説明

エポキシ樹脂組成物、半導体封止材料および半導体装置

【課題】
フィラーを高充填しても低粘度で、かつ、ガラス転移温度が高く、線膨張係数が小さい硬化物を得ることができるエポキシ樹脂組成物、この組成物からなる半導体封止材料、及び、この半導体封止材料を用いて封止されてなる半導体装置を提供する。
【解決手段】
分子中に水酸基を持たないエポキシ樹脂、1分子中に酸無水物基とエポキシ基を有する化合物、エポキシ樹脂硬化剤及び硬化促進剤を含有することを特徴とするエポキシ樹脂組成物、前記エポキシ樹脂組成物を用いた半導体封止材料、並びに、前記半導体封止材料を用いて封止されてなる半導体装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィラーを高充填しても低粘度で、かつ、ガラス転移温度が高く、線膨張係数が小さい硬化物を得ることができるエポキシ樹脂組成物、この組成物からなる半導体封止材料、及び、この半導体封止材料を用いて封止されてなる半導体装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の高度情報化社会の急激な進展、情報通信網の発達に伴い、情報処理速度の高速化、通信波長領域の高周波化を達成するために、半導体チップ等の電子部品と、プリント基板との接続配線距離を極力短縮して伝送速度の高速化、高周波領域での伝送損失の低下を図る開発がなされている。
半導体チップ等の電極とプリント基板の電極とを接続する方法としては、金線や半田等を介して直接接続する方法(ベアチップ実装法)が最も一般的である。
【0003】
また、この方法により接続された電極及び電極間の配線は、接続信頼性の向上を目的として封止材料により封止される。封止材料としては、従来公知のエポキシ樹脂からなる液状封止材料やフィルムが広く使用されている。例えば、ベアチップ実装法の1つであるフリップチップボンディング技術では、半導体チップとプリント基板とを、半導体チップ電極部に形成された半田バンプ等によりプリント基板上に形成された電極と直接接続を行う。
【0004】
ところで、この場合、得られる半導体回路をヒートサイクル試験に供すると、プリント基板と半導体チップとの線膨張係数の差に起因して半田バンプ等に過剰な機械的応力が加わり、半田バンプ等にクラックが発生し、半導体回路の接続信頼性が損なわれることがある。そこで、この問題を解決すべく、プリント基板と半導体チップとの間隙に、エポキシ樹脂を用いるアンダーフィル(封止材料)を充填して封止が行われている。
【0005】
エポキシ樹脂硬化物は、一般的に機械的性質、耐水性、耐食性、密着性、耐化学薬品性、耐熱性、及び電気特性などの点で優れた性能を有することから、接着剤、塗料、積層板、IC封止材、及び成形材料など幅広い分野において使用されている。
なかでも、例えばビスフェノール型エポキシ樹脂やフェノールノボラック型エポキシ樹脂等に代表されるグリシジルエーテル型エポキシ樹脂等の汎用型芳香族エポキシ樹脂は、硬化剤と、場合によっては硬化促進剤を添加して、更に必要により、タルク、チタン、及びシリカなどの充填剤をも添加して、種々の硬化条件で硬化させて硬化物として用いられている。
【0006】
しかしながら、上記のグリシジルエーテル型エポキシ樹脂等の汎用型芳香族エポキシ樹脂からなる硬化物は、芳香環構造を有するために屋外における耐候性に劣る。
また、グリシジルエーテル型エポキシ樹脂は、その25℃での粘度(E型回転粘度計で測定)が、ビスフェノールA型で4000〜20000mPa・s、ビスフェノールF型で1500〜4500mPa・sであるなど、一般に流動性が低い。そのため、グリシジルエーテル型エポキシ樹脂は、トルエン、キシレン、メチルエチルケトン、酢酸エチル等に代表される溶剤に溶解して使用されることが多く、作業性、環境安全性に問題がある。
【0007】
希釈剤を使用しなくても十分に粘度の低いエポキシ樹脂として、分子内に脂環骨格を持った脂環式エポキシ樹脂が知られている。例えば、CEL−2021P(3,4−エポキシシクロヘキシルメチル3’,4’−エポキシシクロヘキサンカルボキシレート)やCEL−3000(1,2,8,9−ジエポキシリモネン)等の脂環式エポキシ樹脂がダイセル化学工業社にて製造販売されている。
【0008】
また、脂環式エポキシ樹脂として、分子内にエステル基を含まない脂環式エポキシ樹脂が提案されている。例えば、特許文献1にはビシクロヘキシル−3,3’−ジエポキシド、酸無水物硬化剤及びカチオン系硬化促進剤よりなる硬化性樹脂組成物が開示されている。
しかしながら、カチオン系硬化促進剤を用いると、イオン性の分解物が系中に残存するため絶縁信頼性が低下しやすいといった問題がある。
また、提案されている化合物に限らず、脂環式エポキシ樹脂の硬化に、非カチオン系の硬化促進剤を用いると、脂環構造に起因する立体障害の影響で、グリシジルエーテル型エポキシ樹脂に較べて反応性が悪く、ガラス転移温度が高く、線膨張率の低い硬化物を得ることは難しかった。
【0009】
本発明に関連して、特許文献2には、分子中に水酸基を有するエポキシ樹脂及び/又は分子中に水酸基を有する重合物(a)と、分子中にエポキシ基と1個の無水物基を有する化合物(b)との反応物であるエポキシ基含有ポリカルボン酸樹脂(A)を含む樹脂組成物が開示されている。ここでは、「分子中に水酸基を有するエポキシ樹脂」としてビスフェノールA型のエポキシ樹脂が挙げられ、この樹脂組成物は、プリント配線板用ソルダーレジスト樹脂組成物として適している旨記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2004−204228号公報
【特許文献2】特開平7−62059号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上記した従来技術に鑑みてなされたものであり、フィラーを高充填しても低粘度で、かつ、ガラス転移温度が高く、線膨張係数が小さい硬化物を得ることができるエポキシ樹脂組成物、この組成物からなる半導体封止材料、及び、この半導体封止材料を用いて封止されてなる半導体装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究した結果、分子中に水酸基を持たないエポキシ樹脂、後述する式(I)で表される化合物、エポキシ樹脂硬化剤及び硬化促進剤を含有するエポキシ樹脂組成物は、フィラーを高充填しても低粘度で、かつ、得られる硬化物はガラス転移温度が高く、線膨張係数が小さいものであるため、半導体封止材料として好適であることを見出し、かかる知見に基づいて本発明を完成するに至った。
【0013】
かくして本発明の第1によれば、下記(1)〜(6)のエポキシ樹脂組成物が提供される。
(1)分子中に水酸基を持たないエポキシ樹脂、1分子中に酸無水物基とエポキシ基を有する化合物、エポキシ樹脂硬化剤及び硬化促進剤を含有することを特徴とするエポキシ樹脂組成物。
(2)1分子中に酸無水物基とエポキシ基を有する化合物が、下記式(I)
【0014】
【化1】

【0015】
(式中、R〜Rは、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、又は炭素数1〜20の炭化水素基を表し、nは1又は2である。)で表される化合物であることを特徴とする(1)に記載のエポキシ樹脂組成物。
(3)前記分子中に水酸基を持たないエポキシ樹脂の含有量と、式(I)で表される化合物の含有量の重量比〔(分子中に水酸基を持たないエポキシ樹脂の含有量):(式(I)で表される化合物の含有量)〕が、1:0.1〜1:0.7であることを特徴とする(2)に記載のエポキシ樹脂組成物。
【0016】
(4)前記分子中に水酸基を持たないエポキシ樹脂が、環に縮合したエポキシ基を2つ以上有する、分子量が300以下の脂環式エポキシ樹脂であることを特徴とする(1)〜(3)のいずれかに記載のエポキシ樹脂組成物。
(5)前記エポキシ樹脂硬化剤が、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸、又はメチルヘキサヒドロ無水フタル酸とヘキサヒドロ無水フタル酸との混合物であることを特徴とする(1)〜(4)のいずれかに記載のエポキシ樹脂組成物。
(6)25℃で液状であることを特徴とする(1)〜(5)のいずれかに記載のエポキシ樹脂組成物。
【0017】
本発明の第2によれば、下記(7)の半導体封止材料が提供される。
(7)前記(1)〜(6)のいずれかに記載のエポキシ樹脂組成物を用いた半導体封止材料。
本発明の第3によれば、下記(8)の半導体装置が提供される。
(8)前記(7)に記載の半導体封止材料を用いて封止されてなる半導体装置。
【発明の効果】
【0018】
本発明のエポキシ樹脂組成物は、フィラーを高充填しても低粘度で、かつ、得られる硬化物はガラス転移温度が高く、線膨張係数が小さいものであるため、本発明のエポキシ樹脂組成物は、半導体封止材料として好適である。また、得られる硬化物は残留塩素濃度が低いので絶縁信頼性が高い。
本発明の半導体封止材料は、本発明のエポキシ樹脂組成物を用いるものであるため、微細なバンプ間へも樹脂が充分に浸透してボイドの少ない封止が可能である。
また、本発明の半導体装置は、本発明の半導体封止材料により封止されているため、半導体チップとの線膨張率差が比較的小さく、ヒートサイクル試験において優れた接続信頼性を示す。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の半導体装置の断面図である。
【図2】本発明の半導体装置の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明を、1)エポキシ樹脂組成物、2)半導体封止材料、及び、3)半導体装置、に項分けして詳細に説明する。
【0021】
1)エポキシ樹脂組成物
本発明のエポキシ樹脂組成物は、以下の(a)〜(d)の成分を含有することを特徴とする。
(a)分子中に水酸基を持たないエポキシ樹脂、
(b)1分子中に酸無水物基とエポキシ基を有する化合物、
(c)エポキシ樹脂硬化剤、及び
(d)硬化促進剤
【0022】
(a)分子中に水酸基を持たないエポキシ樹脂
本発明のエポキシ樹脂組成物は、分子中に水酸基を持たないエポキシ樹脂(以下、「エポキシ樹脂(a)」ということがある。)を含有する。
エポキシ樹脂(a)としては、分子中に水酸基を持たないエポキシ樹脂であれば特に制約はない。但し、エポキシ樹脂(a)からは、後述する、1分子中に酸無水物基とエポキシ基を有する化合物(b)を除く。
エポキシ樹脂(a)としては、例えば、分子中に水酸基を持たない、グリシジルエーテル型エポキシ樹脂、グリシジルアミン型エポキシ樹脂、グリシジルエステル型エポキシ樹脂、及び脂環式エポキシ樹脂等が挙げられる。グリシジルエーテル型エポキシ樹脂、グリシジルアミン型エポキシ樹脂及びグリシジルエステル型エポキシ樹脂は、エピクロルヒドリンと対応する活性水素化合物から得られるエポキシ樹脂である。脂環式エポキシ樹脂は、脂環式オレフィンの炭素−炭素二重結合をエポキシ化して得られるエポキシ樹脂である。
また、エポキシ樹脂(a)が有するエポキシ基の個数は、好ましくは2〜4個、より好ましくは2又は3個、特に好ましくは2個である。
これらのエポキシ樹脂(a)は一種単独で、或いは二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0023】
これらの中でも、ガラス転移温度がより高く、線膨張係数がより小さい硬化物を得ることができること観点から、分子中に水酸基を持たない脂環式エポキシ樹脂が好ましい。
脂環式エポキシ樹脂の脂環式構造としては、飽和脂環式炭化水素(シクロアルカン)構造、不飽和脂環式炭化水素(シクロアルケン)構造等が挙げられ、シクロアルカン構造が好ましい。また、脂環式構造としては、単環構造であっても、多環構造であってもよい。多環構造としては、特に限定されず、縮合環構造、橋架け環構造、スピロ環構造、脂環族基が直接又は連結基(アルキレン基、アルキレンオキシ基、−O−等)を介して結合した構造であってもよい。脂環式構造を構成する炭素原子数は、通常4〜20個、好ましくは5〜15個の範囲である。
【0024】
また、脂環式エポキシ樹脂としては、環に縮合したエポキシ基を2つ以上有するものが好ましい。
このようなエポキシ樹脂(a)としては、例えば、3,4−エポキシシクロヘキシルメチル(3,4−エポキシ)シクロヘキサンカルボキシレート、ビス(3,4−エポキシシクロヘキシルメチル)アジペート、ジシクロアリファティックジエステルジエポキシド、3,4−エポキシ−6−メチルシクロヘキシルメチル(3,4−エポキシ)シクロヘキサンカルボキシレート、下記式(II)
【0025】
【化2】

【0026】
で表される化合物、下記式(III)
【0027】
【化3】

【0028】
で表される化合物、下記式(IV)
【0029】
【化4】

【0030】
で表される化合物等が挙げられる。
前記式(II)〜(IV)中、R10〜R21、R40〜R51は、互いに独立して、水素原子、ハロゲン原子、又は炭素数1〜20の炭化水素基を表し、Xは、単結合、酸素原子、硫黄原子、−SO−、−SO−、−CH−、−C(CH−、−CBr−、−C(CBr−、−C(CF−、−C(CCl−、又は、−CH(C)−を表し、R22〜R39は、互いに独立して、水素原子;ハロゲン原子;酸素原子もしくはハロゲン原子を含んでもよい、炭素数1〜20の炭化水素基;又は置換基を有してもよい炭素数1〜20のアルコキシ基を表し、mは1又は2を表す。
【0031】
10〜R39のハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等が挙げられる。
炭素数1〜20の炭化水素基としては、メチル基、エチル基、プロピル基等のアルキル基;シクロペンチル基、シクロヘキシル基等のシクロアルキル基;フェニル基、ナフチル基、アントラセニル基等の芳香族基等が挙げられる。
22〜R39の置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルコキシ基の、炭素数1〜20のアルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基、n−ブトキシ基、s−ブトキシ基、t−ブトキシ基、n−ペンチルオキシ基、n−オクチルオキシ基等が挙げられる。その置換基としては、塩素原子、臭素原子等のハロゲン原子;メトキシ基、エトキシ基等のアルコキシ基;等が挙げられる。
【0032】
これらの中でも、エポキシ樹脂(a)としては、本発明のより優れた効果を有する半導体封止材料が得られる観点から、分子量が300以下のものが好ましく、分子量が100〜300であるものがより好ましい。
また、25℃で液体であるものが好ましい。
【0033】
具体的には、前記式(II)で表される化合物又は式(III)で表される化合物であって、分子量が300以下のものが好ましく、前記式(II)で表される化合物であって、分子量が300以下のものがより好ましく、下記式(II−1)
【0034】
【化5】

【0035】
で表される化合物(テトラヒドロインデンジオキサイド)が特に好ましい。
エポキシ樹脂(a)の多くは公知物質であり、対応するオレフィンの炭素−炭素二重結合をエポキシ化する方法等の公知の方法により製造し、入手することができる(例えば、特開2002−145872号公報、特開2008−189698号公報、特開2008−189709号公報等参照。)。また、市販品をそのままエポキシ樹脂(a)として使用することもできる。
【0036】
(b)1分子中に酸無水物基とエポキシ基を有する化合物
本発明のエポキシ樹脂組成物は、さらに、1分子中に酸無水物基とエポキシ基を有する化合物を含有する。当該化合物としては、特に限定されないが、通常、前記式(I)で表される化合物が好適に用いられる。
前記式(I)中、R〜Rは、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、又は炭素数1〜20の炭化水素基を表す。ハロゲン原子及び炭素数1〜20の炭化水素基としては、前記R10〜R39で例示したハロゲン原子及び炭素数1〜20の炭化水素基と同様のものが挙げられる。
【0037】
これらの中でも、R〜Rは、それぞれ独立して、水素原子又は炭素数1〜6のアルキル基であるのが好ましく、R〜Rのいずれか1つがメチル基で、その他がすべて水素原子である、又はすべて水素原子であるのがより好ましい。
nは1又は2であり、1であるのが好ましい。
【0038】
式(I)で表される化合物は、従来公知の方法により製造することができる。例えば、下記式に示すように、対応するオレフィン化合物(V)を酸化剤(VI)により酸化(エポキシ化)する方法等が挙げられる(USP2,794,028号公報等参照。)。
【0039】
【化6】

【0040】
用いる酸化剤としては、過酢酸等の脂肪族過カルボン酸類;過酸化水素、ピロリン酸カリウムと過酸化水素との組合せ等の過酸化水素類;m−クロロ過安息香酸等の有機過酸化物類;等が挙げられる。酸化剤の使用量は、オレフィン化合物に対して等モル以上、好ましくは、1〜2.5倍モルである。
【0041】
エポキシ化反応は、溶媒中で行うのが好ましい。用いる溶媒としては、ヘキサン、シクロヘキサン等の脂肪族炭化水素類;トルエン、エチルベンゼン等の芳香族炭化水素類;酢酸エチル、酢酸メチル等のエステル類;等が挙げられる。
【0042】
反応温度は、0℃以上用いる溶媒の沸点以下、好ましくは0〜120℃である。
反応時間は、反応規模等にもよるが、通常1〜100時間、好ましくは2〜12時間である。
反応終了後は、例えば、貧溶媒で沈殿させる方法、エポキシ化物を熱水中に攪拌の下で投入し溶媒を蒸留除去する方法、又は、直接脱溶媒法等を行うことにより、目的とする脂環式エポキシ化合物を得ることができる。
【0043】
本発明のエポキシ樹脂組成物においては、前記エポキシ樹脂(a)の含有量と、前記式(I)で表される化合物の含有量の重量比〔(式(I)で表される化合物の含有量):(エポキシ樹脂(a)の含有量)〕は、0.1:1〜0.7:1であるのが好ましく、0.3:1〜0.5:1であるのがより好ましい。
本発明のエポキシ樹脂組成物は、前記エポキシ樹脂(a)と式(I)で表される化合物をこのような割合で含有する場合、エポキシ樹脂(a)と後述するエポキシ樹脂硬化剤との反応性に優れ、低温・短時間で硬化することができる。さらに、フィラーを高充填しても低粘度で、残留塩素濃度が低く、かつ、ガラス転移温度(Tg)が高く、線膨張係数が小さい硬化物を与える。
【0044】
(c)エポキシ樹脂硬化剤
本発明のエポキシ樹脂組成物は、前記エポキシ樹脂(a)、及び、1分子中に酸無水物基とエポキシ基を有する化合物に加えて、エポキシ樹脂硬化剤を含有する。
エポキシ樹脂硬化剤としては、エポキシ樹脂を硬化させ得るものであれば特に制約はない。例えば、酸無水物系エポキシ樹脂硬化剤やフェノール系エポキシ樹脂硬化剤等が挙げられる。なかでも、適度な粘度を有し、より低温度・短時間で硬化させることができるエポキシ樹脂組成物が得られることから、25℃で液体であるものが好ましく、25℃で液体の酸無水物系エポキシ樹脂硬化剤がより好ましい。
【0045】
25℃で液体の酸無水物系エポキシ樹脂硬化剤としては、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸、メチルテトラヒドロ無水フタル酸、メチルエンドメチレンテトラヒドロ無水フタル酸、無水メチルナジック酸、及び水素化メチルナジック酸無水物等が挙げられる。
【0046】
また、25℃で固体の酸無水物系エポキシ樹脂硬化剤を、25℃で液状の酸無水物系エポキシ樹脂硬化剤に溶解させ、25℃で液状の混合物として使用してもよい。25℃で固体の酸無水物系エポキシ樹脂硬化剤としては、無水フタル酸、テトラヒドロ無水フタル酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、及びナジック酸無水物等が挙げられる。
【0047】
25℃で液体のフェノール系エポキシ樹脂硬化剤としては、明和化成工業社製の商品名「MEH−8000H」や「MEH−8005」等が挙げられる。
これらのエポキシ樹脂硬化剤は、一種単独で、或いは二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0048】
これらの中でも、本発明のより優れた効果が得られる観点から、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸、及び、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸とヘキサヒドロ無水フタル酸との混合物が特に好ましい。
【0049】
エポキシ樹脂硬化剤の使用量は、エポキシ樹脂硬化剤としての効果を発揮しうる量であれば特に制限はないが、前記エポキシ樹脂(a)100重量部に対して、通常50〜200重量部の範囲である。
【0050】
(d)硬化促進剤
本発明のエポキシ樹脂組成物は、前記エポキシ樹脂(a)、1分子中に酸無水物基とエポキシ基を有する化合物、及びエポキシ樹脂硬化剤に加えて、さらに硬化促進剤を含有する。硬化促進剤は、前記エポキシ樹脂(a)がエポキシ樹脂硬化剤によって硬化する際、硬化反応を促進する機能を有する化合物である。
【0051】
硬化促進剤としては、特に限定されるものではないが、例えば、ベンジルジメチルアミン、トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール、ジメチルシクロヘキシルアミン等の3級アミン類;1−シアノエチル−2−エチル−4−メチルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾール、1−ベンジル−2−メチルイミダゾール等のイミダゾール系硬化促進剤;トリフェニルホスフィン、亜リン酸トリフェニル等の有機リン系硬化促進剤;テトラフェニルホスホニウムブロマイド、テトラ−n−ブチルホスホニウムブロマイド等の4級ホスホニウム塩類;1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセン−7等やその有機酸塩等のジアザビシクロアルケン類;オクチル酸亜鉛、オクチル酸錫やアルミニウムアセチルアセトン錯体等の有機金属化合物類;テトラエチルアンモニウムブロマイド、テトラブチルアンモニウムブロマイド等の4級アンモニウム塩類;三ふっ化ホウ素、トリフェニルボレート等のホウ素化合物;塩化亜鉛、塩化第二錫等の金属ハロゲン化物;が挙げられる。更には、高融点イミダゾール化合物、ジシアンジアミド、アミンをエポキシ樹脂等に付加したアミン付加型促進剤等の高融点分散型潜在性促進剤;イミダゾール系、リン系、ホスフィン系促進剤の表面をポリマーで被覆したマイクロカプセル型潜在性促進剤;アミン塩型潜在性硬化促進剤;ルイス酸塩、ブレンステッド酸塩等の高温解離型の熱カチオン重合型の潜在性硬化促進剤;等に代表される潜在性硬化促進剤も使用することができる。これらの硬化促進剤は単独で、又は2種以上を混合して使用することができる。
これらの中でも、本発明のより優れた効果を得ることができる観点から、有機リン系硬化促進剤及びイミダゾール系硬化促進剤が好ましく、2−エチル−4−メチルイミダゾールが特に好ましい。
【0052】
硬化促進剤の使用量は、硬化促進効果が得られる量であれば特に制限はないが、前記エポキシ樹脂(a)100重量部に対して、通常0.1〜10重量部、好ましくは0.5〜5重量部である。
【0053】
本発明のエポキシ樹脂組成物においては、エポキシ樹脂(a)、1分子中に酸無水物基とエポキシ基を有する化合物、エポキシ樹脂硬化剤、及び硬化促進剤のほかに、本発明の目的を損なわない範囲で、その他の成分を含んでいてもよい。
その他の成分としては、充填剤、非ハロゲン難燃剤、老化防止剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、離型剤、滑剤、着色剤、光安定剤、及び発泡剤等が挙げられる。
【0054】
充填剤としては、溶融球状シリカ、溶融破砕シリカ、結晶質シリカ、ゾルゲルシリカ、フュームドシリカ等のシリカ、シリカバルーン、アルミナ、酸化鉄、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、酸化すず、酸化ベリリウム、バリウムフェライト、及びストロンチウムフェライト等の無機酸化物;炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、及び炭酸水素ナトリウム等の無機炭酸塩;硫酸カルシウム等の無機硫酸塩;タルク、クレー、マイカ、カオリン、フライアッシュ、モンモリロナイト、ケイ酸カルシウム、ガラス、及びガラスバルーン等の無機ケイ酸塩;等が挙げられる。中でも、最密充填に適した粒度分布の設計が可能なため、溶融球状シリカが好ましい。
【0055】
用いるシリカの粒径(平均粒子径)は、特に限定されるものではないが、凝集・沈降がしにくいことから、粒子を三次元的にみたときの長手方向と短手方向の長さの平均値で、通常0.1〜10μm、好ましくは0.3〜5μm、さらに好ましくは0.5〜3μmの範囲である。また、同じく用いるシリカに含まれる粗大粒子の粒径(最大粒径)は、通常50μm以下、好ましくは25μm以下、さらに好ましくは10μm以下である。本発明のエポキシ樹脂組成物を半導体封止材料として用いる場合、この範囲のシリカを用いることで、微細バンプ間にも浸透可能な液状封止材料を提供することが可能となる。
【0056】
シリカの使用割合は、エポキシ樹脂組成物全体の30〜80重量%、好ましくは40〜70重量%の範囲である。
また、本発明のエポキシ樹脂組成物を半導体封止材料として用いる場合、樹脂成分とシリカとの接着性を高めるために、所望により、エポキシシラン、メルカプトシラン、アミノシラン、アルキルシラン、ウレイドシラン、ビニルシラン等の各種シラン系化合物を添加することができる。これらを例示すると、ビニルトリクロロシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリス(β−メトキシエトキシ)シラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ-アニリノプロピルトリメトキシシラン、γ-アニリノプロピルメチルジメトキシシラン、γ−[ビス(β−ヒドロキシエチル)]アミノプロピルトリエトキシシラン、N−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−(β−アミノエチル)アミノプロピルジメトキシメチルシラン、N−(トリメトキシシリルプロピル)エチレンジアミン、N−(ジメトキシメチルシリルイソプロピル)エチレンジアミン、メチルトリメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、N−β−(N−ビニルベンジルアミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−クロロプロピルトリメトキシシラン、ヘキサメチルジシラン、ビニルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン等のシラン系カップリング剤などが挙げられ、これらは単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
上記シラン系化合物の配合量は、シリカに対して0.05〜5重量%であることが好ましく、0.1〜2.5重量%がより好ましい。
【0057】
本発明のエポキシ樹脂組成物は、エポキシ樹脂(a)、1分子中に酸無水物基とエポキシ基を有する化合物、エポキシ樹脂硬化剤、硬化促進剤及び所望により他の成分を、従来公知の方法、例えば、三本ロール、ニーダー、万能攪拌機、ボールミル、プラネタリミキサー、ホモジナイザー、ホモディスパーザー等により均一になるまで混合(混練)する方法により、調製することができる。
【0058】
本発明のエポキシ樹脂組成物は、フィラーを高充填しても低粘度であり、従来品に比してより低温度・短時間で硬化しても、ガラス転移温度(Tg)が高く、線膨張係数が小さい硬化物を与えるものである。従って、作業性が良好な半導体封止材料として好適である。
【0059】
2)半導体封止材料
本発明の半導体封止材料は、本発明のエポキシ樹脂組成物を用いることを特徴とする。
そのため、本発明の半導体封止材料は、適度な粘度を有するために微細な隙間に浸透でき、硬化が容易であるため作業性が良好である。また、その硬化物は、ガラス転移温度(Tg)が高く、線膨張係数が小さいため、機械的応力が加わってクラック等が発生することがなく、接続信頼性に優れる半導体装置を形成することができる。
【0060】
本発明の半導体封止材料は、本発明のエポキシ樹脂組成物をそのまま本発明の半導体封止材料として使用するものであってもよいし、本発明のエポキシ樹脂組成物に、所望により他の添加剤を添加したものであってもよい。他の添加剤としては、前記本発明のエポキシ樹脂組成物に、他の成分として含有させることができるものとして列記したものと同様のものが挙げられる。
【0061】
本発明の半導体封止材料は、後述するように、特に、フリップチップ実装パッケージ等において、チップの電極とプリント基板の電極を接続する半田バンプ等の部分を封止するのに好適に用いられる。本発明の半導体封止材料をアンダーフィル剤として用いた場合、半田バンプ等の間隙に容易に浸透し、当該間隙をボイド残り無く充填することができ、さらに低線膨張率であるため、ヒートサイクル試験において優れた接続信頼性を有する半導体装置を形成することができる。
【0062】
本発明の半導体封止材料は、従来品に比して、より低温度・短時間で硬化する。
本発明の半導体封止材料の硬化方法としては、特に限定されないが、例えば、80〜200℃程度に設定された加熱炉内に0.5〜4時間程度静置する方法が挙げられる。
硬化方法は、多段階のステップキュアとすることも可能であり、例えば、2段階で硬化する場合、1次硬化を80〜120℃で0.5〜2時間程度行った後、2次硬化を120〜200℃で0.5〜2時間程度行って硬化することが好ましい。
【0063】
得られる硬化物は、ガラス転移温度が高く、線膨張率が低いため、チップとの線膨張率差が比較的小さく、ヒートサイクル試験において優れた接続信頼性を示す。
【0064】
3)半導体装置
本発明の半導体装置は、本発明の半導体封止材料を用いて封止されてなることを特徴とする。
本発明の半導体装置としては、半導体チップ等の電子部品とプリント基板(インターポーザ)との間等が本発明の半導体封止材料を用いて封止されたものであれば、特に制約はない。
【0065】
プリント基板は、少なくとも、絶縁層と導体回路と電極とを有し、電子部品の電極からの電気信号を他の電子部品等に伝送可能なものであれば特に限定はない。プリント基板としては、例えば、従来のガラスエポキシプリント配線基板、ガラスポリイミドプリント配線基板、ビスマレイミドトリアジン樹脂プリント基板、ポリフェニレンエーテル(ポリフェニレンオキサイド)プリント配線基板、フッ素樹脂プリント配線基板、その他環状オレフィン系樹脂プリント配線基板等の低誘電率プリント配線基板等のプリント配線基板;ポリエチレンテレフタレートフレキシブルプリント配線基板、ポリイミドフレキシブルプリント配線基板等のフレキシブルプリント配線基板(FPC);シリコンウェハー基板;セラミック基板;感光性樹脂等を使用した高密度実装基板;樹脂付き金属箔やドライフィルム、接着性絶縁フィルム等のフィルム積層型の高密度実装基板;ポリフェニレンスルフィドや液晶ポリマー等の熱可塑性エンジアリングプラスチックフィルム等のフィルム配線基板等や、近年のパッケージ形態であるチップスケールパッケージ(CSP)に使用されるキャリアフィルム(ポリイミドキャリアフィルム等)や単層基板等、並びにこれらの基板に電子部品が実装されたプリント回路板等が挙げられる。
【0066】
電子部品としては、ICチップ、LSIチップ等の半導体チップ、及び、複数の半導体部品を実装してなるマルチ・チップ・モジュール(MCM)等の半導体パッケージ等が挙げられる。電子部品は、プリント基板の電極に直接接続するための接続ワイヤ又は突起状電極(バンプ)を有する。突起状電極としては、例えば、半田バンプや金バンプ等が挙げられる
【0067】
電子部品をプリント基板に実装する方法としては、特に制約はないが、基板側の電極と電子部品側の電極とをワイヤによって接続するワイヤボンディング実装(図1参照)、電子部品の電極を基板側の電極と直接接続するフリップチップ実装(図2参照)、及びリード線を設けたフィルムを用いて基板側の電極と電子部品側の電極とを接続するTAB(Tape Automated Bonding)実装が挙げられる。
なかでも、フリップチップ実装で実装されていることが好ましい。フリップチップ実装では、電子部品は、突起状電極形成面を逆さまにして、フェースダウンの状態でプリント基板の電極上に搭載され直接接続されることになる。
【0068】
本発明の半導体装置は、前記プリント基板と電子部品との間にできた間隙等に前記半導体封止材料を充填し、加熱・硬化することにより、電極間接続部分を該材料により封止する。
充填する方法としては、例えば、プリント基板と電子部品との間隙等に、前記半導体封止材料を、注型、トランスファー成形機、射出成形機、ディスペンサー等を用いて流し込み(注入し)、毛細管現象を利用して該材料を間隙に充填する方法、ディスペンサー等を用いて、プリント基板上に電子部品の大きさに合わせて半導体封止材料を塗布し、又は、半導体封止材料をドライフィルムの形態として、電子部品の大きさに合わせてプリント基板上に設置し、次いで電子部品のプリント基板への接続を行う方法等が挙げられる。
【0069】
前記ワイヤボンディング実装を行った場合(図1参照)は、前記半導体封止材料を、少なくともワイヤ接続部分を覆うように塗布することで電極間接続部分を該材料により被覆することができる。その際、塗布した材料が流れないように、電子部品の周辺に枠(ダム)を設置したり、電子部品の実装部分のみを凹部分にしてもよい。
【0070】
加熱は、例えば、電子部品との電極間接続部分が前記半導体封止材料で充填された状態にあるプリント基板ごと加熱炉内に静置することにより行われる。
前記半導体封止材料を硬化させるための加熱温度は、80〜200℃程度であり、加熱時間は、通常0.5〜4時間程度である。多段階のステップキュアで硬化させることも可能である。
【0071】
得られる半導体装置の例を、図1及び図2に示す。図1は、半導体チップがワイヤボンディング実装された半導体装置を示す図であり、図2は、半導体チップがフリップチップ実装された半導体装置を示す図である。図中、1及び1’はプリント基板を、2は接続ワイヤを、3及び3’は半導体チップを、4及び4’は本発明の半導体封止材料の硬化物を、5は半田バンプ(半田ボール)をそれぞれ示す。
【0072】
プリント基板に対して電子部品を取り付ける反対側の面に半田バンプが設けられている場合、上述のようにしてプリント基板と電子部品との電極間接続部分を封止した後(1次封止)、得られたプリント回路板をマザーボード(通常のプリント配線板)上にさらに搭載し接続してもよい。この場合、前記プリント回路板とマザーボードとの間隙に対してアンダーフィル法により本発明の半導体封止材料をディスペンサー等を使用して流し込み、硬化させることにより、2次封止することができる。
【0073】
また、本発明の半導体装置は、半導体ベアチップ実装パッケージであってもよい。用いられる電子部品としては、半導体部品の中でもCPU(中央演算装置)やメモリ(DRAM)等に使用されるような、微細配線が高度に集積された大規模集積回路(LSI)等が挙げられる。半導体ベアチップ実装パッケージは、少なくとも半導体チップの電極とプリント基板の電極との間の接続部分を、本発明の半導体封止材料を用いて封止することにより得られる。
前記パッケージに、さらにマザーボードのプリント基板に接続する目的で半田ボール等の突起状電極を取付けたボールグリッドアレイ(BGA)、半導体チップが複数実装されたマルチチップパッケージ(マルチチップモジュール)は、コンピューターや通信機器に使用可能である。
【実施例】
【0074】
以下に、実施例及び比較例を挙げて、本発明についてより具体的に説明する。但し、本発明は実施例に限定されるものではない。各例中の部及び%は、特に断りのない限り、重量基準である。
【0075】
なお、合成例における、ガスクロマトグラフィー(以下、「GC」と略記する。)による分析条件は以下の通りである。
・分離カラム:HP190912−233E(250μm I.D.x 30.0m、膜厚1.0μm)
・カラムオーブン温度:初期温度150℃で3分間保持→10℃/分で昇温;→300℃で20分保持
・キャリアガス:ヘリウム
【0076】
[合成例1] 分子中に酸無水物基とエポキシ基を有する化合物(VII)の合成
【0077】
【化7】

【0078】
温度計を備えた3つ口反応器に、窒素気流中、30%過酸化水素水54.6g(0.481mol)、無水酢酸246.0g(2.407mol)を加えて、反応液の内温が40〜45℃になるように水浴温度を調整しながら4時間攪拌した。その後、この溶液を室温(23℃)に戻し、3(または4)−メチル−1,2,3,6−テトラヒドロ無水フタル酸40.0g(0.241mol)を加えて、全容を40℃で5時間撹拌した。反応終了後、反応液を室温(23℃)に戻し、蒸留水1000ml、チオ硫酸ナトリウム五水和物89.6gを加え、酢酸エチル500mlで抽出した。有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥し、硫酸ナトリウムをろ別した。ろ液をロータリーエバポレーターで減圧濃縮し、残渣を真空乾燥して、目的とする化合物VIIを33.3g得た(収率76%)。
【0079】
得られた化合物をGCにて分析した結果、その主たるピークは9.4分、9.7分、10.9分、11.4分、11.6分のリテンションタイムを有していた。さらにGC−MS(EI)による測定においては182に親ピークが現れ、化合物(VII)と一致することを確認した。
【0080】
[合成例2] テトラヒドロインデンジオキサイドの合成
内容量5Lのガラス製フラスコに、テトラヒドロインデン500g及びアセトニトリル450gを入れ、全容を攪拌しながら65℃に昇温した。ここに、水酸化カリウムでpH8に調整した50%ピロリン酸カリウム水溶液500gと35%過酸化水素水1500gの混合液を、約20時間かけて滴下し、その後同温度で20時間攪拌した。反応液を室温(23℃)まで冷却し、エバポレーターで濃縮し、得られた溶液をトルエン1000mlで2回抽出した。有機層を水洗し、無水硫酸ナトリウムで乾燥した後、硫酸ナトリウムをろ別した。ろ液からトルエンを留去して、テトラヒドロインデンジオキサイドの透明液体280gを得た。GCにより測定した純度は95%であった。
【0081】
本発明のエポキシ樹脂組成物を調製する例を以下に示す。
以下において、硬化剤、溶融球状シリカ、シランカップリング剤、硬化促進剤としては、次のものを用いた。
・硬化剤:メチルヘキサヒドロ無水フタル酸とヘキサヒドロ無水フタル酸との混合物(商品名:MH−700G、新日本理化社製) 以下、「硬化剤A」と略記する。
・溶融球状シリカ:溶融球状シリカ(商品名:PLV−3、龍森社製、平均粒径3μm、最大粒径10μm) 以下、「溶融球状シリカA」と略記する。
・シランカップリング剤:3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(商品名:KBM−403、信越シリコーン社製) 以下、「シランカップリング剤A」と略記する。
・硬化促進剤:2−メチル−4−メチルイミダゾール(商品名:2E4MZ、四国化成工業社製) 以下、「硬化促進剤A」と略記する。
・エポキシ化合物(a):合成例2で得たテトラヒドロインデンジオキサイド 以下、「エポキシ化合物(a)A」と略記する。
・エポキシ化合物:3,4−エポキシシクロヘキシルメチル(3,4−エポキシ)シクロヘキサンカルボキシレート(商品名:セロキサイド(登録商標)2021P、ダイセル化学工業社製) 以下、「エポキシ化合物(a)B」と略記する。
【0082】
[実施例1]
分子中に酸無水物基とエポキシ基を有する化合物として、合成例1で得た化合物(VII)40部と、エポキシ化合物(a)A100部と、硬化剤A190部とを混合し、60℃で4時間攪拌して、化合物(VII)を溶解させた。得られた溶液に、溶融球状シリカA396部、シランカップリング剤A4.0部、及び硬化促進剤A2部を加え、自転公転式のミキサーにて10分間攪拌し、エポキシ樹脂組成物(ワニス)1を調製した。
ワニス1につき、E型粘度計(東京計器社製)を用いて、25℃における粘度を測定した。測定結果を下記第1表に示す。なお、ワニス1中の溶融球状シリカの含有量は60%であった。
【0083】
さらに、得られたワニス1を、ポリイミドフィルム上にギャップ100μmのドクターブレードを用いて塗布し、1次硬化を100℃で1時間、2次硬化を150℃で1時間行って硬化させた。硬化物からポリイミドフィルムを剥離して、厚さ50μm前後のフィルム(半導体封止材料)1を作製した。得られたフィルムを、昇温速度10℃/分で加熱し、TMA試験機(エスアイアイ・ナノテクノロジー社製)の引張モードで、ガラス転移温度(Tg)到達前の線膨張率α1、到達後の線膨張率α2、及びTgを求めた。測定結果を下記第1表に示す。
【0084】
[実施例2]
実施例1において、化合物(VII)の使用量を20部に、溶融球状シリカAの使用量を372部に、及び、シランカップリング剤Aの使用量を3.7部にそれぞれ変更した以外は、実施例1と同様にして、ワニス2及びフィルム2を作製した。ワニス2及びフィルム2につき、実施例1と同様に、粘度、及び線膨張率等を測定した。測定結果を下記第1表に示す。なお、ワニス2中の溶融球状シリカの含有量は60%であった。
【0085】
[実施例3]
実施例1において、エポキシ化合物(a)B100部を用い、硬化剤Aの使用量を125部に、溶融球状シリカAの使用量を318部に、及びシランカップリング剤Aの使用量を3.2部にそれぞれ変更した以外は、実施例1と同様にして、ワニス3及びフィルム3を作製した。ワニス3及びフィルム3につき、実施例1と同様に、粘度、及び線膨張率等を測定した。測定結果を下記第1表に示す。なお、ワニス3中の溶融球状シリカの含有量は60%であった。
【0086】
[実施例4]
実施例3において、化合物(VII)の使用量を20部に、溶融球状シリカAの使用量を294部に、シランカップリング剤Aの使用量を2.9部に変更した以外は、実施例3と同様にして、ワニス4及びフィルム4を作製した。ワニス4及びフィルム4につき、実施例1と同様に、粘度、及び線膨張率等を測定した。測定結果を下記第1表に示す。なお、ワニス4中の溶融球状シリカの含有量は60%であった。
【0087】
[比較例1]
実施例1において、分子中に酸無水物基とエポキシ基を有する化合物を使用しないこと、並びに、溶融球状シリカAの使用量を348部に、及び、シランカップリング剤Aの使用量を3.5部に変更した以外は、実施例1と同様にして、ワニス5、及びフィルム5を作製した。ワニス5及びフィルム5につき、実施例1と同様に、粘度、及び線膨張率等を測定した。測定結果を下記第1表に示す。なお、ワニス5中の溶融球状シリカの含有量は60%であった。
【0088】
[比較例2]
実施例3において、分子中に酸無水物基とエポキシ基を有する化合物を使用しないこと、溶融球状シリカAの使用量を270部に、及び、シランカップリング剤Aの使用量を2.7部に変更した以外は、実施例3と同様にして、ワニス6及びフィルム6を作製した。ワニス6及びフィルム6につき、実施例1と同様に、粘度、及び線膨張率等を測定した。測定結果を下記第1表に示す。なお、ワニス6中の溶融球状シリカの含有量は60%であった。
【0089】
【表1】

【0090】
第1表より、化合物(VII)を用いることにより、従来の液状脂環式エポキシ樹脂を用いた液状半導体封止材料よりも低粘度であり、その硬化物の線膨張率が低く、Tgの高い、半導体封止材料を提供できることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0091】
本発明の半導体封止材料は、その中に含まれるシリカが微細化すると、従来品との粘度差が大きくなると考えられることから、特にバンプ間距離が短く、チップとパッケージ基板とのギャップが小さい高密度実装品の封止により好適に用いうる。
【符号の説明】
【0092】
1,1’・・・プリント基板、2・・・接続ワイヤ、3,3’・・・半導体チップ、4,4’・・・本発明の半導体封止材料の硬化物、5・・・半田バンプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
分子中に水酸基を持たないエポキシ樹脂、1分子中に酸無水物基とエポキシ基を有する化合物、エポキシ樹脂硬化剤及び硬化促進剤を含有することを特徴とするエポキシ樹脂組成物。
【請求項2】
1分子中に酸無水物基とエポキシ基を有する化合物が、下記式(I)
【化1】

(式中、R〜Rは、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、又は炭素数1〜20の炭化水素基を表し、nは1又は2である。)で表される化合物であることを特徴とする請求項1に記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項3】
前記分子中に水酸基を持たないエポキシ樹脂の含有量と、式(I)で表される化合物の含有量の重量比〔(式(I)で表される化合物の含有量):(分子中に水酸基を持たないエポキシ樹脂の含有量)〕が、0.1:1〜0.7:1であることを特徴とする請求項2に記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項4】
前記分子中に水酸基を持たないエポキシ樹脂が、環に縮合したエポキシ基を2つ以上有する、分子量が300以下の脂環式エポキシ樹脂であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項5】
前記エポキシ樹脂硬化剤が、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸、又はメチルヘキサヒドロ無水フタル酸とヘキサヒドロ無水フタル酸との混合物であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項6】
25℃で液状であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載のエポキシ樹脂組成物を用いた半導体封止材料。
【請求項8】
請求項7に記載の半導体封止材料を用いて封止されてなる半導体装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−188526(P2012−188526A)
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−52506(P2011−52506)
【出願日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【出願人】(000229117)日本ゼオン株式会社 (1,870)
【Fターム(参考)】