説明

エレクトロルミネッセンス素子における蛍光体膜形成用高強度スパッタリングターゲット

【課題】大気中に長時間放置しても高強度を維持することができるエレクトロルミネッセンス素子における蛍光体膜形成用スパッタリングターゲットを提供する。
【解決手段】Al:20〜50質量%、Eu:1〜10質量%、Mg:0.5〜20質量%を含有し、残部がBaおよび不可避不純物からなる組成、並びにMgとAlの金属間化合物相およびEuが固溶したBaとAlの金属間化合物相からなる組織を有することを特徴とするエレクトロルミネッセンス素子における蛍光体膜形成用高強度スパッタリングターゲットであって、前記MgとAlの金属間化合物相は、AlMg金属間化合物、Al12Mg17金属間化合物およびAlMg金属間化合物とからなり、前記Euが固溶したBaとAlの金属間化合物相は、BaA1金属間化合物におけるBaにEuが固溶している金属間化合物相およびBaAl13金属間化合物におけるBaにEuが固溶している金属間化合物相からなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、各種電子機器、情報機器のディスプレイなどに使用されるエレクトロルミネッセンス素子を構成する蛍光体膜をスパッタリングにより形成するためのスパッタリングターゲットに関するものであり、特にユーロピウム添加マグネシウム・バリウムチオアルミネート蛍光体膜(MgBa1−xAl:Eu、ただしx=0.1〜0.9)をHSガスを含む雰囲気中で行う反応性スパッタリング法により形成するための大気中に長時間放置しても高強度を維持することができるエレクトロルミネッセンス素子における蛍光体膜形成用スパッタリングターゲットに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、各種電子機器、情報機器のディスプレイなどにエレクトロルミネッセンス素子が使用されるようになり、このエレクトロルミネッセンス素子には蛍光体膜が使用されている。エレクトロルミネッセンス素子は一般にガラス基板の上に下部透明電極を形成し、この下部透明電極の上に第一絶縁膜を形成し、この第一絶縁膜の上に蛍光体膜を形成し、この蛍光体膜の上に蛍光体膜が第二絶縁膜および第一絶縁膜に包まれるように第二絶縁膜を形成し、この第二絶縁膜の上に上部電極を形成した構造を有しており、この構造は広く知られている。
【0003】
このエレクトロルミネッセンス素子に使用される蛍光体膜一つとしてユーロピウム添加マグネシウム・バリウムチオアルミネート蛍光体膜(MgBa1−xAl:Eu、ただしx=0.1〜0.9)が知られている。このユーロピウム添加バリウムチオアルミネート蛍光体膜は、母体成分がマグネシウム・バリウムチオアルミネート(MgBa1−xAl、ただしx=0.1〜0.9)からなり、発光中心となる不純物がユーロピウム(Eu)からなるもので、このユーロピウム添加マグネシウム・バリウムチオアルミネート蛍光体膜はMgSペレットとAlペレットとEuSとを添加したBaSペレットを蒸発源として二元パルス電子ビーム蒸着法によって最初にアモルファス相の薄膜を作製し、その後アニール炉により熱処理を行うことで結晶化させることにより作製している(特許文献1参照)。さらに、ユーロピウム添加マグネシウム・バリウムチオアルミネート蛍光体膜(MgBa1−xAl:Eu、ただしx=0.1〜0.9)は、一般に、エレクトロルミネッセンス素子における蛍光体膜を多元スパッタリング法により形成することは知られている(特許文献2参照)。
【特許文献1】米国特許6、919、682号明細書
【特許文献2】特開2001―118677号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、ディスプレイはますます大型化し、したがってこの大型のディスプレイに使用するエレクトロルミネッセンス素子もますます大型化しているが、前記蒸着方法で広い面積のユーロピウム添加バリウムチオアルミネート蛍光体膜を製造するには限界があり、一層広い面積の薄膜を形成するには蒸着法よりもスパッタリング法で形成する方が有利であるところから、近年、大型のエレクトロルミネッセンス素子に使用する広い面積のユーロピウム添加マグネシウム・バリウムチオアルミネート蛍光体膜を多元スパッタリング法により製造する研究がなされている。
【0005】
しかし、多元スパッタリング法でユーロピウム添加マグネシウム・バリウムチオアルミネート蛍光体膜を製造とすると、Mg、Ba、AlおよびEuの各元素を同時にスパッタさせるためにMg、Ba、AlおよびEuの各元素のターゲットをスパッタリング装置に共にセットする必要から、スパッタリング装置を大型化しなければならず、また、BaおよびEuはオイル中に保存しなければ酸化を防ぐことはできないほど活性な金属であり、BaおよびEuは大気中に放置すると即座に酸化するためにBaおよびEuターゲットを大気中で扱うことは非常に困難であった。
【0006】
さらにMg、Ba、AlおよびEuの各元素のターゲットを用いて多元スパッタリングを行っても成分組成にずれが生じることなくユーロピウム添加マグネシウム・バリウムチオアルミネート蛍光体膜(MgBa1−xAl:Eu、ただしx=0.1〜0.9)に成形することは困難であることから、Mg、Ba、AlおよびEuの各要素粉末を膜特性から定めたAl:20〜50質量%、Eu:1〜10質量%、Mg:0.5〜20質量%を含有し、残部がBaからなる組成となるように配合し混合して混合粉末を作製し、この混合粉末をプレス成形し、真空中で焼結またはホットプレスすることによりターゲットを作製し、このターゲットを用いて硫化水素雰囲気中でスパッタすることによりユーロピウム添加バリウムチオアルミネート蛍光体膜(BaAl:Eu)を形成することが考えられる。
【0007】
しかし、Mg、Ba、AlおよびEuの各要素粉末をAl:20〜50質量%、Eu:1〜10質量%、Mg:0.5〜20質量%を含有し、残部がBaからなる組成となるように配合し混合しプレス成形したのち真空中で焼結またはホットプレスすることにより得られたターゲットは、酸化し易いBa粉末およびEu粉末が素地中に金属状態で残存するために、このターゲットを大気中に放置すると短時間で酸化し、作製したターゲットをスパッタリング装置にセットしてスパッタリングを開始するまでの間にターゲットが酸化し、ターゲットの強度が極端に低下してスパッタリング用ターゲットとしては使用できなくなるという問題点があった。
【0008】
この発明は、大気中に長時間放置しても高強度を維持することができるエレクトロルミネッセンス素子における蛍光体膜形成用スパッタリングターゲットを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、大気中に長時間放置しても高強度を維持することができるエレクトロルミネッセンス素子における蛍光体膜形成用スパッタリングターゲットを開発すべく研究を行った。その結果、
(イ)原料として、金属Mg、BaAl金属間化合物、金属Baまたは金属Alおよび金属Euを用意し、これら原料を真空溶解し鋳造してAl:20〜50質量%、Eu:1〜10質量%、Mg:0.5〜20質量%を含有し、残部がBaおよび不可避不純物からなる組成を有するインゴットを作製し、このインゴットを粉砕して合金粉末にし、この合金粉末を真空中で燒結またはホットプレスして得られたターゲットは、MgとAlの金属間化合物相およびEuが固溶したBaとAlの金属間化合物相からなり、EuがBaに固溶していることからターゲットを大気中に放置しても短時間で酸化することはなく、したがって、このターゲットを大気中に長時間放置しても強度を維持することができる、
(ロ)前記MgとAlの金属間化合物相は、AlMg金属間化合物、Al12Mg17金属間化合物およびAlMg金属間化合物とからなり、
前記Euが固溶したBaとAlの金属間化合物相は、BaAl金属間化合物のBaにEuが固溶している金属間化合物およびBaAl13金属間化合物のBaにEuが固溶している金属間化合物相から構成されている、
(ハ)素地中に単体Mg相が存在するとスパッタ中に異常放電が発生し易くなるので素地中に単体Mg相が存在しないことが好ましく、さらに単体Ba相および単体Eu相が残存すると酸化し易くなり、ターゲットの強度が低下するので素地中に単体Ba相および単体Eu相が残存しないことが好ましい、などの研究結果が得られたのである。
【0010】
この発明は、かかる研究結果に基づいて成されたものであって、
(1)Al:20〜50質量%、Eu:1〜10質量%、Mg:0.5〜20質量%を含有し、残部がBaおよび不可避不純物からなる組成、並びにMgとAlの金属間化合物相およびEuが固溶したBaとAlの金属間化合物相からなる組織を有するエレクトロルミネッセンス素子における蛍光体膜形成用高強度スパッタリングターゲット、
(2)前記MgとAlの金属間化合物相は、AlMg金属間化合物、Al12Mg17金属間化合物およびAlMg金属間化合物とからなり、
前記Euが固溶したBaとAlの金属間化合物相は、BaA1金属間化合物におけるBaにEuが固溶している金属間化合物およびBaAl13金属間化合物におけるBaにEuが固溶している金属間化合物からなる前記(1)記載のエレクトロルミネッセンス素子における蛍光体膜形成用高強度スパッタリングターゲット、に特徴を有するものである。
【0011】
本発明者らは、さらに研究を行った。その結果、
この発明のエレクトロルミネッセンス素子における蛍光体膜を形成するための高強度スパッタリングターゲットは、素地中に単体Mg相、単体Ba相および単体Eu相が分散していることは好ましくないが、単体Al相が分散していてもAlは急激に酸化することがないので強度を低下させることはなく、素地中に単体Al相が均一に分散することによりかえって靭性が向上し、ターゲットの切削時にチッピングが発生することがない、という研究結果が得られたのである。
【0012】
したがって、この発明は、
(3)Al:20〜50質量%、Eu:1〜10質量%、Mg:0.5〜20質量%を含有し、残部がBaおよび不可避不純物からなる組成、並びにMgとAlの金属間化合物相、Euが固溶したBaとAlの金属間化合物相および単体Al相からなる組織を有するエレクトロルミネッセンス素子における蛍光体膜形成用高強度スパッタリングターゲット、
(4)前記MgとAlの金属間化合物相は、AlMg金属間化合物、Al12Mg17金属間化合物およびAlMg金属間化合物からなり、
前記Euが固溶したBaとAlの金属間化合物相は、BaAl金属間化合物におけるBaにEuが固溶している金属間化合物およびBaAl13金属間化合物におけるBaにEuが固溶している金属間化合物からなる前記(3)記載のエレクトロルミネッセンス素子における蛍光体膜形成用高強度スパッタリングターゲット、に特徴を有するものである。
【0013】
この発明の(1)および(2)記載の蛍光体膜形成用高強度スパッタリングターゲットを製造するには、先ず、原料として、Al−Mg合金、BaAl金属間化合物、金属Baおよび金属Euを用意し、これら原料をアルミナルツボに装入し、アルゴンガス雰囲気中で高周波真空溶解炉により溶解し、得られた溶湯を金型に鋳込んでインゴットを作製し、得られたインゴットを高純度アルゴンガスブロー内で粉砕して粒径が500μm以下の粉末を作製し、この粉末を温度:350〜800℃、圧力:10〜50MPaにて1〜8時間保持する条件のホットプレスを行うことによりホットプレス体を作製し、このホットプレス体を切削加工することによりエレクトロルミネッセンス素子における蛍光体膜形成用スパッタリングターゲットを作製することができる。
【0014】
また、この発明の(3)および(4)記載の蛍光体膜形成用高強度スパッタリングターゲットを製造するには、原料として金属Al、Al−Mg合金、BaAl金属間化合物、金属Baおよびおよび金属Euを用意し、これら原料をアルミナルツボに装入し、アルゴンガス雰囲気中で高周波真空溶解炉により溶解し、得られた溶湯を金型に鋳込んでインゴットを作製し、得られたインゴットを高純度アルゴンガスブロー内で粉砕して粒径が500μm以下の粉末を作製し、この粉末を温度:350〜800℃、圧力:10〜50MPaにて1〜8時間保持する条件のホットプレスを行うことによりホットプレス体を作製し、このホットプレス体を切削加工することによりエレクトロルミネッセンス素子における蛍光体膜形成用スパッタリングターゲットを作製することができる。
【0015】
この発明のエレクトロルミネッセンス素子における蛍光体膜形成用高強度スパッタリングターゲットの成分組成をAl:20〜50質量%、Eu:1〜10質量%、Mg:0.5〜20質量%を含有し、残部がBaおよび不可避不純物からなる成分組成にしなければならないことは、ユーロピウム添加マグネシウム・バリウムチオアルミネート蛍光体膜(MgBa1−xAl:Eu、ただしx=0.1〜0.9)を形成するために計算で導き出される範囲であり、すでに知られている成分組成であるからその限定理由の説明は省略する。
【0016】
なお、前記原料として入手できる金属Baは純度が高いほど好ましいが、一般に工業原料として入手できる金属Baには不可避不純物としてアルカリ土類金属、主にSr,Ca,Mgが含まれている。したがって、この発明のエレクトロルミネッセンス素子における蛍光体膜形成用高強度スパッタリングターゲットにおいてもこれらアルカリ土類金属、主にSr,Ca,Mgが不可避不純物として含まれており、不可避不純物としてSr:2質量%以下、Ca:1質量%以下、Mg:0.5質量%以下を含むエレクトロルミネッセンス素子における蛍光体膜形成用高強度スパッタリングターゲットもこの発明のエレクトロルミネッセンス素子における蛍光体膜形成用高強度スパッタリングターゲットに含まれる。
【0017】
また、Euは非常に易酸化元素であるため、単体Eu相がターゲット組織中に分散していることは好ましくなく、BaとAlの金属間化合物に固溶されていることが好ましいが、EuとAlの金属間化合物の状態で固溶されていてもよい。
【発明の効果】
【0018】
この発明のスパッタリングターゲットを用いてHSを含む雰囲気中でスパッタリングすることにより従来と比べて広い面積のエレクトロルミネッセンス素子における蛍光体膜を高スピードで製造することができ、その製造コストも下がるのでディスプレイ産業の発展に大いに貢献し得るものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
実施例1
原料として、Al−Mg合金、BaAl金属間化合物、金属Baおよび金属Euを用意し、これら原料をアルミナルツボに装入し、アルゴンガス雰囲気中、温度:1200℃で高周波真空溶解炉により溶解し、得られた溶湯を金型に鋳込んでインゴットを作製し、得られたインゴットを高純度アルゴンガスブロー内で粉砕して平均粒径:70μmの粉末を作製し、この粉末を温度:400℃、圧力:40MPaにて2時間保持する条件のホットプレスを行うことにより直径:125mm、厚さ:5mmの寸法を有し、表1に示される成分組成を有する本発明ホットプレス体ターゲット1〜5および比較ホットプレス体ターゲット1〜3を作製し、これら本発明ホットプレス体ターゲット1〜5および比較ホットプレス体ターゲット1〜3からブロックを切り出してX線回折を行い、ピーク強度の検出結果を表1に示した。
【0020】
次に、これらホットプレス体ターゲットから切り出して幅:4mm、長さ:40mm、厚さ:3mmの寸法を有する抗折試験片を作製した。この抗折試験片を12時間大気中に放置した後、JIS R−1601に規定される方法により三点曲げ試験を行い、抗折強度を求め、その結果を表1に示した。
【0021】
さらに、本発明ホットプレス体ターゲット1〜5および比較ホットプレス体ターゲット1〜3をスパッタリング装置に取り付け、一方、基板として石英ガラス(縦:18mm、横:12mm、厚さ:1.2mm)をターゲットに対向するようにスパッタリング装置に取り付け、
雰囲気:Ar(圧力:0.13Pa)、
出力:280W(直流)、
の条件でスパッタリングを実施し、10分間のスパッタリング中に発生した異常放電発生の回数を測定し、その結果を表1に示した。
従来例1
原料として、Mg粉末、Al粉末、Ba粉末およびEu粉末を用意し、これら原料粉末を温度:400℃、圧力:40MPaにて2時間保持する条件のホットプレスを行うことにより表1に示される成分組成を有する従来ホットプレス体ターゲット1〜5を作製し、これら従来ホットプレス体ターゲット1〜5からブロックを切り出してX線回折を行い、ピーク強度の検出結果を表1に示した。
【0022】
次に、これらホットプレス体ターゲットから切り出して幅:4mm、長さ:40mm、厚さ:3mmの寸法を有する抗折試験片を作製した。この抗折試験片を12時間大気中に放置した後、JIS R−1601に規定される方法により三点曲げ試験を行い、抗折強度を求め、その結果を表1に示した。
【0023】
さらに、従来ホットプレス体ターゲット1〜5をスパッタリング装置にセットし、Ar雰囲気中、実施例1と同じ条件でスパッタリングすることにより異常放電発生の回数を測定し、その結果を表1に示した。
【0024】
【表1】

表1に示される結果から、
(a)本発明ホットプレス体ターゲット1〜5は、AlMg金属間化合物、Al12Mg17金属間化合物およびAlMg金属間化合物のピークが検出されることからなるMgとAlの金属間化合物相が存在し、さらにBaAl金属間化合物およびBaAl13金属間化合物のピークが検出され、単体Mg相、単体Al相、単体Ba相および単体Eu相のピークは検出されないことから、本発明ホットプレス体ターゲット1〜5の組織は、BaAl金属間化合物相とBaAl13金属間化合物相からなり、EuはBaに固溶した状態で含まれていること、
(b)BaAl金属間化合物相およびBaAl13金属間化合物相が検出され、さらに単体Ba相および/または単体Eu相のピークが検出される比較ホットプレス体ターゲット1〜3は12時間放置すると強度が低下すること、
(c)Mg粉末、Al粉末、Ba粉末およびEu粉末などの要素金属粉末をホットプレスして得られた従来ホットプレス体ターゲット1〜5はその成分組成がそれぞれ本発明ホットプレス体ターゲット1〜5と同じであっても、AlMg金属間化合物、Al12Mg17金属間化合物およびAlMg金属間化合物からなるMgとAlの金属間化合物相、EuがBaに固溶したBaAl金属間化合物およびEuがBaに固溶したBaAl13金属間化合物からなるEuが固溶したBaとAlの金属間化合物相、単体Mg相、単体Al相、単体Ba相および単体Eu相の全てのピークが検出される従来ホットプレス体ターゲット1〜5は大気中に12時間放置すると、その強度が極度に低下し、スパッタリングに際して異常放電発生回数が多くパーティクル発生数が多い、などが解る。
実施例2
原料として、Al−Mg合金、BaAl金属間化合物、金属Al、金属Baおよび金属Euを用意し、これら原料をアルミナルツボに装入し、アルゴンガス雰囲気中、温度:1200℃で高周波真空溶解炉により溶解し、得られた溶湯を金型に鋳込んでインゴットを作製し、得られたインゴットを高純度アルゴンガスブロー内で粉砕して平均粒径:70μmの粉末を作製し、この粉末と平均粒径:100μmのAl粉末を混合し、得られた混合粉末を温度:400℃、圧力:40MPaにて2時間保持する条件のホットプレスを行うことにより表2に示される成分組成を有する本発明ホットプレス体ターゲット6〜10を作製し、これら本発明ホットプレス体ターゲット6〜10からブロックを切り出してX線回折を行い、ピーク強度の検出結果を表2に示した。
【0025】
次に、これらホットプレス体ターゲットから切り出して幅:4mm、長さ:40mm、厚さ:3mmの寸法を有する抗折試験片を作製した。この抗折試験片を12時間大気中に放置した後、JIS R−1601に規定される方法により三点曲げ試験を行い、抗折強度を求め、その結果を表2に示した。
【0026】
さらに、本発明ホットプレス体ターゲット6〜10を、実施例1よりも2.5倍深い切り込み深さ:0.5mm、送りスピード:40m/分、回転数:540回転/分、インバータ:20HZの条件でフライス盤を使って乾式切削加工を行うことにより幅:200mm、長さ:350mm、厚さ:10mmの寸法を有し、表2に示される成分組成を有する本発明ターゲット6〜10を作製し、切削表面に発生する直径1mm以上の大きなチッピングの数を測定し、その結果を表2に示した。
【0027】
さらに、本発明ホットプレス体ターゲット6〜10をスパッタリング装置にセットし、Ar雰囲気中、実施例1と同じ条件でスパッタリングすることにより異常放電発生の回数を測定し、その結果を表2に示した。
【0028】
【表2】

表2に示される結果から、AlMg金属間化合物、Al12Mg17金属間化合物およびAlMg金属間化合物からなるMgとAlの金属間化合物相が存在し、さらにEuがBaに固溶したBaAl金属間化合物およびEuがBaに固溶したBaAl13金属間化合物からなるEuがBaに固溶したBaとAlの金属間化合物相が存在し、さらに単体Al相が存在し、一方、単体Mg相、単体Ba相および単体Eu相のピークは検出されない本発明ホットプレス体ターゲット6〜10は、大気中に12時間放置しても高強度を維持することができ、さらに単体Al相が存在することにより切削性が向上して苛酷な条件の切削を行ってもチッピングの発生がないこと、さらに異常放電回数が表1の従来ホットプレス体ターゲット1〜5に比べて少ないことなどがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Al:20〜50質量%、Eu:1〜10質量%、Mg:0.5〜20質量%を含有し、残部がBaおよび不可避不純物からなる組成、並びにMgとAlの金属間化合物相およびEuが固溶したBaとAlの金属間化合物相からなる組織を有することを特徴とするエレクトロルミネッセンス素子における蛍光体膜形成用高強度スパッタリングターゲット。
【請求項2】
前記MgとAlの金属間化合物相は、AlMg金属間化合物、Al12Mg17金属間化合物およびAlMg金属間化合物とからなり、
前記Euが固溶したBaとAlの金属間化合物相は、BaA1金属間化合物におけるBaにEuが固溶している金属間化合物およびBaAl13金属間化合物におけるBaにEuが固溶している金属間化合物からなることを特徴とする請求項1記載のエレクトロルミネッセンス素子における蛍光体膜形成用高強度スパッタリングターゲット。
【請求項3】
Al:20〜50質量%、Eu:1〜10質量%、Mg:0.5〜20質量%を含有し、残部がBaおよび不可避不純物からなる組成、並びにMgとAlの金属間化合物相、Euが固溶したBaとAlの金属間化合物相および単体Al相からなる組織を有することを特徴とするエレクトロルミネッセンス素子における蛍光体膜形成用高強度スパッタリングターゲット。
【請求項4】
前記MgとAlの金属間化合物相は、AlMg金属間化合物、Al12Mg17金属間化合物およびAlMg金属間化合物からなり、
前記Euが固溶したBaとAlの金属間化合物相は、BaAl金属間化合物におけるBaにEuが固溶している金属間化合物およびBaAl13金属間化合物におけるBaにEuが固溶している金属間化合物からなることを特徴とする請求項3記載のエレクトロルミネッセンス素子における蛍光体膜形成用高強度スパッタリングターゲット。

【公開番号】特開2007−217755(P2007−217755A)
【公開日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−40338(P2006−40338)
【出願日】平成18年2月17日(2006.2.17)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【Fターム(参考)】