説明

ガスケットの製造方法及びインクジェット塗布装置

【課題】基板上の所定部位に均一な膜厚で接着強度と耐久性に優れる塗膜を形成できるガスケットの製造方法及び塗布対象物の所定部位に均一な膜厚の塗膜を形成でき、ヘッドの使用寿命を延ばすことができるインクジェット塗布装置の提供。
【解決手段】基板1の所定部位に接着剤4を塗布してシール材を接着する際、基板1の所定部位に接着剤4をインクジェットヘッド2のノズルから吐出して塗布する。また、X方向に移動される基板の所定部位に、X方向と直交するY方向に沿って配列されたインクジェットヘッドの多数のノズルから接着剤を吐出して所定の印刷パターンで塗布し、シール材を接着するものにおいて、インクジェットヘッドは、基板のY方向に沿う接着剤の塗り幅よりも幅広の吐出幅を有し、該インクジェットヘッドをY方向に沿って移動可能とし、各ノズルの吐出頻度が平準化されるように、所定吐出回数毎にインクジェットヘッドのY方向の位置を変更する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガスケットの製造方法及びインクジェット塗布装置に関し、詳しくは、自動車関連分野または一般産業機械の分野等において用いられ、ガスケット表面にシール材を所要のパターン形状および厚さで固着させたガスケットの製造方法及びそれに好適に用いられるインクジェット塗布装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車用エンジン等に用いられるシリンダヘッド用ガスケットは、図18に示すようなものが知られている。図18において、100は基板であり、SUS301、SUS301H、SUS304、SUS430等のステンレス鋼板が用いられる。101はシール材であり、ゴム層によって構成される。
【0003】
かかるガスケットを製造するには、金属の薄板からなる基板を所定の形状に打ち抜き、シール部分では、図19に示すように、薄板をプレスしてビード102を形成する。その後、スクリーン印刷等の手法でゴム層を所定の箇所に印刷し、その後加熱加硫してシール材101とし、製品としている。その際、ゴム層と基板100との接着力を高めるために、予め基板100に接着剤を塗っている。図19における103は接着剤によって基板100とシール材101との間に形成された接着剤層である。
【特許文献1】特開2002−257241号公報:シリンダヘッド用ガスケットに塗布されるプライマーは浸漬法又は印刷法によって塗布されることが開示され(請求項6)、また0035には、プライマー及び接着剤の固体状ガスケットへの塗布は、印刷法の中でもパッドを用いる方法が最も望ましい方法であると記載している。
【特許文献2】特開2004−148666号公報:ヘッドがX、Y軸方向に移動
【特許文献3】特開2004−106474号公報:度数分布
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来のガスケットの製造方法では、特許文献1に記載のように、基板表面に接着剤を塗布するため、基板全体を接着剤槽に浸漬し、その後、大気中で乾燥させる手法が知られており、ディッピングと呼ばれている。
【0005】
この方法では、必要がない部分まで接着剤が付着してしまうばかりでなく、例えば冷却水路用の穴に接着剤がはみ出してしまう問題があった。
【0006】
しかも、基板を接着剤槽から引き出して余分な接着剤を落とす際、落ち切れなかった接着剤の液が基板表面に部分的に溜まったり、接着剤の液が流れた後が残ったりして、これがそのまま乾燥するので、接着剤の厚さが不均一になるという問題もあった。
【0007】
接着剤の厚さは、その性能を維持するためには一定の厚さであることが好ましいが、従来のディッピングによる方法では、このように接着剤の厚さが不均一になり易く、また、膜厚が規格値を外れると接着強度が低下する問題がある。
【0008】
また、接着剤が溜まった部分は塗り斑となって外観上も好ましくない。
【0009】
更に、特許文献1に記載のパッド印刷では膜厚管理が難しい問題がある。
【0010】
本発明は、基板上の所定部位に、均一な膜厚の塗膜を形成でき、接着強度に優れ、また耐久性に優れる塗膜を形成できるガスケットの製造方法を提供することを課題とする。
【0011】
また、本発明は、塗布対象物の所定部位に、均一な膜厚の塗膜を形成でき、ヘッドの使用寿命も延ばすことができるインクジェット塗布装置を提供することを課題とする。
【0012】
本発明の他の課題は、以下の記載により明らかとなる。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題は、以下の各発明によって解決される。
【0014】
(請求項1)
基板の所定部位に接着剤を塗布してシール材を接着するガスケットの製造方法において、前記接着の際に、前記基板の所定部位に接着剤溶液をインクジェットヘッドのノズルから吐出して塗布することを特徴とするガスケットの製造方法。
【0015】
(請求項2)
前記接着剤塗膜の乾燥後の厚みを所定厚みに形成するのに、複数回塗布を行うことを特徴とする請求項1記載のガスケットの製造方法。
【0016】
(請求項3)
X方向に移動される基板の所定部位に、前記X方向と直交するY方向に沿って配列されたインクジェットヘッドの多数のノズルから接着剤を吐出して所定の印刷パターンで塗布し、シール材を接着するガスケットの製造方法であって、前記インクジェットヘッドは、前記基板の前記Y方向に沿う接着剤の塗り幅よりも幅広の吐出幅を有し、該インクジェットヘッドを前記Y方向に沿って移動可能とし、各ノズルの吐出頻度が平準化されるように、所定吐出回数毎に前記インクジェットヘッドの前記Y方向の位置を変更することを特徴とするガスケットの製造方法。
【0017】
(請求項4)
前記印刷パターンに基づいて前記インクジェットヘッドの各ノズルの吐出頻度を推定し、推定された各ノズルの吐出頻度が平準化されるように、所定吐出回数毎に前記インクジェットヘッドの前記Y方向の位置を変更することを特徴とする請求項3記載のガスケットの製造方法。
【0018】
(請求項5)
X方向に移動される塗布対象に対して、前記X方向と直交するY方向に沿って配列された多数のノズルから塗布液を吐出して所定の印刷パターンで塗布を行うインクジェットヘッドを備えたインクジェット塗布装置であって、前記インクジェットヘッドは、前記基板の前記Y方向に沿う接着剤の塗り幅よりも幅広の吐出幅を有し、該インクジェットヘッドを、前記Y方向に沿って移動させる移動手段と、各ノズルの吐出頻度が平準化されるように、所定吐出回数毎に前記インクジェットヘッドの前記Y方向の位置を変更させる制御手段とを有することを特徴とするインクジェット塗布装置。
【0019】
(請求項6)
前記印刷パターンに基づいて前記インクジェットヘッドの各ノズルの吐出頻度を推定する推定手段を有し、前記制御手段は、前記推定手段により推定された各ノズルの吐出頻度が平準化されるように、所定吐出回数毎に前記インクジェットヘッドの前記Y方向の位置を制御することを特徴とする請求項5記載のインクジェット塗布装置。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば基板上の所望部位に、均一な膜厚の塗膜を形成でき、接着強度に優れ、また耐久性に優れる塗膜を形成できるガスケットの製造方法を提供することができる。
【0021】
また、本発明によれば、塗布対象物の所定部位に、均一な膜厚の塗膜を形成でき、ヘッドの使用寿命も延ばすことができるインクジェット塗布装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づき説明する。
【0023】
図1は、インクジェット塗布装置を用いて自動車用エンジン等に用いられるシリンダヘッド用ガスケット(以下、CHGという。)を製造する方法の一例を示す概略図である。
【0024】
基板1は、従来と同様のステンレス鋼板を用いて所要形状に打ち抜き加工および必要に応じてビードの加工が施されている。ステンレス鋼板としては、SUS301、SUS301H、SUS304、SUS430等が用いられる。その板厚は、ガスケット用途であるので、一般に約0.1〜2mm程度のものが用いられる。
【0025】
基板1は図示しないワークテーブル上に載置されており、ここでは図中の矢印で示す送り方向に沿って所定速度で移動することにより、基板1を送り方向に沿って移動させることができるようになっている。
【0026】
ワークテーブル上に載置された基板1の上方にはインクジェットヘッド2が配置されている。インクジェットヘッド2には接着剤が貯留されたタンク3から接着剤が供給されている。基板1の表面に対する接着剤の塗布は、このインクジェットヘッド2から接着剤を微細な液滴状の接着剤4にして吐出し、それを基板1の表面にドット状に着弾させることにより行われる。
【0027】
インクジェットヘッド2の構造は、接着剤を微細な液滴状にして吐出させることができるものであれば特に問わないが、ピエゾ素子等の電気機械変換素子を用いて圧力発生室内の接着剤に圧力を付与し、それによって接着剤をノズルから微細液滴状に噴射させることができるものが好ましい。
【0028】
図2はインクジェットヘッド2のノズル面21の様子を示している。
【0029】
インクジェットヘッド2のノズル面21には、例えば256個等の多数のノズル22が形成され、それが基板1の送り方向に沿って平行となるように配列されている。図2ではノズル22が1列に配列されたものを示すが、特に限定されるわけではなく、多数のノズル22が例えば2列等の複数列に平行に配列されるものであってもよい。
【0030】
ノズル22の孔径は10〜200μm、好ましくは50μmとすることができる。ノズル22の形状は、吐出する方向に沿って次第に先細りとなるテーパー形状であることも好ましい。
【0031】
また、インクジェットヘッド2は、1つに限らず、2つ以上の複数のインクジェットヘッド2を並べて使用することもできる。
【0032】
インクジェットヘッド2は、そのノズル22が形成されたノズル面21をワークテーブル上に載置された基板1の表面に対向させるように配置され、ワークテーブルの送り方向と直交する方向に沿って走査移動させることができるようになっている。
【0033】
そして、接着剤4は、このようなインクジェットヘッド2の走査移動の過程で吐出され、その下の基板1表面に対して塗布される。このとき、インクジェットヘッド2において接着剤4を吐出するノズル22の位置及び吐出のタイミングならびに基板1の送り速度を適切に制御することによって、基板1の表面に対して接着剤4を塗布する必要のある領域のみに所望のパターンで簡単に接着剤4を塗布することができる。
【0034】
図3は、このようにして基板1の表面に接着剤を塗布する途中のガスケットを示している。図中の符号5で示す領域が、接着剤が塗布された領域である。インクジェット装置を用いることによって、基板1の表面に所望のパターンで接着剤を塗布していくことができ、接着剤が不要な領域にはみ出すおそれはない。
【0035】
その後、接着剤層の上にシール材(図示せず)を接着することによりCHGを作成する。
【0036】
インクジェットヘッド2から吐出される接着剤4によって形成される接着剤層は、基板1の表面に対して繰り返し接着剤4を吐出する(複数回塗布)ことにより、接着剤層が所望の膜厚となるようにすることも好ましい。このように膜厚制御が可能なのはインクジェットヘッド2からの吐出量が制御可能だからである。
【0037】
本発明において用いられる接着剤には、シラン系、フェノール系又はエポキシ系の接着剤が好ましい。
【0038】
シラン系接着剤は、シランカップリング剤を有機溶剤に溶解させたものを用いることができ、本発明のシール材に適用可能である。シラン系接着剤の具体例としては、例えばメタクリロキシプロピルトリアルコキシシラン、ビニルトリアルコキシシランなどが挙げられる。メタクリロキシプロピルトリアルコキシシランとしては、メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン等が用いられる。ビニルトリアルコキシシランとしては、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリス(2-メトキシエトキシ)シラン、ビニルトリス(2-エトキシエトキシ)シラン等が用いられる。
【0039】
フェノール系接着剤は、例えばフェノール樹脂であるノボラックやレゾールをイソシアネートやヘキサメチレンテトラミンなどの硬化剤と充填剤を加えて溶剤を用いて溶液としたものを用いることができ、本発明のシール材に適用可能である。
【0040】
エポキシ系接着剤としては、本発明のシール材に適用可能であれば特に制限なく用いることができるが、具体例としてはエポキシフェノール、エポキシノボラック、エポキシ芳香族ジアミン、エポキシポリアミンなどを挙げることができる。
【0041】
これらの接着剤は、固形分濃度0.1〜15重量%の範囲が好ましく、より好ましくは1〜10重量%の範囲であり、粘度は1〜300cpの範囲が好ましい。
【0042】
接着剤に用いられる溶剤としては、芳香族系、ケトン系、エーテル系、アルコール系の一般的な市販溶剤を使用することができる。このような溶剤としては、例えば、アルコール、トルエン、MEK(メチルエチルケトン)、メチルイソブチルケトン、ジ−n−プロピルケトン、シクロヘキサノン、ホロン、イソホロン等が挙げられる。
【0043】
本発明において、接着剤の塗布前に適切なプライマーを塗布することは任意である。かかるプライマーとしては、リン酸亜鉛皮膜、リン酸鉄皮膜、塗布型クロメート皮膜、バナジウム、ジルコニウム、チタニウム、モリブデン、タングステン、マンガン、亜鉛及びセリウム化合物もしくは酸化物の無機系皮膜、シラン、フェノール、エポキシ、ウレタン等の有機系皮膜を塗布、熱処理等し、厚さ約0.01〜10μmのプライマー層を形成させる。
【0044】
本発明において、シール材は、ニトリルゴム、水素化ニトリルゴム、エチレン−プロピンゴム、スチレン−ブタジエンゴム、天然ゴム、フッ素ゴム、アクリルゴム、クロロプレンゴム、ブチルゴム、シリコーンゴム等の一般的なゴム材料やTPE等のエラストマーやそれらとの樹脂混合物等の弾性体を示す。
【0045】
本発明では、接着剤、ゴム層を形成後、ゴムの粘着防止、摩耗防止、劣化低減等の保護膜として、粘着防止剤を塗布してもよい。
【0046】
粘着防止剤としては、グラファイト、PTFE、2硫化モリブデン、カーボンブラック、ワックスなどの潤滑成分とこれにバインダーとしてセルロース樹脂、アクリル樹脂、ポリブタジエン樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、シリコーン樹脂、ウレタン樹脂など接着成分を添加して、有機溶剤、水中に分散させた分散液を塗布、熱処理等し、厚さ約1〜10μmの非粘着層を形成させる。
【0047】
以上説明したインクジェット塗布装置におけるインクジェットヘッド2は、多数のノズル22が基板1の送り方向に沿って平行となるように配列され、ノズル22が接着剤4を吐出しながら、基板1の送り方向と直交する方向に沿って往復走査することにより、基板1の送り動作とインクジェットヘッド2の走査移動とが協働して、基板1の表面に所定の印刷パターンで接着剤4を塗布印刷するようにしたものを示したが、本発明に係るガスケット製造方法において使用されるインクジェット塗布装置の構成はこれに限定されず、図6に示すように、インクジェットヘッド2を停止させた状態で、基板1のみを一方向に送るようにしてもよい。
【0048】
この場合は、インクジェットヘッド2の多数のノズル22は、基板1の送り方向と直交する方向に沿って平行となるように配列させ、その吐出幅(ノズル列の長さ)が、基板10の表面に対して接着剤4を塗布印刷する際の幅と同一又は若干大きくなる程度に形成すればよい。
【0049】
ところで、インクジェットヘッド2を長時間使用すると、インクジェットヘッド2から吐出された接着剤4によって形成される接着剤層の膜厚が大きくなってくる傾向が見られる。図7は、吐出回数と膜厚比との関係を表すグラフである。吐出条件を調整しない場合、吐出回数が増加するにつれて、膜厚比は大きくなってくる。
【0050】
このような膜厚の増加の原因は、ノズル22の消耗摩耗によるものと考えられる。図8のグラフは、吐出回数と吐出流量比との関係を表している。一般にインクジェットヘッドは、流体を数kHz〜十数kHzの高速で吐出するため、吐出回数が増えるにつれて、流体がノズル22を通過する際の摩擦によってノズル22が摩耗し、ノズル径が大きく変化してくる。このノズル径の変化によって、吐出流量が増加する。その結果、膜厚比が増加する。
【0051】
このような吐出流量の変化は、インクジェットヘッド2の吐出電圧や吐出周波数等の吐出条件を変更(調整)することによって、図7に示すようにある程度補正することができる。
【0052】
しかし、図6に示すようにして基板1の表面に接着剤4を塗布印刷してガスケットを製造する場合、このような補正によって対処することができない。すなわち、図6に示すインクジェットヘッド2は停止させた状態にしてノズル22から接着剤4を吐出するため、印刷パターンによって、特定のノズル22のみの吐出頻度が高くなり、他のノズル22に比べて先に消耗摩耗してしまう。吐出電圧や吐出周波数等の吐出条件は、全ノズル22に共通に作用するため、特定のノズル22の消耗摩耗による吐出流量の変化には対応できないからである。
【0053】
図9は、図6に示すインクジェット塗布装置において、インクジェットヘッド2のノズル22の吐出頻度を表す度数分布を示すグラフである。複数回吐出を繰り返すことにより、吐出頻度の高い山部と吐出頻度の低い谷部とにはっきりと分かれることがわかる。
【0054】
このように、特定のノズル22の吐出頻度が高くなると、その特定のノズル22が先に消耗摩耗してノズル径が大きくなることにより、基板1上に形成される接着剤層の膜厚がばらついてしまう結果を招く。接着剤層の膜厚がばらつくと、製造されるガスケットの性能・品質の低下に繋がるため好ましくない。しかも、インクジェットヘッド2の寿命は、先に消耗摩耗するノズル部分で決まってしまうため、早期にヘッド交換の必要が出てきてしまう。インクジェットヘッドは高価であるため、ヘッドの消耗費用は無視できない。
【0055】
そこで、以下に、インクジェットヘッド2を停止させた状態で、基板1を一方向に送りながら接着剤4を吐出して塗布印刷する場合に好ましい製造方法及びインクジェット塗布装置について説明する。
【0056】
図10は、インクジェット塗布装置の一例を示す平面図、図11はインクジェット塗布装置の概略構成を示すブロック図である。
【0057】
図10において、10はワークテーブル、20はインクジェットヘッドである。
【0058】
ワークテーブル10は、図11に示すCPU30によって制御されるX方向送りモータ40の駆動によって、図10中の右方向(X方向)に沿って所定速度で移動可能に設けられており、その上に載置される基板1をX方向に沿って移動させることができるようになっている。
【0059】
ワークテーブル10の上方にはインクジェットヘッド20が配置されている。インクジェットヘッド20には、ここには示されていないタンクに貯留された塗布液である接着剤が供給されるようになっている。
【0060】
基板1の表面に対する接着剤の塗布は、図11に示すCPU30が、印刷パターンデータメモリ50に記憶されている印刷パターンを呼び出し、その印刷パターンに基づいてヘッドドライバ60を駆動させることにより、ワークテーブル10上の基板1がX方向に送られる過程で、インクジェットヘッド20の所定のノズルから所定のタイミングで、微細な液滴状の接着剤にして吐出し、それを基板1の表面にドット状に着弾させることにより行われる。このとき、インクジェットヘッド20において接着剤を吐出するノズルの位置及び吐出のタイミングならびに基板1の送り速度を、CPU30が適切に制御することによって、基板1の表面に対して接着剤を塗布する必要のある領域に対して接着剤が塗布印刷される。
【0061】
このインクジェットヘッド20の構造も、接着剤を微細な液滴状にして吐出させることができるものであれば特に問わないが、ピエゾ素子等の電気機械変換素子を用いて圧力発生室内の接着剤に圧力を付与し、それによって接着剤をノズルから微細液滴状に噴射させることができるものが好ましい。
【0062】
図12は、このインクジェットヘッド20をノズル面側から見た図である。
【0063】
インクジェットヘッド20は、複数のヘッドユニット20A、20B、20Cにより構成されている。各ヘッドユニット20A、20B、20Cには、それぞれのノズル面に多数(例えば256個)のノズル201が、ワークテーブル10の送り方向であるX方向と直交するY方向に沿って平行となるように配列されている。ここでは3つのヘッドユニット20A、20B、20Cからなるが、個数はインクジェットヘッド20のY方向に沿う必要長さに応じて適宜増減すればよい。
【0064】
ノズル201の孔径は10〜200μm、好ましくは50μmとすることができる。ノズル201の形状は、吐出する方向に沿って次第に先細りとなるテーパー形状であることも好ましい。
【0065】
これらヘッドユニット20A、20B、20Cは、隣接するヘッドユニット間のノズルピッチが、各ヘッドユニット20A、20B、20Cそれぞれのノズルピッチと同一となるように、Y方向に沿って千鳥状に配置されている。これによって、機能上は、1つのヘッドユニットのノズル数の3倍(768個)のノズル201を有する長尺な吐出幅W1を有するインクジェットヘッド20を構成している。吐出幅とは、ノズル201から接着剤を吐出して塗布印刷することが可能な幅であり、インクジェットヘッド20のY方向の両端部にそれぞれ位置する2つのノズル201、201間の距離である。
【0066】
ここで、インクジェットヘッド20の吐出幅W1は、基板1の表面に対して接着剤を塗布印刷する際のY方向に沿う塗り幅W2(図10)よりも大きく形成されている。
【0067】
また、インクジェットヘッド20は、図10に示すように、Y方向に沿う双方向に、基板1の表面に対して平行に移動可能に設けられている。このインクジェットヘッド20のY方向の移動は、その移動ストロークを複数分割し、段階的に移動可能とすることが好ましい。
【0068】
図11における符号70は、インクジェットヘッド20をこのようにY方向へ移動させるY方向移動機構であり、CPU30によって駆動制御される。このY方向移動機構70の具体的構成は特に問わず、例えば1軸ロボットを用いることができる。
【0069】
このようにインクジェットヘッド20は、基板1の塗り幅W2よりも大きな吐出幅W1を有しているため、インクジェットヘッド20のY方向の位置移動を停止させた状態で使用した場合、その吐出幅W1のうちの一部の領域のノズル201しか使用しないことになる。一例を挙げれば、基板1に対する塗り幅W2が最大150mmで、インクジェットヘッド20の吐出幅W1が、そのおよそ1.5倍の210mmであるとしたとき、60mm程の領域にあるノズル201は休止していることになる。しかし、インクジェットヘッド20を、その移動ストロークの範囲でY方向に所定量移動すれば、それまでは休止していたノズル201も塗布印刷に関与させることができ、その一方で、それまで塗布印刷に関与していたノズル201を休止させることができる。
【0070】
このインクジェット塗布装置では、このようなインクジェットヘッド20の機能を利用して、ガスケットを製造するに際し、接着剤の吐出頻度が特定のノズル201に集中することを防止し、インクジェットヘッド20全体でのノズル201の吐出頻度の平準化を図るようにしている。
【0071】
図13は、このインクジェット塗布装置によるガスケット製造時のアルゴリズムである。
【0072】
まず、CPU30は、印刷パターンデータメモリ50に記憶されている印刷パターンデータを呼び出してインプットする(S1)。この印刷パターンデータは、例えば図14の下段に示すような、基板1の表面に対する接着剤の塗布領域5を表す印刷パターンをデータ化したものである。
【0073】
印刷パターンが判れば、その印刷パターンデータに基づいて接着剤を吐出するノズル201の位置(座標)と吐出頻度(度数)を推定することができる。
【0074】
そこで、次に、CPU30は、その印刷パターンデータから、各ノズル201の吐出頻度を推定し、吐出に使用するインクジェットヘッド20のノズル201の度数分布を作成する(S2)。
【0075】
図14の下段に示す印刷パターンの場合の度数分布のグラフを上段に示す。ここに示されるように、基板1の左右両端付近では、X方向に沿うほぼ全長に亘って塗布領域5が発生するが、中央付近では、接着剤が塗布印刷されない環状部位1aの存在によって、塗布領域5がX方向に沿って断片的に発生する。このため、ノズル201の度数分布は、基板1の左右両端付近の座標で極端に高く、中央付近の座標で極端に低くなる。
【0076】
このような度数分布を有する印刷パターンによってCHGを作成していくと、基板1の枚数が増えるにつれて、あるいは1枚の基板1に対して複数回塗布する際の塗布回数が増えるにつれて、度数の高いノズル201のみの消耗摩耗が激しくなる。
【0077】
そこで、CPU30は、このような度数分布を作成した後、この度数分布を平準化するような最適なインクジェットヘッド20のY方向に沿う位置制御パターンを決定する(S3)。この位置制御パターンは、度数分布、インクジェットヘッド20の吐出幅W1、製作枚数等に基づいて決定される。
【0078】
図15は、1枚の基板1に対して10回塗布する場合の度数分布を示す。インクジェットヘッド20のY方向の位置制御を行わずに10回塗布する場合の度数分布Bに対して、インクジェットヘッド20のY方向に沿う位置制御を行い、使用するノズル領域を変更することにより、度数分布はAのように平準化される。なお、Cはインクジェットヘッド20のY方向の位置制御を行わずに1回塗布する場合の度数分布を示す。
【0079】
その後、ワークテーブル10上に基板1を載置してCHGの製造を開始する(S4)。この製造時には、特定のノズル201のみの吐出頻度が高くなることによって消耗摩耗が激しくなることはなくなり、インクジェットヘッド20の寿命を延ばすことができ、インクジェットヘッド20の交換頻度も少なくすることができるようになる。
【0080】
また、インクジェットヘッド20が有する全ノズル201がほぼ均等に使用されるようになるため、特定のノズル201のノズル径が摩耗により変化して接着剤の吐出量が部分的に増加する問題は回避され、長時間使用後でもインクジェット塗布の特徴である塗布膜厚を均一な状態に維持することが可能となり、性能・品質のばらつきを抑えることができるようになる。
【0081】
なお、図13に示すアルゴリズムは、一つの製品パターンの場合を示しているが、実際には、ガスケットの製造は通常2枚以上の基板を組み合わせるので、複数の印刷パターンでの最適化を図る必要がある。従って、複数の印刷パターンでの印刷パターンデータの処理は、製造開始前に予め行い、生産計画全体の最適化を行うことが好ましい。
【0082】
また、図15に示す例では、インクジェットヘッド20の吐出幅W1を10分割し、そのうちの6分割分をY方向の移動ストロークとして、6段階に位置制御させることにより度数分布を平準化させるようにしたが、分割数を増やしてより緻密な位置制御を行うようにすれば、度数分布はさらに平準化される。例えばノズル数が768ノズルである場合、吐出幅W1をノズル数に相当する768分割し、1ノズルピッチずつ位置制御することで、より最適化を図るようにすることもできる。
【0083】
インクジェットヘッド20のY方向に沿う移動は、上述のようにCPU30の制御によって自動化するものに限らず、手動操作によって行うこともできる。
【0084】
例えば図16に示すCHGの例のように、基板1上の塗布領域5がシンプルな印刷パターンによって形成される事例では、インクジェットヘッド20を一定幅でY方向に沿ってシフトさせるだけで、図17に示す度数分布のグラフのように、度数ピークの重なりを容易に抑えることが可能である。この場合は、インクジェットヘッド20を単に一定幅でY方向に沿ってシフトすればよいので、インクジェットヘッド20を一定幅で移動できる簡単な移動機構さえあれば、基板1の枚数や塗布回数等、所定吐出回数毎に、手動でインクジェットヘッド20を移動させて度数分布の平準化を行うこともできる。
【0085】
なお、以上のようにインクジェットヘッド20のY方向に沿う位置制御を行っても、長時間使用することによってノズル201の消耗摩耗は進行し、それに伴って吐出量が増加することにより、図7のグラフに示すように膜厚比が増加するが、この場合、増加分を補正するために、インクジェットヘッド20の吐出電圧や吐出周波数等の吐出条件を適宜調整することが好ましい。
【0086】
以上の説明では、ガスケットの製造方法としてCHGの製造方法を例に挙げたが、他のガスケットであってもよい。
【実施例】
【0087】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明する。
【0088】
実施例1(インクジェット法)
インクジェット装置は孔数256個の塗り幅70mmのヘッドを3本備えた装置を用いた。
【0089】
幅20mmのSUS304製のガスケット(図5に示すもの)に、上記インクジェット装置を用いて、下記接着剤を塗布した。
【0090】
インクジェットヘッドのピエゾ素子の印加電圧は90v、周波数40μm/pulse、ワークテーブル送り速度100mm/secで塗布した。
【0091】
<接着剤の組成>
接着剤組成は以下の通りである。
【0092】
クレゾール変性ノボラック型フェノール樹脂
(大日本インキ化学工業製品KA-1053L 固形分40%) 400 (100) 重量部
レゾール型フェノール樹脂
(大日本インキ化学工業製品AF-2639 固形分40%) 211 (133) 重量部
未加硫NBR(JSR型N-237) 99 重量部
メチルエチルケトン 2965 重量部
トルエン 1965 重量部
イソホロン 1000 重量部
【0093】
比較例1(浸漬法)
実施例1で使用したガスケットを、実施例1で使用した接着剤を入れた浸漬槽に浸漬して、浸漬塗布した。
【0094】
(評価試験)
1.接着剤による膜厚のバラツキ評価試験
塗布乾燥後の塗膜の厚み(nm)を膜厚計(分光計)により計測し、その結果を図4に示す。
【0095】
実施例1の方法では、比較例1の浸漬法に比べ、同じ規格値の範囲内でもバラツキが小さく収まっていることがわかる。従って、本発明の方法では、バラツキの少ない均一な塗膜が形成されることがわかる。
【0096】
2.接着強度
接着条件を150℃×72Hrとし、引っ張り剪断強度(MPa)をJIS K6850により測定し、接着強度を調べた。その結果を図5に示す。
【0097】
実施例1(インクジェット法)では、比較例1(浸漬法)に比べて引っ張り剪断強度が向上していることがわかる。
【0098】
3.耐久試験
スチーム(140℃×20min)と水温(25℃×20min)で、100サイクル耐久試験を行った。
【0099】
その結果、実施例1のインクジェット塗布では、コーティングの剥がれが見られるものの、比較例1の浸漬法より、耐久性に優れていた。
【図面の簡単な説明】
【0100】
【図1】シリンダヘッド用ガスケットの製造方法の一例を示す概略図
【図2】インクジェットヘッドのノズル面の様子を示す図
【図3】基板の表面に接着剤を塗布する途中のガスケットを示す図
【図4】塗布乾燥後の塗膜の厚みを膜厚計(分光計)により計測した結果を示す図(左は浸漬法、右はインクジェット法)
【図5】接着後の引っ張り剪断強度を測定した結果を示す図(左は浸漬法、右はインクジェット法)
【図6】他の態様に係るインクジェット塗布装置を示す平面図
【図7】インクジェットヘッドの吐出回数と膜厚比との関係を表すグラフ
【図8】インクジェットヘッドの吐出回数と吐出量との関係を表すグラフ
【図9】インクジェットヘッドの度数分布を表すグラフ
【図10】更に他の態様に係るインクジェット塗布装置を示す平面図
【図11】図10に示すインクジェット塗布装置の概略構成を示すブロック図
【図12】図10に示すインクジェット塗布装置のインクジェットヘッドをノズル面側から見た図
【図13】図10に示すインクジェット塗布装置におけるガスケット製造時のアルゴリズム
【図14】ガスケットの印刷パターンと度数分布を示す図
【図15】位置制御されないインクジェットヘッドと位置制御されたインクジェットヘッドの度数分布を表すグラフ
【図16】ガスケットの印刷パターンの他の例を示す平面図
【図17】図16に示すガスケットにおける度数分布を表すグラフ
【図18】従来例を示す図
【図19】従来例を示す図
【符号の説明】
【0101】
1:基板
1a:環状部位
2:インクジェットヘッド
21:ノズル面
22:ノズル
3:タンク
4:接着剤
5:接着剤が塗布された領域
10:ワークテーブル
20:インクジェットヘッド
20A、20B、20C:ヘッドユニット
201:ノズル
30:CPU
40:X方向送りモータ
50:印刷パターンデータメモリ
60:ヘッドドライバ
70:Y方向移動機構

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板の所定部位に接着剤を塗布してシール材を接着するガスケットの製造方法において、
前記接着の際に、前記基板の所定部位に接着剤をインクジェットヘッドのノズルから吐出して塗布することを特徴とするガスケットの製造方法。
【請求項2】
前記接着剤塗膜の乾燥後の厚みを所定厚みに形成するのに、複数回塗布を行うことを特徴とする請求項1記載のガスケットの製造方法。
【請求項3】
X方向に移動される基板の所定部位に、前記X方向と直交するY方向に沿って配列されたインクジェットヘッドの多数のノズルから接着剤を吐出して所定の印刷パターンで塗布し、シール材を接着するガスケットの製造方法であって、
前記インクジェットヘッドは、前記基板の前記Y方向に沿う接着剤の塗り幅よりも幅広の吐出幅を有し、該インクジェットヘッドを前記Y方向に沿って移動可能とし、
各ノズルの吐出頻度が平準化されるように、所定吐出回数毎に前記インクジェットヘッドの前記Y方向の位置を変更することを特徴とするガスケットの製造方法。
【請求項4】
前記印刷パターンに基づいて前記インクジェットヘッドの各ノズルの吐出頻度を推定し、推定された各ノズルの吐出頻度が平準化されるように、所定吐出回数毎に前記インクジェットヘッドの前記Y方向の位置を変更することを特徴とする請求項3記載のガスケットの製造方法。
【請求項5】
X方向に移動される塗布対象に対して、前記X方向と直交するY方向に沿って配列された多数のノズルから塗布液を吐出して所定の印刷パターンで塗布を行うインクジェットヘッドを備えたインクジェット塗布装置であって、
前記インクジェットヘッドは、前記基板の前記Y方向に沿う接着剤の塗り幅よりも幅広の吐出幅を有し、
該インクジェットヘッドを、前記Y方向に沿って移動させる移動手段と、
各ノズルの吐出頻度が平準化されるように、所定吐出回数毎に前記インクジェットヘッドの前記Y方向の位置を変更させる制御手段とを有することを特徴とするインクジェット塗布装置。
【請求項6】
前記印刷パターンに基づいて前記インクジェットヘッドの各ノズルの吐出頻度を推定する推定手段を有し、
前記制御手段は、前記推定手段により推定された各ノズルの吐出頻度が平準化されるように、所定吐出回数毎に前記インクジェットヘッドの前記Y方向の位置を制御することを特徴とする請求項5記載のインクジェット塗布装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【公開番号】特開2007−292274(P2007−292274A)
【公開日】平成19年11月8日(2007.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−177316(P2006−177316)
【出願日】平成18年6月27日(2006.6.27)
【出願人】(000004385)NOK株式会社 (1,527)
【Fターム(参考)】