説明

エンボス外観を有するフッ素樹脂塗装金属板の製造方法

【課題】 意匠性の高いエンボス外観を有するフッ素塗装金属板を提供する。
【解決手段】 本発明は、塗装前処理を施した下地金属板に、プライマー塗膜を形成し、その上面に顔料や添加剤を配合したポリフッ化ビニリデン樹脂/アクリル樹脂系塗料を乾燥膜厚で10〜30μmになるように塗布し、融点以上の温度で加熱処理した後、融点以上の温度を保ったまま、エンボス加工したロールで押圧し、ただちに急冷して当該エンボス模様を固定させることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、意匠性の高いエンボス外観を有するフッ素樹脂塗装金属板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
塩ビ鋼板はエンボス加工を施すことができ、優れた耐久性を有することから、多くの内外装壁材、ドア材、役物などに使用されている。しかしながら、塩ビ樹脂は環境負荷物質として取り扱われる動きもあり、塩ビ樹脂を代替材料に置き換える機運が高まっている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
塩ビ鋼板の持つエンボス外観はその肉持ち感により高耐久イメージが増す効果がある。そのため、塩ビ代替材料にもエンボス外観が要求される。そして、塩ビ鋼板と同様のエンボス外観を有するポリプロピレン樹脂フィルムラミネート金属板がこの代替材料として挙げられる(たとえば、特開2004−243580号公報)。しかしながら、ポリプロピレン樹脂は樹脂に耐候処方を施しても、塩ビ樹脂並みの耐候性を得ることは難しいという問題がある。さらに、フィルムをラミネートすることから、幅、厚み毎にフィルムを準備する必要があり、特に、塩ビゾル塗料を塗装する塩ビ鋼板とのコスト差は歴然である。
【特許文献1】特開2004−243580号公報
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明は、このような問題を解決すべく案出されたものであり、ポリフッ化ビニリデン樹脂/アクリル樹脂塗膜にエンボス加工が施されているエンボス外観を有するフッ素樹脂塗装金属板を提供することを目的とする。
【0005】
本発明によるエンボス外観を有する塗装金属板は、その目的を達成するため、塗装前処理を施した下地金属板に、プライマー塗膜を形成し、その上面に顔料や添加剤を配合したポリフッ化ビニリデン樹脂/アクリル樹脂系塗料を乾燥膜厚で10〜30μmになるように塗布し、融点以上の温度で加熱処理した後、融点以上の温度を保ったまま、エンボス加工したロールで押圧し、ただちに急冷して当該エンボス模様を固定させることを特徴とするエンボス外観を有するフッ素樹脂塗装金属板の製造方法とした。
【0006】
塗装金属板の中で、一般的にフッ素塗装金属板と呼ばれるポリフッ化ビニリデン樹脂/アクリル樹脂塗膜を設けた塗装金属板はポリフッ化ビニリデン樹脂/アクリル樹脂塗膜に依存する高耐久性、高耐候性から長期耐久材料として位置付けられる非常に優れた塗装金属板である。しかしながら、ポリフッ化ビニリデン樹脂/アクリル樹脂塗膜は厚くても30μm程度であり、塩ビ鋼板の塗膜厚さが200μm前後であることを考えると、ポリフッ化ビニリデン樹脂/アクリル樹脂塗膜にエンボス加工を施すことはエンボス外観を求める上で十分ではないと考えられ、これまで検討されてこなかった。
【発明の効果】
【0007】
発明者らは、ポリフッ化ビニリデン樹脂/アクリル樹脂が塩ビ樹脂と同じく熱可塑性樹脂であることに着目して、エンボス付与について鋭意検討した。その結果、ポリフッ化ビニリデン樹脂/アクリル樹脂塗膜のエンボス深さが塩ビ樹脂塗膜のそれよりも桁違いに浅いにも拘らず、塩ビ樹脂よりも硬質塗膜であるが故に、エンボスが鋭利に刻まれることから、塩ビ鋼板に劣らないエンボス外観を発現することができた。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明によるエンボス外観を有するフッ素樹脂塗装金属板は、塗装前処理を施した下地金属板上に、プライマー塗膜を形成し、その上面に、顔料や添加剤を配合したポリフッ化ビニリデン樹脂/アクリル樹脂塗料を塗布、焼付け、塗膜の溶融段階でエンボス加工を施し、急冷(水冷)することによって得ることができる。
【0009】
ポリフッ化ビニリデン樹脂/アクリル樹脂塗膜が設けられる下地金属板には、普通鋼、亜鉛めっき鋼板、アルミニウムめっき鋼板、亜鉛-アルミニウム合金めっき鋼板、化成処理鋼板、ステンレス鋼板、アルミニウム板、アルミニウム合金板、銅板等、種々の金属板が使用される。下地金属板は、常法に従って適宜研磨、脱脂、酸洗等を経てリン酸塩処理、クロメート処理、クロムフリー処理等の塗装前処理が施される。そして、下地金属板にプライマー塗膜、次いで、顔料や添加剤を配合したポリフッ化ビニリデン樹脂/アクリル樹脂塗膜が設けられる。
【0010】
下地金属板の上に設けるプライマー塗膜としては、例えば、エポキシ樹脂塗膜、ポリエステル樹脂塗膜、アクリル樹脂塗膜、フェノキシ樹脂塗膜等を用いることができる。また、着色顔料、防錆顔料、体質顔料、および種々の添加剤等を配合することができる。
【0011】
ポリフッ化ビニリデン樹脂/アクリル樹脂の樹脂比率は特に限定されるものではないが、4/6〜8/2の範囲が耐候性、耐久性、また、塗装作業性等から好ましい。アクリル樹脂としては、メタクリル酸メチルのホモポリマー、もしくは、メタクリル酸メチルを主モノマーとし、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸ブチルなどのメタクリル酸アルキル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸ブチルなどのアクリル酸アルキル、スチレン、アルキルビニルエーテルなどのモノマーの少なくとも1種以上をコモノマーとするコポリマーを挙げることができる。
【0012】
ポリフッ化ビニリデン樹脂/アクリル樹脂塗膜は、着色顔料、防錆顔料、体質顔料、および種々の添加剤を配合することができ、塗料を乾燥膜厚が10〜30μmとなるよう金属板表面に塗布し焼付ける。乾燥膜厚が10μm未満ではフッ素塗膜の隠蔽性が不十分となり、下地金属板が透ける虞があり、さらに、十分な紫外線遮蔽が為されないために、プライマー塗膜が紫外線劣化して、プライマー塗膜が下地金属板から剥がれる虞もある。逆に乾燥膜厚が30μmを越えることは、一般的な連続式塗装金属板製造設備で製造する際、フッ素塗装金属板の意匠感を損ねるワキが発生する虞があり、好ましくない。
【0013】
本発明におけるプライマー塗料、及び、ポリフッ化ビニリデン樹脂/アクリル樹脂塗料の塗布は、ロールコート法、カーテンフロー法等の常法によるものでよく、下地金属板に塗装、焼付けして当該塗膜を設ける。プライマー塗料の塗装、焼付け乾燥、そして、ポリフッ化ビニリデン樹脂/アクリル樹脂塗料の塗装、焼付け乾燥を繰り返して、フッ素塗装金属板を得ることができる。
【0014】
本発明では、ポリフッ化ビニリデン樹脂/アクリル樹脂塗膜が溶融段階にある状態で、例えば、エンボスロールを塗膜表面に押し当てて、エンボスパターンをポリフッ化ビニリデン樹脂/アクリル樹脂塗膜に刻み、直ちに、水冷してエンボス形態を固定する。ポリフッ化ビニリデン樹脂/アクリル樹脂塗膜はミクロ層分離形態を取る混合樹脂塗膜であり、アクリル樹脂の融点が80〜120℃程度、ポリフッ化ビニリデン樹脂の融点が165〜185℃であることから、エンボス加工温度は185℃以上で行うことが好ましい。なお、ポリフッ化ビニリデン樹脂/アクリル樹脂塗膜の焼付温度が225〜245℃程度であることから、当該塗膜を焼き付けた後の溶融段階でエンボス加工することが好ましい。なお、エンボス深さは上述したフッ素塗膜による隠蔽同様、隠蔽性ならびにその他に使用環境を鑑みるべきであり、エンボスロールを用いてエンボスを刻む場合、エンボスロールの圧下力でその深さを調整することができる。
【実施例1】
【0015】
厚さ0.5mmの溶融亜鉛めっき鋼板を湯洗後、Ti系クロムフリー塗装前処理を施し、エポキシ樹脂系プライマー塗料を乾燥膜厚で5μm塗付し、オーブンにて215℃×45秒間の焼付条件で焼付け乾燥し、直ちに水冷した。次いで、青色ポリフッ化ビニリデン樹脂/アクリル樹脂(メタクリル酸メチル−アクリル酸ブチルコポリマー)=7/3塗料を乾燥膜厚で22μm塗布し、オーブンにて235℃×60秒間の焼付条件で焼付け乾燥し、直ちに梨地エンボスロールを青色ポリフッ化ビニリデン樹脂/アクリル樹脂塗膜表面にシリンダー力12kgで圧下し、続いて、水冷してフッ素塗装金属板を得た。
得られたフッ素塗装金属板は梨地肌が明確に刻まれたエンボス外観を有した。断面顕鏡でエンボス深さを測定したところ、実際には10μm程度しかなかったが、エンボスのエッジ部位が非常に鮮明であることから、肉持ち感があった。
【実施例2】
【0016】
厚さ0.4mmの溶融55%アルミ−亜鉛めっき鋼板を脱脂後、Ti系クロムフリー塗装前処理を施し、エポキシ樹脂系プライマー塗料を乾燥膜厚で5μm塗付し、オーブンにて215℃×45秒間の焼付条件で焼付け乾燥し、直ちに水冷した。次いで、茶色ポリフッ化ビニリデン樹脂/アクリル樹脂(メタクリル酸メチルホモポリマー)=8/2塗料を乾燥膜厚で25μm塗布し、オーブンにて235℃×60秒間の焼付条件で焼付け乾燥し、直ちに皮シボ調エンボスロールを茶色ポリフッ化ビニリデン樹脂/アクリル樹脂塗膜表面にシリンダー力15kgで圧下し、続いて、水冷してフッ素塗装金属板を得た。
得られたフッ素塗装金属板は皮シボ肌が明確に刻まれたエンボス外観を有した。断面顕鏡でエンボス深さを測定したところ、実際には12μm程度しかなかったが、エンボスのエッジ部位が非常に鮮明であることから、肉持ち感があった。
【実施例3】
【0017】
厚さ0.4mmの溶融5%アルミ−亜鉛めっき鋼板を湯洗後、Ti系クロムフリー塗装前処理を施し、フェノキシ樹脂系プライマー塗料を乾燥膜厚で3μm塗付し、オーブンにて215℃×45秒間の焼付条件で焼付け乾燥し、直ちに水冷した。次いで、赤色ポリフッ化ビニリデン樹脂/アクリル樹脂(メタクリル酸メチルホモポリマー)=5/5塗料を乾燥膜厚で23μm塗布し、オーブンにて235℃×60秒間の焼付条件で焼付け乾燥し、直ちに砂目エンボスロールを赤色ポリフッ化ビニリデン樹脂/アクリル樹脂塗膜表面にシリンダー力30kgで圧下し、続いて、水冷してフッ素塗装金属板を得た。
得られたフッ素塗装金属板は砂目肌が明確に刻まれたエンボス外観を有した。断面顕鏡でエンボス深さを測定したところ、実際には6μm程度しかなかったが、エンボスのエッジ部位が非常に鮮明であることから、肉持ち感があった。
【産業上の利用可能性】
【0018】
環境負荷対応から、塩ビ鋼板の代替材料が検討されている中、塩ビ鋼板と同様の意匠性の高いエンボス外観を有する高耐久フッ素塗装金属板が低コストで得られる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
塗装前処理を施した下地金属板に、プライマー塗膜を形成し、その上面に顔料や添加剤を配合したポリフッ化ビニリデン樹脂/アクリル樹脂系塗料を乾燥膜厚で10〜30μmになるように塗布し、融点以上の温度で加熱処理した後、融点以上の温度を保ったまま、エンボス加工したロールで押圧し、ただちに急冷して当該エンボス模様を固定させることを特徴とするエンボス外観を有するフッ素樹脂塗装金属板の製造方法。






























【公開番号】特開2006−82061(P2006−82061A)
【公開日】平成18年3月30日(2006.3.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−272346(P2004−272346)
【出願日】平成16年9月17日(2004.9.17)
【出願人】(000004581)日新製鋼株式会社 (1,178)
【Fターム(参考)】