説明

エンジン排気浄化装置を備えたコンバイン

【課題】本発明は、コンバインの作業状態やディーゼルエンジンの負荷状態を監視しながらタイミング良く排気ガス浄化装置の再生駆動を行うようにすることが課題である。
【解決手段】コンバインに搭載したディーゼルエンジン16の排気ガスをDOC26とDPF27で浄化し、DPF27に設けた排気圧センサ42の排気詰まり検出によってDPF27を高温にして再生処理を行う排気浄化装置において、エンジンルーム温度センサ41かラジエータ水温センサ50或いは排気温度センサ43のどれかが所定の再生停止温度以上を検出すると、DPF27の再生処理を中断してラジエータ21の冷却ファン24を逆回転させてラジエータ21の目詰まり除去を行うよう制御したことを特徴とするコンバインのエンジン排気処理装置とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンの排気浄化装置を備えたコンバインに関する。
【背景技術】
【0002】
ディーゼルエンジンでは、排気ガスを浄化するために、排気ガス通路に配置した酸化触媒コンバータ(以下、「DOC」という)の酸化触媒の作用により排気ガス中のNOからNO2を生成し、このNO2を酸化材としてディーゼルパティキュレートフィルタ(以下、「DPF」という)で捕集した排気ガス中の黒煙などの粒子状物質を焼却除去している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平10−121939号公報
【特許文献2】特許2006−97652号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
コンバインに搭載した排気浄化装置の再生処理を行うにあたっては、圃場に植生する穀稈や脱穀後に機体後部から圃場に拡散させた藁屑の発火の危険性を考慮する必要がある。
すなわち、再生処理によって高温となった排気ガスによって穀稈や藁屑の自然発火温度に至ることがないように再生制御を行う必要があるのである。
【0005】
そこで、本発明は、コンバインの作業状態やディーゼルエンジンの負荷状態を監視しながらタイミング良く排気ガス浄化装置の再生駆動を行うようにすることが課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記本発明の課題は、次の技術手段により解決される。
請求項1記載の発明は、ディーゼルエンジン(16)の外側に該ディーゼルエンジン(16)を冷却するラジエータ(21)を設け、該ラジエータ(21)の外側に濾過体(58)を設け、前記ディーゼルエンジン(16)とラジエータ(21)との間に冷却ファン(24)を設け、前記濾過体(58)の外側からラジエータ(21)側へ冷却風を吸入するべく冷却ファン(24)を正回転で駆動する状態と、濾過体(58)の内側から外側へ送風するべく冷却ファン(24)を逆回転で駆動する状態とに切換可能に構成し、前記ディーゼルエンジン(16)の排気ガスを排気管(28)の排気経路の中間部位に設けたDOC(26)とDPF(27)で浄化し、DPF(27)の入口側及び出口側に夫々設けた排気圧センサ(42,42)によって検出される圧力の差が設定値よりも大きい場合に、DPF(27)を昇温させて該DPF(27)の再生処理を行う構成とし、該DPF(27)の再生処理中において、前記ディーゼルエンジン(16)の近傍に設けたエンジンルーム温度センサ(41)又は前記ラジエータ(21)の水温を検出するラジエータ水温センサ(50)又は排気管(28)に設けた排気温度センサ(43)の何れかが各別に設定された再生停止温度以上の温度を検出した場合に、当該DPF(27)の再生処理を中断すると共に前記冷却ファン(24)を逆回転で駆動する状態に自動的に切換える構成としたことを特徴とするエンジン排気浄化装置を備えたコンバインとした。
【0007】
請求項2記載の発明は、収穫穀稈の種類を指定する収穫物指定手段(47)を設け、該収穫物指定手段(47)で指定した収穫物に応じて前記再生停止温度を変更する構成としたことを特徴とする請求項1記載のエンジン排気浄化装置を備えたコンバインとした。
【0008】
請求項3記載の発明は、機体の旋回操作を行う操向レバー(33)と、該操向レバー(33)の操作位置を検出する旋回センサ(44)と、走行装置(39)を前進方向および後進方向に変速操作する変速レバー(59)と、該変速レバー(59)の操作位置を検出する変速センサ(45)を設け、該変速センサ(45)によって変速レバー(59)の後進操作が検出されるか、又は、前記旋回センサ(44)によって旋回操作が検出された場合に、前記DPF(27)の再生処理を中断すると共に、前記冷却ファン(24)を逆回転で駆動する状態に自動的に切換える構成としたことを特徴とする請求項1又は2記載のエンジン排気浄化装置を備えたコンバインとした。
【0009】
請求項4記載の発明は、前記排気温度センサ(43)を排気管(28)終端部の排出口の近傍に設けたことを特徴とする請求項1または請求項2又は請求項3に記載のエンジン排気浄化装置を備えたコンバインとした。
【発明の効果】
【0010】
請求項1記載の発明によれば、コンバインに搭載したディーゼルエンジン(16)の排気ガスがDOC(26)とDPF(27)で浄化され、DPF(27)に詰まりが発生するとDPF(27)を昇温させて再生処理が行われるが、この再生処理中に、エンジンルーム温度センサ(41)又はラジエータ水温センサ(50)或いは排気温度センサ(43)により検出される温度のうち何れかが各別に設定された再生停止温度以上になった場合、この再生処理を中断し冷却ファン(24)を逆回転させてラジエータ(21)及び濾過体(58)の目詰まりを解消して、ラジエータ(21)の冷却効率を向上させることで、ディーゼルエンジン(16)の温度を低下させ、もって、排気による火災の危険性を低下させることができる。
【0011】
請求項2記載の発明によれば、上記請求項1記載の発明による効果に加えて、DPF(27)の再生処理時における前記再生停止温度を、コンバインで収穫する穀物の種類に応じて設定し、燃え易い穀稈を収穫する際の火災の危険性を防止するとともに、比較的燃えにくい穀物の収穫時には、DPF(27)による再生を効率的に行なうことができ、安全性を高めるとともにディーゼルエンジン(16)の出力低下を防ぐことができる。
【0012】
請求項3記載の発明によれば、上記請求項1又は請求項2記載の発明による効果に加えて、コンバインが後進または旋回してDPFの再生処理時の高温排気ガスが圃場の穀稈に吹き付けられる可能性がある場合において、この排気ガスの温度を低下させるので、火災の危険性を更に低下させることができる。
【0013】
請求項4記載の発明によれば、上記請求項1又は請求項2又は請求項3記載の発明による効果に加えて、機外に排出される排気ガスの温度を正確に検出することができ、DPF(27)の再生効率の向上と火災に対する安全性とを両立させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施例を示す一部を破断したコンバインの全体側面図である。
【図2】本発明の実施例を示す一部をコンバインの全体正断面図である。
【図3】原動部の動力伝動線図である。
【図4】自動制御の制御ブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態を図面に示す実施例を参照しながら説明する。
コンバインは、クローラ走行装置(走行装置)39上の車台フレーム40に脱穀装置35を搭載し、機体前部に設ける刈取搬送装置34で刈り取る穀稈を脱穀装置35で脱穀してグレンタンク36に一時的に貯留する。
【0016】
脱穀装置35の前右側に操縦部31を設け、この操縦部31に設けた座席32に座った作業者が変速レバー59を操作してクローラ走行装置39の駆動速度を変速し、操向レバー33等を操作して操向する。
【0017】
操縦部31の左下部にエンジンルーム30を設け、ディーゼルエンジン16を搭載している。このディーゼルエンジン16の第一排気管25からディーゼルエンジン16の後部上下に設置するDOC26とDPF27を通して車台フレーム40の前後方向に沿って設ける第二排気管28へ連結してその排気口を機体後方へ向けて開口している。
【0018】
エンジンルーム30内には空気の温度を検出するエンジンルーム温度センサ41(図4)を設け、DPF27には排気の入り口側圧と出口側圧の差圧を検出する排気圧センサ42(図4)を設け、第二排気管28の排気口の近くに排気温度センサ43を設け、変速レバー59の操作量を検出する変速センサ45と操向レバー33の操作量を検出する旋回センサ44からなる操縦検出手段46(図4)を設けている。また、操向レバー33の近くには、収穫物が米であるか麦であるかを設定する収穫物設定手段である収穫設定ダイヤル47(図4)を設けている。
【0019】
図3に示す伝動線図で、エンジン16のエンジン出力軸1に第一出力プーリ17を固着し、エンジン16内のウオーターポンプの駆動軸を機外に突出させたウオーターポンプ駆動軸20に固着のポンプ入力プーリ19とギヤケース6の入力軸2の入力プーリ18との間に第一ベルト48を巻き掛けて、ギヤケース6のファン側出力軸5に固着のファン駆動プーリ14と冷却ファン24のファンプーリ15との間にファン駆動ベルト49を巻き掛けている。
【0020】
冷却ファン24は、支持軸としてのウオーターポンプ駆動軸20の軸端に軸支し、この冷却ファン24の外側にラジエータ21を配置している。なお、支持軸20は単独の軸であっても良い。ラジエータ21の外側には、冷却ファン24を正回転させた際に吸入される冷却風の塵埃を濾過する濾過体58を設けている。
【0021】
ギヤケース6内には、入力軸2に第一ギヤ7と第二ギヤ9を多板クラッチ23で伝動を入・切可能に装着し、入力軸2のケース外へ突出した軸端に継手22で発電機3の発電軸4を連結して発電機3を常時駆動する。
【0022】
ギヤケース6内のファン側出力軸5に第三ギヤ8と第四ギヤ11を遊嵌し、この第三ギヤ8と第四ギヤ11の間に設ける爪クラッチ12を多板クラッチプレートを備えたシフタ13でスライドすることで回転を滑らかにファン側出力軸5に伝動する。第三ギヤ8は第一ギヤ7と噛み合い逆回転し、第四ギヤ11はカウンタギヤ10を介して第二ギヤ9と噛み合って正回転する。従って、爪クラッチ12を第三ギヤ8に噛み合わすとファン側出力軸5が逆回転し、第四ギヤ11に噛み合わすとファン側出力軸5が正回転することになる。なお、シフタ13は、ギヤケース6の幅中央に位置し、自動制御でシフト操作をする。
【0023】
ラジエータ21には、ラジエータ水温センサ50(図4)を設けている。
図4は、自動制御の制御ブロック図である。
DPF27の入口圧と出口圧を検出してその差圧から粒子状物質の詰まり具合を判定するために排気圧センサ42からその差圧がコントローラ51に入力し、差圧が所定圧以上であるとDPF再生駆動54が出力されてディーゼルエンジン16の回転を上昇させて排気温度を上昇させることで、DPF27のフィルターに詰まる粒子状物質を燃焼させて再生する。
【0024】
さらに、エンジンルーム温度センサ41からエンジンルーム30内の空気温度とラジエータ水温センサ50からラジエータ21の水温と排気温度センサ43から排気の温度がコントローラ51に入力し、どれらかの温度がそれぞれに設定する再生停止温度に達するとDPF再生駆動54を停止すると共にエンジン出力制御55に出力低下を指示してディーゼルエンジン16の温度を上昇させないようにすると共にファン正駆動53を停止してファン逆駆動52を出力し前記シフタ13をシフトして冷却ファン24を逆回転させてラジエータ21に詰まる粉塵を吹き飛ばすようにする。
【0025】
さらに、旋回センサ44から旋回操作が検出されたり変速センサ45から後進操作が検出されたりすると、DPF再生駆動54を停止すると共にエンジン出力制御55に出力低下を指示してディーゼルエンジン16の温度を上昇させないようにする。
【0026】
また、収穫設定ダイヤル47で収穫物が米か麦を設定するが、この収穫物によって前記の再生停止温度を変更する。すなわち、収穫物が麦の場合には米の場合よりも穀稈が燃え易いために、再生停止温度を低く設定して第二排気管28から排出される排気ガスの温度を低くする。
【0027】
また、旋回センサ44が旋回操作を検出したり変速センサ45が後進操作を検出したりすると、機体の後方へ向かう第二排気管28の排気口が植立穀稈に向かう可能性があるために、DPF再生駆動54が行われていると中断してディーゼルエンジン16の出力を低下させて温度の高い排気ガスを穀稈に吹き付けないようにする。
【0028】
走行モード設定ダイヤル56は、エンジン出力を標準・オート・グリーンに切換え、標準では高出力、オートでは燃費が最良になる出力とし、グリーンでは低燃費になる出力となるようにエンジン出力制御55に出力する。尚、この走行モードの切換を無段変速レバーの変速位置で行うようにしても良い。
【0029】
枕扱ぎスイッチ57は刈り取った穀稈を作業者が脱穀装置35へ直接供給する場合に押すスイッチで、この枕扱ぎスイッチ57を押すと低燃費のグリーンモードでエンジン出力を低下させる。
【符号の説明】
【0030】
16 ディーゼルエンジン
21 ラジエータ
24 冷却ファン
26 DOC
27 DPF
28 排気管
41 エンジンルーム温度センサ
42 排気圧センサ
43 排気温度センサ
46 操縦検出手段
47 収穫物設定手段
50 ラジエータ水温センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ディーゼルエンジン(16)の外側に該ディーゼルエンジン(16)を冷却するラジエータ(21)を設け、該ラジエータ(21)の外側に濾過体(58)を設け、前記ディーゼルエンジン(16)とラジエータ(21)との間に冷却ファン(24)を設け、前記濾過体(58)の外側からラジエータ(21)側へ冷却風を吸入するべく冷却ファン(24)を正回転で駆動する状態と、濾過体(58)の内側から外側へ送風するべく冷却ファン(24)を逆回転で駆動する状態とに切換可能に構成し、
前記ディーゼルエンジン(16)の排気ガスを排気管(28)の排気経路の中間部位に設けたDOC(26)とDPF(27)で浄化し、DPF(27)の入口側及び出口側に夫々設けた排気圧センサ(42,42)によって検出される圧力の差が設定値よりも大きい場合に、DPF(27)を昇温させて該DPF(27)の再生処理を行う構成とし、
該DPF(27)の再生処理中において、前記ディーゼルエンジン(16)の近傍に設けたエンジンルーム温度センサ(41)又は前記ラジエータ(21)の水温を検出するラジエータ水温センサ(50)又は排気管(28)に設けた排気温度センサ(43)の何れかが各別に設定された再生停止温度以上の温度を検出した場合に、当該DPF(27)の再生処理を中断すると共に前記冷却ファン(24)を逆回転で駆動する状態に自動的に切換える構成としたことを特徴とするエンジン排気浄化装置を備えたコンバイン。
【請求項2】
収穫穀稈の種類を指定する収穫物指定手段(47)を設け、該収穫物指定手段(47)で指定した収穫物に応じて前記再生停止温度を変更する構成としたことを特徴とする請求項1記載のエンジン排気浄化装置を備えたコンバイン。
【請求項3】
機体の旋回操作を行う操向レバー(33)と、該操向レバー(33)の操作位置を検出する旋回センサ(44)と、走行装置(39)を前進方向および後進方向に変速操作する変速レバー(59)と、該変速レバー(59)の操作位置を検出する変速センサ(45)を設け、該変速センサ(45)によって変速レバー(59)の後進操作が検出されるか、又は、前記旋回センサ(44)によって旋回操作が検出された場合に、前記DPF(27)の再生処理を中断すると共に、前記冷却ファン(24)を逆回転で駆動する状態に自動的に切換える構成としたことを特徴とする請求項1又は2記載のエンジン排気浄化装置を備えたコンバイン。
【請求項4】
前記排気温度センサ(43)を排気管(28)終端部の排出口の近傍に設けたことを特徴とする請求項1または請求項2又は請求項3に記載のエンジン排気浄化装置を備えたコンバイン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−157255(P2012−157255A)
【公開日】平成24年8月23日(2012.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−17335(P2011−17335)
【出願日】平成23年1月29日(2011.1.29)
【出願人】(000000125)井関農機株式会社 (3,813)
【Fターム(参考)】