説明

エンジン制御装置

【課題】大気圧センサや吸気圧センサ等の圧力センサを用いることなく、燃料噴射量の高地補正に必要なデータ容量を削減しながら、良好な始動性を実現すると共に、不要な燃料量での燃料噴射を抑制する。
【解決手段】初期噴射量算出部108aが、高地補正された空気密度補正係数MASを考慮して、エンジン1の始動時燃料噴射量の初期値TISIをエンジン温度TWに応じた基本燃料噴射量よりも少ない燃料噴射量として算出し、燃料増加制御部108bが、かかる空気密度補正係数MASを順次増加することにより、エンジン1の始動時燃料噴射量TISを順次増加させ、完爆後噴射量算出部108cが、エンジン1の完爆後において、燃料増加制御部108bで順次増加された空気密度補正係数MASを考慮して、エンジン1の完爆後の燃料噴射量TIを算出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジン制御装置に関し、特に車両等の移動体のエンジンの燃料噴射量を制御するエンジン制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、車両等の移動体においては、機械的構成が複雑化されることを避けながら、アクセル操作部材の操作に応じた自由度の高い態様でエンジンへの燃料供給量を制御するために、エンジンへの燃料供給量を電子制御しながらインジェクタから燃料を噴射する燃料噴射制御機構を備えたエンジン制御装置が採用されてきている。
【0003】
また、かかるエンジンでは、車両等の移動体が高地に位置した場合に、大気圧が低下して吸入空気量が減少することに応じて混合気中の燃料量が相対的に過剰となり、混合気が不要にリッチ状態に変化する。このように混合気が不要にリッチ状態になると、かかる車両等のドライバビリティに変化が出るだけでなく、不要な燃料を消費すると共に排気ガスの化学物質の成分比にも不要な変化が出る可能性がある。
【0004】
そこで、車両等の移動体の高度に応じて大気圧が低下して吸入空気量が減少した場合であっても、かかる車両等が低地に位置する場合と同様の空燃比を簡便な構成で実現することを企図して、大気圧を検出する圧力センサを不要に増設せずに既存の圧力センサを利用して、実際の高度や大気圧を求めながらそれに応じた燃料噴射量を与えることを企図したエンジン制御装置の構成が提案されてきている。
【0005】
かかる状況下で、特許文献1は、電子制御燃料噴射装置に関し、エンジン回転数検出センサ、スロットルセンサ及びエンジンの吸入空気量を検出する質量空気量センサを備え、前回のエンジンパラメータと現在のエンジンパラメータとを比較することにより、大気圧センサを用いずに高度を検出する構成を開示する。
【0006】
また、特許文献2は、エンジンの燃料制御装置に関し、エンジンのインテークマニホールド圧力を絶対値で検出する圧力センサを備え、かかる圧力センサの検出圧力をエンジン回転前の大気圧として利用する構成を開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第02936749公報
【特許文献2】特公平07−037773号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、本発明者の検討によれば、特許文献1の開示する構成によれば、エンジンの吸入空気量を検出する質量空気量センサ自体は設ける必要があるために構成が煩雑であり、更に、エンジンパラメータを比較するために種々のマップデータを用意しておく必要があり、制御装置全体として用意すべきデータ量が非常に増加して構成が煩雑化し、低コスト化を実現することが困難になる傾向が強い。
【0009】
また、特許文献2の開示する構成によれば、エンジンのインテークマニホールド圧力を絶対値で検出する圧力センサ自体は設ける必要があるために、構成が煩雑であって低コスト化を実現することが困難になる傾向が強い。
【0010】
つまり、各種の圧力センサを用いることなく、燃料噴射量の高地補正に必要なデータ容量を削減しながら、良好な始動性を実現できると共に、不要な燃料量での燃料噴射を抑制可能なエンジン制御装置の提供が期待されている現状にある。
【0011】
本発明は、以上の検討を経てなされたもので、大気圧センサや吸気圧センサ等の圧力センサを用いることなく、燃料噴射量の高地補正に必要なデータ容量を削減しながら、良好な始動性を実現できると共に、不要な燃料量での燃料噴射を抑制可能なエンジン制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
以上の目的を達成するべく、本発明は、高地補正された所定の第1の空気密度補正係数を考慮して、エンジンの始動時の初期燃料噴射量を、前記エンジンの温度に応じた基本燃料噴射量よりも少ない初期燃料噴射量として算出する初期噴射量算出部と、前記第1の空気密度補正係数を順次増加することにより、前記初期燃料噴射量を順次増加させる燃料増加制御部と、前記エンジンの始動後に前記エンジンの回転数が完爆基準値以上となったことに対応する前記エンジンの完爆後において、前記燃料増加制御部で順次増加された空気密度補正係数を考慮して、前記エンジンの完爆後の燃料噴射量を算出する完爆後噴射量算出部と、を備えることを第1の局面とするエンジン制御装置である。
【0013】
また、本発明は、かかる第1の局面に加えて、前記エンジンの完爆後において、前記燃料増加制御部で順次増加された空気密度補正係数を考慮して、第2の空気密度補正係数を算出する空気密度補正係数算出部を更に備え、前記完爆後噴射量算出部は、前記第2の空気密度補正係数を考慮して、前記エンジンの完爆後の燃料噴射量を算出することを第2の局面とする。
【0014】
また、本発明は、かかる第2の局面に加えて、前記空気密度補正係数算出部は、前記エンジンの排気系に装着された酸素センサが活性化し、かつ前記酸素センサからの出力値に応じた酸素センサフィードバック補正係数が収束するまでは、前記燃料増加制御部で順次増加された空気密度補正係数を、前記第2の空気密度補正係数に設定することを第3の局面とする。
【0015】
また、本発明は、かかる第3の局面に加えて、前記空気密度補正係数算出部は、前記酸素センサが活性化して前記酸素センサフィードバック補正係数が収束した後に、前記酸素センサフィードバック補正係数の偏差が所定値以上になった場合には、更に前記酸素センサフィードバック補正係数を考慮して前記第2の空気密度補正係数を算出することを第4の局面とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明の第1の局面にかかるエンジン制御装置によれば、高地補正された所定の第1の空気密度補正係数を考慮して、エンジンの始動時の初期燃料噴射量を、エンジンの温度に応じた基本燃料噴射量よりも少ない初期燃料噴射量として算出する初期噴射量算出部と、第1の空気密度補正係数を順次増加することにより、初期燃料噴射量を順次増加させる燃料増加制御部と、エンジンの始動後にエンジンの回転数が完爆基準値以上となったことに対応するエンジンの完爆後において、燃料増加制御部で順次増加された空気密度補正係数を考慮して、エンジンの完爆後の燃料噴射量を算出する完爆後噴射量算出部と、を備えることにより、大気圧センサや吸気圧センサ等の圧力センサを用いることなく、燃料噴射量の高地補正に必要なデータ容量を削減しながら、良好な始動性を実現できると共に、不要な燃料量での燃料噴射を抑制することができる。
【0017】
また、本発明の第2の局面にかかるエンジン制御装置によれば、エンジンの完爆後において、燃料増加制御部で順次増加された空気密度補正係数を考慮して、第2の空気密度補正係数を算出する空気密度補正係数算出部を更に備え、完爆後噴射量算出部が、第2の空気密度補正係数を考慮して、エンジンの完爆後の燃料噴射量を算出することにより、良好な始動性を実現できると共に、より確実にエンジンの完爆後の不要な燃料量での燃料噴射を抑制することができる。
【0018】
また、本発明の第3の局面にかかるエンジン制御装置によれば、空気密度補正係数算出部が、エンジンの排気系に装着された酸素センサが活性化し、かつ酸素センサからの出力値に応じた酸素センサフィードバック補正係数が収束するまでは、燃料増加制御部で順次増加された空気密度補正係数を、第2の空気密度補正係数に設定することにより、良好な始動性を実現できると共に、酸素センサの動作状態に応じてエンジンの完爆後の不要な燃料量での燃料噴射を抑制することができる。
【0019】
また、本発明の第4の局面にかかるエンジン制御装置によれば、空気密度補正係数算出部が、酸素センサが活性化して酸素センサフィードバック補正係数が収束した後に、酸素センサフィードバック補正係数の偏差が所定値以上になった場合には、更に酸素センサフィードバック補正係数を考慮して第2の空気密度補正係数を算出することにより、良好な始動性を実現できると共に、酸素センサの動作状態に応じてより確実にエンジンの完爆後の不要な燃料量での燃料噴射を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】図1は、本発明の実施形態におけるエンジン制御装置及びそれが適用されるエンジンの構成を示す模式図である。
【図2】図2は、本実施形態におけるエンジン制御装置の制御処理を示すフローチャートである。具体的には、図2(a)は、かかるエンジン制御処理の全体の流れを示すフローチャートであり、図2(b)は、図2(a)に示すエンジン制御処理における始動時燃料噴射量算出処理の流れを示すフローチャートである。
【図3】図3は、図2(a)に示すエンジン制御処理における完爆後空気密度補正係数算出処理の流れを示すフローチャートである。
【図4】図4は、本実施形態におけるエンジン制御処理の具体例を説明するためのタイミングチャートであり、図4(a)は、空気密度補正係数MAS、MA及び酸素センサフィードバック補正係数MG、MGRのタイミングチャートを示し、図4(b)は、エンジン回転数NE及び燃料噴射量TIS、TIのタイミングチャートを示す。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を適宜参照して、本発明の実施形態におけるエンジン制御装置につき、詳細に説明する。
【0022】
〔エンジンの構成〕
まず、図1を参照して、本発明の実施形態におけるエンジン制御装置が適用されるエンジンの構成について、詳細に説明する。
【0023】
図1は、本実施形態におけるエンジン制御装置及びそれが適用されるエンジンの構成を示す模式図である。
【0024】
図1に示すように、エンジン1は、図示を省略する車両等の移動体に搭載されたガソリンエンジン等の内燃機関であり、典型的には複数の気筒を有するシリンダブロック2を備える。なお、説明の便宜上、図中では、1気筒のみを示している。
【0025】
シリンダブロック2の側壁内には、エンジン1を冷却するための冷却水が流通して図示を省略する冷却水通路が形成されている。かかる冷却水通路には、水温センサ3が設けられている。水温センサ3は、冷却水通路を流通する冷却水の温度、つまりエンジン1の温度を検出し、その検出値を電圧信号としてエンジン制御装置100に出力する。なお、エンジン1が空冷式である場合には、水温センサ3の代わりにエンジン1の温度を検出する適宜の温度センサが設けられ得る。
【0026】
シリンダブロック2の内部には、ピストン4が配置されている。ピストン4は、コンロッド5を介してクランク6に接続されている。かかるクランク6の近傍には、クランク角センサ7が設けられている。クランク角センサ7は、クランク6の回転角度を検出し、その検出値を電圧信号としてエンジン制御装置100に出力する。
【0027】
シリンダブロック2の上部には、シリンダヘッド8が装着されている。ピストン4とシリンダヘッド8との間の空間は燃焼室9を画成している。
【0028】
シリンダヘッド8には、燃焼室9内の混合気に点火する点火プラグ10が設けられている。かかる点火プラグ10の点火動作は、エンジン制御装置100が図示を省略する点火コイルへの通電を制御することによって制御される。
【0029】
また、シリンダヘッド8には、燃焼室9と連通する吸気通路11が装着されている。燃焼室9と吸気通路11との接続部には吸気バルブ12が設けられている。吸気通路11には、その内部に燃料を噴射するインジェクタ13が設けられている。また、吸気通路11には、インジェクタ13の上流側にスロットルバルブ14が設けられている。スロットルバルブ14の近傍には、スロットル開度センサ15が設けられている。スロットル開度センサ15は、スロットルバルブ14の開度を検出し、その検出値を電圧信号としてエンジン制御装置100に出力する。なお、インジェクタ13は、燃焼室9内に燃料を直接噴射するようにシリンダヘッド8に設けられていてもよい。
【0030】
また、シリンダヘッド8には、燃焼室9と連通する排気通路16が装着されている。燃焼室9と排気通路16との接続部には排気バルブ17が設けられている。排気通路16には、エンジン1の排気ガスを浄化するための触媒コンバーター18が設けられている。排気通路16における触媒コンバーター18の上流には、酸素センサ19が設けられている。酸素センサ19は、エンジン1の排気ガス中の酸素濃度を検出し、その検出値を電圧信号としてエンジン制御装置100に出力する。
【0031】
〔エンジン制御装置の構成〕
次に、更に図1を参照して、本発明の実施形態におけるエンジン制御装置の構成について、詳細に説明する。
【0032】
図1に示すように、エンジン制御装置100は、典型的にはマイクロコンピュータを備えて演算処理を行う電子制御装置(ECU:Electric Control Unit)として構成され、車両等の移動体に搭載されて図示を省略するバッテリーから電力を供給されて動作する。かかるエンジン制御装置100は、クランク角信号検出部101、スロットル弁開度検出部102、酸素センサ出力検出部103、エンジン温度検出部104、メモリ105、エンジン回転数算出部106、空気密度補正係数算出部107、燃料噴射量制御部108及び点火時期制御部109を備える。なお、このようなクランク角信号検出部101、スロットル弁開度検出部102、酸素センサ出力検出部103、エンジン温度検出部104、エンジン回転数算出部106、空気密度補正係数算出部107、燃料噴射量制御部108及び点火時期制御部109は、演算処理の機能ブロックとして各々示されている。また、空気密度補正係数算出部107は、燃料噴射量制御部108の内部
の機能ブロックとして設けられていてもよい。
【0033】
具体的には、クランク角信号検出部101は、クランク角センサ7から出力された電圧信号を読み込んで、その電圧信号からクランク6の回転角度を検出し、その検出値をエンジン回転数算出部106に出力する。スロットル弁開度検出部102は、スロットル開度センサ15から出力された電圧信号に基づいてスロットルバルブ14の開度を検出し、その検出値を燃料噴射量制御部108に出力する。
【0034】
酸素センサ出力検出部103は、酸素センサ19から出力された電圧信号を読み込んで、その電圧信号から酸素センサ出力電圧VGを検出すると共に、その酸素センサ出力電圧VGに各々基づいて、酸素センサ19の活性化判断、酸素センサフィードバック補正係数MGの算出、酸素センサフィードバック補正係数MGの収束判断及び酸素センサフィードバック補正係数MGの偏差判断を各々実行し、それらの算出値及び判断結果を空気密度補正係数算出部107に出力する。なお、酸素センサ出力検出部103には、酸素センサ19から出力された電圧信号を読み込んで酸素センサ出力電圧VGを検出する機能のみをもたせてもよく、かかる場合には、別途、酸素センサ19の活性化判断、酸素センサフィードバック補正係数MGの算出、酸素センサフィードバック補正係数MGの収束判断及び酸素センサフィードバック補正係数MGの偏差判断を各々実行し、それらの算出値及び判断結果を空気密度補正係数算出部107に出力する算出判断機能ブロックを設ければよい。
【0035】
エンジン温度検出部104は、水温センサ3から出力された電圧信号を読み込んで、その電圧信号からエンジン1の温度を検出し、その検出値を燃料噴射量制御部108に出力する。
【0036】
メモリ105は、ROM(Read Only Memory)105a、RAM(Random Access Memory)105b、EEPROM(Electronically Erasable and Programmable Read Only Memory)105c等の各種メモリを備える。ROM105aは、エンジン1を制御するための各種制御プログラムや、エンジン1を制御するための制御データ等の各種データを記憶する。各種制御データとしては、例えば、エンジン回転数とスロットル開度とに対応させた基本燃料噴射量のマップデータ、エンジン温度に対応させた基本燃料噴射量のマップデータ、エンジン1の完爆状態を判断するための基準回転数の値(完爆基準値)及び高地補正された空気密度補正係数MAS(第1の空気密度補正補正係数)の値等が挙げられる。また、RAM105bやEEPROM105cに記憶される各種データとしては、エンジン制御装置100が算出した各種算出値のデータやエンジン制御装置100が設定した各種フラグの値等が挙げられる。なお、かかるメモリ105は、エンジン制御装置100の外部に別途設けられていてもよい。
【0037】
エンジン回転数算出部106は、クランク角信号検出部101から出力されたクランク6の回転角度の検出値に基づいてエンジン1の回転数を算出し、その算出値を燃料噴射量制御部108及び点火時期制御部109に各々出力する。
【0038】
空気密度補正係数算出部107は、酸素センサ出力検出部103からの算出値及び判断結果といった各種の出力値とメモリ105内に記憶されている各種データとを利用して、主としてエンジン1の完爆後の空気密度補正係数である完爆後空気密度補正係数MA(第2の空気密度補正係数)を算出し、その算出値を燃料噴射量制御部108及び点火時期制御部109に各々出力する。
【0039】
燃料噴射量制御部108は、初期噴射量算出部108a、燃料増加制御部108b及び完爆後噴射量算出部108cをその演算処理の機能ブロックとして備え、エンジン1が始
動されて完爆状態に至りその完爆状態が維持されていく過程を通じてインジェクタ13の燃料噴射量を制御する。なお、初期噴射量算出部108a及び燃料増加制御部108bは、エンジン1が始動されて完爆に至る過程で、燃料噴射量制御部108がインジェクタ13から始動時燃料噴射量の初期値TISIや始動時燃料噴射量TISでもって燃料を噴出させる際に機能し、完爆後噴射量算出部108cは、エンジン1の完爆後に、燃料噴射量制御部108がインジェクタ13からエンジン完爆後の燃料噴射量TIでもって燃料を噴出させる際に機能する。
【0040】
点火時期制御部109は、図示を省略する点火コイルへの通電状態を制御することによって、点火プラグ10の点火動作を制御する。
【0041】
〔エンジン制御処理〕
さて、以上のような構成を有するエンジン制御装置100は、以下に示すエンジン制御処理を実行することによって、大気圧センサや吸気圧センサ等の圧力センサを用いることなく、燃料噴射量の高地補正に必要なデータ容量を削減しながら、良好な始動性を実現すると共に、不要な燃料量での燃料噴射を抑制する。以下、図2及び図3に示すフローチャートを参照して、かかるエンジン制御処理を実行する際のエンジン制御装置100の動作について、詳細に説明する。
【0042】
図2(a)は、本実施形態におけるエンジン制御処理の全体の流れを示すフローチャートである。
【0043】
図2(a)に示すエンジン制御処理は、車両等の移動体のイグニッションスイッチがオフ状態からオン状態に切り換えられたタイミングで開始となり、エンジン制御処理は、ステップS1の処理に進む。なお、かかるエンジン制御処理は、エンジン1の1回転毎に繰り返し開始されて実行される。また、かかるエンジン制御処理は、メモリ105のROM105a内に記憶されている制御プログラムをエンジン制御装置100が読み出して実行することにより実現される。
【0044】
ステップS1の処理では、エンジン回転数算出部106が、クランク角センサ7からの電圧信号が入力されるクランク角信号検出部101から出力されたクランク6の回転角度を示す検出値に基づいてエンジン1の回転数NEを算出し、その算出したエンジン回転数NEを示す電気信号を燃料噴射量制御部108及び点火時期制御部109にそれぞれ出力する。これにより、ステップS1の処理は完了し、エンジン制御処理は、ステップS2の処理に進む。
【0045】
ステップS2の処理では、スロットル弁開度検出部102が、スロットル開度センサ15から出力された電圧信号に基づいてスロットルバルブ14の開度THを検出し、その検出したスロットルバルブ14の開度THを示す電気信号を燃料噴射量制御部108に出力する。これにより、ステップS2の処理は完了し、エンジン制御処理は、ステップS3の処理に進む。
【0046】
ステップS3の処理では、エンジン温度検出部104が、水温センサ3から出力された電圧信号に基づいてエンジン1の温度TWを検出し、その検出したエンジン1の温度TWを示す電気信号を燃料噴射量制御部108に出力する。これにより、ステップS3の処理は完了し、エンジン制御処理は、ステップS4の処理に進む。
【0047】
ステップS4の処理では、燃料噴射量制御部108が、ステップS1の処理によって算出されたエンジン回転数NEが、所定の基準回転数(完爆基準値)以上であるか否かを判別する。ここで、かかる基準回転数は、エンジン1の始動時の回転数より所定量大きい値
として予め設定されてROM105aに記憶されており、燃料噴射量制御部108が、ROM105aに記憶されているその値を読み出して用いた。判別の結果、エンジン回転数NEが所定の基準回転数未満である場合には、燃料噴射量制御部108は、エンジン1は完爆していないと判断して、エンジン制御処理は、ステップS5の処理に進む。一方、判別の結果、エンジン回転数NEが所定の基準回転数以上である場合には、燃料噴射量制御部108は、エンジン1は完爆していると判断して、エンジン制御処理は、ステップS6の処理に進む。
【0048】
ステップS5の処理では、燃料噴射量制御部108が、エンジン始動時、具体的にはエンジン1が始動されて完爆に至るまでの期間の燃料噴射量を算出する始動時燃料噴射量算出処理を実行する。かかる始動時燃料噴射量算出処理の詳細については、図2(b)に示すフローチャートを参照して後述する。これにより、ステップS5の処理は完了し、一連のエンジン制御処理は終了する。
【0049】
一方で、ステップS6の処理では、酸素センサ出力検出部103が、酸素センサ19から出力された電圧信号を受けて、それから酸素センサ出力電圧VGを検出する。これにより、ステップS6の処理は完了し、エンジン制御処理は、ステップS7の処理に進む。
【0050】
ステップS7の処理では、酸素センサ出力検出部103が、ステップS6の処理によって検出した酸素センサ出力電圧VGの値に基づいて、エンジン1の排気ガス中の酸素濃度に応じて変化するような酸素センサ出力電圧VGが検出されているか否かを判別することによって、酸素センサ19が活性化しているか否かを判別する。判別の結果、かかる酸素センサ出力電圧VGが検出されていない場合には、酸素センサ出力検出部103は、酸素センサ19が活性化していないと判断して、エンジン制御処理は、ステップS9の処理に進む。一方、判別の結果、かかる酸素センサ出力電圧VGが検出されている場合には、酸素センサ出力検出部103は、酸素センサ19が活性化していると判断して、エンジン制御処理は、ステップS8の処理に進む。
【0051】
ステップS8の処理では、酸素センサ出力検出部103が、例えば酸素センサ出力電圧VGが所定値以上(例えば0.45ボルト以上)であれば酸素センサフィードバック補正係数MGを減量し、酸素センサ出力電圧VGが所定値未満(例えば0.45ボルト未満)であれば酸素センサフィードバック補正係数MGを増量することで、エンジン1の排気ガス中の酸素濃度に対応してエンジン1の空燃比が理論空燃比となるように酸素センサフィードバック補正係数MGを算出し、その算出した酸素センサフィードバック補正係数MGを示す電気信号を空気密度補正係数算出部107に出力する。これにより、ステップS8の処理は完了し、エンジン制御処理は、ステップS9の処理に進む。
【0052】
ステップS9の処理では、空気密度補正係数算出部107が、エンジン1の完爆後の空気密度補正係数である完爆後空気密度補正係数MA(第2の空気密度補正係数)を算出する完爆後空気密度補正係数算出処理を実行する。かかる完爆後空気密度補正係数算出処理の詳細については、図3に示すフローチャートを参照して後述する。これにより、ステップS9の処理は完了し、エンジン制御処理は、ステップS10の処理に進む。
【0053】
ステップS10の処理では、完爆後噴射量算出部108cが、エンジン回転数NEとスロットル開度THとに対応させた基本燃料噴射量のマップデータをROM105aから読み出して、かかるマップデータからステップS1及びステップS2の処理によって得られたエンジン回転数NEとスロットル開度THとに対応する基本燃料噴射量を算出する。ついで、完爆後噴射量算出部108cが、このように算出した基本燃料噴射量に、ステップS9の処理において空気密度補正係数算出部107で算出された完爆後空気密度補正係数MAを乗算することによってエンジン1の完爆後の燃料噴射量である完爆後燃料噴射量T
Iを算出する。そして、燃料噴射量制御部108は、完爆後噴射量算出部108cによって算出された完爆後燃料噴射量TIに従って、インジェクタ13の燃料噴射量を制御してインジェクタ13から燃料を噴出させる完爆後燃料噴射を実施する。これにより、ステップS10の処理は完了し、一連のエンジン制御処理は終了する。なお、かかる基本燃料噴射量のマップデータのエンジン制御パラメータとしては、エンジン回転数NE及びスロットル開度THが簡便かつ確実な制御を実現できるものとして挙げられるが、これらに限定されるものではなく、必要に応じて他のエンジン制御パラメータを適宜取捨選択して採用してもかまわない。
【0054】
〔始動時燃料噴射量算出処理〕
次に、図2(b)に示すフローチャートを参照して、かかるエンジン制御処理における始動時燃料噴射量算出処理を実行する際のエンジン制御装置100の動作について、詳細に説明する。
【0055】
図2(b)は、図2(a)に示すエンジン制御処理における始動時燃料噴射量算出処理の流れを示すフローチャートである。
【0056】
図2(b)に示す始動時燃料噴射量算出処理は、図2(a)に示すステップS4の処理においてエンジン1が完爆していないと判断されたタイミングで開始となり、始動時燃料噴射量算出処理は、ステップS21の処理に進む。
【0057】
ステップS21の処理では、燃料噴射量制御部108が、RAM105b等に記憶された初期値算出済みフラグの値を読み出して、その値が1であるか否かを判別することによって、始動時燃料噴射量の初期値TISIが算出済みであるか否かを判別する。判別の結果、初期値算出済みフラグの値が1である場合には、燃料噴射量制御部108は、始動時燃料噴射量の初期値TISIが算出済みであると判断し、始動時燃料噴射量算出処理は、ステップS24の処理に進む。一方、判別の結果、初期値算出済みフラグの値が0である場合には、燃料噴射量制御部108は、始動時燃料噴射量の初期値TISIが算出済みでないと判断し、始動時燃料噴射量算出処理は、ステップS22の処理に進む。
【0058】
ステップS22の処理では、初期噴射量算出部108aが、エンジン温度TWに対応させた基本燃料噴射量のマップデータをROM105aから読み出して、かかるマップデータからステップS3の処理によって得られたエンジン温度TWに対応する基本燃料噴射量を算出すると共に、高地補正された空気密度補正係数MAS(第1の空気密度補正補正係数)の値をROM105aから読み出して、その算出した基本燃料噴射量にその高地補正された空気密度補正係数MASの値を乗算することによって始動時燃料噴射量の初期値TISIを算出する。そして、初期噴射量算出部108aは、その算出した始動時燃料噴射量の初期値TISIの値をRAM105b等に記憶する。この処理によって、エンジン1が始動される際の初期燃料噴射量は、単にエンジン温度TWに応じた基本燃料噴射量よりも少ない燃料噴射量に設定されることになる。なお、かかる基本燃料噴射量のマップデータのエンジン制御パラメータとしては、エンジン温度TWが簡便かつ確実な制御を実現できるものとして挙げられるが、これらに限定されるものではなく、必要に応じて他のエンジン制御パラメータを適宜取捨選択して採用してもかまわない。
【0059】
ここで、高地補正された空気密度補正係数MASを基本燃料噴射量に乗算している理由は、車両等の移動体が高地に位置してエンジン1が始動される場合を考慮して、エンジン1が始動される際の初期燃料噴射量を、車両等の移動体が低地に位置してエンジン1が始動される場合にエンジン1を完爆させるために適したエンジン始動時の初期燃料噴射量、つまりエンジン温度TWに対応させた基本燃料噴射量より少ない値とすることにより、実際に高地においてエンジン1が始動される際に完爆に最適な燃料噴射量を確実に得るため
である。換言すれば、高地におけるエンジン始動時の初期燃料噴射量を過大に設定してしまうと、エンジン1は容易に完爆するが、混合気は不要にリッチ状態に維持され続けてしまい、高地における最適な燃料噴射量が得られないため、かかる事態が発生しないように対処した構成を採用したものである。これにより、ステップS22の処理は完了し、始動時燃料噴射量算出処理は、ステップS23の処理に進む。なお、ここで具体的に、高地補正された空気密度補正係数MASとしては、高地を標高2000m程度と考えて、標高2000m相当でエンジン1を始動させた際にエンジン1を完爆させるために必要なエンジン始動時の初期燃料噴射を与えることができる値を採用しており、かかる場合、その値は例えば0.8に設定される。
【0060】
ステップS23の処理では、燃料噴射量制御部108が、始動時燃料噴射量の初期値TISIを算出したことを示す初期値算出済みフラグの値を1に設定して、RAM105b等に記憶する。これにより、ステップS23の処理は完了し、始動時燃料噴射量算出処理は、ステップS28の処理に進む。
【0061】
一方で、ステップS24の処理では、燃料噴射量制御部108が、高地補正された空気密度補正係数MASの値をROM105aから読み出すか、又は前回のステップS26の処理でRAM105b等に記憶された増加済みの空気密度補正係数MASの値を読みだして、その読み出した値が所定値以上であるか否かを判別する。判別の結果、その読み出した値が所定値以上である場合には、始動時燃料噴射量算出処理は、ステップS25の処理に進む。一方、判別の結果、その読み出した値が所定値未満である場合には、始動時燃料噴射量算出処理は、ステップS26の処理に進む。ここで、判別される所定値は、エンジン1の始動時から完爆時に至る過程で、始動時燃料噴射量が不要に増加されることにより混合気が不要にリッチ状態にならない空気密度補正係数MASの値である1に設定されている。
【0062】
ステップS25の処理では、燃料噴射量制御部108が、高地補正された空気密度補正係数MASの値を1に設定して、その設定した高地補正された空気密度補正係数MASの値をRAM105b等に記憶する。この処理で空気密度補正係数MASの値を1に設定することにより、エンジン1の始動時から完爆時に至る過程で、混合気が不要にリッチ状態になることを抑制できる。これにより、ステップS25の処理は完了し、始動時燃料噴射量算出処理は、ステップS27の処理に進む。
【0063】
ステップS26の処理では、燃料増加制御部108bが、高地補正された空気密度補正係数MASの値をROM105aから読み出すか、又は前回のステップS26の処理でRAM105b等に記憶された増加済みの空気密度補正係数MASの値を読み出して、その値に1よりも小さな所定値を加算することにより高地補正された空気密度補正係数MASの値を増加し、その増加済みの空気密度補正係数MASの値をRAM105b等に記憶する。この処理により、高地補正された空気密度補正係数MASは、エンジン1の1回転毎に所定値だけ順次増加されて更新されることになる。これにより、ステップS26の処理は完了し、始動時燃料噴射量算出処理は、ステップS27の処理に進む。ここで、加算に用いる1よりも小さな所定値は、エンジン1が始動されて完爆に至るまでの時間等に依存して何回増加すべきか考慮して決定されるもので、例えば1よりも充分小さい0.03の値に設定すればよい。
【0064】
ステップS27の処理では、初期噴射量算出部108aが、ステップS25の処理又はステップS26の処理でRAM105b等に記憶された増加済みの空気密度補正係数MASの値を読み出すと共に、ステップS22の処理でRAM105b等に記憶された始動時燃料噴射量の初期値TISIを読み出して、それらの値を乗算することによって始動時燃料噴射量の初期値TISIから順次増加された始動時燃料噴射量TISを算出し、その算
出した始動時燃料噴射量TISの値をRAM105b等に記憶する。この処理により、始動時燃料噴射量TISは、ステップS26の処理で順次増加される空気密度補正係数MASに応じて、エンジン1の1回転毎に順次増加されて更新されることになる。これにより、ステップS27の処理は完了し、始動時燃料噴射量算出処理は、ステップS28の処理に進む。
【0065】
ステップS28の処理では、燃料噴射量制御部108が、ステップS22の処理でRAM105b等に記憶された始動時燃料噴射量の初期値TISIを読み出すか、又はステップS27の処理でRAM105b等に記憶された始動時燃料噴射量TISの値を読み出して、その値に従ってインジェクタ13の燃料噴射量を制御してインジェクタ13から燃料を噴出させる始動時燃料噴射を実施する。これにより、ステップS28の処理は完了し、一連の始動時燃料噴射量算出処理は終了して、併せて図2(a)に示す一連のエンジン制御処理も終了する。
【0066】
〔完爆後空気密度補正係数算出処理〕
次に、図3に示すフローチャートを参照して、図2(a)に示すエンジン制御処理における完爆後空気密度補正係数算出処理を実行する際のエンジン制御装置100の動作について、詳細に説明する。
【0067】
図3は、図2(a)に示すエンジン制御処理における完爆後空気密度補正係数算出処理の流れを示すフローチャートである。
【0068】
図3に示すフローチャートは、図2(a)に示すステップS7の処理において酸素センサ19が活性化していないと判別されたタイミング又は図2(a)に示すステップS8の処理が完了したタイミングで開始となり、完爆後空気密度補正係数算出処理は、ステップS31の処理に進む。
【0069】
ステップS31の処理では、燃料噴射量制御部108が、RAM105b等に記憶された完爆後空気密度補正係数算出済みフラグの値を読み出して、その値が1であるか否かを判別することによって、エンジン1の完爆時以降の空気密度補正係数である完爆後空気密度補正係数MA(第2の空気密度補正係数)が算出済みであるか否かを判別する。判別の結果、完爆後空気密度補正係数算出済みフラグの値が1である場合には、燃料噴射量制御部108は、完爆後空気密度補正係数MAが算出済みであると判断し、完爆後空気密度補正係数算出処理は、ステップS34の処理に進む。一方、判別の結果、完爆後空気密度補正係数算出済みフラグの値が0である場合には、燃料噴射量制御部108は、完爆後空気密度補正係数MAが算出済みでないと判断し、完爆後空気密度補正係数算出処理は、ステップS32の処理に進む。
【0070】
ステップS32の処理では、空気密度補正係数算出部107が、図2(b)に示すステップS26の処理においてRAM105b等に記憶された増加済みの空気密度補正係数MASの値を読み出して、その値を完爆後空気密度補正係数MAの値に設定し、その設定値をRAM105b等に記憶する。これにより、ステップS32の処理は完了し、完爆後空気密度補正係数算出処理は、ステップS33の処理に進む。
【0071】
ステップS33の処理では、燃料噴射量制御部108が、完爆後空気密度補正係数算出済みフラグの値を1に設定して、その値をRAM105b等に記憶する。これにより、ステップS33の処理は完了し、完爆後空気密度補正係数算出処理は、ステップS38の処理に進む。
【0072】
一方で、ステップS34の処理では、酸素センサ出力検出部103が、酸素センサフィ
ードバック補正係数MGの最大、最小の各ピーク値間の移動平均値を算出し、かかる移動平均値の変動量が所定範囲内にあるか否かを判別することによって、酸素センサフィードバック補正係数MGが収束したか否かを判別する。判別の結果、酸素センサフィードバック補正係数MGの変動量が所定範囲内にない場合には、酸素センサ出力検出部103は、酸素センサフィードバック補正係数MGが収束していないと判断し、一連の完爆後空気密度補正係数算出処理は終了して、併せて図2(a)に示す一連のエンジン制御処理も終了する。一方、判別の結果、酸素センサフィードバック補正係数MGの変動量が所定範囲内にある場合には、酸素センサ出力検出部103は、酸素センサフィードバック補正係数MGが収束したと判断し、完爆後空気密度補正係数算出処理は、ステップS35の処理に進む。なお、かかる所定範囲、つまりその上限値及び下限値は、酸素センサ19の種類や酸素センサ出力検出部103の分解能等を考慮して適宜設定されてROM105aに予め記憶されていたもので、それらをROM105aから読み出して用いた。
【0073】
ステップS35の処理では、酸素センサ出力検出部103が、収束した酸素センサフィードバック補正係数MGを収束後酸素センサフィードバック補正係数MGRとして設定し、収束後酸素センサフィードバック補正係数MGRと、完爆後空気密度補正係数MAの値が適正である場合に収束後酸素センサフィードバック補正係数MGRが取るべき値である1.0倍と、の偏差を算出し、算出された偏差の値が所定値以上であるか否かを判別する。判別の結果、偏差の値が所定値未満である場合には、一連の完爆後空気密度補正係数算出処理は終了して、併せて図2(a)に示す一連のエンジン制御処理も終了する。一方、判別の結果、偏差の値が所定値以上である場合には、酸素センサ出力検出部103は、収束後酸素センサフィードバック補正係数MGRの値を示す電気信号を空気密度補正係数算出部107に出力し、完爆後空気密度補正係数算出処理は、ステップS36の処理に進む。ここで、偏差の値を比較する所定値は、ステップS32の処理やステップS36の処理で設定される完爆後空気密度補正係数MAの値が、燃料噴射量を不要に増大させて混合気を不要にリッチ状態にしてしまう値となっている状態を是正するために必要充分な値として設定すればよく、ここでは0.07の値に設定している。
【0074】
ステップS36の処理では、空気密度補正係数算出部107が、ステップS32の処理又は前回のステップS36の処理でRAM105b等に記憶された完爆後空気密度補正係数MAの値を読み出して、その値にステップS35の処理で出力された収束後酸素センサフィードバック補正係数MGRの値を乗算した値を完爆後空気密度補正係数MAの値に設定し、その設定値を示す電気信号を燃料噴射量制御部108、具体的には完爆後噴射量算出部108cに出力すると共にかかる設定値をRAM105b等に記憶する。この処理により、完爆後空気密度補正係数MAの値が、燃料噴射量を不要に増大させて混合気を不要にリッチ状態にしてしまうことがない程度の値、換言すれば現在車両等の移動体が位置する高度に適合した値へと補正されて更新されていることになる。これにより、ステップS36の処理は完了し、完爆後空気密度補正係数算出処理は、ステップS37の処理に進む。
【0075】
ステップS37の処理では、酸素センサ出力検出部103が、自身が保持する酸素センサフィードバック補正係数MG及び収束後酸素センサフィードバック補正係数MGRの値を1にリセットして、次回の処理に備える。これにより、ステップS37の処理は完了し、完爆後空気密度補正係数算出処理は、ステップS38の処理に進む。
【0076】
ステップS38の処理では、空気密度補正係数算出部107が、ステップS36の処理で得られた完爆後空気密度補正係数MAの値に基づいて大気圧PAの値を算出し、算出値をRAM105b等に記憶する。メモリ105内に記憶された大気圧PAの値は車両等の移動体内に設けられた表示装置上の表示や各種制御に使用される。これにより、ステップS38の処理は完了し、一連の完爆後空気密度補正係数算出処理は終了する。
【0077】
〔具体例〕
最後に、図4を参照して、以上のエンジン制御処理の具体例について、詳細に説明する。
【0078】
図4は、本実施形態におけるエンジン制御処理の具体例を説明するためのタイミングチャートであり、図4(a)は、空気密度補正係数MAS、MA及び酸素センサフィードバック補正係数MG、MGRのタイミングチャートを示し、図4(b)は、エンジン回転数NE及び燃料噴射量TIS、TIのタイミングチャートを示す。なお、本具体例では、説明の便宜上、エンジン始動後のスロットルバルブ14の開度は一定であるものとする。
【0079】
(1)時刻T=T0
図4に示す時刻T=T0においては、イグニッションスイッチがオフ状態からオン状態に切り換えられてエンジンが始動されると、エンジン1の1回転毎に繰り返しエンジン制御処理が開始される。このようにエンジン制御処理が開始されたタイミングでは、初期噴射量算出部108aが、エンジン温度TWに対応する基本燃料噴射量に、標高2000m相当の高地に対応して高地補正された空気密度補正係数MAS(本具体例での値は0.8)を乗算することによって始動時燃料噴射量の初期値TISIを算出する。そして、燃料噴射量制御部108が、初期噴射量算出部108aによって算出された始動時燃料噴射量の初期値TISIに従ってインジェクタ13の燃料噴射量を制御してインジェクタ13から燃料を噴出させ始める。
【0080】
(2)期間T=T0〜T1
次に、期間T=T0〜T1においては、燃料増加制御部108bが、エンジン1の1回転毎に高地補正された空気密度補正係数MASの値を順次増加し、初期噴射量算出部108aが、その増加済みの空気密度補正係数MASに始動時燃料噴射量の初期値TISIを乗算することによって始動時燃料噴射量TISを順次増加して算出する。そして、燃料噴射量制御部108が、初期噴射量算出部108aによって算出された始動時燃料噴射量TISに従ってインジェクタ13の燃料噴射量を制御してインジェクタ13から燃料を噴出させる。
【0081】
(3)期間T=T1〜T2
次に、時刻T=T1においてエンジン1が完爆したと判断されると、空気密度補正係数算出部107が、時刻T=T1までに順次増加されてきた増加済みの空気密度補正係数MASの時刻T=T1時点における値(本具体例では0.87)を完爆後空気密度補正係数MAの値に設定し、完爆後噴射量算出部108cが、エンジン回転数NEとスロットル開度THとに対応させた基本燃料噴射量に完爆後空気密度補正係数MAを乗算することによって完爆後燃料噴射量TIを算出する。そして、燃料噴射量制御部108が、完爆後噴射量算出部108cによって算出された完爆後燃料噴射量TIに従ってインジェクタ13の燃料噴射量を制御してインジェクタ13から燃料を噴出させる。なお、かかる燃料噴射量の制御自体は、時刻T=T2を経過して時刻T=T3まで維持される。
【0082】
(4)期間T=T2〜T3
次に、時刻T=T2において酸素センサ19からエンジン1の回転に応じた電圧信号が出力され始めると、時刻T=T3までの間において、酸素センサ出力検出部103が、酸素センサ19の活性化を判断した後、酸素センサフィードバック補正係数MGの最大、最小の各ピーク値間の移動平均値を算出し、かかる移動平均値の変動量が所定範囲内にあるか否かを判別することによって、酸素センサフィードバック補正係数MGが収束したか否かを判別し、酸素センサフィードバック補正係数MGが収束した後、収束後酸素センサフィードバック補正係数MGRと所定値10倍との偏差Δxを算出し、算出された偏差Δx
が所定値0.07以上であるか否かを判別する。
【0083】
(5)時刻T=T3以降
次に、時刻T=T3において偏差Δxが所定値0.07以上であるかと判断されると、空気密度補正係数算出部107が、現在の完爆後空気密度補正係数MAの値に収束後酸素センサフィードバック補正係数MGRの値を乗算した値を完爆後空気密度補正係数MAの値に設定して更新し、完爆後噴射量算出部108cが、基本燃料噴射量にこのように更新された完爆後空気密度補正係数MAを乗算することによって完爆後燃料噴射量TIを算出する。この際、完爆後空気密度補正係数MAの値は、現在車両等の移動体が位置する高度に適合した値へと補正されている。具体的には、期間T=T2〜T3において、完爆後空気密度補正係数MAの値は0.87であり、かつ収束後酸素センサフィードバック補正係数MGRの値は0.92であるので、これらを掛け合わせると約0.8となり、現在車両等の移動体は、標高2000m相当の高地に位置していることが分かり、かつ完爆後空気密度補正係数MAの値は、標高2000m相当の高度に適合した値へと補正されていることが分かる。そして、時刻T=T3以降では、燃料噴射量制御部108が、完爆後噴射量算出部108cによって算出された完爆後燃料噴射量TIに従ってインジェクタ13の燃料噴射量を制御してインジェクタ13から燃料を噴出させる。この際、エンジン回転数NEは、所定のアイドル回転数で安定することになる。
【0084】
以上の説明から明らかなように、本実施形態におけるエンジン制御処理では、初期噴射量算出部108aが、高地補正された空気密度補正係数MASを考慮して、エンジン1の始動時燃料噴射量の初期値TISIをエンジン温度TWに応じた基本燃料噴射量よりも少ない燃料噴射量として算出し、燃料増加制御部108bが、空気密度補正係数MASを順次増加することにより、エンジン1の始動時燃料噴射量TISを始動時燃料噴射量の初期値TISIから順次増加させ、完爆後噴射量算出部108cが、エンジン1の完爆後において、燃料増加制御部108bで順次増加された空気密度補正係数MASを考慮して、エンジン1の完爆後燃料噴射量TIを算出するので、大気圧センサや吸気圧センサ等の圧力センサを用いることなく、燃料噴射量の高地補正に必要なデータ容量を削減しながら、良好な始動性を実現できると共に、不要な燃料量での燃料噴射を抑制することができる。
【0085】
また、本実施形態におけるエンジン制御処理では、空気密度補正係数算出部107が、エンジン1の完爆後において、燃料増加制御部108bで順次増加された空気密度補正係数MASを考慮して、完爆後空気密度補正係数MAを算出し、完爆後噴射量算出部108cが、かかる完爆後空気密度補正係数MAを考慮して、エンジン1の完爆後燃料噴射量TIを算出するので、良好な始動性を実現できると共に、より確実にエンジン1の完爆後の不要な燃料量での燃料噴射を抑制することができる。
【0086】
また、本実施形態におけるエンジン制御処理では、空気密度補正係数算出部107が、エンジン1の排気系に装着された酸素センサ19が活性化し、かつ酸素センサ19からの出力値に応じた酸素センサフィードバック補正係数MGが収束するまでは、燃料増加制御部108bで順次増加された空気密度補正係数MASを完爆後空気密度補正係数MAに設定するので、良好な始動性を実現できると共に、酸素センサ19の動作状態に応じてエンジン1の完爆後の不要な燃料量での燃料噴射を抑制することができる。
【0087】
また、本実施形態におけるエンジン制御処理では、空気密度補正係数算出部107が、酸素センサ19が活性化して酸素センサフィードバック補正係数MGが収束した後に、その収束後酸素センサフィードバック補正係数MGRの偏差が所定値以上になった場合には、更に収束後酸素センサフィードバック補正係数MGRを考慮して完爆後空気密度補正係数MAを算出するので、良好な始動性を実現できると共に、酸素センサ19の動作状態に応じてより確実にエンジン1の完爆後の不要な燃料量での燃料噴射を抑制することができ
る。
【0088】
なお、本発明においては、部材の種類、配置、個数等は前述の実施形態に限定されるものではなく、その構成要素を同等の作用効果を奏するものに適宜置換する等、発明の要旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能であることはもちろんである。
【産業上の利用可能性】
【0089】
以上のように、本発明においては、大気圧センサや吸気圧センサ等の圧力センサを用いることなく、燃料噴射量の高地補正に必要なデータ容量を削減しながら、良好な始動性を実現できると共に、不要な燃料量での燃料噴射を抑制することが可能なエンジン制御装置を提供することができるものであり、その汎用普遍的な性格から、車両等の移動体のエンジンに広範に適用され得るものと期待される。
【符号の説明】
【0090】
1…エンジン
2…シリンダブロック
3…水温センサ
4…ピストン
5…コンロッド
6…クランク
7…クランク角センサ
8…シリンダヘッド
9…燃焼室
10…点火プラグ
11…吸気通路
12…吸気バルブ
13…インジェクタ
14…スロットルバルブ
15…スロットル開度センサ
16…排気通路
17…排気バルブ
18…触媒コンバーター
19…酸素センサ
100…エンジン制御装置
101…クランク角信号検出部
102…スロットル弁開度検出部
103…酸素センサ出力検出部
104…エンジン温度検出部
105…メモリ
105a…ROM
105b…RAM
105c…EEPROM
106…エンジン回転数算出部
107…空気密度補正係数算出部
108…燃料噴射量制御部
108a…初期噴射量算出部
108b…燃料増加制御部
108c…完爆後噴射量算出部
109…点火時期制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高地補正された所定の第1の空気密度補正係数を考慮して、エンジンの始動時の初期燃料噴射量を、前記エンジンの温度に応じた基本燃料噴射量よりも少ない初期燃料噴射量として算出する初期噴射量算出部と、
前記第1の空気密度補正係数を順次増加することにより、前記初期燃料噴射量を順次増加させる燃料増加制御部と、
前記エンジンの始動後に前記エンジンの回転数が完爆基準値以上となったことに対応する前記エンジンの完爆後において、前記燃料増加制御部で順次増加された空気密度補正係数を考慮して、前記エンジンの完爆後の燃料噴射量を算出する完爆後噴射量算出部と、
を備えることを特徴とするエンジン制御装置。
【請求項2】
前記エンジンの完爆後において、前記燃料増加制御部で順次増加された空気密度補正係数を考慮して、第2の空気密度補正係数を算出する空気密度補正係数算出部を更に備え、
前記完爆後噴射量算出部は、前記第2の空気密度補正係数を考慮して、前記エンジンの完爆後の燃料噴射量を算出することを特徴とする請求項1に記載のエンジン制御装置。
【請求項3】
前記空気密度補正係数算出部は、前記エンジンの排気系に装着された酸素センサが活性化し、かつ前記酸素センサからの出力値に応じた酸素センサフィードバック補正係数が収束するまでは、前記燃料増加制御部で順次増加された空気密度補正係数を、前記第2の空気密度補正係数に設定することを特徴とする請求項2に記載のエンジン制御装置。
【請求項4】
前記空気密度補正係数算出部は、前記酸素センサが活性化して前記酸素センサフィードバック補正係数が収束した後に、前記酸素センサフィードバック補正係数の偏差が所定値以上になった場合には、更に前記酸素センサフィードバック補正係数を考慮して前記第2の空気密度補正係数を算出することを特徴とする請求項3に記載のエンジン制御装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2012−202255(P2012−202255A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−65626(P2011−65626)
【出願日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【出願人】(000141901)株式会社ケーヒン (1,140)
【Fターム(参考)】