説明

エポキシ樹脂組成物及び透明複合シート

【課題】 線膨張率および吸水寸法変化率が小さく、透明性・耐熱性に優れ、光学異方性の低い透明複合シートを提供すること。
【解決手段】下記化学式(1)で表される脂環式エポキシ化合物と硬化剤とを含むエポキシ樹脂組成物と、ガラスフィラーとを含有してなる複合組成物を硬化させて得られる透明複合シートであり、好ましくは前記ガラスフィラーの含有量が透明複合シートに対し1〜90重量%であり、前記ガラスフィラーがガラス繊維布であり、波長400nmにおける光線透過率が80%以上である透明複合シート。
【化1】

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はエポキシ樹脂組成物及び透明複合シートに関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、液晶表示素子や有機EL素子用の表示基板、カラーフィルタ基板、太陽電池基板としては、ガラス板が広く用いられている。しかしながらガラス板は割れ易い、曲げられない、比重が大きく軽量化に不向きなどの理由から、近年その代替としてプラスチック素材が検討されている。
【0003】
表示素子用プラスチック基板に用いられる樹脂としては、脂環式エポキシ樹脂、アルコール、硬化触媒からなる組成物(例えば、特許文献1参照)、脂環式エポキシ樹脂、アルコールで部分エステル化した酸無水物系硬化剤、硬化触媒からなる樹脂組成物が(例えば特許文献2)、脂環式エポキシ樹脂、カルボン酸を有する酸無水物系硬化剤、硬化触媒からなる樹脂組成物(例えば特許文献3)等が示されている。しかし、これらの樹脂組成物からなるプラスチック基板の線膨張係数はその上に積層するSi等の薄膜材料に比べて線膨張係数がかなり大きい。このため、このような線膨張係数のミスマッチは、熱ストレス、歪み、形成した層のクラックや剥がれを生じさせ、層を形成したプラスチック基板の湾曲を生じる原因となる。(例えば非特許文献1)
【0004】
このため、近年では表示素子用プラスチック基板として、エステル基を有する脂環式エポキシ樹脂、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、酸無水物系硬化剤、及び触媒とガラスクロスからなる透明複合光学シート(例えば特許文献4)、エステル基を有する脂環式エポキシ樹脂とジシクロペンタジエン骨格を有するエポキシ樹脂、酸無水物系硬化剤とガラスクロスからなる透明複合光学シート(例えば特許文献5)、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールAノボラック型エポキシ樹脂、酸無水物系硬化剤及びガラスクロスからなる透明複合シート(例えば特許文献6)等を用いることが提案されている。
【0005】
これらの樹脂組成物とガラスクロスとからなる透明複合シートでは、上記特許文献1〜3に記載された樹脂組成物からなるプラスチック基板に比べて線膨張係数を大幅に低下させることが出来る。ところが、これらの透明複合シートを表示素子用プラスチック基板として用いる場合は、樹脂の耐熱性が不十分であり、光学異方性が大きいため表示性能が低下する、平坦性が低いため表示品位が低下する、吸水時の寸法変化が大きいため使用環境によって表示性能が変化する等の問題が生じる。
【特許文献1】特開平6−337408号公報
【特許文献2】特開2001−59015号公報
【特許文献3】特開2001−59014号公報
【特許文献4】特開2004−51960号公報
【特許文献5】特開2005−146258号公報
【特許文献6】特開2004−233851号公報
【非特許文献1】「月刊ディスプレイ」テクノタイムズ社、2000年1月号、p35
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、線膨張率および吸水寸法変化率が小さく、透明性・耐熱性に優れ、光学異方性が小さい透明複合シートを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討した結果、以下の知見を得た。すなわちある特定の分子構造を有するビスフェノール類のベンゼン核に水素を付加させ、得られたジヒドロキシビシクロヘキシル化合物の脱水反応を行い、さらに得られた環状ジオレフィン化合物をエポキシ化し得られる脂環式エポキシ化合物を用いた透明複合体の光学異方性は低く、従来の透明複合体よりも光学特性が極めて優れていることを見出した。
【0008】
すなわち本発明は、以下の通りである。
(1)下記化学式(1)で表される脂環式エポキシ化合物と硬化剤とを含むエポキシ樹脂組成物。
【化1】


(2)前記硬化剤がカチオン系硬化触媒を含むものである(1)1記載のエポキシ樹脂組成物。
(3)前記エポキシ樹脂組成物はさらにカチオン重合可能な化合物を含有する(1)又は(2)記載のエポキシ樹脂組成物。
(4)前記カチオン重合可能な成分が、エポキシ基を有する化合物、オキセタニル基を有する化合物、及びビニルエーテル基を有する化合物より選ばれた1種または2種以上の化合物である(3)記載のエポキシ樹脂組成物。
(5)(1)〜(4)いずれか記載のエポキシ樹脂組成物と、ガラスフィラーとを含有してなる複合組成物を硬化させて得られる透明複合シート。
(6)前記ガラスフィラーの含有量が透明複合シートに対し1〜90重量%である(5)記載の透明複合シート。
(7)前記ガラスフィラーがガラス繊維布である(5)又は(6)記載の透明複合シート。
(8)波長400nmにおける光線透過率が80%以上である(5)〜(7)いずれか記載の透明複合シート
(9)30℃〜250℃における平均線膨張係数が20ppm以下である(5)〜(8)いずれか記載の透明複合シート。
(10)(5)〜(9)ずれか記載の透明複合シートから構成される表示素子用基板。
【発明の効果】
【0009】
本発明のエポキシ樹脂組成物によって、線膨張率および吸水寸法変化率が小さく、透明性・耐熱性に優れ、特に光学異方性が小さく、平坦性が高い透明複合シートが得られる。この透明複合シートは液晶表示素子用基板、有機EL表示素子基板、カラーフィルタ用基板、タッチパネル用基板、電子ペーパー用基板、太陽電池基板などの光学シート、透明板に好適に用いられる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明は、下記化学式(1)で表される水添ビスフェノールZ骨格を有する脂環式エポキシ化合物と硬化剤とを含むエポキシ樹脂組成物であり、該エポキシ樹脂組成物と、ガラスフィラーとを含有してなる複合組成物を硬化させて得られる透明複合シートである。
【化2】

【0011】
本発明のエポキシ樹脂組成物は、前記化学式(1)で表される脂環式エポキシ樹脂以外にカチオン重合可能な成分を含有するものであっても良い。カチオン重合可能な成分としては、エポキシ基を有する化合物、オキセタニル基を有する化合物、又はビニルエーテル基を有する化合物であることが好ましく、単体で用いても、数種類を混合して用いても良い。
【0012】
これらのエポキシ基を有する化合物としては、分子中に少なくとも1つ以上のエポキシ基を含んでいれば良く、各種のエポキシ樹脂が使用できる。例えばグリシジル型エポキシ樹脂としては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂またはこれらの水添化物、ジシクロペンタジエン骨格を有するエポキシ樹脂、トリグリシジルイソシアヌレート骨格を有するエポキシ樹脂、カルド骨格を有するエポキシ樹脂、ポリシロキサン構造を有するエポキシ樹脂が挙げられ、脂環式エポキシ樹脂としては例えば3,4−エポキシシクロヘキシルメチル3‘、4’−エポキシシクロヘキサンカルボキシレート、1,2,8,9−ジエポキシリモネン、ε−カプロラクトンオリゴマーの両端にそれぞれ3,4−エポキシシクロヘキシルメタノールと3,4−エポキシシクロヘキサンカルボン酸がエステル結合したもの、水添ビフェニル骨格、及び水添ビスフェノールA骨格を有する脂環式エポキシ樹脂等が挙げられる。
【0013】
オキセタニル基を有する化合物としては特に限定されるものではないが例えば、1,4−ビス{[(3−エチル−3−オキセタニル)メトキシ]メチル}ベンゼン(アロンオキセタンOXT−121(XDO))、ジ[2−(3−オキセタニル)ブチル]エーテル(アロンオキセタンOXT−221(DOX))、1,4−ビス〔(3−エチルオキセタン−3−イル)メトキシ〕ベンゼン(HQOX)、1,3−ビス〔(3−エチルオキセタン−3−イル)メトキシ〕ベンゼン(RSOX)、1,2−ビス〔(3−エチルオキセタン−3−イル)メトキシ〕ベンゼン(CTOX)、4,4’−ビス〔(3−エチルオキセタン−3−イル)メトキシ〕ビフェニル(4,4’−BPOX)、2,2’−ビス〔(3−エチル−3−オキセタニル)メトキシ〕ビフェニル(2,2’−BPOX)、3,3’,5,5’−テトラメチル〔4,4’−ビス(3−エチルオキセタン−3−イル)メトキシ〕ビフェニル(TM−BPOX)、2,7−ビス〔(3−エチルオキセタン−3−イル)メトキシ〕ナフタレン(2,7−NpDOX)、1,6−ビス〔(3−エチルオキセタン−3−イル)メトキシ〕−2,2,3,3,4,4,5,5−オクタフルオロヘキサン(OFH−DOX)、3(4),8(9)−ビス[(1−エチル−3−オキセタニル)メトキシメチル]−トリシクロ[5.2.1.02.6]デカン、1,2−ビス[2−{(1−エチル−3−オキセタニル)メトキシ}エチルチオ]エタン、4,4’−ビス[(1−エチル−3−オキセタニル)メチル]チオジベンゼンチオエーテル、2,3−ビス[(3−エチルオキセタン−3−イル)メトキシメチル]ノルボルナン(NDMOX)、2−エチル−2−[(3−エチルオキセタン−3−イル)メトキシメチル]−1,3−O−ビス[(1−エチル−3−オキセタニル)メチル]−プロパン−1,3−ジオール(TMPTOX)、2,2−ジメチル−1,3−O−ビス[(3−エチルオキセタン−3−イル)メチル]−プロパン−1,3−ジオール(NPGOX)、2−ブチル−2−エチル−1,3−O−ビス[(3−エチルオキセタン−3−イル)メチル]−プロパン−1,3−ジオール、1,4−O−ビス[(3−エチルオキセタン−3−イル)メチル]−ブタン−1,4−ジオール、2,4,6−O−トリス[(3−エチルオキセタン−3−イル)メチル]シアヌル酸、ビスフェノールAと3−エチル−3−クロロメチルオキセタン(OXCと略す)のエーテル化物(BisAOX)、ビスフェノールFとOXCのエーテル化物(BisFOX)、フェノールノボラックとOXCのエーテル化物(PNOX)、クレゾールノボラックとOXCのエーテル化物(CNOX)、オキセタニルシルセスキオキサン(OX−SQ)、3−エチル−3−ヒドロキシメチルオキセタンのシリコンアルコキサイド(OX−SC)3−エチル−3−(2−エチルヘキシロキシメチル)オキセタン(アロンオキセタンOXT−212(EHOX))、3−エチル−3−(ドデシロキシメチル)オキセタン(OXR−12)、3−エチル−3−(オクタデシロキシメチル)オキセタン(OXR−18)、3−エチル−3−(フェノキシメチル)オキセタン(アロンオキセタンOXT−211(POX))、3−エチル−3−ヒドロキシメチルオキセタン(OXA)、3−(シクロヘキシルオキシ)メチル−3−エチルオキセタン(CHOX)等が上げられる。ここで前記の括弧内は東亞合成株式会社 の製品名又は略称である。
【0014】
ビニルエーテル基を有する化合物としては特に限定されないが、2−ヒドロキシエチルビニルエーテル、ジエチレングリコールモノビニルエーテル、4−ヒドロキシブチルビニルエーテル、ジエチレングリコールものビニルエーテル、トリエチレングリコールジビニルエーテル、シクロヘキサンジメタノールジビニルエーテル、シクロヘキサンジメタノールモノビニルエーテル、トリシクロデカンビニルエーテル、シクロヘキシルビニルエーテル、メトキシエチルビニルエーテル、エトキシエチルビニルエーテル、ペンタエリスリトール型テトラビニルエーテル等が挙げられる。
【0015】
前記化学式(1)で表される脂環式エポキシ樹脂とカチオン重合可能な成分との配合における重量比率は100:0〜1:99であることが好ましい。より好ましくは100:0〜10:90であり、更に好ましくは100:0〜15:85である。
【0016】
本発明のエポキシ樹脂組成物の硬化剤は特に限定されないが、酸無水物や脂肪族アミン等の架橋剤、またはカチオン系硬化触媒若しくはアニオン系硬化触媒等の硬化剤を用いることができる。
【0017】
本発明のエポキシ樹脂組成物を使用して得られる透明複合シートを表示素子用基板に適用する場合、基板の低い光学異方性を実現するためにはガラスフィラーと樹脂との界面で生じる応力をできるだけ小さくするため、カチオン系硬化触媒を用いて硬化できる樹脂が好ましい。なぜならば前記脂環式エポキシ樹脂の硬化をカチオン系硬化触媒で用いて行うと、樹脂材料を低温で硬化させることができるからである。低温で硬化できるとガラスフィラーと樹脂との界面応力が小さくすることができ、発生する応力を小さくすると複合基板の光学異方性を低くすることが出来る。
【0018】
また前記カチオン系硬化触媒を用いて前記樹脂組成物を硬化すると、硬化物の耐熱性(例えばガラス転移温度)が、他の硬化剤(例えば酸無水物)を用いて硬化した硬化物のそれよりも高くなるからである。カチオン系硬化触媒を用いた硬化物の耐熱性が、他の触媒を用いたものよりも高くなる理由は、前記カチオン系硬化触媒を用いて前記樹脂組成物を硬化した硬化物の架橋密度が、他の硬化剤(例えば酸無水物)を用いて硬化した硬化物の架橋密度と比較して高くなるためと考えられる。
【0019】
前記カチオン系硬化触媒としては、例えば加熱によりカチオン重合を開始させる物質を放出するもの、例えばオニウム塩系カチオン硬化触媒、またはアルミニウムキレート系カチオン硬化触媒)や、活性エネルギー線によってカチオン重合を開始させる物質を放出させるもの(例えばオニウム塩系カチオン系硬化触媒等)が挙げられる。これらの中でも、熱カチオン系硬化触媒が好ましい。これにより、より耐熱性に優れる硬化物を得ることができる。
【0020】
前記熱カチオン系硬化触媒としては、例えば芳香族スルホニウム塩、芳香族ヨードニウム塩、アンモニウム塩、アルミニウムキレート、三フッ化ホウ素アミン錯体等が挙げられる。具体的には、芳香族スルホニウム塩として三新化学工業製のSI-60L、SI-80L、SI-100L、旭電化工業製のSP-66やSP-77等のヘキサフルオロアンチモネート塩挙げられ、アルミニウムキレートとしてはエチルアセトアセテートアルミニウムジイソプロピレート、アルミニウムトリス(エチルアセトアセテート)等が挙げられ、三フッ化ホウ素アミン錯体としては、三フッ化ホウ素モノエチルアミン錯体、三フッ化ホウ素イミダゾール錯体、三フッ化ホウ素ピペリジン錯体等が挙げられる。
前記光カチオン系硬化触媒としては旭電化工業製のSP170等が上げられる。
【0021】
前記カチオン系触媒の含有量は、特に限定されないが、前記化学式(1)で示されるエポキシ樹脂100重量部に対して0.1〜5重量部が好ましく、特に0.5〜3重量部が好ましい。含有量がこの範囲であると、硬化性が低下せず、かつ硬化物が高い透明性を有するものが得られる。
【0022】
光硬化する場合は必要に応じて硬化反応を促進させるため増感剤、酸増殖剤等もあわせて用いることが可能である。
【0023】
本発明において、上記エポキシ樹脂組成物と、ガラスフィラーとを含有してなる複合組成物を硬化させて透明複合シートが得られる。
本発明の透明複合シートにおいて、用いるガラスフィラーの直径が100nm以下の場合は界面での光の散乱が少ないが、100nmを超える場合、透明性を向上するにはガラスフィラーと樹脂との屈折率を制御し透明性を向上させることが必要である
【0024】
本発明に用いるガラスフィラーの屈折率は、直径が100nm以下であればガラスフィラーとマトリックス樹脂との界面における散乱が小さいので特に限定されない。直径が100nmを超える場合は散乱を抑制するため1.4〜1.6が好ましく、特に1.5〜1.55が好ましい。屈折率が前記範囲内であると、ガラスフィラーのアッベ数に近いエポキシ樹脂組成物の硬化物である透明樹脂を選択することができるので特に好ましいからである。また透明樹脂のアッベ数とガラスフィラーのアッベ数が近いほど広い波長領域で屈折率が一致し、広範囲で高い光線透過率が得られるからである。
【0025】
本発明の透明複合シートにおいて、エポキシ樹脂組成物の硬化後の屈折率とガラスフィラーとの屈折率との差が0.01以下であることが好ましく、0.005以下であることがより好ましい。屈折率の差が上限値を超えると、得られる透明複合シートの透明性が劣る傾向がある。ガラスフィラーと樹脂との屈折率差をコントロールするには、エポキシ樹脂組成物の主成分である脂環式エポキシ樹脂の他に前述のカチオン重合可能な成分を適宜添加して行うことができる。
【0026】
本発明で用いるガラスフィラーとしては、クロスや不織布などの繊維布などがあげられ、中でも線膨張係数の低減効果が高いことからガラスクロス、ガラス不織布が好ましく、さらにガラスクロスが好ましい。
【0027】
ガラスの種類としてはEガラス、Cガラス、Aガラス、Sガラス、Tガラス、Dガラス、NEガラス、クオーツ、低誘電率ガラス、高誘電率ガラスなどが上げられ、中でもアルカリ金属などのイオン性不純物が少なく入手の容易なEガラス、Sガラス、TガラスNEガラスが好ましい。
【0028】
ガラスフィラーの含有量は、透明複合シートに対し1〜90重量%であることが好ましく、より好ましくは10〜80重量%、さらに好ましくは30〜70重量%である。ガラスフィラーの含有量がこの範囲であれば成形が容易で、複合化による線膨張の低下効果が認められる。またガラスフィラー量が多ければ、単位体積あたりの樹脂量の均一性が向上し、応力の均一性が向上するからである。これらの均一性が向上すると透明複合基板のうねりが小さくなる。
【0029】
本発明において複合組成物には必要に応じて透明性、耐溶剤性、低熱性、光学特性、平坦性等の特性を損なわない範囲で、熱可塑性樹脂又は熱硬化性樹脂のオリゴマーやモノマー、またはカップリング剤などを併用してもよい。これらのオリゴマーやモノマーを使用する場合は全体の屈折率がガラスフィラーの屈折率に合うように組成比を調整する必要がある。また、複合組成物には必要に応じて、透明性、耐溶剤性、耐熱性などの特性を損なわない範囲で、少量の酸化防止剤、紫外線吸収剤、染顔料、他の無機フィラーを含んでいてもよい。
【0030】
本発明の透明複合シートの生産方法には制限はなく、例えば未硬化のエポキシ樹脂組成物とガラスフィラーとを直接混合し、必要な方に注型した後に架橋させてシートとする方法、未硬化の樹脂組成物を溶剤に溶解しガラスフィラーを分散させてキャストした後、架橋させてシートとする方法、未硬化のエポキシ樹脂組成物またはエポキシ樹脂組成物を溶剤に溶解させたワニスをガラスクロスやガラス不織布に含浸させた後、架橋させてシートとする方法等が挙げられる。
【0031】
本発明の透明複合シートを、液晶表示素子用プラスチック基板、カラーフィルタ用基板、有機EL表示素子用プラスチック基板、電子ペーパー用基板、太陽電池用基板、タッチパネル等の光学用途として用いる場合、厚みは好ましくは40〜200μmであり、より好ましくは50〜100μmである。
【0032】
また、この透明複合シートを光学用途として用いる場合、30℃〜150℃における平均線膨張係数が40ppm以下であることが好ましく、より好ましくは20ppm以下、最も好ましくは10ppm以下であり、ガラス転移温度は好ましくは200℃以上であり、より好ましくは250℃以上である。
【0033】
本発明の透明複合シートを表示用プラスチック基板として用いる場合、波長400nmにおける全光線透過率は80%以上であることが好ましく、より好ましくは85%以上であり、さらに好ましくは88%以上である。波長400nmにおける全光線透過率が下限値未満であると表示性能が十分でない恐れがある。
【0034】
本発明の透明複合シートを表示素子用プラスチック基板として用いる場合、平滑性を向上させるため基板の両側に樹脂のコート層を設けても良い。コート層に用いる樹脂としては優れた耐熱性、透明性、耐薬品性を有していることが好ましい。コート層の厚みは0.1μm〜30μmが好ましくより好ましくは0.5〜30μmである。
【実施例】
【0035】
以下、本発明の内容を実施例により詳細に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り以下の例に限定されるものではない。
【0036】
化学式(1)で示される脂環式エポキシ樹脂は、原料である水添ビスフェノールZを公知の情報(例えば特開2003−13001号公報)に従い、脱水後、過酢酸でエポキシ化して合成した。合成法を下記に記す。また、合成した化合物は、HNMR(日本電子製、400MHz)およびGC−MS(アジレントテクノロジー社製、電子衝撃イオン化法)を測定し、同定した。
【0037】
(合成例1)
温度計、攪拌機、窒素導入管および還流管を備えた4つ口の2Lフラスコに、水添ビスフェノールZ175.3g(0.625mol)、亜りん酸トリフェニル426.65g(1.375mol)、キノリン177.6g(1.375mol)およびN−メチルピロリドン750mlを仕込み、窒素雰囲気下、170℃で3時間加熱した。続いて、減圧蒸留を行い、蒸留物に酢酸エチル300mlを加え、有機層を1mol/L硫酸500mlで2回、1mol/L水酸化ナトリウム水溶液500mlで3回、飽和食塩水500mlで1回洗浄した。炭酸カリウムを加えて乾燥させた後、エバポレーターで酢酸エチルを除去することにより、水添ビスフェノールZが脱水された環状オレフィン化合物108.45gを得た(収率71%)。H NMR測定で、オレフィンに結合した4つの水素のピークが5.6−5.7ppm観察されたこと、およびGC−MSの測定で、最大分子量244を持つことから、得られた化合物が目的の環状オレフィン化合物であることが確認された。
次に温度計、攪拌機、窒素導入管および滴下漏斗を備えた4つ口の1Lフラスコに上記で得られた環状オレフィン化合物107.55g(440mmol)と酢酸エチル200mlを仕込み、窒素雰囲気下30℃に加熱し、30%過酢酸の酢酸エチル溶液265gを滴下した。滴下終了後、6時間攪拌を続けた。続いて、攪拌を続けながら反応液を20℃以下に冷却し、炭酸ナトリウム87.5gを加え半中和した後、さらに10%水酸化ナトリウム水溶液330gを加えた。静置して、2層に分離させ、有機層をイオン交換水500mlで3回洗浄した。炭酸カリウムで乾燥させ、減圧蒸留によりエポキシ化合物91.15gを得た(収率75%)。H NMR測定で、エポキシ基と同じ炭素に結合した4つの水素のピークが3.12−3.21ppmに観察されたこと、およびGC−MSの測定で、最大分子量276を持つことから、得られた化合物が目的の化学式(1)で示されるエポキシ化合物であることが確認された。
【0038】
[透明複合シートの作成]
(実施例1)
Tガラス系ガラスクロス(厚み95μm、屈折率1.526、日東紡製)に水添ビフェニル型脂環式エポキシ樹脂(ダイセル化学工業製、E−BP)80重量部、合成例1で得られた脂環式エポキシ化合物を20重量部、芳香族スルホニウム系熱カチオン触媒(三新化学製SI−100L)1重量部を混合した樹脂組成物を含浸させ脱泡した。このガラスクロスを離型処理したガラス板に挟み込み、80℃で2時間加熱後、250℃で更に2時間加熱し、厚み97μmの透明複合シートを得た。
【0039】
(実施例2)
Tガラス系ガラスクロス(厚み95μm、屈折率1.526、日東紡製)に水添ビフェニル型脂環式エポキシ樹脂50重量部(ダイセル化学工業製、E−BP)、合成例1で得られた脂環式エポキシ化合物を50重量部、芳香族スルホニウム系熱カチオン触媒(三新化学製SI−100L)1重量部を混合した樹脂組成物を含浸させ脱泡した。このガラスクロスを離型処理したガラス板に挟み込み、80℃で2時間加熱後、250℃で更に2時間加熱し、厚み97μmの透明複合シートを得た。
【0040】
(実施例3)
Tガラス系ガラスクロス(厚み95μm、屈折率1.526、日東紡製)に合成例1で得られた脂環式エポキシ化合物100重量部、芳香族スルホニウム系熱カチオン触媒(三新化学製SI−100L)1重量部を混合した樹脂組成物を含浸させ脱泡した。このガラスクロスを離型処理したガラス板に挟み込み、80℃で2時間加熱後、250℃で更に2時間加熱し、厚み97μmの透明複合シートを得た。
【0041】
(比較例1)
Tガラス系ガラスクロス(厚み95μm、屈折率1.526、日東紡製)に水添ビフェニル型脂環式エポキシ樹脂(ダイセル化学工業製、E−BP)100重量部、芳香族スルホニウム系熱カチオン触媒(三新化学製SI−100L)1重量部を混合した樹脂組成物を含浸させ脱泡した。このガラスクロスを離型処理したガラス板に挟み込み、80℃で2時間加熱後、250℃で更に2時間加熱し、厚み97μmの透明複合シートを得た。
【0042】
実施例、比較例の透明複合シートの配合及び特性の評価結果を表1に示す。
評価方法は以下の通りである。
【0043】
(a)平均線膨張係数
SEIKO電子(株)製TMA/SS6000型熱応力歪み測定装置を用いて、窒素雰囲気下、1分間に5℃の割合で昇温させ、荷重を5gにして引っ張りモードで測定を行い、所定温度範囲における平均線膨張係数を算出した。
【0044】
(b)耐熱性
SEIKO電子(株)製DNS210型動的粘弾性測定装置を用いて、1Hzでのtanδの最大値をガラス転移温度(Tg)とした。
【0045】
(c)光線透過率
分光光度計U3200(島津製作所製)で400nmにおける全光線透過率を測定した。
【0046】
(d)光学異方性
光顕微鏡を用いクロスニコル状態にした後、透明複合シートをステージ上で回転させながら、最も光の透過度が強くなる位置で評価を行った。各符号は、以下の通りである。
◎:最良(光の透過がほとんどない)
○:良好(光の透過が若干観測される)
【0047】
(e)吸水寸法変化率
透明複合シートをオーブン中で140℃3時間加熱することにより乾燥させた後、および25℃の水に24時間浸漬した後の寸法を画像測定機SQVH606−PRO6G((株)ミツトヨ製)を用いて測定し、乾燥時の寸法を基準として吸水寸法変化率を算出した。
【0048】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明の透明複合シートは、例えば透明板、光学レンズ、液晶表示素子用プラスチック基板、カラーフィルター用基板、有機EL表示素子用プラスチック基板、電子ペーパー用基板、太陽電池基板、タッチパネル、導光板、光学素子、光導波路、LED封止材等に好適に利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記化学式(1)で表される脂環式エポキシ化合物と硬化剤とを含むエポキシ樹脂組成物。
【化1】

【請求項2】
前記硬化剤がカチオン系硬化触媒を含むものである請求項1記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項3】
前記エポキシ樹脂組成物はさらにカチオン重合可能な化合物を含有する請求項1又は2記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項4】
前記カチオン重合可能な成分が、エポキシ基を有する化合物、オキセタニル基を有する化合物、及びビニルエーテル基を有する化合物より選ばれた1種または2種以上の化合物である請求項3記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1〜4いずれか記載のエポキシ樹脂組成物と、ガラスフィラーとを含有してなる複合組成物を硬化させて得られる透明複合シート。
【請求項6】
前記ガラスフィラーの含有量が透明複合シートに対し1〜90重量%である請求項5記載の透明複合シート。
【請求項7】
前記ガラスフィラーがガラス繊維布である請求項5又は6記載の透明複合シート。
【請求項8】
波長400nmにおける光線透過率が80%以上である請求項5〜7いずれか記載の透明複合シート
【請求項9】
30℃〜250℃における平均線膨張係数が20ppm以下である請求項5〜8いずれか記載の透明複合シート。
【請求項10】
請求項5〜9いずれか記載の透明複合シートから構成される表示素子用基板。

【公開番号】特開2008−285643(P2008−285643A)
【公開日】平成20年11月27日(2008.11.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−264265(P2007−264265)
【出願日】平成19年10月10日(2007.10.10)
【出願人】(000002141)住友ベークライト株式会社 (2,927)
【Fターム(参考)】