説明

エポキシ樹脂組成物、及び半導体装置

【課題】半導体装置を構成する部材に対する密着性に優れ、さらに、硬化性と保存安定性とがともに優れたエポキシ樹脂組成物を提供することを目的とする。また、前記エポキシ樹脂組成物で半導体素子を封止成形して形成される半導体装置を提供することを目的とする。
【解決手段】エポキシ樹脂、硬化剤、及び硬化促進剤を含有する常温で液状のエポキシ樹脂組成物であって、前記硬化剤が、1分子中にSH基を3個有するメルカプトカルボン酸エステル化合物と1分子中に炭化水素基を3個有するテトラヒドロ無水フタル酸化合物とを含み、前記メルカプトカルボン酸エステル化合物の含有量が、前記硬化剤全量に対して、5〜50質量%であることを特徴とするエポキシ樹脂組成物を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エポキシ樹脂組成物、及び前記エポキシ樹脂組成物で半導体素子を封止成形して形成される半導体装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体装置は、シリコンチップ等の半導体素子や基板等の部材を、封止材で封止して半導体パッケージを形成することにより得られる。そして、前記部材を封止する際に用いられる封止材としては、得られる半導体装置の信頼性を高めるために、半導体素子等の半導体装置を構成する部材に対する密着性が高いことが望まれている。このような密着性の高い封止材としては、例えば、常温で液状のエポキシ樹脂組成物等が知られている。常温で液状のエポキシ樹脂組成物は、封止時に金型を用いて成形する必要がないので、離型剤を含有させる必要がない。よって、常温で液状のエポキシ樹脂組成物は、一般的に、金型を用いる封止方法で用いられる、離型剤が含有されている封止材より、半導体素子等の半導体装置を構成する部材に対する密着性が高くなることが知られている。
【0003】
一方、封止材で封止する工程において、半導体装置の生産効率を向上させるために、封止材として用いるエポキシ樹脂組成物の硬化時間の短縮化が望まれている。また、半導体素子等の半導体を構成する部材に可能な限り熱を加えないことが好ましく、比較的低温であっても硬化できる封止材が求められている。このため、封止材であるエポキシ樹脂組成物に含有する硬化剤を検討することによって、エポキシ樹脂組成物の硬化性を高めることが試みられてきた。
【0004】
エポキシ樹脂組成物に含有されている硬化剤としては、例えば、下記特許文献1に記載されている硬化剤等が挙げられる。下記特許文献1には、オキサゾリドン環を含むエポキシ樹脂、及び熱安定剤含有するエポキシ樹脂組成物に含有されている硬化剤としては、アミン系、酸無水物系、フェノール系、メルカプタン系、イミダゾール系、及びBF系の硬化剤が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平8−127635号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
封止材であるエポキシ樹脂組成物中の硬化剤として、例えば、特許文献1に記載されているような各種硬化剤等の中から硬化剤を検討することによって、エポキシ樹脂組成物の硬化性を高めても、常温での保存性が悪化したり、開封後の可使時間、いわゆるポットライフが短くなる等の不具合が発生する場合があった。さらに、場合によっては、開封前の密封時であってもエポキシ樹脂組成物が経時変化してしまうことがあった。このような経時変化したエポキシ樹脂組成物は、流動性等が低下していることがあり、充填不良が発生するおそれもあった。すなわち、硬化性と保存安定性とがともに優れた液状のエポキシ樹脂組成物を得ることが困難であった。
【0007】
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたものであって、半導体装置を構成する部材に対する密着性に優れ、さらに、硬化性と保存安定性とがともに優れたエポキシ樹脂組成物を提供することを目的とする。また、前記エポキシ樹脂組成物で半導体素子を封止成形して形成される半導体装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のエポキシ樹脂組成物は、エポキシ樹脂、硬化剤、及び硬化促進剤を含有する常温で液状のエポキシ樹脂組成物であって、前記硬化剤が、1分子中にSH基を3個有するメルカプトカルボン酸エステル化合物と1分子中に炭化水素基を3個有するテトラヒドロ無水フタル酸化合物とを含み、前記メルカプトカルボン酸エステル化合物の含有量が、前記硬化剤全量に対して、5〜50質量%であることを特徴とするものである。
【0009】
このような構成によれば、半導体装置を構成する部材に対する密着性に優れ、さらに、硬化性と保存安定性とがともに優れたエポキシ樹脂組成物が得られる。
【0010】
このことは、まず、前記メルカプトカルボン酸エステル化合物が、常温で液状のエポキシ樹脂組成物の、半導体装置を構成する部材に対する高い密着性を損なうことなく、硬化性を高め、特に、低温における硬化性を高めることができると考えられる。そして、前記テトラヒドロ無水フタル酸化合物は、他の硬化剤と比較して、エポキシ樹脂組成物中の不純イオンを低減でき、この不純イオンの低減により、エポキシ樹脂組成物の耐湿性を向上させることができると考えられる。よって、耐湿性を向上させることによって、半導体装置を構成する部材との界面からの吸湿をも抑制でき、半導体装置を構成する部材に対する密着性をより高めることができると考えられる。さらに、前記テトラヒドロ無水フタル酸化合物は、前記メルカプトカルボン酸エステル化合物と併用することによって、エポキシ樹脂組成物の硬化性を調整でき、エポキシ樹脂組成物の硬化性を好適に保持しつつ、保存安定性を高めることができると考えられる。以上のことより、硬化剤として、前記メルカプトカルボン酸エステル化合物と前記テトラヒドロ無水フタル酸化合物とを併用し、硬化剤中の前記メルカプトカルボン酸エステル化合物の含有量を規定することによって、常温で液状のエポキシ樹脂組成物の、半導体装置を構成する部材に対する高い密着性を損なうことなく、硬化性と保存安定性との両立が図れることによると考えられる。
【0011】
また、前記メルカプトカルボン酸エステル化合物が、下記式(1)で表される化合物であることが好ましい。
【0012】
【化1】

【0013】
このような構成によれば、半導体装置を構成する部材に対する密着性に優れた液状のエポキシ樹脂組成物において、硬化性により優れ、かつ、保存安定性により優れたものが得られる。
【0014】
また、前記テトラヒドロ無水フタル酸化合物が、下記式(2)で表される化合物であることが好ましい。
【0015】
【化2】

【0016】
このような構成によれば、半導体装置を構成する部材に対する密着性に優れた液状のエポキシ樹脂組成物において、硬化性により優れ、かつ、保存安定性により優れたものが得られる。
【0017】
また、本発明の半導体装置は、前記エポキシ樹脂組成物で半導体素子を封止成形して得られることを特徴とするものである。
【0018】
このような構成によれば、半導体素子等の、半導体装置を構成する部材に対する密着性に優れ、硬化性と保存安定性とがともに優れたエポキシ樹脂組成物を用いて半導体素子を封止成形するので、信頼性の高い半導体装置が得られる。すなわち、密着性に優れ、充填不良等の不具合の発生が抑制された半導体装置が得られる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、半導体装置を構成する部材に対する密着性に優れ、さらに、硬化性と保存安定性とがともに優れたエポキシ樹脂組成物を提供できる。また、前記エポキシ樹脂組成物で半導体素子を封止成形して形成される半導体装置が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明のエポキシ樹脂組成物は、エポキシ樹脂、硬化剤、及び硬化促進剤を含有する常温で液状のエポキシ樹脂組成物であって、前記硬化剤が、1分子中にSH基を3個有するメルカプトカルボン酸エステル化合物と1分子中に炭化水素基を3個有するテトラヒドロ無水フタル酸化合物とを含み、前記メルカプトカルボン酸エステル化合物の含有量が、前記硬化剤全量に対して、5〜50質量%であることを特徴とするものである。ここで、常温とは、10〜30℃程度の温度をいう。すなわち、前記エポキシ樹脂組成物は、常温、例えば、25℃程度で液状であるエポキシ樹脂組成物である。
【0021】
前記エポキシ樹脂としては、常温におけるエポキシ樹脂組成物が液状となるものであれば、特に限定なく使用でき、半導体封止用エポキシ樹脂に使用される公知のエポキシ樹脂を使用することができる。具体的には、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、及びビスフェノールS型エポキシ樹脂等のビスフェノール型エポキシ樹脂、O−クレゾールノボラック型エポキシ樹脂等のクレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、及びブロム含有エポキシ樹脂等が挙げられる。これらの中では、ビスフェノール型エポキシ樹脂が好ましく、さらに、ビスフェノールA型エポキシ樹脂がより好ましい。エポキシ樹脂として、ビスフェノールA型エポキシ樹脂を用い、後述する硬化剤を用いることによって、半導体装置を構成する部材に対する密着性に優れた液状のエポキシ樹脂組成物において、硬化性により優れ、かつ、保存安定性により優れたものが得られる。また、前記エポキシ樹脂としては、液体のエポキシ樹脂であっても、固体のエポキシ樹脂であっても、限定なく使用できるが、常温におけるエポキシ樹脂組成物が液状でなければならないので、通常、液体のエポキシ樹脂が用いられる。また、前記エポキシ樹脂としては、上記各エポキシ樹脂を単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0022】
前記硬化剤としては、前記エポキシ樹脂と反応して、エポキシ樹脂組成物を硬化させるものであり、具体的には、1分子中にSH基を3個有するメルカプトカルボン酸エステル化合物と1分子中に炭化水素基を3個有するテトラヒドロ無水フタル酸化合物とを少なくとも含み、前記メルカプトカルボン酸エステル化合物の含有量が、前記硬化剤全量に対して、5〜50質量%である。
【0023】
前記メルカプトカルボン酸エステル化合物としては、1分子中にSH基を3個有するメルカプトカルボン酸エステル化合物であればよい。具体的には、例えば、メルカプトカルボン酸と3価以上のアルコール化合物とからなるエステル化合物等が挙げられる。また、前記メルカプトカルボン酸としては、特に限定されないが、具体的には、例えば、メルカプト酢酸やメルカプトプロピオン酸等が挙げられる。また、前記アルコール化合物としては、水酸基を3個以上有するものであれば、特に限定されず、具体的には、例えば、1,2,4−ブタントリオール、1,2,3−プロパントリオール、1,2,5−ペンタントリオール、1,2,6−ヘキサントリオール、トリメチロールプロパン、グリセリン、2−メチルプロパントリオール、及び2−メチル−1,2,4−ブタントリオール等のトリオール化合物、1,4−ソルビタン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、トリペンタエリスリトール等が挙げられる。この中でも、1分子中にSH基を3個有するメルカプトカルボン酸エステル化合物を形成するには、トリオール化合物が好ましい。また、前記メルカプトカルボン酸エステル化合物としては、より具体的には、例えば、下記式(1)で表される化合物が好ましい。
【0024】
【化3】

【0025】
前記テトラヒドロ無水フタル酸化合物としては、1分子中に炭化水素基を3個有するテトラヒドロ無水フタル酸であれば、特に限定されない。具体的には、例えば、下記式(2)で表される化合物であることが好ましい。
【0026】
【化4】

【0027】
前記メルカプトカルボン酸エステル化合物の含有量が、前記硬化剤全量に対して、
5〜50質量%であり、10〜30質量%であることが好ましい。前記メルカプトカルボン酸エステル化合物が少なすぎると、密着性が低下し、さらに、硬化性が低下する傾向がある。また、前記メルカプトカルボン酸エステル化合物が多すぎると、硬化性が高まりすぎて、保存安定性が低下する傾向がある。
【0028】
また、前記テトラヒドロ無水フタル酸化合物の含有量が、前記硬化剤全量に対して、
50〜95質量%であることが好ましく、70〜90質量%であることがより好ましい。前記テトラヒドロ無水フタル酸化合物が少なすぎると、硬化剤として、前記メルカプトカルボン酸エステル化合物と前記テトラヒドロ無水フタル酸化合物とからなる場合、前記メルカプトカルボン酸エステル化合物の含有量が多くなりすぎ、硬化性が高まりすぎて、保存安定性が低下する傾向がある。また、前記テトラヒドロ無水フタル酸化合物が多すぎると、前記メルカプトカルボン酸エステル化合物の含有量が少なくなりすぎ、密着性が低下し、さらに、硬化性が低下する傾向がある。
【0029】
また、前記硬化剤としては、前記メルカプトカルボン酸エステル化合物及び前記テトラヒドロ無水フタル酸化合物を含有していれば、前記メルカプトカルボン酸エステル化合物及び前記テトラヒドロ無水フタル酸化合物以外の硬化剤(他の硬化剤)をさらに含有してもよい。前記他の硬化剤としては、公知の硬化剤を挙げることができ、具体的には、例えば、無水ヘキサヒドロフタル酸、無水テトラヒドロフタル酸、無水ピロメリット酸等の、前記1分子中に炭化水素基を3個有するテトラヒドロ無水フタル酸以外の酸無水物系硬化剤、ジアミノジフェニルメタン、メタフェニレンジアミン等のアミン系硬化剤、フェノールノボラック樹脂等のフェノール系硬化剤、液状ポリメルカプタンやポリサルファイド樹脂等のポリメルカプタン系硬化剤等が挙げられる。
【0030】
また、前記メルカプトカルボン酸エステル化合物及び前記テトラヒドロ無水フタル酸化合物の合計含有量としては、前記他の硬化剤を含有する場合であっても、前記硬化剤全量に対して、80質量%以上であることが好ましい。また、前記硬化剤としては、前記メルカプトカルボン酸エステル化合物と前記テトラヒドロ無水フタル酸化合物とからなることがより好ましい。すなわち、前記メルカプトカルボン酸エステル化合物及び前記テトラヒドロ無水フタル酸化合物の合計含有量が、前記硬化剤全量に対して、100質量%であることがより好ましい。前記メルカプトカルボン酸エステル化合物及び前記テトラヒドロ無水フタル酸化合物の合計含有量が少なすぎると、前記メルカプトカルボン酸エステル化合物と前記テトラヒドロ無水フタル酸化合物との併用の効果を充分に発揮できなくなり、半導体装置を構成する部材に対する密着性、硬化性、及び保存安定性の全てが優れたエポキシ樹脂組成物が得られにくくなる傾向がある。
【0031】
また、前記硬化剤の含有量としては、特に限定されないが、前記エポキシ樹脂に対する割合(硬化剤/エポキシ樹脂)が、当量比で、0.6〜1.2であることが好ましい。前記硬化剤の含有量が少なすぎると、硬化性が低下し、硬化不足になる傾向がある。また、前記硬化剤の含有量が多すぎると、エポキシ樹脂と反応しないで、硬化物中に残存する硬化剤の量が増え、得られた半導体装置の信頼性が低下する傾向がある。
【0032】
また、前記硬化促進剤としては、前記エポキシ樹脂と前記硬化剤との硬化反応を促進することができるものであれば、特に限定することなく使用できる。具体的には、例えば、2−メチルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾール(2E4MZ)、2−フェニル−4−メチルイミダゾール、2−フェニルイミダゾール、1−ベンジル−2−メチルイミダゾール等のイミダゾール系化合物、1,8−ジアザビシクロ(5,4,0)−7−ウンデセン(DBU)等の第三級アミン、マイクロカプセル型硬化促進剤等が挙げられる。この中でも、イミダゾール系化合物が好ましく、2E4MZがより好ましい。硬化剤として、前述の硬化剤を用い、硬化促進剤として、2E4MZを用いることによって、半導体装置を構成する部材に対する密着性に優れた液状のエポキシ樹脂組成物において、硬化性により優れ、かつ、保存安定性により優れたものが得られる。また、前記硬化促進剤は、前記各硬化促進剤を単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0033】
前記硬化促進剤の含有量は、エポキシ樹脂組成物全量に対して、0.01〜10質量%であることが好ましい。硬化促進剤の含有量が少なすぎると、硬化に要する時間が長時間化し、作業性が低下する傾向がある。また、硬化促進剤の含有量が多すぎると、常温での可使時間の低下、及び不純イオンの影響が発現されやすくなる傾向がある。
【0034】
また、前記エポキシ樹脂組成物は、前記エポキシ樹脂以外の熱硬化性樹脂を含有してもよい。前記エポキシ樹脂以外の熱硬化性樹脂としては、具体的には、例えば、シリコーン樹脂、ウレタン樹脂、ポリイミド樹脂、及びフェノール樹脂等が挙げられる。また、前記エポキシ樹脂以外の熱硬化性樹脂としては、液体のものであっても、固体のものであっても、限定なく使用できるが、常温におけるエポキシ樹脂組成物が液状でなければならないので、通常、液体の熱硬化性樹脂が用いられる。また、前記エポキシ樹脂以外の熱硬化性樹脂を含有させる場合であっても、前記エポキシ樹脂の含有量が、前記エポキシ樹脂と前記エポキシ樹脂以外の熱硬化性樹脂との合計含有量に対して、90質量%以上であることが好ましい。
【0035】
また、前記エポキシ樹脂組成物は、無機充填材を含有することが好ましい。前記無機充填材を含有させることによって、低熱膨張化、及び作業性改善等の性能を発揮でき、さらに、原材料コストを低減できる。前記無機充填材としては、特に限定なく、従来公知の無機充填材を用いることができる。具体的には、例えば、溶融シリカ、結晶シリカ、微分シリカ、アルミナ、窒化珪素、及びマグネシア等が挙げられる。これらは、単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。無機充填材としては、前記無機充填材の中でも、低粘度化と流動特性との向上の点から、球状の溶融シリカが好ましい。また、前記無機充填材が球状である場合、例えば、球状の溶融シリカの場合、平均粒子径が0.2〜30μmが好ましく、0.2〜5μmがより好ましい。なお、平均粒子径は、レーザ回折散乱法等により測定することができる。
【0036】
前記エポキシ樹脂組成物には、上記以外の組成として、本発明の目的とする所望の特性を阻害しない範囲で従来公知の添加剤、例えば、カップリング剤、着色剤、消泡剤、及び改質剤等を必要に応じて添加してもよい。前記カップリング剤としては、具体的には、例えば、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン等のシランカップリング剤が挙げられる。前記着色剤としては、例えば、カーボンブラック等の顔料や染料等が挙げられる。
【0037】
前記エポキシ樹脂組成物は、前記エポキシ樹脂、前記硬化剤、前記硬化促進剤、及び必要に応じて、前記エポキシ樹脂以外の熱硬化性樹脂、前記無機充填剤、前記添加剤等を所定の含有量となるように、同時又は順次配合し、各成分が均一に分散するように、ミキサ等で混合し、その後、ロールやニーダ等によって混練して製造する。混合や混練時に、必要に応じて加熱処理や冷却処理を施してもよい。また、上記各成分を配合する順番には特に制限はない。
【0038】
本発明の半導体装置は、上記のようにして得られたエポキシ樹脂組成物で半導体素子を封止成形して得られるものである。具体的には、例えば、ICチップやLSIチップ等の半導体素子と回路基板(インターポーザ)との間を、前記エポキシ樹脂組成物で封止することにより得られる半導体装置や、フレキシブルプリント配線板(FPC)に形成された回路における半導体素子搭載領域に半導体素子を搭載した後、前記半導体素子と前記FPCとの間を、前記エポキシ樹脂組成物で封止することにより得られる、チップオンフィルム(COF)構造の半導体装置等が挙げられる。
【0039】
より具体的には、例えば、前記エポキシ樹脂組成物を、セラミック基板やFRグレード等の回路基板の回路パターン面に多数のバンプを介して半導体素子が搭載されたもののバンプ間の間隙に、ディスペンサ等を用いて塗布、充填する。そして、前記エポキシ樹脂組成物を、加熱硬化させる。その後、半導体素子全体の封止を行う後工程等を行う。そうすることによって、前記エポキシ樹脂組成物を封止材として用いた、フリップチップ実装による半導体装置を製造することができる。前記加熱硬化の条件は、前記エポキシ樹脂組成物の硬化温度以上であればよいが、例えば、120〜170℃で、0.5〜5時間程度であることが好ましい。
【0040】
前記半導体装置としては、具体的には、例えば、各種のエリアアレイ型のパッケージ、例えば、BGA(Ball Grid Array)やCSP(Chip Size Package)等のパッケージによるものが挙げられる。
【0041】
以下に、本発明を実施例により、さらに具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0042】
表1に示す配合割合(質量部)で、エポキシ樹脂、硬化剤、及び硬化促進剤の各成分を、常法に従って、配合、混合、及び混練することにより、エポキシ樹脂組成物を調製した。なお、実施例及び比較例においては、次の原材料を用いた。
【0043】
エポキシ樹脂:ビスフェノールA型エポキシ樹脂(ジャパンエポキシレジン株式会社製のエピコート828、エポキシ当量190)
硬化剤1:上記式(1)で表される化合物(ジャパンエポキシレジン株式会社製のQX−30、SH当量123)
硬化剤2:上記式(2)で表される化合物(ジャパンエポキシレジン株式会社製のエピキュアYH−306、活性水素当量238)
硬化促進剤:2−エチル−4−メチルイミダゾール(四国化成工業株式会社製の2E4MZ)
上記のように調製された各エポキシ樹脂組成物を用いて、以下に示す方法により評価を行った。
【0044】
(ポットライフ)
まず、前記エポキシ樹脂組成物を調製した直後の、前記エポキシ樹脂組成物の粘度(初期粘度)を、B8H型粘度計(東京計器(株)製)で測定した。そして、前記エポキシ樹脂組成物を調製した直後から、前記初期粘度に対する粘度が2倍になるまでの時間をポットライフとして測定した。なお、ここで、粘度は、25℃における粘度である。
【0045】
(密着強度)
アルミナ製のセラミック板の表面上に、上底の直径が4mm、下底の直径が3mm、高さが5mmの円錐台(プリン)状の硬化物(成形品)を、前記エポキシ樹脂組成物を用いてプリン成形により形成させた。このときの成形条件としては、前記セラミック板上に塗布した前記エポキシ樹脂組成物を、80℃で2時間加熱することによって硬化させた。
【0046】
そして、形成されたプリン状の成形品とセラミック板との密着強度(シェア強度)を、接合強度試験機(デイジー社製のDS100)を用いて、測定した。
【0047】
(硬化度)
前記エポキシ樹脂組成物を80℃で2時間加熱して得られた試験片を、示差走査熱量測定計(DSC)を用いて、昇温速度10℃/分で昇温させたときの熱量を測定した。その際、熱量が計測されれば、前記試験片は、「未硬化」であったと評価し、熱量が計測されなければ、前記試験片は、「硬化」されていたと評価した。
【0048】
上記各結果を表1に示す。
【0049】
【表1】

【0050】
表1からわかるように、硬化剤として、1分子中にSH基を3個有するメルカプトカルボン酸エステル化合物と1分子中に炭化水素基を3個有するテトラヒドロ無水フタル酸化合物とを含み、前記メルカプトカルボン酸エステル化合物の含有量が、前記硬化剤全量に対して、5〜50質量%である場合(実施例1〜3)は、前記メルカプトカルボン酸エステル化合物を含有しない場合(比較例1)、前記メルカプトカルボン酸エステル化合物の含有量が、5質量%未満である場合(比較例2)、及び前記メルカプトカルボン酸エステル化合物の含有量が、50質量%を超える場合(比較例3)と比較して、ポットライフが長く、基板との密着強度が高く、さらに、80℃で2時間加熱したときの硬化度が高かった。このことから、硬化剤として、1分子中にSH基を3個有するメルカプトカルボン酸エステル化合物と1分子中に炭化水素基を3個有するテトラヒドロ無水フタル酸化合物とを含み、前記メルカプトカルボン酸エステル化合物の含有量が、前記硬化剤全量に対して、5〜50質量%とすることによって、半導体装置を構成する部材に対する密着性に優れ、さらに、硬化性と保存安定性とがともに優れたエポキシ樹脂組成物が得られることがわかった。すなわち、前記メルカプトカルボン酸エステル化合物が少なすぎる場合、硬化が遅く、本来の目的の低温硬化性を充分に発揮できず、反対に、前記メルカプトカルボン酸エステル化合物が多すぎる場合、前記テトラヒドロ無水フタル酸化合物の特長が全く発揮されず、ライフ性能が損なわれ、さらに、耐湿性能が損なわれ密着強度が低下することがわかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エポキシ樹脂、硬化剤、及び硬化促進剤を含有する常温で液状のエポキシ樹脂組成物であって、
前記硬化剤が、1分子中にSH基を3個有するメルカプトカルボン酸エステル化合物と1分子中に炭化水素基を3個有するテトラヒドロ無水フタル酸化合物とを含み、
前記メルカプトカルボン酸エステル化合物の含有量が、前記硬化剤全量に対して、
5〜50質量%であることを特徴とするエポキシ樹脂組成物。
【請求項2】
前記メルカプトカルボン酸エステル化合物が、下記式(1)で表される化合物である請求項1に記載のエポキシ樹脂組成物。
【化1】

【請求項3】
前記テトラヒドロ無水フタル酸化合物が、下記式(2)で表される化合物である請求項1又は請求項2に記載のエポキシ樹脂組成物。
【化2】

【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載のエポキシ樹脂組成物で半導体素子を封止成形して得られることを特徴とする半導体装置。

【公開番号】特開2010−229257(P2010−229257A)
【公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−77333(P2009−77333)
【出願日】平成21年3月26日(2009.3.26)
【出願人】(000005832)パナソニック電工株式会社 (17,916)
【Fターム(参考)】