説明

オニオンエキスおよびオニオンフレーバーの製造方法

【課題】
加工食品や唐揚げ等の加熱工程を含む食品の加熱調理の前に添加し、その後、加熱処理や調理を行った場合に、タマネギ特有の調理感や生のタマネギを用いて調理したようなフレッシュ感を強く発現するオニオンエキスを提供する
【解決手段】
酵素処理オニオンエキスの製造において、剥皮した生のタマネギを原料とし、酵素反応前に生タマネギの加熱を行わず、未粉砕のまま、あるいは最小限の裁断を行った後、水および細胞壁破壊酵素を加え、酵素反応を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はオニオンエキス、オニオンフレーバーおよびオニオンエキスで味付けされた調理済み肉の製造方法に関する。さらに詳しくは、生のタマネギから酵素処理を用いて液状化したオニオンエキスを製造する方法、該オニオンエキスから加熱反応によりオニオンフレーバーを製造する方法、さらには該オニオンエキスにて味付けされた肉を加熱することによる調理済み肉の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
タマネギはドレッシング、調味料、シチュー、スープ、カレー、鶏の唐揚げなどさまざまな加工食品に利用されているが、これらの加工食品を工業的に生産する場合、作業効率を考慮して、生のタマネギよりもオニオンエキスが使用される傾向がある。生のタマネギには香気の前駆物質としてS−イソプロピル−L−システインスルフォキサイドを始めとするS−アルキル(アルケニル)−L−システインスルフォキサイドが含まれてるが、生タマネギを破砕することにより、内在する酵素と接触・反応し、さらに加熱されることで、ジスルフィド類、トリスルフィドル類へと変化する。これらの化合物は加熱により、タマネギ中の糖類と反応し、フラン類も生成する。このようにして加熱調理したタマネギ特有のフレーバーが生成する。
【0003】
生のタマネギからオニオンエキスを得る方法としては、従来さまざまな方法が提案されており、例えば、オニオンを破砕した後、ペクチナーゼあるいはセルラーゼを混入作用せしめ、酵素的に崩壊させた後、加熱噴霧乾燥するオニオンエキスの製造方法(特許文献1)、タマネギを、糖質分解酵素および核酸分解酵素からなる群から選ばれる一種以上の酵素と蛋白質分解酵素を用いて処理することによる旨味の増強されたオニオンエキスの製造方法(特許文献2)、外皮を除いたタマネギをブランチング処理し、次いで糖質分解酵素を作用させることによるオニオンエキスの製造方法(特許文献3)などが知られている。
【0004】
また、オニオンエキスを用いて肉類の風味を改良する方法も提案されており、例えば、オニオン、ガーリック等の根塊類スパイス乾燥粉末を用いて肉類加工食品の風味を向上させる方法(特許文献4)が知られている。
【0005】
【特許文献1】特開昭56−18563号公報
【特許文献2】特開2003−102417号公報
【特許文献3】特開2004−33022号公報
【特許文献4】特開2000−224967号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来の方法により得られたオニオンエキスを加工食品や唐揚げ等の製造工程において、加熱工程の前で添加し、その後、加熱処理を行った場合はいずれも、得られる製品はタマネギ特有の香気(調理感やフレッシュ感を含む)が充分とは言えず満足できるものではなかった。したがって、本発明の目的は、加工食品や唐揚げ等の加熱工程を含む食品の加熱調理の前に添加し、その後、加熱処理や調理を行った場合に、タマネギ特有の調理感や生のタマネギを用いて調理を行ったようなフレッシュ感を強く発現するオニオンエキスを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は、前記課題に鑑み種々検討を行った。その結果、生のタマネギを粉砕を行わず、また、加熱殺菌やブランチング等の加熱工程も行わず、生の状態で、丸のまま、あるいは4〜8分割したタマネギを原料として、セルラーゼあるいはペクチナーゼなど細胞壁分解酵素を作用させ、得られたエキスを加工食品や唐揚げ等の製造工程の加熱前に添加し、その後、加熱処理や調理を行ったところ、驚くべきことに、得られた加工食品や唐揚げがタマネギ特有の調理感や生のタマネギを用いて調理を行ったようなフレッシュ感を強く有していることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
かくして、本発明は、酵素処理オニオンエキスの製造において、剥皮した生のタマネギを原料とし、酵素反応前に生タマネギの加熱を行わず、未粉砕のまま、あるいは最小限の裁断を行った後、水および細胞壁破壊酵素を加え、酵素反応を行うことを特徴とするオニオンエキスの製造方法を提供するものである。
【0009】
本発明はまた、細胞壁分解酵素がプロトペクチナーゼと、ペクチナーゼ及び/またはセルラーゼを併用することを特徴とする前記のオニオンエキスの製造方法を提供するものである。
【0010】
本発明はまた、前記の製造方法により得られたオニオンエキスと油脂を混合し、密閉容器内で90℃〜180℃、1分〜180分の加熱処理を行った後、油相部を採取することを特徴とする、オニオンフレーバーの製造方法を提供するものである。
【0011】
さらに、本発明では、生肉に前記の製造方法により得られたオニオンエキスを接触させた後、油脂と共に加熱調理することを特徴とする、調理済み肉の製造方法が提供される。
【0012】
本発明ではまた、調理済み肉が冷凍食品であることを特徴とする、前記の調理済み肉の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0013】
本発明の製造方法によれば、タマネギの粉砕、ブランチング等の工程が必要ないため、オニオンエキスの簡便な工業的製造方法を提供することができる。また、本発明の方法により得られるオニオンエキスは良好なタマネギ風味を有している。さらには、本発明の方法により得られるオニオンエキスを油脂中で加熱することにより良好な調理感のあるオニオンフレーバーが生成し、そのフレーバーが油脂に移行するため、風味豊かなオニオンフレーバーを得ることができる。また、本発明の方法により得られるオニオンエキスを肉にしみこませて、油脂と共に加熱することにより、肉の生臭みが無く、良好なオニオン風味を有し、肉の甘味・旨味が豊かな調理済み肉を得ることができる。さらには、得られた調理済み肉は、冷凍後、さらに電子レンジ等で解凍・加熱した後も肉の生臭みが無く、良好なオニオン風味を有し、肉の甘味・旨味が豊かで良好な風味を維持できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明についてさらに詳細に説明する。
【0015】
本発明において使用する原料のタマネギは、ユリ科の多年草であるAllium cepaの鱗茎を指し、任意の品種のタマネギを使用することができる。具体的には、愛知白等の白タマネギ;北もみじ、もみじ3号、ターボ、札幌黄、泉州黄等の黄タマネギ等が例示できるが、これらに限定されるものではなく、Allium cepaの鱗茎であればいずれも使用することができる。また、タマネギは収穫直後のものであっても、収穫後しばらく置いたものであっても良い。タマネギは、生のホールの状態のものを使用する。
【0016】
まず、タマネギは剥皮し、ヘタと根を切断・除去し、水洗して汚れや雑菌を取り除く。通常はタマネギ由来の揮発性含硫化合物の作用により雑菌の増殖がおさえられるため、水洗のみで十分であるが、必要に応じて、雑菌等をできる限り減らすため、UV殺菌、放射線殺菌、エタノール洗浄、50〜200ppm程度の次亜塩素酸ナトリウム水溶液による殺菌、強アルカリ性電解水洗浄等の殺菌工程を行うことも可能である。この状態で次の工程である酵素処理を開始しても良いが、通常は酵素反応の効率を上げるため、2〜8分割することが好ましい。特に好ましい分割方法としては4〜8分割である。これ以上分割を細かくしたり、さらには、粉砕を行った場合は、得られたエキスを油脂と共に加熱しても期待する強度のオニオン香気が生成しなくなるため好ましくない。
【0017】
タマネギはまた、酵素反応の前にブランチング等のタマネギ内部の品温を60℃以上に上げる様な加熱工程を行ってはならない。加熱工程を行ってから酵素処理を行った場合、得られたエキスを油脂と共に加熱しても期待する強度のオニオン香気が生成しなくなるため好ましくない。酵素処理に賦されるまではタマネギの品温は60℃未満としておかなければならない。
【0018】
一方、前記タマネギとは別に酵素溶液を準備する。使用することのできる酵素としては、プロトペクチナーゼ、ペクチナーゼ、セルラーゼ、ヘミセルラーゼ、マンナナーゼ等の細胞壁分解酵素が挙げられる。これらのうちプロトペクチナーゼと、ペクチナーゼ及び/またはセルラーゼを併用することが特に好ましい。
【0019】
プロトペクチナーゼはプロトペクチンに作用して水溶性のペクチン分子を遊離させる酵素の総称である。ペクチンは植物組織中では主にプロトペクチンと呼ばれる複合多糖体として、細胞間隙に存在し、植物細胞間の接着剤の役割を果たしている。細胞間隙に存在するプロトペクチンをプロトペクチナーゼで分解することにより、細胞間の接着がはがれて、タマネギ組織が崩壊し、細胞が遊離した状態となる。プロトペクチナーゼとしては、プロトペクチナーゼを分解する活性を有するものであれば特に制限はなく任意のものを使用することができ、市販品のプロトペクチナーゼ製剤としては例えば、スミチームMC(新日本化学工業社製)、セルロシンME(エイチビィアイ社製)、プロトペクチナーゼ(ナガセケムテックス社製)、Bioprep3000L(ノボザイムズ社製))等を例示することができる。
【0020】
ペクチナーゼはポリガラクツロナーゼ、ペクチックエンザイム、ポリメチルガラクツロナーゼ、ペクチンデポリメラーゼとも呼ばれ、ペクチニン酸、ペクチン、ペクチン酸などのα(1−4)結合を加水分解する酵素である。また、ガラクツロン酸のカルボキシル基のメチルエステルを加水分解するペクチンメチルエステラーゼを含める場合も多い。ペクチナーゼは、細菌、カビ、酵母、高等植物、カタツムリなどに含まれていることが知られており、本発明ではこれらをはじめとする生物から取得したペクチナーゼを広く使用することができる。また、市販のペクチナーゼ製剤を使用してもよい。市販のペクチナーゼ製剤としては、例えば、スクラーゼ(三共社製)、ペクチネックスウルトラSP−L(ノボザイムズA/S社製)、メイセラーゼ(明治製菓社製)、ウルトラザイム(ノボザイムズA/S社製)、ペクチナーゼG、ニューラーゼF(以上天野エンザイム社製)、スミチームMC(新日本化学工業社製)などを例示することができる。
【0021】
セルラーゼはセルロースを加水分解する活性を有する酵素である。セルロースはD−グルコースがβ−1,4結合で分枝無くつながった多糖類の一種でグルコースの数はおよそ5,000個程度と言われている。植物の細胞壁の主要な構成成分で、親水性は強いが水に不溶である。セルラーゼとしては、セルロースを分解する活性を有するものであれば特に制限はなく任意のものを使用することができ、市販品のセルラーゼ製剤としては例えば、セルラーゼT「アマノ」、セルラーゼA「アマノ」(以上天野エンザイム社製)、ドリセラーゼKSM、マルチフェクトA40、セルラーゼGC220(以上ジェネンコア協和社製)、セルラーゼGODO−TCL、セルラーゼGODO TCD−H、ベッセレックス、セルラーゼGODO−ACD(以上合同酒精社製)、Cellulase(東洋紡績社製)、セルライザー、セルラーゼXL−522(以上ナガセケムテックス社製)、セルソフト、デニマックス(以上ノボザイムズ社製)、セルロシンAC40、セルロシンAL、セルロシンT2(以上エイチビィアイ社製)、セルラーゼ“オノズカ”3S、セルラーゼY−NC(以上ヤクルト薬品工業社製)、スミチームAC、スミチームC(以上新日本化学工業社製)、エンチロンCM、エンチロンMCH、バイオヒット(洛東化成工業社製)などが挙げられる。
酵素使用量は原料であるタマネギに対し約0.01重量%〜約1重量%、好ましくは約0.1重量%〜約0.5重量%の範囲内を例示することができる。
【0022】
酵素溶液の調製方法は、まず、タマネギに対して約0.5倍量〜約2倍量の滅菌水を用意し、約30℃〜約50℃、好ましくは約35℃〜約45℃に加温した後、その中に酵素を溶解する。
【0023】
引き続き、この酵素溶液の中に前記のタマネギを投入する。タマネギは、一度に全量、あるいは、分割して酵素溶液に投入し、酵素処理を行う。特に好ましい投入方法としては、1時間ごとに1/3ずつ投入する方法である。酵素反応条件としては、適宜選択することができ、例えば約30℃〜約50℃、好ましくは約35℃〜約45℃、さらに好ましくは約38℃〜42℃で、反応時間はタマネギの塊がほぼ崩壊し、系全体がほぼ液状化するまで反応させれば良く、時間の目安としては約3時間〜約10時間、好ましくは約4時間〜約8時間の範囲内で、攪拌条件下もしくは静置条件下、好ましくは緩やかな攪拌条件下で行うことができる。酵素分解終了後、加熱して殺菌すると同時にタマネギに内在する酵素および添加した細胞壁分解酵素を失活させる。加熱条件は酵素が失活する条件であれば適宜選択することができるが、約60℃〜約140℃、約15秒〜約30分、好ましくは約70℃〜約120℃、約30秒〜約15分の範囲内を例示することができる。加熱殺菌終了後、速やかに約10℃〜約50℃に冷却する。
【0024】
また、加熱殺菌の前または後に必要に応じて不溶解の固形分を除去する工程を行ってもよい。不溶解物の除去方法としては、約5メッシュ〜約20メッシュの篩による分離、振動篩分離、遠心分離、フィルタープレス分離、濾紙濾過、セルロース粉末を助剤とした濾紙濾過、ケイソウ土粉末を助剤とした濾紙濾過、マイクロフィルター濾過等を例示することができるが、最終的な用途に応じ、必要な清澄度となるよう適宜選択すればよい。
【0025】
かくして得られるオニオンエキスは、香気強度としては弱いながらも、加熱臭が少なく、フレッシュ感があり、すっきりとした良好なタマネギ風味を有している。
【0026】
このエキスはそのままスープ、カレー、シチュードレッシング等に使用することもできるが、必要に応じて濃縮、粉末化してもよい。濃縮方法は特に制限されず、濃縮方法としては減圧濃縮、凍結濃縮、RO膜濃縮等を例示でき、濃度としてはBx約10°〜約80°、好ましくは約20°〜約60°の範囲内を例示できる。また、引き続き、油脂との加熱反応または生肉接触させた後加熱調理を行う場合は、取り扱い上の扱いやすさからBx約10〜約40°の範囲内であることが好ましい。また粉末化に際しては所望によりオニオンエキスにデキストリン、化工澱粉、サイクロデキストリン、アラビアガム等の賦形剤を添加又は添加しないで噴霧乾燥、真空乾燥、凍結乾燥などの適宜な乾燥手段を採用して乾燥することにより粉末状とすることができる。
【0027】
このようにして得られたオニオンエキスを油脂と混合し、密閉容器内で90℃〜180℃、1分〜180分の加熱処理を行った後、油相部を採取することで、甘くソテーしたオニオンの調理香気を有するオニオンフレーバーを製造することができる。使用することのできる油脂は食用油脂であれば特に限定されず、大豆油、ごま油、コーン油、菜種油、米糠油、綿実油、ひまし油、落花生油、オリーブ油、パーム油、サフラワー油、小麦胚芽油、椰子油、ヒマワリ油、つばき油、ココア脂、イワシ油、サケ油、サバ油、サメ油、マグロ油、鯨油、イルカ油、イカ油、サンマ油、にしん油、たら油、牛脂、鶏油、豚脂、バターなどの動植物油脂類及びそれらの硬化油類、中鎖飽和脂肪酸トリグリセリドなどを挙げることができる。動植物油脂の使用量は特に限定されるものではないがオニオンエキス1重量部に対し約0.5重量部〜約20重量部、好ましくは約1重量部〜約10重量部の範囲内を例示することが出来る。
【0028】
かくして得られた油溶性のオニオンフレーバーに、所望により本発明方法以外の手段で得られた油溶性香料又は化学合成による香料化合物などを混合した調合香料などを配合することもできる。またこのようにして得られた油溶性香料に糖類、デキストリン、サイクロデキストリン、化工澱粉、アラビアガム、ゼラチン、カゼイン、植物蛋白質及びこれらの混合物の如き任意の賦形剤を添加することができる。このような賦形剤を含有した油溶性香料を、例えば、ホモジナイザーを用いて均質化処理して乳状液として利用することができる。更に、該乳状液を噴霧乾燥、凍結乾燥、真空乾燥の如き任意の既知の乾燥手段により、粉末状もしくは顆粒状とすることができる。
【0029】
また、前記のオニオンエキスを生肉に接触させた後、油脂と共に加熱調理することにより、オニオン特有の香りが豊かで旨味の強い調理済み肉を製造することができる。
【0030】
使用することのできる生肉の種類としては特に限定されないが、牛肉、豚肉、鶏肉、羊肉、馬肉、ウサギ肉、鯨肉、イルカ肉、鹿肉、猪肉、熊肉等が例示でき、好ましくは牛肉、豚肉、鶏肉、羊肉、より好ましくは鶏肉を挙げることができる。生肉と前記のオニオンエキスとの比率は特に限定されるものではないが、例えば、生肉1重量部に対し、前記のオニオンエキス約0.1〜約5重量部を例示することができる。生肉とオニオンエキスとの接触方法についても、特に制限はないが、例えば、適当な大きさに裁断した生肉にオニオンエキスを添加、混合し、適当時間放置し、オニオンエキスを生肉に含浸させる方法を例示することができる。このようにしてオニオンエキスと接触させた後の生肉に、さらに、市販または独自に調合した唐揚げ粉ミックスまたは液状の唐揚げの元等を生肉に対し約5〜約20重量部まぶしてもよい。唐揚げ粉ミックスまたは液状の唐揚げの元を併用することにより、油脂と共に加熱した後の肉のオニオン特有の甘さ、旨味、味全体のまろやかさが強調され、風味豊かな調理済み肉を得ることができる。
【0031】
前記処理生肉の調理に使用する油脂は、食用油脂であれば特に限定されず、先に列挙したのと同様の油脂、すなわち大豆油、ごま油、コーン油、菜種油、米糠油、綿実油、ひまし油、落花生油、オリーブ油、パーム油、サフラワー油、小麦胚芽油、椰子油、ヒマワリ油、つばき油、ココア脂、イワシ油、サケ油、サバ油、サメ油、マグロ油、鯨油、イルカ油、イカ油、サンマ油、にしん油、たら油、牛脂、鶏油、豚脂、バターなどの動植物油脂類及びそれらの硬化油類、中鎖飽和脂肪酸トリグリセリドなどを挙げることができる。
【0032】
前記処理生肉の油脂を用いた調理方法も特に限定されるものではなく、唐揚げ、油炒め等が例示でき、その条件も特に限定はなく、通常に行われている条件を採用することができる。
【0033】
かくして得られた調理済み肉はオニオン特有の甘さ、旨味、味全体のまろやかさが強調され、風味豊かで旨味の強いものとなる。さらに、かくして得られた調理済み肉は、一旦冷凍した後、解凍後、電子レンジ等にて再加熱調理した場合も、製造直後と変わらぬ風味を保つことができるため、冷凍食品として有効に利用することができる。
【0034】
以下、本発明を実施例および比較例によりさらに具体的に説明する。
【実施例】
【0035】
実施例1
軟水500gを90℃達温殺菌し、40℃に冷却した。そこにスミチームMC(新日本化学工業社製)2gを滅菌水20gに溶解した溶液およびペクチナーゼG(天野エンザイム社製)2gを滅菌水20gに溶解した溶液を添加し、酵素溶液を調整した。別に、市販タマネギ(市場にて入手:香川産)を皮を剥き、ヘタと根を切断・除去し、水洗して汚れや雑菌を取り除いた後、8分割に裁断した。酵素溶液を40℃に保温し、ゆっくり攪拌しながら、そこに裁断したタマネギを1回約167gを1時間毎に3回(合計500g)投入した(一度に全量を投入すると、タマネギの固形物により攪拌が困難となるため、酵素分解により組織を崩壊させながら、3回に分割して投入した)。最初にタマネギを投入した時点から40℃、7時間反応した(5〜6時間でほぼ組織が崩壊し、7時間の反応ではほぼ完全に塊状物が見られなくなった)。その後、80℃、5分間加熱攪拌して酵素を失活した。40℃まで冷却し、20メッシュ篩にて固形物を取り除き、分離液956.3g(本発明品1、Bx4.83°)を得た。
【0036】
比較例1
実施例1に於いて、タマネギを8分割に裁断した後、フードプロセッサーにて破砕した物を使用し、タマネギの酵素溶液への投入を全量(500g)を一度に投入する以外は、実施例1と全く同様の操作を行い、分離液966.5gを得た(比較品1、Bx5.02°)。
【0037】
比較例2
実施例1に於いて、タマネギを8分割に裁断後、ステンレス容器に投入し、雰囲気温度80℃の蒸気で蒸して、タマネギの品温が80℃の状態を3分間保持するブランチングの工程を行う以外は、実施例1と全く同様の操作を行い、分離液948.5gを得た(比較品2、Bx4.78°)。
【0038】
比較例3
軟水500gに、実施例1で使用した8分割に裁断したタマネギ500gを投入し、90℃達温加熱後、40℃まで冷却した。この中に、スミチームMC(新日本化学工業社製)2gを滅菌水20gに溶解した溶液およびペクチナーゼG(天野エンザイム社製)2gを滅菌水20gに溶解した溶液を添加し、酵素溶液を添加し、ゆっくり攪拌しながら40℃、7時間反応した。その後、80℃、5分間加熱攪拌して酵素を失活した。40℃まで冷却し、20メッシュ篩にて固形物を取り除き、分離液966.4g(比較品3、Bx4.87°)を得た。
【0039】
実施例2(コンソメスープ)
味の素コンソメ(味の素社製)1個を600gの水に溶解し、本発明品1または比較品1〜3のいずれか1品を0.2%添加し、190g飲料缶に充填(ヘッドスペースを窒素ガス置換)し、121℃、25分間レトルト殺菌した。殺菌後、常温にて2週間放置した後、10名の良く訓練されたパネラーにて官能評価を行った。
【0040】
なお、官能評価は、タマネギ感、調理感、うま味のそれぞれを5点を満点として採点し、10名の平均点を示した。また、風味評価の欄は、パネラーの全般的な評価を記載した。結果を表1に示す。
【0041】
【表1】

【0042】
表1に示した通り、本発明品を添加したコンソメスープは比較品を添加したコンソメスープと比べて、ナチュラル感のあるタマネギ様風味、うま味が強く後味が持続するという特徴が見られ、風味的に極めて優れていた。
【0043】
実施例3(チーズへの添加)
「とろけるスライス(雪印乳業社製)」に本発明品1または比較品1〜3のいずれか1品を4%添加し、電子レンジで加熱し、良く混練し、成型・冷却後、食パンに乗せ(6枚切り食パン1枚に付き、約18g)、家庭用トースターにて約7分間加熱した。得られたチーズトーストを10名の良く訓練されたパネラーにて官能評価を行った。
【0044】
なお、官能評価は、タマネギ感、調理感、うま味のそれぞれを5点を満点として採点し、10名の平均点を示した。また、風味評価の欄は、パネラーの全般的な評価を記載した。結果を表2に示す。
【0045】
【表2】

【0046】
表2に示した通り、本発明品を添加したチーズは比較品を添加したチーズと比べて、やはり、ナチュラル感のあるタマネギ様風味、まろやかさ、うま味が強く、風味的に極めて優れていた。
【0047】
実施例4(着香油の調整)
本発明品1をロータリーエバポレーターにて濃縮し、Bx10°の濃縮物を得た。濃縮物250g(タマネギ約270g相当)と米サラダ油250gを密封式加熱釜(オートクレーブ)に投入し、120℃、3時間密封状態で加熱攪拌を行った。反応後、40℃まで冷却し、油相部を分離し、亡硝にて脱水、濾過し、オニオンフレーバー225gを得た(本発明品2)。
【0048】
比較例4
オニオンエキスとして比較品1を使用する以外は実施例4と全く同様の操作を行い、オニオンフレーバー225gを得た(比較品4)。
【0049】
比較例5
オニオンエキスとして比較品2を使用する以外は実施例4と全く同様の操作を行い、オニオンフレーバー225gを得た(比較品5)。
【0050】
比較例6
オニオンエキスとして比較品3を使用する以外は実施例4と全く同様の操作を行い、オニオンフレーバー225gを得た(比較品6)。
【0051】
比較例7(生タマネギを用いた着香油の調整)
実施例1と同様の市販タマネギを皮を剥き、ヘタと根を切断・除去し、水洗して汚れや雑菌を取り除いた後、みじん切りにしたもの270gと米サラダ油250gを密封式加熱釜(オートクレーブ)に投入し、120℃、3時間密封状態で加熱攪拌を行った。反応後、40℃まで冷却し、油相部を分離し、亡硝にて脱水、濾過し、オニオンフレーバー200gを得た(比較品7)。
【0052】
本発明品2、比較品4〜7のそれぞれ0.1gを熱水100gに加え、10名の良く訓練されたパネラーにて官能評価を行った。なお、官能評価は、タマネギ感、ソテー感、甘さのそれぞれを5点を満点として採点し、10名の平均点を示した。また、風味評価の欄は、評価員の全般的な評価を記載した。結果を表3に示す。
【0053】
【表3】

【0054】
表3に示した通り、本発明品の加熱反応フレーバーは、タマネギをソテーした感じが強くでていることが判る。この詳細な理由は不明であるが、本発明の酵素処理方法においては、破砕やブランチングを行わず、マイルドな条件下で細胞を溶解しているため、何らかの前駆物質が酵素処理中に分解されずにエキス中に残存し(比較品の反応条件では分解していると推定される)、それが加熱反応によりソテー風味のフレーバーが生成しているためではないかと推定される。
【0055】
実施例9(鶏の唐揚げ−1)
本発明品1または比較品1〜3をそれぞれBx30°までロータリーエバポレーターを用いて濃縮し、濃縮エキスを得た。鶏肉(もも肉)ぶつ切り100gに該濃縮エキス1gを添加混合し、約20分間放置した後、市販のからあげ粉ミックス10gをまぶして、約170℃の油で揚げ、鶏の唐揚げを得た。
【0056】
また、得られた唐揚げを一旦冷凍し、電子レンジにて解凍および加熱を行い、風味を比較した。それぞれの唐揚げは10名の良く訓練されたパネラーにて官能評価を行った。官能評価結果を表3に示す。
【0057】
【表4】

【0058】
表4に示したとおり、鶏の唐揚げにおいても、本発明品のオニオンエキスを使用した物は、比較品のオニオンエキスを使用した物と比べて、加熱調理によりタマネギの風味を強く生成した。また、この風味は冷凍・解凍後も強く残存した。冷凍食品への使用において大変優れた効果と考えられた。
【0059】
実施例10(鶏の唐揚げ−2)
市販の唐揚げの素(液体)100gに実施例9で用いたBx30°濃縮エキス2gを添加し、85℃、10分間加熱殺菌を行った後20℃まで冷却した。鶏(もも肉)ぶつ切り100gに、このものを17gおよび小麦粉10gを添加、混合し、約20分間放置した後に、160〜165℃の油で揚げ、鶏から揚げを得た。
【0060】
また、得られた唐揚げを一旦冷凍し、電子レンジにて解凍および加熱を行い、風味を比較した。それぞれの唐揚げは10名の良く訓練されたパネラーにて官能評価を行った。官能評価結果を表5に示す。
【0061】
【表5】

【0062】
表5に示した通り、本発明品を液体の鶏の唐揚げの素に添加し、それを使用して唐揚げを調整した場合でも、実施例9と同様の効果を得ることができた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酵素処理オニオンエキスの製造において、剥皮した生のタマネギを原料とし、酵素反応前に生タマネギの加熱を行わず、未粉砕のまま、あるいは最小限の裁断を行った後、水および細胞壁破壊酵素を加え、酵素反応を行うことを特徴とするオニオンエキスの製造方法。
【請求項2】
細胞壁分解酵素がプロトペクチナーゼと、ペクチナーゼ及び/またはセルラーゼを併用することを特徴とする請求項1に記載のオニオンエキスの製造方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の製造方法により得られたオニオンエキスと油脂を混合し、密閉容器内で90℃〜180℃、1分〜180分の加熱処理を行った後、油相部を採取することを特徴とする、オニオンフレーバーの製造方法。
【請求項4】
生肉に請求項1または2に記載の製造方法により得られたオニオンエキスを接触させた後、油脂と共に加熱調理することを特徴とする、調理済み肉の製造方法。
【請求項5】
調理済み肉が冷凍食品であることを特徴とする、請求項4に記載の調理済み肉の製造方法。

【公開番号】特開2008−61589(P2008−61589A)
【公開日】平成20年3月21日(2008.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−243818(P2006−243818)
【出願日】平成18年9月8日(2006.9.8)
【出願人】(000214537)長谷川香料株式会社 (176)
【Fターム(参考)】