説明

エチレン重合体、その製造方法および前記重合体を含む成形体。

【課題】固相延伸成形などの固相法で得られ、且つ強度の高い成形物を提供するのに適したエチレン重合体および該エチレン重合体を用いた成形体を提供する。
【解決手段】特定の有機金属錯体触媒成分を含むオレフィン重合用触媒を用い、多段重合で好ましくはそれぞれの段で分子量の異なるエチレンを重合する。前記の方法で得られるエチレン重合体は、固相延伸成形において高い延伸倍率で成形することが可能である。
前記のエチレン重合体は、均一で高度に分散した低分子量部位と高分子量部位とを有すると考えられる。このため、極めて高い延伸倍率を有する固相延伸成形が可能となると考えられる。
また、前記エチレン重合体を用いた成形物は高い延伸倍率を示し、従来にはない高強度且つ高弾性率の固相延伸成形物が得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分子量が極めて高く、特定の方法で製造されるエチレン重合体に関するものである。また上記のエチレン重合体を用いた成形体、好ましくは固相延伸法によって得られる成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
分子量が極めて高い、所謂超高分子量エチレン重合体は、汎用のエチレン重合体に比して耐衝撃性、耐摩耗性、耐薬品性、強度等に優れており、エンジニアリングプラスチックとして優れた特徴を有している。
【0003】
このような超高分子量エチレン重合体は、ハロゲン含有遷移金属化合物と有機金属化合物とからなる所謂チーグラー触媒や、特開平3−130116号公報(特許文献1)、特開平7−156173号公報(特許文献2)等に記載されているようなマグネシウム化合物担持型触媒などの公知の触媒によって得られることが知られている。また、特許3530020号公報(特許文献3)に記載の有機金属錯体を含むオレフィン重合用触媒が極めて分子量の高いエチレン系重合体を与えることが開示されている。
【0004】
一方で、超高分子量エチレン重合体はその分子量の高さ故に、一般的な樹脂の成形法である溶融成形を行うことが困難とされている。このため、超高分子量エチレン重合体をゲル化させて成形する方法や超高分子量エチレン重合体粒子を融点以下の温度で圧着させた後に延伸させる固相延伸法などの成形法が開発されており、該成形法は、上記特許文献2、特開平9−254252号公報(特許文献4)、特開昭63−41512号公報(特許文献5)、特開昭63−66207号公報(特許文献6)などに記載されている。また、国際公開2008/013144号パンフレット(特許文献7)には、結晶化度が高いことを特徴の一つとするエチレン重合体が固相延伸法にて記していることが開示されている。固相延伸成形法は、ゲル紡糸法とは異なり溶媒などを用いないため、成形に要するエネルギーを低減でき、環境負荷も少ない成形法であることが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平3−130116号公報
【特許文献2】特開平7−156173号公報
【特許文献3】特許3530020号公報
【特許文献4】特開平9−254252号公報
【特許文献5】特開昭63−41512号公報
【特許文献6】特開昭63−66207号公報
【特許文献7】国際公開2008/013144号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前述の固相延伸法などの重合体粒子を用いる特定の成形法では、重合体粒子を該粒子の融点以下の温度で圧着させるため、得られる成形体の強度が比較的低いと言う問題点があるとされている。従って、前記の圧着を改良出来れば、より高強度の成形体や新たな機能を有する成形体を創出することが期待される。このためには、重合体粒子が部分的に融解し易い構造であったり、重合体粒子がより延伸し易い結晶構造を有していることが望ましいと考えられる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは前記の課題を解決するために検討した結果、メタロセンや所謂ポストメタロセンなどの特定の有機金属錯体を含むオレフィン重合触媒を用い多段重合で得られるエチレン重合体が、例えば優れた固相延伸成形性を示すことを見出し、本発明を完成するに到った。即ち、本発明以下の通りの内容である。
【0008】
本発明は、下記の要件を満たすエチレン重合体である。
[I](A)下記から選ばれる周期律表の3〜8族金属を含む有機金属錯体触媒成分
メタロセン化合物
芳香族構造、窒素、酸素を含む配位子を有する有機金属錯体
(B)周期律表12族,13族の金属を含む有機金属化合物触媒成分
を含むオレフィン重合用触媒を用いたエチレンの多段重合で製造される。
[II] 極限粘度[η]が5dl/g〜50dl/g
本発明のエチレン重合体は、下記一般式の構造を有する有機金属錯体を含むオレフィン重合酔う触媒を用いて製造されることが好ましい。
【0009】
【化1】

(式中、Mは周期律表第3〜8族の遷移金属原子を示し、mは、1〜6の整数を示し、R1〜R6は、互いに同一でも異なっていてもよく、R1は、ハロゲン原子、炭化水素基、ヘテロ環式化合物残基、酸素含有基、窒素含有基、ホウ素含有基、イオウ含有基、リン含有基、ケイ素含有基、ゲルマニウム含有基、またはスズ含有基を示し、R2〜R6は、水素原子、ハロゲン原子、炭化水素基、ヘテロ環式化合物残基、酸素含有基、窒素含有基、ホウ素含有基、イオウ含有基、リン含有基、ケイ素含有基、ゲルマニウム含有基、またはスズ含有基を示し[(但し、R6が水素である場合は、R2は水素原子または炭化水素基である)]、これらのうちの2個以上が互いに連結して環を形成していてもよく、また、mが2以上の場合にはR1〜R6で示される基のうち2個の基が連結されていてもよく(但し、R1同士が結合されることはない)、nは、Mの価数を満たす数であり、Xは、水素原子、ハロゲン原子、炭化水素基、酸素含有基、イオウ含有基、窒素含有基、ホウ素含有基、アルミニウム含有基、リン含有基、ハロゲン含有基、ヘテロ環式化合物残基、ケイ素含有基、ゲルマニウム含有基、またはスズ含有基を示し、nが2以上の場合は、Xで示される複数の基は互いに同一でも異なっていてもよく、またXで示される複数の基は互いに結合して環を形成してもよい。)
【0010】
本発明のエチレン重合体は、下記一般式2で表される構造の前記メタロセン化合物を含むオレフィン重合用触媒を用いて製造されることが好ましい。
【0011】
【化2】

式中、Mは、チタニウム、ジルコニウム、ハフニウムの遷移金属原子を示し、R11、R12、R13、R14、R15、R16、R17、およびR18は、互いに同一でも異なっていてもよく、炭素原子数が1〜20の炭化水素基、炭素原子数が1〜20のハロゲン化炭化水素基、ケイ素含有基、酸素含有基、イオウ含有基、窒素含有基、リン含有基、水素原子またはハロゲン原子を示し、また互いに隣接する基の一部が結合してそれらの基が結合する炭素原子とともに環を形成していてもよく、XおよびXは、互いに同一でも異なっていてもよく、炭化水素基、ハロゲン化炭化水素基、酸素含有基、イオウ含有基、ケイ素含有基、水素原子またはハロゲン原子を示し、Yは、2価の炭化水素基、2価のハロゲン化炭化水素基、2価のケイ素含有基、2価のゲルマニウム含有基、2価のスズ含有基、−O−、−CO−、−S−、−SO−、−SO−、−Ge−、−Sn−、−NR−、−P(R)−、−P(O)(R)−、−BR−または−AlR−〔ただし、Rは、互いに同一でも異なっていてもよく、水素原子、ハロゲン原子、炭化水素基、ハロゲン化炭化水素基、アルコキシ基である〕を示す。
【0012】
本発明は、下記の要件を満たし、極限粘度[η]が5dl/g〜50dl/gであるエチレン重合体の製造方法である。
(A)下記から選ばれる周期律表の3〜8族金属を含む有機金属錯体
メタロセン化合物
芳香族構造、窒素、酸素を含む配位子を有する有機金属錯体
(B)周期律表12族,13族の金属を含む有機金属化合物触媒
を含むオレフィン重合用触媒を用い、
極限粘度[η]が2〜20dl/gのエチレン重合体を製造する工程を有する。
【0013】
本発明は、前記のエチレン重合体を含む成形体である。
【0014】
本発明は、前記のエチレン重合体を含み、固相延伸成形法で得られる成形体である。
【発明の効果】
【0015】
本発明のエチレン重合体は、特に固相延伸成形において高い延伸性を示し、高強度・高弾性率の成形体を得ることができる。また、多段重合で製造されることを特徴とする本発明のエチレン重合体は、単段重合で製造されるエチレン重合体に比べて固相延伸成形時の延伸倍率が極めて高い。このため、本発明のエチレン重合体は高強度の延伸成形体を与えることが期待される。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明に係るエチレン重合体およびその製造方法、エチレン重合体を用いて得られる成形物について、更に詳細に説明する。
【0017】
(有機金属錯体触媒成分(A))
本発明のエチレン重合体は、特定の有機金属錯体を含むオレフィン重合用触媒を用い、多段重合によって得られることを特徴とする。
【0018】
本発明では共重合のことを重合と言うことがあり、共重合体のことを重合体ということがある。
【0019】
本発明のエチレン重合体は、後述する極限粘度や結晶化度などを実現できる限り、公知のメタロセンや、窒素、酸素を含む芳香族配位子を有する有機金属錯体を含むオレフィン重合用触媒を制限無く使用することができる。
【0020】
好ましくはオレフィン重合用触媒が後述する固体状触媒成分(A’)を含み、該固体状触媒成分1g当たり200g以上のエチレン重合体が生成する、すなわち200g以上のエチレンが反応する高活性の触媒であることが好ましい。より好ましくは固体状触媒成分1g当たり500g以上、さらに好ましくは固体状触媒成分1g当たり1000g以上のエチレン重合体が生成する触媒成分を用いることが好ましい。重合活性が高すぎると重合反応熱により重合中のポリエチレンの結晶化がより高温で生じるため、ひずみの少ない均一なポリエチレン結晶となり延伸性が低下する場合があると考えられる。従って、重合活性の好ましい上限値は30,000g−重合体/g−固体状触媒成分以下、より好ましくは10,000g−重合体/g−固体状触媒成分以下、更に好ましくは5,000−重合体/g−固体状触媒成分以下である。
【0021】
なお、本発明におけるオレフィン重合用触媒に含まれる有機金属錯体としては、特に 特許3530020号公報(特許文献3)に記載の所謂フェノキシイミン配位子を有する金属錯体が好ましい。具体的には、式1の様な構造式を有する有機金属錯体である。
【0022】
【化3】

式中、Mは周期律表第3〜8族の遷移金属原子を示し、mは、1〜6の整数を示し、R1〜R6は、互いに同一でも異なっていてもよく、R1は、ハロゲン原子、炭化水素基、ヘテロ環式化合物残基、酸素含有基、窒素含有基、ホウ素含有基、イオウ含有基、リン含有基、ケイ素含有基、ゲルマニウム含有基、またはスズ含有基を示し、R2〜R6は、水素原子、ハロゲン原子、炭化水素基、ヘテロ環式化合物残基、酸素含有基、窒素含有基、ホウ素含有基、イオウ含有基、リン含有基、ケイ素含有基、ゲルマニウム含有基、またはスズ含有基を示す。但し、R6が水素である場合は、R2は水素原子または炭化水素基であることが好ましい。これらのうちの2個以上が互いに連結して環を形成していてもよく、また、mが2以上の場合にはR1〜R6で示される基のうち2個の基が連結されていてもよい。(但し、R1同士が結合されることはない。)
【0023】
nは、Mの価数を満たす数であり、Xは、水素原子、ハロゲン原子、炭化水素基、酸素含有基、イオウ含有基、窒素含有基、ホウ素含有基、アルミニウム含有基、リン含有基、ハロゲン含有基、ヘテロ環式化合物残基、ケイ素含有基、ゲルマニウム含有基、またはスズ含有基を示す。
【0024】
nが2以上の場合は、Xで示される複数の基は互いに同一でも異なっていてもよく、またXで示される複数の基は互いに結合して環を形成してもよい。
【0025】
〜R置換基は、好ましくは炭素数1〜20の炭化水素基である。これらの中でも特許3530020号公報の0324段落に記載された構造の様なR置換基が脂環族構造や芳香族構造を有するものが好ましい。特に好ましいR置換基は、炭素数5〜8の脂環族構造を有する置換基であり、更に好ましくはシクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロへプチル基である。
【0026】
またR置換基は、特許3530020号公報の0324段落に記載された様な所謂嵩高い置換基であることが好ましい。 具体的にはt-ブチル基を代表例とする分岐型炭化水素構造、脂環族構造、複環構造を有する置換基であることが好ましい。特に好ましいR6置換基は、炭素数6〜15の脂環族および複式環構造を有する置換基、所謂嵩高い置換基であり、特に好ましくは1位に炭化水素基を有するシクロヘキシル基、アドマンチル基、ノルボルニル基、テトラシクロドデシル基である。
【0027】
式1中、Mで表される遷移金属は、周期律表の3〜8族から選ばれる遷移金属であり、好ましくは4族および5族から選ばれる遷移金属であることが好ましく、特に好ましくはチタン、ジルコニウム、ハフニウムから選ばれる。
【0028】
式1中、Xで表される基の好ましい例としては、ハロゲン原子、炭素数1〜20の炭化水素基が挙げられる。特に好ましくは、塩素や脂肪族炭化水素基である。
【0029】
また、本発明におけるオレフィン重合用触媒に含まれる有機金属錯体としては、下記一般式2で表される遷移金属化合物も好ましい。
【0030】
【化4】

式中、Mは、チタニウム、ジルコニウム、ハフニウムの遷移金属原子を示し、R11、R12、R13、R14、R15、R16、R17、およびR18は、互いに同一でも異なっていてもよく、炭素原子数が1〜20の炭化水素基、炭素原子数が1〜20のハロゲン化炭化水素基、ケイ素含有基、酸素含有基、イオウ含有基、窒素含有基、リン含有基、水素原子またはハロゲン原子を示し、また互いに隣接する基の一部が結合してそれらの基が結合する炭素原子とともに環を形成していてもよく、XおよびXは、互いに同一でも異なっていてもよく、炭化水素基、ハロゲン化炭化水素基、酸素含有基、イオウ含有基、ケイ素含有基、水素原子またはハロゲン原子を示し、Yは、2価の炭化水素基、2価のハロゲン化炭化水素基、2価のケイ素含有基、2価のゲルマニウム含有基、2価のスズ含有基、−O−、−CO−、−S−、−SO−、−SO−、−Ge−、−Sn−、−NR−、−P(R)−、−P(O)(R)−、−BR−または−AlR−〔ただし、Rは、互いに同一でも異なっていてもよく、水素原子、ハロゲン原子、炭化水素基、ハロゲン化炭化水素基、アルコキシ基である〕を示す。
【0031】
上記の化合物は、金属酸化物等のいわゆる公知の担体に担持された、固体状触媒成(A’)として用いることが好ましい態様の一つである。前記の金属酸化物としては、シリカ、アルミナを代表例として挙げることが出来る。特に好ましくはシリカである。
【0032】
[有機金属化合物触媒成分[B]]
本発明で用いられるオレフィン重合用触媒は、前記の有機金属錯体と共に周期律表12族、13族の金属を含む有機金属化合物触媒成分(B)が含まれることが好ましい。このような有機金属化合物としては、特許3530020号公報に記載の有機金属化合物触媒成分と同様のものを使用することが出来る。好ましくは、同公報の0204段落以降に記載の有機アルミニウムオキシ化合物、同公報の0218段落以降に記載の遷移金属化合物と反応してイオン対を形成する化合物が好ましい例として挙げられる。特に好ましい具体例としては、メチルアルミノキサン、トリフェニルカルベニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、N,N-ジメチルアニリニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレートが挙げられる。
【0033】
(エチレン重合体の製造方法)
本発明に係るエチレン重合体の製造方法は、上記の有機金属錯体触媒成分(A)と有機金属化合物触媒成分(B)とを含むオレフィン重合用触媒を用いて、エチレンを含むオレフィンの重合を行うことを特徴としている。本発明において、「重合」には、ホモ重合の他、ランダム共重合、ブロック共重合などの共重合の意味が含まれることがある。
【0034】
本発明のエチレン重合体の製造方法では、上記オレフィン重合用触媒の存在下にα−オレフィンを予備重合(prepolymerization)させて得られる予備重合触媒の存在下で、本重合(polymerization)を行うことも可能である。この予備重合は、例えばオレフィン重合用触媒に好ましく含まれる固体状触媒成分(A’)1g当り0.01〜1000g、好ましくは0.03〜500g、特に好ましくは0.1〜100gの量でα−オレフィンを予備重合させることにより行われる。予備重合は、公知の方法を制限無く用いることが出来る。
【0035】
次に、前記の予備重合を経由した後に、あるいは予備重合を経由することなく実施される本重合(polymerization)について説明する。
【0036】
本重合(polymerization)においてはエチレンを上記のオレフィン重合用触媒の存在下に重合させる。エチレンの他に炭素原子数が3〜20のα−オレフィン、たとえば、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−オクテン、1−デセン、1−ドデセン、1−テトラデセン、1−ヘキサデセン、1−オクタデセン、1−エイコセンなどの直鎖状オレフィンや、4−メチル−1−ペンテン、3−メチル−1−ペンテン、3−メチル−1−ブテン等の分岐状オレフィンが共用されても良い。これらのα−オレフィンとしてはプロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、4−メチル−1−ペンテンが好ましい。
【0037】
これらのα−オレフィンと共に、スチレン、アリルベンゼン等の芳香族ビニル化合物;
ビニルシクロヘキサン、ビニルシクロヘプタン等の脂環族ビニル化合物を用いることもできる。
【0038】
好ましくは、エチレンのみを重合させる単独重合である。前記単独重合は、他のオレフィンと共重合する場合に比して、得られる重合体の分岐が少なく、後述する固相延伸成形を行う際には延伸による高分子鎖の配向が掛かり易いと考えられる。
【0039】
本発明では、予備重合および本重合は、バルク重合法、溶解重合、懸濁重合などの液相重合法あるいは気相重合法のいずれの方法でも実施できる。
【0040】
本重合がスラリー重合の反応形態を採る場合、反応媒体としては、不活性炭化水素媒体が好ましい。具体的には、プロパン、ブタン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、デカン、ドデカン、灯油などの脂肪族炭化水素;
シクロヘプタン、メチルシクロヘプタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、メチルシクロペンタン、シクロオクタン、メチルシクロオクタンなどの脂環族炭化水素;
ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素;
エチレンクロリド、クロルベンゼンなどのハロゲン化炭化水素;
あるいはこれらの混合物などを挙げることができる。
【0041】
これらの不活性炭化水素媒体のうちでは、特に脂肪族炭化水素を用いることが好ましい。 これらの他には反応温度において液体であるオレフィンを反応媒体とすることもできる。
【0042】
上記の不活性炭化水素媒体を用いる場合、予備重合はバッチ式で行うことが好ましい。
一方、オレフィン自体を溶媒として予備重合を行うこともできるし、また実質的に溶媒の無い状態で予備重合することもできる。この場合には、予備重合を連続的に行うのが好ましい。
【0043】
本発明の重合方法における本重合においては、前記触媒成分[A]は、重合容積1リットル当り遷移金属原子に換算して、通常は0.000001ミリモル〜0.5ミリモル、好ましくは0.00005ミリモル〜0.1ミリモルの量で用いられる。また、前記有機金属化合物触媒成分[B]は、重合系中の前記触媒成分[A]中(予備重合を行う場合は予備重合触媒成分)中の遷移金属原子1モルに対し、通常1モル〜200000モル、好ましくは5モル〜50000モルとなるような量で用いられる。
【0044】
本重合を水素の存在下に行えば、得られる重合体の分子量を調節することができる。
【0045】
本発明における本重合において、オレフィンの重合温度は、通常は0℃〜200℃、好ましくは20℃〜100℃、より好ましくは30℃〜90℃、特に好ましくは40℃〜80℃である。圧力は、通常は常圧〜10MPa、好ましくは常圧〜5MPa、特に好ましくは0.20MPa〜4MPaに設定される。本発明の重合方法においては、回分式、半連続式、連続式の何れの方法においても行うことができる。また、後述する成分(a)、成分(b)の各々の重合は、上記の方法を組み合わせて実施することも出来る。
【0046】
本発明のエチレン重合体の製造方法は、反応条件を変えて二段以上に分けて重合反応を行う所謂多段重合方法を実施することを特徴とする。
【0047】
本発明におけるエチレン重合体は、極限粘度[η]が2dl/g以上20dl/g以下、好ましくは3dl/g以上18dl/g以下、より好ましくは5dl/g以上15dl/g以下のエチレン重合体を製造する工程を含む。
【0048】
本発明におけるエチレン重合体の製造方法としてより具体的には、後述するa工程とb工程とを含む、所謂2段重合が好ましい例である。更に詳細にはa工程で、極限粘度[η]が2dl/g以上20dl/g以下、好ましくは3dl/g以上18dl/g以下、より好ましくは5dl/g以上15dl/g以下のエチレン重合体を製造し、他の工程(以後、b工程と称す)で、極限粘度[η]が15dl/gを超えて50dl/g以下、好ましくは20dl/gを超えて45dl/g以下、より好ましくは23dl/gを超えて40dl/g以下のエチレン重合体を製造する条件でエチレン重合体を製造することが好ましい。但し、前記a工程とb工程では異なる[η]の重合体が生成することが好ましい。
【0049】
a工程とb工程を実施する順は制限されないが、より低分子量のエチレン重合体成分を製造する工程をa工程とすると、このa工程を最初に行い、より高分子量のエチレン重合体成分を製造するb工程を引き続いて行う所謂2段重合とすることが好ましい。この場合、a工程で製造された成分の極限粘度は、当該成分の一部をサンプリングした実測値として得ることが出来る。また、b工程で製造された成分の極限粘度は後述する式に基づいて算出される。
【0050】
また、a工程で形成される成分(a)とb工程で形成される成分(b)との質量割合の上限および下限は、それぞれの成分の極限粘度にもよるが、成分(a)の上限は好ましくは50%、より好ましくは40%、更に好ましくは35%であり、下限は、好ましくは5%、更に好ましくは10%である。一方、成分(b)の上限は好ましくは95%、より好ましくは90%であり、下限は50%、好ましくは60%、より好ましくは65%である。
【0051】
この質量比は、各工程でのエチレン吸収量測定や、各工程で得られた樹脂を少量且つ規定量をサンプリングし、その質量やスラリー濃度、樹脂中の触媒成分の含有率等から各工程での樹脂生成量を計算する事によって決定することができる。また、2段目に製造された重合体の極限粘度は以下の式に基づいて算出する。
【0052】

[η](1) × w(1)+[η](2) × w(2)=[η](t)

(式中、[η](1)はa工程で生成した重合体の極限粘度、[η](2)はb工程で生成した重合体の極限粘度、[η](t)は最終生成物の極限粘度、w(1)はa工程の質量分率、w(2)はb工程の質量分率をそれぞれ示す。)
【0053】
本発明に係るオレフィン重合用触媒により、エチレンや必要に応じて用いられる他のオレフィンの重合反応を行う場合、その重合反応が触媒成分中の触媒活性点で起こる。重合反応初期に生成する重合体は生成するエチレン重合体粒子の表面部に、重合反応後期に生成する重合体は組成物粒子の内部に、それぞれ偏在すると推測されている。木の年輪と類似した構成を有すると考えられる。従って、本発明で2段以上に反応条件を分けてエチレン重合体を製造する場合、1段目に製造するエチレン重合体の極限粘度[η]が、最終的に得られるエチレン重合体の[η]より低くなる条件で製造すると、組成物粒子表面に相対的に分子量の低い重合体が存在する可能性が高く、固相延伸成形の際に粒子同士が圧着し易いと考えられる。また、本発明では前記のような特定の触媒を用いて得られるエチレン重合体であるため、部分的に融解し易い重合体が出来ていると推測される。
【0054】
また、本発明に係るオレフィン重合用触媒は所謂シングルサイト触媒である。このため、前記の低分子量部と高分子量部が偏在する構造の部位が、より均一、且つ、微細に分布することが予想される。このため、後述する固相延伸成形時に、均一な延伸が起こり、延伸中の切断が起こり難い為、高い延伸倍率を示すと考えられる。
【0055】
本発明のエチレン重合体はバッチ式、連続式等、公知の重合法で製造することができる。本発明の様な多段階の重合工程で製造する場合は、バッチ式を採用することが好ましい。バッチ式プロセスで得られるエチレン重合体は、組成物粒子毎の1段目の重合工程と2段目の重合工程で得られるエチレン重合体のバラツキが少なく、均一分散構造により有利であると考えられる為である。
【0056】
(エチレン重合体)
本発明のエチレン重合体は、以下の条件を満たすことを特徴とする。
【0057】
極限粘度[η]が5dl/g以上、50dl/g以下の範囲にある。好ましい下限値は10dl/g、より好ましくは15dl/gである。一方、好ましい上限値は45dl/g、より好ましくは40dl/g、特に好ましくは30dl/gである。
【0058】
本発明のエチレン重合体の結晶化度は通常は70%以上、好ましくは75%〜95%、より好ましくは80%〜95%である。上記の結晶化度は、後述する示差走査熱量測定装置(DSC)を用いてその融解熱量から算出される値である。
【0059】
本発明のエチレン重合体は、後述するように固相延伸成形に適している。固相延伸成形のようにエチレン重合体を融点以下の温度で成形する場合、重合体粒子間の接着性と分子量が成形性を支配する大きな因子であると考えられる。
【0060】
上記の様な組成を有するエチレン重合体は、高度に分散した高分子量部と低分子量部とを有する構造を形成すると考えられる。また、本発明のオレフィン重合用触媒は所謂シングルサイト触媒であるため、活性点が比較的均一に分散していることが予想される。従って、各活性点廻りの発熱が少なく、重合と同時に触媒近傍で進行するポリエチレンの結晶化がより低温で生じるために歪んだ結晶構造となり、延伸時に崩壊し易いことが予想される。また、本出願のエチレン重合体は、多段重合で得られる。つまり熱履歴の異なる部位が併存していることが予想され、結果、前記の歪みはより顕著になることが予想される。a工程とb工程とで得られる部位の分子量に差があれば、その傾向はより顕著になると考えられる。
【0061】
また、歪んだ結晶構造を有する部位は融点が低いことが予想され、この部位は重合体粒子の圧着工程で粒子間界面強度を高める効果があることが期待される。このような重合体は、示差走査熱量計で測定したチャートが、比較的低温での吸熱量が多いパターンを示すことがある。
【0062】
また、本発明のエチレン重合体は高分子量部の間に低分子量部が存在するため、高分子量部が互いに独立した粒子構造を形成しており、高分子量部の結晶構造が延伸時に崩壊し易く結晶の再配列に有利であることが予想される。しかも、異なる熱履歴を受けた部位が併存することになる為、歪みがより顕著になると考えられる。
【0063】
一方、従来の所謂チーグラー型触媒などの固体状チタン触媒成分を用いて得られるエチレン重合体は、比較的高温での熱履歴を受ける為、結晶性が低い成分が少なく、圧着時の界面密着が不充分なことがある。このため、成形体の引張強度を高める上では不利な場合がある。
【0064】
本発明のエチレン重合体は、エチレンの単独重合体、エチレンと少量のα−オレフィン、例えばプロピレン、1−ブテン、4−メチル−1−ペンテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−オクテン、1−デセン等とを共重合して得られるエチレンを主体とした結晶性の共重合体が挙げられるが、結晶化度を高める観点や後述する固相延伸成形における延伸性の観点からは、エチレンの単独重合体であることが好ましい。一方、成形品に耐クリープ性などが必要とされる場合にはプロピレンなどが共重合されていることが好ましい。エチレンの単独重合体であっても使用するオレフィン重合用触媒によっては分岐構造を有するエチレン重合体が得られることがあるが、本発明のエチレン重合体は、特定の有機金属錯体を含むこれフィン重合用触媒を用いている為、このような分岐が極めて少ないと考えられる。このような重合体が得られる重合法であれば、分子構造制御の自由度がより高くなり、後述する固相延伸成形体などの性能向上に有利である。
【0065】
上記のようなエチレン重合体は、必要に応じて公知の各種安定剤と組み合わせて用いても良い。この様な安定剤としては、例えば、テトラキス〔メチレン(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシ)ヒドロシンナメート〕メタン、ジステアリルチオジプロピオネート等の耐熱安定剤、あるいはビス(2,2’,6,6’−テトラメチル−4−ピペリジン)セバケート、2−(2−ヒドロキシ−t−ブチル−5−メチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾル等の耐候安定剤などが挙げられる。また着色剤として無機系、有機系のドライカラーを添加してもよい。また、滑剤や塩化水素吸収剤等として公知のステアリン酸カルシウムなどのステアリン酸塩も好適な安定剤として挙げることができる。
【0066】
(エチレン重合体から得られる成形体)
本発明のエチレン重合体から得られる成形体は、上記のエチレン重合体を公知のポリエチレン用成形法で成形することによって得られる。本発明の成形物は、固相延伸成形を行う場合、極めて高い延伸性能を示すので、高い強度を有するフィルム、シート、糸、骨代替材料などの生体材料等を得ることが出来る。
【0067】
具体的な成形物としては、本発明のエチレン重合体を含むフラットヤーン、本発明のエチレン重合体を固相延伸成形して得られる繊維などが挙げられる。
【0068】
固相延伸成形の条件は、上記のエチレン重合体を用いる以外は前記の特許文献7等に記載されている公知の条件を制限無く用いることができる。例えば、本発明のエチレン重合体を、1MPa以上の圧力で圧着してシート状に成形し、これを比較的高温で引張延伸したり、ロール等を用いて圧力をかけながら延伸したりする方法が挙げられる。この圧着工程、延伸工程などの成形の温度は、エチレン重合体の粒子の融点以下であることが好ましいが、実質的に溶融流動が起こらなければ融点以上での成形となっても構わない。好ましくは本願のエチレン重合体の融点プラス5℃程度を上限とし、融点マイナス20℃程度を下限とする温度範囲であることが好ましい。
【0069】
本発明のエチレン重合体を用いた成形物の延伸性、すなわち延伸倍率や延伸成形物の物性は、後述する実施例に記載の方法で決定される。
【0070】
本発明のエチレン重合体を用いると上記の延伸倍率が50倍以上の成形体を得ることができる。より好ましくは80倍以上、更に好ましくは100倍以上、特に好ましくは150倍以上倍である。延伸倍率の上限は実質的に制限は無いが、一般的には400倍、好ましくは300倍である。これらの延伸倍率の値は、単段重合で製造されるエチレン重合体の1.2倍以上を示す。
【0071】
本願のエチレン重合体は、前述の通り重合活性によって延伸性が異なることがある。同一の重合活性で得られる重合体を比較した場合には、単段重合で製造されるエチレン重合体に比して、本願発明のエチレン重合体は1.5倍以上の延伸倍率を示す。
【0072】
本発明のエチレン重合体を用いることにより、延伸時の引張応力は従来のチーグラー型触媒から得られる重合体や単段重合で得られる重合体に比して低い。従って、より均一な延伸が可能となる傾向がある。延伸時の応力は後述する方法で求められる。延伸時の応力は30MPa以下であることが好ましく、25MPa以下であることがさらに好ましく、23MPa以下であることがさらに好ましく、20MPa以下であることがさらに好ましく、16MPa以下であることが特に好ましい。
【0073】
本発明の固相延伸成形物は高い延伸倍率での成形が可能であるので、高い引張弾性率および引張強度を有することが期待される。固相延伸成形物の引張弾性率は80GPa以上であることが好ましく、120GPa以上であることがさらに好ましく、140GPa以上であることが特に好ましい。好ましい引張弾性率の上限は特にないが、ポリエチレンの理論弾性率は280GPaとされている。本願発明の成形体の場合、他の性能とのバランスも考慮すると一般的には200GPaを上限とする範囲が好ましい。また、固相延伸成形物の強度は1.5GPa以上であることが好ましく、2GPa以上であることがさらに好ましく、2.5GPa以上であることがさらに好ましく、3GPa以上であることが特に好ましい。
【0074】
このように高い弾性率や強度を示す固相延伸成形物を得るためには、広角X線回折で得られる配向関数fがより高い値を示すことが好ましい。配向関数fはWhilchinskyの方法を用いて(110), (200)面からの回折から算出する。配向関数fの値は0.85以上であることが好ましく、0.90以上であることがさらに好ましく、0.95以上であることがさらに好ましく、0.98以上であることが特に好ましい。
【0075】
固相延伸成形は溶媒を用いずに成形する方法であるため、成形設備が比較的シンプルでありまた環境への悪影響も少ない成形法である。このような方法で高強度、高弾性率の材料を提供することは、社会への貢献度が高いと考えられる。
【実施例】
【0076】
以下に、本発明を実施例に基づいて説明するが、本発明はその要旨を逸脱しない限り下記の実施例に限定されないことは言うまでもない。
【0077】
(延伸倍率)
エチレン重合体粒子を温度136℃、圧力7MPaで30分間、加圧することで、厚さ約500μmのプレスシートを作製し、縦35mm×横7mmの矩形に切り出す。
【0078】
高密度ポリエチレンにて直径10mmφの円柱形状の射出成形品を作成し、この成形品を中心軸にそって半割りする(以下、これをビレットという)。上記の切り出したシートを、ビレットの半割りした平面部分に挟んで固定する。
【0079】
東洋精機製作所製キャピラリーレオメーターIIBを120℃に加熱し、先に作製したビレットをシリンダー内にセットする。押込み棒を用いてビレットを上部より2mm/secの速度で押込み、凹型テーパー形状のノズルを通過させることによって圧縮延伸する。シリンダー径と凹型テーパー形状のノズルの出口径を元に計算した断面積の比は6:1であり、シートはノズルを通過する間に長手方向に6倍に延伸される。
【0080】
次いで、上記の予備延伸で得られた延伸シートを切り出して、標線間距離が5mmとなるように標線をシートにマーキングする。チャック間を7mm設定した引張試験機(インストロン社製、万能試験機1123型)に得られたシートをセットし、温度135℃、引張速度が14mm/分の条件で、前記予備延伸と同じ方向に破断が起こるまで一軸延伸する。測定は3回〜5回行い、破断時の標線間距離を初期の標線間距離(5mm)で除した値を二回目延伸倍率とした。
【0081】
上記二回目延伸倍率に、前記圧縮延伸での延伸倍率である6倍を乗じた値を当該評価の延伸倍率として評価する
【0082】
(延伸時最大応力)
二回延伸時の延伸時応力が最大となる点を延伸時最大応力として記録した。一般に延伸工程における応力(延伸方向の張力)は低い方が延伸性に優れることが知られている。
【0083】
(延伸成形物の強度および弾性率)
引張試験機(インストロン社製、万能試験機1123型)を用いて、温度23℃、チャック間30mm、引張速度30mm/minの条件で短冊状に切削した延伸成形物の延伸方向の引張強度、引張弾性率を測定した。
【0084】
(極限粘度[η])
極限粘度[η]は、超高分子量エチレン重合体粒子をデカリンに溶解させ、温度135℃のデカリン中で測定した。
【0085】
(結晶化度および融点)
DSC(エスアイアイ・ナノテクノロジー社製DSC6220)を用いて、以下のような方法で測定した。
秤量: 5mg程度
昇温速度:10℃/min
測定温度範囲:0℃〜200℃
融点:融解のピークトップ温度
結晶化度:70℃から180℃までベースラインを引いた差分の熱量から融解熱量をポリエチレン100%結晶の融解熱量である290J/gで除した値
【0086】
[固体成分(A)の調製]
窒素流通下、150℃で5時間乾燥したシリカゲル(SiO2)30gを470mLの精製トルエンに懸濁した後、メチルアルモキサンのトルエン溶液(Al原子換算で3.07mmol/mL)130mLを氷浴中0℃で30分かけて滴下した。滴下終了後、氷浴中で30分撹拌し、次いで30分かけて95℃まで昇温し、95℃で4時間反応させた。その後60℃まで降温し、上澄み液をデカンテーションにより除去した。このようにして得られた固体成分を室温で精製トルエンで3回洗浄した後、精製トルエンを加え、固体成分(A)のトルエンスラリーを調製した。得られた固体成分(A)の一部を採取し、濃度を調べたところ、スラリー濃度:0.150g/mL、Al濃度:1.119mmol/mL、メチルアルモキサンの担持率は103%、Al/Si=0.81mol/molであった。
【0087】
[固体触媒成分(B−1)の調製]
窒素置換した300mLのガラス製フラスコに精製トルエン150mLを入れ、攪拌下、上記で調製した固体成分(A)のトルエンスラリー(固体部換算で1.34g)を装入した。次に、下記遷移金属化合物1のトルエン溶液(Zr原子換算で0.001mmol/mL)40.0mLを15分かけて滴下し、室温で1時間反応させた。その後、上澄み液をデカンテーションにより除去し、精製トルエンで3回洗浄し、精製デカンで2回洗浄した後精製デカン100mLを加えて固体触媒成分(B−1)のデカンスラリーを調製した。得られた固体触媒成分(B−1)のデカンスラリーの一部を採取して濃度を調べたところ、Zr濃度0.000363mmol/mL、Al濃度0.0919mmol/mLであった。
【0088】
[固体触媒成分(B−2)の調製]
窒素置換した100mLのガラス製フラスコに精製トルエン38.4mLを入れ、攪拌下、上記で調製した固体成分(A)のトルエンスラリー(固体部換算で1.0g)を装入した。次に、下記遷移金属化合物2のトルエン溶液(Ti原子換算で0.001mmol/mL)30.0mLを添加し、、室温で30分間反応させることで、固体触媒成分(B−2)のトルエンスラリーを調製した。得られた固体触媒成分(B−2)のトルエンスラリーの濃度は、Ti濃度0.00040mmol/mL、Al濃度0.10mmol/mLであった。
【0089】
【化5】

【0090】
【化6】

【0091】
[実施例1]
[重合]
第1工程
充分に窒素置換したSUS製1リットルオートクレーブに、精製ヘプタン500mlを装入し、エチレンで液相および気相を飽和させた。トリイソブチルアルミニウムをAl原子換算で0.35mmol、固体触媒成分(B−1)としてZr原子換算で0.003mmol加えた。次いで、水素50mLを添加した後、全圧が3kg/cm-G になるようにエチレンを供給しながら、65℃で1時間重合を行った。重合終了後、常圧に戻し、55℃で30分間窒素パージを行った。この時点でオートクレーブから重合スラリー5mLを抜き出し、ろ過、乾燥して得られたポリエチレンの極限粘度[η]を測定したところ、8.1dl/gであった。
【0092】
第2工程
上記重合終了後、全圧が3kg/cm-G になるようにエチレンを供給しながら、65℃で2時間重合を行った。重合終了後、得られたポリマーをヘキサンで洗浄した後、80℃にて10時間減圧乾燥した。得られたポリエチレンは、130gであり、[η]は24.4dl/gであった。
【0093】
[延伸]
得られたポリエチレンを用いて、前記のごとくシートを作製し、延伸倍率および延伸時最大応力を測定した。また得られた延伸成形物の強度及び弾性率を測定した。測定結果とともに結果を表1に示す。
【0094】
[実施例2]
[重合]
第1工程
充分に窒素置換したSUS製1リットルオートクレーブに、精製ヘプタン500mlを装入し、エチレンで液相および気相を飽和させた。トリn−オクチルアルミニウムをAl原子換算で0.15mmol、固体触媒成分(B−2)としてTi原子換算で0.003mmol加え、全圧が8kg/cm-G になるように500ppmの水素を含んだエチレンを供給しながら、50℃で50分間重合を行った。重合終了後、常圧に戻し、48℃で30分間窒素パージを行った。この時点でオートクレーブから重合スラリー5mLを抜き出し、ろ過、乾燥して得られたポリエチレンの極限粘度[η]を測定したところ、9.0dl/gであった。
【0095】
第2工程
上記重合終了後、全圧が8kg/cm-G になるようエチレンを供給しながら、50℃で2時間重合を行った。重合終了後、得られたポリマーをヘキサンで洗浄した後、80℃にて10時間減圧乾燥した。得られたポリエチレンは、132gであり、[η]は23.2dl/gであった。
【0096】
[延伸]
得られたポリエチレンを用いて、前記のごとくシートを作製し、延伸倍率および延伸時最大応力を測定した。また得られた延伸成形物の強度及び弾性率を測定した。ポリエチレンのDSC測定結果とともに表1に示す。
【0097】
[実施例3]
[重合]
第1工程
充分に窒素置換したSUS製1リットルオートクレーブに、精製ヘプタン500mlを装入し、エチレンで液相および気相を飽和させた。トリn−オクチルアルミニウムをAl原子換算で0.15mmol、固体触媒成分(B−2)としてTi原子換算で0.003mmol加え、全圧が4kg/cm-G になるように200ppmの水素を含んだエチレンを供給しながら、70℃で50分間重合を行った。重合終了後、常圧に戻し、48℃で30分間窒素パージを行った。この時点でオートクレーブから重合スラリー5mLを抜き出し、ろ過、乾燥して得られたポリエチレンの極限粘度[η]を測定したところ、9.4dl/gであった。
【0098】
第2工程
上記重合終了後、全圧が8kg/cm-G になるようエチレンを供給しながら、50℃で2時間重合を行った。重合終了後、得られたポリマーをヘキサンで洗浄した後、80℃にて10時間減圧乾燥した。得られたポリエチレンは、136gであり、[η]は23.5dl/gであった。
【0099】
[延伸]
得られたポリエチレンを用いて、前記のごとくシートを作製し、延伸倍率および延伸時最大応力を測定した。また得られた延伸成形物の強度及び弾性率を測定した。測定結果とともに結果を表1に示す。
【0100】
[比較例1]
[重合]
充分に窒素置換したSUS製1リットルオートクレーブに、精製ヘプタン500mlを装入し、エチレンで液相および気相を飽和させた。トリイソブチルアルミニウムをAl原子換算で0.35mmol、固体触媒成分(B−1)としてZr原子換算で0.003mmol加え、全圧が3kg/cm-G になるように100ppmの水素を含んだエチレンを供給しながら、65℃で1時間重合を行った。重合終了後、得られたポリマーをヘキサンで洗浄した後、80℃にて10時間減圧乾燥した。得られたポリエチレンは、50gであり、[η]は18.2dl/gであった。
【0101】
[延伸]
得られたポリエチレンを用いて、前記のごとくシートを作製し、延伸倍率および延伸時最大応力を測定した。また得られた延伸成形物の強度及び弾性率を測定した。測定結果とともに結果を表1に示す。
【0102】
[比較例2]
[重合]
充分に窒素置換したSUS製1リットルオートクレーブに、精製ヘプタン500mlを装入し、エチレンで液相および気相を飽和させた。トリn−オクチルアルミニウムをAl原子換算で0.15mmol、固体触媒成分(B−2)としてTi原子換算で0.004mmol加え、全圧が8kg/cm-G になるようにエチレンを供給しながら、50℃で1時間重合を行った。重合終了後、得られたポリマーをヘキサンで洗浄した後、80℃にて10時間減圧乾燥した。得られたポリエチレンは、60gであり、[η]は27.8dl/gであった。
【0103】
[延伸]
得られたポリエチレンを用いて、前記のごとくシートを作製し、延伸倍率および延伸時最大応力を測定した。また得られた延伸成形物の強度及び弾性率を測定した。測定結果とともに結果を表1に示す。
【0104】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0105】
本発明のエチレン重合体は、特定の分子量を有する成分を含むことから、バッテリーセパレーターフィルム、ゲル紡糸法繊維、シートなどに好適に使用することができる。
【0106】
特に固相延伸成形した際に強度の高い成形物を得ることができ、固相延伸成形用途に好適に使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の要件を満たすエチレン重合体
[I](A)下記から選ばれる周期律表の3〜8族金属を含む有機金属錯体触媒成分
メタロセン化合物
芳香族構造、窒素、酸素を含む配位子を有する有機金属錯体
(B)周期律表12族,13族の金属を含む有機金属化合物触媒成分
を含むオレフィン重合用触媒を用いたエチレンの多段重合で製造される。
[II] 極限粘度[η]が5dl/g〜50dl/g
【請求項2】
前記、芳香族構造、窒素、酸素を含む配位子を有する有機金属錯体が、下記式1の構造を有することを特徴とする請求項1記載のエチレン重合体。
【化7】

(式中、Mは周期律表第3〜8族の遷移金属原子を示し、mは、1〜6の整数を示し、R1〜R6は、互いに同一でも異なっていてもよく、R1は、ハロゲン原子、炭化水素基、ヘテロ環式化合物残基、酸素含有基、窒素含有基、ホウ素含有基、イオウ含有基、リン含有基、ケイ素含有基、ゲルマニウム含有基、またはスズ含有基を示し、R2〜R6は、水素原子、ハロゲン原子、炭化水素基、ヘテロ環式化合物残基、酸素含有基、窒素含有基、ホウ素含有基、イオウ含有基、リン含有基、ケイ素含有基、ゲルマニウム含有基、またはスズ含有基を示し[(但し、R6が水素である場合は、R2は水素原子または炭化水素基である)]、これらのうちの2個以上が互いに連結して環を形成していてもよく、また、mが2以上の場合にはR1〜R6で示される基のうち2個の基が連結されていてもよく(但し、R1同士が結合されることはない)、nは、Mの価数を満たす数であり、Xは、水素原子、ハロゲン原子、炭化水素基、酸素含有基、イオウ含有基、窒素含有基、ホウ素含有基、アルミニウム含有基、リン含有基、ハロゲン含有基、ヘテロ環式化合物残基、ケイ素含有基、ゲルマニウム含有基、またはスズ含有基を示し、nが2以上の場合は、Xで示される複数の基は互いに同一でも異なっていてもよく、またXで示される複数の基は互いに結合して環を形成してもよい。)
【請求項3】
前記メタロセン化合物が、下記一般式2で表される構造を有することを特徴とする請求項1記載のエチレン重合体。
【化8】

式中、Mは、チタニウム、ジルコニウム、ハフニウムの遷移金属原子を示し、R11、R12、R13、R14、R15、R16、R17、およびR18は、互いに同一でも異なっていてもよく、炭素原子数が1〜20の炭化水素基、炭素原子数が1〜20のハロゲン化炭化水素基、ケイ素含有基、酸素含有基、イオウ含有基、窒素含有基、リン含有基、水素原子またはハロゲン原子を示し、また互いに隣接する基の一部が結合してそれらの基が結合する炭素原子とともに環を形成していてもよく、XおよびXは、互いに同一でも異なっていてもよく、炭化水素基、ハロゲン化炭化水素基、酸素含有基、イオウ含有基、ケイ素含有基、水素原子またはハロゲン原子を示し、Yは、2価の炭化水素基、2価のハロゲン化炭化水素基、2価のケイ素含有基、2価のゲルマニウム含有基、2価のスズ含有基、−O−、−CO−、−S−、−SO−、−SO−、−Ge−、−Sn−、−NR−、−P(R)−、−P(O)(R)−、−BR−または−AlR−〔ただし、Rは、互いに同一でも異なっていてもよく、水素原子、ハロゲン原子、炭化水素基、ハロゲン化炭化水素基、アルコキシ基である〕を示す。
【請求項4】
下記の要件を満たし、極限粘度[η]が5dl/g〜50dl/gであるエチレン重合体の製造方法
(A)下記から選ばれる周期律表の3〜8族金属を含む有機金属錯体
メタロセン化合物
芳香族構造、窒素、酸素を含む配位子を有する有機金属錯体
(B)周期律表12族,13族の金属を含む有機金属化合物触媒
を含むオレフィン重合用触媒を用い、
極限粘度[η]が2〜20dl/gのエチレン重合体を製造する工程を有する。
【請求項5】
請求項1に記載のエチレン重合体を含む成形体
【請求項6】
請求項1に記載のエチレン重合体を含み、固相延伸成形法で得られる成形体

【公開番号】特開2011−144297(P2011−144297A)
【公開日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−7522(P2010−7522)
【出願日】平成22年1月15日(2010.1.15)
【出願人】(000005887)三井化学株式会社 (2,318)
【Fターム(参考)】