファクターが720以上、より好ましくは800〜1120である織物であることが好ましい。ここで、カバーファクター(CF)は、経糸および緯糸の太さ(デシテックス)と経糸および緯糸の織物密度(本/cm)との積で求められる織物構造の粗密をあらわすパラメーターで、下式にて表される。
CF=Nw×√Dw+Nf×√Df
ここで、DwおよびDfは、経糸および緯糸の太さ(デシテックス)、NwおよびNfは、経糸および緯糸の織物密度(本/cm)を表す。
糸条の単糸太さは、例えば3.3dtexi以下の細い糸条を用いることにより、高密度でも柔軟性に富む基布が得られるので好ましい。
【0025】
本発明に使用されるエアバッグ本体の基布は、通常の工業用織物を製造するのに用いられている各種織機により製織すればよく、例えば、シャトル織機、ウォータージェット織機(WJL)、エアージェット織機(AJL)、レピア織機、プロジェクタイル織機などから選べばよい。本発明では経糸および緯糸から構成される通常の織物以外に、織物の力学的な等方性を高めた三軸織物、四軸織物などを用いても良い。また、部分的にジャカード織機により織組織により接結した袋織構造を用いてもよい。織物組織は、平織、綾織、朱子織、斜子織、格子織(リップストップ織)、畝織、あるいはこれらの組合せなど、いずれでも良い。
【0026】
また、本発明の本体基布を構成する繊維糸条は、特に限定するものではなく、例えば、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン46、ナイロン610、ナイロン612などの単独またはこれらの共重合、混合により得られる脂肪族ポリアミド繊維、ナイロン6T、ナイロン9Tに代表される脂肪族アミンと芳香族カルボン酸の共重合ポリアミド繊維、ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートなどの単独またはこれらの共重合、混合により得られるポリエステル繊維、ビニリデンまたはポリ塩化ビニルなどの塩素系繊維、ポリテトラフルオロエチレンを含むフッ素系繊維、ポリアセタール繊維、ポリサルフォン繊維、ポリフェニレンサルファイド系繊維(PPS)、ポリエーテルエーテルケトン系(PEEK)繊維、ポリイミド繊維、ポリエーテルイミド繊維、高強力レーヨンを含むセルロース系繊維、ビニロン繊維、アクリル系繊維、炭化珪素繊維、アルミナ繊維、ガラス繊維、炭素繊維、場合によっては、スチールに代表される金属繊維などから適宜選定すれば良い。
【0027】
これらの繊維糸条には紡糸性や加工性、材質の耐久性を改善するために通常使用されている各種の添加剤、例えば、耐熱安定剤、酸化防止剤、耐光安定剤、老化防止剤、潤滑剤、平滑剤、顔料、撥水剤、撥油剤、酸化チタンなどの隠蔽剤、光沢付与剤、難燃剤、可塑剤などの一種または二種以上を使用してもよい。また、場合によっては、加撚、嵩高加工、捲縮加工、捲回加工などの加工を施してもよい。さらに糸条の形態は、長繊維のフィラメント、短繊維の紡績糸、これらの複合糸など、特に限定するものでない。
【0028】
本発明になるエアバッグの仕様、形状、容量は、配設される部位、用途、収納スペース、当接物との衝撃の吸収性能、インフレーターの出力などに応じて選定すればよい。
また、ロールオーバー対応のエアバッグでは、極めて高い気密性が必要となる為、通常はガス排気用の排気穴は設けないが、乗員が当接した際の高いエネルギー吸収力が必要な場合には、一個または複数の排気穴、例えばφ10mm〜φ40mm程度の円形またはそれに相当する面積の穴を設けても良く、排気穴の周囲には、補強布を接合してもよい。さらに、エアバッグの展開性能を促進する為の補助部材、エアバッグ内部のガス流を制御する為の整流布、などのパーツを設けてもよい。
【0029】
また、本発明では使用するインフレーターの特性によっては、インフレーターからの熱ガスからエアバッグ本体基布を保護する為の耐熱保護布や力学的な補強布を設けても良い。これらの保護布や補強布は、布自体が耐熱性の材料、例えば、全芳香族ポリアミド繊維、全芳香族ポリエステル繊維、ポリイミド繊維、含フッ素系繊維などの耐熱性繊維材料を用いても良いし、エアバッグ本体と同じか別途作成した本体基布より太い糸を用いた織物などの基布に耐熱性材料を被覆加工したものを用いても良いし、被覆材を施さずに用いても良い。
【0030】
バッグを収納する際の折畳み法も、蛇腹折り、屏風状のつづら折り、ロール状の巻上げ、あるいはこれらの併用、などにより折畳めば良く、前後の先端部には通常のエアバッグに採用されている折曲げ、ロ−ル巻上げ、などを採用しても良い。
本発明は、側突保護用エアバッグの高気密性を得る為の方法に関するものであるが、例えば、運転席および助手席の前席保護用、追突保護用のヘッドレストバッグ、ニーバッグ、フットバッグ、歩行者保護用エアバッグ、乳幼児保護用(チャイルドシート)のミニバッグ、エアーベルト用袋体、乗用車、トラック・バス、二輪車などの各用途の他、機能的に満足するものであれば、船舶、列車、飛行機、あるいは他の輸送手段、遊園地設備、など他用途に適用しても良い。
【実施例】
【0031】
以下、実施例に基づき本発明をさらに具体的に説明する。なお、実施例の中でエアバッグ本体の性能評価は以下の方法による。
(1)エアバッグの気密性
エアバッグのインフレーター挿入部10に、固定金具と共にインフレーター(タンク圧200kpa、ダイセル社製ヘリウムガス型インフレーター)を固定し、エアバッグを室温にて展開した。エアバッグの最大内圧と展開開始後5秒後の内圧保持率(%)を求めた。
(2)製造工程の比較
エアバッグの縫製工程および縫い目のシール工程に要する時間を測定し、縫い糸のみで縫製した場合の時間を100として、比較した。
【0032】
実施例1
ナイロン66繊維350dtex/144f(糸強度8.6cN/dtex)の糸を用い、織密度が経、緯いずれも23本/cmの平織物を作成した。この織物を、精練、熱セットし、次いで、ポリカーボネート型のポリウレタン樹脂を織物の片面に40g/m2(固型分換算)塗布した。織密度は、経、緯いずれも24.5本/cmであった。
次に、エアバッグの本体基布として図1に示す形状に基布を2枚裁断した。エアバッグ全体の寸法は、長さが165cm、高さが55cmであり、裁断布2は、裁断布1の中央部分を接合線に沿って削除した形状とした。2枚の裁断片を、コート面同士を合わせて重ね、外周部(3)、内側部(4a〜4d)の縫合部を、縫い糸(上、下)としてナイロン66繊維の8番手糸(940dtex相当、糸強度7.8cN/dtex)、易溶融性材料としてナイロン6/66/612共重合ポリアミド樹脂(融点125℃)からなるフィルム(厚さ0.1mm)を幅4mmにスリットしたテープ状糸を用いた。テープ状糸は、予め、上糸用の縫い糸の周囲に捲回させて一体化した。得られた複合糸の、縫い糸と易溶融性材料との重量比は、2.5:1であった。ミシン針として26番手を用い、外周部は二重環縫い2列、内側部は本縫い1列を、それぞれ運針数5針/cmで縫合し、次いでエアバッグを熱風により外部加熱にて140℃にて1分間加熱処理を行った。
得られたエアバッグの展開試験を行った。エアバッグの内圧保持率は優れており、製造工程は、縫製のみ場合(比較例2)に比べ若干長いが、従来法(比較例1)に対しては、著しく工程が簡略化できる。
【0033】
比較例1
実施例1において、本体基布1のコート面上の外周部(3)、内側部(4a〜4d)の縫合部線にポリウレタン系のホットメルト樹脂を塗布し、その上から本体基布2のコート面を重ね合わせ、2枚の本体基布を軽く圧着した。その後、実施例1に準じて縫い糸のみにより縫合し、縫合後、160℃で2分間圧着した。得られたバッグの縫合部の樹脂厚さは約1mm、幅は約20mmであった。
展開試験による内圧保持率は優れているが、製造工程が長くかかる。
【0034】
比較例2
実施例1において、外周部(3)および内側部(4a〜4d)の縫合部を、縫い糸のみで縫合し、得られたエアバッグの展開試験を行った。製造工程は短くなるが、内圧保持率は低く、ロールオーバ−対応には適していない。
【0035】
【表1】


【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明になるエアバッグを側方窓部から見た展開前の説明図。
【図2】展開後の図1のA−A線断面図。3の外周部および4a、4bのハッチン部は易溶融性材料の溶融部を示す。
【符号の説明】
【0037】
1、2‥‥‥エアバッグ本体パネル
3‥‥‥エアバッグ本体パネルの外周縫合部
4a〜4d‥‥‥本体パネル同士の内部接合部
5a〜5e‥‥‥エアバッグの膨張部
8‥‥‥易溶融性材料の溶融部
9‥‥‥縫い糸と易溶融性材料による縫合部
10‥‥‥インフレーター取付け口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の本体パネルが縫合されてなるエアバッグであって、該縫合部が、縫い糸と易溶融性材料とにより縫合されており、縫合後に易溶融性材料を溶融させて縫い目がシールされていることを特徴とするエアバッグ。
【請求項2】
縫い糸(A)と易溶融性材料(B)との重量比が、(A):(B)=1:5〜5:1の範囲にあることを特徴とする請求項1に記載のエアバッグ。
【請求項3】
易溶融性材料の融点が200℃以下であることを特徴とする請求項1または2に記載のエアバッグ。
【請求項4】
縫合部が、強度が6cN/dtex以上である縫い糸により、運針数2〜10針/cmで縫合されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載のエアバッグ。
【請求項5】
エアバッグが車輌の窓部周辺に装着する側部保護用エアバッグであることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載のエアバッグ。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−27373(P2006−27373A)
【公開日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−206775(P2004−206775)
【出願日】平成16年7月14日(2004.7.14)
【出願人】(000229955)日本プラスト株式会社 (740)
【Fターム(参考)】