説明

オイルポンプのリリーフバルブ

【課題】オイルポンプから吐出されるオイルの一部を余剰のオイルとして逃がすもので、特に要求油圧特性に合致した油圧特性を容易に得ることができるオイルポンプのリリーフバルブとすること。
【解決手段】リリーフ弁6が往復移動自在とした弁通路21が形成された弁ハウジング2と、前記弁通路21における前記リリーフ弁6の移動方向の一端側に形成されたリリーフ流入部22と、前記弁通路21に形成された周方向排出孔31と軸方向排出孔32とからなる第1リリーフ排出孔3と、該第1リリーフ排出孔3と離間した位置となるように前記弁通路21に形成された第2リリーフ排出孔4とからなること。前記第1リリーフ排出孔3の周方向排出孔31と軸方向排出孔32とは連通されると共に前記周方向排出孔31は前記リリーフ流入部22に最も近い位置としてなること。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は内燃機関のオイルポンプにおいて、オイルポンプから吐出されるオイルの一部を余剰のオイルとして逃がすもので、特に要求油圧特性に合致した油圧特性を容易に得ることができるオイルポンプのリリーフバルブに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、オイルポンプには、リリーフバルブが装着されているものが多い。このリリーフバルブは、オイルポンプから吐出されるオイルの一部を余剰のオイルとして逃がす機能を有する機構であり、オイルを逃がす機能を満たすためにリリーフバルブ側面の壁には開口孔が設けられている。オイルのリリーフについては、要求される油圧特性がエンジンの回転数に比例しないことは既に多くの文献に記載されている通りである。
【0003】
そして、一般的には油圧特性とエンジンの回転数比例とを基準に考えるとアイドリング時には、(絶対値は小さいが)比例している場合よりは、大きい油圧を必要とする。また、比例している場合を基準に考えると、高回転領域には絶対値は大きいが比例よりは小さい油圧で事足りる。つまり、油圧をエンジンの回転数に比例させないことで要求油圧を確保しながらも、オイルポンプに無駄仕事が発生しにくくなり、ポンプ効率を向上させることが可能となる。上記油圧特性を達成するために、リリーフバルブ側面の壁に2つ以上の開口孔を設けた構成の特許文献1が存在する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−50411
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
以下特許文献1について概説する。なお、本発明と区別するために、特許文献1の符号は括弧付けとする。特許文献1の図1に記載されているように第1リリーフ孔(7)及び第2リリーフ孔(8)を設けることで、図4に記載されているような油圧特性とすることが可能である。図1から見て取れるように、第1リリーフ孔(7)は、第2リリーフ孔(8)よりも小さく、且つ第1リリーフ孔(7)の形状は円(丸)である。
【0006】
この第1リリーフ孔(7)は、さほど油圧を必要としないエンジン中回転領域の油圧を低減し、エンジン中回転領域のポンプの無駄仕事を削減するために設けられる。但し、第1リリーフ孔(7)は、単なる円(丸)形状であるため、開口面積の増加の仕方も単純な増加の仕方となる。そのため、リリーフバルブの先端が第1リリーフ孔(7)を通過する時のオイルの排出も単純であり、これに伴う油圧も単純な変化となる。すなわち、特許文献1に開示されたものでは、複雑な油圧変化や制御された油圧変化を実現するには、極めて困難なものがある。これによりオイルポンプによる無駄仕事が発生したり、流量不足領域が発生してしまうおそれがある。
【0007】
また、エンジン中回転領域の油圧をより一層低減しようとして、単純に第1リリーフ孔(7)を大きくしただけでは、リリーフバルブの先端が第1リリーフ孔(7)に入り込んでリリーフバルブが引っ掛かり、リリーフバルブの滑らかな摺動性が確保できなくなるおそれもある。本発明では中回転領域でも油圧特性を制御可能としつつ、開口孔が大きくなった場合でもリリーフバルブの滑らかな摺動性を確保できる構成を開示するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
そこで、発明者は、上記課題を解決すべく、鋭意,研究を重ねた結果、請求項1の発明を、リリーフ弁が往復移動自在とした弁通路が形成された弁ハウジングと、前記弁通路における前記リリーフ弁の移動方向の一端側に形成されたリリーフ流入部と、前記弁通路に形成された周方向排出孔と軸方向排出孔とからなる第1リリーフ排出孔と、該第1リリーフ排出孔と離間した位置となるように前記弁通路に形成された第2リリーフ排出孔とからなり、前記第1リリーフ排出孔の周方向排出孔と軸方向排出孔とは連通されると共に前記周方向排出孔は前記リリーフ流入部に最も近い位置としてなるオイルポンプのリリーフバルブとしたことにより、上記課題を解決した。
【0009】
請求項2の発明を、請求項1において、前記第1リリーフ排出孔の前記周方向排出孔に対して前記軸方向排出孔は、前記周方向排出孔の長手方向略中間箇所で連通されてなるオイルポンプのリリーフバルブとしたことにより、上記課題を解決した。請求項3の発明を、請求項1において、前記第1リリーフ排出孔の前記周方向排出孔に対して前記軸方向排出孔は、前記周方向排出孔の長手方向一端で連通されてなるオイルポンプのリリーフバルブとしたことにより、上記課題を解決した。
【0010】
請求項4の発明を、請求項1において、前記第1リリーフ排出孔の前記周方向排出孔に対して前記軸方向排出孔は2本形成されると共に、前記周方向排出孔の長手方向両端部箇所で連通されてなるオイルポンプのリリーフバルブとしたことにより、上記課題を解決した。請求項5の発明を、請求項1,2,3又は4のいずれか1項の記載において、前記第1リリーフ排出孔の前記周方向排出孔には、前記リリーフ流入部側に向かって突出形成された小排出部を有してなるオイルポンプのリリーフバルブとしたことにより、上記課題を解決した。
【発明の効果】
【0011】
請求項1の発明では、エンジンの低回転域、中回転域及び高回転域にそれぞれ適した吐出圧にすることができる。特に第1リリーフ排出孔は、周方向排出孔及び軸方向排出孔とが連通するようにして構成されたものであり、周方向排出孔は、弁通路の周方向に沿って形成されたものであり、リリーフ弁が弁通路を移動して周方向排出孔を開口させると、オイルを機敏且つ迅速(一気)に排出し、吐出圧を瞬間的に低減させることができ、低回転域における適正な吐出圧にすることができる。
【0012】
さらに、第1リリーフ排出孔には、前記周方向排出孔に連通する軸方向排出孔が形成されていることにより、第1リリーフ排出孔の開口面積を大きくすることができ、中回転域における吐出圧の上昇を緩やかにしつつ吐出圧を安定した状態に維持することができる。よって、中回転域での吐出圧の低減効果を高めることができ、もって油圧調整効果も増加できる。
【0013】
さらに周方向排出孔の長手方向(周方向)の長さ寸法を適宜設定させることで、エンジンの低回転域におけるオイルの排出量も前記周方向排出孔の長さ及び孔幅(溝幅)を変えることによって、回転数〜油圧推移を所望の値に調整することが可能となり、よりきめ細かくエンジンの回転数に対応する適正な特性油圧を実現できる。
【0014】
さらに、第1リリーフ排出孔では、周方向排出孔は、弁通路の周方向に沿って略直線且つ筋形溝状に形成されるものであり、且つ軸方向排出孔は、弁通路の軸方向に沿って形成されるものである。そのために、弁通路では、第1リリーフ排出孔の箇所であっても、リリーフ弁を支持する路面は、十分に確保される。よって第1リリーフ排出孔からのリリーフ排出動作による急激な圧力低下が生じたとしてもリリーフ弁は、軸方向に対して第1リリーフ排出孔側に倒れて傾斜することがなく、リリーフ弁の安定した移動が確保される。また、第1リリーフ排出孔は、前述したように、周方向排出孔と軸方向排出孔とが連通して構成されたものであり、両者を合わせると十分なリリーフ開口が得られるものである。
【0015】
請求項2及び請求項3の発明では、第1リリーフ排出孔の周方向排出孔と軸方向排出孔との形状が単純な形状となり、成形し易いものにでき且つ弁通路におけるリリーフ弁の移動に対して、ほとんど干渉することがないものにできる。請求項4の発明では、軸方向排出孔が複数となるので、エンジンの低回転域から中回転域に亘って、吐出圧の上昇を極めて緩やかなものにできる。請求項5の発明では、周方向排出孔には、リリーフ流入部側に向かって突出するように小排出部が存在するので、まず最初に小排出部からオイルが排出して、周方向排出孔による急激なリリーフ排出動作による衝撃を緩和させることができ、特に緩やかな吐出圧の変化が望まれる場合には好適なものとなる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】(A)は本発明におけるポンプハウジングの要部の平面図、(B)は(A)の(ア)部拡大図、(C)は(B)の(イ)部における拡大斜視図である。
【図2】(A)は図1(B)のX1−X1矢視断面図、(B)は(A)のX2−X2矢視断面図、(C)は(B)の(ウ)部におけるリリーフ弁を除いた拡大図、(D)は(A)のY1−Y1矢視断面図、(E)は(A)のY2−Y2矢視断面図である。
【図3】(A)は低回転域における初期状態の作用図、(B)は(A)のX3−X3矢視断面図、(C)は低回転域における初期状態の作用を示すグラフである。
【図4】(A)は低回転域において第1リリーフ排出孔の周方向排出孔のリリーフが開始された状態の作用図、(B)は(A)のX4−X4矢視断面図、(C)は低回転域において第1リリーフ排出孔の周方向排出孔のリリーフが開始された状態の作用を示すグラフである。
【図5】(A)は中回転域において第1リリーフ排出孔の周方向排出孔及び軸方向排出孔のリリーフが開始された状態の作用図、(B)は(A)のX5−X5矢視断面図、(C)は中回転域において第1リリーフ排出孔の周方向排出孔及び軸方向排出孔のリリーフが開始された状態の作用を示すグラフである。
【図6】(A)は高回転域において吐出圧が上昇する状態の作用図、(B)は(A)のX6−X6矢視断面図、(C)は高回転域において吐出圧が上昇する状態の作用を示すグラフである。
【図7】(A)は高回転域において第2リリーフ排出孔のリリーフが開始された状態の作用図、(B)は(A)のX7−X7矢視断面図、(C)は高回転域において第2リリーフ排出孔のリリーフが開始された状態の作用の作用を示すグラフである。
【図8】本発明と従来技術における油圧特性との比較を示すグラフ。
【図9】(A)は第1リリーフ排出孔の第1変形例を示す要部拡大図、(B)は第1リリーフ排出孔の第2変形例を示す要部拡大図、(C)は周方向排出孔に小排出部が形成された実施形態の要部拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。ポンプハウジングAは、図1(A)に示すように、ロータ室1と弁ハウジング2が形成されている。前記ロータ室1内に内歯を設けたアウターロータ81と外歯を設けたインナーロータ82とが互いに歯合しつつ偏心して内装されている。またロータ室1には、吸入ポート11と吐出ポート12とがそれぞれ形成されている〔図1(A)参照〕。リリーフバルブ装置は、弁ハウジング2とリリーフ弁6とから構成される〔図1(B),(C),図2(A)参照〕。
【0018】
前記弁ハウジング2には、図2(A),(B)に示すように、リリーフ弁6が摺動する弁通路21が形成され、その内部をリリーフ弁6が摺動する。弁通路21の長手方向の一端にはリリーフ流入部22が形成され、弁通路21とリリーフ流入部22とは連通している。弁通路21の長手方向は、リリーフ弁6が移動する方向である。前記弁ハウジング2は、具体的には前記ポンプハウジングA内の所定位置に略半割円筒形状に膨出形成されたものである〔図1(C),図2(D),(E)等参照〕。また、前記リリーフ流入部22は、前記吸入ポート11と、リリーフ室23を介して連通している。そして、吐出ポート12に高圧が生じたときには、該吐出ポート12からリリーフ流入部22を介して弁ハウジング2内の弁通路21にオイルが送り込まれ、リリーフ弁6を押圧して移動させる(図3乃至図7参照)。
【0019】
弁通路21は、リリーフ流入部22と連通する側を軸方向における始端部とする。前記リリーフ流入部22の内径と弁通路21の内径は異なり、弁通路21とリリーフ流入部22との間に生じる径の差による段差面が軸方向の始端面となり、リリーフ動作が行われていないときには、前記始端面にリリーフ弁6の頭部61が当接する。その弁ハウジング2の弁通路21には、長手方向に沿って前記リリーフ流入部22側から第1リリーフ排出孔3及び第2リリーフ排出孔4が形成されている(図1及び図2参照)。
【0020】
ここで、第1リリーフ排出孔3は、第2リリーフ排出孔4よりもリリーフ流入部22に近い位置に存在する(図1及び図2参照)。すなわち、弁通路21に装着されたリリーフ弁6は、前記リリーフ流入部22から吐出圧によって、リリーフ弁6が弁通路21に沿って移動するときに、リリーフ弁6の頭部61が最初に第1リリーフ排出孔3に到達し、さらに吐出圧がかかると、第2リリーフ排出孔4に到達するものである。
【0021】
第1リリーフ排出孔3は、第2リリーフ排出孔4と近接状態であるが、それぞれが独立した孔であり、両者が交わり且つ連通する構成ではない。前記第1リリーフ排出孔3は、周方向排出孔31と軸方向排出孔32とから構成されている(図1及び図2参照)。前記周方向排出孔31は、前記弁ハウジング2において前記弁通路21の周方向に沿って形成された筋形溝状の貫通孔である〔図1(B),(C),図2(D)参照〕。そして、該周方向排出孔31によって前記弁通路21の内周側と前記弁ハウジング2の外部とが連通する構造となる。前記周方向排出孔31は、具体的には、略円筒形状の空隙である弁通路21の内周壁面に略円周方向に形成されたものである。
【0022】
前記リリーフ室23は、オイルを吸入ポート11に戻す役割をなすものである。前記リリーフ室23は、前記弁ハウジング2を囲むようにして、周囲に立上り壁面部24が形成されている。図2(B),(C)においては、前記立上り壁面部24の形状としては、前記弁ハウジング2を挟むようにして、二つの側壁面24a,24bが適宜の間隔をおいて平行に形成されたものである。
【0023】
この両側壁面24a,24b内では、前記弁ハウジング2が略半割り円筒形状に膨出形成された円筒状面の一部が露出するようにして形成されている〔図2(D),(E)参照〕。その露出された部分に前記第1リリーフ排出孔3及び第2リリーフ排出孔4が形成されている〔図1(B),(C)参照〕。また両側壁面24a,24bの間隔が前記弁ハウジング2の半割り円筒部の略全体が露出するように設定されることもある。すなわち、両側壁面24a,24bの間には断面略半円となる弁ハウジング2の略全体が形成されることになる。
【0024】
第1リリーフ排出孔3は、前述したように周方向排出孔31及び軸方向排出孔32とから構成されたものであり、まず周方向排出孔31は、弁通路21の周方向で且つ前記弁ハウジング2の外方でリリーフ室23の両側壁面24a,24bの間隔内に収まる程度の大きさに形成されたものである。さらに、前記両側壁面24a,24bの間隔が前記弁ハウジング2の略全体が露出する場合であれば、前記周方向排出孔31は、前記弁通路21の半円の部分すなわち略半周(角度で見ると略180度の範囲)に亘って形成することも可能である。
【0025】
周方向排出孔31は、図1(B),(C)及び図2(C)等に示すように、前述したように略筋形溝状の長孔であり、その長孔とした長手方向に対して直交する方向の溝幅寸法は、約2mm程度である。また周方向(又は径方向)の長さ寸法としては第2リリーフ排出孔4の幅(直径)と略同程度であり、具体的には約9mm程度である。
【0026】
第1リリーフ排出孔3の周方向排出孔31は、図2(C),(D)に示すように、周方向に沿って長手方向としており、リリーフ弁6の頭部61(先端)が前記第1リリーフ排出孔3の位置まで移動してきた時に、機敏且つ略瞬時(一気)にオイルが排出され、油圧低減効果を増す形状となっている。また機敏且つ瞬時(一気)にオイルを排出するために、前記第1リリーフ排出孔3の径方向(周方向)の長孔形状は、筋形溝状或は略一直線形状ですなわちスリット形状となっている。
【0027】
軸方向排出孔32は、前記弁通路21の通路方向に沿って形成されたものであり、前記周方向排出孔31に対して直交して形成されたものである〔図1(B),(C)及び図2(E)参照〕。弁通路21の通路方向とは、弁通路21内をリリーフ弁6が移動する方向であり、この方向を弁通路21の軸方向という。すなわち、前記軸方向排出孔32は、弁通路21の軸方向に沿って形成されたものである。軸方向排出孔32は、前記周方向排出孔31に連通形成されたものである。
【0028】
すなわち、周方向排出孔31による孔空間と、軸方向排出孔32の孔空間とは、遮るものがなく空間としてつながっている〔図1(B),(C)及び図2(C)参照〕。そして、弁通路21内のリリーフされたオイルは前記周方向排出孔31から前記軸方向排出孔32へ自由に移動することができる。また軸方向排出孔32の直径方向(周方向)に直交する方向の寸法(溝幅寸法)は、前記周方向排出孔31の溝幅寸法と略同一である。
【0029】
前記第1リリーフ排出孔3は、周方向排出孔31と軸方向排出孔32とによって構成され、前記周方向排出孔31と前記軸方向排出孔32とは、略「T」 字形状である。具体的には、前記周方向排出孔31の周方向(長手方向)の略中間箇所に軸方向排出孔32が連通形成されたものである。また、第1リリーフ排出孔3の第1変形例として前記軸方向排出孔32は、前記周方向排出孔31に対して周方向(長手方向)の一端で連通形成されることもある〔図9(A)参照〕。
【0030】
すなわち、周方向排出孔31と軸方向排出孔32とが、略「L」字形状を構成するものである。さらに、第1リリーフ排出孔3の第2変形例として、前記周方向排出孔31に対して前記軸方向排出孔32は2本形成されると共に、前記周方向排出孔31の長手方向両端部箇所で連通形成されることもある〔図9(B)参照〕。すなわち、周方向排出孔31と軸方向排出孔32とが、略「門」字形状を構成するものである。
【0031】
前述したように、周方向排出孔31に対して、軸方向排出孔32の形成位置は連通されたものであれば、周方向排出孔31の周方向(長手方向)においていずれの位置に形成されてもかまわない。すなわち、軸方向排出孔32の周方向排出孔31に対する位置は、リリーフ弁6に対する圧力バランスを確認しながら適宜決定されるものである。さらに周方向排出孔31に対して、軸方向排出孔32の形成される数は、1又は2が好適であるが、軸方向排出孔32が3以上であっても構わない。軸方向排出孔32の数が2本又はそれ以上である場合には、第1リリーフ排出孔3の開口面積をより一層大きくすることができ、油圧低減効果を、より一層高めることができるが、僅かな油圧低減としたい場合には、軸方向排出孔32の数を最小限にすることも十分考慮される。
【0032】
第1リリーフ排出孔3の別の実施形態として、図9(C)に示すように前記周方向排出孔31には、前記リリーフ流入部22側に向かって突出形成された小排出部31aが形成されたものが存在する。該小排出部31aは、前記周方向排出孔31の周方向(長手方向)に対し略中間箇所にリリーフ流入部22側に突出するようにして小さい切欠き形状として形成されたものである。小排出部31aは、周方向排出孔31に連通形成されている。
【0033】
前記小排出部31aは、周方向排出孔31から機敏且つ迅速(一気)にオイルが排出され、瞬時にオイルを排出して油圧を低減させたくは無い場合に形成されるものである。しかも、油圧低減の合計量としては、周方向排出孔31に小排出部31aが設けられた分だけ総合的に開口面積が広くなり、より一層、大きい油圧低減効果を得られる。
【0034】
また、小排出部31aの役目として、リリーフバルブの頭部(先端)が周方向排出孔31の位置に移動してくる前に、前記小排出部31aがオイルをある程度排出することで、瞬時のオイル排出がされにくくされるものである。このように、小排出部31aによって、予めオイルの排出動作が開始されており、周方向排出孔31による本格的な排出作業による衝撃を緩和することができる。すなわち、前記小排出部31aは、瞬間的な油圧低減が行われないようにするものであり、油圧低減の量(油圧の推移)をより複雑にでき、ユーザーの要望に、より一層適応する油圧特性とすることができる。
【0035】
リリーフ弁6は、前記弁通路21に収納され、該弁通路21に設けられたスプリング7の弾発力によって、常時リリーフ流入部22側に弾性付勢されている。リリーフ弁6が弁通路21内において軸方向に移動することによって、弁通路21終端側(スプリング7側)の空間の体積は極小時間で大きく増減する。弁通路21終端側の呼吸孔5によって弁通路21終端側の空間の気圧は略常圧に保たれるため、リリーフ弁6は滑らかに摺動することができる。よって、スプリング7が最も縮み、リリーフ弁6の位置が弁通路21の最も奥になった位置に移動した場合でも、リリーフ弁6によって前記呼吸孔5は塞がれない程度に、前記呼吸孔5が弁通路21の終端側寄りに形成されることが必要である。
【0036】
次に、第2リリーフ排出孔4は、呼吸孔5と第1リリーフ排出孔3との間に設けられ、また第2リリーフ排出孔4は、呼吸孔5よりも第1リリーフ排出孔3側寄りに形成されている。また特に、前記第1リリーフ排出孔3よりもその開口面積が大きく形成されており、具体的には略円形であるが、略方形状としたものも存在する。具体的には、円形状の場合では直径寸法は約9mm程度である。
【0037】
次に本発明におけるエンジンの低回転域、中回転域及び高回転域における油圧特性について説明する。この油圧特性は、図8に示される。本発明による油圧特性は、太い点線であり、細い一点鎖線によって示されたものは、第1リリーフ孔の形状を小さい円(丸)とした従来のものである。図8から理解できるように、第1リリーフ孔の形状を小さい円(丸)とした従来のものでは、径方向(周方向)の長さが小さいため、本発明の図4に相当する回転数では油圧が本発明より上昇してしまっている。またリリーフバルブの滑らかな摺動性を確保するため、従来では第1リリーフ孔は小さくなっているために、油圧の低減量が小さくなっている。換言すれば、従来では油圧は高くなっている。
【0038】
まず、図3(A),(B)に示すように、エンジンが作動し、アイドリング状態等の低回転の場合には、ポンプが作動しても、しばらくは、リリーフ弁6は、スプリング7による弁通路21の軸方向端部で前記リリーフ流入部22側寄りの位置に停止したままの状態が維持される。したがって、第1リリーフ排出孔3は閉口状態にあり、そのために吐出圧は急激に上昇している。図3(C)のグラフの太い線は低回転域における吐出圧上昇を示すものである。
【0039】
次に、エンジンの低回転域で、吐出圧がある程度まで上昇すると、リリーフ弁6が受ける吐出圧の力がスプリング7の弾性付勢力に勝り、弁通路21の終端側に向かって移動を開始する。そして、図4(A),(B)に示すようにリリーフ弁6の頭部61が第1リリーフ排出孔3の周方向排出孔31に到達し、そのまま移動を続けると、周方向排出孔31が開口をすることになる。該周方向排出孔31は、弁通路21の周方向に沿って筋形溝状に形成されているので、ある程度の量のオイルを前記周方向排出孔31から瞬時に排出することができる〔図4(A)参照〕。したがって吐出圧の増加の速さは瞬時に遅くなり、油圧の上昇はほとんど停止した吐出圧の安定した状態の領域となる〔図4(C)参照〕。
【0040】
次に、エンジンが中回転域に到達して、吐出圧がさらに増加し続けると、リリーフ弁6の頭部61が移動し、図5(A),(B)に示すように、前記第1リリーフ排出孔3の軸方向排出孔32に到達し、軸方向排出孔32が開口し始める。軸方向排出孔32は、弁通路21の軸方向に長く形成され、径方向には細く形成されているので、リリーフ弁6が移動する量に対して開口する面積の増加する割合が少ない。そのために、油圧は少しずつ上昇するものであり、急激な上昇とはならず、緩やかな上昇となり、中回転域の吐出圧が安定した状態の領域となる〔図5(C)参照〕。以上のリリーフ弁6の動作は、エンジンの低回転域乃至中回転域におけるものであり、その油圧特性は、エンジンの低回転域乃至中回転域に対応したもので、吐出圧も低く抑制されるものである。
【0041】
次に、エンジンが高回転域に到達して、吐出圧がさらに増加し続けると、リリーフ弁6の頭部61が移動し、図6(A),(B)に示すように、前記第1リリーフ排出孔3と第2リリーフ排出孔4との間を通過する。この領域では、第2リリーフ排出孔4は、閉口している。そして、オイルが弁通路21から弁ハウジング2の外部に第1リリーフ排出孔3の面積以上は排出されることができないので、リリーフ弁6は、オイルの吐出圧を受けて移動し、且つ吐出圧が急激に上昇する領域である〔図6(C)参照〕。
【0042】
そして、リリーフ弁6の頭部61が第2リリーフ排出孔4に到達して該第2リリーフ排出孔4が開口し始める〔図7(A),(B)参照〕。オイルは、第2リリーフ排出孔4からも排出されるので、吐出圧は少しずつしか上昇せず、吐出圧は略安定し、エンジンの高回転域に適した吐出圧にすることができる〔図7(C)参照〕。以上のリリーフ弁6の動作は、エンジンの高回転域におけるものであり、その油圧特性は、エンジンの高回転域に対応したもので、吐出圧も所望の値にできる。このように本発明では、エンジンの低回転域,中回転域及び高回転域のそれぞれに適応した吐出圧にすることができるものである。
【0043】
また、前記第1リリーフ排出孔3の周方向排出孔31は、周方向(長手方向)に長く形成されたものであり、軸方向に対する孔幅は短く形成されているので、リリーフ弁6が弁通路21を軸方向に移動するときに、リリーフ弁6の縁が第1リリーフ排出孔3に引っ掛かかることを防止することができる。一般に、オイルが排出される部位では局所的に見ると油圧が低下しているものである。
【0044】
したがって、リリーフ排出孔の箇所をリリーフ弁6が通過するときには、リリーフ弁6は軸方向に対してリリーフ排出孔側に倒れ、第1リリーフ排出孔3の方に向かって傾こうとする。そのために、通常の孔では、リリーフ弁6の縁が孔の縁に引っ掛かる可能性があるが、本発明における第1リリーフ排出孔の周方向排出孔31は周方向に長く、周方向に直交する孔幅は極めて短いものとすることで、リリーフ弁6は、第1リリーフ排出孔3を通過するときに、引っ掛かりがなく、滑らかに移動することができる。
【0045】
前記ロータ室1に配置されたアウターロータ81とインナーロータ82は具体的には、インナーロータ82の歯がトロコイド曲線に従って形成されている。そして、インナーロータ82の歯がアウターロータ81の歯数よりも一枚少なく、インナーロータ82が一回転するとアウターロータ81は、一歯分遅れて回転するように構成されている。
【0046】
また、インナーロータ82は、何れの回転角度であっても常にインナーロータ82の歯先がアウターロータ81の歯先又は歯底に接触し、インナーロータ82の隣接する歯先とアウターロータ81との間に複数の空隙部が形成され、それぞれの空隙部が1回転中に、大きくなったり、小さくなったりして吸入ポート11からオイルの吸入を行い、吐出ポート12からオイルを吐出して機器へ循環させるものである。
【符号の説明】
【0047】
2…弁ハウジング、21…弁通路、22…リリーフ流入部、
3…第1リリーフ排出孔、31…周方向排出孔、32…軸方向排出孔、
4…第2リリーフ排出孔、6…リリーフ弁。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リリーフ弁が往復移動自在とした弁通路が形成された弁ハウジングと、前記弁通路における前記リリーフ弁の移動方向の一端側に形成されたリリーフ流入部と、前記弁通路に形成された周方向排出孔と軸方向排出孔とからなる第1リリーフ排出孔と、該第1リリーフ排出孔と離間した位置となるように前記弁通路に形成された第2リリーフ排出孔とからなり、前記第1リリーフ排出孔の周方向排出孔と軸方向排出孔とは連通されると共に前記周方向排出孔は前記リリーフ流入部に最も近い位置としてなることを特徴とするオイルポンプのリリーフバルブ。
【請求項2】
請求項1において、前記第1リリーフ排出孔の前記周方向排出孔に対して前記軸方向排出孔は、前記周方向排出孔の長手方向略中間箇所で連通されてなることを特徴とするオイルポンプのリリーフバルブ。
【請求項3】
請求項1において、前記第1リリーフ排出孔の前記周方向排出孔に対して前記軸方向排出孔は、前記周方向排出孔の長手方向一端で連通されてなることを特徴とするオイルポンプのリリーフバルブ。
【請求項4】
請求項1において、前記第1リリーフ排出孔の前記周方向排出孔に対して前記軸方向排出孔は2本形成されると共に、前記周方向排出孔の長手方向両端部箇所で連通されてなることを特徴とするオイルポンプのリリーフバルブ。
【請求項5】
請求項1,2,3又は4のいずれか1項の記載において、前記第1リリーフ排出孔の前記周方向排出孔には、前記リリーフ流入部側に向かって突出形成された小排出部を有してなることを特徴とするオイルポンプのリリーフバルブ。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−137479(P2011−137479A)
【公開日】平成23年7月14日(2011.7.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−295914(P2009−295914)
【出願日】平成21年12月25日(2009.12.25)
【出願人】(000144810)株式会社山田製作所 (183)
【Fターム(参考)】