説明

エンコーダ付組み合わせシールリング及びエンコーダ付転がり軸受ユニット

【課題】モーメント荷重等が加わった場合にも、芯金15bとスリンガ13bとが金属接触しにくくなるだけでなく、ゴム磁石製のセンコーダ14b及び弾性材製のシール材16bに、シール性能を著しく低下させる様な損傷が発生しにくい構造を実現し、ラビリンスシールの径方向隙間を小さくし易い構造を実現する。
【解決手段】芯金15bを構成する固定円筒部17bの軸方向内半部に形成された薄肉部32に絞り加工を施して、この固定円筒部17bの軸方向中間部内周面に、直径方向外方に凹んだ逃げ凹溝35を全周に亙り形成する。又、この逃げ凹溝35と、スリンガ13bを構成する回転円輪部24bの外周縁部29aとを、径方向に関して重畳させる。これにより、固定円筒部17bの内周面から回転円輪部24bの外周縁部29a及びエンコーダ14bの外周面までの径方向距離を大きくできて、前記課題を解決できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば車両(自動車)の車輪を懸架装置に支持する為の車輪支持用転がり軸受ユニット等、各種機械装置の回転支持部に組み込む転がり軸受の開口端部を塞ぐと共に、この転がり軸受に支持される回転部材の回転速度を検出する為のエンコーダ付組み合わせシールリング、及び、このエンコーダ付組み合わせシールリングを備えたエンコーダ付転がり軸受ユニットの改良に関する。具体的には、モーメント荷重等が加わった場合にも、芯金とスリンガとが金属接触する事を防止できるだけでなく、ゴム磁石製のエンコーダ及び弾性材製のシール材に、シール性能を著しく低下させる様な損傷が生じる事を有効に防止できる構造を実現し、ラビリンスシールの径方向隙間を小さくできる構造を実現するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車の車輪を懸架装置に対して回転自在に支持すると共に、アンチロックブレーキシステム(ABS)やトラクションコントロールシステム(TCS)を制御すべく、この車輪の回転速度を検出する為に従来から、エンコーダ付転がり軸受ユニットが使用されている(例えば特許文献1参照)。
【0003】
図3〜5は、従来構造のエンコーダ付転がり軸受ユニットの1例を示している。ハブ1の軸方向外端部(軸方向に関して外とは、車体に装着した場合に幅方向外側になる側を言い、図5を除き各図の左側。)には車輪固定用の取付フランジ2を設け、軸方向中間部外周面には内輪軌道3aを形成している。又、前記ハブ1の軸方向内端部(軸方向に関して内とは、車体に装着した場合に幅方向中央側になる側を言い、図5を除き各図の右側。)外周面には、その外周面に内輪軌道3bを有する内輪4を外嵌している。この内輪4が、前記ハブ1と共に回転軌道輪を構成する。
【0004】
又、静止軌道輪である外輪5の外周面には、この外輪5を懸架装置に支持する為の取付部6を、同じく内周面には複列の外輪軌道7a、7bを、それぞれ形成している。これら各外輪軌道7a、7bと前記各内輪軌道3a、3bとの間には、それぞれ複数個ずつの転動体8、8を設けて、前記取付部6により懸架装置に支持された外輪5の内側に、前記ハブ1及び前記内輪4を回転自在に支持している。
【0005】
上述の様なエンコーダ付転がり軸受ユニットのうちで、前記各転動体8、8を設置した内部空間9内にはグリースを封入し、これら各転動体8、8の転動面と、前記各外輪軌道7a、7b及び内輪軌道3a、3bとの転がり接触部を潤滑する様にしている。又、前記外輪5の軸方向外端部内周面と、前記ハブ1の軸方向中間部外周面との間にはシールリング10を設けて、前記内部空間9の軸方向外端開口部を塞いでいる。一方、前記外輪5の軸方向内端部内周面と、前記内輪4の軸方向内端部外周面との間には、本発明の対象となるエンコーダ付組み合わせシールリング11を設けて、前記内部空間9の軸方向内端開口部を塞いでいる。
【0006】
前記エンコーダ付組み合わせシールリング11は、図4に詳示する様に、静止軌道輪である前記外輪5の軸方向内端部に内嵌固定するシールリング12と、鋼板或いはステンレス鋼板等の磁性金属板製で、回転軌道輪である前記内輪4の軸方向内端部に外嵌固定するスリンガ13と、このスリンガ13に支持固定されるエンコーダ14とを備える。
【0007】
このうちのシールリング12は、断面略L字形で全体が円環状の芯金15と、シール材16とから成る。このうちの芯金15は、軟鋼板等の金属板により、断面略L字形で全体を円環状に形成して成り、前記外輪5の軸方向内端部内周面に締り嵌めにより内嵌固定される固定円筒部17と、この固定円筒部17の軸方向外端縁から、前記内輪4の外周面に向け、直径方向内方に折れ曲がった固定円輪部18とを有する。又、前記シール材16は、ゴムの如きエラストマー等の弾性材製で、それぞれの基端部を前記芯金15に全周に亙って添着支持された3本のシールリップ19〜21と、この芯金15を構成する固定円筒部17の内周面を全周に亙り覆った環状覆い部22とを有する。又、図示の例では、前記シール材16により、前記固定円筒部17の軸方向内端部外周面及び軸方向内端面を覆っている。一般的には、前記シール材16は、前記芯金15に対し、焼き付け或いは加硫接着等により結合している。
【0008】
一方、前記スリンガ13は、金属板を曲げ成形する事により断面略L字形で全体を円環状に構成したもので、前記内輪4の軸方向内端部外周面に締り嵌めにより外嵌固定される回転円筒部23と、この回転円筒部23の軸方向内端縁から、前記外輪5の内周面に向け、直径方向に折れ曲がった回転円輪部24とを備える。又、前記スリンガ13は、弾性材を備えず、前記回転円筒部23の外周面及び前記回転円輪部24の軸方向外側面で、前記各シールリップ19〜21の先端縁を摺接させる部分を、それぞれ平滑面としている。そして、前記各シールリップ19〜21のうちで、サイドリップと呼ばれる、最も外径側に、軸方向内方に突出する状態で設けられた、外側シールリップ19の先端縁を、前記回転円輪部24の軸方向外側面に全周に亙り摺接させている。これに対して、残り2本の、中間、内側シールリップ20、21の先端縁を、前記回転円筒部23の外周面に全周に亙り摺接させている。
【0009】
又、前記エンコーダ14は、図5に示す様に、円周方向に亙って、S極とN極とを交互に配置したゴム磁石製(永久磁石製)である。即ち、前記エンコーダ14は、ゴム中にフェライト粉末を混入したゴム磁石を円輪状に形成したもので、軸方向に亙って着磁している。着磁方向は、円周方向に亙って交互に且つ等間隔で変化させている。従って、前記エンコーダ14の軸方向側面(内側面)には、S極とN極とが、円周方向に亙って交互に且つ等間隔で配置されている。この様なエンコーダ14は、前記回転円輪部24の軸方向内側面に支持されている。そして、懸架装置等、非回転部分に支持した回転速度検出用のセンサ25の検出部を、前記エンコーダ14の軸方向内側面である、被検出面に対向させている。
【0010】
又、前記エンコーダ14の外周縁部、及び、前記スリンガ13の回転円輪部24の外周縁部を、前記環状覆い部22の内周面に全周に亙り近接対向させている。これにより、当該部分に、外部空間に存在する雨水、泥水、塵等の異物の侵入を防止する為のラビリンスシール26を構成している。
【0011】
上述した様な従来構造のエンコーダ付転がり軸受ユニットの場合、前記ハブ1の軸方向外端部に設けた取付フランジ2に固定した車輪を、前記外輪5を支持した懸架装置に対し、回転自在に支持できる。又、前記内部空間9の軸方向両端開口部を、前記シールリング10及び前記エンコーダ付組み合わせシールリング11で塞ぐ事により、前記内部空間9内に泥水等の異物が入り込む事を防止すると共に、この内部空間9内に封入したグリースが外部に漏洩する事を防止する。更に、車輪の回転に伴って前記内輪4に外嵌固定したスリンガ13が回転すると、このスリンガ13と共に回転するエンコーダ14に対向したセンサ25の出力が変化する。このセンサ25の出力が変化する周波数は、車輪の回転速度に比例する。従って、このセンサ25の出力信号を図示しない制御器に入力すれば、車輪の回転速度を求め、ABSやTCSを適切に制御できる。
【0012】
但し、図4に詳示した様な従来構造のエンコーダ付組み合わせシールリング11には、シール性能の更なる向上を図る面から、未だ改良の余地がある。即ち、前述した様に、前記エンコーダ付組み合わせシールリング11は、エンコーダ14及び回転円輪部24の外周縁部と、シール材16を構成する環状覆い部22の内周面との間に、異物の侵入を防止する為のラビリンスシール26を設けている。しかしながら、このラビリンスシール26は、異物の進入を有効に防止する観点からは、その長さ(軸方向長さ)が十分でない。この為、このラビリンスシール26により十分なシール性を確保する事は難しく、内部空間9内への異物の侵入防止を有効に図りにくくなる。
【0013】
この様な事情に鑑みて、特許文献2には、全長の長いラビリンスシールを設けた、エンコーダ付組み合わせシールリングが記載されている。図6は、前記特許文献2記載された、エンコーダ付組み合わせシールリング11aを示している。このエンコーダ付組み合わせシールリング11aは、シールリング12aと、スリンガ13aと、エンコーダ14aとを備える。尚、このうちのシールリング12aの構成は、中間シールリップ20aを軸方向内方に突出する状態で設けた点を除いて、前述したエンコーダ付組み合わせシールリング11のシールリング12(図4参照)の構成とほぼ同様である。
【0014】
特に、前記エンコーダ付組み合わせシールリング11aの場合には、ラビリンスシールの全長を長くすべく、前記エンコーダ14aとして、その外周面の軸方向寸法が大きいものを使用している。この為に、このエンコーダ14aの軸方向外側面のうちの外周寄り部分に、軸方向外方に向けて突出した厚肉部27を全周に亙り形成し、前記エンコーダ14aの外周寄り部分の肉厚をその他の部分の肉厚に比べて大きくしている。これにより、前記エンコーダ14aの外周面の軸方向寸法を大きくしている。
【0015】
又、この様な構成を有する前記エンコーダ14aを支持補強する為に、前記スリンガ13aを構成する回転円輪部24aの外周寄り部分に、直径方向外方に向かう程軸方向外方に向かう方向に傾斜した、折れ曲がり部28を形成している。そして、前記エンコーダ14aを前記回転円輪部24aの軸方向内側面に支持固定した状態で、前記厚肉部27を前記折れ曲がり部28に添着支持している。又、この厚肉部27の外径側部分により、前記回転円輪部24aの外周縁部29を含む外径側端部を、全周に亙り覆っている。又、前記厚肉部27のうちで、前記外周縁部29よりも軸方向外方に位置する部分を、前記エンコーダ14aと前記スリンガ13aとの結合強度を補助する役割を有する係止部30としている。
【0016】
更に、前記エンコーダ14aの外周面を単一円筒面状に形成し、前記シールリング12aを構成するシール材16aのうちの環状覆い部22aの内周面に、全周に亙り近接対向させている。これにより、当該部分に、外部空間に存在する雨水、泥水、塵等の異物の侵入を防止する為のラビリンスシール26aを形成している。この様なラビリンスシール26aは、上述したエンコーダ付組み合わせシールリング11に設けられたラビリンスシール26(図4参照)よりも十分に長い全長を有する為、シール性能の向上を図れる。
【0017】
ところで、上述の様なラビリンスシール26aは、その径方向隙間を小さくする程、異物の侵入防止効果を向上できる。この為、前記エンコーダ付組み合わせシールリング11aのシール性能の更なる向上を図る為に、前記ラビリンスシール26aの径方向隙間を更に小さくする事も考えられる。但し、このラビリンスシール26aの径方向隙間を小さくする事は、次の様な問題を生じる可能性があり、困難である。
【0018】
前記図3に示した様な、車輪支持用の転がり軸受ユニットの場合には、車両の旋回時、車輪を構成するタイヤの設置面から取付フランジ2を介して、ハブ1にモーメント荷重が加わる。この場合、このハブ1及び内輪4の中心軸が外輪5の中心軸に対して傾斜する(例えば図3に示した様に、モーメント荷重Mが加わり、ハブ1及び内輪4の中心軸が中立状態を表すα位置からβ位置にまで角度θ分だけ変位する)。この為、車両の旋回時には、前記内輪4に支持される前記エンコーダ14aも、前記外輪5に支持される前記シールリング12に対して傾斜する。従って、前記ラビリンスシール26aの径方向隙間を小さくすると、前記エンコーダ14aの傾斜によって、このエンコーダ14aの外周面と前記環状覆い部22aの内周面とが接触(摺接)する可能性がある。又、製造上不可避な寸法公差(例えば芯金15aとエンコーダ14aとの芯ずれ)や、組み付け誤差等によっても、前記エンコーダ14aの外周面と前記環状覆い部22の内周面とが摺接する可能性がある。
【0019】
上述の様に、前記エンコーダ14aの外周面と前記環状覆い部22aの内周面とが摺接する場合にも、これら両周面同士が摺接している限りに於いては、回転トルクが上昇したり、前記エンコーダ14aを構成するゴム磁石及び前記環状覆い部22aを構成する弾性材の摩耗が進行したりするだけで済む(エンコーダ付組み合わせシールリング11aのシール性能が著しく低下する事はない)。
【0020】
しかしながら、前記エンコーダ14a或いは前記環状覆い部22aの一部が完全に摩耗すると、次の様な問題を生じる。前記エンコーダ付組み合わせシールリング11aの場合、前記環状覆い部22aの径方向に関する厚さ寸法(肉厚)が小さい為、先ず、この環状覆い部22aの一部(エンコーダ14aの外周面との摺接部)が先に摩耗した場合に就いて説明する。前記環状覆い部22a一部が摩耗すると、この環状覆い部22aが軸方向に分断(輪断)される。そしてこの場合には、前記シール材16aのうちで、前記芯金15aを構成する固定円筒部17aの軸方向内端部を覆った部分が、この固定円筒部17aから脱落する可能性がある。この結果、前記ラビリンスシール26aの全長が短くなると共に、前記固定円筒部17aの外周面と前記外輪5の内周面との間のシール性保持も図れなくなり、シール性能の著しい低下を招く。
【0021】
又、この様に、前記環状覆い部22aの一部が完全に摩耗したり、前記シール材16aの一部が芯金15a(固定円筒部17a)から脱落した場合には、この固定円筒部17aの内周面と前記エンコーダ14aの外周面とが直接接触(摺接)する可能性がある。この場合に、前記回転円輪部24aの外周縁部29は、先端(外径側端部)の尖った断面形状を有している為、前記エンコーダ14aのうちで、前記外周縁部29と前記固定円筒部17の内周面とで挟まれる部分(径方向に関する最小肉厚部)の摩耗量が増大する傾向になる。この為、前記エンコーダ14aに関しても軸方向に分断(輪断)される可能性がある。ここで、前記回転円輪部24aの外周端面31は、プレス加工機等による打ち抜き加工時に形成された剪断面であり、加硫接着力が弱い為、前記エンコーダ14aのうちの係止部30が、前記スリンガ13aから前記シールリング12a側に脱落する可能性がある。この結果、前記ラビリンスシール26aの全長が短くなると共に、脱落した前記係止部30が、前記シールリング12aを構成する外側シールリップ19のシール性能に悪影響を与える可能性もあり、やはりシール性能の著しい低下を招く。
【0022】
これに対し、前記環状覆い部22aの一部が完全に摩耗する以前に、前記エンコーダ14aのうちの一部(最小肉厚部)が先に摩耗した場合、上述の様に前記係止部30が脱落し、前記回転円輪部24aの外周縁部29が前記環状覆い部22aの内周面に直接接触(摺接)する可能性がある。この場合には、この環状覆い部22aが極く短時間の間に軸方向に分断され、前記シール材16aのうちで前記固定円筒部17aの軸方向内端部を覆った部分が、この固定円筒部17aから脱落する可能性がある。この結果、前述した様な、前記環状覆い部22aの一部が先に摩耗した場合と同様の問題を生じる。
【0023】
更に、何れの場合にも、前記固定円筒部17aと前記回転円輪部24aの外径側端部(外周縁部29又は外周端面31)とが金属接触する可能性もある。この結果、焼き付きが発生したり、前記シール材16aを構成する弾性材や前記エンコーダ14aを構成するゴム磁石が熱変形する可能性がある。
【0024】
以上の様に、従来構造のエンコーダ付組み合わせシールリング11aの場合には、モーメント荷重等が加わった場合に、ゴム磁石製のエンコーダ14aや弾性材製のシール材16aに、シール性能を著しく低下させる様な損傷(摺接に伴う摩耗を除く)が生じたり、金属接触による焼き付きや熱変形と言った重大な損傷を生じる可能性もある。従って、従来構造のエンコーダ付組み合わせシールリング11aの場合には、前記ラビリンスシール26aの径方向隙間を十分に小さくする事は難しい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0025】
【特許文献1】特開2002−62305号公報
【特許文献2】特開2007−285468号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0026】
本発明は、上述の様な事情に鑑みて、回転軌道輪の中心軸と静止軌道輪の中心軸とが互いに傾斜等した場合にも、芯金とスリンガとが金属接触しにくくなるだけでなく、ゴム磁石製のエンコーダ及び弾性材製のシール材にシール性能を著しく低下させる様な損傷が発生しにくい構造を実現し、ラビリンスシールの径方向隙間を小さくする事によるシール性能の向上を図り易い構造を実現すべく発明したものである。
【課題を解決するための手段】
【0027】
本発明のエンコーダ付組み合わせシールリングは、互いに対向する回転側周面と静止側周面との間部分に存在する空間の端部開口を塞ぐと共に、回転軌道輪の回転速度を検出する為に使用するもので、シールリングとスリンガとを断面略矩形状に組み合わせて成り、このうちのスリンガにエンコーダを支持している。
前記シールリングは、芯金と、この芯金に添着支持されたシール材とから成る。
このうちの芯金は、金属板を曲げ形成する事により断面略L字形で全体を円環状に構成しており、固定円筒部と、固定円輪部とを備える。
又、前記シール材は、弾性材製で、1乃至複数本のシールリップと、前記固定円筒部の周面を覆った環状覆い部とを備える。
前記スリンガは、金属板を曲げ形成する事により断面略L字形で全体を円環状に構成しており、回転円筒部と、回転円輪部とを備える。又、このうちの回転円輪部の前記静止側周面寄りの端部には、折れ曲がり部を形成している。
前記エンコーダは、ゴム磁石製で、前記回転円輪部の周縁部を全周に亙り覆った状態で、この回転円輪部の軸方向側面に支持固定されている。又、静止軌道輪側の周面とこれに対向する前記環状覆い部の周面とを全周に亙り近接対向させて、当該部分にラビリンスシールを形成している。
特に、本発明のエンコーダ付組み合わせシールリングの場合には、前記固定円筒部の端部に形成された前記回転軌道輪側の部分が全周に亙り除肉された薄肉部を、この回転軌道輪側に向けて曲げ形成(例えば絞り加工)する事で、前記固定円筒部のうちの前記回転軌道輪側の周面に、径方向に凹んだ逃げ凹溝を全周に亙り形成している。そして、この逃げ凹溝と、前記回転円輪部の周縁部とを径方向に関して重畳させている。
【0028】
又、本発明のエンコーダ付転がり軸受ユニットは、回転軌道輪と、静止軌道輪と、複数個の転動体と、回転側周面と静止側周面との間部分に存在する空間の端部開口を塞ぐ為の組み合わせシールリングとを備えたものである。そして、この組み合わせシールリングとして、請求項1に記載した発明のエンコーダ付組み合わせシールリングを使用している。
【発明の効果】
【0029】
上述の様に構成する本発明のエンコーダ付組み合わせシールリング及びエンコーダ付転がり軸受ユニットによれば、回転軌道輪の中心軸と静止軌道輪の中心軸とが互いに傾斜等した場合にも、芯金とスリンガとの金属接触を生じにくくできるだけでなく、ゴム磁石製のエンコーダ及び弾性材製のシール材に、シール性能を著しく低下させる様な損傷を発生しにくくできる。
即ち、本発明のエンコーダ付組み合わせシールリングの場合には、芯金を構成する固定円筒部のうちの前記回転軌道輪側の周面に逃げ凹溝を形成して、この逃げ凹溝と前記スリンガを構成する回転円輪部の静止軌道輪側の周縁部とを径方向に関して重畳させている。この為、前記逃げ凹溝を形成しないと仮定した場合に比べて、この逃げ凹溝の径方向深さ分だけ、前記固定円筒部の前記回転軌道輪側の周面から前記回転円輪部の前記静止軌道輪側の周縁部までの径方向距離を大きくできる。従って、前記回転軌道輪の中心軸と前記静止軌道輪の中心軸とが互いに傾斜等した場合にも、前記芯金と前記スリンガとの金属接触を生じにくくできる。
しかも、本発明の場合には、前記逃げ凹溝を形成した部分で、前記固定円筒部の前記回転軌道輪側の周面と前記エンコーダの前記静止軌道輪側の周面との径方向距離も大きくできる。この為、前記回転軌道輪の中心軸とこの静止軌道輪の中心軸とが互いに傾斜等した場合にも、金属製の前記芯金(固定円筒部)とゴム磁石製の前記エンコーダとを摺接しにくくできる。従って、このエンコーダに、一部が脱落する等の、シール性能を著しく低下させる様な損傷を発生しにくくできる。
又、本発明の場合には、前記環状覆い部の径方向に関する厚さ寸法を、前記逃げ凹溝を形成した部分で、この逃げ凹溝の径方向深さ分だけ大きくできる。この為、前記環状覆い部が早期に摩耗したり、軸方向に分断される事を有効に防止できる。従って、前記シール材に、一部が脱落する等の、シール性能を著しく低下させる様な損傷を発生しにくくできる。
この結果、本発明によれば、ラビリンスシールの径方向隙間を小さくする事による、シール性能の向上を図り易くなる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の実施の形態の第1例を示す、図4に相当する図。
【図2】同じく第2例を示す、図1と同様の図。
【図3】従来構造のエンコーダ付転がり軸受ユニットの断面図。
【図4】図3のA部に組み付けられているエンコーダ付組み合わせシールリングの部分拡大断面図。
【図5】図4からエンコーダのみを取り出して示す斜視図。
【図6】特許文献2に記載された従来構造のエンコーダ付組み合わせシールリングを示す、図4に相当する図。
【発明を実施するための形態】
【0031】
[実施の形態の第1例]
図1は、総ての請求項に対応する、本発明の実施の形態の第1例を示している。本例のエンコーダ付組み合わせシールリング11bは、前記図3に示した様な、互いに相対回転する回転軌道輪であるハブ1及び内輪4と静止軌道輪である外輪5との間に装着され、これらハブ1及び内輪4の外周面とこの外輪5の内周面との間部分に存在する内部空間9のうちの軸方向内端開口部を塞いでいる。この内部空間9の軸方向外端開口部を塞ぐシールリング10を含め、前記エンコーダ付組み合わせシールリング11b以外の部分の構成及び作用・効果に就いては、前記図3に示した従来構造のエンコーダ付転がり軸受ユニットの場合と同様である。この為、重複する部分の図示並びに説明は省略若しくは簡略にし、以下、前記エンコーダ付組み合わせシールリング11bを中心に説明する。
【0032】
本例のエンコーダ付組み合わせシールリング11bも、シールリング12bと、スリンガ13bと、エンコーダ14bとを備える。このうちのシールリング12bは、芯金15bと、シール材16bとから成る。この芯金15bは、軟鋼板等の金属板を曲げ形成する事により断面略L字形で全体を円環状に構成したもので、前記外輪5の軸方向内端部内周面に締り嵌めにより内嵌固定される固定円筒部17bと、この固定円筒部17bの軸方向外端縁から、前記内輪4の内周面に向け、直径方向内方に折れ曲がった固定円輪部18とを有する。
【0033】
このうちの固定円筒部17bの軸方向内半部には、その内径側部分が全周に亙り除肉された薄肉部32が設けられている。本例の場合には、この薄肉部32を直径方向内方に向け曲げ形成する事で、この薄肉部32に、軸方向内方に向かう程直径寸法が小さくなる方向に傾斜した傾斜筒部33と、この傾斜筒部33の軸方向内方に隣接する直径寸法が軸方向に亙り一定である円筒部34とを形成している。これにより、前記固定円筒部17bの軸方向中間部内周面に、前記傾斜筒部33の内周面により構成される、直径方向外方に凹んだ逃げ凹溝35を、全周に亙り形成している。又、本例の場合には、前記円筒部34の内径寸法d34を、前記固定円筒部17bの軸方向外半部(薄肉部32から軸方向外方に外れた部分)の内径寸法d17b と同じか、これよりも僅かに大きくしている(d34≧d17b )。
【0034】
更に、本例の場合には、前記逃げ凹溝35の軸方向外側部分の内周面を、断面形状が四分の一円弧状である曲面部36としている。一方、前記逃げ凹溝35の軸方向内側部分の内周面を、前記ハブ1及び内輪4の中心軸が前記外輪5の中心軸に対し傾斜する場合の傾斜中心{ハブ1と内輪4及び外輪5の中心軸上で両列の転動体8、8の軸方向中央部に位置する点γ(図3参照)}をその中心とする、前記曲面部36の曲率半径よりも十分に大きい曲率半径を有する部分球状凹面37(又はこの部分球状凹面37の一部に接する部分円すい状凹面)としている。尚、前記曲面部36は後述する加圧加工時に形成し、前記部分球状凹面37は同じく絞り加工時に形成する。
【0035】
この様な構成を有する本例の芯金15bを得る為には、例えば、金属板にプレスによる打ち抜き加工を施して円輪状の素材を得た後、この素材の外周縁部に加圧加工(スタンピング加工)を施し、前記薄肉部32となるべき部分を形成する。次いで、バーリング加工を施して、外径側半部を直角に折り曲げ、断面L字形で全体が円環状の素材を得る。具体的には、円輪状の素材の内径寄り部分を1対の抑え型(ダイ)により軸方向両側から挟持した状態で、この素材の外径寄り部分にリングパンチを押し込む。その後、この素材のうちで前記固定円筒部17bとなるべき円筒状部分の内側に、所定の外周面形状を有する抑え型を挿入したまま、この円筒状部分に形成された前記薄肉部32に絞り加工を施す。これにより、この薄肉部32に、前記傾斜筒部33と前記円筒部34とを形成すると同時に、この傾斜筒部33の内周面に前記逃げ凹溝35を形成する。その他、熱処理、旋削等の所定の仕上加工を施して、前記芯金15bを得る。
【0036】
又、前記シール材16bは、ゴムの如きエラストマー等の弾性材製であり、それぞれの基端部を前記芯金15bに全周に亙って添着支持された3本のシールリップ19〜21と、前記固定円筒部17bの内周面を全周に亙り覆った、環状覆い部22bとを有する。又、本例の場合には、この環状覆い部22bの内径寸法を、軸方向内端部乃至中間部に亙る範囲で一定とし、当該部分の内周面を単一円筒面状としている。又、本例の場合にも、前記シール材16bにより、前記固定円筒部17bの軸方向内端部外周面(傾斜筒部33及び円筒部34の外周面)、及び、軸方向内端面を、それぞれ全周に亙り覆っている。
【0037】
又、前記スリンガ13bは、金属板を曲げ成形する事により断面略L字形で全体を円環状に構成したもので、前記内輪4の軸方向内端部外周面に締り嵌めにより外嵌固定される回転円筒部23と、この回転円筒部23の軸方向内端縁から、前記外輪5の内周面に向け、直径方向に折れ曲がった回転円輪部24bとを備える。又、この回転円輪部24bの外周寄り部分に、直径方向外方に向かう程軸方向外方に向かう方向に傾斜した(折れ曲がった)、折れ曲がり部28aを形成している。
【0038】
特に、本例の場合には、前記回転円輪部24b(スリンガ13b)の外周縁部29aの軸方向位置を、径方向に関して前記逃げ凹溝35と重畳する位置(図1中のLの範囲内)に規制している。図示の例では、前記ハブ1及び内輪4の中心軸が前記外輪5の中心軸に対し傾斜していない中立状態で、前記外周縁部29aの軸方向位置を、前記部分球状凹面37の軸方向中間部と径方向に重畳する位置としている。更に、本例の場合には、前記折れ曲がり部28aの外周面形状を、前記ハブ1及び内輪4の中心軸が前記外輪5の中心軸に対し傾斜する場合の傾斜中心{点γ(図3参照)}をその中心とする、部分球状凸面38(又はこの部分球状凸面38の一部に接する部分円すい状凸面)としている。
【0039】
本例の場合、前記逃げ凹溝35の内径側開口部の軸方向寸法(開口幅)Lは、車両の旋回時に、前記ハブ1にモーメント荷重が加わり、前記スリンガ13b及び前記エンコーダ14bが最大限傾斜したと仮定した場合にも、前記外周縁部29aの軸方向位置が前記逃げ凹溝35の範囲Lから外れない大きさとしている。更に、前記逃げ凹溝35の径方向深さ寸法は、前記芯金15bと前記スリンガ13bとの芯ずれ等に基づき、この逃げ凹溝35の内周面と前記外周縁部29aとが最大限近づいたと仮定した場合にも、これらの間に十分な大きさの隙間を確保できる大きさとしている。
【0040】
又、前記エンコーダ14bは、ゴム中にフェライト粉末を混入したゴム磁石を円輪状に形成したもので、軸方向に亙って着磁している。着磁方向は、円周方向に亙って交互に且つ等間隔で変化させている。従って、前記エンコーダ14bの軸方向側面(内側面)には、S極とN極とが、円周方向に亙って交互に且つ等間隔で配置されている。そして、本例の場合にも、この様なエンコーダ14bの軸方向外側面のうちの外周寄り部分に、軸方向外方に向けて突出した厚肉部27aを全周に亙り形成し、前記エンコーダ14bの外周寄り部分の肉厚を、その他の部分の肉厚に比べて大きくしている。そして、このエンコーダ14bを、前記回転円輪部24bの軸方向内側面に支持固定した状態で、前記厚肉部27aを前記折れ曲がり部28aに添着支持している。又、この厚肉部27aの外径側部分により、前記回転円輪部24bの外周縁部29aを含む外径側端部を、全周に亙り覆っている。又、前記厚肉部27aのうちで、前記外周縁部29aよりも軸方向外方に位置する部分を、前記エンコーダ14bと前記スリンガ13bとの結合強度を補助する役割を有する、係止部30aとしている。
【0041】
更に、前記エンコーダ14bの外周面を単一円筒面状とし、前記環状覆い部22bの軸方向内半部内周面に、全周に亙り近接対向させている。これにより、当該部分に、外部空間に存在する雨水、泥水、塵等の異物の侵入を防止する為の、軸方向に長いラビリンスシール26bを構成している。この様なラビリンスシール26bの全長(軸方向長さ)は、前述したエンコーダ付組み合わせシールリング11aに設けられたラビリンスシール26a(図6参照)の全長と同程度である。
【0042】
以上の様な構成を有する本例の場合には、モーメント荷重等に基づき、前記ハブ1及び前記内輪4が前記外輪5対し傾斜等した場合にも、前記芯金15bと前記スリンガ13bとの金属接触を生じにくくできるだけでなく、ゴム磁石製の前記エンコーダ14b及び弾性材製の前記シール材16bに、シール性能を著しく低下させる様な損傷を発生しにくくできる。
【0043】
即ち、本例の場合には、前記芯金15bを構成する固定円筒部17bの内周面に、直径方向外方に凹んだ前記逃げ凹溝35を全周に亙り形成しており、この逃げ凹溝35と前記回転円輪部24bの外周縁部29aとを径方向に関して重畳させている。この為、前記逃げ凹溝35を形成しないと仮定した場合に比べて(前述の図6に示したエンコーダ付組み合わせシールリング11aの場合に比べて)、前記固定円筒部17bの内周面から前記外周縁部29aまでの径方向距離を、前記逃げ凹溝35の径方向深さ(凹入量)分だけ大きくできる。従って、前記芯金15bと前記スリンガ13bとの金属接触を生じにくくできる。
【0044】
更に、本例の場合には、前記逃げ凹溝35の内周面のうち、前記中立状態で前記外周縁部29bと径方向に重畳する部分を、前記部分球状凹面37としており、且つ、前記折れ曲がり部28aの外周面形状を、前記部分球状凸面38としている。この為、前記モーメント荷重に基づき、前記ハブ1及び前記内輪4が前記外輪5に対し傾斜した場合にも、前記固定円筒部17bの内周面(部分球状凹面37)と前記回転円輪部24bの外周面(外周縁部29aを含む)との距離の変化を抑えられる(距離が大きい状態を保てる)。従って、前記芯金15bと前記スリンガ13bとの金属接触を、より一層生じにくくできる。
【0045】
しかも、本例の場合には、前記逃げ凹溝35を形成した部分で、前記固定円筒部17b内周面と前記エンコーダ14bの外周面との径方向距離も大きくできる。この為、金属製の前記芯金15b(固定円筒部17b)とゴム磁石製の前記エンコーダ14bとを摺接しにくくできる。従って、このエンコーダ14bに、例えば前記係止部30aが脱落する等の、シール性能を著しく低下させる様な損傷を発生しにくくできる。
【0046】
又、前記環状覆い部22bの径方向に関する厚さ寸法を、前記逃げ凹溝35を形成した部分で、この逃げ凹溝35の径方向深さ分だけ大きくできる。この為、前記環状覆い部22bが早期に摩耗したり、軸方向に分断される事を有効に防止できる。従って、前記シール材16bに、例えば前記固定円筒部17bの軸方向内端部を覆った部分が脱落する等の、シール性能を著しく低下させる様な損傷を発生しにくくできる。
【0047】
この結果、本例の構造によれば、前記環状覆い部22bの内径寸法をより小さくしたり、前記エンコーダ14bの外径寸法をより大きくする事で、前記モーメント荷重等が加わった場合に、ゴム磁石製の前記エンコーダ14bの外周面と弾性材製の前記環状覆い部22bの内周面とが摺接する程度にまで、前記ラビリンスシール26aの径方向隙間を小さくする事ができて、シール性能の更なる向上を図れる。
その他の構成及び作用・効果に就いては、前述した従来構造の場合と同様である。
【0048】
[実施の形態の第2例]
図2は、やはり総ての請求項に対応する、本発明の実施の形態の第2例を示している。本例の場合には、エンコーダ付シールリング11cを構成するシールリング12cの芯金15cの形状を、前述した実施の形態の第1例の場合とは異ならせている。即ち、本例の場合には、前記芯金15cを構成する固定円筒部17cの軸方向内半部に設けた薄肉部32aに、軸方向内方に向かう程直径寸法が小さくなる方向に傾斜した傾斜筒部33aのみを形成している{前記第1例の構造の場合の様な円筒部34(図1参照)は省略している}。この為、本例の場合には、前記傾斜筒部33aの軸方向寸法を大きく(傾斜角度を小さく)している。又、この傾斜筒部33aの軸方向内端部内周縁の内径寸法d33a を、前記固定円筒部17cの軸方向外半部(薄肉部32aから軸方向外方に外れた部分)の内径寸法d17c と同じか、これよりも僅かに小さくしている(d33a ≦d17c )。
【0049】
これにより、前記固定円筒部17bの軸方向中間部内周面に全周に亙り形成される、前記傾斜筒部33aの内周面により構成される逃げ凹溝35aの軸方向寸法Laを、前記第1例の構造の場合に比べて大きくしている。又、本例の場合にも、前記逃げ凹溝35aの内周面形状のうち、軸方向外側部分を曲面部36とし、軸方向内側部分を部分球状凹面37a(又はこの部分球状凹面37aの一部に接する部分円すい状凹面)としている。又、この様な構成を有する本例の芯金15cを得る為の加工方法に就いても、基本的には前記第1例の場合と同様であるが、絞り加工に関しては、断面L字形で全体を円環状とされた素材の内側から抑え型を引き抜いた状態で行う。
【0050】
以上の様な構成を有する本例の場合には、前記逃げ凹溝35aの軸方向寸法Laを大きく確保できる分、スリンガ13b及びエンコーダ14bが大きく傾斜した場合にも、前記芯金15c(固定円筒部17c)と前記スリンガ13bとの金属接触をより有効に防止できる。又、前記芯金15cと前記エンコーダ14bとが摺接する事もより有効に防止できる。
その他の部分の構成及び作用・効果に就いては、前記第1例の場合と同様である。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明を実施する場合に、ラビリンスシールの径方向隙間の大きさは、車両の性能等に応じて、旋回時にエンコーダの外周面と環状覆い部の内周面とが摺接する可能性のある旋回加速度(閾値)を決め、外輪に対するハブ及び内輪の傾斜角度を実測するか若しくは計算により求めた上で、製造上不可避な公差や誤差を加味して決定する事ができる。又、閾値とする前記旋回加速度は、通常の運転では発生し得ないレベル(例えば1G)よりは小さくし、稀に発生する程度のレベル(例えば普通乗用車では0.8G、商用車では0.6G)以上とする。又、通常の運転では発生し得ないレベル以下では、芯金とスリンガとが金属接触しない事は勿論、この芯金とエンコーダ並びにこのスリンガとシール材(環状覆い部)とが摺接しない様な寸法関係に規制する。
【0052】
更に、本発明を実施する場合に、シール材に設けるシールリップの数は1本(好ましくは締め代の変化を生じ易いサイドリップのみ)でも良いし、2本或いは前記各例の場合の様に3本、又はそれ以上でも良い。又、前述した実施の形態の各例では、内輪回転型のエンコーダ付転がり軸受ユニットに就いて示したが、外輪回転型のエンコーダ付転がり軸受ユニットにも、本発明を適用できる。
【符号の説明】
【0053】
1 ハブ
2 取付フランジ
3a、3b 内輪軌道
4 内輪
5 外輪
6 取付部
7a、7b 外輪軌道
8 転動体
9 内部空間
10 シールリング
11、11a〜11c エンコーダ付組み合わせシールリング
12、12a〜12c シールリング
13、13a、13b スリンガ
14、14a、14b エンコーダ
15、15a〜15c 芯金
16、16a、16b シール材
17、17a〜17c 固定円筒部
18 固定円輪部
19 外側シールリップ
20、20a 中間シールリップ
21 内側シールリップ
22、22a、22b 環状覆い部
23 回転円筒部
24、24a、24b 回転円輪部
25 センサ
26、26a、26b ラビリンスシール
27、27a 厚肉部
28、28a 折れ曲がり部
29、29a 外周縁部
30、30a 係止部
31 外周端面
32、32a 薄肉部
33、33a 傾斜筒部
34 円筒部
35、35a 逃げ凹溝
36 曲面部
37、37a 部分球状凹面
38 部分球状凸面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに対向する回転軌道輪に形成された回転側周面と静止軌道輪に形成された静止側周面との間部分に存在する空間の端部開口を塞ぐと共に、前記回転軌道輪の回転速度を検出する為に使用するものであり、
前記静止側周面に固定されるシールリングと、前記回転側周面に固定されるスリンガと、このスリンガに支持固定されるエンコーダとを備え、
前記シールリングは、芯金と、シール材とから成り、このうちの芯金は、金属板を曲げ形成する事により断面略L字形で全体を円環状に構成し、前記静止側周面に嵌合固定される固定円筒部と、この固定円筒部の軸方向端縁から前記回転側周面に向けて折れ曲がった固定円輪部とを備え、前記シール材は、弾性材製で、基端部を前記芯金に全周に亙って添着支持されたシールリップと、前記固定円筒部のうちの前記回転側周面に対向する周面を覆った環状覆い部とを備えたものであり、
前記スリンガは、金属板を曲げ形成する事により断面略L字形で全体を円環状に構成し、前記回転側周面に嵌合固定される回転円筒部と、この回転円筒部の軸方向端縁から前記静止側周面に向けて折れ曲がった回転円輪部とを備え、このうちの回転円輪部の前記静止側周面寄りの端部には、この静止側周面に近づく程前記固定円輪部に近づく方向に傾斜した折れ曲がり部が形成されており、
前記エンコーダは、円周方向に亙ってS極とN極とを交互に配置したゴム磁石製で、前記回転円輪部の前記静止軌道輪側の周縁を全周に亙り覆った状態で、この回転円輪部の軸方向側面のうちで前記固定円輪部に対向する側面と反対側の側面に支持固定されており、前記静止軌道輪側の周面とこれに対向する前記環状覆い部の周面とを全周に亙り近接対向させて、当該部分にラビリンスシールを形成している、
エンコーダ付組み合わせシールリングに於いて、
前記固定円筒部のうちで前記固定円輪部とは反対側の端部に形成された前記回転軌道輪側の部分が全周に亙り除肉された薄肉部をこの回転軌道輪側に向けて曲げ形成する事で、前記固定円筒部のうちの前記回転軌道輪側の周面に全周に亙り逃げ凹溝が形成されており、この逃げ凹溝と前記回転円輪部の前記静止軌道輪側の周縁とが径方向に関して重畳している事を特徴とするエンコーダ付組み合わせシールリング。
【請求項2】
回転側周面に回転側軌道を有する回転軌道輪と、静止側周面に静止側軌道を有する静止軌道輪と、これら回転側軌道と静止側軌道との間に転動自在に設けられた複数個の転動体と、前記回転側周面と前記静止側周面との間部分に存在する空間の端部開口を塞ぐ組み合わせシールリングとを備え、この組み合わせシールリングが、請求項1に記載したエンコーダ付組み合わせシールリングである事を特徴とするエンコーダ付転がり軸受ユニット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−44419(P2013−44419A)
【公開日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−184332(P2011−184332)
【出願日】平成23年8月26日(2011.8.26)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】