説明

オイルポンプのシール構造

【課題】シール性に優れ、組み付けが容易なオイルポンプのシール構造を提供する。
【解決手段】オイルポンプのケーシング70と、当該ケーシングに回転自在に支持される駆動軸54との間に設けられるオイルポンプのシール構造であって、駆動軸の外周に形成された少なくとも一つの円周溝83と、駆動軸の外周のうち円周溝を跨ぐ領域に摺接しつつ駆動軸を内挿し、ケーシングに保持される筒状部材84と、ケーシングに対する筒状部材の位置を規制する位置規制部材85と、筒状部材とケーシングとの間に圧縮変形状態で配置され、かつ、少なくとも一つの円周溝の径方向外方位置で筒状部材に当接し、筒状部材を駆動軸の側に付勢する環状の弾性部材86とを備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オイルポンプのケーシングと、当該ケーシングに回転自在に支持される駆動軸との間に設けられるオイルポンプのシール構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のオイルポンプのシール構造では、駆動軸の軸芯方向に沿う内周面形状が直線状の駆動軸挿入孔をケーシングに形成すると共に、駆動軸の外周面に形成した周溝に、駆動軸挿入孔の内周面に摺接させる筒状部材と、筒状部材と周溝底面との間に圧縮変形状態で配置されて、筒状部材を駆動軸挿入孔の内周面の側に付勢する環状の弾性部材とを入り込むように組み付けて構成されている(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第4081800号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来のオイルポンプのシール構造では、筒状部材と周溝底面との間に弾性部材を圧縮変形状態で配置し、この弾性部材の付勢力で、駆動軸の軸芯方向に沿う内周面形状が直線状の駆動軸挿入孔の内周面に筒状部材を圧接させる。このため、筒状部材と駆動軸との接触圧力が筒状部材の軸芯方向両側の自由端側ほど小さくなり、シール性を向上させ難い欠点がある。
また、内径が当該駆動軸の外径よりも小さい筒状部材と環状の弾性部材とを、駆動軸の外周面に形成した周溝に入り込むように組み付ける場合は、筒状部材と弾性部材とをその内径が駆動軸の外形よりも大きくなるように強制的に押し広げて当該駆動軸に被せる必要があり、筒状部材と弾性部材の組み付けに手間が掛かる欠点がある。
さらに、駆動軸の回転に伴って、筒状部材が弾性部材に対して相対回転すると、筒状部材と弾性部材との界面からオイルが漏れ出すおそれがある。
本発明は上記実情に鑑みてなされたものであって、シール性に優れ、組み付けが容易なオイルポンプのシール構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の第1特徴構成は、オイルポンプのケーシングと、当該ケーシングに回転自在に支持される駆動軸との間に設けられるオイルポンプのシール構造であって、前記駆動軸の外周面に形成された少なくとも一つの円周溝と、前記駆動軸の外周面のうち前記駆動軸の軸芯方向において前記円周溝と隣接する面、及びその面と前記円周溝の溝壁面との交差箇所に摺接しつつ前記駆動軸を内挿し、前記ケーシングに保持される筒状部材と、前記ケーシングに対する前記筒状部材の位置を規制する位置規制部材と、前記筒状部材と前記ケーシングとの間に圧縮変形状態で配置され、かつ、前記少なくとも一つの円周溝の径方向外方位置で前記筒状部材に当接し、前記筒状部材を前記駆動軸の側に付勢する環状の弾性部材とを備えた点にある。
【0006】
本構成のオイルポンプのシール構造であれば、駆動軸の外周面のうちの、駆動軸の軸芯方向において円周溝と隣接する面、及びその面と円周溝の溝壁面との交差箇所に摺接する筒状部材と、筒状部材とケーシングとの間に圧縮変形状態で配置され、かつ、少なくとも一つの円周溝の径方向外方位置で筒状部材に当接し、筒状部材を駆動軸の側に付勢する環状の弾性部材とを備えているので、筒状部材が駆動軸の外周面のうち上記交差箇所の近傍に対して強く圧接され、当該交差箇所の近傍における筒状部材と駆動軸との接触圧力を高めてシール性を向上させることができる。
また、筒状部材とケーシングとの間に弾性部材を配置し、筒状部材に駆動軸を内挿して組み付けることができるので、従来の筒状部材と弾性部材とを駆動軸の外周面に形成した周溝に入り込むように組み付ける場合に比べて、筒状部材や弾性部材の組み付け手間を軽減できる。
さらに、ケーシングに対する筒状部材の位置を規制する位置規制部材を備えているので、駆動軸の回転に伴って筒状部材が弾性部材に対して相対回転することがなく、筒状部材と弾性部材との界面から、あるいは、ケーシングと弾性部材との界面からオイルが漏れ出すおそれが少ない。
したがって、本構成であればシール性に優れ、組み付けが容易なシール構造を得ることができる。
【0007】
本発明の第2特徴構成は、前記溝壁面は、前記円周溝と隣接する面と鈍角で交差してなる点にある。
【0008】
本構成であれば、筒状部材に駆動軸を内挿するにあたって、円周溝と、駆動軸の外周面のうち円周溝と隣接する面との交差箇所に筒状部材が引っ掛かり難くなり、筒状部材の駆動軸に対する組み付け手間を軽減できる。
また、交差箇所が鈍角であるため、筒状部材と駆動軸との相対摺動に伴う筒状部材の剪断による磨耗の程度が減少し、耐久性を向上させることができる。
【0009】
本発明の第3特徴構成は、前記筒状部材のうち、前記弾性部材が配置される領域を挟んで前記駆動軸の軸芯方向に沿った両側に、径方向外方側に突出する環状の鍔部が形成され、当該鍔部の突出側端部が、前記ケーシングの内面に近接配置されている点にある。
【0010】
本構成のように、筒状部材のうち、弾性部材が配置される領域を挟んで駆動軸の軸芯方向に沿った両側に、径方向外方側に突出する環状の鍔部を形成しておくことで、弾性部材が筒状部材の一端側からはみ出るおそれがなく、筒状部材を駆動軸の外周面に対して確実に圧接させることができる。
また、当該鍔部の突出側端部は、ケーシングの内面に近接配置されている。このため、筒状部材とケーシングとの間に圧縮変形状態で配置された弾性部材が、鍔部の突出側端部とケーシングとの間に入り込むことがない。よって、当該弾性部材の弾性復元力の減少を防止することができ、筒状部材を駆動軸の外周面に効率良く圧接させることができる。
【0011】
本発明の第4特徴構成は、前記筒状部材が、前記ケーシングに形成した筒状の収納空間に対して前記駆動軸の軸芯に平行な方向に挿入可能であり、前記筒状部材に形成した鍔部のうち挿入方向奥側の鍔部の外周縁部に、挿入方向奥側に対向して傾斜した面取り部を形成してある点にある。
【0012】
本構成であれば、筒状部材をケーシングに形成した筒状の収納空間に対して駆動軸の軸芯に平行な方向に挿入する際に、挿入方向奥側の鍔部がケーシングの側に引っ掛かり難くなり、筒状部材の収納空間に対する組み付け手間を軽減できる。
【0013】
本発明の第5特徴構成は、前記弾性部材が、非圧縮変形状態において、前記軸芯方向に沿って径が一定の内周面と、前記軸芯方向の両端部において中間部よりも径外方向に突出する外周面とを備えている点にある。
【0014】
本構成であれば、弾性部材を筒状部材とケーシングとの間に圧縮変形状態で配置したとき、弾性部材の軸芯方向両側の自由端側において大きな弾性復元力を発生させることができる。よって、筒状部材と駆動軸との接触圧力を軸芯方向に沿って略均等に発生させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明によるオイルポンプのシール構造を有する車両用ブレーキ装置の配管構成を示した一部断面模式図である。
【図2】オイルポンプを含むポンプ本体の断面図である。
【図3】図2のIII−III断面図である。
【図4】要部の拡大一部断面側面図である。
【図5】要部の拡大断面図である。
【図6】要部の斜視図である。
【図7】筒状部材と駆動軸との接触圧力の軸芯方向に沿う分布を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
図1は、オイルポンプとしての回転式ポンプを備えた車両用ブレーキ装置の概略図である。後述するように、回転式ポンプ10,13を内装してあるケーシング70と、回転式ポンプ10,13の駆動軸54とに亘って本発明によるオイルポンプのシール構造を設けてある。
【0017】
以下に、ブレーキ装置を図1に基づいて説明する。
ブレーキ装置は、右前輪FR及び左後輪RL用の第1配管系統と、左前輪FL及び右後輪RR用の第2配管系統の2系統から構成されている。
【0018】
図1は、第1配管系統を示している。
ブレーキ装置は、ブレーキペダル1と接続された倍力装置2を備え、倍力装置2により倍力された踏力がマスタシリンダ3に伝達される。マスタシリンダ圧は、ABS制御等を行うブレーキ液圧制御用アクチュエータAを介して例えば右前輪FR用のホイールシリンダ4及び左後輪RL用のホイールシリンダ5へ伝達される。
【0019】
ブレーキ液圧制御用アクチュエータAには、モータ11で駆動される回転式ポンプ13が搭載されている。
図2は、ブレーキ液圧制御用アクチュエータAのハウジング150に組付けたポンプ本体100の断面図である。
【0020】
図2に示すように、ポンプ本体100には、第1配管系統用の回転式ポンプ13と、第2配管系統用の回転式ポンプ10の2つが備えられている。そして、これら回転式ポンプ10、13が一つの駆動軸54で駆動されるようになっている。
【0021】
回転式ポンプ10、13はケーシング70に内装されている。ケーシング70は、第1、第2、第3、第4シリンダ(サイドプレート)71a、71b、71c、71d及び円筒状の第1、第2中央プレート73a、73bによって構成され、このケーシング70に駆動軸54が回転自在に支持されている。
【0022】
第1シリンダ71a、第1中央プレート73a、第2シリンダ71b、第2中央プレート73b、第3シリンダ71cが順に重ねられて互いに溶接で接合されている。この溶接されてユニット化された部分を第1ケースとして、第1ケースにおける第3シリンダ71cとの間に皿バネ210を挟んで、第2ケースに相当する第4シリンダ71dが第1ケースに対して同軸的に配置されている。このようにして一体構造のポンプ本体100が構成されている。
【0023】
ポンプ本体100は、ハウジング150に形成された略円筒形状の凹部150a内に挿入され、凹部150aに形成された雌ネジ溝150bにリング状の雄ネジ部材200がネジ締めされて、ポンプ本体100がハウジング150に固定されている。
【0024】
第1〜第4シリンダ71a〜71dには、それぞれ第1、第2、第3、第4中心孔72a、72b、72c、72dが備えられている。第1シリンダ71aに形成された第1中心孔72aの内周にはベアリング51が備えられ、第3シリンダ71cに形成された第3中心孔72cの内周にはベアリング52が備えられている。
そして、第1〜第4中心孔72a〜72d内に駆動軸54が嵌入され、ベアリング51、52によって回転自在に軸支されている。
【0025】
回転式ポンプ10は、図3にも示すように、円筒状の第1中央プレート73aの両側を第1シリンダ71a及び第2シリンダ71bで挟み込んで形成されたロータ室50a内に、駆動軸54によって駆動される内接型ギアポンプ(トロコイドポンプ)を構成するアウターロータ10aとインナーロータ10bとからなる回転部を配置して構成されている。
【0026】
回転式ポンプ13は、円筒状の第2中央プレート73bの両側を第2シリンダ71b及び第3シリンダ71cで挟み込んで形成されたポンプ室50b内に、回転式ポンプ10と同様に、駆動軸54によって駆動される内接型ギアポンプを構成するアウターロータ13aとインナーロータ13bとからなる回転部を配置して構成されている。
【0027】
第1シリンダ71aには、回転式ポンプ10の吸入側の空隙部10cと連通する吸入口60が形成されている。吸入口60は、第1シリンダ71aの軸芯方向両端面に亘って貫通するように形成され、ハウジング150に対して凹部150a底面に至るように形成された吸入用管路151に接続されている。
【0028】
第2シリンダ71bには、回転式ポンプ10の吐出側の空隙部10cと連通する吐出口61が備えられている。この吐出口61は、回転式ポンプ10の回転部側の端面から外周面に至るように延設されている。
【0029】
吐出口61は、ハウジング150の凹部の内周面のうちポンプ本体100の先端位置が配置される部分全周に形成された環状溝162を介して、ハウジング150に形成された吐出用管路152と接続されている。
【0030】
第2シリンダ71bにおける吐出口61が形成された端面と反対側の端面には、回転式ポンプ13の吐出側の空隙部と連通する吐出口63が備えられている。
吐出口63は、ハウジング150の凹部150aの内周面のうち中央プレート73bの外周と対向する部分全周に形成した環状溝163を介して、回転式ポンプ13の吐出用管路154に接続されている。
【0031】
第3シリンダ71cには、回転式ポンプ13の吸入側の空隙部と連通する吸入口62が備えられている。吸入口62は、第3シリンダ71cの軸芯方向両端面に亘って貫通し、かつ、第4シリンダ71dの側の端面において第3シリンダ71cの外周面まで貫通するように形成されている。
【0032】
吸入口62は、吸入口62のうち第3シリンダ71cの外周面側を入口として、ブレーキ液が導入されるようになっている。吸入口62は、吸入口62の入口の位置を含むようにハウジング150の凹部150aの内周面の全周に形成された環状溝164を介して、ハウジング150に形成された吸入用管路153と接続されている。
【0033】
第2シリンダ71bと駆動軸54との間に、第1の回転式ポンプ10と第2の回転式ポンプ13とを遮断するシール部材80が収容されている。このシール部材80は、リング状の弾性部材であるOリング81を、径方向を深さ方向とする溝部が形成されたリング状の樹脂部材82に嵌め込んだものであり、Oリング81の弾性力によって樹脂部材82が押圧されて駆動軸54と接するようになっている。
【0034】
第4シリンダ71dは、皿バネ210が配置される面と反対の面において凹んでおり、この凹みから駆動軸54が突出している。駆動軸54は、突出した側の端部において鍵形状の接続部54cを備え、この接続部54cにモータ11の駆動軸11aが差し込まれている。そして、駆動軸54が駆動軸11aを介してモータ11によって回動されて、回転式ポンプ10、13が駆動されるようになっている。
【0035】
第4シリンダ71dの中心孔72dを形成している内周面には、中心孔72dを介して吸入口62から洩れてくるブレーキ液をシールするために、ケーシング70を構成している第4シリンダ71dと駆動軸54との間に設けられた本発明によるシール構造90と、このシール構造90よりもモータ11の側でポンプ本体100の内外の遮断を行うためのオイルシール91とが設けられている。
【0036】
以下に、本発明によるシール構造90を説明する。
図4はシール構造90の一部断面側面図、図5は駆動軸54の表面近傍部位の断面図、図6は円筒状の筒状部材84及びゴム製弾性部材86の斜視図である。
シール構造90は、円柱状の駆動軸54の外周面に形成された複数の円周溝83と、第4シリンダ71dに保持される筒状部材84と、第4シリンダ71dに対する筒状部材84の軸芯周りでの位置を規制する位置規制部材85と、筒状部材84と第4シリンダ71dとの間に圧縮変形状態で配置されて、筒状部材84を駆動軸54の側に付勢する円環状のゴム製弾性部材86とを備えている。
【0037】
円周溝83の夫々は、図5に示すように、横断面形状が二つの溝壁面83aが交差するV字状に形成されている。溝壁面83aは、円周溝83と隣接する面、つまり、駆動軸54の外周面と鈍角θで交差している。
円周溝83は夫々、駆動軸54の周方向に一周する閉じた環状を呈しており、隣り合う円周溝83同士が軸方向に離間して配置されている。これにより、例えば、螺旋溝のような軸方向に連続する溝を採用した態様と比較して、溝内のブレーキ液が筒状部材84を越えて軸方向に漏れ出すといったことが生じ難くなる。
なお、溝幅aと摺接面幅bとの寸法関係はa<bであり、具体的には、溝幅aが略0.3mm、摺接面幅bが略0.6mmである。また、溝深さcは略60μm、駆動軸54の外周面に対する溝壁面83aの傾斜角dは30°である。
【0038】
筒状部材84は、フッ素樹脂などのゴム製弾性部材86よりも硬い樹脂で形成してあり、その内周面が駆動軸54の外周面のうちの複数の円周溝83を跨ぐ領域、つまり、駆動軸54の軸芯方向において円周溝83と隣接する面、及びその面と円周溝83の溝壁面83aとの交差箇所の複数に摺接するように、駆動軸54を内挿してある。図6にも示すように、筒状部材84のうちの弾性部材86が配置される領域84aを挟んで駆動軸54の軸芯方向に沿った両側に、径方向外方側に突出する円環状の鍔部87a,87bが形成されている。
【0039】
筒状部材84は、第4シリンダ71dに円筒状に形成した収納空間88に対して、第3シリンダ71cの側から駆動軸54の軸芯Xに平行な方向に挿入可能であり、駆動軸54の外周面への装着前における内径を駆動軸54の外径よりも小さくしてある。
【0040】
筒状部材84に形成した両鍔部87a,87bは、その突出側端部87cが第4シリンダ71dの内面に近接配置されるように、収納空間88の内径よりも若干小さい外径で形成してある。また、両鍔部87a,87bのうちの、筒状部材84の収納空間88に対する挿入方向奥側の鍔部87aの外周縁部に、挿入方向奥側に対向して傾斜した面取り部89を形成してある。
【0041】
挿入方向手前側の鍔部87bに切欠き92を形成して、位置規制部材としてのピン85を切欠き92と第4シリンダ71dとに亘って係入してある。切欠き92が形成された挿入方向手前側の鍔部87bの厚さ(軸芯方向に沿う長さ)L1を、挿入方向奥側の鍔部87aのそれよりも大きく(厚く)して、ピン85で廻り止めされている筒状部材84の捩り剛性を高めてある。
【0042】
弾性部材86は、少なくとも一つ(本実施形態では三つ)の円周溝83の径方向外方位置で筒状部材84に当接する幅(軸芯方向に沿う長さ)L3で形成してある。
弾性部材86の幅L3は、円周溝83の溝幅aと筒状部材84の摺接面幅bとの和(a+b)よりも大きく設定してある。これは、弾性部材86の幅L3内に円周溝83が確実に存在するようにするための設定である。ここで、例えば、駆動軸54や筒状部材84、弾性部材86は、組立性や寸法公差を考慮して軸方向に余裕を持たせた寸法関係とされている。即ち、駆動軸54は例えば第1〜第4シリンダ71a〜71dに対して軸方向に移動可能な寸法設定がなされており、筒状部材84は同じく第1〜第4シリンダ71a〜71d及び駆動軸54に対して軸方向に移動可能な寸法設定がなされ、また、弾性部材86は筒状部材84に対して(鍔部87a,87b同士の間隔L2内で)軸方向に移動可能な寸法設定がなされている。上述した弾性部材86の幅L3、円周溝83の溝幅a、及び筒状部材84の摺接面幅bは、こうした各部材の寸法関係を考慮したうえで弾性部材86の幅L3内に円周溝83が(本実施形態では複数本)存在するように設定されている。
弾性部材86は、図6に示す非圧縮変形状態において、軸芯方向に沿って径が一定の内周面93aと、軸芯方向の両端部において中間部よりも径外方向に波状に突出する外周面93bとを備えた円環状に形成されている。
【0043】
図7は、筒状部材84と駆動軸54との接触圧力(面圧)Pの軸芯方向に沿う分布を示し、樹脂製の筒状部材84Aが、ゴム製の筒状部材84Bに比べて、駆動軸54の外周面と円周溝83の溝壁面83aとが交差する角部94の近傍に対して強く圧接され、当該角部94の近傍における筒状部材84と駆動軸54との接触圧力(面圧)Pを一層高めてシール性を向上させることができる。
【0044】
〔その他の実施形態〕
1.本発明によるオイルポンプのシール構造は、横断面形状が台形や円弧状の円周溝が形成されていてもよい。
2.本発明によるオイルポンプのシール構造は、ケーシング70に対する筒状部材84の軸芯周りでの位置を規制する位置規制部材が、ケーシング70に係合するように鍔部87bの外周部に突出固定したピンで構成されていてもよい。
3.第1の回転式ポンプ10と第2の回転式ポンプ13とを遮断するシール部材80を構成するOリング81及び樹脂部材82を、同順に、本発明の弾性部材86及び筒状部材84と同様の構成としてもよい。
【符号の説明】
【0045】
10 オイルポンプ
13 オイルポンプ
54 駆動軸
70 ケーシング
83 円周溝
83a 溝壁面
84 筒状部材
85 位置規制部材
86 弾性部材
87a (挿入方向奥側の)鍔部
87b 鍔部
88 収納空間
89 面取り部
93a 内周面
93b 外周面
θ 鈍角
X 軸芯

【特許請求の範囲】
【請求項1】
オイルポンプのケーシングと、当該ケーシングに回転自在に支持される駆動軸との間に設けられるオイルポンプのシール構造であって、
前記駆動軸の外周面に形成された少なくとも一つの円周溝と、
前記駆動軸の外周面のうち前記駆動軸の軸芯方向において前記円周溝と隣接する面、及びその面と前記円周溝の溝壁面との交差箇所に摺接しつつ前記駆動軸を内挿し、前記ケーシングに保持される筒状部材と、
前記ケーシングに対する前記筒状部材の位置を規制する位置規制部材と、
前記筒状部材と前記ケーシングとの間に圧縮変形状態で配置され、かつ、前記少なくとも一つの円周溝の径方向外方位置で前記筒状部材に当接し、前記筒状部材を前記駆動軸の側に付勢する環状の弾性部材とを備えたオイルポンプのシール構造。
【請求項2】
前記溝壁面は、前記円周溝と隣接する面と鈍角で交差してなる請求項1に記載のオイルポンプのシール構造。
【請求項3】
前記筒状部材のうち、前記弾性部材が配置される領域を挟んで前記駆動軸の軸芯方向に沿った両側に、径方向外方側に突出する環状の鍔部が形成され、
当該鍔部の突出側端部が、前記ケーシングの内面に近接配置されている請求項1又は2に記載のオイルポンプのシール構造。
【請求項4】
前記筒状部材が、前記ケーシングに形成した筒状の収納空間に対して前記駆動軸の軸芯に平行な方向に挿入可能であり、前記筒状部材に形成した鍔部のうち挿入方向奥側の鍔部の外周縁部に、挿入方向奥側に対向して傾斜した面取り部を形成してある請求項3に記載のオイルポンプのシール構造。
【請求項5】
前記弾性部材が、非圧縮変形状態において、前記軸芯方向に沿って径が一定の内周面と、前記軸芯方向の両端部において中間部よりも径外方向に突出する外周面とを備えている請求項1〜4の何れか一項に記載のオイルポンプのシール構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−58588(P2011−58588A)
【公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−210666(P2009−210666)
【出願日】平成21年9月11日(2009.9.11)
【出願人】(301065892)株式会社アドヴィックス (1,291)
【Fターム(参考)】