説明

オフセット電圧補償装置

【課題】オフセット電圧補償装置において、部品点数の増加を抑えながら、増幅器のオフセット電圧を補償して、センサ部の直流出力信号の真値を検出する。
【解決手段】オフセット電圧補償装置1は、電源2と接続され物理量を計測して出力信号に変換するセンサ部3と、センサ部3の入力を短絡する切替器4と、センサ部3の出力信号を増幅する増幅器5と、増幅器5の出力に基づいて電気量を演算する演算器6とを備える。演算器6は、センサ部3の入力を短絡していない時の増幅器5の出力から、短絡時の増幅器5の出力を減算して信号成分の差分を抽出する。次に、当該信号成分の差分と、センサ部3の抵抗値及び切替器4の抵抗値から定められる所定の係数とを用いて、センサ部3の出力信号の真値を検出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オペアンプにおけるオフセット電圧を補償するオフセット電圧補償装置に関し、特に、オペアンプから流れ出すバイアス電流に起因したオフセット電圧への影響をも補償したオフセット電圧補償装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、オフセット電圧が抑えられ、また温度ドリフトも極小に抑えた高精度のオペアンプが、微少電圧を増幅する用途などにおいて用いられている。また、オペアンプのオフセット電圧の補償に関しては様々な方法が開示され、工程数や部品数を増加することでオフセット電圧の補償演算を行う。
【0003】
例えば、電流センサと同じ回路構成及び構造を有し、周囲温度を同一とした模擬電流センサを備えて、電流センサの計測信号から模擬電流センサの出力を減算してオフセット電圧の温度ドリフトを補正する計測装置が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
また、予め温度変化に応じたドリフト量が補正データとして記憶部に記憶され、当該補正データをドライバ部に送って出力オフセット電圧におけるドリフト量を補正する補正部を備えるオフセット電圧補正回路が開示されている(例えば、特許文献2参照)。
【0005】
さらに、正確な熱電対値を求めるため、熱電対信号選択用マルチプレクサに、熱電対検出回路の内部素子の温度ドリフト及びオフセット電圧を補正する補正用ダミー回路をオペアンプの入力側に設けた熱電対検出回路が開示されている(例えば、特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−78374号公報
【特許文献2】特開2008−205725号公報
【特許文献3】特開2005−249537号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記特許文献1に示す計測装置では、電流センサの構成が少なくとも2つ必要となり、コストを要する。また、上記特許文献2に示す回路では、全ての温度変化に対する補正データを記録保持し、補正部において全ての出力オフセット電圧に対して補正を行うため工程数を要し、また現実的ではない。
【0008】
さらに、上記特許文献3に示す熱電対検出回路では、定期的にあるいは測定の都度この補正ダミー回路を用いて補正処理をする必要があり工数を要する。
【0009】
また、これら従来技術における回路では、オペアンプの入力端子から流れ出すバイアス電流によるオフセット電圧への影響を回避できないという問題がある。通常、オペアンプにおけるオフセット電圧の原因には、オペアンプの+入力端子と−入力端子の端子間の電圧差に起因するオフセット電圧以外に、オペアンプから流れ出すバイアス電流による電圧成分がある。このバイアス電流に起因するオフセットは、微少な直流電圧を増幅する高精度の直流オペアンプにおいては無視できない誤差量となる。このことを、図8を参照して説明する。
【0010】
最初に、バイアス電流Iのオフセット電圧への影響を考慮しない場合について説明する。図8に示す回路80は、電源81、センサ82、及びオペアンプ83を備える。この回路80では、センサ82からの出力は抵抗R1を通ってオペアンプ83の反転入力端子に入力され、センサ82の抵抗の両端(a−b)間の信号電圧Vsをオペアンプ83において差動増幅して電流や電力が求められる。図8(a)においてバイアス電流Iの影響を考慮しない場合、オペアンプ83の出力電圧V1は次の(式1)により与えられる。
【0011】

【0012】
ここで、R1はオペアンプ83の入力につながった負荷抵抗値、R2はオペアンプ83の出力をフィードバックして反転入力に加える経路における負荷抵抗値、VOはオフセット電圧である。そして、図8(b)においてバイアス電流Iの影響を考慮しない場合、オペアンプ83へ入力を短絡した出力電圧V2は次の(式2)で与えられる。
【0013】

【0014】
従って、バイアス電流Iを考慮しない場合、(式1)−(式2)により得られる(式3)に基づいて、オペアンプ83のオフセット電圧VOの影響を取り除いたセンサ82の出力信号の真値Sを求めることができる。
【0015】

【0016】
次に、オペアンプ83からセンサ82側に流れ出すバイアス電流Iに起因するオフセット電圧VOへの影響をも考慮した演算を行う。図8(a)においてバイアス電流Iの影響を考慮した場合、オペアンプ83の出力電圧V1は次の(式4)により与えられる。
【0017】

【0018】
ここで、Rsはセンサ82の両端(a−b)間の等価抵抗である。そして、図8(b)においてバイアス電流Iの影響を考慮(I・R1の電圧降下は無視)した場合、センサ82からオペアンプ83へ入力を短絡した出力電圧V2は次の(式5)となる。
【0019】

【0020】
従って、センサ82の入力を短絡していない場合の(式4)から、センサ82の入力を短絡した場合の(式5)を減算して下記(式6)に示す信号成分の差分Dを演算する。
【0021】

【0022】
しかしながら、この(式6)にはバイアス電流Iの項が残るため、従来技術においては、オフセット電圧VOにおけるバイアス電流Iの温度特性の影響を取り除くことができない。特に、微少電圧を扱う場合、このバイアス電流Iを起因とするオフセット電圧VOに対する誤差量は無視できない量となり(例えば、オフセット電圧VOの数分の一)、高精度なオフセット電圧VOの補償演算を実現できないという問題がある。
【0023】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、センサ部の直流出力信号を検出する際、部品点数の増加を抑えながら、増幅器のオフセット電圧を補償できるオフセット電圧補償装置を提供することを目的とする。
【0024】
また、増幅器からセンサ部に流れ出すバイアス電流に起因したオフセット電圧をも補償したオフセット電圧補償装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0025】
上記目的を達成するために本発明は、電源と接続され物理量を計測して出力信号に変換するセンサ部と、前記センサ部の入力を短絡する切替器と、前記センサ部の出力信号を増幅する増幅器と、前記増幅器の出力に基づいて電気量を演算する演算器と、を備えるオフセット電圧補償装置において、前記演算器は、前記センサ部の入力を短絡していない時の前記増幅器の出力から、短絡時の前記増幅器の出力を減算して信号成分の差分を抽出し、次に、当該信号成分の差分と、前記センサ部の抵抗値及び前記切替器の抵抗値から定められる所定の係数とを用いて、前記センサ部の出力信号の真値を演算する、ことを特徴とするものである。
【0026】
このオフセット電圧補償装置において、前記演算器は、下記(数1)に基づいて前記所定の係数を抽出し、次に、下記(数2)に基づいて前記センサ部の出力信号の真値を演算することが好ましい。
【数1】

ここで、A:所定の係数、Ron:切替器のオン抵抗値、Rs:センサ部の抵抗値
【数2】

ここで、D:信号成分の差分、1−A:既知の或る係数、S:センサ部の出力信号の真値である。
【0027】
このオフセット電圧補償装置において、前記切替器は、前記センサの入力を短絡する切替制御を定期的に繰り返すことが好ましい。
【0028】
このオフセット電圧補償装置において、前記演算器は、前記センサ部の出力と、前記切替器において前記センサ部の入力を短絡した時の出力とを、それぞれ一定周期で積算し、電力量を演算することが好ましい。
【0029】
このオフセット電圧補償装置において、前記電源と前記センサ部との間に少なくとも1以上の抵抗器をさらに備え、前記切替器は、前記抵抗器のいずれかを含む経路で前記センサ部の入力を短絡することが好ましい。
【0030】
このオフセット電圧補償装置において、前記切替器は、アナログマルチプレクサで構成され、切替経路を1のスイッチで構成、又は少なくとも2以上のスイッチを並列接続して構成することが好ましい。
【0031】
このオフセット電圧補償装置において、前記切替器には、高抵抗器が接続され、前記切替器において前記センサ部の入力を短絡させずに前記センサ部の出力を得るときには、前記切替器のスイッチを前記高抵抗器側に接続することが好ましい。
【0032】
尚、前記目的を達成するために、本発明は、オフセット電圧補償装置の特徴的な構成手段をステップとするオフセット電圧補償方法としたり、この方法が備える特徴的な命令を含むプログラムとして実現することもできる。そして、そのようなプログラムは、フラッシュメモリ等の記録媒体やインターネット等の通信ネットワークを介して流通させることができるのは言うまでもない。
【発明の効果】
【0033】
本発明に係るオフセット電圧補償装置によれば、部品点数の増加を抑えながら、増幅器のオフセット電圧を補償することができる。このため、センサ部の直流出力信号の真値を検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明の実施の形態1に係るオフセット電圧補償装置の機能ブロック図である。
【図2】(a)前記オフセット電圧補償装置に備わる切替器がオフ時の回路図、(b)前記切替器がオン時の回路図である。
【図3】(a)本発明の実施の形態2に係るオフセット電圧補償装置に備わる切替器がオフ時の回路図、(b)前記切替器がオン時の回路図である。
【図4】同上実施の形態2の変形例1に係るオフセット電圧補償装置の回路図である。
【図5】同上実施の形態2の変形例2に係るオフセット電圧補償装置の回路図である。
【図6】同上実施の形態2の変形例3に係るオフセット電圧補償装置の回路図である。
【図7】同上実施の形態2の変形例4に係るオフセット電圧補償装置の回路図である。
【図8】(a)従来のオフセット電圧補償装置の回路の一例を示す図、(b)前記オフセット電圧補償装置においてセンサ入力短絡時の回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
(実施の形態1)
本発明の実施の形態1に係るオフセット電圧補償装置(以下、補償装置と記す)に関して図面を参照して説明する。図1に示すように、本実施の形態1に係る補償装置1は、電源2と、センサ部3と、切替器4と、増幅器5と、演算器6とを備えている。
【0036】
電源2は、センサ部3につながれて直流電流を供給する。センサ部3は、測定すべき物理量をそれらと一定の関係にある電気量(電圧、電流、抵抗など)に変換する機能を有する。センサ部3は、例えば、測定すべき電流を一定の割合で小さくする電流センサ、光の透過や反射を検出する光電センサ、体の発熱を検出する赤外線センサ、熱起電力の発生を検出する熱電対などがある。このセンサ部3の出力は、増幅器5や演算器6などの電気的処理を経て電流、電力として出力され、必要に応じて数値として画面表示され、また、駆動する制御信号に変換される。
【0037】
切替器4は、センサ部3の入力を短絡する半導体(無接点)スイッチであり、例えばトランジスタで構成される。
【0038】
増幅器5(オペアンプ5)は、センサ部3から入力されるアナログの直流信号を増幅するオペアンプなどの半導体部品である。この増幅器5の出力は入力が0の時(反転、非反転)に0になるのが理想だが、実際には完全に0ならず、オフセット電圧が生じる。これは、オペアンプ5のIC内部もトランジスタなどで構成されるため、温度変化によって内部のトランジスタが変化し、出力電圧がずれるためである。従って、オペアンプ5のオフセット電圧を補償演算することで、より高精度にセンサ部3の出力電圧の真値を検出できる。
【0039】
演算器6は、増幅器5から入力されるアナログ信号をデジタル信号に変換するA/D変換器などを備えており、増幅器5の出力電圧の平均値を検出すると共に、後述するオフセット電圧の補償演算を行い、電流、電力などの電気量を出力する。
【0040】
ここで、補償装置1の具体例を説明すると、センサ部3は、例えば変流器(電流センサ)であり、分電盤内の各回路の電流を一定の割合で小さくして信号線を介して増幅器5に供給する。増幅器5及び演算器6を備えた計測器は、センサ部3が設置された回路の電力を計測する。この計測器は、例えば分電盤内の所定箇所に設置され、通信線を介してPCなどの監視装置に電流や電力の演算結果を出力する。そして、計測器から演算結果を受信した監視装置は、各回路の通電情報を表示する。
【0041】
次に、実施の形態1に係る補償装置1の回路構成に関して図2を参照して説明する。なお、図2(a)は切替器4(SW4)のスイッチがオフであり、センサ部3の入力が短絡されていない場合、図2(b)は切替器4のスイッチがオンであり、センサ部3の入力が短絡されている場合を示している。
【0042】
補償装置1は、センサ部3の両端(a−b)間の信号電圧Vsをオペアンプ5において差動増幅して電流を求める回路を有し、切替器4のスイッチがオフの時には電源2からの電流I=Iがセンサ部3に入力される。センサ部3の出力信号は、抵抗R1を通ってオペアンプ5の反転入力に入力される。また、この回路は、オペアンプ5の出力がフィードバックして抵抗R2を通って反転入力に加わる経路を有する。
【0043】
次に、本実施の形態1に係る補償装置1に備わる演算器6の演算処理に関して図2を参照して説明する。オペアンプ5からの出力電圧V1はR2をR1で割った正確な増幅率が得られるため下記の(式7)で与えられる。
【0044】

【0045】
ここで、Vsはセンサ部3の(a−b)間の信号電圧、Vはオフセット電圧である。そして、切替器4は半導体スイッチであるため、抵抗値は0ではなく、微少な抵抗値を有している。センサ部3と切替器4とは並列接続されており、センサ部3の全抵抗値Rs及び切替器4のオン抵抗値RONから次の(式8)に基づいて所定の係数Aを求める。
【0046】

【0047】
例えば、センサ部3の全抵抗960Ω、切替器4のオン抵抗が40Ωの場合、所定の係数A=40/(960+40)=0.04となる。また、切替器4のスイッチがオン時(短絡時)の出力は(式9)により求まる。
【0048】

【0049】
演算器6は、センサ部3の入力を短絡していない時(切替器4のスイッチのオフ時)の増幅器5の出力である(式7)から、短絡時(切替器4のスイッチのオン時)の増幅器5の出力である(式9)を減算して次の(式10)に示す信号成分の差分Dを抽出する。
【0050】

【0051】
例えば、センサB/Kの全抵抗960Ω、切替器のオン抵抗が40Ωの例の場合、A=0.04であるために(式10)よりD=(1−0.04)・S=0.96Sとなる。次に、演算器6は、信号成分D(上記例では0.96S)と、既知のある係数(1−A)の逆数(上記例では1/0.96)とを乗算する下記の(式11)に基づいて、センサ部3の出力信号の真値Sを復元できる。
【0052】

【0053】
以上のように、本実施の形態1に係る補償装置1では、センサ部3、切替器4、増幅器5、演算器6という汎用のオペアンプに対応する簡易な構成で、部品点数増加を抑えながらオフセット電圧を補償演算し、センサ部3の直流出力信号の真値Sを検出できる。また、短絡が完全でない回路構成においても、センサ部3の出力信号から、演算器6の演算により、容易に電流・電力値を求めることが可能となる。
【0054】
(実施の形態2)
本発明の実施の形態2に係る補償装置について、図3を参照して説明する。なお、上記実施の形態1に係る補償装置と同様の構成には同一の符号を付し、その詳細な説明は省略する(以下同様)。
【0055】
本実施の形態2に係る補償装置は、オペアンプ5からセンサ部3に流れ込むバイアス電流Iに起因するオフセット電圧Vを補償する。なお、図3(a)は切替器4(SW4)のスイッチがオフであり、センサ部3への入力が短絡されていない場合、図3(b)は切替器のスイッチがオンであり、センサ部3への入力が短絡されている場合を示す。
【0056】
バイアス電流Iが発生し、切替器4がオフ時のオペアンプ5の出力電圧V1は、上記従来の(式4)と同じである下記(式12)となる。
【0057】

【0058】
本実施の形態2では、簡略化ために切替器4のオン抵抗RON=0Ωと仮定する。この場合、バイアス電流Iが発生し、図3(b)に示す切替器4がオン時のオペアンプ5の出力電圧V2は、下記(式13)により求まる。
【0059】

【0060】
従って、演算器6は、(式12)−(式13)によりバイアス電流Iに起因したオフセット電圧Vを考慮し、センサ部3の出力電圧の真値Sを下記(式14)より求める。なお、オペアンプ5につながれる抵抗値R1,R2は、ほぼ同じ温度係数を持つように設計可能なため、この部分は温度による影響が少ないものとなる。
【0061】

【0062】
微少な直流電圧を増幅する直流オペアンプ5においては、オフセット電圧Vに影響するバイアス電流Iの影響は無視できない。しかし、本実施の形態2に係る補償装置の演算器6では、オペアンプ5からセンサ部3に流れ込むバイアス電流Iに起因したオフセット電圧Vも考慮して補償演算を実行でき、より高精度にセンサ部3の出力電圧の真値Sを復元できる。
【0063】
(第1の変形例)
本実施の形態2の第1の変形例について、図4を参照して説明する。本変形例では、切替器4のオン抵抗RON≠0Ωとする。これは、切替器4は半導体スイッチであるためオン抵抗RONは実際には0とはならないためである。
【0064】
本変形例1に係る補償装置の回路構成に関して図4を参照して説明する。バイアス電流Iが発生し、切替器4がオフ時のオペアンプ5の出力電圧V1は、図3(a)と同様であり上記(式12)となる。一方、バイアス電流Iが発生し、切替器4がオン時にセンサ部3に流れる電流Iは(式15)となる。
【0065】

【0066】
また、センサ部3の(c−d)間の等価抵抗Rs2、及び切替器4のオン抵抗値RONから下記の(式16)に基づいて所定の係数Aが求まる。
【0067】

【0068】
そして、バイアス電流Iが発生し、切替器4がオン時のオペアンプ5の出力電圧V2は、下記の(式17)により求まる。
【0069】

【0070】
従って、演算器6は、(式12)−(式17)となる(式18)から、切替器4がオフ時の信号成分V1から切替器4がオン時の信号成分V2を減算した信号成分の差分Dを得ることができる。
【0071】

【0072】
この(式18)において、最初の項(1−A)は「既知のある係数」となり、この「既知のある係数」は、設計事由であり、既知である。このため、(式18)に「既知のある係数(1−A)」の逆数を乗算した(式19)により、信号に比例する成分となるセンサ部3の出力電圧の真値Sを演算できる。
【0073】

【0074】
従って、本変形例1に係る補償装置では、上記実施の形態2の効果に加えて、切替器4のオン抵抗RONをも考慮して、上記(式19)によりオペアンプ5のオフセット電圧の補償演算を実行でき、より高精度にセンサ部3の出力電圧の真値Sを復元できる。
【0075】
(第2の変形例)
本実施の形態2の第2の変形例について、図5を参照して説明する。本変形例では、電源2とセンサ部3との間に、2つの抵抗器R3,R4を有し、切替器4は、いずれか抵抗器R3を含んでセンサ部3の入力を短絡する回路構成を有する。
【0076】
このため、抵抗器R3,R4を設けない場合に比べて、センサの全抵抗値Rs、切替器4のオン抵抗RON、R3及びR4より求まる所定の係数Aを小さくし、補償演算における「既知のある係数(1−A)」の影響を小さくできる。従って、抵抗R4を設けたセンサ部3の出力信号に比べて、センサ部3の入力を短絡したときの出力が相対的に小さくなり理想短絡に近くでき、より高精度なオフセット電圧の補償演算が実行でき、センサ部3の出力信号の真値Sの演算誤差が小さくなる。
【0077】
(第3の変形例)
本実施の形態2の第3の変形例について、図6を参照して説明する。本変形例では、切替器にアナログ信号用のアナログマルチプレクサ7を用い、切替経路を1のスイッチ、又は少なくとも2以上のスイッチ(本変形例では2つ)を並列接続して構成している。
【0078】
この構成により、アナログマルチプレクサ7(SW7)を用いて並列接続する切替経路を増やすほど、所定の係数Aを小さくし、所定の係数Aのばらつきによる影響を抑制し、「既知のある係数(1−A)」の影響を小さくできる。このため、アナログマルチプレクサ7のオン抵抗RONを理想短絡(切替器の抵抗値0Ω)に近くして、センサ部3の入力を短絡したときの出力を理想短絡に近くできる。従って、より高精度なオフセット電圧の補償演算が実行でき、センサ部3の出力信号の真値Sの演算誤差が小さくなる。
【0079】
(第4の変形例)
本実施の形態2の第4の変形例について、図7を参照して説明する。本変形例では、 切替器4には、高抵抗器8が接続され、センサ部3の入力を短絡させずに出力を得るときには、切替器4のスイッチを高抵抗器8側に接続する。この構成により、所定の係数Aを小さくでき、半導体スイッチである切替器4のスイッチ開放時による動作不安定状態を防止し、高抵抗器8により切替器4がオフ時のオン抵抗を大きくでき、より高精度なオフセット電圧の補償演算が実行できる。
【0080】
なお、上記各実施の形態において、切替器4は、センサ部3の入力を短絡する切替制御を定期的に繰り返すことができる。これは、センサ部3の出力信号やセンサ部3の入力の短絡時の出力が常に一定とならないためであり、この切替制御を定期的に繰り返す周期は、対象とする物理量の周期より短い期間、例えば20msである。この構成により、定期的にオフセット検出が行って温度変化に追従でき、より高精度なオフセット電圧の補償演算を行える。また、例えば20msごとにオフセット検出を行うことで、センサ部3の出力が一定でない間欠電流が発生する場合においても、誤差なくオフセット電圧の補償演算が実行できる。
【0081】
また、演算器6は、センサ部3の出力と、センサ部3の入力を短絡した時の出力とを、それぞれ一定周期(例えば、0.1sまたはその倍数や、50/60Hzの周期の公倍数の期間)で積算し、電力量を演算できる。この構成により、センサ部3の出力信号やセンサ部3の入力の短絡時の出力が一定でない場合においても、周波数50/60Hzなどの不要信号成分を除去でき、より高精度にオフセット電圧の補償演算を実行できる。なお、本発明は、上記実施の形態の構成に限られず、発明の趣旨を変更しない範囲で種々の変形が可能である。
【符号の説明】
【0082】
1 オフセット電圧補償装置
2 電源
3 センサ部
4 切替器
5 増幅器(オペアンプ)
6 演算器
7 アナログマルチプレクサ
8 高抵抗器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電源と接続され物理量を計測して出力信号に変換するセンサ部と、
前記センサ部の入力を短絡する切替器と、
前記センサ部の出力信号を増幅する増幅器と、
前記増幅器の出力に基づいて電気量を演算する演算器と、を備えるオフセット電圧補償装置において、
前記演算器は、前記センサ部の入力を短絡していない時の前記増幅器の出力から、短絡時の前記増幅器の出力を減算して信号成分の差分を抽出し、次に、当該信号成分の差分と、前記センサ部の抵抗値及び前記切替器の抵抗値から定められる所定の係数とを用いて、前記センサ部の出力信号の真値を演算する、ことを特徴とするオフセット電圧補償装置。
【請求項2】
前記演算器は、下記(数1)に基づいて前記所定の係数を抽出し、次に、下記(数2)に基づいて前記センサ部の出力信号の真値を演算する、ことを特徴とする請求項1記載のオフセット電圧補償装置。
【数1】

ここで、A:所定の係数、Ron:切替器のオン抵抗値、Rs:センサ部の抵抗値
【数2】

ここで、D:信号成分の差分、1−A:既知のある係数、S:センサ部の出力信号の真値
【請求項3】
前記切替器は、前記センサの入力を短絡する切替制御を定期的に繰り返す、ことを特徴とする請求項1又は2に記載のオフセット電圧補償装置。
【請求項4】
前記演算器は、前記センサ部の出力と、前記切替器において前記センサ部の入力を短絡した時の出力とを、それぞれ一定周期で積算し、電力量を演算する、ことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載のオフセット電圧補償装置。
【請求項5】
前記電源と前記センサ部との間に少なくとも1以上の抵抗器をさらに備え、
前記切替器は、前記抵抗器のいずれかを含む経路で前記センサ部の入力を短絡する、ことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載のオフセット電圧補償装置。
【請求項6】
前記切替器は、アナログマルチプレクサで構成され、切替経路を1のスイッチで構成、又は少なくとも2以上のスイッチを並列接続して構成する、ことを特徴とする請求項1乃至5のいずれか一項に記載のオフセット電圧補償装置。
【請求項7】
前記切替器には、高抵抗器が接続され、
前記切替器において前記センサ部の入力を短絡させずに前記センサ部の出力を得るときには、前記切替器のスイッチを前記高抵抗器側に接続する、ことを特徴とする請求項1乃至6のいずれか一項に記載のオフセット電圧補償装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−98803(P2013−98803A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−240619(P2011−240619)
【出願日】平成23年11月1日(2011.11.1)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】