説明

カーボンナノチューブ含有複合材及びその製造方法

【課題】CNT(カーボンナノチューブ)を分散・配合させ、機械的性質や電気的性質、熱的性質などに優れ、部材や部品として使用に適したCNT含有複合材及びその製造方法を提供する。
【解決手段】金属粉末の内部及び表面の一方又は双方にCNTを保持して成るCNT含有金属粉末。CNT含有金属粉末を焼結して成るCNT含有複合材。CNT含有金属粉末を基材表面に肉盛して成る積層型CNT含有複合材。 CNT含有金属粉末の製造方法である。金属粉末とCNTに衝撃力、圧縮力、摩擦力、剪断力等の機械的作用を加えて、一体化させる方法である。CNT含有複合材の製造方法である。CNT含有金属粉末を非酸化性雰囲気下で加熱して、焼結させる方法である。積層型CNT含有複合材の製造方法である。CNT含有金属粉末を非酸化性雰囲気下で加熱して、溶融または半溶融状態にし、基材表面に積層させる方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カーボンナノチューブ含有複合材及びその製造方法に係り、更に詳細には、カーボンナノチューブ含有金属粉末、その製造方法、カーボンナノチューブ含有複合材、その製造方法、積層型カーボンナノチューブ含有複合材及びその製造方法に関する。
特に、自動車用部品などの高い性能を必要とする部品に適したカーボンナノチューブ含有複合材及び積層型カーボンナノチューブ含有複合材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来からカーボンナノチューブ(以下、「CNT」と略記する。)は、その特徴的な構造から、機械的性質だけでなく、電気的性質や熱的性質についても優れていることが知られている。
そして、CNT含有複合材は、自動車用部品だけでなく、広くその応用が期待されている。
特に、マトリックスを金属とした複合材は、マトリックスが樹脂である複合材と比較して耐熱性や耐摩耗性、熱膨張特性などが優れていることから、これらの性能が必要とされる自動車用部品として広く応用が期待できる。
【0003】
これまでに、アルミニウム粉末とCNTを混合して、金属シース中に詰め、線引きして複合材としたものが提案されている(非特許文献1参照。)。
また、ニッケルめっき層中にCNTを添加して耐摩耗性を向上させたものが提案されている(非特許文献2参照。)。
【0004】
一方、自動車のエンジンシリンダヘッドには、バルブシートが圧入され、バルブとのシールを保っていることが知られており、この部品には強度だけでなく、バルブの熱をシリンダヘッドのウォータジャケットへ逃がすという機能が要求されている。
そして、これまでの鉄系合金からなるバルブシートを圧入する代わりに、レーザによって銅合金粉末を肉盛し、仕上げ加工することにより、基材との熱伝導性能を高めてバルブの温度を低下させたものが提案されている(特許文献1参照。)。
【特許文献1】特開平05−256190号公報
【非特許文献1】ジャーナル オブ マテリアルズリサーチ(J.Mater.Res.),「プロセッシング オブ カーボン ナノチューブ リーンフォース アルミニウム コンポジット(Processing of carbon nanotube reinforced aluminium composite)」,1998年,第13巻,第9号,p2445−2449
【非特許文献2】「エレクトロレス プレパレーション アンド トライボロジカル プロパティズ オブ Ni−P−カーボン ナノチューブ コンポジット コーティングス アンダー ルブリカル コンディション(Electroless preparation and tribological properties of Ni−P−Cabon nanotube composite coatings under lubrical condition)」,サーフィス アンド コーティング テクノロジー(Surface and Coating Technology),2002年,第160号,p68−73
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、CNTは金属に対して濡れ性が良くなく、また、非常に微細であるため、マトリックス金属中に分散・配合させることが極めて困難であり、未だ部材・部品として使用に耐えるものが得られていない。
【0006】
例えば、上記非特許文献1に記載の複合材は、CNTが凝集しているために、その性能が十分に発揮されていないという問題点があった。
【0007】
これは、CNTを強化材としてマトリックス金属中に添加する場合には、その凝集を解き、均一に分散させた状態とすることが重要であるが、原料としてマトリックス金属の粉末とCNTとを混合して焼結させる場合には、その成形は可能であっても凝集が十分には解けないためである。
【0008】
また、上記非特許文献2に記載の複合材は、薄い皮膜しか得られないという寸法上の制約がある。そして、マトリックス金属の材質についても制約がある。
【0009】
これは、めっき層中にCNTを混合させる場合には、現実にはめっき層の厚さに限度があるためである。
そして、そのために低面圧下での摩擦摩耗性能が要求される部材に用途が限定されるという問題点がある。
また、マトリックス金属としてアルミニウムの適用が困難であり、軽量化を目的とする場合には利用できない、更には処理速度が遅く生産性が低いといった問題点もある。
【0010】
本発明は、このような従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、CNTを分散・配合させ、機械的性質や電気的性質、熱的性質などに優れ、部材や部品として使用に適したCNT含有複合材及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意研究を重ねた結果、金属粉末の内部及び表面の一方又は双方にCNTを保持して成るCNT含有金属粉末を得、それを出発原料とすることなどにより、上記目的が達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
即ち、本発明のCNT含有金属粉末は、金属粉末の内部及び表面の一方又は双方にCNTを保持して成るものである。
【0013】
また、本発明のCNT含有複合材は、上記本発明のCNT含有金属粉末を用い、該CNT含有金属粉末を焼結して成るものである。
更に、本発明の積層型CNT含有複合材は、上記本発明のCNT含有金属粉末を用い、該CNT含有金属粉末を基材表面に肉盛して成るものである。
【0014】
更にまた、本発明のバルブフェース部材、シリンダヘッドバルブシート部材、シリンダヘッド弁間部材及び成形用金型部材は、上記本発明の積層型CNT含有複合材を適用したものである。
【0015】
また、本発明のCNT含有金属粉末の製造方法は、上記本発明のCNT含有金属粉末を製造する方法であって、金属粉末とCNTに衝撃力、圧縮力、摩擦力及び剪断力から成る群より選ばれた少なくとも1種の機械的作用を繰り返し加えて、一体化させる方法である。
そして、金属粉末とカーボンナノチューブを一体化させるに当たり、好ましくはその雰囲気を不活性ガス雰囲気とする方法である。
【0016】
更に、本発明のCNT含有複合材の製造方法は、上記本発明のCNT含有複合材を製造する方法であって、金属粉末とCNTに衝撃力、圧縮力、摩擦力及び剪断力から成る群より選ばれた少なくとも1種の機械的作用を繰り返し加えて、一体化させてCNT含有金属粉末を得、得られたCNT含有金属粉末を非酸化性雰囲気下で加熱して、焼結させる方法である。
そして、金属粉末とカーボンナノチューブを一体化させるに当たり、好ましくはその雰囲気を不活性ガス雰囲気とする方法である。
【0017】
更にまた、本発明の積層型CNT含有複合材の製造方法は、上記本発明の積層型CNT含有複合材を製造する方法であって、金属粉末とCNTに衝撃力、圧縮力、摩擦力及び剪断力から成る群より選ばれた少なくとも1種の機械的作用を繰り返し加えて、一体化させてCNT含有金属粉末を得、得られたCNT含有金属粉末を非酸化性雰囲気下で加熱して、溶融または半溶融状態にし、基材表面に積層させる方法である。
そして、金属粉末とカーボンナノチューブを一体化させるに当たり、好ましくはその雰囲気を不活性ガス雰囲気とする方法である。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、金属粉末の内部及び表面の一方又は双方にCNTを保持して成るCNT含有金属粉末を得、それを出発原料とすることなどとしたため、CNTを分散・配合させ、機械的性質や電気的性質、熱的性質などに優れ、部材や部品として使用に適したCNT含有複合材及びその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明のCNT含有金属粉末について詳細に説明する。
上述の如く、本発明のCNT含有金属粉末は、金属粉末の内部及び表面の一方又は双方にCNTを保持して成るものである。
このようなCNT含有金属粉末は、詳しくは後述する本発明のCNT含有複合材や積層型CNT含有複合材を製造する際の出発原料として好適に用いることができる。
【0020】
また、本発明のCNT含有金属粉末において、そのCNT含有率は2〜20体積%であることが望ましい。
CNT含有率が2体積%より小さいと、複合材とした際に、その性能が十分に発揮されない可能性がある。一方、20体積%を超えると、CNTの凝集が完全に解けず、複合材を成形した際に、欠陥となり、かえって機械的強度やその他の性能が低下するおそれがある。
【0021】
更に、本発明のCNT含有金属粉末において、用いる金属粉末については特に限定されるものではないが、代表的なものとして、銅(Cu)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、鉄(Fe)又はアルミニウム(Al)、及びこれらの任意の組合わせに係る金属を含む合金などを挙げることができる。
このような金属粉末の大きさとしては、特に限定されるものではないが、平均粒径が30〜300μm程度のものを利用することが望ましい。
【0022】
更にまた、本発明のCNT含有金属粉末において、用いるCNTは、その種類について特に限定されるものではなく、単層(SW−CNT)であっても多層(MW−CNT)であっても構わないが、焼結や肉盛などの製造工程において高温に曝されるので、耐熱性の高いものが望ましい。例えば、500℃以上の耐熱性を有すればよく、700℃以上の耐熱性を有することが好ましい。
【0023】
次に、本発明のCNT含有金属粉末の製造方法について詳細に説明する。
上述の如く、本発明のCNT含有金属粉末の製造方法は、上記本発明のCNT含有金属粉末を製造するに当たり、金属粉末とカーボンナノチューブに衝撃力、圧縮力、摩擦力又は剪断力、及びこれらの任意の組合せに係る機械的作用を繰り返し加えて、一体化させて、所望のCNT含有金属粉末を得る方法である。
そして、金属粉末とカーボンナノチューブを一体化させるに当たり、その雰囲気を不活性ガス雰囲気とすることが好ましい。
なお、不活性ガスとしては、例えば窒素(N)やアルゴン(Ar)を用いことができるが、詳しくは後述する雰囲気とCNT含有金属粉末との反応を考慮するとより安定なアルゴンが好ましい。
【0024】
より具体的には、例えば高速気流中で金属粉末とCNTとを衝突させて、これらに衝撃力や圧縮力、摩擦力、剪断力等の機械的作用を繰り返し加えることによって、CNTの凝集が解かれながら、金属粉末の表面にCNTが固着したり、金属粉末同士が合体する際に、その内部にCNTが取り込まれることにより、CNTと金属粉末とが一体化したCNT含有金属粉末を得ることができる。
【0025】
なお、このように作製することにより、CNT含有金属粉末は生産性良く得られ、更に本発明のCNT含有複合材や積層型CNT含有複合材を作製する際の原料として特に望ましいものとなるが、本発明のCNT含有金属粉末は、かかる方法により作製されたものに限定されないことは言うまでもない。
【0026】
更に、この際には、金属粉末やCNTの表面は、その微細な構造のため(金属粉末は代表的には、平均粒径が30〜300μm程度であり、CNTは代表的には、直径が数10nm程度であり、かつ長さが数μm程度である。)、かなり活性化された状態であり、製造工程における雰囲気と反応し易くなる。
具体的には、酸化や窒化が起こり易くなる。そのため、部分的に酸化や窒化されたような反応生成物を必要とする場合を除いて、上述したように不活性ガス雰囲気中で、上記工程を実施することが望ましい。
【0027】
図1は、本発明のCNT含有金属粉末の製造方法により得られるCNT含有金属粉末の概念図である。
同図に示すように、金属粉末とCNTは、上述したような処理を経ることにより、CNT含有複合材等の出発原料として好適なCNT含有金属粉末となる。
【0028】
次に、本発明のCNT含有複合材について詳細に説明する。
上述の如く、本発明のCNT含有複合材は、上記本発明のCNT含有金属粉末を用い、該CNT含有金属粉末を焼結して成るものである。
このようにCNT含有複合材は、所望する形状に適宜成形し、加熱・焼結してバルク化することができ、機械的性質や電気的性質、熱的性質などに優れ、部材や部品の使用に適したものを得ることができる。
【0029】
また、CNTの含有量は、上述したような理由により2〜20体積%であることが好ましく、CNT含有複合材のマトリックス金属についても、特に限定されるものではないが、例えば、代表的なものとして、Cu、Co、Ni、Fe又はAl、及びこれらの任意の組合わせに係る金属を含む合金などを挙げることができる。
【0030】
次に、本発明のCNT含有複合材の製造方法について詳細に説明する。
上述の如く、本発明のCNT複合材の製造方法は、上記本発明のCNT含有複合材を製造するに当たり、上述したように金属粉末とCNTに衝撃力、圧縮力、摩擦力又は剪断力、及びこれらの任意の組合せに係る機械的作用を繰り返し加えて、好ましくは不活性ガス雰囲気中で、一体化させてCNT含有金属粉末を得、得られたCNT含有金属粉末を非酸化性雰囲気下で加熱して、焼結させて、所望のCNT含有複合材を得る方法である。
このように、上記本発明のCNT含有金属粉末を用いることにより、機械的性質や電気的性質、熱的性質などに優れ、部材や部品として使用に適したCNT含有複合材を効率よく得ることができる。
なお、非酸化性雰囲気を得るために、真空中、又はアルゴン(Ar)、ヘリウム(He)等の不活性ガス中、又は窒素(N)若しくは水素(H)などの還元性雰囲気中で処理すればよい。真空中であることが好ましいが、上記雰囲気でも特に支障はない。
【0031】
但し、金属粉末の表面に固着したCNTは、CNT含有金属粉末同士の焼結を若干ではあるが阻害するので、その場合には、CNT含有金属粉末を成形用の型中で圧縮・加熱するだけでなく、塑性加工工程を付加することにより、より健全なバルクが得られやすくなる。
また、圧延や押出しなどの塑性加工工程を付加することにより、方向性のあるCNT含有複合材を製造することができ、積極的に異方性を利用したCNT含有複合材を得ることもできる。
なお、このような製造方法は、生産性に優れたものであるが、所望する性能を有するものが得られれば、本発明のCNT含有複合材は、かかる方法により作製されたものに限定されないことは言うまでもない。
【0032】
次に、本発明の積層型CNT含有複合材について詳細に説明する。
上述の如く、本発明の積層型CNT含有複合材は、上記本発明のCNT含有金属粉末を用い、該CNT含有金属粉末を基材表面に肉盛して成るものである。
このように、上記本発明のCNT含有金属粉末を用いることにより、機械的性質や電気的性質、熱的性質などに優れ、部材や部品として使用に適した積層型CNT複合材を得ることができる。
なお、用いる基材の材質については、例えば耐熱鋼、より具体的にはアルミニウム合金や鉄基合金などを適用することができるがこれに限定されるものではない。
また、用いる基材の形状についても、例えば板状や円筒状、円柱状などのものに適用することができ、部品の形状にしたものに適用することもできる。
【0033】
また、肉盛部位のCNTの含有量は、上述したような理由により2〜20体積%であることが好ましく、CNTを含有する複合材層のマトリックス金属についても、特に限定されるものではないが、例えば、代表的なものとして、Cu、Co、Ni、Fe又はAl、及びこれらの任意の組合わせに係る金属を含む合金などを挙げることができる。
【0034】
また、上述した本発明のCNT含有複合材のように、全体がCNTを含有する複合材となっているわけではないが、部材や部品とする際に必要な部位にだけ肉盛をし、CNTを含有する複合材層を形成することができ、また、めっき層と異なり厚膜を形成することもできるため、適宜性能を向上させることができ、部材・部品の設計も容易となる。
【0035】
次に、本発明のバルブフェース部材、シリンダヘッドバルブシート部材、シリンダヘッド弁間部材及び成形用金型について詳細に説明する。
まず、本発明の積層型CNT含有複合材を自動車用部品に適用した例について説明する。
本発明のバルブフェース部材は、上記本発明の積層型CNT含有複合材を用いた部材であって、Co及びNiの一方又は双方を含むCNT含有金属粉末を用い、該CNT含有金属粉末を耐熱鋼の基材表面に肉盛して成るものである。
このような構成とすることにより、耐熱性や伝熱性が更に向上し、動力性能を高めることができる。
なお、基材表面に形成されるCNTを含有する複合材層に含まれる金属は、上記のものに特に限定されるものではなく、例えば現行よく用いられているニッケル基やコバルト基、鉄基などの合金も用いることができる。
【0036】
また、本発明のシリンダヘッドバルブシート部材は、上記本発明の積層型CNT含有複合材を用いた部材であって、Cuを含むCNT含有金属粉末を用い、該CNT含有金属粉末をアルミニウム合金の基材表面に肉盛して成るものである。
このような構成とすることにより、強度だけでなく、熱伝導特性を更に向上させることができる。また、低熱膨張性のものとすることもできる。
なお、基材表面に形成されるCNTを含有する複合材層に含まれる金属としては、特に限定されるものではないが、耐熱・高強度合金であることが望ましく、例えばNiやケイ素(Si)、モリブデン(Mo)などの合金元素を添加した銅合金などを挙げることができる。
【0037】
更に、本発明のシリンダベッド弁間部材は、上記本発明の積層型CNT含有複合材を用いた部材であって、Alを含むCNT含有金属粉末を用い、該CNT含有金属粉末をアルミニウム合金の基材表面に肉盛して成るものである。
シリンダヘッド弁間部は、使用中の熱応力による亀裂を防がねばならず、近年のエンジンの高出力化やコンパクト化に伴い、この部位の使用環境は益々厳しくなっている。
そこで、この部位に開先を設け、基材とCNTを含有する複合材層とを同じAlを含むような構成とすることにより、耐熱性や低熱膨張性を更に向上させることができる。
【0038】
更にまた、本発明の積層型CNT含有複合材を自動車部品以外に適用した例について説明する。
従来から鍛造や鋳造する際の金型として、鉄系の合金のものが使用されているが、使用中に厳しい熱環境に曝され表面にヒートクラックが発生するため、損傷が小さい場合にはその都度補修して再使用すること、損傷が著しい場合には新規に作り直すことが行われている。
【0039】
そして、本発明の成形用金型部材は、上記本発明の積層型CNT含有複合材を用いた部材であって、Feを含むCNT含有金属粉末を用い、該CNT含有金属粉末を鉄基合金の基材表面に肉盛して成るものである。
このような構成とすることにより、耐熱性や熱伝導性を更に向上させることができ、寿命をより長くすることができる。
また、成形用金型の一例であるプレス型でも同様に、強度や熱伝導性を向上させることができ、耐摩耗性やかじり性を改善して、寿命を長くすることができる。
更に、成形用金型の一例である射出成形型では、熱伝導性を向上させることができるため、その使用に際し、成形サイクルを速めることができる。
なお、基材表面に形成されるCNTを含有する複合材層に含まれる金属としては、特に限定されるものではないが、耐熱性を有する金属であることが望ましく、例えば鉄系金属やニッケル基の耐熱合金などを挙げることができる。
【0040】
次に、本発明の積層型CNT含有複合材の製造方法について詳細に説明する。
上述の如く、本発明の積層型CNT含有複合材の製造方法は、上記本発明の積層型CNT含有複合材を製造するに当たり、上述したように金属粉末とCNTに衝撃力、圧縮力、摩擦力又は剪断力、及びこれらの任意の組合わせに係る機械的作用を繰り返し加えて、好ましくは不活性ガス雰囲気中で、一体化させてCNT含有金属粉末を得、得られたCNT含有金属粉末を非酸化性雰囲気下で加熱して、溶融または半溶融状態にし、基材表面に積層させて、所望の積層型CNT含有複合材を得る方法である。
このように、上記本発明のCNT含有金属粉末と、基材を用いることにより、機械的性質や電気的性質、熱的性質などに優れ、部材や部品として使用に適した積層型CNT含有複合材を効率よく得ることができる。
【0041】
より具体的には、例えば本発明のCNT含有金属粉末と、基材とを用いて積層型CNT含有複合材を製造するに当たり、基材と非消耗電極との間に発生させたプラズマアーク中(代表的には数万℃程度。)に、本発明のCNT含有金属粉末を供給し、溶融させて基材表面に肉盛するプラズマ粉体肉盛や、プラズマジェット中(代表的には数万℃程度。)に、本発明のCNT含有金属粉末を供給し、溶融させて高速気流(代表的には気流速度はノズル近傍では数千m/秒程度。)で基材に吹き付け肉盛(積層)するプラズマ溶射、より好ましくは火炎中(代表的には2500〜2800℃程度。)にCNT含有金属粉末を投入し、半溶融状態にして超音速気流(代表的には気流速度1300〜2400m/秒程度。)で基材表面に吹き付け肉盛(積層)するHVOF(High Velocity Oxygen Fuel spray process)又はHVAF(High Velocity Air Fuel spray process)という高速フレーム溶射によってCNTを含有する複合材層を基材表面に形成することができる。肉盛りはプラズマ粉体肉盛りに限らず、他の方法、例えばレーザ肉盛りでもかまわない。
【0042】
なお、このような製造方法は、生産性に優れたものであるが、所望する性能を有するものが得られれば、本発明の積層型CNT複合材は、かかる方法により作製されたものに限定されないことは言うまでもない。
【0043】
ここで、本発明の積層型CNT含有複合材を製造する様子を図面を用いて詳細に説明する。
図2は、積層型CNT含有複合材をプラズマ粉体肉盛装置により製造する様子を示す概念説明図である。なお、同図は、非消耗電極の軸を通り、肉盛方向に平行な面で切断した断面を示すものである。
同図に示すように、プラズマ粉体肉盛装置100は、トーチ110(水冷機構は図示せず。)と溶接電源120を備え、トーチ110内には、非消耗電極112と、センターガス流路114と、原料粉末供給路116と、シールドガス流路118を有している。
また、トーチ110内の非消耗電極112と用いる基材12とは溶接電源120を介して接続されている。
【0044】
センターガス流路114に矢印で示すように例えばAr又はHeなどのガスを通じ、原料粉末供給路116からCNT含有金属粉末14aを供給し、シールドガス流路118に矢印で示すように例えばAr又はHeなどのガスを通じながら、非消耗電極112と用いる基材12との間にプラズマアークAを発生させ、その中にCNT含有金属粉末14aを供給することにより、CNT含有金属粉末14aがプラズマアークA中で溶融され、基材12の表面にCNT含有金属粉末14aが肉盛され、肉盛層(CNTを含有する複合材層)14が形成された積層型CNT複合材10が得られる。
なお、図において左側に基材12を移動することにより、矢印Fの肉盛方向に肉盛層が形成されていく。
【実施例】
【0045】
以下、本発明を実施例及び比較例により更に詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0046】
(実施例1)
強化材として、直径が20〜50nmの多層型CNTと平均粒径が30μmのAl−Si合金粉末をAr気流にのせてロータが回転する容器中で衝撃力を付加してCNT含有金属粉末を作製した。
得られたCNT含有金属粉末のCNT含有率は4体積%であった。
使用した装置は、(株)奈良機械製作所製、ハイブリダイゼーヨン装置で、処理時間は3分であった。
【0047】
得られたCNT含有金属粉末を用いて、プラズマ粉体肉盛装置(日鐵溶接工業社製)によって、純アルミニウム板(厚さ:5mm)上に厚さ3〜4mmの肉盛層(CNTを含有する複合材層)を形成し、本例の積層型CNT含有複合材を得た。
得られた積層型CNT含有複合材は、割れや大きなポロシティの観察されない健全な肉盛層を有していた。
【0048】
(実施例2)
強化材として、直径が20〜50nmの多層型CNTと平均粒径が30μmの純Cu粉末をAr気流にのせてロータが回転する容器中で衝撃力を付加してCNT含有金属粉末を作製した。
得られたCNT含有金属粉末のCNT含有率は3.5体積%であった。
【0049】
得られたCNT含有金属粉末を用いて、HVOFによって、純アルミニウム板(厚さ:5mm)上に厚さ3〜4mmの肉盛層(CNTを含有する複合材層)を形成し、本例の積層型CNT含有複合材を得た。
得られた積層型CNT含有複合材は、割れや大きなポロシティの観察されない健全な肉盛層を有していた。
【0050】
(実施例3)
実施例1で得られたCNT含有金属粉末を用いて、コンテナに挿入し、脱気し、シールした状態で、熱間で押出しして、本例のCNT含有複合材(焼結体)を得た。
得られたCNT含有複合材は、相対密度が100%の健全なバルクであった。
本実施例では、押出し温度400℃、押出し速度10mm/分、押出し比15とした。
【0051】
(比較例1)
CNT複合粉末の代わりに、平均粒径30μmのAl−Si合金粉末のみを使用した以外は、実施例1と同様の操作を繰り返し、本例の部材を得た。
【0052】
(比較例2)
CNT複合粉末の代わりに、平均粒径30μmの純Cu粉末のみを使用した以外は、実施例2と同様の操作を繰り返し、本例の部材を得た。
【0053】
(比較例3)
CNT複合粉末の代わりに、平均粒径30μmのAl−Si合金粉末のみを使用した以外は、実施例3と同様の操作を繰り返し、本例の部材を得た。
【0054】
[性能評価]
上記各例の部材から試料を切り出し、各種評価試験に供した。
【0055】
(引張り強度試験)
実施例1及び比較例1の試料について、下記条件のもとで引張り強度を測定したところ、比較例1に対して実施例1の引張り強度が26%向上していた。
また、実施例3及び比較例3の試料について、同様に引張り強度を測定したところ、比較例3に対して実施例3の引張り強度がおよそ25%向上していた。
【0056】
(試験条件)
肉盛層から厚さ2mmの短冊状試験片を切り出し、室温で引張り試験を行った。
【0057】
(熱伝導性試験)
実施例2及び比較例2の試料について、下記条件のもとで熱伝導率を測定したところ、比較例2に対して実施例2の熱伝導率が15%向上していた。
【0058】
(試験条件)
肉盛層から厚さ1mmの円板状試験片を切り出し、レーザフラッシュ法にて測定を行なった。
【0059】
このような結果から、優れた性能を有するCNT含有複合材や積層型CNT含有複合材が得られていることが分かる。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】CNT含有金属粉末の製造方法により得られるCNT含有金属粉末の概念図である。
【図2】積層型CNT含有複合材をプラズマ粉体肉盛装置により製造する様子を示す概念説明図である。
【符号の説明】
【0061】
10 積層型CNT含有複合材
12 基材
14 肉盛層(CNTを含有する複合材層)
14a CNT含有金属粉末
100 プラズマ粉体肉盛装置
110 トーチ
112 非消耗電極
114 センターガス流路
116 原料粉末供給路
118 シールドガス流路
120 溶接電源

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属粉末の内部及び/又は表面にカーボンナノチューブを保持して成ることを特徴とするカーボンナノチューブ含有金属粉末。
【請求項2】
上記カーボンナノチューブの含有率が2〜20体積%であることを特徴とする請求項1に記載のカーボンナノチューブ含有金属粉末。
【請求項3】
上記金属粉末が、銅、コバルト、ニッケル、鉄及びアルミニウムから成る群より選ばれた少なくとも1種の金属を含有することを特徴とする請求項1又は2に記載のカーボンナノチューブ含有金属粉末。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1つの項に記載のカーボンナノチューブ含有金属粉末を用い、該カーボンナノチューブ含有金属粉末を焼結して成ることを特徴とするカーボンナノチューブ含有複合材。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれか1つの項に記載のカーボンナノチューブ含有金属粉末を用い、該カーボンナノチューブ含有金属粉末を基材表面に肉盛して成ることを特徴とする積層型カーボンナノチューブ含有複合材。
【請求項6】
上記基材が耐熱鋼であることを特徴とする請求項5に記載の積層型カーボンナノチューブ含有複合材。
【請求項7】
上記基材がアルミニウム合金であることを特徴とする請求項5に記載の積層型カーボンナノチューブ含有複合材。
【請求項8】
上記基材が鉄基合金であることを特徴とする請求項5に記載の積層型カーボンナノチューブ含有複合材。
【請求項9】
請求項6に記載の積層型カーボンナノチューブ含有複合材を用いた部材であって、コバルト及び/又はニッケルを含むカーボンナノチューブ含有金属粉末を用い、該カーボンナノチューブ含有金属粉末を基材表面に肉盛して成ることを特徴とするバルブフェース部材。
【請求項10】
請求項7に記載の積層型カーボンナノチューブ含有複合材を用いた部材であって、銅を含むカーボンナノチューブ含有金属粉末を用い、該カーボンナノチューブ含有金属粉末を基材表面に肉盛して成ることを特徴とするシリンダヘッドバルブシート部材。
【請求項11】
請求項7に記載の積層型カーボンナノチューブ含有複合材を用いた部材であって、アルミニウムを含むカーボンナノチューブ含有金属粉末を用い、該カーボンナノチューブ含有金属粉末を基材表面に肉盛して成ることを特徴とするシリンダヘッド弁間部材。
【請求項12】
請求項8に記載の積層型カーボンナノチューブ含有複合材を用いた部材であって、鉄を含むカーボンナノチューブ含有金属粉末を用い、該カーボンナノチューブ含有金属粉末を基材表面に肉盛して成ることを特徴とする成形用金型部材。
【請求項13】
請求項1〜3のいずれか1つの項に記載のカーボンナノチューブ含有金属粉末を製造する方法であって、
金属粉末とカーボンナノチューブに衝撃力、圧縮力、摩擦力及び剪断力から成る群より選ばれた少なくとも1種の機械的作用を繰り返し加えて、一体化させることを特徴とするカーボンナノチューブ含有金属粉末の製造方法。
【請求項14】
金属粉末とカーボンナノチューブを一体化させるに当たり、その雰囲気を不活性ガス雰囲気とすることを特徴とする請求項13に記載のカーボンナノチューブ含有金属粉末の製造方法。
【請求項15】
請求項4に記載のカーボンナノチューブ含有複合材を製造する方法であって、
金属粉末とカーボンナノチューブに衝撃力、圧縮力、摩擦力及び剪断力から成る群より選ばれた少なくとも1種の機械的作用を繰り返し加えて、一体化させてカーボンナノチューブ含有金属粉末を得、得られたカーボンナノチューブ含有金属粉末を非酸化性雰囲気下で加熱して、焼結させることを特徴とするカーボンナノチューブ含有複合材の製造方法。
【請求項16】
金属粉末とカーボンナノチューブを一体化させるに当たり、その雰囲気を不活性ガス雰囲気とすることを特徴とする請求項15に記載のカーボンナノチューブ含有複合材の製造方法。
【請求項17】
請求項5〜8のいずれか1つの項に記載の積層型カーボンナノチューブ含有複合材を製造する方法であって、
金属粉末とカーボンナノチューブに衝撃力、圧縮力、摩擦力及び剪断力から成る群より選ばれた少なくとも1種の機械的作用を繰り返し加えて、一体化させてカーボンナノチューブ含有金属粉末を得、得られたカーボンナノチューブ含有金属粉末を非酸化性雰囲気下で加熱して、溶融または半溶融状態にし、基材表面に積層させることを特徴とする積層型カーボンナノチューブ含有複合材の製造方法。
【請求項18】
金属粉末とカーボンナノチューブを一体化させるに当たり、その雰囲気を不活性ガス雰囲気とすることを特徴とする請求項17に記載の積層型カーボンナノチューブ含有複合材の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−16262(P2007−16262A)
【公開日】平成19年1月25日(2007.1.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−197218(P2005−197218)
【出願日】平成17年7月6日(2005.7.6)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】