説明

ガスバリアフィルムの製造方法

【課題】ロール・ツー・ロールの製造装置を用いてプラズマCVDによってガスバリア膜を成膜するガスバリアフィルムの製造において、目的とするガスバリア性を有するガスバリアフィルムを安定して製造することを可能にする。
【解決手段】成膜前に、基板表面に50N/m2以上の面圧を与える部材が配置され、かつプラズマCVDによる成膜圧を60Pa以上とすることにより、前記課題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラズマCVDを用いるガスバリアフィルムの製造に関し、詳しくは、ロール・ツー・ロールの成膜装置を用いて、ガスバリア性の高いガスバリアフィルムを安定して製造可能なガスバリアフィルムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光学素子、液晶ディスプレイや有機ELディスプレイなどの表示装置、半導体装置、薄膜太陽電池等の各種の装置における防湿性を要求される部位や部品、食品、衣料品、電子部品等の包装に用いられる包装材料に、ガスバリアフィルム(水蒸気バリアフィルム)が利用されている。
ガスバリアフィルムは、例えば、酸化珪素や窒化珪素等のガスバリア性を発現する物質からなるガスバリア膜を、高分子材料からなるフィルム(プラスチックフィルム)や金属フィルムの表面に成膜してなるものである。
【0003】
真空成膜法によって、効率良く、高い生産性を確保して成膜を行なうためには、長尺な基板に連続的に成膜を行なうのが好ましい。
このような成膜方法を実施する装置として、長尺な基板(ウェブ状の基板)をロール状に巻回してなる基板ロールと、成膜済の基板をロール状に巻回する巻取りロールとを用いる、いわゆるロール・ツー・ロール(Roll to Roll)の成膜装置が知られている。
このロール・ツー・ロールの成膜装置は、プラズマCVDなどの気相成膜法によって基板に成膜を行なう成膜室(成膜部)を通過する所定の経路で、基板ロールから巻取りロールまで長尺な基板を挿通し、基板ロールからの基板の送り出しと、巻取りロールによる成膜済基板の巻取りとを同期して行いつつ、成膜室において、搬送される基板に連続的に成膜を行なう。
【0004】
例えば、特許文献1には、ロール・ツー・ロールの成膜装置を用いて、プラズマ励起電力(マイクロ波供給電力)を50〜350Wとし、成膜圧を0.1〜20Paとして、基板の表面に、金属(酸化)膜および炭素膜を形成するガスバリアフィルムの製造方法が開示されている。
【0005】
【特許文献1】特開2003−291241号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前述のようなロール・ツー・ロールの成膜装置においては、通常、基板を所定の経路で適正に搬送するために、ガイドローラや搬送ローラ対等の搬送手段が配置される。
ところが、ロール・ツー・ロールの装置において、プラズマCVDによってガスバリア膜を成膜してガスバリアフィルムを製造すると、基板の搬送状態などによっては、目的とするガスバリア性を有するガスバリアフィルムが、安定して製造できない場合がある。
【0007】
本発明の目的は、前記従来技術の問題点を解決することにあり、ロール・ツー・ロールの成膜装置を利用して、プラズマCVDによってガスバリア膜を成膜するガスバリアフィルムの製造において、基板の搬送状態等によらず、目的とするガスバリア性を有するガスバリアフィルムを、安定して製造することを可能にするガスバリアフィルムの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的を達成するために、本発明は、長尺な基板をロール状に巻回してなる基板ロールから基板を送り出して、所定の経路で基板を搬送を搬送しつつ、搬送される基板の表面にプラズマCVDによってガスバリア膜を成膜し、ガスバリア膜を成膜済の基板をロール状に巻き取るガスバリアフィルムの製造方法であって、前記基板ロールからガスバリア膜の成膜位置までの間に、前記基板のガスバリア膜成膜面に50N/m2以上の面圧をかける部材が配置され、かつ、前記プラズマCVDによっるガスバリア膜の成膜を、60Pa以上の成膜圧で行なうことを特徴とするガスバリアフィルムの製造方法を提供する。
【0009】
このような本発明のガスバリアフィルムの製造方法において、前記プラズマCVDが、容量結合プラズマCVDであり、電極間距離が10〜50mmであるのが好ましく、また、前記プラズマCVDが、容量結合プラズマCVDであり、基板が配置された側の電極のシース降下電位が100V以上であるのが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
上述のように、本発明のガスバリアフィルムの製造方法は、ロール・ツー・ロールの成膜装置を用いて、基板の表面にプラズマCVDによってガスバリア膜を成膜するものであり、基板ロールから成膜位置までの間に、基板表面に50N/m2以上の面圧をかける部材が配置され、かつ、60Pa以上の成膜圧でガスバリア膜を成膜するものである。
【0011】
後に詳述するが、ロール・ツー・ロールの成膜装置を用いて、プラズマCVDでガスバリア膜を成膜する際に、成膜前の基板に50N/m2以上の面圧がかかると、基板表面に付着した異物が押圧されて変形し、逆テーパ状になってしまう。
この状態で、通常の条件でプラズマCVDによる成膜を行なうと、異物の逆テーパの部分において、ガスバリア膜による基板および異物の被覆が不完全な部分、膜厚が不十分な部分、膜厚が十分でも膜密度が低い部分(緻密さが不十分な部分)など、ガスバリア膜が不適正な部分が生じてしまう。
ガスバリア膜による基板および異物の被覆が不完全な部分は、ガスバリア膜が無いのと同様の状態となってしまう場合も有る。また、このようなガスバリア膜が不適正な部分に、外力がかかると、ガスバリア膜が破断してしまい、その結果、ガスバリアフィルムのガスバリア性が大幅に低減してしまう。さらに、破断しなくても、膜厚や緻密性が不十分な部分は、目的とするガスバリア性を得ることはできない。
【0012】
これに対し、本発明のガスバリアフィルムの製造方法では、基板ロールから成膜位置までの間に、基板表面に50N/m2以上の面圧をかける部材が配置され、かつ、成膜圧を60Pa以上として、プラズマCVDによるガスバリア膜の成膜を行なう。
これにより、基板表面に付着した異物が逆テーパ状となっていても、異物や基板の表面に追従して、膜厚や緻密性等が適正なガスバリア膜を成膜することができ、外力がかかっても、ガスバリア膜が破断することを防止できる。
従って、本発明によれば、ロール・ツー・ロールの成膜装置を用いて、プラズマCVDでガスバリア膜を成膜するガスバリアフィルムの製造において、目的とするガスバリア性を有するガスバリアフィルムを、安定して製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明のガスバリアフィルムの製造方法について、添付の図面に示される好適例を基に、詳細に説明する。
【0014】
図1に、本発明のガスバリアフィルムの製造方法を実施する製造装置の一例を概念的に示す。
図示例のガズバリアフィルム製造装置10(以下、製造装置10とする)は、長尺な基板Z(フィルム原反)を長手方向に搬送しつつ、この基板Zの表面にプラズマCVDによってガスバリア膜を成膜して、ガスバリアフィルムを製造するものである。
この製造装置10は、長尺な基板Zをロール状に巻回してなる基板ロール20から基板Zを送り出し、長手方向に搬送しつつガスバリア膜を成膜して、ガスバリア膜を成膜した基板Zをロール状に巻き取る、前述のいわゆるロール・ツー・ロール(Roll to Roll)による成膜を行なう装置である。
【0015】
このような製造装置10は、供給室12と、成膜室14と、巻取り室16とを有する。
なお、製造装置10は、図示した部材以外にも、搬送ローラ対や、基板Zの幅方向の位置を規制するガイド部材など、基板Zを所定の経路で搬送するための各種の部材(搬送手段)を有してもよい。
【0016】
供給室12は、回転軸24と、ガイドローラ26と、真空排気手段28とを有する。
長尺な基板Zを巻回した基板ロール20は、供給室12の回転軸24に装填される。
回転軸24に基板ロール20が装填されると、基板Zは、供給室12から、成膜室14を通り、巻取り室16の巻取り軸30に至る所定の搬送経路を通される(送通される)。
製造装置10においては、基板ロール20からの基板Zの送り出しと、巻取り室16の巻取り軸30における基板Z(すなわち、ガスバリアフィルム)の巻き取りとを同期して行なって、長尺な基板Zを所定の搬送経路で長手方向に搬送しつつ、成膜室14において、基板Zに、プラズマCVDによるガスバリア膜の成膜を連続的に行なう。
【0017】
本発明において、成膜を行なう基板Zには、特に限定はなく、PETフィルム等の各種の樹脂フィルム(高分子フィルム(プラスチックフィルム))、アルミニウムシートなどの各種の金属シートなど、プラズマCVDによるガスバリア膜の成膜が可能なものであれば、公知のガスバリアフィルムに利用されている各種の基板(ベースフィルム)が、全て利用可能である。
また、基板Zは、基材となる樹脂フィルムや金属シート等の表面に、保護層、接着層、光反射層、遮光層、平坦化層、緩衝層、応力緩和層等の、各種の機能を発現する、無機物や有機物等からなる各種の層が形成されているものであってもよい。
【0018】
供給室12においては、図示しない駆動源によって回転軸24を図中時計方向に回転して、基板ロール20から基板Zを送り出し、ガイドローラ26によって所定の経路を案内して、基板Zを、隔壁32に設けられたスリット32aから、成膜室14に送る。
図示例において、ガイドローラ26は、50N/m2以上の面圧で、基板Zの表面(ガスバリア膜の成膜面)に当接する。言い換えれば、基板Zには、ガイドローラ26が基板Zに与える面圧が50N/m2以上となるような張力(テンション)が掛けられている。
【0019】
図示例の製造装置10においては、好ましい態様として、供給室12に真空排気手段28を設けている。供給室12に真空排気手段28を設け、成膜中は、後述する成膜室14と同じ真空度(圧力)とすることにより、供給室12の圧力が、成膜室14の真空度(ガスバリア膜の成膜)に影響を与えることを防止している。
真空排気手段28には、特に限定はなく、ターボポンプ、メカニカルブースターポンプ、ロータリーポンプなどの真空ポンプ、さらには、クライオコイル等の補助手段、到達真空度や排気量の調整手段等を利用する、真空成膜装置に用いられている公知の(真空)排気手段が、各種、利用可能である。この点に関しては、後述する他の真空排気手段も同様である。
【0020】
なお、本発明においては、全ての室に真空排気手段を設けるのに限定はされず、処理として真空排気が不要な供給室12および巻取り室18には、真空排気手段は設けなくてもよい。但し、これらの室の圧力が成膜室14の真空度に与える影響を小さくするために、スリット32a等の基板Zが通過する部分を可能な限り小さくし、あるいは、室と室との間にサブチャンバを設け、このサブチャンバ内を減圧してもよい。
また、全室に真空排気手段を有する図示例の製造装置10においても、スリット32a等の基板Zが通過する部分を可能な限り小さくするのが好ましい。
【0021】
前述のように、基板Zは、ガイドローラ26によって案内され、成膜室14に搬送される。
成膜室14は、基板Zの表面に、CCP(Capacitively Coupled Plasma 容量結合プラズマ)−CVDによって、ガスバリア膜を成膜(形成)するものである。
なお、本発明において、実施するプラズマCVDは、CCP−CVDに限定はされず、成膜圧が60Pa以上という条件でのガスバリア膜の成膜が可能であれば、ICP(Inductively Coupled Plasma 誘導結合プラズマ)−CVD等の公知のプラズマCVDが、全て利用可能である。
しかしながら、本発明においては、成膜圧(成膜圧力)を60Pa以上、好ましくは100Pa以上として、プラズマCVDによるガスバリア膜の成膜を行なうので、この成膜圧で良好な成膜が可能なCCP−CVDは、より好適である。
【0022】
図示例において、成膜室14は、ドラム36と、シャワー電極38a,38b、38c、および38dと、ガイドローラ40および42と、ガス供給手段46と、高周波電源48と、真空排気手段50とを有する。
【0023】
成膜室14のドラム36は、中心線を中心に図中反時計方向に回転する円筒状の部材で、ガイドローラ40によって所定の経路に案内された基板Zを、周面の所定領域に掛け回して、基板Zを後述するシャワー電極38a〜38dに対面する所定位置に保持しつつ、長手方向に搬送する。また、ドラム36は、温度調整手段を有し、成膜中の基板Zの温度を調整可能とするのが好ましい。
ここで、ドラム36に基板Zを案内し、かつ、掛け回すガイドローラ40も、先のガイドローラ26と同様に、50N/m2以上の面圧で、基板Zの表面に当接する。
【0024】
このドラム36は、CCP−CVDにおける対向電極としても作用(ドラム36とシャワー電極とで電極対を形成)するものであり、好ましい態様として、バイアス電源52に接続される。
なお、本発明は、これに限定はされず、対向電極となるドラム36は、接地(アース)されていてもよい。あるいは、ドラム36は、バイアス電源52の接続と、接地とが切り換え可能であってもよい。
【0025】
シャワー電極38a〜38dは、CCP−CVDによる成膜に利用される、公知のシャワー電極である。
図示例において、シャワー電極38a〜38dは、一例として、中空の直方体であり、1つの最大面をドラム36の周面に対面して、この最大面の中心からの垂線がドラム36の法線と一致するように配置される。また、シャワー電極38a〜38dのドラム36との対向面には、多数の貫通穴が全面的に形成される。
【0026】
図示例においては、シャワー電極(CCP−CVDによる成膜手段)が、4個、配置されているが、本発明は、これに限定はされず、シャワー電極は1〜3個でも、4個以上でもよい。
また、本発明は、シャワー電極を用いて成膜するのにも限定はされず、通常の板状の電極と、ガス供給ノズルとを用いるものであってもよい。
【0027】
ガス供給手段46は、プラズマCVD装置等の真空成膜装置に用いられる公知のガス供給手段であり、シャワー電極38a〜38dの内部に、反応ガスを供給する。
前述のように、シャワー電極38a〜38dのドラム36との対向面には、多数の貫通穴が供給されている。従って、シャワー電極38a〜38dに供給された反応ガスは、この貫通穴から、シャワー電極38a〜38dとドラム36との間に導入される。
【0028】
なお、ガス供給手段46は、全シャワー電極38a〜38dに同量の反応ガスを供給するものでも、個々のシャワー電極38a〜38d毎にガス流量の調整手段(配管に配置されても可)を有するものであってもよい。
また、図示例においては、各シャワー電極38a〜38dに対して1個のガス供給手段46を有しているが、個々のシャワー電極38a〜38d毎にガス供給手段を有してもよく、さらに、反応ガスの種類毎にガス供給手段を有してもよい。
【0029】
高周波電源48は、シャワー電極38a〜38dに、プラズマ励起電力を供給する電源である。
高周波電源48も、各種のプラズマCVD装置で利用されている、公知の高周波電源が、全て利用可能である。
【0030】
供給室12から供給され、ガイドローラ40によって所定の経路に案内された基板Zは、ドラム36の周面の所定領域に掛け回されて、ドラム36に支持/案内されつつ、所定の搬送経路を搬送される。
成膜室14内は、真空排気手段50によって所定の真空度に減圧されている。また、シャワー電極38a〜38dには、ガス供給手段46から反応ガスが供給されて、シャワー電極38a〜38dと基板Z(ドラム36)との間に、反応ガスが供給される。さらに、シャワー電極38a〜38dには、高周波電源48から、電力が供給され、ドラム36には、バイアス電源52からバイアス電力が供給されている。
これにより、電極38a〜38dとドラム36との間でプラズマが励起され、反応ガスのイオンが生成されて、ドラム36によって支持されつつ搬送される基板Zの表面に、CCP−CVDによってガスバリア膜が成膜される。
ガスバリア膜を成膜された基板Z(すなわち、ガスバリアフィルム)は、ドラムからガイドローラ42に搬送され、ガイドローラ42によって案内されて、成膜室14と巻取り室16とを隔離する隔壁56に形成されたスリット56aから、巻取り室16に搬送される。
【0031】
ここで、本発明においては、成膜室14におけるプラズマCVDによる成膜圧は、60Pa以上である。
また、図示例の製造装置10においては、ガスバリア膜を成膜される前に基板Zの表面(ガスバリア膜の成膜面)に当接するガイドローラ26および40は、50N/m2以上の面圧で、基板Zの表面に当接する(すなわち、基板表面を50N/m2以上の面圧で押圧する)。
本発明は、このような構成を有することにより、ロール・ツー・ロール(Roll to Roll)の製造装置で、プラズマCVDによってガスバリア膜の成膜を行なうガスバリアフィルムの製造において、目的とするガスバリア性を有するガスバリアフィルムを安定して製造することを可能にしている。
【0032】
前述のように、ロール・ツー・ロールの製造装置を利用して、プラズマCVDによってガスバリア膜を成膜してガスバリアフィルムを製造すると、基板Zの搬送状態によっては、往々にして、目的とするガスバリア性を有するガスバリアフィルムを得ることが出来ない場合がある。
本発明者らは、その原因について、鋭意、検討を重ねた。その結果、基板Zにガスバリア膜を成膜する前に、基板Zの表面が押圧されることで、表面に付着した異物が押圧されて、逆テーパ状になってしまい、この逆テーパ部に成膜されるガスバリア膜が不適正になってしまうことに、原因が有ることを見出した。
【0033】
前述のように、基板Zは、供給室12から成膜室14に搬送されて、表面にガスバリア膜を成膜される。ここで、供給室12および成膜室14は、所定の真空度に減圧されているが、室内(真空チャンバ内)のチリや埃等の異物を完全に取り除くことは不可能である。さらに、成膜室14内には、先の成膜で生成したパーティクルや、現在行なっている成膜によって生成するパーティクルも存在する。
真空成膜装置では、これらの異物が、室内で浮遊して、基板Zの表面に付着することを、完全に避けることはできない。さらに、基板ロール20の状態で、既に基板Zの表面に付着している異物も有り得る。
【0034】
一方、基板ロール20から基板Zを引き出して、所定の経路に挿通し、基板Zを搬送しつつ成膜を行なうロール・ツー・ロールの装置では、基板Zを所定の経路で適正に搬送する必要がある。所定経路で適正な搬送を行なうためには、ガイドローラや搬送ローラ対等、基板Zの表面(ガスバリア膜の成膜面)に当接する部材を無くすことは、困難である。
適正な搬送を安定して行なうためには、基板Zに、ある程度のテンション(張力)を掛けた状態で、搬送を行なう必要がある。その結果、基板Zの表面は、ガイドローラによって押圧される。さらに、搬送ローラ対であれば、適正な搬送を行なうためには、ある程度の挟持力(ニップ力)で基板Zを挟持する必要があり、この挟持力でも、基板Zの表面が押圧される。
【0035】
本発明者らは、このガイドローラ40等による押圧によって、図2(A)に模式的に示すように基板Zの表面に付着した異物mが押圧されて変形し、基板Z上に覆いかぶさる状態の斜面を有する、逆テーパ状の形状になってしまい、これが原因で、ガスバリア性が大幅に低下することを見出した。
すなわち、このような状態の異物mが付着した基板Zに、プラズマCVDによってガスバリア膜pを成膜すると、異物mの逆テーパの部分に成膜が追従することができない。その結果、この逆テーパの部分で、図2(B)に模式的に示すようなガスバリア膜pによる基板Zおよび異物mの被覆が不完全な部分(被覆されない部分)、ガスバリア膜pの膜厚が不十分な部分、膜厚は十分であるがガスバリア膜pの緻密さが不十分な部分(膜密度が低い部分)など、ガスバリア膜pが不適正な部分が生じてしまう。言い換えれば、異物mの逆テーパの部分では、異物mを適正なガスバリア膜で十分に覆うこと(カバレッジすること)は出来ない。
また、このように異物mの逆テーパに起因するガスバリア膜pの不適正な部分は、例えば、ドラム36の下流に配置されるガイドローラ42によって押圧される等、外力を受けると、ガスバリア膜pが容易に破断してしまう。
【0036】
このような被覆が不完全な部分や破断部分は、ガスバリア膜pが無いのと全く同様の状態となる。また、破断に至らなくても、ガスバリア膜pの膜厚が不十分な部分や、膜厚が十分であるがガスバリア膜pの緻密性が低い部分では、目的とするガスバリア性を得ることはできない。従って、このようなガスバリア膜の不完全な部分や破断部、不適正な部分を有するガスバリアフィルムは、ガスバリア性が大幅に低下して、目的とするガスバリア性を得ることは出来ない。
特に、最大長さが100nm以上の異物が、1cm2当たり3個以上付着していると、このガスバリア性の低下は、顕著になる。
【0037】
本発明者らの検討によれば、このような傾向は、成膜前に基板Zの表面にかかる面圧が50N/m2以上となると(成膜前の基板Zの表面に50N/m2以上の面圧履歴がある場合に)、顕著になる。特に、成膜前に基板Zの表面にかかる面圧が、80/m2以上となると、この傾向は、より顕著になる。また、接触するローラ等の径にもよるが、実用的には、安定した搬送のために基板Zに掛けるテンションが15N/m以上とするのが好ましく、この際には、ガイドローラ40等による基板Zへの面圧が、50N/m2以上になり易い。
しかしながら、逆に、ガイドローラ40等による基板Zへの面圧を50N/m2以上とすると、非常に安定した基板Zの搬送が可能となる。同様に、基板Zに掛けるテンションが15N/m以上とすることで、非常に安定した基板Zの搬送の搬送が可能となる。このような基板Zの搬送の安定化は、例えば、基板搬送速度の向上等による生産性の向上等の点で、有利である。
【0038】
本発明者らは、このような不都合を回避するために、さらに、鋭意検討を重ねた。
その結果、プラズマCVDにおける成膜圧を60Pa以上として、ガスバリア膜を成膜することにより、基板Zの表面に付着した異物が、ガスバリア膜の成膜前に押圧されて逆テーパ状になっても、ガスバリア性の低下を抑制できることを見出した。
すなわち、プラズマCVDによるガスバリア膜の成膜圧を60Pa以上とすることにより、基板Zが50N/m2以上の面圧を受けて付着する異物mが逆テーパ状になっても、成膜を異物mの逆テーパ部分にも良好に追従させることができる。その結果、図2(C)に模式的に示すように基板Zおよび異物mの表面全面を好適に被覆し、かつ、膜厚や緻密性等が適正なガスバリア膜pを成膜できる。言い換えれば、ガスバリア膜の成膜圧を60Pa以上とすることにより、適正なガスバリア膜pを、非常に高いカバレッジで成膜することができる。
従って、本発明によれば、ガスバリア膜が無いのと同様の部分を無くすことができると共に、ガスバリア膜を成膜した後、ドラム36の下流に配置されるガイドローラ42等によって押圧されても、ガスバリア膜が破断することを防止できる。また、膜厚が薄い、緻密性が低い等に起因するガスバリア性の低下も抑制できる。すなわち、本発明によれば、成膜したガスバリア膜に応じた、目的とするガスバリア性を有するガスバリアフィルムを、安定して得ることができる。
【0039】
プラズマCVDにおいて、成膜圧を60Pa以上とすることにより、異物の逆テーパ部にも追従してガスバリア膜が形成可能であることの理由は、明らかではない。しかしながら、本発明者らの検討によれば、60Pa以上の成膜圧では、成膜空間内(図示例においては、シャワー電極と基板Z(ドラム36)との間)において、反応ガス等のガス粒子が多量に存在するので、互いの衝突等によってガス粒子が様々な方向に飛翔する。その結果、反応ガスイオン(励起した反応ガス)が異物の逆テーパ部の中にも入り込み、異物の逆テーパ部へのガスバリア膜の追従性が向上するものと予測される。
また、本発明者らの検討によれば、異物の逆テーパ部へのガスバリア膜の追従性(カバレッジの向上効果)、すなわち逆テーパ状の異物に起因するガスバリア性の低下の抑制効果は、プラズマCVDの成膜圧を100Pa以上、特に、150Pa以上とすることで、より良好にできる。
【0040】
なお、プラズマCVDの成膜圧の上限には、特に限定はなく、成膜するガスバリア膜や使用する反応ガス、目的とする成膜レート等に応じて、適切な圧力(大気圧以下)を、適宜、設定すればよいが、本発明者の検討によれば、5000Pa以下、特に、1000Pa以下とするのが好ましい。
成膜圧が5000Paを超えると、逆に、反応ガス粒子が多すぎて、気中でパーティクルが生成しやすくなり、被覆すべき逆テーパー部を不十分な状態でふさいでしまう(緻密な膜を形成する反応ガスが逆テーパー部に届かなくなる)、破断しやすいガスバリア膜が形成されてしまう等の、悪影響を及ぼす副作用が生じ易くなる。すなわち、成膜圧を5000Pa以下とすることにより、異物の逆テーパ部へのガスバリア膜の成膜追従性を、より好適に確保することが可能となる。
また、成膜圧を5000Pa以下とすることにより、大気圧では安全性等の面で使用し難いガスも使用できる等の点でも、好ましい結果を得る。
【0041】
本発明のガスバリアフィルムの製造方法において、基板Zに成膜するガスバリア膜には、特に限定はなく、酸化珪素、窒化珪素、酸窒化珪素、および、酸窒化炭化珪素などの、珪素化合物(シリコン化合物)からなるガスバリア膜、酸化アルミニウムからなるガスバリア膜等、プラズマCVDによって成膜可能な公知のガスバリア膜が、全て利用可能である。
中でも特に、高いガスバリア性を得ることができる、目的とするガスバリア性を得るための膜厚を薄くできる等の理由で、珪素を含み、かつ、酸素、窒素および炭素のいずれかを3原子%以上含むむガスバリア膜は好適である。
【0042】
また、本発明のガスバリアフィルムの製造方法において、ガスバリア膜を成膜するため用いる反応ガスには、特に限定はなく、成膜するガスバリア膜に応じた公知の反応ガスが、全て利用可能である。例えば、ガスバリア膜として窒化珪素膜を形成する場合であれば、反応ガスとして、シランガスと、アンモニアガスおよび/または窒素ガスとを用いればよく、酸化珪素膜を形成する場合であれば、反応ガスとして、シランガスと酸素ガスとを用いればよい。また、TEOS(テトラエトキシシラン)、HMDSO(ヘキサメチルジシロキサン)、HMDSN(ヘキサメチルジシラザン)等の有機シラン系のガスを用いてもよい。
なお、本発明においては、必要に応じて、反応ガスに加え、ヘリウムガス、ネオンガス、アルゴンガス、クリプトンガス、キセノンガス、ラドンガスなどの不活性ガス等の各種のガスを併用してもよい。
【0043】
本発明のガスバリアフィルムの製造方法において、成膜圧を60Pa以上とする以外、ガスバリア膜の成膜条件には、特に限定はない。従って、反応ガスの流量、反応ガスの流量比、プラズマ励起電力の強度、プラズマ励起電力の周波数、膜形成温度(基板温度)、成膜レートなど、ガスバリア膜の成膜条件(形成条件)は、通常のガスバリア膜の成膜と同様にすればよい。
従って、ガスバリア膜の形成条件は、ガスバリア膜や反応ガスの種類、要求される成膜レート、目的とする膜厚、目的とするガスバリア性等に応じて、適宜、設定すればよい。
【0044】
ここで、本発明の製造方法においては、図示例のようにCCP−CVDでガスバリア膜を成膜する場合には、基板側の電極のシース降下電位(Vdc)を100V以上とするのが好ましい。すなわち、図示例においては、バイアス電源52によって、ドラム36に−100V以下のバイアス電位を印加して、ガスバリア膜の成膜を行なうのが好ましい。
このようなバイアス電位を印加しながらプラズマCVDによってガスバリア膜を成膜することにより、基板Zに反応ガスイオンを引き込むことができ、前述の異物の逆テーパ部分への反応ガスイオンの入り込み効果や、反応ガスイオンの膜表面のスパッタ効果を、より向上できる。その結果、異物の逆テーパ部へのガスバリア膜の追従性(カバレッジ)を、より向上でき、より好適に、基板や異物を良好に覆う緻密性や膜厚が適正なガスバリア膜を成膜して、異物の逆テーパ部に起因するガスバリア性の低下を抑制できる。
【0045】
また、本発明の製造方法においては、図示例のようにCCP−CVDでガスバリア膜を成膜する場合には、電極間距離を10〜50mmとするのが好ましい。すなわち、図示例においては、シャワー電極38a〜38dと、ドラム36との間隔を、10〜50mmとするのが好ましい。
静止レート(基板Zを停止した状態での成膜レート)における数百nm/minでの成膜に対応するような、高速成膜でガスバリア膜の成膜を行なう場合には、電極間距離が50mm以上離れていると、パーティクルが生じ易くなり、すなわち、基板Zへの異物付着量が増加してしまう。この現象は、一般的に圧力が高いほど顕著な傾向にあり、本発明においては、50mm以下が好適である。他方、電極間距離が10mm以下では、膜厚や膜質の分布均一性の悪化や、異常放電の増加等の不都合が生じる場合が有る。
従って、電極間距離を上記範囲とすることにより、基板Zに付着する異物を低減して、より好適に、基板や異物を良好に覆う緻密性や膜厚が適正なガスバリア膜を成膜して、異物の逆テーパ部に起因するガスバリア性の低下を抑制できる。
【0046】
ドラム36に支持/搬送されつつ、シャワー電極38a〜38dと対面する領域を通過してガスバリア膜を成膜された基板Zすなわちガスバリアフィルムは、ガイドローラ42によって所定経路に案内されて、成膜室14と巻取り室16とを分離する隔壁56に形成されたスリット56aから、巻取り室16に搬送される。
【0047】
図示例において、巻取り室16は、ガイドローラ58と、巻取り軸30と、真空排気手段60とを有する。
巻取り室16に搬送された基板Z(ガスバリアフィルム)は、ガイドローラ58に案内されて巻取り軸30に搬送され、巻取り軸30によってロール状に巻回されガスバリアフィルムロールとして、次の工程に供される。
また、先の供給室12と同様、巻取り室16にも真空排気手段30が配置され、成膜中は、巻取り室16も、成膜室14における成膜圧力に応じた真空度に減圧される。
【0048】
以上、本発明のガスバリアフィルムの製造方法について詳細に説明したが、本発明は、上記実施例に限定はされず、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、各種の改良や変更を行なってもよいのは、もちろんである。
【実施例】
【0049】
以下、本発明の具体的実施例を挙げ、本発明を、より詳細に説明する。
【0050】
[実施例1]
図1に示す製造装置10を用いて、基板Zの表面にガスバリア膜として厚さ50nmの窒化珪素膜を成膜して、ガスバリアフィルムを作製した。
【0051】
基板Zは、厚さ188μmのポリエステル系のフィルム(東レフィルム加工株式会社製のポリエチレンテレフタレートフィルム「ルミナイス」)を用いた。
また、ガイドローラ26および40は同径とし、両ガイドローラが、共に、基板Zに50N/m2の面圧をかけるように、搬送する基板Zの張力を調整した。なお、基板Zの張力は、16.1N/mであった。
【0052】
反応ガスは、シランガス、アンモニアガス、および、窒素ガスを用いた。
シランガスの流量は200sccm、アンモニアガスの流量は300sccm、窒素ガスの流量は2500sccmとした。
なお、この流量は、4つのシャワー電極38a〜38dの個々に供給した反応ガスの流量である。
プラズマ励起電力は、4つのシャワー電極38a〜38d共に、周波数13.56MHz、1.5kWとした。また、電極間距離(シャワー電極とドラム36との平均距離)は20mmとした。
さらに、成膜レートは、静止時の成膜レートで200nm/minとした。
【0053】
上記条件の下、成膜圧を40Pa、60Pa、80Pa、100Pa、および150Paの5段階に変更して、ガスバリア膜の成膜を行なった。
各成膜圧で得られたガスバリアフィルムについて、長手方向に5m間隔の4点でサンプリングを行い、モコン法によって水蒸気透過率(WVTR[g/(m2・day)])を測定した。なお、モコン法による水蒸気透過率の測定限界を超えたサンプルについては、カルシウム腐食法(特開2005−283561号公報に記載される方法)によって、水蒸気透過率を測定した。
各成膜圧力で作製したガスバリアフィルムについて、4点の水蒸気透過率の平均値を下記表および図3に示す。
【0054】
[実施例2]
ガイドローラ26および40が基板Zにかける面圧を、100N/m2(基板Zの張力は32.2N/m)とした以外は、実施例1と全く同様にしてガスバリアフィルムを作製し、かつ、水蒸気透過率[g/(m2・day)]を測定した。
4点の水蒸気透過率の平均値を下記表および図3に併記する。
【0055】
[実施例3]
ガイドローラ26および40として、両端部(搬送方向と直交する方向の端部)に大径部を有し、この大径部のみで基板Zに接触/ガイドする段差付きローラを用いた以外は、実施例1と全く同様にしてガスバリアフィルムを作製した。すなわち、本例では、ガスバリア膜の成膜前に、基板Zの幅方向中央領域にガイドローラは接触しておらず、従って、受けた面圧は0N/m2である。
実施例1と全く同様にして水蒸気透過率[g/(m2・day)]を測定した。なお、サンプリングは、ガスバリア膜の成膜前にガイドローラによって面圧を受けていない領域(面圧が0N/m2の領域)で行なった。
4点の水蒸気透過率の平均値を下記表および図3に併記する。
【0056】
【表1】

上記表および図3に示されるように、成膜前に面圧を受けていない場合(面圧0)には、成膜圧が変動しても、大きな水蒸気透過率の変動はなく、すなわち、基板Zの表面に付着した異物に起因するガスバリア性の低下は生じていない。
これに対し、ガスバリア膜の成膜前に基板Zが50N/m2以上の面圧を受けた場合には、成膜圧が40Paであると、逆テーパ形状の異物に起因するガスバリア膜の破断によって、十分なガスバリア性を得ることができない。これに対し、ガスバリア膜の成膜前に基板Zが50N/m2以上の面圧を受け、かつ、成膜圧を60Pa以上とする本発明によれば、ガスバリア膜が逆テーパ形状の異物に好適に追従して成膜されるので、ガスバリア膜の破断によるガスバリア性の低下を抑制することができる。特に、成膜圧を100Pa以上とすることにより、面圧を全く受けていない例と、ほぼ同等のガスバリア性を確保することができる。
以上の結果より、本発明の効果は明らかである。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】本発明のガスバリアフィルムの製造方法を実施するガスバリアフィルム製造装置の一例を概念的に示す図である。
【図2】(A)は、基板が面圧を受けることによる異物の変形を、(B)は、従来の製造方法によるガスバリア膜の状態を、(C)は、本発明によるガスバリア膜の状態を、それぞれ、概念的に示す図である。
【図3】本発明の実施例の結果を示すグラフである。
【符号の説明】
【0058】
10 (ガスバリアフィルム)製造装置
12 供給室
14 成膜室
16 巻取り室
20 基板ロール
24 回転軸
26,40,42,58 ガイドローラ
28,50,60 真空排気手段
30 巻取り軸
32,56 隔壁
36 ドラム
38a,38b,38c,38d シャワー電極
46 ガス供給手段
48 高周波電源
52 バイアス電源

【特許請求の範囲】
【請求項1】
長尺な基板をロール状に巻回してなる基板ロールから基板を送り出して、所定の経路で基板を搬送を搬送しつつ、搬送される基板の表面にプラズマCVDによってガスバリア膜を成膜し、ガスバリア膜を成膜済の基板をロール状に巻き取るガスバリアフィルムの製造方法であって、
前記基板ロールからガスバリア膜の成膜位置までの間に、前記基板のガスバリア膜成膜面に50N/m2以上の面圧をかける部材が配置され、かつ、前記プラズマCVDによっるガスバリア膜の成膜を、60Pa以上の成膜圧で行なうことを特徴とするガスバリアフィルムの製造方法。
【請求項2】
前記プラズマCVDが、容量結合プラズマCVDであり、電極間距離が10〜50mmである請求項1に記載のガスバリアフィルムの製造方法。
【請求項3】
前記プラズマCVDが、容量結合プラズマCVDであり、基板が配置された側の電極のシース降下電位が100V以上である請求項1または2に記載のガスバリアフィルムの製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2009−280873(P2009−280873A)
【公開日】平成21年12月3日(2009.12.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−135392(P2008−135392)
【出願日】平成20年5月23日(2008.5.23)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】