説明

オキアミ油およびミールの製造方法

本発明は,新鮮なオキアミから実質的にすべての脂質画分を調製する方法,リン脂質を他の脂質から分離する方法,およびオキアミミールを製造する方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,新鮮なオキアミから実質的にすべての脂質画分を製造するためのプロセス,およびリン脂質を他の脂質から分離するプロセスに関する。本発明はまた,高品質のオキアミミールを製造するプロセスに関する。
【背景技術】
【0002】
水産物リン脂質は,医療品,健康食品およびヒトの栄養として,ならびに,魚の餌として,およびタラ,オヒョウおよびターボット等の海産種の幼生魚および稚魚の生存率を増加させる手段として有用である。
【0003】
海洋生物からのリン脂質は,オメガ−3脂肪酸を含む。水産物リン脂質に結合したオメガ−3脂肪酸は特に有用な特性を有すると想定される。
【0004】
魚精および魚卵等の産品は伝統的な水産物リン脂質の原材料である。しかし,これらの原材料は,限定された量でしか入手できず,その価格は高い。
【0005】
オキアミは小さい,エビに似た動物であり,比較的高い濃度のリン脂質を含む。Euphasiidsの群には80を越える種があり,南極オキアミはその種の1つである。商業的な有用性について現在最も可能性が高いものは南極のEuphausia superbaである。E.superbaは体長2−6cmである。別の南極オキアミ種はE.crystallorphiasである。Meganyctiphanes norvegica,Thysanoessa inermisおよびT.raschiiは,北洋オキアミの例である。
【0006】
Euphausia superbaでは,新鮮なオキアミは,約10%までの脂質を含み,このうち約50%はリン脂質である。オキアミからのリン脂質は非常に高いレベルのオメガ−3脂肪酸を含み,そのうち,エイコサペンタエン酸(EPA)およびドコサヘキサエン酸(DHA)の含有量は約40%を越える。南極オキアミの2つの主要な種からの脂質のおよその組成を表1に示す。
【0007】
【表1】

【0008】
さらに,南極オキアミは,伝統的な魚油より環境汚染物質のレベルが低い。
【0009】
オキアミは,0℃で非常に活性なリパーゼ等の酵素による消化系を有する。リパーゼはオキアミが死亡した後も活性なままであり,オキアミの脂質の一部を加水分解する。これによる望ましくない影響は,オキアミ油が通常は数パーセントの遊離脂肪酸を含むことである。加工前にオキアミをより小さい断片に切断しなければならないのであれば,当業者はただちに,このことは加水分解の程度を増加させるであろうと理解する。すなわち,新鮮なオキアミの全身,またはオキアミからの全身部分を利用することができるプロセスを見いだすことが望まれている。これは,そのようなプロセスは,品質が改良された,脂質の加水分解の程度が低い生成物を与えるためである。この改良された品質は,オキアミ脂質のすべてのグループ,例えば,リン脂質,トリグリセリドおよびアスタキサンチンエステルに影響を及ぼす。
【0010】
オキアミ脂質は,その大部分が頭部に存在する。したがって,新鮮なオキアミを利用するプロセスは,頭部を除去したオキアミからの副生成物を速やかに加工するのに非常に適しており,そのような製品は漁船の船上で製造することができる。
【0011】
Beaudionらの米国特許6,800,299では,アセトンおよびエタノール等の有機溶媒を用いて低温で連続して抽出することにより,オキアミから総脂質画分を抽出する方法が開示されている。このプロセスでは大量の有機溶媒を用いて抽出しており,これはあまり望ましくない。
【0012】
K.Yamaguchiら(J.Agric.Food Chem.1986 34,904−907)は,凍結乾燥南極オキアミを超臨界液体抽出の最も一般的な溶媒である二酸化炭素を用いて超臨界液体抽出すると,主として非極性脂質(ほとんどはトリグリセリド)からなりリン脂質を含まない生成物が得られることを示した。Yamaguchiらは,オキアミミール中の油は酸化または重合により,超臨界CO2ではわずかに限定された抽出しか生じない程度に劣化していることを報告した。
【0013】
Y.TanakaおよびT.Ohkubo(J.Oleo.Sci.(2003),52,295−301)は,イクラから脂質を抽出する彼ら自身の研究との関係において,Yamaguciらの研究を引用している。より新しい論文(Y.Tanaka et al.(2004),J.Oleo.Sci.,53,417−424)において,同じ著者は,リン脂質の抽出にエタノールとCO2との混合物を用いることによりこの問題を解決しようとした。CO2を5%エタノールとともに用いると,凍結乾燥サケ卵からリン脂質は除去されなかったが,10%エタノールを加えると,リン脂質の30%が除去され,30%ものエタノールを加えると,リン脂質の80%以上が除去された。凍結乾燥は費用がかかりエネルギーを消費するプロセスであり,商業的なオキアミ漁業から入手可能となる非常に大量の生鮮物質の処理には適していない。
【0014】
Tanakaらは,抽出の温度を変化させることによりプロセスの最適化を試みて,低温が最もよい結果を与えることを見いだした。CO2の臨界温度のすぐ上の温度である33℃が,最もよい結果を与えるとして選択された。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】米国特許6,800,299
【非特許文献】
【0016】
【非特許文献1】K.Yamaguchi et al.(J.Agric.FoodChem.198634,904−907)
【非特許文献2】Y.Tanaka and T.Ohkubo,J.Oleo.Sci.(2003),52,295−301
【非特許文献3】Y.Tanaka et al.(2004),J.Oleo.Sci.,53,417−424
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0017】
これらの知見に反して,我々は,驚くべきことに,大量の凍結乾燥等の複雑かつ費用のかかる前処理を必要とせずに,新鮮なオキアミから実質的にすべての脂質画分を抽出するプロセスを見いだした。脂質画分はトリグリセリド,アスタキサンチンおよびリン脂質を含んでいた。加工前に原材料を乾燥または脱油する必要はなかった。Tanakaらとは異なり,我々は,海産物原材料を短時間加熱することは抽出収率を高めることを見いだした。また,オキアミを中程度の温度での短時間の加熱やモレキュラーシーブ等の固体乾燥剤との接触等によって前処理することにより,新鮮なオキアミからリン脂質を除去するのにエタノール洗浄のみでも十分であることが見いだされた。
【0018】
発明の概要
新鮮なオキアミからアセトンなどの有機溶媒を用いずに実質的にすべての脂質画分を調製するプロセスを提供することが本発明の主な目的である。
【0019】
超臨界圧で液体に暴露することにより酸化が防止され,二酸化炭素/エタノールの組み合わせはオキアミ脂質の酵素的加水分解を不活性化させると予測される。本発明にしたがうプロセスは,原材料の取り扱いが最小でよいため,例えば漁船上で新鮮なオキアミに対して用いるのに非常に適している。本発明にしたがう生成物は,加水分解されたおよび/または酸化された脂質を,慣用のプロセスにより製造される脂質より実質的に少ない量で含むと予測される。このことはまた,慣用のプロセスからのものより,オキアミ脂質抗酸化物質の劣化がより少ないと予測されることを意味する。任意に,新鮮なオキアミを短時間加熱して前処理することにより,脂質の酵素分解を不活性化し,このことにより,製品中の遊離脂肪酸のレベルを確実に非常に低くすることができる。
【0020】
本発明の別の目的は,他の海産物原材料,例えば,魚生殖腺,Calanus種,または高品質オキアミミールから実質的にすべての脂質画分を調製するプロセスを提供することである。
【0021】
本発明の別の目的は,長鎖ポリ不飽和オメガ−3脂肪酸の豊富な実質的にすべての脂質画分を提供することである。
【0022】
これらのおよび他の目的は,特許請求の範囲において定義されるプロセスおよび脂質画分により達成される。
【0023】
本発明にしたがえば,新鮮なオキアミから実質的にすべての脂質画分を抽出する方法が提供され,この方法は,
a)オキアミ原材料の含水量を低下させ;そして
b)脂質画分を単離する
の各工程を含む。
【0024】
任意に,上述の方法は,
a−1)工程a)からの含水量低下オキアミ原料を,エタノール,メタノール,プロパノールまたはイソプロパノールを含む超臨界圧のCO2で抽出する追加の工程を含む。この工程a−1)は,工程a)に引き続いて行う。
【0025】
本発明の好ましい態様においては,新鮮なオキアミから実質的にすべての脂質画分を抽出する方法が提供され,この方法は,
a)オキアミ原材料の含水量を低下させ;
a−1)工程a)からの含水量低下オキアミ原料をエタノールを含むCO2で抽出し,該抽出は超臨界圧で実施し;そして
b)エタノールから脂質画分を単離する
の各工程を含む。
【0026】
本発明の好ましい態様においては,工程a)は,オキアミ原材料を1:0.5〜1:5の重量比のエタノール,メタノール,プロパノールおよび/またはイソプロパノールで洗浄することを含む。好ましくは,オキアミ原材料は,洗浄前に,60−100℃,より好ましくは70−100℃,最も好ましくは80−95℃で加熱する。さらに,オキアミ原材料は,洗浄前に,好ましくは約1−40分間,より好ましくは約1−15分間,最も好ましくは約1−5分間加熱する。
【0027】
本発明の別の好ましい態様においては,工程a)は,水を除去するために,オキアミ原材料をモレキュラーシーブまたは他の形の膜,例えば水吸収膜と接触させることを含む。
【0028】
好ましくは,工程a−1)におけるエタノール,メタノール,プロパノールおよび/またはイソプロパノールの量は,5−20重量%,より好ましくは10−15重量%である。
【0029】
オキアミの総脂質を含む生成物の製造に加えて,本発明は,リン脂質を他の脂質から分離するためにも用いることができる。本発明にしたがう超臨界圧における抽出により得られる総脂質を異なる種類の脂質に分離するためには,前記総脂質を純粋な二酸化炭素で抽出することにより,オメガ−3の豊富なリン脂質から非極性脂質を除去することができる。総脂質を5%未満のエタノールまたはメタノールを含む二酸化炭素で抽出することは別の選択肢である。
【0030】
リン脂質は,有益なオメガ−3脂肪酸が他の種類の脂質よりはるかに多いため,本発明はオメガ−3脂肪酸の高濃縮物を製造するのに有用である。市販されている魚油は11−33%の総オメガ−3脂肪酸を含むが(Hjaltason,B and Haraldsson,GG(2006)Fishoils and lipids from marine sources,Modifying Lipids for Use in Food(FD Gunstone,ed),Woodhead Publishing Ltd,Cambridge,pp.56−79),オキアミのリン脂質はこれをはるかに高いレベルで含む(Ellingsen,TE(1982)Biokjemiske studier over antarktisk krill,PhD thesis,Norges tekniske hoyskole,Trondheim.English summary in Publication no.52 of the Norwegian Antarctic Research Expeditions(1976/77 and 1978/79)),表1も参照のこと。オメガ−3の豊富なリン脂質はそのまま用いてもよく,オメガ−3含有リン脂質に起因する種々のポジティブな生物学的効果を得ることができる。あるいは,エステル(典型的にはエチルエステル)または遊離脂肪酸,またはオメガ−3脂肪酸をさらに濃縮するのに適した他の誘導体を得るために,リン脂質をエステル交換するかまたは加水分解することができる。一例として,オキアミリン脂質のエチルエステルはEuropean Pharmacopoeia monographs no.1250(オメガ−3−酸エチルエステル90),2062(オメガ−3−酸エチルエステル60)および1352(オメガ−3−酸トリグリセリド)の基準に適合した濃縮物を製造するための中間体生成物として有益である。同時に,残りの脂質(アスタキサンチン,抗酸化剤,トリグリセリド,ワックスエステル)をそのまま,水産養殖の餌等の種々の用途に用いることができ,または脂質の種類をさらに分離することができる。
【0031】
すなわち,本発明のさらに別の目的は,上述のように,リン脂質を他の脂質から分離するプロセスを提供することである。
【0032】
本発明の別の目的は,高品質のオキアミミールを製造することである。脂質はこのプロセスの最初の工程で除去されるため,ミールは酸化された脂質および重合した脂質を実質的に含まない。このため,ミールは,酸化的ストレスを回避することが重要な用途,例えば,養殖用飼料における使用,特に海生魚類種の開始時の餌として非常に適している。したがって,本発明のオキアミミールは,幼生魚および稚魚,ならびに魚類および甲殻類の餌として非常に適している。さらに,本発明のオキアミミールは,高品質のキトサンの製造用の供給源として用いることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】図1は,抽出の原材料として用いたE.superbaの写真を示す。
【図2】図2は,下記の実施例7に記載されるようにして抽出した後の材料を示す。
【発明を実施するための形態】
【0034】
発明の詳細な説明
加工は,広範な種類の加工条件で行うことができ,そのうちのいくつかを下記に例示する。
【0035】
下記において,“新鮮な”オキアミとは,収穫後直ちに,または収穫後脂質の加水分解または酸化等の品質の劣化を防ぐのに十分に短い時間で処理されるオキアミ,または収穫後ただちに凍結したオキアミとして定義される。新鮮なオキアミは,全オキアミであってもよく,または新鮮なオキアミからの副生成物(例えば皮をむいた後の材料)であってもよい。新鮮なオキアミはまた,収穫後短時間で凍結したオキアミ,またはオキアミからの副生成物であってもよい。
【0036】
さらに,“オキアミ”にはオキアミミールも含まれる。
【実施例】
【0037】
実施例1
凍結乾燥オキアミの加工
凍結乾燥オキアミを,CO2で超臨界圧で抽出した。これにより,90g/kgの生成物を得た。分析は,抽出物がEPA+DHAの合計をわずか5.4%しか含まないことを示しており,有意な量のオメガ−3リッチリン脂質を含んでいなかったことを示す。10%エタノールを含むCO2を用いる第2の抽出により,100g/kg(出発サンプル重量から計算)の抽出物が得られた。31P NMRは,生成物がリン脂質を含むことを示した。抽出物は,EPAとDHAを合計で33.5%含んでいた。
【0038】
両方の工程において,抽出条件は300bar,50℃であった。
【0039】
すなわち,よりオメガ−3の含有量の少ないオキアミ脂質からオメガ−3の豊富なリン脂質を実質的に分離することが可能である。
【0040】
第2の実験においては,凍結乾燥オキアミを上述と同じ圧力および温度で,最初に167部(重量)の純粋なCO2で,次に10%エタノールを含む167部(重量)のCO2で2回抽出した。合わせた抽出物(280g/kgの原材料)を13Cおよび31P NMRにより分析した。分析により,生成物は主要成分としてトリグリセリドおよびリン脂質を含むことが示された。先の抽出物と同様に,暗赤色は抽出物がアスタキサンチンを含むことを示した。
【0041】
実施例1にしたがうプロセスが凍結乾燥オキアミについて用いられてきたか否かは不明である。これはY.Tanakaら,(2004)J.Oleo Sci.53,417−424から予期されたであろうと主張できるかもしれない。しかし,この従来技術においてはCO2を10%エタノールとともに用いると,リン脂質のわずか30%しか抽出されなかった。リン脂質の80%を抽出するためには,20%エタノールを用いる必要があった。
【0042】
本発明にしたがう実施例:
実施例
新鮮なE.superba(200g)をエタノール(1:1,200g)で約0℃で洗浄した。エタノール抽出物(1.5%)は,無機塩(主としてNaCl)および多少の有機物質を含んでいた。
【0043】
エタノール洗浄オキアミを10%エタノールを含むCO2で抽出した。これにより,12g(出発オキアミに基づいて6%)の抽出物が得られた。分析(TLCおよびNMR)は,抽出物がリン脂質,トリグリセリドおよびアスタキサンチンを含むことを示した。
【0044】
当業者は,超臨界圧における二酸化炭素は,エタノールの溶媒として作用することができることを認識するであろう。すなわち,CO2の溶解力を調節する代替法は,エタノール含有オキアミ原材料からエタノールを直接溶解させるように,圧力/温度条件を利用することであり,CO2の前処理によって加える必要はない。このことは,以下の実施例でも適用される。
【0045】
実施例3
新鮮なE.superba(200g)をエタノール(1:3,600g)で約0℃で洗浄した。エタノール抽出物(7.2%)は,リン脂質,トリグリセリドおよびアスタキサンチン,ならびに多少の無機塩を含んでいた。抽出物は,26.3%(EPA+DHA)を含んでおり,このことは,リン脂質の相対含量が高いことを示す。
【0046】
エタノールで洗浄したオキアミを10%エタノールを含むCO2で抽出した。これにより,オキアミ出発材料に基づいて2.2%の抽出物が得られた。分析(TLCおよびNMR)により,抽出物はリン脂質,トリグリセリドおよびアスタキサンチンを含むことが示された。しかし,抽出物はわずか8.1%(EPA+DHA)しか含まないため,リン脂質含有量は低いと結論づけられた。
【0047】
実施例4
新鮮なE.superbaを,上述と同じ2工程プロセスで,ただし,洗浄工程におけるエタノールの量を4:1に増加させて処理した。エタノール抽出物は出発材料と比較して7.2%であり,一方,超臨界液体抽出物は2.6%であった。
【0048】
実施例5
オキアミ原材料から水を除去するために,新鮮なE.superba(200g)をモレキュラーシーブ(A3,280g)と接触させた。10%エタノールを含むCO2で抽出すると,オキアミの出発重量から計算して5.2%の抽出物が得られた。分析により,この抽出物は,トリグリセリド,リン脂質およびアスタキサンチンを含むことが示された。抽出された全オキアミは黒色の眼を除き完全に白色であった。
【0049】
実施例5は,水を除去したときの影響を示す。エタノールの代替物としてモレキュラーシーブを選択した。これらの実施例は,水を除去するために用いることができる薬剤を限定することを意図するものではない。モレキュラーシーブおよび他の乾燥剤は,凍結乾燥の代替物として,穏和であり費用効果的である。
【0050】
実施例6
新鮮なE.superba(200g)を実施例2と同様にしてエタノール(1:1)で洗浄したが,ただし,原材料を80℃で5分間前処理した点が異なっていた。これにより,7.3%のエタノール抽出物が得られた。さらに10%エタノールを含むCO2による超臨界液体抽出により,新鮮な原材料から出発して2.6%の抽出物が得られた。総抽出物は9.9%であり,分析(TLC,NMR)は,抽出物がリン脂質を豊富に含み,トリグリセリドおよびアスタキサンチンも含むことを示した。残留の全オキアミは,黒色の眼を除き完全に白色であった。
【0051】
実施例7
新鮮なE.superba(12kg)を80℃で数分間加熱した後,エタノール(26kg)で抽出した。これにより,0.82kg(7%)のエタノール抽出物が得られた。脂質の種類を分析したところ(HPLC;カラム:Alltima HPシリカ3μm;検出器:DEDL Sedere;溶媒:クロロホルム/メタノール)リン脂質含有量が58%であることが示された。GC(面積%)による分析は,24.0%EPAおよび11.4%DHA,EPA+DHAの合計=35.4%の含有量を示した。
【0052】
残りのオキアミをエタノール(15kg)を含むCO2(156kg)で280barおよび50℃で抽出した。これにより0.24kg(2%)の抽出物を得た。残留のオキアミは,黒色の眼を除き白色であった。脂質分類の分析は,19%のリン脂質含有量を示した。抽出物は8.9%EPAおよび4.8%DHA(合計13.7%)を含んでいた。残りのオキアミ原料の抽出(Folch法)は,わずか0.08kgの脂質含有量を示した(最初のオキアミ重量と比較して0.7%)。このことは,実質的に全ての脂質が抽出されたことを意味する。
【0053】
実施例8
新鮮なE.superba(12kg)を熱処理なしでエタノール(33kg)で抽出した。これにより,0.29kg(2.4%)の抽出物を得た。上述のように脂質分類を分析すると,28.5%のリン脂質含有量を示した。
【0054】
この結果は,熱処理により加熱しないで同じ処理をした場合と比較して,脂質の収率が増加したことを示す。原材料を熱処理した後,1部(重量)のエタノールで処理したところ,加熱せずに4部のエタノールを用いた場合と同じ結果が得られた。また,加熱せずにエタノール処理した場合と比較して,リン脂質およびオメガ−3脂肪酸がより豊富なエタノール抽出物が得られた。
【0055】
実施例で用いた加熱時間は本発明を限定するものではない。当業者は,大量の生物学的材料については,正確な加熱時間をモニターすることが困難であることを認識するであろう。すなわち,加熱時間は,特定の時間に加工すべきオキアミの量により様々でありうる。また,予熱に用いる温度も実施例の温度に限定されない。実験は,80℃での予熱よりさらに高い95℃で予熱することにより,工程a)における脂質の収量を増加させる傾向を示した。また,大量のオキアミについては,すべてのオキアミ原料について正確に同じ温度を得ることが困難である。
【0056】
熱処理は,非常に活性なオキアミ消化酵素が不活性化され,脂質の加水分解の可能性を低下させるという付加的な結果を与える。
【0057】
実施例9
図1は,抽出の原材料として用いたE.superbaの写真である。図2は,実施例7に記載されるように抽出した後の材料を示す。他の実施例も,抽出後に非常に似た材料を与えた。抽出した後のオキアミは乾燥しており,指の間で加圧することによって手動でも簡単に粉体とすることができる。脱脂粉体は,オキアミからの蛋白質ならびにキトサンおよび他の非脂質成分を含む。粉体は乾燥タラに似た臭いがする。この粉体は実質的に脂質を含まないため,酸化したポリ不飽和脂肪酸を実質的に含まないミールが得られる。これは,伝統的なプロセスにしたがって製造した,リン脂質画分の実質的にすべてがミール中に残留して,酸化され重合した材料が生ずるオキアミミールとは全く異なる。したがって,本発明のプロセスにしたがって製造したオキアミミールは,水産養殖の餌として使用したとき,伝統的なオキアミミールまたはフィッシュミールと比較して酸化的ストレスがはるかに少ない。オキアミミールはまた,ロブスター等の甲殻類の餌として,および野生のタラバガニ(Paralithodes camtschatica)のカニの身の質および量を増加させるための餌として非常に適している。ミールは重合した脂質を実質的に含まないため,高い品質のキトサンの製造用に,および高品質のミールを必要とする他のプロセスにおいても有用である。
【0058】
オキアミ脂質は非常に速く酸化されて,一般の溶媒に溶解しにくくなるため,当業者は,例えば有機溶媒を用いる伝統的なオキアミミールの脱脂によっては同様の高品質オキアミミールを得ることができないことを理解するであろう。
【0059】
当業者は,上述のプロセスはオキアミ以外の原材料,例えば,魚類生殖腺から,またはCalanus種からのオメガ−3の豊富なリン脂質の単離についても用いることができることを理解するであろう。ある種のオキアミ種は,ワックスエステル(例として,E.crystallorphias)が豊富であり,Calanus種についても同じである。当業者は,上述のように加工することにより,非極性脂質画分中でワックスエステルを濃縮することができることを理解するであろう。
【0060】
さらに,当業者は,上述のプロセスの工程を用いて,オキアミの極性脂質(すなわち,リン脂質)と非極性脂質を分離することができることを理解するであろう。また,上述の例の1つにしたがって,オキアミの総脂質の抽出物を製造し,次にこの中間生成物に2回目の抽出を行って,脂質の種類により分離することも可能である。例えば,純粋な二酸化炭素による抽出により,オメガ−3が豊富なリン脂質から非極性脂質を除去することができる。
【0061】
別の態様においては,本発明にしたがうプロセスを用いてオキアミミールを抽出し,得られるオキアミミールはオキアミ脂質の劣化を回避するのに十分に穏和な方法で製造されたものである。
【0062】
当業者はまた,上述のプロセスは魚生殖腺およびCalanus種などの他の海産物原材料を抽出するために用いることができることを理解するであろう。
【0063】
本発明の方法により得られる脂質画分または脂質生成物は,既知のオキアミ油製品(慣用の方法により製造)と比較して,その品質に関してさらに別の利点を有する。例えば,Neptune Biotechnologies&Bioresourcesによる,日本産オキアミ(種は特定されていない)から抽出されたオキアミ油は下記の組成を有する。
【0064】
【表2】

【0065】
本発明にしたがう脂質生成物または画分は,
・加水分解および/または酸化された脂質が慣用の方法により製造される脂質より実質的に少なく,
・慣用の方法よりオキアミ脂質抗酸化剤の劣化が少なく,
・非常に低いレベルの遊離脂肪酸を含み,および/または
・有機溶媒の痕跡を実質的に含まない,
ことが期待される。
【0066】
“酸化された”脂質とは,一次酸化生成物(典型的には過酸化物値により測定される),二次酸化生成物(典型的にはカルボニル生成物であって,しばしばアニシジン値により分析される)および三次酸化生成物(オリゴマーおよびポリマー)のいずれをも意味する。
【0067】
すなわち,本発明は,本発明にしたがう方法の1つにより製造される,市販用の脂質またはオキアミ油製品を含む。
【0068】
栄養補助食品であるSuperba(商標)(Aker Bio Marine,Norway)等の製品は,本発明の方法にしたがって製造することができる。
【0069】
当業者は,本発明の方法により製造される製品の品質は,伝統的なオキアミミールの抽出により製造される製品と比較して改良されることを認識するであろう。
【0070】
さらに,本発明にしたがうプロセスにより得られる脂質組成物の例を下記の表に示す。
【0071】
【表3】

【0072】
本発明にしたがえば,抽出物は,リン脂質の含量に関して濃縮することができる。いくつかの典型的な脂質組成物を表3−5に例示する。
【0073】
【表4】

【0074】
実施例7に見られるように,表3に記載される脂質組成物は,本発明の工程a)にしたがう抽出のみを適用することによっても得ることができる。
【0075】
【表5】

【0076】
【表6】

【0077】
本発明は,示される態様および実施例に限定されない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
新鮮なオキアミから実質的にすべての脂質画分を抽出する方法であって,
a)オキアミ原材料の含水量を低下させ;そして
b)脂質画分を単離する,
の各工程を含む方法。
【請求項2】
工程a)は,1:0.5〜1:5の重量比の,エタノール,メタノール,プロパノールまたはイソプロパノールを用いて洗浄することを含み,工程b)はアルコールから脂質画分を単離することを含む,請求項1記載の方法。
【請求項3】
工程a)は,オキアミ原材料をエタノールで洗浄することを含み;および
工程b)は,エタノールから脂質画分を単離することを含む,
請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
さらに,
a−1)工程a)からの含水量低下オキアミ原料を,エタノール,メタノール,プロパノールまたはイソプロパノールを含むCO2で超臨界圧で抽出する,
の工程を含む,請求項1−3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
オキアミ原材料を洗浄する前に60−100℃で加熱する,請求項1−4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
オキアミ原材料を洗浄する前に70−100℃で加熱する,請求項5記載の方法。
【請求項7】
オキアミ原材料を洗浄する前に80−95℃で加熱する,請求項5または6に記載の方法。
【請求項8】
オキアミ原材料を洗浄する前に約1〜40分間加熱する,請求項5−7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
オキアミ原材料を洗浄する前に約1〜15分間加熱する,請求項8記載の方法。
【請求項10】
オキアミ原材料を洗浄する前に約1〜5分間加熱する,請求項8または9に記載の方法。
【請求項11】
工程a)は,原材料をモレキュラーシーブと接触させることを含む,請求項1記載の方法。
【請求項12】
工程a)は,原材料を水吸収膜と接触させることを含む,請求項1記載の方法。
【請求項13】
工程a−1)におけるエタノール,メタノール,プロパノールまたはイソプロパノールの量は5−20重量%である,請求項1記載の方法。
【請求項14】
工程a−1)におけるエタノール,メタノール,プロパノールまたはイソプロパノールの量は10−15重量%である,請求項13記載の方法。
【請求項15】
請求項1−14記載の方法により得られる,トリグリセリド,アスタキサンチンおよびリン脂質を含む実質的にすべての脂質画分。
【請求項16】
酸化された脂質を実質的に含まない,請求項15記載の脂質画分。
【請求項17】
医薬品および/または栄養補助食品としての,請求項15または16に記載の総脂質画分。
【請求項18】
リン脂質を他の脂質から分離する方法であって,請求項1−14のいずれかに記載の方法により得られる総脂質画分を,純粋な二酸化炭素,または5%未満のエタノール,メタノール,プロパノールまたはイソプロパノールを含む二酸化炭素で抽出することを含む方法。
【請求項19】
請求項18記載の方法により得られるリン脂質画分。
【請求項20】
リン脂質はさらにエステル交換または加水分解されたものである,請求項19記載のリン脂質。
【請求項21】
オメガ−3脂肪酸の濃度は少なくとも40重量%である,請求項19記載のリン脂質。
【請求項22】
オキアミミールを製造する方法であって,請求項1−14のいずれかに記載の方法にしたがって実質的にすべての脂質画分を抽出し,;そして
残留したオキアミ原材料を単離する,
ことを含む方法。
【請求項23】
請求項22記載の方法により得られるオキアミミールであって,酸化されたポリ不飽和脂肪酸および他の脂質を実質的に含まないオキアミミール。
【請求項24】
請求項23記載のオキアミミールの,動物飼料における使用。
【請求項25】
請求項23記載のオキアミミールの,養殖用飼料における使用。
【請求項26】
請求項23記載のオキアミミールの,幼生魚および稚魚を含む海生魚類の飼料としての使用。
【請求項27】
請求項26記載のオキアミミールの,甲殻類の飼料としての使用。
【請求項28】
高品質キトサンを製造するための請求項23記載のオキアミミールの使用。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公表番号】特表2010−510208(P2010−510208A)
【公表日】平成22年4月2日(2010.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−537106(P2009−537106)
【出願日】平成19年11月15日(2007.11.15)
【国際出願番号】PCT/NO2007/000402
【国際公開番号】WO2008/060163
【国際公開日】平成20年5月22日(2008.5.22)
【出願人】(509123471)プロノヴァ バイオファーマ ノルゲ アーエス (5)
【Fターム(参考)】