説明

オイル希釈低減装置

【課題】例えば、アルコール及び水分によってオイルが希釈されることによって生じるオイルの劣化を抑制する。
【解決手段】シリンダヘッド230に接続された第1部分通路206a及び第2接続通路部240bの夫々は、スロットルバルブ214及びソレノイドバルブ250によって閉じられているため、エンジン200の外部から新たにシリンダヘッド230に供給される空気がない。加えて、クランクケース290内に新たに流れ込む空気がないため、クランクケース290内に滞留するガスが第1部分通路部206aに流れ出すことによってクランクケース290内の圧力が減圧され、クランクケース290に貯められたオイル280、並びに、当該オイル280に含まれるアルコール及び水のうち相対的にオイルより沸点の低い成分アルコール及び水が気化する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、例えばフレキシブル燃料自動車(Flexible Fuel Vehicle:FFV)等の車両に搭載される内燃機関において、アルコール或いは水によってオイルが希釈されることを低減するオイル希釈低減装置の技術分野に関する。
【背景技術】
【0002】
フレキシブル燃料自動車は、ガソリン及びアルコールを様々な比率で混合した混合燃料を用いても走行可能な車両であり、ガソリンのみを燃料にして走行する車両に比べて、代替エネルギーの観点から期待が寄せられている。
【0003】
また、FFVに限定されず、内燃機関で発生した動力を用いて走行が可能な車両では、オイル(潤滑油)を加熱することによって、当該オイルに含まれる水分を除去し、オイルを再生可能なエンジンの潤滑油再生装置が提案されている(特許文献1参照。)。
【0004】
一方、このような車両では、内燃機関の燃焼室内に負圧が発生する期間を設けることによって、燃焼室において燃料及び空気の混合を促進する技術(例えば、特許文献2参照。)、或いは、クランクケースに新しい空気を供給し、当該空気によってクランクケースから押し出されたブローバイガスを内燃機関の吸気系に戻して燃焼させることが可能なブローバイガス処理装置も提案されている(例えば、特許文献3参照。)。
【0005】
【特許文献1】実公平6−29452号公報
【特許文献2】特開2005−98159号公報
【特許文献3】特開平7−54629号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、アルコールにのみ、或いは、アルコール及びガソリンの両方から構成されるアルコール系燃料は、ガソリンのみで構成される燃料に比べて低温時における気化特性が低く、燃焼室に燃料が噴射された際に、アルコール成分がシリンダの内壁或いはピストン表面に付着してしまう。シリンダの内壁等の付着したアルコール成分によれば、オイルが希釈されてしまい、オイル特性を低下させてしまう。したがって、FFV等の車両に用いられる内燃機関では、ガソリンのみを燃料として用いる内燃機関に比べてオイルを頻繁に交換する必要性が生じる問題点がある。このような問題点は、特に、燃料を燃焼室に直接噴霧する直噴式を採用する内燃機関において顕著に発生する。
【0007】
また、オイル特性の低下は、オイル及びアルコールが混合することに起因して生じるだけでなく、アルコール系燃料を燃焼させることによって生じる水がオイルに混合された場合にも生じる。特に、アルコール系燃料を燃焼させることによって動力を発生させる内燃機関では、ガソリンのみを燃焼させることによって動力を発生させる内燃機関に比べて、水の発生量が多いため、オイル特性の低下はより一層顕著になる。
【0008】
よって、本発明は上記問題点等に鑑みてなされたものであり、例えば、FFV等の車両に搭載される内燃機関において、アルコール或いは水によってオイルが希釈されることを低減できるオイル希釈低減装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係るオイル希釈低減装置は上記課題を解決するために、アルコールを含むアルコール系燃料を燃焼させることによって車両の動力を発生させる内燃機関に用いられるオイルが、前記アルコール及び水の少なくとも一方によって希釈されることを低減するためのオイル希釈低減装置であって、前記内燃機関の外部から前記内燃機関の燃焼室に空気を導く吸気通路部のうち前記吸気通路部の途中に設けられたスロットルバルブより下流側に位置する第1部分通路部、及び、前記内燃機関が有するクランクケースを相互に接続する第1接続通路部と、前記吸気通路部のうち前記スロットルバルブより上流側に位置する第2部分通路部、及び、前記内燃機関が有するシリンダヘッドを相互に接続する第2接続通路部と、前記第1部分通路部内の圧力が負圧である場合に、前記クランクケース内に滞留するガスが前記第1接続通路部を介して前記第1部分通路部に流れ、且つ、前記クランクケース内が減圧されるように、前記第2接続通路部を閉じる閉手段とを備える。
【0010】
本発明に係るオイル希釈低減装置は、例えば、アルコール系燃料を燃焼させることによって生成された動力によって走行可能なFFV等の車両に搭載されている。本発明に係るオイル希釈低減装置は、後述するように内燃機関のクランクケース内の圧力を減圧することによって、例えば、クランクケース内に滞留するオイルに含まれるアルコール或いは水を減圧沸騰させることによってアルコール等をガス化させ、当該ガスをクランクケースの外部に排気する。
【0011】
第1接続通路部は、内燃機関の外部から内燃機関の燃焼室に空気を導く吸気通路部のうち吸気通路部の途中に設けられたスロットルバルブより下流側に位置する第1部分通路部、及び、内燃機関が有するクランクケースを相互に接続する。より具体的には、例えば、第1部分通路部は、空気を燃焼室に供給するためにエアクリーナ及びシリンダヘッド相互をつなぐ吸気管のうち、当該吸気管の途中に設けられたスロットルバルブ及びシリンダヘッド間を占める部分であって、その内部の圧力が、スロットルバルブが閉じている状態において負圧に維持される部分である。第1接続通路部は、第1部分通路部内及びクランクケース内の夫々の圧力の差に応じてクランクケース内のガスを第1部分通路部に導くことが可能になるように第1部分通路部及びクランクケースを相互に接続している。
【0012】
第2接続通路部は、吸気通路部のうちスロットルバルブより上流側に位置する第2部分通路部、及び内燃機関が有するシリンダヘッドを相互に接続する。このような第2接続通路部は、例えば、ブローバイガスを燃焼室に還流させるために用いられる通路部であり、吸気通路部の上流側に位置する第2部分通路部及びエアクリーナを介して取り込まれた空気を第1部分通路部とは別系統で燃焼室に供給できるように、第2部分通路部及びシリンダヘッドを相互に接続している。
【0013】
閉手段は、第1部分通路部内の圧力が負圧である場合に、クランクケース内に滞留するガスが第1接続通路部を介して第1部分通路部に流れ、且つ、クランクケース内が減圧されるように、第2接続通路部を閉じる。
【0014】
ここで、「第1部分通路部内の圧力が負圧である場合」とは、スロットルバルブを通過する空気量がまったくない、或いはそれと同等とみなせるほど空気の通過量が少ない状態をいう。このような状態では、第1部分通路部内の空気は、内燃機関の動作時に燃焼室に供給されるだけであり、外部から新たに空気が供給されないことによって第1部分通路部内の圧力は低下し、その結果、第1部分通路部内の圧力は負圧となる。したがって、閉手段が、第2接続通路部を閉じた状態において、第1部分通路部内及びクランクケース内の夫々の圧力に圧力差が発生し、クランクケース内より圧力が低い負圧である第1部分通路部にクランクケース内に滞留するガスが流れ込む。
【0015】
シリンダヘッドに接続された第1部分通路及び第2接続通路部の夫々は、スロットルバルブ及び閉手段によって閉じられているため、外部から新たにシリンダヘッドに供給される空気がない。加えて、クランクケース内に新た流れ込む空気がないため、クランクケース内に滞留するガスが第1部分通路部に流れ出すことによってクランクケース内の圧力が減圧され、クランクケースに貯められたオイル、並びに、当該オイルに含まれるアルコール及び水のうち相対的に沸点の低いアルコール及び水が気化する。このように気化したアルコール及び水は、クランクケース内に滞留するガスと共に、或いは当該ガスとして第1部分通路部に排出される。したがって、クランクケース内に貯められたオイルのアルコール濃度及び水分濃度を低減でき、アルコール及び水によってオイル特性が低下することを抑制できる。
【0016】
したがって、本発明に係るオイル希釈低減装置によれば、オイル特性の低下を抑制できるため、オイルの交換頻度を低減することが可能となり、例えば、FFV等の車両のランニングコストを抑制できる。
【0017】
本発明に係るオイル希釈低減装置の一の態様では、前記閉手段は、前記内燃機関に要求される動力が所定値より低い場合に前記第2接続通路部を閉じてもよい。
【0018】
この態様では、「所定値」とは、内燃機関の他の動作状態における第1部分通路部内の圧力より大きな負圧が第1部分通路部内に発生するように出力される動力の大きさを意味する。より具体的には、例えば、車両が一定の速度で走行している状態から、運転者がアクセルを少し踏み込んだ状態において内燃機関に要求される動力の大きさ、或いは、車両のアイドリング状態において内燃機関に要求される動力の大きさを意味する。このような動力が内燃機関に要求された際には、当該要求された動力に応じてスロットルバルブの開度は非常に小さく設定される。このような場合、第1部分通路部内の圧力は、例えば、−40〜−50Pa、或いは−75〜−80Pa程度の非常に大きな負圧となる。
【0019】
したがって、第1部分通路部内及びクランクケース内の夫々の圧力には、内燃機関に要求された動力の大きさに応じて非常に大きな圧力差が生じているため、クランクケース内から効率良く、ガスを排出できると共に、クランクケース内の圧力を負圧にすることが可能である。
【0020】
本発明に係るオイル希釈低減装置の他の態様では、前記閉手段は、前記第2接続通路部を閉じてから所定時間経過後に前記第2接続通路部を開けてもよい。
【0021】
この態様によれば、「所定時間」とは、例えば、時速60kmの一定の速度で車両を走行させる定常運転状態を少し行なった時間、或いは、定常運転開始から運転者がアクセルを急激に踏み込むまでの時間等のようにスロットルバルブが略閉じた状態が一定期間継続して維持された時間を意味する。第2接続通路部を閉じた状態が継続されると、内燃機関の動作に支障をきたす物質がアルコール燃料の燃焼に応じてクランクケース内に蓄積されてしまう。したがって、閉手段は、第2接続通路部を閉じてから所定時間経過後に第2接続通路部を開ける。これにより、第2接続通路部を介してクランクケース等の内燃機関における換気が施される。
【0022】
本発明に係るオイル希釈低減装置の他の態様では、前記オイルのアルコール濃度、及び水分濃度の少なくとも一方の濃度を検出する検出手段を更に備え、前記閉手段は、前記少なくとも一方の濃度が所定の濃度以上である場合に前記第2接続通路部を閉じてもよい。
【0023】
この態様によれば、「所定の濃度」とは、内燃機関の動作に支障をきたすか否かについての判断基準として予め設定しておくことが可能な、オイルのアルコール濃度及び水分濃度の少なくとも一方の具体的に値をいう。
【0024】
この態様によれば、閉手段は、少なくとも一方の濃度が所定の濃度以上である場合に第2接続通路部を閉じればよいため、クランクケース内の圧力制御についての手順を簡便化できる。
【0025】
本発明に係るオイル希釈低減装置の他の態様では、前記閉手段は、前記第2接続通路部の途中に設けられたソレノイドバルブと、前記ソレノイドバルブの開閉動作を制御する制御手段とから構成されていてもよい。
【0026】
この態様によれば、制御手段は、例えばECU(Engine Control Unit)の一部を構成する回路部であり、ソレノイドに供給する電流値を調整することによってソレノイドバルブの開閉状態を制御できる。
【0027】
本発明のこのような作用及び他の利得は次に説明する実施形態から明らかにされる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下、図面を参照しながら、本発明に係るオイル希釈低減装置の一実施形態を説明する。
【0029】
<1:オイル希釈低減装置が適用されたエンジンの詳細構成>
先ず、図1を参照しながら、本発明に係るオイル希釈低減装置の一実施形態が適用されたエンジン200の詳細な構成を説明する。図1は、エンジン200の半断面システム系統図である。
【0030】
図1において、エンジン200は、シリンダ201内において点火プラグ202により混合気を爆発させると共に、爆発力に応じて生じるピストン203の往復運動を、コネクションロッド204を介してクランクシャフト205の回転運動に変換することが可能に構成されている。エンジン200は、例えば、エンジン200と共にモータが搭載されたハイブリッド車両、或いはFFV車両に搭載されており、アルコール及びガソリンが混合されたアルコール系燃料を燃焼させることによって当該車両の動力を発生させる。
【0031】
シリンダ201内における燃料の燃焼に際し、外部から吸入された空気は、本発明の「吸気通路部」の一例である吸気管206を通過し、インジェクタ207から噴射された燃料と混合されて混合気となる。インジェクタ207には、ガソリン、及び、本発明の「アルコール」の一例であるエタノールが混合された、本発明の「アルコール系燃料」の一例である混合燃料が燃料タンク223からフィルタ224を介して供給されている。インジェクタ207は、混合燃料を、本発明の「制御手段」の一例である制御装置100の制御に従って吸気管206内に噴射する。尚、燃料タンク223には、燃料残量を検出するための燃料センサ225が設置されている。エンジン200は、燃料タンク223からインジェクタ207に燃料を供給するための燃料供給路部227は、その途中に設けられたフィルタ224及び濃度センサ228を有している。
【0032】
吸気管206と、シリンダ201内の燃焼室270とは、吸気バルブ208の開閉によって連通状態が制御されている。燃焼室270で燃焼した混合気は排気ガスとなり吸気バルブ208の開閉に連動して開閉する排気バルブ209を通過して排気管210を介して排気される。
【0033】
吸気管206の上流部には、エアクリーナ211が配設されており、外部から吸入される空気が浄化される。エアクリーナ211の下流側(シリンダ側)には、エアフローメータ212が配設されている。エアフローメータ212は、ホットワイヤー式と称される形態を有しており、吸入された空気の質量流量を直接測定することが可能に構成されている。吸気管206には更に、吸入空気の温度を検出するための吸気温センサ213が設置されている。
【0034】
吸気管206におけるエアフローメータ212の下流側には、シリンダ201内部への吸入空気量を調節するスロットルバルブ214が配設されている。スロットルバルブ214には、スロットルポジションセンサ215が電気的に接続されており、その開度が検出可能に構成されている。更に、スロットルバルブ214の周囲には、運転者によるアクセルペダル226の踏み込み量を検出するアクセルポジションセンサ216、及びスロットルバルブ214を駆動するスロットルバルブモータ217も配設されている。
【0035】
クランクシャフト205近傍には、クランクシャフト205の回転位置を検出するクランクポジションセンサ218が設置されている。クランクポジションセンサ218は、クランクシャフト205の回転状態に基づいて、シリンダ201内部におけるピストン203の位置、及びエンジン200の回転数など取得することが可能に構成されている。
【0036】
また、シリンダ201を収容するシリンダブロックには、エンジン200のノック強度を測定可能なノックセンサ219が配設されており、シリンダブロック内のウォータージャケット内には、エンジン200の冷却水温度を検出するための水温センサ220が配設されている。
【0037】
排気管210には、三元触媒222が設置されている。三元触媒222は、エンジン200から排出されるCO(一酸化炭素)、HC(炭化水素)、及びNOx(窒素酸化物)を夫々浄化することが可能な触媒である。排気管210における三元触媒222の上流側には、空燃比センサ221が配設されている。空燃比センサ221は、排気管210から排出される排気ガスから、エンジン200の空燃比を検出することが可能に構成されている。
【0038】
本実施形態に係るオイル希釈低減装置は、第1接続通路部240a、第2接続通路部240b、本発明の「閉手段」の一例を構成する制御装置100及びソレノイドバルブ250、並びに、本発明の「検出手段」の一例である濃度センサ260を含んで構成されている。
【0039】
第1接続通路部240aは、エンジン200の外部から燃焼室270に空気を導く吸気管206のうち吸気管206の途中に設けられたスロットルバルブ214より下流側に位置する第1部分通路部206a、及び、エンジン200が有するクランクケース290を相互に接続している。
【0040】
より具体的には、第1部分通路部240aは、空気を含む混合燃料を燃焼室270に供給するためにエアクリーナ211及びシリンダヘッド230を相互につなぐ吸気管206のうち、当該吸気管の途中に設けられたスロットルバルブ214及びシリンダヘッド230間を占める部分であって、その内部の圧力が、スロットルバルブ214が閉じている状態において負圧に維持される部分である。加えて、第1接続通路部240aは、第1部分通路部206a内及びクランクケース290内の夫々の圧力の差に応じてクランクケース290内のガスを第1部分通路部206aに導くことが可能になるように第1部分通路部206a及びクランクケース290を相互に接続している。
【0041】
第2接続通路部240bは、吸気管206のうちスロットルバルブ214より上流側に位置する第2部分通路部206b、及び、エンジン200が有するシリンダヘッド230を相互に接続している。第2接続通路部240bは、例えば、ブローバイガスを燃焼室270に還流させるために用いられる通路部であり、吸気管206の上流側に位置する第2部分通路部206b及びエアクリーナ211を介して取り込まれた空気を、第1部分通路部206aとは別系統で燃焼室270に供給できるように、第2部分通路部206b及びシリンダヘッド230を相互に接続している。
【0042】
ソレノイドバルブ250は第2部分通路部240bの途中に設けられており、制御装置100の制御下でその開閉動作が可能となるように構成されている。制御装置100は、エンジン200が搭載された車両全体の動作を制御するECUの一部を構成する回路部であり、ソレノイドに供給する電流値を調整することによってソレノイドバルブ250の開閉状態を制御する。
【0043】
スロットルバルブ214を通過する空気量がまったくない、或いはそれと同等とみなせるほど第1部分通路部206aを流れる空気の通過量が少ない状態では、第1部分通路部206a内の圧力は負圧になる。より具体的には、第1部分通路部206a内の空気は、エンジン200の動作時に燃焼室270に供給されるだけであり、外部から新たに空気が供給されないことによって第1部分通路部206a内の圧力は低下し、その結果第1部分通路部206a内の圧力は負圧となる。
【0044】
ソレノイドバルブ250は、第1部分通路部206a内の圧力が負圧である場合に、クランクケース290内に滞留するガスが第1接続通路部240aを介して第1部分通路部206aに流れ、且つ、クランクケース290内が減圧されるように、第2部分通路部240bを閉じる。
【0045】
したがって、第2接続通路部240bを閉じられた状態において、第1部分通路部206a内及びクランクケース290内の夫々の圧力に圧力差が発生し、クランクケース290内より圧力が低い負圧である第1部分通路部206aにクランクケース290内に滞留するガスが流れ込む。
【0046】
ここで、シリンダヘッド230に接続された第1部分通路206a及び第2接続通路部240bの夫々は、スロットルバルブ214及びソレノイドバルブ250によって閉じられているため、エンジン200の外部から新たにシリンダヘッド230に供給される空気がない。加えて、クランクケース290内に新たに流れ込む空気がないため、クランクケース290内に滞留するガスが第1部分通路部206aに流れ出すことによってクランクケース290内の圧力が減圧され、クランクケース290に貯められたオイル280、並びに、当該オイル280に含まれるアルコール及び水のうち相対的に沸点の低いアルコール及び水が気化する。
【0047】
より具体的には、本実施形態に係るオイル希釈低減装置によれば、クランクケース290内の圧力を減圧することによって、クランクケース290内の滞留するオイル280に含まれるアルコール或いは水を減圧沸騰させることができる。気化した(即ちガス化した)アルコール及び水は、クランクケース290内に滞留するガスと共に、或いは当該ガスとして第1部分通路部206aに排出される。
【0048】
したがって、クランクケース290内に貯められるオイル280のアルコール濃度及び水分濃度を低減でき、アルコール及び水によってオイル特性が低下することを抑制できる。
【0049】
このように、本実施形態に係るオイル希釈低減装置によれば、オイル特性の低下を抑制できるため、オイルの交換頻度を低減可能となり、例えば、FFV車両、或いはFFV車両をベースにして構成されたハイブリッド車両のランニングコストを抑制できる。
【0050】
また、本実施形態に係るオイル希釈低減装置は、ハイブリッド車両の走行時においても、当該車両が備えるエンジン内のオイルがアルコール及び水分によって希釈されることを低減できる。加えて、FFV車両をベースとして構成されたプラグインハイブリッド車両等の車両については、当該車両が走行していない場合に負圧に維持された第1部分通路部206aを介してクランクケース290内のガスを外部に排出でき、オイルに含まれるアルコール及び水分を減圧沸騰させることによって、オイル中のアルコール及び水分を低減できる。
【0051】
尚、このようなハイブリッド車両では、第1部分通路部内の負圧を利用することなく、別途設けられたポンプ等の減圧手段によってシリンダケース内の圧力を低下させて、オイルに含まれるアルコール及び水分を気化させた後、外部に排出することも可能である。
【0052】
<2:オイル希釈低減方法>
次に、図1及び図2を参照しながら、上述した本実施形態に係るオイル希釈低減装置によって実行可能なオイル希釈低減方法を説明する。図2は、本実施形態に係るオイル希釈低減方法の主要な処理ルーチンを示したフローチャートである。
【0053】
図1及び図2に示すように、エンジン200の動作時において、濃度センサ260は、シリンダケース290に貯められたオイル280中におけるアルコール濃度及び水分濃度を検出する(ステップS1010)。
【0054】
制御装置100は、濃度センサ260によって検出されたアルコール濃度及び水分濃度に関するデータを濃度センサ260から取得し、アルコール濃度及び水分濃度の少なくとも一方の濃度が所定の濃度以上であるか否かを判定する(ステップS1020)。より具体的には、制御装置100は、アルコール濃度及び水分濃度の夫々が、濃度D1及びD2の夫々より高いか否かを判定する。濃度D1及びD2は、エンジン200の動作に支障をきたすか否かについての判断基準として予め設定されている。アルコール濃度及び水分濃度の少なくとも一方が、当該一方に対応する濃度D1又はD2以下であると判定された場合には、制御装置100は、ソレノイドバルブ250を閉じる指示を出すことなく、次に検出されたアルコール濃度及び水分濃度の判定処理を行なう。
【0055】
したがって、制御装置100は、少なくとも一方の濃度が当該一方に対応する濃度D1又はD2より高い場合に、後述するステップを経て第2部分通路部を閉じればよいため、クランクケース290内の圧力制御について行う手順を簡便化できる。
【0056】
次に、アルコール濃度及び水分濃度の少なくとも一方が、当該一方に対応する濃度D1又はD2より高いと判定された場合には、制御装置100は、第1部分通路部206a内の圧力が圧力P1より低いか否かを判定する(ステップS1030)。
【0057】
ここで、圧力P1は、エンジン200に要求される動力が所定値より低いか否かを判定する際の基準となる要求動力に対応した圧力値である。このような要求動力は、例えば、車両が一定の速度で走行している状態から、運転者がアクセルを少し踏み込んだ状態においてエンジン200に要求される動力の大きさ、或いは、車両のアイドリング状態においてエンジンに要求される動力の大きさである。このような要求動力が内燃機関に要求された際には、当該要求された動力に応じてスロットルバルブ214の開度は非常に小さく、第1部分通路部内206aの圧力は、例えば、−40〜−50Pa、或いは−75〜−80Pa程度の非常に大きな負圧となる。圧力P1は、−40〜−50Pa、或いは−75〜−80Paより大きな値に設定されるため、車両が一定の速度で走行している状態から、運転者がアクセルを少し踏み込んだ状態、或いは、車両のアイドリング状態の夫々の状態では、第1部分通路部206aの圧力は圧力P1より低くなる。
【0058】
制御装置100は、第1部分通路部206a内の圧力が圧力P1より以上であると判定された場合には、ソレノイドバルブ250を全開に切り換える。
【0059】
次に、ステップS1030において第1部分通路部206a内の圧力が圧力P1より低いと判定された場合には、制御装置100はソレノイドバルブ250を全閉し、第2接続通路部240bを閉じる(ステップ1040)。これにより、第1部分通路部206a内及びクランクケース290内の夫々の圧力には圧力差が生じ、オイル280に含まれるアルコール及び水分を減圧沸騰されることによって、気化したアルコール及び水分を第1接続通路部240aを介してクランクケース290内から効率良く排出できる。加えて、気化したアルコール及び水分がクランクケース290から排出されるため、継続して負圧に維持されるクランクケース290内からアルコール及び水分を排出できる。
【0060】
したがって、本実施形態に係るオイル希釈低減方法によれば、クランクケース290内に貯められるオイル280が、アルコール及び水分によって劣化することを低減できる。
【0061】
次に、制御装置100は、第2接続通路部240bを閉じてから所定時間が経過したか否かを判定する(ステップS1050)。第2接続通路部240bを閉じてから所定時間T1が経過していない場合には、再度ステップS1040に戻る。第2接続通路部240bを閉じてから所定時間が経過したと判定された場合には、制御装置100は、ソレノイドバルブ250を開状態に切り換える指示を出し、シリンダヘッド230を介してシリンダケース290からガスが第2部分通路部206bに還流可能なように第2接続通路部240bが開けられ(ステップS1060)、一連の手順を終了する。
【0062】
ここで、ソレノイドバルブ250を閉じた状態が過剰に継続されるとエンジン200の動作に支障をきたす物質がアルコール燃料の燃焼に応じてクランクケース290内に蓄積されてしまうため、本実施形態では、所定時間T1が経過するとソレノイドバルブ250を開状態に切り換える。
【0063】
したがって、制御装置100は、第2接続通路部240bを閉じてから所定時間T1経過後に第2接続通路部240bを開ける。これにより、第2接続通路部を介してクランクケース290内の換気が施され、支障なくエンジン200を動作させることができる。
【0064】
以上説明したように、本実施形態に係るオイル希釈低減装置によれば、クランクケース内に貯められたオイルに含まれるアルコール或いは水を減圧沸騰させることによってガス化させ、当該ガスをクランクケースの外部に排気できる。したがって、クランクケース内に貯められたオイルのアルコール濃度及び水分濃度を低減でき、アルコール及び水によってオイル特性が低下することを抑制できる。本実施形態に係るオイル希釈低減装置によれば、オイル特性の低下を抑制できるため、オイルの交換頻度を低減可能となり、例えば、FFV等の車両、或いはFFV車両をベースにして構成されたハイブリッド車両のランニングコストを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】本発明の実施形態に係るオイル希釈低減装置が適用された内燃機関の模式的な平面図である。
【図2】本発明の実施形態に係るオイル希釈低減装置によって実行可能なオイル希釈低減方法の主要な処理ルーチンを示したフローチャートである。
【符号の説明】
【0066】
100・・・制御装置、200・・・エンジン、201・・・シリンダ、206・・・吸気管、206a・・・第1部分通路部、206b・・・第2部分通路部、240a・・・第1接続通路部、240b・・・第2接続通路部、250・・・ソレノイドバルブ、280・・・オイル、290・・・シリンダケース

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルコールを含むアルコール系燃料を燃焼させることによって車両の動力を発生させる内燃機関に用いられるオイルが、前記アルコール及び水の少なくとも一方によって希釈されることを低減するためのオイル希釈低減装置であって、
前記内燃機関の外部から前記内燃機関の燃焼室に空気を導く吸気通路部のうち前記吸気通路部の途中に設けられたスロットルバルブより下流側に位置する第1部分通路部、及び、前記内燃機関が有するクランクケースを相互に接続する第1接続通路部と、
前記吸気通路部のうち前記スロットルバルブより上流側に位置する第2部分通路部、及び、前記内燃機関が有するシリンダヘッドを相互に接続する第2接続通路部と、
前記第1部分通路部内の圧力が負圧である場合に、前記クランクケース内に滞留するガスが前記第1接続通路部を介して前記第1部分通路部に流れ、且つ、前記クランクケース内が減圧されるように、前記第2接続通路部を閉じる閉手段と
を備えたことを特徴とするオイル希釈低減装置。
【請求項2】
前記閉手段は、前記内燃機関に要求される動力が所定値より低い場合に前記第2部分通路部を閉じること
を特徴とする請求項1に記載のオイル希釈低減装置。
【請求項3】
前記閉手段は、前記第2部分通路部を閉じてから所定時間経過後に前記第2接続通路部を開けること
を特徴とする請求項1又は2に記載のオイル希釈低減装置。
【請求項4】
前記オイルのアルコール濃度、及び水分濃度の少なくとも一方の濃度を検出する検出手段を更に備え、
前記閉手段は、前記少なくとも一方の濃度が所定の濃度以上である場合に前記第2部分通路部を閉じること
を特徴とする請求項1から3の何れか一項に記載のオイル希釈低減装置。
【請求項5】
前記閉手段は、前記第2接続通路部の途中に設けられたソレノイドバルブと、前記ソレノイドバルブの開閉動作を制御する制御手段とから構成されていること
を特徴とする請求項1から4の何れか一項に記載のオイル希釈低減装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−261285(P2008−261285A)
【公開日】平成20年10月30日(2008.10.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−104952(P2007−104952)
【出願日】平成19年4月12日(2007.4.12)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】