説明

エンジン始動制御装置

【課題】複数の電源を必要とせず、始動装置の大型を抑制できるアイドルストップ車のエンジン始動制御装置を提供する。
【解決手段】始動制御装置であって、バッテリ31から給電されるコイルLu〜Lwを有し、同コイルが第1巻数n1を保持する状態と同第1巻数より少ない第2巻数n2を保持する状態とに切り換えるスイッチswu、swv、swwが接続されたスタータジェネレータ24と、キー操作Ss(手動)での始動を判定すると第1判定信号S1を、アイドルストップシステムによる始動を判定すると第2判定信号S2を出力する判定手段A2と、第1判定信号S1を受けると第1巻数n1に切り換えて高トルク低回転型の第1トルク特性で、第2判定信号S2を受けると第2巻数n2に切り換えて低トルク高回転型の第2トルク特性でスタータジェネレータ24を駆動するトルク特性制御手段A3とを備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は自動始動と手動始動を有する例えばアイドルストップ車のエンジン始動制御装置に関し、特に、スタータジェネレータのトルク特性を切り換えてエンジンを始動させるエンジン始動制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両の停車中に、燃費節減とエミッション低減を図るべくエンジンを一時的に自動停止させるアイドルストップ車が知られている。
アイドルストップ車では、シフト位置がDレンジ、ブレーキ操作、車速0km/h等のエンジン停止条件が成立したときにエンジンを停止させ、その後にブレーキ操作の解除等のエンジン始動条件が成立すると、スタータによりエンジンを自動始動して発進に備えている。
【0003】
このような車両に搭載されるエンジンの始動時に必要な始動時トルクは、クランクシャフトの回転数を所定の回転数に到達させるのに必要な加速トルクとエンジンが発生するフリクショントルクとの和である。一方、始動時にクランクシャフトに加えられるトルクは、始動装置を回転駆動することで発生するスタータトルクおよびインジェクタから噴射された燃料が燃焼室で爆発することにより発生する爆発トルクである。つまり、このスタータトルクと爆発トルクとの和が始動時トルク以上でなければエンジンを始動することができない。
このような始動時トルクを発生できるエンジン始動源として、例えば、電動機兼発電機のスタータジェネレータが採用されている。
【0004】
ところで、エンジン始動源としてのスタータジェネレータを用いた場合、冷態始動時には、たとえ極低温でフリクショントルクが大きくても確実にエンジンがかかるような高トルク特性が要求される。一方、アイドルストップからエンジン始動条件が成立した上での再始動時には、暖気完了後であり、早期にエンジン回転速度を高めてエンジンが高回転域に迅速に達して、始動するようなトルク特性、即ち高回転特性が要求される。
しかし、エンジン始動源としてのスタータジェネレータは、その回転数に応じて発生するトルク、すなわちトルク特性は一定である。
【0005】
そこで、このような両要求をクリアするためには比較的大型のエンジン始動源としてのスタータジェネレータを用いる必要がある。あるいは、車載される電源として車両の通常の主電源(12V)とは別に、この主電源の電圧よりも高電圧、例えば36Vの高圧電源を搭載してアイドルストップからのエンジン始動性を確保することとなる。
なお、スタータモータを用い、主電源の他に高圧電源を別途備えたアイドルストップ車の始動装置の一例が、特開2002−161838号公報(引用文献1)に開示される。
【0006】
【特許文献1】2002−161838号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、エンジン始動源としてのスタータジェネレータを高トルク域と高回転域で共に使用することができるようにするために、引用文献1に開示されるように、主電源の他に高圧電源を別途備えたアイドルストップ車の始動装置の場合、2つの電源搭載のため、車載スペース確保に問題が生じやすい。更に、大型のエンジン始動源としてスタータジェネレータが配備された場合、エンジンの全長が長くなり、特に、エンジンルームのスペースが限られた小さな車両への搭載は困難となり、改善が望まれている。
【0008】
本発明は、上述の課題に着目してなされたもので、複数の電源を必要とせず、始動装置の大型化を抑制できるアイドルストップ車のエンジン始動制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述の目的を達成するために、請求項1記載の発明は、自動始動と手動始動を有するエンジン始動制御装置であって、バッテリから給電されるコイルを有すると共に、同コイルが所定の第1巻数を保持する状態と同第1巻数より少ない第2巻数を保持する状態とに切り換える切り換え手段が接続されたスタータジェネレータと、手動始動でのエンジン始動を判定すると第1判定信号を、自動始動によるエンジン始動を判定すると第2判定信号をそれぞれ出力する判定手段と、所定の始動条件成立時に、前記第1判定信号を受けると前記コイルを前記第1巻数に切り換えて高トルク低回転型の第1トルク特性で前記スタータジェネレータを駆動し、前記第2判定信号を受けると前記コイルを前記第2巻数に切り換えて低トルク高回転型の第2トルク特性で前記スタータジェネレータを駆動するトルク特性制御手段と、を備えたことを特徴とする。
【0010】
請求項2の発明は、請求項1記載のエンジン始動制御装置において、前記バッテリから給電されるコイルは、前記エンジンのクランク軸に取り付けられる磁石回転子に対向する電機子鉄心に巻回された電機子コイルである、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
請求項1記載の発明によれば、手動始動でのエンジン始動時に第1判定信号を受けると、スタータジェネレータのコイルの巻数を第1巻数に保持して高トルク低回転型の第1トルク特性で、確実な始動を行え、しかも、自動始動によるエンジン始動時に第2判定信号を受けると、スタータジェネレータのコイルの巻数を第1巻数より少ない第2巻数に切り換え保持して低トルク高回転型の第2トルク特性で、迅速な始動を行える。特に、バッテリ電源電圧を変えることなく、単一の電源電圧を用いて、コイルの巻数の切換のみで始動条件に適した第1、第2トルク特性を選択してエンジン始動を適確に行うことができる。更に、手動始動でのエンジン始動時には暖気完了後でも高トルク低回転型の第1トルク特性で始動でき、違和感が生じることがない。
【0012】
請求項2記載の発明によれば、スタータジェネレータの固定子側である電機子鉄心に巻回された電機子コイルの巻数比較的大きい第1巻数と比較的小さい第2巻数に切り換える構成なので、切り換え手段を比較的容易に接続でき、容易に始動条件に適した第1、第2トルク特性を選択してエンジン始動を適確に行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
図1には本発明の一実施形態としての自動始動と手動始動を有する例えばアイドルストップ車のエンジン始動制御装置を示し、同装置は図2に示すエンジン1に装着されている。
このエンジン1は直列4気筒ガソリン機関であり、不図示の自動車の駆動源として車載されている。このエンジン1の吸気通路2の各吸気ポート(図1に破線で示す)には各気筒毎に燃料噴射弁3が備えられる。各燃料噴射弁3は図示しない燃料ポンプから燃料を供給される。吸気通路2には吸気が導入され、導入された吸気はモータ駆動されるスロットル弁4により流量調整された後に、燃料噴射弁3から噴射された燃料と混合され、燃焼室C内に導入される。その後、所定のタイミングで点火プラグ5により混合気が点火され、燃焼後の排ガスが燃焼室Cから排気通路6内に排出されて、図示しない触媒や消音器を経て外部に排出される。
【0014】
エンジン1はチェーンケース7を介して変速機ケーシング801と一体的に結合される。このエンジン1のクランク軸9はチェーンケース7内の遊星歯車機構10に接続され、遊星歯車機構10の外主軸111は変速機8の入力軸12に連結されている。
チェーンケース7内のクランク軸9には不図示の動弁系へ動力を伝達する不図示のチェーンスプロケットが嵌着され、クランク軸9の端部には、図2に示すように、遊星歯車機構10の中心部に位置するスリーブ13が一体に嵌着される。
【0015】
ここで図2に示すように、遊星歯車機構10は概略的には、外主軸111と一体のクランクプーリー14及びリングギア部材15と、クランク軸9とスリーブ13を介し一体結合されたキャリア16とを備える。クランクプーリー14は外主軸111を介して変速機8の入力軸12にも一体結合されている。リングギア部材15はそのチャンバー17内にプラネタリギアセット10を配備している。このプラネタリギアセット10において、キャリア16とリングギア部材15との間には第1のワンウェイクラッチ20が介装される。クランク軸9に遊嵌されたサンギア部材23はバンドブレーキ22と第2のワンウェイクラッチ21を介してチェーンケース7に連結可能である。
クランクプーリー14に巻き掛けられる無端ベルト(以後単にベルト23と記す)は、スタータジェネレータ24の入出力軸241に嵌着されたプーリー25や、補機類(ここではエアコンのコンプレッサ)26の入力軸261に嵌着されたプーリー27や、不図示のアイドラーに架渡される。
【0016】
図3に示すように、スタータジェネレータ24は、インバータ40を介してバッテリ31と接続される。このバッテリ31の電力によりスタータジェネレータ24は電動機として駆動する。しかも、プーリー25の回転入力によりスタータジェネレータ24は発電機として働き、その発電力はインバータ40を介してバッテリ31の充電に供することができる。
即ち、スタータジェネレータ24は、ブラシレス直流電動機及び磁石式交流発電機と同様の構造を有するもので、機関の始動時にはブラシレス直流電動機として駆動されて、エンジン1のクランク軸9を駆動するスタータモータとして用いられる。またエンジン1が始動した後、磁石回転子がエンジン1により駆動される状態になったときには、バッテリ31充電用のジェネレータ(磁石発電機)として運転される。
【0017】
図2に示すように、スタータジェネレータ24は、プーリー25と一体の回転軸241を遊嵌すると共に固定子242を取り付けた筒状固定部材243と、回転軸241に一体的に取り付けられた磁石回転子244とを備える。磁石回転子244は回転子ヨーク245と同回転子ヨークに取り付けられた回転磁石246とからなる。固定子242は磁石回転子244の磁極に対向配設され磁極部を有する電機子鉄心247と、この電機子鉄心に巻回された3相の電機子コイルLu〜Lwとを有すると共に3相の電機子コイルが星形結線として形成されている。
【0018】
図3に示すように、各電機子コイルLu〜Lwの長手方向の所定の中間部はそれぞれ切り換え手段である切り換えスイッチswu、swv、swwを備えた各短絡線ru,rv,rwを介して入出力端子ju、jv、jwに接続されている。切り換えスイッチswu、swv、swwは可動片をソレノイドcu、cv、cwにより切り換える構造を採る。切り換えスイッチswu、swv、swwはオフ時において、電機子コイルLu〜Lwの全長(第1巻数n1)部分を入出力端子ju、jv、jwに接続し、オン時において、電機子コイルLu〜Lwの中間部(第1巻数n1より少ない第2巻数n2)までの部分を入出力端子ju、jv、jwに接続する。ここで、ソレノイドcu、cv、cwは後述のコントローラ30によって励磁制御される。
なお、各電機子コイルLu〜Lwが第1巻数n1に保持された場合、内部抵抗が比較的大きく、消費電力は比較的大きくなる。第2巻数n2に保持された場合、内部抵抗が比較的小さく、消費電力は比較的小さくなるが、いずれの場合も、ここでは高圧側端子電圧が14Vのバッテリ31により給電可能に構成されている。
【0019】
インバータ40回路は、正極性の直流側端子3aを備え、この直流端子3aがバッテリ312の正極端子に接続されている。負極性の直流側端子3bを備え、この直流側端子3bがバッテリ312の負極端子に接続されている。またU,V,W3相の交流側端子3u,3v及び3wを備え、これらの交流側端子3u,3v及び3wがそれぞれスタータジェネレータ241の星形結線された3相の電機子コイルLu,Lv及びLwの非中性点側端子からそれぞれ導出された入出力端子1u,1v及び1wに接続されている。
【0020】
コントローラ30は、CPU,ROM,RAM,タイマ(TIM)等を有するマイクロコンピュータと、CPUから与えられる指令に応じてインバータ40に駆動信号を与えるドライバ回路301と、切り換えスイッチswu、swv、swwのソレノイドcu、cv、cwを励磁、非励磁に切り換えるドライバ回路302とを備える。更に、入力端には、バッテリ31の両端の電圧の検出値Vbを入力するバッテリ電圧検出器33と、エンジン1を始動する際に閉じられたか否かの信号Ssを検出するセルスイッチ34と、エンジン1の吸気通路2内に導入する空気の流量Qaを検出するエアーフローセンサ35と、吸気通路2内のスロットルバルブの開度θsを検出するスロットルセンサ36と、車速Vc信号を入力する車速センサ37と、ブレーキ信号Sbkが入力されるブレーキスイッチ38と、変速段信号Dhsが入力される変速段検出スイッチ39とが接続されている。
【0021】
このようなコントローラ30はエンジン1を適宜駆動制御するエンジン制御機能部A0を備え、これに加えて、インバータ40を制御するインバータ制御手段A1と、判定手段A2と、トルク特性制御手段A3としての制御機能を備える。
【0022】
エンジン制御機能部A0はエンジン1の始動、発進、走行に応じて、不図示の燃料系と吸気系と点火系とを適宜駆動制御する機能を備える。
インバータ制御手段A1は、エンジン1の始動時にスタータジェネレータ24をブラシレス直流電動機として動作させてエンジン1のクランク軸9を始動方向に回転させるようにインバータ40を制御し、エンジン1が始動した後はスタータジェネレータ24を発電機として動作させて電機子コイルLu〜Lwからインバータ40により構成された整流回路を通してバッテリ31に供給される充電電流を制御するようにインバータ40を制御する機能を備える。
【0023】
判定手段A2は、セルスイッチオンSsの操作(例えばキー操作)によるエンジン始動(手動始動)を判定すると第1判定信号S1を出力する。更に、コントローラ30で行っている不図示のアイドルストップ制御において出力されるエンジン始動時(自動始動)を判定すると、第2判定信号S2を出力する。
トルク特性制御手段A3は、所定の始動条件成立時に、第1判定信号S1を受けると、切り換えスイッチswu、swv、swwのソレノイドcu、cv、cwを非励磁(オフ)に切り換える。これにより、電機子コイルLu〜Lwを第1巻数n1に切り換えて後述の高トルク低回転型の第1トルク特性でスタータジェネレータ24を駆動する。
【0024】
一方、第2判定信号S2を受けると、切り換えスイッチswu、swv、swwのソレノイドcu、cv、cwを励磁(オン)に切り換える。これにより、コイルを第2巻数n2に切り換えて後述の低トルク高回転型の第2トルク特性でスタータジェネレータ24を駆動する機能を備える。
ここで、所定の始動条件は、車速Vc<V0(予め設定される停車判定値)で、ブレーキスイッチSbkがオンで、変速段がニュートラルレンジかDレンジである場合として設定され、これらデータは、車速センサ37、ブレーキスイッチ38、変速段検出スイッチ39より入力される。
【0025】
トルク特性制御手段A3は、第1判定信号S1を受けると、図3に示すように、ソレノイドcu、cv、cwを非励磁(オフ)に切り換え、電機子コイルLu〜Lwを第1巻数n1に切り換えるよう切り換え制御する。これにより、インバータ制御手段A1によりスタータジェネレータ24を始動制御するにあたり、後述する高トルク低回転型の第1トルク特性でスタータジェネレータ24を始動させることができる。
ここで、第1判定信号S1に応じた特性は、図4(a)に示すように、高トルク域(0〜300Nm)で低回転数域(0〜200rpm)で始動駆動する特性として設定される。ここでエンジン始動処理がなされる場合、必要とされる始動時トルクはクランク軸9の回転数を所定の回転数に到達させるのに必要な加速トルクとエンジン1が発生するフリクショントルクとの和を上回る必要がある。
【0026】
ここで、第1判定信号S1を受けるのは、主に、冷態始動のようにフリクショントルクが大きな場合であって、特に、始動時トルクが比較的大きく必要とされることより、高トルク低回転型の第1トルク特性(図4(a)参照)でスタータジェネレータ24を駆動し、緩やかではあるが、確実に始動処理を行うことができる。
なお、暖気完了後であってフリクショントルクが低い場合でも、セルスイッチオン操作でのエンジン始動を判定する第1判定信号S1を受けた場合、高トルク低回転型の第1トルク特性でスタータジェネレータ24を駆動する。この場合、運転者は高トルク低回転型の始動モードで、比較的緩やかな始動を行うことで、キー操作でのエンジン始動による違和感を受けず始動処理を行える。
【0027】
トルク特性制御手段A3は、第2判定信号S2を受けると、図3に示すように、ソレノイドcu、cv、cwを励磁(オン)に切り換え、電機子コイルLu〜Lwコイルを第1巻数n1より少ない第2巻数n2に切り換えるよう切り換え制御する。これにより、インバータ制御手段A1によりスタータジェネレータ24を始動制御する間に、後述する低トルク高回転型の第2トルク特性でスタータジェネレータ24を始動させることができる。
【0028】
第2トルク特性は、図4(b)に示すように、低トルク域(0〜60Nm)で高回転数域(0〜800rpm)で始動駆動する特性として設定される。ここでエンジン始動処理がなされる場合、エンジン1暖気後の停車時における一時ストップ状態にあり、エンジン1のフリクショントルクは比較的小さい。このため、必要とされる始動時トルクは比較的小さくてよい。一方、一時ストップ状態での再発進時には、できるだけ迅速にエンジン1を始動し、車両を発進させる必要がある。
ここで第2判定信号S2を受けると、低トルク高回転型の第2トルク特性でスタータジェネレータ24を早期に高回転数域(0〜800rpm)に引き上げ、始動駆動でき、迅速にエンジン1を始動し、車両を発進させることができる。
【0029】
次に、コントローラ30が行う始動制御処理を図5のアイドルストップ始動制御処理のフローチャートに沿って説明する。なお、不図示のメインルーチンにおいて、予め、アイドルストップ制御処理が行われており、そのアイドルストップ制御に関連して、このアイドルストップ始動制御処理ルーチンはコントローラ30により所定の時間周期で実施される。
コントローラ30の制御処理がアイドルストップ始動制御ルーチンへ移行すると、先ずステップs1において、オン操作(キー操作)信号Ssと、車速Vcと、ブレーキ信号Sbkと、変速段信号Dhsと、その他のエンジン運転情報が入力され、所定記憶エリアにストアされる。
【0030】
ステップs2では不図示のメインルーチンのアイドルストップ制御によって適時に出力されるアイドルストップ信号Sadが入力か否かを判断し、入力されるとステップs3に進み、燃料カット信号を出力し、不図示のメインルーチン側での燃料カット処理が成される。ステップs5では遊星歯車機構10のバンドブレーキ22をオフ(開放)し、サンギア部材22を空転状態に切り換える。
これに応じてステップs6では、サンギア部材23がフリーでプラネタリギアセット10がニュートラル状態に切換わる状態に達する。これによってスタータジェネレータ24の動力はクランク軸9には伝達されず補機類26のみを効率良く駆動することができる(図2の符号w1の線図参照)。
【0031】
ステップs6の後、一旦不図示のメインルーチンにリターンし、再度、ステップs2に達するとする。ここで、アイドルストップ信号入力は非入力に切り換わったことを判断するとステップs4に進む。ここでは、燃料カット信号を解除し、不図示のメインルーチン側で燃料カット処理を解除し、始動制御に入る。
ステップs7に達すると、現在の車速Vcが所定の停車判定値V0を下回るか判断し、停車時にはステップs8に進み、走行と判断されるとステップs9に進む。
【0032】
停車時にステップs8に達すると、ここでは、エンジン回転速度Neが始動判定回転速度Ne0(例えば、400rpm)を上回るか判断し、始動回転速度Ne0に達する前は、ステップs10に、達するとステップs9に進む。
【0033】
始動前にステップs10に達すると、ここでは遊星歯車機構10のバンドブレーキ22をオン(締結)し、サンギア部材22を駆動し、遊星歯車機構10を減速作動状態に切り換える。これに応じてステップs11では、スタータジェネレータ24をモータとして作動させ、エンジン1を始動する。
これに続き、ステップs12では第1判定信号(セルスイッチオンSsの操作に応じた手動始動の場合)S1か、第2判定信号(アイドルストップ制御に応じた自動始動の場合)s2のいずれの入力を受けているかを判定し、第1判定信号S1ではステップs13に、第2判定信号s2ではステップs14に進む。
【0034】
ステップs13では第1判定信号S1を受けていることより、ソレノイドcu、cv、cwを非励磁(オフ)に切り換え、電機子コイルLu〜Lwを第1巻数n1に切り換える。これにより、インバータ制御手段A1により始動制御されているスタータジェネレータ24は、高トルク低回転特性(図4(a)参照)で始動する。この場合、冷態始動(手動始動の場合)のようにフリクショントルクが大きくて、必要とされる始動時トルクが比較的大きな場合でも、高トルク低回転型の第1トルク特性でスタータジェネレータ24を容易に駆動し、緩やかではあるが、確実に始動処理を行うことができる。
【0035】
なお、暖気完了後に、セルスイッチオン操作(キー操作)Sbkでのエンジン始動を判定し、第1判定信号S1を受けたような場合において、高トルク低回転型の第1トルク特性でスタータジェネレータ24が駆動されたとする。この場合であっても、運転者はセルスイッチオン操作をしており、高トルク低回転型の始動モードで、比較的緩やかな始動を行うことと成るので、運転者が違和感を受けず始動処理を行うことができる。
【0036】
一方、ステップs12よりステップs14に達すると、ここでは、アイドルストップ制御に伴う自動始動として第2判定信号S2を受けていることより、ソレノイドcu、cv、cwを励磁(オン)に切り換え、電機子コイルLu〜Lwを第2巻数n2に切り換える。これにより、インバータ制御手段A1により始動制御されているスタータジェネレータ24は、図4(b)に示すように、低トルク域(0〜60Nm)であって高回転数域(0〜800rpm)において始動する。この際、エンジン1は暖気後の一時ストップ状態にあり、エンジン1のフリクショントルクは比較的小さいため、必要とされる始動時トルクは比較的小さくてよい。このため、低トルク高回転型の第2トルク特性(図4(b)参照)で、スタータジェネレータ24を早期に高回転数域(0〜800rpm)に引き上げ始動駆動でき、迅速にエンジン1を始動し、一時停止状態にある車両を迅速に再発進させることができる。
【0037】
ステップs13あるいはステップs14を終了後に、一旦メインルーチンに戻り、再度ステップs2、ステップs7を経て、あるいはステップs7,8を経てステップs9に達したとする。
【0038】
このステップs9では、エンジン始動後、あるいは車両走行後であり、ここではバッテリ31の充電要求時か、即ち、バッテリ31の高端子電圧Vbが過充電しきい値Vb1を上回るか否か判断する。ここで、バッテリ31の充電要求時ではステップs15に、非要求時ではステップs16に進む。
バッテリ31充電要求時でステップs15に達すると、ここでは、車速Vcがスタータジェネレータ24を発電機として作動させるに適した回生車速範囲内にあるか否かを判断する。車速Vcが回生車速範囲を外れるような場合は、スタータジェネレータ24を発電機として作動させるにはスタータジェネレータ24の回転が高過ぎると判断されるため、ステップs16に飛んで遊星歯車機構10のバンドブレーキ22をオフ(解除)し、サンギア部材22をフリー状態とし、スタータジェネレータ24が発電機として作動しない状態に切換える。
【0039】
車速が回生車速範囲内にあればステップs15からステップs17に進み、遊星歯車機構10のバンドブレーキ22をオフ(解除)状態に切換える。この場合、ステップs18に進み、スタータジェネレータ24を発電機として作動させる。
この場合、エンジン1の駆動力は、図2に符号w3で示すようにクランク軸9と一体のキャリア16の回転がそのまま第1のワンウェイクラッチ20を介してクランクプーリー14を回転させるので、ベルト23を介してスタータジェネレータ24および補機類26を駆動する。したがって、スタータジェネレータ24を発電機として作動させて、動力を回生してバッテリ31を充電することができる。
【0040】
なお、上述したステップs13、s14のところにおいて、スタータジェネレータ24の駆動力が減速されてクランク軸9を回転させ、エンジン1が始動し、エンジン1が自らクランク軸9を回転させることができる完爆状態となると、エンジン回転速度がスタータジェネレータ24による回転を上回ると、ステップs9側に進むので、回生可能な状態に自動的に移行できる。
【0041】
以上のように、図1のアイドルストップ車のエンジン始動制御装置によれば、第1判定信号S1(手動始動)を受けると、スタータジェネレータ24のコイルの巻数を第1巻数n1に保持して高トルク低回転型の第1トルク特性で、確実な始動を行える。更に、アイドルストップシステムによるエンジン始動時(自動始動)に第2判定信号S2を受けると、スタータジェネレータ24のコイルの巻数n2を第1巻数n1より少ない第2巻数n2に切り換え保持して低トルク高回転型の第2トルク特性で、迅速な始動を行える。
【0042】
ここでは、特に、通常車載されるバッテリ31(14V)を変えることなく、単一のバッテリ31を用いて、コイルの巻数の切換のみで始動条件に適した第1、第2トルク特性を選択してエンジン始動を適確に行うことができる。更に、アイドルストップシステムによる一時停止時においてセルスイッチ34(例えばキー操作)でのエンジン始動がなされたとしても、この時には暖気完了後でも高トルク低回転型の第1トルク特性(図4(a)参照)で緩やかに始動できるので、運転者が違和感をうけることがない。
【0043】
更に、スタータジェネレータ24の固定子側である電機子鉄心に巻回された電機子コイルの巻数が比較的大きい第1巻数n1と比較的小さい第2巻数n2に切り換える構成なので、切り換え手段である切り換えスイッチswu、swv、swwを固定子側に比較的容易に接続でき、容易に始動条件に適した第1、第2トルク特性を選択してエンジン始動を適確に行うことができる。
【0044】
上述のところにおいて、エンジン1側クランク軸9とスタータジェネレータ24の駆動軸241とは遊星歯車機構10及びベルト伝達機構を介して断続切り換え可能に構成されていたが、この内、遊星歯車機構10に換えて、不図示の電磁クラッチを用いてエンジンのクランク軸9とスタータジェネレータ24側の断続制御を行うように構成されても良く、この場合も、本発明の効果を図1のアイドルストップ車のエンジン始動制御装置とほぼ同様に得ることができる。
尚、本実施例ではアイドルストップ車について説明をしたが、それに限られることなく、ハイブリット車のモータによるエンジン始動に本発明のエンジン始動制御装置を用いても良い。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明の一実施形態としてのアイドルストップ車のエンジン始動制御装置を備えたエンジン1の概略構成図である。
【図2】図1のエンジン始動制御装置が用いる遊星歯車機構10の概略構成図である。
【図3】図1のエンジン始動制御装置が用いるスタータジェネレータ24の概略回路図である。
【図4】図1のエンジン始動制御装置の制御特性を示し、(a)は高トルク低回転型の第1トルク特性を、(b)は低トルク高回転型の第2トルク特性を示す特性線図である。
【図5】図1のエンジン始動制御装置のコントローラ30が行う始動制御ルーチンのフローチャートである。
【符号の説明】
【0046】
1 エンジン
24 スタータジェネレータ
244 磁石回転子
247 電機子鉄心
25 プーリー
31 バッテリ
n1 第1巻数
n2 第2巻数
swu、swv、sww 切り換えスイッチ(切り換え手段)
A2 判定手段
A3 トルク特性制御手段
S1 第1判定信号
S2 第2判定信号
Ss キー操作
Lu〜Lw 電機子コイル
Lu〜Lw 電機子コイル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動始動と手動始動を有するエンジン始動制御装置であって、
バッテリから給電されるコイルを有すると共に、同コイルが所定の第1巻数を保持する状態と同第1巻数より少ない第2巻数を保持する状態とに切り換える切り換え手段が接続されたスタータジェネレータと、
手動始動でのエンジン始動を判定すると第1判定信号を、自動始動によるエンジン始動を判定すると第2判定信号をそれぞれ出力する判定手段と、
所定の始動条件成立時に、前記第1判定信号を受けると前記コイルを前記第1巻数に切り換えて高トルク低回転型の第1トルク特性で前記スタータジェネレータを駆動し、前記第2判定信号を受けると前記コイルを前記第2巻数に切り換えて低トルク高回転型の第2トルク特性で前記スタータジェネレータを駆動するトルク特性制御手段と、
を備えたエンジン始動制御装置。
【請求項2】
請求項1記載のエンジン始動制御装置において、
前記バッテリから給電されるコイルは、前記エンジンのクランク軸に取り付けられる磁石回転子に対向する電機子鉄心に巻回された電機子コイルである、ことを特徴とするエンジン始動制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−175172(P2008−175172A)
【公開日】平成20年7月31日(2008.7.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−10672(P2007−10672)
【出願日】平成19年1月19日(2007.1.19)
【出願人】(000006286)三菱自動車工業株式会社 (2,892)
【Fターム(参考)】