エンジンのカム軸のスラスト規制部構造
【課題】軸受キャップ部材に形成された軸受面部とスラスト規制用溝部との両方へ十分に油を供給できるようにする。
【解決手段】カム軸2の一端側にある軸受キャップ部材20が、軸受機能とスラスト規制機能とを有する。軸部20の内面に形成されたスラスト規制用溝部22内に、カム軸2に形成された鍔部2bが嵌合されて、スラスト規制が行われる。軸受キャップ部材20の内面に形成された半円弧状の上側軸受面部21には、周方向に延びる環状の環状給油溝25が形成される。この環状給油溝25とスラスト規制用溝部22とが、軸受キャップ部材20に形成されたカム軸方向に伸びるスラスト給油溝27によって連通される。環状給油溝25に供給される油が、スラスト給油溝27を介してスラスト規制用溝部22(鍔部2b)に供給される。
【解決手段】カム軸2の一端側にある軸受キャップ部材20が、軸受機能とスラスト規制機能とを有する。軸部20の内面に形成されたスラスト規制用溝部22内に、カム軸2に形成された鍔部2bが嵌合されて、スラスト規制が行われる。軸受キャップ部材20の内面に形成された半円弧状の上側軸受面部21には、周方向に延びる環状の環状給油溝25が形成される。この環状給油溝25とスラスト規制用溝部22とが、軸受キャップ部材20に形成されたカム軸方向に伸びるスラスト給油溝27によって連通される。環状給油溝25に供給される油が、スラスト給油溝27を介してスラスト規制用溝部22(鍔部2b)に供給される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンのカム軸のスラスト規制部構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
往復動型エンジンにおいては、動弁機構の一部を構成するカム軸が、シリンダヘッドとシリンダヘッドに固定される軸受キャップ部材とによって上下方向から挟持された状態で回転自在に保持される。特許文献1には、カム軸のスラスト方向(カム軸方向)への変位を規制するために、カム軸に鍔部を形成する一方、軸受キャップ部材の内周面に該鍔部が嵌合される溝部を形成したものがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000−073708号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、エンジンの小型化のために、エンジンの全長つまりカム軸の長さを極力短くする傾向にある。このため、カム軸の一端側にある軸受部とシリンダヘッドをシリンダブロックに固定するための締結部とが、カム軸方向に相当に近い位置になることがある。そして、カム軸の一端側にある一端側軸受キャップ部材が、カム軸を回転自在に保持する軸受部材としての機能と、カム軸のスラスト変位を規制する機能とを兼用することが要求されることがある。この一方、カム軸の長さを短くするという要請から、カム軸のスラスト規制は、特許文献1に記載のように、カム軸に形成された鍔部と、軸受キャップ部材に形成されて鍔部が嵌合されるスラスト規制用溝部とで構成することが考えられる。しかしながら、同一の軸受キャップ部材に軸受面部とスラスト規制用溝部とを形成した場合は、その間隔が長くなってしまい、軸受面部に供給される油を十分にスラスト規制用溝部側に供給することが難しくなる。
【0005】
スラスト規制用溝部への油の供給のために、シリンダヘッド内の給油路から直接的にスラスト規制用溝部へ油を供給することも考えられる。しかしながら、この場合は、スラスト規制用溝部側へ多量の油が流れてしまうおそれがあり(シリンダヘッド内の給油路の圧力低下)、軸受面部等他の部分へ十分に油を供給する上で問題となり、採用しがたいものとなる。
【0006】
本発明は以上のような事情を勘案してなされたもので、その目的は、同一の軸受キャップ部材に軸受面部とスラスト規制用溝部とを形成した場合に、軸受面部とスラスト規制用溝部との両方へ十分に油を供給できるようにしたエンジンのカム軸のスラスト規制部構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成するため、本発明にあっては次のような第1の解決手法を採択してある。すなわち、特許請求の範囲における請求項1に記載のように、
シリンダヘッドの上面に半円弧状の下側軸受面部が気筒配列方向に間隔をあけて複数形成され、
前記各下側軸受面部に対応した位置において半円弧状の上側軸受面部を有する軸受キャップ部材がシリンダヘッドに固定されて、該下側軸受面部と該上側軸受面部とでカム軸を回転自在に保持する軸受部位が構成され、
カム軸の一端側にある一端側軸受部位の近傍に、カム軸のスラスト変位を規制するスラスト規制機構を備えたエンジンのカム軸のスラスト規制部構造であって、
前記一端側軸受部材の近傍でかつカム軸の他端側において、シリンダヘッドをシリンダブロックに固定するための締結部が配置され、
前記スラスト規制機構が、前記一端側軸受部位を構成する一端側軸受キャップ部材の内周面に形成された半円弧状のスラスト規制用溝部と、カム軸に形成されて該スラスト規制用溝部に嵌合される鍔部とによって構成され、
前記スラスト規制用溝部および前記鍔部が、それぞれ前記締結部の上方に位置するように設定され、
前記下側軸受面部または前記上側軸受面部の少なくとも一方の内周面に、シリンダヘッド内のオイル供給路に連なる半円弧状の環状給油溝と、該環状給油溝からカム軸方向に伸びるように分岐されて前記鍔部の側面に臨むスラスト給油溝と、が形成されている、
ようにしてある。
【0008】
上記解決手法によれば、スラスト規制機構をシリンダヘッドをシリンダブロックに固定するための締結部の上方に配置することにより、また同一の軸受キャップ部材に軸受面部とスラスト規制用溝部とを形成することにより、エンジンの全長を短くすることができる。そして、シリンダヘッド内の給油路からの油は、まず環状給油溝に供給されるので軸受面部に十分な油を供給することができる。また、環状給油溝からスラスト給油溝を経てスラスト規制用溝部にも油が十分に供給されるので、スラスト規制機構部分へも十分に油を供給することができる。
【0009】
上記解決手法を前提とした好ましい態様は、特許請求の範囲における請求項2以下に記載のとおりである。すなわち、
前記一端側軸受部よりもカム軸の一端側において、電動式の位相可変機構が設けられている、ようにしてある(請求項2対応)。この場合、油を消費しない電動式の位相可変機構とすることにより、油圧式位相可変機構とする場合に比して、環状給油溝およびスラスト給油溝からより十分に油を供給することができる。
【0010】
前記環状給油溝およびスラスト給油溝がそれぞれ、前記一端側軸受キャップ部材の内周面に形成されている、ようにしてある(請求項3対応)。この場合、小物部品である軸受キャップ部材に環状給油溝およびスラスト給油溝を形成することが容易である。また、カム軸の上方側に位置する軸受キャップ部材から油を供給するので、油を軸受面部およびスラスト規制用溝部へ十分に供給する上でも好ましいものとなる。
【0011】
前記スラスト給油溝が、前記上側軸受面部におけるカム軸の回転方向遅れ側に形成されている、ようにしてある(請求項4対応)。この場合、スラスト給油溝へ油を十分に供給するようにする上で好ましいものとなる。
【0012】
前記一端側軸受キャップ部材のうちシリンダヘッドとの合わせ面に、シリンダヘッド内の前記給油路に連なると共に、前記環状給油溝の一端に連なる上流側給油溝が形成されている、ようにしてある(請求項5対応)。この場合、上流側給油路の形成を容易にしつつ、上流側給油路の通路抵抗を適度なものに設定して、環状給油溝およびスラスト給油溝への油供給を過不足なく行う上で好ましいものとなる。
【0013】
シリンダヘッドの上面に、前記締結部に対してエンジンの幅方向にずれた位置において、前記鍔部の一部が嵌合されてカム軸のスラスト動を規制するための位置決め用溝部が形成されている、ようにしてある(請求項6対応)。この場合、シリンダヘッドの限られたスペースを有効に利用して、カム軸をシリンダヘッドに仮組みしたときのカム軸のスラスト変位を規制することができる。
【0014】
前記スラスト規制用溝部の一側面に、前記スラスト給油溝からカム軸の径方向外方側に伸びて該スラスト規制用溝部の底部まで伸びる第1誘導給油溝が形成され、
前記スラスト規制用溝部の他側面に、該スラスト規制用溝部の底部からカム軸の径方向内方側に向けて伸びる第2誘導給油溝が形成されている、
ようにしてある(請求項7対応)。この場合、カム軸の径方向に伸びる第1第2の各誘導給油溝からの油供給によって、鍔部の両側面全体に渡って潤滑を行なう上で好ましいものとなる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、エンジンの短縮化を図りつつ、軸受面部とスラスト規制機構との潤滑を十分に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】カム軸が組み込まれた状態のシリンダヘッドを上方から見た平面図。
【図2】カム軸を除去した状態での図1の要部拡大平面図。
【図3】図1を左方から見た要部側面図。
【図4】カム軸と一端側軸受部材とを示す一部断面側面図。
【図5】一端側軸受部材を示す正面図。
【図6】一端側軸受部材を示す上面図。
【図7】一端側軸受部材を示す底面図。
【図8】図6のX8−X8線相当断面図。
【図9】図7のX9−X9線相当断面図。
【図10】図7のX10−X10線相当断面図。
【図11】一端側軸受部材とカム軸との関係を示すもので、図8に相当する部分の要部拡大断面図。
【図12】図7の要部拡大図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
図1において、1はエンジンのシリンダヘッドで、シリンダヘッド2の上面には、吸気弁用カム軸2と排気弁用カム軸3とが互いに平行に配置されている。実施形態では、エンジンは往復動型の直列4気筒ガソリンエンジン(火花点火式エンジン)とされている。
【0018】
図4には、吸気弁用カム軸2の一端側端部(クランク軸と機械的に連結される側の端部で、エンジン前端部となる)が示される。この図4において、吸気弁用カム軸2は、その一端側から他端側に順次、ジャーナル部2a、鍔部2b、吸気弁開閉用カム部2c、ジャーナル部2d、吸気弁開閉用カム部2eを有する。なお、エンジンは1つの気筒に対して吸気2弁、排気4弁とされていて、図示を略すが、1つの気筒用となる一対の吸気弁用カム部2c、2dは合計で4対有することになる。同様に、カム軸2は、ジャーナル部2a、2d、以外にも別のジャーナル部を有する。
【0019】
図2に示すように、吸気弁用カム軸2のうちもっとも一端側に位置されるジャーナル部2aは、シリンダヘッド1とシリンダヘッド1に固定された軸受キャップ部材20とによって構成される軸受部10によって、回転自在に保持されている。すなわち、シリンダヘッド1の上面には下方に向けて凹となった半円弧状の下側軸受面部4(図2参照)が形成される一方、軸受キャップ部材20の内面に形成された上方に向けて凹となった半円弧状の上側軸受面部21(図5,図8、図11参照)が形成されて、この上下の軸受面部4と21との間にジャーナル部2aが回転自在に保持されている。なお、吸気弁用カム軸2は、軸受キャップ部材20を含めて、気筒配列方向(図1左右方向)に間隔をあけて複数カ所でもって、上述のような下側軸受面部と上側軸受面部(を有する軸受キャップ部材)とを利用して回転自在に保持されており、軸受キャップ部材20以外の軸受キャップ部材が符合30で示される。なお、各軸受キャップ部材20,30をシリンダヘッド1に固定するためのボルトが図1中符合32で示される。
【0020】
排気弁用カム軸3も、吸気弁用カム軸2と同様にして、シリンダヘッド1と軸受キャップ部材40とを利用して、回転自在に保持され、軸受キャップ部材40固定用のボルトが符合42で示される。なお、図1では、排気弁用リターンスプリング(コイルスプリング)が符合31で示されるが、吸気弁用のリターンスプリングは図示を略してある。
【0021】
吸気弁用カム軸2のもっとも一端側に位置されるジャーナル部2aを回転自在に保持する軸受キャップ部材20は、軸受機能の他に、スラスト規制機能を有するように設定されている。すなわち、軸受キャップ部材20の内面には、上側軸受面部21よりも他端側(図1,図4右方向)において、スラスト規制用溝部22が形成されている。このスラスト規制用溝部22には、吸気弁用カム軸2に形成された前述した鍔部20bが回転自在に嵌合されて、嵌合状態では、吸気弁用カム軸2がシリンダヘッド1に対して軸方向に相対変位するのが規制される(スラスト規制)。
【0022】
上側軸受面部21とスラスト規制用溝部22に対して、シリンダヘッド1内に形成された給油路7(図2,図10参照)から潤滑等のための油が供給されるようになっており、以下この点について、図4以下を参照しつつ説明する。まず、上記給油路7は、吸気弁用カム軸2のジャーナル部2a近傍において、上面に開口するように形成されている。そして、給油路7の上面開口部位の周辺は、若干大きな面積を有する供給凹部7aとされている。
【0023】
軸受キャップ部材20は、シリンダヘッド1への取付状態では、上記給油路7を塞ぐように位置される。そして、軸受キャップ部材20の内面(底面)には、給油路7(供給凹部7a)に臨む導入凹部23(図7、図10参照)が形成されている。この導入凹部23とシリンダヘッド1側の前記供給凹部7aとによって、比較的大きな容積とされた油貯溜部24が構成される。
【0024】
一方、軸受キャップ部材20の内面には、上側軸受面部21の位置において、半円弧状の環状給油溝25が形成されている。環状給油溝25は、上側軸受面部21の周方向全長に渡って延びて、その各端は軸受キャップ部材20の底面(シリンダヘッド1への当接面)にまで伸びている。そして、この環状給油溝25が、軸受キャップ部材20の底面に形成された上流側給油溝26を介して、前記油貯溜部24(導入凹部23)に連通されている。
【0025】
軸受キャップ部材20の内面には、さらに、環状給油溝25と前記スラスト規制用溝部22(内)とを連通するスラスト給油溝27が形成されている。このスラスト給油溝27は、吸気弁用カム軸2の軸方向に伸びてて、スラスト規制用溝部22に臨んでいる(スラスト規制用溝部22に開口されている)。そして、スラスト給油溝27の周方向位置は、吸気弁用カム軸2の回転方向遅れ側となるように設定されている。より具体的には、吸気弁用カム軸2の回転方向が図11中反時計方向(矢印αで示される回転方向)とされているとき、スラスト給油溝27の位置は、環状給油溝25の周方向のうち、回転方向遅れ側となるように位置設定されている。
【0026】
軸受キャップ部材20には、さらに、第1誘導給油溝28と、第2誘導給油溝29とが形成されている。第1誘導給油溝28は、スラスト規制用溝部22のうちスラスト給油溝27が開口された側の側面となる他端側側面27aに形成されている。この第1誘導給油溝28は、その一端がスラスト給油溝22に連通されると共に、その他端がスラスト規制用溝部22の底面(もっとも奥深い面)にまで伸びている。一方、第2誘導給油溝29は、スラスト規制用溝部22の一端側側面27bに形成されて、第1誘導給油溝29と対称位置となるように(対向するように)位置設定されている。この第2誘導給油溝29の一端は軸受キャップ部材20の底面に開口され、その他端はスラスト規制用溝部22の底面にまで伸びている。
【0027】
軸受キャップ部材20のうちスラスト規制用溝部22(つまり鍔部2b)の下方には、図2に示すように、シリンダヘッド1を図示を略すシリンダブロックに固定するためのボルト孔5(締結部)が位置される。つまり、軸受キャップ部材20をシリンダヘッド1に取付けた状態では、締結孔5が軸受キャップ部材20によって覆われるようになっている。換言すれば、軸受キャップ部材20と締結孔5とがカム軸方向に重なるように位置設定することによって、エンジンの全長(図1左右方向長さ)が短くされている。
【0028】
図1において、50は吸気弁用カム軸2用のシャワーパイプである。このシャワーパイプ51は、吸気弁用カム軸22の上方に位置されると共に、吸気弁用カム軸22の軸方向に伸びている。そして、シャワーパイプ50の一端は、シリンダヘッド1内の給油路7(が連なる油貯溜部24)に接続されている。これにより、給油路7からの油が、シャワーパイプ50から、吸気弁用カム軸2の軸方向に広く分散して供給される。同様な機能を有する排気弁用カム軸3用のシャワーパイプが符合51で示される(排気弁用シャワーパイプ51への給油路は、給油路7とは別にシリンダヘッド1に形成してある)。
【0029】
吸気弁用カム軸22の一端部には、吸気弁のクランク軸に対する位相を変更するための位相可変機構55が連結されている。この位相可変機構55は、電気式とされている。すなわち、位相可変機構55は、クランク軸と吸気弁用カム軸22との間に介在されたカム機構部55aと、図示を略すエンジンのフロントカバーに固定されてカム機構部55aの駆動制御(位相変更のための制御)を行うモータ55bとを有する。なお、排気弁用カム軸3の一端部にも、位相可変機構56が設けられているが、この位相可変機構56は油圧式とされている。
【0030】
ここで、軸受キャップ部材20は、例えば鋳造により形成されて、導入凹部23や各給油溝25〜29は、この鋳造時に合わせて形成される。なお、各誘導給油溝28,29は、軸受キャップ部材20の鋳造後に、例えばドリル加工することにより形成することができる。特に、スラスト規制用溝部22の幅よりも大径のドリルを用いて加工することにより、各誘導給油溝28,29を容易に形成できる。ドリル加工する際、スラスト給油溝27を横断するように加工されるが、実施形態では図11中矢印Aで示すような方向から行われている。例えば矢印Bで示す方向から加工する等により、加工方向の選定することにより、各誘導給油溝28,29の伸び方向を容易に所望方向とすることができる。なお、図12には、ドリル加工する際のドリル外形形状を一点鎖線で示してある。
【0031】
シリンダヘッド1の上面には、吸気弁用カム軸22の鍔部2aの一部(例えば周方向において10度〜20度の角度に相当する分)を受け入れる位置決め用溝部6が形成されている(図2参照)。この位置決め用溝部6は、前記締結孔5よりも吸気弁用カム軸22の径方向に離れる方向(排気弁用カム軸3に近づく方向)に形成されている。すなわち、シリンダヘッド1の上面にも、軸受キャップ部材20に形成されたスラスト規制用溝部22に相当する溝(半円弧状の溝)を形成することができればスラスト規制をより十分に行う上で好ましいが、エンジン全中を短くするために締結孔5と干渉する位置となるため、鍔部2bの一部のみが嵌合されるものとしてある。この位置決め溝部6を形成しておくことにより、軸受キャップ部材20,30を取付ける前に吸気弁用カム軸22をシリンダヘッド1に仮組した状態でもって、吸気弁用カム軸22のシリンダヘッド1に対するスラスト変位が規制されることになり、その後の各種部品の組付作業性を向上させる上で好ましいものとなる。
【0032】
なお、排気弁用カム軸3についても、もっとも一端側にある軸受キャップ部材40は、吸気弁用カム軸2用の軸受キャップ部材20の場合と同様に、軸受機能とスラスト規制機能とを有して、その潤滑態様は軸受キャップ部材20の場合と同様に設定されている。
【0033】
以上のような構成において、吸気弁用カム軸22の軸受部10部分(軸受キャップ部材20部分)への油の供給に着目して説明する。まず、シリンダヘッド1内の給油路7から油貯溜部24に供給された油は、上流側給油溝26を経て、環状給油溝25に供給される。これにより、軸受部10(吸気弁用カム軸22のジャーナル部2a)への油供給が十分に行われて、この部分の潤滑が十分におこなわれる。
【0034】
環状給油溝25からスラスト給油溝27を経て、スラスト規制用溝部22(鍔部2b)へも油が十分に供給されて、この部分の潤滑が良好に行われる。とりわけ、第1と第2の各誘導給油溝28,29を形成しておくことにより、スラスト規制用となる吸気弁用カム軸2形成された鍔部2bの一端側および他端側の両面について十分に油が供給されることになる。各誘導給油溝28,29は、吸気弁用カム軸22の径方向に伸びていることから、鍔部2bの一端側および他端側の各側面について油が径方向および周方向に広く分散して供給されることとなって、潤滑の上で極めて好ましいものとなる。
【0035】
吸気弁用カム軸2用の位相可変機構55が電気式とされているため、給油路7から供給される油の消費量が抑制されて、ジャーナル部2a、鍔部2b、シャワーパイプ50への各部分へ十分に油を供給する上で好ましい態様となっている。なお、上流側給油溝26は、実質的に軸受キャップ部材20をシリンダヘッド1に取付けた状態で油通路として構成されることになるが、この上流側給油溝26の通路抵抗を適度なものとなるように容易に設定することができて、シャワーパイプ50側への油供給量と、環状給油溝25側への油供給量とが好ましい割合となるように容易に設定することができる。
【0036】
以上実施形態について説明したが、本発明は、実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲の記載された範囲において適宜の変更が可能であり、例えば次のような場合をも含むものである。位相可変機構55を、油圧式としてもよく、また位相可変機構55を有しないものであってもよい。各誘導給油溝28,29を有しないものであってもよい。各誘導給油溝28、29を、スラスト規制用溝部22の底面を超えてさらに深く形成することにより、スラスト規制用溝部22の底部でもって、各誘導給油溝28と29とを十分大きい断面積でもって連通させて、第2誘導給油溝29側(鍔部2bのうち環状給油溝25とは反対側の側面)への油供給をより十分に行うことができる。エンジンの他端側(図1右端側)の軸受キャップ部材についても、一端側の軸受キャップ部材20の場合と同様に本発明を適用し得る。上側軸受面部(軸受キャップ部材20)と下側軸受面部(シリンダヘッド1)とのいずれか一方あるいは両方に、環状給油溝25,スラスト給油溝27を形成するようにしてもよい(下側軸受面部4に各給油溝25,27を形成する場合は、下側軸受面部4に隣接してシリンダヘッド1に周方向に長く伸びるスラスト規制用溝部を形成しておく)。勿論、本発明の目的は、明記されたものに限らず、実質的に好ましいあるいは利点として表現されたものを提供することをも暗黙的に含むものである。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明は、例えば自動車用エンジンに適用することができる。
【符号の説明】
【0038】
1:シリンダヘッド
2:吸気弁用カム軸2
2a:ジャーナル部
2b:鍔部
4:下側軸受面部
5:ボルト孔(締結部)
6:位置決め用溝部
7:給油路(シリンダヘッド内)
10:軸受部
20:軸受キャップ部材
21:上側軸受面部
22:スラスト規制用溝部
25:環状給油溝
26:上流側給油溝
27:スラスト給油溝
28:第1誘導給油溝
29:第2誘導給油溝
55:位相可変機構(電気式)
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンのカム軸のスラスト規制部構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
往復動型エンジンにおいては、動弁機構の一部を構成するカム軸が、シリンダヘッドとシリンダヘッドに固定される軸受キャップ部材とによって上下方向から挟持された状態で回転自在に保持される。特許文献1には、カム軸のスラスト方向(カム軸方向)への変位を規制するために、カム軸に鍔部を形成する一方、軸受キャップ部材の内周面に該鍔部が嵌合される溝部を形成したものがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000−073708号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、エンジンの小型化のために、エンジンの全長つまりカム軸の長さを極力短くする傾向にある。このため、カム軸の一端側にある軸受部とシリンダヘッドをシリンダブロックに固定するための締結部とが、カム軸方向に相当に近い位置になることがある。そして、カム軸の一端側にある一端側軸受キャップ部材が、カム軸を回転自在に保持する軸受部材としての機能と、カム軸のスラスト変位を規制する機能とを兼用することが要求されることがある。この一方、カム軸の長さを短くするという要請から、カム軸のスラスト規制は、特許文献1に記載のように、カム軸に形成された鍔部と、軸受キャップ部材に形成されて鍔部が嵌合されるスラスト規制用溝部とで構成することが考えられる。しかしながら、同一の軸受キャップ部材に軸受面部とスラスト規制用溝部とを形成した場合は、その間隔が長くなってしまい、軸受面部に供給される油を十分にスラスト規制用溝部側に供給することが難しくなる。
【0005】
スラスト規制用溝部への油の供給のために、シリンダヘッド内の給油路から直接的にスラスト規制用溝部へ油を供給することも考えられる。しかしながら、この場合は、スラスト規制用溝部側へ多量の油が流れてしまうおそれがあり(シリンダヘッド内の給油路の圧力低下)、軸受面部等他の部分へ十分に油を供給する上で問題となり、採用しがたいものとなる。
【0006】
本発明は以上のような事情を勘案してなされたもので、その目的は、同一の軸受キャップ部材に軸受面部とスラスト規制用溝部とを形成した場合に、軸受面部とスラスト規制用溝部との両方へ十分に油を供給できるようにしたエンジンのカム軸のスラスト規制部構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成するため、本発明にあっては次のような第1の解決手法を採択してある。すなわち、特許請求の範囲における請求項1に記載のように、
シリンダヘッドの上面に半円弧状の下側軸受面部が気筒配列方向に間隔をあけて複数形成され、
前記各下側軸受面部に対応した位置において半円弧状の上側軸受面部を有する軸受キャップ部材がシリンダヘッドに固定されて、該下側軸受面部と該上側軸受面部とでカム軸を回転自在に保持する軸受部位が構成され、
カム軸の一端側にある一端側軸受部位の近傍に、カム軸のスラスト変位を規制するスラスト規制機構を備えたエンジンのカム軸のスラスト規制部構造であって、
前記一端側軸受部材の近傍でかつカム軸の他端側において、シリンダヘッドをシリンダブロックに固定するための締結部が配置され、
前記スラスト規制機構が、前記一端側軸受部位を構成する一端側軸受キャップ部材の内周面に形成された半円弧状のスラスト規制用溝部と、カム軸に形成されて該スラスト規制用溝部に嵌合される鍔部とによって構成され、
前記スラスト規制用溝部および前記鍔部が、それぞれ前記締結部の上方に位置するように設定され、
前記下側軸受面部または前記上側軸受面部の少なくとも一方の内周面に、シリンダヘッド内のオイル供給路に連なる半円弧状の環状給油溝と、該環状給油溝からカム軸方向に伸びるように分岐されて前記鍔部の側面に臨むスラスト給油溝と、が形成されている、
ようにしてある。
【0008】
上記解決手法によれば、スラスト規制機構をシリンダヘッドをシリンダブロックに固定するための締結部の上方に配置することにより、また同一の軸受キャップ部材に軸受面部とスラスト規制用溝部とを形成することにより、エンジンの全長を短くすることができる。そして、シリンダヘッド内の給油路からの油は、まず環状給油溝に供給されるので軸受面部に十分な油を供給することができる。また、環状給油溝からスラスト給油溝を経てスラスト規制用溝部にも油が十分に供給されるので、スラスト規制機構部分へも十分に油を供給することができる。
【0009】
上記解決手法を前提とした好ましい態様は、特許請求の範囲における請求項2以下に記載のとおりである。すなわち、
前記一端側軸受部よりもカム軸の一端側において、電動式の位相可変機構が設けられている、ようにしてある(請求項2対応)。この場合、油を消費しない電動式の位相可変機構とすることにより、油圧式位相可変機構とする場合に比して、環状給油溝およびスラスト給油溝からより十分に油を供給することができる。
【0010】
前記環状給油溝およびスラスト給油溝がそれぞれ、前記一端側軸受キャップ部材の内周面に形成されている、ようにしてある(請求項3対応)。この場合、小物部品である軸受キャップ部材に環状給油溝およびスラスト給油溝を形成することが容易である。また、カム軸の上方側に位置する軸受キャップ部材から油を供給するので、油を軸受面部およびスラスト規制用溝部へ十分に供給する上でも好ましいものとなる。
【0011】
前記スラスト給油溝が、前記上側軸受面部におけるカム軸の回転方向遅れ側に形成されている、ようにしてある(請求項4対応)。この場合、スラスト給油溝へ油を十分に供給するようにする上で好ましいものとなる。
【0012】
前記一端側軸受キャップ部材のうちシリンダヘッドとの合わせ面に、シリンダヘッド内の前記給油路に連なると共に、前記環状給油溝の一端に連なる上流側給油溝が形成されている、ようにしてある(請求項5対応)。この場合、上流側給油路の形成を容易にしつつ、上流側給油路の通路抵抗を適度なものに設定して、環状給油溝およびスラスト給油溝への油供給を過不足なく行う上で好ましいものとなる。
【0013】
シリンダヘッドの上面に、前記締結部に対してエンジンの幅方向にずれた位置において、前記鍔部の一部が嵌合されてカム軸のスラスト動を規制するための位置決め用溝部が形成されている、ようにしてある(請求項6対応)。この場合、シリンダヘッドの限られたスペースを有効に利用して、カム軸をシリンダヘッドに仮組みしたときのカム軸のスラスト変位を規制することができる。
【0014】
前記スラスト規制用溝部の一側面に、前記スラスト給油溝からカム軸の径方向外方側に伸びて該スラスト規制用溝部の底部まで伸びる第1誘導給油溝が形成され、
前記スラスト規制用溝部の他側面に、該スラスト規制用溝部の底部からカム軸の径方向内方側に向けて伸びる第2誘導給油溝が形成されている、
ようにしてある(請求項7対応)。この場合、カム軸の径方向に伸びる第1第2の各誘導給油溝からの油供給によって、鍔部の両側面全体に渡って潤滑を行なう上で好ましいものとなる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、エンジンの短縮化を図りつつ、軸受面部とスラスト規制機構との潤滑を十分に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】カム軸が組み込まれた状態のシリンダヘッドを上方から見た平面図。
【図2】カム軸を除去した状態での図1の要部拡大平面図。
【図3】図1を左方から見た要部側面図。
【図4】カム軸と一端側軸受部材とを示す一部断面側面図。
【図5】一端側軸受部材を示す正面図。
【図6】一端側軸受部材を示す上面図。
【図7】一端側軸受部材を示す底面図。
【図8】図6のX8−X8線相当断面図。
【図9】図7のX9−X9線相当断面図。
【図10】図7のX10−X10線相当断面図。
【図11】一端側軸受部材とカム軸との関係を示すもので、図8に相当する部分の要部拡大断面図。
【図12】図7の要部拡大図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
図1において、1はエンジンのシリンダヘッドで、シリンダヘッド2の上面には、吸気弁用カム軸2と排気弁用カム軸3とが互いに平行に配置されている。実施形態では、エンジンは往復動型の直列4気筒ガソリンエンジン(火花点火式エンジン)とされている。
【0018】
図4には、吸気弁用カム軸2の一端側端部(クランク軸と機械的に連結される側の端部で、エンジン前端部となる)が示される。この図4において、吸気弁用カム軸2は、その一端側から他端側に順次、ジャーナル部2a、鍔部2b、吸気弁開閉用カム部2c、ジャーナル部2d、吸気弁開閉用カム部2eを有する。なお、エンジンは1つの気筒に対して吸気2弁、排気4弁とされていて、図示を略すが、1つの気筒用となる一対の吸気弁用カム部2c、2dは合計で4対有することになる。同様に、カム軸2は、ジャーナル部2a、2d、以外にも別のジャーナル部を有する。
【0019】
図2に示すように、吸気弁用カム軸2のうちもっとも一端側に位置されるジャーナル部2aは、シリンダヘッド1とシリンダヘッド1に固定された軸受キャップ部材20とによって構成される軸受部10によって、回転自在に保持されている。すなわち、シリンダヘッド1の上面には下方に向けて凹となった半円弧状の下側軸受面部4(図2参照)が形成される一方、軸受キャップ部材20の内面に形成された上方に向けて凹となった半円弧状の上側軸受面部21(図5,図8、図11参照)が形成されて、この上下の軸受面部4と21との間にジャーナル部2aが回転自在に保持されている。なお、吸気弁用カム軸2は、軸受キャップ部材20を含めて、気筒配列方向(図1左右方向)に間隔をあけて複数カ所でもって、上述のような下側軸受面部と上側軸受面部(を有する軸受キャップ部材)とを利用して回転自在に保持されており、軸受キャップ部材20以外の軸受キャップ部材が符合30で示される。なお、各軸受キャップ部材20,30をシリンダヘッド1に固定するためのボルトが図1中符合32で示される。
【0020】
排気弁用カム軸3も、吸気弁用カム軸2と同様にして、シリンダヘッド1と軸受キャップ部材40とを利用して、回転自在に保持され、軸受キャップ部材40固定用のボルトが符合42で示される。なお、図1では、排気弁用リターンスプリング(コイルスプリング)が符合31で示されるが、吸気弁用のリターンスプリングは図示を略してある。
【0021】
吸気弁用カム軸2のもっとも一端側に位置されるジャーナル部2aを回転自在に保持する軸受キャップ部材20は、軸受機能の他に、スラスト規制機能を有するように設定されている。すなわち、軸受キャップ部材20の内面には、上側軸受面部21よりも他端側(図1,図4右方向)において、スラスト規制用溝部22が形成されている。このスラスト規制用溝部22には、吸気弁用カム軸2に形成された前述した鍔部20bが回転自在に嵌合されて、嵌合状態では、吸気弁用カム軸2がシリンダヘッド1に対して軸方向に相対変位するのが規制される(スラスト規制)。
【0022】
上側軸受面部21とスラスト規制用溝部22に対して、シリンダヘッド1内に形成された給油路7(図2,図10参照)から潤滑等のための油が供給されるようになっており、以下この点について、図4以下を参照しつつ説明する。まず、上記給油路7は、吸気弁用カム軸2のジャーナル部2a近傍において、上面に開口するように形成されている。そして、給油路7の上面開口部位の周辺は、若干大きな面積を有する供給凹部7aとされている。
【0023】
軸受キャップ部材20は、シリンダヘッド1への取付状態では、上記給油路7を塞ぐように位置される。そして、軸受キャップ部材20の内面(底面)には、給油路7(供給凹部7a)に臨む導入凹部23(図7、図10参照)が形成されている。この導入凹部23とシリンダヘッド1側の前記供給凹部7aとによって、比較的大きな容積とされた油貯溜部24が構成される。
【0024】
一方、軸受キャップ部材20の内面には、上側軸受面部21の位置において、半円弧状の環状給油溝25が形成されている。環状給油溝25は、上側軸受面部21の周方向全長に渡って延びて、その各端は軸受キャップ部材20の底面(シリンダヘッド1への当接面)にまで伸びている。そして、この環状給油溝25が、軸受キャップ部材20の底面に形成された上流側給油溝26を介して、前記油貯溜部24(導入凹部23)に連通されている。
【0025】
軸受キャップ部材20の内面には、さらに、環状給油溝25と前記スラスト規制用溝部22(内)とを連通するスラスト給油溝27が形成されている。このスラスト給油溝27は、吸気弁用カム軸2の軸方向に伸びてて、スラスト規制用溝部22に臨んでいる(スラスト規制用溝部22に開口されている)。そして、スラスト給油溝27の周方向位置は、吸気弁用カム軸2の回転方向遅れ側となるように設定されている。より具体的には、吸気弁用カム軸2の回転方向が図11中反時計方向(矢印αで示される回転方向)とされているとき、スラスト給油溝27の位置は、環状給油溝25の周方向のうち、回転方向遅れ側となるように位置設定されている。
【0026】
軸受キャップ部材20には、さらに、第1誘導給油溝28と、第2誘導給油溝29とが形成されている。第1誘導給油溝28は、スラスト規制用溝部22のうちスラスト給油溝27が開口された側の側面となる他端側側面27aに形成されている。この第1誘導給油溝28は、その一端がスラスト給油溝22に連通されると共に、その他端がスラスト規制用溝部22の底面(もっとも奥深い面)にまで伸びている。一方、第2誘導給油溝29は、スラスト規制用溝部22の一端側側面27bに形成されて、第1誘導給油溝29と対称位置となるように(対向するように)位置設定されている。この第2誘導給油溝29の一端は軸受キャップ部材20の底面に開口され、その他端はスラスト規制用溝部22の底面にまで伸びている。
【0027】
軸受キャップ部材20のうちスラスト規制用溝部22(つまり鍔部2b)の下方には、図2に示すように、シリンダヘッド1を図示を略すシリンダブロックに固定するためのボルト孔5(締結部)が位置される。つまり、軸受キャップ部材20をシリンダヘッド1に取付けた状態では、締結孔5が軸受キャップ部材20によって覆われるようになっている。換言すれば、軸受キャップ部材20と締結孔5とがカム軸方向に重なるように位置設定することによって、エンジンの全長(図1左右方向長さ)が短くされている。
【0028】
図1において、50は吸気弁用カム軸2用のシャワーパイプである。このシャワーパイプ51は、吸気弁用カム軸22の上方に位置されると共に、吸気弁用カム軸22の軸方向に伸びている。そして、シャワーパイプ50の一端は、シリンダヘッド1内の給油路7(が連なる油貯溜部24)に接続されている。これにより、給油路7からの油が、シャワーパイプ50から、吸気弁用カム軸2の軸方向に広く分散して供給される。同様な機能を有する排気弁用カム軸3用のシャワーパイプが符合51で示される(排気弁用シャワーパイプ51への給油路は、給油路7とは別にシリンダヘッド1に形成してある)。
【0029】
吸気弁用カム軸22の一端部には、吸気弁のクランク軸に対する位相を変更するための位相可変機構55が連結されている。この位相可変機構55は、電気式とされている。すなわち、位相可変機構55は、クランク軸と吸気弁用カム軸22との間に介在されたカム機構部55aと、図示を略すエンジンのフロントカバーに固定されてカム機構部55aの駆動制御(位相変更のための制御)を行うモータ55bとを有する。なお、排気弁用カム軸3の一端部にも、位相可変機構56が設けられているが、この位相可変機構56は油圧式とされている。
【0030】
ここで、軸受キャップ部材20は、例えば鋳造により形成されて、導入凹部23や各給油溝25〜29は、この鋳造時に合わせて形成される。なお、各誘導給油溝28,29は、軸受キャップ部材20の鋳造後に、例えばドリル加工することにより形成することができる。特に、スラスト規制用溝部22の幅よりも大径のドリルを用いて加工することにより、各誘導給油溝28,29を容易に形成できる。ドリル加工する際、スラスト給油溝27を横断するように加工されるが、実施形態では図11中矢印Aで示すような方向から行われている。例えば矢印Bで示す方向から加工する等により、加工方向の選定することにより、各誘導給油溝28,29の伸び方向を容易に所望方向とすることができる。なお、図12には、ドリル加工する際のドリル外形形状を一点鎖線で示してある。
【0031】
シリンダヘッド1の上面には、吸気弁用カム軸22の鍔部2aの一部(例えば周方向において10度〜20度の角度に相当する分)を受け入れる位置決め用溝部6が形成されている(図2参照)。この位置決め用溝部6は、前記締結孔5よりも吸気弁用カム軸22の径方向に離れる方向(排気弁用カム軸3に近づく方向)に形成されている。すなわち、シリンダヘッド1の上面にも、軸受キャップ部材20に形成されたスラスト規制用溝部22に相当する溝(半円弧状の溝)を形成することができればスラスト規制をより十分に行う上で好ましいが、エンジン全中を短くするために締結孔5と干渉する位置となるため、鍔部2bの一部のみが嵌合されるものとしてある。この位置決め溝部6を形成しておくことにより、軸受キャップ部材20,30を取付ける前に吸気弁用カム軸22をシリンダヘッド1に仮組した状態でもって、吸気弁用カム軸22のシリンダヘッド1に対するスラスト変位が規制されることになり、その後の各種部品の組付作業性を向上させる上で好ましいものとなる。
【0032】
なお、排気弁用カム軸3についても、もっとも一端側にある軸受キャップ部材40は、吸気弁用カム軸2用の軸受キャップ部材20の場合と同様に、軸受機能とスラスト規制機能とを有して、その潤滑態様は軸受キャップ部材20の場合と同様に設定されている。
【0033】
以上のような構成において、吸気弁用カム軸22の軸受部10部分(軸受キャップ部材20部分)への油の供給に着目して説明する。まず、シリンダヘッド1内の給油路7から油貯溜部24に供給された油は、上流側給油溝26を経て、環状給油溝25に供給される。これにより、軸受部10(吸気弁用カム軸22のジャーナル部2a)への油供給が十分に行われて、この部分の潤滑が十分におこなわれる。
【0034】
環状給油溝25からスラスト給油溝27を経て、スラスト規制用溝部22(鍔部2b)へも油が十分に供給されて、この部分の潤滑が良好に行われる。とりわけ、第1と第2の各誘導給油溝28,29を形成しておくことにより、スラスト規制用となる吸気弁用カム軸2形成された鍔部2bの一端側および他端側の両面について十分に油が供給されることになる。各誘導給油溝28,29は、吸気弁用カム軸22の径方向に伸びていることから、鍔部2bの一端側および他端側の各側面について油が径方向および周方向に広く分散して供給されることとなって、潤滑の上で極めて好ましいものとなる。
【0035】
吸気弁用カム軸2用の位相可変機構55が電気式とされているため、給油路7から供給される油の消費量が抑制されて、ジャーナル部2a、鍔部2b、シャワーパイプ50への各部分へ十分に油を供給する上で好ましい態様となっている。なお、上流側給油溝26は、実質的に軸受キャップ部材20をシリンダヘッド1に取付けた状態で油通路として構成されることになるが、この上流側給油溝26の通路抵抗を適度なものとなるように容易に設定することができて、シャワーパイプ50側への油供給量と、環状給油溝25側への油供給量とが好ましい割合となるように容易に設定することができる。
【0036】
以上実施形態について説明したが、本発明は、実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲の記載された範囲において適宜の変更が可能であり、例えば次のような場合をも含むものである。位相可変機構55を、油圧式としてもよく、また位相可変機構55を有しないものであってもよい。各誘導給油溝28,29を有しないものであってもよい。各誘導給油溝28、29を、スラスト規制用溝部22の底面を超えてさらに深く形成することにより、スラスト規制用溝部22の底部でもって、各誘導給油溝28と29とを十分大きい断面積でもって連通させて、第2誘導給油溝29側(鍔部2bのうち環状給油溝25とは反対側の側面)への油供給をより十分に行うことができる。エンジンの他端側(図1右端側)の軸受キャップ部材についても、一端側の軸受キャップ部材20の場合と同様に本発明を適用し得る。上側軸受面部(軸受キャップ部材20)と下側軸受面部(シリンダヘッド1)とのいずれか一方あるいは両方に、環状給油溝25,スラスト給油溝27を形成するようにしてもよい(下側軸受面部4に各給油溝25,27を形成する場合は、下側軸受面部4に隣接してシリンダヘッド1に周方向に長く伸びるスラスト規制用溝部を形成しておく)。勿論、本発明の目的は、明記されたものに限らず、実質的に好ましいあるいは利点として表現されたものを提供することをも暗黙的に含むものである。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明は、例えば自動車用エンジンに適用することができる。
【符号の説明】
【0038】
1:シリンダヘッド
2:吸気弁用カム軸2
2a:ジャーナル部
2b:鍔部
4:下側軸受面部
5:ボルト孔(締結部)
6:位置決め用溝部
7:給油路(シリンダヘッド内)
10:軸受部
20:軸受キャップ部材
21:上側軸受面部
22:スラスト規制用溝部
25:環状給油溝
26:上流側給油溝
27:スラスト給油溝
28:第1誘導給油溝
29:第2誘導給油溝
55:位相可変機構(電気式)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリンダヘッドの上面に半円弧状の下側軸受面部が気筒配列方向に間隔をあけて複数形成され、
前記各下側軸受面部に対応した位置において半円弧状の上側軸受面部を有する軸受キャップ部材がシリンダヘッドに固定されて、該下側軸受面部と該上側軸受面部とでカム軸を回転自在に保持する軸受部位が構成され、
カム軸の一端側にある一端側軸受部位の近傍に、カム軸のスラスト変位を規制するスラスト規制機構を備えたエンジンのカム軸のスラスト規制部構造であって、
前記一端側軸受部材の近傍でかつカム軸の他端側において、シリンダヘッドをシリンダブロックに固定するための締結部が配置され、
前記スラスト規制機構が、前記一端側軸受部位を構成する一端側軸受キャップ部材の内周面に形成された半円弧状のスラスト規制用溝部と、カム軸に形成されて該スラスト規制用溝部に嵌合される鍔部とによって構成され、
前記スラスト規制用溝部および前記鍔部が、それぞれ前記締結部の上方に位置するように設定され、
前記下側軸受面部または前記上側軸受面部の少なくとも一方の内周面に、シリンダヘッド内のオイル供給路に連なる半円弧状の環状給油溝と、該環状給油溝からカム軸方向に伸びるように分岐されて前記鍔部の側面に臨むスラスト給油溝と、が形成されている、
ことを特徴とするエンジンのカム軸のスラスト規制部構造。
【請求項2】
請求項1において、
前記一端側軸受部よりもカム軸の一端側において、電動式の位相可変機構が設けられている、ことを特徴とするエンジンのカム軸のスラスト規制部構造。
【請求項3】
請求項1または請求項2において、
前記環状給油溝およびスラスト給油溝がそれぞれ、前記一端側軸受キャップ部材の内周面に形成されている、ことを特徴とするエンジンのカム軸のスラスト規制部構造。
【請求項4】
請求項3において、
前記スラスト給油溝が、前記上側軸受面部におけるカム軸の回転方向遅れ側に形成されている、ことを特徴とするエンジンのカム軸のスラスト規制部構造。
【請求項5】
請求項3または請求項4において、
前記一端側軸受キャップ部材のうちシリンダヘッドとの合わせ面に、シリンダヘッド内の前記給油路に連なると共に、前記環状給油溝の一端に連なる上流側給油溝が形成されている、ことを特徴とするエンジンのカム軸のスラスト規制部構造。
【請求項6】
請求項1ないし請求項5のいずれか1項において、
シリンダヘッドの上面に、前記締結部に対してエンジンの幅方向にずれた位置において、前記鍔部の一部が嵌合されてカム軸のスラスト動を規制するための位置決め用溝部が形成されている、ことを特徴とするエンジンのカム軸のスラスト
【請求項7】
請求項3ないし請求項5のいずれか1項において、
前記スラスト規制用溝部の一側面に、前記スラスト給油溝からカム軸の径方向外方側に伸びて該スラスト規制用溝部の底部まで伸びる第1誘導給油溝が形成され、
前記スラスト規制用溝部の他側面に、該スラスト規制用溝部の底部からカム軸の径方向内方側に向けて伸びる第2誘導給油溝が形成されている、
ことを特徴とするエンジンのカム軸のスラスト規制部構造。
【請求項1】
シリンダヘッドの上面に半円弧状の下側軸受面部が気筒配列方向に間隔をあけて複数形成され、
前記各下側軸受面部に対応した位置において半円弧状の上側軸受面部を有する軸受キャップ部材がシリンダヘッドに固定されて、該下側軸受面部と該上側軸受面部とでカム軸を回転自在に保持する軸受部位が構成され、
カム軸の一端側にある一端側軸受部位の近傍に、カム軸のスラスト変位を規制するスラスト規制機構を備えたエンジンのカム軸のスラスト規制部構造であって、
前記一端側軸受部材の近傍でかつカム軸の他端側において、シリンダヘッドをシリンダブロックに固定するための締結部が配置され、
前記スラスト規制機構が、前記一端側軸受部位を構成する一端側軸受キャップ部材の内周面に形成された半円弧状のスラスト規制用溝部と、カム軸に形成されて該スラスト規制用溝部に嵌合される鍔部とによって構成され、
前記スラスト規制用溝部および前記鍔部が、それぞれ前記締結部の上方に位置するように設定され、
前記下側軸受面部または前記上側軸受面部の少なくとも一方の内周面に、シリンダヘッド内のオイル供給路に連なる半円弧状の環状給油溝と、該環状給油溝からカム軸方向に伸びるように分岐されて前記鍔部の側面に臨むスラスト給油溝と、が形成されている、
ことを特徴とするエンジンのカム軸のスラスト規制部構造。
【請求項2】
請求項1において、
前記一端側軸受部よりもカム軸の一端側において、電動式の位相可変機構が設けられている、ことを特徴とするエンジンのカム軸のスラスト規制部構造。
【請求項3】
請求項1または請求項2において、
前記環状給油溝およびスラスト給油溝がそれぞれ、前記一端側軸受キャップ部材の内周面に形成されている、ことを特徴とするエンジンのカム軸のスラスト規制部構造。
【請求項4】
請求項3において、
前記スラスト給油溝が、前記上側軸受面部におけるカム軸の回転方向遅れ側に形成されている、ことを特徴とするエンジンのカム軸のスラスト規制部構造。
【請求項5】
請求項3または請求項4において、
前記一端側軸受キャップ部材のうちシリンダヘッドとの合わせ面に、シリンダヘッド内の前記給油路に連なると共に、前記環状給油溝の一端に連なる上流側給油溝が形成されている、ことを特徴とするエンジンのカム軸のスラスト規制部構造。
【請求項6】
請求項1ないし請求項5のいずれか1項において、
シリンダヘッドの上面に、前記締結部に対してエンジンの幅方向にずれた位置において、前記鍔部の一部が嵌合されてカム軸のスラスト動を規制するための位置決め用溝部が形成されている、ことを特徴とするエンジンのカム軸のスラスト
【請求項7】
請求項3ないし請求項5のいずれか1項において、
前記スラスト規制用溝部の一側面に、前記スラスト給油溝からカム軸の径方向外方側に伸びて該スラスト規制用溝部の底部まで伸びる第1誘導給油溝が形成され、
前記スラスト規制用溝部の他側面に、該スラスト規制用溝部の底部からカム軸の径方向内方側に向けて伸びる第2誘導給油溝が形成されている、
ことを特徴とするエンジンのカム軸のスラスト規制部構造。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2011−38432(P2011−38432A)
【公開日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−184743(P2009−184743)
【出願日】平成21年8月7日(2009.8.7)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年8月7日(2009.8.7)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】
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